説明

官能化されたベンゾシクロブテンの新規な製造法、ならびにイバブラジンおよび薬学的に許容され得る酸とのその付加塩の合成における適用

【課題】医薬品イバブラジンの重要な合成中間体であるベンゾシクロブテン誘導体の製造方法を提供する。
【解決手段】下記式(V)で示される化合物を、有機溶媒中、塩基の存在下、パラジウム触媒、ならびに有機ホスフィン含む触媒/リガンド系の存在下で環化反応に付すことを特徴とするベンゾシクロブテンの製造方法。式(V):

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、官能化されたベンゾシクロブテンの製造法、ならびにイバブラジン、薬学的に許容され得る酸とのその付加塩およびその水和物の合成におけるその適用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
式(I):
【0003】
【化1】

【0004】
で示されるイバブラジン、または3−{3−[{[(7S)−3,4−ジメトキシビシクロ[4.2.0]オクタ−1,3,5−トリエン−7−イル]メチル}(メチル)アミノ]プロピル}−7,8−ジメトキシ−1,3,4,5−テトラヒドロ−2H−3−ベンゾアゼピン−2−オン、および薬学的に許容され得る酸とのその付加塩、より特別にはその塩酸塩は、非常に価値ある薬理学的および治療的特性、特に徐脈特性を有することによって、これらの化合物は、心筋虚血の様々な臨床的状況、たとえば狭心症、心筋梗塞および付随する心拍異常の治療または予防はもとより、心拍異常、特に上室性心拍異常を伴う様々な病態や心不全の治療または予防にも有用な化合物である。
【0005】
イバブラジン、および薬学的に許容され得る酸とのその付加塩、より特別にはその塩酸塩の製造および治療的使用は、欧州特許出願公開第0 534 859号公報(EP 0 534 859)に記載されている。
【0006】
その特許明細書は、出発材料として、式(II)で示される化合物を用いるイバブラジンの合成を記載している:
【0007】
【化2】

【0008】
式(II)の化合物は、ショウノウスルホン酸を用いて、式(III)の化合物を分割することによって得られる:
【0009】
【化3】

【0010】
式(II)の化合物は、イバブラジン合成における重要な中間体である。
【0011】
本発明は、官能化されたベンゾシクロブテンを製造する方法、ならびにイバブラジン、薬学的に許容され得る酸とのその付加塩およびその水和物を式(II)の化合物を経由して合成する際のその適用に関するものである。
【0012】
官能化ベンゾシクロブテンの製造は、Angewandte Chemie, Int. Ed., 2003, 42, 5736-5740に記載されている。この刊行物は、パラジウム触媒系を用いた官能化ベンゾシクロブテンの製造へのC(sp3)−H結合活性化の適用の可能性を記載している。
【発明の概要】
【0013】
より具体的には、本発明は、式(IV):
【0014】
【化4】

【0015】
[式中、
1、R2、R3およびR4は、同じであるか、または異なっていてもよくて、それぞれ水素原子、直鎖もしくは分枝鎖C1〜C6アルキル基、直鎖もしくは分枝鎖C1〜C6アルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、保護されたアミン基、保護されたヒドロキシ基、アルコキシカルボニル基(アルコキシ基は、直鎖または分枝鎖C1〜C6である)、またはCF3基を表すか、あるいはR1=R4=Hであり、かつR2およびR3は、それらを担持する炭素原子と一緒になって、1,3−ジオキソラン基を形成し、
5は、飽和もしくは不飽和である直鎖もしくは分枝鎖C1〜C6アルキル基、直鎖もしくは分枝鎖C1〜C6ヒドロキシアルキル基(ヒドロキシ官能基は保護されている)、またはCO27基(R7は、直鎖または分枝鎖C1〜C6アルキル基である)を表し、
6は、シアノ基またはCO28基(R8は、直鎖または分枝鎖C1〜C6アルキル基である)を表す]
で示される化合物を製造する方法であって、式(V):
【0016】
【化5】

