安定なアンジオテンシII受容体拮抗作用を示す薬物製剤の設計
【課題】アンジオテンシンII受容体拮抗作用を示す薬物、特にカンデサルタンシレキセチルの安定化した製剤を提供する。
【解決手段】アンジオテンシンII受容体拮抗作用を示す薬物、特にカンデサルタンシレキセチルにフマル酸ステアリルナトリウムを含有させることにより、先に記載した有効成分の分解を抑えることができ、結果的に安定性に寄与することができる。
【解決手段】アンジオテンシンII受容体拮抗作用を示す薬物、特にカンデサルタンシレキセチルにフマル酸ステアリルナトリウムを含有させることにより、先に記載した有効成分の分解を抑えることができ、結果的に安定性に寄与することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアンジオテンシンII受容体拮抗作用を示す薬物製剤であって、カンデサルタン及びそのプロドラック化した化合物若しくはその塩等を含有した製剤について、長期間の保管にも耐えうる製剤の設計に関する。
【背景技術】
【0002】
高血圧症、慢性腎不全の治療において、アンジオテンシンII受容体拮抗作用を示す薬物は頻繁に利用されている。アンジオテンシンII受容体拮抗作用を示す薬物として、カンデサルタン及びそのプロドラック化した化合物若しくはその塩(以降、カンデサルタンシレキセチルということもある。)等は非常に多く利用されている。特に、カンデサルタンシレキセチルは非常に有効なカンデサルタンのプロドラッグである(特許文献1)。
【0003】
カンデサルタンシレキセチルは熱により類縁物質が増加することが知られている。熱分解により類縁物質が増加することにより、カンデサルタンシレキセチルの含量が低下する。結果的に期待ができる薬効効果を示さない可能性もある。そのため、高級アルコール、多価アルコールの脂肪酸エステル、アルキレンオキサイドの重合体若しくは共重合体から選ばれた低融点油脂状物質を添加することにより、カンデサルタンシレキセチルの分解を抑制することが知られている(特許文献2)。
【0004】
また、カンデサルタンシレキセチルは単独では安定であるが、他の添加剤と共に錠剤等の製造をする場合、その製造時に発生する熱、圧力、摩擦等により分解することが判明している。これらを解消するために、素錠の密度を調整しつつ、金属セッケンを使用することにより、カンデサルタンシレキセチルの分解を抑制することが知られている(特許文献3)。
【特許文献1】特開平4−364171号
【特許文献2】特開平5−194218号
【特許文献3】特開平7−165580号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、低融点物質を使用しても圧縮成形をするためには滑沢剤は必須である。滑沢剤として金属セッケン、特にステアリン酸マグネシウムを使用することは、混合用の装置、混合時間により顆粒表面にステアリン酸マグネシウムの膜を形成することが判明している。これにより、有効成分の顆粒内部からの溶解性が悪くなったり、また、打錠時の成形性を悪くすることが知られている。従って、製造条件等を厳密に制御する必要がある。従って、アンジオテンシンII受容体拮抗作用を示す薬物、特にカンデサルタンの分解を抑えつつ、製造性、他の品質を担保するような製剤設計が望まれてきた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは様々な検討を実施した結果、アンジオテンシンII受容体拮抗作用を示す薬物にフマル酸ステアリルナトリウムを添加することにより、アンジオテンシンII受容体拮抗作用を示す薬物の分解を抑えることができることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は下記の通りである。
(1) フマル酸ステアリルナトリウムを含有したアンジオテンシII受容体拮抗作用を示す薬物製剤。
(2) アンジオテンシII受容体拮抗作用を示す薬物がカンデサルタン若しくはそのプロドラック又はその塩である(1)の製剤。
(3) フマル酸ステアリルナトリウムがアンジオテンシII受容体拮抗作用を示す薬物1部に対し0.01ないし5部である(1)ないし(2)の製剤。
(4) 更に低融点物質を添加した(1)ないし(3)の製剤。
(5) 低融点物質がポリエチレングリコールである(1)ないし(4)の製剤。
(6) ポリエチレングリコールがアンジオテンシII受容体拮抗作用を示す薬物1部に対し0.1ないし10部である(1)ないし(5)の製剤。
(7) 50℃2週間保管した際に総類縁物質が0.5%以下である(1)ないし(6)の製剤。
