説明

安定化プロテアーゼ組成物

セリンプロテアーゼ、このセリンプロテアーゼの可逆的阻害剤及び次の式(I)を有する安定剤Mを含む組成物が提供される。また、薬剤としてのこの組成物の使用及び他の使用、並びにその種々の性質を利用する方法が提供される。
【化1】


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明の組み合わせ物中の特定の添加剤により酵素が安定化される酵素組成物に関する。とりわけ本発明は、セリンプロテアーゼに対する可逆的阻害剤及び以下に定義されるさらなる安定剤Mを含むセリンプロテアーゼ組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
セリンプロテアーゼは、活性部位にセリン及びヒスチジン残基を有することによって特徴付けられるタンパク質分解酵素群である。多くの周知の酵素、例えばトリプシン、カリクレイン、トロンビン及びプラスミンがこの群に属している。これらのうちのいくつかは、実用性が見出されている。トリプシンは、皮革工業において使用されている。トロンビンは、創傷からの出血を停止させる止血剤として使用されている。ウロキナーゼ及び組織プラスミノーゲンアクチベーターという2つの他のセリンプロテアーゼは、急性心筋梗塞の処置において血栓溶解剤として臨床使用されている。多くのこれらの酵素は、例えば、タンパク質の構造決定のリサーチツールとして広範に使用されている。さらにこの酵素は、種々の診断キットに使用されている。
【0003】
大半のセリンプロテアーゼの共通点は、溶液中での安定性が限られていることである。これは主に、溶液中に放たれると、プロテアーゼとしての性質が原因の自己分解によって引き起こされる。この限定された安定性は、物質が溶液中で保管されなければならないときに問題となる。今日入手可能な市販のセリンプロテアーゼ調製物は、基本的に常に凍結溶液又は凍結乾燥粉末の形態であり、これは明らかに欠点である。粉末の溶解、又は凍結溶液を妥当な温度へ解凍するために必要とされる余分な時間は、最も重要な問題点である。しかし、これらの調製物には他の問題が存在している。凍結溶液に関しては、製造及び輸送から貯蔵に至るまですべての段階で温度制御(−20℃)が必要である。凍結乾燥粉末に関しては、受容可能な程度の純度及び安定性の再構成溶液が必要である。また、この物質はしばしば、非管理的であり得る環境(例えば、厳しい天候又は清浄な水が供給されない環境)で無菌的に調製される(2つの部分を混合することによって)必要があり、そしてこの粉末が適切に混合されていることを確認する必要がある。これらは、今日入手可能な製品のすべての主な欠点であり、使用の複雑さ及びコストが増している。
【0004】
出血の停止に使用するために、好ましくはただちに利用しなければならないトロンビンに関して、この安定性の問題のために、製造業者は凍結乾燥トロンビン又は冷凍溶液を使用することを余儀なくされている。これらはその後、使用に際して調製のための一定量の時間を必要とする。2つの血栓溶解剤、ウロキナーゼ及び組織プラスミノーゲンアクチベーターは、使用前に溶解される必要がある凍結乾燥調製物の形態で販売されている。急性心筋梗塞の血栓溶解処置は、梗塞の発症後できるだけ早く開始される必要があるので、このような調製によって引き起こされるすべての時間遅延が問題である。
【0005】
種々のセリンプロテアーゼを安定化させる方法を見出すための多くの試みが行われてきた。それ自身かなり急速に分解するトリプシンに関して、単純かつ効果的な安定剤は、カルシウムイオンである(Sipos T及びMerkel J、Biochemistry 9:2766(1970))。pHを4未満に減少させることはまた、トリプシン及びプラスミンのようないくらかの酵素にはうまくいく方法であるが、トロンビンは5未満のpHで不可逆的に不活性化されるため、これはトロンビンには実行できない。可逆的プロテアーゼ阻害剤が使用され得るが、これだけで使用されるとこの酵素の作用を有害な様式で妨害するので、あまり一般的ではない(以下を参照のこと)。
【0006】
組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)の安定化のために、アミノ酸アルギニンを添加することが慣習的に用いられている。今日臨床使用されるtPA物質は、安定剤としてアルギニンを含んでいる。
【0007】
また、トロンビン溶液を安定化させる方法を見出すための多くの努力が捧げられてきた。安定化添加剤の例として、次の提案:すなわち、高濃度のカルボン酸、EDTA、種々のアミノ酸、アルブミン、ポリマー、例えばポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン及びポリビニルアルコール、グリセロール、種々の無機塩類、炭水化物、ゼラチン、コラーゲンが言及され得る。
【0008】
日本国特許出願JP2004191367には、血液凝固能を試験するための試験試薬を含む安定化トロンビンが記載されている。この試験試薬は、トロンビン及びトロンビン阻害剤を含んでおり、そしてまた、カルシウムイオン、有機酸、界面活性剤及びタンパク質から選択される1つ又はそれ以上のトロンビン安定化化合物を含み得る。
WO02/100830、WO02/22575、WO00/20394、WO99/11658、WO02/37937及びUS5,409,927はすべて、異なるセリンプロテアーゼ阻害化合物、及び対応するセリンプロテアーゼの阻害が指摘される種々の疾患状態、例えば血栓症を処置するための薬学的組成物における使用について記載している。
【0009】
Nakamuraら(J. Chrom. A、1009、(2003)、133−139)は、トリプシン様プロテアーゼのアフィニティークロマトグラフィーに固定化プロテアーゼ阻害剤を使用することを記載している。
【0010】
Turnerら(Biochemistry、25、(1986)、4929−4935)は、ヒト第IXa因子を不可逆的に阻害する3つのp−アミジノフェニルエステルを記載している。
Tsung Fu Yangら(Biomacromolecules、25、(2004)、1926−1932)は、遺伝子導入で使用するためのカチオン性ポリマー、N,N−ジエチルエチレンジアミンポリウレタンの合成を記載している。
【0011】
US特許出願2001/0033837(EP 1 136 084 A1に対応)は、安定剤として非共有結合阻害剤を含むトロンビン調製物を記載している。さらにこの阻害剤は、糖又はカルボン酸のような他の安定化添加剤と併用されており、これは、特許又は他の刊行物に以前に記載されている。
【0012】
JP2000300250は、異なる緩衝液中でポリビニルアルコール、ゼラチン又はポリビニルピロリドンを添加することによるトロンビン溶液の安定化を記載している。
【0013】
GB1354761において、プロテアーゼ及びアミラーゼは、多くの物質、例えば脂肪族アルコール、カルボン酸、ヒドロキシル基を含む複素環式化合物及び脂肪族アミン又は脂環式アミンによって様々な程度まで安定化されている。
【0014】
このように、阻害剤を用いたセリンプロテアーゼの安定化が記載されている(例えば、US2001/0033837及びJP2004191367、前出)。このアプローチの問題点は、この調製物を使用する前にこの阻害剤を除去しないと、酵素の効果を強力に減少させてしまうことである。強力な阻害剤が使用される場合、酵素活性の大半は失われてしまう。より良いアプローチは、中程度の強度の可逆的阻害剤を使用することである。しかしこの場合でさえも、良好な安定化効果を得るために阻害剤濃度が増大されるにつれて、最初の酵素活性のかなりの部分は失われてしまう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従って、溶液中で安定であり、そして組成物の実用に十分な程度の酵素活性を保持するセリンプロテアーゼ組成物を完成させることが本発明の目的である。
【0016】
冷凍又は凍結乾燥物質から調製する前段階を伴わずに直接使用することが受け入れられるセリンプロテアーゼ組成物を提供することが本発明の別の目的である。
【0017】
さらなる安定化成分を提供することを通じて、安定化を目的としたセリンプロテアーゼの可逆的阻害剤の実用的使用を可能にすることが本発明のさらなる目的である。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本明細書から明白なこれらの及び他の目的は、請求される本発明の異なる局面によって達成される。
【0019】
従って、本発明の一局面は、a)セリンプロテアーゼ、b)このセリンプロテアーゼの可逆的阻害剤及びc)次の式I:
【化1】

