説明

安定化されたドネペジル含有貼付製剤

【課題】粘着剤層中でのドネペジルの類縁物質の生成が抑制されるドネペジル含有貼付製剤の提供。
【解決手段】支持体の少なくとも片面に設けるドネペジル含有粘着剤層に、アスコルビン酸またはその金属塩もしくはエステル、イソアスコルビン酸またはその金属塩、エチレンジアミン四酢酸またはその金属塩、システイン、アセチルシステイン、2−メルカプトベンズイミダゾール、3(2)−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、テトラキス[3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸]ペンタエリトリトール、3−メルカプト−1,2−プロパンジオール、酢酸トコフェロール、ルチン、クエルセチン、ヒドロキノン、ヒドロキシメタンスルフィン酸金属塩、メタ重亜硫酸金属塩、亜硫酸金属塩およびチオ硫酸金属塩からなる群より選ばれる1種または2種以上を含む安定化剤を配合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はドネペジルを含有する貼付製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
塩基性薬物であるドネペジルは、アセチルコリンエステラーゼ阻害作用を有し、抗アルツハイマー型認知症薬として使用されている。アルツハイマー型認知症患者には、高齢者が多く、高齢者には経口剤の嚥下が困難な者も多い。また、アルツハイマー型認知症の症状が進行した患者でも、経口剤の服薬が困難となる場合がある。これらのような場合にはドネペジルの経皮非経口投与が有用である。
【0003】
ドネペジルを経皮非経口投与するための、ドネペジル含有貼付製剤は公知であり、例えば、特開平11−315016号公報 (特許文献1)、WO2003/032960号パンフレット(特許文献2)及びWO2006/082728号パンフレット(特許文献3)等に記載されている。
【0004】
しかし、本願発明者等の研究では、ドネペジル含有貼付製剤を作製後、経時的に製剤中のドネペジルの有効量が著しく減少するという問題に遭遇した。すなわち、貼付製剤中(粘着剤層)でドネペジルの類縁物質が生成するためその対策が必要であることがわかった。しかしながら、非経口投与に用いられる貼付製剤は、薬物の存在する環境が、経口投与製剤のそれとは大きく異なり、さらにシート状形態を有する場合などに周辺環境(酸素)などの影響を受けやすいため、経口投与製剤で使用されている一般的な抗酸化剤(安定化剤)を配合しても、必ずしも、ドネペジルは安定化せず、むしろ、ドネペジルの類縁物質の生成量が増大する場合もあった。
【0005】
なお、特許文献2及び3には、粘着剤層に、必要に応じて、トコフェロール及びこれらのエステル誘導体、アスコルビン酸、アスコルビン酸ステアリン酸エステル、ノルジヒドログアヤレチン酸、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール等の抗酸化剤を用いることができるとの記載があるが、抗酸化剤を実際に配合した製剤例の記載はなく、抗酸化剤の製剤中での有効性については十分に検証されておらず、抗酸化剤によるドネペジルの安定化は見出されていない。
【0006】
また、特開2000−136134号公報(特許文献4)には、ドネペジルを含有する経口投与用組成物において、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム(メタ重亜硫酸ナトリウム)、システイン、クエン酸、エデト酸ナトリウム(エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム)、アスコルビン酸およびエリソルビン酸(イソアスコルビン酸)等の抗酸化剤を添加することで、類縁物質の増加を抑制できることが記載されている。しかし、該文献は、液剤、シロップ剤等の経口投与製剤を提案するもので、貼付製剤への抗酸化剤の適用を教示するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−315016号公報
【特許文献2】WO2003/032960号パンフレット
【特許文献3】WO2006/082728号パンフレット
【特許文献4】特開2000−136134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記事情に鑑み、本発明は、ドネペジル貼付製剤中の、ドネペジルの類縁物質の生成量を低減することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ドネペジル貼付製剤中に比較的多量に見出される、ドネペジルの特定の類縁物質の生成量を低減するという観点から鋭意検討した結果、かかる類縁物質の生成量を効果的に抑制し得る安定化剤を見出し、また、より好ましい安定化剤の選択により、意外にも、類縁物質の総生成量までも低減されるという予想外の効果を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)粘着剤と、ドネペジルと、安定化剤を含む粘着剤層を、支持体の少なくとも片面に有する、貼付製剤であって、
該安定化剤が、アスコルビン酸またはその金属塩もしくはエステル、イソアスコルビン酸またはその金属塩、エチレンジアミン四酢酸またはその金属塩、システイン、アセチルシステイン、2−メルカプトベンズイミダゾール、3(2)−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、テトラキス[3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸]ペンタエリトリトール、3−メルカプト−1,2−プロパンジオール、酢酸トコフェロール、ルチン、クエルセチン、ヒドロキノン、ヒドロキシメタンスルフィン酸金属塩、メタ重亜硫酸金属塩、亜硫酸金属塩およびチオ硫酸金属塩からなる群より選ばれる1種または2種以上を含む、貼付製剤。
(2)該安定化剤が、アスコルビン酸またはその金属塩もしくはエステル、イソアスコルビン酸またはその金属塩、エチレンジアミン四酢酸またはその金属塩、システイン、アセチルシステイン、2−メルカプトベンズイミダゾール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、テトラキス[3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸]ペンタエリトリトール、3−メルカプト−1,2−プロパンジオール、酢酸トコフェロール、ルチン、クエルセチン、ヒドロキシメタンスルフィン酸金属塩、メタ重亜硫酸金属塩、亜硫酸金属塩およびチオ硫酸金属塩からなる群より選ばれる1種または2種以上を含む、上記(1)に記載の貼付製剤。
(3)該安定化剤が、アスコルビン酸またはその金属塩もしくはエステル、イソアスコルビン酸またはその金属塩、エチレンジアミン四酢酸またはその金属塩、2−メルカプトベンズイミダゾール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、テトラキス[3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸]ペンタエリトリトール、酢酸トコフェロール、ルチン、亜硫酸金属塩およびチオ硫酸金属塩からなる群より選ばれる1種または2種以上を含む、上記(1)に記載の貼付製剤。
(4)該安定化剤が、アスコルビン酸またはその金属塩もしくはエステル、イソアスコルビン酸またはその金属塩、エチレンジアミン四酢酸またはその金属塩、2−メルカプトベンズイミダゾール、3(2)−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、テトラキス[3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸]ペンタエリトリトール、酢酸トコフェロール、ルチン、クエルセチン、ヒドロキノンおよびチオ硫酸金属塩からなる群より選ばれる1種または2種以上を含む、上記(1)に記載の貼付製剤。
(5)該安定化剤がアスコルビン酸またはその金属塩もしくはエステル、イソアスコルビン酸、エチレンジアミン四酢酸またはその金属塩、2−メルカプトベンズイミダゾール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、テトラキス[3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸]ペンタエリトリトール、酢酸トコフェロール、ルチンおよびチオ硫酸金属塩からなる群より選ばれる1種または2種以上を含む、上記(1)に記載の貼付製剤。
(6)該安定化剤が、アスコルビン酸またはその金属塩若しくはエステルと、イソアスコルビン酸またはその金属塩、2−メルカプトベンズイミダゾール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、ヒドロキシメタンスルフィン酸金属塩、ルチンおよびメタ重亜硫酸金属塩からなる化合物群より選ばれる1種または2種以上を含む、上記(1)に記載の貼付製剤。
