説明

安定化α−リポ酸組成物及びその利用

【課題】 α−リポ酸の変質、劣化を抑制した安定化α−リポ酸組成物、又、該安定化α−リポ酸組成物を産業上有効活用できる態様の組成物を提供すること。
【解決手段】
α−リポ酸の粉末及び/又は粒子の外表面を脂質類で被覆してなる安定化α−リポ酸組成物、α−リポ酸の粉末及び/又は粒子の外表面を脂質類で被覆した後、更にその外表面を親水系物質で被覆してなる安定化α−リポ酸組成物、又、これらにガルシニア・カンボジア果皮、アカショウマ根茎、グアバ葉及びカルニチンからなる群から選ばれる1種又は2種以上を併用してなる安定化α−リポ酸組成物が提供される。ここに、α−リポ酸は光学ラセミ体が望ましく、脂質類は融点が約40℃以上のものが好ましい。又、これらの安定化α−リポ酸組成物を含有してなる飲食品及び飼料が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の手段で調製された安定化α−リポ酸組成物及びその利用に関する。より詳しくは、脂質類等で被覆したα−リポ酸組成物を含有してなることを特徴とする熱安定性に優れたα−リポ酸含有組成物に係り、又、該安定化されたα−リポ酸含有組成物を配合してなる飲食品及び飼料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
α−リポ酸(以下、単にリポ酸という)は、チオクト酸、1,2−ジエチレン−3−ペンタン酸、1,2−ジエチレン−3−吉草酸、1,2−ジチオラン−6−ペンタン酸又は1,2−ジチアシクロペンタン−3−吉草酸等とも称せられる。淡黄色ないし黄色の結晶ないし結晶性粉末で、特異臭を有し、融点がラセミ体:60〜61℃、R体:46〜48℃、S体:45〜48℃であり、水にわずかに溶け、エタノール、アセトン等の有機溶剤や希アルカリ水に溶解する性質をもつ。リポ酸は植物、動物・ヒト、微生物の生体内で合成され、細胞のエネルギー産生に係る補酵素として知られ、グルコース解糖系から生じるピルビン酸、α−ケトグルタル酸等のα−ケト酸類の酸化的脱炭酸反応(例えば、生体のエネルギー産生系におけるピルビン酸からアセチルコエンザイムAへの変換)を触媒することが知られている。
【0003】
近年、リポ酸及びその還元型ジヒドロリポ酸(6,8−ジメルカプト−オクタン酸)の機能に関する研究が進み、これらは強力な抗酸化力を有することが注目されており、スーパーオキシドラジカル、ヒドロキシラジカル、ペルオキシラジカル、一重項酸素等の活性酸素種と親和性が高く容易に反応して活性酸素種の作用を失わしめ、生体組織へのダメージを低減させ、ビタミンCやグルタチオンとの相互作用により細胞膜を保護し、又、ビタミンEを再生する効力を有するといわれている(例えば、非特許文献1参照)。リポ酸の薬理作用については、リポ酸の投与により虚血性再灌流時の組織損傷、糖尿病、白内障、神経変性、放射線障害、炎症性疾患等の酸化ストレスの病態モデルに対して有効であることが報告されている(非特許文献2)。
【0004】
リポ酸は、その構造式中にジスルフィド結合及びカルボキシル基を有し、常温における安定性は優れるが、約30℃を超えると徐々に、とりわけ約40℃以上に加熱すると、容易に分解され及び/又は重合化反応が進行する欠点がある。ラセミ体に比べて純粋な光学異性体であるR−リポ酸及びS−リポ酸の方が重合しやすいといわれている。このため、リポ酸はそれ自体及びその還元型(ジヒドロリポ酸)の状態では前述の生理活性や薬理活性を発現するが、貯蔵保存下でも経時的にそれらの分解物や重合物が増え、これにともない所望の作用効果が低減するという欠点があった。
【0005】
これに鑑み、リポ酸のカルボキシル基をアミド化したリポ酸アミド(リポアミドともいう)やビタミンB1誘導体としてのオクトチアミン(チアミン−8−(メチル−6−アセチルジヒドロチオクテート)ジスルフィド)は医薬品原料として利用されている。リポ酸のシクロデキストリン類による包接化合物は味、安定性、消化性、生物学的有効性が改善され(特許文献1)、リポ酸をα−及びβ−シクロデキストリンで包接した錯体化合物ではリポ酸の1,2−チオラン部分がシクロデキストリンの空洞内に挿入されてS−S結合が加熱による劣化から保護され(非特許文献3)、リポ酸と酢酸フタル酸セルロース水性分散体及び微晶質セルロースからなる賦形剤とを組合せた製剤は胃腸管における化学的分解からリポ酸を保護する(特許文献2)等の提案がなされている。
【0006】
しかしながら、リポ酸のシクロデキストリン包接物におけるリポ酸含量は高々10重量%程度にすぎず、実用面において所望量のリポ酸を確保するためには該包接物を多量に使用しなければならず、又、これらの効果も十分とはいえない。さらに、リポ酸を配合する各種組成物の処方設計にあたっては、併用する他原料との組合せによる安定性をも勘案しなければならず、予備試験を実施してリポ酸の経時的低減量を推定し、それを補完するために予め増量しておく等の対策を講じているのが実情であり、製品のコストアップを招く大きな要因になっていた。したがって、より一層有効なリポ酸の安定化技術の開発が強く望まれていた。
【0007】
