説明

安定な脂溶性成分含有エマルジョン組成物

【課題】 水性飲食の透明かつ安定な着色を可能にする食品用色素水溶液として利用できる安定なエマルジョン組成物、及びそのエマルジョンを含む飲食物の提供を目的とする。
【解決手段】 (a)脂溶性成分、(b)ショ糖脂肪酸エステル、(c)ポリグリセリン脂肪酸エステル、(d)リン脂質、(e)ポリオール、(f)水からなるエマルジョン組成物は、安定で嫌な味がなく、飲食物や医薬品を透明かつ安定な着色を可能にすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水性飲食組成物に配合可能な安定で不快味のない脂溶性成分含有エマルジョン組成物及びそのエマルジョン組成物を含む飲食物、医薬品に関する。
【背景技術】
【0002】
飲料や水性食品の透明かつ安定な着色を可能にする食品用色素として、天然由来のものが求められている。これら天然由来の食品用色素は、天然物から脂溶性成分として抽出されるものが多く、飲料や水性食品に用いるには、乳化安定性や透明性などの問題があった。特に、赤〜黄色の色素であるカロテノイド、例えばアスタキサンチン及びそのエステル類は、難水溶性であり、これらを用いて安定な着色水溶液を製造する方法が検討されている。
【0003】
平均重合度5ないし10のポリグリセリンと、ミリスチン酸またはオレイン酸とのモノエステルからなるポリグリセリン脂肪酸モノエステル0.01〜30重量%、ポリオール40〜80重量%及び油溶性物質0.01〜20重量%を含有し、残余部が水からなることを特徴とする油溶性物質可溶化組成物(特許文献1)、グリセリン、グリセリン脂肪酸エステル及びショ糖脂肪酸エステルを溶解し、この溶液にカロテノイド含有オイルを添加し、さらに水を添加混合することにより得られるエマルジョン(特許文献2)、リン脂質と脂溶性成分と界面活性剤とを含有すると共に食品又は化粧品に用いられるエマルジョン組成物において、前記界面活性剤の含有量が、前記脂溶性成分の含有量に対して0.5倍量を超え2倍量以下であり、且つ、前記リン脂質の含有量に対して5倍量を超えるものであって、エマルジョン組成物に対して2〜15質量%であり、更に、エマルジョン組成物に対して30〜50質量%の含有量のポリオールを含有することを特徴とする食品又は化粧品に用いられるエマルジョン組成物(特許文献3)が知られている。
【0004】
また、類似の技術として、pH4.5以下の酸性飲料中でショ糖脂肪酸エステルの沈殿を防ぐため、ショ糖脂肪酸エステルとレシチンを1:01〜1、ポリグリセリン脂肪酸エステルとレシチンを1:0.1〜10の配合比とした組成物(特許文献4)が提案されている。脂溶性成分の乳化安定性や透明性については言及されていない。
【0005】
これら先行技術は、水溶液に添加した場合、界面活性剤を多く含むため乳化安定性や透明性に問題はないが、界面活性剤独特の苦みなどの不快な味の抑制が十分ではなく、また、不快味を抑えるために界面活性剤の組み合わせを限定したものは、乳化安定性や透明性が十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】日本国特開平10−84887号公報
【特許文献2】日本国特開2001−316601号公報
【特許文献3】日本国特開2008−154577号公報
【特許文献4】日本国特開2000−300225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は水性飲食物に添加することができる脂溶性成分含有エマルジョンであって、それ自体が乳化安定性が高く、水性飲食物に添加した場合に乳化安定性と透明性が高く、不快味のない脂溶性成分含有エマルジョンを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(a)脂溶性成分、(b)ショ糖脂肪酸エステル、(c)ポリグリセリン脂肪酸エステル、(d)リン脂質、(e)ポリオール、(f)水からなるエマルジョン組成物は、水性の飲食物に配合した場合、経時的に濁りや分離が生じず乳化安定性が高く透明であり、苦みやえぐみなどの不快な味がしないことを見出した。
