説明

安定化された医薬組成物

【課題】 本発明は、アトルバスタチンに代表されるスタチン系薬剤またはその誘導体の製剤化に伴う不純物の増加を抑制し、経日的な含量低下を防止する医薬組成物、当該組成物を調製する方法、ならびにその使用を提供する。
【解決手段】スタチン系薬剤またはその誘導体に硫酸カルシウムを配合すると、安定な製剤が得られることを見出した。すなわち、硫酸カルシウムの添加により、顕著に有効成分の分解が抑えられ、製剤化に伴う不純物の増加を抑制し、有効成分の経日的な含量低下を防止することができるという技術思想を確立した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アトルバスタチンに代表されるスタチン系薬剤の安定医薬組成物、当該組成物を調製する方法ならびにその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ロバスタチン(lovastatin)、プラバスタチン(pravastatin) 、シンバスタチン(simvastatin) 、メバスタチン(mevastatin)、アトルバスタチン(atorvastatin)、フルバスタチン(fluvastatin) およびセリバスタチン(cervastatin) などに代表されるスタチン系薬剤ならびにそれらの誘導体は、HMG−CoA還元酵素を阻害する作用の働きを阻害することによって、血液中のコレステロール値を低下させる薬として使用されている。スタチン系薬剤は、高脂血症患者での心筋梗塞や脳血管障害の発症リスクを低下させる効果があることが明らかにされている。また、それらは、骨粗鬆症、良性前立腺肥大、またはアルツハイマー病の治療においても通用である。
【0003】
有効成分の純度は、安全で効果の高い医薬製剤を製造するための重要な因子である。特にスタチン系薬剤が、血中の高コレステロールレベルの治療や予防のために、長期にわたって使用される場合には、上記の製造物の純度は極めて重要な要素となる。純度の低下した薬剤に含まれる不純物の蓄積は、治療中に様々な副作用を引き起こす可能性があるからである。
【0004】
事実、本発明に適応されるスタチン系薬剤、例えば、アトルバスタチン、プラバスタチン、フルバスタチンおよびセリバスタチンのような最終の医薬製剤は、熱、湿気、低いpH環境(酸性環境)、空気中の二酸化炭素、および光に対して不安定であるという問題を抱えている。特に、ヒドロキシ酸構造を分子内に有するHMG−CoA還元酵素阻害剤は、酸性条件下で、ヒドロキシ酸がラクトンを形成し、不純物が増加することが知られている。さらに、ヒドロキシ酸は、UVまたは蛍光光線にさらしたときに、急速に分解することも明らかとなっている。
【0005】
また、上記の環境要因によって、上述の有効成分が不安定になる可能性があるという事実以外に、これらの有効成分の分解は、充填剤、希釈剤、崩壊剤、流動促進剤、賦形剤、結合剤、潤滑剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤、湿潤剤などといったその他の医薬担体との相互作用によっても促進される可能性がある。さらには、他の医薬品と組み合わせた配合剤を製造する場合にも相互作用が問題となる場合がある。
【0006】
この背景から、これまでにスタチン系薬剤のヒドロキシ酸が、酸性条件下でラクトンを形成する問題を解決するいくつかの方法が開示されている。すなわち、
アトルバスタチンでは、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、珪酸マグネシウム、アルミン酸マグネシウムまたは水酸化マグネシウムアルミニウムなどのアルカリ土類金属塩(塩基性)を安定化添加剤として加える方法(特許文献1、特許3254219);
【0007】
処方物の水性分散物を約pH9にする酸化マグネシウムのような塩基性化剤を含み、塩基性を保つ製剤処方(特許文献2、EP0336298号);
【0008】
クエン酸緩衝液、炭酸緩衝液、リン酸衝液、リン酸水素緩衝液などの塩基性緩衝剤を添加し、pHを高くする(塩基性側に維持する)方法(特許文献3、特表2002−532409);
【0009】
