説明

安定化されたタンパク組成物

【課題】ヒト、ブタ、ウシ血清アルブミン等の温熱生物由来の成分やカルニチンを含有しない安定なIL−2を含む組成物を製造する。
【解決手段】少なくともIL−2、糖および/または糖アルコール、アミノ酸、要すれば酸および塩基、さらに要すれば界面活性剤を含む組成物であれば、経時保存しても当該薬物の含量はほとんど低下しない。さらに組成物をシリコーンコーティングされた容器に収容することによって、当該薬物含量の低下をさらに抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定なタンパク組成物、詳しくは温血動物由来の血清アルブミンおよびカルニチンを配合せず、かつ少なくとも、インターロイキン−2、糖および/または糖アルコール(ソルビトールを除く)、アミノ酸(グリシンおよびヒスチジンを除く)を含むタンパク組成物(但し、アラニンおよびスクロースを配合した組成物、塩酸リジンおよびスクロースを配合した組成物を除く)、要すれば酸および塩基、さらに要すれば界面活性剤を含んだタンパク組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インターロイキン−2(以下、IL−2と略す)は、T細胞やナチュラルキラー細胞を増殖させる生理活性を有するタンパク質であり、種々の癌、特に血管肉腫や腎癌、また免疫不全の治療薬として大きな期待が寄せられている。また、後天性免疫不全症候群(AIDS)の治療薬としても大きな期待が持たれている。また、IL−2と同様に抗腫瘍作用を有するタンパクとして、インターフェロン(以下、IFNと略す)があり、ウイルス・二本鎖RNA・レクチンなどによって動物細胞から誘発される抗ウイルス作用も有する。さらに、上皮増殖因子(以下、EGFと略す)は、上皮細胞の分化・増殖を促進させる作用をもち、細胞内タンパク質のリン酸化を亢進させる。
【0003】
上記、IL−2、IFN、EGFのようなタンパク成分は、通常の保存状態では不安定な物質であるために、種々の安定化方法が試みられている。例えば、安定化剤としてヒト血清アルブミンを配合したIL−2を含む溶液に、塩基および酸を加え、中性とすることによりIL−2の組成物を得ているもの(例:特許文献1)や還元物質さらにはヒト血清アルブミンを配合することによってIL−2組成物を得ているもの(例:特許文献2)がある。また、アミノ酸であるグリシンおよび糖であるスクロースを含み、ヒスチジン(塩基)またはクエン酸(酸)のいずれかでpH5〜6.5に調整されたIL−2組成物を得ているもの(例:特許文献3)やアルギニンとカルニチン(4−トリメチルアミノ−3−ヒドロキシ酪酸、別名ビタミンB)の混合物、スクロースおよびクエン酸を含んだIL−2組成物を得ているもの(例:特許文献4)がある。上記、IL−2、IFN、EGF以外のタンパクを含む製剤には、糖およびアミノ酸でタンパク質を安定化させて製剤を得ているものがある(例:特許文献5、6及び7)。
【0004】
しかしながら、上記ヒト血清アルブミン(HSA)等の温熱動物由来の血清アルブミンは、最近、ウイルス感染や狂牛病などの危険性が指摘されており、HSAのような特定生物由来製品は製剤処方に含まれないことが望まれている。また、IL−2は水に比較的難溶性であり、通常中性付近で凝集反応が生じ溶解度が低下するために、一旦塩基または酸を添加してIL−2を溶解した後、酸または塩基を添加して中性付近にする必要がある。このため、上記特許文献3に記載されているように、酸または塩基のいずれかしか配合しなければ、凝集反応が生じ、IL−2の溶解度が低下する恐れがある。さらに、上記特許文献4に開示されている安定化剤としてのカルニチンは、甲状腺阻害剤であり、その添加量によっては、副作用を生じる恐れがある。また、タンパク質の安定化方法については、一般的にタンパク質の種類が異なれば、必ずしも同様に安定化できるとは限らないことが文献に記載されており[非特許文献1、2]、上記IL−2やIFNと異なるタンパク成分を安定化できる組成物でも、当該タンパク成分を安定化できるとは限らない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−164631号公報
【特許文献2】特開昭60−215631号公報
【特許文献3】WO02/00243
【特許文献4】WO90/00397
【特許文献5】特表平8−504784
【特許文献6】WO96/41642
【特許文献7】特表2001−503781
【特許文献8】WO02/00243
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Int.J.Pharm.185、129−188(1999)
【非特許文献2】Int.J.Pharm.203、1−60(2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、タンパク成分として、安全性が高く、しかも保存性のよい組成物が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記事情に鑑み、本発明者らは、温血動物由来の血清アルブミンおよびカルニチンを含まず、医薬上許容されうる糖および/または糖アルコール、アミノ酸ならびに要すれば、酸および塩基、さらに要すれば、界面活性剤等を配合することによって、IL−2の安定性を高めた組成物を見出し、以下に示す本発明を完成した。
【0009】
(1)温血動物由来の血清アルブミンおよびカルニチンを配合せず、かつ少なくとも以下の成分
1)タンパク組成物の溶液1mLあたり0.1〜100μgとなる割合のインターロイキン2、
2)スクロース、及び
3)アルギニン
を含むことを特徴とする、タンパク組成物(但し、アラニンおよびスクロースを配合した組成物、塩酸リジンおよびスクロースを配合した組成物を除く)。