(7)該安定化剤が、アスコルビン酸またはその金属塩若しくはエステルとメタ重亜硫酸金属塩であるか、或いは、アスコルビン酸またはその金属塩若しくはエステルと2−メルカプトベンズイミダゾールである、上記(1)に記載の貼付製剤。
(8)該安定化剤が、アスコルビン酸またはその金属塩若しくはエステル、2−メルカプトベンズイミダゾール、メタ重亜硫酸金属塩および亜硫酸金属塩からなる群より選ばれる1種または2種以上を含む、上記(1)に記載の貼付製剤。
【0011】
(9)支持体の少なくとも片面に、ドネペジルを含有する粘着剤層を有し、該粘着剤層が、粘着剤と、ドネペジルと、安定化剤を含む調合物の成膜によって得られた貼付製剤であって、
該安定化剤が、アスコルビン酸またはその金属塩もしくはエステル、イソアスコルビン酸またはその金属塩、エチレンジアミン四酢酸またはその金属塩、システイン、アセチルシステイン、2−メルカプトベンズイミダゾール、3(2)−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、テトラキス[3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸]ペンタエリトリトール、3−メルカプト−1,2−プロパンジオール、酢酸トコフェロール、ルチン、クエルセチン、ヒドロキノン、ヒドロキシメタンスルフィン酸金属塩、メタ重亜硫酸金属塩、亜硫酸金属塩およびチオ硫酸金属塩からなる群より選ばれる1種または2種以上を含む、貼付製剤。
(10)該安定化剤が、アスコルビン酸またはその金属塩もしくはエステル、イソアスコルビン酸またはその金属塩、エチレンジアミン四酢酸またはその金属塩、システイン、アセチルシステイン、2−メルカプトベンズイミダゾール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、テトラキス[3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸]ペンタエリトリトール、3−メルカプト−1,2−プロパンジオール、酢酸トコフェロール、ルチン、クエルセチン、ヒドロキシメタンスルフィン酸金属塩、メタ重亜硫酸金属塩、亜硫酸金属塩およびチオ硫酸金属塩からなる群より選ばれる1種または2種以上を含む、上記(9)に記載の貼付製剤。
(11)該安定化剤が、アスコルビン酸またはその金属塩もしくはエステル、イソアスコルビン酸またはその金属塩、エチレンジアミン四酢酸またはその金属塩、2−メルカプトベンズイミダゾール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、テトラキス[3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸]ペンタエリトリトール、酢酸トコフェロール、ルチン、亜硫酸金属塩およびチオ硫酸金属塩からなる群より選ばれる1種または2種以上を含む、上記(9)に記載の貼付製剤。
(12)該安定化剤が、アスコルビン酸またはその金属塩もしくはエステル、イソアスコルビン酸またはその金属塩、エチレンジアミン四酢酸またはその金属塩、2−メルカプトベンズイミダゾール、3(2)−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、テトラキス[3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸]ペンタエリトリトール、酢酸トコフェロール、ルチン、クエルセチン、ヒドロキノンおよびチオ硫酸金属塩からなる群より選ばれる1種または2種以上を含む、上記(9)に記載の貼付製剤。
(13)該安定化剤がアスコルビン酸またはその金属塩もしくはエステル、イソアスコルビン酸、エチレンジアミン四酢酸またはその金属塩、2−メルカプトベンズイミダゾール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、テトラキス[3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸]ペンタエリトリトール、酢酸トコフェロール、ルチンおよびチオ硫酸金属塩からなる群より選ばれる1種または2種以上を含む、上記(9)に記載の貼付製剤。
(14)該安定化剤が、アスコルビン酸またはその金属塩若しくはエステルと、イソアスコルビン酸またはその金属塩、2−メルカプトベンズイミダゾール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、ヒドロキシメタンスルフィン酸金属塩、ルチンおよびメタ重亜硫酸金属塩からなる化合物群より選ばれる1種または2種以上を含む、上記(9)に記載の貼付製剤。
(15)該安定化剤が、アスコルビン酸またはその金属塩若しくはエステルとメタ重亜硫酸金属塩であるか、或いは、アスコルビン酸またはその金属塩若しくはエステルと2−メルカプトベンズイミダゾールである、上記(9)に記載の貼付製剤。
(16)該安定化剤が、アスコルビン酸またはその金属塩若しくはエステル、2−メルカプトベンズイミダゾール、メタ重亜硫酸金属塩および亜硫酸金属塩からなる群より選ばれる1種または2種以上を含む、上記(9)に記載の貼付製剤。
【0012】
(17)アスコルビン酸またはその金属塩もしくはエステル、イソアスコルビン酸またはその金属塩、エチレンジアミン四酢酸またはその金属塩、システイン、アセチルシステイン、2−メルカプトベンズイミダゾール、3(2)−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、テトラキス[3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸]ペンタエリトリトール、3−メルカプト−1,2−プロパンジオール、酢酸トコフェロール、ルチン、クエルセチン、ヒドロキノン、ヒドロキシメタンスルフィン酸金属塩、メタ重亜硫酸金属塩、亜硫酸金属塩およびチオ硫酸金属塩からなる群より選ばれる1種または2種以上を、粘着剤の存在下、ドネペジルと共存させることを含む、貼付製剤中のドネペジルの安定化方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、製剤中のドネペジルの特定の類縁物質の生成量を確実に減少させることができるため、安全かつ安定性の高いドネペジル含有貼付製剤を実現することができる。
また、より好ましい態様では、特定の類縁物質の生成量の減少だけでなく、類縁物質の総生成量も低減することができるので、安全かつ安定性が極めて高いドネペジル含有貼付製剤を達成できる。
【0014】
しかも、特定の2種の安定化剤を組み合わせて使用することにより、製剤中のドネペジルの特定の類縁物質の生成量を確実に減少させることができるので、安全かつ安定性の高いドネペジル含有貼付製剤を実現できる。
また、より好ましい態様では、2種以上の安定化剤を組み合わせることで、それらの安定化剤単独により得られる、類縁物質の生成量の相加平均値と比較して、類縁物質の生成量がより一層抑制される(すなわち相乗的に抑制される)。従って、安定化剤を多量に使用する必要性がなく、安全かつ安定性の高いドネペジル含有貼付製剤を効率良く得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して説明する。
本発明の貼付製剤は、支持体と、支持体の少なくとも片面に形成された粘着剤層とを含み、該粘着剤層が、ドネペジルと、粘着剤と、安定化剤とを少なくとも含有する。
【0016】
ここで、「ドネペジル」とは、2−[(1−ベンジル−4−ピペリジニル)メチル]−5,6−ジメトキシインダン−1−オン(フリー体)((±)-2-[(1-benzylpiperidin-4-yl)methyl]-5,6-dimethoxyindan-1-one)だけでなく、その薬学的に許容される塩およびエステルも含む概念である。
【0017】
また、「安定化剤」とは、ドネペジルを含む粘着剤層中及び粘着剤層形成に使用する材料の調合物中において、ドネペジルの類縁物質の生成を抑制(または該類縁物質の生成量を低減)し得る作用を有する化合物を意味する。
【0018】
本発明において、ドネペジルは、ドネペジル(フリー体)、その薬学的に許容される塩若しくはエステルのいずれであってもよいが、経皮吸収性の観点からは、粘着剤層がドネペジル(フリー体)を含有する構成であるのが好ましい。
【0019】
本発明の貼付製剤は、抗アルツハイマー型認知症薬として用いられうる。また、その他の用途としては、抗脳血管性認知症、片頭痛予防などが挙げられる。
【0020】
本発明の貼付製剤において、粘着剤層中のドネペジルの割合は、粘着剤層の総重量基準で好ましくは1〜30重量%、より好ましくは3〜20重量%の範囲である。割合が1重量%に満たない場合は治療に有効な量の放出が期待できず、また、30重量%を超えると治療効果に限界が生じると共に経済的に不利となるおそれがある。
【0021】
