説明

安定化した気体のナノバブルを含有する生体用水の製造方法及び生体用水

【課題】ナノバブルを含むことにより生体に対して有用な水に対して、そのナノバブルの濃度を高くすることにより、生体に対しての有用性の向上を図ることを目的とする。
【解決手段】本発明では、原料水1に、サイズ50μm以下のマイクロバブルとして気体を供給し、このマイクロバブルを物理的刺激により圧壊させて、安定化した気体のナノバブルを水中に含有させた中間水を生成し、この中間水を遠心抽出器4に供給して、その軽液側から取り出す。このことからナノバブルの濃度を上昇させることができ、生体に対しての有用性の向上を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素やオゾン等の各種気体の安定化したナノバブルを含有する生体用水の製造方法及び生体用水に関する。
【背景技術】
【0002】
10μm〜数十μm程度の気泡、いわゆるマイクロバブルを、カキやホタテ貝等の水産物の養殖等に利用することが従来から行われている。一方、近年は、マイクロバブルよりも更に微細なナノレベルの大きさの気泡、即ち、酸素、オゾン、窒素等の所望の気体のナノバブルを含有させた水が注目されており、医療、農業、水産・養殖等の各分野への応用が図られつつある。
【0003】
例えば、非特許文献1には、マイクロバブルとナノバブルの基礎と工学的な応用について記載されている。また非特許文献2〜4には、オゾンナノバブルの殺菌能や、オゾンナノバブルの細胞賦活化能、組織保存能等を利用した医療分野への応用について記載されている。また、非特許文献5には、農業への応用、非特許文献6にはマイクロあるいはナノバブルの水産・養殖分野への応用について記載されている。また上記非特許文献1には、ナノバブルの解析方法として、動的光散乱光度計による測定方法や、ナノバブルに起因するフリーラジカルを計測する電子スピン共鳴法(ESR)による計測方法が記載されている。
【0004】
更に、マイクロバブルの生成と、ナノバブルとしての安定化のメカニズム、そして概念的な安定化の方法は、上記非特許文献1に記載されており、また特許文献1には、オゾンナノバブル水の製造方法の具体例が、特許文献2には酸素ナノバブル水の製造方法の具体例が記載されている。
【0005】
即ち、特許文献1又は特許文献2に記載されたオゾンナノバブル又は酸素ナノバブルの製造方法は、ミネラル類の電解質イオンが混入した原料水に、直径が10〜50μmの微小気泡としてオゾン又は酸素を供給し、そして水中放電に伴う衝撃波や、水の流動時に生じる圧縮、膨張及び渦流等の物理的刺激を加えることにより、微小気泡を縮小させ、この際、水素イオンや水酸化物イオン及び電解質イオンが気液界面に濃縮されて縮小された微小気泡の周囲を取り囲む殻として作用させることにより、縮小した微小気泡、即ち、オゾンナノバブル又は酸素ナノバブルを水中に安定化して存在するようにするものである。
【0006】
これらの特許文献1又は特許文献2においては、オゾン又は酸素が、気泡の中心粒径約140nm又は約150nmのナノバブルとして含まれており、これらを1ヶ月以上の長期に渡って、ほぼ製造時の状態に維持できるとされている。
【0007】
本発明においては、このように水素イオンや水酸化物イオン及び電解質イオンが微小気泡の周囲を取り囲んで安定化している微小気泡を「ナノバブル」と称する。また本発明においては、上述したように物理的刺激を加えて、微小気泡が縮小する動作を、「圧壊」と称する。
【0008】
そして上述したようなナノバブルを含む水は、非特許文献2の項目3に記載されているように、生体に対して、組織の保存能力の他、修復、再生などの様々な力価や殺菌能を有しており、非特許文献3では、オゾンナノバブルを含む水の強力な殺菌効果(塩素系の殺菌剤と比較して10〜30倍の殺菌効果)を利用した歯周病治療への応用において、含嗽による歯周ポケットの改善、BOPの減少が報告されている。
【0009】
ここで、従来から広く利用されているマイクロバブルの利用形態を考えると、その寿命は、粒径にもよるが、長くても10分程度であり、上述したように、少なくとも1ヶ月以上というナノバブルの寿命と比較すると非常に短いため、予め製造したマイクロバブルを含む水を容器に充填して保管し、必要に応じて容器から取り出して利用するという利用形態は考えられない。
【0010】