【0017】
[式中、R1、R2、R3、R4、R5およびR6は、上記に定義されたとおりであり、Xは、ハロゲン原子、好ましくは臭素原子、またはトリフラート基を表す]
で示される化合物を、有機溶媒中、塩基の存在下、パラジウム触媒、ならびにトリ−t−ブチルホスフィン、2−ビフェニル−ジ−t−ブチルホスフィン、1,2,3,4,5−ペンタフェニル−1’−(ジ−t−ブチルホスフィノ)フェロセンおよびトリス(4−メトキシ−2−メチルフェニル)ホスフィンから選ばれる有機ホスフィン、または該ホスフィンのホスホニウム塩を含む触媒/リガンド系の存在下で環化反応に付すことを特徴とする方法に関するものである。
【0018】
保護されたヒドロキシ基または保護されたヒドロキシ官能基は、この官能基のために慣用される保護基で置換されたヒドロキシ官能基を意味する。これらの保護基のうちでは、トリイソプロピルシリルおよびt−ブチルジメチルシリルのようなシリル含有基、ならびにテトラヒドロピラン、ベンジル、p−メトキシベンジル、トリチル、アセチルおよびピバロイル基が、いかなる限定も意味せずに列挙され得る。
【0019】
保護されたアミン基は、この官能基のために慣用される保護基で置換されたアミン官能基を意味する。これらの保護基のうちでは、ノシル、トシル、メシル、アセチル、t−ブトキシカルボニル、ベンジルおよびフタルイミド基が、いかなる限定も意味せずに列挙され得る。
【0020】
用いることができるパラジウム触媒のうちでは、Pd(OAc)2、Pd(dba)2、Pd2(dba)3、PdCl2、PdCl2(CH3CN)2、PdBr2またはtrans−ジ−(μ−アセタート)ビス[o−(ジ−o−トリルホスフィン)ベンジル]二パラジウム(ヘルマン触媒)が、いかなる限定も意味せずに列挙され得る。
【0021】
用いるのが好ましいパラジウム触媒は、Pd(OAc)2である。
【0022】
用いるのが好ましい有機ホスフィンは、トリ−t−ブチルホスフィンである。
【0023】
用いることができるホスホニウム塩のうちでは、ホスホニウム=テトラフルオロボラート、=ヘキサフルオロホスファートおよび=ヘキサフルオロアンチモナートが、いかなる限定も意味せずに列挙され得る。
【0024】
用いるのが好ましいホスホニウム塩は、トリ−t−ブチルホスホニウム=テトラフルオロボラートである。
【0025】
用いることができる塩基のうちでは、K2CO3、Cs2CO3、Na2CO3、K3PO4、KHCO3、t−BuCO2Na、t−BuCO2Kおよびt−BuCO2Csが、いかなる限定も意味せずに列挙され得る。
【0026】
用いるのが好ましい塩基は、K2CO3である。
【0027】
用いることができる溶媒のうちでは、DMF、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリジン、キシレンおよびメシチレンが、いかなる限定も意味せずに列挙され得る。
【0028】
用いるのが好ましい溶媒は、DMFである。
【0029】
反応温度は、好ましくは、100〜150℃である。
【0030】
好適実施態様によれば、本発明は、式(IV)の化合物のR5=CO27かつR6=CO28である特定の場合である、式(IVa):
【0031】
【化6】

【0032】
[式中、R1、R2、R3、R4、R7およびR8は、上記に定義されたとおりである]
で示される化合物を製造する方法であって、式(V)の化合物のR5=CO27かつR6=CO28である特定の場合である、式(Va):
【0033】
【化7】

【0034】
[式中、R1、R2、R3、R4、R7、R8およびXは、上記に定義されたとおりである]
で示される化合物から出発する方法に関する。
【0035】
もう一つの好適実施態様によれば、本発明は、式(IVa)の化合物のR1=R4=HかつR2=R3=OCH3である特定の場合である、式(IVb):
【0036】
【化8】

【0037】
[式中、R7およびR8は、上記に定義されたとおりである]
で示される化合物を製造する方法であって、式(Va)の化合物のR1=R4=HかつR2=R3=OCH3である特定の場合である、式(Vb):
【0038】
【化9】

【0039】
[式中、R7、R8およびXは、上記に定義されたとおりである]
で示される化合物から出発する方法に関する。
【0040】
本発明の方法によって得られる式(IVa)の化合物は、式(VIa):
【0041】
【化10】

【0042】
[式中、R1、R2、R3およびR4は、上記に定義されたとおりであり、R9は、直鎖または分枝鎖C1〜C6アルキル基である]
で示される化合物へと、エステルケン化または加水分解反応によって導くことができ、次いで、式(VIa)の化合物は、式(VIIa):
【0043】
【化11】

【0044】
[式中、R1、R2、R3およびR4は、上記に定義されたとおりであり、R10は、水素原子または直鎖もしくは分枝鎖C1〜C6アルキル基である]
で示される化合物へと、脱炭酸反応によって導くことができる。
【0045】
式(IVb)の化合物のエステル官能基の加水分解またはケン化は、式(VIa)の化合物のR1=R4=HかつR2=R3=OCH3である特定の場合である、式(VIb):
【0046】
【化12】

