説明

安定化されたフェンタニルまたはその塩含有組成物及びこれを用いた医薬製剤並びにフェンタニルまたはその塩の安定化方法

【課題】
フェンタニルまたはその塩の安定性を向上し得る医薬用組成物およびこれを利用した医薬製剤を提供することである。
【解決手段】
アスコルビン酸またはそのエステルを0.01〜0.5質量%含有することを特徴とするフェンタニルまたはその塩含有医薬組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェンタニル(化学名:N−(1−フェネチルピペリジン−4−イル)−N−フェニルプロピオンアミド)またはその塩を含有する医薬組成物、およびこれを用いた医薬製剤、並びにフェンタニルまたはその塩の安定化方法に関する。また本発明の安定化されたフェンタニル経皮吸収型貼付剤は、経時的な薬物安定性に優れ、効果持続性の麻酔剤や鎮痛剤としての利用が多いに期待されるものである。
【背景技術】
【0002】
フェンタニルおよびその塩、特にクエン酸フェンタニルは、鎮痛効果の高い薬物として知られている。本邦においても、麻酔用鎮痛剤であるクエン酸フェンタニル注射剤や経皮吸収型持続性癌疼痛治療剤であるフェンタニル経皮吸収型貼付剤がすでに臨床の場において高い効果を得ている。さらに、開発中の製剤としてクエン酸フェンタニルを有効成分とする口腔内粘膜吸収癌性突出痛治療剤、硬膜外投与疼痛治療剤、経皮吸収癌性疼痛治療剤、経肺吸収癌性疼痛治療剤、舌下用癌性疼痛治療剤、舌下用癌性突出痛治療剤、小児用全身麻酔補助剤の適応追加、フェンタニルを有効成分とする非癌性疼痛経皮吸収型製剤の適応追加など数多くの製剤が盛んに開発されている。米国においても、イオントフォレシス技術を用いた塩酸フェンタニル経皮吸収型貼付剤(商品名:IONSYS)が市販されている。
【0003】
このようにフェンタニルまたはその塩を用いた疼痛治療薬に関する製剤化の研究が盛んに行われており、近い将来、突出痛から慢性疼痛に至るまでの疼痛をコントロールしたフェンタニルまたはその塩を含有する治療薬の拡充が臨床の場においても期待されている。しかし、有効性および安全性に優れた製剤は数多く開発されているものの、経時的な製剤安定性や薬物安定性に優れた製剤は少ない。
【0004】
例えば、経皮吸収型貼付剤による経時的なフェンタニル放出性の上昇、イオントフォレシス製剤による経時的な薬物安定性の低下、口腔内フィルム製剤によるpHの変動など未だ十分な製剤が開発されていない。特に、マトリックス型の経皮吸収型貼付剤に関しては、既存のリザーバー型のフェンタニル経皮吸収型貼付剤に比べ貼付性およびハンドリング性は向上しているものの、皮膚透過性、皮膚刺激性に加えて、経時的な薬物安定性の面で未だ十分な製剤が開発されておらず、臨床上有用な経皮投与型貼付剤の提供が待たれている。なお、従来フェンタニル経皮投与型貼付剤において、任意成分である抗酸化剤としてトコフェロールおよびそのエステル誘導体、アスコルビン酸、ステアリン酸エステル、ノルジヒトログアレチン酸、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)を配合できることが記載されているが(特許文献1)、これらのフェンタニルまたはその塩に対する安定化効果はこれまで全く知られていなかった。
【0005】
【特許文献1】特開平10−45570号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の課題は、フェンタニルまたはその塩の安定性を向上し得る医薬用組成物およびこれを利用した医薬製剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討を行った結果、フェンタニルまたはその塩を含む医薬組成物は、その製造過程および保存中において、ピペリジン環中の窒素原子へのオキサイド体(以下、「フェンタニル−N−オキサイド体」ということがある)が生成し、さらにこのフェンタニル−N−オキサイド体は、たとえば、60℃にて24時間維持すると分解し、N−フェニルプロピオンアミド、N−(1−ヒドロキシピペリジン−4−イル)−N−フェニルプロピオンアミド、(1−フェネチル−2−オキソピペリジン−4−イル)−N−フェニルプロピオンアミドおよびスチレンの4種の二次分解産物が生じることを初めて解明した。そして、アスコルビン酸またはそのエステルを組成物中に含有せしめることにより、一次分解生成物であるフェンタニル−N−オキサイド体、さらにはその熱分解物である上記4種の二次分解生成物の生成を抑制し、経時的な薬物安定性を向上し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、アスコルビン酸またはそのエステルを0.01〜0.5質量%含有することを特徴とするフェンタニルまたはその塩含有医薬組成物である。
【0009】
また本発明は、上記医薬組成物を含有するフェンタニルまたはその塩含有医薬製剤である。
【0010】
