説明

安定化二酸化塩素剤および二酸化塩素の安定した発生方法

【課題】二酸化塩素を用いた環境浄化または食品の輸送時などにおける消臭、殺菌、ウイルス除去、防カビ、防腐において、保管時には二酸化塩素を発生せず使用時に安定して二酸化塩素を発生する安定化二酸化塩素剤およびそれを用いて安定して二酸化塩素を発生させる方法を提供する。
【解決手段】多孔質担体に亜塩素酸塩およびアルカリ剤を含浸させ乾燥させたことを特徴とする安定化二酸化塩素剤である。使用される多孔質担体は水に懸濁させたときにアルカリ性を示すものである。使用するアルカリ剤の濃度は亜塩素酸塩1モルに対して0.1当量以上0.7当量以下である。この安定化二酸化塩素剤中の水分量は10重量%以下である。また、この安定化二酸化塩素剤を保管時には二酸化炭素および水蒸気を遮断し、使用時に二酸化炭素および水蒸気と接触させることを特徴とする二酸化塩素ガスの安定した発生方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は環境浄化または食品の輸送時などにおける消臭、殺菌、ウイルス除去、防カビ、防腐などの目的に使用される安定化二酸化塩素剤およびそれを用いて希薄な二酸化塩素ガスを安定して発生させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化塩素は強力な酸化剤であり、消臭、殺菌、ウイルス除去、防カビ、防腐、漂白などの用途において有望視されている。しかし、二酸化塩素は非常に不安定であるため、長期の保存や運搬には不向きであり、高濃度では爆発の危険性があるなど問題が有り、その問題を解消するために種々の方法が提案されている。
【0003】
安定化二酸化塩素と吸水性樹脂とからなるゲル状組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照。)が、ほとんど二酸化塩素ガスを発生しないなど問題が有る。それを解決するために、安定化二酸化塩素と吸水性樹脂とからなるゲル状組成物に紫外線を照射する方法(例えば、特許文献2参照。)が提案されているが、紫外線照射装置との組み合わせが必要である。
【0004】
溶存二酸化塩素ガス、亜塩素酸塩及び酸性に保つpH調整剤を構成成分に有する純粋二酸化塩素剤並びに高吸水性樹脂を含有することを特徴とするゲル状組成物が提案されている(例えば、特許文献3参照。)が、溶存二酸化塩素の分解により長期保存するには適さない。
【0005】
亜塩素酸塩水溶液に、活性化剤と、吸水性樹脂と保水剤とを添加しゲル化させる方法(例えば、特許文献4参照。)が提案されているが、使用時に薬剤を添加する必要があり、しかも添加後の反応をコントロールできないため添加後数日は高濃度二酸化塩素ガスが発生する問題が有った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61−181532号公報
【特許文献2】特開2000−202009号公報
【特許文献3】特開平11−278808号公報
【特許文献4】特開2007−1807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、二酸化塩素を用いた環境浄化または食品の輸送時などにおける消臭、殺菌、ウイルス除去、防カビ、防腐を目的として、過不足なく安定して二酸化塩素を発生する安定化二酸化塩素剤を提供すること、更に保管時には二酸化塩素を発生させずに使用時に二酸化塩素を発生させる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、多孔質担体に亜塩素酸塩およびアルカリ剤を含浸させ乾燥させて得られる安定化二酸化塩素剤において、
含浸させるアルカリ剤の量が亜塩素酸塩(mol)に対して0.1当量以上0.7当量以下であり、乾燥後の水分含有量が10重量%以下であることを特徴とする安定化二酸化塩素剤である。
【0009】
本発明は、安定化二酸化塩素剤を保管時には二酸化炭素および水蒸気を遮断し、使用時に空気に含まれる二酸化炭素および水蒸気と接触させることにより二酸化塩素ガスを発生することを特徴とする二酸化塩素ガスの安定した発生方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の安定化二酸化塩素剤によれば、過不足なく安定して二酸化塩素を発生することができ、また本発明の二酸化塩素ガス発生方法によれば、保管時には二酸化塩素を発生させずに使用時に二酸化塩素を発生させることができる。更に、本発明の安定化二酸化塩素剤を用いた二酸化塩素ガス発生方法は、保管時には二酸化塩素を発生させないことで長期の保存や運搬に適しており、使用時には安定した二酸化塩素ガスを発生するために爆発の危険性の少ない点で好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、発明を実施の形態を説明する。本発明における安定化二酸化塩素剤とは、安定的に二酸化塩素を放出する物質を指し、多孔質担体に亜塩素酸塩およびアルカリ剤を含浸させ乾燥させたものである。
【0012】
本発明における安定化二酸化塩素剤に使用される多孔質担体は、セピオライト、パリゴルスカイト、モンモリロナイト、シリカゲル、珪藻土、ゼオライト、パーライト等使用できるが、亜塩素酸塩を分解させないために、水に懸濁させた場合にアルカリ性を示すものが好ましく、パリゴルスカイトとセピオライトがより好ましく、セピオライトが特に好ましい。セピオライトは、ケイ酸マグネシウム塩の天然鉱物であって化学構造式は下記一般式(1)で表される。
【化1】

