説明

安定化した基準溶液

イムノアッセイで較正剤および対照として使用するため、塩基性ポリペプチド分析物と、塩基性側鎖を有するアミノ酸と、安定化用タンパク質とを含む安定化した基準溶液が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定化した基準溶液に関する。より詳細には、本発明は、1種類以上の心臓マーカーの基準溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
全血の血清または血漿に関し、実験室での検査が自動化された装置の中で日常的に行なわれている。内部品質制御は、装置の較正性能、中でも装置の精度と再現性をモニターするのに用いられる方法である。較正剤は、複数の応答レベルで診断アッセイおよび/または装置システムが正確であることを確認するのに用いられる。対照は、診断アッセイおよび/または装置システムの精度と信頼性を調べて確認するのに用いられる。較正剤と対照の安定性が大きくなることで熱ストレスや冷蔵保管条件に耐えられるようになると、システムの信頼性が向上する、および/または1回使用してから次に使用するまでの輸送と保管がより便利になる。
【0003】
較正剤と対照の両方とも、分析するサンプルを内部に含むマトリックスと性質が似たマトリックスの中に1つまたは複数の分析物が含まれた溶液である。較正剤と対照は、時に長期にわたって保管せねばならないことがある。問題の分析物が何であるかに応じ、基準溶液の安定性に関する要求が問題となる可能性がある。例えばタンパク質とペプチドは、水溶液中で酵素、酸化、還元のいずれかによって変化する可能性がある。
【0004】
水溶液に溶けた分析物としての塩基性ペプチドは、保管している間に物理的、化学的に変化する可能性がある。こうした変性プロセスが起こる結果として結合活性が失われるため、液体状態で長期間保存しておける較正材料や対照材料の開発が妨げられている。
【0005】
タンパク質を安定化させる一般的な添加剤としては溶かした成分(例えばスクロース、グリセリン)があるが、これらはアッセイにおけるバックグラウンド・ノイズを増加させたり、液体マトリックスの粘性を増大させたりするため、測定とアッセイの精度を低下させる。他の安定化法では、タンパク質を凍結乾燥させ、使用時に再構成する必要がある。凍結乾燥は、タンパク質またはポリペプチドの活性に影響を与える可能性がある。
【0006】
いくつかの生理学的塩基性タンパク質は、心筋梗塞と心不全を検出するための心臓バイオマーカーとして有用である。例えばトロポニンIとトロポニンTは、心筋梗塞のマーカーとして、また、心臓疾患(例えば不安定狭心症、鬱血性心不全)の短期的、長期的なリスクを有する患者を見つけ出すためのマーカーとして有用である。B型ナトリウム排泄増加性ペプチド(BNP)も心臓マーカーとして用いられてきた。ヒト心臓のトロポニンI(cTnI)とヒトBNPの等電点pIは、ほぼ10である。
【0007】
基準溶液中のタンパク質の安定性を大きくする一方で、そのタンパク質の構造を維持するとともにアッセイの性能に影響しないマトリックスが望まれている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明により、塩基性のタンパク質またはポリペプチドと、塩基性側鎖を持つアミノ酸(例えばアルギニン、ヒスチジン、リシン)と、安定化用タンパク質(例えばウシ血清アルブミン)とを含む安定な基準溶液が提供される。本発明の1つの特徴によれば、この基準溶液は、非イオン性界面活性剤(例えばポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(トゥイーン))、キレート剤(例えばエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレンビス(オキシエチレンニトリロ)-四酢酸(EGTA)、クエン酸塩、シュウ酸塩)、金属塩のいずれか、またはこれらの混合物も含んでいる。
【0009】
本発明の1つの特徴によれば、塩基性タンパク質は、天然トロポニンI-T-C複合体(例えばSCIPAC社、シッティングボルン、イギリス国から市販されているもの)を含むヒト心臓抽出液から部分精製したcTnI分画である。別の1つの特徴によれば、このタンパク質は、ナトリウム排泄増加性ペプチド(例えばB型ナトリウム排泄増加性ペプチド)またはその断片である。
