説明

安定な外用剤

【課題】本発明は、ミプロキシフェンリン酸エステルを含有する安定性及び皮膚透過性が良好な水性液状外用剤及び水性ゲル状外用剤並びにそれを含有するイオントフォレシス製剤を提供することにある。
【解決手段】(A)ミプロキシフェンリン酸エステル、並びに(B)アルキルアミン、アルカノールアミン、アルコキシアルキルアミン及びアルキレンジアミンから選ばれるアミン化合物を含有し、成分(A)と成分(B)のモル比(A:B)が1:0.5〜1:50である水性液状外用剤又は水性ゲル状外用剤並びにそれを含有するイオントフォレシス製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定性及び皮膚透過性が良好な水性液状外用剤又は水性ゲル状外用剤及びそれを含有するイオントフォレシス製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
タモキシフェンは、強力な抗エストロゲン作用を有し、ホルモン依存性の乳癌治療薬として有用である。そのタモキシフェンよりも強い乳癌治療作用を有し、かつ安全性の高い1,1,2−トリアリール−1−ブテン誘導体として、ミプロキシフェンリン酸エステル(4−〔1−〔4−〔2−(ジメチルアミノ)エトキシ〕フェニル〕−2−(4−イソプロピルフェニル)−1−ブテニル〕−フェノールホスフェート)が知られている(特許文献1)。
【0003】
ミプロキシフェンリン酸エステル含有製剤としては、錠剤、カプセル剤等の経口投与用製剤や注射用剤が知られているが(特許文献1実施例)、これらはすべて全身投与のため副作用の問題が生じてくる。一方、乳癌は、乳管及び乳腺組織に発生する癌であるから、薬剤は乳管及び乳腺組織に到達すればよく、経口投与や注射等の全身投与をする必要はないと考えられる。かかる観点から、乳癌治療を外用、すなわち、経皮による局所投与を行う試みがなされている。
【0004】
このような乳癌治療薬の局所投与療法としては、経皮投与の他、乳頭部にドナーを貼付し、通電により乳頭部から乳管及び乳腺組織内へ薬剤を局所投与するイオントフォレシス療法も報告されている(特許文献2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平05−57277号公報
【特許文献2】国際公開2007/043580号公報
【特許文献3】国際公開2009/128273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ミプロキシフェンリン酸エステルを外用剤にする試みは全くなされておらず、外用剤基剤に配合した場合の安定性や皮膚透過性については一切知られていない。
従って、本発明の課題は、ミプロキシフェンリン酸エステルを含有する、安定性及び皮膚透過性が良好な水性液状外用剤及び水性ゲル状外用剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者は、ミプロキシフェンリン酸エステルを液状又はゲル状の外用剤にすべく種々検討したところ、ミプロキシフェンリン酸エステルに特定のアミン化合物を特定量配合すれば、経時安定性に優れ、かつ皮膚透過性が良好な水性液状外用剤及び水性ゲル状外用剤が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、(A)ミプロキシフェンリン酸エステル、並びに(B)アルキルアミン、アルカノールアミン、アルコキシアルキルアミン及びアルキレンジアミンから選ばれるアミン化合物を含有し、成分(A)と成分(B)のモル比(A:B)が1:0.5〜1:50である水性液状外用剤又は水性ゲル状外用剤を提供するものである
【発明の効果】
【0009】
本発明の水性液状外用剤及び水性ゲル状外用剤は、ミプロキシフェンリン酸エステルの安定性及び皮膚透過性が良好であるから、乳頭や乳房から患部に速やかにミプロキシフェンリン酸エステルが移行する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の製剤に用いられる(A)ミプロキシフェンリン酸エステルは、優れた抗エストロゲン作用及び抗腫瘍作用を有し、タモキシフェンよりも安全性が高いため乳癌治療薬として有用である。本発明の医薬の有効成分であるミプロキシフェンリン酸エステルは、例えば、特許文献1記載の方法により製造することができる。
【0011】
本発明の製剤中のミプロキシフェンリン酸エステルの含有量は、特に制限されないが、水やゲル基剤への溶解性、安定性の点から、0.01〜10質量%が好ましく、0.05〜5質量%がより好ましい。
【0012】
本発明の製剤に用いられる(B)アミン化合物は、アルキルアミン、アルカノールアミン、アルコキシアルキルアミン及びアルキレンジアミンから選ばれるものである。アルキルアミンとしては、炭素数1〜4のアルキル基を有する第1級から3級アミンが挙げられ、炭素数1〜3のアルキル基を有する第1級〜3級アミンが好ましく、炭素数1〜3のアルキル基を有する第1級〜2級アミンがさらに好ましい。具体的には、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン等が挙げられる。
アルカノールアミンとしては、炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基を有する第1級〜3級アミンが挙げられ、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基を有する第1級〜3級アミンが好ましく、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基を有する第1級〜2級アミンがさらに好ましい。具体的にはモノエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン等が挙げられる。
