説明

安定化された多糖の処方のための組成物及び方法

【課題】変形性関節症及び/又はそれに関連した疼痛等の関節症状を処置するための組成物及び方法を提供する。
【解決手段】組成物及び方法は、第1の構成成分、即ちヒアルロン酸(「HA」)を、少なくとも1つの安定剤と組み合わせて使用する。組成物は、HAの安定性及び保存期限を増大させる安定剤を含有してもよい。別の実施形態では、組成物及び方法は、1つ又はそれ以上のグリコサミノグリカン(「GAG」)又はGAG前駆体のような追加の構成成分も含み得る。GAG類又はGAG前駆体の例には、コンドロイチン硫酸(「CS」)、デルマタン硫酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸、ケラタン硫酸及びグルコサミン(「GlcN」)を挙げることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、関節を処置するための組成物及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
関節炎の最も通常の形態である変形性関節症(「OA」)は、関節の骨、軟骨及び滑膜における変性(関節の序々の悪化)又は異常な変化により特徴付けられる関節炎の一種である。OAは、多くの場合、対向する関節表面の漸進的な摩滅により特徴付けられ、これは時折、炎症によって患者に疼痛、腫れ及び硬直をもたらす。OAは、関節に対する外傷の後に、又は関節の感染症の後に、又は単に加齢による結果として、1つ又はそれ以上の関節に生じ得る。更に、異常な骨格、遺伝子及び肥満が、OAの早期の進行に寄与し得るとの証拠が現れている。
【0003】
OAの処置は、一般に、運動、理学療法、生活様式の変更、及び鎮痛剤類の組み合わせを含む。アセトアミノフェンは一般に、OAに対して最初に使われる処置剤である。軽〜中度の症候に対し、有効性はイブプロフェン等の非ステロイド性抗炎症薬物類(「NSAID類」)と同様である。より重度の症候に対し、NSAID類がより効果的であり得る。しかしながら、より効果的である一方、重度のケースでは、NSAID類は、胃腸出血及び腎臓合併症等の、より大きい副作用を伴う。NSAID類の他のクラス、COX−2選択的阻害剤(Celecoxib等の)は、NSAID類と同様に効果的であるが、副作用の観点からより安全ではない。局所使用に利用できる、ジクロフェナクを含む数種のNSAID類が存在する。典型的には、それらは経口投与と比較して全身性副作用が少なく、少なくとも幾分かの治療効果を有する。モルヒネ及びフェンタニル等のオピオイド鎮痛剤類は疼痛を改善する一方、頻繁な有害事象がこの利益を上回り、したがって日常的には使用されていない。関節内(Intra-articular)ステロイド注入も、OAの処置に使用されており、それらは特にOAの炎症性要素を有する患者において、疼痛を軽減するのに非常に効果的である。しかしながら、疼痛軽減の持続時間は4〜6週間に限定され、側副軟骨の損傷を含み得る有害な効果が存在する。疼痛が弱まる場合、関節置換手術を用いて可動性及び生活の質を改善してもよい。疾病を遅延させる又は逆転させる確かな処置法は存在しない。
【0004】
アセトアミノフェンのような単純な疼痛軽減物、又は運動及び理学療法から十分な疼痛軽減を得られない患者には、ヒアルロン酸(HA)の関節内注入が別の処置選択肢を提供して症候性疼痛に対処し、全関節置換手術の必要性を遅延させることができる。生来のHAの濃度及び分子量は、OAに苦しむ個人には不十分であり、したがって、外来HAの関節注入がこれらの分子を補充し、滑液の粘弾性を修復することが既知である。関節を円滑にし、かつ関節の衝撃を和らげる役割を果たすのは、この性質である。また、HAは細胞表面受容体に対する結合を介して生物学的活性を有し、炎症及び軟骨分解を緩和させる役割を有し得るという証拠が存在する。作用機序に係わらず、処置過程後の約6ヶ月間、疼痛軽減が観察されている。米国市場でのHA製品に関する処置過程は、単回注入から、この疼痛軽減の永続性を得るための週に1回の3〜5週間の注入を必要とする別のものまで様々であり得る。
【0005】
現在、米国内で市販のヒアルロン酸(「HA」)処方物は、プレフィルド注射器内で、すぐに使用できる(ready-to-use)HA溶液として商品化されている。これらは室温で保管することができ、典型的には2年の保存期限を有する。低〜中分子量のHAは有効であり得る一方、高分子量HA処方物は、特により高いHA濃度で追加の利益を提供することができる。しかしながら、溶液中のHAは、HA分子量の低下により測定して、室温で時間の経過と共に分解することが知られており、このことはOA療法としてのHA処方物の効力に影響を与え得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
関節を処置するための改善された方法及び組成物、特に高分子量HAを単独で又は追加の構成成分との組み合わせで使用して、現在の処置に関連した安定性及び保存期限の問題に対処する、関節の処置のための改善された方法及び組成物が尚必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
変形性関節症及び/又はそれに関連した疼痛等の関節症状を処置するための組成物及び方法を提供する。本明細書に開示した方法及び組成物は、一般に、第1の構成成分、即ちヒアルロン酸(hyaluraonic acid)(「HA」)を、少なくとも1つの安定剤と組み合わせて用いる関節の処置に関する。
【0008】
一態様において、処方を含む関節症状を処置するための処方物又は組成物が開示される。処方物又は組成物は、液体形態であってもよい。処方物はまた、室温で安定であってもよい。更に、処方物は、ヒアルロン酸(HA)の溶液を含んでもよい。HA処方物は、高分子量HAであってもよい。分子量は、例えば500、600、700、800、900、1000、1100、1200、1300、1400、1500、1600、1700、1800、1900、2000、2100、2200、2300、2400、2500、2600、2700、2800、2900、3000、3100、3200、3300、3400、3500、3600、3700、3800、3900、4000、4100、4200、4300、4400、4500、4600、4700、4800、4900、5000、5100、5200、5300、5400、5500、5600、5700、5800、5900、6000kDa又はそれ以上、又はこれらの中から引き出される任意の範囲であってもよい。代表的な実施形態では、HAは、約1MDa〜6MDaの範囲内の分子量を有する。別の代表的な実施形態では、HAは、1MDaを越える分子量を有する。
【0009】
更に、HA処方物は、液体、固体又は凍結乾燥形態のいずれかにおいて、特定の濃度で存在してもよい。一実施形態では、HAは、液体において、少なくとも約1mg/mLの濃度で存在する。別の代表的な実施形態では、HAは、少なくとも約5mg/mL、より好ましくは少なくとも約7mg/mL、より好ましくは少なくとも約10mg/mL、より好ましくは少なくとも約15mg/mLの液体濃度を有し、いくつかの実施形態では、濃度は少なくとも約25mg/mLであってもよい。別の実施形態では、HAは約15mg/mL〜約25mg/mLの範囲内の濃度を有してもよい。
【0010】
別の態様では、処方物又は組成物は、少なくとも1つの追加の構成成分を含む。処方物又は組成物に添加される追加の構成成分は、例えばアミノ酸類、アミノ糖類、糖アルコール類、タンパク質類、単糖類、二糖類、オリゴ糖類、多糖類、核酸類、緩衝剤類、界面活性剤類、脂質類、リポソーム類、他の賦形剤類、及びこれらの混合物であってもよい。他の有用な構成成分としては、ステロイド類、抗炎症剤類、非ステロイド性抗炎症剤類、鎮痛剤類、細胞類、抗生物質類、抗菌剤類、抗炎症剤類、増殖因子類、増殖因子断片類、小分子創傷治癒作用薬類、ホルモン類、サイトカイン類、ペプチド類、抗体類、酵素類、単離細胞類、血小板類、免疫抑制剤類、核酸類、細胞タイプ類、ウイルス類、ウイルス粒子類、必須栄養素類、ミネラル類、金属類、又はビタミン類、及びこれらの組み合わせを挙げることができる。加えて、処方物又は組成物は、水、食塩水又は緩衝剤等の希釈剤を含んでもよい。
【0011】
代表的な実施形態では、処方物又は組成物は、トコフェロール、トコフェロール誘導体、マンニトール、グルコース、スクロース及びトレハロース等の少なくとも1つの安定剤又は安定化賦形剤を含む。安定剤は、約0.1〜70重量%、約0.1〜50重量%、約0.1〜20重量%、又は約0.5〜20重量%の範囲内で存在してもよい。代替的に、賦形剤は、約1mg/mL〜約700mg/mL、より好ましくは約1mg/mL〜約500mg/mLの範囲内、より好ましくは約1mg/mL〜約200mg/mLの範囲内、より好ましくは約5mg/mL〜約200mg/mLの範囲内の濃度で存在してもよい。
【0012】
別の態様では、処方物又は組成物は、コンドロイチン硫酸(「CS」)、デルマタン硫酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸、及びケラタン硫酸のようなGAG類を含むグリコサミノグリカン(GAG)、又はグルコサミン(「GlcN」)等のGAG前駆体等の少なくとも1つの追加の構成成分を含む。一実施形態において、GAG又はGAG前駆体は、少なくとも約0.1mg/mL、より好ましくは少なくとも約2mg/mL、より好ましくは少なくとも約5mg/mL、より好ましくは少なくとも約7mg/mL、より好ましくは少なくとも約20mg/mLの濃度で組成物中に存在してもよい。別の実施形態では、GAG類は、様々な分子量を有してもよいが、所定の代表的な実施形態では、分子量は、約5〜1,000kDa、より好ましくは約6〜500kDaの範囲内、より好ましくは約7〜300kDaの範囲内、より好ましくは約8〜200kDaの範囲内、より好ましくは約9〜100kDaの範囲内、及び最も好ましくは約10〜80kDaの範囲内である。別の実施形態では、GAG断片の分子量は、約5kDa未満、より好ましくは約3kDa未満でさえあってもよい。別の実施形態では、GAG前駆体は、約180Daの分子量を有してもよい。別の実施形態では、GAG前駆体は、少なくとも約100Daの分子量を有してもよい。代表的な実施形態では、GAG前駆体は、約100Da〜約250Daの範囲内の分子量を有してもよい。
【0013】
更に、処方物又は組成物は、HAと安定剤の重量比が約1:0.001〜約1:100の範囲内、より好ましくは約1:0.0125〜約1:10、約1:0.00125〜約1:100の範囲内の比、より好ましくは約1:0.01〜約1:10の範囲内の比であってよい。代替的に、処方物又は組成物は、約1重量%〜約75重量%又はそれ以上の個々の構成成分、例えばHA及び安定剤のそれぞれを含んでもよい。
【0014】
もう1つの態様は、キット及びキットの使用方法を含んでもよい。キットは、高分子量ヒアルロン酸(HA)の溶液と、少なくとも1つの安定剤とを含んでもよい。キットは、室温で保管することができる。加えて、キットは、単一チャンバ内にHA溶液及び安定剤を収容する注射器を含んでもよい。別の態様は、HA溶液及び安定剤を有する単一チャンバと、GAG又はGAG前駆体等の追加の構成成分を有する別個のチャンバとを含んでもよい。例えば、グリコサミノグリカン(GAG)は、キット内で、HA/安定剤溶液とは別個のチャンバ内に存在してもよい。追加の構成成分は、液体、固体又は凍結乾燥形態で存在してもよい。キットは更に、水、食塩水及び緩衝剤等の希釈剤を含んで、構成成分の1つ、追加の構成成分を可溶化してもよい。