【0010】
本発明の1つの特徴によれば、基準溶液は、“多分析物”の対照または較正剤である。この明細書では、“多分析物”は、診断テストおよび/または装置システムを調べるのに使用できて、少なくとも2種類の異なる分析物に対応する少なくとも2種類の異なったタンパク質またはポリペプチドを含む1つの基準溶液を意味する。
【0011】
本発明の基準溶液は、この溶液を作って調べる1つまたは複数の分析物をテストするための自動化されたあらゆる分析装置で使用できるように最適化することができる。1つの特徴によれば、基準溶液は、アクセス(登録商標)イムノアッセイ系、アクセス(登録商標)2イムノアッセイ系、ユニセル(登録商標)DxI 800イムノアッセイ系、シンクロンLX(登録商標)I 725臨床系(“ベックマン系”)で用いるのに適している。なおそれぞれの系は、ベックマン・コールター社(フラートン、カリフォルニア州)から入手できる。
【0012】
別の1つの特徴によれば、基準溶液は、塩基性ポリペプチド分析物の存在または量を検出するイムノアッセイの品質を保証する方法で使用される。この方法は、その塩基性ポリペプチド、またはその断片、またはその関連ポリペプチドと、安定化用溶液とを含む基準溶液を使用する操作を含んでいて、その安定化用溶液は、アルギニン、リシン、ヒスチジンからなるグループの中から選択した1種類以上のアミノ酸と、安定化用タンパク質とを含んでいる。次に、この安定な基準溶液を、患者サンプルの中に塩基性ポリペプチドが存在していることを検出する設計にしたアッセイ・テスト・キットでサンプルとして使用する。一実施態様では、複数の安定な基準溶液を調製するが、そのそれぞれの中には、基準にするために量がわかっているポリペプチド、またはその断片、またはその関連ポリペプチドが、異なる量で含まれているようにする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、患者のサンプルに含まれる塩基性タンパク質分析物(例えば心臓マーカーであるトロポニンIやBNP)の存在および/または量を検出するアッセイで使用するための安定な基準溶液に関する。この基準溶液は、塩基性ポリペプチドと安定化用溶液を含んでおり、その安定化用溶液は、アルギニン、リシン、ヒスチジンからなる群より選択した1種類以上のアミノ酸と、安定化用タンパク質とを含んでいる。この安定化した基準溶液は、測定可能な量の基準タンパク質または基準ポリペプチドが含まれた対照として用いること、あるいは基準タンパク質または基準ポリペプチドが既知量含まれた較正製剤として用いることができる。1つの特徴によれば、基準溶液は、既知のさまざまな分子量の基準タンパク質または基準ポリペプチドを複数種含んでいる。本発明の基準溶液は、4℃で9週間にわたって安定である。この明細書では、本発明の基準溶液との関連で用いる“安定な”または“安定化した”は、その基準溶液のタンパク質成分またはポリペプチド成分を冷蔵温度で30日間を超えて保管できるとともに、輸送条件で起こる可能性のある熱ストレスによる崩壊に対する抵抗力があることを意味する。
【0014】
安定化した基準溶液は、心臓疾患を診断するための対照または較正剤を提供する臨床セットまたは診断セットにおいて役立つ。心臓疾患を検出して評価するのに必要な試薬(較正剤や対照を含む)は液体として保管できるため、利用するのが簡単であり、心臓-肺の状態を迅速かつ効率的に評価することができる。心臓疾患の診断に用いられる2種類の心臓マーカー、すなわちトロポニンIとBNPに関し、本発明による安定な基準溶液についてこれから説明する。
【0015】
この明細書では、“マーカー”という用語は、対象から取得したテスト・サンプルをスクリーニングするための分析物として用いられるタンパク質またはポリペプチドを意味する。本発明の基準溶液との関連で用いる“タンパク質”および“ポリペプチド”という用語には、その任意の断片、中でも免疫学的に検出可能な断片が含まれるものとする。さらに、マーカーとして有用なある種のタンパク質とポリペプチドは、不活性な形態で合成し、それをその後、例えばタンパク質分解によって活性化してもよい。“タンパク質”および“ポリペプチド”という用語には、マーカーそのものの代用物として検出できるマーカーも含まれる。これらポリペプチドは、例えばマーカーの“プレ”形態、“プロ”形態、“プレプロ”形態であってもよいし、成熟マーカーを形成するために取り出した“プレ”断片、“プロ”断片、“プレプロ”断片であってもよい。
