説明

官能化分散剤を含有する潤滑剤組成物

【課題】エンジン潤滑剤組成物、エンジンにおけるエラストマーシール材に悪影響を及ぼさずにエンジン潤滑剤の煤煙処理能を維持するための方法、およびエンジンを作動させる方法を提供。
【解決手段】エンジン潤滑剤は、基油と分散剤とを含む。分散剤は、A)ヒドロカルビル−ジカルボン酸または無水物、B)ポリアミン、C)ジカルボニル含有縮合芳香族化合物、およびD)非芳香族ジカルボン酸または無水物の反応生成物であり、構成成分Aがポリイソブテニルコハク酸または無水物を、構成成分Cが1,8−ナフタル酸無水物を、構成成分Dがマレイン酸無水物を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
この出願は、2011年8月11日に提出された米国仮出願第61/522,276号、および2011年9月8日に提出された米国仮出願第61/532,129号に関係する。
【0002】
本開示は、潤滑剤組成物に関し、特に、エンジンシールに対する添加剤の悪影響を最小にしながら、エンジン潤滑剤組成物の煤煙またはスラッジ処理特性を改良するための添加剤に関する。
【背景技術】
【0003】
エンジン潤滑剤組成物は、燃費の増大および排出の低減を提供しながら、エンジン保護の増大を提供するように選択され得る。しかし、改良された燃費および低減された排出の利益を得るためには、潤滑剤組成物に、エンジン保護と潤滑特性との間のバランスが必要とされる。例えば、摩擦調整剤の量の増大は、燃費目的では有利であり得るが、潤滑剤組成物が水を処理する能力の低減をもたらし得る。同様に、潤滑剤中の耐摩耗剤の量の増大は、摩耗に対して改良されたエンジン保護を提供するが、排出を低減するための触媒性能に有害であり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
潤滑剤組成物の煤煙およびスラッジ処理構成成分も同じである。潤滑剤組成物中の分散剤の量が増大するに従い、典型的には、潤滑剤の煤煙およびスラッジ処理特性が改良される。しかし、分散剤の量の増大は、分散剤が、シールに有害である典型的にはアンモニア性窒素含有化合物であるため、エラストマーシールに悪影響を及ぼし得る。ポリ芳香族官能性を分散剤に導入することにより、煤煙が関係する粘度増大を制御する能力を改良すると考えられている。したがって、フタル酸無水物またはナフタル酸無水物と反応して環状カーボネートで覆われた分散剤は、従来の分散剤よりも良好な煤煙処理能を提供すると考えられている。しかし、かかる官能化分散剤は、比較的低い処理速度においても劣ったエラストマーシール適合性をしばしば示す。したがって、改良された煤煙処理および改良されたシール適合性を提供することができ、現在提案されているおよび将来の潤滑剤性能基準を満たすまたは超えるのに好適である分散剤に対する必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記に関して、本開示の実施形態は、エンジン潤滑剤組成物、エンジンにおけるエラストマーシール材に悪影響を及ぼさずにエンジン潤滑剤の煤煙処理能を維持するための方法、およびエンジンを作動させる方法を提供する。エンジン潤滑剤は、基油と、A)ヒドロカルビル−ジカルボン酸または無水物、B)ポリアミン、C)ジカルボニル含有縮合芳香族化合物、およびD)非芳香族ジカルボン酸または無水物の反応生成物である分散剤とを含む。
【0006】
本開示の別の実施形態は、エンジンにおけるエラストマーシールに悪影響を及ぼすことなくエンジン用エンジン潤滑剤の煤煙処理能を維持するための方法を提供する。該方法は、基油と、A)ヒドロカルビル−ジカルボン酸または無水物、B)ポリアミン、C)ジカルボニル含有縮合芳香族化合物、およびD)非芳香族ジカルボン酸または無水物の反応生成物である添加剤とを含むエンジン用潤滑剤組成物を調合することを含む。
【0007】
本開示のさらなる実施形態は、エンジンを作動させるための方法であって、基油と、A)ヒドロカルビル−ジカルボン酸または無水物、B)ポリアミン、C)ジカルボニル含有縮合芳香族化合物、およびD)非芳香族ジカルボン酸または無水物の反応生成物を含有する潤滑剤添加剤パッケージとを有するエンジン用エンジン潤滑剤を調合することと;エンジン潤滑剤によってエンジンを作動させることとを含む方法を提供する。