【0010】
(2)温血動物由来の血清アルブミンおよびカルニチンを配合せず、かつ少なくとも以下の成分
1)タンパク組成物の溶液1mLあたり40μgとなる割合のインターロイキン2、
2)スクロース、及び
3)アルギニン
を含むことを特徴とする、タンパク組成物(但し、アラニンおよびスクロースを配合した組成物、塩酸リジンおよびスクロースを配合した組成物を除く)。
【0011】
(3)スクロースをタンパク組成物の溶液1mLあたり5〜500mgとなる割合で含むか、またはアルギニンをタンパク組成物の溶液1mLあたり0.1〜250mgとなる割合で含むことを特徴とする、(1)または(2)に記載するタンパク組成物。
【0012】
(4)更に酸または塩基を含むことを特徴とする、(1)乃至(3)のいずれかに記載するタンパク組成物。
【0013】
(5)更に界面活性剤を含むことを特徴とする、(1)乃至(4)のいずれかに記載するタンパク組成物。
【0014】
(6)凍結乾燥品である(1)乃至(5)のいずれかに記載するタンパク組成物。
【0015】
(7)温血動物由来の血清アルブミンおよびカルニチンを配合せず、かつ少なくとも以下の成分
1)インターロイキン2、
2)スクロース、及び
3)アルギニン
を含んだ溶液を凍結乾燥する工程を含むことを特徴とする、(1)乃至(6)のいずれかに記載するタンパク組成物の製造方法。
【0016】
(8)上記溶液に塩基を加えてpH8〜11とした後、酸を加えて中和するか、または上記溶液に酸を加えてpH2〜6とした後、塩基を加えて中和する工程を含むことを特徴とする、(7)に記載する製造方法。
【0017】
(9)上記溶液が更に界面活性剤を含むものであることを特徴とする、(7)または(8)に記載する製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のIL−2を含む組成物は、IL−2および下記の添加物を溶解した溶液(例:注射剤)として用いることができるが、該溶液の液媒体を乾燥し、固形剤(例:凍結乾燥製剤)にする場合もある。固形剤であるならば、組成物を長期保存することも可能である。本発明では、IL−2は、天然由来または遺伝子組換えIL−2の全てを用いることができるが、特に遺伝子組換えヒトIL−2が好ましい。
【0019】
組成物中のIL−2の濃度が低くても、当該薬物の容器壁面への吸着が少ないことが大きな特徴であり、本発明の組成物を溶液として使用する場合、溶液1mL中にIL−2は、0.1〜100μg、好ましくは0.5〜100μg、より好ましくは1〜100μg配合すればよい。また、本発明の組成物を固形剤として使用する場合、固形剤全量に対しIL−2は、0.001〜5w/w%、好ましくは0.0025〜2.5w/w%、より好ましくは0.003〜1w/w%配合すればよい。IL−2含量が前記配合量よりも少なければ、薬効が十分に発揮されない可能性がある。前記配合量よりも多ければ、溶液中にIL−2等の薬物が完全に溶解しない恐れがある。
【0020】
本発明において、糖および/または糖アルコールは、単糖類、二糖類、多糖類あるいは水溶性グルカン類を意味する。糖および/または糖アルコールは、IL−2の安定化のために添加されるが、溶解補助剤、賦形剤あるいは等張化剤としても添加されうる。糖として、具体的にはグルコース、マンノース、ソルボース、キシロース、マルトース、ラクトース、フルクトース、スクロース、デキストラン、プルラン、デキストリン、シクロデキストリン、可溶性デンプン、ヒドロキシエチルデンプン、カルボキシメチルセルロース−Na等が挙げられる。また、糖アルコールとしてはC4〜C8の糖アルコールが好ましく、具体的には、マンニトール、イノシトール、ズルシトール、キシリトール、アラビトール、ラフィノース、エリスリトール、マルチトール、ラクチトール、パラチニット、トレハロース等が挙げられる。前記糖および/または糖アルコールの中で、好ましくはマルトース、マンニトール、ラクトース、スクロースおよびソルビトールであり、さらに好ましくはマルトース、マンニトール、ラクトースおよびスクロースであり、特に好ましくはスクロースである。
【0021】
前記の糖および/または糖アルコールは、単独または混合物で用いることができる。配合量は特に限定されるものではなく、組成物の溶液に溶解可能でIL−2の安定性を高める量であればよい。IL−2に対する糖および/または糖アルコールの配合割合は重量比で1〜20000倍、好ましくは5〜17500倍、より好ましくは20〜15000倍であればよい。また、本発明組成物を溶液として使用する場合、組成物の溶液1mL中に糖および/または糖アルコールを5〜500mg、好ましくは10〜250mg、より好ましくは20〜200mg添加すればよい。前記配合量よりも少なければ、IL−2を安定化することができない恐れがあり、多ければ、組成物全量に対するIL−2含量が相対的に低下し、多量のIL−2の組成物を投与しなければ、薬効が生じない可能性がある。
【0022】
本発明において、アミノ酸は、IL−2の安定化のために添加されるが、賦形剤としても添加されうる。アミノ酸とは、分子内にアミノ基とカルボキシル基とをもつ化合物を意味するが、プロリンおよびヒドロキシプロリンのようなイミノ酸も含まれる。アミノ酸としては、中性アミノ酸、酸性アミノ酸および塩基性アミノ酸が挙げられる。具体的には中性アミノ酸として、アラニン、バリン、ノルバリン、ロイシン、ノルロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、チロシン、ジヨードチロシン、スルナミン、トレオニン、セリン、プロリン、ヒドロキシプロリン、トリプトファン、チロキシン、メチオニン、シスチン、システイン、α−アミノ酪酸等が挙げられる。酸性アミノ酸として、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン等が挙げられる。塩基性アミノ酸としては、リジン、塩酸リジン、アルギニン、ヒドロキシリジン等が挙げられる。前記アミノ酸のうち、好ましくはアラニン、塩酸リジン、アルギニンであり、より好ましくはアルギニンである。