【0016】
心臓のトロポニンIは心臓特異的マーカーであり、心臓疾患の診断にしばしば用いられる。心臓のトロポニンIは、3つのサブユニットI、T、Cの複合体として存在する収縮性タンパク質であり、心筋でのみ発現する。トロポニンIは、遊離した状態、すなわち複合体化していない状態でトロポニンI(TnI)として、またはトロポニンCとの複合体(二重IC)として、またはトロポニンTとの複合体(二重IT)として、またはトロポニンTとトロポニンC両方との複合体(三重ITC)として見いだされる可能性がある。
【0017】
心臓疾患または環状動脈疾患が起こったとき、心筋が損傷することによってTnIがその人の血液系に放出される。診断の目的では、血清中または血漿中にTnIが存在しているかどうかが、心筋の損傷が起こったかどうかを評価するのに役立つ。
【0018】
初期トリアージュの間、一般に、胸部に痛みがあるか、環状動脈疾患を示唆する他の症状がある患者から、血液サンプルを3つ採取する。これら血液サンプルにTnIが存在しているかどうかと、そのレベルを調べる。TnIレベルの上昇は診断に役立つ。なぜならTnIは、通常は血液系の中を循環せず、胸部に痛みが発生してから3時間後という早い段階で検出することができ、急性心筋梗塞の9日後まで上昇したままだからである。TnIのレベル測定は、急性狭心症に起因する合併症のリスク評価にも役立つ。
【0019】
心臓疾患が起こった後、患者の血液中で優勢なTnIの形態は二重IC複合体であり、三重ITC複合体の量はそれよりも少ない。異なる形態は異なる認識のされ方をしているという証拠があるため、サンプル中に存在するTnIの合計量を偏りなく測定できるよう、異なる形態を同じように認識するアッセイ法を利用することが有用である。
【0020】
心臓のトロポニンI(cTnI)を調べるための多数のアッセイが市販されている。例えば、ダーデ・ベーリング・ディメンション(登録商標)アッセイ、アボットAxSYM(登録商標)アッセイ、アクセス(登録商標)AccuTnI(登録商標)アッセイなどがある。それぞれのアッセイ生成物は、特定の装置系で使用するように設計された異なる形式を持つが、本発明の安定な基準溶液は、液体形態で保管する基準溶液を利用することが望ましいあらゆるアッセイ形式に合わせることができる。1つの特徴によれば、本発明の基準溶液は、ベックマン・システムでの使用に適している。心臓トロポニンIに関して現在市販されているアクセス(登録商標)イムノアッセイ・テスト・キットは、Uettwiller-Geiger他、「トロポニンIに関する自動化アッセイの多中心評価」、Clin. Chemistry、第48巻6号、869〜876ページ、2002年に記載されており、その内容は参考としてこの明細書に組み込まれているものとする。簡単に述べるならば、このイムノアッセイでは、2つのマウス・モノクローナル抗体を用いる。一方の抗体はトロポニンIのアミノ酸24〜40に向かい、アルカリホスファターゼと共役する。他方の抗体はトロポニンIのアミノ酸41〜49に向かい、常磁性粒子上にコーティングされる。これら抗体は、遊離した心臓トロポニンI、すなわち二重トロポニンIC複合体と三重トロポニンITC複合体を認識する。サンプル中に存在するTnIが常磁性粒子上の抗体と結合し、アルカリホスファターゼ共役体が、その結合したTnIと結合する。結合の量または存在は、アルカリホスファターゼと反応する化学発光基質を添加することにより、光測定器を用いて検出される。サンプル中の分析物の量は、記憶させておいたマルチポイント較正曲線から定量化する。
【0021】
冷蔵温度(約2℃〜約10℃)で何日間にもわたって安定なままに留まるため、臨床の場で容易にアッセイを実行でき、冠状動脈疾患やそれ以外の疾患状態の診断と評価を迅速に行なうことのできる、保管用基準溶液を提供することが望ましい。1つの特徴によると、本発明による安定な基準溶液は、液体の形態で、室温または37℃では少なくとも7日間にわたって安定であり、4℃では約9週間もの長期にわたって安定である。
