説明

安定化99mTc組成物

本発明は、抗菌保存剤の非存在下で、アスコルビン酸又はアスコルビン酸放射線防護剤を含む、リガンドであるテトロフォスミンの安定化99mTc放射性医薬組成物に関する。本発明はまた、複数回分の用量の99mTc−テトロフォスミン金属錯体の大量調製に適した凍結乾燥キットをも提供する。99mTc−テトロフォスミンの単位用量も、凍結乾燥バルクバイアルからかかる単位用量の調製方法とともに開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌保存剤の非存在下で、アスコルビン酸又はアスコルビン酸放射線防護剤を含む99mTc−テトロフォスミンの安定化99mTc放射性医薬組成物に関する。複数回分の用量の99mTc−テトロフォスミン放射性医薬組成物の大量調製に適した凍結乾燥キットについても、凍結乾燥バルクバイアルからの単位用量の調製方法と併せて開示する。
【背景技術】
【0002】
放射性同位体テクネチウム−99m(99mTc)に基づく画像診断用放射性医薬品は、機能試験(例えば腎)、及び灌流(特に心及び脳)を始めとする様々な臨床診断用に公知である。放射性同位体99mTcは半減期6時間であり、そのためかかる99mTc放射性医薬品はいわゆる「キット」から調製されるのが通常である。
【0003】
こうした99mTc放射性医薬品調製用キットによって、所要の反応体を収容した非放射性凍結乾燥バイアルのストックをユーザーが維持できるようになり、かかるバイアルは99mTc源からの99mTc−過テクネチウム酸塩(TcO)で再構成すれば簡単に所望の滅菌99mTc放射性医薬品が得られるように設計されている。等張食塩水中の99mTc−過テクネチウム酸塩の滅菌溶液は、当技術分野で公知の通り、テクネチウムジェネレータを滅菌食塩水で溶出することによって得られる。
【0004】
99mTc放射性医薬品調製用のキットは通常以下の成分:
(i)99mTcと金属錯体を形成するリガンド、
(ii)過テクネチウム酸塩つまりTc(VII)を、所望の99mTc金属錯体生成物の低い酸化状態へと還元することができる生体適合性還元剤
を含んでいる。99mTc過テクネチウム酸塩の生体適合性還元剤は通常第一スズイオンつまりSn(II)である。キットは、キット成分の取扱い及び凍結乾燥を容易にするため、追加の賦形剤、例えば弱キレート剤(グルコン酸塩、グルコヘプトン酸塩、酒石酸塩、ホスホン酸塩、EDTAなど)、安定剤、pH調節剤、緩衝剤、可溶化剤や充填剤(マンニトール、イノシトールや塩化ナトリウムなど)などを含んでいてもよい。保存及び流通を容易にするため、非放射性キットは、クロージャを備えた滅菌バイアル内の凍結乾燥品として供給されるのが通常である。凍結乾燥製剤は、ヒトに使用するための所望の注射可能な滅菌99mTc放射性医薬品を与えるように最終ユーザーが滅菌99mTc過テクネチウム酸塩生理食塩水で容易に再構成することができる。非放射性テクネチウムキットの保存寿命は数ヶ月にも及ぶことがある。
【0005】
放射性医薬組成物は、特に溶媒(通常は水)の放射線分解を起こして反応性の高いフリーラジカルを精製し、再構成後のキット組成物の1種以上の成分を分解するおそれがある。かかる分解を抑制するため、放射線防護剤又はラジカルスカベンジャーを使用することが知られている。通例、ラジカルスカベンジャーは、酸化防止性化合物として知られる種類のものから得られる。米国特許第4364920号には、アスコルビン酸及びアスコルビン酸塩が、99mTc放射性医薬品調製用の第一スズ含有非放射性キットの安定剤として機能することが開示されており、それ以降99mTc放射性医薬品製剤に広く用いられている。米国特許第4233284号には、99mTc放射性医薬品用のゲンチシン酸安定剤が開示されている。米国特許第4451451号には、99mTc放射性医薬品製剤用のパラアミノ安息香酸(PABA)及び関連安定剤が開示されている。
【0006】
Myoview(商標)キットは、以下の凍結乾燥製剤を含むを含む10mlバイアルであり、
テトロフォスミン 0.23mg
塩化第一スズ二水和物 30μg
スルホサリチル酸二ナトリウム 0.32mg
D−グルコン酸ナトリウム 1.0mg
重炭酸ナトリウム 1.8mg
再構成後のpH 8.3〜9.1
10mlガラスバイアル内に窒素ガスUSP/NF下で封止され、これを滅菌(99mTc)過テクネチウム酸ナトリウム注射液USP/Ph.Eurで再構成すれば、心臓イメージング用の放射性医薬品99mTc−テトロフォスミンを含む溶液が得られる。このように、Myoview(商標)キットは放射線防護剤を含んでいない。
【0007】
日本では注射剤又は「コンジュゲート」としてのMyoview(商標)が1997年から上市されている。この「コンジュゲート」型は、水溶液中で99mTc−テトロフォスミンテクネチウム錯体を予め形成しておいたものをシリンジ−バイアル(別個のプランジャー及び針を備えたバイアル)内に収容したもので、容易に組み立てて放射性医薬品を含むシリンジを与えるように設計されている。Myoview(商標)の「コンジュゲート」溶液は、濃度1.36mg/ml(7.7mM)のアスコルビン酸を含む。
【0008】
Bastien他[Nucl.Med.Comm.,20,480−Abstract 84(1999)]には、Myoview(商標)キットへの食塩水及び過テクネチウム酸塩の添加順序が99mTc−テトロフォスミンの放射化学純度(RCP)に影響を与えることがあると記載されている。Murray他[Nucl.Med.Comm.,21,845−849(2000)]には、再構成の際にMyoview(商標)バイアルのヘッドスペースに窒素ガスが過剰に存在すると、不都合な放射化学不純物によってRCPの結果にバラツキが生じかねないと記載されている。Murray他の報文及びMyoview(商標)キットのパッケージの説明書は、これらの問題を未然に防ぐために、再構成の際にバイアル内に空気を意図的に引き込むことを推奨している。これは、通気針を刺したときに2mlのヘッドスペースガスを吸引することによって達成され、その結果2mlの空気がバイアル内に引き込まれる。この問題の原因は還元的自動放射線分解であり、酸素の導入によって分解が阻害すると考えられる。
【0009】