【0023】
前記のアミノ酸は、単独または混合物で用いることができる。添加量は特に限定されるものではなく、組成物の溶液に溶解可能でIL−2の安定性を高める量であればよい。IL−2に対するアミノ酸の配合割合は重量比で1〜10000倍、好ましくは10〜7500倍、より好ましくは20〜5000倍であればよい。また、本発明組成物を溶液として使用する場合、組成物の溶液1mL中にアミノ酸を0.1〜250mg、好ましくは0.5〜125mg、より好ましくは1〜100mg添加すればよい。前記添加量よりも少なければ、IL−2を安定化できない恐れがあり、多ければ、組成物全量に対するIL−2の含量が相対的に低下し、多量のIL−2を含有する組成物を投与しなければ、薬効が生じない可能性がある。
【0024】
本発明組成物は、前記したように、糖および/または糖アルコール、ならびにアミノ酸を配合しているために、固体状態でも液体状態でもメイラード反応を生じる場合がある。メイラード反応とは、アミノ酸、ペプチド、タンパク質のアミノ基とケトン、アルデヒド、特に還元糖が反応して褐色色素を生成するものである。しかし、本発明の組成物においては、特に糖および/または糖アルコールがスクロースであり、アミノ酸がアルギニンとの組合せの場合には、例えば40℃で30日間程度、該組成物を保存してもメイラード反応は生じる恐れが少なく、IL−2の含量が低減する可能性も少ない。但し、アラニンおよびスクロースを配合した組成物、塩酸リジンおよびスクロースを配合した組成物は、凍結乾燥品が融解し、当該乾燥品は製造することができなかった。
【0025】
上記、糖および/または糖アルコールとアミノ酸の含量の比率は、糖および/または糖アルコールに対し、重量比でアミノ酸が0.01〜4倍、好ましくは0.025〜3倍、より好ましくは0.05〜2倍である。なお、タンパク質製剤の場合、添加物が同じでも主薬であるタンパク質が異なれば、メイラード反応の有無も異なるので、メイラード反応を生じないようにするためには、タンパク質の種類によって製剤中の添加物の種類、量等を検討する必要がある。
【0026】
本発明において、要すれば酸を配合してもよい。酸としては、生理的に許容される酸を全て用いることができる。例えば、酢酸、乳酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン等の有機酸や、塩酸、リン酸等の無機酸が挙げられ、単独でも、2種以上の混合物で用いてもよく、好ましくはクエン酸、酒石酸である。また、これらの薬理学的に許容される塩であってもよい。酸の添加量は用いる酸の種類によっても異なるが、所望のpHに調整できる必要量を添加すればよい。一般的には、IL−2に対する酸の配合割合は重量比で5〜12000倍、好ましくは10〜6000倍、より好ましくは25〜3000倍であればよい。本発明組成物を溶液として使用する場合、組成物の溶液1mL中に酸を0.25〜50mg、好ましくは0.5〜20mg、より好ましくは1〜10mg添加すればよい。また、前記量よりも少なければpHは塩基性となり、また多ければpHが酸性となり、いずれの状態でもIL−2を安定化できない恐れがある。
【0027】
なお、有機酸のうち、酸性アミノ酸であるアスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミンは、構成成分中の酸であると同時にアミノ酸でもありうる。
【0028】
本発明において、要すれば塩基を配合してもよい。塩基としては、生理的に許容される塩基を全て用いることができる。例えば、N−メチルグルカミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミンおよびトリエタノールアミン等のアルコールアミン、モノ、ジまたはトリエチルアミン等のアルキルアミン、アルギニン、リジン、塩酸リジン等の塩基性アミノ酸、ならびに炭酸ナトリウム等の無機塩基等が用いられ、これらは単独でも、2種以上の混合物で用いてもよい。炭酸ナトリウム等の無機塩基を用いる際には、上記アミン等との併用が好ましい。好ましい塩基としては、N−メチルグルカミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アルギニンであり、より好ましくは、ジエタノールアミン、アルギニンである。前記塩基は、単独でも、2種以上の混合物で用いてもよい。塩基の添加量は用いる塩基の種類によっても異なるが、所望のpHに調整できる必要量を添加すればよい。一般的には、IL−2に対する塩基の配合割合は重量比で2〜10000倍、好ましくは5〜5000倍、より好ましくは10〜4500倍であればよい。本発明組成物を溶液として使用する場合、組成物の溶液1mL中に酸を0.1〜100mg、好ましくは0.25〜100mg、より好ましくは1〜50mg添加すればよい。また、本発明組成物を固形剤として使用する場合、前記量よりも少なければ、溶液のpHが酸性となり、また多ければ、溶液のpHが塩基性となり、いずれの状態でもIL−2を安定化できない恐れがある。
【0029】
なお、塩基性アミノ酸であるアルギニン、リジン、塩酸リジン等は、構成成分の塩基であると同時にアミノ酸でもありうる。
【0030】