【0022】
本発明の1つの特徴によると、基準溶液は、天然TnI、組み換えTnI、合成TnIをある量含むことができる。本発明の好ましい1つの特徴によると、基準溶液は、天然TnI(例えばストラテジック・バイオソリューションズ社またはSCIPAC社から入手できるもの)を含んでいる。TnIの量を順番に増加させた一連の較正剤を用意することで標準曲線が得られ、患者のサンプル中のTnIの量を数学的に決定できるようにする。基準溶液は、対照として用いることもできる。
【0023】
心臓マーカーとして有用な別のタンパク質は、B型ナトリウム排泄増加性ペプチド(BNP)である。このタンパク質は、鬱血性心不全の診断と評価、ならびに患者が急性冠状動脈症候群になるリスクを層化するのに役立つ。BNPは血圧調節に関与するホルモンであり、血圧が上昇するにつれて血流中に放出される。BNPの血中レベルは、鬱血性心不全の程度または段階と正比例している。
【0024】
BNPの血中レベルを評価することは、鬱血性心不全を初期段階で検出する上で有用である。BNPの血漿レベルを評価することは、特定の患者における鬱血性心不全の程度を診断し評価するための、有用で、迅速で、非侵襲的な方法である。
【0025】
BNPのレベルは、従来技術で知られているさまざまな方法で検出して定量化することができる。市販されているそのような方法の第1は、バイオサイト社(サンディエゴ、カリフォルニア州)から入手できるトリアージュ(登録商標)BNPテストである。トリアージュ(登録商標)BNPテストは、全血サンプル中と血漿サンプル中のB型ナトリウム排泄増加性ペプチド(BNP)を測定する蛍光イムノアッセイである。このテストは、BNPに対するマウスのモノクローナル抗体とオムニクローナル抗体を含んでおり、その抗体は、蛍光染料で標識し、固相に固定化されている。
【0026】
“標識”、“標識した”、“標識した共役体”などは、抗体、受容体、または他の結合要素と、化学的標識(例えば酵素、蛍光化合物、放射性同位体、発色団、検出可能な他の任意の化学種)との共役体を意味する。この共役体は、対応する結合パートナーと特異的に結合する能力を保持している。“検出系”などの用語は、以下に具体的に示すように、検出可能な信号を出す化学系を意味する。標識の代表例としては、従来技術で知られている任意のもの、例えば酵素、顔料、染料、発蛍光団、放射性同位体、安定なフリーラジカル発光体(例えば化学発光体)、生物発光体などがある。本発明の方法で有用な信号検出システムでは、標識は酵素であり、標識した試薬を特定の基質に曝露し、インキュベートして色、蛍光、ルミネッセンスを出させることにより、その酵素から検出可能な信号を発生させることができる。
【0027】
本発明による安定な基準溶液は、BNPアッセイの実施が可能なあらゆる系で使用できるようにすることができる。例えばロッシュ・ディアグノスティックス社(インディアナポリス、インディアナ州)から入手できるエレクシス(登録商標)プロBNP(プロ脳ナトリウム排泄増加性ペプチド)アッセイ、ADVIA(登録商標)Centaur(登録商標)イムノアッセイ系で使用するために開発され、バイエル・ディアグノスティックス社(タリータウン、ニューヨーク州)から入手できる(B型ナトリウム排泄増加性ペプチド(BNP)アッセイ、アボットAxSYM(登録商標)自動化イムノアッセイ系で使用するためのアクシス-シールドBNPテストなどがある。
【0028】
本発明による安定な基準溶液は、検出する生理学的ポリペプチドに対して希釈直線性を有する測定可能な量のポリペプチドを含んでいることに加え、塩基性側鎖を有する1種類以上のアミノ酸(例えばアルギニン、リシン、ヒスチジン)を水溶液の中に溶かしたものと、安定化用タンパク質(例えばアルブミン、ヒト血清アルブミン、ウシ血清アルブミン)を含んでいる。アミノ酸と安定化用タンパク質の濃度をそれぞれのアッセイに合わせることで、熱ストレス安定性を大きくするとともに、タンパク質やポリペプチドの折り畳みが変化したり、タンパク質やポリペプチドが変性したりしないよう保護する。濃度は、基準溶液中の基準ポリペプチドが、生理学的な血清環境または血漿環境においてそのポリペプチドと希釈並行性を示すとともに、分析物希釈直線性を示すことができるようにも調節する。溶液の中に滴定することで、例えば濃度が2.5〜10%(w/v)の範囲のアルギニンについて実験的に調べた。
