説明

安定なプロスタグランジン含有組成物

【課題】ポリエトキシ化されたヒマシ油を含有する処方物の使用(例えば、眼科用医薬における使用)に対して、特に、現在入手できる処方医薬に過敏な人のために重要な代替策を提供すること。
【解決手段】(a)0.001〜0.005w/v%の濃度のトラボプロスト;(b)0.3〜0.7w/v%の濃度のポリエトキシ化されたソルビトールのモノオレエートエステル;および(c)薬学的に受容可能なキャリアを含有する薬学的組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロスタグランジン含有組成物に関する。特に、眼病の治療のための薬学的組成物および医薬に使用され得る安定なプロスタグランジン含有組成物、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な眼病は、高眼圧症である。この用語は、眼の内部の圧が正常な範囲より高い状態を表すのに使用される。眼内圧の上昇は、例えば、(i)過剰な房水の産生、または(ii)通常、眼から房水を排出させる経路の妨害のために生じ得る。一般的に、この状態では、視力の変化または眼の構造の損傷は検出され得ない。用語「高眼圧症」はまた、より重篤な眼病である緑内障と区別して使用される。
【0003】
長期のまたは深刻な高眼圧症は、時には緑内障に導き得、視神経を損傷し視力を失う原因となる。緑内障は、実際、失明に導く原因の1つである。この病気は、40歳を超えた人々、特に、緑内障の家族歴を有する人々、とりわけ、強度の近視または糖尿病の人々に最も蔓延している。
【0004】
高眼圧症および緑内障は治療され得ないが、これらの状態は、眼の損傷のリスクを減らすように治療され得る。治療計画は、通常、眼内圧をより低くするための目薬および/または薬の処方から始める。目薬の代替処方の多くが利用でき、それらは、異なる活性成分を含み、そして異なるメカニズムによって眼圧を低下する。例えば、医薬は、房水の産生を減少し得、または眼からの房水の排出速度を高め得る。
【0005】
プロスタグランジン類似体は、目薬の一般的な活性成分である。それらは、前眼房からの房水の排出速度を高めることにより働く。しかし、プロスタグランジンは、水への溶解性が非常に低く、しかも一般的に全く不安定である。したがって、市販可能な目薬の製造のために、プロスタグランジン類似体は、活性成分のレベルを医薬の耐用期間にわたって一定に維持するように、溶解かつ安定化されなければならない。
【0006】
乏しい水溶解性は、市販の有用な薬剤間でも珍しいことではない。実際、溶解性の乏しい薬剤化合物のバイオアベイラビリティーを高めることは、製薬産業が直面している最も大きな課題の1つである。シクロデキストリンが、プロスタグランジン(EP435682A2)および多くのその他の薬剤(レビューとして、Loftsson T. およびBrewster M.E. Pharmaceutical applications of cyclodextrins. 1. Drug solubilization and stabilization, J. Pharm. Sci., 1996, 85(10), 1017-25を参照のこと)の可溶化剤および安定化剤として使用されている。また、広範な種々の界面活性剤、共溶媒および可溶化剤が、薬剤の水溶性を高めるために開発されている(Samuel H. Yalkowski, Solubility and Solubilization in Aqueous Media, Am. Chem. Soc. 1999を参照のこと)。しかし、これらのアプローチのそれぞれの相対的な成功にはむらがあり、そして選択された特定の薬剤および溶媒系に決定的に依存している。
【0007】
例えば、界面活性剤は、カチオン性、アニオン性、両性、および非イオン性であり得、ある界面活性剤は、まったく効果がないが、他の界面活性剤は、現に特定の薬剤の化学的分解を高め得る。ポリエトキシ化されたヒマシ油のような非イオン性界面活性剤は、可溶化剤、例えば抗生物質であるシクロスポリンAの可溶化剤(Ran Y.ら、Solubilization of Cyclosporin A. AAPS PharmSciTech., 2001, 2(1), article 2)、および安定化剤、例えばビタミン調製物のための安定化剤(US4075333)として広く使用されている。