【発明の効果】
【0009】
本発明の脂溶性成分含有エマルジョン組成物は、従来の脂溶性成分含有エマルジョンよりも乳化安定性と透明性が高く、かつ不快な味がせず、水性の食品、化粧品、医薬品など脂溶性成分が用いられている分野に配合することができる。また、脂溶性成分含有エマルジョン組成物は、特別強力な攪拌方法を用いずに、容易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の脂溶性成分含有エマルジョン組成物は、(a)脂溶性成分、(b)ショ糖脂肪酸エステル、(c)ポリグリセリン脂肪酸エステル、(d)リン脂質、(e)ポリオール、(f)水からなる。
【0011】
本発明において、脂溶性成分とは、脂溶性の性質をもち、食品として摂取可能な成分である。脂溶性成分のうち特にカロテノイドなどの色素、トコフェロールやトコトリエノールなど抗酸化物質を含む成分に適している。カロテノイドとは化学合成品および天然物からの抽出物のいずれの由来であってもよい。カロテノイドは単体だけではなく、カロテノイドを含有した油脂も含む。
【0012】
本発明でカロテノイドとしては、例えばアスタキサンチン、ルテイン、カンタキサンチン、ゼアキサンチン、アドニキサンチン、エキネノン、クリプトキサンチン、アドニブリン、アステロイデノン、ロドキサンチン、3−ヒドロキシエキネノン、β−カロチン、α−カロチン、γ−カロチン、リコペンなどであり、好ましくはアスタキサンチン、ルテイン、クリプトキサンチン、ゼアキサンチンなどのキサントフィルであり、特に好ましくはアスタキサンチンである。
【0013】
本発明において、上述のカロテノイドの内、脂肪酸とのエステル体が形成可能なキサントフィルは、モノエステル体やジエステル体の形であっても本発明に含む。例えば、本発明の記載で、特に記載がない限り、アスタキサンチンはアスタキサンチンおよび/またはそのエステルを含む。さらに、アスタキサンチンのエステルにはモノエステル体および/またはジエステル体を含む。
【0014】
本発明に使用されるカロテノイドを含有する天然物としては、カロテノイドを含有している動植物や微生物であればよく、通常は、微生物の菌体、藻類の藻体、植物や動物の組織あるいは器官などの天然物が適用される。具体的には、カロテノイド生産能のある細菌を従属栄養的に培養することにより得られる菌体、ファフィア・ロドチーマのようなカロテノイド生産能のある酵母を従属栄養的に培養して得られる菌体、ヘマトコッカス・プルビアリスあるいはデュナリエラ属のような藻類を明所で独立栄養的に培養することにより得られる藻体、オキアミ、ザリガニ、カニあるいはロブスター等の甲殻類の殻、ニンジン等の植物の組織などがある。天然物は水を絞っただけの湿性状態や、乾燥した状態の物のどちらでも行うことができる。
【0015】
特にアスタキサンチンでは、アスタキサンチンを含有している動植物や微生物であればよく、例えば、エビ、オキアミ、カニなどの甲殻類の甲殻、卵および臓器、種々の魚介類の皮および卵、緑藻ヘマトコッカスなどの藻類、赤色酵母ファフィアなどの酵母類、海洋性細菌、福寿草および金鳳花などの種子植物をあげることができる。
【0016】
アスタキサンチンの含有物は、例えば、赤色酵母ファフィア、緑藻ヘマトコッカス、海洋性細菌などを、公知の方法に準拠して、適宜な培地で培養することにより得られ、アスタキサンチンを最も高濃度で含有することや生産性の高さから緑藻ヘマトコッカスが最も好適である。ヘマトコッカス緑藻類のアスタキサンチン含量の高いものを得る培養方法としては、異種微生物の混入・繁殖がなく、その他の夾雑物の混入が少ない密閉型の培養方法が好ましく、例えば、密閉型のドーム形状、円錐形状又は円筒形状の培養装置と装置内で移動自在のガス吐出装置を有する培養基を用いて培養する方法(国際公開番号WO99/50384号公報)や、密閉型の培養装置に光源を入れ内部から光を照射して培養する方法、平板状の培養槽で培養する方法が適している。本発明に用いるヘマトコッカス藻のアスタキサンチン含量は特に制限はないが、含量が多いほど抽出効率が良くなるので好ましい。
【0017】
