説明

完全ヒト型抗HER2モノクローナル抗体、その調製方法および用途

【課題】
本発明は、バイオテクノロジー分野に関する。詳しくは、完全ヒト型抗HER2モノクローナル抗体、その調製方法および用途を開示する。
【解決手段】
本発明は、大容量のファージディスプレイヒト抗体ライブラリーを構築し、その中から完全ヒト型抗HER2抗体3E12を選別し、取得する。3E12抗体は、SEQ ID NO:6に示す重鎖可変領域のアミノ酸配列を有し、SEQ ID NO:8に示す軽鎖可変領域のアミノ酸配列を有する。また、本発明は、3E12抗体の調製方法と、3E12抗体をコードする塩基配列、当該塩基配列の発現ベクターおよび宿主細胞を開示する。本発明の3E12抗体は、ヒト型抗HER2抗体Trastuzumabと比べ、より高い抗体親和性、より強いHER2高発現乳癌細胞の増殖抑制効果およびアポトーシス誘導活性を有し、腫瘍の増殖を顕著に抑制し、抗腫瘍薬剤の調製に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオテクノロジー分野に関する。詳しくは、完全ヒト型モノクローナル抗体、その調製方法および用途を開示するものである。
【背景技術】
【0002】
乳癌は、女性に最もよく見られる悪性腫瘍の一つである。乳癌症例は全世界で毎年新たに100万件以上増えており、年間40万人近くが乳癌により死亡している。近年、乳癌の罹患率は世界全体で著しい上昇傾向を見せ、高度流行地と低度流行地のどちらにおいても、5〜20%の速度で上昇しており、アジアにおける女性の乳癌罹患率の上昇傾向はすでに、欧米の国々を明らかに上回っている。中国においては、乳癌は女性特有の悪性腫瘍発症数で首位となっている都市もある。乳癌の一般的な治療手段としては、手術治療、放射線・化学療法、内分泌療法などがある。これらの治療手段により、患者の生存期間が大きく延びたものの、それに伴う副作用は大きく、治療効果の改善に困難を呈している。腫瘍の分子標的治療は、近年登場した新しい腫瘍の治療方法であるが、その代表的なものとして、抗腫瘍モノクローナル抗体がある。
【0003】
HER2(ヒト上皮成長因子受容体2,human epidermal growth factor receptor 2)とは、チロシンキナーゼ活性を有する膜貫通蛋白質で、分子量は約185 KDである。抗HER2ヒト型モノクローナル抗体は、HER2と特異的に結合することが可能で、その抗腫瘍メカニズムとして、次の点が挙げられる。HER2受容体の細胞外ドメインとの特異的結合によるHER2ホモ二量体の構成的活性化の阻止およびHER2と他のErbBファミリーメンバーとのヘテロ二量体形成の妨害。HER2受容体のエンドサイトーシスとリソソーム内部の分解に対する調節。PTEN(tensinと相同性を有するホスファターゼ)活性化によるPI3K(ホスホイノシチド3-キナーゼ)シグナル経路の遮断。細胞周期の調節による腫瘍細胞の増殖抑制。腫瘍細胞のアポトーシスの促進。抗腫瘍血管新生。ADCC(抗体依存性細胞介在性細胞傷害)作用。DNA修復の抑制。化学療法剤の細胞毒性増大。腫瘍細胞の宿主細胞因子の傷害性に対する抵抗力の逆転等(Pergram M, Ngo D, Application and potential limitations of animal models utilized in the development of trastuzumab (Herceptin(登録商標)): A case study. Adv Drug Deliv Rev. 2006;58:723-34.)。
【0004】
抗HER2ヒト型モノクローナル抗体(Trastuzumab、商品名はHerceptin)は、過去に転移巣を対象として1以上の化学療法を受けて失敗したことがある患者に対して、HER2過剰発現転移性乳癌の単剤治療として臨床試験に既に用いられている。また、該抗体は、臨床試験において、パクリタキセルと組み合わせて、もしくはシクロホスファミドを併用するアントラサイクリン系抗がん剤(ドキソルビシンもしくはエピルビシン)と組み合わせて、HER2過剰発現転移性乳癌の治療における第一選択薬として用いられている(Merlin JL, Barberi-Heyob M, Bachmann N, In vitro comparative evaluation of trastuzumab (Herceptin) combined with paclitaxel (Taxol) or docetaxel (Taxotere) in HER2-expressing human breast cancer cell lines. Ann Oncol. 2002;13:1743-8.)。しかしながら、Trastuzumabはヒト型抗体であり、マウス由来のCDR領域と、FR領域におけるマウス由来の少量の残基とを残しているため、完全ヒト型を達成しておらず、親和性が高くないという問題が存在している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、大容量の自然なファージディスプレイヒト抗体ライブラリーを構築し、その中から完全ヒト型抗HER2抗体3E12を選別し、取得するものである。
