説明

安定化されたS−アデノシルホモシステイン加水分解酵素調製物

【課題】 ホモシステインの免疫測定方法において用いられるS−アデノシルホモシステイン加水分解酵素を凍結乾燥した状態等において安定的に保持すること。
【解決手段】 S−アデノシルホモシステイン加水分解酵素とコラーゲンぺプチドを共存させることにより、溶液状態、凍結状態又は凍結乾燥状態のS−アデノシルホモシステイン加水分解酵素を安定的に保持し、その失活を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定化されたS−アデノシルホモシステイン加水分解酵素の調製物に関するものである。本発明の調製物は、水溶液の状態、凍結した状態又は凍結乾燥した状態で提供されるもので、例えば血液中に含まれるホモシステインをS−アデノシルホモシステインに変換後、標識物質と結合された抗S−アデノシルホモシステイン抗体を用いて免疫的な測定を行う場合に必要となる、S−アデノシルホモシステイン加水分解酵素の失活が防止された、安定な調製物を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
ホモシステイン(homocysteine)は、含SH基の必須アミノ酸であるメチオニン代謝の中間代謝物である。ホモシステイン高値はホモシステイン尿症として知られる遺伝的代謝異常によって引き起こされる他、栄養障害(葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12の欠乏)などに起因する。近年ホモシステインと血管障害とのかかわりが注目され、またホモシステイン尿症の動脈硬化との関係性が報告され、血栓、心血管疾患、脳梗塞の独立した危険因子であることが明らかになっている。(非特許文献1、2)。このような知見に基づいて、血液中に存在する総ホモシステイン量の測定が、尿又は血液をサンプルとして、実施されている。
【0003】
上記ホモシステインの測定方法として、液体クロマトグラフィーを用いる方法や免疫的な測定方法が知られている。中でも免疫的な測定方法は、迅速性にすぐれていることから、臨床的目的で実施されるホモシステイン量の測定において多用されている。
【0004】
免疫的なホモシステイン測定としては、サンプル中のホモシステインを還元して遊離状態とし、更にS−アデノシルホモシステインに変換する前処理工程と、S−アデノシルホモシステインに対する抗体(抗S−アデノシルホモシステイン抗体)を利用していわゆる競合法によってS−アデノシルホモシステインを測定する方法が知られている。そしてこの前処理工程では、サンプル中に酸化型のジスルフィド化合物として存在するホモシステイン(非特許文献3)を還元剤で処理することにより実施され、またS−アデノシルホモシステインへの変換は、アデノシンの共存下でS−アデノシルホモシステイン加水分解酵素によって実施される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】McCully, K.S., Carvalho, A.V.A. : Homocysteine thiolactone, n−homocysteine thiolactonyl retinamide, and platelet aggregation. Res. Commum. Chem. Pathol. Pharmacol. 56:349−360, 1987.
【非特許文献2】佐々木 淳ら. :動脈硬化性疾患と血中ホモシステイン値の関係. Progress in Medicine. 21, 6:1543−1549, 2001.