ところで、粉末や粒子等を芯物質としてその表面周囲をセルロース等の水溶性高分子物質や油脂等の疎水性物質で被覆する技術は従来から知られており、かかる被覆処理によって芯物質の味や香りを安定に保持させたり、吸湿を防止したり、粉体流動性を改善し、あるいは芯物質が水溶性成分である場合の該成分の漏出を防止したりすることが提案されている(特許文献3、4及び5)。しかし、かかる被覆処理による芯物質の保護作用は、香味成分等の品質保持、防湿性、水溶性成分の漏出防止等の効果に限定されており、芯物質の耐熱性を向上させ、加熱安定性を増加させ得る知見は見当たらない。
【0008】
【特許文献1】特開平7−188304号公報
【特許文献2】特表2002−516270号公報
【特許文献3】特開昭63−226250号公報
【特許文献4】特開平9−70285号公報
【特許文献5】特許第3512238号公報
【非特許文献1】Kagan V.E.等、“Dihydrolipoic acid−A universal antioxidant both in the membrane and in the aqueous phase.Reduction of peroxyl, ascorbyl and cromanoxyl radicals.”(アメリカ)、1992年、Biochem.Pharmacol.、第44巻、第8号、第1637頁〜第1649頁
【非特許文献2】Indrani Maitra等、“α−lipoic acid prevents buthionine sulfoximine−induced cataract formation in newborn rats.”(オランダ)、1995年、Free Radical Biology and Medicine、第18巻、4月号、第823頁〜第829頁
【非特許文献3】Tong Lin−Hui等、“Inclusion Complexes of α−and β−Cyclodextrin with α−Lipoic Acid.”(オランダ)、1995年、Journal of Inclusion Phenomena and Molecular Recognition in Chemistry、第23巻、第119頁〜第126頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
すなわち、本発明はリポ酸の分解や重合等の変質を抑制し、安定化したリポ酸組成物を開発し、これを産業上有効に活用できる態様の組成物を提案することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明者らは、リポ酸の安定化方法について鋭意検討を重ねた結果、リポ酸を特定の方法で被覆することにより、とりわけ加熱によるリポ酸の劣化や損失を抑制でき、リポ酸を安定に維持できること、また、この安定化リポ酸組成物を飲食品、飼料、化粧品、医薬品等の分野に有効利用できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明によれば、リポ酸の粉末及び/又は粒子の外表面を脂質類で被覆してなる安定化リポ酸組成物が提供され、又、リポ酸の粉末及び/又は粒子の外表面を脂質類で被覆した後、更にその外表面を親水系物質で被覆してなる安定化リポ酸組成物が提供される。これらの組成物において、リポ酸は光学的にラセミ体であることが好ましく、脂質類は融点が約40℃以上の脂肪酸グリセリドであることが望ましく、親水系物質は多糖類、酵母細胞壁、ゼラチン、大豆たん白等から選ばれるものが好適である。又、リポ酸の粉末及び/又は粒子の外表面を脂質類で被覆するためには、粉状脂質類をα−リポ酸の粉末及び/又は粒子に接触させ、該粉末及び/又は粒子の外表面に前記粉状脂質類を付着させてその被覆膜を形成させることが望ましい。更に、本発明によれば、脂質類や親水系物質とともにガルシニア・カンボジア果皮、アカショウマ根茎、グアバ葉及びカルニチンからなる群から選ばれる1種又は2種以上を含んでなることを特徴とする前記安定化リポ酸組成物が提供される。又、これらの安定化リポ酸組成物を含有してなる飲食品及び飼料が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の安定化リポ酸組成物は、製造時や保存時の安定性とりわけ加熱処理を経た場合の安定性に優れ、加熱にともなうリポ酸の劣化を阻止でき、リポ酸含有物中のリポ酸含量の減少を防止できる。このため、飲食品や飼料等の分野において有効活用が期待されるリポ酸を配合した製品の品質向上及びコストダウンに寄与し、所定配合量のリポ酸に見合う所望の機能(前述の生理活性及び薬理活性等)を発現させることが可能となり、前記利用分野における各種製品の寿命を延長させることも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明を詳細に説明する。本発明に係る安定化リポ酸組成物の第1の形態は、リポ酸の粉末及び/又は粒子の外表面を脂質類で被膜してなるものである。ここで、リポ酸の起源や種類は特に限定されるものではなく、牛や豚の肝臓等臓器の天然物由来品や、エチレン及びアジピン酸エステルを出発原料とする化学的合成品等公知の方法で採取、製造されたものでよい。リポ酸は不斉炭素を有するため鏡像異性体((R)−エナンチオマー及び(S)−エナンチオマー)が存在するが、本発明に係るリポ酸はこれらのいずれか単独でも任意割合の混合物でもよく、また、ラセミ混合物やラセミ体でも差し支えない。商業ベースでの実施においては、安価で容易に入手できる市販ラセミ体を利用するのが簡便であり、ラセミ体を用いると本発明の所望の効果をより強力に発現する傾向が大きい。