【0008】
ポリエトキシ化されたヒマシ油はまた、例えば、眼の炎症の抑制のためのオルト−(2,6−ジクロロフェニル)−アミノ−フェニル酢酸(US4960799)、ドライアイ症候群の治療のためのビタミンA(US5185372)、および高眼圧症および緑内障を治療するためのプロスタグランジン組成物(US5631287)を含有する眼科用処方物における使用のための安定な溶液を作製するために使用されている。
【0009】
プロスタグランジンの溶液安定性が、US5631287およびUS5849792の両方で比較されている。これらの研究では、ポリエトキシ化されたヒマシ油の使用が、眼科用処方物中のプロスタグランジンの安定性を高めることが示された。比較すると、代替の非イオン性界面活性剤であるポリソルベート80は、貯蔵安定な溶液での使用に不適切であることが示された。特に好ましいポリエトキシ化されたヒマシ油は、クレモホール(登録商標)ELおよびアルカムルス(登録商標)EL-620であり、これらは、ポリソルベート80よりかなり優れていることがわかった。しかし、ポリエトキシ化されたヒマシ油は、ある患者には許容され得ない。したがって、その他の安定化剤および可溶化剤を見出すことが避けられなくなっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、驚くべきことに、ポリソルベートは、注意深く選択された割合を使用することによって、プロスタグランジン溶液の安定化に効果的であり、ポリエトキシ化されたヒマシ油の使用と比較して、最終処方物における安定性のレベルが高められ、そして不純物(例えば、分解生成物)がない状態を提供し得ることを見出した。したがって、本発明の組成物は、ポリエトキシ化されたヒマシ油を含有する処方物の使用(例えば、眼科用医薬における使用)に対して、特に、現在入手できる処方医薬に過敏な人のために重要な代替策を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、式(I):
【0012】
【化1】

【0013】
式(I)において、Rが、H、C−Cアルキル、C−C10アリール、C−Cシクロアルキル、−OR、−C(O)R、−C(O)、−N(R、−C(O)N(R、およびカチオン塩部分から選択され;
およびRが、同一または異なり得、そしてそれぞれ独立して、HおよびC−Cアルキルから選択され;または
およびRが一緒になって、Oを表し得;
Xが、O、S、およびCHから選択され;
破線と実線とからなる二重線が、α鎖(上部)について単結合、またはシスもしくはトランス二重結合;およびω鎖(下部)について単結合またはトランス二重結合の任意の組み合わせを表し;
およびRが、同一または異なり得、そしてそれぞれ独立して、H、C−Cアルキル、C−C10アリール、C−Cシクロアルキル、および−C(O)Rから選択され;
YがOであるか;またはいずれかの立体配置でHおよびORであり;
が、H、C−Cアルキル、および−C(O)Rから選択され;
Zが、OおよびCHから選択され;
が、H、Cl、およびCFから選択され;そして
が、HおよびC−Cアルキルから選択される、プロスタグランジンまたはその薬学的に受容可能な塩またはエステル;該プロスタグランジンまたはその薬学的に受容可能な塩またはエステルの化学安定性を高めるために効果的な量のポリエトキシ化されたソルビトールのアルカン酸エステル;および薬学的に受容可能なキャリアを含有する薬学的組成物が提供される。
【0014】
好ましい組成物は、プロスタグランジンを0.0001w/v%から0.1w/v%の濃度で含有し、より好ましくは0.0005w/v%から0.025w/v%の濃度で、さらにより好ましくは0.001w/v%から0.005w/v%の濃度で含有し、そして最も好ましくは、上記プロスタグランジンは0.004w/v%の濃度である。
【0015】