さらに本発明は、フェンタニルまたはその塩を含有する医薬組成物中に、アスコルビン酸またはそのエステルを医薬組成物全体に対して0.01〜0.5質量%配合せしめることを特徴とするフェンタニルまたはその塩の安定化方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のフェンタニルまたはその塩含有医薬組成物を用いることにより、長時間にわたって保存可能であり、フェンタニルまたはその塩の分解を引き起こさない製剤が得られ、これにより、フェンタニルまたはその塩の薬理効果を有効に、しかも持続的に利用することが可能になる。従って、本発明により得られるフェンタニルまたはその塩含有医薬製剤、特に、経皮吸収型貼付剤は、疼痛緩和の有力な手段となり得るものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の医薬組成物は、薬効成分としてフェンタニルまたはその塩を用いる。フェンタニルの塩としては、医薬上許容される塩であれば、特に限定されず、無機塩であっても有機塩であってもよく、代表的なフェンタニル塩としてクエン酸塩、塩酸塩、フマル酸塩等を挙げることができる。これらの中でも、クエン酸フェンタニルが特に好ましい。なお、フェンタニルまたはその塩は、2種以上を混合して用いてもよいが、通常は単独で用いるのがよい。
【0013】
本発明の医薬組成物中のフェンタニルまたはその塩の含有量は、1〜6質量%(以下、単に「%」で示す)であることが好ましい。
【0014】
また、本発明の医薬組成物には、アスコルビン酸またはそのエステルを必須成分として配合する。アスコルビン酸としては、L−アスコルビン酸がよく、また、そのエステルとしては、L−アスコルビン酸パルミチン酸エステル、L−アスコルビン酸ステアリン酸エステル、L−アスコルビン酸2−グルコシド、L−アスコルビン酸ナトリウム、L−アスコルビン酸カルシウム、L−アスコルビン酸リン酸エステルマグネシウムが挙げられ、なかでも脂溶性基剤との相溶性に優れるためL−アスコルビン酸パルミチン酸エステルが好ましい。
【0015】
アスコルビン酸またはそのエステルの含有量は、医薬組成物全体に対し0.01〜0.5%である。配合量が0.01%未満であると、充分な安定化効果が得られず、0.5%を超えても、安定化効果に差がなく、また、アスコルビン酸またはそのエステル自体の結晶が析出するため増量する意義が見出せない。
【0016】
また、アスコルビン酸またはそのエステルは、フェンタニルまたはその塩の含有量に対し、質量比(アスコルビン酸またはその塩/フェンタニルまたはその塩)で0.0015〜0.5の範囲で配合することが好ましい。0.015よりも低いと十分な安定化効果が得られない場合があり、また、0.5よりも高くしても効果のさらなる向上は認められない場合がある。
【0017】
本発明の医薬組成物には、さらに、アスコルビン酸またはそのエステル以外の抗酸化剤を配合することにより、フェンタニルまたはその塩に対する安定化効果をより向上することができる。このような抗酸化剤としては、フェノール系酸化防止剤、トコフェロールおよびそのエステル誘導体、ノルジヒトログアレチン酸、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)が挙げられる。
【0018】
フェノール系抗酸化剤としては、3,5−ジ第3級ブチル−4−ヒドロキシトルエン(BHT)、3−(3,5−ジ第3級ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸オクタデシルエステル、テトラキス〔メチレン−3−(3,5−ジ第3級ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、トリス3,5−ジ第3級ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4´−ブチリデンビス(3−メチル−6−第3級ブチルフェノール)、トリエチレングリコールビス〔3−(3−第3級ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート〕、3,9−ビス{2−〔3−(3−第3級ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ〕−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン等が挙げられ、なかでも3,5−ジ第3級ブチル−4−ヒドロキシトルエンは優れたフェンタニルまたはその塩に対する安定化効果が得られるために好ましい。
【0019】
このような抗酸化剤を併用する場合は、医薬組成物全体に対して、1〜3%の量で配合するのが好ましい。配合量が1%未満であると、十分な安定化効果が得られない場合があり、3%を超えても、安定化効果に差がない場合がある。またアスコルビン酸またはそのエステルに対する配合割合は、フェノール系抗酸化剤を例にとると、質量比で1:5〜1:250(アスコルビン酸またはそのエステル:フェノール系抗酸化剤)の範囲が好ましい。
【0020】
本発明の医薬組成物は、上記成分と必要に応じて添加される任意成分とを常法に従って混合して得ることができる。また医薬組成物の形態は、固形物、液状物のいずれであってもよく、固形物としては、粉末、塊状物、球状物、円筒状物、多面体柱状物、円錐状物等があげられるが、これらに限定されるものではない。液状物としては、水、水性媒体または疎水性媒体に溶解、分散または懸濁させて得られる水溶液、分散液または懸濁液が挙げられる。
【0021】
かくして得られた本発明のフェンタニルまたはその塩含有医薬組成物を用いて、本発明の医薬製剤が調製される。医薬製剤としては、経口、非経口いずれの製剤であってもよく、経口製剤の場合は、錠剤(フィルムコートされていてもよい)、カプセル剤、散剤、ドライシロップ剤、液剤等が挙げられる。非経口製剤としては、注射製剤、点滴剤、坐剤等が挙げられる。これらの製剤は、上記医薬組成物と医薬製造上許容される担体、賦形剤、溶剤等と混合して製造することができる。非経口製剤としては、さらに経皮吸収型製剤の形態が挙げられる。経皮吸収型製剤としては、貼付剤、ゲル剤、ローション剤、クリーム剤等が挙げられる。貼付剤としては、ハップ剤、テープ剤等が挙げられる。