[式中、
nは、0、1又は2であり;
Xは、O、N又はCH2であり;
1−R4は、同じか又は異なっており、そしてH、−CH2−R6、−CH2−O−R6、−CH2−S−R6、−CH2−NH−R6、−CO−O−R6、−CO−NH−R6、−CH2−NH−CO−R6、−CH2−O−CO−R6、−CH2−NH−CO−NHR6、−CH2−NH−CO−OR6、−CH2−NH−CS−NHR6及び−CH2−O−CO−NHR6から選択され;
5は、R1−R4又はP−Qの通りであり;
Pは、−(CH2)m−及び−(CH2)m−Y−(CH2)m−から選択され、式中、mは、1〜6であり、そしてYは、O、NH又はSであり;
Qは、H、−SO3、−COOH、−NH2、−OH及び−CONH2から選択され;
各々のR6は個々に、H、置換されるか若しくは置換されない低級アルキル、置換されるか若しくは置換されないシクロアルキル、置換されるか若しくは置換されないベンジル、置換されるか若しくは置換されないアリール、又は1つ若しくはそれ以上のヘテロ原子を有する単環式、二環式若しくは三環式の非置換型若しくは置換型の芳香族複素環及び非芳香族複素環から選択され、置換される基の置換基は、低級アルキル、ハロゲン、置換されるか又は置換されないアリール、置換されるか又は置換されない芳香族複素環化合物、非芳香族複素環、アルキルオキシ、アルキルアミノから選択される]
を有する安定剤M又はその薬学的に受容可能な塩を含む安定化セリンプロテアーゼ組成物を提供することである。
【0020】
本発明は、トロンビンの安定性に対する研究の最初の結果から派生したものであり、これにおいて、驚くべきことにこの酵素の可逆的阻害剤及び上記で定義される安定剤Mとの本発明の組み合わせ物が、溶液中でこの酵素に対して強力な安定化効果を有することが見出された。トロンビン阻害剤単独及び安定剤M単独の両方とも、トロンビンに対する安定
化効果を有するが、この組み合わせ物は、これらの効果のいずれよりも数倍良好であった(実施例1を参照のこと)。従って、低濃度の酵素阻害剤を、モルホリン、MOPS又は関連化合物と併用すると、この酵素に対して極めて強力な安定化効果が得られた。試験されたいくつかの組成物は、37℃で2ヶ月超の間、活性の減少が30%未満であったことによって示されるように安定であった。先の刊行物のデータ及び本発明者らによって確認されたデータによれば、これは、室温での6ヶ月、又は冷蔵庫内温度での2.5年間に相当する。最初の研究結果が、他のセリンプロテアーゼに対する実験を含むように拡大され、そしてこれらの実験において、この驚くべき安定化効果がまた観察された。
【0021】
以下に例示されるように、本発明の組成物は、本発明の成分b)及びc)の併用を伴わない酵素組成物と比較して、安定性が実質的に改善されることを示している。本発明のアプローチを用いて、低濃度のセリンプロテアーゼ阻害剤が使用され得ることになり、そして満足な程度の安定化がなお得られた。例えばこの阻害剤濃度は、例えばUS2001/0033837において以前に提案されている濃度よりも低いものであり得る。このような低濃度の阻害剤を用いて、安定化酵素溶液中でさらに高い酵素活性が保持されている。
【0022】
可逆的セリンプロテアーゼ阻害剤及び安定剤Mとの組み合わせ物に起因した安定化の増大は、Mによって提供されるさらなる阻害効果とはみなされないことに注意すべきである。実際Mは、説明的な実施例Aに記載されるように、あらゆるセリンプロテアーゼ阻害能を欠いている可能性がある。理論によって束縛されることを望まずに、本発明者らは、この観察された驚くべき安定化効果の増大は、本発明の組成物の可逆的セリンプロテアーゼ阻害剤と安定剤Mとの間の有益な相乗作用を通じて達成されると考えている。本発明は、安定化セリンプロテアーゼ組成物における可逆的セリンプロテアーゼ阻害剤及び安定剤Mとのこのような併用、及びセリンプロテアーゼ組成物を安定化させるためにこのような併用を用いることを提供する。
【0023】
本発明の実施態様において、組成物中のセリンプロテアーゼは、トリプシン、カリクレイン、トロンビン、プラスミン、ウロキナーゼ、組織プラスミノーゲンアクチベーター、第IX因子の活性型、第X因子の活性型及び第XI因子の活性型からなる群より選択される。より特定の実施態様において、このセリンプロテアーゼはトロンビンである。別の特定の実施態様において、このセリンプロテアーゼはプラスミンである。なお別の特定の実施態様において、このセリンプロテアーゼはトリプシンである。
【0024】
セリンプロテアーゼに対する可逆的阻害剤は当業者に公知であり、そしてどの阻害剤が使用に最適であるかは、どの特定のセリンプロテアーゼが使用されるかに応じて変化する。一般に、阻害剤が強力な力を有さないことが、意図される効果にとって重要である。換言すれば、阻害効果は、酵素活性が有益に高いまま残存するに十分に穏やかである必要がある。指針として、0.01mMと2mMとの間のKiを有する阻害剤が、本発明の組成物での使用に好適であり、好ましい範囲としては0.04mM〜0.5mMであることが見出されている。
【0025】
セリンプロテアーゼがトロンビンである一実施態様において、可逆的阻害剤は、N−(2’−フェノキシ)−4−アミノピリジン及びその誘導体、ベンズアミジン、N,N−ジエチルエチレンジアミン、アミノベンズアミジン、アミジノピリジン並びにtert−ブチルアミジンから選択され得るものである。セリンプロテアーゼがトロンビンである別の実施態様において、可逆的阻害剤は、N−(2’−フェノキシ)−4−アミノピリジン及びその誘導体、N,N−ジエチルエチレンジアミン、アミジノピリジン並びにtert−ブチルアミジンから選択される。セリンプロテアーゼがトロンビンであるより特定の実施態様において、可逆的阻害剤は、N−(2’−フェノキシ)−4−アミノピリジン又はその誘導体である。セリンプロテアーゼがプラスミンである別の実施態様において、可逆的阻害剤は、N,N−ジエチルエチレンジアミン、アミノベンズアミジン及びベンズアミジンから選択される。セリンプロテアーゼがトリプシンである別の実施態様において、可逆的阻害剤は、アミノベンズアミジン及びベンズアミジンから選択される。酵素及び阻害剤のこれらの組み合わせ物は説明的な例であり、そして限定されるように解釈されるべきではない。
【0026】
本発明の一実施態様において、式Iのn値は、1又は2である。より特定の実施態様において、式Iのnは1である。
【0027】
本発明の組成物は、上に与えられる一般式Iを有する安定剤Mを含んでいる。本発明の実施態様において、安定剤Mは、次の式II
【化2】

[式中、
1−R4は、同じか又は異なっており、そしてH、−CH2−R6から選択され;
5は、R1−R4又はP−Qの通りであり;
Pは、−(CH2)m−及び−(CH2)m−Y−(CH2)m−から選択され、式中、mは、1〜6であり、そしてYは、O、NH又はSであり;
Qは、H、−SO3、−COOH、−NH2、−OH及び−CONH2から選択され;
各々のR6は個々に、H、置換されるか若しくは置換されない低級アルキル、置換されるか若しくは置換されないシクロアルキル、置換されるか若しくは置換されないベンジル、置換されるか若しくは置換されないアリール、又は1つ若しくはそれ以上のヘテロ原子を有する単環式、二環式若しくは三環式の非置換型若しくは置換型の芳香族複素環及び非芳香族複素環から選択され、置換される基の置換基は、低級アルキル、ハロゲン、置換されるか又は置換されないアリール、置換されるか又は置換されない芳香族複素環化合物、非芳香族複素環、アルキルオキシ、アルキルアミノから選択される]
の化合物又はその薬学的に受容可能な塩である。
【0028】
従って、いくつかの実施態様において、安定剤Mは、次の式III:
【化3】