【非特許文献3】D. W. Jacobsen Homocysteine and vitamins in cardiovascular disease. Clin. Chem., August 1, 1998; 44(8): 1833 − 1843
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記したように、総ホモシステイン量を測定するための前処理工程では、S−アデノシルホモシステイン加水分解酵素が使用される。この酵素は、溶液状態での安定性が悪く、還元剤、EDTA、グリセロール溶液及び/又はウシ血清アルブミン(BSA)等、一般に蛋白質を安定化させる試薬を共存させたとしても、なおも低温にて保存する必要がある。そのため、ホモシステインを測定するために室温下においただけで劣化が進行してしまう等、取扱いが難しいという課題がある。
【0007】
そこで本発明の目的は、室温下でも安定なS−アデノシルホモシステイン加水分解酵素調製物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意検討を行い、本発明を完成した。前記目的を達成した本発明は、S−アデノシルホモシステイン加水分解酵素及びコラーゲンペプチドを含む、安定化されたS−アデノシルホモシステイン加水分解酵素調製物である。以下、本発明を詳細に説明する。
【0009】
本発明は、S−アデノシルホモシステイン加水分解酵素の調製物であるが、本発明の調製物にはS−アデノシルホモシステイン加水分解酵素を含む溶液、当該溶液の凍結物及び当該凍結物を乾燥させた凍結乾燥物が含まれる。中でも、凍結乾燥物に対しては、本発明の効果は顕著である。調製物に含まれるS−アデノシルホモシステイン加水分解酵素は、ヒト胎盤から採取されるもの、またはS−アデノシルホモシステイン加水分解酵素をコードする遺伝子(cDNA、S−アデノシルホモシステイン加水分解酵素をコードする遺伝子の塩基配列は公知である)を他の微生物に組み込むことによって遺伝子工学的に製造されたもの、又は、天然に存在するS−アデノシルホモシステイン加水分解酵素のアミノ酸一次構造に変異が導入された変異型のS−アデノシルホモシステイン加水分解酵素類縁酵素である。調製物中に含有されるS−アデノシルホモシステイン加水分解酵素の量(濃度)に特に制限はない。本発明の調製物は、例えばガラス、プラスチック等、種々の材質の容器であって、バイアル状、プレート状、カップ状等、種々の形状の容器に入れることができる。
【0010】
本発明は、コラーゲンペプチドをS−アデノシルホモシステイン加水分解酵素と共存させることに特徴を有するものである。コラーゲンペプチドはコラーゲンを加水分解して得られるものであれば、その由来に特に制限はなく、例えばブタの骨、ブタの皮、魚の鱗、ウシの骨、ウシの皮等に由来するコラーゲンを加水分解したコラーゲンペプチドを例示することができる。中でも、ブタの皮由来のものは、原料が豊富であり、その入手が容易であるという観点から特に好ましい。なお加水分解の程度にも特に制限はなく、常法に従い、例えばコラーゲンをパパイン、ペプシン又はトリプシンといったタンパク質加水分解酵素の共存下、例えば50℃で180分間加熱等すれば良い。
【0011】
コラーゲンペプチドの使用量、即ちS−アデノシルホモシステイン加水分解酵素と共存させる量(濃度)は、溶液状態の調製物において1から10重量%、より好ましくは1から5重量%とすることが例示できる。なお、本発明の調製物を製造するにあたっては、コラーゲンペプチドを含む溶液にS−アデノシルホモシステイン加水分解酵素を添加しても良いし、逆にS−アデノシルホモシステイン加水分解酵素を含む溶液にコラーゲンペプチドを添加しても良い。また凍結物や凍結乾燥物を製造するためには、このようにして製造した溶液を単に凍結し、またその後に乾燥すれば良い。
【0012】
本発明の調製物は、S−アデノシルホモシステイン加水分解酵素及びコラーゲンペプチドを含むものであるが、更にトレハロースを共存させることによりコラーゲンペプチドによるS−アデノシルホモシステイン加水分解酵素の安定化効果を強化することができる。トレハロースとしては特に制限はなく、例えば市販のトレハロースを使用することが例示できる。トレハロースを更に共存させる場合のその使用量(濃度)は、溶液状態の調製物において1から10重量%、好ましくは2から5重量%とすることが例示できる。
【0013】