Patel他[J.Nucl.Med.Technol.,26(4),269−273(1998)]には、市販のMyoview(商標)バイアルの試験結果が記載されており、製造業者の放射能の上限(18GBq以下の99mTc)の2倍での再構成は成功するが、用いた99mTc−過テクネチウム酸塩ジェネレータ溶出液に対して何か制限要因となっているかは明らかでないと結論付けられている。このような高い放射能レベルは、人の放射線曝露の低減(複数回の調製に代えて1回の調製)、QCの結果のバラツキの低減という利益が得られると記載されている。実際、Murray他(上掲)はMyoview(商標)のパッケージの説明書の濃度を超える放射能濃度を使用すると、RCPの結果が劣ると報告している。
【0010】
国際公開第02/053192号には、以下の成分を含む安定化放射性医薬組成物が開示されている。
(i)99mTc金属錯体、
(ii)アスコルビン酸、パラアミノ安息香酸又はゲンチシン酸、或いはそれらの生体適合性陽イオンとの塩を含む放射線防護剤、
(iii)次の式(I)の1種以上の抗菌保存剤:
【0011】
【化1】

式中、RはC1〜4アルキルであり、MはH又は生体適合性陽イオンである。
【0012】
国際公開第02/053192号の実施例では、従来のMyoview(商標)キットに放射線防護剤溶液と抗菌保存剤溶液とを添加することによって安定化99mTc−テトロフォスミン錯体組成物を調製している。国際公開第02/053192号には、テトロフォスミンと放射線防護剤を共に含む凍結乾燥キットの具体例は開示されていない。
【特許文献1】米国特許第4364920号明細書
【特許文献2】米国特許第4233284号明細書
【特許文献3】米国特許第4451451号明細書
【特許文献4】国際公開第02/053192号パンフレット
【非特許文献1】Bastien et al[Nucl.Med.Comm.,20,480−Abstract 84(1999)]
【非特許文献2】Murray et al[Nucl.Med.Comm.,21,845−849(2000)]
【非特許文献3】Patel et al[J.Nucl.Med.Technol.,26(4),269−273(1998)]
【非特許文献4】Chen et al[Zhong.Heyix.Zazhi,17(1)13−15(1997)]
【非特許文献5】Reid et al[Synth.Appl.Isotop.Lab.Comp.,Vol 7,252−255(2000)]
【非特許文献6】Logan[J.Nucl.Med.Technol,21(3),167−170(1993)]
【非特許文献7】Inorganic Synthesis,Vol 14,10
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、単位用量の99mTc−テトロフォスミンの調製方法並びに安定化99mTc−テトロフォスミン放射性医薬組成物調製用キットに関する。
【0014】
99mTc放射性医薬品の再構成後の利用性を延ばすという問題を解決するには、再構成の際に、99mTcの初期放射能レベルを高くしなければならないことを意味する。これは、99mTcの半減期が6時間であるため、診断用画像を得るのに用いられる放射能の半分が放射性崩壊で6時間毎に失われ、12時間経過後には元の放射能の1/4しか残らないことを意味するからである。かかる高レベルの放射能を長期間保つと、99mTc放射性医薬組成物の潜在的放射線分解という重大な問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
そこで、本発明は、組成物中に放射線防護剤を含む。99mTc−テトロフォスミン活性成分は、還元剤(99mTcの標識作用を補助するために存在する)の還元作用による分解或いは放射線分解のいずれかを起こしやすい。本発明の安定化組成物を使用すると、99mTc放射能レベルを高めても、放射標識後の有用寿命を延ばすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
第一の態様では、本発明は、99mTc−過テクネチウム酸塩溶液での再構成後に安定化99mTc−テトロフォスミン放射性医薬組成物を与える凍結乾燥非放射性キットであって、
(i)テトロフォスミン、
(ii)アスコルビン酸又はその生体適合性陽イオンとの塩から選択される放射線防護剤、
(iii)生体適合性還元剤、
(iv)キットを食塩水で再構成したときに得られる溶液のpHを8.0〜9.2にするのに有効な量のpH調節剤
を含む製剤を有するが、当該キットと99mTc−テトロフォスミン放射性医薬組成物のいずれも抗菌保存剤を含まないキットを提供する。
【0017】
「テトロフォスミン」という用語は、次式のエーテル置換ジホスフィンキレート剤1,2−ビス[ビス(2−エトキシエチル)ホスフィノ)]エタンを意味し、これは、99mTc−テトロフォスミン、すなわちMyoview(商標)と呼ばれる99mTc(O)(テトロフォスミン)調製用の市販99mTcキットに用いられている。
【0018】
【化2】

「放射線防護剤」という用語は、水の放射線分解で生成する含酸素フリーラジカルのような反応性の高いフリーラジカルを捕捉することによって、酸化還元過程のような分解反応を阻害する化合物をいう。本発明の放射線防護剤は、好適には、アスコルビン酸及びその生体適合性陽イオンとの塩から選択される。
「生体適合性陽イオン」という用語は、イオン化して負に荷電した陰イオン基と塩を形成する正電荷を有する対イオンで、しかも所要の用量において無毒で哺乳類の身体、特に人体への投与に適したものをいう。適当な生体適合性陽イオンの例としては、アルカリ金属のナトリウム又はカリウム、アルカリ土類金属のカルシウム及びマグネシウム、さらにアンモニウムイオンが挙げられる。好ましい生体適合性陽イオンはナトリウム及びカリウムであり、最も好ましくはナトリウムである。
【0019】
「生体適合性還元剤」という用語は、Tc(VII)過テクネチウム酸塩をテクネチウムの低い酸化状態へと還元するのに適した還元剤で、しかも所要の用量において無毒で哺乳類の身体、特に人体への投与に適したものをいう。適当な還元剤としては、亜ジチオン酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、アスコルビン酸、ホルムアミジンスルフィン酸、第一スズイオン、Fe(II)又はCu(I)が挙げられる。生体適合性還元剤は、好ましくは塩化第一スズや酒石酸第一スズの様な第一スズ塩である。
【0020】
「凍結乾燥」という用語は、通常の意味を有し、凍結乾燥組成物、好ましくは無菌状態で調製したものである。
【0021】