【0014】
リポ酸の表面を被覆する脂質類は、本発明が利用される産業分野において許容されるものであればよく、一般の食用油脂類又は工業用油脂類、脂肪酸グリセリド類、脂肪酸類、脂肪酸エステル類、脂肪酸アミド類、高級アルコール類、ワックス類、ステロール類、糖脂質類、リン脂質類等を単独で又は組合せて利用できる。これらのうち、被覆作業性及び被覆物の物性(安定性、固化性、流動性、溶融性、溶解性等)を考慮すると、融点が約30℃以上の脂質類がよい。より好ましい形態は融点が約40℃〜約70℃の脂質類であり、更に好ましい形態は融点が約40℃〜約60℃の脂質類である。融点が約30℃を下回ると、被覆物がその使用時に固形状態を維持できない場合があり、塊状物を形成することがあり、あるいは流動性を損なう場合がある。逆に、約70℃を上回ると、本発明のリポ酸組成物を製造する際の加熱処理や機械的エネルギーの影響でリポ酸自体が劣化するおそれがある。
【0015】
このような脂質類の具体例として、大豆油、菜種油、コーン油、ヒマワリ油、綿実油、小麦胚芽油、米油、ゴマ油、オリーブ油、サフラワー油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、亜麻仁油、落花生油等の植物系油脂、牛脂、ラード、魚油等の動物系油脂、これらに分別、エステル交換、脱色、脱臭等の処理のうち1以上を施した加工油脂、これらを部分的又は完全に水素添加処理した各種硬化油、炭素数2〜22の飽和脂肪酸(酢酸、酪酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、イソステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸等)若しくは不飽和脂肪酸(パルミトレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、α−リノレン酸、γ−リノレン酸、リシノール酸、アラキドン酸、イコサペンタエン酸(EPA)、エルカ酸、ドコサヘキサエン酸(DHA)等)、これらの任意の脂肪酸の塩類(ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等)、1価アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等)とのエステル類、多価アルコール(エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、エリスリトール等のモノマーないしポリマー)との部分若しくは完全エステル類、又はグリセリド類(モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド)、炭素数10〜22の高級アルコール類(デカノール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セタノール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルロール、ベヘニルアルコール等)、ワックス類(カルナウバワックス、ライスワックス(米糠ロウ)、キャンデリラワックス等の植物由来ワックス、ミツロウ、鯨ロウ、セラックロウ等の動物由来ワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の石油由来ワックス、モンタンロウ、オゾケライト等の鉱物由来ワックス、ポリエチレンワックス、前記脂肪酸類と前記高級アルコール類とのエステル等の合成ワックス)、ステロール類(動物性のコレステロール、植物性のカンペステロール、スチグマステロール、シトステロール等、菌類由来のエルゴステロール、これらの誘導体)、リン脂質類(動植物由来のレシチン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、スフィンゴミエリン等)、糖脂質類(モノグルコシルジグリセリド、モノガラクトシルジグリセリド、ジグルコシルモノグリセリド、ジガラクトシルモノグリセリド、モノグルコシルジグリセリド、ジガラクトシルジグリセリド、ショ糖脂肪酸エステル等)を挙げることができる。なお、本発明はこれらの例示によって何ら限定されるものではない。
【0016】
本発明では前記各種脂質類のいずれか1種又は2種以上の混合物として使用できるが、好適な脂質類の種類は、前記の食用油脂類又は工業用油脂類、脂肪酸グリセリド類、脂肪酸エステル類及びワックス類であり、より好ましくは食用油脂類及び脂肪酸グリセリド類であり、又、これらと脂肪酸類、高級アルコール類、ステロール類、糖脂質類又はリン脂質類から選ばれる1種又は2種以上との組み合わせは被覆脂質の融点調整、被覆膜強化等の点からさらに望ましい態様である。
【0017】
