説明

安定なワクチン組成物とその使用方法

組換え防御抗原(rPA)を含む安定な凍結乾燥タンパク質製剤が開示され、この凍結乾燥タンパク質製剤は、適切な希釈剤を用いて再構成され、哺乳類のとりわけヒトにおける炭疽菌感染に対するワクチンとしての使用に適する、高い効力のタンパク質濃度の再構成製剤を形成することができる。この製剤は、トレハロースのような還元糖の存在下でrPAを凍結乾燥することによって調製され、こうした凍結乾燥方法も開示される。得られた凍結乾燥混合物又は組成物は、次いで再構成され、rPAタンパク質の明らかな安定性の低下を生じることなく、高い免疫原性を与える。ワクチン接種における該製剤の使用方法もまた開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広くは、タンパク質貯蔵の分野に関し、より詳しくは、工業的規模の調製後のタンパク質貯蔵の分野に関し、そのタンパク質は、哺乳類、とりわけヒトに投与される目的のワクチン組成物の一部を形成する。
【背景技術】
【0002】
ワクチンは、通常、アジュバントを用いて処方される。一般的なアジュバントの種類は、アルミニウムを主成分とするコロイドであり、一般に、ミョウバン(アルム)と称される。より詳しくは、これらは、通常、水酸化アルミニウム(オキシ水酸化アルミニウム)(アルハイドロゲルとも称される)とリン酸アルミニウム(アジュホスとも称される)である。例えば、炭疽菌(バチルス・アントラシス)などの生命体に対して有用なワクチンは、通常、こうしたワクチン(いわゆる、サブユニットワクチン)に使用される炭疽菌抗原を結合するアルハイドロゲルを用いて処方される。
【0003】
最近、ワクチン療法における進展は、ワクチンに使用する種々のタンパク質の産生を可能にし、例えば、組換えDNA技術を用いた炭疽菌からの組換体防御抗原(rPA)の使用が挙げられる。タンパク質の比較的大きいサイズと複雑な性質のため、一般に、ワクチンにおけるこうしたタンパク質の製剤は、いくつかのユニークな問題を生じる。抗原性活性を維持するためには、タンパク質製剤は、ワクチンにおける基本的抗原構造を示すタンパク質の立体配座完全性を保持しなければならない。タンパク質の分解は、化学的不安定性(例えば、結合生成又は開裂が新たな抗原構造を生じる場合)又は物理的不安定性(例えば、タンパク質の高次構造における変化)を伴うことがある。物理的不安定性は、例えば、ワクチンに存在するタンパク質の変性又は凝集から生じることがあり、一方、化学的不安定性は、タンパク質のアミノ酸鎖を壊す、あるいはタンパク質に存在する1つ又は複数のアミノ酸側鎖(例えば、免疫原性活性に必須な基)の改質に寄与する化学反応から生じることがある。
【0004】
低温下での乾燥(通常「凍結乾燥」と称される)は、タンパク質を保存しながら問題のタンパク質組成物から水を除去する作用をする。このプロセスによって、乾燥されるべき材料は、先ず凍結され、次いで凍結した溶媒(水の場合は氷)が、高真空下の昇華によって除去される。凍結乾燥プロセスの際の安定性を高める及び/又は貯蔵時の凍結乾燥品の安定性を改良するために、凍結乾燥される前の処方に添加剤が含められることがある。不都合なことに、これまでに、こうした方法は、ワクチン、とりわけ炭疽病ワクチンにとって有用な特定の抗原性タンパク質の凍結乾燥と貯蔵に対して信頼性が欠け、凍結乾燥された粉末の安定性が、再構成後の活性の大きな低下をもたらすことが実証されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、タンパク質製剤、とりわけ炭疽菌(バチルス・アントラシス)の組換え保護抗原体(rPA)を含む製剤の凍結乾燥において生じていた従来の問題の少なくとも一部を、凍結乾燥状態における長期間の貯蔵であっても、抗原活性、したがってワクチンとしての有用性を保持する処方を提供することによって解決するものであり、この結果、再構成されたワクチン組成物は、炭疽菌の感染に対し、ヒトなどの哺乳類を保護するにおいて、依然として非常に有用である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの局面において、本発明は、安定な再構成された製剤又はワクチン組成物に関するものであり、この製剤又は組成物は、等張性であってもよく、約50μg/ml〜約400μg/ml、好ましくは、約200μg/mlの量で、ワクチンに使用される抗原又は免疫原、好ましくは、炭疽菌に対するワクチンに使用される炭疽菌抗原、より好ましくは、炭疽菌防御抗原、最も好ましくは、組換え防御抗原(rPA)、及び薬学的に許容される担体を含み、この製剤は、炭疽菌又は他の抗原の凍結乾燥された混合物又は組成物から再構成される。1つの態様において、再構成された製剤は、凍結乾燥された混合物又は組成物の凍結乾燥保護を与える量で、トレハロースなどの成分を含んでもよい。
【0007】
再構成製剤の1つの好ましい態様において、この製剤は、ホスフェートやNaCl又は両方などの塩、ツイーンなどの洗浄剤、及びアルハイドロゲル(ミョウバン)、キトサン、MPL、又はCpGなどのアジュバントを含む。好ましい態様において、アジュバントは、CpG1018又はアルハイドロゲルであり、特に好ましくは、これらの両方である。
【0008】
本発明によるワクチンは、ミョウバンに加えてアジュバントを含んでもよい。このようなアジュバントの例は、当該技術分野でよく知られており、オリゴヌクレオチドが挙げられ、とりわけ、いわゆる「CpG」オリゴヌクレオチド、ホスホロチオエートオリゴヌクレオチドが挙げられ、最も好ましくは、トール様受容体9受容体を標的にするオリゴヌクレオチドである。存在してもよいその他の付加的なアジュバントには、サポニン、PCPPポリマー、リポ多糖類誘導体、MPL[モノホスホリルリピドA]、MDPムラミールジペプチド(MDP)、t−MDP、フラジェリンタンパク質、フラジェリン融合タンパク質、IC31、OM−174、リーシュマニア属伸長因子、ISCOMS、キトサン、SB−AS2、AS02、SB−AS4、非イオン系ブロックコポリマー、及びSAF(シンテックスアジュバンド製剤)が挙げられる。
【0009】
付加的アジュバンドが使用される場合、その付加的アジュバンドは、安定化されたサブユニットワクチンに組み込まれることが好ましいが、あるいは、その付加的アジュバンドは、別個のアジュバンド及び/又は希釈組成物に存在してもよい。
【0010】
特定の態様において、安定なサブユニットワクチンの組成物又は製剤は、保存中の凝集を低減又は防止するための薬剤をさらに含むことができ、この薬剤には、例えば、少量の非イオン系界面活性剤、とりわけエトキシル化ソルビタンエステルが挙げられ、例えば、典型的に約20エチレンオキシ単位を含むポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートである。