【0047】
[式中、R9は、上記に定義されたとおりである]
で示される化合物を生じる。
【0048】
そうして、式(VIb)の化合物の脱炭酸反応は、式(VIIa)の化合物のR1=R4=HかつR2=R3=OCH3である特定の場合である、式(VIIb):
【0049】
【化13】

【0050】
[式中、R10は、上記に定義されたとおりである]
で示される化合物を生じる。
【0051】
本発明の方法によって得られる式(VIIb)の化合物は、イバブラジン、薬学的に許容され得る酸とのその付加塩、およびその水和物の合成に有用である。
【0052】
例示すると、メチルアミンとのその反応は、式(VIII):
【0053】
【化14】

【0054】
の化合物を生じ、その還元は、式(III):
【0055】
【化15】

【0056】
の化合物を生じ、ショウノウスルホン酸を用いたその分割は、式(II):
【0057】
【化16】

【0058】
の化合物を生じて、これを、式(I):
【0059】
【化17】

【0060】
のイバブラジン、または3−{3−[{[(7S)−3,4−ジメトキシビシクロ[4.2.0]オクタ−1,3,5−トリエン−7−イル]メチル}(メチル)アミノ]プロピル}−7,8−ジメトキシ−1,3,4,5−テトラヒドロ−2H−3−ベンゾアゼピン−2−オンへと転換し、これを、場合により、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、乳酸、ピルビン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、アスコルビン酸、シュウ酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸およびショウノウ酸から選ばれる薬学的に許容され得る酸とのその付加塩、ならびにその水和物へと変換してもよい。
【0061】
イバブラジンへの式(II)の化合物の変換を実施するための公知の方法のうちでは、欧州特許出願公開第0 534 859号および第1 589 005号公報(EP 0 534 859およびEP 1 589 005)に記載されたものが列挙され得る。
【0062】
こうして、式(IVb)の化合物を優れた収量で得ることは、イバブラジン、薬学的に許容され得る酸とのその付加塩、およびその水和物の合成に特に有用である。
【0063】
式(IV)の化合物のR5=CO27かつR6=CO28である特定の場合である、式(IVa)の化合物、および式(VIb)の化合物はもとより、式(VIIb)の化合物のR10が直鎖または分枝鎖C1〜C6アルキル基を表す特定の場合である、式(VIIc)の化合物も、化学または製薬工業界における、特にイバブラジン、薬学的に許容され得る酸とのその付加塩、およびその水和物の合成において合成中間体として有用である新規な生成物であり、それ自体が本発明の不可欠の部分を構成する。
【0064】
用いた略語のリスト
dba:ジベンジリデンアセトン
DMF:N,N−ジメチルホルムアミド
DMSO:ジメチルスルホキシド
eq.:当量
THF:テトラヒドロフラン
【0065】
下記の実施例は、本発明を例示する。
【0066】
C−H結合活性化によるベンゾシクロブテンの形成のための一般的手順A
臭化アリール(1mmol)、Pd(OAc)2(0.1eq.)、P(t−Bu)3・HBF4(0.2eq.)および無水K2CO3(1.3eq.)を、棒磁石を備え、乾燥し、密封されたシュレンク管に導入した。シュレンク管を掃気し、アルゴン下に置いた。アルゴン下で無水DMF4mlを加え、シュレンク管を密封し、次いで、140℃に予熱した油浴中で、臭化アリールがGC/MSにて完全に消滅するまで、撹拌に付した。環境温度に復帰させた後、反応混合物を、ジエチルエーテルで希釈し、セライト(Celite(登録商標))でろ過した。有機溶液を、飽和NaCl水溶液で洗浄し、MgSO4上で乾燥し、残留溶媒を減圧下で留去した。未精製反応生成物をフラッシュクロマトグラフィーによって精製して、ベンゾシクロブテンを得た。
【0067】
C−H結合活性化によるベンゾシクロブテンの形成のための一般的手順B