【0022】
これらの中でも、経皮吸収型貼付剤の剤型が、薬効の持続時間が長く、他の剤型と比較して長時間に亘り鎮痛効果を維持できるという点で好適である。本発明の経皮吸収型貼付剤は、膏体層の組成物中にフェンタニルまたはその塩およびアスコルビン酸またはそのエステルと、必要に応じて添加される抗酸化剤とを含有する上記医薬組成物が配合されるものである。
【0023】
膏体層には、上記フェンタニルまたはその塩、およびアスコルビン酸またはそのエステル以外の成分として、例えばゴム成分が配合される。このゴム成分としては、特に限定されないが、好ましい例として、ポリイソブチレン(PIB)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)[例えば、JSRクレイトンエラストマー;クレイトンD−KX401CS、クレイトンD−1107CP、シェル化学社製;カリフレックスD−1111、カリフレックスTR−1107、日本合成ゴム社製;JSR5000、JSR−5002、SR5100、日本ゼオン社製;クインタック3421等]、イソプレンゴム[例えば、日本ゼオン;NIPOL IR2200]、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)[例えば、シェル化学社製;カリフレックスTR−1101等]、アクリル系ポリマー(2−エチルヘキシルアクリレート、酢酸ビニル、エチルアクリレート、メタクリレート、メトキシエチルアクリレート、アクリル酸の少なくとも2種の共重合体、例えばPE−300等(日本カーバイト社製)等を挙げることができ、これらを単独または2種以上を混合して用いることができる。これらの中でも、SISを用いることが好ましい。
【0024】
ゴム成分は、経皮吸収型貼付剤の膏体層全体の質量に基づいて、0.1〜98%、さらに0.1〜70%、特に0.1〜50%配合することが好ましい。ゴム成分の配合量が0.1%未満であると、製剤自体の物性が悪くなり、98%を越えると、人体皮膚に対する良好な粘着力が得られない場合がある。
【0025】
なお、一般にゴム成分の粘着性は低いので、製剤に粘着性を付与するために、膏体層にはさらに粘着付与剤を配合することができる。それら粘着付与剤としては、ロジン系樹脂、ポリテルペン系樹脂、石油系樹脂、油溶性フェノ−ル系樹脂の粘着付与剤等を好ましい例として挙げることができる。これらの具体例としては、商品名で、クリアロンP−105、フォーラル105、アルコンP−100、KE−311、KE−100、スーパーエステルS−100、YSレジン75、YSレジン PX1150N、KR−610を挙げることができる。粘着付与剤は、経皮吸収型貼付剤の膏体層全体の質量に基づいて、10〜70%、特に20〜60%の量で配合されることが好ましい。
【0026】
また、本発明の経皮吸収型貼付剤の加工性の向上や粘着性の調整のために、膏体層に軟化剤として油脂を配合することもできる。油脂としては、例えば、流動パラフィン、スクワラン、オリーブ油、ツバキ油、パーシック油、ラッカセイ油等が好ましく、特に流動パラフィンが好ましい。油脂は、本発明の製剤の膏体層全体の質量に基づいて、1〜60%、特に10〜50%の量で配合されることが好ましい。
【0027】
さらにまた、本発明の経皮吸収型貼付剤の膏体層には、必要に応じて吸収促進剤を配合することもできる。吸収促進剤としては、皮膚での吸収促進作用が認められている化合物であればいずれのものでもよく、例えば炭素鎖数6〜20の脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪酸エステルまたはエーテル、芳香族系有機酸、芳香族系アルコール、芳香族系有機酸エステルまたはエーテルを挙げることができる。さらに、乳酸エステル類、酢酸エステル類、モノテルペン系化合物、セスキテルペン系化合物、N−ドデシルアザシクロペンタン−2−オン(商品名:Azone)またはその誘導体、グリセリン脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類、ポリソルベート系、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油系、ショ糖脂肪酸エステル類等を挙げることができる。具体的には、カプリル酸、カプリン酸、カプロン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、オレイルアルコール、セチルアルコール、ラウリン酸メチル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、パルミチン酸セチル、サリチル酸、サリチル酸メチル、サリチル酸エチレングリコール、ケイ皮酸、ケイ皮酸メチル、クレゾール、乳酸セチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、ゲラニオール、チモール、オイゲノール、テルピネオール、l−メントール、ボルネオール、d−リモネン、イソオイゲノール、イソボルネオール、ネロール、dl−カンフル、グリセリンモノラウレート、グリセリンモノオレエート、ソルビタンモノラウレート、ショ糖モノラウレート、ポリソルベート20、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノステアレート、硬化ヒマシ油、1−[2−(デシルチオ)エチル]アザシクロペンタン−2−オンが好ましい。このような吸収促進剤は、本発明の経皮吸収型貼付剤の膏体層全体の質量に基づいて、0.01〜20%、さらに0.1〜10%、特に0.5〜5%の量で配合されることが好ましい。吸収促進剤の配合量が20%を越えると、発赤、浮腫等の皮膚への刺激性が認められる場合があり、0.01%未満であると吸収促進剤の配合の効果が得られない場合がある。