【0011】
もう1つの局面において、本発明は、安定な凍結乾燥されたワクチン製剤の調製方法に関するものであり、以下の工程を含む。
(a)rPAを含む炭疽菌抗原と凍結乾燥保護量の還元糖の組成物を形成し、及び
(b)その組成物を凍結乾燥して、安定な凍結乾燥されたワクチン組成物を形成する。
【0012】
好ましい態様において、凍結乾燥された混合物又は組成物は、ホスフェートなどの緩衝剤、NaClなどの塩、ツイーンなどの洗浄剤、及びアルハイドロゲル(ミョウバン)、キトサン、mpl、又はCpGなどのアジュバントをさらに含み、CpG1018とアルハイドロゲルが特に好ましい。
【0013】
1つの態様において、凍結乾燥された組成物は、質量をその凍結乾燥された組成物に与え、凍結乾燥バルク剤の物理的構造に寄与するのに十分な量で添加された増量剤をさらに含む。
【0014】
さらなる局面において、本発明は、rPA、トレハロース、及び薬学的に許容される担体を含む炭疽菌又は他のワクチンの凍結乾燥された混合物又は組成物を保持する容器を含むキット、及び希釈剤を用いて約200μg/mlのrPA濃度に凍結乾燥組成物を再構成する説明書のセットに関する。1つの態様において、希釈剤がキットに備えられる。好ましくは、希釈剤は、アルハイドロゲルなどのアジュバントを含む。
【0015】
また、本発明は、微生物、とりわけ細菌に対して保護する、哺乳類における感染を治療する方法に関するものであり、こうした感染を発現した又は患う恐れのある哺乳類に、本発明のワクチン組成物の治療的有効量を投与することを含む。さらなる態様において、細菌感染は、炭疽菌(バチルス・アントラシス)感染であり及び/又は哺乳類はヒトである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】バチルス・アントラシス(炭疽菌)からの組換え防御抗原(rPA)のアミノ酸配列を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
−定義−
本願における用語「安定な」製剤は、rPAなどの抗原性タンパク質が、凍結乾燥された粉末、固体、又はケーキなどの形態において、貯蔵時にその物理的化学的な安定性と完全性を保持するものをいう。タンパク質の安定性を測定するための分析技術は、当該技術分野で公知であり、本願においては詳しく記載しない。例えば、Peptide and Protein Drug Delivery, 247-301, Vincent Lee Ed., Marcel Dekker, Inc., New York, N.Y., Pubs. (1991)、及びJones, A. Adv. Drug Delivery Rev. 10: 29-90 (1993)を参照されたい。例えば、「安定な」製剤は、タンパク質の約10%未満、好ましくは約5%未満が、その製剤において凝集として存在するものであることができる。別な態様において、凍結乾燥後や凍結乾燥製剤の貯蔵後における凝集製剤の何らかの増加を測定することができる。例えば、「安定な」凍結乾燥製剤は、少なくとも6箇月、好ましくは9箇月、より好ましくは1年、又はそれ以上の少なくとも約16箇月にわたって凍結乾燥製剤が、2〜8℃で貯蔵されたとき、凍結乾燥製剤における凝集の増加が、約5%未満、好ましくは、約3%未満のものであることができる。
【0018】
本願における用語「約」は、言及されている成分の有効性が、10%を超えて実質的に低減することのない量を意味する。用語「約」を用いて量又は範囲が言及される場合、用語「約」が用いられなかった場合と同じ範囲又は量を本発明は具体的に考慮しているものと理解すべきである。即ち、「約」を付記した範囲と「約」を付記しない範囲は、本発明の方法と製剤の選択的態様である。
【0019】
本願における用語「再構成された」製剤は、凍結乾燥されたタンパク質製剤を希釈剤に溶解させ、タンパク質を再構成された製剤に分散させることによって調製した製剤である。再構成された製剤は、患者に投与するのに適切である。
【0020】
本願における用語「等張性」は、ヒト血液と同じ浸透圧を実質的に有する本発明の製剤又は組成物を指称する。等張性製剤は、一般に、約250〜350mOsm/Kgの浸透圧を有すると考えられる。等張性は、例えば、蒸気圧又は製氷型の浸透圧計を用いて測定することができる。
【0021】
本願における用語「リオプロテクタント」は、rPAなどの本発明の免疫原性タンパク質と混合されたとき、凍結乾燥時と以降の貯蔵時において、そのタンパク質の化学的及び/又は物理的不安定性を防止しないにせよ実質的に低減し、そのタンパク質の免疫特性を維持するのに十分で、それによって、ワクチンとしての継続した有用性を確実にする分子を意味する。こうしたリオプロテクタントの例には、サッカロースやトレハロースなどの非還元糖、グルタミン酸1ナトリウムやヒスチジンのなどのアミノ酸、ベタインのようなメチルアミン、硫酸マグネシウムのような離液性塩、三価以上の糖アルコールのようなポリオール類、例えば、グリセリン、エリトリトール、グリセロール、アラビトール、キシリトール、ソルビトール、及びマンニトール、プロピレングリコールやポリエチレングリコールのようなグリコール類、及びこれらの任意の組み合わせが挙げられる。
【0022】
本願における用語「凍結乾燥保護量」は、本発明のrPAなどの免疫原に添加されたとき、凍結乾燥時と貯蔵時において、その免疫原の物理的化学的安定性と完全性を実質的に保護する結果、再構成されたとき、その免疫原がその免疫特性を保持し、ワクチンにおけるその使用を十分に許容する、例えば、トレハロースのようなリオプロテクタントの量を指称する。
【0023】
本願における用語「希釈剤」は、薬学的に許容され(ヒトに投与するのに安全で毒性がない)、再構成製剤の調製に有用な担体を意味する。典型的な希釈剤には、滅菌水、注射用の静菌水(BWFI)、pH緩衝液(例えば、リン酸緩衝生理食塩水)、無菌食塩水、リンガー溶液、又はデキストロース溶液が挙げられる。
【0024】
本願における用語「保存料」は、希釈剤に添加し、再構成製剤における細菌作用を本質的に低下させることができる化合物を意味し、したがって、例えば、多用途の再構成製剤の産生を容易にすることができる。例としては、オクタデシルジメチルベンジル塩化アンモニウム、塩化ヘキサメトニウム、塩化ベンザルコニウム(アルキル基が長鎖化合物であるアルキルベンジルジメチル塩化アンモニウムの混合物)、及び塩化ベンゼトニウムが挙げられる。その他の種類の保存料には、芳香族アルコール類、例えば、フェノール、2−フェノキシエタノール、チメロサール、塩化ベンゼトニウム、ホルムアルデヒド、ブチルアルコール、ベンジルアルコール、アリルパラベン類、例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン、カテコール、レソルシノール、シクロヘキサノール、3−ペンタノール、及びm−クレゾールが挙げられる。本願において最も好ましい保存料は2−フェノキシエタノールである。