臭化アリール(1mmol)、Pd2(dba)3(0.05eq.)、P(t−Bu)3・HBF4(0.1eq.)および無水K2CO3(1.3eq.)を、棒磁石を備え、乾燥し、密封されたシュレンク管に導入した。シュレンク管を掃気し、アルゴン下に置いた。アルゴン下で無水DMF4mlを加え、シュレンク管を密封し、次いで、120℃に予熱した油浴中で、臭化アリールがGC/MSにて完全に消滅するまで、撹拌に付した。環境温度に復帰させた後、反応混合物を、ジエチルエーテルで希釈し、セライト(登録商標)でろ過した。有機溶液を、飽和NaCl水溶液で抽出し、MgSO4上で乾燥し、残留溶媒を減圧下で留去した。未精製反応生成物をフラッシュクロマトグラフィーによって精製して、ベンゾシクロブテンを得た。
【実施例1】
【0068】
7−メチルビシクロ[4.2.0]オクタ−1,3,5−トリエン−3,7−ジカルボン酸ジメチル
一般的手順Aに従い、3−ブロモ−4−(2−メトキシ−1,1−ジメチル−2−オキソエチル)安息香酸メチルを出発材料として用いて、標記化合物を92%の収量で得た。
IR(薄膜):v=2952, 1714, 1433, 1275, 1146, 1079, 768cm-1
【実施例2】
【0069】
7−メチル−4−(トリフルオロメチル)ビシクロ[4.2.0]オクタ−1,3,5−トリエン−7−カルボン酸メチル
一般的手順Aに従い、2−[2−ブロモ−5−(トリフルオロメチル)フェニル]−2−メチルプロパン酸メチルを出発材料として用いて、標記化合物を81%の収量で得た。
IR(薄膜):v=2955, 1731, 1315, 1143, 1113, 826, 685cm-1
【実施例3】
【0070】
7−イソプロピルビシクロ[4.2.0]オクタ−1,3,5−トリエン−7−カルボニトリル
一般的手順Aに従い、2−(2−ブロモフェニル)−2,3−ジメチルブタンニトリルを出発材料として用いて、標記化合物を72%の収量で得た。
IR(薄膜):v=2964, 1458, 748, 715cm-1
【実施例4】
【0071】
3−メチルビシクロ[4.2.0]オクタ−1,3,5−トリエン−7,7−ジカルボン酸ジメチル
一般的手順Aに従い、2−(2−ブロモ−4−メチルフェニル)−2−メチルマロン酸ジメチルを出発材料として用いて、標記化合物を87%の収量で得た。
IR(薄膜):v=2952, 1731cm-1
【実施例5】
【0072】
3,4−ジメトキシビシクロ[4.2.0]オクタ−1,3,5−トリエン−7,7−ジカルボン酸ジメチル
一般的手順Aに従い、2−(2−ブロモ−4,5−ジメトキシフェニル)−2−メチルマロン酸ジメチルを出発材料として用いて、標記化合物を得た。
IR(純粋):v=3007, 2960, 1730, 1591, 1239, 1116, 1090, 878, 758cm-1
【実施例6】
【0073】
3,4−ジメトキシビシクロ[4.2.0]オクタ−1,3,5−トリエン−7,7−ジカルボン酸t−ブチルメチル
一般的手順Aに従い、2−(2−ブロモ−4,5−ジメトキシフェニル)−2−メチルマロン酸t−ブチルメチルを出発材料として用いて、標記化合物を69%の収量で得た。
IR(純粋):v=2977, 2936, 1728, 1591, 1464, 1249, 1115, 840cm-1
【実施例7】
【0074】
7−{4−[(トリイソプロピルシリル)オキシ]ブチル}ビシクロ[4.2.0]オクタ−1,3,5−トリエン−7−カルボン酸メチル
一般的手順Aに従い、2−(2−ブロモフェニル)−2−メチル−6−[(トリイソプロピルシリル)オキシ]ヘキサン酸メチルを出発材料として用いて、標記化合物を82%の収量で得た。
IR(薄膜):v=2940, 2863, 1731, 1457, 1253, 1103, 881, 678cm-1
【実施例8】
【0075】
7−メチルビシクロ[4.2.0]オクタ−1,3,5−トリエン−7−カルボン酸メチル
一般的手順Bに従い、2−(2−ブロモフェニル)−2−メチルプロパン酸メチルを出発材料として用いて、標記化合物を81%の収量で得た。
IR(純粋):v=2972, 2952, 2930, 1729, 1457, 1433, 1277, 1140, 740, 711cm-1
【実施例9】
【0076】
