説明

安定化されたカリスバメートの小児用懸濁液

本発明は小児および成人が使用するための安定化されたカリスバメートの製薬学的懸濁液を提供する。より詳細には、この懸濁液は懸濁した粒子の結晶成長を防止し、そして薬剤製品が再結晶化して多形状態が変化することを防止するためにヒプロメロース(HPMC)で安定化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との関係
本出願は、2007年10月31日に出願された米国特許仮出願第60/984,144号の優先権の利益を主張する。前記の関連する米国特許出願の全開示は、これによりすべての目的のために参照として編入する。
【0002】
発明の分野
本発明は、小児および成人が使用するためのカリスバメートの安定化された製薬学的懸濁液を提供する。より詳細にはこの懸濁液は、懸濁した粒子の結晶成長を防止し、そして多形状態が変化する薬物製品の再結晶を防止するために安定化される。さらに、この製剤は味が遮蔽されて、錠剤またはカプセルを飲み込むことが困難な患者、例えば小児患者に容易に投与することができる製剤を提供する。
【背景技術】
【0003】
製薬産業では、患者に薬剤を経口投与するために様々な投薬製剤を使用する。経口投与用の典型的な製剤には液体溶液、乳液または懸濁液、ならびにカプセルまたは錠剤のような固体形がある。固体の経口投薬製剤は通常、大きな錠剤を全部、容易に飲み込むことができる成人を意図しており、しばしば受け入れ難い有効成分の味は、薬剤が口中にある短時間に味が明らかになることを防ぐ手段を提供することを除き、薬剤の調合では考慮する必要がない。そのような手段には、錠剤に適切なコーティングを施すこと、カプセル形の使用(カプセルのゼラチン外殻は、カプセルが飲み込まれるまで内部の有効成分を維持する)、または口中にあることを意図する短時間の間に、崩壊し始めないように錠剤を単に堅く圧縮することを含むことができる。
【0004】
小児、老人および多くの他の人々が、錠剤全体を、そしてカプセルでも飲み込み難さを感じている。ゆえに液体状態または噛める固体状態またはそうではない固体状態、例えば柔らかい食物に振りかけ、そして食物と共にそのまま飲み込むことができる小粒子を、全体を飲み込むことを意図する錠剤またはカプセルに加えて提供することが望ましい。経口液体剤形は、小児および老人患者に多くの利点を有する。多くの薬剤は苦いか、またはそうでなければ受け入れ難い味であり、したがってこれは重大な問題となり得る。さらに剤形の要件は、生物学的利用能がなければならず、すなわちいったん製剤が胃に到達したら、製剤は有効成分を迅速かつ完全に放出して有効成分の全量が実質的に吸収されることを確実にすべきである。
【0005】
薬剤によっては薬物の水中での限定された溶解性が、液体経口剤形の製剤で問題となる可能性があり、この場合は懸濁液がしばしば使用される。しかし懸濁液は、薬物が水にいくらかの溶解性がある場合には、水性懸濁液中に保持される微小粒子が結晶形もしくはサイズを変える恐れがあり、懸濁液独自の問題を提示する可能性がある。これには結晶サイズの吸収速度に及ぼす影響の可能性により、あるいは再結晶化のプロセスが懸濁している結晶の多形を変えることができ、そして変化した形態は異なる生物学的利用能を有する可能性のいずれかにより、正しい生物学的利用能を維持する点で問題を提示する恐れがある。このようにカリスバメートのようなわずかに溶解性の結晶化合物の再結晶化の速度、および/または多形の変化を減らす懸濁液製剤の必要性が存在する。
【発明の概要】
【0006】
発明の要約
本発明は、懸濁液を安定化するための湿潤剤として作用するために、しかも結晶の成長および再形成を制御し、そして結晶構造を安定化するために、ヒプロメロースを約1.8〜約2.0mg/mlで添加したカリスバメート粒子の水中懸濁液を含んでなる製薬学的製剤を対象とする。
【0007】
別の観点は、そのような懸濁液の配合法であり、この方法は:(a)安息香酸ナトリウムを、室温22℃で水の総容量の約30%で溶解することにより一つの溶液を調製し;(b)クエン酸、スクラロースおよびラズベリー香料を混合しながら加え;(c)ヒプロメロース(HPMC)およびカリスバメートを、22℃で水の総容量の約70%で混合しながら分散することにより第2溶液を調製し;(d)安定化された懸濁液を形成するために、第1溶液を第2溶液に混合しながら加え;そして(e)クエン酸一水和物を加えて、最終製剤のpHをpH3.5から4.5の間、好ましくは4.0の目標pHに調整することを含んでなる。
【0008】
