説明

安定なペプチドの製剤

【課題】 グルカゴン様ペプチドを含む薬学的製剤の保存寿命を増大するための方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬学的製剤の分野に関する。より詳細には、本発明は、可溶性かつ安定な薬学的製剤に属する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
治療的ペプチドは、医療実務において広く使用されている。このような治療的ペプチドの薬学的組成物は、一般に使用するために適するように数年の貯蔵寿命を有することが必要とされる。しかし、ペプチド組成物は、化学的および物理的な分解に対して感受性であるために、本質的に不安定である。化学的分解は、酸化、加水分解、ラセミ化、または架橋などの共有結合の変化を含む。物理的分解は、ペプチドの天然の構造と比較した配座変化を含み、これにより、表面への凝集、沈澱、または吸着を生じるかもしれない。
【0003】
グルカゴンは、糖尿病の範囲内の医療実務において何十年も使用されており、いくつかのグルカゴン様ペプチドが、種々の治療適応症に対して開発されている。プレプロ・グルカゴン遺伝子は、グルカゴン、並びにグルカゴン様ペプチド1(GLP-1)およびグルカゴン様ペプチド2(GLP-2)をコードする。2型糖尿病の範囲内の高血糖の治療のために、GLP-1類似体および誘導体、並びに相同的トカゲ・ペプチド、exendin-4が開発されている。GLP-2は、胃腸疾患の治療において潜在的に有用である。しかし、29-39アミノ酸を包含する全てのこれらのペプチドは、高度な相同性を有し、これらはいくつかの性質、特にこれらの、凝集して不溶性原繊維を形成する傾向を共有する。この性質は、主なαヘリックス高次構造からβシート/βプリーツへの移行を包含するようである(Blundell T.L. (1983) The conformation of glucagon. In: Lefebvre P.J. (Ed) Glucagon I. Springer Verlag, pp 37-55, Senderoff R.I. et al., J. Pharm. Sci. 87 (1998)183-189, WO 01/55213)。グルカゴン様ペプチドの凝集は、ペプチドの溶液が撹拌されるか、または振盪されたときに、溶液相と気相(空気)の間の界面で、およびテフロン(登録商標)などの疎水性表面との接触時に、主に見られる。
【0004】
従って、グルカゴン様ペプチドの薬学的組成物に対して、これらの安定性を改善するためには、種々の賦形剤を添加しなければならないことが多い。これらのペプチドの液体非経口的製剤の貯蔵寿命は、少なくとも1年、好ましくはより長くなくてはならない。製品が輸送され、外界温度で毎日振られる可能性のある使用期間は、好ましくは数週間であるべきである。従って、安定性の改善されたグルカゴン様ペプチドの薬学的組成物の必要がある。
【0005】
本発明者らは、製剤が塩および緩衝液の低濃度を含んでいるときに、グルカゴン様ペプチドの可溶性薬学的製剤が増大した安定性を示すことを予想外に見いだした。
【発明の開示】
【0006】
定義
以下は、本明細書に使用される用語の詳細な定義である。
【0007】
本明細書において製剤に関して使用される「可溶性」という用語は、実質的に全ての活性成分が可溶性形態である液状製剤を意味する。したがって、可溶性製剤は、典型的には光学的に透明である。
【0008】
本明細書において製剤に関して使用される「貯蔵(shelf)安定」という用語は、製剤がその有効期限まで、その企図された医療用途のために適したままであることを意味する。非経口的液状製剤は、典型的には、製品が医師および患者に到達する前の配送および備蓄のために、長い保存寿命を有さなければならない。典型的には、ペプチドの液体非経口的製剤の保存寿命は、製品を保持するための定められた条件で1年を超え、5年などの3年を超える。
【0009】
本明細書に使用される「緩衝液」という用語は、時間とともにpHが変化するのを防止するために製剤に添加された化学物質を意味する。
【0010】
本明細書に使用される「塩」という用語は、金属塩と酸の反応によって、水と共に形成された化合物を意味する。
【0011】
本明細書に使用される「有効な量」という用語は、治療なしと比較して、患者の治療のために有効であるのに十分である用量を意味する。
【0012】
本明細書に使用される「治療的に有効な濃度」という用語は、当該技術分野において典型的である、治療を有効にする薬学的製剤の適用量の濃度、たとえば5mL、1mL、または500μl未満を意味する。
【0013】
本明細書に使用される「疾患の治療」という用語は、疾患、症状、または障害を発症した患者の管理および看護を意味する。治療の目的は、疾患、症状、または障害と戦うことである。治療は、疾患、症状、または障害を除去または制御するために、並びに疾患、症状、または障害と関係する症状または合併症を軽減するために活性化合物を投与することを含む。
【0014】
本明細書に使用される「グルカゴン様ペプチド」(GLP)という用語は、プレプロ・グルカゴン遺伝子、exendinsに由来する相同的ペプチド、グルカゴン様ペプチド1(GLP-1)、グルカゴン様ペプチド2(GLP-2)、並びにこれらの類似体および誘導体をいう。アメリカドクトカゲにおいて見いだされるexendinsは、GLP-1に相同的で、更にインシュリン分泌性効果を及ぼす。exendinsの例は、exendin-4およびexendin-3である。
【0015】
グルカゴン様ペプチドは、以下の配列(配列番号:1〜6)を有する:
1 5 10 15 20 25 30 35
GLP-1 HAEGT FTSDV SSYLE GQAAK EFIAW LVKGR G
GLP-2 HADGS FSDEM NTILD NLAAR DFINW LIQTK ITD
Exendin-4 HGEGT FTSDL SKQME EEAVR LFIEW LKNGG PSSGA PPPS-NH2
Exendin-3 HSDGT FTSDL SKQME EEAVR LFIEW LKNGG PSSGA PPPS-NH2
本明細書に使用される「類似体」という用語は、ペプチドの1つまたは複数のアミノ酸残基が、その他のアミノ酸残基によって置換されたか、および/または1つまたは複数のアミノ酸残基がペプチドから欠失されたか、および/または1つまたは複数のアミノ酸残基がペプチドから欠失され、または1つまたは複数のアミノ酸残基がペプチド付加された、修飾されたペプチドを意味するペプチドをいう。アミノ酸残基のこのような付加または欠失は、ペプチドのN末端におよび/またはペプチドのC末端に生じることができる。類似体を記載するために、たいてい2つの異なった、単純な系が使用される:たとえば、Arg34-GLP-1(7-37)またはK34R-GLP-1(7-37)は、GLP-1類似体であって、アミノ酸残基が欠失し、かつ位置34に天然に存在するリジンが、アルギニンで置換されたものを示す(IUPAC-IUB 命名法に従って使用されるアミノ酸のための標準的な一文字略語)。
【0016】