「抗菌保存剤」という用語は、細菌、酵母又はカビなどの有害微生物の増殖を阻害する薬剤を意味する。抗菌保存剤は、濃度に応じてある程度の殺菌作用を示すこともある。抗菌保存剤は、再構成後の放射線医薬組成物(つまり、放射性診断薬自体)における微生物の増殖を阻害するために常用される。ただし、抗菌保存剤は、再構成前の非放射性キットの1以上の成分における有害微生物の増殖の防止するために使用されることもある。抗菌保存剤としては、パラベン類、即ちメチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン又はこれらの混合物、ベンジルアルコール、フェノール、クレゾール、セトリミド及びチオメルサールが挙げられる。ある種の抗菌保存剤は、揮発性が高すぎて凍結乾燥を乗り切ることができず(例えば、ベンジルアルコール又はフェノール)、水溶性が非常に低いものもある。そのため、水性溶媒で再構成して放射性医薬品溶液を与えるように設計された凍結乾燥キットにはかかる抗菌保存剤を導入するのは問題であった。
ある種の抗菌保存剤は99mTcと金属錯体を形成することもあり、99mTc−テトロフォスミンの放射化学純度(RCP)、ひいてはその生体内分布に悪影響を与えかねない。製剤中に抗菌保存剤が存在すると、キット保存時の化学的不適合性の問題、例えばテトロフォスミンのホスフィンによる酸素又は硫黄原子の引き抜きに起因する問題のリスクも高まる。
【0022】
かかるキットは、例えば血流への直接注射などによるヒトへの投与に適した滅菌放射性医薬品を与えるように設計される。凍結乾燥キットは、99mTc放射性同位体ジェネレータからの無菌99mTc−過テクネチウム酸(TcO)で再構成すればそれ以上操作しなくてもヒトへの投与に適した溶液が得られるように設計される。99mTc−過テクネチウム酸塩溶液は、生体適合性担体中で供給される。「生体適合性担体」とは、放射性医薬品を懸濁又は溶解できる流体、特に液体であって、組成物が生理学的に認容できるもの、つまり毒性も耐え難い不快感も伴わずに哺乳類の身体に投与することができるものである。生体適合性担体は好適には注射可能な担体液であり、例えば、発熱物質を含まない注射用の滅菌水、食塩液のような水溶液(これは注射用の最終製剤が等張性又は非低張性となるように調整するのに都合がよい)、1種以上の張度調節物質(例えば血漿陽イオンと生体適合性対イオンとの塩)、糖(例えばグルコース又はスクロース)、糖アルコール(例えばソルビトール又はマンニトール)、グリコール(例えばグリセロール)その他の非イオン性ポリオール材料(例えばポリエチレングリコール、プロピレングリコールなど)の水溶液である。生体適合性担体は、エタノールのような生体適合性有機溶媒を含んでいてもよい。かかる有機溶媒は、親油性の高い化合物又は製剤の溶解に有用である。好ましくは、生体適合性担体は、発熱物質を含まない注射用水、等張食塩水又はエタノール水溶液である。上述の通り、静脈内注射用の生体適合性担体のpHは好適には4.0〜10.5である。生体適合性担体は、好ましくは水性溶媒、最も好ましくは生理食塩水を含む。本発明の生体適合性担体は、抗菌保存剤の非存在下で用いられる。
【0023】
本発明のキットは、第一の実施形態の組成物を適当な容器内に収容してなる。テトロフォスミンは、遊離塩基の形態でも、酸の塩の形態でもよいし、或いはテクネチウムの添加時にトランスメタレーション(金属交換)を起こして所望の生成物を与えるテトロフォスミン非放射性金属錯体の形態であってもよい。好ましくは、テトロフォスミンは遊離塩基の形態である。適当な容器は、無菌健全性及び/又は放射能の安全性、さらに適宜ヘッドスペースの不活性ガス(例えば窒素又はアルゴン)の維持できるようにしながら、シリンジでの溶液の添加及び吸引も可能となるように密封される。好ましい容器はセプタム封止バイアルであり、気密クロージャをオーバーシール(通常はアルミニウム製)と共にクリンプオンする。かかる容器は、例えばヘッドスペースガス又は脱気溶液の変更のため必要に応じて真空にクロージャが耐えるという追加の利点がある。
【0024】
非放射性キットはさらに、トランスキレーター、pH調節剤又は充填剤のような追加成分を適宜含んでいてもよい。「トランスキレーター」とは、テクネチウムと迅速に反応して弱い錯体を形成し、次に配位子で置換される化合物である。これはテクネチウム錯形成反応と競合する過テクネチウム酸塩の迅速な還元に起因した還元型加水分解テクネチウム(RHT)が形成するおそれを最小限に抑制する。かかる適当なトランスキレーターは、有機酸と生体適合性陽イオンとの塩、特にpKaが3〜7の「弱有機酸」の塩である。かかる適当な弱有機酸は、酢酸、クエン酸、酒石酸、グルコン酸、グルコヘプトン酸、安息香酸、フェノール又はホスホン酸である。従って、適当な塩は、酢酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、グルコン酸塩、グルコヘプトン酸塩、安息香酸塩、フェノラート又はホスホン酸塩である。好ましい塩は、酒石酸塩、グルコン酸塩、グルコヘプトン酸塩、安息香酸塩又はホスホン酸塩であり、最も好ましくはホスホン酸塩、特にジホスホン酸塩である。好ましいトランスキレーターは、グルコン酸と生体適合性陽イオンとの塩、特にグルコン酸ナトリウムである。その他の好ましいトランスキレーターは、5−スルホサリチル酸又はその生体適合性陽イオンとの塩である。2種以上のトランスキレーターを併用してもよく、本発明のテトロフォスミンキットは、最も好ましくは5−スルホサリチル酸ナトリウムとグルコン酸ナトリウムの組合せを含む。
【0025】
「pH調節剤」という用語は、再構成したキットのpHが、ヒト又は哺乳類の投与に関する許容範囲(約pH4.0〜10.5)内に収まるようにするのに有用な化合物又は化合物の混合物を意味する。かかる適当なpH調節剤としては、トリシン、リン酸塩又はTRIS(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)のような薬学的に許容される緩衝剤、並びに炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム又はこれらの混合物のような薬学的に許容される塩基が挙げられる。本発明のテトロフォスミンキットに好ましいpH調節剤は、重炭酸ナトリウムである。
【0026】