その結晶構造は繊維状で表面に多数の溝を有すると共に内部に筒型トンネル構造のクリアランスを多数有し、非常に表面積の大きい物質である。本発明には、セピオライト原鉱石を粉砕精製したものまたは、成型したもの或いはさらに100〜800℃で加熱焼成して得た粒状、粉状、繊維状、成型体のいずれの形状のものも用途に応じて用いられる。また、セピオライトは吸保水能が極めて大きく、自重と同じ水分を吸収しても事実上乾燥状態を示すことができる。
【0013】
本発明に使用される亜塩素酸塩は、具体的には亜塩素酸のアルカリ金属塩である亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カリウム、亜塩素酸リチウムなどを例示することができ、経済性および実用性の面から亜塩素酸ナトリウムであることが最も好ましい。安定化二酸化塩素剤中の亜塩素酸塩の濃度は、1重量%以上で有効であるが、25重量%を超えると劇物に該当するため、1重量%以上25重量%以下が好ましく、5重量%以上20重量%以下であることがより好ましい。
【0014】
本発明に使用されるアルカリ剤は、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウムなどであるが、経済性の面から水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムが好ましく、安定化二酸化塩素剤の保存安定性の面から、水酸化ナトリウムが更に好ましい。
本発明における安定化二酸化塩素剤のアルカリ剤の量は、亜塩素酸塩(mol)に対して0.1当量以上0.7当量以下が適当であり、好ましくは0.1当量以上0.3当量以下である。0.1当量未満では担持された亜塩素酸塩が常温でも分解する虞があり、0.7当量を超えると安定性は向上するが、二酸化塩素が発生し難くなり発生濃度が低下するので好ましくない。
【0015】
本発明における安定化二酸化塩素剤は、多孔質担体に亜塩素酸塩およびアルカリ剤を含浸させ乾燥させたものであるが、乾燥度合い(含水率)が安定化二酸化塩素剤の性能に極めて大きな影響を与える。即ち、安定化二酸化塩素剤の含水率が高いと、亜塩素酸塩は塩素酸塩を生成する分解反応が促進される。また、生成した二酸化塩素が含有する水分でトラップされるためかは不明であるが、含水率が高いと発生する二酸化塩素量が少なくなる。以上の理由より、安定化二酸化塩素剤中の含水率は10重量%以下であることが好ましく、5重量%以下であることがさらに好ましい。
【0016】
本発明における安定化二酸化塩素剤は、亜塩素酸塩水溶液とアルカリ剤との混合溶液を十分乾燥した多孔質担体に添加混合の後乾燥するかまたは、多孔質担体にアルカリ剤を添加混合しさらに、亜塩素酸塩水溶液を添加混合の後乾燥して得られる。また、以上の操作を繰り返すことにより高含有量の安定化二酸化塩素剤を得ることも可能である。乾燥方法は特に限定されないが、真空乾燥機、流動乾燥機、棚段乾燥機、回転式乾燥機等が例示される。
【0017】
本発明における安定化二酸化塩素剤から二酸化塩素を発生させる方法は、安定化二酸化塩素剤と酸性物質、又は酸化性物質を混合する方法、安定化二酸化塩素剤と空気を接触させる方法が例示され、二酸化塩素を安定した量で一定期間発生させる点で安定化二酸化塩素剤と空気を接触させる方法が好ましい。
【0018】
本発明における安定化二酸化塩素剤から安定化二酸化塩素剤と酸性物質、又は酸化性物質を混合して二酸化塩素を発生させる場合の酸性物質としては塩酸、硫酸、リン酸、硝酸などの強酸や、蟻酸、酢酸、クエン酸などの弱酸を例示することができ、酸化性物質としてはオゾン、塩素を例示することができる。用いる酸性物質、又は酸化性物質の中でも、二酸化塩素の発生量をコントロールする上では弱酸が好ましい。さらに、クエン酸などの固型の酸と混合する方法は、空気中の水分を吸収して徐々に二酸化塩素を放出することが可能であるのでより好ましい。
【0019】
本発明における安定化二酸化塩素剤は空気を接触させる方法により、二酸化塩素を発生させることができる。そこで、本発明者らは、本発明の二酸化塩素剤に、通常の空気を通気させる、水酸化ナトリウム水溶液で二酸化炭素を遮断した空気を通気させる、水酸化ナトリウム水溶液と塩化カルシウムで二酸化炭素と水蒸気を遮断した空気を通気させる3つの方法で二酸化塩素の発生量を比較したところ(表4参照)、通常の空気を通気させる場合と比較して、二酸化炭素を遮断した空気を通気させる場合は大きく二酸化塩素の発生量を減少することができ、二酸化炭素と水蒸気を遮断した空気を通気させる場合では二酸化塩素の発生量はほぼゼロに抑えられる知見が得られた。これは水蒸気および二酸化炭素が安定化二酸化塩素剤の孔の中に吸収されると一般式(2)のように炭酸が生成し、炭酸は第一解離定数pK1=6.4 の弱酸であるので、この炭酸が酸として亜塩素酸塩に作用することにより二酸化塩素を生成したものと思われる。
【化2】