本発明で使用する安定化剤は、特定の安定化剤であり、アスコルビン酸またはその金属塩もしくはエステル(好適には、ナトリウム塩、パルミチン酸エステル)、イソアスコルビン酸またはその金属塩(好適には、ナトリウム塩)、エチレンジアミン四酢酸またはその金属塩(好適には、カルシウム二ナトリウム塩、四ナトリウム塩)、システイン、アセチルシステイン、2−メルカプトベンズイミダゾール、3(2)−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、テトラキス[3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸]ペンタエリトリトール、3−メルカプト−1,2−プロパンジオール、酢酸トコフェロール、ルチン、クエルセチン、ヒドロキノン、ヒドロキシメタンスルフィン酸金属塩(好適には、ナトリウム塩)、メタ重亜硫酸金属塩(例えば、ナトリウム塩)、亜硫酸金属塩(好適には、ナトリウム塩)、およびチオ硫酸金属塩(好適には、ナトリウム塩)からなる群より選ばれ、これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0022】
上記において、金属塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などが挙げられる。エステルとしては、パルミチン酸エステル、ステアリン酸エステル、ミリスチン酸エステルなどが挙げられる。
【0023】
安定化剤は、貼付製剤の粘着剤層に含有されることが必要である。安定化剤の重量割合は粘着剤層の物性に悪影響を与えない限り特に限定されない。安定化剤の割合の上限値の好ましい例は、粘着剤層の総重量(すなわち、粘着剤層形成に使用する調合物の固形分総重量)に基づき、その総量として、5重量%を超えると粘着剤層の接着性などの物性が低下する可能性があり、0.0005重量%を下回ると十分な安定化効果が得られない可能性がある。従って、上限値の好ましい例は、5重量%、3重量%、2重量%、1重量%、0.7重量%、0.5重量%、0.3重量%であり、下限値の好ましい例は、0.0005重量%、0.001重量%、0.01重量%、0.02重量%、0.03重量%、0.05重量%、0.1重量%、0.2重量%である。
【0024】
より具体的には、粘着剤層の総重量(粘着剤層形成に使用する調合物の固形分総重量)に基づき、その総量として、0.0005〜5重量%が好ましく、さらに0.001〜3重量%が好ましく、さらに0.01〜1重量%が好ましく、さらに0.01〜0.91重量%が好ましく、さらに0.01〜0.7重量%が好ましく、さらに0.02〜0.7重量%が好ましく、さらに0.02〜0.5重量%が好ましく、最も好ましくは0.03〜0.3重量%である。
【0025】
本発明でいうドネペジルの類縁物質とは、ドネペジルを含む粘着剤層中において比較的多量に見出される、ドネペジル由来の物質(ドネペジルに関連して生成する物質;ドネペジルを含有しない粘着剤層では認められない物質)のことであり、具体的には、後述の実施例記載の分析条件にて本発明の貼付製剤を分析した場合に、リテンションタイム12.8分で検出される類縁物質(以下、「類縁物質1」という)およびリテンションタイム3.9分で検出される類縁物質(以下、「類縁物質2」という)を意味する。本発明は、かかる特定の類縁物質1および/又は類縁物質2の生成を少なくとも抑制することを主たる課題としており、特定の安定化剤1種または2種以上を粘着剤層中に含有させることで、かかる課題は達成される。
【0026】
上記安定化剤のうち、ドネペジルの類縁物質1の生成量を効率的に低減する観点から好ましいものは、アスコルビン酸またはその金属塩もしくはエステル、イソアスコルビン酸またはその金属塩、エチレンジアミン四酢酸またはその金属塩、システイン、アセチルシステイン、2−メルカプトベンズイミダゾール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、テトラキス[3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸]ペンタエリトリトール、3−メルカプト−1,2−プロパンジオール、酢酸トコフェロール、ルチン、クエルセチン、ヒドロキシメタンスルフィン酸金属塩、メタ重亜硫酸金属塩、亜硫酸金属塩およびチオ硫酸金属塩であり、これらは1種でまたは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0027】
なお、類縁物質1の生成が抑制されても、他の類縁物質の生成が増大し、結果的に類縁物質の総生成量が増加することがある。しかしながら、本発明者等は、ある種の安定化剤を選択した場合、類縁物質1だけでなく、類縁物質の総生成量も低減できることを見出した。
【0028】
そのような安定化剤としては、好ましくは、アスコルビン酸またはその金属塩もしくはエステル、イソアスコルビン酸またはその金属塩、エチレンジアミン四酢酸またはその金属塩、2−メルカプトベンズイミダゾール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、テトラキス[3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸]ペンタエリトリトール、酢酸トコフェロール、ルチン、亜硫酸金属塩およびチオ硫酸金属であり、これらは1種でまたは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0029】
上記安定化剤のうち、ドネペジルの類縁物質2の生成量を効率的に低減する観点から好ましいものは、アスコルビン酸またはその金属塩もしくはエステル、イソアスコルビン酸またはその金属塩、エチレンジアミン四酢酸またはその金属塩、2−メルカプトベンズイミダゾール、3(2)−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、テトラキス[3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸]ペンタエリトリトール、酢酸トコフェロール、ルチン、クエルセチンおよびヒドロキノンおよびチオ硫酸金属塩であり、これらは1種でまたは2種以上組み合わせて用いられる。
【0030】
また、類縁物質2の生成が抑制されても、他の類縁物質の生成が増大し、結果的に類縁物質の総生成量が増加することがある。しかしながら、本発明者等は、ある種の安定化剤を選択した場合、類縁物質2だけでなく、類縁物質の総生成量も低減できることを見出した。
【0031】
そのような安定化剤としては、好ましくは、アスコルビン酸またはその金属塩もしくはエステル、イソアスコルビン酸、エチレンジアミン四酢酸またはその金属塩、2−メルカプトベンズイミダゾール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、テトラキス[3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸]ペンタエリトリトール、酢酸トコフェロールおよびルチンおよびチオ硫酸金属塩であり、これらは1種でまたは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0032】
以上のように、本発明において、安定化剤は1種または2種以上を組み合わせて用いることができるが、特に、アスコルビン酸またはその金属塩またはエステル(以下、これらを総じて「アルコルビン酸類」ともいう)を、下記の安定化剤群(A)より選ばれる少なくとも1種以上の安定化剤と組み合わせることで、アスコルビン酸またはその金属塩もしくはエステルの使用量を減量できる点で有利である。
【0033】
安定化剤群(A):イソアスコルビン酸または金属塩、2−メルカプトベンズイミダゾール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、ヒドロキシメタンスルフィン酸金属塩、ルチン、メタ重亜硫酸金属塩
【0034】
なお、安定化剤群(A)から選択される安定化剤は、類縁物質1の生成量を相乗的に抑制できるという観点から、2−メルカプトベンズイミダゾール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、ヒドロキシメタンスルフィン酸金属塩およびメタ重亜硫酸金属塩からなる群から選ばれるのが好ましい。
【0035】
アスコルビン酸類と他の安定化剤の組み合せの特に好ましい態様としては、アスコルビン酸類と2−メルカプトベンズイミダゾールとの組み合せが挙げられ、かかる態様であれば、類縁物質1のみならず、総類縁物質の生成量をも相乗的に抑制することができる。また、アスコルビン酸類とヒドロキシメタンスルフィン酸金属塩との組み合せ、及び、アスコルビン酸類とメタ重亜硫酸金属塩との組み合せが挙げられ、これらのいずれかの態様であれば、類縁物質1、類縁物質2および総類縁物質の生成量を相乗的に減少させることができる。
【0036】
以上記載のアスコルビン酸類と他の安定化剤との組み合わせの態様において、両者の重量比(アスコルビン酸類:他の安定化剤)は、100:1〜1:100が好ましく、10:1〜1:100がより好ましく、1:1〜1:100が最も好ましい。100:1を超えてアスコルビン酸類の比率が高い場合、粘着剤層の粘着物性が低下する可能性があり、1:100を超えて他の安定化剤の比率が高い場合、良好な安定化効果が得られない可能性がある。
【0037】