(8) 50℃2週間保管した際に総類縁物質が0.4%以下である(1)ないし(6)の製剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明はアンジオテンシンII受容体拮抗作用を示す薬物含有製剤について、今までとは異なる方法で安定化することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の有効成分であるアンジオテンシンII受容体拮抗作用を示す薬物とは、強力なアンジオテンシンII拮抗作用を示す薬物である。具体的には、ベンジルイミダゾール酢酸誘導体であり、ロサルタン、カンデサルタン、テルミサルタン、オルメサルタンまたはイルベサルタンそれらのプロドラッグ化した化合物もしくはその塩は、経口剤として強力でかつ持続性の活性効果を示すことができる。このうち、最も好ましいアンジオテンシンII受容体拮抗作用を示す薬物はカンデサルタン若しくはそのプロドラックのカンデサルタンセレキセチルである。
【0009】
本発明の製剤において、アンジオテンシンII受容体拮抗作用を示す薬物の含有量は薬効を示すことができれば、特段含量に規定はない。好ましくは、1錠あたり0.5〜150mgであり、更に好ましくは、1〜100mgである。なお、カンデサルタンシレキセチルの場合には、好ましくは、1錠あたり0.5〜20mgであり、更に好ましくは、1〜15mgである。
【0010】
本発明に使用することができるフマル酸ステアリルナトリウムはステアリルアルコールを無水マレイン酸と反応後、その反応物を異性化し、塩析させることにより製造することができる。また、カンデサルタンシレキセチルと混合して使用することもでき、また、錠剤の場合は圧縮成形直前に添加することもできる。なお、フマル酸ステアリルナトリウムは圧縮成形の際に滑沢剤として使用する場合は圧縮成形時に杵臼等に付着しない量であれば特段問題ない。具体的には1錠あたり0.1ないし5.0%であり、更に好ましくは、0.5ないし3.0%である。また、フマル酸ステアリルナトリウムの添加量はアンジオテンシンII受容体拮抗作用を示す薬物1部に対し0.01ないし5部が好ましく、更に好ましくは、0.02ないし4部である。
【0011】
また、本発明には低融点物質をさらに添加することにより、類縁物質の増加をさらに抑えることができる。低融点物質としては、融点が100℃以下のものであれば特段問題ない。具体的には炭化水素、高級脂肪酸、高級アルコール、アルキレンオキサイドの重合体が挙げられる。これらのうち、特に、ポリエチレングリコールが好ましい。ポリエチレングリコールの使用量は、特に限定はないが、1錠あたり1ないし10%が好ましく、更に好ましくは、1錠あたり3ないし7%である。また、ポリエチレングリコールの添加量は アンジオテンシンII受容体拮抗作用を示す薬物1部に対し0.1ないし10部が好ましく、更に好ましくは、0.3ないし5部である。
【0012】
また、アンジオテンシンII受容体拮抗作用を示す薬物はフマル酸ステアリルナトリウムを含有させることにより類縁物質の増加を抑えることができる。具体的には、50℃で2週間保管した際に、保存前と比べ、カンデサルタンシレキセチルの総類縁物質の増加量が0.5%以下であればよく、好ましくは0.4%である。なお、カンデサルタンシレキセチルの場合、その総類縁物質の測定方法は下記の通りである。
【0013】
カンデサルタンシレキセチル6 mgに対応する量をとり、アセトニトリル/水混液(3:2)15 mLを加え、10分間振とう後、遠心分離する。上澄液を孔径0.45 μm以下のメンブランフィルターでろ過する。初めのろ液3
mLを除き、次のろ液を試料溶液とする。この液1 mLを正確に量り、アセトニトリル/水混液(3:2)を加えて正確に100 mLとし、標準溶液とする。試料溶液及び標準溶液10
μLずつを正確にとり、液体クロマトグラフィーにより測定を行う。それぞれの液の各々のピーク面積を自動積分法により測定したときの、カンデサルタンシレキセチル以外のピークの合計面積を標準溶液のピーク面積で除した値を求めた。
【0014】
<試験条件>
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:254 nm)
カラム:内径3.9 mm,長さ15 cmのステンレス管に4 μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲルを充てんする。
カラム温度:25℃付近の一定温度
移動相A:アセトニトリル/水/酢酸(100)混液(57:43:1)
移動相B:アセトニトリル/水/酢酸(100)混液(90:10:1)
移動相の送液:移動相Aと移動相Bの混合比を表1のように変えて濃度勾配制御する。
【表1】
流量:毎分0.8mL
【0015】
上記のような安定なアンジオテンシンII受容体拮抗作用を示す薬物含有製剤は、固形剤であれば特段限定はない。例えば、素剤、フィルムコーティング錠、糖衣錠、顆粒剤、細粒剤、散剤、カプセル剤等が挙げられる。
【0016】