これに対して、本発明に係るナノバブルの寿命は、上述した特許文献1や特許文献2にも示されるように、少なくとも1ヶ月以上であることから、製造したナノバブルを含む水を容器に充填して保管し、必要に応じて容器から取り出して利用する形態を採用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第4059506号公報
【特許文献2】特許第4080440号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】高橋、「マイクロバブルとナノバブルの基礎と工学的応用」、月刊マテリアルインテグレーション、株式会社ティー・アイ・シー、2009年4月25日、第22巻、第5号、p.2-19
【非特許文献2】眞野、「ナノバブルの医療分野への応用」、月刊マテリアルインテグレーション、株式会社ティー・アイ・シー、2009年4月25日、第22巻、第5号、p.30-35
【非特許文献3】荒川、外2名、「ナノバブル水の歯周病治療への応用」、月刊マテリアルインテグレーション、株式会社ティー・アイ・シー、2009年4月25日、第22巻、第5号、p.36-43
【非特許文献4】北條、「オゾンナノバブルの抗炎症・抗細胞増殖作用−血管内皮および平滑筋細胞における効果−」、月刊マテリアルインテグレーション、株式会社ティー・アイ・シー、2009年4月25日、第22巻、第5号、p.44-48
【非特許文献5】玉置、「マイクロバブルの農業分野への利用の可能性−オゾンマイクロバブルを利用した水耕培養液の殺菌−」、月刊マテリアルインテグレーション、株式会社ティー・アイ・シー、2009年4月25日、第22巻、第5号、p.20-23
【非特許文献6】山本、「マイクロバブルの水産・養殖分野への応用」、月刊マテリアルインテグレーション、株式会社ティー・アイ・シー、2009年4月25日、第22巻、第5号、p.24-29
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述したように従来から広く利用されてきたマイクロバブルを含む水は、そのマイクロバブルの寿命が短いことから、容器に充填して保管するという利用形態はあり得ないため、容器に充填している水のマイクロバブルの濃度を調節するというような考えも起こり得なかった。
【0014】
このようなことから、容器に充填して保管可能なナノバブルを含む水においても、そのナノバブルの濃度を高くして、生体に対する有用性の向上を図る試みは、従来、全く想起されなかった。
【0015】
本発明は、以上の点に鑑みて創案されたものであり、ナノバブルを含むことにより生体に対して有用な水に対して、そのナノバブルの濃度を高くすることにより、生体に対しての有用性の向上を図ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、上記課題を解決するために、原料水に、サイズ50μm以下のマイクロバブルとして気体を供給し、このマイクロバブルを物理的刺激により圧壊させて、安定化した気体のナノバブルを水中に含有させた中間水を生成し、この中間水を遠心抽出器に供給して、その軽液側から取り出すことを特徴とする生体用水の製造方法を提案する。
【0017】
また本発明では、上記の構成において、原料水は塩分濃度が、0.9%又はその近傍の値に調整されていることを提案する。
【0018】
また本発明では、上記の構成において、中間水を遠心分離器に供給する前に逆浸透膜に透過させて脱塩処理を行うことを提案する。
【0019】
また本発明では、上記の構成において、軽液抜出し側から抜出した生体用水を逆浸透膜に透過させて脱塩処理を行うことを提案する。
【0020】
以上の本発明において、遠心抽出器は、バッチ式であっても、連続式であっても良く、後者の場合には、多段に構成することができる。
【0021】
更に本発明では、以上の製造方法により生成された生体用水を提案するものである。そして本発明では、塩分濃度の異なった生体用水が混合されて塩分濃度が調節された生体用水を提案するものである。
【発明の効果】
【0022】
安定化した気体のナノバブルを水中に含有させた中間水を、遠心抽出器に供給して遠心抽出を行うと、ナノバブルは軽液側に移動するので、軽液側から取り出した水のナノバブルの濃度は、遠心抽出器に導入された中間水のナノバブルの濃度よりも高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は本発明の製造方法の第1の実施の形態の流れを示す系統図である。
【図2】図2は本発明の製造方法の第2の実施の形態の流れを示す系統図である。
【図3】図3は本発明の製造方法の第3の実施の形態の流れを示す系統図である。