【0028】
さらに、本発明の経皮吸収型貼付剤においては、皮膚から発生した汗等の水性成分を吸収させるために、必要に応じて親水性ポリマーを配合することもできる。親水性ポリマーとしては、例えば、軽質無水ケイ酸、セルロース誘導体(カルボキシメチルセルロース(CMC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMCNa)、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロール(HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC))、デンプン誘導体(プルラン)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、酢酸ビニル(VA)、カルボキシビニルポリマー(CVP)、エチル酢酸ビニル(EVA)、アクリルポリマー(商品名:オイドラギット)、ゼラチン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ソーダ、ポリイソブチレン無水マレイン酸共重合体、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、アラビアゴム、トラガント、カラヤゴム、ポリビニルメタクリレートが好ましく、特に軽質無水ケイ酸、セルロース誘導体(CMCNa、HPMC、HPC、MC)、アクリルポリマー(商品名:オイドラギット)が好ましい。親水性ポリマーは、本発明の経皮吸収型貼付剤の膏体層全体の質量に基づいて、0.1〜20%、特に0.5〜10%配合することが好ましい。
【0029】
本発明の経皮吸収型貼付剤の膏体層には、所望により架橋剤、防腐剤等のその他の成分を配合することもできる。架橋剤としては、アミノ樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル等の熱硬化性樹脂、イソシアネート化合物、ブロックイソシアネート化合物、有機系架橋剤、金属または金属化合物等の無機系架橋剤が好ましい。防腐剤としては、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル等が好ましい。なお、本発明の経皮吸収型貼付剤の膏体層は、非水系の基剤からなることが好ましく、非水系の基剤とすることにより本発明の効果を有効に得ることができる。
【0030】
上記のような組成を有する膏体層は、いずれの公知方法によっても製造することができる。例えば、溶剤法により製造する場合には、配合される膏体基剤の有機溶剤溶液に、フェンタニルまたはその塩、アスコルビン酸またはそのエステル、必要に応じ抗酸化剤を添加、攪拌後、支持体または剥離シートに伸展し、乾燥させ、任意の面積に裁断することで本発明の経皮吸収型貼付剤を得ることができる。また、粘着付与剤としてロジン系樹脂を用いる場合には、ロジン系樹脂を予めアスコルビン酸またはそのエステルにより処理することにより、フェンタニルまたはその塩に対する安定化効果が向上する。アスコルビン酸またはそのエステルによる処理方法としては、アスコルビン酸またはそのエステルと、ロジン樹脂とを適当な溶媒に溶解し、1〜30℃で24〜72時間放置する方法が例示できる。より具体的には、ロジン系樹脂をベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン等の溶媒に溶解した溶液と、アスコルビン酸またはそのエステルをエタノール、イソプロパノール等の溶媒に溶解した溶液とを混合し、混合した溶液を1〜30℃で24〜72時間放置してから、フェンタニルまたはその塩を添加することによりフェンタニルまたはその塩に対する安定化効果が向上する。
【0031】
支持体または剥離シートへの伸展は、乾燥時の膏体層の厚さが10〜150μmになるように伸展するのが好ましい。膏体層の厚さが10μm未満では十分な皮膚への粘着力を保てない場合があり、150μmを超えると被服と擦れによる製剤のはがれ・めくれの原因となる場合がある。
【0032】
本発明の経皮吸収型貼付剤の皮膚適用時の面積は2.5〜60cmであることが好ましい。面積が2.5cm未満では、治療上、十分なフェンタニル経皮吸収性が得られない場合があり、またハンドリング性も低下することがある。面積が60cmを超えると貼付中の違和感が生じ、がん患者のコンプライアンスを低下させる場合がある。
【0033】
また、本発明の経皮吸収型貼付剤は、膏体層が上記のような組成から構成されるものであれば、その他の層やそれらを構成する成分は、特に限定されず、いずれの層から構成されるものであってもよい。例えば、本発明の経皮吸収型貼付剤は、膏体層の他、それを支持する支持体層、膏体層上に設けられる剥離ライナー層等から成ることができる。支持体層は、例えば、布、不織布、ポリウレタン、ポリエステル、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、紙、アルミニウムシート等またはそれらの複合素材からなることができる。剥離シートは、例えば、シリコーンオイルを塗布したポリエステル等の高分子材料で作られたフィルムや、紙の上にシリコーンオイル等を塗付したものより選択され、使用される。