本発明において、更に要すれば界面活性剤を添加することも可能である。界面活性剤としては、生理的に許容される界面活性剤であればよく、該界面活性剤の添加により、固形剤調製における乾燥前の組成物溶液調製時または固形剤を蒸留水に再溶解する時のIL−2の溶解性改善ならびに、組成物溶液の液媒体を乾燥した時におけるIL−2の安定性を向上(特に乾燥時におけるIL−2の容器壁面の吸着を防止して、組成物中のIL−2含量の低下を抑制する)するなどの効果が得られる。界面活性剤として、組成物の溶液に溶解または懸濁でき、IL−2の安定性を高めるものであればよいが、好ましくは非イオン性界面活性剤であり、具体的にはポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ショ糖脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油として具体的には、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油5、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油10、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油20、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油50、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60等がある。ポリエチレングリコールとして具体的には、マクロゴール200、マクロゴール300、マクロゴール400、マクロゴール600、マクロゴール1000、マクロゴール1500、マクロゴール1540、マクロゴール2000、マクロゴール4000、マクロゴール6000、マクロゴール20000等がある。ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールとして具体的には、ポリオキシエチレン(105)ポリオキシプロピレン(5)グリコール、ポリオキシエチレン(120)ポリオキシプロピレン(40)グリコール[プルロニックF87]、ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール[プルロニックF68]、ポリオキシエチレン(42)ポリオキシプロピレン(67)グリコール[プルロニックP123]、ポリオキシエチレン(54)ポリオキシプロピレン(39)グリコール[プルロニックF85]、ポリオキシエチレン(196)ポリオキシプロピレン(67)グリコール[プルロニックF127]、ポリオキシエチレン(20)ポリオキシプロピレン(20)グリコール[プルロニックL44]等がある。ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとして具体的には、ポリソルベート20[Tween20]、ポリソルベート40[Tween40]、ポリソルベート60[Tween60]、ポリソルベート65[Tween65]、ポリソルベート80[Tween80]等がある。より好ましくはポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、特に好ましくはポリソルベート80[Tween80]である。
【0031】
界面活性剤の配合量は用いる界面活性剤の種類によっても異なるが、IL−2に対する界面活性剤の配合割合は重量比で1〜300倍、好ましくは2.5〜250倍、より好ましくは5〜200倍であればよい。本発明組成物を溶液として使用する場合、組成物の溶液1mL中に0.05mg〜15mg、好ましくは0.075mg〜7.5mg、より好ましくは0.1mg〜4mgを添加すればよい。また、本発明組成物を固形剤として使用する場合、前記添加量よりも少なければ、IL−2の溶解性が改善せず、またIL−2の安定性が低下する恐れがあり、逆に多ければ、調製の際、泡立ちにより組成物溶液の調製が困難となる可能性がある。
【0032】
本発明では、固形剤調製における乾燥前の組成物溶液製造時または固形剤を蒸留水に再溶解する時のpH変動を最小限にするために緩衝剤を用いることが好ましい。緩衝剤としては、生理的に許容される緩衝剤であればよく、例えば、リン酸系またはクエン酸系の緩衝剤が挙げられる。
【0033】
緩衝剤の添加量は用いる緩衝剤の種類によっても異なるが、所望のpH、すなわち、組成物の溶液のpHを6.1〜9に保持するのに必要な量を用いればよい。具体的には、IL−2に対する緩衝剤の配合割合は重量比で20〜10000倍、好ましくは50〜8000倍、より好ましくは100〜6000倍あればよい。本発明組成物を溶液として使用する場合、組成物の溶液1mL中に緩衝剤を1〜100mg、好ましくは2.5〜75mg、より好ましくは5〜50mg添加すればよい。前記量よりも少なければ、組成物溶液製造時または固形剤を蒸留水に再溶解する時のpH変動が大きくなる恐れがあり、多ければ、組成物全量に対するIL−2の含量が相対的に低下し、多量のIL−2の組成物を投与しなければ、薬効が生じない可能性がある。
【0034】
本発明の製剤は、製剤の形態に応じ、製剤学上許容される添加物を含有しうる。例えば、注射剤の場合、フェノール、クレゾール等の保存剤、亜硫酸塩、ピロ亜硫酸ナトリウム、アスコルビン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、チオグリコール酸等の酸化防止剤、ベンジルアルコール、クロロブタノール等の無痛化剤、塩化ナトリウム、グリセリン等の等張化剤を添加してもよい。
【0035】
安定化剤として、温血動物由来の血清アルブミン、例えばヒト血清アルブミン、ウシ血清アルブミン、ブタ血清アルブミン等を配合した場合、前述した様に副作用を生じる可能性があるが、アルブミンであっても遺伝子組換えアルブミンであれば、上記副作用を生じる可能性が低く、組成物の添加剤として配合する場合もありうる。遺伝子組換えアルブミンの添加は、IL−2の安定性低下の防止に有用である。IL−2に対する遺伝子組換えアルブミンの配合割合は、重量比で1〜4000倍、好ましくは2.5〜2000倍、より好ましくは5〜1000倍であればよい。本発明組成物を溶液として使用する場合、組成物の溶液1mL中に0.1mg〜100mg、好ましくは0.25mg〜50mg、より好ましくは0.5mg〜25mgを添加すればよい。