本明細書に使用される「誘導体」という用語は、親ペプチドに関して、化学的に修飾された親タンパク質またはこれらの類似体であって、少なくとも1つの置換基が、親タンパク質またはこれらの類似体に存在しないもの、すなわち共有結合性に修飾された親タンパク質を意味する。典型的な修飾は、アミド、炭水化物、アルキル基、アシル基、エステル、ペグ化(pegylations)などである。GLP-1(7〜37)の誘導体の例は、Arg34,Lys26(Nε-(γ-Glu(Nα-ヘキサデカノイル)))-GLP-1(7-37)である。
【0017】
本明細書に使用される「GLP-1ペプチド」という用語は、GLP-1(7-37)、GLP-1の類似体、GLP-1の誘導体、またはGLP-1類似体の誘導体を意味する。
【0018】
本明細書に使用される「GLP-2ペプチド」という用語は、GLP-2(1-33)、GLP-2の類似体、GLP-2の誘導体、またはGLP-2類似体の誘導体を意味する。
【0019】
本明細書に使用される「exendin-4ペプチド」という用語は、exendin-4(1-39)、exendin-4類似体、exendin-4誘導体またはexendin-4類似体の誘導体を意味する。
【0020】
本明細書に使用される「安定なexendin-4化合物」という用語は、ヒトにおいて少なくとも10時間のインビボ血漿除去半減期を示す化学的に修飾されたexendin-4(1-39)、すなわち類似体または誘導体を意味する。ヒトにおいてexendin-4化合物の血漿除去半減期を決定するための方法は:化合物を等張性緩衝液、pH 7.4、PBS、または他の任意の適切な緩衝液に溶解する。投与量を末梢に、好ましくは腹部または上大腿に注射する。活性化合物を決定するための血液試料を頻繁な間隔で、かつ末端排除部分(たとえば、投与前、投与後1、2、3、4、5、6、7、8、10、12、24(2日)、36(2日)、48(3日)、60(3日)、72(4日)および84(4日)時間)をカバーする十分な期間採取する。活性化合物の濃度の決定は、Wilken et al., Diabetologia 43(51):A143, 2000に記載されたように行われる。導き出される薬物動態学的パラメーターは、商業的に入手可能なソフトウェアWinNonlin Version 2.1 (Pharsight, Cary, NC, USA)を使用して非区画法(non-compartmental methods)を用いて個々の被検者についての濃縮時間データから算出される。末端排出速度定数は、濃度-時間曲線の末端対数-一次部分に対する対数-一次回帰によって推定され、排出半減期を算出するために使用される。
【0021】
本明細書に使用される「DPP-IV保護されたexendin-4化合物」という用語は、化学的に修飾されて前記化合物を血漿ペプチダーゼジペプチジルアミノペプチダーゼ-4(DPP-IV)に対して耐性にするexendin-4化合物を意味する。
【0022】
本明細書に使用される「免疫調節されたexendin-4化合物」という用語は、exendin-4(1-39)と比較して、ヒトにおいて減少した免疫応答を有するexendin-4(1-39)の類似体または誘導体であるexendin-4化合物を意味する。免疫応答を評価するための方法は、患者を4週治療後、exendin-4化合物に対して反応性の抗体量を測定することである。
【0023】
本明細書に使用される「等電点」という用語は、ペプチドなどの巨大分子の全体の実効電荷がゼロである、すなわちすなわち負電荷の数、陽電荷の数と釣り合っているpH値を意味する。ポリペプチドには、多くの荷電した基があってもよく、等電点において、全てのこれらの電荷の合計がゼロである。等電点以上のpHでは、ポリペプチドの全体の総電荷はネガティブであるが、等電点以下のpH値では、ポリペプチドの全体の総電荷は、ポジティブである。ペプチドの等電点は、等電点電気泳動よって決定してもよく、またはこれは、当技術分野において公知の計算アルゴリズムによってペプチドの配列から推定してもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の詳細
第1の側面において、本発明は、グルカゴン様ペプチドの治療的に有効な濃度、薬学的に許容される保存剤、薬学的に許容される緊張度モディファイアー、任意に薬学的に許容される緩衝液を含み、pHが約7.0〜〜約8.0の範囲である可溶性かつ貯蔵(shelf)安定な薬学的製剤であって、塩の含量が、約5mM未満、好ましくは約2mM未満、さらにより好ましくは約1mM未満であることを特徴とする可溶性かつ貯蔵安定な薬学的製剤に関する。
【0025】
もう一つの局面において、本発明は、グルカゴン様ペプチドの治療的に有効な濃度、薬学的に許容される保存剤、薬学的に許容される緊張度モディファイアーを含み、pHが約7.0〜〜約8.0の範囲である可溶性かつ貯蔵-安定な薬学的製剤であって、緩衝液が存在しないか、または低濃度の緩衝液が存在することを特徴とする可溶性かつ貯蔵安定な薬学的製剤に関する。
【0026】
本発明の1つの態様において、緩衝液が製剤中に存在しない。
【0027】
本発明のもう一つの態様において、実質的に緩衝液が製剤中に存在しない。
【0028】
本発明のもう一つの態様において、低濃度の緩衝液が製剤中に存在する。
【0029】
本発明のもう一つの態様において、製剤中の緩衝液の濃度は、約8mM未満、約6mM未満、または約4mM未満である。
【0030】
本発明のもう一つの態様において、緩衝液は、亜リン酸を含まない。
【0031】
本発明のもう一つの態様において、緩衝液は、双性イオンである。
【0032】
本発明のもう一つの態様において、緩衝液は、グリシルグリシンである。
【0033】
本発明のもう一つの態様において、緩衝液は、HEPES、MOBS、MOPS、およびTESからなる群より選択される。
【0034】
本発明のもう一つの態様において、緩衝液は、ヒスチジンまたはbicineである。
【0035】
本発明のもう一つの態様において、緊張度モディファイアーは、塩でない。
【0036】
本発明のもう一つの態様において、緊張度モディファイアーは、グリセロール、マンニトール、およびジメチルスルホンからなる群より選択される。
【0037】
本発明のもう一つの態様において、製剤は、約7.4〜約8.0範囲のpHを有する。
【0038】
本発明のもう一つの態様において、製剤は、約7.6〜約7.9範囲のpHを有する。
【0039】
本発明のもう一つの態様において、前記グルカゴン様ペプチドの等電点は、3.0〜7.0、好ましくは4.0〜6.0である。
【0040】
本発明のもう一つの態様において、グルカゴン様ペプチドは、GLP-1、GLP-1類似体、GLP-1の誘導体、またはGLP-1類似体の誘導体である。
【0041】