アルコキシアルキルアミンとしては、炭素数2〜5のアルコキシアルキル基を有する第1級〜3級アミンが挙げられ、具体的には2−メトキシエチルアミン、2−エトキシエチルアミン等が挙げられる。
アルキレンジアミンとしては、炭素数2〜5のアルキレンジアミンが挙げられ、具体的にはエチレンジアミン、プロピレンジアミンが挙げられる。
【0013】
これらの(B)アミン化合物のうち、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基を有する第1級〜3級アミンが好ましく、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基を有する第1級〜2級アミンがより好ましい。具体的には、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン又はジイソプロパノールアミンがより好ましく、ジイソプロパノールアミンが特に好ましい。
【0014】
本発明においては、成分(A)と成分(B)のモル比(A:B)は、製剤のpH、安定性、皮膚透過性の点から、1:0.5〜1:50が好ましく、1:0.75〜1:50がより好ましく、1:1.0〜1:50がより好ましく、1:1.5〜1:50がさらに好ましく、1:2.0〜1:50が特に好ましい。
【0015】
本発明の製剤中の(B)アミン化合物の濃度は、特に制限されないが、製剤のpH、安定性、皮膚透過性の点から、0.1〜7.0質量%が好ましく、0.12〜7.0質量%がより好ましく、0.18〜7.0質量%がさらに好ましく、0.25〜7.0質量%が特に好ましい。
【0016】
本発明の製剤のpHは、安定性だけでなく、皮膚刺激性の点から7.0〜10.5が好ましく、さらに7.5〜10.5がより好ましく、8.0〜10.5が特に好ましい。
【0017】
本発明の水性液状外用剤及び水性ゲル状外用剤は、乳頭部や乳房への塗布性が良好であり、使用性に優れている。また、イオントフォレシス製剤のドナー部用剤に使用する場合には、予めドナー部に適用しておいてもよいし、治療時に乳頭部に塗布してもよい。
【0018】
本発明の水性液剤又は水性ゲル状外用剤には、前記成分の他、水、ゲル基剤、アルコール、多価アルコール、保存剤、安定化剤等が含まれていてもよい。ここでゲル基剤としては、アルギン酸ナトリウム、エチルセルロース、カラギーナン、カルメロースナトリウム、カンテン、キサンタンガム、ゼラチン、カオリン、ベントナイト、モンモリナイト、酸化亜鉛、酸化チタン、無水ケイ酸、D−ソルビトール、タルク、テルベン樹脂、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシビニルポリマー、尿素、ポリビニルアルコール、メタリン酸ナトリウム等が挙げられる。
アルコールとしては、エタノール、イソプロパノール等の低級アルコールが挙げられる。
多価アルコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ジプロピレングリコールポリエチレングリコール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、ポリプロピレングリコール2000、ポリプロピレングリコール、(濃)グリセリン、ブチルアルコール、ペンタエリトリトール、D−ソルビトール液等が挙げられる。
保存剤としては、パラオキシ安息香酸メチル、フェノール、クレゾール等のフェノール性物質、クロロブタノール、フェノキシエタノール、フェニルエチルアルコール等の中性物質、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム等の逆性石鹸、安息香酸、ソルビン酸、デヒドロ酸、サリチル酸等の酸性物質が挙げられる。
安定化剤としては、ビタミンE、ブチルヒドロキシアニソール等の抗酸化剤、アスコルビン酸、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム等の還元剤、クエン酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、レシチン、EDTA等の相乗化剤等が挙げられる。
【0019】
本発明の製剤中の水の含有量は、75〜98質量%が好ましく、80〜95質量%がより好ましい。
【0020】
本発明の製剤は、前記成分を混合し、pHを調整することにより製造することができる。
【0021】
本発明の製剤は、有効成分が乳癌治療薬であるミプロキシフェンリン酸エステルであることから、乳頭部又は乳房部に適用し、乳頭部又は乳房部から吸収させ患部に移行させるのが好ましい。さらに、特許文献2及び3のような乳頭部にドナーを貼付し、通電により乳頭部から乳管及び乳腺組織内へ有効成分を局所投与する乳癌治療用イオントフォレシス製剤のドナー部用剤又は乳頭部用剤に適用することもできる。より好ましくは、乳頭部に電極を有するドナーを、乳房部にレセプターを貼付し、通電により乳頭部から乳管及び乳腺組織内へ有効成分を局所投与する乳癌治療用イオントフォレシス製剤において、ドナー部又は乳頭部に本発明製剤を適用することができる。
【実施例】
【0022】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに何ら限定されるものではない。
【0023】
実施例1
ミプロキシフェンリン酸エステル509mg(1.0mmol)、種々の塩基成分を含んだ精製水溶液を用い、ミプロキシフェンリン酸エステルの0.5質量%水溶液を製造した。得られた水溶液を25℃、40℃又は60℃で保存し、水溶液中のミプロキシフェンリン酸エステル含有量をHPLC法により定量した。その結果を表1及び表2に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
実施例2
表3記載の処方の水性ゲル状外用剤を製造した。得られた製剤を60℃、4週間保存し、ミプロキシフェンリン酸エステルの含量をHPLC法により定量した。その結果を表3に示す。
【0027】
【表3】