また、これらの添加剤以外にも本発明の効果を損なわなければ適宜、従来公知の種々の滑沢剤、可溶化剤、緩衝剤、吸着剤、結合剤、懸濁化剤、抗酸化剤、充填剤、pH調整剤、賦形剤、分散剤、崩壊剤、崩壊補助剤、防湿剤、防腐剤、溶剤、溶解補助剤、流動化剤等を使用することができる。
【0017】
賦形剤としては、例えば、結晶セルロース、コーンスターチ、バレイショデンプン、無機塩等が挙げられる。崩壊剤としては、例えば、コーンスターチ、バレイショデンプン等のデンプン類、部分アルファー化デンプン、カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロース、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルメチルセルロース、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルスターチ等が挙げられる。結合剤としては、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アラビアゴム、アルファー化デンプン、アルギン酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー、寒天、ハチミツ等が挙げられる。
【0018】
滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸、タルク、ショ糖脂肪酸エステル等が挙げられる。また、コーティング剤としては、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー、アミノアクリルメタクリレートコポリマーE、アミノアクリルメタクリレートコポリマーRS、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メタクリル酸コポリマーL、メタクリル酸コポリマーLD、メタクリル酸コポリマーS等が挙げられる。更に、矯味成分としては、例えば、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸等が挙げられる。発泡剤としては、例えば、重曹等が挙げられる。人口甘味料としては、例えば、サッカリンナトリウム、グリチルリチン二カリウム、アスパルテーム、ステビア、ソーマチン等が挙げられる。マスキング剤としては、例えば、エチルセルロース等の水不溶性高分子、メタアクリル酸メチル・メタアクリル酸ブチル・メタアクリル酸ジエチルアミノエチル・コポリマー等の胃溶性高分子等が挙げられる。
【0019】
アンジオテンシンII受容体拮抗作用を示す薬物含有製剤はこれらの添加剤を含有すれば、特段どのような方法で製造しても問題はない。具体的には、顆粒を製造する方法として流動層造粒、攪拌造粒、転動造粒、乾式造粒若しくはこれらを組み合わせた方法が挙げられる。
【0020】
また、これらの顆粒を用い、そのまま製剤として市販することも可能である。しかし、服用性を改善するためにカプセル化や圧縮成形することも可能である。これらの方法は一般的に知られている方法で実施することが可能である。
【0021】
以下に実施例を挙げて、本発明を詳細に説明する。しかし、本発明はこれらの実施例に何ら制約されるものではない。
【0022】
試験例1
カンデサルタンシレキセチル300mgと表1に記載した添加剤300mgをビニール袋で混合し、300mgずつアルミ袋に包装した。この検体を50℃の恒温機で2週間放置した。その後、先に記載した方法で類縁物質を測定した。
【0023】
上記のように測定した類縁物質について、その増加率を表2に示した。
【表2】
フマル酸ステアリルナトリウム (PRUV:リバソン(株)製)
乳糖水和物(乳糖 DMV200M:DMV(株)製)
D−マンニトール(マンニット−P:三菱商事フードテック(株)製)
結晶セルロース(セオラスPH101:旭化成ケミカルズ(株)製)
タルク(タルク:林化成(株)製)
メタケイ酸アルミン酸マグネシウム(ノイシリンUFL2:富士化学工業(株)製)
軽質無水ケイ酸(アドソリダー101:フロイント産業(株)製)
ステアリン酸マグネシウム(ステアリン酸マグネシウム:太平化学産業(株)製)
【0024】
表2のように、フマル酸ステアリルナトリウムは他の添加剤と比べ、有意に不純物の増加を抑えることができた。また、不純物の増加はステアリン酸マグネシウムより低く、0.5%以下であることが確認できた。
【0025】
試験例2
下記のように添加剤を混合し、圧縮成形をして安定性の錠剤を設計した。
【0026】
実施例1
カンデサルタンシレキセチルを0.4g、乳糖水和物(乳糖 DMV 200M:DMV(株)製)を18.36g、トウモロコシデンプン(コーンスターチ:日本食品化工(株)製)を4g、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC−L:日本曹達(株)製)を 0.8g、ポリエチレングリコール(マクロゴール6000:三洋化成工業(株)製)を1.2