本発明に用いるヘマトコッカス藻体は、上記製造方法に用いた培養液から常法に従って、例えば遠心分離機や濾別などによって得られる。破砕に用いるヘマトコッカス藻体は湿った状態(このときの使用量は乾燥品に換算して求める)で、又は濾別したヘマトコッカス藻体と抗酸化剤とを水に懸濁させ噴霧乾燥等により乾燥させたものを使用することができる。
【0018】
脂溶性成分は、油脂類を添加し濃度を調整したものを用いることができる。油脂類としては、例えば、オリーブ油、パーム油、ココナッツ油、サラダ油、ベニバナ油、ツバキ油、トウモロコシ油、グレープシード油、菜種油、ゴマ油、パーシック油、小麦胚芽油、アマニ油、サフラワー油、綿実油、エノ油、大豆油、落花生油、コメヌカ油、シナギリ油、ホホバ油、胚芽油、中鎖脂肪酸トリグリセリドなどがあげられる。
【0019】
本発明で用いるショ糖脂肪酸エステルは、脂肪酸の炭素数が12以上のものであり、モノ体、ジ体のいずれでもよく、単独又は複数種類を混合して用いることができる。例えば、ショ糖モノオレイン酸エステル、ショ糖モノステアリン酸エステル、ショ糖モノパルミチン酸エステル、ショ糖モノミリスチン酸エステル、ショ糖モノラウリン酸エステル、ショ糖ジオレイン酸エステル、ショ糖ジステアリン酸エステル、ショ糖ジパルミチン酸エステル、ショ糖ジミリスチン酸エステル、ショ糖ジラウリン酸エステルなどがあげられる。HLBから、好ましくは、ショ糖モノステアリン酸エステル、ショ糖モノパルミチン酸エステル、ショ糖モノミリスチン酸エステルである。
【0020】
本発明で用いるポリグリセリン脂肪酸エステルは、ポリグリセリンの平均重合度が6〜15であり、炭素数が8〜18の脂肪酸及びその誘導体からなるものである。例えば、モノオレイン酸ヘキサグリセリン、モノステアリン酸ヘキサグリセリン、モノパルミチン酸ヘキサグリセリン、モノミリスチン酸ヘキサグリセリン、モノラウリン酸ヘキサグリセリン、モノオレイン酸デカグリセリン、モノステアリン酸デカグリセリン、モノパルミチン酸デカグリセリン、モノミリスチン酸デカグリセリン、モノラウリン酸デカグリセリン、クエン酸ステアリン酸グリセリンなどがあげられる。好ましくはモノラウリル酸デカグリセリン、ジステアリン酸デカグリセリン、モノミリスチン酸デカグリセリン、クエン酸ステアリン酸グリセリンである。
【0021】
本発明で用いるリン脂質は、脂肪酸、アルコール、窒素化合物とリン酸からなるエステルであり、グリセロリン脂質、スフィンゴリン脂質が含まれる。
グリセロリン脂質としては、例えば、レシチン(ホスファチジルコリン)、ホスファチジン酸、ビスホスアチジン酸、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルメチルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセリン、ジホスファチジルグリセリンなどがあげられる。大豆、トウモロコシ、落花生、ナタネ、麦等の植物由来のものや、卵黄、牛等の動物由来のもの及び大腸菌等の微生物等由来の各種レシチンを用いることができる。また、これらの天然物を酵素処理、水素添加やヒドロキシ化ものを用いることができる。これらの処理により、リン脂質の安定性や水溶性が改善される。本発明で用いるリン脂質は、単独又は複数種の混合物の形態で用いることができる。
【0022】
グリセロリン脂質のうち酵素分解したもの、例えば、リゾレシチン(酵素分解レシチン)を用いることができ、親水性が改善されているため、水に対する乳化性、分散性を向上させることができる。リゾレシチンとしては、例えば、リゾホスファチジン酸、リゾホスファチジルグリセリン、リゾホスファチジルイノシトール、リゾホスファチジルエタノールアミン、リゾホスファチジルメチルエタノールアミン、リゾホスファチジルコリン(リゾレシチン)、リゾホスファチジルセリンなどがあげられる。
【0023】
一般にレシチンは純度60質量%以上のものが用いられているが、純度を高くしたものを用いることができる。純度の高いものは、リン脂質の配合量を減少させることができ、リン脂質自体の不快な味を減らすことができる。
【0024】