【0025】
本願における用語「増量剤」は、その凍結乾燥された混合物又は組成物に質量を付加し、凍結乾燥ケーキの物理的構造に寄与する化合物を指称する(例えば、開気孔構造を維持する本質的に均一な凍結乾燥ケーキの産生を促進)。代表的な増量剤に、マンニトール、グリセリン、デキストラン、ポリエチレングリコール、及びキソルビトールが挙げられる。「処置」は、治療上の処置と予防又は保全上の対処の双方を指称する。処置を必要とするものには、既に疾患のあるもの及び疾患を防止すべきものを含む。
【0026】
本願における用語「有効量」又は「治療的有効量」は、細菌感染、とりわけ炭疽菌感染の1つ又は複数の症状を処置、抑制、又は軽減するのに十分な用量を意味する。正確な用量は、患者の年齢、免疫系状況、全体的健康、及び環境的状況、感染(又は予想される感染)の性質と範囲、及び以降の処置/ワクチン接種の利用性などの因子によって変動することがある。
【0027】
製剤される抗原は、一般に、生物からの分離、及び組換え技術による合成又は抗原に使用されるポリペプチドの直接的化学合成などの当該技術分野でよく知られた技術を用いて調製される。本発明に使用される防御抗原は、組換え技術によって調製され、本願においては、組換え防御抗原(rPA)と称される。
【0028】
本発明によると、安定な再構成された製剤が提供され、この再構成製剤は、例えば、抗微生物抗原のようなサブユニットワクチン抗原の、組換え防御抗原(rPA)を含む炭疽菌抗原など、及び薬学的に許容される担体を含み、その炭疽菌抗原と凍結乾燥保護量のトレハロースの凍結乾燥された組成物から調製される。ワクチンとしての使用を目的とするこうした製剤又は組成物の別な好ましい態様において、rPAは、約100〜300μg/ml、好ましくは、約150〜250μg/ml、最も好ましくは、約200μg/mlの量で再構成製剤の中に存在する。
【0029】
また、本発明の再構成された炭疽菌ワクチン製剤は、トレハロースを含むことができる。1つの態様において、トレハロースは、再構成製剤の中に、約3%〜7%、好ましくは約4%〜6%の範囲、より好ましくは約4.5%〜5.5%の範囲、最も好ましくは、約5%(w/v)の量で存在する。
【0030】
本発明の安定な再構成されたワクチン製剤は、再構成の前に少なくとも5℃の温度に少なくとも1箇月の期間、又は再構成の前に少なくとも25℃の温度に少なくとも1箇月の期間にわたって保持された凍結乾燥組成物から再構成されたものであり、又はその温度は、少なくとも30℃、35℃、40℃、45℃、50℃、55℃、60℃、65℃、70℃、又はそれ以上であり、その期間は、少なくとも1箇月、2箇月、3箇月、4箇月、5箇月、6箇月、7箇月、8箇月、9箇月、10箇月、又はそれ以上であり、1年間、16箇月、又は少なくとも2年間などである。
【0031】
本発明の再構成された炭疽菌ワクチン製剤は、緩衝剤をさらに含んでもよい。その特定の態様において、緩衝剤(又は塩)は、3mM〜7mMの範囲、好ましくは4mM〜6mMの範囲、より好ましくは4.5mM〜5.5mMの範囲の濃度のホスフェートであり、約4mM〜約5.25mMの範囲が特に好ましい。別の好ましい態様において、再構成された製剤は、例えば、約0.39%のNaClを含む。また、本発明の再構成された製剤は、ツイーン20のような洗浄剤を含むことができる。限定されない1つの例において、ツイーン20は約0.02%の量で存在する。
【0032】
本発明の再構成された炭疽菌ワクチン製剤は、アジュバントをさらに含んでもよく、とりわけ、アルハイドロゲル(ミョウバン)、キトサン、mpl、及びCpGから選択された1つであり、CpGとアルハイドロゲルが好ましい。1つの態様において、アジュバンドはCpG1018であり、例えば、約2mg/ml存在する。別の態様において、アジュバンドはアルハイドロゲルであり、例えば、約0.26%(w/v)存在する。
【0033】
こうした製剤の完全であるが限定されない例は、200μg/mlのrPA、2mg/mlのCpG1018、5%のトレハロース、5.25mMのホスフェート、0.39%のNaCl、0.02%のツイーン20、0.26%w/vのアルハイドロゲルを含むものである(実施例1参照)。本発明のワクチン製剤の1つの態様において、再構成された製剤は等張性である。
【0034】
また、本発明は、安定な再構成された製剤の調製方法を提供し、以下の工程を含む。
(a)サブユニットのワクチン抗原、例えば、rPAを含む炭疽菌抗原のような抗微生物抗原及び凍結乾燥保護量のトレハロースの混合物又は組成物を凍結乾燥し、及び
(b)再構成された製剤が、安定であって、凍結乾燥前の混合物又は組成物中のrPA濃度の約0.1〜約10倍のrPA濃度を有するようにして、希釈剤中で工程(a)の凍結乾燥された混合物又は組成物を再構成する。
【0035】
本発明の方法の別の例において、工程(a)の混合物を再構成するための工程(b)で使用される希釈剤は、アジュバントを含み、好ましくは、アルハイドロゲル(ミョウバン)、キトサン、MPL、又はCpGから選択されたアジュバントであり、最も好ましくは、アルハイドロゲルである。限定されない例において、アルハイドロゲルは、約0.2%〜約0.3%の範囲で存在し、又は約0.25%〜約0.3%の範囲で存在し、又は好ましくは、約0.26%の量で存在する。
【0036】
別のこうした例において、希釈剤は、ホスフェート及び/又はNaClのような塩を含む。選択された例において、ホスフェートは、約3〜7mMの範囲で存在し、又は約4〜6mMの範囲で存在し、又は約4.5〜5.5mMの範囲で存在し、又は好ましくは、ホスフェートは約5mMの量で存在する。別のこうした例において、NaClは、約0.3%〜約0.5%の範囲で存在し、又は約0.35%〜約0.45%の範囲で存在し、又は好ましくは、約0.39%存在する。好ましい態様において、希釈剤は約7.4のpHを有する。
【0037】
好ましい態様において、希釈剤は、5mMのホスフェート中に0.26%のアルハイドロゲル、及び0.39%のNaClを含み、pH7.4である。
【0038】
抗微生物抗原を含んで使用可能なサブユニットワクチンは、通常、組換えタンパク質に基づく抗原である。こうした抗微生物抗原の例には、B型肝炎防御抗原、単純ヘルペスウイルス抗原、インフルエンザ抗原、先天性サイトメガロウイルス(CMV)抗原、結核菌抗原、HIV抗原、ジフテリア抗原、破傷風抗原、百日咳抗原、及びペスト菌防御抗原、並びに、参照して取り入れられている特許出願WO96/28551に開示の保護タンパク質の1つ、2つ、又はそれ以上を含む抗原が挙げられる。最も好ましくは、抗原は、組換え保護抗原(rPA)のような炭疽菌保護抗原、とりわけ配列識別番号1のアミノ酸配列を有するものである。