「充填剤」という用語は、製造時及び凍結乾燥時の材料の取扱いを容易にする薬学的に許容される増量剤を意味する。適当な充填剤としては、塩化ナトリウムのような無機塩並びに水溶性糖類又は糖アルコール、例えばスクロース、マルトース、マンニトール又はトレハロースが挙げられる。ある種のpH調節剤は充填剤としても機能し得る。かかる二元機能充填剤として好ましいのは重炭酸ナトリウムである。本発明の好ましいキットは、凍結乾燥を容易にする充填剤を含む。本発明のテトロフォスミンキットの好ましい充填剤は、二元機能充填剤の重炭酸ナトリウムである。
【0027】
本発明のキットに放射線防護剤を導入すると、従来技術及びMyoview(商標)のパッケージの説明書で共に教示される空気導入段階を必要とせずに、良好なRCPで、かつ調製後最大12時間、再構成後の安定性が良好な状態で99mTc−テトロフォスミン錯体が調製されるという利点が付与されるという知見が得られた。このことにより方法の段階が除去され、それは操作が1つ少なくなることを意味し、従ってその結果オペレータにとって放射線量が減るとともに実施がより迅速かつ簡単になるので、それは有用な単純化である。空気導入段階はまた、放射性医薬調剤の実施では多少異例でもあり、従って、それが不注意で省略され、その結果RCPに悪影響を及ぼす可能性があるというリスクがある。
【0028】
本発明のキットで用いる放射線防護剤の濃度は、好適には0.0003〜0.7Mであり、好ましくは0.001〜0.07Mであり、最も好ましくは0.0025〜0.01Mである。アスコルビン酸では、これは、0.05〜100mg/cm、好ましくは0.2〜10mg/cm、最も好ましくは0.4〜1.5mg/cmの適当な濃度に対応する。
【0029】
本発明の99mTc−テトロフォスミン放射性医薬品をヒトに投与する際に用いられる適当な量の放射能は、185〜1221MBq(5〜33mCi)である。心臓のイメージングでは、休息及び負荷注射を同じ日に行うとき、第一の線量は185〜444MBq(5〜12mCi)、その約1〜4時間後に投与する第二の線量は555〜1221MBq(15〜33mCi)であるべきである。従って、本発明の安定化99mTc放射性医薬組成物の最初の99mTc活性は0.2〜100GBqであり、そのため99mTcの放射性崩壊を考慮した後でも同じ製剤から複数回投与することができる。
【0030】
本発明の凍結乾燥キットは、好ましくは、水又は食塩水で再構成後の溶液のpHが8.0〜9.2、最も好ましくは8.0〜8.6となるように製剤する。このことは、放射線防護剤がアスコルビン酸、すなわち酸であるとき、pH調節剤の量を調整することが必要であることを意味する。これは、テトロフォスミンの99mTc放射標識、再構成後の安定性及び患者投与の適合性についてキットの最適なpHを確実に維持するのに必要である。30mlバイアルの形で好ましいかかるキットの処方を実施例2に示し、この実施例では、重炭酸ナトリウムの量を、従来のMyoview(商標)の10mlバイアル製剤を超えて、割合に応じてかなり大きくしなければならないことを示す。本発明者らは、30mlバイアルキットで、アスコルビン酸の量を5.5mg/バイアルに増やし、又は重炭酸ナトリウムの量を10mg/バイアルに減らすと、外観的に許容できない凍結乾燥塊が生じることを発見した。これは、アスコルビン酸のガラス転移温度が低く(−54℃)、それによりおそらく製剤のガラス転移温度が低下することによるものと考えられる。従って、許容できる凍結乾燥キットを調製する場合、加えることができるアスコルビン酸の量には上限がある。かなり高レベルの重炭酸ナトリウムが、アスコルビン酸に適応し、依然として許容できる凍結乾燥プラグを得るのに必要であることが判明した。
【0031】
本発明の放射線防護剤は、いくつかの供給業者から市販されている。テトロフォスミンは、Chen他[Zhong.Heyix.Zazhi,17(1)13−15(1997)]又はReid他[Synth.Appl.Isotop.Lab.Comp.,Vol 7,252−255(2000)]に記載のように調製することができる。通常の合成では、まず1,2−ビス(ホスフィノ)エタン又はHPCHCHPHを調製した後、実施例1に記載のようなラジカル開始剤を使用して過剰なエチルビニルエーテルのラジカル付加を行う。
【0032】
第二の態様では、本発明は、第一の実施形態に係る凍結乾燥製剤を、無菌健全性を保ちながら溶液の添加及び吸引が可能なクロージャを備えた密封滅菌容器に収容してなる多用量キットであって、1個のキットから4〜30回分の単位用量の99mTc−テトロフォスミン放射性医薬品を得ることができるように処方されたキットを提供する。
【0033】
多用量キットは、従来のMyoview(商標)キットよりも格段に高レベルの放射能に、またより大きな体積の溶液に耐えるほど十分に強くなければならない。多用量バイアルの容器は、好適には体積が20〜50cmであり、好ましくは20〜40cmであり、最も好ましくは30cmである。容器は、複数回穿刺するのに適した気密シール(例えばクリンプオン式セプタムシール蓋)を備える。
【0034】
多用量キットは、複数回の患者投与に十分な物質を含み(例えば、最大で1バイアル当たり99mTc100GBq)、従って、それにより単位用量を安定化製剤の存続する寿命中の様々な時間間隔で臨床グレードのシリンジ中に吸引して、臨床的状況に合わせることができる。或いは、99mTc−テトロフォスミン放射性医薬品の単位用量は、上記に記載の密封容器に入れて提供してもよい。「単位用量」又は「単位用量」という用語は、1人の患者に投与した後にインビボイメージングに適した99mTc放射能含有量を有する99mTc−テトロフォスミン放射性医薬組成物を意味する。かかる「単位用量」は、第五の実施形態(下記)でさらに説明する。本発明の多用量キットは、一連の99mTcジェネレータ溶出液にとって再現可能な方法で、99mTc−テトロフォスミン放射性医薬品のかかる4〜30回分の単位用量、好ましくは6〜24回分の単位用量を得るのに適するように処方される。しかし、多用量キットを使用して、かかる1〜40回分の投与量を、またおそらく40回分を超える単位用量も得ることができる。
【0035】
第一の実施形態と同様に、第二の実施形態の多用量キットは、再構成プロトコルで空気導入段階を必要とせず、このことは重要な利点となる。本発明の多用量キットではまた、複数の99mTc−テトロフォスミン放射性医薬品の調製について格段に迅速な調製時間も可能となり、実質的にオペレータの放射線量が減る。従来のMyoview(商標)キットの保存寿命の安定性が37週間以上である一方で、多用量キットはまた、78週間以上と保存寿命の安定性の延長をも示す。多用量キットの追加の利点は、第三の実施形態(下記)の方法で説明する。