【0006】
詳しくは、本発明は、SEQ ID NO:6に示す重鎖可変領域のアミノ酸配列を有し、SEQ ID NO:8に示す軽鎖可変領域のアミノ酸配列を有する完全ヒト型抗HER2抗体を提供するものである。
【0007】
また、本発明が提供する上記完全ヒト型抗HER2抗体は、SEQ ID NO:10に示す重鎖アミノ酸配列を有し、SEQ ID NO:12に示す軽鎖アミノ酸配列を有するものである。
【0008】
また、本発明は、上記の完全ヒト型抗HER2抗体をコードする、単離されたヌクレオチドを提供する。
【0009】
本発明にかかる上記ヌクレオチドは、SEQ ID NO:5に示す完全ヒト型抗HER2抗体の重鎖可変領域をコードする塩基配列を有し、SEQ ID NO:7に示す完全ヒト型抗HER2抗体の軽鎖可変領域をコードする塩基配列を有するものである。
【0010】
本発明にかかる上記ヌクレオチドは、SEQ ID NO:9に示す完全ヒト型抗HER2抗体の重鎖をコードする塩基配列を有し、SEQ ID NO:11に示す完全ヒト型抗HER2抗体の軽鎖をコードする塩基配列を有する。
【0011】
また、本発明は、上記ヌクレオチドを含む発現ベクターである、pcDNA3.1/ZEO(+)又はpcDNA3.1 (+)を提供する。
【0012】
また、本発明は、上記発現ベクターによって形質転換された宿主細胞であるCHO-K1 細胞を提供する。
【0013】
さらに、本発明は上記完全ヒト型抗体の調製方法を提供する。該調整方法は、ファージディスプレイヒト抗体ライブラリーからの高い親和性を有する完全ヒト型抗HER2単鎖抗体の選別・取得と、完全ヒト型抗HER2抗体の完全な分子の真核細胞発現ベクターの構築と、CHO細胞における完全ヒト型抗HER2抗体の完全な分子の発現と、完全ヒト型抗HER2抗体の完全な分子の精製とを含む。
【0014】
最後に、本発明は、腫瘍治療薬の調製における、上記完全ヒト型抗体の用途を開示する。この腫瘍とは、HER2高発現腫瘍であり、詳しくは、乳癌である。
【発明の効果】
【0015】
本発明において、得られた抗体を利用し、一連の実験を行った。実験の結果、3E12は、ヒト型抗体Trastuzumab(rhumAb 4D5)と、中国の特許出願番号01132225.X、出願日2001年11月16日、発明の名称『ヒト型抗HER2モノクローナル抗体およびその調製法と医薬組成物』の中で開示されたヒト型抗体hGH0/1と比べ、より高い抗体親和性、より強いHER2高発現乳癌細胞の増殖抑制効果およびアポトーシス誘導活性を有することが判明した。また、生体内抗腫瘍効果試験の結果、本発明によって得られた抗体により、腫瘍の増殖を著しく抑えられることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】抗HER2抗体によるアポトーシス実験結果(うち、図1−1はSK-BR3細胞におけるアポトーシス実験結果、図1−2はBT-474細胞におけるアポトーシス実験結果、図1−3はMCF-7細胞におけるアポトーシス実験結果)を示すグラフである。
【図2】抗HER2抗体による増殖抑制実験結果(うち、図2−1はSK-BR3細胞における増殖抑制実験結果、図2−2はBT-474細胞における増殖抑制実験結果、図2−3はMCF-7細胞における増殖抑制実験結果)を示すグラフである。
【図3】抗HER2抗体の生体内抗腫瘍効果試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
下記の実施例、実験例は、本発明に対する説明にすぎず、本発明を制限するものではない。
【実施例】
【0018】
抗体の調製
(1)ヒト抗体の軽鎖・重鎖定常領域をコードする遺伝子のクローニング
リンパ球分離液(鼎国生物技術発展公司の製品)を用いて健康なヒトのリンパ球を分離し、TRIzol試薬(Invitrogen社の製品)を用いて総RNAを抽出した。文献(Cell,1980,22:197-207)および文献(Nucleic Acids Research,1982,10:4071-4079)の中で報告されている配列をもとにして、それぞれプライマーを設計し、RT-PCR反応により抗体重鎖・軽鎖定常領域をコードする遺伝子を増幅させた。PCR産物は、アガロースゲル電気泳動による精製・回収を経て、pGEM-Tベクター(Promega社の製品)の中にクローニングした。そして、シーケンス解析によって、正確なクローンの取得を確認した。SEQ ID NO:1とSEQ ID NO:2に、重鎖定常領域(CH)の塩基配列とアミノ酸配列をそれぞれ示す。SEQ ID NO:3とSEQ ID NO:4に、軽鎖定常領域(CL) の塩基配列とアミノ酸配列をそれぞれ示す。本実施例において、正確なクローンをpGEM-T/CH、pGEM-T/CLと記す。