本発明の貼付製剤において、粘着剤層に含まれる粘着剤としては、特に限定されず、例えば、アクリル系粘着剤;シリコーンゴム、ポリイソプレンゴム、ポリイソブチレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体ゴム、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体ゴム等のゴム系粘着剤;シリコーン系粘着剤;ポリビニルアルコール、ポリビニルアルキルエーテル、ポリ酢酸ビニル等のビニル系高分子粘着剤等が挙げられる。
【0038】
ゴム系粘着剤は、反応性の高い官能基を有しないことが多く、そこに含有されるドネペジルは比較的安定に存在し、類縁物質の生成率も比較的低い。このようなゴム系粘着剤としては、ポリイソブチレン、スチレン・ジエン・スチレンブロック共重合体〔例えば、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体(SIS)等〕等が好ましく使用され、これらは一種でまたは2種以上混合して用いてもよい。
【0039】
アクリル系粘着剤は、共重合させるモノマーの種類や比率によって、粘着特性や薬物溶解度等を制御できるなど自由度が比較的高い反面、ドネペジルと反応性を有する官能基をそのポリマー鎖に有している場合があり、また粘着剤中に残存するモノマーや重合開始剤がドネペジルと反応する場合があるため、ドネペジルの有効量が減少する懸念がある。従って、本発明はアクリル系粘着剤を用いた貼付製剤において特に有利に実施される。
【0040】
本発明におけるアクリル系粘着剤としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含むアクリル系粘着剤が挙げられ、好ましくは(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分(主たる構成単位)とするアクリル系粘着剤である。ここで、「(メタ)アクリル」とは、アクリルまたはメタクリルを意味する。主成分である(メタ)アクリル酸アルキルエステル(第1モノマー成分)と、架橋反応に関与できる官能基を有するビニルモノマー(第2モノマー成分)との共重合体か、或いは、これら以外の他のモノマー(第3モノマー成分)がさらに共重合した共重合体が、架橋処理のしやすさ、人間の皮膚への貼接着、薬物溶解の操作性等の観点から特に好ましい。
【0041】
上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(第1モノマー成分)の例としては、アルキル基の炭素数が1〜18の直鎖状、分岐鎖状又は環状アルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、へキシル、シクロヘキシル、へプチル、オクチル、2−エチルヘキシル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシルなど)である(メタ)アクリル酸アルキルエステルなどが挙げられ、アルキル基の炭素数が4〜18の直鎖状、分岐鎖状又は環状アルキル基(例えば、ブチル、ペンチル、へキシル、シクロヘキシル、へプチル、オクチル、2−エチルヘキシル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシルなど)である(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。さらに、常温で粘着性を与えるために、重合体のガラス転移温度を低下させるモノマー成分の使用がさらに好適であることから、アルキル基の炭素数が4〜8の直鎖状、分岐鎖状又は環状アルキル基(例えば、ブチル、ペンチル、へキシル、シクロヘキシル、へプチル、オクチル、2−エチルヘキシルなど、好ましくは、ブチル、2−エチルヘキシル、シクロヘキシル、特に好ましくは2−エチルヘキシル)である(メタ)アクリル酸アルキルエステルがより好ましい。具体的にはアクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルへキシル、メタクリル酸2−エチルへキシル、アクリル酸シクロへキシル、メタクリル酸シクロへキシルなどがより好ましく、中でも、アクリル酸2−エチルへキシルが最も好ましい。これら(メタ)アクリル酸アルキルエステル(第1モノマー成分)は1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0042】
一方、上記の架橋反応に関与できる官能基を有するビニルモノマー(第2モノマー成分)において、架橋反応に関与できる官能基としては、水酸基、カルボキシル基、ビニル基などが挙げられ、水酸基およびカルボキシル基が好ましい。当該モノマー(第2モノマー成分)の具体例としては、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピルエステル、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、メサコン酸、シトラコン酸、グルタコン酸などが挙げられる。これらのうち、入手の容易性の観点から、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸ヒドロキシエチルエステル(特に、アクリル酸2−ヒドロキシエチル)が好ましく、アクリル酸が最も好ましい。これらのモノマー(第2モノマー成分)は1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0043】
また、上記他のモノマー(第3モノマー成分)は、主として、粘着剤層の凝集力調整やドネペジルの溶解性・放出性の調整などのために使用される。当該モノマー(第3モノマー成分)としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニルカプロラクタムなどのビニルアミド類;(メタ)アクリル酸メトキシエチルエステル、(メタ)アクリル酸エトキシエチルエステル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリルエステルなどの(メタ)アクリル酸アルコキシエステル;ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、α−ヒドロキシメチルアクリレートなどのヒドロキシル基含有モノマー(第3モノマー成分としての使用なので架橋点とはしない);(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミドなどのアミド基を有する(メタ)アクリル酸誘導体;(メタ)アクリル酸アミノエチルエステル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルエステル、(メタ)アクリル酸t−ブチルアミノエチルエステルなどの(メタ)アクリル酸アミノアルキルエステル;(メタ)アクリル酸メトキシエチレングリコールエステル、(メタ)アクリル酸メトキシジエチレングリコールエステル、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコールエステル、(メタ)アクリル酸メトキシポリプロピレングリコールエステルなどの(メタ)アクリル酸アルコキシアルキレングリコールエステル;(メタ)アクリロニトリル;スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシナフタレンスルホン酸、アクリルアミドメチルスルホン酸などのスルホン酸を有するモノマー;ビニルピペリドン、ビニルピリミジン、ビニルピペラジン、ビニルピロール、ビニルイミダゾール、ビニルオキサゾール、ビニルモルホリンなどのビニル基含有モノマーなどが挙げられる。これらの中でも、ビニルエステル類、ビニルアミド類が好ましく、ビニルエステル類は酢酸ビニルが好ましく、ビニルアミド類はN−ビニル−2−ピロリドンが好ましい。これらのモノマー(第3モノマー成分)は1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0044】
当該アクリル系粘着剤は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(第1モノマー成分)と、架橋反応に関与できる官能基を有するビニルモノマー(第2モノマー成分)との共重合体である場合、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、架橋反応に関与できる官能基を有するビニルモノマーとは、(メタ)アクリル酸アルキルエステル:架橋反応に関与できる官能基を有するビニルモノマー=99〜85:1〜15の重量比で配合して共重合させることが好ましく、99〜90:1〜10の重量比がより好ましい。
【0045】
また、当該アクリル系粘着剤が、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(第1モノマー成分)と、架橋反応に関与できる官能基を有するビニルモノマー(第2モノマー成分)と、これら以外の他のモノマー(第3モノマー成分)との共重合体である場合、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、架橋反応に関与できる官能基を有するビニルモノマーと、これら以外の他のモノマーとは、(メタ)アクリル酸アルキルエステル:架橋反応に関与できる官能基を有するビニルモノマー:これら以外の他のモノマー=40〜94:1〜15:5〜50の重量比で配合して共重合させることが好ましく、50〜89:1〜10:10〜40の重量比がより好ましい。