【0036】
第三の態様では、本発明は、複数回分の用量の放射性医薬品99mTc−テトロフォスミンの調製方法であって、
(i)第二の実施形態の多用量キットを、99mTc−過テクネチウム酸塩の滅菌溶液で再構成するか、或いは最初に生体適合性担体で次いで99mTc−過テクネチウム酸塩の滅菌溶液で再構成し、
(ii)適宜、段階(i)を抗菌保存剤の存在下で実施し、
(iii)99mTcテトロフォスミン錯体を形成させて、所望の99mTcテトロフォスミン放射性医薬品のバルク供給原料を含む溶液を得、
(iv)適宜、99mTcテトロフォスミン錯体のバルク供給原料の放射化学純度を確認し、
(v)段階(iii)のバルク供給原料から単位用量を適当なシリンジ又は容器内に吸引し、
(vi)後で追加の単位用量を得るために追加のシリンジ又は容器で段階(v)を繰り返す
ことを含んでなる方法を提供する。
【0037】
単位用量は、第一の実施形態(上記)で定義した通りであり、第四の実施形態(下記)でさらに十分に説明する。生体適合性担体及びその好ましい実施形態は、第一の実施形態(上記)で定義した通りである。この方法で好ましい生体適合性担体は、滅菌生理食塩水である。
【0038】
本方法は、好ましくは、抗菌保存剤の非存在下で実施する。
【0039】
好ましくは、テクネチウムジェネレータから99mTc−過テクネチウム酸塩の滅菌溶液を得る。段階(i)で用いる99mTc−過テクネチウム酸塩の放射能含有量は、好適には2〜100GBqであり、好ましくは5〜75GBqである。99mTcの放射能濃度は、好ましくは10GBq/cm以下であり、最も好ましくは2.5GBq/cm以下である。調製した後、所望の99mTcテトロフォスミン放射性医薬品のバルク供給原料は、使用できる保存寿命が最大で12時間である。
【0040】
99mTcテトロフォスミン錯体の形成、すなわち段階(iii)は、通常室温で15分以内に終了する。
【0041】
本発明の方法は、
(a)放射能(99mTc−過テクネチウム酸塩)が関与する操作の数が格段に減り、
(b)空気導入段階を必要とせず、
(c)投与量当たりのQC決定と対照的に、単位用量のバッチ当たりに1回のQC決定しか必要とされず、
(d)製剤が一連の99mTcジェネレータ溶出液の条件に耐えることができるような形でバルクバイアルが製剤され、
(e)必要とされる段階が減るので、自動化が容易であり、
(f)必要とされる非放射性キットバイアルが減るので、冷蔵庫の保存空間が節約される
という、複数のMyoview(商標)10mlバイアルを再構成する代替法を上回る利点を有する。重要な結果として、オペレータの処理時間が減り(すなわち効率)、オペレータの放射線量が減り、その程度が大きくなるほど、調製される単位用量の数も多くなる。
【0042】
第四の態様では、本発明は、
(i)生体適合性担体中のテトロフォスミンの99mTc錯体、
(ii)アスコルビン酸又はその生体適合性陽イオンとの塩から選択される濃度0.5〜6.0mMの放射線防護剤
を含んでなる安定化放射性医薬組成物であって、抗菌保存剤を含まない安定化放射性医薬組成物を提供する。
【0043】
「生体適合性担体」及びその好ましい実施形態は、上記で定義した通りである。
【0044】
ミリモル濃度(mM)は、1.0mMが0.001Mに等しいというものである。放射線防護剤の濃度は、好ましくは0.6〜5.7mMであり、最も好ましくは0.7〜5.5mMである。これらは、第一の実施形態の好ましいキットを必要な体積範囲の99mTc−過テクネチウム酸塩の生理食塩水で再構成したときに得られる濃度の範囲に対応する。放射線防護剤のこれらの濃度はまた、日本で入手可能なMyoview(商標)の「コンジュゲート」溶液製剤で使用されるものよりも低い。
【0045】
安定化組成物に好ましい放射線防護剤は、第一の実施形態で定義した通りである。
【0046】
好ましくは、安定化組成物のpHは7.5〜9.0であり、最も好ましくは8.0〜8.6である。
【0047】
第五の態様では、本発明は、第四の実施形態の組成物を含み、1人の患者のイメージングに適した99mTc放射能含有量を有する放射性医薬品99mTc−テトロフォスミンの単位用量を提供する。
【0048】
単位用量は第一の実施形態で定義した通りであり、適当な容器又はシリンジ中でヒト投与に適した滅菌した形で提供される。かかるシリンジは、好適には臨床使用のためのものであり、好ましくはシリンジが常に個々の患者にしか使用されないように使い捨てのものである。シリンジは、適宜、オペレータを放射線量から保護するシリンジシールドを装着して供給してもよい。かかる適当な放射性医薬品用シリンジシールドは市販されており、好ましくは、Logan[J.Nucl.Med.Technol,21(3),167−170(1993)]に記載のように鉛又はタングステンを含む。
【0049】
或いは、単位用量の99mTc−テトロフォスミン放射性医薬品は、皮下注射針で一回又は複数回穿刺するのに適したシール(例えば、クリンプオン式セプタムシール蓋)を備えた容器に入れて供給してもよい。本発明の単位用量は、好ましくは、臨床グレードのシリンジに入れて供給され、最も好ましくはシリンジシールドを取り付けている。
【0050】
単位用量の99mTc放射能含有量は、好適には150〜1500MBqであり、好ましくは185〜1250MBqである。休息及び負荷注射を同じ日に行うとき、第一の線量は185〜450MBq、その1〜4時間後の第二の線量は550〜1250MBqであるべきである。単位用量で用いる好ましい組成物は、第三の実施形態(上記)で記載した通りである。
【実施例】
【0051】
下記に詳細に記載した非限定的な実施例によって、本発明を説明する。
【0052】
実施例1では、テトロフォスミンの合成を示す。実施例2では、Myoview30と呼ばれる好ましい形で、本発明の凍結乾燥された多用量又は「大型」キットを示す。実施例3では、本発明の多用量又は「大型」キットを使用して、複数単位用量の99mTc−テトロフォスミンをどのように調製することができるかを示す。実施例4では、放射線防護剤を含む凍結乾燥キットが99mTc−過テクネチウム酸塩での再構成後長時間にわたって優れた放射化学純度を示すことを示す。
【0053】