[式中、
5は、−CH2−R6又はP−Qであり;
Pは、−(CH2)m−又は−(CH2)m−Y−(CH2)m−から選択され、式中、mは、1〜6であり、そしてYは、O、NH又はSであり;
Qは、H、−SO3、−COOH、−NH2、−OH及び−CONH2から選択され、
各々のR6は個々に、置換されるか又は置換されない低級アルキル、置換されるか又は置換されないシクロアルキル、置換されるか又は置換されないベンジル、置換されるか又は置換されないアリールから選択され、置換される基の置換基は、低級アルキル、ハロゲン、置換されるか又は置換されないアリール、置換されるか又は置換されない芳香族複素環化合物、非芳香族複素環、アルキルオキシ、アルキルアミノから選択される]
の化合物又はその薬学的に受容可能な塩である。
【0029】
本発明のいくつかの実施態様において、安定剤Mは、モルホリン、3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)、モルホリノブチルスルホン酸、モルホリノプロピルカルボン酸、モルホリノエチルアルコール及びモルホリノエチルスルホン酸からなる群より選択される。従って、本発明のこの局面の組成物に使用するための化合物Mの例は、モルホリン及び3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)である。本発明の特定の実施態様において、安定剤Mはモルホリンである。
【0030】
安定化効果を示す本発明の組成物は、セリンプロテアーゼがトロンビンであり、可逆的阻害剤がN−(2’−フェノキシ)−4−アミノピリジンであり、そして安定剤Mがモルホリンである組成物である。
安定化効果を示す本発明の別の組成物は、セリンプロテアーゼがトロンビンであり、可逆的阻害剤がN−(2’−フェノキシ)−4−アミノピリジンであり、そして安定剤Mが3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)である組成物である。
【0031】
安定化効果を示す本発明の別の組成物は、セリンプロテアーゼがトロンビンであり、可逆的阻害剤がアミノベンズアミジンであり、そして安定剤Mがモルホリンである組成物である。
【0032】
安定化効果を示す本発明の別の組成物は、セリンプロテアーゼがプラスミンであり、可逆的阻害剤がN,N−ジエチルエチレンジアミンであり、そして安定剤Mがモルホリンである組成物である。
安定化効果を示す本発明の別の組成物は、セリンプロテアーゼがプラスミンであり、可逆的阻害剤がアミノベンズアミジンであり、そして安定剤Mがモルホリンである組成物である。
【0033】
例えば創傷部位への局所投与のためのセリンプロテアーゼ組成物においては、この組成物が投与部位から容易に流れ得るか又は洗い流され得ることが問題である。この問題を解決するために、この酵素組成物に接着性ポリマーを添加することが可能であり、ここでこれは、皮膚又は創傷部位に対して組成物をより粘性かつ接着性にするという目的に役立っている。本発明の実施態様として、このように本発明の組成物に接着性ポリマーを添加することは、その安定性に対してさらなる予想外かつ有益な効果を有し得る。ここでこのポリマーの添加は、組成物の粘性及び接着性を増大させ、同時に酵素の安定化によりさらに役立つという二倍の目的に役立っている。
【0034】
本発明のいくつかの実施態様において、この組成物は、多糖類及びゼラチンから選択される粘性及び接着性のポリマーをさらに含むものである。従ってこのポリマーは例えば、デンプン、その誘導体、セルロース、その誘導体及びそれらの混合物から選択されるような多糖類であり得る。本発明の組成物に対する添加剤として有用な具体的で非限定的なデンプンの例としては、トウモロコシデンプン及びジャガイモデンプン並びにそれらの混合物が挙げられ、一方有用なセルロース誘導体の非限定的な例は、カルボキシメチルセルロース及びエチルヒドロキシエチルセルロース並びにそれらの混合物である。特定の実施態様において、多糖類はカルボキシメチルキトサンである。本発明のさらなる実施態様において、この多糖類は、0.1〜5%の濃度で存在している。しかし、ポリマーがゼラチン、例えば冷水魚由来のゼラチンであることがまた想定されている。本発明のいくつかの実施態様において、このゼラチンは、0.5〜20%の濃度で存在している。
【0035】
本発明の一実施態様において、このセリンプロテアーゼは、0.001〜2mg/mlの濃度で存在している。より特定の実施態様において、このセリンプロテアーゼは、0.01
〜1mg/mlの濃度で存在している。
【0036】
セリンプロテアーゼがトロンビンである本発明の一実施態様において、トロンビン濃度は、5〜3500活性単位/mlの間である。
セリンプロテアーゼがトロンビンである本発明の一実施態様において、トロンビン濃度は、200〜1000活性単位/mlの間である。
セリンプロテアーゼがトロンビンである本発明の一実施態様において、トロンビン濃度は、5〜20活性単位/mlの間である。
【0037】
本発明の一実施態様において、このセリンプロテアーゼの可逆的阻害剤は、0.1〜10mMの濃度で存在している。より特定の実施態様において、このセリンプロテアーゼの可逆的阻害剤は、0.5〜2mMの濃度で存在している。
【0038】
本発明の一実施態様において、この安定剤Mは、0.02〜0.5Mの濃度で存在している。より特定の実施態様において、この安定剤Mは、0.1〜0.3Mの濃度で存在している。
この別の局面に従って、本発明は、薬剤として上記の組成物を使用することを提供する。
【0039】
本発明の別の局面は、出血を患う被験体の止血を確立するための薬剤の製造について、セリンプロテアーゼがトロンビンである組成物を使用することに関する。本発明の関連局面は、出血を患う被験体の止血を確立する方法を提供することであって、この方法は、セリンプロテアーゼがトロンビンである本発明の組成物を、出血を減少又は停止させるに十分な量でこの出血部位に投与することを含むものである。
【0040】
薬剤として本発明のトロンビン組成物をこのように使用すること又は利用する方法に関連して、本発明の組成物の安定性は、使用される環境に利点を提供する。しばしばトロンビン組成物は、被験体の出血を停止させることが重大な緊急事態の情況で使用される。これらの同様の事態において、慣用の止血性トロンビン調製物を使用することは、解凍(冷凍の場合)及び/又は溶解(凍結乾燥の場合)という厄介かつ時間のかかる工程をしばしば必要とするため困難である。本発明により、例えば溶液形態のこのような止血剤を産生することが可能になり、この安定性は、例えば救急車又は緊急ヘリコプターにおいて事故現場などで必要とされるまで長期間容易に保管され得るようなものである。この時この止血剤は、調製が原因のいかなる遅延も伴わずにそのままで使用され得る。
【0041】
出血を停止させるために使用される慣用の調製物は、200〜1000活性単位/mlの間といったかなり高濃度のトロンビンを含んでいる。形成外科適用に関連して、これは、瘢痕形成を増大させる危険性があるとみなされる。低トロンビン濃度の溶液は、現在、濃縮トロンビン溶液を希釈することによって診療所で調製されている。すぐに使用できる調製物は入手不可能である。従って、このさらなる局面において、本発明は、5〜20活性単位/mlの間といった相当に低い濃度のトロンビンを含む安定化トロンビン組成物及び形成外科でのその使用を提供する。
【0042】
本発明の別の局面は、プラスミン、ウロキナーゼ又はtPAの血栓溶解剤としての公知の性質を利用するものである。従って本発明は、血栓溶解を処置する薬剤の製造について、セリンプロテアーゼが、プラスミン、ウロキナーゼ及び組織プラスミノーゲンアクチベーターから選択される上記の組成物を使用することを提供する。関連局面は、血栓溶解処置を必要とする被験体の血栓溶解を処置する方法を提供するものであり、この方法は、セリンプロテアーゼが、プラスミン、ウロキナーゼ及び組織プラスミノーゲンアクチベーターから選択される上記の組成物を、この処置に十分な量でこの被験体に投与することを含むものである。これらの2つの関連局面において、問題になっている血栓溶解処置は、非限定的な例として、心筋梗塞を処置するため又は脳卒中を処置するために行われ得る。
【0043】
本発明の組成物局面との関連で言及されるように、可逆的セリンプロテアーゼ阻害剤及び安定剤Mとの組み合わせ物に起因した安定化の増大は、Mによって提供されるさらなる阻害効果とはみなされない。実際Mは、説明的な実施例Aに記載されるように、あらゆるセリンプロテアーゼ阻害能を欠いている可能性がある。理論によって束縛されることを望まずに、本発明者らは、この観察された驚くべき安定化効果の増大は、本発明の組成物の可逆的セリンプロテアーゼ阻害剤と安定剤Mとの間の有益な相乗作用を通じて達成されると考えている。
【0044】
従ってこの別の局面において、本発明は、セリンプロテアーゼ組成物を安定化させるために、
a)可逆的セリンプロテアーゼ阻害剤及び
b)次の式Iの安定剤M又はその薬学的に受容可能な塩
【化4】