スタチン系薬剤と緩衝化物質、あるいはスタチン系薬剤と塩基性化物質との間で均質な混合物(共結晶化)を形成させる方法(特許文献4、特表2004−501121);および
【0010】
ケイ酸アルミニウム、リン酸水素カルシウム、乳酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、又はメタケイ酸アルミン酸マグネシウムなどの代わりに、塩基性アミノ酸を含有することを特徴とする医薬組成物(特許文献5、特開2003−55217)などである。
【0011】
従来の方法は、いずれもスタチン系薬剤の製剤が塩基性を保つ何らかの方法で製造されることに特徴があり、塩基性環境がラクトン形成を阻止し、安定性を確保する目的を達成する技術である。実際、出願時点で市販されているアトルバスタチンは、塩基性アルカリ土類金属塩である炭酸カルシウムを含んでいる。
【0012】
しかしながら、製剤処方物の溶解した部分で生じる局所の塩基性環境は、通常の酸性環境である胃粘膜において良くない影響を与え得る。特に、粘膜自体に異常があり、十分な酸性環境をつくり出すことができない胃粘膜状態にある患者には影響が顕著であるし、慢性疾患の治療においては重大である。
【0013】
さらに、塩基性に弱い医薬担体や塩基性に弱いスタチン系薬剤以外の活性成分との配合を考えた場合、必ずしも上記の塩基性を保つ技術では解決できない課題が残っていることも事実である。
【0014】
したがって、塩基性を保つような従来の手段を用いずにスタチン系薬剤の安定性を担保し、また、製剤工程を複雑化せず、さらにコスト面でも不利にならない技術が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特許3254219号公報
【特許文献2】EP0336298公報
【特許文献3】特表2002−532409公報
【特許文献4】特表2004−501121公報
【特許文献5】特開2003−55217号公報
【特許文献6】特許2019432号公報
【特許文献7】特許3296563号公報
【特許文献8】特許3296564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、前述した不利益を回避しつつ、優れた安定性を与えたスタチン系薬剤を活性物質として含む医薬組成物を提供することである。また、当該組成物を調製する方法、ならびにその使用を提供することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記のような事情に鑑み、アトルバスタチンに代表されるHMG−CoA還元酵素阻害剤作用を有するスタチン系薬剤またはその誘導体の安定化を図るべく種々検討を重ねた結果、驚くべきことに、アトルバスタチンに中性の塩である硫酸カルシウムを配合すると、安定な製剤が得られることを見出した。背景で述べたように従来技術では、塩基性のアルカリ土類金属、塩基性化剤、塩基性緩衝液、塩基性化物質との共結晶化を用いており、中性物質である硫酸カルシウムを用いて前記課題を解決した例はない。すなわち、本発明者らは、スタチン系薬剤またはその誘導体に硫酸カルシウムを添加すると、製剤化に伴う有効成分の分解、不純物の増加を抑制し、有効成分の経日的な含量低下を防止することができるという技術思想を確立し、本発明を完成した。
【0018】
本発明は、
[1]スタチン系薬剤またはその誘導体、および硫酸カルシウムを含んでなる医薬組成物;
【0019】
[2]前記スタチン系薬剤またはその誘導体が、アトルバスタチンである[1]に記載の医薬組成物;
【0020】
[3]前記スタチン系薬剤またはその誘導体が、アトルバスタチン・1/2カルシウム塩・3水和物である[1]または[2]に記載の医薬組成物;
【0021】
[4]前記スタチン系薬剤またはその誘導体1〜50重量%であり、硫酸カルシウムを5〜90重量%含む[1]から[3]のいずれか1項に記載の医薬組成物;
【0022】
[5]活性医薬成分と硫酸カルシウムを配合する工程を含んでなる[1]から[4]のいずれか1項に記載の医薬組成物;
【0023】
[6]活性医薬成分、硫酸カルシウム、および少なくとも1つの担体と混合し、該混合物を粉砕もしくは製粉、または造粒することを含んでなる[5]に記載の医薬組成物の調製方法;
【0024】