これらのリン脂質のうち、本エマルジョン組成物の乳化安定性の点から、レシチン、リゾレシチンを用いるのが好ましい。
【0025】
ポリオールは、粘度調整機能のほか、水と油脂成分との界面張力を低下させ、界面を広がりやすくして安定なエマルジョンを形成しやすくする。
ポリオールとしては、二価以上のアルコールであればいずれのものも用いることができ、例えば、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、ポリグリセリン、3−メチル−1,3−ブタンジオール、1,3−ブチレングリコール、イソプレングリコール、ポリエチレングリコール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ペンタエリスリトール、ネオペンチルグリコール、マルチトール、還元水あめ、果糖、ブドウ糖、蔗糖、ラクチトール、パラチニット、エリスリトール、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、キシロース、グルコース、ラクトース、マンノース、マルトース、ガラクトース、フルクトース、イノシトール、ペンタエリスリトール、マルトトリオース、ソルビトール、ソルビタン、トレハロース、澱粉分解糖、澱粉分解糖還元アルコール等が挙げられ、これらを、単独又は複数種の混合物の形態で用いることができる。これらのなかでも、グリセリン、エチレングリコール、ソルビトール、ソルビタンが好ましい。
【0026】
本発明のエマルジョン組成物の特徴は、エマルジョンの乳化安定性と味覚改善の両方を満たしていることである。ショ糖脂肪酸エステルは、ショ糖の構造により甘味であるが、ポリグリセリン脂肪酸エステルやリン脂質は独特の苦味などの不快な味であるため、配合が少ない方が好ましい。
【0027】
ショ糖脂肪酸エステルに対するポリグリセリン脂肪酸エステルの配合量は、等量以下にする必要があり、配合比としてはショ糖脂肪酸エステル:ポリグリセリン脂肪酸エステル=1:0.01〜1、好ましくは1:0.1〜1である。乳化安定性を維持するため、脂溶性成分に対してショ糖脂肪酸エステルの配合比は多い方が好ましく、脂溶性成分:ショ糖脂肪酸エステル=1:0.01〜2、好ましくは1:0.1〜1である。
【0028】
苦みを有するポリグリセリン脂肪酸エステルとリン脂質は、味覚の点からは配合量が少ないのが好ましいが、乳化安定性の点からは配合量が多いのが好ましく、脂溶性成分に対する配合比は、脂溶性成分、ポリグリセリン脂肪酸エステル、リン脂質=1:0.01〜0.4:0.01〜0.3であり、好ましくは1:0.1〜0.4:0.1〜0.3である。
【0029】
ポリオールの配合量は、エマルジョン組成物の粘度、乳化安定性や透明性を持たせるため、脂溶性成分、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、リン脂質、ポリオール、水の全量に対して、10〜70質量%であり、好ましくは20〜70質量%、より好ましくは30〜60質量%である。
【0030】
脂溶性成分の配合量は、脂溶性成分、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、リン脂質、ポリオール、水の全量に対して、0.1〜20質量%であり、好ましくは1〜15質量%、より好ましくは5〜15質量%である。
【0031】
上述の成分の配合量の残りは水であり、水以外の成分の配合比を設定した後、水で本発明の組成物の全体量を調節する。
【0032】
本発明では、上述の成分に加えてソルビタン脂肪酸エステルを配合することができ、リン脂質やソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルの配合量を減少させることができる。