[式中、
nは、0、1又は2であり;
Xは、O、N又はCH2であり;
1−R4は、同じか又は異なっており、そしてH、−CH2−R6、−CH2−O−R6、−CH2−S−R6、−CH2−NH−R6、−CO−O−R6、−CO−NH−R6、−CH2−NH−CO−R6、−CH2−O−CO−R6、−CH2−NH−CO−NHR6、−CH2−NH−CO−OR6、−CH2−NH−CS−NHR6及び−CH2−O−CO−NHR6から選択され;
5は、R1−R4又はP−Qの通りであり;
Pは、−(CH2)m−及び−(CH2)m−Y−(CH2)m−から選択され、式中mは、1〜6であり、そしてYは、O、NH又はSであり;
Qは、H、−SO3、−COOH、−NH2、−OH及び−CONH2から選択され;
各々のR6は個々に、H、置換されるか若しくは置換されない低級アルキル、置換されるか若しくは置換されないシクロアルキル、置換されるか若しくは置換されないベンジル、置換されるか若しくは置換されないアリール、又は1つ若しくはそれ以上のヘテロ原子を有する単環式、二環式若しくは三環式の非置換型若しくは置換型の芳香族複素環及び非芳香族複素環から選択され、置換される基の置換基は、低級アルキル、ハロゲン、置換されるか又は置換されないアリール、置換されるか又は置換されない芳香族複素環化合物、非芳香族複素環、アルキルオキシ、アルキルアミノから選択される]
の組み合わせ物を使用することを提供し、ここで、この可逆的セリンプロテアーゼ阻害剤及び安定剤Mは、相乗作用で作用して、セリンプロテアーゼの安定化効果を提供するものである。
【0045】
セリンプロテアーゼ組成物を安定化させるために、可逆的セリンプロテアーゼ阻害剤及び安定剤の組み合わせ物を本発明で使用する際に、使用され得る特定の成分及び化合物Mの置換基の選択は、本発明の組成物局面に関連して上記で議論される通りである。
【0046】
なお別の局面において、本発明は、セリンプロテアーゼの安定化方法を提供するもので
あり、この方法は、セリンプロテアーゼを、a)このセリンプロテアーゼの可逆的阻害剤及びb)次の式I:
【化5】

[式中、
nは、0、1又は2であり;
Xは、O、N又はCH2であり;
1−R4は、同じか又は異なっており、そしてH、−CH2−R6、−CH2−O−R6、−CH2−S−R6、−CH2−NH−R6、−CO−O−R6、−CO−NH−R6、−CH2−NH−CO−R6、−CH2−O−CO−R6、−CH2−NH−CO−NHR6、−CH2−NH−CO−OR6、−CH2−NH−CS−NHR6及び−CH2−O−CO−NHR6から選択され;
5は、R1−R4又はP−Qの通りであり;
Pは、−(CH2)m−及び−(CH2)m−Y−(CH2)m−から選択され、式中、mは、1〜6であり、そしてYは、O、NH又はSであり;
Qは、H、−SO3、−COOH、−NH2、−OH及び−CONH2から選択され;
各々のR6は個々に、H、置換されるか若しくは置換されない低級アルキル、置換されるか若しくは置換されないシクロアルキル、置換されるか若しくは置換されないベンジル、置換されるか若しくは置換されないアリール、又は1つ若しくはそれ以上のヘテロ原子を有する単環式、二環式若しくは三環式の非置換型若しくは置換型の芳香族複素環及び非芳香族複素環から選択され、置換される基の置換基は、低級アルキル、ハロゲン、置換されるか又は置換されないアリール、置換されるか又は置換されない芳香族複素環化合物、非芳香族複素環、アルキルオキシ、アルキルアミノから選択される]
の安定剤M又はその薬学的に受容可能な塩と混合することを含むものである。
【0047】
セリンプロテアーゼ組成物を安定化させる本発明の方法において、使用され得る特定の成分及び化合物Mの置換基の選択は、本発明の組成物局面に関連して上記で議論される通りである。
【0048】
本発明のさらなる局面は、固体が問題になっている酵素活性を提供し得るように、上記の組成物をこの固体上への吸着に使用することに関する。特に、出血によるダメージを最小限にしながら、動脈に入り、そして特に動脈から出るための多くの外科的適用において興味深いものである。動脈からの出血を停止させるために、例えばコラーゲン又は別の生分解性物質から作られる「動脈プラグ」(このような物体はまた、血管密封装置、大腿アクセス閉鎖装置(大腿動脈が、例えば血管造影の入口として使用されるとき)、血管止血装置及び穿刺閉鎖装置として公知である)の形態を使用することが以前に提案されている。本発明の本局面に従って、このようなプラグは、セリンプロテアーゼがトロンビンである本発明の組成物で有利にコーティングされ得る。このようなプラグは、組成物のトロンビンがプラグ周辺の血液凝固を助ける点で、動脈の開口のより速い密封を達成する。従って本発明は、この局面において、血管止血装置上に吸着された、セリンプロテアーゼがトロンビンである本発明の組成物量を有する血管止血装置を提供する。この血管止血装置は、好ましくは生分解性の固体又は半固体物質、例えばコラーゲン、キトサン又は他の生体ポリマーから作られる。
【0049】
本発明の別の局面は、セリンプロテアーゼ阻害剤として新規に同定されたN,N−ジエ
チルエチレンジアミンに関する。従ってこの局面において、本発明は、セリンプロテアーゼ阻害剤としてN,N−ジエチルエチレンジアミンを使用すること、及び阻害量のN,N−ジエチルエチレンジアミンをセリンプロテアーゼと混合することを含むセリンプロテアーゼの阻害方法を提供する。本発明のこの局面のいくつかの実施態様において、セリンプロテアーゼはプラスミンである。本発明のこの局面の他の実施態様において、セリンプロテアーゼはトロンビンである。
【0050】
本発明の異なる局面のすべての利点を実現するために、本発明の組成物が、溶液及びゲルから選択される形態にあることが一般に好ましい。この点で、水溶液及び水性ゲルがより好ましい。
【0051】
定義
本発明で使用される用語「低級アルキル」は、分枝していないか又は分枝した環式の飽和又は不飽和の(アルケニル又はアルキニル)ヒドロカルビルラジカルを意味し、これは、置換されるかもしれないし置換されないかもしれない。環式の場合、アルキル基は、好ましくはC3−C12、より好ましくはC5−C10、最も好ましくはC5−C7である。非環式の場合、アルキル基は、好ましくはC1−C10、より好ましくはC1−C6、より好ましくはメチル、エチル、プロピル(n−プロピル、イソプロピル)、ブチル(分枝若しくは非分枝)又はペンチル、最も好ましくはメチルである。
【0052】
本明細書で使用される用語「アリール」は、芳香族基、例えばフェニル若しくはナフチル、又は好ましくはN、O及びSから選択される1つ若しくはそれ以上のヘテロ原子を含む単環式、二環式若しくは三環式の芳香族複素環式基、例えばピリジル、ピロリル、キノリニル、フラニル、チエニル、オキサジアゾリル、チアジアゾリル、チアゾリル、オキサゾリル、ピラゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、イソオキサゾリル、イソチアゾリル、イミダゾリル、ピリミジニル、インドリル、ピラジニル、インダゾリル、ピリミジニル、チオフェネチル、ピラニル、カルバゾリル、アクリジニル、キノリニル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾチアゾリル(benzthiazolyl)、プリニル、シンノリニル、プテリジニル(pterdinyl)を意味する。
【0053】
本明細書で使用される用語「官能基」は、保護されない場合には、ヒドロキシ−、チオロ(thiolo)−、アミノ官能基、カルボン酸を意味し、そして保護される場合には、低級アルコキシ、N−、O−、S−アセチル、カルボン酸エステルを意味する。
【0054】
本明細書で使用される用語「ヘテロアリール」は、好ましくはN、O及びSから選択される1つ又はそれ以上のヘテロ原子を含む芳香族基、例えばピリジル、ピロリル、キノリニル、フラニル、チエニル、オキサジアゾリル、チアジアゾリル、チアゾリル、オキサゾリル、ピラゾリル、トリアゾリル、イミダゾリル、ピリミジニル、インドリル、ピラジニル又はインダゾリルを意味する。
【0055】
本明細書で使用される用語「非芳香族複素環」は、好ましくはN、O及びSから選択される1つ又はそれ以上のヘテロ原子を含む非芳香族環式基、例えば環式アミノ基、例えばピロリジニル、ピペリジル、ピペラジニル、モルホリニル又は環式エーテル、例えばテトラヒドロフラニル、単糖を意味する。
【0056】
本明細書で使用される用語「ハロゲン」は、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素を意味する。
本明細書で使用される用語「置換される」は、当該の基が、官能基、例えばヒドロキシル、アミン、スルフィド、シリル、カルボン酸、ハロゲン、アリールなどで置換されることを意味する。
【0057】
本発明の組成物に使用するための薬学的に受容可能な付加塩の例としては、鉱酸、例えば塩酸、臭化水素酸、リン酸、メタリン酸、硝酸及び硫酸、並びに有機酸、例えば酒石酸、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、フマル酸、安息香酸、グリコール酸、グルコン酸、コハク酸及びアリールスルホン酸由来の塩が挙げられる。本明細書に記載される薬学的に受容可能な賦形剤、例えば媒体、佐剤、キャリア又は希釈剤は、当業者に周知であり、そして容易に一般に利用可能である。薬学的に受容可能なキャリアは、活性化合物に対して化学的に不活性なもの、及び使用条件下で有害な副作用又は毒性を有さないものであり得る。薬学的処方は、例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy、第19版、Mack Printing Company、Easton、Pennsylvania(1995)に見出され得る。
【0058】
本発明の明細書に詳述されるように、本発明の組成物及び方法に使用するための阻害剤の可能な選択肢は、「N−(2’−フェノキシ)−4−アミノピリジン及びその誘導体」である。これにより、次の式IV:
【化6】