【0015】
追加の態様において、高分子量ヒアルロン酸を含む液体処方物を、必要とする対象に投与する工程を含む、関節の処置方法が開示される。方法は、安定剤の存在下の高分子量ヒアルロン酸を含んでもよい。加えて、高分子量ヒアルロン酸は、投与前に、室温で液体処方物にて保管することができる。方法は、キット内に存在するHA溶液、又は高分子量HAの処方物若しくは組成物中に存在するHA溶液を投与することも含み得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
本明細書に含まれる添付の図面は、上記に引用した特徴、利点及び目的が明かとなり、詳細に理解できるように、本明細書に含まれている。これらの図面は、明細書の一部を形成する。しかしながら、留意すべきは、添付の図面が代替的な実施形態を図示し、本発明の範囲を限定するものと見なされるべきではないということである。
【図1】本発明の組成物及び方法により使用される混合及び送達システムの一実施形態の概略図。
【図2】本発明の組成物及び方法により使用される混合及び送達システムの別の実施形態の斜視図。
【図3】5℃及び40℃/75% RHで5ヶ月保管したHA及びCSの食塩水溶液中にある際の、サイズ排除クロマトグラフィー−高速液体クロマトグラフィー(SEC−HPLC)により測定されたHAの分解を示す。
【図4】SEC−HPLCにより測定された、5℃及び40℃/75% RHで5ヶ月保管したCSを有する溶液中にある際に、トレハロースがHAに対して有する安定化効果を示す。
【図5】トレハロースの関節内注入を受けたラット内側半月板断裂(MMT)モデルにおける軟骨病変の幅を、処置を受けなかったものと比較するグラフ。
【図6】トレハロースの関節内注入を受けたラットMMTモデルにおける軟骨病変の深さの比を、処置を受けなかったものと比較するグラフ。
【図7】トレハローストレハロースの関節内注入を受けたラットMMTモデルにおけるコラーゲン分解を、処置を受けなかったものと比較するグラフ。
【図8】トレハロースが内側脛骨プラトーの軟骨変性に対して有した効果を示す。
【図9】トレハロースが変形性関節症のウサギ前十字靭帯離断(ACLT)モデルの軟骨分解に対して有した効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
一般に、本発明は、変形性関節症及び/又はそれに関連した疼痛等の関節症状を処置するための組成物及び方法を提供する。組成物及び方法は、第1の構成成分、即ち高分子量ヒアルロン酸(「HA」)を、単独で、又は保存期限を延長するための安定剤と組み合わせたような追加の構成成分との組み合わせで使用する。代表的な実施形態では、組成物は、HAと、存在する場合のGAG又はGAG前駆体とを安定化するための安定剤、又は安定化賦形剤を含有する。
【0018】
ヒアルロン酸
ヒアルロン酸(HA)は、様々な処方を有してもよく、様々な濃度及び分子量で提供されてもよい。用語「ヒアルロン酸」、「ヒアルロナン」、「ヒアルロネート」及び「HA」は、本明細書にて交換可能に使用されて、ヒアルロン酸、又は、中でもナトリウム、カリウム、マグネシウム及びカルシウム塩等のヒアルロン酸の塩を指す。これらの用語は、純粋なヒアルロン酸溶液のみでなく、他の微量要素を有するヒアルロン酸、又は他の要素を有する様々な組成物中のヒアルロン酸も含むことを意図する。用語「ヒアルロン酸」、「ヒアルロナン」及び「HA」は、HAの化学的誘導体、又は高分子誘導体、又は架橋誘導体を包含する。HAに為され得る化学的修飾の例は、HAの4つの反応性基、即ちアセトアミド、カルボキシル、ヒドロキシル及び還元末端と作用剤との任意の反応を含む。本願で使用されるHAは、(動物組織から単離された)天然物処方、又は(細菌発酵から誘導された)合成物処方、又はこれらの組み合わせを含むことを意図する。HAは、液体形態又は固体処方物にて提供されてもよく、希釈剤と共に再構成されて適切な濃度を達成する。
【0019】
HAは、グリコサミノグリカン(GAG)、特に交互のグルクロン酸及びN−アセチルグルコサミン単位から形成されている非分岐多糖である。液体形態において、HAは、粘弾特性を有する。HAは、アグリカンの重要な構造的構成成分として、プロテオグリカン複合体を形成している軟骨の細胞外マトリックス中にも見出される。プロテオグリカン複合体の主な機能は、軟骨マトリックス中に水を維持して、その特有の膨れ及び機械的弾性を付与することである。
【0020】
HAは、関節の衝撃を和らげる軟骨の健康な機械的特性の維持を助けることのみでなく、滑液の主要な構成成分でもある。
【0021】
HA異常は、結合組織疾患における共通の特徴(common thread)である。したがって、HAは、結合組織疾患を予防し、又は処置し、又は結合組織の外科修復を補助するのに使用することができる。
【0022】
HAは、様々な分子量で本発明の組成物及び方法に使用することができる。HAは高分子であるため、HA構成成分は様々な分子量を有してもよく、低分子量(「LWM」)ヒアルロナン(約500〜700キロダルトン(kDa))、中分子量(「MMW」)ヒアルロナン(700〜1000kDa)及び高分子量(「HMW」)ヒアルロナン(1.0〜6.0千万ダルトン(MDa))を含むHAの殆ど全ての平均的モーダル分子量の処方物も、本発明の組成物及び方法に使用することができる。所定の代表的な実施形態では、HAは、少なくとも約700kDaの分子量を有し、所定の実施形態では、HAは、少なくとも約1MDaの分子量を有する高分子量(「HWM」)HAである。分子量は、例えば500、600、700、800、900、1000、1100、1200、1300、1400、1500、1600、1700、1800、1900、2000、2100、2200、2300、2400、2500、2600、2700、2800、2900、3000、3100、3200、3300、3400、3500、3600、3700、3800、3900、4000、4100、4200、4300、4400、4500、4600、4700、4800、4900、5000、5100、5200、5300、5400、5500、5600、5700、5800、5900、6000kDa又はそれ以上、又はこれらの中から引き出される任意の範囲であってもよい。化学的に修飾されたHAの分子量は、上述したものとは非常に異なる分子量を有し得ることが予想される。架橋HAは同様に、上記したよりも遙かに高い分子量を有し得る。にも係わらず、これらの材料も、本発明に適用可能である。
【0023】
HAは、固体、凍結乾燥又は液体形態で存在することができる。液体形態にある場合、溶媒を使用してHAを可溶化してもよい。溶媒は、水、食塩水又は他の塩溶液、例えばリン酸緩衝食塩水等の緩衝液、ヒスチジン、ラクテート、スクシネート、グリシン、及びグルタメート、デキストロース、グリセロール、並びにこれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない。
【0024】
処方物中に存在するHAの濃度も変動し得るが、代表的な実施形態では、HAは薬学的に有効な量で提供される。一実施形態において、HAは、少なくとも約1mg/mLの濃度を有する。代表的な実施形態では、HAは、少なくとも約5mg/mL、より好ましくは少なくとも約7mg/mL、より好ましくは少なくとも約10mg/mL、より好ましくは少なくとも約15mg/mLの濃度を有し、いくつかの実施形態では、濃度は少なくとも約25mg/mLであってもよい。別の実施形態では、HAは約15mg/mL〜約25mg/mLの範囲内の濃度を有してもよい。HAの好適な濃度としては、約1mg/mL、2mg/mL、3mg/mL、4mg/mL、5mg/mL、6mg/mL、7mg/mL、8mg/mL、9mg/mL、10mg/mL、11mg/mg、12mg/mL、13mg/mL、14mg/mL、15mg/mL、16mg/mL、17mg/mL、18mg/mL、19mg/mL、20mg/mL、21mg/mL、22mg/mL、23mg/mL、24mg/mL、25mg/mL、26mg/mL、27mg/mL、28mg/mL、29mg/mL、30mg/mL、31mg/mL、32mg/mL、33mg/mL、34mg/mL、35mg/mL、36mg/mL、37mg/mL、38mg/mL、39mg/mL、40mg/mL、41mg/mL、42mg/mL、43mg/mL、44mg/mL、45mg/mL、46mg/mL、47mg/mL、48mg/mL、49mg/mL、50mg/mL、51mg/mL、52mg/mL、53mg/mL、54mg/mL、55mg/mL、56mg/mL、57mg/mL、58mg/mL、59mg/mL、60mg/mL又はそれ以上、又はこれらの中から引き出される任意の範囲が挙げられる。
【0025】
一実施形態において、第1の構成成分は、約5〜40mg/mLの範囲内の濃度を有する、高分子量(1〜6MDa)を有するHAを含む。そのような製品の1つは、Anika Therapeutics,Inc.of Bedford,MA.製のオルトビスク(Orthovisc)(登録商標)である。オルトビスク(登録商標)は、ヒアルロナンの無菌かつ非発熱性の透明な粘弾性溶液である。オルトビスク(登録商標)は、生理食塩水中に溶解された高分子量(1.0〜2.9MDa)、超高純度天然ヒアルロナンからなり、12.5〜17.5mg/mLの公称濃度を有する。オルトビスク(登録商標)は、細菌発酵により単離される。当業者は、高分子量HAを細菌発酵プロセスにより製造できる資生堂及びライフコア(Lifecore)等の会社が存在することを認識するであろう。これらの特徴を有する、米国内で入手可能なHA製品の他の例は、ユーフレクサ(Euflexxa)(登録商標)である。
【0026】
安定剤
HAは、少なくとも1つの安定剤と組み合わされてもよい。安定剤は、本発明の方法及び組成物において使用することができる。安定剤は、例えば単糖類、二糖類、修飾された単糖類、糖アルコール類又は多糖類等の糖類又は誘導体類であってもよい。代表的な実施形態では、安定剤は、トコフェロール、トコフェロール誘導体類、グルコース、マンニトール、スクロース及び/又はトレハロースであってもよい。
【0027】
医薬品産業界で使用されている通常の安定剤又は安定化賦形剤は、単糖類、二糖類、修飾された単糖類、糖アルコール類及び多糖類である。これらの分子のいくつかは、薬物が経口送達用の錠剤形態である場合、甘味剤としての役割も果たすことができるため、賦形剤として通常使用されている。米国特許第7,351,798号によれば、ヒアルロン酸及びグリコサミノグリカン類も賦形剤であり得る。これらの多糖類は、長い間、安定な分子であると考えられてきた。実際、米国で市販の全てのHA材料は、室温で保管されている。これらのHA製品のいくつかは、緩衝液中又は食塩水溶液中に存在するが、いずれも任意の他の賦形剤を含まない。これらのHA製品は、米国内で関節内補充療法(viscosupplementation)デバイスとして認可されており、関節内に注入されて変形性関節症から生じる疼痛を軽減する。加えて、ビスコート(Viscoat)(Alconにより販売)と称される、市場に出回っている製品は、緩衝液中にヒアルロン酸及びコンドロイチン硫酸を組み込んでおり、かつ他の賦形剤を含まない処方物である。この製品は、眼科手術において、眼内レンズの移植中に使用される。HAを室温で保管すると、特に例えばコンドロイチン硫酸等の他の構成成分の存在下で安定性を序々に失い、より低い分子量に分解するため、ビスコートには冷蔵保管の必要条件があることが知られている。