上記の通り、本発明の調製物は、S−アデノシルホモシステイン加水分解酵素及びコラーゲンペプチドを含み、また好ましくは更にトレハロースを含むが、これらの調製物成分が適当な緩衝剤を含む緩衝液に溶解された溶液状態であるか、又は適用な緩衝液に溶解された後凍結、凍結乾燥されていることが好ましい。緩衝液としては、例えばトリス緩衝液やリン酸緩衝液の他、MES、Bis−Tris、ADA、PIPES、ACES、BES、MOPS、TES、HEPPES、Tricine、Bicine、CHES又はCAPS等のGOOD緩衝液等が例示できるが、かかる緩衝液によって溶液状態でそのpHをS−アデノシルホモシステイン加水分解酵素が安定なpH5.0からpH9.0、好ましくはpH7.0からpH7.5に維持することが好ましい。
【0014】
本発明の調製物は、更に、S−アデノシルホモシステイン加水分解酵素の安定性に影響を与えない範囲で緩衝剤以外の成分を含有することができる。かかる成分として、例えば微生物の繁殖を防止する防腐剤、脂溶性成分の分散・可溶化のための界面活性化剤、酸化を防止するための酸化防止剤、調製物の形状を維持するための結合剤、S−アデノシルホモシステイン加水分解酵素の保護のための膨潤剤、調製物を他の試薬等から識別するための着色剤、S−アデノシルホモシステイン加水分解酵素の構造を維持するための懸濁化剤、調製物中の成分の分散・可溶化のための乳化剤、調製物溶液を均一化するための溶解補助剤、S−アデノシルホモシステイン加水分解酵素の構造を維持するための等張化剤等を例示できる。防腐剤としては、例えば、アジ化ナトリウム、キレート剤、抗生物質、防菌剤又は防黴剤等が例示できる。界面活性化剤としては、非イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤又は両イオン性界面活性化剤等が例示できる。抗酸化剤としては、例えばアスコルビン酸やビタミンE等が例示できる。結合剤としては、例えばカルボキシメチルセルロース等が例示できる。湿潤剤としては、例えばセルロースやポロエチレングリコール等が例示できる。着色剤としては、例えば合成食用色素等が例示できる。懸濁化剤としては、例えばポリビニルピロリドン等が例示できる。乳化剤としては、例えばアルキルスルホン酸等が例示できる。溶解補助剤としては、例えばグリセリン等が例示できる。等張化剤としては、例えばD−ソルビトールや塩化ナトリウム等が例示できる。これらの成分は、その使用目的に合わせて、必要に応じて随時調製物中に含ませることが可能であるが、その量(濃度)については、種々濃度を共存させる予備的な試験を実施し、所望の効果を達成し得る濃度を決定すれば良い。
【0015】
本発明の調製物は、例えば免疫測定を実施する際の前処理工程にて使用されるものである。この免疫測定における前処理工程は、サンプル中のホモシステインの還元と、還元したホモシステインをアデノシンの共存下でS−アデノシルホモシステイン加水分解酵素と接触させてS−アデノシルホモシステインに変換する工程である。この工程に使用する場合、本発明の調製物と還元剤とは前処理工程を実施する直前まで混合せず、分離した状態にしておくことが、S−アデノシルホモシステイン加水分解酵素を安定的に保持する上で好ましい。具体的には、まずジチオステイトール(DTT)、トリス(カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、メルカプトエタノール等から選ばれる一種以上の還元剤をサンプルに添加してホモシステインを還元し、次に本発明の調製物及びアデノシンをサンプルに添加するか、または前記還元剤と本発明の調製物及びアデノシンを同時にサンプルに添加すれば良い。添加するアデノシンの量は逆反応が生じない範囲で適宜決定すれば良いが、通常0.04から0.2mol/Lの範囲とすれば十分である。
【発明の効果】
【0016】
本発明のS−アデノシルホモシステイン加水分解酵素調製物は、溶液状態、凍結状態又は凍結乾燥状態のいずれの状態においてもS−アデノシルホモシステイン加水分解酵素を活性を安定的に保持したまま保存することが可能である。しかも本発明の調製物は、S−アデノシルホモシステイン加水分解酵素を含む溶液にコラーゲンペプチドを添加するという極めて簡単な操作によって製造することが可能であるため、試薬の製造に要する時間が短く、しかも製造に多大なコストを要することもない。
本発明の調製物を、例えばサンプル中のホモシステインをS−アデノシルホモシステインへ転換することが要求される免疫測定用の試薬に使用する場合には、長きに渡り活性を保持したまま保存可能な本発明の効果により、より長期間に渡って品質劣化のない測定試薬を提供することが可能となる。また更に、活性を安定的に保持し得る本発明の調製物によれば、免疫測定における測定間の再現性を向上することも可能である。