【0036】
本発明の組成物は、少なくともIL−2のうちいずれか1種、糖および/または糖アルコール、アミノ酸、要すれば酸ならびに塩基、さらに要すれば界面活性剤、またpHの調節のために緩衝剤等の配合成分を含む。これら組成物の配合成分の好ましい組合せとして、IL−2、スクロース、アルギニン、クエン酸、ジエタノールアミン(場合によっては、ジエタノールアミンを配合しない場合もある)、要すればポリソルベート80およびリン酸緩衝液の組合せの組成物である。この好ましい組合せの配合成分の配合量について、IL−2は、固形剤全量に対し0.001〜5w/w%、好ましくは0.005〜2.5w/w%、より好ましくは0.01〜1w/w%、IL−2に対するスクロースの配合割合は重量比で1〜10000倍、好ましくは5〜5000倍、より好ましくは20〜4000倍、IL−2に対するアルギニンの配合割合は重量比で1〜5000倍、好ましくは10〜2500倍、より好ましくは20〜2000倍、IL−2に対するクエン酸の配合割合は重量比で5〜2000倍、好ましくは10〜1000倍、より好ましくは25〜500倍、IL−2に対するジエタノールアミンの配合割合は重量比で10〜5000倍、好ましくは25〜2500倍、より好ましくは50〜2000倍(場合によっては、ジエタノールアミンを配合しない場合もある)、IL−2に対するポリソルベート80の配合割合は、重量比で1〜300倍、好ましくは2.5〜250倍、より好ましくは5〜200倍、リン酸緩衝液を添加するならば、pH6.1〜9に保持するのに必要な配合割合で添加すればよいが、具体的にはIL−2に対する緩衝剤の配合割合は、重量比で20〜2000倍、好ましくは50〜1500倍、より好ましくは100〜1000倍であればよい。本発明の組成物を溶液として使用する場合、IL−2は、組成物の溶液1mL中に0.1〜100μg、好ましくは0.5〜100μg、より好ましくは1〜100μg、スクロースは、組成物の溶液1mL中に5〜500mg、好ましくは10〜250mg、より好ましくは20〜200mg、アルギニンは、組成物の溶液1mL中に0.1〜250mg、好ましくは0.5〜125mg、より好ましくは1〜100mg、クエン酸は、組成物の溶液1mL中に0.25〜50mg、好ましくは、0.5〜20mg、より好ましくは1〜10mg、ジエタノールアミンは、組成物の溶液1mL中に0.1〜100mg、好ましくは0.25〜100mg、より好ましくは1〜50mg(場合によってはジエタノールアミンを配合しない場合もある)、ポリソルベート80を添加するならば、組成物の溶液1mL中に0.05mg〜15mg、好ましくは0.075mg〜7.5mg、より好ましくは0.1mg〜4mg、リン酸緩衝液を添加するならば、pH6.1〜9に保持するのに必要な配合割合で添加すればよいが、具体的には組成物の溶液1mL中に1〜100mg、好ましくは2.5〜75mg、より好ましくは5〜50mg添加すればよい。本発明の組成物を固形剤として使用する場合、また、スクロースとアルギニンとの含量の比率は、スクロースに対し、重量比でアルギニンが0.01〜4倍、好ましくは0.05〜3倍、より好ましくは0.1〜2倍である。
【0037】
本発明溶液から固形剤を製造する際の溶液の乾燥法としては、組成物溶液の液媒体を乾燥しさえすればよいが、好ましくは凍結乾燥法、流動層乾燥法、噴霧乾燥法、より好ましくは凍結乾燥法がある。凍結乾燥法によって固形状にした凍結乾燥品は、IL−2のようなタンパク成分を含む製剤の場合、熱等のストレスがかからず、安定なタンパク製剤を製造することができる。
【0038】
組成物溶液のpHを約6以上に調節すれば、IL−2は安定に保たれ、かつ液媒体の乾燥操作中及び固形状製剤の再溶解時の液状も透明に保たれうる。従って、本発明目的のためには、特にpHの上限はないが、好ましくは最終的なpH調節は溶液状態でpH6.1〜9である。本発明組成物を注射剤として用いる場合には、該組成物を生理的なpH領域付近に調整することが好ましく、この場合には最終的なpH領域をpH6.1〜8、さらに好ましくはpH6.5〜7.5にすればよい。前記下限のpHよりも酸性側では、再溶解時の液状を透明に保つことが困難である恐れがあり、上限のpHよりも塩基性側では、組成物の安定性および溶液の透明性は満足されても、皮膚や血管等への刺激性が増す可能性があり、必ずしも好ましいものではない。
【0039】
本発明において、IL−2の安定性が増大した理由は必ずしも明らかではないが、1)IL−2の分解、2)IL−2同士の凝集、3)IL−2の容器への吸着等を抑制したためと考えられる。特に、製剤中の薬物濃度が低い場合、容器壁への薬物吸着の影響が大きいが、本発明処方であれば、乾燥時における容器へのIL−2の吸着等を抑制することが可能である。また、組成物製造直後のIL−2の含量は経時保存後、例えば40℃、30日間程度保存してもほとんど低下しない。IL−2の容器への吸着をさらに抑制するためには、種々の方法が考えられるが、その一つの方法として内壁をシリコーンでコーティングされた容器にIL−2を含む組成物を収容すればよい。
【0040】