【0028】
表1〜表3から明らかなように、ミプロキシフェンリン酸エステルは、水性液状外用剤及び水性ゲル状外用剤中ではアミン化合物を一定量併用することにより保存安定性が向上することがわかる。また、アミン化合物を用いて得られた本発明の水性液状外用剤及び水性ゲル状外用剤は、pHが7.0〜10.5の範囲内であり、皮膚に対する刺激性が低いことが判明した。
【0029】
実施例3
表3の処方例1及び3のゲルを用い、イオントフォレシスによる摘出皮膚を介した透過実験(in vitro)を行った。
摘出皮膚はSlc:Wistar、雄性、7週齢ラットの腹部を脱毛処理した後、皮膚を摘出して用いた。ドナー溶液は、処方例のそれぞれのゲルをそのまま用いた。レセプター溶液は、ジイソプロパノールアミンと生理食塩水の混合溶媒(混合比;ジイソプロパノールアミン/生理食塩水=1:99)を用いた。フランツセルに摘出皮膚の表面をドナー側にして装着し、ドナー溶液1ml及びレセプター溶液29mlを満たした。ドナー(カソード)側及びレセプター(アノード)側に銀/炭素電極を液に十分接触するように挿入し、直流電圧電流発生器により1.57mA(=0.5mA/cm2)を120分間通電した。通電開始後、30、60、90及び120分経過時にレセプター側のサンプリング口からレセプター液1mlを採取し、新しいレセプター液1mlを補充した。採取したレセプター液中のミプロキシフェンリン酸エステル濃度をHPLC法で測定した。
結果を表4に示す。
【0030】
【表4】

【0031】
表4より、本発明の水性ゲル状外用剤は、イオントフォレシスによる皮膚透過率が優れていることが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ミプロキシフェンリン酸エステル、並びに(B)アルキルアミン、アルカノールアミン、アルコキシアルキルアミン及びアルキレンジアミンから選ばれるアミン化合物を含有し、成分(A)と成分(B)のモル比(A:B)が1:0.5〜1:50である水性液状外用剤又は水性ゲル状外用剤。
【請求項2】
成分(B)が、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基を有する第1級〜3級アミン、炭素数1〜3のアルコキシアルキルアミン及び炭素数1〜3のアルキレンジアミンから選ばれるアミン化合物である請求項1記載の水性液状外用剤又は水性ゲル状外用剤。
【請求項3】
成分(B)が、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン又はジイソプロパノールアミンである請求項1又は2に記載の水性液状外用剤又は水性ゲル状外用剤。
【請求項4】
成分(B)が、ジイソプロパノールアミンである請求項1〜3のいずれか1項記載の水性液状外用剤及び水性ゲル状外用剤。
【請求項5】
成分(A)と成分(B)のモル比(A:B)が1:1.5〜1:50である請求項1〜4のいずれか1項記載の水性液状外用剤及び水性ゲル状外用剤。
【請求項6】
pH7.0〜10.5である請求項1〜5のいずれか1項に記載の水性液状外用剤及び水性ゲル状外用剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の水性液状外用剤及び水性ゲル状外用剤を含有するイオントフォレシス製剤。

【公開番号】特開2012−158539(P2012−158539A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−18150(P2011−18150)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、独立行政法人科学技術振興機構、独創的シーズ展開事業委託開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000207827)大鵬薬品工業株式会社 (52)
【出願人】(000163006)興和株式会社 (618)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】