[7]前記方法が更に、前記医薬組成物を固体投与形態に圧縮することを含んでなる[5]または[6]に記載の方法;
【0025】
[8]前記圧縮工程が湿式もしくは乾式造粒を経るか、または直接圧縮法である[7]に記載の方法;
【0026】
[9]疾病を患う患者を治療および/または予防する薬剤の製造における、活性医薬成分および[1]から[4]のいずれか1項に記載の医薬組成物の使用;
【0027】
[10]前記活性医薬成分がアトルバスタチンであり、前記疾病が高脂血症、高脂血症に起因する疾病、骨粗鬆症、良性前立腺肥大、またはアルツハイマー病である[9]に記載の使用;および
【0028】
[11]前記活性医薬成分がアトルバスタチンであり、前記高脂血症に起因する疾病が心筋梗塞等の心臓疾患、脳血管障害等の中枢性疾患である[10]に記載の使用を開示するものである。
【0029】
本願のスタチン系薬剤は、その薬学上許容される塩、光学異性体及およびそれらの異性体の混合物、溶媒和物、結晶多型などを含有するものである。スタチン系薬剤は、例えば、アトルバスタチン、プラバスタチン、フルバスタチンおよびセリバスタチンなどが挙げられる。
【0030】
スタチン系薬剤は、市販されているか、または、公知の方法で製造可能である。
【0031】
たとえば、アトルバスタチンは、特許文献6(特許2019432号公報)等に記載され、その化学名は、(−)(3 R, 5 R)− 7 −[2−(4−フルオロフェニル)−5−イソプロピル−3−フェニル−4−フェニルカルバモイル−1H−ピロール−1−イル]−3,5−ジヒドロキシヘプタノエートであり、本願のアトルバスタチンは、その薬学上許容される塩、光学異性体及およびそれらの異性体の混合物、溶媒和物、結晶多型などを含有する。たとえば、(−)ビス{(3 R, 5 R)− 7 −[2−(4−フルオロフェニル)−5−イソプロピル−3−フェニル−4−フェニルカルバモイル−1H−ピロール−1−イル]−3,5−ジヒドロキシヘプタノエート}モノカルシウム塩・3水和物を含む。また、結晶多型として特許文献7(特許3296563号)、特許文献8(特許3296564号)に開示される結晶形態I〜IVだけでなく、他の結晶形態も含む。
【0032】
本発明に係る高脂血症治療用の医薬組成物に含まれるスタチン系薬剤またはその誘導体の量は特に限定されないが、高脂血症に伴う症状を治療、改善、または回復させるのに十分な用量とすべきである。本発明に係る高脂血症の医薬組成物の投与量は、使用方法や患者の年齢、性別、状態等に応じて異なる。たとえば、一投与形態中に約5mg、または10mgのアトルバスタチンが含まれるようにする。
【0033】
本発明の医薬組成物は、限定されるものではないが、湿式または乾式造粒、および直接圧縮等の任意の従来手段によって調製され得る。
【0034】
医薬組成物を調製するための方法は、硫酸カルシウムを有効成分に配合する工程を含むことを特徴とする。
【0035】
直接圧縮法では、調製するための方法は、硫酸カルシウム、および少なくとも1つの担体を活性医薬成分と混合することを含んでなり、当該担体は硫酸カルシウムと十分混合される。任意により1以上の他の活性医薬成分を医薬組成物に添加してもよい。得られた混合物は、錠剤、丸薬、顆粒等の固体医薬組成物に圧縮される。好適には固体医薬組成物は、錠剤に圧縮される。
【0036】
本発明に用いられる硫酸カルシウムとしては、市販のものが利用できる。硫酸カルシウム・1/2水和物、硫酸カルシウム・2水和物、硫酸カルシウム・無水物などが挙げられるがこれらに限定されるわけではない。
【0037】
また、これらの硫酸カルシウムは単独で用いてもまたは二種以上を併用してもよい。これらの硫酸カルシウムは固体状、または懸濁状で有効成分に添加される。
【0038】
スタチン系薬剤またはその誘導体は、総重量に対し通例約1〜50重量%であり、硫酸カルシウムは、製剤に支障の出ない限り、限定されるものではないが、5〜90重量%の範囲である。硫酸カルシウムの量は、より好ましくは、10〜80重量%の範囲である。
【0039】
本発明の医薬組成物は、任意の形態を採り得るが、好適には固体組成物である。より好適には本発明の医薬組成物は、成型(造粒、加圧成型など)により固体組成物に圧縮される。適切な固体投与形態としては、限定されるものではないが、錠剤、丸薬、顆粒剤、カプセル、粉末、および小袋が挙げられる。