本発明のもう一つの態様において、Arg34-GLP-1(7-37)、Gly8-GLP-1(7-36)-アミド、Gly8-GLP-1(7-37)、Val8-GLP-1(7-36)-アミド、Val8-GLP-1(7-37)、Val8Asp22-GLP-1(7-36)-アミド、Val8Asp22-GLP-1(7-37)、Val8Glu22-GLP-1(7-36)-アミド、Val8Glu22-GLP-1(7-37)、Val8Lys22-GLP-1(7-36)-アミド、Val8Lys22-GLP-1(7-37)、Val8Arg22-GLP-1(7-36)-アミド、Val8Arg22-GLP-1(7-37)、Val8His22-GLP-1(7-36)-アミド、Val8His22-GLP-1(7-37)、Val8Trp19Glu22-GLP-1(7-37)、Val8Glu22Val25-GLP-1(7-37)、Val8Tyr16Glu22-GLP-1(7-37)、Val8Trp16Glu22-GLP-1(7-37)、Val8Leu16Glu22-GLP-1(7-37)、Val8Tyr18Glu22-GLP-1(7-37)、Val8Glu22His37-GLP-1(7-37)、Val8Glu22Ile33-GLP-1(7-37)、Val8Trp16Glu22Val25Ile33-GLP-1(7-37)、Val8Trp16Glu22Ile33-GLP-1(7-37)、Val8Glu22Val25Ile33-GLP-1(7-37)、Val8Trp16Glu22Val25-GLP-1(7-37)、およびこれらの類似体からなる群より選択される。
【0042】
本発明のもう一つの態様において、GLP-1類似体の誘導体は、Arg34,Lys26(Nε-(γ-Glu(Nα-ヘキサデカノイル)))-GLP-1(7-37)である。
【0043】
本発明のもう一つの態様において、グルカゴン様ペプチドは、GLP-1、GLP-1類似体、GLP-1の誘導体、またはGLP-1類似体の誘導体であり、また薬学的組成物中のグルカゴン様ペプチドの濃度は、1mg/mlより高い、好ましくは2mg/mlより高い、より好ましくは3mg/mlより高い、さらに好ましくは5mg/mlより高い。
【0044】
本発明のもう一つの態様において、薬学的組成物のグルカゴン様ペプチドの濃度が、約1mg/ml〜約25mg/mlの範囲、好ましくは約2mg/ml〜約15mg/mlの範囲ら、より好ましくは約3mg/ml〜約10mg/mlの範囲、さらに好ましくは約5mg/ml〜約8mg/mlの範囲である。
【0045】
本発明のもう一つの態様において、グルカゴン様ペプチドは、exendin-4、exendin-4類似体、exendin-4の誘導体、またはexendin-4類似体の誘導体である。
【0046】
本発明のもう一つの態様において、ペプチドは、exendin-4である。
【0047】
本発明のもう一つの態様において、ペプチドは、安定なexendin-4化合物である。
【0048】
本発明のもう一つの態様において、ペプチドは、DPP-IV保されたexendin-4化合物である。
【0049】
もう一つの態様において本発明の中で、ペプチドは、免疫調節されたexendin-4化合物である。
【0050】
本発明のもう一つの態様において、ペプチドは、ZP10、すなわちHGEGTFTSDLSKQMEEEAVRLFIEWLKNGGPSSGAPPSKKKKKK-NH2である。
【0051】
本発明のもう一つの態様において、薬学的組成物中のグルカゴン様ペプチドの濃度は、約5μg/mL〜約10mg/mL、約5μg/mL〜約5mg/mL、約5μg/mL〜約5mg/mL、約0.1mg/mL〜約3mg/mL、または約0.2mg/mL〜約1mg/mLである。
【0052】
本発明のもう一つの態様において、グルカゴン様ペプチドは、GLP-2、GLP-2類似体、GLP-2の誘導体またはGLP-2類似体の誘導体である。
【0053】
本発明のもう一つの態様において、グルカゴン様ペプチドは、Gly2-GLP-2(1-33)である。
【0054】
本発明のもう一つの態様において、GLP-2の誘導体またはGLP-2類似体の誘導体は、1つのリジンなどのリジン残基を有し、かつ親油性置換基が、任意にスペーサーを介して前記リジンのイプシロンアミノ基に付着されている。
【0055】
本発明のもう一つの態様において、GLP-2類似体のGLP-2または該誘導体の誘導体は、アシル化されたGLP-2化合物である。
【0056】
本発明のもう一つの態様において、GLP-2類似体の誘導体は、Arg30,Lys17(Nε-(1-プロピル-3-アミノ-ヘキサデカノイル))GLP-2(1-33)である。
【0057】
本発明のもう一つの態様において、グルカゴン様ペプチドは、GLP-2、GLP-2類似体、GLP-2の誘導体またはGLP-2類似体の誘導体であり、薬学的組成物中のグルカゴン様ペプチドの濃度は、0.1mg/mL〜100mg/mL、0.1mg/mL〜25mg/mL、または1mg/mL〜25mg/mLである。
【0058】
本発明のもう一つの態様において、保存剤は、フェノール、m-クレゾール、p−オキシ安息香酸メチル、プロピルp-ヒドロキシベンゾアート、2-フェノキシエタノール、ブチルp-ヒドロキシベンゾアート、2‐フェニルエタノール、ベンジルアルコール、クロロブタノール、およびチオメルサール、またはこれらの混合物から選択される。
【0059】
もう一つの局面において、本発明は、薬学的組成物の調製のための方法であって、GLP化合物を溶解し、保存剤および緊張度モディファイアーを混合することを含む方法に関する。
【0060】
もう一つの局面において、本発明は、約7.4〜約8.0の間のpHを有する薬学的製剤であって、前記組成物は、グルカゴン様ペプチドおよび少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤を含み、前記組成物は、本明細書に記載されたとおりのチオフラビンTアッセイ法において貯蔵安定と測定され、40℃における試料のインキュベーションの間に20時間〜40時間でチオフラビンT蛍光の3倍未満の増大を示す(それぞれの時点の平均チオフラビンT蛍光に基づく)に関する。
【0061】
もう一つの局面において、本発明は、約7.4〜約8.0の間のpHを有する薬学的製剤であって、前記組成物は、グルカゴン様ペプチドおよび少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤を含み、前記組成物は、本明細書に記載されたとおりのチオフラビンTアッセイ法において貯蔵安定と測定され、同じpHで8mMのホスフェートによって緩衝化された同様の製剤よりも、40時間の組成物の貯蔵後に少ないチオフラビンT蛍光を示すに関する。
【0062】
もう一つの局面において、本発明は、高血糖を治療するための方法であって、このような治療を必要とする哺乳類に対してGLP-1ペプチドを含む薬学的組成物の有効な量を非経口投与することを含む方法に関する。
【0063】
もう一つの局面において、本発明は、肥満、β細胞欠損、IGTまたは異脂肪血症を治療するための方法であって、このような治療を必要とする哺乳類に対してGLP-1ペプチドを含む薬学的組成物の有効な量を非経口投与することを含む方法に関する。
【0064】
もう一つの局面において、本発明は、短腸症候群(short bowels syndrome)の治療のための方法であって、このような治療を必要とする哺乳類に対してGLP-1ペプチドを含む薬学的組成物の有効な量を非経口投与することを含む方法に関する。
【0065】