【0019】
(2)cDNAの調製
健康なヒト50人の末梢血を各20ml集めし、リンパ球分離液(医科院天津血研所により製造)を用いて単核細胞を分離した。そして、TRIzol試薬(Invitrogen社)を用いて分離されたヒトの末梢血リンパ球から細胞の総RNAを抽出した。cDNA逆転写試薬キット(上海申能博彩生物科技有限公司)を使用し、cDNAの逆転写を行った。上記のステップについて、メーカーが提供する説明書に従って行った。
【0020】
(3)プライマー設計
文献(Immunotechnology,1998,3:271-278)を参考にし、ヒト抗体重鎖可変領域(VH)および軽鎖可変領域(VL)遺伝子をクローニングするためのプライマーであるVHBack、VHFor、VLBack、VLForを設計し、合成した。VHBack、VHFor、VLBack、VLForの配列はImmunotechnology,1998,3:271-278を参照されたい。VHBackプライマーの5' 末端に制限酵素Sfi Iの認識配列を含む配列atg gcc cag ccg gcc atg gcc、VHForプライマーの5'末端に配列gcc aga acc acc gcc gcc gga gcc acc acc gcc、VLBackプライマーの5'末端に配列tcc ggc ggc ggt ggt tct ggc gga ggc gga tct、VLForプライマーの5'末端に制限酵素Not Iの認識配列を含む配列atg cgg ccg cをそれぞれ加えた。
【0021】
(4)ファージディスプレイ抗体ライブラリーの構築および選別
(2)のcDNAおよび(3)のプライマーを用い、recombinant Phage antibody system試薬キット(Amersham Biosciences社)を利用してファージディスプレイ単鎖抗体ライブラリーを構築した後、特異抗原を使い、ライブラリーに対するパニング(選別)を行った。抗体ライブラリーの構築およびパニングの方法は、recombinant Phage antibody system試薬キットの説明書を参考にした。パニングに用いる特異抗原「ヒトHER2細胞外蛋白」は、参考文献(Proc Natl Acad Sci USA,1992,89: 4285-4289)の方法に従って調製した。数回の抗体ライブラリーのパニングを経て、ヒト抗HER2単鎖抗体3E12ScFvを取得し、シークエンシングを行って、その遺伝子配列を得た。SEQ ID NO:5とSEQ ID NO:6はそれぞれ3E12 ScFv重鎖可変領域VHの塩基配列とアミノ酸配列を示している。SEQ ID NO:7、SEQ ID NO:8はそれぞれ3E12 ScFv軽鎖可変領域VLの塩基配列とアミノ酸配列を示している。
【0022】
(5)完全ヒト型抗体の真核細胞における発現
3E12ScFv遺伝子及びpGEM-T/CHをテンプレートとし、PCRの繰り返すことにより完全ヒト型抗体重鎖遺伝子を合成した。反応条件は、95℃15分、94℃50秒→58℃50秒→72℃50秒(30サイクル)、72℃10分である。なお、この完全ヒト型抗体重鎖遺伝子の5'末端は、制限酵素HindIIIの認識配列及びシグナルペプチド遺伝子配列を含み、3 '末端は、翻訳終止コドンTAA及び制限酵素EcoRIの認識配列を含む。シグナルペプチドの遺伝子配列は、 (ATGGATTTTCAGGTGCAGATTTTCAGCTTCCTGCTAATCAGTGCCTCAGTCATAATATCCAGAGGA)である。最後に、アガロースゲル電気泳動によりPCR増幅物を分離して目的バンドを回収し、pGEM-T ベクター(Promega社の製品)の中にクローニングし、さらに陽性クローンをスクリーニングし、それらをシークエンシングした。配列が正確なクローンを選んでHindIIIおよびEcoRIで切断し、アガロースゲル電気泳動により完全ヒト型抗体重鎖断片3E12VHCHを精製・回収し、HindIIIおよびEcoRIで切断したプラスミドpcDNA3.1(+)(Invitrogen社)と連結させて、完全ヒト型重鎖真核細胞発現ベクターpcDNA3.1 (+) (3E12VHCH)を構築した。
【0023】