本発明で用いるソルビタン脂肪酸エステルは、脂肪酸の炭素数が12以上のものであり、モノ体、ジ体のいずれでもよく、単独又は複数種類を混合して用いることができる。例えば、ソルビタンモノオレイン酸エステル、ソルビタンモノステアリン酸エステル、ソルビタンモノパルミチン酸エステル、ソルビタンモノミリスチン酸エステル、ソルビタンモノラウリン酸エステル、ソルビタンジオレイン酸エステル、ソルビタンジステアリン酸エステル、ソルビタンジパルミチン酸エステル、ソルビタンジミリスチン酸エステル、ソルビタンジラウリン酸エステルなどがあげられる。HLBから、好ましくは、ソルビタンモノステアリン酸エステル、ソルビタンモノパルミチン酸エステル、ソルビタンモノミリスチン酸エステルである。
【0033】
ソルビタン脂肪酸エステルは、ポリグリセリン脂肪酸エステルやリン脂質よりもにが味があり、味のマスキングもかねてショ糖脂肪酸エステルの配合量が需要であり、ソルビタン脂肪酸エステルの配合量は、ショ糖脂肪酸エステル:ソルビタン脂肪酸エステ=1:0.01〜1、好ましくはショ糖脂肪酸エステル:ソルビタン脂肪酸エステル=1:0.1〜1である。
【0034】
脂溶性成分の酸化や分解を防止するため、一般に用いられている抗酸化剤を添加することができる。例えば、トコフェノール類、トコトリエノール類などがあげられる。
【0035】
本発明において安定性とは、エマルジョン自体の乳化状態の乳化安定性を指す。より具体的には、乳化安定性とは、脂溶性成分の分解が押さえられること、粒子が壊れて油層が分離しないことである。また、明記している場合は脂溶性成分のうちカロテノイド、特にアスタキサンチンなど酸化分解を受けやすいものが含まれている場合の安定性とはアスタキサンチンの減少率が低いことを指す。
【0036】
本発明で不快な味とは、後述の実施例で詳細を述べるが、人での口腔内での官能試験によって、界面活性剤独特の苦い味や独特の嫌な味である。
【0037】
本発明のエマルジョン組成物は、透明性を有していることから平均粒子径800nm以下であり、好ましくは600nm以下であり、さらに好ましくは400nm以下である。後述の加温経時後でも透明性から、この平均粒子径を維持していると考えられる。
【0038】
以下に本発明のエマルジョン組成物の製造方法を述べる。
本発明のエマルジョンは、一般に脂溶性成分を含む水溶液の製造方法であればいずれの方法でも調整することができ、特別に強攪拌することなく容易に乳化安定性が高い平均粒子径1000nm以下の油滴を形成することができる。
【0039】
具体的には、(1)水にショ糖脂肪酸や必要に応じてポリオールを溶解させて水相を調整し、(2)脂溶性成分、ポリグリセリン脂肪酸エステルやレシチンなどの油溶性界面活性剤、必要に応じてポリオールを混合・溶解して油相を調整し、(3)水相と油相を混合して本発明のエマルジョンを製造する。
【0040】
各相や混合時の温度は、脂溶性成分の熱安定性、粘度、溶解性や混合性に応じて適宜設定すれば良く、室温から80℃の範囲で行えばよい。混合処理、分散処理に用いる装置としては通常の乳化装置を用いることができ、例えば、通常の攪拌機、ホモミキサー、連続流通式剪断装置、高圧ホモジナイザー、超音波分散機などである。特に脂溶性成分のエマルジョン径を300nm以下、特に100nm以下とし、より高い透明性や浸透性などを付与したい場合は、高圧ホモジナイザーなどの強攪拌機を用いればよい。
【0041】
着色料で着色されたエマルジョンは、常法に従って、例えば、ハイビスダッパー〔商品名、特殊機化工業(株)製〕などを用いて脱泡処理することができる。
【0042】
本発明のエマルジョン組成物は、水溶性であり、水性の飲食物や医薬品、化粧品に配合することが容易である。
【0043】
本発明のエマルジョン組成物を食品、化粧品、医薬品などに配合する場合の添加量は、製品の種類や目的などによって異なり一概には規定できないが、製品に対して、0.0001〜10質量%、好ましくは0.001〜5質量%の範囲で用いることができる。
添加量は、色素として配合する場合、製品の色調により適時量を調整でき、効用成分として配合する場合、効用効果が十分発揮される量を添加すればよい。
【0044】