【0046】
重合反応は、自体公知の方法で行えばよく特に限定されないが、例えば、上記のモノマーを、重合開始剤(例えば、過酸化ベンゾイル、アゾビスイソブチロニトリルなど)を添加して、溶媒(例えば、酢酸エチルなど)中で、50〜70℃で5〜48時間反応させる方法が挙げられる。
【0047】
本発明における特に好ましいアクリル系粘着剤としては、例えば、アクリル酸2−エチルへキシルエステル/アクリル酸/N−ビニル−2−ピロリドンの共重合体、アクリル酸2−エチルへキシルエステル/アクリル酸2−ヒドロキシエチルエステル/酢酸ビニルの共重合体、アクリル酸2−エチルへキシルエステル/アクリル酸の共重合体等であり、より好ましくは、アクリル酸2−エチルへキシルエステル/アクリル酸/N−ビニル−2−ピロリドンの共重合体である。
【0048】
また、本発明におけるアクリル系粘着剤のガラス転移温度は、共重合組成によっても異なるが、貼付製剤としての粘着性の観点から、通常−100〜−10℃であることが好ましく、より好ましくは−90〜−20℃である。
【0049】
本発明の貼付製剤においては、粘着剤層へのソフト感の付与、貼付製剤を皮膚から剥離する時の皮膚接着力に起因する痛みや皮膚刺激性の軽減等の観点から、粘着剤層に液状成分を含有させることができる。粘着剤層との相溶性の観点から有機液状成分が好ましい。有機液状成分を含む本発明の貼付製剤において、有機液状成分の種類によってはドネペジルと化学反応するなどしてドネペジルの安定性が低下する可能性がある。従って、かかる安定性低下を効率的に抑制し得る点で、本発明は有機液状成分を含む貼付製剤において特に有利に実施される。
【0050】
当該有機液状成分としては、それ自体室温で液状であり、可塑化作用を示し、上記の粘着剤を構成する粘着性ポリマーと相溶するものであれば、特に制限なく使用できるが、ドネペジルの経皮吸収性、保存安定性を向上させるものが好ましい。また、粘着剤中へのドネペジルの溶解性等をさらに高める目的でも配合することができる。このような有機液状成分としては、脂肪酸アルキルエステル〔例えば、炭素数1〜4の低級1価アルコールと炭素数12〜16の飽和又は不飽和の脂肪酸とのエステル等〕; 炭素数8〜10の飽和又は不飽和の脂肪酸〔例えば、カプリル酸(オクタン酸、C8)、ペラルゴン酸(ノナン酸、C9)、カプリン酸(デカン酸、C10)、ラウリン酸(C12)等〕;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等のグリコール類;オリーブ油、ヒマシ油、スクアレン、ラノリン等の油脂類;酢酸エチル、エチルアルコール、ジメチルデシルスルホキシド、デシルメチルスルホキシド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルラウリルアミド、ドデシルピロリドン、イソソルビトール、オレイルアルコール等の有機溶剤;液状の界面活性剤;ジイソプロピルアジぺ−ト、フタル酸エステル、ジエチルセバケート等の可塑剤類;流動パラフィン等の炭化水素類等が挙げられる。また、エトキシ化ステアリルアルコール、グリセリンエステル(室温で液状の物)、ミリスチン酸イソトリデシル、N−メチルピロリドン、オレイン酸エチル、オレイン酸、アジピン酸ジイソプロピル、パルミチン酸オクチル、1,3−プロパンジオール、グリセリン等も挙げられる。これらの中でも、製剤の安定性等の観点から、脂肪酸アルキルエステル、飽和脂肪酸、炭化水素類、有機溶剤が好ましく、より好ましくは脂肪酸アルキルエステルである。これらの有機液状成分はいずれかを単独でまたは2種以上の組み合わせで使用される。
【0051】
また、粘着剤にアクリル系粘着剤を使用する場合、有機液状成分は、上記の中でも、アクリル系粘着剤との相溶性等の観点から、脂肪酸アルキルエステルが好ましく、より好ましくは炭素数1〜4の低級1価アルコールと炭素数12〜16の飽和又は不飽和の脂肪酸とのエステルである。ここで、炭素数12〜16の飽和又は不飽和の脂肪酸は飽和脂肪酸が好ましく、また、炭素数1〜4の低級1価アルコールは直鎖でも分岐鎖でもよい。炭素数12〜16の脂肪酸の好適な例としては、ラウリン酸(C12)、ミリスチン酸(C14)、パルミチン酸(C16)等が挙げられ、炭素数1〜4の低級1価アルコールの好適な例としては、イソプロピルアルコール、エチルアルコール、メチルアルコール、プロピルアルコール等が挙げられる。特に好ましい脂肪酸アルキルエステルの具体例としては、ミリスチン酸イソプロピル、ラウリン酸エチル、パルミチン酸イソプロピル等が挙げられる。
【0052】
なお、脂肪酸アルキルエステルを使用する場合、ドネペジルの経皮吸収性向上の観点から、脂肪酸アルキルエステルとともに炭素数8〜10の脂肪酸および/またはグリセリンを併用しても良い。
【0053】
本発明において、有機液状成分の配合量は上記粘着剤100重量部当たり、好ましくは10〜160重量部であり、より好ましくは40〜150重量部である。配合量が10重量部未満のとき、粘着剤層の可塑化が不充分なために良好なソフト感が得られなかったり、皮膚刺激性の低減効果が十分に得られない場合があり、逆に160重量部を超えるとき、粘着剤が有する凝集力によっても有機液状成分を粘着剤中に保持できず、粘着剤層表面にブルーミングして粘着力が弱くなり過ぎて、貼付使用中に皮膚面から製剤が脱落する可能性が高くなる。
【0054】
本発明の貼付製剤では、粘着剤層には、前記のとおり、公知の化学的架橋処理(例えば、架橋剤を用いた架橋処理等)や物理的架橋処理(例えば、γ線のような電子線照射や紫外線照射による架橋処理等)等で架橋処理を施し得るが、当該架橋処理は、当分野で一般的に行われている手法により行うことができる。本発明の貼付製剤において、化学的または物理的架橋処理によっては、製剤の製造工程中または保管中のドネペジルの安定性が低下する(類縁物質の生成量が増加する)可能性がある。従って、本発明は粘着剤層に架橋処理が施された貼付製剤において特に有利に実施される。なお、架橋処理はドネペジルに悪影響を及ぼしにくいという観点から、架橋剤を用いた化学的架橋処理が好ましい。
【0055】
架橋剤を用いた化学的架橋処理を施す場合、架橋剤にはドネペジルによって架橋の形成が阻害されない架橋剤であれば特に制限されないが、例えば、過酸化物(例えば、過酸化ベンゾイル(BPO)等)、金属酸化物(例えば、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等)、多官能性イソシアネート化合物、有機金属化合物(例えば、ジルコニウムアラニネート、亜鉛アラニネート、酢酸亜鉛、グリシンアンモニウム亜鉛、チタン化合物等)、金属アルコラート(例えば、テトラエチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、アルミニウムイソプレピレート、アルミニウムsec−ブチレート等)、および金属キレート化合物(例えば、ジプロポキシビス(アセチルアセトナート)チタン、テトラオクチレングリコールチタン、アルミニウムイソプロピレート、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)等)が挙げられる。これらの中でも、ドネペジルの存在下で効率的に架橋を形成し得るという観点から、過酸化物、金属酸化物、有機金属化合物、金属アルコラート、金属キレート化合物が好ましく、より好ましくは金属アルコラート、金属キレート化合物であり、適度な架橋密度の架橋構造が得られ易いという観点から、最も好ましくは金属キレート化合物である。また、金属キレート化合物のなかでもエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレートが特に好ましい。これらの架橋剤は1種または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
架橋剤の配合量は、架橋剤や粘着剤の種類によって異なるが、一般に、粘着剤100重量部に対して0.1〜0.6重量部であり、好ましくは0.15〜0.5重量部である。0.1重量部より少ないと架橋点が少なすぎて粘着剤層に充分な凝集力が付与できず、剥離時に凝集破壊に起因する糊残りや強い皮膚刺激が発現するおそれがあり、0.6重量部より多いと、凝集力は大きいが充分な皮膚接着力が得られなくなる場合がある。また、未反応の架橋剤の残留によって皮膚刺激がおこるおそれがある。
【0057】
化学的架橋処理は、例えば、架橋剤の添加後、架橋反応温度以上に加熱して保管する工程、すなわち、熟成工程を経ることにより実施することができ、このときの加熱温度は、架橋剤の種類に応じて適宜選択されるが、好ましくは60〜90℃であり、より好ましくは60〜80℃である。加熱時間としては、好ましくは12〜96時間であり、より好ましくは24〜72時間である。
【0058】
本発明の貼付製剤では、架橋処理された粘着剤層がドネペジルとともに金属塩化物を含有することができる。粘着剤層が金属塩化物を含むことで、貼付製剤をヒト皮膚に貼付した状態で、粘着剤層の凝集力の低下が軽減され、粘着剤層を剥離する際の凝集破壊が生じ難いものとなる。