上記ポリエトキシ化されたソルビトールのアルカン酸エステルは、好ましくは0.1w/v%から3.0w/v%の濃度;より好ましくは0.2w/v%から1.0w/v%の濃度;さらにより好ましくは0.3w/v%から0.7w/v%の濃度;そして最も好ましくは約0.5w/v%の濃度で存在する。
【0016】
本発明の好ましい組成物では、上記ポリエトキシ化されたソルビトールのアルカン酸エステルのアルカン酸は、モノラウレート、モノパルミテート、モノステアレート、モノオレエート、およびモノイソステアレートからなる群より選択される。最も好ましいポリエトキシ化されたソルビトールのアルカン酸エステルは、ポリソルベート80であり、該ポリエトキシ化されたソルビトールのアルカン酸エステルはモノオレエートである。
【0017】
本発明の組成物は、好ましくは、Rが、−ORまたは−N(Rであり;そしてRおよびRが一緒になって、Oを表す式(I)の化合物である。より好ましくは、Rは、−OCH(CHまたは−NHCであり;RおよびRは一緒になって、Oを表し;XはCHであり;RおよびRは、それぞれHであり;YはORであって、RがHであり;ZはOまたはCHであり;そしてRは、HまたはCFである。
【0018】
さらにより好ましいプロスタグランジンとしては、トラボプロスト[式(II)];ラタノプロスト[式(III)];およびビマトプロスト[式(IV)]が挙げられる。
【0019】
【化2】

【0020】
最も好ましくは、上記プロスタグランジンは、式(II)のトラボプロスト[(Z)−7−[(1R,2R,3R,5S)−3,5−ジヒドロキシ−2−[(1E,3R)−3−ヒドロキシ−4−[(α,α,α−トリフルオロ−m−トリル)オキシ]−1−ブテニル]シクロペンチル]−5−ヘプテノエート]である。
【0021】
したがって、好ましい本発明の組成物は、0.002〜0.008w/v%のトラボプロスト;0.4〜0.6w/v%のポリソルベート80;0.010〜0.020w/v%の塩化ベンザルコニウム;0.05〜0.2w/v%のEDTA;0.1〜0.4w/v%のホウ酸;0.08〜0.2w/v%のトロメタミン;および2.0〜8.0w/v%のマンニトールを含有する。
【0022】
本発明による組成物は、好ましくは局所適用(例えば、眼科用溶液の形態)に適切なように処方される。このような組成物は、好ましくは、眼病(例えば、緑内障および/または高眼圧症)の治療における使用に適切である。
【0023】
したがって、哺乳動物の眼病の治療のための医薬の製造における本発明の組成物の使用もまた企図される。最も好ましくは、上記眼病は、緑内障および/または高眼圧症であり、そして上記哺乳動物はヒトである。
【0024】
本発明によれば、プロスタグランジンまたはその薬学的に受容可能な塩またはエステルを含有する組成物の化学安定性を高める方法もまた提供され、上記方法は、効果的な量のポリエトキシ化されたソルビトールのアルカン酸エステルを、上記組成物に添加する工程を包含する。
【0025】
本発明の好ましい方法では、上記ポリエトキシ化されたソルビトールのアルカン酸エステルは、0.1w/v%から3.0w/v%の濃度;より好ましくは0.2w/v%から1.0w/v%の濃度;さらにより好ましくは0.3w/v%から0.7w/v%の濃度;そして最も好ましくは約0.5w/v%の濃度で存在する。
【0026】
本発明のより好ましい方法は、上記ポリエトキシ化されたソルビトールのアルカン酸エステルのアルカン酸が、モノラウレート、モノパルミテート、モノステアレート、モノオレエート、およびモノイソステアレートからなる群より選択される方法である。最も好ましいポリエトキシ化されたソルビトールのアルカン酸エステルは、ポリソルベート80であり、該ポリエトキシ化されたソルビトールのアルカン酸エステルはモノオレエートである。
【0027】
本発明の方法は、上記実施態様のいずれかにおいて定義されるような、式(I)のプロスタグランジンを含有する組成物の化学安定性を高めるために、特に有用である。したがって、最も好ましくは、本発明の方法では、上記プロスタグランジンは、上記式(II)のトラボプロストである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本明細書に記載の組成物は、少なくとも1種のプロスタグランジンを含有する。用語「プロスタグランジン」は、天然に存在するプロスタグランジンの種ならびに天然または合成のいずれかのその誘導体および類似体に関する。このようなプロスタグランジンの薬学的に受容可能な誘導体および塩もまたこの用語内に含まれる。