【0028】
トコフェロールは、モノ、ジ及びトリメチルトコール類を包含する化学成分のクラスに属する。トコフェロール類の多くは、ビタミンE活性を示す。β、γ及びδは、α−トコフェロールの立体異性体である。トコフェロールのエステル類は、多くの場合、化粧品及びパーソナルケア製品に使用されている。このエステル類としては、酢酸トコフェロール、トコフェロールの酢酸エステル;リノール酸トコフェロール、トコフェロールのリノール酸エステル;リノール酸/オレイン酸トコフェロール、トコフェロールのリノール酸及びオレイン酸エステルの混合物;ニコチン酸トコフェロール、トコフェロールのニコチン酸エステル;及びコハク酸トコフェロール、トコフェロールのコハク酸エステルが挙げられる。トコフェロールアスコルビン酸リン酸ジエステルのカリウム塩(potassium ascorbyl tocopheryl phosphate)、ビタミンE(トコフェロール)及びビタミンC(アスコルビン酸)の両方の塩も、化粧品製品に使用することができる。
【0029】
化粧品製品に見出すことができる他のトコフェロール由来成分としては、酢酸トコフェロールモノエステルとメチルシラントリオールとのジオレイルエーテルであるジオレイルトコフェリルメチルシラノール、及びトコフェリルポリエチレングリコール1000スクシナート(tocopheryl polyethylene glycol 1000 succinate)とも称されるトコフェルソランが挙げられる。トコフェリルに対するコハク酸及び平均22のエチレンオキシド基の追加は、トコフェルソランをトコフェロールの水溶性形態とする。
【0030】
マンニトールもまた、その低い吸湿性、卓越した化学的及び物理的薬物適合性、より良好な甘味、並びに比較的遅い溶解反応速度に起因して代表的な安定剤である。マンニトールはまた、比較的低い水溶性及び良好な分散性を有し、多くの場合、他の賦形剤に欠けている処方物安定性の向上に使用されている。マンニトールは、錠剤、カプセル剤、サチェット剤、トローチ剤、液剤、乳剤、懸濁剤、軟膏、ペースト剤、ローション剤及び静脈内溶液を含むが、これらに限定されない多様な投与形態にて使用することができる。
【0031】
マンニトールはまた、凍結乾燥用のマトリックス形成添加剤としての役割を果たす。マンニトールは、10% w/vまでの濃度で使用された際、無定形(非結晶)マトリックスを形成し、そのマトリックスは凍結乾燥に向けてタンパク質及び他の生体分子を支持する。マンニトールは、一般に不活性であり、凍結乾燥された後、急速に再水和する。凍結されている間のその無定形構造は、マンニトールがタンパク質を破壊することを防止する一方、加工中の水昇華のためのチャネルを提供する。
【0032】
マンニトールと同様、スクロースもその甘味及び嗜好性に起因して、経口送達用の錠剤形態で広く使用されている。スクロースは、凍結保護剤(lyoprotectant)として広く使用されている非還元二糖(そのアノマー炭素によりフルクトースに結合されているグルコース)である。
【0033】
トレハロース(α−D−グルコピラノシルα−D−グルコピラノシド)、その抗酸化特性で知られる二糖は、グルコースから構成された非還元単糖として知られている。Academic Press,USA出版のAdvances in Carbohydrate Chemistry,Vol.18,pp.201〜225(1963)、及びApplied and Environmental Microbiology,Vol.56,pp.3,213〜3,215(1990)に記載されているように、トレハロースは微生物、キノコ、昆虫等に広く存在するが、その含有率は比較的低い。トレハロースは非還元単糖であるため、アミノ酸及びタンパク質等のアミノ基を含む物質と反応せず、アミノ−カルボニル反応を誘導せず、アミノ酸含有物質を劣化させない。かくして、トレハロースは、褐色化及び劣化の不具合を起こす心配なしに使用することができる。
【0034】
トレハロースはまた、炎症性カスケードを阻害することによりサイトカイン産生を抑制することができる。(Minutoli,et al,SHOCK,Vol.27,No.1,pp.91〜96,2007;及びChen Q,Haddad GG:Role of trehalose phosphate synthase and trehalose during hypoxia:from flies to mammals.J Exp Biol 207:3125〜3129,2004。)トレハロースは、生体分子を環境ストレスから保護することが可能な独特の糖であり、次に酸化障害及びサイトカイン産生をもたらす炎症性カスケードを阻害する。トレハロースは、例えば熱ショック、脱水及び低酸素等の様々な環境ストレスに対する暴露中に細胞生存能を保存することが示されている。
【0035】
トレハロースはまた、強力な抗酸化剤及び甘味剤であるため通常の食品添加物であり、医薬調製品中の安定化剤として使用されることが多い。トレハロースは、スクロースのように、タンパク質及び他の生体分子の凍結乾燥のための有効な凍結保護剤として作用することができる非還元二糖(アノマー炭素により結合された2つのグルコース分子)である。凍結乾燥プロセス中、タンパク質は、タンパク質の構造を支持する代替分子が利用できない限り、水が除去されるにつれて変性し得る。トレハロースは、存在する水により残された間隙を満たし、この変性を防止する。トレハロースは、2%もの低い濃度で使用された際に、タンパク質及び他の生体分子を有効に保護することができる。
【0036】
トレハロースの有用な形態には、結晶であるトレハロース二水和物(TD)、ガラス質形態である無定形トレハロース(AT)、及びトレハロースの無水物形態の、無定形トレハロース(AAT)無水物並びに結晶トレハロース無水物(ACT)を挙げることができる。粉末化トレハロース無水物は、AAT及び/又はACTを含んでもよい。本明細書で使用される用語「トレハロース」は、その無水物、一部水和物、完全水和物、並びにそれらの混合物及び溶液を含む、トレハロースの任意の物理的形態を指す。TDからのトレハロース無水物の製造及び使用は、その開示が参照により本明細書に組み込まれる国際公開第PCT/GB97/00367号に見出すことができる。
【0037】
処方物又は組成物にトレハロースを添加することは、高分子量HAの安定化、及び炎症性カスケードの損傷防止に役立つことができる。トレハロースは、液体、固体、凍結乾燥体又は結晶形態で存在することができる。液体形態で存在する場合、トレハロースは緩衝液中に存在してもよい。トレハロースを可溶化するのに使用され得る溶媒には、水、食塩水又は他の塩溶液、例えばリン酸緩衝食塩水等の緩衝液、ヒスチジン、ラクテート、スクシネート、グリシン、及びグルタメート、デキストロース、グリセロール、並びにこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。特に、トレハロースは、溶液としてHA処方物中に存在し得る。
【0038】
HA処方物中に少なくとも1つの安定剤が存在してもよい。安定剤を可溶化するのに使用され得る溶媒には、水、食塩水又は他の塩溶液、例えばリン酸緩衝食塩水等の緩衝液、ヒスチジン、ラクテート、スクシネート、グリシン、及びグルタメート、デキストロース、グリセロール、並びにこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。特に、安定剤は、溶液としてHA処方物中に存在し得る。
【0039】
HA処方物中に存在する少なくとも1つの安定剤の濃度は変動し得るが、代表的な実施形態では、少なくとも1つの賦形剤は薬学的に有効な量で提供される。代表的な実施形態では、少なくとも1つの安定剤は、少なくとも約1mg/mL、より好ましくは少なくとも約5mg/mL、より好ましくは少なくとも約50mg/mL、より好ましくは少なくとも約100mg/mLの濃度を有し、いくつかの実施形態では濃度は、少なくとも約200mg/mLであってもよい。少なくとも1つの安定剤の好適な濃度としては、約0.1mg/mL、0.2mg/mL、0.3mg/mL、0.4mg/mL、0.5mg/mL、0.6mg/mL、0.7mg/mL、0.8mg/mL、0.9mg/mL、1mg/mL、2mg/mL、3mg/mL、4mg/mL、5mg/mL、6mg/mL、7mg/mL、8mg/mL、9mg/mL、10mg/mL、11mg/mg、12mg/mL、13mg/mL、14mg/mL、15mg/mL、16mg/mL、17mg/mL、18mg/mL、19mg/mL、20mg/mL、21mg/mL、22mg/mL、23mg/mL、24mg/mL、25mg/mL、26mg/mL、27mg/mL、28mg/mL、29mg/mL、30mg/mL、31mg/mL、32mg/mL、33mg/mL、34mg/mL、35mg/mL、36mg/mL、37mg/mL、38mg/mL、39mg/mL、40mg/mL、41mg/mL、42mg/mL、43mg/mL、44mg/mL、45mg/mL、46mg/mL、47mg/mL、48mg/mL、49mg/mL、50mg/mL、51mg/mL、52mg/mL、53mg/mL、54mg/mL、55mg/mL、56mg/mL、57mg/mL、58mg/mL、59mg/mL、60mg/mL、70mg/mL、80mg/mL、90mg/mL、100mg/mL、110mg/mL、120mg/mL、130mg/mL、140mg/mL、150mg/mL、160mg/mL、160mg/mL、170mg/mL、180mg/mL、190mg/mL、200mg/mL、300mg/mL、400mg/mL、500mg/mL、600mg/mL又はそれ以上、又はこれらの中から引き出される任意の範囲を挙げることができる。安定剤はまた、約0.1〜60重量%;約0.1〜50重量%、約0.1〜45重量%;又は約0.1〜20重量%の範囲内の濃度にあってもよい。少なくとも1つの賦形剤の他の好適な濃度としては、約0.1%、0.5%、1%、2.5%、5%、6%、7%、8%、9%10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、又は約60重量%を挙げることができる。
【0040】
追加の構成成分
代表的な実施形態では、少なくとも1つの追加の構成成分を、HA処方物又は組成物と組み合わせることもできる。追加の構成成分は、凍結乾燥グリコサミノグリカン(GAG)又はGAG前駆体であってもよい。用語「グリコサミノグリカン」又は「GAG」は交換可能に、典型的にはヘパリン、ヘパリン硫酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸、ケラタン硫酸、デルマタン硫酸、及びこれらのそれぞれの誘導体を含む硫酸ムコ多糖類のファミリーを指す。