[式中、
1は、H、C1−C6−アルキル、C3−C7−シクロアルキル、フェニル、ベンジルアセチル及びベンゾイルから選択され;
Xは、酸素、窒素及び硫黄から選択され;
2及びR3は、各々個々にH、ハロゲン、ヒドロキシル、C1−C6−アルキル、C3−C7−シクロアルキル、C1−C6−アルキルオキシから選択され;そして
4は、H、C1−C6−アルキル、アリールアルキル及びアシルから選択される]
を有する化合物が意味される。
【0059】
好ましいこのような阻害剤は、次の式V:
【化7】

[式中、
1は、C1−C6−アルキル、C3−C7−シクロアルキル、フェニル及びベンジルから選択され;
2及びR3は、各々個々にH、ハロゲン、ヒドロキシル、C1−C6−アルキル、C3−C7−シクロアルキル及びC1−C6−アルキルオキシから選択される]
を有するものである。
【実施例】
【0060】
実施例
以下の実施例は、本発明を例示するものであり、そして限定するように解釈されるべきではない。
本発明に従って行われた以下の実験説明において、最初の活性の70%に達するのに要
した時間を、酵素溶液の安定性の数値として使用する。「T70%」と示されるこの値は、市販製品の寿命の間に活性の最大許容減少として受け入れられ得るものに相当するので、この値を選択する。
【0061】
実験的な研究において、高温(37℃)及び高濃度の酵素が使用されている。これは、適度に短い時間で安定性データを得るために行われており、数ヶ月間又は数年間待つ必要がない。温度に対する安定性の依存性が研究されており、結果は、実施例1に与えられる。この研究は、不活性化プロセスは、実際に測定された(37℃で)プロセスよりも室温でおよそ3倍遅く、そして冷蔵庫内温度でおよそ20倍遅いことを示した。
【0062】
さらにこの不活性化プロセスは濃度依存的であり、より高濃度の酵素でより迅速である。実施例1で使用されるトロンビン濃度は、1mg/ml(又は3300単位/ml)であり、すなわち現在市販されている調製物及び/又は装置で使用される0.1〜0.3mg/mlよりも高いものである。濃度依存性の研究は、不活性化プロセスは、実施例1で使用される濃度と比較して、この濃度で3〜4倍遅いものであることを示している。
【0063】
これを合わせることにより、セリンプロテアーゼを含む市販製品、例えばトロンビンを含む止血性調製物の室温貯蔵条件に対応する値に達するためには、このT70%値を10〜12倍すればよいことになる。表1において、N−(2’−フェノキシ)−4−アミノピリジン及びMOPSを含む組成物は、120日のT70%を有している。これは、0.1〜0.3mg/mlの製品の室温条件下で1200日超、すなわち3年超の値に相当している。これは、溶液中のトロンビンの安定化に関して以前に達成されたいかなる値をも明らかに超えている。
【0064】
実施例1−ヒトトロンビンの安定化
トロンビン溶液の血液凝固活性を測定するために、特定のヒトトロンビン(血漿由来、3300単位/mg、Biovitrum AB、Sweden)溶液を種々の希釈度で添加した後、フィブリノーゲン溶液(1.3mg/ml)の凝固時間を測定した。Amelungen Kc 1凝固装置(coagulometer)(Amelungen、Germany)を用いて凝固時間を測定した。異なる添加剤を含むトロンビン溶液の安定性を研究するために、37℃に維持されたサーモスタットチャンバー中でサンプルをインキュベートした。種々の時間間隔でアリコートを取り出し、そしてこれらのアリコートの残存
トロンビン活性を測定した。得られた値から、活性減衰曲線を作図することができた。
【0065】
10mM HEPES、0.13M NaCl緩衝液、pH7.4中の1mg/mlトロンビン溶液の活性減衰曲線は、37℃でおよそ1.6日のT70%値を示した。室温(およそ21℃)での対応する実験は、5.4日のT70%値を示し、一方冷蔵貯蔵(およそ5℃)後のT70%値は36日であった。従って、予想されるように、強い温度依存性が存在した。
【0066】
示される安定化添加剤とともに、10mM HEPES及び0.13M NaCl、pH7.4中の1mg/mlトロンビンを含む溶液を、サーモスタットチャンバー内に置き、そしてその活性減衰曲線を決定した。得られる結果を表1に示した。添加剤を含まない対応する1mg/mlトロンビン溶液のデータを、比較として含めた。
【0067】
【表1】

【0068】
試験化合物のすべてが安定化効果を有することが明白であった。しかし、本発明に従った阻害剤及びモルホリン含有化合物との組み合わせ物により相乗効果が存在しており、これは、このような組み合わせ物により得られた優れた結果によって証明された。上記の表に例示されるように、0.20M MOPSを単独で添加すると、安定化が4.7倍増大し、そして可逆的トロンビン阻害剤であるアミノベンズアミジン0.5mMを添加すると、安定化が12.5倍増大した。しかし本発明の組み合わせ物は、トロンビン組成物を、はるかに良好に(42.5倍)安定化した。MOPS及びN,N−ジエチルエチレンジアミンとの本発明の組み合わせ物はまた、個々の成分よりも酵素の安定化が良好であった。同様に、0.20M MOPS及び1.9mM N−(2’−フェノキシ)−4−アミノピリジンとの組み合わせ物は、75倍という極めて高い安定化の増大を与えることが示されたが、一方、個々の成分は、それぞれ安定性を4.7倍及び22倍増大した。
本研究で使用されるトロンビンは、血漿由来のヒトトロンビンであった。組換えヒトトロンビンがまた研究されており、そして本質的に同じ挙動を示した。
【0069】
実施例2−ウシトロンビンの安定化
ウシトロンビンの安定化を研究した。実験のセットアップは、実施例1と同じであったが、使用されたウシトロンビン(Baxter)の濃度は、0.4mg/mlであった。37℃での貯蔵の場合、HEPES緩衝液中のトロンビン溶液は、1.3日のT70%値を示した。HEPES緩衝液中のトロンビン溶液並びに3.0mM N−(2’−フェノキシ)−4−アミノピリジン及び0.20M MOPSは、54日のT70%値を示した。
【0070】
得られる結果は、ウシトロンビンが、研究されたヒトトロンビンの調製物よりもやや不安定であるが、それにもかかわらず、極めて良好な安定化効果が本発明の組成物によって得られることが示された。
【0071】
実施例3−低濃度のトロンビン
低濃度のトロンビンを含む組成物中のトロンビンの安定化を研究した。本発明の組成物の安定化効果は、比較的低濃度のトロンビンに対してもまた働くことが実証された。
HEPES緩衝液、pH7.4中のヒトトロンビン(血漿由来、3300単位/mg、Biovitrum AB、Sweden)15.0活性単位/mlの溶液は、23日のT7
0%値を示した。HEPES緩衝液、pH7.4並びに2.0mM N−(2’−フェノキシ)−4−アミノピリジン及び0.20M MOPS中の対応する溶液は、92日のT70%値を示した。
【0072】
実施例4−プラスミンの安定化
本発明に従ってプラスミン溶液の安定化を試験した。プラスミンの活性を、発色性ペプチド基質であるChromozym TH(Pentapharm、Switzerland)を用い、そして分光光度計で405nmの吸収変化を測定することにより決定した。10mM HEPES及び0.13M NaCl、pH7.4中100μg/mlのプラスミン(比活性3.2単位/mg、Sigma−Aldrich)並びに以下の表2に示される安定剤を含む溶液を、37℃でインキュベートし、そしてサンプルを、活性測定のために種々の時間間隔で採取した。得られる結果を表2に示した。
【0073】
【表2】