【0029】
プロスタグランジンは、プロスタン酸から誘導される種々のホルモン様分子の群である。
【0030】
【化3】

【0031】
プロスタグランジン群は、五員環の構造により、プロスタグランジンのA系列(PGA)、B系列(PGB)、C系列(PGC)、D系列(PGD)、E系列(PGE)、F系列(PGF)、およびJ系列(PGJ)のように、さらに細分化される。さらに、プロスタグランジンの名称は、側鎖中の不飽和炭素−炭素結合の数を反映する。したがって、2個の二重結合を有する分子は、下付きの「2」、例えばPGAと示される。トラボプロスト[式(II)を参照のこと]は、プロスタグランジンのPGF類のメンバーである。
【0032】
公知のプロスタグランジンの類似体および誘導体としては、限定されないが、側鎖のアルキル置換(例えば、メチル、ジメチル、エチルなど)および飽和または不飽和のレベルのような、アルキル側鎖に対する改変が挙げられる。誘導体および類似体はまた、式(II)に示されるような、(置換)フェニル、フェノキシなどのような改変基を含み得る。プロスタグランジンの合成または天然の類似体および誘導体は、天然のプロスタグランジンの生理的性質と一般的に同様の生理的性質を有する。しかし、このような類似体および誘導体は、特定の局面において高められたまたは他に改変された(例えば、生理活性が改善されたまたは化学安定性が高められた)性質を示し得る。
【0033】
薬学的に受容可能な塩およびエステル誘導体は、任意の適切な位置(例えば、利用できるヒドロキシル基またはカルボキシル基の酸素原子)で改変され得る。
【0034】
本明細書で使用される用語:
「アルキル」は、1〜20個の炭素原子、好ましくは1〜12個の炭素原子、より好ましくは1〜6個の炭素原子を有する直鎖または分岐の炭素鎖を意味する;
「シクロアルキル」は、3〜20個の炭素原子、好ましくは3〜10個の炭素原子、より好ましくは3〜8個の炭素原子を有する飽和炭素環を表し;この炭素環は、非置換または必要に応じてC−Cアルキル、ハロ、ハロアルキル、ヒドロキシル、およびアミノから選択される1以上(例えば、1、2、または3)の置換基で置換される;
「アリール」は、5〜15個の炭素原子を含み、少なくとも1個(例えば1、2、または3)の芳香環を有する炭素環式基を意味する。代表的なアリール部分としては、フェニルおよびナフチルが挙げられる。このアリール基は、非置換または必要に応じてC−Cアルキル、ハロ、ハロアルキル、ヒドロキシル、およびアミノから選択される1以上(例えば、1、2、または3)の置換基で置換され、そして炭素環式基の全ての利用できる置換可能な炭素原子が可能な結合点と意図される;
「ハロ」は、フルオロ、クロロ、ブロモ、およびヨードを表し;最も好ましくはクロロである;
「ハロアルキル」は、1以上(例えば1、2、または3)のハロ基で置換されている、上記で定義されたようなアルキル基であり、好ましくは、上記アルキル基はC−Cアルキル基であり、そしてより好ましくは、上記ハロアルキルはCFである。
【0035】
本発明のより好ましい実施態様では、上記プロスタグランジンは、トラボプロスト[式(II)];ラタノプロスト[式(III)];およびビマトプロスト[式(IV)]から選択される;
【0036】
【化4】

【0037】
しかし、最も好ましくは、上記プロスタグランジンは、式(II)のイソプロピル(Z)−7−[(1R,2R,3R,5S)−3,5−ジヒドロキシ−2−[(1E,3R)−3−ヒドロキシ−4−[(α,α,α−トリフルオロ−m−トリル)オキシ]−1−ブテニル]シクロペンチル]−5−ヘプテノエート(すなわち、トラボプロスト)である。
【0038】
本発明の組成物は、プロスタグランジンを意図される用途に適切な任意の濃度で含有し得る。したがって、本発明の組成物の広範な剤型が企図される。しかし、好ましい組成物は、プロスタグランジンを0.0001w/v%から0.1w/v%の濃度;より好ましくは0.0005w/v%から0.025w/v%の濃度;さらにより好ましくは0.001w/v%から0.005w/v%の濃度で含有し;そして最も好ましくは、プロスタグランジンは0.004w/v%の濃度である。
