説明

安定化されたポリエーテルエステルエラストマー及び弾性繊維

【課題】高い吸水性と熱安定性を兼ね備え、さらには耐光性も改善されたポリエーテルエステルエラストマー及び繊維を提供する。
【解決手段】一般式(1)で表される有機スルホン酸金属塩が共重合されたポリブチレンテレフタレートをハードセグメントとし、ポリオキシエチレングリコールをソフトセグメントとするポリエーテルエステルエラストマーであり、チタン化合物を主たる触媒として製造されたものであって、かつ該チタン化合物の少なくとも一部がリン化合物によって不活性化されていることを特徴とする。このポリエーテルエステルエラストマーを紡糸してなる弾性繊維。


[式中、Rは芳香族炭化水素基又は脂肪族炭化水素基、Xはエステル形成性の官能基、XはXと同一若しくは異なるエステル形成性官能基又は水素原子、Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属である。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い吸水性と熱安定性とを兼ね備えた共重合ポリエーテルエステルエラストマー及びそれよりなる繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル、特にポリエチレンテレフタレートは、多くの優れた特性を有しているため、各種衣料用途等に広く利用されている。しかし、綿、絹、羊毛のような天然繊維、レーヨン、アセテートのような半合成繊維に比べると、吸水性、吸汗性が低いという機能面での欠点を有している。
【0003】
この問題を解決する目的で、有機スルホン酸金属塩、ポリアルキレングリコールなどの親水性成分をポリエステルに共重合させることにより、吸水性能を高めたポリエステル繊維が提案されている(例えば特許文献1参照。)。この方法では、吸水性能が大幅に改善されているが、有機スルホン酸金属塩、ポリアルキレングリコールの共重合ポリエステルは熱安定性が低く、また、耐光性も極め悪いといった課題を抱えていた。
【特許文献1】特開平7−150468号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、従来より存在していた上記問題を解決し、高い吸水性と熱安定性を兼ね備え、さらには耐光性も改善されたポリエーテルエステルエラストマー及び繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記従来技術に鑑み、鋭意検討を重ねた結果本発明を完成するに至った。すなわち本発明の目的は、下記一般式(1)で表される有機スルホン酸金属塩が共重合されたポリブチレンテレフタレートをハードセグメントとし、ポリ(オキシエチレン)グリコールをソフトセグメントとするポリエーテルエステルエラストマーであって、該ポリエーテルエステルエラストマーがチタン化合物を主たる触媒として製造されたものであって、かつ該チタン化合物の少なくとも一部がリン化合物によって不活性化されていることを特徴とするポリエーテルエステルエラストマーによって達成することができる。
【0006】
【化1】

[上記式中、Rは芳香族炭化水素基又は脂肪族炭化水素基、Xはエステル形成性の官能基、XはXと同一若しくは異なるエステル形成性官能基又は水素原子、Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属、iは1又は2である。Mがアルカリ金属の場合にはiは1、アルカリ土類金属の場合にはiは2である。]
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高い吸水性と熱安定性とを兼ね備えたポリエーテルエステルエラストマーを提供することができ、さらに、該ポリエーテルエステルエラストマーを溶融紡糸することによって、高い吸水性と吸湿性及び耐光性を有する弾性繊維を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明におけるポリエーテルエステルエラストマーは、有機スルホン酸金属塩が共重合されたポリブチレンテレフタレート単位をハードセグメントとするポリエステルである。好ましくはポリブチレンテレフタレートをハードセグメントの主たる繰り返し単位とするポリエステルである。ここで言う「主たる」とはブチレンテレフタレート成分以外の繰り返し単位を、ハードセグメントを構成するポリエステルの全繰り返し単位を基準として、20モル%以下、好ましくは15モル%以下、特に好ましくは10モル%以下共重合により含有してもよいことを意味する。