(R,S)−3,4−ジメトキシビシクロ[4.2.0]オクタ−1,3,5−トリエン−7−カルボン酸
実施例5で得た3,4−ジメトキシビシクロ[4.2.0]オクタ−1,3,5−トリエン−7,7−ジカルボン酸ジメチル638mg(2.28mmol)を、DMSO18mlに溶解し、KCN445mg(6.84mmol)を一どきに加えた。混合物を、アルゴン雰囲気下、130℃で12時間撹拌した。環境温度に復帰させた後、1NHCl水溶液25mlおよびジエチルエーテル20mlを反応混合物に注意深く加え(HCNの形成に注意)、混合物を1時間撹拌した。有機相を、1NNaOH水溶液で洗浄した(3x10ml)。水相を併せ、次いで、環境温度で6NHCl水溶液を用いてpH2に酸性化し、ジエチルエーテルで抽出した(3x15ml)。有機相をMgSO4上で乾燥し、残留溶媒を減圧下で留去した。未精製反応生成物をフラッシュクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル:85/15)によって精製して、標記化合物を得た。
IR(純粋):v=3227, 2842, 2835, 1725, 1593, 1486, 1302, 1160, 1140, 970, 753cm-1
【実施例10】
【0077】
(R,S)−3,4−ジメトキシビシクロ[4.2.0]オクタ−1,3,5−トリエン−7−カルボン酸メチル
実施例6で得た3,4−ジメトキシビシクロ[4.2.0]オクタ−1,3,5−トリエン−7,7−ジカルボン酸t−ブチルメチル424mg(1.31mmol)をトリフルオロ酢酸(99%)2.1mlに溶解し、混合物を1.5時間還流させた。環境温度に復帰させた後、混合物を減圧下で蒸発させて、モノカルボン酸メチルモノエステルを得た。
【0078】
未精製化合物をDMF/ピリジン30:1混合物4.34mlに溶解し、溶液を、アルゴン雰囲気下、120℃で2時間加熱し、次いで環境温度に到達させた。反応混合物を、飽和NH4Cl水溶液で加水分解し、水相を酢酸エチルで抽出した(3x10ml)。有機相を併せ、飽和NaCl水溶液(20ml)で洗浄し、MgSO4上で乾燥し、減圧下で蒸発させた。未精製反応生成物をフラッシュクロマトグラフィー(ヘキサン/AcOEt:8/2)によって精製して、標記化合物を得た。
IR(純粋):v=2950, 2834, 1729, 1464, 1207, 1068, 729cm-1
【実施例11】
【0079】
(R,S)−3,4−ジメトキシ−N−メチルビシクロ[4.2.0]オクタ−1,3,5−トリエン−7−カルボキサミド
実施例9で得た(R,S)−3,4−ジメトキシビシクロ[4.2.0]オクタ−1,3,5−トリエン−7−カルボン酸2.5g(12mmol)のメタノール40ml中の溶液に、硫酸(d=1.83)0.05mlを加えた。混合物を、2時間還流させ、次いで10℃に冷却した。水中40%のメチルアミン溶液40mlを15分間にわたって加え、混合物を2時間撹拌した。メタノールを減圧下で留去し、水40mlを加えた。CH2Cl2で抽出した後、併せた有機相を、水、1NHClおよび飽和NaCl溶液で逐次洗浄し、MgSO4上で乾燥した。溶媒を減圧下で留去した後、標記化合物2.2gをベージュ色の固体の形態で得た(収量:83%)。
融点:142〜147℃
【実施例12】
【0080】
(R,S)−1−(3,4−ジメトキシビシクロ[4.2.0]オクタ−1,3,5−トリエン−7−イル)−N−メチルメタンアミン塩酸塩
実施例11で得た生成物2.2g(10mmol)のTHF45ml中の混合物に、THF中1モルのBH3溶液20mlを環境温度で加えた。1時間撹拌した後、THF中のBH3溶液10mlを加えた。環境温度で一晩撹拌した後、エタノール20mlを滴下し、混合物を、気体の発生が止まるまで(約1時間)撹拌した。次いで、エタノール中のHClの溶液20mlを滴下した。4時間撹拌した後、得られた沈殿(標記化合物1.2g)をろ別した。ろ液を濃縮し、80:20のAcOEt/エタノール混合物中での固化によって、標記化合物0.65gを更に得た。二つの沈殿を併せて、標記化合物1.85gを得た(収量:77%)。
融点:174〜177℃
【0081】
本発明の態様は、以下のとおりである。
1.式(IV):
【化18】