【0039】
ポリエトキシ化されたソルビトールのアルカン酸エステルは、一般的に「ポリソルベート」といわれる。ポリソルベートは、非イオン系の親水性界面活性剤の一種であり、一般的に、水に溶解または分散し、有機溶媒には種々の程度で溶解する。したがって、ポリソルベートは、油または他の水不溶性物質の水中油型エマルジョン、分散液、または溶液を製造するために使用される。
【0040】
ポリソルベートは、ポリオキシエチレンソルビトールとアルカン酸とを反応させることにより形成され、式(V)の構造を有するエステルが得られる:
【0041】
【化5】

【0042】
ここで、w+x+y+z=20である。
【0043】
得られたポリソルベートは、アルカン酸から誘導されるアルカノエート基に従って命名される[式(V)のボールド体部分を参照のこと]。したがって、多数のポリソルベートが公知であり、モノラウレート部分(ポリソルベート20)、モノパルミテート部分(ポリソルベート40)、モノステアレート部分(ポリソルベート60)、モノオレエート部分(ポリソルベート80)、トリオレエート部分(ポリソルベート85)、およびモノイソステアレート部分(ポリソルベート120)を有するポリソルベートが挙げられる。さらに、20個のオキシエチレン基を含まないポリソルベートが公知である(すなわち、w+x+y+z≠20)。このようなポリソルベートとしては、ポリソルベート21、ポリソルベート61、およびポリソルベート81が挙げられる。
【0044】
本発明の組成物は、一般的に、少なくとも1種のポリソルベート(例えば、上記列挙されたポリソルベートの1種)を含有する。好ましいポリソルベートとしては、ポリソルベート20、40、60、80、および120が挙げられ;ポリソルベート80が最も好ましい。
【0045】
プロスタグランジンの化学安定性を高めるために求められるポリソルベートの濃度は、他の成分の正確な割合(例えば、組成物中のプロスタグランジンの量)に依存し得る。しかし、代表的な組成物は、少なくとも1種のポリソルベートを0.1w/v%から3.0w/v%の濃度;より好ましくは0.2w/v%から1.0w/v%の濃度;さらにより好ましくは0.3w/v%から0.7w/v%の濃度;および最も好ましくは約0.5w/v%の濃度で含有する。
【0046】
上記成分に加えて、本発明の組成物は、求められる処方物、例えば、局所的な眼科用適用に適切な処方物(例えば、水剤、ローション剤、乳剤、懸濁剤、およびゲル剤)を製造するために有用な任意のさらなる成分を含み得る。したがって、適切な添加成分としては、限定されないが、抗酸化剤、抗菌保存剤、緩衝剤、等張化剤/浸透剤などが挙げられる。組成物はまた、抗炎症剤のようなさらなる活性成分を含み得る。
【0047】
抗酸化剤は、活性成分または添加剤の酸化速度を低下させることによって、製品の保存期間を延ばす助けをする。直射日光中に置かれている製品は、特に酸化のリスクがある。抗酸化剤としては、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、アスコルビン酸、重亜硫酸ナトリウム、およびエデト酸のナトリウム塩(EDTA)が挙げられる。他の適切な抗酸化剤は、当業者に公知である。抗酸化剤または抗菌保存剤の必要な濃度は、保存剤の選択、組成物の意図される用途、および組成物の所望の保存期間に依存し得る。求められる濃度は、当業者によって容易に決定され得るが、一般的に、0.001w/v%から1w/v%の範囲である。好ましい組成物では、抗菌保存剤の量は0.01w/v%から0.02w/v%の範囲であり、抗酸化剤の量は0.05w/v%から0.2w/v%の範囲である。
【0048】
抗菌保存剤は、感染のリスクがあり得る微生物の増殖を防止または阻害するために使用される。これらは、水を含有し、そして繰り返し使用される組成物(例えば、目薬)において、特に重要である。抗菌保存剤は、任意の効果的な量で使用され得る。代表的な抗菌保存剤は、当業者に周知であり、限定されないが、塩化ベンザルコニウム、クロロブタノール、ポリクアド(Polyquad(登録商標))、およびメチルパラベンまたはプロピルパラベンのようなパラベンが挙げられる。