【0008】
開示されている実施形態の官能化分散剤の使用の予期されない利点は、官能化分散剤が煤煙の処理に好適でありながら、優れたエラストマーシール保護特性を有することである。本明細書に記載されている官能化分散剤の使用のさらなる利点は、従来の分散剤に比べて、煤煙処理能を得るのに用いられ得る官能化分散剤がより低量であることである。
【0009】
本明細書において用いられる一定の用語の意味を明確にするために、以下の用語の定義を付与する。
【0010】
用語「油組成物」、「潤滑組成物」、「潤滑油組成物」、「潤滑油」、「潤滑剤組成物」、「潤滑性組成物」、「完全に調合された潤滑剤組成物」、および「潤滑剤」は、本明細書において用いられるとき、主要量の基油と少量の添加剤組成物とを含む完成潤滑生成物を称する、同義の完全に互換可能な専門用語とされる。
【0011】
用語「添加剤パッケージ」、「添加剤濃縮物」、および「添加剤組成物」は、本明細書において用いられるとき、主要量の基油ストック混合物を除いた潤滑性組成物の部分を称する、同義の完全に互換可能な専門用語とされる。
【0012】
用語「ヒドロカルビル置換基」または「ヒドロカルビル基」は、本明細書において用いられるとき、当業者に周知である通常の意味で用いられる。具体的には、該用語は、残りの分子に直接結合した炭素原子を有しかつ主に炭化水素の特徴を有する基を称する。ヒドロカルビル基の例として:
(1)炭化水素置換基、すなわち、脂肪族(例えば、アルキルまたはアルケニル)、脂環式(例えば、シクロアルキル、シクロアルケニル)置換基、ならびに芳香族−、脂肪族−、および脂環式−置換芳香族置換基、ならびに、環が分子の別の部分を介して完成されている(例えば、2個の置換基が一緒に脂環式基を形成する)環式置換基;
(2)置換炭化水素置換基、すなわち、本発明の文脈において、主に炭化水素置換基を変更しない非炭化水素基(例えば、ハロ(特に、クロロおよびフルオロ)、ヒドロキシ、アルコキシ、メルカプト、アルキルメルカプト、ニトロ、ニトロソ、およびスルホキシ)を含有する置換基;
(3)ヘテロ置換基、すなわち、主に炭化水素の特徴を有しながら、本発明の文脈において、環内の炭素またはさもなければ炭素原子から構成される鎖以外のものを含有する置換基。ヘテロ原子は、硫黄、酸素、窒素を含み、置換基、例えば、ピリジル、フリル、チエニル、およびイミダゾリルを包含する。概して、たった2個、例えば、たった1個の非炭化水素置換基が、ヒドロカルビル基中の10個の炭素原子毎に存在し;典型的には、ヒドロカルビル基に非炭化水素置換基は存在しない。
【0013】
用語「重量%」は、本明細書において用いられるとき、別途明確に記述されない限り、列挙した構成成分の百分率が、全組成物の重量に対して表すものであることを意味する。
【0014】
本明細書において用いられる用語「油溶性」または「分散性」は、化合物または添加剤が、全ての割合で、油溶性であり、油に溶解性であり、油に混和性であり、または油に懸濁され得ることを必ずしも示すものではあり得ない。しかし、上記の用語は、例えば、油が使用される環境において意図される効果を発揮するのに十分な程度まで油溶性であることまたは油に安定して分散性であることを意味する。さらに、他の添加剤のさらなる組み
込みが、所望により、より高いレベルの特定の添加剤の組み込みを許容することもできる。
【0015】
本開示の潤滑油、エンジン潤滑油、および/またはクランクケース潤滑油は、以下に詳細に記載するように、適切な基油調合物に1種以上の添加剤を添加することにより調合され得る。添加剤は、添加剤パッケージ(または濃縮物)の形態の基油と組み合わされてよく、あるいは、代替的には、基油と個々に組み合わされてよい。完全に調合された潤滑剤、エンジン潤滑剤、および/またはクランクケース潤滑剤は、添加された添加剤およびそれぞれの割合に基づいて、改良された性能特性を示し得る。
【0016】