【0034】
本発明の経皮吸収型貼付剤によれば、フェンタニルまたはその塩が皮膚を経由し持続的に吸収されるため、麻薬性鎮痛剤の経口投与が困難な患者にとって、疼痛緩和の有力な手段となる。また侵襲的な投与方法である持続皮下投与方法に比して、非侵襲的に投与することができ、患者の負担も軽減することができる。また、投与量についても、製剤を裁断すること等により、患者の症状、年齢、体重、性別等に応じて、容易に調節することができる。
【0035】
フェンタニルまたはその塩を含有する医薬組成物や製剤、特に経皮吸収型貼付剤の製造にあたっては、ピペリジン環中の窒素原子へのオキサイド体が生成し、さらにフェンタニル−N−オキサイド体は、たとえば経皮吸収型貼付剤の膏体層を製造する場合の通常の温度である60℃にて24時間維持すると、分解し、4種の二次分解産物が生じる。これら二次分解生成物としては、N−フェニルプロピオンアミド、N−(1−ヒドロキシピペリジン−4−イル)−N−フェニルプロピオンアミド、(1−フェネチル−2−オキソピペリジン−4−イル)−N−フェニルプロピオンアミドおよびスチレンの4種であることを本発明者らは分析化学の技量を駆使して初めて解明した。本発明の経皮吸収型貼付剤は、この一次分解生成物であるフェンタニル−N−オキサイド体、さらにはその熱分解物である上記4種の二次分解生成物の生成を抑制することができ、経時的な薬物安定性に優れるものである。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲での種々の変更が可能である。
【0037】
実施例1
下記処方の経皮吸収型貼付剤を下記製造方法により調製した。
(処 方)
フェンタニル 1.0%
スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体 18.2%
ポリイソプレン 9.8%
水素添加ロジングリセリンエステル 1.0%
ポリテルペン樹脂 41.99%
ポリブテン 14.0%
流動パラフィン 14.0%
L−アスコルビン酸パルミチン酸エステル 0.01%
合計 100%
【0038】
(製 法)
トルエンに、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、ポリイソプレン、水素添加ロジングリセリンエステル、ポリテルペン樹脂、ポリブテン、流動パラフィンの各成分と、エタノールに溶解したL−アスコルビン酸パルミチン酸エステルとを加え撹拌混合し、その後さらにフェンタニルを加え攪拌混合し、均一な溶解物を得た。次にこの溶解物を、ドクターナイフ塗工機を用いて剥離フィルムに塗工後、風乾し、塗工面に支持体を貼り合わせた後、10.5cmのサイズに裁断し、アルミ包材に包装した。
【0039】
実施例2
下記処方の経皮吸収型貼付剤を下記製造方法により調製した。
(処方)
フェンタニル 4.0%
スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体 18.2%
ポリイソプレン 9.8%
水素添加ロジングリセリンエステル 5.0%
ポリテルペン樹脂 34.98%
ポリブテン 14.0%
流動パラフィン 14.0%
L−アスコルビン酸パルミチン酸エステル 0.02%
合計 100%
【0040】
(製 法 )
トルエンにスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、ポリイソプレン、水素添加ロジングリセリンエステル、ポリテルペン樹脂、ポリブテン、流動パラフィンの各成分と、エタノールに溶解したL−アスコルビン酸パルミチン酸エステルとを加え撹拌混合し、その後さらにフェンタニルを加えさらに攪拌混合し、均一な溶解物を得た。次にこの溶解物を、ドクターナイフ塗工機を用いて剥離フィルムに塗工後、風乾し、塗工面に支持体を貼り合わせた後、10.5cmのサイズに裁断し、アルミ包材に包装した。
【0041】
実施例3
下記処方の経皮吸収型貼付剤を下記製造方法により調製した。
(処方)
フェンタニル 6.0%
スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体 18.2%
ポリイソプレン 9.8%
水素添加ロジングリセリンエステル 10.0%
ポリテルペン樹脂 27.5%
ポリブテン 14.0%
流動パラフィン 14.0%
L−アスコルビン酸パルミチンエステル 0.5%
合計 100%
【0042】
(製 法)
トルエンにスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、ポリイソプレン、水素添加ロジングリセリンエステル、ポリテルペン樹脂、ポリブテン、流動パラフィンの各成分と、エタノールに溶解したL−アスコルビン酸パルミチン酸エステルとを加え撹拌混合し、その後さらにフェンタニルを加えさらに攪拌混合し、均一な溶解物を得た。次にこの溶解物を、ドクターナイフ塗工機を用いて剥離フィルムに塗工後、風乾し、塗工面に支持体を貼り合わせた後、10.5cmのサイズに裁断し、アルミ包材に包装した。
【0043】
実施例4
下記処方の経皮吸収型貼付剤を下記製造方法により調製した。
(処方)
フェンタニル 4.0%
スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体 18.2%
ポリイソプレン 9.8%
水素添加ロジングリセリンエステル 5.0%
ポリテルペン樹脂 34.9%
ポリブテン 14.0%
流動パラフィン 14.0%
