説明

安定化されたバイオディーゼル燃料

【課題】バイオディーゼル燃料に酸化安定性を付与し、貯蔵安定性の向上を図ると同時に、使用時における酸化劣化由来の燃料タンクや燃料ホース、更にはエンジン内で種々のトラブルを防止する。
【解決手段】下式(1)で表される化合物100〜2000ppmと、


下式(2)で表される化合物100〜2000ppmを含有し、かつ上記化合物の合計量が少なくとも300ppm以上含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は安定化されたバイオディーゼル燃料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二酸化炭素増加による地球温暖化問題が注目されており、二酸化炭素削減の一環として植物由来のバイオマス燃料を使用する機運が高まってきた。バイオ燃料はカーボンニュートラルな燃料として、二酸化炭素排出量の削減と化石燃料の消費量を削減するための対策として自動車燃料への普及が拡大している。中でもバイオディーゼル燃料は動植物性油脂または廃食油をメチルエステル化することでディーゼルエンジンを可動させることができる軽油の代替燃料である。
【0003】
バイオディーゼル燃料はEUでは主にナタネ油やひまわり油、米国では主に大豆油を原料として製造され、多くの場合は軽油に20%程度混入して使用されている。このバイオ燃料は植物油に由来するために不飽和脂肪酸が多く含まれており酸化されやすく、酸化劣化することにより酸、過酸化物などが生成し、燃料タンクや燃料ホース、更にはエンジン内で種々のトラブルを引き起こすと言う問題があることが知られている。
【0004】
このような対策の一つとして各種の酸化防止剤の使用が提案されている。
【0005】
特許文献1ではバイオディーゼル燃料との均一な混合が可能なアミン系化合物の使用が提案されている。しかしながらバイオディーゼル燃料の酸化劣化防止効果が必ずしも充分でない問題を抱えていた。
【0006】
特許文献2は常温で固体であるフェノール系化合物を、前もってバイオディーゼル燃料で高濃度に溶解させておき、バイオディーゼル燃料との均一な混合を図る提案がされている。
しかしながらバイオディーゼル燃料の酸化劣化防止効果が充分でない問題を抱えていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−57510号公報
【特許文献2】EP1563041Bl号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、多種多様な油種から製造されるバイオディーゼル燃料に酸化安定性を付与し、使用されるまでの貯蔵安定性の向上を図ると同時に、使用時における酸化劣化由来の燃料タンクや燃料ホース、更にはエンジン内で種々のトラブルを防止しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、バイオディーゼル燃料に酸化防止剤としてフェノール系化合物とアミン系化合物を併用することにより、それぞれ単独の酸化劣化防止効果からは想像もできない驚くべき相乗効果を発揮することを見出し本発明を完成するに至った。
本発明は、
下式(1)
【化1】


(式中、R1は第三級ブチル基を、R2は炭素数1〜4のアルキル基を示す。)
で表されるフェノール系化合物からなる化合物の少なくとも1種の100〜2000ppmと、
下式(2)
【化2】


(式中、R3は炭素数1〜8のアルキル基またはフェニル基を示し、R4は炭素数1〜6のアルキル基を示す。)
で表されるアミン系化合物からなる化合物の少なくとも1種の100〜2000ppmを含有し、かつ上記のフェノール系化合物とアミン系化合物の合計量が少なくとも300ppm以上含有する安定化されたバイオディーゼル燃料である。
【発明の効果】
【0010】
本発明による安定化されたバイオディーゼル燃料によれば、酸化安定性が付与されることにより、使用されるまでの貯蔵安定性の向上を図ると同時に、使用時における酸化劣化由来の燃料タンクや燃料ホース、更にはエンジン内で種々のトラブルを防止すると言う効果が発揮される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明におけるバイオディーゼル燃料の原料としては、なたね油、大豆油、パーム油、ココナッツ油、ヤトロファ油、ひまわり油、アマニ油、コーン油などの植物性油脂類、牛脂、豚油、鯨油などの動物性油脂、およびこれらの廃食油を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。また、バイオディーゼル燃料に一般的なディーゼル燃料が混合されていても良い。
【0012】
本発明における式(1)
【化3】


で表されるフェノール系化合物としては、R1は第三級ブチル基、R2は炭素数1〜4のアルキル基の化合物、好ましくはR2が炭素数1の化合物である。
また式(2)
【化4】