【0041】
グリコサミノグリカン類(GAG類)は、繰り返し二糖単位を含む長い非分岐多糖類である。二糖単位は、2つの修飾糖類、N−アセチルガラクトサミン(GalNAc)又はN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)のいずれかと、グルクロン酸又はイズロン酸等のウロン酸を含有する。GAG類は、高度に負に帯電した分子であり、混合物に高い粘度を付与する延長された立体構造を有する。GAG類は、主として、細胞表面上に、又は細胞外マトリックス(ECM)中に位置している。GAG類の高い粘度と共に低い圧縮率がもたらされ、これは、これらの分子を関節内の潤滑流体に理想的なものとする。かくして、GAG類は、炎症性プロセスの遅延に役立つことができる。同時に、それらの硬さが細胞に構造的一体性を提供し、細胞間に通路を提供して、細胞遊走を可能にする。加えて、CS等のGAGは滑液中に見出されており、関節の健康に役割を有する可能性がある。したがって、HAと同時にCSを送達できる治療法を有することが有利であり得る。CSは、HAの効力を向上できると考えられる。しかしながら、HAは、CSの存在下で、時間とともに分解し得ることが観察されている。したがって、この分解を防ぐために、HAは使用時まで冷蔵される必要がある。しかしながら、殆どの診療所及び病院は、これらのタイプの製品を冷蔵庫内に保管する収容能力を有さず、したがって安定で、室温で保管可能な、HAとGAGとを組み合わせた製品を提供することが有益であろう。
【0042】
GAG類は様々な分子量を有してもよいが、所定の代表的な実施形態では、分子量は、約5〜1,000kDaの範囲内、より好ましくは約6〜500kDaの範囲内、より好ましくは約7〜300kDaの範囲内、より好ましくは約8〜200kDaの範囲内、より好ましくは約9〜100kDaの範囲内、最も好ましくは約10〜80kDaの範囲内である。別の実施形態では、GAG断片の分子量は、約5kDa未満、より好ましくは約3kDa未満でさえもある。
【0043】
混合物中に存在するGAG類の濃度も変動し得るが、代表的な実施形態では、GAGは薬学的に有効な量で提供される。代表的な実施形態では、GAGは、少なくとも約0.1mg/mL、より好ましくは少なくとも約2mg/mL、より好ましくは少なくとも約5mg/mL、より好ましくは少なくとも約7mg/mL、より好ましくは少なくとも約20mg/mLの濃度を有する。別の実施形態では、GAG又はGAG前駆体は、約0.1mg/mL〜約20mg/mLの範囲内の濃度で、組成物に存在してもよい。GAG類の好適な濃度としては、約0.1mg/mL、0.2mg/mL、0.3mg/mL、0.4mg/mL、0.5mg/mL、0.6mg/mL、0.7mg/mL、0.8mg/mL、0.9mg/mL、1mg/mL、2mg/mL、3mg/mL、4mg/mL、5mg/mL、6mg/mL、7mg/mL、8mg/mL、9mg/mL、10mg/mL、11mg/mg、12mg/mL、13mg/mL、14mg/mL、15mg/mL、16mg/mL、17mg/mL、18mg/mL、19mg/mL、20mg/mL、21mg/mL、22mg/mL、23mg/mL、24mg/mL、25mg/mL、26mg/mL、27mg/mL、28mg/mL、29mg/mL、30mg/mL、31mg/mL、32mg/mL、33mg/mL、34mg/mL、35mg/mL、36mg/mL、37mg/mL、38mg/mL、39mg/mL、40mg/mL、41mg/mL、42mg/mL、43mg/mL、44mg/mL、45mg/mL、46mg/mL、47mg/mL、48mg/mL、49mg/mL、50mg/mL、51mg/mL、52mg/mL、53mg/mL、54mg/mL、55mg/mL、56mg/mL、57mg/mL、58mg/mL、59mg/mL、60mg/mL又はそれ以上、又はこれらの中から引き出される任意の範囲が挙げられる。
【0044】
軟骨の必須構成成分であるコンドロイチン硫酸(CS)は、交互に並ぶβ(1,3)及びβ(1,4)結合を介して結合されている硫酸化及び/又は非硫酸化D−グルクロン酸(GlcA)及びN−アセチル−D−ガラクトサミン(GalNAc)残基の交互に並ぶ配列から構成されている。これらの化合物のそれぞれは、主に約40〜100回の二糖単位の反復からなる高分子構造を有する。CSは、GAG構成成分に関連して上記に論じたように、様々な分子量及び濃度で使用できるが、代表的な実施形態では、CSは約10,000〜80,000kDaの範囲内の分子量と約0.1〜100mg/mLの範囲内の濃度とを有する。CSは、ウシ又は海産物源から単離することができる。コンドロイチン鎖は、100を越える個々の糖類を有してもよく、前記糖類のそれぞれは、可変の位置及び量において硫酸化されてもよい。コンドロイチン−4硫酸、またN−アセチルガラクトサミン(GalNAc)糖の炭素4位の硫酸化物(carbon 4)は、ウシ及びブタの鼻及び気管軟骨中に見出される。これは動物の骨、肉、血液、皮膚、臍帯及び尿中にも見出される。コンドロイチン−6硫酸、またGalNAc糖の炭素6位の硫酸化物(carbon 6)は、これらの動物の皮膚、臍帯及び心臓弁から単離されている。コンドロイチン−6硫酸は、コンドロイチン−4硫酸と同一の組成を有するが、物理的特性が僅かに異なっている。コンドロイチン硫酸はコラーゲンの結合に関与し、また水分の維持に直接関与している。これらの両方は、治癒プロセスを補助する。当業者は用語「コンドロイチン硫酸(sulfate)」「CS」「コンドロイチン」「コンドロイチン硫酸(sulfuric acid)」及び「コンスリド(chonsurid)」が本明細書で交換可能に使用され、また本明細書を通して、化学的誘導体、又は異性体、又は架橋誘導体も包含することを認識するであろう。
【0045】
コンドロイチン硫酸Bとも称されるデルマタン硫酸(DS)は、主にβ1,4又は1,3結合により連結された、L−イズロン酸及びN−アセチル−D−ガラクトサミンの二硫酸化及び/又は三硫酸化二糖単位から形成されているが、反復単位のいくつかがウロン酸として硫酸化L−イズロン酸又はD−グルクロン酸を含み、又はN−アセチルガラクトサミン−4硫酸の代わりに非硫酸化N−アセチルガラクトサミン又は4,6−二硫酸化N−アセチルガラクトサミンを含む場合がある。DSは、GalNAcの存在によってコンドロイチン硫酸として定義される。DS中のイズロン酸(IdoA)の存在は、DSをコンドロイチン硫酸−A(4−O−硫酸)及び−C(6−O−硫酸)から区別し、同様にこの残基を含むヘパリン及びHSと類似したものとする。デルマタン硫酸は、経口的に摂取した際、身体により吸収されると考えられる。DSの分子量及び濃度は、GAG構成成分に関連して上記に論じたように変動し得るが、代表的な実施形態では、分子量は約10〜80kDaの範囲内であり、濃度は約0.1〜100mg/mLの範囲内である。当業者は、細菌発酵物であるため制御可能な分子量を有するHAとは異なり、デルマタン硫酸は動物組織から単離され、断片を含み得ることを認識するであろう。したがって、デルマタン硫酸、及びデルマタン硫酸に含まれる任意の断片の分子量は、顕著に変動し得る。当業者はまた、用語「デルマタン硫酸」「DS」及び「デルマタン」が、本明細書で交換可能に使用され、デルマタン硫酸の硫酸誘導体、デルマタン硫酸ベンゼトニウム塩、デルマタン硫酸ベンゼトニウム塩の過硫酸誘導体、及びまたデルマタン硫酸ナトリウム塩も含むことも認識するであろう。
【0046】
ヘパリン及びヘパラン硫酸(HS)は、N−アセチルグルコサミンに結合したグルクロン酸(GlcA)から構成されている。それらは、ウロン酸及びアミノ糖を含むα1−4結合二糖反復単位から構成されている。ヘパラン硫酸プロテオグリカンは、基底膜の一体化部分である。HSプロテオグリカンは、ヘパラン硫酸鎖に共有結合したコアタンパク質から構成される、400kDaもの分子量を有する大きい生体分子である。多糖鎖の数及びコアタンパク質のサイズは、供給源に従って変動し得る。ヘパラン硫酸プロテオグリカンは、糖部分を介して線維芽細胞増殖因子、血管内皮増殖因子(VEGF)及びVEGF受容体に結合する多官能性分子であり、マトリライシン(MMP−7)及び他のマトリックスメタロプロテアーゼのためのドッキング分子として作用し、細胞増殖及び分化に重要な役割を有する。ヘパラン硫酸プロテオグリカンはまた、ラミニン、フィブロネクチン、コラーゲンタイプIV及びFGF−塩基性を含む、細胞外マトリックス中に見出される多様な分子に結合することにより、細胞の付着を促進する。HSの分子量及び濃度は、GAG構成成分に関連して上記に論じたように変動し得るが、代表的な実施形態では、分子量は約3〜30kDaの範囲内であり(組織から単離された場合)、濃度は約0.1〜100mg/mLの範囲内である。
【0047】
ケラタン硫酸、またケラト硫酸(KS)は、高度に負に帯電され、主にアグレカン中に見出され、硝子質、繊維状及び弾性軟骨の細胞外マトリックス中の最も豊富なプロテオグリカンである。KSは二糖反復単位、−4GlcNAcβ1−3Galβ1−から構成されている。硫酸化は、ガラクトース(Gal)又はGlcNAcのいずれか又は両方の炭素6位(C6)に生じる。特定のKSタイプは、3つの領域から構成されている:一方の末端部においてKS鎖がコアタンパク質に結合している結合(alinkage)領域、反復二糖単位、及び、タンパク質結合領域の反対側のKS鎖の末端部に存在する鎖キャッピング領域。KSの分子量及び濃度は、GAG構成成分に関連して上記に論じたように変動し得るが、代表的な実施形態では、分子量は約5〜10kDaの範囲内であり(組織から単離された場合)、濃度は約1〜100mg/mLの範囲内である。
【0048】
混合物中に存在するGAG類又はGAG前駆体の濃度も変動し得るが、代表的な実施形態では、GAG又はGAG前駆体は、薬学的に有効な量にて提供される。代表的な実施形態では、GAG又はGAG前駆体は、少なくとも約0.1mg/mL、より好ましくは少なくとも約2mg/mL、より好ましくは少なくとも約5mg/mL、より好ましくは少なくとも約7mg/mL、より好ましくは少なくとも約20mg/mLの濃度を有する。別の実施形態では、GAG又はGAG前駆体は、約0.1mg/mL〜約20mg/mLの範囲内の濃度で、組成物に存在してもよい。GAG類又はGAG前駆体の好適な濃度としては、約5mg/mL、6mg/mL、7mg/mL、8mg/mL、9mg/mL、10mg/mL、11mg/mg、12mg/mL、13mg/mL、14mg/mL、15mg/mL、16mg/mL、17mg/mL、18mg/mL、19mg/mL、20mg/mL、21mg/mL、22mg/mL、23mg/mL、24mg/mL、25mg/mL、26mg/mL、27mg/mL、28mg/mL、29mg/mL、30mg/mL、31mg/mL、32mg/mL、33mg/mL、34mg/mL、35mg/mL、36mg/mL、37mg/mL、38mg/mL、39mg/mL、40mg/mL、41mg/mL、42mg/mL、43mg/mL、44mg/mL、45mg/mL、46mg/mL、47mg/mL、48mg/mL、49mg/mL、50mg/mL、51mg/mL、52mg/mL、53mg/mL、54mg/mL、55mg/mL、56mg/mL、57mg/mL、58mg/mL、59mg/mL、60mg/mL又はそれ以上、又はこれらの中から引き出される任意の範囲が挙げられる。