【0039】
本発明は、さらに、以下の工程を含む、安定な凍結乾燥されたワクチン製剤の調製方法を提供する。
(a)サブユニットのワクチン抗原、例えば、rPAを含む炭疽菌抗原のような抗微生物抗原及び凍結乾燥保護量の還元糖の混合物又は組成物を形成し、及び
(b)その混合物又は組成物を凍結乾燥して、安定な凍結乾燥されたワクチン組成物を形成する。
【0040】
本発明の方法の特定の例において、工程(a)の組成物は、約200〜600μg/ml、又は約300〜500μg/ml、又は約350〜450μg/mlの範囲、好ましくは約400μg/mlのrPAを含む。本発明の方法の別の例において、工程(a)の組成物は、約2〜20%の範囲、あるいは、約4〜18%、又は約6〜16%、又は約8〜14%、又は約8〜12%、又は約9〜12%の範囲、又は好ましくは、約10%(w/v)の量で存在するトレハロースを含む。
【0041】
本方法の別の態様において、工程(a)の組成物又は混合物は、塩、好ましくは、ホスフェート及び/又はNaCl(又は生理食塩水)を含む。その例において、ホスフェートは、約0.3〜0.7mMの範囲、又は約0.35〜0.65mMの範囲、又は約0.4〜0.6mMの範囲、又は約0.45〜0.55mMの範囲で存在し、又は好ましくは、約0.5mMの量で存在する。さらに、こうした例において、NaClは、約7〜13mM、又は約8〜12mM、又は約9〜11mM、又は約9.5〜10.5mMの範囲で存在し、又は好ましくは、約10mMの量で存在する。
【0042】
本発明の方法の別の例において、工程(a)の混合物又は組成物はアジュバントを含み、好ましくは、そのアジュバントは、アルハイドロゲル(ミョウバン)、キトサン、MPL、又はCpGから選択される。その好ましい態様において、アジュバントは、CpG1018のようなCpGである。その例において、CpG1018は、約2mg/ml〜約6mg/mlの範囲、又は約3mg/ml〜約5mg/mlの範囲、又は約3.5mg/ml〜約4.5mg/mlの範囲で存在し、又は好ましくは、CpG1018は、約4mg/mlの量で存在する。
【0043】
付加的なアジュバントとして採用され得る適切なオリゴヌクレオチドの例には、米国特許第6207648号、同6589940号、同7255868、及び同7276489号(これらの特許の開示事項は、本願でも参照して取り入れられる)に記載のものが挙げられる。
【0044】
特定の態様において、安定化されたワクチン組成物は、保存中の凝集を低下又は防止させる薬剤をさらに含むことができ、例えば、少量の非イオン系界面活性剤、とりわけエトキシル化ソルビタンエステルが挙げられ、典型的に、約20のエチレンオキシ単位を含むポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートが例示される。
【0045】
本方法の付加的な例において、工程(a)の混合物又は組成物は、例えば、ツイーン20のような洗浄剤をさらに含むことができる。限定されない例において、ツイーン20は、約0.3〜約0.5%の範囲で存在し、又は約0.35〜約0.45%の範囲で存在し、又は好ましくは、約0.04%の量で存在する。
【0046】
本発明の方法の特に好ましい態様において、工程(a)の混合物又は組成物は、400μg/mlのrPA、4mg/mlのCpG1018、10%のトレハロース、0.5mMのホスフェート、10mMのNaCl、及び0.04%のツイーン20を含む。
【0047】
また、本発明は、凍結乾燥に適する組成物を提供するものであり、本組成物は、組換え防御抗原(rPA)と凍結乾燥保護量のトレハロースを含む炭疽菌抗原を含んでなる。本組成物の限定されない態様において、rPAは、約100μg/ml〜約700μg/mlの範囲で存在し、又は約200〜600μg/mlの範囲で存在し、又は約250〜550μg/mlの範囲で存在し、又は約300〜500μg/mlの範囲で存在し、又は約350〜450μg/mlの範囲で存在し、好ましくは、約400μg/mlの量で存在する。本発明の方法の別な例において、工程(a)の混合物又は組成物は、約2〜20%の範囲、又は約4〜18%の範囲、又は約6〜16%、又は約8〜14%、又は約9〜12%、又は好ましくは、約10%(w/v)の量で存在するトレハロースを含む。
【0048】
本発明において、適切には、リオプロテクタントが、凍結乾燥される前の製剤又は凍結乾燥されるべき組成物に添加される。好ましい態様において、この添加剤は非還元糖、例えば、サッカロース又はトレハロースであり、後者がとりわけ好ましい。1つの態様において、添加されるリオプロテクタントの量は、再構成のとき、得られる製剤が等張性である量である。また、等の量は、タンパク質の凍結乾燥時に生じることが多い、例えば、rPAのような抗原タンパク質の不都合な分解や凝集を防ぐのに十分な量でなければならない。
【0049】
本発明の好ましい態様において、凍結乾燥される前の組成物及び/又は再構成された製剤に、界面活性剤、洗浄剤を添加することが望ましいことがある。有用な界面活性剤の例としては、非イオン系界面活性剤のポリソルベートなど(例えば、ポリソルベート20(又はツイーン20)又は80);トリトン;ドデシル硫酸ナトリウム(SDS);ラウレル硫酸ナトリウム;オクチル配糖体ナトリウム;ラウリル−、ミスチリル−、リノレイル−、又はステアリルスルフォベタイン;ラウリル−、ミスチリル−、リノレイル−、又はステアリルサルコシン;リノレイル−、ミリスチリル−、又はセチルベタイン;ラウロアミドプロピル−、コカミドプロピル−、リノレアミドプロピル−、ミリスタミドプロピル−、パルミドプロピル−、又はイソステラミドプロピル−ベタイン(例えば、ラウロアミドプロピル);ミリスタミドプロピル−、パルミドプロピル−、又はイソステラミドプロピル−ジメチルアミン;メチルココイルナトリウム−,又はメチルオレイル−タウレート二ナトリウム塩;モナクアト(登録商標)シリーズ(モナクアインダストリーズ社、パターソン、ニュージャージ州)、ポリエチレングリコール、ポリプロピルグリコール、及びエチレンとプロピレングリコールのコポリマー(例えば、プルロニック、PF68など)が挙げられる。ツイーン20は、好ましい界面活性剤又は洗浄剤である。添加量は、再構成されたタンパク質の凝集を低減し、再構成後の粒子の生成を最小限にするのに十分である。例えば、界面活性剤又は洗浄剤は、約0.001〜0.5%、好ましくは、約0.005〜0.05%の量で、凍結乾燥前の組成物に存在することができる。
【0050】
本発明の特定の態様において、リオプロテクタント(トレハロースなど)は、凍結乾燥前の製剤を調製するために、増量剤(例えば、マンニトール又はグリセリン)と組み合わせて使用することができる。こうした増量剤の使用は、より均一な凍結乾燥されたケーキ(即ち、過剰なポケットなどが無い)の産生を容易にさせることができる。