【0009】
共重合し得るテレフタル酸以外のジカルボン酸成分としては、例えばイソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルキシエタンジカルボン酸、β−ヒドロキシエトキシ安息香酸、p−オキシ安息香酸、アジピン酸、セバシン酸又は1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の如き芳香族、脂環族又は脂肪族の二官能性カルボン酸を挙げることができる。
【0010】
さらに、本発明の目的の達成が実質的に損なわれない範囲内であれば、トリメリット酸若しくはピロメリット酸のような三官能性以上のポリカルボン酸、又はグリセリン、トリメチロールプロパン若しくはペンタエリスリトールのような三官能性以上のポリオールを共重合成分として用いてもよい。
【0011】
また、共重合しうるエチレングリコール以外のジオール成分としては、例えばトリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールA又はビスフェノールSのような脂肪族、脂環族又は芳香族のジオール化合物及びポリ(オキシアルキレン)グリコール(但しポリ(オキシエチレン)グリコールを除く)を挙げることができる。
【0012】
上記ポリブチレンテレフタレートに共重合される成分は下記一般式(1)で示される有機スルホン酸金属塩であり、下記式中、Rは芳香族炭化水素基又は脂肪族炭化水素基、Xはエステル形成性の官能基、XはXと同一若しくは異なるエステル形成性官能基又は水素原子である。芳香族炭化水素基又は脂肪族炭化水素基としては、フェニレン基、ナフチレン基、ブチル基又はヘキシル基等が挙げられる。またこれら炭化水素基にX、X、スルホン酸基が結合する位置に特に限定は無く、各種位置異性体がありうる。またここでいうエステル形成性の官能基とは、反応してエステル結合を介してポリエステルに結合され得る官能基であり、一般にはヒドロキシル基、カルボキシル基又はそれらのエステルである。このX、X、Rからなる基としてはイソフタル酸のジエステルが好ましく挙げられる。Mは、Na、K、Liなどのアルカリ金属又はMg、Caなどのアルカリ土類金属であり、なかでもNa、Kが好ましい。Mがアルカリ金属の際には、iは1であり、Mがアルカリ土類金属の際には、iは2である。このような有機スルホン酸金属塩は、1種でも2種以上の混合物としても使用でき、好ましい具体例としては、5−ナトリムスルホイソフタル酸ジメチル、5−カリウムスルホイソフタル酸ジメチル、5−リチウムスルホイソフタル酸ジメチル、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ビス(2−ヒドロキシエチル)エステル、5−カリウムスルホイソフタル酸ビス(2−ヒドロキシエチル)エステル、5−リチウムスルホイソフタル酸ビス(2−ヒドロキシエチル)エステル等を挙げることができる。
【0013】
【化2】

[上記式中、Rは芳香族炭化水素基又は脂肪族炭化水素基、Xはエステル形成性の官能基、XはXと同一若しくは異なるエステル形成性官能基又は水素原子、Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属、iは1又は2である。Mがアルカリ金属の場合にはiは1、アルカリ土類金属の場合にはiは2である。]
【0014】
このような有機スルホン酸金属塩のポリエーテルエステルエラストマーへの共重合量Aは、ポリエーテルエステルエラストマーを構成する酸成分を基準として、0<A≦20モル%であることが好ましく、特に0.1〜10モル%であることが好ましい。該有機スルホン酸金属塩は、ポリブチレンテレフタレート製造時、エステル交換反応を開始する前の任意の段階で、反応系内へ添加することが好ましい。
【0015】
次に、本発明におけるポリエーテルエステルエラストマーのソフトセグメントとしてのポリ(オキシエチレン)グリコール又はその誘導体は、エラストマーとしての性質を発現させる他、共重合ポリエステルの吸水性能を向上させる目的等で共重合させている。このようなポリ(オキシエチレン)グリコールのポリエーテルエステルエラストマーへの共重合量は、ポリエーテルエステルエラストマーの全重量を基準として、30〜70重量%共重合することが好ましく、特に好ましくは40〜60重量%である。すなわちポリエーテルエステルエラストマーの全重量を基準にしてハードセグメント:ソフトセグメントの重量比率が30:70〜70:30であることが好ましく、40:60〜60:40が特に好ましい。該ポリ(オキシエチレン)グリコール成分は、ポリエステルの製造が完了する以前の任意の段階で反応系内へ添加すればよいが、重縮合反応開始前に反応系内へ添加することが好ましい。このハードセグメント:ソフトセグメントの重量比率は後述のように、ポリエーテルエステルエラストマーの溶液をH−NMRスペクトルを測定し、そのスペクトルパターンを解析することにより算出することができる。