【0049】
当業者は、代表的な実施形態では、凍結乾燥GAG類又はGAG前駆体が特に有用である一方、液体GAG類又はGAG前駆体も組成物中で使用されてもよいことを認識するであろう。例えばCSは粉末形態で得られ、水等の溶媒と混合されて溶液を形成できる。この溶液を液体HAと組み合わせて、HA単独と比較して低い粘度を有する混合物を形成できる。HAの粘度の低下に有効である一方、得られた混合物は、水の存在により低い濃度を有するであろう。かくして、本発明により液体の非凍結乾燥GAG類を使用し得るが、代表的な実施形態では、GAGは凍結乾燥されて高濃度でのHAの使用を可能にする。
【0050】
グルコサミン(C13NO)(「GlcN」)若しくはその誘導体又は他のGAG前駆体も、HA処方物中に含まれて、ヒアルロナン及びプロテオグリカンの生成に必要な反応物を供給することにより、軟骨及び滑液の主要な構成成分の合成を向上させることができる。GlcNは、4つのヒドロキシル基と1つのアミノ基とを保有するアミノ糖であり、グリコシル化タンパク質及び脂質の生化学的合成における顕著な前駆体である。GlcNは、栄養及びエフェクター機能を有する、天然に存在する分子である。例えばGlcNは、幹細胞成長と適合性を有し、幹細胞の増殖及び間葉系幹細胞の分化を促進して、軟骨細胞を形成する。GlcNは、一般に、例えば軟骨成長及び発達のような組織の発達及び修復に役割を有し得る。GlcNは、OAの症候を治す栄養剤として使用され、また臨床試験において軟骨破壊を遅延させることが示されている。一実施形態において、GlcNは、CSと共に凍結乾燥されてもよい(can by)。グルコサミンの塩形態は、液体相中で限定された安定性を有し得る。加えて、GlcNのHCl塩は、一旦組み合わされたらpHを十分低下させてHAを分解する。そのため、構成成分の安定性を維持するために、GlcNを凍結乾燥形態にして、注入前にHAゲルで可溶化することが有利である。本明細書で使用される用語「グルコサミン」は、グルコサミン塩酸塩及びグルコサミン硫酸塩等のグルコサミン塩、並びにN−アセチルグルコサミン等の非塩形態を含む。
【0051】
GlcNの濃度は、変動してもよい。好適な局所濃度は、少なくとも約10mg/mL、約9mg/mL、約8mg/mL、約7mg/mL、約6mg/mL、5mg/mL、4.5mg/mL、4mg/mL、3.5mg/mL、3mg/mL、約2.9mg/mL、約2.8mg/mL、約2.7mg/mL、約2.6mg/mL、約2.5mg/mL、約2.4mg/mL、約2.3mg/mL、約2.2mg/mL、約2.1mg/mL、約2.0mg/mL、約1.9mg/mL、約1.8mg/mL、約1.7mg/mL、約1.6mg/mL、約1.5mg/mL、約1.4mg/mL、約1.3mg/mL、約1.2mg/mL、約1.1mg/mL、約1.0mg/mL、約0.9mg/mL、約0.8mg/mL、約0.7mg/mL、約0.6mg/mL、約0.5mg/mL等であってもよい。当業者は、薬剤学の分野で既知の方法を実行してGlcNの好適な局所濃度を決定することができ、その決定により、対象とするGlcN組成物の性質及び組成が管理されて、GlcNの所望の濃度が得られるであろう。
【0052】
緩衝剤もHA処方物に添加されて、pHを制御することができる。緩衝剤の例は、非限定的に以下の薬剤の任意の1つ又はそれ以上であってもよい。酢酸、炭酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、ホウ酸、クエン酸、グリシン、乳酸、リン酸、クエン酸カリウム、メタリン酸カリウム、リン酸二水素カリウム、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム溶液、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、TRIS及び炭酸ナトリウム。
【0053】
加えて、等張剤(isotonic agent)を添加して、HA処方物のイオン濃度及び/又は浸透圧を制御することができる。等張剤の例は、非限定的に以下の薬剤の任意の1つ又はそれ以上であってもよい。デキストロース、スクロース、トレハロース、グリセリン、マンニトール、塩化カリウム、塩化ナトリウム。
【0054】
当業者は、本発明の組成物及び方法が、例えばアミノ酸類、タンパク質類、単糖類、二糖類、多糖類、脂質類、核酸類、緩衝液類、界面活性剤、及びこれらの混合物を含む、様々な他の関節処置構成成分を含み得ることを認識するであろう。他の有用な構成成分としては、ステロイド類、抗炎症剤類、非ステロイド性抗炎症剤類、鎮痛剤類、細胞類、抗生物質類、抗菌剤類、抗炎症剤類、増殖因子類、増殖因子断片類、小分子創傷治癒刺激剤類、ホルモン類、サイトカイン類、ペプチド類、抗体類、酵素類、単離細胞類、血小板類、免疫抑制剤類、核酸類、細胞タイプ類、ウイルス類、ウイルス粒子類、必須栄養素類又はビタミン類、及びこれらの組み合わせを挙げることができる。
【0055】
凍結乾燥
本発明の組成物及び方法に存在する任意の1つ又はそれ以上の構成成分は、当技術分野にて既知の様々な技術を用いて凍結乾燥することができる。凍結乾燥は、典型的には腐敗しやすい材料の保存に使用される脱水プロセスであり、材料を凍結した後、周囲圧力を低下させ、十分な熱を加えて材料中の凍結水を固相から気相に直接昇華させることにより機能する。当技術分野にて既知の標準的な凍結乾燥技術を用いて、任意の1つ又はそれ以上の構成成分を凍結乾燥することができる。代表的な実施形態では、HAは凍結乾燥される。
【0056】
凍結乾燥前に、様々な溶媒を使用して、凍結乾燥される構成成分を含有する水溶液混合物を形成してもよい。代表的な実施形態では、水溶液混合物は、水を1つ又はそれ以上の構成成分と組み合わせることにより調製される。代表的な実施形態では、凍結乾燥前に、組成物は例えば0.2μmフィルターを用いて濾過滅菌される。
【0057】
一実施形態において、構成成分は、以下のサイクルにより凍結乾燥されてもよい。
凍結:周囲温度から15分間で5℃へ
5℃で100分間保つ
50分間で−45℃へ
−45℃で180分間保つ
第1の乾燥:圧力を6.7Pa(50mTorr)にセットする
175分間で−15℃まで加温(shelf up)する
−15℃で2300分間保つ
第2の乾燥:圧力を10.0Pa(75mTorr)にセットする
200分間で25℃まで加温(shelf up)する
900分間保つ
サイクル終了:〜9.7Pa(〜730Torr)まで、窒素を充填(backfill)する
蓋をかぶせ、圧着させる
【0058】
温度、時間及び設定の変動は、当業者が用いる実施技法に従って行われてもよい。この変動には、凍結サイクルの循環温度、乾燥温度、及び終了サイクルを挙げることができるが、これらに限定されない。この変動は、凍結、乾燥、及び蓋をかぶせ/圧着させるサイクルの保持時間における差異も含み得る。この変動は、乾燥サイクル及び蓋をかぶせ/圧着させるサイクルの設定圧力における差異も含み得る。加えて、乾燥サイクルの数は、使用される機械又は凍結乾燥される構成成分に応じて増加又は減少されてもよい。
【0059】
緩衝剤の添加により、凍結乾燥HA処方物中のタンパク質の、改善された可溶性及び安定性を提供することができる。当技術分野にて既知の生体適合性緩衝剤、例えば、グリシン;酢酸のナトリウム、カリウム又はカルシウム塩;クエン酸のナトリウム、カリウム又はカルシウム塩;乳酸のナトリウム、カリウム又はカルシウム塩;一塩基リン酸塩、二塩基リン酸塩、三塩基リン酸塩を含む、リン酸のナトリウム又はカリウム塩、及びこれらの混合物等を使用することができる。加えて、緩衝剤は、組成物に添加される、増量剤として機能する糖を有してもよい。pHは、好ましくはpH5〜pH10、より好ましくはpH 6〜8で調整され得る。
【0060】
処方物
一実施形態において、HAと、賦形剤等の少なくとも1つの追加の構成成分とは、接合関節(articulating joint)に関与する外科手技の一部として、外科手技の直前、最中又は直後のいずれかに、組み合わされて関節内に投与されるよう構成されてもよい。或は、HA及び少なくとも1つの追加の構成成分は、予め組み合わされ、外科手技の時点での組み合わせ処方物として存在してもよい。他の構成成分は、組み合わされた際に、それぞれの構成成分が様々な量で組成物中に存在し、結果として得られる組成物又は混合物を形成してもよい。組成物中の各構成成分の量は変動し得るが、代表的な実施形態では、HAと、賦形剤等の少なくとも1つの追加の構成成分との混合比が、約1:0.001〜約1:100の範囲内、より好ましくは約1:0.01〜約1:10の範囲内の比の、HAと追加の構成成分との重量比を有してもよい。別法として、処方物は、全組成物中、約1重量%〜約75重量%又はそれ以上の、HA及び少なくとも1つの追加の構成成分(例えば賦形剤)等のそれぞれの個別の構成成分、或は、全処方物中、約2.5重量%、5重量%、10重量%、20重量%、30重量%、40重量%、50重量%、60重量%、70重量%又はそれ以上のHA及び賦形剤等の少なくとも1つの追加の構成成分を含んでもよい。代表的な実施形態では、開示した処方物中に存在するHAの量は、全処方物の約1〜20重量%であってもよく、賦形剤等の少なくとも1つの追加の構成成分の量は、開示した処方物中に全処方物の約0.01〜20重量で存在してもよい。
【0061】
構成成分の1つ又はそれ以上を可溶化するのに使用し得る溶媒としては、例えば水、酸性溶媒、塩酸、酢酸、安息香酸、リン酸緩衝食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノール等、及びこれらの組み合わせが挙げられる。HA及び/又は追加の構成成分を可溶化するのに使用し得る溶媒としては、水、食塩水又は他の塩溶液、リン酸緩衝食塩水等の緩衝液、ヒスチジン、ラクテート、スクシネート、グリシン及びグルタメート、デキストロース、グリセロール、塩酸、酢酸、安息香酸、酸性溶媒及び他の好適な溶媒、並びにこれらの組み合わせを挙げることができるが、これらに限定されない。処方物は、分散媒類、コーティング剤類、抗菌剤及び抗真菌剤類、等張剤及び吸収遅延剤類等の、生理学的に適合性の他の構成成分も含み得る。等張剤類としては、例えば、組成物中の糖類、マンニトール、ソルビトール等の多価アルコール類、又は塩化ナトリウムが挙げられる。処方物は、処方物の保存期限又は組成物の有効性を向上させる湿潤剤若しくは乳化剤類、保存剤類又は緩衝液類等の少量の補助物質を更に含んでもよい。
【0062】
処方物は、対象者に投与するのに好適な医薬組成物中に組み込まれてもよい。典型的には、医薬組成物は、HA及び少なくとも1つの賦形剤等の他の構成成分、並びに薬学的に許容され得る担体等の他の構成成分を含有する。本明細書で使用するとき、「薬学的に許容され得る担体」とは、生理学的に適合性のある、溶媒類、分散媒類、コーティング剤類、抗菌剤及び抗真菌剤類、等張剤及び吸収遅延剤類等のいずれか及び全部を含む。薬学的に許容され得る担体の例には、水、塩酸、酢酸、安息香酸、酸性溶媒、食塩水、リン酸緩衝食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノール等、及びこれらの組み合わせのうちの1つ又はそれ以上が挙げられる。多くの場合、組成物中に、等張剤、例えば糖、マンニトール及びソルビトールのような多価アルコール、又は塩化ナトリウムを含むことが有用であり得る。薬学的に許容され得る担体は、組成物の保存期限、又は組成物の有効性を向上させる湿潤剤若しくは乳化剤、保存剤、又は緩衝液等の少量の補助物質を更に含んでもよい。