リポ酸の粉末及び/又は粒子の外表面を脂質類で被膜するには、公知の方法を利用できる。すなわち、ボールミル、フラッシュブレンダー(粉粒体混合機)、V型混合機、高速ミキサー、高速パドルミキサー、加熱溶融混合機、超音波過湿加液型混合機、タンブラー混合機、加圧押出機等を用い、リポ酸の粉末及び/又は粒子と加熱溶融した脂質類とを均一に混合し、冷却して固化させた後これを粉砕する方法、リポ酸の粉末及び/又は粒子に適宜加熱して液状化した脂質類を噴霧あるいは滴下して被覆する方法、リポ酸の粉末及び/又は粒子と粒子状の脂質類とを高速攪拌して混合し、両者を接触又は衝突させることによってリポ酸の粉末及び/又は粒子の表面全体に粒子状の脂質類を均一に付着させて被覆する方法等が可能である。本発明では、これらのうち、リポ酸の粉末及び/又は粒子と特定融点以上の粒子状脂質類とを高速攪拌して混合し、両者を接触又は衝突させて、リポ酸の粉末及び/又は粒子の表面全体に粒子状の脂質類を均一に被覆させる方法が望ましい。
【0018】
前述の被覆処理にあたり、リポ酸の粉末及び/又は粒子と脂質類との比率は、リポ酸の粉末や粒子の形状及びサイズ、脂質類の種類及び融点、被覆膜の厚みと性状等の要因によって一律に規定することは難しいが、概ね、リポ酸の粉末及び/又は粒子1重量部に対して脂質類約0.05重量部〜約10重量部、好ましくは約0.1重量部〜約5重量部である。脂質類が約0.05重量部未満であると被覆状態が十分でなく所望の効果を発現し難くなり、逆に約10重量部を超えると被覆物中のリポ酸含量が少なく、被覆物を利用する場面において配合率等が制限され実用的価値を損なう場合がある。
【0019】
本発明に係る安定化リポ酸組成物の第2の形態は、リポ酸の粉末及び/又は粒子の外表面を脂質類で被覆した後、更にその外表面を親水系物質で被覆してなるものである。この形態におけるリポ酸や脂質類の種類、脂質類による被覆方法等は第1の形態と同じである。親水系物質とは、脂質類による被覆物の外表面を更に被覆し、水性物質と親和性を有する被覆膜形成能のあるものをいい、具体例として多糖類(キサンタンガム、グアーガム、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム等)、澱粉及び化工澱粉、酵母細胞壁成分、グルカン、マンナン、シェラック、アルギン酸ソーダ、ゼラチン、カラギーナン、プルラン、カルボキシメチルセルロース、大豆たん白、ホエーたん白、ツェイン等を挙げることができる。より好適には多糖類、澱粉、酵母細胞壁成分、シェラック、ゼラチン、大豆たん白、ツェイン及びマンナンからなる群から選択される1種又は2種以上のものであり、更に望ましくは酵母細胞壁成分、シェラック及びゼラチンである。
【0020】
本発明においては、前記親水系物質を適宜に水、エタノール、その他の溶媒に溶解させた液状物となし、これを予め脂質類で被覆したリポ酸組成物の外表面に付着、乾燥して親水系物質の被覆膜を形成させることができる。かかる被覆物は親水系物質を最外層とする二重被覆構造となり、飲食品や飼料に利用する場合、水性の原料や成分との親和性が高まり、これらと水溶解性の小さいリポ酸との均質な組成物を調製することが容易になる。
【0021】
かくして得られる安定化リポ酸組成物は、本発明の所望効果すなわち加熱処理にともなうリポ酸の損失を防止することができるが、本発明では更に望ましい態様として、前述のようにして得られるリポ酸組成物がガルシニア・カンボジア果皮、アカショウマ根茎、グアバ葉及びカルニチンからなる群から選択される1種又は2種以上を含有してなる安定化リポ酸組成物が提供される。
【0022】
ガルシニア・カンボジア(Garcinia Cambogia)は、南アジア地域で従来から飲食されてきた天然果物であって、その果皮からヒドロキシクエン酸を含むエキスが抽出され、肥満防止やダイエットを期待する飲食品等に利用されている。ヒドロキシクエン酸は、オレンジ、蜜柑類に含まれるクエン酸に類似した物質であって、ホルモン分泌を促進させて食欲を抑制させることなく、生体脂肪合成を阻止し、グリコーゲン合成を増加させて食欲を抑制する特徴がある。本発明ではガルシニア・カンボジア果皮の乾燥粉末、水及び/又は親水性有機溶媒(メタノール、エタノール、アセトン等)による抽出エキス、その分画物、精製物等を適宜に使用できる。
【0023】
アカショウマ(Astilbe thunbergii)は、ユキノシタ科チダケサシ(Astilbe)属に属する植物であり、アカショウマ、トリアシショウマ、アワモリショウマ、チダケサシ等を同類物として含み、赤升麻あるいは紅升麻と称せられるものも包含する。この根茎はデンプンやタンニンのほかにベルゲニン、アスチルビン、アスチルビン酸等のフラボノイド類を含むことが知られており、古来より下熱、解毒、消炎等の目的で飲食されてきた。本発明では、これらアカショウマの根及び/又は根茎の乾燥物及びその粉末、これらを水及び/又は親水性有機溶媒(メタノール、エタノール等)で抽出したエキス、該エキスの吸着剤による分画物、溶剤分別物又は精製物を適宜に使用できる。
【0024】
グアバは、熱帯アメリカ原産のフトモモ科に属する植物で、熱帯地域で栽培され、その果汁はジュース飲料として利用されている。グアバの葉部はタンニンを主体としたポリフェノール類を含み、α−アミラーゼやリパーゼといった消化系酵素の阻害作用に基づく肥満防止用飲食品、血糖値低下作用及びこれを期待した飲料、チロシナーゼ阻害作用に基づく美白剤等が公知である。本発明ではグアバの葉(焙煎処理したものを含む)の乾燥物、その粉砕物、水及び/又は親水性有機溶媒(低級1価アルコール、アセトン等)による抽出物、その分画物や溶剤分別物又は精製物を適宜に使用できる。