【0016】
ポリ(オキシエチレン)グリコール又はその誘導体の分子量は数平均分子量で200〜6000の範囲が好ましい。該ポリ(オキシエチレン)グリコール又はその誘導体の分子量が6000を越えるとポリエーテルエステルエラストマーの耐熱性が悪くなり、逆に200未満になるとポリエーテルエステルエラストマーの吸水性が悪くなり、本発明の効果が得難くなる。特に、この分子量が2000〜4000の範囲内にあることが望ましい。このようなポリ(オキシエチレン)グリコール誘導体として具体的には、ポリエチレングリコール(数平均分子量2000、3000、4000)を例示することができる。これらの中で数平均分子量4000がより好ましい。
【0017】
次に、上記ポリエーテルエステルエラストマー中に配合され、ポリエーテルエステルエラストマーを製造する際に主たる触媒として使用されるチタン化合物について説明する。そのチタン化合物としてはテトラアルコキサイドチタネート、テトラフェノキサイドチタネート、ヘキサアルコキサイドジチタネート、ヘキサフェノキサイドジチタネート、オクタアルコキサイドトリチタネート、オクタフェノキサイドトリチタネート、デカアルコキサイドテトラチタネート及びデカフェノキサイドテトラチタネートよりなる群から少なくとも1種のチタン化合物が挙げられる。具体的にはアルコキシ基としては炭素数1〜10のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基又はヘキシルオキシ基が挙げられる。これらの中でより好ましいリン化合物はテトライソプロポキシチタネート、テトラブトキシチタネートである。またこのチタン化合物はエステル交換反応の触媒若しくはエステル化反応の触媒として、重縮合反応の触媒として又はその双方の反応を促進する触媒として使用することができる。
【0018】
次にそのチタン化合物を不活性化させるリン化合物について説明する。そのリン化合物としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート若しくはトリフェニルホスフェート等のリン酸エステル類、トリフェニルホスファイト若しくはトリスドデシルホスファイト等の亜リン酸エステル類、メチルアシッドホスフェート、ジブチルホスフェート若しくはモノブチルホスフェート酸性リン酸エステル、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸又はポリリン酸等のリン化合物が挙げられるが、中でも亜リン、正リン酸又は燐酸トリメチルなどを用いることが好ましい。このうち、特に亜燐酸を用いることが特に好ましい。リン化合物は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもどちらでもよい。これらのリン化合物の配合量は、ポリエーテルエステルエラストマー中の触媒を基準として、0.5〜5当量を占めるように配合することが好ましく、さらに好ましくは1〜3当量である。ここで、過少の配合では、反応触媒の不活性化改善効果が十分に発現しない。一方、過剰の配合は製糸時のパック圧力上昇及びポリマーの強度低下という問題が生ずる。該リン化合物は、ポリエーテルエステルエラストマー中の重縮合反応が完了する直前の段階で共重合ポリエステル又はその低重合体に配合するのがより好ましい。
【0019】
またさらにリン化合物としては下記式(I)で表されるホスホン酸塩を、ポリエーテルエステルエラストマー全重量を基準として0.01〜0.5重量%含有してもよい。これらの化合物の含有量が0.01重量%未満の場合、再生環状ダイマー量が多くなり好ましくなく、一方、0.5重量%を超える場合、ポリエーテルエステルエラストマーの耐熱性が低下する場合がある。上記式(I)で表される化合物の含有量は、0.03〜0.3重量%であることが好ましい。
【0020】
【化3】

[上記式中、R,R及びRは炭素数1〜10の炭化水素基であり、それぞれ同一でも異なっていても良い。また、nは1〜5の整数である。Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属原子であり、Mがアルカリ金属の場合、m=1、Mがアルカリ土類金属の場合、m=2である。]