【0051】
別な態様において、本組成物は、塩、好ましくは、ホスフェート及び/又はNaCl(又は生理食塩水)を含む。この例において、ホスフェートは、約0.3〜0.7mMの範囲、又は約0.35〜0.65mMの範囲、又は約0.4〜0.6mMの範囲、又は約0.45〜0.55mMの範囲で存在し、又は好ましくは、約0.5mMの量で存在する。さらに、こうした例において、NaClは、約7〜13mM、又は約8〜12mM、又は約9〜11mM、又は約9.5〜10.5mMの範囲で存在し、又は好ましくは、約10mMの量で存在する。
【0052】
別の例において、本組成物はアジュバントを含み、好ましくは、そのアジュバントは、アルハイドロゲル(ミョウバン)、キトサン、MPL、又はCpGから選択される。その好ましい態様において、アジュバントは、CpG1018のようなCpGである。その例において、CpG1018は、約2mg/ml〜約6mg/mlの範囲、又は約3mg/ml〜約5mg/mlの範囲、又は約3.5mg/ml〜約4.5mg/mlの範囲で存在し、又は好ましくは、CpG1018は、約4mg/mlの量で存在する。
【0053】
付加的な例において、本組成物は、例えば、ツイーン20のような洗浄剤をさらに含む。限定されない例において、ツイーン20は、約0.3〜約0.5%の範囲で存在し、又は約0.35〜約0.45%の範囲で存在し、又は好ましくは、約0.04%の量で存在する。
【0054】
特に好ましい態様において、凍結乾燥に適する本組成物は、400μg/mlのrPA、4mg/mlのCpG1018、10%のトレハロース、0.5mMのホスフェート、10mMのNaCl、及び0.04%のツイーン20を含む。
【0055】
また、本組成物は、こうした組成物の調製方法を提供するものであり、本方法は、本発明の方法について上述した工程(a)の手順を基本的に含む。
【0056】
凍結乾燥される本組成物に存在するホスフェートは、本組成物と同時に再構成後に産生されるワクチン製剤の緩衝の目的に有用であることができる。ここで、ホスフェートは、限定された緩衝剤ではなく、ホスフェートに代えて又はホスフェートと組み合わせて、別な緩衝剤を使用してもよい。こうした緩衝剤の例には、ヒスチジン、ホスフェート、トリス、クエン酸塩、コハク酸塩、及び他の有機酸が挙げられる。緩衝剤の濃度は、約1mM〜約20mM、又は約3mM〜約15mMでよく、例えば、その緩衝剤、及びワクチン製剤(例えば、再構成される製剤)の所望の等張性によって決まる。また、こうした緩衝剤は、トレハロースに加えて、凍結乾燥保護効果を与えることがある。
【0057】
また、本発明は、以下のものを含むキットを提供する。
(a)rPA、トレハロース、及び薬学的に許容される担体を含む炭疽菌ワクチンの凍結乾燥組成物を保持する容器、及び
(b)及び希釈剤を用いて約200μg/mlのrPA濃度に凍結乾燥組成物を再構成する説明書。
【0058】
こうしたキットは、凍結乾燥組成物を再構成するために適切な希釈剤の容器をさらに含むことができる。こうした希釈剤の具体的な態様は、本発明の方法に用いる希釈剤に関する説明に関して記載している。
【0059】
本発明のキットは、通常、バイアルその他の適切な容器、例えば、瓶、バイアル類(例えば、二重チャンバーバイアル)、注射器類(例えば、二重チャンバー注射器)、及び試験管などに凍結乾燥組成物を収容する。容器は、ガラスやプラスチックのような種々の材料から形成することができる。その容器は、凍結乾燥製剤とその上のラベルを保持し、あるいは付随して、その容器は、再構成及び/又は使用の説明を示すことができる。例えば、そのラベルは、凍結乾燥製剤が、上述のようなタンパク質濃度に再構成されることを指示することができる。さらに、そのラベルは、その製剤が皮下投与を目的とする又は有用であることを示すことができる。製剤を保持する容器は、再構成製剤の反復投与を可能にする多用途バイアルであることもできる。製造物品であるキットは、本願に開示の種類の適切な希釈剤を入れた第2容器をさらに備えることもできる。希釈剤と凍結乾燥製剤を混合すると、再構成された製剤中の最終的なrPA濃度は、一般に、上述の範囲であるが、概して、約200μg/mlと考えられる。このキットは、さらに、別な緩衝材、希釈剤、フィルター、針、注射器、及び使用説明書を含む添付書などの商業的視点及びユーザー視点から望まれる別な材料を含むことができる。
【0060】
一般に、ワクチンは、水系の溶液又は懸濁液の形態の注射可能なものとして調製される。油系のワクチンは、吸入用などとしてよく知られている。また、使用前に溶解又は懸濁される固体を製剤することもできる。活性成分と適合し、製剤用途に適する薬学的に許容される担体、希釈剤、及び賦形剤が一般に添加される。
【0061】
本発明に有用な医薬組成物及び/又は製剤は、任意の適切な希釈剤又は賦形剤を含む薬学的に許容される担体を含み、この担体には、その組成物を受け入れる個体に有害な抗体の産生をそれ自体が引き起こさず、過度の毒性なしに投与され得る任意の医薬品が挙げられる。薬学的に許容される担体には、限定されるものではないが、水、生理食塩水、グリセロール、エタノールなどの液体のほか、経鼻その他の気道搬送や眼系への搬送用のスプレーを形成するのに有用な担体が含まれる。薬学的に許容される担体、希釈剤、及び賦形剤の詳細な説明が、REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES(マック出版社、ニュージャージ州、現行版)に示されている。そこに記載されているものは、本発明の製剤、組成物、方法、及びキットに使用するのに特に好ましい。
【0062】
ワクチン組成物は、pHを安定化させ、アジュバンド、湿潤剤、又は乳化剤として機能し、ワクチンの効果を改良するのに役立つ付加的な物質をさらに取り入れることができる。
【0063】
ワクチンは、一般に、非経口投与用に製剤され、皮下又は筋肉内に注射される。また、こうしたワクチンは、当該技術分野で知られる方法を用い、座薬として又は経口投与用に、あるいは鼻又は気道経路を通した投与用に製剤することもできる。
【0064】
病原菌、ウイルス、又は他の微生物に対する免疫を与えるのに十分なワクチンの量は、本願に記載の説明を吟味して、当業者がよく知る方法によって決定することができる。この量は、ワクチン接種者の特徴と必要な免疫レベルに基づいて決定されると考えられる(上述のように)。ワクチンが、皮下又は筋肉注射によって投与される場合、0.5〜500μgの範囲の精製タンパク質が与えられる。本発明に有用なものとして、約1μg、場合により、10μg、さらには50μg、多くは100μg、最大で500μgの免疫原性タンパク質、又は免疫原性ポリペプチド、又はその免疫原性的活性フラグメントを与える用量が、通常は十分である。また、こうした物質の複数のものがワクチン中に存在してもよい。即ち、複数の抗原構造を使用し、本願に開示の方法に使用されるワクチン又はワクチン組成物の製剤に用いることができる。これは、複数の個々に免疫原性のタンパク質もしくはポリペプチド、又は組み合わされたときのみ免疫原性活性を示すタンパク質もしくはポリペプチドを含んでもよく、それぞれの濃度において量的に同じ、又は比に存在するように製剤してもよく、限定的又は非限定的でもよい。