【0059】
かかる金属塩化物としては、特に限定されないが、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属の塩化物;カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属の塩化物;塩化アルミニウム、塩化第一スズ、塩化第二鉄等が挙げられる。安全性および粘着剤層の凝集力低下抑制能に優れる点から、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化アルミニウム、塩化第一スズ、塩化第二鉄が好ましく、塩化ナトリウム、塩化カルシウムがより好ましく、とりわけ好ましくは塩化ナトリウムである。これらはいずれかを単独で使用しても2種以上を併用してもよい。金属塩化物の配合量としては、粘着剤100重量部当たり、好ましくは0.1〜20重量部、より好ましくは1〜15重量部、最も好ましくは3〜10重量部である。この配合量が0.1重量部未満の場合、粘着剤層の凝集力低下を抑制する効果が不充分となる場合があり、逆に20重量部を超えた場合、抑制効果はあるものの粘着剤(粘着性ポリマー)中に均一に分散出来ず、製剤が外観不良を引き起こすことがある。
【0060】
本発明において、金属塩化物は、粘着剤層の形成過程で、塩酸ドネペジルを、金属を含有する無機塩基で中和して生じさせてもよく、かかる金属を含有する無機塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアリカリ金属又はアルカリ土類金属の無機塩基等が挙げられ、副生成物を生じ難いという観点から、アリカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物が好ましく、より好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムであり、水酸化ナトリウムが特に好ましい。
【0061】
本発明の貼付製剤において、粘着剤層の厚みは20〜300μmが好ましく、30〜300μmがより好ましく、50〜300μmが最も好ましい。粘着剤層の厚みが20μm未満であると、十分な粘着力を得ること、有効量のドネペジルを含有させること、が困難となるおそれがあり、粘着剤層の厚みが300μmを超えると塗工困難のおそれがある。
【0062】
本発明の貼付製剤は、支持体と粘着剤層を含み、好ましくは剥離ライナーを備える。すなわち、本発明の貼付製剤は、前述の粘着剤層を支持体の少なくとも片面に積層した構造を有し、粘着剤層の粘着面(粘着剤層の支持体に積層した面と反対の面)は、使用の直前まで剥離ライナーで被覆して保護されていることが好ましい。また、シリコーン系、フッ素系、ワックス等の背面処理剤を支持体上に塗布し、剥離ライナーを用いずにロール状の形態とすることもできる。
【0063】
支持体は、特に限定はされないが、粘着剤層中のドネペジルが支持体中を通ってその背面から失われて割合が低下しないもの(即ち、ドネペジルに対して不透過性を有する材料)が好ましく、また、後述するように粘着剤層中に有機液状成分を含有させる態様の場合は、ドネペジルと有機液状成分が支持体中を通って背面から失われてそれらの割合が低下しないもの(即ち、有機液状成分およびドネペジルに対して不透過性を有する材料)が好ましい。
【0064】
具体的には、ポリエステル(例えば、ポエチレンテレフタレート(PET)等)、ナイロン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、アイオノマー樹脂などの単独フィルム、金属箔、又はこれらから選ばれる2種以上のフィルムを積層したラミネートフィルムなどが挙げられる。これらのうち、支持体として粘着剤層との接着性(投錨性)を向上させるために支持体を上記材質からなる無孔性フィルムと下記の多孔性フィルムとのラミネートフィルムとし、多孔性フィルム側に粘着剤層を形成することが好ましい。
【0065】
当該多孔性フィルムとしては、粘着剤層との投錨性が向上するものであれば特に限定されず、例えば紙、織布、不織布(例えば、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)など)不織布など)、上記のフィルム(例えば、ポリエステル、ナイロン、サラン(商品名)、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、金属箔、ポリエチレンテレフタレートなどの単独フィルム、およびこれらの1種または2種以上のフィルムを積層したラミネートフィルムなど)に機械的に穿孔処理したフィルムなどが挙げられ、特に紙、織布、不織布(例えば、ポリエステル不織布、ポリエチレンテレフタレート不織布など)が支持体の柔軟性の点から好ましい。多孔性フィルムの厚みは投錨性向上および粘着剤層の柔軟性を考慮すると通常10〜500μm、プラスタータイプや粘着テープタイプのような薄手の貼付製剤の場合は通常1〜200μm程度である。織布や不織布の場合は、これらの目付量を5〜30g/mとすることが投錨力の向上の点で好ましい。
【0066】
本発明の貼付製剤の支持体の厚みは、特に限定されないが、好ましくは2〜200μm、より好ましくは10〜50μmである。2μm未満であると、自己支持性等の取扱い性が低下する傾向となり、200μmを超えると、違和感(ごわごわ感)を生じ、追従性が低下する傾向となる。
【0067】
剥離ライナーとしては、特に制限されず、公知の剥離ライナーを用いることができる。具体的には、剥離ライナーとしては、剥離処理剤からなる剥離処理剤層が剥離ライナー用の基材の表面に形成された剥離ライナーや、それ自体が剥離性の高いプラスチックフィルム、剥離ライナー用の基材の表面に、前記剥離性の高いプラスチックフィルムの素材による剥離層を形成した構成の剥離ライナーなどが挙げられる。剥離ライナーの剥離面は、基材の片面のみであってもよく、両面であってもよい。
【0068】
このような剥離ライナーにおいて、剥離処理剤としては、特に制限されず、例えば、長鎖アルキル基含有ポリマー、シリコーンポリマー(シリコーン系剥離剤)、フッ素系ポリマー(フッ素系剥離剤)などの剥離剤が挙げられる。剥離ライナー用の基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリイミドフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリエステル(PETを除く)フィルムなどのプラスチックフィルムやこれらのフィルムに金属を蒸着した金属蒸着プラスチックフィルム;和紙、洋紙、クラフト紙、グラシン紙、上質紙などの紙類;不織布、布などの繊維質材料による基材;金属箔などが挙げられる。
【0069】
また、それ自体が剥離性の高いプラスチックフィルムとしては、例えば、ポリエチレン(低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン等)、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体等のエチレン−α−オレフィン共重合体(ブロック共重合体又はランダム共重合体)の他、これらの混合物からなるポリオレフィン系樹脂によるポリオレフィン系フィルム;テフロン(登録商標)製フィルムなどを用いることができる。
【0070】
なお、前記剥離ライナー用の基材の表面に形成される剥離層は、前記剥離性の高いプラスチックフィルムの素材を、前記剥離ライナー用の基材上に、ラミネート又はコーティングすることにより形成することができる。
【0071】
剥離ライナーの厚み(全体厚)としては、特に限定するものではないが、通常200μm以下、好ましくは25〜100μmである。
【0072】
本発明において、貼付製剤の製法は特に限定されないが、一実施態様として、本発明の貼付製剤は、粘着剤と、ドネペジルと、安定化剤とを少なくとも含む調合物を成膜してドネペジルを含む粘着剤層を形成することによって製造される。すなわち、本発明はまた、支持体の少なくとも片面に設けるドネペジルを含有する粘着剤層を、粘着剤と、ドネペジルと、上記の安定化剤を含む調合物の成膜によって形成する、ドネペジル含有貼付製剤の製造方法に関する。また、上記の安定化剤を、粘着剤の存在下、ドネペジルと共存させることを含む、貼付製剤中のドネペジルの安定化方法に関する。
【0073】
この実施態様では、粘着剤層形成用の調合物中でドネペジルに安定化剤が付されることから、粘着剤層の形成に使用する調合物の調製時からドネペジルの安定化が図られ、類縁物質の生成が十分に抑制される。
【0074】
具体的には、例えば、粘着剤、ドネペジル及び安定化剤等を溶媒に溶解または分散させて調合し、得られた溶液または分散液を支持体の少なくとも片面上に塗布し、乾燥して成膜することにより粘着剤層を支持体の表面上に形成させ、次いで剥離ライナーを設ける方法が挙げられる。あるいは、例えば、上記の溶液または分散液を保護用の剥離ライナーの少なくとも片面上に塗布し、乾燥して成膜することにより粘着剤層を剥離ライナーの表面上に形成させ、次いで支持体を粘着剤層に接着させることによって製造することができる。
【0075】