【0021】
上記式(I)中、R、R及びRを構成する炭素数1〜10の炭化水素基としては、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10の芳香族基が挙げられる。このうち、炭素数1〜10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、又はターシャリーブチル基などが挙げられる。また、炭素数6〜10の芳香族基としては、フェニル基、又はベンジル基などが挙げられる。なかでも、メチル基、エチル基、イソプロピル基、又はターシャリーブチル基が好ましい。また、式(I)において、nは1〜5の整数であり、好ましくは1又は2である。さらに、Mは、アルカリ金属原子又はアルカリ土類金属原子であり、Mがアルカリ金属原子の場合、m=1、Mがアルカリ土類金属原子の場合、m=2である。アルカリ金属原子として、カリウム、ナトリウムなどが挙げられる。アルカリ土類金属原子として、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウムなどが挙げられる。好ましくはカルシウムである。
【0022】
式(I)で表わされる化合物の具体例として、カルシウムジエチルビス(((3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)メチル)ホスホネート)、マグネシウムジエチルビス(((3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)メチル)ホスホネート)、カルシウムジエチルビス(((3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル)メチル)ホスホネート)、マグネシウムジエチルビス(((3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル)メチル)ホスホネート)、カルシウムジエチルビス(((3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル)エチル)ホスホネート)、マグネシウムジエチルビス(((3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル)エチル)ホスホネート)などが例示される。
【0023】
これらのリン化合物により上記チタン化合物の少なくとも一部を不活性化されていることは、熱安定性の評価の手法により重縮合反応工程又は重縮合反応工程とは別に試験を行うことにより確認することができる。すなわち使用する用途に合わせて十分な値の固有粘度のポリエステルの重合が完了した後、高真空になっている反応槽を常圧に戻し重縮合を終了する。次にポリエステルを吐出する際の固有粘度の低下を、吐出開始時刻を基準とする経時変化として算出し評価を行う。すなわち吐出の際もポリエステルが溶融状態を保持できる程度の温度があり、重縮合反応時に用いた反応活性のある触媒がポリエステル中に残存しているので、吐出時にはポリエステルが分解する反応が少しずつ進行し固有粘度が低下する傾向にある。一方吐出前に先述のようなリン化合物などを添加し触媒の少なくとも一部を不活性化されていると、吐出中の固有粘度の低下が抑制される。従ってポリエステルの固有粘度の吐出時間による経時変化により、残存している活性触媒の不活性化の評価が可能である。なおこの操作は一旦重縮合が終了しチップ状になったポリエーテルエステルエラストマーであっても、チップを十分に乾燥した後、槽内で溶融し同様の操作により評価することができる。
【0024】
次に、本発明のポリエーテルエステルエラストマーの製造方法につき、ブチレンテレフタレート単位を主たる繰返し単位とするポリエステルを一例として、以下に説明する。
先ず、テレフタル酸ジメチルとテトラメチレングリコールとを、エステル交換反応触媒の存在下のエステル交換反応させるか、テレフタル酸とテトラメチレングリコールとを直接エステル化反応させるか又はテレフタル酸とブチレンオキサイドとを反応させるかのいずれかの方法によって、ビス(ω−ヒドロキシテトラメチレン)テレフタレ−ト及び/又はそのオリゴマ−を形成させる。この際にエステル交換反応触媒の供給は、原料調製時の他、エステル交換反応の初期の段階において行うことができる。さらに、重縮合触媒は重縮合反応工程の初期までに供給することができる。エステル交換反応時の反応温度は、通常200〜230℃であり、反応圧力は常圧〜0.2MPaである。