実施例5では、Myoview30キットで空気導入段階がなくても、再構成後のMyoview30キットの安定性が、放射能濃度(RAC)の上昇においてMyoview(商標)より優れていることを示す。実施例5では、99mTcジェネレータの広範囲な溶出間隔でMyoview30キットをうまく使用できることも示す。放射能濃度(RAC)と99mTcジェネレータの溶出間隔両方の範囲は、複数の99mTc−テトロフォスミン製剤を毎日調製する必要がある可能性がある場合に、本発明のキットが、特に放射性医薬操作について有用な柔軟性を有することを意味するものである。
【0054】
実施例6では、本発明のMyoview30キットにより、複数の99mTc−テトロフォスミン放射性医薬品の調製について格段に迅速な調製時間が可能となり、実質的にオペレータの放射線量が減ることを示す。QC試料で用いる放射能の量はMyoview30及びMyoview(商標)で同じであるが、Myoview30では時間が70%短く放射能が75%小さい。さらに、オペレータにとって放射線シールドの裏に4個のQCクロマトグラフィーストリップを置くほうが16個置くより簡単である。
【0055】
実施例7では、満足なRCPを維持しつつ、バイアル内容物の無菌性を損なうことなく、本発明の多用量バイアルを使用して30回分の単位用量の99mTc−テトロフォスミンを調製できることを示す。従って、再構成してから12時間後、複数の栓の貫通の後でもRCPは仕様を満たした。12時間後、培地中に増殖物は見られず、その製品はUSP/Ph.Eur.無菌性試験の条件を満たしていた。製剤の希釈物について試験し、細菌性エンドトキシン含有量が313IU/バイアル未満であることが示された。このことは、生存する細菌又はその変性産物が検出されず、従って多用量バイアルが抗菌保存剤を必要とせずに有効に機能することを意味するものである。
【0056】
実施例8では、本発明の多用量バイアルのクロージャが最大35回針での穿刺に耐えることを示す。実施例9では、5℃(2℃〜8℃)で保存し光から保護したとき、本発明の多用量バイアルの使用できる非放射性物質の保存寿命が78週(18ヶ月)であることを示す。
【0057】
実施例1:テトロフォスミンの合成
すべての反応及び操作は、真空で又は酸素を含まない窒素雰囲気下で行った。溶媒を乾燥させ、使用前に窒素パージにより脱気した。α−アゾ−イソブチロニトリル(AIBN)及びエチルビニルエーテルはBDH及びAldrichからそれぞれ入手した。ビス(ジホスフィノ)エタンは、文献[Inorganic Synthesis,Vol 14,10]に従って調製した。
【0058】
Teflon(商標)撹拌棒を備えたFischer耐圧瓶にエチルビニルエーテル(5cm、52.3mmol)、ビス(ジホスフィノ)エタン(1cm、10mmol)及びα−アゾ−イソブチロニトリル(0.1g、0.61mmol)を入れた。次いで反応混合物を撹拌し、75℃で16時間加熱した。冷却して室温に戻した後、粘性液体を50cm丸底フラスコに移した。真空下で加熱して揮発性物質の除去を行った。得られた非揮発性物質は、NMRにより純粋であった。収量:3.0g、80%。
H NMR(CDCl):δ1.12(12H,dt J=1.16Hz,7.15Hz;OCH)1.51(4H,br m;PCP)、1.7(8H;br t,J=7.4Hz;PCCHOEt)、3.4(8H,dt J=1.16Hz,7.15Hz,OCCH)、3.49(8H;br m;PCHOEt)ppm。
31P NMR:δ−33.17ppm。
【0059】
エタノール中で2.3〜2.5モル当量の5−スルホサリチル酸と室温で反応させ、その後エタノール/エーテルから再結晶化して、テトロフォスミンをスルホサリチル酸テトロフォスミンに転換した。
【0060】
実施例2:凍結乾燥バルクバイアルキットの処方及び調製
30mlのバルクバイアル製剤の最適な処方は下記の通りである:
テトロフォスミン 0.69mg
塩化第一スズ二水和物 90μg
スルホサリチル酸二ナトリウム 0.96mg
D−グルコン酸ナトリウム 3.0mg
アスコルビン酸 5.0mg
重炭酸ナトリウム 11.0mg
食塩水で再構成後のpH 8.3〜9.1。
このキットの処方を「Myoview30」と称する。
【0061】
500mlのバッチを調製した。従って、注射用水(WFI)の全体積の約90%を調製容器に加えた。窒素でパージしてWFIを脱酸素化した。スルホサリチル酸テトロフォスミン、塩化第一スズ二水和物、D−グルコン酸ナトリウム、アスコルビン酸及び重炭酸ナトリウムを、常に混合しながら連続した順番で分注し、添加し溶解した。分注用のビーカーを、脱酸素化WFIですすいだ。連続して混合する間、脱酸素化WFIで大量溶液を最終体積の100%に調整した。窒素パージを中止した。ヘッドスペース中を覆う窒素を、製造工程の残りの間に適用した。
【0062】
溶液を滅菌濾過し、濾過溶液3.0mlを30mlバイアル中に分注した。バイアルは、部分的に栓をし、次いで凍結乾燥した。
【0063】
実施例3:放射線防護剤を含む大型キットを再構成する手順
(実施例2の)Myoview30キットの30mlバイアルを適当な放射能遮蔽容器中に挿入し、ゴムの隔壁をイソプロピルアルコールスワブで消毒した。滅菌針(通気針)をゴムの隔壁を介して挿入した。遮蔽した滅菌シリンジを使用して、99mTc−過テクネチウム酸塩ジェネレータ溶出液[体積10〜30cm;静菌剤を含まない塩化ナトリウム注射液、USPで適宜希釈;放射能濃度最大10GBq/cm、及び合計の99mTc放射能含有量最大100GBq(2.7Ci)]を加えた。次いで通気針を除去した。再構成したバイアルを10秒間穏やかに混合して、確実に、凍結乾燥粉末が完全に溶解するようにし、次いで室温で15分間インキュベートした。
【0064】
再構成したMyoview30を2〜25℃で保存し、調製してから12時間以内に内容物を使用した。吸引したアリコートも2〜25℃で保存し、再構成したMyoview30バイアルと同じ12時間以内に使用した。
【0065】
実施例4:放射線防護剤を含む凍結乾燥キットの経時的なRCPの放射化学分析
再構成したMyoview30キット(実施例2)の放射化学純度[RCP]を、2つのクロマトグラフィーの系を使用して測定した:
系1:固定相:ITLC−SG
移動相:アセトン/ジクロロメタン[35:65 v/v]
この系では、99mTc−親水物から、また親油性不純物[種B、C及びX]及び99mTc−過テクネチウム酸塩から親油性99mTc−テトロフォスミンを分離する。
【0066】
系2:固定相:Whatman no.1紙