薬学的組成物における防腐剤、等張性薬、および界面活性物質などの賦形剤の使用は、当業者に周知である。便宜のために、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 19th edition, 1995に対する参照がなされる。
【0066】
親グルカゴン様ペプチドは、ペプチド合成、たとえばt-BocもしくはF-Moc化学、またはその他のよく確立された技術を使用して固相ペプチド合成によって産生することができる。また、親グルカゴン様ペプチドは、ポリペプチドをコードするDNA配列を含み、かつペプチドの発現を可能にする条件下で、適切な栄養培地中でポリペプチドを発現することができる宿主細胞を培養することを含む方法によって産生することができ、その後に生じるペプチドが培養から回収される。
【0067】
細胞を培養するために使用される培地は、適切なサプリメントを含む最小培地または複合培地などの宿主細胞を栽培するために適した任意の従来の培地であってもよい。適切な培地は、商業的な供給元から入手可能であるか、または発行された処方(たとえばATCCのカタログのもの)に従って調製してもよい。次いで、細胞によって産生されるペプチドは、問題のペプチドのタイプに応じて、遠心分離または濾過によって宿主細胞を培地から分離すること、塩、たとえば硫酸アンモニウム手段による上清または濾液のタンパク質成分を沈殿させること、種々のクロマトグラフィー手順、たとえばイオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等による精製を含む従来の手順によって、培地から回収してもよい。
【0068】
親ペプチドをコードするDNA配列は、たとえばゲノムまたはcDNAライブラリーを調製すること、および標準的な技術に従って合成オリゴヌクレオチド・プローブを使用するハイブリダイゼーションによってペプチドの全部または一部をコードするDNA配列をスクリーニングすることによって得られる、ゲノムまたはcDNA起源のものが適していてもよい(たとえばSambrook, J, Fritsch, EF and Maniatis, T, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York, 1989を参照されたい)。ペプチドをコードするDNA配列は、確立された標準的な方法、たとえばBeaucage and Caruthers, Tetrahedron Letters 22 (1981), 1859-1869によって記載されているホスホアミダイト法(phosphoamidite)、またはMatthes et al., EMBO Journal 3 (1984), 801 - 805によって記載されている方法によって総合的にまた調製してもよい。また、DNA配列は、たとえば米国特許第683,202号またはSaiki et al., Science 239 (1988), 487 - 491に記載したとおりに、特異的なプライマーを使用するポリメラーゼ連鎖反応によって調製してもよい。
【0069】
DNA配列は、組換えDNA法に都合よく供されるであろう任意のベクターに挿入してもよく、ベクターの選択は、それが導入される宿主細胞に依存することが多い。従って、ベクターは、独立して複製するベクター、すなわちその複製が染色体複製から独立している染色体外の実体として存在するベクター、例えばプラスミドであってもよい。あるいは、ベクターは、宿主細胞に導入されたときに、宿主細胞ゲノムに組み込まれて、これが組み込まれた染色体と共に複製されるものであってもよい。
【0070】
ベクターは、好ましくは、ペプチドをコードするDNA配列が、DNAの転写のために必要とされるさらなるセグメント、例えばプロモーターに作動可能に連結された発現ベクターであるプロモーターは、選択の宿主細胞において転写活性を示す任意のDNA配列であってもよく、宿主細胞に同種または異種のタンパク質をコードする遺伝子に由来してもよい。種々の宿主細胞において本発明のペプチドをコードするDNAの転写を指揮するための適切なプロモーターの例は、当該技術分野において周知である(例えば、Sambrook et al.前記を参されたい)。
【0071】
また、ペプチドをコードするDNA配列は、必要に応じて適切なターミネーター、ポリアデニル化シグナル、転写エンハンサー配列、および翻訳エンハンサー配列に作動可能に接続されていてもよい。本発明の組換えベクターは、ベクターが問題の宿主細胞において複製することを可能にするDNA配列をさらに含んでもよい。
【0072】
また、ベクターは、選択可能なマーカー、たとえばその産物が宿主細胞における欠陥を補うか、または薬物、たとえばアンピシリン、カナマイシン、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、ネオマイシン、ハイグロマイシン、またはメトトレキセートに対する耐性を与える遺伝子を含んでもよい。
【0073】
本発明の親ペプチドを宿主細胞の分泌経路内に向けるために、分泌シグナル配列(リーダー配列、プレプロ配列、またはプレ配列としても知られる)を組換えベクター内に提供してもよい。分泌シグナル配列は、適切なリーディングフレームにおいてペプチドをコードするDNA配列に連結される。分泌シグナル配列は、一般にペプチドをコードするDNA配列に対して5'に配置されている。分泌シグナル配列は、通常ペプチドと関係していてもよく、または別の分泌タンパク質をコードする遺伝子に由来してもよい。
【0074】
存在するペプチド、プロモーター、および任意にターミネーターおよび/または分泌シグナル配列をコードするDNA配列をそれぞれ結合するために、並びに複製のために必要な情報を含む適切なベクターにこれらを挿入するために使用される手順は、当業者に周知である(例えば、Sambrook et al、前記を参照されたい)。
【0075】
DNA配列または組換えベクターが導入される宿主細胞は、本ペプチドを産生することができる任意の細胞であってもよく、細菌、酵母、真菌、および高等真核細胞を含む。周知および当該技術分野において使用される適切な宿主細胞の例は、大腸菌、酵母、または哺乳類BHKもしくはCHO株化細胞であるが、これらに限定されない。
【0076】
本発明は、以下の実施例によってさらに例示されるが、保護の範囲を限定するものと解釈されない。前述の明細書において、および以下の例において開示される特徴は、両方別々に、およびこれらの任意の組み合わせで、これらの多様な形態の本発明を理解するための材料である。
【実施例】
【0077】
実施例1
ペプチドの低い物理安定度は、アミロイド繊維形成に至可能性があり、これにより、秩序立って、試料中に糸のような巨大分子の構造が観察され、最終的にゲル形成を生じる。これは、伝統的に試料の目視検査によって測定された。しかし、この種の測定は、非常に主観的かつ観察者に依存的である。従って、小分子指標プローブの適用のほうが、ずっと有利である。チオフラビンT(ThT)は、このようなプローブであり、原繊維に結合するときに、異なった蛍光サインを有するNaiki et al. (1989) Anal. Biochem. 177, 244-249; LeVine (1999) Methods. Enzymol. 309, 274-284]。