【0025】
その後、重縮合触媒の存在下で高温減圧下に溶融重縮合を行って、ポリエーテルエステルエラストマーを得るにあたり、上記ポリ(オキシエチレン)グリコール及びリン化合物をポリエステルの製造が完了する以前の任意の段階で反応系内に添加することによって達成される。好ましくは、ポリ(オキシエチレン)グリコール成分は、ビス(ω−ヒドロキシテトラメチレン)テレフタレート及び/又はそのオリゴマーを形成させる前の段階で添加するのが好ましく、リン化合物は重縮合反応完了の直前に添加するのが好ましい。また、重縮合時の反応温度は、通常230〜270℃であり、反応圧力は通常60〜0.1kPaである。この様なエステル交換反応及び重縮合反応は、一段で行っても、複数段階に分けて行っても良い。
【0026】
これらの反応には必要に応じて任意の触媒を使用することができるが、なかでもエステル交換反応させる際に用いる触媒としては、チタン化合物を使用するのが好ましく、重縮合触媒としては、ゲルマニウム化合物、アンチモン化合物、チタン化合物、錫化合物を使用するのが好ましく中でもチタン化合物が好ましい。触媒の使用量は、エステル交換反応、重縮合反応を進行させるために必要な量であるならば特に限定されるものではなく、また、複数の触媒を併用することも可能である。チタン化合物の具体例としては上述のような化合物を挙げることができる。またチタン化合物はエステル交換反応、エステル化反応、重縮合反応のいずれにも用いることができるので、添加時期は重縮合反応前に限られることなく、エステル交換反応又はエステル化反応の初期、途中等から添加してもかまわない。
【0027】
本発明のポリエーテルエステルエラストマーは、その固有粘度は通常1.00dL/g以上、好ましくは1.05〜1.50dL/gの範囲、特に好ましくは1.10〜1.30dL/gの範囲が好適である。固有粘度が1.00dL/g未満であると、強度が低下したり、延伸成形性が低下したりするなどの物性低下が起こりやすく、一方、固有粘度が高過ぎると、生産性が悪化すると共に、延伸などの成形性が低下しやすい。固有粘度をこの範囲にするには重合温度、重合反応器中の真空度(圧力)、反応時間を適宜選択することにより達成することができる。また条件によっては分解反応も同時並行して進行する場合もあるので、高い固有粘度にするために極度に温度を上げたり、反応時間を長くすることにより、逆にかえって低い固有粘度のポリエーテルエステルエラストマーを得ることもありうる。
【0028】
得られたポリエーテルエステルエラストマーは常法によりチップ化される。該チップの平均粒径は、通常2.0〜5.5mm、好ましくは2.2〜4.0mmの範囲とされる。重量の点から言うとチップ1粒が10〜40mgの範囲が好ましい。
【0029】
本発明のポリエーテルエステルエラストマーは、幅広い成形条件下で安定して成形することができ、通常の溶融紡糸方法を適用することができる。これにより弾性繊維を得ることができる。繊維の横断面形状は丸断面に限定されるものでは無く、扁平形状、三角断面形状及び多葉断面形状などの異形断面としてもよく、さらに、中空部を設けても何等問題は無い。また、成形の際の熱安定向上を目的とした熱安定剤、抗酸化剤、又必要に応じて少量の添加剤、例えば滑剤、顔料、染料、酸化防止剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、光安定剤、遮光剤又は艶消剤等を含んでいてもよい。これらの安定剤は重縮合反応が完了する直前に添加するのが好ましい。
【0030】
本発明のポリエーテルエステルエラストマーを溶融紡糸する際の温度は、ポリエーテルエステルエラストマーの融点に左右されるが、200〜270℃、好ましくは220〜250℃が適当である。ここで200℃未満では温度が低すぎて安定した溶融状態となり難く、また270℃を越えるとポリエーテルエステルエラストマーの熱分解が生じ、また紡出糸の冷却が不足するために、単糸同士での融着が発生する等の問題が発生する。次いで、紡出糸は所定の速度で引き取った後、一旦巻き取り、得られた未延伸糸を別途延伸機で延伸してもよいし、紡出糸を引き取った後、巻き取ること無く連続して延伸を行い巻き上げる直接紡糸延伸法を適用してもよい。
【0031】
ここで、直接紡糸延伸法としては、例えば紡出を400〜2000m/分の速度で行い、続いて450〜2500m/分の速度で巻き取る方法が挙げられる。更に必要に応じて熱セットも可能であり、熱セットのローラー温度としては130〜160℃が好ましく、この範囲にあると、熱セット性が十分であると共に繊維が溶融切断することも無い。いずれの方法であっても安定して製糸することができる。