g、カルボキシメチルセルロースカルシウム(ECG−505:五徳薬品(株)製)を1.12g、フマル酸ステアリルナトリウム(PRUV:リバソン(株)製)を0.52gをビニール袋で混合した。この混合した粉末をオイルプレス(F430:ユニパルス(株)製)で圧縮成形した。
【0027】
比較例1
実施例のフマル酸ステアリルナトリウムをステアリン酸マグネシウム(ステアリン酸マグネシウム:太平化学産業(株)製)0.26gに変更した以外は実施例1と同様の方法で錠剤を製造した。
【0028】
実施例1及び比較例1により製造した錠剤をアルミ袋で包装し、50℃の恒温室で2週間放置した。
【0029】
このように安定性試験を行った錠剤について、試験例1に記載した試験方法に則り、類縁物質の量について測定した。類縁物質の増加を下記の表3に示す。
【表3】
【0030】
表3のように、フマル酸ステアリルナトリウムを使用することにより、ステアリン酸マグネシウムよりも類縁物質の増加量を抑えることができた。また、その増加量は0.5%以下であることも判明した。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明により、今までとは異なった方法でアンジオテンシンII受容体拮抗作用を示す薬物、特にカンデサルタンシレキセチルの分解を抑えることができ、結果的に安定化に寄与することができるため、有用である。
【技術分野】
【0001】
本発明はアンジオテンシンII受容体拮抗作用を示す薬物製剤であって、カンデサルタン及びそのプロドラック化した化合物若しくはその塩等を含有した製剤について、長期間の保管にも耐えうる製剤の設計に関する。
【背景技術】
【0002】
高血圧症、慢性腎不全の治療において、アンジオテンシンII受容体拮抗作用を示す薬物は頻繁に利用されている。アンジオテンシンII受容体拮抗作用を示す薬物として、カンデサルタン及びそのプロドラック化した化合物若しくはその塩(以降、カンデサルタンシレキセチルということもある。)等は非常に多く利用されている。特に、カンデサルタンシレキセチルは非常に有効なカンデサルタンのプロドラッグである(特許文献1)。
【0003】
カンデサルタンシレキセチルは熱により類縁物質が増加することが知られている。熱分解により類縁物質が増加することにより、カンデサルタンシレキセチルの含量が低下する。結果的に期待ができる薬効効果を示さない可能性もある。そのため、高級アルコール、多価アルコールの脂肪酸エステル、アルキレンオキサイドの重合体若しくは共重合体から選ばれた低融点油脂状物質を添加することにより、カンデサルタンシレキセチルの分解を抑制することが知られている(特許文献2)。
【0004】
また、カンデサルタンシレキセチルは単独では安定であるが、他の添加剤と共に錠剤等の製造をする場合、その製造時に発生する熱、圧力、摩擦等により分解することが判明している。これらを解消するために、素錠の密度を調整しつつ、金属セッケンを使用することにより、カンデサルタンシレキセチルの分解を抑制することが知られている(特許文献3)。
【特許文献1】特開平4−364171号
【特許文献2】特開平5−194218号
【特許文献3】特開平7−165580号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、低融点物質を使用しても圧縮成形をするためには滑沢剤は必須である。滑沢剤として金属セッケン、特にステアリン酸マグネシウムを使用することは、混合用の装置、混合時間により顆粒表面にステアリン酸マグネシウムの膜を形成することが判明している。これにより、有効成分の顆粒内部からの溶解性が悪くなったり、また、打錠時の成形性を悪くすることが知られている。従って、製造条件等を厳密に制御する必要がある。従って、アンジオテンシンII受容体拮抗作用を示す薬物、特にカンデサルタンの分解を抑えつつ、製造性、他の品質を担保するような製剤設計が望まれてきた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは様々な検討を実施した結果、アンジオテンシンII受容体拮抗作用を示す薬物にフマル酸ステアリルナトリウムを添加することにより、アンジオテンシンII受容体拮抗作用を示す薬物の分解を抑えることができることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は下記の通りである。
(1) フマル酸ステアリルナトリウムを含有したアンジオテンシII受容体拮抗作用を示す薬物製剤。
(2) アンジオテンシII受容体拮抗作用を示す薬物がカンデサルタン若しくはそのプロドラック又はその塩である(1)の製剤。
(3) フマル酸ステアリルナトリウムがアンジオテンシII受容体拮抗作用を示す薬物1部に対し0.01ないし5部である(1)ないし(2)の製剤。