【0063】
組成物は、多様な形態であってもよい。それらの形態には、例えば、液体溶液(例えば、注射可能な及び注入可能な溶液)、分散液又は懸濁液、錠剤、丸剤及び散剤等の液体、半固体及び固体投与形態が挙げられる。代表的な形態は、意図される投与様式及び治療用途に依存し得る。典型的な組成物は、インビボでの注入に使用されるものと類似した組成物等の、注射可能な及び注入可能な溶液の形態であってもよい。一実施形態において、代表的な投与様式は、非経口(例えば、関節内、皮下、腹腔内、筋肉内)である。別の実施形態では、組成物は、関節等の標的範囲内に直接注入又は注射することにより投与されてもよい。更なる別の実施形態では、組成物は筋肉内又は皮下注入により投与されてもよい。
【0064】
無菌注入可能溶液は、治療的に有効な又は有益な量の活性化合物を、上記成分の1つ又は組み合わせと共に、適切な溶媒に組み込み、必要に応じて、続いて濾過滅菌することにより調製することができる。一般に分散液は、活性化合物を基本の分散媒及び上記に挙げた必要な他の成分を含有する無菌賦形剤に組み込むことにより調製される。無菌注入可能溶液の調製用無菌粉末の場合、実施形態は、その既に濾過済み無菌溶液から、任意の所望の追加成分に加えて活性成分の粉末を得る、真空乾燥及び凍結乾燥の調製方法を含んでもよい。
【0065】
送達システム
方法及び組成物は、関節部等の関節疾患を処置するためのキットを包含する。キットは、HAと少なくとも1つの安定剤とを含んでもよい。両方の及び/又は全ての構成成分は、単一チャンバ内に収容されてもよい。キットは、少なくとも1つの安定剤及び追加の構成成分を有するHAも含み得る。追加の構成成分は、注射器の単一チャンバ又は別個のチャンバ内に収容されて、HAと少なくとも1つの安定剤とのHA混合物と共に注入されてもよい。HA及び少なくとも1つの安定剤は、凍結乾燥されてもよい。代表的な一実施形態では、HAは単一チャンバ内にて少なくとも1つの安定剤と組み合わされる。別の実施形態では、同一のチャンバ内に収容されたHA及び少なくとも1つの安定剤と、第2チャンバ内の追加の構成成分とを有するキットが提供される。別の代表的な実施形態では、HAは、同一のチャンバ内で少なくとも1つの安定剤と組み合わされ、GAG又はGAG前駆体は第2のチャンバ内に収容される。HA構成成分は、約150mgのヒアルロナン、90mgの塩化ナトリウム、及び約10.0mLまでの注射用蒸留水を含有する約10mLまでのOrthovisc(登録商標)を含んでもよく、特定の適応症用に適切に計量され得る。用例は、膝、肩及び腰用であってもよく、単回注入製品に関する注入容積は、約3mL〜10mLの範囲内であってもよく、また手には、約500μl〜1.5mLの範囲内であってもよい。HAは、約1.0〜6MDaの範囲内の分子量を有してもよい。HA処方物又は組成物中に存在する少なくとも1つの安定剤は、約0.1mg/mL〜約200mg/mLの範囲内の濃度を有してもよい。少なくとも1つの安定剤は、HA構成成分と共に、凍結乾燥されてもよく、又は別法として、上記したように溶液中に存在してもよい。
【0066】
化合物は、保存期限を延長するために別々に保管できる。個々の化合物は、希釈剤と共に1つの注射器/カートリッジ内で凍結乾燥形態若しくは固体形態にあってもよく、又は第2の化合物が第2の注射器/カートリッジ内に存在してもよい。一実施形態において、化合物の1つは、凍結乾燥形態又は固体形態にあり、第2の化合物は、凍結乾燥/固体化合物と組み合わせることが可能な溶液である。用例は、少なくとも1つの凍結乾燥又は固体構成成分が第1のチャンバ内に保管されてもよく、可溶化したHAが第2のチャンバ内に保管されてもよい。別の実施形態では、両方の化合物が凍結乾燥又は固体形態にあり、注射器/カートリッジ内の単一又は別個のチャンバ内に収容されてもよい。別の実施形態では、化合物は、注射器又はカートリッジ内で直接凍結乾燥されてもよい。
【0067】
プレフィルド二重チャンバ注射器及び/又はカートリッジも、構成成分及び組成物と共に使用することができる。プレフィルド二重チャンバ注射器は、2つの別個の組成物を注射器を1回押すことにより連続的に投与でき、それによって2つの注射器を1つで代替できる。単回送達機能の利益としては、薬物投与の速度の上昇及び容易さ;接続の数を低減することによる感染のリスクの低減;薬物投与又は順序の誤りのリスクの低減、及び投与前に組み合わせる必要がある組成物の迅速な送達が挙げられる。二重チャンバ注射器は、凍結乾燥、粉末又は液体の処方物を前部チャンバに収容してもよく、その処方物は、後部チャンバ内の希釈剤、食塩水又は緩衝液と組み合わされる。
【0068】
プレフィルド注射器は、正確な、送達可能な用量の所望の化合物及び希釈剤を含んでもよい。プレフィルド注射器は、約0.1mL、0.2mL、0.3mL、0.4mL、0.5mL、0.6mL、0.7mL、0.8mL、0.9mL、1.0mL、1.5mL、2mL、2.5mL、3mL、3.5mL、4mL、4.5mL、5mL、5.5mL、6mL、6.5mL、7mL、7.5mL、8mL、8.5mL、9mL、9.5mL、10mL又はそれ以上、又はこれらから誘導できる任意の容積を含んでもよい。
【0069】
二重注射器及び/又はカートリッジは、単一のプランジャーを有する単一のチャンバ又は複数の直線形チャンバに組み合わされる別個の注射器プランジャーを有する隣り合うチャンバであってもよい。二重チャンバ注射器及び/又はカートリッジはまた、中央にストッパ又はコネクタを有して、2つのチャンバ間のバリアの役割を果たしてもよい。ストッパ又はコネクタは、除去されて、2つのチャンバ内の化合物が混合され又は組み合わされるようにしてもよい。
【0070】
図1は、二重チャンバ注射器10の形態の混合及び送達システムの一実施形態を示す。図に示されるように、二重チャンバ注射器10は、一般的に、弁16により分離された近位チャンバ14及び遠位チャンバ12を有するハウジングを含み。プランジャー18は近位チャンバ14内に摺動可能に配置され、近位チャンバ14内に存在する流体を遠位チャンバ12内に注入することにより構成成分を混合するよう構成されている。一実施形態において、第1の構成成分、例えば少なくとも1つの安定剤を有する液体HAが近位チャンバ14内に存在してもよく、追加の構成成分、例えば1つ又はそれ以上追加の構成成分が遠位チャンバ12内に存在してもよい。或いは、第1の構成成分、例えば液体HAがトレハロース等の少なくとも1つの安定剤と共に近位チャンバ14内に存在してもよく、更に少なくとも1つの追加の構成成分、例えばコンドロイチン硫酸が遠位チャンバ12内に存在してもよい。プランジャー18は近位チャンバ14を通って前進して第1の構成成分、例えば少なくとも1つの安定剤を有する液体HAを、第2の構成成分、例えば1つ又はそれ以上追加の構成成分を収容する遠位チャンバ12内に注入してもよい。別の実施形態では、近位チャンバ14は水又は食塩水等の溶媒を収容してもよく、遠位チャンバ12は固体形態の構成成分の全部を収容してもよい。例えば遠位チャンバ12は、少なくとも1つの安定剤を有する凍結乾燥した又は固体のHAを収容してもよい。プランジャー18は近位チャンバ14を通って前進して、溶媒を遠位チャンバ12内に注入することにより、遠位チャンバ12内の構成成分を可溶化し得る。全構成成分が遠位チャンバ12内で混合された後、混合物は、例えば二重チャンバ注射器の遠位端に針を取り付けることにより、組織に送達され得る。
【0071】
図2は、商標名MixJect(登録商標)で市販されている混合及び送達システム20の別の実施形態を示す。この実施形態では、システムは注射器24とバイアル26との間に結合されている流体制御アセンブリ22を含む。注射器24は液体HA又は溶媒等の液体を収容してもよい第1のチャンバ24a(図に表示せず)を画定し、バイアルは1つ又はそれ以上追加の構成成分等の固体を収容してもよい第2のチャンバ26a(図に表示せず)を画定する。注射器24を通してプランジャー28を配備することにより、液体が制御システムを通ってバイアル26内に注入され、バイアル26内で固体が液体によって可溶化されるであろう。構成成分が完全に可溶化された後、バイアル26は反転されてもよく、プランジャー28が後退させて、混合物を注射器24内のチャンバ24aに戻すことができる。次いで、バイアル26をシステムから取り外し、混合物を注射器から針29を通して組織内に注入することができる。
【0072】
当業者は、当技術分野にて既知の任意の二重チャンバシステムを使用することができ、また、チャンバは、単一のプランジャーを有する単一のチャンバ又は複数の直線形チャンバに組み合わされる別個の注射器プランジャーを有する隣り合うチャンバであってもよいことを認識するであろう。
【0073】
処置
方法及び組成物は、インビボ用途のために注入により非経口的に、又は経時的な段階的灌流(gradual perfusion)により投与できる。投与は、関節内、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、腔内又は経皮であってもよい。インビトロでの試験のために、薬剤は生物学的に許容され得る適切な緩衝液中に添加又は溶解され、細胞又は組織に加えられてもよい。
【0074】
非経口投与用の調製品としては、無菌の水溶液又は非水溶液、懸濁液、及び乳液が挙げられる。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油等の植物油、及びオレイン酸エチル等の注射可能な有機エステルである。水性担体としては、食塩水及び緩衝媒体を含む、水、アルコール性/水溶液、乳液又は懸濁液が挙げられる。非経口ビヒクルとしては、塩化ナトリウム溶液、リンゲル糖(Ringer's dextrose)、デキストロース及び塩化ナトリウムが挙げられ、乳酸化リンゲル静脈内ビヒクルとしては、液体および栄養補充液(fluid and nutrient replenisher)、電解質補充液(リンゲル糖に基づくもの)等が挙げられる。例えば抗菌剤、抗酸化剤、キレート化剤、増殖因子及び不活性ガス等の保存剤及び他の添加剤も存在し得る。
【0075】
頻繁に使用されている「担体」又は「補助物質」には、炭酸マグネシウム、二酸化チタン、乳糖、マンニトール及び他の糖類、タルク、乳タンパク質、ゼラチン、澱粉、ビタミン類、セルロース及びその誘導体類、動物及び植物油類、ポリエチレングリコール類、並びに滅菌水、アルコール類、グリセロール及び多価アルコール類、並びにジメチルスルホキシド等の溶媒類が挙げられる。静脈内ビヒクルには、液体および栄養補充液が挙げられる。保存剤には、抗菌剤類、抗酸化剤類、キレート化剤類及び不活性ガス類が挙げられる。他の薬学的に許容され得る担体としては、例えば、その内容が参照により本明細書に組み込まれるRemington’s Pharmaceutical Sciences,15th ed.Easton:Mack Publishing Co.:1405〜1412,1461〜1487,1975及びNational Formulary XIV.,14th ed.Washington:American Pharmaceutical Association,1975に記載されているような水溶液類、塩類、保存剤類、緩衝液類等を含む無毒性賦形剤類が挙げられる。医薬組成物の様々な構成成分のpH及び正確な濃度は、当業者の常套技術に従って調整される。Goodman及びGilmanのPharmacological Basis for Therapeutics(7th ed.)を参照されたい。