【0032】
このようにして得られた本発明の繊維の糸条形態は、フィラメント、ステープルのいずれでもよく、総糸繊度、単糸繊度、撚数、交絡数などは繊維の使用目的に応じて適宜設定することができる。
【0033】
更に、本発明の繊維を布帛となすにあたっては、本発明の弾性繊維100%使いとしてもよく、他の繊維と併せて使用してもよい。ここで、他繊維と併用するにあたって、複合糸として使う場合には、混繊糸、複合仮撚糸とすればよく、このような併用できる繊維としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート若しくはポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ナイロン6若しくはナイロン66等のポリアミド、パラ型又はメタ型アラミド、ポリエチレン、ポリプロピレン若しくはアクリル等のポリオレフィン、又はこれらの改質及び/若しくは複合繊維、さらには天然繊維、再生繊維、半合成繊維などから自由に選択して用いることが出来る。
【実施例】
【0034】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれにより何等限定を受けるものでは無い。なお、実施例中の各値は以下の方法に従って求めた。
(1)固有粘度(以下、IVと略記する):
ポリマーを一定量計量し、35℃のo−クロロフェノールに0.012g/mlの濃度に溶解してから、常法に従って求めた。
(2)Col−L、Col−b:
160℃、60分間、乾燥機中で乾熱処理したポリマーを、ミノルタ(株)社製CR−200型色彩色差計を用いて求めた。
(3)耐光性(フェード測定):
下記の操作により布帛を作成し、その布帛についてスガ試験機株式会社製フェードメーター(型式:FAL−AU.H.B)により、温度:70℃、湿度:33RH%、5時間処理した。処理後筒編みを解き得られた糸について引張強度を測定し、処理前の値とから保持率を算出した。
(4)熱安定性:
重縮合反応終了後の吐出開始後、5分、15分、25分の共重合ポリエーテルエステルエラストマーをサンプリングし固有粘度を測定した。それらの固有粘度からの10分当たりの平均低下速度により評価した。この10分当たりのIVの低下値が0.040dL/g以下であるときにチタン化合物による触媒の少なくとも一部が不活性化していると判断した。
(5)引張伸度、引張強度:
JIS L1013記載の方法に準拠して求めた。
(6)布帛の作成:
小池製作所製の小型筒編み機(CR−B型:針 3.5インチ×220本)を用いて布帛の作成を行った。布帛の評価結果を表2に示す。
(7)飽和吸湿率:
サンプル糸を105℃で2時間乾燥した後、35℃・95%RHの環境に保ったデシケーター中に24時間放置した。放置前後の糸の質量より、下記式に従って求めた。
飽和吸湿率(%)=(放置後糸質量−放置前糸質量)/放置前糸質量
(8)有機スルホン酸金属塩共重合量、ハードセグメント:ソフトセグメント重量比:
ポリマーサンプルを重水素化トリフルオロ酢酸/重水素化クロロホルム=1/1(体積比)混合溶媒に溶解後、日本電子(株)製JEOL A−600 超伝導FT−NMRを用いて核磁気共鳴スペクトル(H−NMR)を測定した。そのスペクトルパターンから常法に従って、共重合量、ハードセグメント:ソフトセグメント重量比を算出した。
【0035】
[実施例1]
テレフタル酸ジメチル100重量部、テトラメチレングリコ−ル64重量部、エチレングリコール10重量部、有機スルホン酸金属塩としてジメチル−5−スルホイソフタル酸ナトリウム10重量部及びポリ(オキシエチレン)グリコールとしてのポリエチレングリコール(数平均分子量4000)100重量部を反応機に仕込み、エステル交換反応触媒としてテトラブトキシチタネートを酸成分(テレフタル酸ジメチルとジメチル−5−スルホイソフタル酸ナトリウムの総量)対比50mmol%添加した。副生するメタノールを系外に留去しつつ、エステル交換反応を実施しエステル交換反応を終了した。反応生成物を250℃まで昇温して重合反応を開始した。重合反応は30分かけて3〜4MPaとし、次の30分で60Pa以下とし、その後、120分間重合反応を継続した後触媒チタン不活性化剤としてIrg1425(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製の商品名の略称)を、酸性分対比50mmol%の量を添加後更に位20分間高温高真空下で反応した。その結果ポリブチレンテレフタレート部分がハードセグメントでポリエチレングリコール部分がソフトセグメントとなった共重合ポリブチレンテレフタレ−トエーテルエラストマーを得た。なお有機スルホン酸金属塩共重合量は5モル%であり、ハードセグメント:ソフトセグメント重量比は50/50であった。