【0025】
カルニチンは、動物、微生物等の体内で産生され、L−カルニチンは筋肉細胞における体内脂肪の燃焼(長鎖脂肪酸をミトコンドリアに導入)を促進し、血中コレステロール増加抑制作用等を有するため、ダイエットや体重減量のための飲食品に利用されている。又、従来から塩化カルニチン(DL体)が慢性胃炎の治療薬として利用されてきた。本発明では、D−カルニチン、L−カルニチン及びDL−カルニチン、これらの塩類(酒石酸塩、フマル酸塩等)を使用でき、その態様は天然物(牛肉、羊肉等の獣肉)からの抽出物、微生物の発酵産物からの精製物、化学合成品(例えば、リジン及びメチオニンを原料)のいずれも利用が可能であり、適用する用途により適宜に選択すればよい。
【0026】
前記リポ酸と併用するガルシニア・カンボジア果皮、アカショウマ根茎及びグアバ葉は、それらの抽出物、分画物、分別物又は精製物が望ましい態様であり、カルニチンを含めて単独でも2種以上の組み合わせでも使用してよく、より好ましくはアカショウマ根茎及びカルニチンであり、最も好ましくはカルニチンである。
【0027】
これらの併用原料を、前述のリポ酸組成物に含有せしめることによって、本発明の所望の効果(加熱処理によるリポ酸の損失防止)をより一層向上させることができる。リポ酸組成物に該併用原料を含有せしめる態様は、(i)リポ酸の粉末及び/又は粒子に脂質類を被覆した被覆物に前記併用原料を混合する、(ii)リポ酸の粉末及び/又は粒子と前記併用原料とを混合したものに脂質類を被覆する、(iii)リポ酸の粉末及び/又は粒子に、前記併用原料の一部を分散ないし溶解させた脂質類を被覆する、(iv)リポ酸の粉末及び/又は粒子に脂質類を被覆した被覆物に、前記併用原料及び前記親水系物質を含む溶解液、分散液又は乳化液を付着、乾燥して被覆する、のいずれも可能であり、これらの態様を組合せたものでも差し支えない。本発明では、(i)及び(iv)の態様が本発明の所望効果を奏し、製造が簡便であり、被覆物の取扱い作業性もよいが、(ii)及び(iii)の態様が所望の効果をより強力に発現しやすい。かかる態様において、リポ酸の粉末及び/又は粒子に脂質類又は脂質類及び親水系物質を被覆した被覆物と前記併用原料との混合比率は、該被覆物1重量部に対して前記併用原料が約0.01重量部〜約10重量部、より好ましくは約0.1重量部〜約1重量部である。約0.01重量部未満の場合は、併用原料の混合による所望効果の向上が認められなくなり、約10重量部を超える量では前記被覆物中さらにはリポ酸組成物中のリポ酸含有量が低下し、ひいてはリポ酸組成物を配合する各種製品中のリポ酸含量を制限することになり、該製品段階においてリポ酸自体の所望効果が期待できなくなる。
【0028】
本発明のリポ酸組成物は、これ自体を飲食品、飼料、その他産業分野の様々な製品とすることができ、又、当該各種製品の配合原料の一部として適用する形態でも利用できる。これらの事例を以下に述べるが、本発明はこれによって何ら制限を受けるものではない。
【0029】
飲食品の具体例として、野菜ジュース、果汁飲料、清涼飲料、茶等の飲料類、スープ、ゼリー、プリン、ヨーグルト、ケーキプレミックス製品、菓子類、ふりかけ、味噌、醤油、ソース、ドレッシング、マヨネーズ、植物性クリーム、味噌、焼肉用たれや麺つゆ等の調味料、麺類、うどん、蕎麦、スパゲッティ、ハムやソーセージ等の畜肉魚肉加工食品、ハンバーグ、コロッケ、ふりかけ、佃煮、ジャム、牛乳、クリーム、バター、スプレッドやチーズ等の粉末状、固形状又は液状の乳製品、マーガリン、パン、ケーキ、クッキー、チョコレート、キャンディー、グミ、ガム等の各種一般加工食品のほか、粉末状、顆粒状、丸剤状、錠剤状、ソフトカプセル状、ハードカプセル状、ペースト状又は液体状の栄養補助食品、特定保健用食品、機能性食品、健康食品、濃厚流動食や嚥下障害用食品の治療食等を挙げることができる。
【0030】
これらの飲食品を製造するには、公知の原材料及び本発明のリポ酸組成物を用い、あるいは公知の原材料の一部を本発明のリポ酸組成物で置き換え、公知の方法によって製造すればよい。例えば、本発明のリポ酸組成物と、必要に応じてグルコース(ブドウ糖)、デキストリン、乳糖、澱粉又はその加工物、セルロース粉末等の賦形剤、ビタミン、ミネラル、動植物や魚介類の油脂、たん白(動植物や酵母由来の蛋白質、その加水分解物等)、糖質、色素、香料、酸化防止剤、その他の食用添加物、各種栄養機能成分を含む粉末やエキス類等の素材とともに混合して粉末、顆粒、ペレット、錠剤等の形状に加工したり、常法によ前記例の一般食品に囲う処理したり、これらを混合した液状物をゼラチン、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース等で被覆してカプセルを成形したり、飲料(ドリンク類)の形態に加工して、栄養補助食品や健康食品として利用することは好適である。とりわけ錠剤、カプセル剤やドリンク剤が望ましい。
【0031】