3E12ScFv遺伝子とpGEM-T/CLベクターをテンプレートとし、PCRの繰り返すことにより、完全ヒト型抗体軽鎖遺伝子を合成した。反応条件は、95℃15分、94℃50秒→58℃50秒→72℃50秒(30サイクル)、72℃10分である。なお、この完全ヒト型抗体軽鎖遺伝子の5'末端は制限酵素HindIIIの認識配列とシグナルペプチド遺伝子配列を含み、3 '末端は翻訳終止コドンTAAと制限酵素EcoRIの認識配列を含む。シグナルペプチドの遺伝子配列は、 (ATGGATTTTCAGGTGCAGATTTTCAGCTTCCTGCTAATCAGTGCCTCAGTCATAATATCCAGAGGA)である。配列が正確なクローンを選んでHindIIIおよびEcoRIで切断し、アガロースゲル電気泳動により完全ヒト型抗体軽鎖断片3E12VLCLを精製・回収し、HindIIIおよびEcoRIで切断したプラスミドpcDNA3.1/ZEO(+)(Invitrogen社)ベクターと連結させ、完全ヒト型軽鎖真核細胞発現ベクターpcDNA3.1/ZEO(+) (3E12VLCL)を構築した。
【0024】
3.5cm 組織培養用ディッシュに3 × 105 個のCHO-K1細胞(ATCC CRL-9618)を植え付けた。培養細胞が培養面の90%-95%に広がるまで培養した時点で、トランスフェクションを行った。プラスミド10μg(プラスミドpcDNA3.1(+)(3E12VHCH)4μg、プラスミドpcDNA3.1/ZEO(+) (3E12VLCL)6μg)、20μl Lipofectamine2000 Reagent(Invitrogen社の製品)を用いて、Lipofectamine2000 Reagent試薬キットの説明書に従い、トランスフェクションを行った。トランスフェクションを24時間行った後、培養細胞を600μg/ml G418 (Invitrogen社の製品)と 250μg/ml Zeocin(Invitrogen社の製品)を含むDMEM培地に移し、抵抗性クローンを選別した。細胞の培養上清を抽出し、ELISA法により高発現クローンを検出・選別した。ELISA法では、まず、ヤギ抗ヒトIgG (Fc) (KPL社)をELISAプレートにコーティングし、4℃で一晩放置した後、2%のBSA-PBSを加え、37℃、2時間でブロックした。次に、抵抗性クローンの培養上清もしくは標準品Human myeloma IgG1,κ(Sigma)を加え、37℃で2時間インキュベートした。次に、HRP−ヤギ抗ヒトIgG(κ)((Southern Biotechnology Associates社)を加えて、37℃で1時間インキュベートすることによって結合反応を行い、TMB発色液を加えて、37℃で5分間反応させ、最後にH2SO4を加えて反応を停止し、A450値を測定した。無血清培地を用いて、選別により得られた高発現クローンを増幅培養し、Protein Aアフィニティーカラム(GE社の製品)を使用して完全ヒト型抗体3E12を分離・精製した。精製された抗体に対し、PBSを用いて透析を行い、最後に紫外吸収法で定量した。SEQ ID NO:9、SEQ ID NO:10はそれぞれ完全ヒト型抗体3E12の重鎖塩基配列、アミノ酸配列を示している。SEQ ID NO:11、SEQ ID NO:12はそれぞれ完全ヒト型抗体3E12の軽鎖塩基配列、アミノ酸配列を示している。
【実験例】
【0025】
hGH0/1は、中国の特許出願番号01132225.X、出願日2001年11月16日、発明の名称『ヒト型抗HER2モノクローナル抗体およびその調製法と医薬組成物』の中で開示された方法に従って調製した。
【0026】
<抗HER2抗体によるアポトーシス実験>
ヒト乳癌細胞SK-BR-3(HER2高発現、ATCC番号:HTB-30)、BT-474(HER2中発現、ATCC番号:HTB-20)、MCF-7(HER2低発現、ATCC番号:HTB-22)をそれぞれ稀釈度が異なる抗HER2抗体(Trastuzumab、hGH0/1、3E12を含む)とともに37℃で20時間培養した。次に、細胞を洗浄した後、AnnexinV/PI試薬キット(BD社の製品)を用いて、製品説明書に従い、早期アポトーシス細胞の百分率を測定した。抗アポトーシス実験の結果を、図1に示す。3E12抗体のSK-BR3細胞殺傷能力は、Trastuzumab抗体およびhGH0/1より明らかに強い(抗体濃度≧0.025 nMであるとき、t 検定においてP<0.05)で、同様の結果がBT-474細胞でも得られた(抗体濃度≧0.025 nMであるとき、t 検定においてP<0.05)。しかしながら、HER2低発現のMCF-7細胞では、3E12抗体の殺傷能力はTrastuzumab抗体およびhGH0/1抗体とそれほど変わらなかった。これらの結果は、3E12抗体による細胞殺傷がHER2に特異的で、そのHER2中・高発現の細胞に対する殺傷能力が、Trastuzumab抗体およびhGH0/1抗体よりも強いことを示している。