【0036】
得られたポリブチレンテレフタレ−トエーテルエラストマー組成物を130℃、4時間乾燥後、紡糸温度260℃、巻取速度400m/分で80dtex/12filの紡糸し、吸湿弾性糸を得た。
得られた弾性糸の強度は0.6cN/dtex、耐光性強度保持率は70%と良好であった。また、飽和吸湿率も23%であった。エラストマー及び紡糸した弾性糸の物性評価について表1に表した。
【0037】
[実施例2、3]
実施例1において、触媒チタンの不活性化剤としてのIrg1425の添加量を変更したこと以外は同様の操作を行った。結果を表1に纏めて表した。
【0038】
[実施例4、5、6]
実施例1において、触媒チタンの不活性化剤としての亜燐酸を使用し、添加量を実施例1〜3と同様に変更したこと以外は同様の操作を行った。結果を表1に纏めて表した。なお上述の記載及び表1においてIrg1425とはカルシウムジエチルビス(((3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル)メチル)ホスホネート)(別名:カルシウムビス{エチル((3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル)メチル)ホスホネート})である。この化合物は、式(I)においてR=R=t−ブチル基、R=エチル基、n=1、m=2、M=Caの化合物(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製)である。
【0039】
[比較例1]
実施例1において触媒チタンの不活性化剤を使用しなかったこと以外は同様の操作を行った。結果を表1に纏めて表した。
【0040】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明によれば、高い吸水性と熱安定性とを兼ね備えたポリエーテルエステルエラストマーを提供することができ、さらに、該ポリエーテルエステルエラストマーを溶融紡糸することによって、高い吸水性と吸湿性及び耐光性を有する弾性繊維を提供することができる。この本発明により弾性繊維の用途が広げられることができ、その工業的な意義は大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される有機スルホン酸金属塩が共重合されたポリブチレンテレフタレートをハードセグメントとし、ポリ(オキシエチレン)グリコールをソフトセグメントとするポリエーテルエステルエラストマーであって、該ポリエーテルエステルエラストマーがチタン化合物を主たる触媒として製造されたものであって、かつ該チタン化合物の少なくとも一部がリン化合物によって不活性化されていることを特徴とするポリエーテルエステルエラストマー。
【化1】

[上記式中、Rは芳香族炭化水素基又は脂肪族炭化水素基、Xはエステル形成性の官能基、XはXと同一若しくは異なるエステル形成性官能基又は水素原子、Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属、iは1又は2である。Mがアルカリ金属の場合にはiは1、アルカリ土類金属の場合にはiは2である。]
【請求項2】
固有粘度が1.00dL/g以上である請求項1に記載のポリエーテルエステルエラストマー。
【請求項3】
有機スルホン酸金属塩の共重合量A(モル%)が、ポリエーテルエステルエラストマーを構成する酸成分を基準として下記範囲にある請求項1又は2に記載のポリエーテルエステルエラストマー。
0<A(モル%)≦20
【請求項4】
ハードセグメント:ソフトセグメントの比率が、重量を基準として30:70〜70:30の範囲である請求項1〜3のうちいずれか1項に記載のポリエーテルエステルエラストマー。
【請求項5】
請求項1〜4のうちいずれか1項に記載のポリエーテルエステルエラストマーからなる弾性繊維。

【公開番号】特開2007−84648(P2007−84648A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−273493(P2005−273493)
【出願日】平成17年9月21日(2005.9.21)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】