(4) 更に低融点物質を添加した(1)ないし(3)の製剤。
(5) 低融点物質がポリエチレングリコールである(1)ないし(4)の製剤。
(6) ポリエチレングリコールがアンジオテンシII受容体拮抗作用を示す薬物1部に対し0.1ないし10部である(1)ないし(5)の製剤。
(7) 50℃2週間保管した際に総類縁物質が0.5%以下である(1)ないし(6)の製剤。
(8) 50℃2週間保管した際に総類縁物質が0.4%以下である(1)ないし(6)の製剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明はアンジオテンシンII受容体拮抗作用を示す薬物含有製剤について、今までとは異なる方法で安定化することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の有効成分であるアンジオテンシンII受容体拮抗作用を示す薬物とは、強力なアンジオテンシンII拮抗作用を示す薬物である。具体的には、ベンジルイミダゾール酢酸誘導体であり、ロサルタン、カンデサルタン、テルミサルタン、オルメサルタンまたはイルベサルタンそれらのプロドラッグ化した化合物もしくはその塩は、経口剤として強力でかつ持続性の活性効果を示すことができる。このうち、最も好ましいアンジオテンシンII受容体拮抗作用を示す薬物はカンデサルタン若しくはそのプロドラックのカンデサルタンセレキセチルである。
【0009】
本発明の製剤において、アンジオテンシンII受容体拮抗作用を示す薬物の含有量は薬効を示すことができれば、特段含量に規定はない。好ましくは、1錠あたり0.5〜150mgであり、更に好ましくは、1〜100mgである。なお、カンデサルタンシレキセチルの場合には、好ましくは、1錠あたり0.5〜20mgであり、更に好ましくは、1〜15mgである。
【0010】
本発明に使用することができるフマル酸ステアリルナトリウムはステアリルアルコールを無水マレイン酸と反応後、その反応物を異性化し、塩析させることにより製造することができる。また、カンデサルタンシレキセチルと混合して使用することもでき、また、錠剤の場合は圧縮成形直前に添加することもできる。なお、フマル酸ステアリルナトリウムは圧縮成形の際に滑沢剤として使用する場合は圧縮成形時に杵臼等に付着しない量であれば特段問題ない。具体的には1錠あたり0.1ないし5.0%であり、更に好ましくは、0.5ないし3.0%である。また、フマル酸ステアリルナトリウムの添加量はアンジオテンシンII受容体拮抗作用を示す薬物1部に対し0.01ないし5部が好ましく、更に好ましくは、0.02ないし4部である。
【0011】
また、本発明には低融点物質をさらに添加することにより、類縁物質の増加をさらに抑えることができる。低融点物質としては、融点が100℃以下のものであれば特段問題ない。具体的には炭化水素、高級脂肪酸、高級アルコール、アルキレンオキサイドの重合体が挙げられる。これらのうち、特に、ポリエチレングリコールが好ましい。ポリエチレングリコールの使用量は、特に限定はないが、1錠あたり1ないし10%が好ましく、更に好ましくは、1錠あたり3ないし7%である。また、ポリエチレングリコールの添加量は アンジオテンシンII受容体拮抗作用を示す薬物1部に対し0.1ないし10部が好ましく、更に好ましくは、0.3ないし5部である。
【0012】
また、アンジオテンシンII受容体拮抗作用を示す薬物はフマル酸ステアリルナトリウムを含有させることにより類縁物質の増加を抑えることができる。具体的には、50℃で2週間保管した際に、保存前と比べ、カンデサルタンシレキセチルの総類縁物質の増加量が0.5%以下であればよく、好ましくは0.4%である。なお、カンデサルタンシレキセチルの場合、その総類縁物質の測定方法は下記の通りである。
【0013】
カンデサルタンシレキセチル6 mgに対応する量をとり、アセトニトリル/水混液(3:2)15 mLを加え、10分間振とう後、遠心分離する。上澄液を孔径0.45 μm以下のメンブランフィルターでろ過する。初めのろ液3
mLを除き、次のろ液を試料溶液とする。この液1 mLを正確に量り、アセトニトリル/水混液(3:2)を加えて正確に100 mLとし、標準溶液とする。試料溶液及び標準溶液10
μLずつを正確にとり、液体クロマトグラフィーにより測定を行う。それぞれの液の各々のピーク面積を自動積分法により測定したときの、カンデサルタンシレキセチル以外のピークの合計面積を標準溶液のピーク面積で除した値を求めた。
【0014】
<試験条件>
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:254 nm)
カラム:内径3.9 mm,長さ15 cmのステンレス管に4 μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲルを充てんする。