本発明IL−2組成物の製法は、特に限定されないが、好ましくは以下のような方法で製造する。糖および/または糖アルコールならびに安定化剤であるアミノ酸の必要量を蒸留水に溶解した溶液に、IL−2原液および要すれば更に界面活性剤の適当量を加える。次いで塩基の適当量(アミノ酸として、塩基性アミノ酸を添加した場合、塩基を添加しない場合がある)を添加してpH約8〜11、好ましくはpH約9〜11、さらに好ましくはpH約9.5〜10.5とし、緩衝液を加えた後、速やかに酸を加えてpH約7〜7.5とする。残りの蒸留水を加えて液量を調節し、組成物の溶液を製造後、無菌濾過、容器へ分注、次いで凍結乾燥させる。また、別法として、糖および/または糖アルコールならびに安定化剤あるアミノ酸の必要量を蒸留水に溶解した溶液に、IL−2および要すれば更に界面活性剤の適当量を加える。次いで酸の適当量(アミノ酸として、酸性アミノ酸を添加した場合、酸を添加しない場合がある)を添加して、一旦pH約2〜6、好ましくはpH約2〜4、さらに好ましくはpH約2〜3とし、緩衝液を加えた後、速やかに塩基を加えてpH約7〜7.5とし、以下上記と同様の方法で組成物を製造する。該製造法のうち、IL−2の安定性の面から、前者の製造方法が好ましい。凍結乾燥は、上記調製した組成物の溶液を約−60℃〜約−10℃、好ましくは約−50℃〜約−40℃で急速凍結した後、要すれば、昇華熱を供給しながら、好ましくは48〜72時間、0.005〜1mbに保って所定含水量になるまで水分を昇華、除去し、要すれば窒素など不活性気体または乾燥空気を充填して、密栓する。
【0041】
上記製造法中、塩基または酸を添加して所要のpHとした後、「速やかに」酸または塩基を添加しpHを約7〜7.5とするが、この「速やかに」酸または塩基を添加しはじめ、pHを約7〜7.5とするまでの時間は、組成物の製造量によっても異なるが、約60分間、好ましくは約45分間、より好ましくは約30分間以内であればよい。
【0042】
本発明組成物は、温血動物由来の血清アルブミンおよびカルニチンを配合せず、かつ少なくともIL−2、糖および/または糖アルコール、アミノ酸、要すれば酸および塩基の成分を配合し、さらに要すれば界面活性剤や緩衝剤等を配合することによって、IL−2を長期間、例えば40℃30日間程度にわたっても安定に保存することが可能である。さらに、本発明製剤によって、IL−2の容器壁面の吸着を抑制することが可能である。
【0043】
本発明組成物の使用方法は特に限定されるものではないが、非経口的に用いることが好ましい。注射剤として用いる際には、凍結乾燥された該組成物を注射用蒸留水、生理食塩水、ブドウ糖液、適当な点滴用輸液等に用時溶解して静脈内、筋肉内、皮下または皮内に投与する。また、本組成物に適当な担体、賦形剤等を加えて口、鼻、耳腔内投与等の局所投与製剤としてもよい。投与量としては、例えばIL−2として一日あたり、35万〜140万JRU(国内標準単位)である。
【実施例】
【0044】
以下に本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
【0045】
なお、本発明において用いるIL−2の力価は、IL−2に依存的に増殖するNK細胞(マウス細胞由来)の増殖を定量化の指標とし、IL−2の単位を算出する方法を用いて、測定した。IL−2活性を有する物質の量に比例して、NK細胞の一種であるNK−7細胞は増殖する。NK−7細胞にMTT〔臭化3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニル−2H−テトラゾリウム〕を与えると、MTTはNK−7細胞に取り込まれ、ミトコンドリア内膜に存在する呼吸鎖に関連する2つの電子伝達体、チトクロームbおよびチトクロームcにより還元され、細胞の増殖能に比例した量の色素ホルマザンが生成する。このホルマザンの生成量と試料の希釈倍数の関係から、IL−2の力価を定量する。生成したホルマザンはイソプロパノールによりNK−7細胞から溶出され、紫色に呈色した液を吸光度測定(波長560nm)することにより、IL−2の力価を測定した。
【0046】
(実施例1)凍結乾燥を可能とするアミノ酸および糖の検討(IL−2を含まず)
以下に示す製造方法に準じて、表1に示す成分の組成物を製造し、組成物の外観を観察した。なお、本組成物には、主薬であるIL−2を配合していない。
【0047】
(実施例1製剤の製造方法)
糖または糖アルコールとしては、マルトース、マンニトール、ラクトース、スクロースを用いた。アミノ酸としては、アラニン、塩酸リジン、アルギニンを用いた。界面活性剤としてはポリソルベート80、塩基としてはジエタノールアミン、酸としてはクエン酸、緩衝液としてはリン酸緩衝液を用いた。
【0048】
120mg/mLの糖または糖アルコール水溶液5mL、10mg/mLのポリソルベート80水溶液0.5mL、100mg/mLのアミノ酸水溶液2mLを混合溶解した。該溶液に100mg/mlのジエタノールアミン水溶液約0.3mLを加え、pH約9とした。なお、アルギニン添加処方では、ジエタノールアミンを添加しない。次いでリン酸緩衝液14.6mgおよびクエン酸約1.48mgを添加して、該溶液のpHを約7に調整し、注射用水で全量10mLとなるように調整した。その後、上記製造した組成物の溶液1mLおよび上記製造した組成物の溶液1mLと注射用蒸留水1mLを混合した溶液2mLをそれぞれ3mL容のガラスバイアルに分注し、凍結乾燥を行った。凍結乾燥は表2の条件で行った。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
(試験方法)
凍結乾燥直後の凍結乾燥品および40℃10日間保存後の凍結乾燥品の外観を目視で観察した。以下の表3、4で外観上問題を認めないとは白色で均質な凍結乾燥品であり、融解などを認めないものであることを示し、また、ケーキとは、凍結乾燥品のマトリックスであり、このケーキが形成されていれば、凍結乾燥品としては安定である。
【0052】
(試験結果)