本発明の別の観点は、処置が必要な癲癇、神経障害性疼痛、振せん、癲癇誘発、神経保護、統合失調症、非分裂的精神病(non−schizophrenic psychoses)、神経変性障害、例えば認知症に伴う行動障害、精神遅滞および自閉における行動障害、双極躁病、鬱および不安から選択される状態の処置法であり、この方法は哺乳動物に治療に有効な量の本発明の任意の製薬学的組成物を投与することを含んでなる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
発明の詳細な説明
Bossingerらへの米国特許第3,265,728号明細書に記載された様々な置換フェニルアルキルカルバメート化合物は、哺乳動物で鎮痙性を有し、すなわちヒトにおいて癲癇のような疾患の処置に有用性を有する。
【0010】
より詳細には化合物S−(2−(2−クロロフェニル)−2−ヒドロキシエチル)オキソカルボキサミド(これはまた、正式には1,2−エタンジオール、{1−2−クロロフェニル]−2−カルバメート、[S]−と呼ばれ、今後「カリスバメート」と呼ぶ)(以下に示す)は、発作の部分的発生がある成人および小児の処置に補助的療法として現在、開発され市場に出されている。
【0011】
【化1】

【0012】
本発明は、主に小児の使用、または錠剤を飲み込むことができない患者を意図したカリ
スバメートの水性懸濁液を提供する。
【0013】
カリスバメートおよび関連する化合物は、米国特許第6,103,759号明細書に開示された方法に従い調製することができる(この開示は引用により本明細書に編入する)。
【0014】
本発明は、湿潤剤、結晶安定化剤、緩衝剤、抗微生物剤および味を改善するための風味料を添加したカリスバメート粒子の安定化された水中懸濁液を含んでなる製薬学的製剤を対象とする。
【0015】
カリスバメートは、水にわずかに溶解するので(すなわち2mg/mlより多い)、温度変化によりカリスバメート粒子は水性懸濁媒質に溶解し、次いで残存するカリスバメート結晶上で再度晶出し、そして生じた結晶のサイズは変わり、または異なる多形に再結晶するので水性懸濁液で調合するには問題が多かった。この結晶サイズまたは多形の変化、例えばA形からB形への変化は、懸濁液の生物学的利用能に望ましくない変化を引き起こす恐れがある。本発明は一部は、ヒプロメロース(ヒドロキシプロピルメチルセルロースすなわちHPMC)を適切な濃度で添加することがこの結晶の成長を防止し、または安定化させ、したがって懸濁液を安定化して生物学的利用能の維持と製品の使用期限の改善に役立つという知見に基づいている。
【0016】
ヒプロメロース(HPMC)は、放出制御薬物製剤の親水性マトリックスの作成を含む様々な方法に、および湿潤剤および固体化合物の固体分散物中の担体として製薬産業で使用されている。本発明は一部は、ヒプロメロース(ヒドロキシプロピルメチルセルロースすなわちHPMC)を約1.8〜約22.0mg/mlの量で添加することが、カリスバメートの水性懸濁液中で結晶を安定化させ、そして結晶の成長および再形成を制御し、したがって結晶構造を安定化し、そして多形を維持するように作用するという知見に基づいている。HPMCは本製剤中で湿潤剤としても作用することができる。HPMCをカリスバメートの水性懸濁液に添加すると、結晶サイズの変化および懸濁しているカリスバメート結晶の溶解および再結晶化、したがって多形Aから多形Bへの転移が劇的に遅くなる。懸濁液を安定化するための適切な濃度のHPMCの添加無しでは、カリスバメートの結晶サイズの改変、および多形の変化が経時的に生じて、活性薬物の生物学的利用能に望ましくない変化を生じる恐れがある。
【0017】
場合により経口組成物は、甘味料、風味料、粘性調整剤等の材料のような製剤の分野で知られている付加的材料を含んでよい。例えば懸濁液の物理的安定性は、溶液への製薬学的に許容され得る懸濁剤の添加により強化され得る。
【0018】
カリスバメートおよびバッファーの苦い味、ならびにpHおよびいくつかの製剤に付随する不快な味は、スクラロース、サッカリン、サッカリンナトリウムもしくはサッカリンカリウムもしくはサッカリンカルシウム、アセスルファームカリウムまたはシクラミン酸ナトリウムのような1もしくは複数の強力な甘味料により、あるいはマンニトール、フルクトース、スクロース、マルトース等のような糖を本発明に使用することにより場合によっては遮蔽できる。甘味料の濃度は、0.04%〜0.5%の範囲、そして特に約0.4%でよい。本発明に好適な甘味料は、約4mg/mlのスクラロースである。
【0019】
本溶液の嗜好性は、場合により1もしくは複数の風味物質を加えることによりさらに至適化することができる。適当な風味物質は、チェリー、ラズベリー、クロスグリまたはストロベリー風味のような果実風味、あるいはキャラメルチョコレート風味、ミントクール風味、ファンタジー風味のようなさらに強い風味である。ラズベリーの果実風味が大変良い味の遮断結果を本組成物に生じることが分かった。風味物質の総濃度は、0.1〜5.