【0020】
この現象より、上述したような酸性物質をあえて混ぜ合わせるのではなく、空気と接触させる、正確には空気中の二酸化炭素および水蒸気と接触させることにより二酸化塩素を発生することができる。逆の見方をすれば、二酸化炭素と水蒸気との接触を避けることにより二酸化塩素の発生を抑えることが可能である。この知見により、未使用時は二酸化炭素と水蒸気を透過しにくい材質の容器に入れるもしくは包装材で梱包するなどの方法により未使用時には二酸化塩素の発生を抑え、使用する時に初めて外気と接触させる(容器から取り出す、容器の蓋を取る、包装材を取るなど)ことにより二酸化塩素ガスを徐々に発生させるものである。
【0021】
本発明の二酸化塩素ガスの安定した発生方法に用いる包装材料や容器の二酸化炭素及び水蒸気の透過率としては以下が例示できる。二酸化炭素の透過率は2.5×10−11cc(STP)/cm・sec・cmHg以下であることが好ましいので、厚さ50μmのフィルムの場合であれば、5×10−10cc(STP)mm/cm・sec・cmHg以下であることが好ましい。また、水蒸気の透過率は5×10−9cc(STP)/cm・sec・cmHg以下であることが好ましいので、厚さ50μmのフィルムの場合であれば、1000×10−10cc(STP)mm/cm・sec・cmHg以下であることが好ましい。二酸化炭素及び水蒸気が透過しにくい材料は、金属やガラス等も考えられるが、特に包装材料や容器の中蓋で使用する場合はプラスチック製フィルムが多く使用されるが、その場合、アルミ蒸着ポリエチレンフィルム、塩化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレンなどが使用できる。
【0022】
以下、さらに実施例、比較例を用いてさらに具体的に説明する。
【0023】
700℃で3時間焼成したセピオライト(近江鉱業社製「ミラクレーG−13F」(粒径1〜3mm))を25%亜塩素酸ナトリウム水溶液および25%水酸化ナトリウム水溶液を所定の割合で混合した溶液に添加・混合させた後、70℃×5時間で真空乾燥し、表1に示す組成の安定化二酸化塩素剤A〜Gを得た。
【0024】
【表1】

【0025】
安定化二酸化塩素剤A〜G10gをガラス製サンプル瓶(容量50ml)に入れ密閉し、温度40℃、湿度75%で4ヶ月間放置して前後での亜塩素酸ナトリウムの濃度をヨウ素滴定法により分析して、表2に示す結果を得た。
【0026】
【表2】