【0017】
以下、実施例により本発明の実施の形態を説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものでない。
【実施例】
【0018】
実施例1 S−アデノシルホモシステイン加水分解酵素調製物の製造1
ガラス製バイアル中で、BSA及び40キロユニット/LのS−アデノシルホモシステイン加水分解酵素を含む100mmol/Lのトリス緩衝液(pH8.0)に対し、5.0重量%となるようにブタ皮由来のコラーゲンペプチドを添加し、更に5.0重量%となるようにトレハロースを添加して本発明の調製物を製造した。また比較のため、コラーゲンペプチドを添加しないもの、及び/又はトレハロースを添加しないものも調製し、これらを凍結後、更に乾燥し、凍結乾燥後直後の酵素活性、凍結乾燥後、40℃で7日間保存した後の調製物の酵素活性を測定し、比較した。
【0019】
酵素活性の測定は、市販の免疫測定装置(商品名 AIA−2000、東ソー(株)製)を用い、血液試料を前処理工程に供した後、1ステップ競合法により行った。
【0020】
免疫測定用の試薬としては、(ア)マウスを用いて調製した抗S−アデノシル−L−ホモシステイン抗体と標識物質であるアルカリ性ホスファターゼ(ALP)の結合物、(イ)人為的に調製したS−アデノシル−L−ホモシステインとBSAとの結合物であって、そのBSAフルオレセインを更に結合した結合物、及び、(ウ)マウスを用いて調製した抗フルオレセイン抗体を固定化した、直径約2mmの球状の固相を含む試薬を使用した。なおこの試薬は、前記(ア)と(ウ)をプラスチック製のカップに分注して凍結し、更に(イ)を分注して凍結した後、(ア)から(ウ)を凍結乾燥して製造した試薬である。
【0021】
前処理には、還元剤とアデノシンを含む前処理試薬(1)として、4.0mmol/LのTCEP及び8.0 mmol/Lのアデノシンを含む10 mmol/LのBis−Tris緩衝液を使用し、これを前記のようにして調製したS−アデノシルホモシステイン加水分解酵素を含む調製物と混合後、血液由来サンプルと混合し、37℃で10分間攪拌した。その後、装置のB/F分離機構によりB/F分離操作を実施し、固相成分としてカップ中に残った成分に含まれる標識物質(ALP)の量を測定した。ALPの測定は、その基質である4−メチルウンベリフリルリン酸(4MUP)を加え、ALPによって4MUPが分解されて生成する4−メチルウンベリフェロン(4MU)の増加速度(nmol/秒)を4MUからの蛍光強度を測定して算出した。
【0022】
結果を表1に示す。表1中、HPLC測定値とあるのは、HPLC法によって決定された、各調製物中のS−アデノシルホモシステイン加水分解酵素の量(μmol/L)を示し、各測定値は、測定結果から算出されたS−アデノシルホモシステイン加水分解酵素の量(μmol/L)を示す。また酵素活性(%)は、HPLC法によって測定されたS−アデノシルホモシステイン加水分解酵素の量と測定結果から算出されたS−アデノシルホモシステイン加水分解酵素の量の割合の平均値を示すものである。表1から、コラーゲンペプチド及びトレハロースを共存させた場合に、調製物中のS−アデノシルホモシステイン加水分解酵素を安定的に保持できることが分かる。
【0023】
【表1】

【0024】
実施例2 S−アデノシルホモシステイン加水分解酵素調製物の製造2
ガラス製バイアル中で、BSA及び40キロユニット/LのS−アデノシルホモシステイン加水分解酵素を含む100mmol/Lのトリス緩衝液(pH8.0)に対し、5.0重量%となるようにブタ皮由来のコラーゲンペプチドを添加し、更に5.0重量%となるようにトレハロースを添加して本発明の調製物を製造した。また比較のため、トレハロースに代えてスクロースを5.0重量%となるように添加した比較調製物調製し、これらを凍結後、更に乾燥し、凍結乾燥後直後の酵素活性、凍結乾燥後、40℃で7日間保存した後の調製物の酵素活性を測定し、比較した。
【0025】
酵素活性の測定は、市販の免疫測定装置(商品名 AIA−2000、東ソー(株)製)を用い、血液試料を前処理工程に供した後、1ステップ競合法により行った。
【0026】
免疫測定用の試薬としては、(ア)マウスを用いて調製した抗S−アデノシル−L−ホモシステイン抗体と標識物質であるアルカリ性ホスファターゼ(ALP)の結合物、(イ)人為的に調製したS−アデノシル−L−ホモシステインとBSAとの結合物であって、そのBSAフルオレセインを更に結合した結合物、及び、(ウ)マウスを用いて調製した抗フルオレセイン抗体を固定化した、直径約2mmの球状の固相を含む試薬を使用した。なおこの試薬は、前記(ア)と(ウ)をプラスチック製のカップに分注して凍結し、更に(イ)を分注して凍結した後、(ア)から(ウ)を凍結乾燥して製造した試薬である。