カラム温度:25℃付近の一定温度
移動相A:アセトニトリル/水/酢酸(100)混液(57:43:1)
移動相B:アセトニトリル/水/酢酸(100)混液(90:10:1)
移動相の送液:移動相Aと移動相Bの混合比を表1のように変えて濃度勾配制御する。
【表1】
流量:毎分0.8mL
【0015】
上記のような安定なアンジオテンシンII受容体拮抗作用を示す薬物含有製剤は、固形剤であれば特段限定はない。例えば、素剤、フィルムコーティング錠、糖衣錠、顆粒剤、細粒剤、散剤、カプセル剤等が挙げられる。
【0016】
また、これらの添加剤以外にも本発明の効果を損なわなければ適宜、従来公知の種々の滑沢剤、可溶化剤、緩衝剤、吸着剤、結合剤、懸濁化剤、抗酸化剤、充填剤、pH調整剤、賦形剤、分散剤、崩壊剤、崩壊補助剤、防湿剤、防腐剤、溶剤、溶解補助剤、流動化剤等を使用することができる。
【0017】
賦形剤としては、例えば、結晶セルロース、コーンスターチ、バレイショデンプン、無機塩等が挙げられる。崩壊剤としては、例えば、コーンスターチ、バレイショデンプン等のデンプン類、部分アルファー化デンプン、カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロース、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルメチルセルロース、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルスターチ等が挙げられる。結合剤としては、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アラビアゴム、アルファー化デンプン、アルギン酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー、寒天、ハチミツ等が挙げられる。
【0018】
滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸、タルク、ショ糖脂肪酸エステル等が挙げられる。また、コーティング剤としては、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー、アミノアクリルメタクリレートコポリマーE、アミノアクリルメタクリレートコポリマーRS、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メタクリル酸コポリマーL、メタクリル酸コポリマーLD、メタクリル酸コポリマーS等が挙げられる。更に、矯味成分としては、例えば、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸等が挙げられる。発泡剤としては、例えば、重曹等が挙げられる。人口甘味料としては、例えば、サッカリンナトリウム、グリチルリチン二カリウム、アスパルテーム、ステビア、ソーマチン等が挙げられる。マスキング剤としては、例えば、エチルセルロース等の水不溶性高分子、メタアクリル酸メチル・メタアクリル酸ブチル・メタアクリル酸ジエチルアミノエチル・コポリマー等の胃溶性高分子等が挙げられる。
【0019】
アンジオテンシンII受容体拮抗作用を示す薬物含有製剤はこれらの添加剤を含有すれば、特段どのような方法で製造しても問題はない。具体的には、顆粒を製造する方法として流動層造粒、攪拌造粒、転動造粒、乾式造粒若しくはこれらを組み合わせた方法が挙げられる。
【0020】
また、これらの顆粒を用い、そのまま製剤として市販することも可能である。しかし、服用性を改善するためにカプセル化や圧縮成形することも可能である。これらの方法は一般的に知られている方法で実施することが可能である。
【0021】
以下に実施例を挙げて、本発明を詳細に説明する。しかし、本発明はこれらの実施例に何ら制約されるものではない。
【0022】
試験例1
カンデサルタンシレキセチル300mgと表1に記載した添加剤300mgをビニール袋で混合し、300mgずつアルミ袋に包装した。この検体を50℃の恒温機で2週間放置した。その後、先に記載した方法で類縁物質を測定した。
【0023】
上記のように測定した類縁物質について、その増加率を表2に示した。
【表2】
フマル酸ステアリルナトリウム (PRUV:リバソン(株)製)
乳糖水和物(乳糖 DMV200M:DMV(株)製)
D−マンニトール(マンニット−P:三菱商事フードテック(株)製)
結晶セルロース(セオラスPH101:旭化成ケミカルズ(株)製)
タルク(タルク:林化成(株)製)
メタケイ酸アルミン酸マグネシウム(ノイシリンUFL2:富士化学工業(株)製)
軽質無水ケイ酸(アドソリダー101:フロイント産業(株)製)
ステアリン酸マグネシウム(ステアリン酸マグネシウム:太平化学産業(株)製)
【0024】