かかる飲食品に配合する本発明のリポ酸組成物の比率は、飲食品の形態、配合原料や成分、使用頻度、リポ酸組成物中のリポ酸含量等のちがいにより一律に規定しがたいが、飲食品中のリポ酸含量が約0.1重量%〜約90重量%となるように、リポ酸の脂質被覆物を、さらにはガルシニア・カンボジア果皮、アカショウマ根茎、グアバ葉及びカルニチンから適宜選ばれる併用原料、及びその他の飲食品用原料を適宜に組み合わせて処方を設定し、常法に従い目的とする飲食品を調製すればよい。リポ酸含量が約0.1重量%を下回るような飲食品ではリポ酸による生理活性を期待するためには多量の当該飲食品を摂取しなければならず、一方約90重量%が本発明の飲食品中の最大リポ酸含量である。かくして得られる本発明の飲食品は、1日あたりのリポ酸摂取量の目安を約10mg〜約1000mg、望ましくは約30mg〜約500mg、さらに望ましくは約50mg〜約200mgとして任意の方法で摂取することができる。
【0032】
飼料の例としては家畜用飼料、ペットフード、魚類用餌料等がある。本発明のリポ酸組成物は、該組成物をそのまま、該組成物を蓄積した生物餌料として、及び/又は該組成物を含有する飼料等の形態で利用でき、牛(肉用牛、乳牛、子牛)、豚、馬、ヒツジ、ヤギ、ニワトリ、アヒル等の家畜・家禽動物、海水系及び淡水系の養殖魚(成魚及び稚魚)、イヌ、ネコ、ハツカネズミ等のペットを対象にすることができる。
【0033】
本発明の飼料は、本発明のリポ酸組成物とともに魚粉、魚油、大豆粕、小麦グルテン、澱粉、セルロース粉末、酵母、クロレラ、スピルリナ等を適宜に配合した既存の配合飼料用原料や必要に応じて牧草(クローバ、アルファルファ(ムラサキウマゴヤシ)、レンゲ等のマメ科植物、オーチャードグラス(カモガヤ)、イタリアングラス等のイネ科植物、ハトムギ、エンバク、ライムギ、オオムギ、コムギ等のムギ科植物など)、カンショ、ビート、コンフリー、ヒマワリ、カボチャ等の根葉菜類、ササ、シバ、ススキ、メドハギ、ヤハズソウ等の野草類、水草類等を用い、これらを混合し、適宜に成型して粉末状、ペレット状、塊状等の形態となすことができる。また、本発明のリポ酸組成物を栄養強化物として給餌して飼育したシオミズツボワムシ等のワムシ類、アルテミア、チグリオパス、モイナ、カキ幼生、ミジンコ等はその生体内にリポ酸を蓄積せしめることができるため、これらを養殖魚介類の仔稚魚の生物餌料とすることも可能である。なお、本発明の飼料には前記原料のほか公知の飼料用添加物や飼料用添加剤等を併用できる。
【0034】
飼料用添加物として、抗生物質(亜鉛バシトラシン、エンラマイシン、セデカマイシン、リン酸タイロシン、クロルテトラサイクリン等)、ビタミン類(ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD3、コレカルシフェロール、ビタミンE、酢酸−dl−α−トコフェロール、ビタミンK3、ビオチン、葉酸、パントテン酸、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、塩化コリン、パントテン酸、イノシトール等)、ミネラル類(炭酸亜鉛、硫酸亜鉛、硫酸鉄、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、炭酸マンガン、硫酸マンガン、硫酸銅、硫酸コバルト等)、アミノ酸類(塩酸−L−リジン、DL−メチオニン、L−スレオニン等)、カロチノイド類(β−カロテン、アスタキサンチン等)、有機酸類(ギ酸、フマル酸等)、抗カビ剤(プロピオン酸、プロピオン酸ナトリウム、プロピオン酸カルシウム)、抗酸化剤(ジブチルヒドロキシトルエン、エトキシキン等)、乳化剤(グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ボリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等)、酵素類(アミラーゼ、酸性プロテアーゼ等)を例示できる。又、前記添加剤の例としてアンプロリウム、スルファモノメトキシン、スルファジメトキシン、ベンジルペニシリウムプロカイン、硫酸ストレプトマイシン等を挙げることができる。
【0035】
本発明の飼料中のリポ酸含量は、前記飲食品の場合と同様に一律には規定しがたいが、概ね約0.01重量%〜約90重量%となるように、リポ酸の脂質被覆物を、さらにはガルシニア・カンボジア果皮、アカショウマ根茎、グアバ葉及びカルニチンから適宜選ばれる併用原料、及びその他の飼料用原料を適宜に組み合わせて処方を設定し、常法に従い目的とする飼料を調製すればよい。前記範囲を下回るリポ酸含有飼料では、多量に摂食しなければリポ酸による生理活性作用を期待できず、逆に前記範囲を上回るリポ酸含量の飼料は処方上不可能である。本発明の飼料は、1日あたりのリポ酸摂取量の目安を約0.1mg〜約500mg、望ましくは約1mg〜約300mg、さらに望ましくは約5mg〜約100mgとして任意の方法で接餌させればよい。
【実施例】
【0036】
次に、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。各例において、%及び部はいずれも重量基準である。
【0037】
(実施例1)