【0065】
本願に開示のプロセスに使用されるワクチン組成物は、1つ複数の免疫原性タンパク質、1つ又は複数の免疫原性ポリペプチド、及び/又はその免疫原性タンパク質又はポリペプチドの抗原フラグメントを含む1つ又は複数の免疫原性活性の免疫原を含むことができ、このフラグメントは、本発明の使用によって選択される任意の割合で存在する。本発明の方法に有用なワクチン、及びワクチン組成物を構成する正確な成分とそれぞれの量は、とりわけ、治療又は防止されるべき疾患の性質、既に存在する症状の重症度、年齢、性別、及び受給者の全体的健康、並びに、これらの方法を用いる研究者及び/又は医師の個人的・職業的な経験と意向によって決定される。
【0066】
炭疽菌に対して使用されるサブユニットワクチンのような本発明のワクチンに関し、このワクチン組成物の特定の限定されない例として、rPAが、約10〜300μg/ml、好ましくは50〜300μg/ml存在し、又はrPAが、約100〜300μg/ml、より好ましくは約150〜250μg/ml存在し、最も好ましくは、rPAが約200μg/mlの量で存在する。
【0067】
別の例において。投与される抗原、好ましくは、rPAの用量は、少なくとも約5μg、又は少なくとも約10μg、又は少なくとも約25μg、又は少なくとも約50μg、又は少なくとも約75μg、又は少なくとも約100μg、又は少なくとも約150μg、又は少なくとも約200μgであり、好ましい用量は約100μgである。好ましい用量体積は約0.5mlである。
【0068】
本発明は、さらに、アジュバンド、好ましくは、ミョウバンを主成分とするアジュバンドに結合した、精製抗原、好ましくは炭疽菌抗原、より好ましくは炭疽菌防御抗原(PA)、最も好ましくは組換え炭疽菌防御抗原(rPA)(例えば、2007年11月1日に公開のWO2007/122373に記載、この開示事項は本願においても全体として参照して取り入れられる)を含むワクチンに関するものである。好ましい態様において、本発明は、ミョウバンに結合したrPAと少なくとも約2mMのホスフェート塩を含み、pHが約7.1のサブユニットワクチンに関する。
【0069】
インビボ投与に使用されるワクチン製剤は、通常、無菌であり、これは、凍結乾燥と再構成の前又は後で、無菌濾過膜を通して濾過することによって達成することができる。全体の組成物の無菌は、1つの限定されない例であるが、約120℃で約30分間以下にわたって、タンパク質以外の成分をオートクレーブ処理することによって達成することができる。
【0070】
実際の凍結乾燥手順そのものに関し、Hull50(商標、Hull、米国)、GT20(商標、レイボルトヘラオイス社、ドイツ)、BOCエドワード、クリストGTS、FTSロイスター凍結乾燥器などの種々の市販の装置が利用可能である。凍結乾燥は、製剤を凍結した後、一次乾燥に適切な温度で凍結物から氷を昇華させることによって達成される。この条件下で、製品温度は、製剤の共融点又は崩壊温度を下回る。典型的に、一次乾燥の棚温度は、典型的に約50〜250ミリトールの範囲の適切な圧力において、約−30〜25℃の範囲と考えられる(一次乾燥の間に製品が凍結を維持するとする)。製剤、サンプルを保持する容器のサイズと種類(例えば、ガラスバイアル)、及び液体の体積は、主として、乾燥に必要な時間に影響すると考えられ、この時間は、数時間から数日間でよい(例えば、40〜60時間)。二次乾燥の段階は、約0〜40℃で行うことができ、主として、容器の種類とサイズ、及び使用されるタンパク質の種類に依存する。ここで、二次乾燥工程は、不要であり得ることが見出されている。例えば、凍結乾燥の全体水除去段階の全体を通した棚温度は、約15〜30℃(例えば、約20℃)であってよい。二次乾燥に必要な温度と圧力は、適切な凍結乾燥ケーキを生成するものと考えられ、例えば、温度その他のパラメーターに依存する。二次乾燥時間は、製品中の所望の残存水分レベルに影響され、典型的に、少なくとも約5時間を要する(例えば、10〜15時間)。圧力は、一次乾燥工程に使用されるものと同じでもよい。凍結乾燥条件は、製剤とバイアルサイズによって変化することがある。得られた凍結乾燥粉末は、通常、約5%未満、好ましくは、約3%未満の水分を有すると考えられる。
【0071】
本発明の方法に有用な凍結−乾燥サイクルの例を表1と表2に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
各サイクルにおいて、チャンバーに空気を導入する前に、製品に栓が施される。次いで、凍結乾燥器から取り出すときに、アルミニウムのシールがバイアルに施され、クリンプされる。
【0075】
再構成された製剤は、そのタンパク質での治療を必要とする患者、好ましくはヒトに、公知の方法、例えば、急速投与のような静脈内投与又は時間をかけた持続注入によって、また、筋肉内、腹腔内、脳脊髄内、皮下、関節内、滑液内、髄腔内、経口、局所、又は吸入ルートで投与される。
【0076】
本発明の方法によって調製された凍結乾燥されたワクチン組成物は、一般に、使用時までに凍結乾燥状態に維持される。患者への投与の用意が整ったとき、凍結乾燥製剤は、本願に記載の希釈剤を用いて再構成される。
【0077】
再構成は、通常、完全水和を確保するために室温で行われるが、所望により、別な温度が採用されてもよい。再構成に必要な時間は、例えば、希釈剤の種類、賦形剤の量、及びrPAのようなタンパク質によって決まると考えられる。希釈剤の例には、滅菌水、注射用静菌水(BWFI)、pH緩衝液(例えば、ホスフェート緩衝生理食塩水が特に好ましい)、無菌食塩水、リンガー溶液、又はデキストロース溶液が挙げられる。希釈剤は、所望により、保存料を含む。ベンジルアルコール又はフェノールアルコールのような芳香族アルコールが好ましい保存料である。使用される保存料の量は、タンパク質との適合性及び保存効力試験について、種々の保存料の濃度を評価することによって求められる。例えば、保存料が芳香族アルコール(例えば、ベンジルアルコール)の場合、約0.1〜2.0%、好ましくは約0.5〜1.5%、最も好ましくは約1.0〜1.2%の量で存在することができる。
【0078】