凍結乾燥直後の凍結乾燥品および40℃10日間保存後の凍結乾燥品の外観を表3および4に示す。その結果、40℃10日間保存後において、糖または糖アルコールがマルトースの場合、アミノ酸がアラニン、塩酸リジン、アルギニンの組合せ、糖または糖アルコールがマンニトールの場合、アミノ酸がアラニン、塩酸リジン、アルギニンの組合せ、糖または糖アルコールがラクトースの場合、アミノ酸がアラニン、塩酸リジン、アルギニンの組合せ、糖または糖アルコールがスクロースの場合、アミノ酸がアルギニンの組合せの組成物における外観が特に良好であった。一方、グリシンを配合した製剤、ソルビトールを配合したほとんどの組成物、アラニンとスクロースを配合した組成物および塩酸リジンとスクロースを配合した組成物は、40℃10日間保存において、凍結乾燥品のケーキは形成しなかった。
【0053】
【表3】

【0054】
【表4】

【0055】
(実施例2)凍結乾燥を可能とするアミノ酸および糖の検討(IL−2を含む)
実施例1において、凍結乾燥品の外観が良好であったアミノ酸と糖または糖アルコールの組合せの製剤を以下に示す製造方法に準じて、各組成物を製造し、製造直後、経時保存後のIL−2含量および凍結乾燥品の外観を観察した。なお、本製剤には、主薬であるIL−2を配合している。
【0056】
(実施例2製剤の製造方法)
表5に本組成物の配合成分を示す。糖または糖アルコールとしては、マルトース、マンニトール、ラクトース、スクロースを用いた。アミノ酸としては、アラニン、塩酸リジン、アルギニンを用いた。界面活性剤としてはポリソルベート80、塩基としてはジエタノールアミン、酸としてはクエン酸、緩衝液としてはリン酸緩衝液を用いた。
【0057】
0.04mg(70万JRU)のIL−2を含んだ主薬原液0.6mLに120mg/mLの糖または糖アルコール水溶液5mL、10mg/mLのポリソルベート80水溶液0.5mL、100mg/mLのアミノ酸水溶液2mLを混合溶解した。該溶液に100mg/mLのジエタノールアミン水溶液約0.3mL(アミノ酸としてアルギニンを添加する場合は、ジエタノールアミンを添加しない)を加え、pH約9とする。次いでリン酸緩衝液14.6mgおよびクエン酸を約1.48mg添加して、該溶液のpHを約7に調整し、注射用水を用いて溶液全量を10mLに調整した。その後、上記製造した組成物の溶液1mLおよび上記製造した組成物の溶液1mLと注射用蒸留水1mLを混合した溶液2mLを3mL容ガラスバイアルに分注し、凍結乾燥した。凍結乾燥は実施例1の条件と同様である。
【0058】
【表5】

【0059】
(試験方法)
凍結乾燥直後の凍結乾燥品および40℃14日間保存後における凍結乾燥品のIL−2含量を測定するとともに、凍結乾燥晶の外観(40℃14日間保存後の凍結乾燥品のみ)を目視で観察した。IL−2凍結乾燥品中のIL−2含量はHPLC法にて測定した。凍結乾燥品を1mLの注射用水で再溶解しHPLC法の測定検体とした。カラムはCOSMOSIL 5C18−300(150×4.6mm、カラム中樹脂の平均粒子径5μm、ナカライテスク社製)を、IL−2の検出には波長220nmのUVを使用した。移動相はA)0.1%トリフルオロ酢酸含有水/アセトニトリル(95/5)、B)0.07%トリフルオロ酢酸含有アセトニトリルであり、表6のような割合でA、B移動相溶液を流した(グラジエント法)。浸透圧は、日本薬局方第14改正一般試験法「浸透圧測定法」に準じ測定した。
【0060】
【表6】

【0061】
IL−2の含量%は以下の式で算出した。
【0062】
【数1】

【0063】
(試験結果)
表5処方の凍結乾燥直後の凍結乾燥品および40℃14日間保存後における凍結乾燥品のIL−2含量、凍結乾燥品の外観(凍結乾燥品で40℃14日間保存後のみ)ならびに凍結乾燥品を水で溶解した場合(溶解した蒸留水の容量 1mL)の浸透圧、溶液状態のpHを表7に示す。
【0064】
その結果、糖または糖アルコールがスクロースであり、アミノ酸がアルギニンの組合せであれば、凍結乾燥直後および40℃で14日間保存後のIL−2の含量はほぼ同じであり、IL−2は安定化していることが明らかとなった。また、上記組合せの組成物であれば、凍結乾燥品の着色等がないので、メイラード反応が生じていないことが推測された。さらに、上記組合せの場合、浸透圧はほぼ1で、またpHも約7付近と生理的pH付近に調整されており、注射剤として適用しても、肉体等に痛みは生じる恐れはないものと考えられる。なお、処方1〜8のいずれの凍結乾燥品も蒸留水等で再溶解した場合、液状は無色澄明であった。
【0065】
【表7】

【0066】
(実施例3)IL−2組成物のバイオアッセイ
組成物中のIL−2含量をバイオアッセイによって測定した。
【0067】
(試験方法)
実施例2に示す凍結乾燥品のうち、経時保存後においてもIL−2含量の低下が少なかった凍結乾燥品、すなわち糖または糖アルコールとしてマルトース、マンニトール、ラクトース、スクロース、アミノ酸としてアルギニンを含有した凍結乾燥品(実施例2の処方5〜8)中のIL−2をバイオアッセイにて測定した。凍結乾燥品の配合成分のうち、IL−2を0.02mg(35万JRU)とした以外は、実施例2の処方成分および製造法で製造した。供試した凍結乾燥品としては、凍結乾燥直後の凍結乾燥品および40℃で30日間保存後の凍結乾燥品を用いた。
【0068】
バイオアッセイは、以下の方法で行った。本方法は、IL−2に依存的に増殖するNK−7細胞(マウス由来)を用い、その増殖能から力価を測定する。IL−2活性を有する物質の量に比例して、NK−7細胞は増殖する。NK−7細胞にMTT〔臭化3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニル−2H−テトラゾリウム〕を与えると、MTTはNK−7細胞に取り込まれ、ミトコンドリア内膜に存在する呼吸鎖に関連する2つの電子伝達体、チトクロームbおよびチトクロームcにより還元され、細胞の増殖能に比例した量の色素ホルマザンが生成する。このホルマザンの生成量と試料の希釈倍数との関係から、IL−2の力価を定量する。生成したホルマザンはイソプロパノールによりNK−7細胞から溶出され、紫色に呈色した液を吸光度測定(波長560nm)することにより、定量した。