【0074】
これらの結果から、本発明に従った組み合わせ物を用いることにより、極めて強い安定化が得られることが明白であった。0.20Mモルホリンは、プラスミン組成物の安定性を4倍増大させ、0.13M N,N−ジエチルエチレンジアミンは、2.7倍、そして1.3mMアミノベンズアミジンは、17倍増大させた。しかし、モルホリン及びN,N−ジエチルエチレンジアミンの組み合わせ物は、プラスミン組成物の安定性を7.3倍増大させ、そしてモルホリン及びアミノベンズアミジンの組み合わせ物は、この安定性を72倍増大させた。
【0075】
実施例5−トリプシンの安定化
本発明に従ったトリプシン溶液の安定化を試験した。基質としてトシルアルギニンメチルエステル(TAME)を用い、そして分光光度計で247nmの吸収変化を測定することにより決定した。10mM HEPES及び0.13M NaCl、pH7.4中の100μg/mlトリプシン(TPCK処理、Sigma−Aldrich)並びに以下の表3に示される安定剤を含む溶液を、37℃でインキュベートし、そしてサンプルを、活性測定のために種々の時間間隔で採取した。得られる結果を表3に示した。
【0076】
【表3】

【0077】
先と同様に、安定化効果は、本発明の組成物で最も高かった。従って、0.5Mモルホリン単独は、安定化を13倍増大させ、そして1mMベンズアミジン単独は、安定化を72倍増大させた。一方本発明の組み合わせ物は、安定化を147倍増大させた。
【0078】
実施例6−CMCを用いたトロンビンの安定化
ヒト皮膚への接着性について、1.0%と2.0%との間のカルボキシメチルセルロース(CMC)を含むトロンビン溶液の試験は、CMCの添加により、粘性及び接着性の両方が強力に増大することを示した。しかし驚くべきことに、これらのトロンビン溶液の安定性がさらに増大することがまた見出された。0.5mMアミノベンズアミジン、0.20M
MOPS、10mM HEPES、CMC2.0%の0.13M NaCl中の1mg/mlヒトトロンビン(血漿由来、3300単位/mg、Biovitrum AB、Sweden)溶液を37℃でインキュベートし、そして活性減衰曲線を決定した。得られるT70%値は、175日であった。
【0079】
実施例7−他の接着性ポリマーを用いた安定化
4つの他のポリマー:すなわちエチルヒドロキシエチルセルロース(EHEC)、ジャガイモデンプン、トウモロコシデンプン及び冷水魚ゼラチンをまた研究した。これらのポリマーの4つすべては、トロンビン溶液の接着性及び粘性を増大させた。このポリマーを用いたトロンビン溶液の互換性及び安定性を、種々のポリマーを含む、0.20M MO
PS、0.5mM アミノベンズアミジン、10mM HEPES、0.13M NaCl、pH7.4中の1mg/mlヒトトロンビン(血漿由来、3300単位/mg、Biovitrum AB、Sweden)溶液を37℃でインキュベートすることによりさらに研究した。使用されるポリマー濃度は、EHEC、0.6%;2つの異なるデンプン、4.0%;及びゼラチン、12.8%であった。EHECは、トロンビンと完全に互換性があり、そして同じT70%値、すなわちおよそ65日が、EHECを含まない対応する溶液と同様に得られた。デンプン含有溶液は、22日及び26日のT70%値を有した。トロンビンの安定性は、ゼラチンで極めて良好であり、T70%値は90日を超えており、これは冷水魚ゼラチンのさらなる安定化効果を実証した。
【0080】
実施例8−出血実験
本発明の組成物が出血を停止させる能力を、ウサギでの一連の実験で試験した。選択されたモデルの肝臓を切開し、これは頻繁に使用されるモデルであった。ウサギの腹部を開き、そして肝臓を露出させた。肝臓表面に3mm長の画一化された切断部をつけ、そしてシリンジを用いて試験溶液0.10ml量をこの創傷に投与した。止血時間を測定した。各溶液を用いて10〜12の実験を行った。各シリーズの実験の最高値と最低値を除いた後、出血時間の平均値を計算した。比較として、一般に使用される止血剤、Tisseel(Baxter)(フィブリングルー(fibrin glue))をまた研究に含めた。Tisseelを、本質的に製造業者の推奨に従って使用した。混合チャンバーを備えたダブルシリンジを用いて、溶液0.2mlを各創傷に投与した。得られる結果を、以下の表4に与えた。
【0081】
【表4】

【0082】
これらの結果から明白なように、本発明に従って安定化されたトロンビン溶液は、一般に使用される薬剤に匹敵するか又はそれよりも良好に、出血した被験体の止血を迅速に確立する点で最も有効であった。
【0083】
実施例9−多孔質物質との互換性
10mM HEPES、0.14M NaCl、0.5mMアミノベンズアミジン、0.20M MOPS、pH7.4中の0.4mg/mlヒトトロンビン(血漿由来、3300単位
/mg、Biovitrum AB、Sweden)を含む溶液を、ポリウレタンプラスター(Hartmann Scandicare AB、Anderstorp、SwedenによりLigasoneとして販売される)の小片に吸着させた。このポリウレタン小片を飽和させるに十分な量の溶液を用いた。この小片をチューブに移し、その後蒸発を防ぐために閉じた。このチューブを37℃に維持し、そして溶液のサンプルを、ポリウレタン小片を軽く圧迫することにより、間隔を置いて採取した。活性減衰曲線は、74日のT70%値を示し、これは、46倍の安定性の増大に相当した。
【0084】
実施例10−固相上への酵素の吸着
表面に対する安定化溶液中のトロンビンの吸着を試験した。およそ3×3mmの固形薄片のキトサン(少なくとも85%脱アセチル化、Sigma−Aldrich)を、10mM HEPES、0.13M NaCl、pH7.4中のヒトトロンビン(血漿由来、3300単位/mg、Biovitrum AB、Sweden)400単位/mlの溶液中で10分間インキュベートした。この溶液に、以下を添加した:1)なし、2)0.10Mモルホリン、2mM N−(2’−フェノキシ)−4−アミノピリジン、3)0.10Mモルホリン、2mM N−(2’−フェノキシ)−4−アミノピリジン、0.5%カルボキシメチルセルロース。次いでこの薄片を取り出し、そして濾紙上で乾燥させた。トロンビン凝固活性の測定を達成するために、薄片を試験管内に置き、そして1.3mg/mlフィブリノーゲン溶液0.4mlを添加した。凝血塊の検出を改善するために、この試験管はまた小さな鋼球を含んだ。種々のインキュベーション混合物由来の薄片に対して最初に得られる凝固時間は、1分間と4分間との間で変動した。37℃で7日間のEppendorfチューブでのインキュベーション後、溶液1)中でインキュベートされた薄片の凝固時間は、強力に延長された。この値は、24分間と27分間との間であった。対照的に、溶液2)及び溶液3)中でインキュベートされた薄片の凝固時間は、1分間〜2.5分間の範囲であり、これはすなわち開始時の値と同じであった。明らかに、トロンビン活性の強力な安定化が、溶液2)及び溶液3)を用いて得られた。インビボ止血性活性を試験するために、溶液3)中でインキュベートされたキトサン薄片を、実施例8に記載される動物モデルに従ったウサギ肝臓の創傷に投与した。平均止血時間は27秒間であった(6回の実験に基づいて)。
【0085】
説明的な実施例A−モルホリンはトロンビン阻害剤ではない。
モルホリンがトロンビンの阻害剤である可能性を評価した。トロンビンのフィブリノーゲン凝固活性は、凝固試験によって通常測定され、ここでフィブリノーゲン溶液の凝固時間は、機械装置又は光学装置によって検出された。この実験セットアップでの凝固試験を、標準的な方法(EU Pharmacopeia)に従って、0.01M HEPES、0.13M NaCl緩衝液、pH7.4中で行った。89単位/mlを含むヒトトロンビン(血漿由来、3300単位/mg、Biovitrum AB、Sweden)溶液を用い、そして1/5、1/10及び1/16の希釈で試験した。種々の濃度のモルホリン溶液を、pH7.4に調整された濃縮モルホリン溶液を添加することによって、HEPES緩衝液中で調製した。モルホリンが水に溶解すると、pHは9〜10に上昇するので、pHが7.4になるようにHClを添加した。これはまた、この溶液のイオン濃度も増大させた。表Iに、得られる結果を示した。観察された凝固時間を、標準曲線を用いてトロンビンの濃度に転換した。
【0086】
【表5】