[式中、
1、R2、R3およびR4は、同じであるか、または異なっていてもよくて、それぞれ水素原子、直鎖もしくは分枝鎖C1〜C6アルキル基、直鎖もしくは分枝鎖C1〜C6アルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、保護されたアミン基、保護されたヒドロキシ基、アルコキシカルボニル基(アルコキシ基は、直鎖または分枝鎖C1〜C6である)、またはCF3基を表すか、あるいはR1=R4=Hであり、かつR2およびR3は、それらを担持する炭素原子と一緒になって、1,3−ジオキソラン基を形成し、
5は、飽和もしくは不飽和である直鎖もしくは分枝鎖C1〜C6アルキル基、直鎖もしくは分枝鎖C1〜C6ヒドロキシアルキル基(ヒドロキシ官能基は保護されている)、またはCO27基(R7は、直鎖または分枝鎖C1〜C6アルキル基である)を表し、
6は、シアノ基またはCO28基(R8は、直鎖または分枝鎖C1〜C6アルキル基である)を表す]
で示される化合物の製造法であって、式(V):
【化19】


[式中、R1、R2、R3、R4、R5およびR6は、上記に定義されたとおりであり、Xは、ハロゲン原子、好ましくは臭素原子、またはトリフラート基を表す]
で示される化合物を、有機溶媒中、塩基の存在下、パラジウム触媒、ならびにトリ−t−ブチルホスフィン、2−ビフェニル−ジ−t−ブチルホスフィン、1,2,3,4,5−ペンタフェニル−1’−(ジ−t−ブチルホスフィノ)フェロセンおよびトリス(4−メトキシ−2−メチルフェニル)ホスフィンから選ばれる有機ホスフィン、または該ホスフィンのホスホニウム塩を含む触媒/リガンド系の存在下で環化反応に付すことを特徴とする製造法。
2.パラジウム触媒が、Pd(OAc)2、Pd(dba)2、Pd2(dba)3、PdCl2、PdCl2(CH3CN)2、PdBr2およびtrans−ジ−(μ−アセタート)ビス[o−(ジ−o−トリルホスフィン)ベンジル]二パラジウムから選ばれることを特徴とする、上記1の製造法。
3.パラジウム触媒がPd(OAc)2であることを特徴とする、上記1または2のいずれかの製造法。
4.有機ホスフィンがトリ−t−ブチルホスフィンであることを特徴とする、上記1〜3のいずれか一の製造法。
5.ホスホニウム塩がホスホニウム=テトラフルオロボラート、ヘキサフルオロホスファートまたはヘキサフルオロアンチモナートであることを特徴とする、上記1〜4のいずれか一の製造法。
6.ホスホニウム塩がトリ−t−ブチルホスホニウム=テトラフルオロボラートであることを特徴とする、上記5の製造法。
7.用いられる塩基が、K2CO3、Cs2CO3、Na2CO3、K3PO4、KHCO3、t−BuCO2Na、t−BuCO2Kおよびt−BuCO2Csから選ばれることを特徴とする、上記1〜6のいずれか一の製造法。
8.用いられる塩基がK2CO3であることを特徴とする、上記7の製造法。
9.用いられる有機溶媒が、DMF、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリジン、キシレンおよびメシチレンから選ばれることを特徴とする、上記1〜8のいずれか一の製造法。
10.用いられる有機溶媒がDMFであることを特徴とする、上記9の製造法。
11.反応温度が100〜150℃であることを特徴とする、上記1〜10のいずれか一の製造法。
12.式(VIIa):
【化20】


[式中、R1、R2、R3およびR4は、請求項1に定義されたとおりであり、R10は、水素原子または直鎖もしくは分枝鎖C1〜C6アルキル基である]
で示される化合物を製造する方法であって、式(V)の化合物のR5=CO27かつR6=CO28である特定の場合である、式(Va):
【化21】


[式中、R1、R2、R3、R4、R7、R8およびXは、請求項1に定義されたとおりである]
で示される化合物を、式(IV)の化合物のR5=CO27かつR6=CO28である特定の場合である、式(IVa):
【化22】


[式中、R1、R2、R3、R4、R7およびR8は、請求項1に定義されたとおりである]
で示される化合物へと、上記1の方法に従って変換し、次いで、式(IVa)の化合物を式(VIa):
【化23】


[式中、R1、R2、R3およびR4は、請求項1に定義されたとおりであり、R9は、直鎖または分枝鎖C1〜C6アルキル基である]
で示される化合物へと、エステルケン化または加水分解反応によって変換し、式(VIa)の化合物を脱炭酸反応によって式(VIIa)の化合物へと導くことを特徴とする方法。
13.式(VIIa)の化合物のR1=R4=HかつR2=R3=OCH3である特定の場合である、式(VIIb)の化合物を製造するための、上記12の方法。
14.式(IVa):
【化24】