【0076】
本明細書に開示した組成物及び方法が有用であり得る症候又は疾病の例は、関節疾患、感染症、傷害、アレルギー、代謝疾患等を原因とする関節炎、慢性関節リウマチ等のリウマチ、及び全身性エリテマトーデス;痛風が不随する関節疾患、変形性関節症等の関節症、関節内障、関節水症、肩こり、腰痛症等の処置を包含する。組成物の使用又は処置される疾患のタイプに応じて効能を変動させることにより、薬剤は、生体に深刻な影響を与えることなく、腫れ、疼痛、炎症及び関節の破壊に対して所望の予防及び緩和効果、又は治療効果をも発揮し得る。関節疾患の処置のための組成物は、関節疾患(articulation disorder)の発生の予防と、それらの発生後の症候の改善、緩和及び治癒とに使用することができる。
【0077】
処置方法は、関節等の標的範囲内に組成物を直接注入することを含んでもよい。注入は、毎日、毎週、週に数回、月2回、月に数回、毎月の頻度、又は必要とする頻度で行われて、症候を軽減してもよい。関節内使用の場合、関節のサイズ及び状態の重篤さに応じて、関節当たり約1〜約30mg/mLのHAが注入され得る。所定の関節内へのその後の注入の頻度は、関節内の症候再発時まで間隔を開ける。例示的には、ヒト中の組成物の投与レベルは、膝では、関節注入当たり約1〜約30mg/mL;肩では、関節注入当たり約1〜約30mg/mLのHA;中手(metacorpal)又は近位指節間(intraphalangeal)では、関節注入当たり約1mg/mL〜約30mg/mLのHA;及び肘では、関節注入当たり約1〜約30mg/mLであってもよい。注入の全量は、約1mg/mL〜200mg/mLの範囲内のHAであってもよい。
【0078】
しかしながら、任意の特定の患者のための特定の投与レベルは、使用されている特定の化合物の活性、年齢、体重、全身の健康、性別、食事、投与時間、投与経路、排泄の割合、薬物の組み合わせ、及び治療を受けている特定の疾病の重篤さを含む多様な因子に依存することを理解するであろう。医薬組成物は、用量単位で調製及び投与されてもよい。しかしながら、特定の環境下では、より多量又は少量の用量量単位が適切であり得る。用量単位の投与は、組成物の単回投与、又は数個のより少量の用量単位での投与の両方で行われてもよく、また特定の間隔をおいた、細分した投与量の多数回投与により行われてもよい。
【0079】
一実施形態において、医学的状態は変形性関節症(OA)であり、組成物は、例えば膝、肩、側頭−下顎及び手根−中手関節、肘、腰、手首、足首及び脊柱の腰椎関節突起間(椎間)関節等の関節空間内に投与される。関節内補充療法は、単回注入、又は膝若しくは他の患部関節内へ数週間にわたり投与される多数回の関節内注入を介して達成され得る。例えば膝OAを有するヒト対象は、膝当たり約0.5、1、1.5、2、3、4、5、6、7、8、9、10mL又はそれ以上の1回、2回、3回、4回、又は5回の注入を受容してもよい。他の関節の場合、投与容積は、関節のサイズに基づいて調整されてもよい。
【0080】
しかしながら、任意の特定の患者のための特定の投与レベルは、使用されている特定の化合物の活性、年齢、体重、全身の健康、性別、食事、投与時間、投与経路、排泄の割合、薬物の組み合わせ、及び治療を受けている特定の疾病の重篤さを含む多様な因子に依存することを理解するであろう。
【0081】
実験データ
【実施例】
【0082】
実施例1:様々な安定剤を有する液体HA及びCS処方物の安定性
表1に概略したように、2.5mg/mLのHA及び2.5mg/mLのコンドロイチン硫酸(CS)を、異なる安定剤と共に処方した。5℃及び40℃/75% RHの保管条件におけるHAの安定性に関して処方物を試験した(図3)。5ヶ月後、試験試料を、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)−高速液体クロマトグラフィー法により分析した。手短には、試験試料を移動相(100mMリン酸ナトリウム緩衝液、pH 7)で0.1mg/mL HAに希釈した。次いで、希釈試料をHPLCカラム(phenomenex,Poly Sep−GFC−P linear column,catalog number 00H−3147−K0)上に、流速0.6mL/分で注入した溶出したHAのピークを207nm波長で監視し、保持時間をHA分子量基準と比較して、試験試料の分子量を決定した。
【0083】
表1に示すように、食塩水処方物は、他の40℃試料と比較して40℃で最も安定性の低い処方物であった。図3は、食塩水処方物のクロマトグラムを示す。食塩水試料のHAピークは大きく右にシフトし、HAがより小さい分子に分解したことを示す。対照的に、図4に示すように、40℃トレハロース処方物は、遙かに小さいシフトを有した。同様の結果がスクロース及びマンニトール処方物にも観察された。これらの処方物は、周囲温度において食塩水処方物と比較して、より良好な保存期限を有する筈である。
【表1】

【0084】
表2に概略したように、8mg/mLのHA及び8mg/mLのコンドロイチン硫酸を、様々な安定剤と共に処方した。処方した溶液を3−mLガラスバイアル内に0.5mL/バイアルで満たし、凍結乾燥した。乾燥した試料を、安定性試験のために40℃/75% RHに置いた。4ヶ月後、試験試料をWFIで再構成し、実施例1に述べたようにSEC−HPLC法によって分析した。表2に示すように、食塩水のみを含む処方物は、グルコース、マンニトール、スクロース及びトレハロースを含む処方物と比較して低い安定性を有した。実際に、40℃で4ヶ月保管した際、これらの凍結乾燥処方物に分子量の有意な変化は検出されなかった。
【表2】

【0085】
高濃度のHAも試験した。20mg/mLのHA及び20mg/mLのCSを、様々な安定剤と共に処方した。表3に概説した5℃及び40℃/75% RHの保管条件での安定性に関して、処方物を試験した。3ヶ月後、SEC−HPLC方法を用いて試験試料を分析した。表3に示すように、食塩水のみを含む処方物は、トレハロース、スクロース及びマンニトールを含む処方物と比較して低い安定性を有した。
【表3】

【0086】
実施例2:様々な濃度のトレハロースを有するHA処方物の安定性
表4に概説したように、様々な濃度のトレハロースを用いて、異なる濃度のHAを処方した。処方溶液のいくつかを2つのグループに分割した。一方は液体安定性試験のために安定性チャンバに置かれ、他方は固体安定性評価のために凍結乾燥された。5℃及び40℃/75% RHで3ヶ月保管した後、SEC−HPLC法を用いて試験試料を分析した。表4に示すように、異なるトレハロース濃度を有する試料間で、分子量の著しい相違は観察されなかった。しかしながら、水のみで処方物された、いずれの賦形剤も有さないHAは、液体形態及び凍結乾燥形態において遙かに安定性が低かった。
【表4】

【0087】
実施例3:変形性関節症のラットMMTモデル
変形性関節症のラットの内側半月板断裂(MMT)モデルにおいて、内側半月板の切断は、ヒト変形性関節症を模倣する関節悪化及び体重負荷の低下をもたらす。300〜400グラムのラットにおける片側の内側半月板断裂は、軟骨細胞及びプロテオグリカンの損失、細線維化、骨増殖体形成並びに軟骨細胞クローニングにより特徴付けられる急速進行性の軟骨変性変化をもたらす。そのような変化は、典型的には、半月板の手術から21日目までに相当観察される。形成された軟骨病変の程度により主として決定されるような関節悪化の程度は、半定量的な組織学的スコアリングシステムを使用して測定され得る。
【0088】
関節内に注入された化合物のビヒクルとしてのトレハロースの有用性を試験するために、トレハロースの溶液を、およそpH 3の3mMグリシン−HCl緩衝液中の5%溶液として処方した。溶液をラットMMTモデル内で試験した。半月板に対する付着の直下の内側側副靱帯の切断を15匹の雄のLewisラットに対して行った。半月板を、その最も狭い地点(小骨から離れた)で切断し、脛骨表面を損傷しないように注意した。
【0089】
MMT手術から3日後に開始して、トレハロース溶液の関節内注入を週に1回、5週間与えた後、6週目に安楽死させた。
【0090】
組織学的検査結果は、トレハロース溶液が軟骨保存において予想外の改善を与えることを示した。図5に示すように、トレハロースは、軟骨細胞及びプロテオグリカン損失が元の軟骨の厚さの50%又はそれ以上を通して延びる脛骨軟骨病変の幅により規定して、有意な軟骨病変の幅を大幅に低下させた。そのような測定値は、接眼マイクロメータを使用して、関節の内側区画の染色した組織断面から取得した。
【0091】
図6に、軟骨保存の他の計測を示す。トレハロースは、病変の深さを、外挿した元の脛骨プラトーから最高到達点(tidemark)への距離を測定することにより見積もられる元の軟骨の厚さと比較することによって計算される病変の深さの比(Depth Ratio)において大幅な改善を示した。これらの測定値は、接眼マイクロメータを使用して、関節の内側区画の染色組織断面から取得した。
【0092】
軟骨保存も、コラーゲン変性の程度と相関した。図7は、トレハロースが軟骨病変の幅を大幅に低下させたことを示し、その軟骨病変幅は、コラーゲン染色の低下を示す軟骨の断面の厚さを評価する接眼マイクロメータを使用して測定して、顕著又は重度のいずれかとして特徴付けられたコラーゲン枯渇を示す。コラーゲン変性の程度は、以下のように定義される。
重度の損傷(コラーゲンの最高到達点に至る全損失又はほぼ全損失、>厚さ90%)
顕著な損傷(軟骨の厚さの61〜90%に渡って延びる)
中度の損傷(軟骨の厚さの31〜60%に渡って延びる)
軽度の損傷(軟骨の厚さの11〜30%に渡って延びる)
微小の損傷(非常に表面的、上部10%のみ発症)
【0093】
トレハロースは、残存軟骨の細胞生育力の尺度である軟骨変性スコアも改善した。軟骨変性スコアは、生育不能な(大幅な軟骨細胞及びプロテオグリカンの損失、しかしコラーゲン維持)及び完全に欠損した軟骨マトリックスの面積を見積もった後、外挿した元の軟骨断面の面積と比較して百分率を見積もることによって、組織学的に決定された。スコア1〜5を割り当て、スコア1は10%又はそれ未満の軟骨変性を示し、スコア5は完全な軟骨変性を示す。図8において、ゾーン1は、切断半月板に最も近い、内側脛骨プラトーの1/3を指す。ゾーン1は、MMTモデルにおいて最も重度の軟骨損傷を有する範囲であり、OA治療法の標的として極めて困難と考えられた。ゾーン3は、手術部位から最も遠い、最少量の軟骨損傷を維持する、内側脛骨プラトーの1/3である。ゾーン2は、中間の軟骨損傷の領域と考えられ、OA治療法にとって理想的な標的となった。トレハロースは、3つの全ゾーンにおいて軟骨変性スコアを統計的に改善した。
【0094】
実施例4:変形性関節症のウサギACLTモデル