【0087】
これらの結果から明白なように、あるレベルまでモルホリン濃度が上昇するにつれ、凝固時間が延長した。しかし、NaClでイオン濃度を増大させると同じことが観察され、そして同様のプロフィールを示した。従ってこの延長効果は、おそらくイオン濃度の増大によって引き起こされたものであった。さらに、イオン濃度を0.15Mから0.22Mに増大させると、フィブリン重合の変化が引き起こされることが公知であった(B.Blomback、Thrombosis Research、第83巻、(1996)、1〜75頁、特に18頁)。これは実際に、最初のNaCl濃度が0.13Mであり、次いで0.18Mに増大させ、そして0.33Mへと増大させたこの実験シリーズで研究された範囲に相当した。これはまた、観察されたプラトーレベルに相当した。結論として、モルホリン自身は、トロンビンの阻害剤ではなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)セリンプロテアーゼ、b)このセリンプロテアーゼの可逆的阻害剤及びc)次の式I:
【化1】

[式中、
nは、0、1又は2であり;
Xは、O、N又はCH2であり;
1−R4は、同じか又は異なっており、そしてH、−CH2−R6、−CH2−O−R6、−CH2−S−R6、−CH2−NH−R6、−CO−O−R6、−CO−NH−R6、−CH2−NH−CO−R6、−CH2−O−CO−R6、−CH2−NH−CO−NHR6、−CH2−NH−CO−OR6、−CH2−NH−CS−NHR6及び−CH2−O−CO−NHR6から選択され;
5は、R1−R4又はP−Qの通りであり;
Pは、−(CH2)m−及び−(CH2)m−Y−(CH2)m−から選択され、ここでmは、1〜6であり、そしてYは、O、NH又はSであり;
Qは、H、−SO3、−COOH、−NH2、−OH及び−CONH2から選択され;
各々のR6は個々に、H、置換されるか若しくは置換されない低級アルキル、置換されるか若しくは置換されないシクロアルキル、置換されるか若しくは置換されないベンジル、置換されるか若しくは置換されないアリール、又は1つ若しくはそれ以上のヘテロ原子を有する単環式、二環式若しくは三環式の非置換型若しくは置換型の芳香族複素環及び非芳香族複素環から選択され、置換される基の置換基は、低級アルキル、ハロゲン、置換されるか又は置換されないアリール、置換されるか又は置換されない芳香族複素環化合物、非芳香族複素環、アルキルオキシ、アルキルアミノから選択される]
を有する安定剤M又はその薬学的に受容可能な塩を含む安定化セリンプロテアーゼ組成物。
【請求項2】
セリンプロテアーゼが、トリプシン、カリクレイン、トロンビン、プラスミン、ウロキナーゼ、組織プラスミノーゲンアクチベーター、第IX因子の活性型、第X因子の活性型及び第XI因子の活性型からなる群より選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
可逆的阻害剤が、0.01mMと2mMとの間、例えば0.04mMと0.5mMとの間のKi値を示すものである、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
セリンプロテアーゼがトロンビンである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
可逆的阻害剤が、N−(2’−フェノキシ)−4−アミノピリジン及びその誘導体、ベンズアミジン、N,N−ジエチルエチレンジアミン、アミノベンズアミジン、アミジノピリジン並びにtert−ブチルアミジンから選択される、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
可逆的阻害剤が、N−(2’−フェノキシ)−4−アミノピリジン及びその誘導体、N,N−ジエチルエチレンジアミン、アミジノピリジン並びにtert−ブチルアミジンから選択される、請求項4に記載の組成物。
【請求項7】
可逆的阻害剤が、N−(2’−フェノキシ)−4−アミノピリジン又はその誘導体である、請求項4に記載の組成物。
【請求項8】
セリンプロテアーゼがプラスミンである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
可逆的阻害剤が、N,N−ジエチルエチレンジアミン、アミノベンズアミジン及びベンズアミジンから選択される、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
セリンプロテアーゼがトリプシンである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
可逆的阻害剤が、アミノベンズアミジン及びベンズアミジンから選択される、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
式Iのnが1又は2である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
式Iのnが1である、請求項1〜12のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
安定剤Mが、次の式II:
【化2】

[式中、
1−R4は、同じか又は異なっており、そしてH、−CH2−R6から選択され;
5は、R1−R4又はP−Qの通りであり;
Pは、−(CH2)m−及び−(CH2)m−Y−(CH2)m−から選択され、ここでmは、1〜6であり、そしてYは、O、NH又はSであり;
Qは、H、−SO3、−COOH、−NH2、−OH及び−CONH2から選択され;
各々のR6は個々に、H、置換されるか若しくは置換されない低級アルキル、置換されるか若しくは置換されないシクロアルキル、置換されるか若しくは置換されないベンジル、置換されるか若しくは置換されないアリール、又は1つ若しくはそれ以上のヘテロ原子を有する単環式、二環式若しくは三環式の非置換型若しくは置換型の芳香族複素環及び非芳香族複素環から選択され、置換される基の置換基は、低級アルキル、ハロゲン、置換されるか又は置換されないアリール、置換されるか又は置換されない芳香族複素環化合物、非芳香族複素環、アルキルオキシ、アルキルアミノから選択される]
の化合物又はその薬学的に受容可能な塩である、請求項1〜13のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項15】
安定剤Mが、次の式III:
【化3】