【0029】
一般に、イムノアッセイのための較正剤と対照は、測定する分析物を正常なヒト血清に溶かすことによって調製する。これは、較正剤が臨床血清サンプルとできるだけ適合するようにするために行なう。しかし塩基性ポリペプチド(例えばトロポニンやBNP)は、正常なヒト血清に組み込むときに分解する。ヒト血清の平均タンパク質濃度とほぼ等しくなるようにするのに十分な量のウシ血清アルブミンやそれ以外のタンパク質(例えばヒト血清アルブミン、ウシ胎仔血清、ウマ血清、ウシγグロブリン、オボアルブミン)を利用するとともに、血清のpHおよびイオン強度とほぼ等しくなるように緩衝液と塩を利用することで、正常なヒト血清の人工マトリックスを調製する。例えばBSAは、1%〜7%の範囲の濃度で利用することができる。安定性は、本発明の基準溶液を、同様にして調製した市販の較正剤または対照(市販の較正剤または対照は、有効ポリペプチド含有量が標準的な方法ですでに測定されている)の希釈液と比較することによって調べられる。本発明による基準材料の応答は、-20℃で保管した較正剤または対照と比較すること、あるいはベースラインと比較することができる。
【0030】
塩基性側鎖を有するあらゆる形態のアミノ酸を使用できる。例えば合成物供給源や天然物供給源からのアミノ酸の立体異性体(L、D、DL)またはアナログを使用することができる。アミノ酸のアナログは、自然界に存在するアミノ酸の誘導体である。
【0031】
タンパク質またはポリペプチドの親水性領域と疎水性領域の方向を最適にし、イムノアッセイの用途においてエピトープ部位が抗体によって容易に認識されるようにするため、非イオン性界面活性剤(例えばポリソルベート80(トゥイーン80)、ポリソルベート20(トゥイーン20)、ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレンエステル、ポリオキシエチレンアルコール、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンソルビトールエステル)を添加することができる。エピトープ部位の方向が最適だと、分析物に対する抗体の結合が増加する。非イオン性界面活性剤は、凍結/解凍サイクルの間のタンパク質またはポリペプチドの安定化を助けたり、その分子を力学的剪断力から保護したりもする。
【0032】
さらに、キレート剤(例えばエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレンビス(オキシエチレンニトリロ)四酢酸(EGTA)、クエン酸塩、シュウ酸塩)を基準溶液で使用し、基準タンパク質または基準ポリペプチドをさらに安定化させることができる。例えばEDTAは、タンパク質またはポリペプチドのメチオニンが酸化しないよう保護する。しかしEDTAなどのキレート剤は、いくつかの塩基性ポリペプチド(例えばトロポニンI)の安定性に悪影響を及ぼす一方で、他のポリペプチドの安定性は向上させる可能性がある。別の場合には、患者の血漿マトリックスのコンシステンシーを維持するためにキレート剤を添加する。したがってタンパク質の安定性に関しては効果が見られなくとも、キレート剤は望ましい。
【0033】
本発明の一実施態様では、バイオサイト社から入手したBNPポリペプチドを安定化用溶液に組み込んだものを含む安定な基準溶液を調製する。この安定化用溶液は、1%(w/v)のウシ血清アルブミンと、5%(w/v)のアルギニンと、0.15%(v/v)の非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80)が含まれた緩衝液を含んでいる。一実施態様では、BNPアッセイのための基準溶液は、4mMのEDTAも含んでいる。
【0034】