上記の粘着剤等を溶解乃至分散させる溶媒には、例えば、酢酸エチル、トルエン、ヘキサン、2−プロパノール、メタノール、エタノール、水等が挙げられる。また、架橋剤を添加した後、これらを粘度調整のために使用することもできる。
【0076】
なお、粘着剤層が架橋される場合、化学的架橋処理にあっては、好ましくは上記溶液または分散液中に架橋剤が添加される。また、粘着剤層が架橋される場合、成膜後の粘着剤層に架橋を促進するために、好ましくは保管(エージング処理(熟成工程))が行われる。かかるエージング処理(熟成工程)は、通常、上記溶液または分散液を塗布、乾燥して成膜後(粘着剤層形成後)、得られた粘着剤層を60〜90℃(好ましくは60〜80℃)の加熱下に、12〜96時間程度(好ましくは24〜72時間程度)置くことによって行われる。この間、ドネペジルは安定化剤と共存することにより、安定化が図られ、類縁物質の生成が抑制される。
【0077】
本発明の貼付製剤の形状は限定されず、例えば、テープ状、シート状、マトリックス型、リザーバー型、膜放出制御型などを含む。テープ状またはシート状が環境、特に酸素の影響を受けやすいことから、本発明の安定化効果は有利である。
【0078】
また、本発明の貼付製剤の投与量は、使用する粘着剤や有機液状成分の種類や量、患者の年齢、体重、症状などにより異なるが、通常、成人に対して、ドネペジルまたは塩酸ドネペジル2〜150mgを含有した貼付製剤を皮膚5〜120cmに、1〜7日間程度貼り付けるのが好ましい。
【実施例】
【0079】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明する。なお、記載中、特記しない限り、「部」は「重量部」を意味する。
【0080】
実施例1〜19および比較例1〜6
不活性ガス雰囲気下、アクリル酸2−エチルへキシル75部、N−ビニル−2−ピロリドン22部、アクリル酸3部およびアゾビスイソブチロニトリル0.2部を酢酸エチル中60℃にて溶液重合させて粘着剤Aの酢酸エチル溶液(粘着剤固形分:28%)を得た。
次に、下記表2に示す安定化剤を含み、下記表1の配合組成を混合し、酢酸エチルで粘度調整して塗工液を得た。これをポリエチレンテレフタレート(PET)剥離ライナー上に乾燥後厚60μmとなるよう塗布し、乾燥し、これにPET支持体を貼り合せて貼付製剤を得た後、70℃、48時間保管して実施例1〜19および比較例1〜6の保管された貼付製剤を得た。
【0081】
【表1】

【0082】
(類縁物質の割合の測定)
実施例および比較例の貼付製剤をメタノール抽出し、この抽出液を次の条件でHPLC分析した。
(HPLC条件)
HPLC−カラム:Inertsil(登録商標)ODS−2(4.6mmI.D.×15cm、5μm)GLサイエンス社製
カラム温度:35℃
移動相:1−デカンスルホン酸ナトリウム水溶液/アセトニトリル/70%過塩素酸=650/350/1(体積比)
1−デカンスルホン酸ナトリウム濃度は移動相全体に対して10mM
流速:1.4mL/min
検出:UV(271nm)
リテンションタイム:ドネペジル 11.0分、類縁物質1 12.8分、類縁物質2 3.9分
【0083】
実施例1〜19および比較例1〜6の保管された貼付製剤の粘着剤層におけるドネペジルの類縁物質1、類縁物質2および総類縁物のHPLCピークの面積の、ドネペジルのHPLCピークの面積に対する面積比を、それぞれ、ドネペジルの類縁物質1の割合、ドネペジルの類縁物質2の割合、およびドネペジルの総類縁物の割合として、表2に示した。
【0084】
【表2】

【0085】
表2から明らかなように、比較例1に比較して、特定の安定化剤が配合された実施例1〜19は、類縁物質1、類縁物質2および総類縁物質の割合のいずれかにおいて改善された。すなわち、実施例1〜7、9〜14および16〜19は、類縁物質1の割合が低かった。また、実施例1〜5、7〜10、12〜15および19は、類縁物質2の割合が低かった。また、実施例1〜5、7、9〜10、12〜13、および18〜19は総類縁物質の割合が小さかった。
【0086】
比較例2〜6では、一般的な安定化剤が添加されているにもかかわらず、類縁物質の生成抑制効果は認められず、安定化剤を含まない比較例1と比較して、類縁物質1および類縁物質2の少なくとも一方の割合が増大し、また、総類縁物質の割合も増大した。特に、(±)−α−トコフェロールを用いた比較例4では、安定化剤の添加されていない比較例1と比較して、類縁物質1は約22.5倍、総類縁物質で約35.7倍生成した。このことは、一般的な安定化剤であっても、ドネペジル含有貼付製剤の安定化を阻害することがあることを示している。
【0087】
実施例20〜24
実施例1において、1.0部のL(+)-アスコルビン酸(以下、「アスコルビン酸」という)を、0.5部のアスコルビン酸および0.5部のD(-)-イソアスコルビン酸(以下「イソアスコルビン酸」という)に置き換えたほかは、実施例1と同様にして実施例20の保管された貼付製剤を得た。また、同様に、実施例20において、0.5部のアスコルビン酸および0.5部のイソアスコルビン酸を、表3に記載の安定化剤の組み合わせ(それぞれ0.5部ずつ)に置き換えたほかは実施例20と同様にして実施例21〜24の保管された貼付製剤を得た。これらの貼付製剤について上記と同様に分析した。
【0088】
【表3】

【0089】
表3より明らかなように、実施例20〜24では、類縁物質1の割合、類縁物質2の割合および総類縁物質の割合の少なくとも一つが、表2の比較例1よりも低減された。特に、実施例21〜23では、類縁物質1の割合が相乗的に低下しており、実施例21では類縁物質1の割合だけでなく総類縁物質の割合もが相乗的に低減され、実施例23では類縁物質1および2の割合だけでなく総類縁物質の割合もが相乗的に低減された。
【0090】
実施例A〜E
実施例1において、1.0部のアスコルビン酸を、0.99部のアスコルビン酸および0.01部のメタ重亜硫酸ナトリウムに置き換えたほかは、実施例1と同様にして実施例Aの保管された貼付製剤を得た。同様に、表4に記載のとおりこれらの安定化剤の配合量を変えたほかは実施例Aと同様にして、実施例B〜Iの保管された貼付製剤を得た。
【0091】
これらの貼付製剤について上記と同様に分析した。また、粘着剤層の粘着物性を次の基準で官能評価した。
◎ 非常に良好な粘着物性を有する
○ 良好な粘着物性を有する
△ 若干粘着物性が低下しているが許容範囲である
その結果を表4に示した。
【0092】
【表4】

【0093】
実施例1の結果より、アスコルビン酸は、類縁物質2の生成を特に抑制することがわかった。
表4の結果から明らかなように、実施例A〜Dでは、類縁物質2の生成は抑制された。しかし、アスコルビン酸を、粘着剤層総重量基準で、0.01重量%まで減少させると、類縁物質2の生成が増加した。表4を参照すると、アスコルビン酸が粘着剤層総重量基準で0.02重量%含有させた場合、類縁物質2の生成は抑制された。一方、表4より明らかなように、アスコルビン酸を粘着剤層総重量基準で1重量%近く含有させると、粘着物性がやや低下したが、0.5重量%含有させた場合には改善され、0.1重量%含有させた場合にはより改善された。また、実施例Eのほうが実施例17よりも安定化効果が高く、実施例Cは実施例Bよりも粘着物性が良好であり、実施例Bは実施例Aよりも粘着物性が良好であったことから、アスコルビン酸:メタ重亜硫酸ナトリウムの重量比は100:1〜1:100が好ましく、10:1〜1:100がより好ましく、1:1〜1:100が最も好ましいことが示された。さらに、実施例Fは参考例と比較して各成分とも顕著に生成量が抑制されたことから、良好な相乗的な安定化効果を示した。
また、表4の結果から、粘着剤層の総重量(すなわち、粘着剤層形成に使用する調合物の固形分総重量)に対し、アスコルビン酸が0.01〜9.99重量%およびメタ重亜硫酸塩が0.01〜9.99重量%の配合割合、より好ましくは、アスコルビン酸が0.02〜9.99重量%およびメタ重亜硫酸塩が0.01〜9.91重量%において、安定化効果が明確に確認された。さらには、表4の結果から、安定化効果の観点からは、アスコルビン酸:メタ重亜硫酸ナトリウムの重量比は、1:100〜100:1が好ましく、1:10〜100:1がより好ましく、1:25〜100:1が最も好ましいことが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘着剤と、ドネペジルと、安定化剤を含む粘着剤層を、支持体の少なくとも片面に有する、貼付製剤であって、
該安定化剤が、アスコルビン酸またはその金属塩もしくはエステル、イソアスコルビン酸またはその金属塩、エチレンジアミン四酢酸またはその金属塩、システイン、アセチルシステイン、2−メルカプトベンズイミダゾール、3(2)−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、テトラキス[3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸]ペンタエリトリトール、3−メルカプト−1,2−プロパンジオール、酢酸トコフェロール、ルチン、クエルセチン、ヒドロキノン、ヒドロキシメタンスルフィン酸金属塩、メタ重亜硫酸金属塩、亜硫酸金属塩およびチオ硫酸金属塩からなる群より選ばれる1種または2種以上を含む、貼付製剤。