【0027】
<抗HER2抗体による細胞増殖抑制実験>
ヒト乳癌細胞SK-BR-3、BT-474、MCF-7細胞をそれぞれ稀釈度が異なる抗HER2抗体と37℃でインキュベーションし、5日目にMTT法を用いて、その発色度合いから増殖抑制率を算出した。増殖抑制実験の結果を、図2に示す。3E12抗体のSK-BR3細胞に対する増殖抑制能力は、明らかにTrastuzumab抗体およびhGH0/1よりも強い(抗体濃度≧0.1 nMであるとき、t 検定においてP<0.05)で、同様の結果がBT-474細胞においても得られた(抗体濃度≧0.1 nMであるとき、t 検定においてP<0.05)。しかしながら、HER2低発現のMCF-7細胞においては、3E12抗体の細胞に対する増殖抑制能力は、Trastuzumab抗体およびhGH0/1抗体とそれほど変わらなかった。これらの結果は、3E12抗体による細胞増殖抑制がHER2に特異的であり、かつそのHER2中・高発現の細胞に対する増殖抑制能力がTrastuzumab抗体およびhGH0/1抗体よりも強いことを示している。
【0028】
<抗HER2抗体の生体内抗腫瘍効果試験>
それぞれのSCIDマウス(上海斯莱克社より購入)に対し、0日目にHER2高発現のヒト乳癌細胞BT-474を皮下に植え付け、腫瘍が0.3 cm3まで増殖した時点で、担癌マウスに0.5 mg/kgおよび5 mg/kg の各種抗HER2抗体を腹腔内に注射し、これを毎週2回行い、連続3週間治療した。各グループのマウスの体重と腫瘍の大きさの変化を定期的に調べ、120日間観察した。そして、抗HER2抗体の抗腫瘍効果を評価した。生体内抗腫瘍効果試験を、図3に示す。HER2高発現のBT-474乳癌に対する3E12抗体の増殖抑制能力は、明らかにTrastuzumab抗体およびhGH0/1よりも強い(投薬量25 mg/kgである場合、50、60、70、80、90、100、110、120日目のとき、Mann-Whitney 検定においてP<0.05)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SEQ ID NO:6で示す重鎖可変領域アミノ酸配列と、SEQ ID NO:8で示す軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する完全ヒト型抗HER2抗体。
【請求項2】
SEQ ID NO:10で示す重鎖アミノ酸配列と、SEQ ID NO:12で示す軽鎖アミノ酸配列を有する請求項1に記載の完全ヒト型抗HER2抗体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の完全ヒト型抗HER2抗体をコードする単離されたヌクレオチド。
【請求項4】
SEQ ID NO:5で示す完全ヒト型抗HER2抗体重鎖可変領域をコードする塩基配列と、SEQ ID NO:7で示す完全ヒト型抗HER2抗体軽鎖可変領域をコードする塩基配列を有する請求項3に記載のヌクレオチド。
【請求項5】
SEQ ID NO:9で示す完全ヒト型抗HER2抗体重鎖をコードする塩基配列と、SEQ ID NO:11で示す完全ヒト型抗HER2抗体軽鎖をコードする塩基配列を有する請求項4に記載のヌクレオチド。
【請求項6】
pcDNA3.1/ZEO(+)又はpcDNA3.1 (+)であり、請求項3〜5のいずれかに記載のヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項7】
CHO-K1細胞であり、請求項6に記載の発現ベクターによって形質転換された宿主細胞。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の完全ヒト型抗HER2抗体の腫瘍治療薬調製における用途。
【請求項9】
前記腫瘍は、HER2高発現腫瘍である請求項8に記載の用途。
【請求項10】
前記HER2高発現腫瘍は、乳腺腫瘍である請求項9に記載の用途。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−520180(P2013−520180A)
【公表日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−554185(P2012−554185)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【国際出願番号】PCT/CN2010/000511
【国際公開番号】WO2011/103700
【国際公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(512221175)上海百▲邁▼博制▲薬▼有限公司 (3)
【Fターム(参考)】