BNP基準溶液にとって有用な基準曲線の範囲は、濃度が0.0pg/ml〜約5000pg/mlである。TnIにとって有用な基準曲線の範囲は、濃度が0.0ng/ml〜約100.0ng/mlである。この範囲の上限は、必要に応じて、すなわち個々の用途で許される範囲で、上下させることができる。当該範囲は、標準レベルの2倍以上にわたって分布していてもよい。
【0035】
特定の用途に応じるため、さまざまなレベルの濃度が含まれた本発明の安定な対照を用意することができる。例えば3つのレベルの対照、すなわち低、中、高のレベルの対照を用意し、対照中のレベルがサンプル中の大まかなレベルまたは標準曲線にほぼ対応するようにする。BNP基準溶液にとって有用な対照のレベルとして、約80pg/ml〜約2200pg/mlの範囲にわたる高レベルが挙げられる。この場合に低レベルは分析物が約80pg/mlであり、中レベルは分析物が約400pg/mlであり、高レベルは分析物が約2200pg/mlである。トロポニンIにとって有用な対照のレベルとして、約0.05ng/ml〜約50ng/mlの範囲の濃度が挙げられる。最低レベルは約0.05ng/mlの濃度、中レベルは約1.7ng/mlの濃度、高レベルは約50ng/mlの濃度にすることができる。これら3つのどのレベルにおける量も、個々の用途に応じて増減させることができる。
【0036】
適切なイオン環境を提供するため、一価の塩と二価の塩(例えば塩化ナトリウム、塩化カルシウム)も水溶液に含まれていてよい。塩のイオンは、タンパク質分子またはペプチド分子の全体にわたって分布していて電荷が逆の極性領域とペアをなす。
【0037】
安定化した基準溶液中に保管されて安定化したタンパク質上またはポリペプチド上の電荷は、その水溶液のpH環境と、当業者によく知られている方法で選択した適切な緩衝液とによって制御される。緩衝液および/または水溶液の適切なpHは、当業者に知られているように、安定化させる特定のタンパク質またはポリペプチドの等電点から決定することができる。
【0038】
本発明の別の特徴は、イムノアッセイ・キットに関する。このイムノアッセイ・キットは、トロポニンとBNPからなる群より選択される心臓マーカー・ポリペプチド分析物の1つのエピトープ部位と結合する第1の抗体と、その心臓マーカー・ポリペプチド分析物の異なるエピトープ部位と結合する第2の抗体とを含むとともに、一群の安定な液体較正剤をさらに含んでいて、前記抗体のうちの少なくとも一方が酵素と結合する。このキットの各較正剤は、既知量の心臓マーカー・ポリペプチドを含んでおり、このポリペプチドの選択は、天然トロポニンI、天然トロポニンI-C複合体、天然トロポニンI-T-C複合体、合成トロポニンI-T-C複合体、組み換えトロポニンI-T-C複合体、天然B型ナトリウム排泄増加性ペプチド、合成B型ナトリウム排泄増加性ペプチド、組み換えB型ナトリウム排泄増加性ペプチドからなる群より行なう。さらに、各較正剤は安定化用溶液を含んでおり、その安定化用溶液は、塩基性側鎖を有する1種類以上のアミノ酸と、安定化用タンパク質とを含んでいる。
【0039】
以下の実施例は本発明を説明するものであり、添付の請求項に記載した本発明の範囲を制限することは意図していない。
【実施例1】
【0040】
トロポニンIの較正剤および対照となる安定化基準溶液
【0041】
(ヒト心臓組織から精製した)天然トロポニンIを3通りの異なる濃度で安定化用溶液の中に含む複数の安定な基準溶液を調製した。当該トロポニン・ポリペプチドを、1%(w/v)のウシ血清アルブミンと、5%(w/v)のアルギニンと、0.15%(v/v)の非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80)を有する緩衝液を含む安定化用溶液に組み込んだ。トロポニンIを含む溶液のpHを6.8±0.1に調節した。当該溶液は、基準溶液中に一般に見られる保存剤も含んでいた。2つの異なる販売業者からの天然トロポニンI抗原を、それぞれの基準溶液に組み込んだ。市販されているアクセス(登録商標)AccuTnI(登録商標)アッセイ・テスト・キットを用いるアクセス(登録商標)イムノアッセイ系を利用し、当該基準溶液を45℃にて3日間、5日間、11日間保管した後にテストした。結果を以下に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