で表されるアミン系化合物としては、R3が炭素数1〜8のアルキル基またはフェニル基、R4は炭素数1〜6のアルキル基の化合物、好ましくはR3がフェニル基で、R4が炭素数3,4,6の化合物である。
【0013】
式(1)で表されるフェノール系化合物、および式(2)で表されるアミン系化合物のバイオディーゼル燃料への添加量は各々100〜2000ppmの範囲で併用して使用されるが、併用される合計量は300〜4000ppm、好ましくは500〜3000ppmである。3000ppmを越えて添加しても添加量の増量に見合った効果は得難く経済的にも不利である。また、300ppm未満では充分な酸化劣化防止効果が得られない。
【0014】
また、式(1)で表されるフェノール系化合物、および式(2)で表されるアミン系化合物の併用比率は0.1〜0.9/0.9〜0.1重量比であるが、好ましくは0.2〜0.8/0.8〜0.2重量比、より好ましくは0.4〜0.6/0.6〜0.4である。この範囲を超えると酸化劣化防止効果において充分な相乗効果が得られない。
【0015】
また、式(1)で表されるフェノール系化合物、および式(2)で表されるアミン系化合物のバイオディーゼル燃料への添加方法は、それぞれ単独で添加しても良いが、バイオディーゼル燃料との均一な混合のため、前もってフェノール系化合物およびアミン系化合物を混合し、さらには溶剤を加えて液状として添加しても良い。
【0016】
液状にするために使用される溶剤としては、芳香族系溶剤、炭化水素系溶剤、バイオディーゼル燃料、ディーゼル燃料などがあるが、燃料油の特性上、着火性指標であるセタン価に影響を及ぼさないメチルナフタレンが特に好ましい。
【実施例】
【0017】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0018】
実施例1〜8,比較例1〜10
ひまわり油から調合したバイオディーゼル燃料を用いて、下記に示す化合物を所定量添加し、EU統一規格(EN14214)であるランシマット法による酸化誘導期時間(Hr)を測定し、酸化安定度評価をおこなった。機器はメトローム・シバタ製ランシマット743型を使用した。評価結果を表1に示す。
【0019】
評価結果により、
前記フェノール系化合物からなる化合物の少なくとも1種の100〜2000ppmと前記アミン系化合物からなる化合物の少なくとも1種の100〜2000ppmを含有し、かつ上記のフェノール系化合物とアミン系化合物の合計量が少なくとも300ppm以上含有すれば、より好ましく安定化されたバイオディーゼル燃料であることが理解できる。
【0020】
特に、ひまわり油から調合したバイオディーゼル燃料であって、上記フェノール系化合物が250〜750ppm、上記アミン系化合物が250〜750ppmであり、EU統一規格(EN14214)であるランシマット法による酸化誘導期時間(Hr)が5.0〜13.3であることが、より好ましく安定化されたバイオディーゼル燃料であることが判明した。
【0021】
ひまわり油から調合したバイオディーゼル燃料は、密度(15℃)0.878g/cm、動粘度(40℃)4.26mm/s、酸価0.35mgKOH/g、過酸化物価7.7meq/kgであった。
【0022】
使用した化合物は以下の通り。
<フェノール系化合物>
A1:2,6−ジ−第三級ブチル−4−メチルフェノール
A2:2,2’−メチレンビス−(6−第三級ブチル−4−メチルフェノール)
<アミン系化合物>
B1:N−フェニル−N’−イソプロピル−p−フェニレンジアミン
B2:N−フェニル−N’−第二級ブチル−p−フェニレンジアミン
B3:N−フェニル−N’−1,3−ジメチルブチル−p−フェニレンジアミン
B4:N,N’−ジ−第二級ブチル−p−フェニレンジアミン
B5:N−フェニル−N’−1−メチルヘプチル−p−フェニレンジアミン
【0023】
【表1】

【0024】
実施例9〜13,比較例11〜18
廃食油から調合したバイオディーゼル燃料を用いる以外は、前記の実施例1〜8、比較例1〜10と同様に酸価安定度を評価した。結果は表2に示す。
【0025】
評価結果により、
前記フェノール系化合物からなる化合物の少なくとも1種の100〜2000ppmと前記アミン系化合物からなる化合物の少なくとも1種の100〜2000ppmを含有し、かつ上記のフェノール系化合物とアミン系化合物の合計量が少なくとも300ppm以上含有すれば、より好ましく安定化されたバイオディーゼル燃料であることが理解できる。
【0026】
特に、廃食油から調合したバイオディーゼル燃料であって、
上記フェノール系化合物が250〜900ppm、上記アミン系化合物が250〜900ppmであり、EU統一規格(EN14214)であるランシマット法による酸化誘導期時間(Hr)が6.0〜14.7であることが、より好ましく安定化されたバイオディーゼル燃料であることが判明した。
【0027】
廃食油から調合したバイオディーゼル燃料は、密度(15℃)0.870g/cm、動粘度(40℃)4.91mm/s、酸価0.28mgKOH/g、過酸化物価19.0meq/kgであった。
【0028】
使用した化合物の記号は前記同様である。
【0029】
【表2】

【0030】
表1および表2から、バイオディーゼル燃料に酸化防止剤としてフェノール系化合物とアミン系化合物を併用することにより、それぞれ単独の酸化劣化防止効果からは想像もできない驚くべき相乗効果を発揮することが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明による安定化されたバイオディーゼル燃料は、酸化安定性が付与されることにより、使用されるまでの貯蔵安定性の向上を図ると同時に、使用時における酸化劣化由来の燃料タンクや燃料ホース、更にはエンジン内で種々のトラブルを防止すると言う効果が発揮され産業上有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(1)
【化1】


(式中、R1は第三級ブチル基を、R2は炭素数1〜4のアルキル基を示す。)
で表されるフェノール系化合物からなる化合物の少なくとも1種の100〜2000ppmと、
下式(2)
【化2】


(式中、R3は炭素数1〜8のアルキル基またはフェニル基を示し、R4は炭素数1〜6のアルキル基を示す。)
で表されるアミン系化合物からなる化合物の少なくとも1種の100〜2000ppmを含有し、かつ上記のフェノール系化合物とアミン系化合物の合計量が少なくとも300ppm以上含有する安定化されたバイオディーゼル燃料。
【請求項2】
上記フェノール系化合物が2,2’−メチレンビス(6−第三級ブチル−4−メチルフェノール)である請求項1に記載の安定化されたバイオディーゼル燃料。
【請求項3】
上記アミン系化合物がN−フェニル−N’−第二級ブチル−p−フェニレンジアミン、またはN−フェニル−N’−1,3−ジメチルブチル−p−フェニレンジアミンである請求項1または2に記載の安定化されたバイオディーゼル燃料。