【0040】
本発明の固型剤を製造するにあたっては、通常上記のような硫酸カルシウムを有効成分に配合した後成型することにより行なわれる。これらの配合方法としては一般に製剤において用いられる配合方法、たとえば混合、練合、捏和、篩過、撹拌などにより行なわれる。たとえば硫酸カルシウムを直接有効成分に添加して混合(粉末添加)してもよく、また溶媒を加えて混和し、常法により練合、造粒、乾燥することもできる。また硫酸カルシウムを適当な溶媒に懸濁、または溶解した後、有効成分と均一に混和して常法により練合、造粒、乾燥する(液添加)などにより配合することもできる。液添加の場合の適当な溶媒としては、たとえば水、ジメチルホルムアミド、アセトン、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、メチレンクロライド、トリクロルエタンなどの有効成分に悪影響を及ぼさない溶媒が用いられる。配合終了後、公知の加圧成型手段を用いることにより有効成分を含有する錠剤を製造することができる。但し、加圧成型とは、加圧下に圧縮して所望する形態となすことであり、最も一般的には、たとえば打錠などをいう。
【0041】
本願組成物の製造法においては、固型剤に用いられる種々の担体を適当な工程で添加することもできる。例としては、限定されるものではないが、充填剤、希釈剤、崩壊剤、流動促進剤、賦形剤、結合剤、潤滑剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤、湿潤剤等が挙げられる。
【0042】
適切な充填剤および希釈剤としては、限定されるものではないが、粉末セルロース、微結晶性セルロース(例えばAvicel(登録商標))、マイクロファインセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロシキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース塩および他の置換および非置換セルロース等のセルロース由来物質;デンプン;プレゼラチン化デンプン;ラクトース;タルク;ワックス;糖;マンニトールおよびソルビトール等の糖アルコール;アクリレートポリマーおよびコポリマー;デキストレート;デキストリン;デキストロース;マルトデキストリン;ペクチン;ゼラチン;炭酸カルシウム、第二リン酸カルシウム二水和物、第三リン酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、塩化ナトリウム、さらなる硫酸カルシウムおよび医薬産業において公知の他の希釈剤等の無機希釈剤が挙げられる。
【0043】
適切な崩壊剤としては、限定されるものではないが、クロスカルメロールナトリウム(例えばAc Di Sol(登録商標)、Primellose(登録商標))、クロスポピドン(例えばKollidon(登録商標)、Polyplasdone(登録商標))、微結晶性セルロース、ポラクリリンカリウム、粉末セルロース、プレゼラチン化デンプン、デンプングリコール酸ナトリウム(例えばExplotab(登録商標)、Primoljel(登録商標))およびデンプン等が挙げられる。
【0044】
圧縮前の固体組成物の流動能を改善し、特に圧縮およびカプセル充填時の薬品注入精度を改善するために、流動促進剤を添加してもよい。流動促進剤として機能し得る賦形剤としては、限定されるものではないが、コロイド状二酸化ケイ素、三ケイ酸マグネシウム、粉末セルロース、およびタルク等が挙げられる。
【0045】
適切な賦形剤としては、限定されるものではないが、たとえば、結晶セルロース(例、アビセルPH101(旭化成製))、カルボキシメチルセルロースカルシウム、コーンスターチ、小麦でんぷん、乳糖、ショ糖、ブドウ糖、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、塩化ナトリウム等が挙げられる。また防腐剤、界面活性剤、抗酸化剤、または他の医薬産業で一般に使用される任意の賦形剤が挙げられる。
【0046】