一般食品、すなわち飲食物の形態例としては、マーガリン、バター、バターソース、チーズ、生クリーム、ショートニング、ラード、アイスクリーム、ヨーグルト、乳製品、ソース肉製品、魚製品、漬け物、フライドポテト、ポテトチップス、スナック菓子、かきもち、ポップコーン、ふりかけ、チューインガム、チョコレート、プリン、ゼリー、グミキャンディー、キャンディー、ドロップ、キャラメル、パン、カステラ、ケーキ、ドーナッツ、ビスケット、クッキー、クラッカー、マカロニ、パスタ、ラーメン、蕎麦、うどん、サラダ油、インスタントスープ、ドレッシング、卵、マヨネーズ、みそなど、又は果汁飲料、清涼飲料、スポーツ飲料などの炭酸系飲料又は非炭酸系飲料など、茶、コーヒー、ココアなどの非アルコール又はリキュール、薬用酒などのアルコール飲料などの一般食品への添加例を挙げることができる。特にアルコール含有飲料や酸性飲料など従来乳化安定性の維持が困難とされているものにも十分添加可能である。
【0045】
化粧品や皮膚外用剤の形態としては、特に限定されず、例えば、乳液、クリーム、化粧水、パック、分散液、洗浄料、メーキャップ化粧料、頭皮・毛髪用品等の化粧品や、軟膏剤、クリーム剤、外用液剤等の医薬品などとすることができる。上記成分以外に、通常化粧品や医薬品等の皮膚外用剤に用いられる成分、例えば、美白剤、保湿剤、各種皮膚栄養成分、紫外線吸収剤、酸化防止剤、脂溶性成分、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、色剤、水、防腐剤、香料等を必要に応じて適宜配合することができる。
【実施例】
【0046】
本発明をさらに詳細に説明にするために以下に実施例をあげるが、本発明がこの実施例のみに限定されない。
【0047】
[安定性試験]
エマルジョン組成物を10mlの容器に入れて密封し、50℃に保たれた恒温機中に保管した。一定期間後のエマルジョンの外観の目視、透過率、アスタキサンチンの残存量を測定した。
【0048】
[透過率測定]
エマルジョン組成物の透過率測定を日本分光(株)製のUbest-50 Spectrophotometerを用いて行った。得られた乳化物50mgを水で希釈して50mlとした。水を対照液として、波長750nmの透過率を測定した。透過率が95%未満の場合は、濁りを生じるため透明性が悪い。
【0049】
[カロテノイド含有量]
エマルジョン組成物の吸光度測定を日本分光(株)製のUbest-50 Spectrophotometerを用いて行った。得られた乳化物50mgをアセトンで希釈して100mlとした。アセトンを対照液として、波長474nmの吸光度を測定しカロテノイド含量を求めた。
【0050】
[添加試験−外観試験・風味試験]
エマルジョン組成物600mg(アスタキサンチン含量3mg相当量)を市販の飲料(充実野菜:伊藤園株式会社製)100mlに加えて試験液を調製し、試験液を瓶に充填して85℃で30分間加熱殺菌した。試験液の外観(濁り、沈殿、オイルリング等)を3人で見て確認した。さらに、試験液の試飲を行い、風味を3人で評価した。
【実施例1】
【0051】
[エマルジョン組成物の調整]
グリセリン150gを50℃に加温し、ポリグリセリン脂肪酸エステル9g、アスタリール50F 30g、ミックストコフェロール1.5g、レシチン6gを加えて混合・溶解して油相を調整し、水91.5gを50℃に加温し、ショ糖脂肪酸エステル12gを溶解して水相を調整し、油相と水相を混合して乳化した後、高圧ホモジナイザーで高圧乳化を行い、アスタキサンチン含有エマルジョン組成物を得た。
アスタリール50Fは、ヘマトコッカス藻からの脂溶性抽出物であり、アスタキサンチンをフリー体換算で5%含有する。ポリグリセリン脂肪酸エステルは日光ケミカルズ(株)製のデカグリン1-L(HLB15.5)、レシチンは辻製油(株)製のSLP-ペーストSP、ショ糖脂肪酸エステルは第一工業製薬(株)製のDKエステルSS(HLB19)を用いた。高圧ホモジナイザーは(株)エスエムテー製のLAB-2000を用いた。
【0052】
[ショ糖脂肪酸エステル:ポリグリセリン脂肪酸エステルの配合比の試験]
上記調整と同じ方法で、表1の組成でエマルジョン組成物を調整した。表2と表3に乳化安定性の結果を示す。また、添加試験の方法に従って試験液を調整し、その試験液の風味の評価を表4に示す。
【0053】
[表1] 成分−ショ糖脂肪酸エステル:ポリグリセリン脂肪酸エステルの配合比による影響