[式中、
5は、−CH2−R6又はP−Qであり;
Pは、−(CH2)m−又は−(CH2)m−Y−(CH2)m−から選択され、ここでmは、1〜6であり、そしてYは、O、NH又はSであり;
Qは、H、−SO3、−COOH、−NH2、−OH及び−CONH2から選択され、
各々のR6は個々に、置換されるか又は置換されない低級アルキル、置換されるか又は置換されないシクロアルキル、置換されるか又は置換されないベンジル、置換されるか又は置換されないアリールから選択され、置換される基の置換基は、低級アルキル、ハロゲン、置換されるか又は置換されないアリール、置換されるか又は置換されない芳香族複素環化合物、非芳香族複素環、アルキルオキシ、アルキルアミノから選択される]
の化合物又はその薬学的に受容可能な塩である、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
安定剤Mが、モルホリン、3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)、モルホリノブチルスルホン酸、モルホリノプロピルカルボン酸、モルホリノエチルアルコール及びモルホリノエチルスルホン酸からなる群より選択される、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
安定剤Mが、モルホリン及び3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸から選択される、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
安定剤Mがモルホリンである、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
セリンプロテアーゼがトロンビンであり、可逆的阻害剤がN−(2’−フェノキシ)−4−アミノピリジンであり、そして安定剤Mがモルホリンである、請求項1〜18のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項20】
セリンプロテアーゼがトロンビンであり、可逆的阻害剤がN−(2’−フェノキシ)−4−アミノピリジンであり、そして安定剤Mが3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸である、請求項1〜19のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項21】
多糖類及びゼラチンから選択される粘性及び接着性のポリマーをさらに含む、請求項1〜20のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項22】
粘性及び接着性のポリマーが多糖類である、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
多糖類が、デンプン、その誘導体、セルロース、その誘導体及びそれらの混合物から選択される、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
多糖類が、カルボキシメチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース及びそれらの混合物から選択される、請求項23に記載の組成物。
【請求項25】
多糖類がカルボキシメチルキトサンである、請求項22に記載の組成物。
【請求項26】
多糖類が、0.1〜5%の濃度で存在している、請求項22〜25のいずれか1項に記
載の組成物。
【請求項27】
粘性及び接着性のポリマーがゼラチンである、請求項21に記載の組成物。
【請求項28】
ゼラチンが冷水魚ゼラチンである、請求項27に記載の組成物。
【請求項29】
ゼラチンが、0.5〜20%の濃度で存在している、請求項27または28に記載の組成物。
【請求項30】
セリンプロテアーゼが、0.001〜2mg/mlの濃度で存在している、請求項1〜29のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項31】
セリンプロテアーゼがトロンビンであり、そしてこのトロンビン濃度が、5〜3500活性単位/mlである、請求項1〜30のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項32】
セリンプロテアーゼがトロンビンであり、そしてこのトロンビン濃度が、200〜1000活性単位/mlである、請求項1〜31のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項33】
セリンプロテアーゼがトロンビンであり、そしてこのトロンビン濃度が、5〜20活性単位/mlである、請求項1〜32のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項34】
セリンプロテアーゼの可逆的阻害剤が、0.1〜10mMの濃度で存在する、請求項1
〜33のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項35】
安定剤が、0.02〜0.5Mの濃度で存在する、請求項1〜34のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項36】
溶液及びゲルから選択される形態、例えば水溶液又は水性ゲルの形態にある、請求項1〜35のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項37】
請求項1〜36のいずれか1項に記載の組成物の薬剤としての使用。
【請求項38】
出血を患う被験体の止血を確立するための薬剤を製造するための、セリンプロテアーゼがトロンビンである請求項1〜36のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項39】
出血を患う被験体の止血を確立する方法であって、セリンプロテアーゼがトロンビンである請求項1〜36のいずれか1項に記載の組成物を、出血を減少又は停止させるに十分な量でこの出血部位に投与することを含む方法。
【請求項40】
形成外科での請求項33に記載の組成物の使用。
【請求項41】
血栓溶解を処置する薬剤を製造するための、セリンプロテアーゼが、プラスミン、ウロキナーゼ及び組織プラスミノーゲンアクチベーターから選択される、請求項1〜36のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項42】
血栓溶解処置を必要とする被験体の血栓溶解を処置する方法であって、セリンプロテアーゼが、プラスミン、ウロキナーゼ及び組織プラスミノーゲンアクチベーターから選択される請求項1〜36のいずれか1項に記載の組成物を、この処置に十分な量でこの被験体に投与することを含む方法。
【請求項43】
セリンプロテアーゼ組成物を安定化するための可逆的セリンプロテアーゼ阻害剤及び請求項1に定義される安定剤Mとの組み合わせ物の使用であって、この可逆的セリンプロテアーゼ阻害剤及び安定剤Mが相乗作用で作用して、セリンプロテアーゼを安定にする効果を提供する使用。
【請求項44】
セリンプロテアーゼが、請求項2、4、8、10、30、31、32及び33のいずれか1項に定義される、請求項43に記載の使用。
【請求項45】
可逆的阻害剤が、請求項3、5、6、7、9、11及び34のいずれか1項に定義される、請求項43または44に記載の使用。
【請求項46】
安定剤Mが、請求項12〜18及び35のいずれか1項に定義される、請求項43〜45のいずれか1項に記載の使用。
【請求項47】
組み合わせ物が、多糖類及びゼラチンから選択される粘性及び接着性のポリマーをさらに含む、請求項43〜46のいずれか1項に記載の使用。
【請求項48】
粘性及び接着性のポリマーが、請求項22〜29のいずれか1項に定義される、請求項47に記載の使用。
【請求項49】
可逆的セリンプロテアーゼ阻害剤が、N−(2’−フェノキシ)−4−アミノピリジンであり、そして安定剤Mが、3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸である、請求項43〜48のいずれか1項に記載の使用。
【請求項50】
セリンプロテアーゼ組成物を安定化させる方法であって、セリンプロテアーゼを、a)このセリンプロテアーゼの可逆的阻害剤及びb)次の式I:
【化4】

[式中、
nは、0、1又は2であり;
Xは、O、N又はCH2であり;
1−R4は、同じか又は異なっており、そしてH、−CH2−R6、−CH2−O−R6、−CH2−S−R6、−CH2−NH−R6、−CO−O−R6、−CO−NH−R6、−CH2−NH−CO−R6、−CH2−O−CO−R6、−CH2−NH−CO−NHR6、−CH2−NH−CO−OR6、−CH2−NH−CS−NHR6及び−CH2−O−CO−NHR6から選択され;
5は、R1−R4又はP−Qの通りであり;
Pは、−(CH2)m−及び−(CH2)m−Y−(CH2)m−から選択され、ここでmは、1〜6であり、そしてYは、O、NH又はSであり;
Qは、H、−SO3、−COOH、−NH2、−OH及び−CONH2から選択され;
各々のR6は個々に、H、置換されるか若しくは置換されない低級アルキル、置換されるか若しくは置換されないシクロアルキル、置換されるか若しくは置換されないベンジル、置換されるか若しくは置換されないアリール、又は1つ若しくはそれ以上のヘテロ原子を有する単環式、二環式若しくは三環式の非置換型若しくは置換型の芳香族複素環及び非芳香族複素環から選択され、置換される基の置換基は、低級アルキル、ハロゲン、置換されるか又は置換されないアリール、置換されるか又は置換されない芳香族複素環化合物、非芳香族複素環、アルキルオキシ、アルキルアミノから選択される]
の安定剤M又はその薬学的に受容可能な塩と混合することを含む方法。
【請求項51】
セリンプロテアーゼが、請求項2、4、8、10、30、31、32及び33のいずれか1項に定義される、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
可逆的阻害剤が、請求項3、5、6、7、9、11及び34のいずれか1項に定義される、請求項50または51に記載の方法。
【請求項53】
安定剤Mが、請求項12〜18及び35のいずれか1項に定義される、請求項50〜52のいずれか1項に記載の方法。
【請求項54】
セリンプロテアーゼを、多糖類及びゼラチンから選択される粘性及び接着性のポリマーと混合することをさらに含む、請求項50〜53のいずれか1項に記載の方法。
【請求項55】
粘性及び接着性のポリマーが、請求項22〜29のいずれか1項に定義される、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
可逆的セリンプロテアーゼ阻害剤がN−(2’−フェノキシ)−4−アミノピリジンであり、そして安定剤Mが3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸である、請求項50〜55のいずれか1項に記載の方法。
【請求項57】
セリンプロテアーゼがトロンビンである請求項1〜36のいずれか1項に記載の組成物が血管止血装置上に吸着された血管止血装置。
【請求項58】
例えばキトサン及びコラーゲンから選択される生分解性物質を含む、請求項57に記載の血管止血装置。
【請求項59】
セリンプロテアーゼの阻害剤としてのN,N−ジエチルエチレンジアミンの使用。
【請求項60】
セリンプロテアーゼが、トロンビン及びプラスミンから選択される、請求項59に記載の使用。
【請求項61】
阻害量のN,N−ジエチルエチレンジアミンと混合することを含む、セリンプロテアーゼの阻害方法。
【請求項62】
セリンプロテアーゼが、トロンビン及びプラスミンから選択される、請求項61に記載の方法。

【公表番号】特表2009−508943(P2009−508943A)
【公表日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−532186(P2008−532186)
【出願日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【国際出願番号】PCT/SE2005/001391
【国際公開番号】WO2007/035143
【国際公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(508087723)トルービオ・アーベー (1)
【Fターム(参考)】