[式中、R1、R2、R3およびR4は、同じであるか、または異なっていてもよくて、それぞれ水素原子、直鎖もしくは分枝鎖C1〜C6アルキル基、直鎖もしくは分枝鎖C1〜C6アルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、保護されたアミン基、保護されたヒドロキシ基、アルコキシカルボニル基(アルコキシ基は、直鎖または分枝鎖C1〜C6である)、またはCF3基を表すか、あるいはR1=R4=Hであり、かつR2およびR3は、それらを担持する炭素原子と一緒になって、1,3−ジオキソラン基を形成し、R7およびR8は、同じであるか、または異なっていてもよくて、それぞれ直鎖または分枝鎖C1〜C6アルキル基を表す]
で示される化合物。
15.式(VIb):
【化25】


[式中、R9は、直鎖または分枝鎖C1〜C6アルキル基である]
で示される化合物。
16.式(VIIc):
【化26】


[式中、R10は、直鎖または分枝鎖C1〜C6アルキル基である]
で示される化合物。
17.イバブラジン、薬学的に許容され得るその塩、およびその水和物を合成する方法であって、式(Vb):
【化27】


[式中、R7、R8およびXは、請求項1に定義されたとおりである]
で示される化合物を、上記13の方法に従って式(VIIb):
【化28】


[式中、R10は、請求項12に定義されたとおりである]
で示される化合物へと変換し、次いで、式(VIIb)の化合物を、メチルアミンとの反応によって式(VIII):
【化29】


の化合物へと変換し、それの還元によって式(III):
【化30】


の化合物を得て、ショウノウスルホン酸の存在下でのそれの分割によって式(II):
【化31】


の化合物を得て、これを式(I):
【化32】


のイバブラジンへと変換し、これを、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、乳酸、ピルビン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、アスコルビン酸、シュウ酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸およびショウノウ酸から選ばれる、薬学的に許容され得る酸とのその付加塩、またはその水和物へと変換してもよいことを特徴とする方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(IV):
【化33】


[式中、
1、R2、R3およびR4は、同じであるか、または異なっていてもよくて、それぞれ水素原子、直鎖もしくは分枝鎖C1〜C6アルキル基、直鎖もしくは分枝鎖C1〜C6アルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、保護されたアミン基、保護されたヒドロキシ基、アルコキシカルボニル基(アルコキシ基は、直鎖または分枝鎖C1〜C6である)、またはCF3基を表すか、あるいはR1=R4=Hであり、かつR2およびR3は、それらを担持する炭素原子と一緒になって、1,3−ジオキソラン基を形成し、
5は、飽和もしくは不飽和である直鎖もしくは分枝鎖C1〜C6アルキル基、直鎖もしくは分枝鎖C1〜C6ヒドロキシアルキル基(ヒドロキシ官能基は保護されている)、またはCO27基(R7は、直鎖または分枝鎖C1〜C6アルキル基である)を表し、
6は、シアノ基またはCO28基(R8は、直鎖または分枝鎖C1〜C6アルキル基である)を表す]
で示される化合物の製造法であって、式(V):
【化34】


[式中、R1、R2、R3、R4、R5およびR6は、上記に定義されたとおりであり、Xは、ハロゲン原子、好ましくは臭素原子、またはトリフラート基を表す]
で示される化合物を、有機溶媒中、塩基の存在下、パラジウム触媒、ならびにトリ−t−ブチルホスフィン、2−ビフェニル−ジ−t−ブチルホスフィン、1,2,3,4,5−ペンタフェニル−1’−(ジ−t−ブチルホスフィノ)フェロセンおよびトリス(4−メトキシ−2−メチルフェニル)ホスフィンから選ばれる有機ホスフィン、または該ホスフィンのホスホニウム塩を含む触媒/リガンド系の存在下で環化反応に付すことを特徴とする製造法。
【請求項2】
パラジウム触媒が、Pd(OAc)2、Pd(dba)2、Pd2(dba)3、PdCl2、PdCl2(CH3CN)2、PdBr2およびtrans−ジ−(μ−アセタート)ビス[o−(ジ−o−トリルホスフィン)ベンジル]二パラジウムから選ばれることを特徴とする、請求項1記載の製造法。
【請求項3】
パラジウム触媒がPd(OAc)2であることを特徴とする、請求項1または2のいずれかに記載の製造法。
【請求項4】
有機ホスフィンがトリ−t−ブチルホスフィンであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造法。
【請求項5】
ホスホニウム塩がホスホニウム=テトラフルオロボラート、ヘキサフルオロホスファートまたはヘキサフルオロアンチモナートであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造法。
【請求項6】
ホスホニウム塩がトリ−t−ブチルホスホニウム=テトラフルオロボラートであることを特徴とする、請求項5記載の製造法。
【請求項7】
用いられる塩基が、K2CO3、Cs2CO3、Na2CO3、K3PO4、KHCO3、t−BuCO2Na、t−BuCO2Kおよびt−BuCO2Csから選ばれることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の製造法。
【請求項8】
用いられる塩基がK2CO3であることを特徴とする、請求項7記載の製造法。
【請求項9】
用いられる有機溶媒が、DMF、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリジン、キシレンおよびメシチレンから選ばれることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の製造法。
【請求項10】
用いられる有機溶媒がDMFであることを特徴とする、請求項9記載の製造法。
【請求項11】
反応温度が100〜150℃であることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の製造法。
【請求項12】
式(VIIa):
【化35】