0mg/ml、好ましくは0.3%〜3.0mg/ml、そして最も好ましくは1.5〜2.5mg/mlの範囲でよい。
【0020】
本発明の水性懸濁液の薬物動態学的特性は、さらに粒子サイズおよび結晶形のようなカリスバメート固体の物理−化学的特性にある限度で依存する可能性がある。
【0021】
本発明の水性組成物は都合よく懸濁剤および湿潤剤をさらに含んでなり、そして場合により1もしくは複数の保存剤または抗微生物剤、バッファーもしくはpH調整剤および等張剤(isotonizing agent)を含んでなる。特定の材料はこれら2以上の作用物質として同時に機能することができ、例えば保存剤とバッファーのように振る舞うか、あるいはバッファーと等張剤のように振る舞うことができる。
【0022】
本発明の水性懸濁液での使用に適する懸濁剤は、セルロース誘導体、例えばメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよびヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、アルギン酸塩、キトサン、デキストラン、ゼラチン、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレン−およびポリオキシプロピレンエーテルである。好ましくは微晶質セルロースおよびカルメルロースナトリウム(sodium carmellose)が、0.5〜25mg/ml、より好ましくは3.0〜15mg/ml、そして最も好ましくは13mg/mlの濃度で使用される。
【0023】
本発明の水性懸濁液での使用に適する湿潤剤は:ヒプロメロース(HPMC)、ソルビタンエステルのポリオキシエチレン誘導体、例えばポリソルベート20およびポリソルベート80、レシチン、ポリオキシエチレン−およびポリオキシプロピレンエーテル、デオキシコール酸ナトリウムである。好ましくはヒプロメロース5mPa.sが0.1〜20mg/ml、より好ましくは1.0〜15mg/ml、そして最も好ましくは10mg/mlの濃度で使用される。このように本発明の懸濁液中でHPMCは2つの役割、結晶安定化剤および湿潤剤としての役割を果たす。
【0024】
恐らく繰り返し使用する経口組成物中のバクテリア、酵母および菌・カビのような微生物の成長を防ぐために、保存剤を加えることができる。保存剤は:安息香酸、安息香酸ナトリウム、ベルジルアルコール、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、クロロブトール、没食子酸塩、ヒドロキシベンゾエート、EDTAからなる群から選択できる抗微生物剤および酸化防止剤である。適切な保存剤は物理化学的に安定で、しかも上に挙げたpH範囲で効果的であるべきである。
【0025】
保存剤の濃度は0.05%〜1%、特に0.1%〜0.5%の範囲であることができ、そして最も特別には約0.2%である。最も好適な保存剤は、約2mg/mlで使用する安息香酸である。しかし本発明では、容易な配合に最も好適な保存剤は、0.1〜2.0mg/ml、より好ましくは1.0〜1.5mg/ml、そして最も好ましくは1.18mg/mlの濃度で使用される安息香酸ナトリウムである。
【0026】
さらにある種の緩衝剤を使用して、水性懸濁液のpHを維持することができる。特に好適であるのは、0.1〜2.0mg/ml、そして好ましくは1.0〜1.5mg/ml、そして最も好ましくは1.3mg/mlで使用されるクエン酸一水和物の混合物の使用である。
【実施例】
【0027】
以下の実施例は本発明をさらに明らかにするために提供されるが、本発明をこの特定の実施例に限定しない。
【0028】
【表1】

【0029】
上記実施例の配合では、一つの溶液が安息香酸ナトリウムを室温22℃で水の総容量の約30%で、クエン酸、スクラロースおよびラズベリー風味料と一緒に溶解することにより作成される。安息香酸ナトリウムは、安息香酸ナトリウムが室温で水に容易に溶解し、しかも安息香酸は水を加熱することにより溶解する必要があり、そしてHPMCを生じた安息香酸溶液に溶解することは非分散性の凝集物の形成により難しいことから安息香酸の代わりに使用される。
【0030】
第2溶液は懸濁剤、すなわちヒプロメロース(HPMC)およびAPI、すなわちカリスバメートを、22℃で水の総容量の約70%で分散させることにより作成される。次いで第1溶液は、安定化された懸濁液を形成するために混合しながらAPI−HPMC分散物に加えられる。クエン酸一水和物を加えて最終製剤のpHをpH3.5から4.5の間、好ましくは4.0の目標pHに調整する。