【0049】
等張化剤および浸透剤としては、一般的な塩、例えば塩化ナトリウムおよび塩化カリウムが挙げられ、ショ糖、マンニトール、デキストロース、グリセリン、およびプロピレングリコールのような化合物も挙げられる。しかし、当業者に公知の他の適切な等張化剤および浸透剤もまた使用され得る。等張化剤および浸透剤の濃度は、もちろん変化し得るが、例えば、0.5w/v%から10w/v%の範囲であり得る。しかし、代表的には、眼科用適用には、組成物の張度は、通常の眼液の浸透圧程度に調節され得、生理食塩水と等張であり得る。本発明の好ましい組成物は、約4.6w/v%のマンニトールを含有する。
【0050】
緩衝剤は、処方物のpHを意図される用途(例えば、組成物が適用される領域に不快感または損傷を生じないようにする)に適したレベルで維持するのに重要である。本発明の組成物は、好ましくはpHが5.0から7.5の範囲、好ましくは6.0から7.0の範囲に維持され、そして最も好ましくは、組成物はpHが約6.0である。上記範囲内(すなわち、pH5.0とpH7.5との間)に組成物のpHを維持し得る任意の適切な緩衝剤が使用され得る。適切な緩衝剤の例としては、限定されないが、トロメタミン、酢酸、ホウ酸、クエン酸、TRIS、HEPES、MOPS、炭酸水素ナトリウム、およびリン酸緩衝剤が挙げられる。使用される場合、緩衝剤は、一般的に0.02w/v%から0.2w/v%の範囲、好ましくは0.08w/v%から0.2w/v%の範囲、およびより好ましくは0.1w/v%から0.15w/v%の範囲の量であり得る。しかし、正確な使用量は、使用される緩衝剤の種類、所望のpH、および組成物中の添加成分の割合に依存し得る。例えば、本発明の好ましい処方物では、トロメタミンが0.12w/v%のレベルで使用され、そして組成物のpHは約6.0である。
【0051】
本発明の組成物はまた、ポリビニルピロリドン(PVP)、セルロース誘導体、グリセリンなどのような増粘剤または粘滑剤を含有し得る。使用される場合、このような増粘剤または粘滑剤は、合計で約0.01w/v%から約5.0w/v%の範囲の量で使用され得る。最終処方物の粘度は、任意の適切なレベルに調節され、例えば、粘度は10cpsから50cpsの範囲であり得る。
【0052】
一般的に、本発明によって使用される水溶性の眼科用溶液は、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences、14版、Mack Publishing Companyの83章に記載の手順に準じて処方され得る。
【0053】
本明細書に記載された組成物は、眼病、特に緑内障および高眼圧症のような状態の治療に使用され得る。さらに、記載された組成物は、必要であり得るような任意の薬学的に受容可能な添加キャリアまたはアジュバントと組み合わせられ得、そして医薬に組み込まれ得る。このような手順および成分は、当業者に公知である。したがって、本発明は、眼病(特に、哺乳動物、好ましくはヒトの患者の)を治療するための医薬の製造における本発明の組成物の使用を提供する。このような医薬は、緑内障および高眼圧症の治療に特に有用である。
【0054】
本発明はまた、プロスタグランジンまたはその薬学的に受容可能な塩またはエステルを含有する組成物の化学安定性を高める方法を提供する。本発明の方法では、ポリエトキシ化されたソルビトールのアルカン酸エステル(ポリソルベート)が、プロスタグランジンの化学安定性を高めるために効果的な量で、プロスタグランジン含有組成物に添加される。このような組成物は、天然のPGA、PGB、PGC、PGD、PGE、PGF、またはPGJプロスタグランジンの群から選択される1以上のプロスタグランジンを含有し得;あるいは天然または合成のその誘導体または類似体から選択され得る。特に好ましいプロスタグランジンとしては、PGF系列のプロスタグランジンならびにその類似体および誘導体が挙げられる。例えば、好ましいプロスタグランジンとしては、トラボプロスト、ラタノプロスト、およびビマトプロストが挙げられ;最も好ましいプロスタグランジン誘導体は、式(II)の(Z)−7−[(1R,2R,3R,5S)−3,5−ジヒドロキシ−2−[(1E,3R)−3−ヒドロキシ−4−[(α,α,α−トリフルオロ−m−トリル)オキシ]−1−ブテニル]シクロペンチル]−5−ヘプテノエート(すなわち、トラボプロスト)である。