適切な結合剤としては、限定されるものではないが、たとえば、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、グルコース溶液、デンプン溶液、ゼラチン溶液、アラビアゴム、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、シェラック(shellac)、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース(以下、HPCと略称することがある。)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等、また湿式または乾式造粒においておよび直接圧縮錠剤化方法において使用される他の結合剤が挙げられる。
【0047】
適切な滑沢剤としては、限定されるものではないが、たとえば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、合成ケイ酸アルミニウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ホウ酸、酸化マグネシウム、パラフィン等が挙げられる。また、着色剤、矯味剤、矯臭剤、湿潤剤等を添加してもよい。
【0048】
なお、比重が比較的軽い結晶性物質を有効成分として用いる場合には、HPCなどの結合剤と水とを含有する濃厚な液に、あらかじめ該物質を分散させておくのが望ましい。さらに、本発明の組成物はコーティング錠とすることもできる。
【0049】
コーティングは自体公知の方法で行うことができ、コーティング剤としては通常用いられるコーティング剤(例、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルピロリドンなど)が用いられ、コーティング補助剤としては、ポリエチレングリコール6000、ポリソルベート(例、ツィーン80など)、酸化チタン、ベンガラ等の色素などが用いられる。有効成分に硫酸カルシウムを配合して得られる本発明の経口用医薬組成物において、スタチン系薬剤またはその誘導体は、該組成物中、通例約1〜50重量%である。硫酸カルシウムは、製剤に支障の出ない限り、限定されるものではないが、該組成物中5〜90重量%の範囲である。硫酸カルシウムの量は、より好ましくは、10〜80重量%の範囲である
【0050】
また、本発明の経口用医薬組成物は、所望により崩壊速度を調整することができるが、口腔崩壊錠の場合は、水溶液中で30分以内に崩壊するものが好ましい。このようにして、有効成分に硫酸カルシウムを配合して得られる本発明の経口用医薬組成物は、成型による経日的な分解が抑制され、安定な製剤となる。本発明の医薬組成物を哺乳動物(例、ヒト、イヌ、ウサギ、ラットなど)の高血圧症、心臓病、脳卒中、腎疾患などの治療に用いる場合は、錠剤等にして経口的に投与することができる。それらの投与量は、有効成分(HMG−CoA還元酵素を阻害作用を有する化合物)として1日投与量0.5〜120 mgA、好ましくは5〜80mgA(ここでmgAは、遊離酸を基準とした活性薬物のミリグラムを示す)である。病状や状態に依存して増減することができる。
【0051】
医薬組成物がカプセルの投与形態にある場合は、カプセルは、本発明の医薬組成物を圧縮されない形態、または圧縮された顆粒または粉末の混合等の形態で含み得る。カプセルの被覆は、ハードシェルでもソフトシェルでもよい。シェルは、限定されるものではないが、ゼラチン製でもよく、グリセリンおよびソルビトール等の可塑剤、並びに乳白剤または着色剤を含んでいてもよい。
【0052】
本発明の高脂血症、およびそれに伴う疾病を治療するための医薬組成物の投与方法は、特に限定されず、また年齢、性別、および患者の状態に応じて多様な調合において投与され得る。適切な医薬組成物の投与経路としては、限定されるものではないが、経口、口腔、および直腸投与を含み得る。所与の場合における最適な投与は、治療される状態の性質および重篤性に応じて異なるが、本発明の最適な投与経路は、経口である。投与量は単位投与形態とすることが便宜上好ましく、また、医薬業界で一般に公知の任意の方法で調合することができる。
【0053】