移動相:アセトニトリル/水[50:50 v/v]
この系では、移動する他のテクネチウム錯体から、ストリップの起点に残存する還元加水分解テクネチウム[RHT]を分離する。
【0067】
空気導入段階を使用せずにMyoview30バイアルを再構成した。99mTc−過テクネチウム酸塩(17.5ml中37.9GBq;RAC=2.2GBq/ml)でMyoview30バイアルを再構成した結果を図1に示す。
【0068】
実施例5:従来技術に対する放射線防護剤を含む凍結乾燥キットの経時的なRCPの放射化学分析
Amersham plc(現在GE Healthcareの一部)からMyoview(商標)キットを入手した。放射能濃度(RAC)の上昇に対する本発明のMyoview30キット製剤及び市販のMyoview(商標)10mlキット製剤の再構成後の安定性を比較した。Myoview(商標)についてはパッケージの書き込みによる再構成する手順に従い、すなわち、空気導入段階に従った。
【0069】
試験は、Myoview(商標)の8個の製剤及びMyoview30の89個の製剤に基づくものであった。最大4.5GBq/mlでMyoview(商標)バイアルを、最大11.0GBq/mlでMyoview30バイアルを再構成した。8個の製剤すべてで、24時間の溶出間隔内で溶出した99mTcジェネレータからの溶出液でMyoview(商標)を再構成した。空気導入段階を使用せずに、最大で96時間の様々な溶出間隔の99mTcジェネレータからの溶出液でMyoview30バイアルを再構成した。その結果を図2に示す。
【0070】
実施例6:Myoview(商標)に対するMyoview30の調製時間及びオペレータの放射線量の比較
1単位用量18.5GBq(500mCi)である16単位用量の99mTc−テトロフォスミンを下記のどちらかの方法で調製した:
方法1:4個の(実施例2の)Myoview30バイアルをそれぞれ74GBqの99mTc−過テクネチウム酸塩で再構成する、
方法2:16個のMyoview(商標)バイアルをそれぞれ18.5GBqの99mTc−過テクネチウム酸塩で再構成する。
【0071】
その結果を表1に示す:
【0072】
【表1】

実施例7:多用量バイアルの無菌性の実証
実施例2に記載のように調製した3つ別々のバッチのMyoview30を試験した。再構成する直前に、3つのMyoview30mlバッチからの2つのバイアルそれぞれの中に、0.22μmの滅菌され発熱物質を含まないMillex GPフィルターと組み合わせた通気針BD Microlance 21Gを挿入した。バイアルを滅菌生理食塩水23mlで再構成した。希釈した99mTc−溶出液(2ml)をその後直ちにバイアル中に注入し、その結果放射能含有量が約2GBq/バイアルとなった。バイアルを25℃で12時間保存した。15分後バイアルを表2に示すように処理した:
【0073】
【表2】

従って、再構成してから15分、6時間、及び保存寿命の終了時である12時間後に30回分の模擬投与量を吸引した。BD(Becton Dickinson)Microlance 25G針と組み合わせた1mlのBDシリンジを使用して投与量を吸引した。各吸引には新しいシリンジ/針を使用した。番号1及び21の投与量をRCP分析に回した。最終「投与量」(番号30)をLAL(カブトガニアメーバ様細胞溶解物による細菌性エンドトキシン)試験及び浸透圧の試験に回した。12時間後のMyoview30バイアル中に残っている体積約7.5mlを、現在のUSP/Ph.Eur試験に従って無菌性について試験した。従って、残っている体積を2つに分割し、無菌性の試験を行い、25℃及び32℃のインキュベーターの中で、チオグリコレート培地(TGY)及びトリプチックソイブロス(TSB)中で14日間インキュベートした。
【0074】
LAL試験
各バイアルの番号30の投与量を細菌性エンドトキシンの試験に回した。バイアル中の内容物を最初に滅菌生理食塩水25mlで再構成した。この溶液の0.1mlを取り注射用水(WFI)9.9mlに加えてさらに希釈した。チューブ法を使用してLAL試験を行った。この希釈での細菌性エンドトキシンの限界は313IU/バイアルであった。
【0075】
結果
無菌性:その結果は、増殖物が培地中に見られない場合、その製品が無菌性試験の条件を満たす(合格=P)ことを報告するものであった。
【0076】
RCP:すべての製剤は、99mTc−テトロフォスミンのRCPが96〜97%であることを示した。
【0077】
pH:各バイアルのpHは8.2と測定された。
【0078】
LAL:各バイアルの結果は、その製品が得られた限界を満たし、合格(P)していることを報告するものであった。
【0079】
結果の概要を表3に示す:
【0080】
【表3】

実施例8:多用量バイアルのクロージャの健全性の実証
使用したMyoview30クロージャは、PH 701/45 red brown(1178)であり、容器は30mlバイアル1型、Schottである。Ph.Eurでの10回と比較して35回の穴開けを実施した以外はPh.Eur.3.2.9に従ってMyoview30バイアルを試験した。これは、多用量バイアルの多用量回数の拡張を模擬実験するのに必要であった。各クロージャに新しい皮下注射針で外径0.8mmの穴を35回開けた。各穴は異なる部位に開けた。最後の穴開けでは、30mlである公称体積までの限外濾過水の注入も行った。10回穴を開けた充填バイアルを、メチレンブルー溶液(1g/l)入りのビーカー中に直立に沈めた。外圧を270mbar〜750mbarへと下げて10分間置いた。その後大気圧を回復し、バイアルをさらに30分間メチレンブルー溶液中に沈めたままにした。バイアルを完全にすすぎ、白い背景に対して変色があるかどうか視察した。試験の結果から、バイアル中に色素の侵入がないことが示された。
【0081】
実施例9:多用量バイアルの安定性試験
実施例2の場合と同様に調製した3つ別々のバッチのMyoview30の複数バイアルを制御温度5℃で光から保護して保存した。最大で52週間の保存の間隔を置いてバイアルを試験した。テトロフォスミン、アスコルビン酸、スズ、スルホサリチル酸二ナトリウム、酸素含量及び含水量についてアッセイを行った。テトロフォスミンの純度は、H及び31PのNMRによってモニターした。保存したキットを使用して調製した99mTc−テトロフォスミンのRCPも各時点で測定した。
【0082】