L−アスコルビン酸パルミチン酸エステル 0.1%
合計 100%
【0044】
(製 法)
トルエンにスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、ポリイソプレン、水素添加ロジングリセリンエステル、ポリテルペン樹脂、ポリブテン、流動パラフィンの各成分と、エタノールに溶解したL−アスコルビン酸パルミチン酸エステルとを加え撹拌混合し、その後さらにフェンタニルを加えさらに攪拌混合し、均一な溶解物を得た。次にこの溶解物を、ドクターナイフ塗工機を用いて剥離フィルムに塗工後、風乾し、塗工面に支持体を貼り合わせた後、10.5cmのサイズに裁断し、アルミ包材に包装した。
【0045】
実施例5
下記処方の経皮吸収型貼付剤を下記製造方法により調製した。
(処方)
フェンタニル 4.0%
スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体 18.2%
ポリイソプレン 9.8%
水素添加ロジングリセリンエステル 5.0%
ポリテルペン樹脂 33.0%
ポリブテン 14.0%
流動パラフィン 14.0%
L−アスコルビン酸ステアリン酸エステル 0.1%
3,5−ジ第3級ブチル−4−ヒドロキシトルエン 1.9%
合計 100%
【0046】
(製 法)
トルエンにスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、ポリイソプレン、水素添加ロジングリセリンエステル、ポリテルペン樹脂、ポリブテン、流動パラフィン、3,5−ジ第3級ブチル−4−ヒドロキシトルエンの各成分と、エタノールに溶解したL−アスコルビン酸パルミチン酸エステルとを加え撹拌混合し、その後さらにフェンタニルを加えさらに攪拌混合し、均一な溶解物を得た。次にこの溶解物を、ドクターナイフ塗工機を用いて剥離フィルムに塗工後、風乾し、塗工面に支持体を貼り合わせた後、10.5cmのサイズに裁断し、アルミ包材に包装した。
【0047】
実施例6
下記処方の経皮吸収型貼付剤を下記製造方法により調製した。
(処方)
フェンタニル 4.0%
スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体 18.2%
ポリイソプレン 9.8%
水素添加ロジングリセリンエステル 5.0%
ポリテルペン樹脂 31.5%
ポリブテン 14.0%
流動パラフィン 14.0%
アスコルビン酸 0.5%
3,5−ジ第3級ブチル−4−ヒドロキシトルエン 3.0%
合計 100%
【0048】
(製 法)
トルエンにスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、ポリイソプレン、水素添加ロジングリセリンエステル、ポリテルペン樹脂、ポリブテン、流動パラフィン、3,5−ジ第3級ブチル−4−ヒドロキシトルエンの各成分と、エタノールに溶解したL−アスコルビン酸とを加え撹拌混合し、その後さらにフェンタニルを加えさらに攪拌混合し、均一な溶解物を得た。次にこの溶解物を、ドクターナイフ塗工機を用いて剥離フィルムに塗工後、風乾し、塗工面に支持体を貼り合わせた後、10.5cmのサイズに裁断し、アルミ包材に包装した。
【0049】
実施例7
下記処方の経皮吸収型貼付剤を下記製造方法により調製した。
フェンタニル 4.0%
スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体 18.2%
ポリイソプレン 9.8%
水素添加ロジングリセリンエステル 5.0%
ポリテルペン樹脂 33.0%
ポリブテン 14.0%
流動パラフィン 14.0%
アスコルビン酸 0.02%
3,5−ジ第3級ブチル−4−ヒドロキシトルエン 1.98%
合計 100%
【0050】
(製 法)
トルエンにスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、ポリイソプレン、水素添加ロジングリセリンエステル、ポリテルペン樹脂、ポリブテン、流動パラフィン、3,5−ジ第3級ブチル−4−ヒドロキシトルエンの各成分と、エタノールに溶解したL−アスコルビン酸とを加え撹拌混合し、その後さらにフェンタニルを加えさらに攪拌混合し、均一な溶解物を得た。次にこの溶解物を、ドクターナイフ塗工機を用いて剥離フィルムに塗工後、風乾し、塗工面に支持体を貼り合わせた後、10.5cmのサイズに裁断し、アルミ包材に包装した。
【0051】
実施例8
フェンタニル 4.0%
スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体 18.2%
ポリイソプレン 9.8%
水素添加ロジングリセリンエステル 10.0%
ポリテルペン樹脂 26.5%
ポリブテン 14.0%
流動パラフィン 14.0%
アスコルビン酸 0.5%
3,5−ジ第3級ブチル−4−ヒドロキシトルエン 3.0%
合計 100%
【0052】
(製 法)
トルエンにスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、ポリイソプレン、水素添加ロジングリセリンエステル、ポリテルペン樹脂、ポリブテン、流動パラフィン、3,5−ジ第3級ブチル−4−ヒドロキシトルエンの各成分と、エタノールに溶解したL−アスコルビン酸とを加え撹拌混合し、その後さらにフェンタニルを加えさらに攪拌混合し、均一な溶解物を得た。次にこの溶解物を、ドクターナイフ塗工機を用いて剥離フィルムに塗工後、風乾し、塗工面に支持体を貼り合わせた後、10.5cmのサイズに裁断し、アルミ包材に包装した.