【0078】
原繊維形成のための時間経過は、以下の数式で、S字形の曲線よって記載することができる [Nielsen et al. (2001) Biochemistry 40, 6036-6046]:
【数1】

式中、Fは、時間tにおけるThT蛍光である(図12を参照されたい)。常数t0は、50%の最大蛍光に達するために必要な時間である。原繊維形成を記載する2つの重要なパラメーターは、t0-2τおよび見かけの速度定数kapp = 1/τによって算出される遅延時間である。
【0079】
部分的に折りたたまれたペプチドの中間体の形成は、原繊維組織形成のための一般的な開始機構であることが示唆される。これらの中間体のいくつかが核を生じて、さらなる中間体を構築し、原繊維形成を進行させ得るテンプレートを形成する。遅延時間は、核の臨界質量が確立される間隔に対応し、見かけの速度定数は、原繊維自体が形成される速度である。
【0080】
インスリン原繊維形成についての提案された機構[Nielsen et al. (2001) Biochemistry 40, 6036-6046]に基づいて、アシル化GLP-1の原繊維形成は、一部分の分子が単量体に解離し、さらに部分的に変性を受けることを必要とすると仮定することができる。溶媒/溶液の物理化学的性質は、アシル化GLP-1分子、すなわちアミロイド繊維形成の開始の原因となる因子の自己構築の程度、並びに柔軟性および部分的変性に影響を及ぼし得る。
【0081】
試料調整
試料は、それぞれのアッセイ法の前に新たに調製した。通常、アシル化GLP-1は、所望の緩衝液または溶媒に6mg/mlに溶解した。試料のpHは、濃NaOHおよびHClO4の適切な量を使用して、目標値に合わせた。チオフラビンTは、1mMの水溶液の原液から5μMの終濃度で試料に添加した。
【0082】
100μlの試料の一定分量を96ウェル・マイクロタイタープレート(Packard OptiPlat(商標)96, white polystyrene)に配置した。通常、それぞれの試料(1つの試験条件に対応する)の8個の複製をウェルの1つの列に配置した。プレートは、Scotch Pad (Qiagen)で封着した。
【0083】
インキュベーションおよび蛍光測定
所与の温度でのインキュベーション、振盪、およびThT蛍光発光の測定は、Fluoroskan Ascent FL蛍光プレートリーダー(Thermo Labsystems)内で行った。温度設定は、45℃まで可能であるが、通常40℃でセットした。回転(orbital)振盪は、1200rpmまで選択可能であるが、全ての示されたデータにおいて1mmの振幅で960rpmに調整した。蛍光測定は、444nmフィルターを介した励起および485nmフィルターを介した発光の測定を使用して行った。
【0084】
それぞれの実行は、アッセイ温度でプレートを10分間インキュベートすることによって開始した。プレートは、典型的には45時間、それぞれの時間測定した。それぞれの測定の間に、プレートを調整したとおりに振盪し加熱した。
【0085】
データ処理
測定点は、さらなるプロセシングおよび曲線作製のために、Microsoft Excel形式で保存し、フィッティングは、GraphPad Prismを使用して行った。原繊維の非存在下でのThTからのバックグラウンド発光は、ごくわずかであった。データポイントは、典型的には8つの試料の平均であり、標準偏差エラー・バーと共に示してある。同じ実験(すなわち、同じプレートでの試料)において得られたデータだけを同じグラフに示して、実験間の原繊維形成の相対的基準を保証してある。
【0086】
データセットは、式(1)にフィットしてもよい。しかし、この場合の完全なS字曲線は、通常測定時間の間に達成されないので、原繊維形成の程度は、8つの試料の平均として算出した20および40時間でのThT蛍光として表してあり、標準偏差と共に示してある。
【0087】
アシル化GLP-1の物理安定度に対する溶媒および緩衝液の効果についての実施例
アシル化GLP-1をリン酸緩衝液以外の水に溶解するときは、図1(アシル化GLP-1の水溶液)を図2(アシル化GLP-1の8mMのリン酸緩衝液、これらの2つの図は、同じ実験からのデータを示す)と比較して、驚くほどの物理安定度の有意な増大が観察される。全ての実施例における一般的な傾向は、区間pH8.2からpH 7.5にpHを低下させると、原繊維形成遅延時間がより短くなる。pH8.14またはpH7.85に合わせた水溶液中でアシル化GLP-1を45時間のインキュベートした後では、有意な原繊維形成が観察されない。8mMのホスフェートの存在下では、pH8.15ですでに原繊維形成が観察される。物理的安定度は、リン酸緩衝液と比較して、常に所与のpHの水で優れている。pH7.7に合わせた水を使用すると、8mMのリン酸pH8.15で達成されるものと同じ物理的安定度を生じ、pH7.53の水では、物理安定度が8mMのリン酸pH7.88に相当する。
【0088】
所与のpHにおいてリン酸濃度を低下させると、原繊維形成に向かう傾向があまり観察されない。図3では、リン酸濃度がpH7.9において8mMリン酸から1mMリン酸まで段階的に低下する。1mMのリン酸緩衝液(pH7.90)では、物理安定度がアシル化GLP-1水溶液の(pH7.90)と同じである
しかし、リン酸イオンの非存在下において水で達成される物理安定度の増大を損なうことなく、いくつかの双性イオン緩衝物質を添加してもよい。10mMのMOPSまたはTESを含むアシル化GLP-1の溶液は、両方とも、8mMのリン酸溶液pH8.14よりもが物理的に安定であり(図4を参照されたい)、10mMのMOBS pH7,9も、水pH7.9と同様の物理安定度を有する(図5を参照されたい)。同様に、HEPESまたはBICINEは、pH7.89の水と比較して有意に原繊維形成を増大することなく、10mMで緩衝液として使用し得る(図6を参照されたい)。水溶液において、これらの2つの緩衝物質のいずれかで緩衝されておらず、または緩衝化されたアシル化されたGLP-1は、全ての例で、8mMリン酸を含む水溶液(pH7.92)におけるよりも有意に物理的に安定である。
【0089】
10mMのHEPESを使用して緩衝化された水溶液は、pHをpH7.9からpH7.51に段階的に低下すると、わずかに物理的に不安定になる(図7を参照されたい)。しかし、これらは、リン酸で緩衝化された溶液よりもまだ安定である(図6を参照されたい)。図7を図2と比較すると、水と同様に、アシル化GLP-1の10mM HEPES溶液pH7.73は、8mMリン酸溶液pH8.15と同程度に物理的に安定である。
【0090】
また、いくつかのアミノ酸は、両性イオン緩衝液として使用してもよい。10mMのHisの添加により、pH7.9の水で得られるものと同じアシル化GLP-1の物理安定度を生じる(図8を参照されたい)。pHを低下させると、10mMのHisに溶解したアシル化GLP-1は、驚くべきことに、わずかに安定度が少なくなるだけであり、pH 7.5において、アシル化GLP-1の10mMのHis溶液は、アシル化GLP-1緩衝されていない水溶液pH7.5よりもずっと物理的に安定である。
【0091】