【0027】
次に、安定化二酸化塩素剤A〜G40gを300mlガラス製充填塔 (直径50×高さ150mm)に入れ温度25℃、湿度60%において空気を1L/minで5時間通気させ、出口ガスをリン酸緩衝液でpH=7調整したヨウ化カリウム溶液に吸収させ二酸化塩素により遊離したヨウ素をチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定して二酸化塩素ガスの発生量を調べ、表3に示す結果を得た。単位は、安定化二酸化塩素剤1kgあたりの二酸化塩素ガス発生量mg/hで表した。
【0028】
【表3】

【0029】
表2に示されるように、安定化二酸化塩素剤A〜DおよびFは亜塩素酸塩の減少量が1割以下であったのに対し、安定化二酸化塩素剤Eはアルカリ剤の量が少ないために分解し、安定化二酸化塩素剤Gは水の含有量が多いために亜塩素酸塩は塩素酸塩を生成する分解反応が起こり、亜塩素酸ナトリウムの濃度が初期の約1/3に低下した。
また、表3に示されるように、安定化二酸化塩素剤A〜Dは適量の二酸化塩素ガスが発生しているのに対して、安定化二酸化塩素剤Eはアルカリ剤の量が少ないために二酸化塩素ガス発生量は過剰であり、安定化二酸化塩素剤Fはアルカリ剤の量が多いために二酸化塩素ガス発生量は不足であった。
従って、本発明の安定化二酸化塩素剤A〜Dは、安定化二酸化塩素剤E〜Gと比較して、適量な二酸化塩素ガスを一定期間において安定的に発生させることができることがわかる。
【0030】
表1のB組成の安定化二酸化塩素剤40gを300mlガラス製充填塔 (直径50×高さ150mm)に入れ温度25℃、湿度60%において、1L/minで5時間、通常の空気を通気させる(例1)、25%水酸化ナトリウム水溶液で二酸化炭素を遮断した空気を通気させる(例2)、25%水酸化ナトリウム水溶液と塩化カルシウム管で二酸化炭素と水蒸気を遮断した空気を通気させる(例3)、3つの方法で二酸化塩素の発生量を上記と同様の方法で調べ、表4に示す結果を得た。通常の空気を通気させる場合(例1)と比較して、二酸化炭素を遮断した空気を通気させる場合(例2)は大きく二酸化塩素の発生量を減少することができ、二酸化炭素と水蒸気を遮断した空気を通気させる場合(例3)では二酸化塩素の発生量はほぼゼロに抑えられた。
【0031】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明に係る安定化二酸化塩素剤は二酸化塩素を安定した量で一定期間発生させることできるので、殺菌剤、消臭剤、防腐剤、防カビ剤等の目的で好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質担体に亜塩素酸塩およびアルカリ剤を含浸させ、乾燥させて得られる安定化二酸化塩素剤において、
含浸させるアルカリ剤の量が亜塩素酸塩(mol)に対して0.1当量以上0.7当量以下であり、乾燥後の水分含有量が10重量%以下であることを特徴とする安定化二酸化塩素剤。
【請求項2】
多孔質担体が水に懸濁させたときにアルカリ性を示すものである請求項1記載の安定化二酸化塩素剤。
【請求項3】
多孔質担体がパリゴルスカイト、又はセピオライトである請求項1又は2に記載の安定化二酸化塩素剤。
【請求項4】
乾燥後の水分含有量が5重量%以下である請求項1〜3いずれかに記載の安定化二酸化塩素剤。
【請求項5】
安定化二酸化塩素剤を保管時には二酸化炭素および水蒸気を遮断し、使用時に空気に含まれる二酸化炭素および水蒸気と接触させることにより二酸化塩素ガスを発生することを特徴とする二酸化塩素ガスの安定した発生方法。
【請求項6】
安定化二酸化塩素剤が請求項1〜4いずれかに記載の安定化二酸化塩素剤である請求項5記載の二酸化塩素ガスの安定した発生方法。

【公開番号】特開2011−173758(P2011−173758A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−39506(P2010−39506)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(000108993)ダイソー株式会社 (229)