本発明に関する上記の説明と、本発明の応用を示す実施例に関する上記の説明は、本発明の利用方法に関する単なる例示である。当業者には、有用な他の変更例が明らかであろう。したがって本発明は、添付の請求項によってだけ制限されるものと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル中の心臓マーカーの存在または量を検出するアッセイ用の、基準ポリペプチドを含む安定な基準溶液であって、当該基準ポリペプチドが、天然トロポニンI、天然トロポニンI-C複合体、天然トロポニンI-T-C複合体、合成トロポニンI-T-C複合体、組み換えトロポニンI-T-C複合体、天然B型ナトリウム排泄増加性ペプチド、合成したB型ナトリウム排泄増加性ペプチド、組み換えによるB型ナトリウム排泄増加性ペプチドからなる群より選択され、及び当該基準溶液がさらに安定化用溶液を含み、当該安定化用溶液が、塩基性側鎖を有する複数のアミノ酸、及び安定化用タンパク質を含む、前記基準溶液。
【請求項2】
前記安定化用タンパク質が、ヒト血清アルブミン、ウシ血清アルブミン、ウシ胎仔血清、ウマ血清、ウシγグロブリン、オボアルブミンからなる群より選択される、請求項1に記載の基準溶液。
【請求項3】
前記安定化用タンパク質がウシ血清アルブミンである、請求項1に記載の基準溶液。
【請求項4】
前記安定化用溶液中のアミノ酸が、アルギニン、リジン、ヒスチジンからなる群より選択される、請求項1に記載の基準溶液。
【請求項5】
前記安定化用溶液中のアミノ酸がアルギニンである、請求項1に記載の基準溶液。
【請求項6】
前記基準ポリペプチドが、前記サンプル中に存在する心臓マーカーの生理学的アイソフォームと並行した希釈直線性を有し、及び前記基準ポリペプチドの前記希釈直線性が、冷蔵温度で少なくとも9週間にわたって維持される、請求項1に記載の基準溶液。
【請求項7】
非イオン性界面活性剤をさらに含む、請求項1に記載の基準溶液。
【請求項8】
前記非イオン性界面活性剤がポリソルベート80である、請求項7に記載の基準溶液。
【請求項9】
前記基準ポリペプチドがB型ナトリウム排泄増加性ペプチドである、請求項1に記載の基準溶液。
【請求項10】
キレート剤をさらに含む、請求項9に記載の基準溶液。
【請求項11】
前記キレート剤が、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレンビス(オキシエチレンニトリロ)-四酢酸(EGTA)、クエン酸塩、シュウ酸塩からなる群より選択される、請求項10に記載の基準溶液。
【請求項12】
金属塩をさらに含む、請求項1に記載の基準溶液。
【請求項13】
サンプル中の複数の異なるポリペプチド分析物の存在又は量を検出するアッセイ用の安定な対照溶液であって、少なくとも1つのポリペプチド分析物が、トロポニンI及びB型ナトリウム排泄増加性ペプチドからなる群より選択されること、前記対照溶液が複数の基準ポリペプチドを含んでいて、検出されるそれぞれのポリペプチド分析物につき1つの基準ポリペプチドが含まれるようにされること、及び前記対照溶液がさらに安定化用溶液を含み、当該安定化用溶液が、アルギニン、リジン、及びヒスチジンからなる群より選択した複数のアミノ酸、及び安定化用タンパク質を含むことを特徴とする前記対照溶液。
【請求項14】
前記安定化用タンパク質が、ヒト血清アルブミン、ウシ血清アルブミン、ウシ胎仔血清、ウマ血清、ウシγグロブリン、オボアルブミンからなる群より選択される、請求項13に記載の対照溶液。
【請求項15】
前記安定化用タンパク質がウシ血清アルブミンである、請求項13に記載の対照溶液。
【請求項16】
前記基準ポリペプチドのそれぞれが、ヒト・サンプル中に存在する対応ポリペプチド分析物の生理学的アイソフォームと並行した希釈直線性を持ち、この希釈直線性が、冷蔵温度で少なくとも9週間にわたって維持される、請求項13に記載の対照溶液。
【請求項17】
非イオン性界面活性剤をさらに含む、請求項16に記載の対照溶液。
【請求項18】
前記非イオン性界面活性剤がポリソルベート80である、請求項17に記載の対照溶液。
【請求項19】
金属塩をさらに含む、請求項16に記載の対照溶液。
【請求項20】