これに加えて、本発明者らは、添加した緊張度モディファイアーが、電解質/塩であってはならないことを主張する。これは、図9に図示してあり、アシル化GLP-1の水溶液に対する10mMのNaClの添加により、原繊維形成を促進する。この効果は、100mMのNaClを添加するときに、さらに顕著である。しかし、両濃度は、緊張度モディファイアーとしてNaClを使用するときに通常適用される154mMの生理的NaCl濃度よりも非常に低い。
【0092】
核磁気共鳴分析法(NMR)で観察される溶媒および緩衝効果についての実施例
溶液中のタンパク質のプロトンNMR分光法は、溶液中の純粋なタンパク質の構造および動態を研究する強力な技術になる(Wuthrich, K, “NMR of Proteins and Nucleic Acids”, (1986), ISBN 0-471-82893-9)。タンパク質中のそれぞれのプロトン(またはプロトン群)は、タンパク質中のそれぞれのプロトン(またはプロトン群)の近くに化学的および物理的な環境に応じた周波数の共鳴ピークを生じる。タンパク質のNMR分光法の分野の当業者であれば、溶液中での実際の挙動により十分に分解された(当該分野における当業者に周知の)プロトンNMRスペクトルを生じる所与のタンパク質のプロトンNMRスペクトルの共鳴ピークを、タンパク質の特異的なプロトン(またはプロトン群)スペクトルに割り当てることができる。タンパク質NMRスペクトルの共鳴ピークの線幅は、溶液中のタンパク質のサイズおよび動的性状をある程度反映する。
【0093】
pH範囲7.0〜8.2の緩衝液を含む、または含まない1〜30mg/mlの間の濃度のアシル化GLP-1の水溶液は、広範囲に、前述の共鳴割り当てが可能なNMRスペクトルを生じる。したがって、このペプチドのNMRスペクトルのいくつかの共鳴は、ペプチドの特定の原子団に割り当てることができる。前述の条件下で、しかし異なる緩衝物質の溶液で、アシル化GLP-1のNMRスペクトルを記録することにより、異なる緩衝液が適用されることによりアシル化GLP-1が受ける構造的および動力学的変化を直接比較することができる。
【0094】
水性溶液中でのアシル化GLP-1のN末端のヒスチジンのプロトン共鳴は、当該技術分野の当業者によって容易に認識され、これらの変化の共振周波数および線幅の両者は、驚くほど異なる緩衝液またはさらに緩衝液の非存在の影響を受ける。リン酸からトリス、ビシン、ヒスチジン、HEPESに緩衝液を変更すると、N末端ヒスチジンのイミダゾール側鎖のプロトン共鳴が図10に従って変化する。N末端ヒスチジンのイミダゾール側鎖における狭いプロトン共鳴は、N末端ヒスチジンのイミダゾール側鎖におけるより広いプロトン共鳴と比較して(これは、この部分の構造がより強固かつ順序づけられていることを反映する)、溶液中のアシル化GLP-1のN末端部分のより高い程度の構造的柔軟性を反映する。
【0095】
加えて、アシル化GLP-1のグルタミン酸残基9およびグリシン残基10のアミドプロトンは、異なる緩衝液物質または添加物の変化の影響を受ける条件下で、およびさもなければ一定条件下でのこれらの濃度を別々にモニターすることができる。pH7.0〜8.2の範囲のアミドプロトンの交換速度は、特異的なアミドプロトンが溶媒水分子に直接アクセスするのを防ぐ程度を明らかに反映する。図11は、2つの言及したアミドプロトン共鳴が、緩衝液または添加物が変更されると、線幅および強度が変化することを示す。驚くべきことに、しかし8mMリン酸で緩衝化された水溶液中のアシル化GLP-1のNMR範囲のアミドプロトン共鳴のほとんどの消滅は、pH 7.9の緩衝化されていない状況と比較して、非常に顕著である。本発明者らは、緩衝物質のない水溶液では、グルタミン酸残基9のアミドプロトンおよびグリシン残基10のアミドプロトンは、8mMリン酸緩衝液を使用する場合と同様に、溶液中の水分子から比較的保護されていると結論することができる。緩衝化されていない溶液またはHEPES、ビシン、またはヒスチジンで緩衝化された溶液で見いだされるこれらの2つのアミドプロトンのこの比較的ゆっくりとした交換は、アシル化GLP-1のN末端が後者の条件下でより順序づけられていり、強固であることをさらに強調する。
【0096】
GLP-1の大部分のプロトン共鳴は、GLP-1の1分子よりも大きなタンパク質に典型的な線幅を有する。アシル化GLP-1のプロトンNMRスペクトルの深い解釈では、アシル化GLP-1分子のいくつかの、しかし十分に定義され、かつ限定された数の、構築の際に束になるGLP-1分子は、1〜30mg/mlの濃度範囲でほぼ一定である。アシル化GLP-1分子のN末端部分に位置するプロトンに属する前述した共鳴の変化は、種々の緩衝液またはこれらの非存在により、よりきつくアシル化GLP-1分子束を構築する能力によって推論的に説明することができ、したがって緩衝物質または添加物を変化してペプチドのプロトンNMRスペクトルに生じることが観察される変化のさらなる説明を提供する。
【0097】
N末端のアミノ酸の比較的ゆっくりとした、および分子のN末端部分のより厳格なアミドプロトン交換は、別のアシル化GLP-1のpH 7.90水溶液中の一定条件下でのリン酸緩衝液と比較して、緩衝液のない条件下で、またはHEPES、ビシン、ヒスチジン緩衝液をpH 7.9で使用して達成されることが一般にみられる。
【0098】
薬学的製剤の作製についての実施例
化合物(GLP-1をアシル化した)は、所望の濃度に保存剤(フェノール)、等張薬(マンニトール、グリセロール)、および緩衝液(ヒスチジン、ビシン、HEPES、MOPS、MOBS、TES、または緩衝液の非存在)の混合物に溶解した。pHは、水酸化ナトリウムおよび/または塩酸を使用して所定値に合わせた。最後に、0.22マイクロメートル細菌濾過器を介して濾過することによって製剤を滅菌した。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】アシル化GLP-1試料における繊維形成のThT蛍光アッセイ法。試料は、6mg/mlのアシル化されたGLP-1、水に溶解された5μM ThTを含み、定められたpHに合わせた。実験条件は、「実施例」に記載してある。簡潔には、試料を40℃でインキュベートし、Ascent Fluoroskan蛍光プレートリーダー内において960rpmで振盪した。全てのデータポイントは、同じ実験に由来し(すなわち、全ての試料は、同じマイクロタイタープレートに由来する)、また8個の複製の平均であり、エラー・バーとして標準偏差と共に示してある。さらにまた、20および40時間でのこれらの値をそれぞれの試料について評価してある。
【図2】8mMのリン酸緩衝液に溶解し、定められたpH値に合わせたアシル化GLP-1試料における原繊維形成のThT蛍光アッセイ法。他の全ての条件は、図1に記載されているとおり。
【図3】水溶液または種々の濃度のリン酸緩衝液に溶解し、定められたpH値に合わせたアシル化GLP-1試料における原繊維形成のThT蛍光アッセイ法。他の全ての条件は、図1に記載されているとおり。
【図4】種々のpHで種々の緩衝液に溶解したアシル化GLP-1試料における原繊維形成のThT蛍光アッセイ法。他の全ての条件は、図1に記載されているとおり。