【0027】
前処理には、還元剤とアデノシンを含む前処理試薬(1)として、4.0mmol/LのTCEP及び8.0 mmol/Lのアデノシンを含む10 mmol/LのBis−Tris緩衝液を使用し、これを前記のようにして調製したS−アデノシルホモシステイン加水分解酵素調製物と混合後、血液由来サンプルと混合し、37℃で10分間攪拌した。その後、装置のB/F分離機構によりB/F分離操作を実施し、固相成分としてカップ中に残った成分に含まれる標識物質(ALP)の量を測定した。ALPの測定は、その基質である4−メチルウンベリフリルリン酸(4MUP)を加え、ALPによって4MUPが分解されて生成する4−メチルウンベリフェロン(4MU)の増加速度(nmol/秒)を4MUからの蛍光強度を測定して算出した。
【0028】
結果を表2に示す。表2中、各測定値は、測定結果から算出されたS−アデノシルホモシステイン加水分解酵素の活性を示し、調製物を調製した直後の活性を100%として、凍結乾燥直後及び凍結乾燥後40℃で7日間保存した後の活性を示す。表2から、S−アデノシルホモシステイン加水分解酵素を安定的に保存するためには、コラーゲンペプチドとトレハロースの組合せが最も効果的であることが分かる。
【0029】
【表2】

【0030】
実施例 3 サンプル中のホモシステインの免疫測定
市販の免疫測定装置(商品名 AIA−2000、東ソー(株)製)を用い、血液試料を前処理工程に供した後、1ステップ競合法によりS−アデノシルホモシステイン(ホモシステイン)の測定を行った。
【0031】
還元剤とアデノシンを含む前処理試薬(1)として、4.0mmol/LのTCEP及び8.0mmol/Lのアデノシンを含む10 mmol/LのBis−Tris緩衝液を調製した。S−アデノシルホモシステイン加水分解酵素を含む前処理試薬(2)として、実施例2で製造した調製物のうち、ブタ皮由来のコラーゲンペプチド及びトレハロースを含む調製物を使用した。
【0032】
免疫測定用の試薬としては、(ア)マウスを用いて調製した抗S−アデノシル−L−ホモシステイン抗体と標識物質であるアルカリ性ホスファターゼ(ALP)の結合物、(イ)人為的に調製したS−アデノシル−L−ホモシステインとBSAとの結合物であって、そのBSAフルオレセインを更に結合した結合物、及び、(ウ)マウスを用いて調製した抗フルオレセイン抗体を固定化した、直径約2mmの球状の固相を含む試薬を使用した。なおこの試薬は、前記(ア)と(ウ)をプラスチック製のカップに分注して凍結し、更に(イ)を分注して凍結した後、(ア)から(ウ)を凍結乾燥して製造した試薬である。
【0033】
測定は、前記した装置により実施した。前処理試薬1と前処理試薬2の混合液をまず血液由来サンプルと混合し、37℃で10分間攪拌した。その後、装置のB/F分離機構によりB/F分離操作を実施し、固相成分としてカップ中に残った成分に含まれる標識物質(ALP)の量を測定した。ALPの測定は、その基質である4−メチルウンベリフリルリン酸(4MUP)を加え、ALPによって4MUPが分解されて生成する4−メチルウンベリフェロン(4MU)の増加速度(nmol/秒)を4MUからの蛍光強度を測定して算出した。
【0034】
その結果、ブタ皮コラーゲンペプチド及びトレハロースを添加して凍結乾燥を行った本発明の調製物は、S−アデノシルホモシステイン加水分解酵素の失活が抑制されており、前記のように前処理試薬として使用することによって良好な免疫測定の結果を得ることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
S−アデノシルホモシステイン加水分解酵素及びコラーゲンペプチドを含む、安定化されたS−アデノシルホモシステイン加水分解酵素調製物。
【請求項2】
更にトレハロースを含むことを特徴とする、請求項1の安定化させたS−アデノシルホモシステイン加水分解酵素調製物。
【請求項3】
凍結乾燥されていることを特徴とする、請求項1又は請求項2の安定化させたS−アデノシルホモシステイン加水分解酵素調製物。

【公開番号】特開2012−139167(P2012−139167A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−294130(P2010−294130)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】