表2のように、フマル酸ステアリルナトリウムは他の添加剤と比べ、有意に不純物の増加を抑えることができた。また、不純物の増加はステアリン酸マグネシウムより低く、0.5%以下であることが確認できた。
【0025】
試験例2
下記のように添加剤を混合し、圧縮成形をして安定性の錠剤を設計した。
【0026】
実施例1
カンデサルタンシレキセチルを0.4g、乳糖水和物(乳糖 DMV 200M:DMV(株)製)を18.36g、トウモロコシデンプン(コーンスターチ:日本食品化工(株)製)を4g、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC−L:日本曹達(株)製)を 0.8g、ポリエチレングリコール(マクロゴール6000:三洋化成工業(株)製)を1.2
g、カルボキシメチルセルロースカルシウム(ECG−505:五徳薬品(株)製)を1.12g、フマル酸ステアリルナトリウム(PRUV:リバソン(株)製)を0.52gをビニール袋で混合した。この混合した粉末をオイルプレス(F430:ユニパルス(株)製)で圧縮成形した。
【0027】
比較例1
実施例のフマル酸ステアリルナトリウムをステアリン酸マグネシウム(ステアリン酸マグネシウム:太平化学産業(株)製)0.26gに変更した以外は実施例1と同様の方法で錠剤を製造した。
【0028】
実施例1及び比較例1により製造した錠剤をアルミ袋で包装し、50℃の恒温室で2週間放置した。
【0029】
このように安定性試験を行った錠剤について、試験例1に記載した試験方法に則り、類縁物質の量について測定した。類縁物質の増加を下記の表3に示す。
【表3】
【0030】
表3のように、フマル酸ステアリルナトリウムを使用することにより、ステアリン酸マグネシウムよりも類縁物質の増加量を抑えることができた。また、その増加量は0.5%以下であることも判明した。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明により、今までとは異なった方法でアンジオテンシンII受容体拮抗作用を示す薬物、特にカンデサルタンシレキセチルの分解を抑えることができ、結果的に安定化に寄与することができるため、有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フマル酸ステアリルナトリウムを含有したアンジオテンシII受容体拮抗作用を示す薬物製剤。
【請求項2】
アンジオテンシII受容体拮抗作用を示す薬物がカンデサルタン若しくはそのプロドラック又はその塩である請求項1の製剤。
【請求項3】
フマル酸ステアリルナトリウムがアンジオテンシII受容体拮抗作用を示す薬物1部に対し0.01ないし5部である請求項1ないし2の製剤。
【請求項4】
更に低融点物質を添加した請求項1ないし3の製剤。
【請求項5】
低融点物質がポリエチレングリコールである請求項4の製剤。
【請求項6】
ポリエチレングリコールがアンジオテンシII受容体拮抗作用を示す薬物1部に対し0.1ないし10部である請求項5の製剤。
【請求項7】
50℃2週間保管した際に総類縁物質が0.5%以下である請求項1ないし6の製剤。
【請求項8】
50℃2週間保管した際に総類縁物質が0.4%以下である請求項1ないし6の製剤。
【請求項1】
フマル酸ステアリルナトリウムを含有したアンジオテンシII受容体拮抗作用を示す薬物製剤。
【請求項2】
アンジオテンシII受容体拮抗作用を示す薬物がカンデサルタン若しくはそのプロドラック又はその塩である請求項1の製剤。
【請求項3】
フマル酸ステアリルナトリウムがアンジオテンシII受容体拮抗作用を示す薬物1部に対し0.01ないし5部である請求項1ないし2の製剤。
【請求項4】
更に低融点物質を添加した請求項1ないし3の製剤。
【請求項5】
低融点物質がポリエチレングリコールである請求項4の製剤。
【請求項6】
ポリエチレングリコールがアンジオテンシII受容体拮抗作用を示す薬物1部に対し0.1ないし10部である請求項5の製剤。
【請求項7】
50℃2週間保管した際に総類縁物質が0.5%以下である請求項1ないし6の製剤。
【請求項8】
50℃2週間保管した際に総類縁物質が0.4%以下である請求項1ないし6の製剤。
【公開番号】特開2012−51829(P2012−51829A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−194722(P2010−194722)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000208145)大洋薬品工業株式会社 (29)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000208145)大洋薬品工業株式会社 (29)
【Fターム(参考)】
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