サンプル中のB型ナトリウム排泄増加性ペプチドの存在又は量を検出するイムノアッセイ用の、測定可能な量のB型ナトリウム排泄増加性ペプチド及び安定化用溶液を含む安定な基準溶液であって、当該安定化用溶液が、アルギニン、リジン、及びヒスチジンからなる群より選択される複数のアミノ酸、ウシ血清アルブミン及びヒト・アルブミンからなる群より選択される安定化用タンパク質、キレート剤、及び緩衝化媒体を含む前記基準溶液。
【請求項21】
前記アミノ酸及び前記安定化用タンパク質が、ヒト・サンプル中に存在するその生理学的アイソフォームに対するB型ナトリウム排泄増加性ペプチドの希釈直線性を、冷蔵温度で少なくとも9週間にわたって維持するのに十分な量存在している、請求項20に記載の基準溶液。
【請求項22】
サンプル中の複数の異なる心臓マーカーの存在又は量を検出するアッセイ用の安定な対照溶液であって、少なくとも1つの心臓マーカーが、トロポニンI及びB型ナトリウム排泄増加性ペプチドからなる群より選択されること、前記対照溶液が、検出されるそれぞれの心臓マーカーにつき検出可能な量の基準ポリペプチドを含むとともに、塩基性側鎖を有する複数のアミノ酸、及び安定化用タンパク質を含む安定化用溶液を含むことを特徴とする前記対照溶液。
【請求項23】
前記心臓マーカーが、トロポニンI、トロポニンT、BNP、及びNT-プロBNPを含む、請求項22に記載の対照溶液。
【請求項24】
サンプル中の心臓マーカーの存在又は量を検出するアッセイ用の基準溶液の保管安定性を増大する方法であって、検出される心臓マーカーのための基準ポリペプチドを、天然トロポニンIとBNPからなる群より選択して、緩衝化媒体に組み込み;アルギニン、リジン、ヒスチジンからなる群より選択される複数のアミノ酸を前記緩衝媒体に添加し;安定化用タンパク質を添加する操作を含む方法。
【請求項25】
前記のアミノ酸及び前記安定化用タンパク質を、ヒト・サンプル中に存在するその生理学的アイソフォームに対する基準ポリペプチドの希釈直線性を、冷蔵温度で少なくとも9週間にわたって維持するのに十分な量添加する、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
心臓マーカーの存在又は量を検出するイムノアッセイ・テストの品質を保証する方法であって、天然トロポニン及びBNPからなる群より選択される基準ポリペプチドを含むとともに、アルギニン、リジン、及びヒスチジンからなる群より選択される複数のアミノ酸と、未知のサンプルとしての安定化用タンパク質とが含まれる安定化用溶液を含む基準溶液をイムノアッセイ・テストとともに利用する操作を含む、前記方法。
【請求項27】
トロポニンとBNPからなる群より選択される心臓マーカーの1つのエピトープ部位と結合する第1の抗体と、当該心臓マーカーの異なるエピトープ部位と結合する第2の抗体とが含まれていて、これら抗体のうちの少なくとも一方が標識されており、一群の安定な液体較正剤がさらに含まれていて、それぞれの較正剤には、天然トロポニンI、天然トロポニンI-C複合体、天然トロポニンI-T-C複合体、合成トロポニンI-T-C複合体、組み換えトロポニンI-T-C複合体、天然B型ナトリウム排泄増加性ペプチド、合成B型ナトリウム排泄増加性ペプチド、組み換えB型ナトリウム排泄増加性ペプチドからなる群より選択される既知量の基準と、安定化用溶液とが含まれており、当該安定化用溶液は、アルギニン、リジン、ヒスチジンからなる群より選択される複数のアミノ酸と、安定化用タンパク質とを含む、イムノアッセイ・キット。

【公表番号】特表2007−514954(P2007−514954A)
【公表日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−545693(P2006−545693)
【出願日】平成16年12月1日(2004.12.1)
【国際出願番号】PCT/US2004/040129
【国際公開番号】WO2005/066604
【国際公開日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【出願人】(505275295)ベックマン コールター,インコーポレイティド (25)
【Fターム(参考)】