【0031】
本明細書で使用する用語「治療に有効な量」は、研究者、獣医師、医師または他の臨床医により求められる組織、系、生気のある(animator)ヒトにおける生物学的または医学的応答を誘起する活性化合物または製薬学的作用物質の量を意味し、これには処置する疾患の症状の緩和を含む。
【0032】
本明細書で使用する用語「賦形剤」とは、都合よい剤形を調製するために活性剤と合わせることができる任意の不活性物質を称し、それらには例えば希釈剤、結合剤、潤滑剤、崩壊剤、着色剤、風味料および甘味料を含む。
【0033】
多くの障害の処置におけるカリスバメートの有用性の観点から、本発明は癲癇、神経障害性疼痛、振せん、癲癇誘発、神経保護、統合失調症、非分裂的精神病、神経変性障害、例えば認知症に伴う行動障害、精神遅滞および自閉における行動障害、双極躁病、鬱、不安の処置に薬剤として使用するために、これまでに記載した製薬学的組成物にも関する。
【0034】
加えて、本発明は癲癇、神経障害性疼痛、振せん、癲癇誘発、神経保護、統合失調症、非分裂的精神病、神経変性障害、例えば認知症に伴う行動障害、精神遅滞および自閉における行動障害、双極躁病、鬱、不安を処置する薬剤の調製のために、これまでに記載した組成物の使用に関する。さらに本発明は、温血動物、特に癲癇、神経障害性疼痛、振せん、癲癇誘発、神経保護、統合失調症、非分裂的精神病、神経変性障害、例えば認知症に伴
う行動障害、精神遅滞および自閉における行動障害、双極躁病、鬱および不安に罹患しているヒトの処置法に関し、該方法は治療に有効な量のこれまでに記載した水性懸濁液の投与を含んでなる。治療に有効な量のカリスバメートは、50〜1200mgの毎日の総用量を、1から4回の等用量で投与される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)約10〜約30mgのカリスバメート;および
b)約5.0〜約15.0mgのヒプロメロース;および
c)約1mlの水
を含んでなる水性懸濁液状態の製薬学的組成物。
【請求項2】
組成物がさらに懸濁剤および湿潤剤、そして場合により1もしくは複数の保存剤、バッファー、甘味料および風味料を含んでなる請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
製薬学的組成物の形成法であって:
a)安息香酸ナトリウムを、室温22℃で水の総容量の約30%で溶解することにより一つの溶液を調製し;
b)クエン酸、スクラロースおよび風味料を混合しながら加え;
c)ヒプロメロース(HPMC)およびカリスバメートを、22℃で水の総容量の約70%で混合しながら分散することにより第2溶液を調製し;
d)第一溶液を第二溶液に混合しながら加えて、安定化された懸濁液を形成し;
e)クエン酸一水和物を加えて最終製剤のpHをpH3.5から4.5の間に調整する、ことを含んでなる上記形成法。
【請求項4】
請求項1の方法により作成される請求項3に記載の製薬学的組成物。
【請求項5】
保存剤がベンジルアルコールであり、そして等張剤がマンニトールまたはリン酸バッファーである、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
哺乳動物に治療に有効な量の請求項1に記載の製薬学的組成物を投与することを含んでなる、処置が必要な哺乳動物の癲癇の処置法。
【請求項7】
処置が必要な哺乳動物の癲癇、神経障害性疼痛、振せん、癲癇誘発、神経保護、統合失調症、非分裂的精神病、認知症、精神遅滞および自閉における行動障害、双極躁病、鬱および不安からなる群から選択される障害の処置法であって、哺乳動物に治療に有効な量の本発明の任意の製薬学的組成物を投与することを含んでなる上記処置法。

【公表番号】特表2011−500870(P2011−500870A)
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−531607(P2010−531607)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【国際出願番号】PCT/IB2008/003331
【国際公開番号】WO2009/056980
【国際公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【出願人】(390033008)ジヤンセン・フアーマシユーチカ・ナームローゼ・フエンノートシヤツプ (616)
【氏名又は名称原語表記】JANSSEN PHARMACEUTICA NAAMLOZE VENNOOTSCHAP
【Fターム(参考)】