本発明は、さらに、微生物感染、好ましくは、バクテリア感染に対する保護方法、又は治療方法を提供するものであり、こうした感染の恐れのある哺乳類に、上述した安定圧力ワクチン製剤の治療的有効量を投与することを含む。感染する生命体は、本願に記載のものの任意の1つ又は複数であってよく、製剤は本願に記載の製剤、及び/又は本発明の方法によって凍結乾燥したワクチン組成物又は混合物から再構成した製剤である。好ましい態様において、バクテリア感染は、炭疽菌感染である(即ち、バチルス・アントラシスから引き起こされる)。1つの例において、保護されるべき動物は、哺乳類であり、とりわけヒトの患者である。こうした治療に使用される好ましい製剤は、200μg/mlのrPA、2mg/mlのCpG1018、5%のトレハロース、5.25mMのホスフェート、0.39%のNaCl、0.02%のツイーン20、0.26%w/vのアルハイドロゲルを含むワクチン組成物である。
【0079】
本発明の手順を実施するにおいて、特定の緩衝剤、媒体、試薬などに対する言及は、当然ながら、限定することを意図しているものではなく、当業者が、記載の説明における特定の内容において、関心がある又は価値があると認識する関連材料の全てを包含すると理解すべきである。例えば、1つの緩衝系を別のものに置換し、同一ではないにせよ類似の結果を依然として得られることが多い。当業者は、こうした系とあり得る方法論について十分な知識を有していると考えられ、過度の実験をすることなく、その材料が本発明にとって本質的でなければ、本願に開示の方法と手順を用いて目的を最適に果たす代替を行い得るものと考えられる。
【0080】
本発明を以下の限定されない例によって、より詳細に説明する。これらの方法と実施例は、本発明をその態様に限定するものでは決してなく、別な態様と用途が、恐らく自ずと当業者には示唆されるものと考えられる。
【実施例】
【0081】
実施例1.トレハロース含有凍結乾燥ワクチンの安定性
400μg/mlのrPA、10%トレハロース中の4mg/mlのCpG1018、0.5mMのホスフェート、10mMのNaCl、0.04%のツイーン20を凍結乾燥した。この製剤組成物は、凍結乾燥の前に、再構成材料の濃度の2倍であった。次いで、この製剤を、5mMのホスフェート中の0.26%アルハイドロゲル、0.39%の生理食塩水、pH7.4を用いて再構成した。再構成された製剤は、200μg/mlのrPA、5%トレハロース中の2mg/mlのCpG1018、5.25mMのホスフェート、0.39%のNaCl、0.02%のツイーン20、0.26%のアルハイドロゲルであった。%値は全てw/vである。
【0082】
70℃において、rPAは、8箇月もの後に効力を保持した。70℃はTg(ガラス転移温度、トレハロース糖ガラスが、軟化し始める温度であり、もはや脆くない)よりも高いため、高分解が見られるとも予想されたが、そのような分解の促進は観察されなかった。即ち、この凍結乾燥された製剤は、トレハロースの存在下で予想外に安定であった。
【0083】
実施例2.凍結乾燥ワクチンの安定性
雌の成体A/Jマウスを、表3に示す各サンプルの0.1mlを用いて第0日に筋肉注射(i.m.)で免疫を与え、ここで、各サンプルは、投与前に希釈剤を用いて製剤した。全てのマウスは、炭疽菌STI株胞子に21日暴露され、11日に生存を判定した。
【0084】
表3の結果から、凍結乾燥されたワクチンが、こうしたワクチンの先の経験から予想されるよりもはるかに高い安定性を示すことが分かる(例えば、5℃と70℃での貯蔵結果を比較)。希釈剤は、pH7.4の5mMホスフェートで緩衝された0.39%(w/v)塩化ナトリウム中の0.26%(w/w)アルハイドロゲル(0.4%Al(OH))からなった。未処理動物は、負の対照であり、治療は何ら受けなかったが、試験動物と同じ胞子用量で、21日の暴露を受けた。
【0085】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭疽菌抗原と薬学的に許容される担体を含む安定な再構成されたワクチン製剤であって、前記炭疽菌抗原と凍結乾燥保護量の非還元糖の凍結乾燥組成物から調製された、安定な再構成されたワクチン製剤。
【請求項2】
前記炭疽菌抗原が組換え炭疽菌防御抗原(rPA)を含む、請求項1に記載の安定な再構成されたワクチン製剤。
【請求項3】
前記製剤が、前記凍結乾燥の前の前記組成物と実質的に同じ効力を保持する、請求項2に記載の安定な再構成されたワクチン製剤。
【請求項4】
前記製剤が、前記凍結乾燥前の前記組成物の少なくとも80%の効力を保持する、請求項1に記載の安定な再構成されたワクチン製剤。
【請求項5】
前記製剤が、前記凍結乾燥前の前記組成物の少なくとも85%の効力を保持する、請求項1に記載の安定な再構成されたワクチン製剤。
【請求項6】
前記製剤が、前記凍結乾燥前の前記組成物の少なくとも90%の効力を保持する、請求項1に記載の安定な再構成されたワクチン製剤。
【請求項7】
前記製剤が、前記凍結乾燥前の前記組成物の少なくとも95%の効力を保持する、請求項1に記載の安定な再構成されたワクチン製剤。
【請求項8】
前記rPAが、前記再構成された製剤中に、約100〜300μg/mlの範囲で存在する、請求項3に記載の安定な再構成されたワクチン製剤。
【請求項9】
前記rPAが、前記再構成された製剤中に、約150〜250μg/mlの範囲で存在する、請求項3に記載の安定な再構成されたワクチン製剤。
【請求項10】
前記rPAが、前記再構成された製剤中に、約200μg/mlの量で存在する、請求項3に記載の安定な再構成されたワクチン製剤。
【請求項11】
前記非還元糖がトレハロースである、請求項3に記載の安定な再構成されたワクチン製剤。
【請求項12】
前記トレハロースが、前記再構成された製剤中に、約3%〜7%(w/v)の範囲で存在する、請求項11に記載の安定な再構成されたワクチン製剤。
【請求項13】
前記トレハロースが、約4%〜6%(w/v)の範囲で存在する、請求項11に記載の安定な再構成されたワクチン製剤。
【請求項14】
前記トレハロースが、約4.5%〜5.5%(w/v)の範囲で存在する、請求項11に記載の安定な再構成されたワクチン製剤。
【請求項15】
前記トレハロースが、前記再構成された製剤中に、約5%(w/v)の量で存在する、請求項11に記載の安定な再構成されたワクチン製剤。
【請求項16】
前記凍結乾燥組成物が、再構成の前に、少なくとも3箇月の期間にわたって少なくとも25℃の温度に維持された、請求項3に記載の安定な再構成されたワクチン製剤。
【請求項17】
前記温度が少なくとも40℃である、請求項16に記載の安定な再構成されたワクチン製剤。
【請求項18】
前記温度が少なくとも55℃である、請求項16に記載の安定な再構成されたワクチン製剤。
【請求項19】
前記温度が少なくとも70℃である、請求項16に記載の安定な再構成されたワクチン製剤。
【請求項20】
前記期間が少なくとも3箇月である、請求項16に記載の安定な再構成されたワクチン製剤。
【請求項21】