【0055】
本発明を、以下の実施例により、さらに説明する。
【実施例】
【0056】
(実施例1)
プロスタグランジン含有組成物におけるポリソルベートの化学安定効果を評価するために、比較研究を行った。
【0057】
6種類の異なる処方物(F1からF6)を以下の表(表1)に示した処方に準じて製造した。すべての場合において、まず、トラボプロストを、水、塩化ベンザルコニウム(BAK)、および界面活性剤(例えば、ポリソルベート80、チロキサポール、およびクレモホールRH40)の混合物に溶解することによって、処方物を作製した。最終的に、残りの成分を、得られたトラボプロスト含有溶液に添加した。全ての処方物のプラセボを、プロスタグランジンを添加せずに調製した。
【0058】
次いで、組成物(F1からF6)を、5℃、25℃、40℃、55℃、および75℃の種々の一定温度下でインキュベートし、0、1、3、7、14、および21日の時点で、活性/効力および不純物の割合について評価した(表2および3を参照のこと)。
【0059】
トラボプロスト処方物の相対的効力/活性を、上記の各時点で試験した。出発活性に相対的に標準化した結果を表2に示す。
【0060】
これらの結果は、F2の組成物(界面活性剤としてポリソルベート80を含有)が、市販の処方物(F6)および市販の製品の仕様書に準じて社内で作製した組成物(F4)と非常によく似た化学安定性を有したことを示す。実際、75℃の温度における21日後に、ポリソルベートを含有する組成物(F2)は、現に、市販の製品(F6、活性/効力42%)に対して相対的に、より優れた活性/効力(97%)を示した。75℃における21日後には、エタノールを0.4w/v%で添加しておいた市販の処方物(F5)もまた、市販の製品自体(F6、活性/効力42%)より優れた活性/効力(97%)を示した。
【0061】
各組成物中のプロスタグランジン成分(トラボプロスト)の化学的分解の程度を、一次分解生成物である遊離酸化合物の割合を測定するHPLC分析を使用して計算した。この分析の結果(5試料の平均として表す)を表3に示す。
【0062】
この結果は、界面活性剤および安定化剤としてポリソルベート80を含有する組成物(F2)が、55℃および75℃で、市販の調製物(F6)(これは、界面活性剤および安定化剤としてポリエトキシ化されたヒマシ油(すなわち、クレモホール)を含有する)より化学的分解を受けにくいことを示す。エタノールを0.4w/v%添加しておいた市販の組成物(F5)もまた、市販の調製物(F6)より化学的に安定であると思われる。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

【0065】
【表3】

【0066】
(実施例2)
実施例1の組成物F2、F4、F5、およびF6を、40℃および55℃のインキュベーション温度でのよりさらなる分析のために選択した。各時点(0、7、14、21、32、49、61、および100日)において、試料を実施例1と同様に分析のために採取した。したがって、各トラボプロスト組成物の相対的効力/活性を測定し、そしてトラボプロストの分解生成物から生じる不純物の割合をHPLC分析によって評価した。これらの研究の結果を表4に示す。表5から8は、組成物F2、F4、F5、およびF6それぞれのHPLC分析の結果のより詳細な概要を与える。
【0067】
これらの結果は、ポリソルベート80を含有する組成物(F2)は、界面活性剤としてポリエトキシ化されたヒマシ油を含有する組成物(F4、F5、およびF6)と同じくらい化学的に安定であることを示す。したがって、ポリソルベートが、眼科用処方物のような組成物中のプロスタグランジンの安定化に効果的であり得ることが明白に示されている。
【0068】
【表4】

【0069】
【表5】

【0070】
【表6】

【0071】
【表7】

【0072】