【0069】
(試験結果)
40℃、30日間保存後の凍結乾燥品の外観およびバイオアッセイの結果を凍結乾燥直後のIL−2活性と40℃30日間経時保存後のIL−2活性の比として表8に示す。その結果、いずれの処方でもIL−2の活性の比はほぼ1であり、経時保存してもIL−2活性はほとんど変化しないことが明らかとなった。
【0070】
【表8】

【0071】
(実施例4)組成物の収容容器を変更した場合のIL−2の含量測定
組成物を収容した容器をガラスバイアルから容器の内壁面がシリコーンでコーティングされたバイアルに変更し、IL−2の含量を測定した。
【0072】
(試験方法)
実施例2に示す凍結乾燥品のうち、経時保存後においてもIL−2の含量の低下が少なかった凍結乾燥品、すなわち糖または糖アルコールとしてマルトース、マンニトール、ラクトース、スクロース、アミノ酸としてアルギニンを含有した凍結乾燥品(実施例2の処方5〜8)中のIL−2含量を測定した。凍結乾燥品の配合成分のうち、IL−2を0.02mg(35万JRU)とした以外は、実施例2の配合成分および製造法で製造した。該配合成分を含む溶液1mLを3mL容のシリコーンコーティングされたバイアルおよび3mL容のガラスバイアルにそれぞれ分注し、凍結乾燥を行った。1回凍結乾燥後、2回凍結乾燥後(1回目の凍結乾燥後に注射用蒸留水1mLで再溶解して凍結乾燥したものである)における凍結乾燥品中のIL−2含量を測定した。含量測定法は、実施例2に示す通りである。
【0073】
(試験結果)
IL−2の含量を1mLあたりのJRU単位で表9に示した。その結果、いずれの凍結乾燥品においても、ガラスバイアルにくらべ、シリコーンコーティングされたバイアルに収容した凍結乾燥品のIL−2含量はわずかに高く、シリコーンコーティングされた容器に組成物を収容することによって、IL−2の含量低下をわずかに抑制することが明らかとなった。
【0074】
【表9】

【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、上記のごとく調製して得られたIL−2含有溶液、得られた溶液を凍結乾燥して得た凍結乾燥製剤、ならびに該凍結乾燥製剤に注射用蒸留水等の適当な復元剤を添加して所要の濃度とした溶液製剤等、種々の形態のIL−2組成物を提供する。これらの本発明組成物は、温血動物由来の血清アルブミンや甲状腺阻害剤であるカルニチンを含有しなくても製造工程および保存中におけるIL−2の実質的な損失は少ない。さらに、IL−2の凍結乾燥製剤においては、再溶解時の液状が透明であり、容器壁への吸着が少ない等の優れた特徴を有する。しかも、本発明組成物は生理的pH付近に調整され得るので、注射時疼痛、注射部位の炎症等の好ましくない局所作用も回避し得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温血動物由来の血清アルブミンおよびカルニチンを配合せず、かつ少なくとも以下の成分
1)タンパク組成物の溶液1mLあたり0.1〜100μgとなる割合のインターロイキン2、
2)スクロース、及び
3)アルギニン
を含むことを特徴とする、タンパク組成物(但し、アラニンおよびスクロースを配合した組成物、塩酸リジンおよびスクロースを配合した組成物を除く)。
【請求項2】
温血動物由来の血清アルブミンおよびカルニチンを配合せず、かつ少なくとも以下の成分
1)タンパク組成物の溶液1mLあたり40μgとなる割合のインターロイキン2、
2)スクロース、及び
3)アルギニン
を含むことを特徴とする、タンパク組成物(但し、アラニンおよびスクロースを配合した組成物、塩酸リジンおよびスクロースを配合した組成物を除く)。
【請求項3】
スクロースをタンパク組成物の溶液1mLあたり5〜500mgとなる割合で含むか、またはアルギニンをタンパク組成物の溶液1mLあたり0.1〜250mgとなる割合で含むことを特徴とする、請求項1または2に記載するタンパク組成物。
【請求項4】
更に酸または塩基を含むことを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載するタンパク組成物。
【請求項5】
更に界面活性剤を含むことを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載するタンパク組成物。
【請求項6】
凍結乾燥品である請求項1乃至5のいずれかに記載するタンパク組成物。
【請求項7】
温血動物由来の血清アルブミンおよびカルニチンを配合せず、かつ少なくとも以下の成分
1)インターロイキン2、
2)スクロース、及び
3)アルギニン
を含んだ溶液を凍結乾燥する工程を含むことを特徴とする。請求項1乃至6のいずれかに記載するタンパク組成物の製造方法。
【請求項8】
上記溶液に塩基を加えてpH8〜11とした後、酸を加えて中和するか、または上記溶液に酸を加えてpH2〜6とした後、塩基を加えて中和する工程を含むことを特徴とする、請求項7に記載する製造方法。
【請求項9】
上記溶液が更に界面活性剤を含むものであることを特徴とする、請求項7または8に記載する製造方法。

【公開番号】特開2010−120966(P2010−120966A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−37975(P2010−37975)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【分割の表示】特願2004−539495(P2004−539495)の分割
【原出願日】平成15年9月24日(2003.9.24)
【出願人】(000001926)塩野義製薬株式会社 (229)
【Fターム(参考)】