得られた結果はすべて、52週いっぱいにわたって5℃(2〜8℃)で光から保護して保存したときにその製品がすべての仕様を満たしたことを示した。結果をすべて評価し、統計分析を行った。定量的パラメーターに線形回帰分析を実施して、各パラメーターと保存時間との関係を調べた。Pearson検定を使用して、回帰分析から得られた相関係数を有意性があるかどうか試験した。個々のパラメーターの95%信頼区間を計算した。パラメーターが経時的に低下(又は増大)することしかできないとき、片側の信頼区間を計算した。95%信頼区間及び回帰線を、長期のデータによりカバーされる期間を6ヶ月超えている最大78週(18ヶ月)まで外挿した。これは、ICH(医薬品規制調和国際会議)のガイドラインQ1Eに従った入手可能な結果に基づく保存寿命の最大限の延長である。平均の95%信頼限界が、提唱されている許容基準と交差する最も早い時期は、5℃で保存した試料の78週を超えている。上記に記載のように78週間保存したMyoview30のバッチは、5.5〜89GBqの99mTc−過テクネチウム酸塩で再構成したとき、再構成してから12時間後のRCPの90%を上回るRCPを示した。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の放射線防護剤組成物が、再構成してから最大で12時間後に95%を上回る満足なRCP(すなわち製剤の有用な寿命)をもたらすことを示す図である。
【図2】Myoview30及びMyoview(商標)(空気の添加を含む)の放射能濃度(RAC)の関数として、経時的な99mTc−テトロフォスミンのRCP低下率を比較した結果を示す図である。本発明のMyoview30キットが格段に強いことが認められる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
99mTc−過テクネチウム酸塩溶液での再構成後に安定化99mTc−テトロフォスミン放射性医薬組成物を与える凍結乾燥非放射性キットであって、
(i)テトロフォスミン、
(ii)アスコルビン酸又はその生体適合性陽イオンとの塩から選択される放射線防護剤、
(iii)生体適合性還元剤、
(iv)当該キットを食塩水で再構成したときに得られる溶液のpHを8.0〜9.2にするのに有効な量のpH調節剤
を含む製剤を有するが、当該キットと99mTc−テトロフォスミン放射性医薬組成物のいずれも抗菌保存剤を含まないキット。
【請求項2】
5−スルホサリチル酸及びグルコン酸又はそれらの生体適合性陽イオンとの塩から選択される1種以上のトランスキレーターをさらに含む、請求項1記載のキット。
【請求項3】
生体適合性還元剤が第一スズイオンを含む、請求項1又は請求項2記載のキット。
【請求項4】
pH調節剤が重炭酸ナトリウムを含む、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載のキット。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4記載の凍結乾燥製剤を、無菌健全性を保ちながら溶液の添加及び吸引が可能なクロージャを備えた密封滅菌容器に収容してなる多用量キットであって、1個の多用量キットから4〜30回分の単位用量の99mTc−テトロフォスミン放射性医薬品を得ることができるように処方されたキット。
【請求項6】
前記容器が20〜40cmのセプタム封止バイアルである、請求項5記載の多用量キット。
【請求項7】
複数回分の用量の放射性医薬品99mTc−テトロフォスミンの調製方法であって、
(i)請求項5又は請求項6記載の多用量キットを、99mTc−過テクネチウム酸塩の滅菌溶液で再構成するか、或いは最初に生体適合性担体で次いで99mTc−過テクネチウム酸塩の滅菌溶液で再構成し、
(ii)適宜、段階(i)を抗菌保存剤の存在下で実施し、
(iii)99mTcテトロフォスミン錯体を形成させて、所望の99mTcテトロフォスミン放射性医薬品のバルク供給原料を含む溶液を得、
(iv)適宜、99mTcテトロフォスミン錯体のバルク供給原料の放射化学純度を確認し、
(v)段階(iii)のバルク供給原料から単位用量を適当なシリンジ又は容器内に吸引し、
(vi)後で追加の単位用量を得るために追加のシリンジ又は容器で段階(v)を繰り返す
ことを含んでなる方法。
【請求項8】
段階(i)で用いる99mTc−過テクネチウム酸塩の放射能含有量が5〜100GBqである、請求項7記載の方法。
【請求項9】
(i)生体適合性担体中のテトロフォスミンの99mTc錯体、
(ii)アスコルビン酸又はその生体適合性陽イオンとの塩から選択される濃度0.5〜6.0mMの放射線防護剤
を含んでなる安定化放射性医薬組成物であって、抗菌保存剤を含まない安定化放射性医薬組成物。
【請求項10】
放射線防護剤の濃度が1.4〜5.5mMである、請求項9記載の組成物。
【請求項11】
放射線防護剤がアスコルビン酸である、請求項9又は請求項10記載の組成物。
【請求項12】
放射線防護剤がアスコルビン酸ナトリウムである、請求項9又は請求項10記載の組成物。
【請求項13】
生体適合性担体が生理食塩水を含む、請求項9乃至請求項12のいずれか1項記載の組成物。
【請求項14】
99mTcの放射能含有量が150〜850MBqである、請求項9乃至請求項13のいずれか1項記載の組成物。
【請求項15】
請求項9乃至請求項14記載の組成物を臨床グレードの容器又はシリンジ内に収容してなる単位用量の99mTc−テトロフォスミン放射性医薬品であって、当該医薬品の99mTc放射能含有量が1人の患者のイメージングに適したものである、放射性医薬品。
【請求項16】
オペレータを放射線量から保護するためのシリンジシールドを有するシリンジに収容して供給される、請求項15記載の放射性医薬品。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−524178(P2008−524178A)
【公表日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−546154(P2007−546154)
【出願日】平成17年10月14日(2005.10.14)
【国際出願番号】PCT/GB2005/003975
【国際公開番号】WO2006/064175
【国際公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【出願人】(305040710)ジーイー・ヘルスケア・リミテッド (99)
【Fターム(参考)】