【0053】
比較例1
下記処方の経皮吸収型貼付剤を下記製造方法により調製した。
(処方)
フェンタニル 4.0%
スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体 18.2%
ポリイソプレン 9.8%
水素添加ロジングリセリンエステル 5.0%
ポリテルペン樹脂 35.0%
ポリブテン 14.0%
流動パラフィン 14.0%
合計 100%
【0054】
(製 法)
トルエンにフェンタニル以外の成分を加え撹拌混合し、完全溶解した後、フェンタニルを加えさらに攪拌混合し、均一な溶解物を得た。次にこの溶解物を、ドクターナイフ塗工機を用いて剥離フィルムに塗工後、風乾し、塗工面に支持体を貼り合わせた後、10.5cmのサイズに裁断し、アルミ包材に包装した。
【0055】
比較例2
下記処方の経皮吸収型貼付剤を下記製造方法により調製した。
(処方)
フェンタニル 5.0%
スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体 18.2%
ポリイソプレン 9.8%
水素添加ロジングリセリンエステル 6.0%
ポリテルペン樹脂 32.0%
ポリブテン 14.0%
流動パラフィン 14.0%
アスコルビン酸パルミチン酸エステル 1.0%
合計 100%
【0056】
(製 法)
トルエンにスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、ポリイソプレン、水素添加ロジングリセリンエステル、ポリテルペン樹脂、ポリブテン、流動パラフィンの各成分と、エタノールに溶解したL−アスコルビン酸パルミチン酸エステルとを加え撹拌混合し、その後さらにフェンタニルを加えさらに攪拌混合し、均一な溶解物を得た。次にこの溶解物を、ドクターナイフ塗工機を用いて剥離フィルムに塗工後、風乾し、塗工面に支持体を貼り合わせた後、10.5cmのサイズに裁断し、アルミ包材に包装した。
【0057】
試験例1 フェンタニル−N−オキサイド生成抑制作用
実施例2、4、6および比較例1、2にて得られた各製剤について、フェンタニル、フェンタニル−N−オキサイド体およびスチレンの生成量を経時的に測定した。測定方法は以下の通りである。
10.5cmに裁断した各試験物質を1枚ずつアルミ包材に包装し、室温にて保存し、経時的なフェンタニル、フェンタニル−N−オキサイド体およびスチレンを測定した。
各試験物質の剥離シートを剥がし、50mLの遠心沈殿管に取り、テトラヒドロフラン5mLを加え、20分間振とうし、膏体を完全に溶解させた。この液にメタノール15mLを加え、10分間振とうし、完全に粘着基剤成分を凝集、沈殿させた。
この上澄液を、高速液体クロマトグラフィーを用い、下記条件でフェンタニル、フェンタニル−N−オキサイド体およびスチレンを定量した。
高速液体クロマトグラフィーの操作は、カラムが内径4.6mm,長さ10cmのステンレス管に3μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲルを充てんしたもの(カラム温度:40℃付近の一定温度)、検出波長が215nm、移動相がリン酸二水素カリウム2.72gを水1000mLに溶かし、水酸化ナトリウム試液を加えてpH4.7に調整した溶液(移動相A)および液体クロマトグラフィー用アセトニトリル(移動相B)、移動相の送液は移動相A及び移動相Bを任意の条件で混合させ濃度勾配制御させて行った。その結果を表1にまとめた。
【0058】
【表1】

表中、FENはフェンタニルを、N−オキサイド体はフェンタニル−N−オキサイド体を意味し、スチレンはフェンタニル分解産物中、最低分子量化合物である。
*1:フェンタニル,N−オキサイド体及びスチレンのそれぞれのピーク面積を足して100%とした値の平均値,n=3
*2:製造後の日数
【0059】
上記結果から、フェンタニルまたはその塩を含有する経皮吸収型貼付剤にアスコルビン酸パルミチンエステルを配合することで、フェンタニルの一次分解生成物であるフェンタニル−N−オキサイド体および最低分子量化合物であるスチレンの生成が有意に抑制されることが明らかとなった。また、その効果は、アスコルビン酸パルミチン酸エステル0.01%〜0.5%の範囲では、増量に伴い向上するが、配合量1%では(比較例2)、アスコルビン酸パルミチン酸エステル自体の結晶が析出することがわかった。
【0060】
実施例9
下記処方の注射製剤を下記製造方法により調製した。
(処方)
クエン酸フェンタニル 5.0%
注射用蒸留水 94.0%
pH調整剤 0.98%
L−アスコルビン酸パルミチン酸エステル 0.02%
合計 100%
【0061】
(製 法)