粉末状のリポ酸(ドイツ・デグサ社製、商品名:ALIPURE。以下同じ)300gに加熱溶融したナタネ硬化油(川研ファインケミカル(株)製、融点:67℃、フレーク状)200gを加え、よく混合して均一に分散させた後、室温に冷却固化させた。ついで、該固化物を高速ミキサーで粉砕し、100メッシュ(タイラーメッシュ。以下同じ。)で篩過して粒子径が150μm以下の本発明のリポ酸組成物(試料1とする)を得た。
【0038】
(実施例2)
粉末状のリポ酸200gに、ナタネ硬化油(実施例1で用いたもの)100g及びアカショウマ根茎エキス(ビーエイチェヌ(株)製、商品名:アカショウマエキス末)40gを70℃で均質に混合した液状物を添加し、実施例1と同様に処理して本発明のリポ酸組成物(試料2とする)を得た。
【0039】
(実施例3)
粉末状のリポ酸250gに、大豆硬化油(植田製油(株)製、融点:47−48℃)175g、ガルシニア・カンボジア果皮エキス(日本新薬(株)製、商品名:ガルシニアパウダーS)50g、グリセリン50g、ヤシ油分解脂肪酸モノグリセリド15g及びミツロウ10gを60℃で均質に混合した液状物を添加し、室温で冷却固化させる代わりに冷蔵庫で冷却固化させることを除き実施例1と同様に処理して本発明のリポ酸組成物(試料3とする)を得た。
【0040】
(実施例4)
粉末状のリポ酸200gと粉末状ナタネ硬化油(川研ファインケミカル(株)製、融点:60℃、平均粒子径が約20μm)200gとを、微粒子コーティング造粒装置((株)パウレック製、型式:MP−25SFP)に入れ、攪拌混合ファンブレードの回転数1000rpmで30分間流動、混合して前記両原料を接触、衝突させて平均粒径が約100μmの本発明のリポ酸組成物(試料4とする)を得た。
【0041】
(実施例5)
実施例4において、粉末状のリポ酸200gを粉末状リポ酸150g及びグアバ葉エキス(ビーエイチエヌ(株)製、商品名:グァバ葉エキス末−S)50gの混合物に置きかえたこと以外は同様にして処理し、本発明のリポ酸組成物(試料5とする)を得た。
【0042】
(実施例6)
実施例4記載のコーティング造粒装置に粉末状のリポ酸200gを仕込み、攪拌流動させながら、大豆油:30部、カルナウバワックス:50部及び大豆ステロール:20部からなる脂質混合物100g、L−カルニチン−L−酒石酸塩(ロンザジャパン(株)製)30g、及びショ糖ベヘン酸エステル(三菱化学フーズ(株)製、リョートーシュガーエステル、HLB:1〜2)20gを70℃に加熱、溶融、混合した均質液状物をスプレーノズルから噴出させてリポ酸表面を被覆し、本発明のリポ酸組成物(試料6とする)を得た。
【0043】
(実施例7〜11)
本発明のリポ酸組成物(試料1、2、4、5及び6)のいずれかの一部を実施例4記載のコーティング造粒装置(但し、型式:MP−01SFP)に仕込み、攪拌流動させながら、酵母細胞壁8.5%を含む分散液(キリンビール(株)製、商品名:イーストラップ)又はシェラック20%を含む含水エタノール液を噴霧させて各粒子の表面を親水系物質で被覆し、二重被覆した本発明のリポ酸組成物(試料7〜11とする)を得た。
【0044】
(比較例1〜8)
以下に述べる加熱安定性試験に供するための比較試料として、実施例1に記載の粉末状リポ酸そのもの(比較試料1とする)、該リポ酸と実施例4に記載の粉末状ナタネ硬化油との等重量混合物(比較試料2とする)、及び該リポ酸の外表面を実施例7に記載の方法に準じて酵母細胞壁で被覆した組成物(比較試料3とする)をそれぞれ調製した。又、粉末状リポ酸と前記のガルシニア・カンボジア果皮エキス末、アカショウマ根茎エキス末、グアバ葉エキス末又はカルニチンとの各等重量混合粉末(それぞれ比較試料4、5、6及び7とする)、実施例6においてL−カルニチン−L−酒石酸塩30gをコレウス・フォルスコリ根部エキス(Coleus forskohli、サビンサ社製)の同量に置きかえること以外は同様に処理して得られるリポ酸被覆物(比較試料8とする)を調製し加熱安定性試験に供した。
【0045】
(試験例:加熱安定性試験)
前述の試料1〜11及び比較試料1〜8の加熱安定性を以下に述べる方法で試験した。すなわち、白色蓋付き褐色瓶(50mL容)に前記試料の1種類10gを入れ、密閉し、遮光下、恒温槽中にて50℃で保存して、経時的にサンプリングして高速液体クロマトグラフィーを用いて各試料の組成を分析した。分析条件は、カラム:信和化学(株)製「ULTRON VX−ODS」4.6ID×250mm、カラム温度:35℃、溶出溶媒:リン酸でpH3.0に調整したメタノール/アセトニトリル/0.005Mリン酸二水素カリウム(1160:180:920)、流速:1.2mL/min、検出波長:215nm)であった。その結果を表1に示す。表1において、各数値はリポ酸(1,2−ジチオラン−6−ペンタン酸)の初期含有量を100としたときの相対値で表示した。
【0046】
【表1】

【0047】
表1から、粉末状のリポ酸は経時的に変性してリポ酸残存量が減少する(比較試料1)が、これを脂質類で被覆したリポ酸組成物の場合(試料1〜11)はリポ酸含量の低減傾向が抑制されて安定性が増す効果が認められた。この熱安定化効果はリポ酸に特定物質を単に混合併用するだけ(比較試料4〜7)では発現せず、本発明の方法によって併用すること(試料2、3、5、6及び試料8、10、11)によりさらに顕著になることが明らかになった。又、併用原料として用いる前記特定物質は、その種類によって、本発明の所望の効果を奏しないことがある知見も得られた。