特定の好適な態様に関連して本発明を説明したが、他の態様は、本明細書の記載から当業者には明白であろう。本発明は、医薬賦形剤複合体および医薬組成物の調製を詳細に記載する以下の発明の実施形態を参照することによって、更に定義される。当業者には明白なように、本発明の範囲から逸脱することなく、材料および方法の両面で多々の改変が可能である。
【発明の効果】
【0054】
本発明によれば、HMG−CoA還元酵素阻害作用を有するスタチン系薬剤またはその誘導体、好ましくはアトルバスタチンを有効成分とし、これに硫酸カルシウムを配合することにより、有効成分の分解等が抑えられ、製剤化に伴う不純物の増加を抑制し、もって有効成分の経日的な含量低下を防止した安定な製剤が得られるという効果を奏する医薬組成物を得ることができた。
【0055】
また、本発明の医薬組成物、およびその製造方法は、シンプルで製剤工程を複雑化せず、コストの低減につながる技術思想であり、製品の品質保証期間をより長くし、製品価値を高めるものでもある。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】アトルバスタチンに硫酸カルシウムを配合した場合の効果を示す図である。比較のため、グルコン酸カルシウム、ポリリン酸ナトリウム、または炭酸カルシウムを配合した場合を載せている。
【発明を実施するための形態】
【0057】
以下に、比較例、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0058】
アトルバスタチンは、本技術分野で公知の方法(例えば、特許文献6、特許2019432号公報)を用いて調製することができる。アトルバスタチンの調製は、ラクトン形態の加水分解によって、または塩を陽イオン性交換樹脂(H+ 樹脂)で処理し、そして水部分を蒸発することによって製造することができる。
【0059】
[実施例1]
処方
硫酸カルシウムを含有するアトルバスタチン10mg錠は、表1に示す処方で製造した。
【0060】
製法
アトルバスタチンカルシウム・3水和物、硫酸カルシウム・2水和物、乳糖水和物(200M)、結晶セルロースPH101、およびドロキシプロピルセルロース HPC-Lを乳鉢に秤量した。乳棒にて約3分間混合した。精製水を適量追加して、乳棒を用いて造粒した。乾燥機により、造粒物を乾燥させた。30M(500μm)の篩を用いて製粒した。製粒品の対応量のカルメロースカルシウムを投入して、3分間混合した。次いでステアリン酸マグネシウムを投入して、30秒間混合した。打錠機により打錠し、硫酸カルシウム含有アトルバスタチン10mg錠を製造した。
【0061】
【表1】

即ち、表1は、硫酸カルシウムを含有するアトルバスタチン10mg錠の処方を示す。
【0062】
[比較例1]
処方
グルコン酸カルシウムを含むアトルバスタチン10mg錠は、表2に示す処方で製造した。
【0063】
製法
アトルバスタチンカルシウム・3水和物、グルコン酸カルシウム、乳糖水和物(200M)、結晶セルロースPH101、およびドロキシプロピルセルロース HPC-Lを乳鉢に秤量した。乳棒にて約3分間混合した。精製水を適量追加して、乳棒を用いて造粒した。乾燥機により、造粒物を乾燥させた。30M(500μm)の篩を用いて製粒した。製粒品の対応量のカルメロースカルシウムを投入して、3分間混合した。次いでステアリン酸マグネシウムを投入して、30秒間混合した。打錠機により打錠し、グルコン酸カルシウム含有アトルバスタチン10mg錠を製造した。
【0064】
【表2】

即ち、表2は、グルコン酸カルシウムを含有するアトルバスタチン10mg錠の処方を示す。
【0065】
[比較例2]
処方
ポリリン酸ナトリウムを含むアトルバスタチン10mg錠は、表3に示す処方で製造した。
【0066】
製法
アトルバスタチンカルシウム・3水和物、ポリリン酸ナトリウム、乳糖水和物(200M)、結晶セルロースPH101、およびドロキシプロピルセルロース HPC-Lを乳鉢に秤量した。乳棒にて約3分間混合した。精製水を適量追加して、乳棒を用いて造粒した。乾燥機により、造粒物を乾燥させた。30M(500μm)の篩を用いて製粒した。製粒品の対応量のカルメロースカルシウムを投入して、3分間混合した。次いでステアリン酸マグネシウムを投入して、30秒間混合した。打錠機により打錠し、ポリリン酸ナトリウム含有アトルバスタチン10mg錠を製造した。