本開示のさらなる詳細および利点は、以下に続く説明に一部が記載されており、そして/または本開示の実施によって教示され得る。本開示の詳細および利点は、添付の特許請求の範囲において特に指し示されている構成要素および組み合わせによって実現および達成され得る。
【0017】
以下の全体的な説明および以下の詳細な説明は単に例示的かつ説明的なものであり、特許請求されている開示内容を制限するものではないことが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、開示されている実施形態による組成物の煤煙分散力を決定するための粘度対剪断速度のグラフ表示である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本開示を、本開示の調合物および使用の種々の例を含めた、その実施形態のより限定された態様においてここで説明する。これらの実施形態は、単に本発明を説明する目的で提示されていること、およびその範囲の限定としてみなされてはならないことが理解されよう。
【0020】
エンジンまたはクランクケース潤滑剤組成物は、火花点火エンジンおよび圧縮点火エンジンを含有する車両において用いられる。かかるエンジンは、自動車、トラック、および/または電車用途において用いられ得、限定されないが、ガソリン、ディーゼル、アルコール、圧縮天然ガスなどを含めた燃料において作動され得る。本開示は、ILSAC GF−5および/またはAPI CJ−4潤滑剤基準を満たすまたは超える自動車クランクケース潤滑剤などのエンジン潤滑剤としての使用に好適な潤滑剤を記載することができる。
【0021】
基油
エンジン潤滑剤組成物を調合する際の使用に好適な基油は、好適な合成油、動物油、植物油、鉱物油またはこれらの混合物のいずれかから選択されてよい。動物油および植物油(例えば、ラード油、ヒマシ油)ならびに鉱物潤滑油、例えば、液体石油、およびパラフィン、ナフタレンまたはパラフィン−ナフタレン混合型の、溶媒処理または酸処理された鉱物潤滑油が用いられ得る。石炭または頁岩に由来する油も好適であり得る。基油は、100℃において、典型的には約2〜約15cSt、または、さらなる例として、約2〜約10cStの粘度を有し得る。さらに、ガスツーリキッドプロセスに由来する油も好適である。
【0022】
好適な合成基油として、ジカルボン酸、ポリグリコールおよびアルコールのアルキルエステル、ポリブテンを含めたポリアルファオレフィン、アルキルベンゼン、リン酸の有機エステル、ならびにポリシリコーン油を挙げることができる。合成油として、炭化水素油、例えば、重合および内部重合オレフィン(例えば、ポリブチレン、ポリプロピレン、プ
ロピレンイソブチレンコポリマーなど);ポリ(1−ヘキセン)、ポリ−(1−オクテン)、ポリ(1−デセン)などおよびこれらの混合物;アルキルベンゼン(例えば、ドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジ−ノニルベンゼン、ジ−(2−エチルヘキシル)ベンゼンなど);ポリフェニル(例えば、ビフェニル、ターフェニル、アルキル化ポリフェニルなど);アルキル化ジフェニルエーテルおよびアルキル化ジフェニルスルフィドならびにこれらの誘導体、アナログおよびホモログなどが挙げられる。
【0023】
末端ヒドロキシル基がエステル化、エーテル化などによって修飾されたアルキレンオキサイドポリマーおよび内部ポリマーならびにこれらの誘導体は、用いることができる別のクラスの公知の合成油を構成する。かかる油は、エチレンオキサイドまたはプロピレンオキサイドの重合を経て調製される油、これらのポリオキシアルキレンポリマーのアルキルおよびアリールエーテル(例えば、約1000の平均分子量を有するメチル−ポリイソプロピレングリコールエーテル、約500〜1000の分子量を有するポリエチレングリコールのジフェニルエーテル、約1000〜1500の分子量を有するポリプロピレングリコールのジエチルエーテルなど)、またはこれらのモノ−およびポリカルボン酸エステル、例えば、テトラエチレングリコールの酢酸エステル、混合C−C脂肪酸エステル、もしくはC13オキソ酸ジエステルによって例示される。
【0024】