【0054】
[表2] 乳化安定性(透過率測定)

【0055】
[表3] 乳化安定性(外観による濁りの評価)

◎:濁りが無く透明、○:ほぼ透明、×:濁りがあり不透明
【0056】
[表4] 風味の評価

◎:良好、○:苦味なし、×:苦味
【0057】
表2と表3の結果より、ショ糖脂肪酸エステルとポリグリセリン脂肪酸エステルの配合比は1以下の場合、乳化安定性が高いことが分かる。表4の結果より、ショ糖脂肪酸エステルとポリグリセリン脂肪酸エステルの配合比は1以下の場合、風味が良いことが分かる。
【0058】
[脂溶性成分:ポリグリセリン脂肪酸エステルの配合比の試験]
前述のエマルジョン組成物の調整方法と同様に、表5の組成に従いエマルジョン組成物を調整した。表6と表7に乳化安定性の結果を示す。また、添加試験の方法に従って試験液を調整し、その試験液の風味の評価を表8に示す。
【0059】
[表5] 成分−脂溶性成分:ポリグリセリン脂肪酸エステルの配合比による影響

【0060】
[表6] 乳化安定性(透過率測定)

【0061】
[表7] 乳化安定性(外観による濁りの評価)

◎:濁りが無く透明、○:ほぼ透明、×:濁りがあり不透明
【0062】
[表8] 風味の評価

◎:良好、○:苦味なし、×:苦味
【0063】
表6と表7の結果より、脂溶性成分に対するポリグリセリン脂肪酸エステルの比が0.47未満の場合、乳化安定性が良いことがわかる。表8の結果より、脂溶性成分に対するポリグリセリン脂肪酸エステルの比が0.47未満の場合、風味が改善されることがわかる。また、全量に対してポリグリセリン脂肪酸エステルの配合量を4%未満とすることで、乳化安定性と風味が良いことが分かる。
【0064】
[リン脂質の配合量の試験]
前述のエマルジョン組成物の調整方法と同様に、表9の組成に従いエマルジョン組成物を調整した。表10と表11に乳化安定性の結果を示す。これらのエマルジョン組成物を飲料に添加した場合の乳化安定性の結果を表12に示す。
【0065】
[表9] 成分−リン脂質配合による影響

【0066】
[表10] 乳化安定性(透過測定)

【0067】
[表11] 乳化安定性(透過率による濁りの評価)