【図4】図4は本発明の製造方法に使用する遠心抽出器の一例を示す模式的縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の製造方法の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0025】
まず本発明の生体用水の製造方法の第1の実施の形態を示す図1において、符号1は原料水(又はそのタンク)を示すもので、この原料水は、塩分を含まない井戸水等に塩分を加えて塩分濃度を調節した水、塩分を含む井戸水、海水等を用いることができる。原料水の塩分濃度は、生理食塩水と同等の0.9wt%を基準とし、製造する生体用水の用途に応じて、それよりも大きく、例えば1.8wt%程度としたり、逆に半分程度に小さくしたりと、適宜に調節することができる。
【0026】
原料水1は、次いで圧壊用容器2に供給される。この圧壊用容器2には、気体供給装置3から、例えば酸素や、窒素や、オゾン等の気体が、サイズ50μm以下のマイクロバブルとして供給され、この状態において物理的刺激が加えられて圧壊が行われる。尚、原料水と、気体のマイクロバブルとの混合は、他の混合タンク等において行うようにすることもできることは勿論である。
【0027】
圧壊用容器2に、サイズ50μm以下のマイクロバブルとして供給された気体は、物理的刺激により縮小し、この際、水中の水素イオンや水酸化物イオン及び電解質イオンが気液界面に濃縮されて、縮小された微小気泡の周囲を取り囲む殻として作用し、縮小した微小気泡、即ち、ナノバブルとして水中に安定化して存在するようになり、こうして本発明における中間水が生成される。
【0028】
生成された中間水は、次いで遠心抽出器に供給して、遠心抽出に供される。即ち、円抽出器において強大な遠心力が加わると、水が重液側である外側に移動すると共に、ナノバブルは軽液側である内側に留まるため、軽液側におけるナノバブルの濃度が上昇する。
【0029】
次いで遠心抽出器4における遠心力の作用によりナノバブルの濃度が上昇した軽液側の中間水を取り出すことにより、圧壊用容器2において圧壊により得られた中間水よりもナノバブルの濃度が上昇した生体用水5を得ることができる。
【0030】
この生体用水5は塩分を含むため、飲用水以外の用途、例えば上記非特許文献に記載されているような医療分野の他、歯周病予防のための含嗽水等として使用することができ、特に本発明により製造された生体用水では、ナノバブルの濃度が上昇していることにより、生体に対しての更なる有用性の向上を図ることができる。
【0031】
次に図2は本発明の生体用水の製造方法の第2の実施の形態を示すものであり、この実施の形態では、第1の実施の形態において遠心抽出器4の軽液側から取り出した生体用水を逆浸透膜6に透過させて脱塩処理を行うものである。その他の動作は第1の実施の形態と同様であるから、図における対応する構成要素には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0032】
この第2の実施の形態において製造した生体用水7は、逆浸透膜6による脱塩処理がされているので、含まれているナノバブルによる生体に対しての有用性を有する飲用水として利用することができる。
【0033】
次に図3は本発明の生体用水の製造方法の第3の実施の形態を示すもので、この実施の形態では、第1、第2の実施の形態と同様に圧壊用容器2において圧壊により得られた中間水を、第2の実施の形態のように遠心抽出器4に供給するのではなく、まず、逆浸透膜8を透過させて脱塩処理を行った後、再び圧壊用容器2において圧壊を行い、この2回目の圧壊により生成された中間水を遠心抽出器4に供給して遠心抽出を行わせる。そして遠心抽出器4の軽液側から取り出した中間水を生体用水7とする。
【0034】
この第3の実施の形態においても、第2の実施の形態と同様に脱塩処理が行われているので、含まれているナノバブルによる生体に対しての有用性を有する飲用水として利用することができる。
【0035】
特に、この第3の実施の形態では、逆浸透膜6を透過させることにより除去されたナノバブルの一部を、2回目の圧壊により補うことができるので、飲用水としての生体用水に含まれるナノバブルの濃度を高くすることができる。
【0036】
尚、本発明では、上述した第1の実施の形態において製造された塩分を有する生体用水と、第2又は第3の実施の形態において製造された塩分を有しない生体用水とを混合して、所望の塩分濃度の生体用水を得ることも可能であり、このことから、所望の塩分濃度を有する飲用水としての生体用水を製造することも可能である。