【図5】水またはMOBS緩衝液に溶解し、定められたpH値に合わせたアシル化GLP-1試料における原繊維形成のThT蛍光アッセイ法。他の全ての条件は、図1に記載されているとおり。
【図6】種々のpHで水または種々の緩衝液に溶解したアシル化GLP-1試料における原繊維形成のThT蛍光アッセイ法。他の全ての条件は、図1に記載されているとおり。
【図7】種々のpHでHepes緩衝液に溶解したアシル化GLP-1試料における原繊維形成のThT蛍光アッセイ法。他の全ての条件は、図1に記載されているとおり。
【図8】種々のpHで水またはヒスチジン緩衝液に溶解したアシル化GLP-1試料における原繊維形成のThT蛍光アッセイ法。他の全ての条件は、図1に記載されているとおり。
【図9】pH 7.9水において、およびNaClの濃度を増大して溶解されたアシル化GLP-1試料における原繊維形成のThT蛍光アッセイ法。他の全ての条件は、図1に記載されているとおり。
【図10】pH 7.9で異なる添加物をもつアシル化GLP-1のプロトンNMRスペクトル。イミダゾール側鎖のN末端のヒスチジン・シグナルは、約7.80ppmおよび7.00ppmで観察される。線幅および位置は、N末端の柔軟性の減少を反映する。NMR試料は、90%/10%のH2O/D2Oに溶解したpH 7.9の6mg/mlのアシル化GLP-1で調製した。NMRスペクトルは、5mmの試料チューブを使用してVarian Inova 600MHzのNMR計測器を使用して600MHzで記録した。試料体積は、800μlであり、スペクトルは、摂氏(Celcius)27度で測定した。
【図11】図10のものと同じ条件下でのglu-9(8.65ppm)およびgly-10(8.42ppm)のアミドプロトン。より強いアミドプロトン・シグナルは、これらのプロトンが、比較的、構造的に水との交換からより優れた保護がなされていることを反映する。
【図12】原繊維形成に対するThT蛍光の時間依存性の概略図。曲線は、理論的にデータポイントにフィットされた式(1)である。遅延時間の図式の意味およびkappを示してある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルカゴン様ペプチドの治療的に有効な濃度、薬学的に許容される保存剤、薬学的に許容される緊張度モディファイアー、任意に薬学的に許容される緩衝液を含み、pHが約7.0〜約8.0の範囲である可溶性かつ貯蔵(shelf)安定な薬学的製剤であって、塩の含量が、約5mM未満、好ましくは約2mM未満、さらにより好ましくは約1mM未満であることを特徴とする薬学的製剤。
【請求項2】
グルカゴン様ペプチドの治療的に有効な濃度、薬学的に許容される保存剤、薬学的に許容される緊張度モディファイアーを含み、pHが約7.0〜〜約8.0の範囲である可溶性かつ貯蔵安定な薬学的製剤であって、緩衝液が存在しないか、または低濃度の緩衝液が存在することを特徴とする薬学的製剤。
【請求項3】
実質的に緩衝液が存在しない、請求項1〜2のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項4】
低濃度の緩衝液が存在する、請求項1〜2のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項5】
前記緩衝液の濃度が、約8mM未満、約6mM未満、または約4mM未満である、請求項4に記載の製剤。
【請求項6】
前記緩衝液が亜リン酸を含まない、請求項4〜5のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項7】
両性イオン緩衝液を含む、請求項1〜2または4〜6のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項8】
前記緩衝液がグリシルグリシンである、請求項7に記載の製剤。
【請求項9】
前記緩衝液がHEPES、MOBS、MOPS、およびTESからなる群より選択される、請求項5または6に記載の製剤。
【請求項10】
前記緩衝液がヒスチジンまたはbicineである、請求項5〜7のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項11】
前記緊張度モディファイアーが塩でない、前述の請求項のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項12】
前記緊張度モディファイアーがグリセロール、マンニトール、およびジメチルスルホンからなる群より選択される、前述の請求項のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項13】
前記製剤が約7.4〜約8.0の範囲のpHを有する、前述の請求項のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項14】
前記製剤が約7.6〜約7.9の範囲のpHを有する、前述の請求項のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項15】
前記グルカゴン様ペプチドの等電点が、3.0〜7.0、好ましくは4.0〜6.0である、前述の請求項のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項16】
前記グルカゴン様ペプチドがGLP-1、GLP-1類似体、GLP-1の誘導体、またはGLP-1類似体の誘導体である、前述の請求項のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項17】
前記GLP-1類似体が、Arg34-GLP-1(7-37)、Gly8-GLP-1(7-36)-アミド、Gly8-GLP-1(7-37)、Val8-GLP-1(7-36)-アミド、Val8-GLP-1(7-37)、Val8Asp22-GLP-1(7-36)-アミド、Val8Asp22-GLP-1(7-37)、Val8Glu22-GLP-1(7-36)-アミド、Val8Glu22-GLP-1(7-37)、Val8Lys22-GLP-1(7-36)-アミド、Val8Lys22-GLP-1(7-37)、Val8Arg22-GLP-1(7-36)-アミド、Val8Arg22-GLP-1(7-37)、Val8His22-GLP-1(7-36)-アミド、Val8His22-GLP-1(7-37)、Val8Trp19Glu22-GLP-1(7-37)、Val8Glu22Val25-GLP-1(7-37)、Val8Tyr16Glu22-GLP-1(7-37)、Val8Trp16Glu22-GLP-1(7-37)、Val8Leu16Glu22-GLP-1(7-37)、Val8Tyr18Glu22-GLP-1(7-37)、Val8Glu22His37-GLP-1(7-37)、Val8Glu22Ile33-GLP-1(7-37)、Val8Trp16Glu22Val25Ile33-GLP-1(7-37)、Val8Trp16Glu22Ile33-GLP-1(7-37)、Val8Glu22Val25Ile33-GLP-1(7-37)、Val8Trp16Glu22Val25-GLP-1(7-37)、これらの類似体からなる群より選択される、請求項16に記載の製剤。