◎:濁りが無く透明、○:ほぼ透明、×:濁りがあり不透明
【0068】
[酸性清涼飲料への添加した場合の乳化安定性試験]
表9の調整物1,200mg(アスタキサンチン含量6mg相当量)を市販の飲料(アクエリアス、クー・オレンジ:コカコーラ株式会社製、アセロラドリンク:株式会社ニチレイ製)100mlに加えて試験液を調製し、試験液を瓶に充填して85℃で30分間加熱殺菌した。遮光下50℃で30日保存した。表12に外観の評価結果を示す。
【0069】
[表12] 結果(外観の評価)

○:良好、△:オイルリングの発生および器具壁に付着、×:濃いオイルリングの発生
【0070】
表10と表11の結果より、本発明のエマルジョン組成物単独ではレシチンの含量が1重量%以下の場合、乳化安定性が悪く、1%を超える場合、乳化安定性が高いことが分かる。表12の結果より、本発明のエマルジョン組成物を飲料に添加時は、レシチンが4%以上の場合、エマルジョンが分解して脂溶性成分が析出するのに対し、レシチンが4%未満の場合、エマルジョンが安定していることがわかれる。これらの結果より、レシチンの配合量は、1〜4%の場合が最適である。
【0071】
[アルコール飲料への添加による乳化安定性試験]
前述のエマルジョン組成物の調整方法と同様に、表13の組成に従いエマルジョン組成物を調整した。ついで、これらの溶液600mg(アスタキサンチン含量3mg相当量)を市販の焼酎(アルコール度数25°)1合に加えて試験液を調製した。得られた試験液を40℃に保った恒温機中に保管した。
表14に乳化安定性の結果を、表15にカロテノイドの残存率を示す。
【0072】
[表13] 成分

【0073】
[表14] 結果(乳化安定性)

◎:濁りが無く透明、○:ほぼ透明、×:濁りがあり不透明
【0074】
[表15] 結果(色素残存率)

◎:95%以上、○:90%以上、△:85%以上
【0075】
表14の結果より、いずれの調整物も調製時から40℃28日後においても油水分離、沈殿の発生は見られず、乳化安定性が高いことが分かる。表15の結果より、いずれも調製時から40℃28日後においてもアスタキサンチン残存率は90%以上であり、安定性が高いことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)脂溶性成分、(b)ショ糖脂肪酸エステル、(c)ポリグリセリン脂肪酸エステル、(d)リン脂質、(e)ポリオール、(f)水からなる乳化安定性の高いエマルジョン組成物。
【請求項2】
(b)ショ糖脂肪酸エステルと(c)ポリグリセリン脂肪酸エステルの配合比が1:0.01〜1であり、(a)脂溶性成分と(b)ショ糖脂肪酸エステルの配合比が1:0.01〜2である請求項1に記載のエマルジョン組成物。
【請求項3】
(a)〜(f)の全体に対して、(a)脂溶性成分が0.1〜20重量%、(e)ポリオールが10〜70重量%であって、
(a)脂溶性成分、(c)ポリグリセリン脂肪酸エステル、(d)リン脂質の配合比が1:0.01〜0.4:0.01〜0.3である請求項1〜2のいずれか1項に記載のエマルジョン組成物。
【請求項4】
(a)〜(f)の全体に対して、(a)脂溶性成分が1〜15重量%、(e)ポリオールが20〜70重量%であって、
(a)脂溶性成分、(c)ポリグリセリン脂肪酸エステル、(d)リン脂質の配合比が1:0.1〜0.4:0.1〜0.3である請求項1〜2のいずれか1項に記載のエマルジョン組成物。
【請求項5】
ソルビタン脂肪酸エステルを含有し、(b)ショ糖脂肪酸エステルとソルビタン脂肪酸エステルの配合比が、1:0.01〜1である請求項1〜4のいずれか1項に記載のエマルジョン組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに1項に記載のエマルジョンを含む飲食物。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに1項に記載のエマルジョンを含む化粧品。

【公開番号】特開2011−92083(P2011−92083A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−248691(P2009−248691)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(390011877)富士化学工業株式会社 (53)
【Fターム(参考)】