用いることができる別の分類の合成油として、ジカルボン酸(例えば、フタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸、アルケニルコハク酸、マレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸ダイマー、マロン酸、アルキルマロン酸、アルケニルマロン酸など)と、種々のアルコール(例えば、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコールなど)とのエステルが挙げられる。これらのエステルの具体例として、アジピン酸ジブチル、セバシン酸ジ(2−エチルヘキシル)、フマル酸ジ−n−ヘキシル、セバシン酸ジオクチル、アゼライン酸ジイソオクチル、アゼライン酸ジイソデシル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジデシル、セバシン酸ジエイコシル、リノール酸ダイマーの2−エチルヘキシルジエステル、1モルのセバシン酸と2モルのテトラエチレングリコールおよび2モルの2−エチルヘキサン酸とを反応させることによって形成される複合エステルなどが挙げられる。
【0025】
合成油として有用なエステルとして、C〜C12モノカルボン酸ならびにポリオールおよびポリオールエーテル、例えば、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトール、トリペンタエリトリトールなどから作製されたものも挙げられる。
【0026】
したがって、本明細書に記載されているエンジン潤滑剤組成物を作製するのに用いることができる、用いられる基油は、米国石油協会(API)のガイドライン(Base Oil Interchangeability Guidelines)に規定されているグループI〜Vにおける基油のいずれかから選択されてよい。かかる基油のグループは以下の通りである:
【表1】

【0027】
基油は、少量または主要量のポリアルファオレフィン(PAO)を含有していてよい。典型的には、ポリアルファオレフィンは、約4〜約30、または約4〜約20、または約6〜約16個の炭素原子を有するモノマーに由来する。有用なPAOの例として、オクテン、デセン、これらの混合物などに由来するものが挙げられる。PAOは、100℃で約2〜約15、または約3〜約12、または約4〜約8cStの粘度を有し得る。PAOの例として、100℃で4cStのポリアルファオレフィン、100℃で6cStのポリアルファオレフィン、およびこれらの混合物が挙げられる。鉱物油と上記ポリアルファオレフィンとの混合物が用いられてもよい。
【0028】
基油は、フィッシャートロプシュ合成による炭化水素に由来する油であってよい。フィッシャートロプシュ合成による炭化水素は、フィッシャートロプシュ触媒を用いて、HおよびCOを含有する合成ガスから作製される。かかる炭化水素は、基油として有用であるためにはさらなる処理を典型的には必要とする。例えば、炭化水素は、米国特許第6,103,099号または同第6,180,575号に開示されているプロセスを用いて水素異性化されるか;米国特許第4,943,672号または同第6,096,940号に開示されているプロセスを用いて水素化分解および水素異性化されるか;米国特許第5,882,505号に開示されているプロセスを用いて脱ろうされるか;あるいは米国特許第6,013,171号;同第6,080,301号;または同第6,165,949号に開示されているプロセスを用いて水素異性化および脱ろうされてよい。
【0029】
上記に開示された天然または合成のいずれかのタイプの未精製、精製、および再精製油、(ならびにこれらのいずれか2種以上の混合物)が基油において用いられ得る。未精製油は、さらに精製処理されることなく天然または合成源から直接得られるものである。例えば、さらに処理されることなく用いられる、乾留操作から直接得られる頁岩油、一次蒸留から直接得られる石油またはエステル化プロセスから直接得られるエステル油が未精製油である。精製油は、1以上の精製工程でさらに処理されて1以上の特性を改良したことを除いては未精製油と同様である。多くのかかる精製技術、例えば溶媒抽出、二次蒸留、酸または塩基抽出、濾過、浸透などが当業者に公知である。再精製油は、既に使用が開始されている精製油に適用される精製油を得るのに用いられるのと同様のプロセスによって得られる。かかる再精製油は、再生油または再処理油としても公知であり、しばしば、使用済みの添加剤、汚染物質、および油分解生成物の除去を対象とした技術によってさらに処理される。