【請求項18】
前記GLP-1類似体の誘導体が、Arg34,Lys26(Nε-(γ-Glu(Nα-ヘキサデカノイル)))-GLP-1(7-37)である、請求項16に記載の製剤。
【請求項19】
前記薬学的組成物中のグルカゴン様ペプチドの濃度が1mg/mlより高い、好ましくは2mg/mlより高い、より好ましくは3mg/mlより高い、さらに好ましくは5mg/mlより高い、請求項16〜18のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項20】
前記薬学的組成物のグルカゴン様ペプチドの濃度が、約1mg/ml〜約25mg/mlの範囲、好ましくは約2mg/ml〜約15mg/mlの範囲ら、より好ましくは約3mg/ml〜約10mg/mlの範囲、さらに好ましくは約5mg/ml〜約8mg/mlの範囲である、請求項16〜19のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項21】
前記グルカゴン様ペプチドが、exendin-4、exendin-4類似体、exendin-4の誘導体、またはexendin-4類似体の誘導体である、請求項1〜16のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項22】
前記ペプチドがexendin-4である、請求項21に記載の製剤。
【請求項23】
前記ペプチドが安定なexendin-4化合物である、請求項21に記載の製剤。
【請求項24】
前記ペプチドがDPP-IV保護されたexendin-4化合物である請求項21に記載の製剤。
【請求項25】
前記ペプチドが免疫調節されたexendin-4化合物である、請求項21に従って製剤。
【請求項26】
前記ペプチドが、ZP10、すなわちHGEGTFTSDLSKQMEEEAVRLFIEWLKNGGPSSGAPPSKKKKKK-NH2である、請求項21に記載の製剤。
【請求項27】
前記薬学的組成物中のペプチドの濃度が約5μg/mL〜約10mg/mL、約5μg/mL〜約5mg/mL、約5μg/mL〜約5mg/mL、約0.1mg/mL〜約3mg/mL、または約0.2mg/mL〜約1mg/mLである、請求項21〜26のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項28】
前記グルカゴン様ペプチドがGLP-2、GLP-2類似体、GLP-2の誘導体、またはGLP-2類似体の誘導体である、請求項1〜16のいずれか1項に記載の製剤、式中
【請求項29】
前記グルカゴン様ペプチドがGly2-GLP-2(1-33)である、請求項28に記載の製剤。
【請求項30】
前記GLP-2の誘導体またはGLP-2類似体の誘導体が、1つのリジンなどのリジン残基を有し、かつ親油性置換基が、任意にスペーサーを介して前記リジンのイプシロンアミノ基に付着されている、請求項28に記載の製剤。
【請求項31】
前記GLP-2の誘導体または前記GLP-2類似体の誘導体がアシル化されたGLP-2化合物である、請求項28または30のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項32】
前記GLP-2類似体の誘導体が、Arg30,Lys17(Nε-(1-プロピル-3-アミノ-ヘキサデカノイル))GLP-2(1-33)である、請求項28、30〜31のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項33】
前記薬学的組成物中のグルカゴン様ペプチドの濃度は、0.1mg/mL〜100mg/mL、0.1mg/mL〜25mg/mL、または1mg/mL〜25mg/mLである、請求項28〜32のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項34】
前記保存剤がフェノール、m-クレゾール、p−オキシ安息香酸メチル、プロピルp-ヒドロキシベンゾアート、2-フェノキシエタノール、ブチルp-ヒドロキシベンゾアート、2‐フェニルエタノール、ベンジルアルコール、クロロブタノール、およびチオメルサール、またはこれらの混合物から選択される、前述の請求項のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項35】
前述の請求項のいずれか1項に記載の薬学的組成物の調製のための方法であって、前記GLP化合物を溶解し、保存剤および緊張度モディファイアーを混合することを含む方法。
【請求項36】
約7.4〜約8.0の間のpHを有する薬学的製剤であって、前記組成物は、グルカゴン様ペプチドおよび少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤を含み、前記組成物は、本明細書に記載されたとおりのチオフラビンTアッセイ法において貯蔵安定と測定され、40℃における試料のインキュベーションの間に20時間〜40時間でチオフラビンT蛍光の3倍未満の増大を示す(それぞれの時点の平均チオフラビンT蛍光に基づく)薬学的製剤。
【請求項37】
約7.4〜約8.0の間のpHを有する薬学的製剤であって、前記組成物は、グルカゴン様ペプチドおよび少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤を含み、前記組成物は、本明細書に記載されたとおりのチオフラビンTアッセイ法において貯蔵安定と測定され、同じpHで8mMのホスフェートによって緩衝化された同様の製剤よりも、40時間の組成物の貯蔵後に少ないチオフラビンT蛍光を示す薬学的製剤。
【請求項38】
高血糖を治療するための方法であって、このような治療を必要とする哺乳類に対して請求項1〜27および36〜37のいずれか1項に記載の薬学的組成物の有効な量を非経口投与することを含む方法。
【請求項37】
肥満、β細胞欠損、IGTまたは異脂肪血症を治療するための方法であって、このような治療を必要とする哺乳類に対して請求項1〜27および36〜37のいずれか1項に記載の薬学的組成物の有効な量を非経口投与することを含む方法。
【請求項38】
短腸症候群(short bowels syndrome)の治療のための方法であって、このような治療を必要とする哺乳類に、請求項28〜33のいずれか1項に記載の製剤を投与することを含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2007−504178(P2007−504178A)
【公表日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−525045(P2006−525045)
【出願日】平成16年8月31日(2004.8.31)
【国際出願番号】PCT/DK2004/000576
【国際公開番号】WO2005/021022
【国際公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(391032071)ノボ ノルディスク アクティーゼルスカブ (148)
【氏名又は名称原語表記】NOVO NORDISK AKTIE SELSXAB
【Fターム(参考)】