【0067】
【表3】

即ち、表3は、ポリリン酸ナトリウムを含有するアトルバスタチン10mg錠の処方を示す。
【0068】
[比較例3]
処方
炭酸カルシウムを含むアトルバスタチン10mg錠は、表4に示す処方で製造した。
【0069】
製法
アトルバスタチンカルシウム・3水和物、炭酸カルシウム、乳糖水和物(200M)、結晶セルロースPH101をフローコーター(フロイント産業)で混合し、ヒドロキシプロピルセルロース HPC-L水溶液を結合液とした湿式造粒法により顆粒を製した。30M(500μm)の篩を用いて製粒し、製粒品の対応量のカルメロースカルシウムを投入して、3分間混合した。次いでステアリン酸マグネシウムを投入して、30秒間混合した。打錠機により打錠し、炭酸カルシウム含有アトルバスタチン10mg錠を製造した。
【0070】
次いで、表4記載のヒプロメロース、ポリエチレングリコール、酸化チタンを用いてコーティング液を調製した。即ち精製水に酸化チタンを分散させ、予め調整したヒプロメロース水溶液に200M(75μm)の篩を用いて酸化チタン分散液を篩過させながら加え、混和した。
【0071】
上記コーティング液を用いて、コーティング後の錠剤重量が約88mgとなるよう、ハイコーター(フロイント産業)を用いてコーティングを実施した。
【0072】
上記のようにして、フィルムコーティング量を2mg、3mg、および4mg施した錠剤を製造し、それぞれロット番号AVT16 2mg,ATV16 3mg,ATV16 4mgとした。
【0073】
【表4】

即ち、表4は、炭酸カルシウムを含有するアトルバスタチン10mg錠の処方を示す。
【0074】
[安定性試験]
上記のように調製した製剤を調製直後と苛酷条件保存後の条件下、その総類縁物を測定した。測定方法は、高速液体クロマトグラフ法に準じて行った。
【0075】
調製直後と苛酷条件保存後の条件下、その総類縁物を測定した。直後と苛酷条件保存後の条件下、その総類縁物を測定した。苛酷条件は、50℃、湿度75%、2週間である。
【0076】
結果
錠剤調製直後と苛酷条件保存後の条件下、その総類縁物を測定した。結果を表5および図5にまとめた。すなわち、表5および図5は、アトルバスタチンに硫酸カルシウムを配合した場合の効果を示す表および図である。比較のため、硫酸カルシウムの代わりにグルコン酸カルシウム(比較例1)、ポリリン酸ナトリウム(比較例2)、および炭酸カルシウム(比較例3)を配合した場合を載せている。
【0077】
ここで、総類縁物は、不純物と考えられ、この数字が少ない方が安定性に優れた錠剤を提供できることを示している。
【0078】
グルコン酸カルシウムを含む比較例1(AVT26−1、AVT26−2、AVT26−3)では、調製直後の時点において総類縁物不純物の量は医薬組成物の総量の0.68%〜0.76%であったのに対し、苛酷条件保存後では、その量は医薬組成物の総量の1.45%〜1.92%(光)および2.94%〜7.12%(50℃、湿度75%)まで増加した。
【0079】
ポリリン酸ナトリウムを含む比較例2(AVT25−1、AVT25−2、AVT25−3)では、調製直後の時点において総類縁物不純物の量は医薬組成物の総量の0.39%〜1.37%であったのに対し、苛酷条件保存後では、その量は医薬組成物の総量の3.4%〜4.38%(光)および2.37%〜7.67%(50℃、湿度75%)まで増加した。
【0080】
炭酸カルシウムを含む比較例3(AVT16、AVT16 2mg、AVT16 3mg、AVT16 4mg)では、フィルムコーティングの有無にかかわらず、調製直後の時点において総類縁物不純物の量は医薬組成物の総量の0.67%〜0.75%であったのに対し、苛酷条件保存後では、その量は医薬組成物の総量の1.23%〜1.97%(光)および1.65%(50℃、湿度75%)まで増加した。光安定性に関しては、フィルムコーティング量が多いほど類縁物質の増加が抑えられていた。
【0081】