[式中、R1、R2、R3およびR4は、請求項1に定義されたとおりであり、R10は、水素原子または直鎖もしくは分枝鎖C1〜C6アルキル基である]
で示される化合物を製造する方法であって、式(V)の化合物のR5=CO27かつR6=CO28である特定の場合である、式(Va):
【化36】


[式中、R1、R2、R3、R4、R7、R8およびXは、請求項1に定義されたとおりである]
で示される化合物を、式(IV)の化合物のR5=CO27かつR6=CO28である特定の場合である、式(IVa):
【化37】


[式中、R1、R2、R3、R4、R7およびR8は、請求項1に定義されたとおりである]
で示される化合物へと、請求項1に記載の方法に従って変換し、次いで、式(IVa)の化合物を式(VIa):
【化38】


[式中、R1、R2、R3およびR4は、請求項1に定義されたとおりであり、R9は、直鎖または分枝鎖C1〜C6アルキル基である]
で示される化合物へと、エステルケン化または加水分解反応によって変換し、式(VIa)の化合物を脱炭酸反応によって式(VIIa)の化合物へと導くことを特徴とする方法。
【請求項13】
式(VIIa)の化合物のR1=R4=HかつR2=R3=OCH3である特定の場合である、式(VIIb)の化合物を製造するための、請求項12記載の方法。
【請求項14】
式(IVa):
【化39】


[式中、R1、R2、R3およびR4は、同じであるか、または異なっていてもよくて、それぞれ水素原子、直鎖もしくは分枝鎖C1〜C6アルキル基、直鎖もしくは分枝鎖C1〜C6アルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、保護されたアミン基、保護されたヒドロキシ基、アルコキシカルボニル基(アルコキシ基は、直鎖または分枝鎖C1〜C6である)、またはCF3基を表すか、あるいはR1=R4=Hであり、かつR2およびR3は、それらを担持する炭素原子と一緒になって、1,3−ジオキソラン基を形成し、R7およびR8は、同じであるか、または異なっていてもよくて、それぞれ直鎖または分枝鎖C1〜C6アルキル基を表す]
で示される化合物。
【請求項15】
式(VIb):
【化40】


[式中、R9は、直鎖または分枝鎖C1〜C6アルキル基である]
で示される化合物。
【請求項16】
式(VIIc):
【化41】


[式中、R10は、直鎖または分枝鎖C1〜C6アルキル基である]
で示される化合物。
【請求項17】
イバブラジン、薬学的に許容され得るその塩、およびその水和物を合成する方法であって、式(Vb):
【化42】


[式中、R7、R8およびXは、請求項1に定義されたとおりである]
で示される化合物を、請求項13の方法に従って式(VIIb):
【化43】


[式中、R10は、請求項12に定義されたとおりである]
で示される化合物へと変換し、次いで、式(VIIb)の化合物を、メチルアミンとの反応によって式(VIII):
【化44】


の化合物へと変換し、それの還元によって式(III):
【化45】


の化合物を得て、ショウノウスルホン酸の存在下でのそれの分割によって式(II):
【化46】


の化合物を得て、これを式(I):
【化47】


のイバブラジンへと変換し、これを、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、乳酸、ピルビン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、アスコルビン酸、シュウ酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸およびショウノウ酸から選ばれる、薬学的に許容され得る酸とのその付加塩、またはその水和物へと変換してもよいことを特徴とする方法。

【公開番号】特開2010−47563(P2010−47563A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−168545(P2009−168545)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【出願人】(500287019)レ ラボラトワール セルヴィエ (166)
【出願人】(502205846)サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィク (154)
【出願人】(596096180)ユニベルシテ・クロード・ベルナール・リヨン・プルミエ (16)
【Fターム(参考)】