【0048】
(実施例12:飲食品)
本発明のリポ酸組成物(試料1)150部、アカショウマエキス末(ビーエイチエヌ(株)製)20部、ミツロウ30部及び月見草油50部の割合の原料を約45℃で十分に混合して均質な状態にした後、カプセル充填機に供して、常法により1粒あたりの内容量が250mgのゼラチン被覆カプセル製剤を試作した。このカプセル製剤は栄養補助食品として経口摂取できるものである。
【0049】
(実施例13:飲食品)
本発明のリポ酸組成物(試料2)47部、ブドウ種子エキス(キッコーマン(株)製、「グラビノール」)20部、シスチン25部、ハス胚芽エキス末(丸善製薬(株)製)20部、クレアチン(ドイツ・デグサ社製、「クレアピュア」)25部、リボフラビン(DSMニュートリション・ジャパン(株)製)7部、マルチトール(東和化成(株)製)105部、リン酸三カルシウム(米山化学工業(株)製)105部及びセルロース26部を混合機に仕込み、10分間攪拌混合した。この混合物を直打式打錠機に供して直径7mm、高さ4mm、重量150mg/個の素錠を作成し、ついでコーティング機でシェラック被膜を形成させて錠剤形状の食品を試作した。これを40℃恒温槽で2ヵ月間保存し、前記試験例の高速液体クロマトグラフィー分析条件に準じてリポ酸含量を分析したところ変化はなかった。
【0050】
(実施例14:飲食品)
市販のオレンジジュース1Lに本発明のリポ酸組成物(試料7)20gを加えて十分に混合し均質なオレンジ風味飲料を試作した。これは冷蔵庫で1週間保存しても外観及び風味に異状及び違和感は認められず、前記試験例の高速液体クロマトグラフィー分析条件に準じて分析したリポ酸含量も変化なかった。ちなみに、比較試料2を同量配合したものは、風味が変化し、特有の苦味があり、リポ酸含量は試作当初量の87%であった。
【0051】
(実施例15:ペットフード)
本発明のリポ酸組成物(試料10)30部、冷凍牛肉50部、大豆油2部、小麦蛋白5部、プロピレングリコール5部、デンプン8部、発色剤及び保存料少量を粗砕し、混練して棒状に成形した後、室温で乾燥した。ついで、これをペレット状(容積0.5立方センチメートル)に切断してモイストタイプのドッグフード(水分含量:30%)を試作した。このものは、40℃で3ヵ月保存してもリポ酸含量に変化はなく、外観及び風味にも異状は認められなかった。
【0052】
(実施例16:養魚用飼料)
魚粉500部、イカミール300部、本発明のリポ酸組成物(試料5)70部、市販のビタミンミックス45部及びミネラルミックス20部、イカ肝油20部、フィードオイル15部、大豆レシチン20部、ホタテエキス10部及び水1500部を均一に分散させ、噴霧乾燥して粉末化した後、流動造粒機で乾燥、造粒して粒状の養魚用飼料を試作した。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の安定化リポ酸組成物はリポ酸の熱安定性を改善しているため、これを適用した飲食品及び飼料は、それらに含有されたリポ酸の経時的な低減を抑制でき、品質保証面における商品寿命を延長することができ、所定配合量に見合う機能活性を発現し得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−リポ酸の粉末及び/又は粒子の外表面を脂質類で被覆してなる安定化α−リポ酸組成物。
【請求項2】
α−リポ酸の粉末及び/又は粒子の外表面を脂質類で被覆した後、さらにその外表面を親水系物質で被覆してなる安定化α−リポ酸組成物。
【請求項3】
親水系物質が多糖類、酵母細胞壁、シェラック、ゼラチン、大豆たん白、ゼイン、マンナン及び澱粉からなる群から選ばれる1種又は2種以上である請求項2に記載の安定化α−リポ酸組成物。
【請求項4】
α−リポ酸が光学的ラセミ体である請求項1〜3のいずれか1項に記載の安定化α−リポ酸組成物。
【請求項5】
脂質類が融点40℃以上の脂肪酸グリセリドである請求項1〜4のいずれか1項に記載の安定化α−リポ酸組成物。
【請求項6】
脂質類で被覆することが、粉状脂質類をα−リポ酸の粉末及び/又は粒子に接触させ、該粉末及び/又は粒子の外表面に前記粉状脂質類の被覆膜を形成させることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の安定化α−リポ酸組成物。
【請求項7】
ガルシニア・カンボジア果皮、アカショウマ根茎、グアバ葉及びカルニチンからなる群から選ばれる1種又は2種以上をさらに含有してなるものである請求項1〜6のいずれか1項に記載の安定化α−リポ酸組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の安定化α−リポ酸組成物を含有してなることを特徴とする飲食品又は飼料。

【公開番号】特開2006−306825(P2006−306825A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−160391(P2005−160391)
【出願日】平成17年4月30日(2005.4.30)
【出願人】(500081990)ビーエイチエヌ株式会社 (35)
【Fターム(参考)】