【請求項2】
該安定化剤が、アスコルビン酸またはその金属塩もしくはエステル、イソアスコルビン酸またはその金属塩、エチレンジアミン四酢酸またはその金属塩、システイン、アセチルシステイン、2−メルカプトベンズイミダゾール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、テトラキス[3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸]ペンタエリトリトール、3−メルカプト−1,2−プロパンジオール、酢酸トコフェロール、ルチン、クエルセチン、ヒドロキシメタンスルフィン酸金属塩、メタ重亜硫酸金属塩、亜硫酸金属塩およびチオ硫酸金属塩からなる群より選ばれる1種または2種以上を含む、請求項1に記載の貼付製剤。
【請求項3】
該安定化剤が、アスコルビン酸またはその金属塩もしくはエステル、イソアスコルビン酸またはその金属塩、エチレンジアミン四酢酸またはその金属塩、2−メルカプトベンズイミダゾール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、テトラキス[3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸]ペンタエリトリトール、酢酸トコフェロール、ルチン、亜硫酸金属塩およびチオ硫酸金属塩からなる群より選ばれる1種または2種以上を含む、請求項1に記載の貼付製剤。
【請求項4】
該安定化剤が、アスコルビン酸またはその金属塩もしくはエステル、イソアスコルビン酸またはその金属塩、エチレンジアミン四酢酸またはその金属塩、2−メルカプトベンズイミダゾール、3(2)−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、テトラキス[3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸]ペンタエリトリトール、酢酸トコフェロール、ルチン、クエルセチン、ヒドロキノンおよびチオ硫酸金属塩からなる群より選ばれる1種または2種以上を含む、請求項1に記載の貼付製剤。
【請求項5】
該安定化剤がアスコルビン酸またはその金属塩もしくはエステル、イソアスコルビン酸、エチレンジアミン四酢酸またはその金属塩、2−メルカプトベンズイミダゾール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、テトラキス[3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸]ペンタエリトリトール、酢酸トコフェロール、ルチンおよびチオ硫酸金属塩からなる群より選ばれる1種または2種以上を含む、請求項1に記載の貼付製剤。
【請求項6】
該安定化剤が、アスコルビン酸またはその金属塩若しくはエステルと、イソアスコルビン酸またはその金属塩、2−メルカプトベンズイミダゾール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、ヒドロキシメタンスルフィン酸金属塩、ルチンおよびメタ重亜硫酸金属塩からなる化合物群より選ばれる1種または2種以上を含む、請求項1に記載の貼付製剤。
【請求項7】
該安定化剤が、アスコルビン酸またはその金属塩若しくはエステルとメタ重亜硫酸金属塩であるか、或いは、アスコルビン酸またはその金属塩若しくはエステルと2−メルカプトベンズイミダゾールである、請求項1に記載の貼付製剤。
【請求項8】
該安定化剤が、アスコルビン酸またはその金属塩若しくはエステル、2−メルカプトベンズイミダゾール、メタ重亜硫酸金属塩および亜硫酸金属塩からなる群より選ばれる1種または2種以上を含む、請求項1に記載の貼付製剤。
【請求項9】
支持体の少なくとも片面に、ドネペジルを含有する粘着剤層を有し、該粘着剤層が、粘着剤と、ドネペジルと、安定化剤を含む調合物の成膜によって得られた貼付製剤であって、
該安定化剤が、アスコルビン酸またはその金属塩もしくはエステル、イソアスコルビン酸またはその金属塩、エチレンジアミン四酢酸またはその金属塩、システイン、アセチルシステイン、2−メルカプトベンズイミダゾール、3(2)−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、テトラキス[3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸]ペンタエリトリトール、3−メルカプト−1,2−プロパンジオール、酢酸トコフェロール、ルチン、クエルセチン、ヒドロキノン、ヒドロキシメタンスルフィン酸金属塩、メタ重亜硫酸金属塩、亜硫酸金属塩およびチオ硫酸金属塩からなる群より選ばれる1種または2種以上を含む、貼付製剤。
【請求項10】
該安定化剤が、アスコルビン酸またはその金属塩もしくはエステル、イソアスコルビン酸またはその金属塩、エチレンジアミン四酢酸またはその金属塩、システイン、アセチルシステイン、2−メルカプトベンズイミダゾール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、テトラキス[3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸]ペンタエリトリトール、3−メルカプト−1,2−プロパンジオール、酢酸トコフェロール、ルチン、クエルセチン、ヒドロキシメタンスルフィン酸金属塩、メタ重亜硫酸金属塩、亜硫酸金属塩およびチオ硫酸金属塩からなる群より選ばれる1種または2種以上を含む、請求項9に記載の貼付製剤。
【請求項11】
該安定化剤が、アスコルビン酸またはその金属塩もしくはエステル、イソアスコルビン酸またはその金属塩、エチレンジアミン四酢酸またはその金属塩、2−メルカプトベンズイミダゾール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、テトラキス[3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸]ペンタエリトリトール、酢酸トコフェロール、ルチン、亜硫酸金属塩およびチオ硫酸金属塩からなる群より選ばれる1種または2種以上を含む、請求項9に記載の貼付製剤。
【請求項12】
該安定化剤が、アスコルビン酸またはその金属塩もしくはエステル、イソアスコルビン酸またはその金属塩、エチレンジアミン四酢酸またはその金属塩、2−メルカプトベンズイミダゾール、3(2)−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、テトラキス[3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸]ペンタエリトリトール、酢酸トコフェロール、ルチン、クエルセチン、ヒドロキノンおよびチオ硫酸金属塩からなる群より選ばれる1種または2種以上を含む、請求項9に記載の貼付製剤。
【請求項13】
該安定化剤がアスコルビン酸またはその金属塩もしくはエステル、イソアスコルビン酸、エチレンジアミン四酢酸またはその金属塩、2−メルカプトベンズイミダゾール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、テトラキス[3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸]ペンタエリトリトール、酢酸トコフェロール、ルチンおよびチオ硫酸金属塩からなる群より選ばれる1種または2種以上を含む、請求項9に記載の貼付製剤。
【請求項14】
該安定化剤が、アスコルビン酸またはその金属塩若しくはエステルと、イソアスコルビン酸またはその金属塩、2−メルカプトベンズイミダゾール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、ヒドロキシメタンスルフィン酸金属塩、ルチンおよびメタ重亜硫酸金属塩からなる化合物群より選ばれる1種または2種以上を含む、請求項9に記載の貼付製剤。
【請求項15】
該安定化剤が、アスコルビン酸またはその金属塩若しくはエステルとメタ重亜硫酸金属塩であるか、或いは、アスコルビン酸またはその金属塩若しくはエステルと2−メルカプトベンズイミダゾールである、請求項9に記載の貼付製剤。
【請求項16】
該安定化剤が、アスコルビン酸またはその金属塩若しくはエステル、2−メルカプトベンズイミダゾール、メタ重亜硫酸金属塩および亜硫酸金属塩からなる群より選ばれる1種または2種以上を含む、請求項9に記載の貼付製剤。

【公開番号】特開2012−255043(P2012−255043A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−222169(P2012−222169)
【出願日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【分割の表示】特願2008−547065(P2008−547065)の分割
【原出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【出願人】(506137147)エーザイ・アール・アンド・ディー・マネジメント株式会社 (215)
【Fターム(参考)】