上述したトレハロース処方物(およそpH 3の3mMグリシン−HCl緩衝液中の5%トレハロース溶液)を、OAのウサギ前十字靭帯切断(ACLT)モデルにも試験した。ACLT手術は、ウサギ膝を半月板切断よりも多大に不安定化し、有意な軟骨悪化のみではく、骨増殖体形成をももたらした。OAのウサギモデルにおける骨増殖体形成の発達及び制御の研究は、ACLTから4週後という早期の平板状形成を認め、ACLTから12週後までに膝の全区画において骨増殖体成長を認めた。
【0095】
ウサギを麻酔した。膝蓋下脂肪体をリトラクト(retract)し、ACLを分離した。前十字靭帯を、手術用メスの刃で切断した。皮膚縫合の前に、線維嚢及び皮下組織を閉鎖した。手術から1週後に開始して、関節内注入を毎週、7週間付与した後、8週目に安楽死させた。修正マンキンスケール(Mankin scale)を使用して、軟骨分解を組織学的に測定した。より高いスコアはより広範な軟骨分解を示し、最大スコアは18であった。
【0096】
図9に示すように、トレハロース処方物は、未処置動物と比較して、修正マンキンスコア(Mankin score)において大幅な改善を与えた。(n=15)、関節内トレハロース注入の結果としての軟骨変性の低下を示す。
【0097】
用語
「治療的に有効な量」又は「有効量」は、薬理学的効果を達成する薬剤の量である。用語「治療的に有効な量」は、例えば予防学的に有効な量を含む。「有効量」は、過度の有害な副作用を有することなく、所望の薬理学的効果又は治療改善を達成するのに効果的な量である。例えば、有効量は、操作性を改善し、生活の質を向上させ、可動性を向上させる患者の能力を増大させ、又は体重負荷量を増大させ、又は疼痛を低減し、又は1つ若しくはそれ以上の関節の骨及び軟骨の成長を増大させ、又は関節の歪み、疼痛、腫れ若しくは硬直を低減する量を指す。薬剤の有効量は、特定の患者及び疾病レベルに応じて、当業者により選択されるであろう。「効果量」又は「治療的に有効な量」は、治療薬及び/又は消化管運動改善薬の代謝、年齢、体重、対象の全身状態、処置されている状態、処置されている状態の重篤さ、並びに処方医師の判断における変化により、対象毎に変動し得ることが理解される。
【0098】
「処置する」又は「処置」は、疾患又は疾病に罹りやすい可能性があるが、疾患又は疾病と未だ診断されていない対象において、疾病又は疾患の発生を予防し;疾患又は疾病を阻害し、例えば疾患又は疾病の発達を抑止し、疾病又は疾患を軽減し、疾患又は疾病を退行させ、疾病又は疾患を原因とする状態を軽減し、又は疾病若しくは疾患の症候を停止する等の、骨、軟骨に関連した疾患又は疾病、軟組織(滑膜等の)疾患の任意の処置を指す。かくして、本明細書で使用される用語「処置する」は、用語「予防する」と同義的に使用される。
【0099】
「共投与される」とは、同一の処方物中での、又は投与用に1つの処方物に組み合わされる2つの異なる処方物中での同時投与を意味する。一実施形態において、HA及び他の構成成分は、同一の処方物中での送達を介して共投与される。
【0100】
本明細書で使用される用語「対象」は、動物を指し、一実施形態では哺乳動物を指し、別の実施形態では本発明の組成物及び方法から利益を得ることができるヒトを指す。本方法から利益を得ることができる動物のタイプに制限は存在しない。ヒト又は非ヒト動物を問わずに対象は、個人、対象、動物、宿主又はレシピエントと称され得る。本発明の方法は、ヒトの医療、獣医医療、及び一般に飼育又は野生動物の畜産において用途を有する。一実施形態において、候補対象は、ヒト等の哺乳動物、例えばマウス、ラット、ウサギ、モルモット、ハムスター等の臨床検査動物、又は例えば家禽(poultry bird)等の鳥類、及びイヌ、ネコ、ウマ、雌牛、ヒツジ等の獣医学動物である。
【0101】
当業者は、上述した実施形態に基づき本発明の更なる特徴及び利点を認識するであろう。したがって、本発明は、付属の「特許請求の範囲」において示される場合は例外として、具体的に図示、記載されたものに限定されるものではない。本明細書中に引用される刊行物及び参考文献は全て、それらの全容を本明細書に特に援用するものである。
【0102】
〔実施の態様〕
(1) 高分子量ヒアルロン酸(HA)を含む処方物と、
前記処方物の安定性を高める少なくとも1つの安定剤と、を含有する、関節症状を処置するための組成物。
(2) 前記高分子量HAが、約1.66×10−18g〜9.96×10−18g(約1MDa〜6MDa)の範囲内の分子量を有する、実施態様1に記載の組成物。
(3) 前記HAが、少なくとも約1mg/mLの液体濃度で存在する、実施態様1に記載の組成物。
(4) 前記HAが凍結乾燥されている、実施態様1に記載の組成物。
(5) 前記少なくとも1つの安定剤が、トコフェロール、トコフェロール誘導体、マンニトール、スクロース及びトレハロースからなる群から選択される、実施態様1に記載の組成物。
(6) 前記少なくとも1つの安定剤がトレハロースである、実施態様1に記載の組成物。
(7) 前記少なくとも1つの安定剤が、前記組成物の約0.1重量%〜50重量%の範囲内で存在する、実施態様1に記載の組成物。
(8) 前記処方物が室温で安定である、実施態様1に記載の組成物。
(9) 少なくとも1つの追加の構成成分を更に含有する、実施態様1に記載の組成物。
(10) 前記追加の構成成分が、グリコサミノグリカン(GAG)及びGAG前駆体からなる群から選択され、かつ約1:0.005〜1:100の範囲内にあるHAと追加の構成成分との比で前記組成物中に存在する、実施態様9に記載の組成物。
【0103】
(11) 高分子量ヒアルロン酸(HA)と少なくとも1つの安定剤との組成物と、
HAと安定剤との前記組成物を単一チャンバ内に備える注射器と、を含む、キット。
(12) 前記HAが、1.66×10−18g(1MDa)を越える分子量を有する、実施態様11に記載のキット。
(13) 前記HAが、少なくとも約1mg/mLの液体濃度で存在する、実施態様11に記載のキット。
(14) 前記HAが凍結乾燥されている、実施態様11に記載のキット。
(15) 前記少なくとも1つの安定剤が、トコフェロール、トコフェロール誘導体、マンニトール、スクロース及びトレハロースからなる群から選択される、実施態様11に記載のキット。
(16) 前記少なくとも1つの安定剤が、前記組成物の約0.1重量%〜50重量%の範囲内で存在する、実施態様11に記載のキット。
(17) 前記組成物が、グリコサミノグリカン(GAG)及びGAG前駆体からなる群から選択される少なくとも1つの追加の構成成分を更に含有する、実施態様11に記載のキット。
(18) 前記注射器が、前記少なくとも1つの追加の構成成分を収容する別個のチャンバを更に含む、実施態様17に記載のキット。
(19) 前記少なくとも1つの追加の構成成分が凍結乾燥されている、実施態様17に記載のキット。
(20) 高分子量ヒアルロン酸及び少なくとも1つの安定剤を含有する処方物を、それを必要とする対象に投与する工程を含む、関節を処置するための方法。
【0104】
(21) 前記投与する工程が、投与前に、前記処方物を室温で保管する工程を更に含む、実施態様20に記載の方法。
(22) 前記投与する工程が、投与前に、前記処方物を少なくとも1つの追加の構成成分と組み合わせる工程を更に含む、実施態様20に記載の方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子量ヒアルロン酸(HA)を含む処方物と、
前記処方物の安定性を高める少なくとも1つの安定剤と、を含有する、関節症状を処置するための組成物。
【請求項2】
前記高分子量HAが、約1.66×10−18g〜9.96×10−18g(約1MDa〜6MDa)の範囲内の分子量を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記HAが、少なくとも約1mg/mLの液体濃度で存在する、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記HAが凍結乾燥されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記少なくとも1つの安定剤が、トコフェロール、トコフェロール誘導体、マンニトール、スクロース及びトレハロースからなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記少なくとも1つの安定剤がトレハロースである、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記少なくとも1つの安定剤が、前記組成物の約0.1重量%〜50重量%の範囲内で存在する、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記処方物が室温で安定である、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
少なくとも1つの追加の構成成分を更に含有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記追加の構成成分が、グリコサミノグリカン(GAG)及びGAG前駆体からなる群から選択され、かつ約1:0.005〜1:100の範囲内にあるHAと追加の構成成分との比で前記組成物中に存在する、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
高分子量ヒアルロン酸(HA)と少なくとも1つの安定剤との組成物と、
HAと安定剤との前記組成物を単一チャンバ内に備える注射器と、を含む、キット。
【請求項12】
前記HAが、1.66×10−18g(1MDa)を越える分子量を有する、請求項11に記載のキット。
【請求項13】
前記HAが、少なくとも約1mg/mLの液体濃度で存在する、請求項11に記載のキット。
【請求項14】
前記HAが凍結乾燥されている、請求項11に記載のキット。
【請求項15】
前記少なくとも1つの安定剤が、トコフェロール、トコフェロール誘導体、マンニトール、スクロース及びトレハロースからなる群から選択される、請求項11に記載のキット。
【請求項16】
前記少なくとも1つの安定剤が、前記組成物の約0.1重量%〜50重量%の範囲内で存在する、請求項11に記載のキット。
【請求項17】
前記組成物が、グリコサミノグリカン(GAG)及びGAG前駆体からなる群から選択される少なくとも1つの追加の構成成分を更に含有する、請求項11に記載のキット。
【請求項18】
前記注射器が、前記少なくとも1つの追加の構成成分を収容する別個のチャンバを更に含む、請求項17に記載のキット。
【請求項19】
前記少なくとも1つの追加の構成成分が凍結乾燥されている、請求項17に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−14586(P2013−14586A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−146508(P2012−146508)
【出願日】平成24年6月29日(2012.6.29)
【出願人】(507083478)デピュイ・ミテック・エルエルシー (47)
【住所又は居所原語表記】325 Paramount Drive,Raynham,Massachusetts 02767 United States of America
【Fターム(参考)】