前記期間が少なくとも7箇月である、請求項16に記載の安定な再構成されたワクチン製剤。
【請求項22】
前記期間が少なくとも8箇月である、請求項16に記載の安定な再構成されたワクチン製剤。
【請求項23】
前記期間が少なくとも16箇月である、請求項16に記載の安定な再構成されたワクチン製剤。
【請求項24】
前記安定な製剤がアジュバンドを含む、請求項3に記載の安定な再構成されたワクチン製剤。
【請求項25】
前記アジュバンドが、アルハイドロゲル(ミョウバン)、キトサン、mpl、及びCpGから選択された、請求項24に記載の安定な再構成されたワクチン製剤。
【請求項26】
前記アジュバンドがアルハイドロゲル(ミョウバン)である、請求項24に記載の安定な再構成されたワクチン製剤。
【請求項27】
前記再構成された製剤が、200μg/mlのrPA、2mg/mlのCpG1018、5%のトレハロース、5.25mMのホスフェート、0.39%のNaCl、0.02%のツイーン20、及び0.26%w/vのアルハイドロゲルを含む、請求項3に記載の安定な再構成されたワクチン製剤。
【請求項28】
以下の工程:
(a)rPAを含む炭疽菌抗原と凍結乾燥保護量の還元糖の組成物を形成し、及び
(b)前記組成物を凍結乾燥して、安定な凍結乾燥されたワクチン組成物を形成する、
を含む、安定な凍結乾燥されたワクチン製剤の調製方法。
【請求項29】
工程(a)の組成物が、約300〜500μg/mlの範囲のrPAを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
工程(a)の組成物が、約350〜450μg/mlの範囲のrPAを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
工程(a)の組成物が、約400μg/mlの量のrPAを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項32】
工程(a)の還元糖がトレハロースである、請求項28に記載の方法。
【請求項33】
前記トレハロースが約8〜12%の範囲で存在する、請求項28に記載の方法。
【請求項34】
前記トレハロースが約10%(w/v)の量で存在する、請求項28に記載の方法。
【請求項35】
工程(a)の組成物がアジュバンドを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項36】
前記アジュバンドが、アルハイドロゲル(ミョウバン)、キトサン、mpl、及びCpGからなる群より選択された、請求項28に記載の方法。
【請求項37】
前記アジュバンドがアルハイドロゲル(ミョウバン)である、請求項28に記載の方法。
【請求項38】
工程(a)の組成物がさらにCpGを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項39】
前記CpGが約4mg/mlの量で存在する、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
工程(a)の組成物がさらにホスフェート緩衝剤を含む、請求項28に記載の方法。
【請求項41】
前記ホスフェートが約0.5mMの量で存在する、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
工程(a)の組成物がさらに洗浄剤を含む、請求項28に記載の方法。
【請求項43】
前記洗浄剤がツイーン20である、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記ツイーン20が約0.04%の量で存在する、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
工程(a)の組成物が、400μg/mlのrPA、4mg/mlのCpG1018、10%のトレハロース、0.5mMのホスフェート、10mMのNaCl、及び0.04%のツイーン20を含む、請求項28に記載の方法。
【請求項46】
微生物感染の恐れのある哺乳類に、請求項1に記載の安定なワクチン製剤の治療的有効量を投与することを含む、微生物感染に対する保護方法。
【請求項47】
前記微生物感染が炭疽菌感染である、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記哺乳類がヒトである、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記製剤が、請求項27に記載の安定なワクチン製剤である、請求項47に記載の方法。
【請求項50】
微生物感染の恐れのある哺乳類に、請求項28に記載の方法にしたがって凍結乾燥したワクチン組成物から再構成した安定なワクチン製剤の治療的有効量を投与することを含む、微生物感染に対する保護方法。
【請求項51】
前記微生物感染が炭疽菌感染である、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記哺乳類がヒトである、請求項50に記載の方法。
【請求項53】
微生物感染した哺乳類に、請求項1に記載の安定なワクチン製剤の治療的有効量を投与することを含む、哺乳類における微生物感染の治療方法。
【請求項54】
前記微生物感染が炭疽菌感染である、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
前記哺乳類がヒトである、請求項53に記載の方法。
【請求項56】
前記ワクチンが、請求項27に記載の安定なワクチン製剤である、請求項53に記載の方法。
【請求項57】
微生物感染した哺乳類に、請求項28に記載の方法にしたがって凍結乾燥したワクチン組成物から再構成した安定なワクチン製剤の治療的有効量を投与することを含む、微生物感染の治療方法。
【請求項58】
前記微生物感染が炭疽菌感染である、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
前記哺乳類がヒトである、請求項57に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2012−515752(P2012−515752A)
【公表日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−546933(P2011−546933)
【出願日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際出願番号】PCT/GB2009/050051
【国際公開番号】WO2010/084298
【国際公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(509035093)ファーマシーネ,インコーポレイテッド (3)
【Fターム(参考)】