【0037】
次に図4は、本発明に利用可能な遠心抽出器の一例を示すものである。図4に示す遠心抽出器は、原子炉の使用済み燃料の再処理における放射性物質抽出工程に用いられるものであり、例えば特開平11−290606号公報等に記載されているものと略同様な構成である。
【0038】
符号11はケーシングであり、このケーシング11内に筒体12がモータ13により回転駆動される回転軸14により高速回転可能に支持されている。筒体12の下部には水導入口15が設けられており、また上部には、外側の重液側導出口16と内側の軽液側導出口17が設けられている。更にケーシング11には、下部に水導入部18が、そして上部には、上記重液側導出口16と軽液側導出口17に夫々連通する重液側導出部19と軽液側導出部20が設けられている。また図示は省略しているが、筒体12の内周には、筒体と共に水を旋回させるための羽根等が設けられている。
【0039】
以上の構成においてケーシング11の水導入部18から導入された中間水は、下部の水導入口15を経て筒体12内に導入され、筒体12と共に高速で旋回する。
【0040】
従ってナノバブルを含む中間水には、旋回により強大な遠心力が加わるので、水自体は、重液側aである外側に移動する傾向となると共に、ナノバブルは軽液側bである内側に留まる傾向となり、軽液側bにおけるナノバブルの濃度が上昇する。
【0041】
こうしてナノバブルの濃度が上昇した軽液側の中間水は軽液側導出口17から軽液側導出部20を経て生体用水として抽出することができる。
【0042】
一方、逆にナノバブルの濃度が低下した重液側aの中間水は、重液側導出口16から重液側導出部19を経て導出させ、図1〜図3に示すように、再度の圧壊に供することができる。
【0043】
以上に説明した遠心抽出器4は連続式の構成であるが、本発明の製造方法では、遠心抽出器として、バッチ式の遠心抽出器を利用することができる。一方、連続式の場合には、従来から行われているように、多段に構成することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 原料水(又はそのタンク)
2 圧壊用容器
3 気体供給装置
4 遠心抽出器
5,7,8 生体用水
6 逆浸透膜
11 ケーシング
12 筒体
13 モータ
14 回転軸
15 水導入口
16 重液側導出口
17 軽液側導出口
18 水導入部
19 重液側導出部
20 軽液側導出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料水に、サイズ50μm以下のマイクロバブルとして気体を供給し、このマイクロバブルを物理的刺激により圧壊させて、安定化した気体のナノバブルを水中に含有させた中間水を生成し、この中間水を遠心抽出器に供給して、その軽液側から取り出すことを特徴とする生体用水の製造方法。
【請求項2】
原料水は塩分濃度が、0.9%又はその近傍の値に調整されていることを特徴とする請求項1に記載の生体用水の製造方法。
【請求項3】
中間水を遠心分離器に供給する前に逆浸透膜に透過させて脱塩処理を行うことを特徴とする請求項1に記載の生体用水の製造方法。
【請求項4】
軽液抜出し側から抜出した生体用水を逆浸透膜に透過させて脱塩処理を行うことを特徴とする請求項1に記載の生体用水の製造方法。
【請求項5】
遠心抽出器は、バッチ式であることを特徴とする請求項1に記載の生体用水の製造方法。
【請求項6】
遠心抽出器は、連続式であることを特徴とする請求項1に記載の生体用水の製造方法。
【請求項7】
遠心抽出器は、多段に構成されていることを特徴とする請求項6に記載の生体用水の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかの製造方法により生成された生体用水。
【請求項9】
塩分濃度の異なった生体用水が混合されて塩分濃度が調節された請求項8に記載の生体用水。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−582(P2012−582A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−139036(P2010−139036)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【出願人】(508144369)株式会社ナノサイエンス (7)
【Fターム(参考)】