比較例に比べ、本発明の実施態様である実施例1においては、錠剤調製直後の時点において総類縁物は0.41%〜0.51%であり、比較例と対比すると同等またはそれ以上に分解が抑えられていることが明らかとなった。また、苛酷条件保存後でもその量は、医薬組成物の総量の0.84%〜1.05(光)および0.78%〜2.42(50℃、湿度75%)であり、これも比較例と対比すると同等またはそれ以上に分解が抑えられていた。
【0082】
特に、比較例3と対比すると、実施例1はフィルムコーティングを施してはいない素錠であるが、フィルムコーティングせずとも、炭酸カルシウムを含むフィルムコーティング錠(AVT16 2mg、AVT16 3mg、AVT16 4mg)と比較して、優れた光安定性を達成していることは発明の効果として注目すべきことのひとつであろう。この事実は、フィルムコーティング工程が不要であり、コーティング材料費等のコストを考慮すると優れた技術である。もちろん、比較例3でフィルムコーティング量が多いほど類縁物質の増加が抑えられた結果から、実施例1にさらにフィルムコーティングをすることも可能である。
【0083】
以上、本実施例のデータから、アトルバスタチンに中性塩である炭酸カルシウムを添加した本発明の医薬組成物の錠剤は、塩基性環境がもたらす不利益を解消し、熱、光、湿気に対する分解が抑えられ、不純物の増加を抑制し、有効成分の経日的な含量低下を防止することができたと結論付けられる。
【0084】
【表5】

即ち、表5は、総類縁物質の安定性に関するデータを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スタチン系薬剤またはその誘導体、および硫酸カルシウムを含んでなる医薬組成物。
【請求項2】
前記スタチン系薬剤またはその誘導体が、アトルバスタチンである請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記スタチン系薬剤またはその誘導体が、アトルバスタチン・1/2カルシウム塩・3水和物である請求項1または請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記スタチン系薬剤またはその誘導体が1〜50重量%であり、硫酸カルシウムを5〜90重量%含む請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
活性医薬成分と硫酸カルシウムを配合する工程を含んでなる請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の医薬組成物の調製方法。
【請求項6】
活性医薬成分、硫酸カルシウム、および少なくとも1つの担体と混合し;該混合物を粉砕もしくは製粉、または造粒することを含んでなる請求項5に記載の医薬組成物の調製方法。
【請求項7】
前記方法が更に、前記医薬組成物を固体投与形態に圧縮することを含んでなる請求項5または請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記圧縮工程が湿式もしくは乾式造粒を経るか、または直接圧縮法である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
疾病を患う患者を治療および/または予防する薬剤の製造における、活性医薬成分および請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の医薬組成物の使用。
【請求項10】
前記活性医薬成分がアトルバスタチンであり、前記疾病が高脂血症、高脂血症に起因する疾病、骨粗鬆症、良性前立腺肥大、またはアルツハイマー病である請求項9に記載の使用。
【請求項11】
前記活性医薬成分がアトルバスタチンであり、前記高脂血症に起因する疾病が心臓疾患、中枢性疾患である請求項10に記載の使用。

【図1】
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【公開番号】特開2013−35770(P2013−35770A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172000(P2011−172000)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(000208145)テバ製薬株式会社 (29)
【Fターム(参考)】