クエン酸フェンタニルを注射用蒸留水に溶解させた後、pH調整剤を加え攪拌し、L−アスコルビン酸パルミチン酸エステルを加え均一な溶解物を得た。次にこの溶解物を、2mLアンプルに充填した。
【0062】
実施例10
下記処方の注射製剤を下記製造方法により調製した。
フェンタニル 2.0%
注射用蒸留水 70.0%
ブドウ糖注射液 27.9%
L−アスコルビン酸パルミチン酸エステル 0.1%
合計 100%
【0063】
(製 法)
フェンタニルをブドウ糖注射液に溶解させた後、注射用蒸留水を加え攪拌し、L−アスコルビン酸パルミチン酸エステルを加え均一な溶解物を得た。次にこの溶解物を、1mLアンプルに充填した。
【0064】
実施例9および10の注射製剤は、フェンタニル−N−オキサイド体の生成を抑制し得るものである。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明のフェンタニルまたはその塩含有医薬組成物は、長時間にわたって保存可能で、フェンタニルまたはその塩の分解を引き起こさないものであり、これにより、フェンタニルまたはその塩の薬理効果を有効に、しかも持続的に利用することが可能になる。従って、本発明の医薬組成物は、フェンタニルまたはその塩を薬効成分とする経皮吸収型貼付剤などの医薬製剤に好適に利用できるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスコルビン酸またはそのエステルを0.01〜0.5質量%含有することを特徴とするフェンタニルまたはその塩含有医薬組成物。
【請求項2】
アスコルビン酸またはそのエステルの配合量が、フェンタニルまたはその塩の配合量に対する質量比(アスコルビン酸またはその塩/フェンタニルまたはその塩)で0.0015〜0.5の範囲である請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
フェンタニルまたはその塩の含有量が1〜6質量%である請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
アスコルビン酸またはそのエステルが、アスコルビン酸パルミチン酸エステルである請求項1ないし3のいずれかの項記載の医薬組成物。
【請求項5】
さらに、アスコルビン酸またはそのエステル以外の抗酸化剤を含有するものである請求項1ないし4のいずれかの項記載の医薬組成物。
【請求項6】
アスコルビン酸またはそのエステル以外の抗酸化剤がフェノール系抗酸化剤である請求項5記載の医薬組成物。
【請求項7】
フェノール系抗酸化剤が3,5−ジ第3級ブチル−4−ヒドロキシトルエンである請求項6記載の医薬組成物。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかの項記載の医薬組成物を含有することを特徴とするフェンタニルまたはその塩含有医薬製剤。
【請求項9】
経皮吸収型貼付剤である請求項8記載の医薬製剤。
【請求項10】
フェンタニルまたはその塩を含有する医薬組成物中に、アスコルビン酸またはそのエステルを医薬組成物全体に対して0.01〜0.5質量%配合せしめることを特徴とするフェンタニルまたはその塩の安定化方法。
【請求項11】
アスコルビン酸またはそのエステルの配合量が、フェンタニルまたはその塩の配合量に対する質量比(フェンタニルまたはその塩/アスコルビン酸またはその塩)で0.0015〜0.5の範囲である請求項10記載のフェンタニルまたはその塩の安定化方法。
【請求項12】
医薬組成物中におけるフェンタニルまたはその塩の含有量が1〜6質量%である請求項10または11に記載のフェンタニルまたはその塩の安定化方法。
【請求項13】
アスコルビン酸またはそのエステルが、アスコルビン酸パルミチン酸エステルである請求項10ないし12のいずれかの項記載のフェンタニルまたはその塩の安定化方法。
【請求項14】
さらに、アスコルビン酸またはそのエステル以外の抗酸化剤を配合せしめるものである請求項10ないし13のいずれかの項記載のフェンタニルまたはその塩の安定化方法。
【請求項15】
アスコルビン酸またはそのエステル以外の抗酸化剤がフェノール系抗酸化剤である請求項14記載のフェンタニルまたはその塩の安定化方法。
【請求項16】
フェノール系抗酸化剤が3,5−ジ第3級ブチル−4−ヒドロキシトルエンである請求項15記載のフェンタニルまたはその塩の安定化方法。

【公開番号】特開2010−6762(P2010−6762A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−169211(P2008−169211)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【出願人】(390000929)祐徳薬品工業株式会社 (14)
【Fターム(参考)】