【表8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)0.001〜0.005w/v%の濃度のトラボプロスト;
(b)0.3〜0.7w/v%の濃度のポリエトキシ化されたソルビトールのモノオレエートエステル;および
(c)薬学的に受容可能なキャリアを含有する薬学的組成物。
【請求項2】
前記ポリエトキシ化されたソルビトールのモノオレエートエステルが、0.5w/v%の濃度で存在する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記トラボプロストが、0.004w/v%の濃度で存在する、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
0.002〜0.005w/v%のトラボプロスト
0.4〜0.6w/v%のポリソルベート80
0.010〜0.020w/v%の塩化ベンザルコニウム
0.05〜0.2w/v%のEDTA
0.1〜0.4w/v%のホウ酸
0.08〜0.2w/v%のトロメタミン
2.0〜8.0w/v%のマンニトールを含有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
0.004w/v%のトラボプロスト
0.5w/v%のポリソルベート80
0.015w/v%の塩化ベンザルコニウム
0.1w/v%のEDTA
0.3w/v%のホウ酸
0.12w/v%のトロメタミン
4.6w/v%のマンニトールを含有する、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物が、5.0から7.5の範囲のpHを有する、請求項1から5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
前記pHが、約6.0である、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
局所適用のための、請求項1から7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
眼病の治療における使用のための、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
高眼圧症の治療における使用のための、請求項8に記載の組成物。
【請求項11】
緑内障の治療における使用のための、請求項8に記載の組成物。
【請求項12】
哺乳動物の眼病を治療するための医薬の製造における、請求項1から8のいずれかの項に記載の組成物の使用。
【請求項13】
前記眼病が、高眼圧症である、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
前記眼病が、緑内障である、請求項12に記載の使用。
【請求項15】
前記哺乳動物が、ヒトである、請求項12から14のいずれかの項に記載の使用。
【請求項16】
0.001〜0.005w/v%の濃度のトラボプロストまたはその薬学的に受容可能な塩またはエステルを含有する組成物の化学安定性を高める方法であって、該方法が、0.3〜0.7w/v%の濃度のポリエトキシ化されたソルビトールのモノオレエートエステルを、該組成物に添加する工程を包含する、方法。
【請求項17】
前記ポリエトキシ化されたソルビトールのモノオレエートエステルが、0.5w/v%の濃度で存在する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記プロスタグランジンが、0.004w/v%の濃度で存在する、請求項16または17に記載の方法。

【公開番号】特開2013−56948(P2013−56948A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−286362(P2012−286362)
【出願日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【分割の表示】特願2007−552216(P2007−552216)の分割
【原出願日】平成18年1月18日(2006.1.18)
【出願人】(503183455)ブレス リミテッド (11)
【Fターム(参考)】