【0030】
基油は、本明細書における実施形態に開示されている添加剤組成物と組み合わされてエンジン潤滑剤組成物を提供することができる。したがって、基油は、潤滑剤組成物の合計重量を基準にして約50重量%〜約95重量%の範囲の量でエンジン潤滑剤組成物中に存在していてよい。
【0031】
官能化分散剤
開示されている実施形態の態様において、分散剤添加剤は、A)ヒドロカルビル−ジカルボン酸または無水物、B)ポリアミン、C)ジカルボニル含有縮合芳香族化合物、およびD)非芳香族ジカルボン酸または無水物の反応生成物である官能化分散剤添加剤である。
【0032】
構成成分A
構成成分Aのヒドロカルビル−ジカルボン酸または無水物のヒドロカルビル部分は、ブテンポリマー、例えばイソブチレンのポリマーに由来し得る。本明細書における使用に好適なポリイソブテンとして、ポリイソブチレンまたは少なくとも約60%、例えば約70%〜約90%およびこれを超える末端ビニリデン含量を有する高反応性ポリイソブチレンから形成されるものが挙げられる。好適なポリイソブテンとして、BF触媒を用いて調製されるものを挙げることができる。ポリアルケニル置換基の平均数分子量は、広い範囲、例えば約100〜約5000、例えば約500〜約5000にわたって変動し得、これは、先に記載されている、検定標準としてポリスチレンを用いたGPCによって決定される。
【0033】
構成成分Aのジカルボン酸または無水物は、マレイン酸無水物から、または、対応する酸ハロゲン化物および低級脂肪族エステルを含めた、マレイン酸無水物以外のカルボン酸反応体、例えばマレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、イタコン酸、イタコン酸無水物、シトラコン酸、シトラコン酸無水物、メサコン酸、エチルマレイン酸無水物、ジメチルマレイン酸無水物、エチルマレイン酸、ジメチルマレイン酸、ヘキシルマレイン酸などから選択され得る。好適なジカルボン酸無水物は、マレイン酸無水物である。構成成分Aを作製するのに用いられる反応混合物中のマレイン酸無水物対ヒドロカルビル部分のモル比は、広範に変動し得る。したがって、モル比は、約5:1〜約1:5、例えば約3:1〜約1:3で変動し得、さらなる例として、マレイン酸無水物は、反応を完了させる化学量論過剰で用いられてよい。未反応のマレイン酸無水物は、真空蒸留によって除去され得る。
【0034】
構成成分B
数多くのポリアミンのいずれかが、官能化分散剤を調製する際に構成成分Bとして用いられ得る。非限定の例示的なポリアミンとして、重炭酸アミノグアニジン(AGBC)、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、テトラエチレンペンタミン(TEPA)、ペンタエチレンヘキサミン(PEHA)および重質ポリアミンを挙げることができる。重質ポリアミンは、TEPAおよびPEHAなどの低級ポリアミンオリゴマーを少量で有するが、1分子あたり7個以上の窒素原子、2種以上の第一級アミンを有して従来のポリアミン混合物よりもさらに広がって分枝している一次オリゴマーを有するポリアルキレンポリアミンの混合物を含み得る。ヒドロカルビル−置換スクシンイミド分散剤を調製するのに用いることができるさらなる非限定のポリアミンは、米国特許第6,548,458号に開示されており、該開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。本開示の実施形態において、ポリアミンは、テトラエチレンペンタミン(TEPA)から選択され得る。
【0035】
実施形態において、官能化分散剤は、式(I)の化合物:
【化1】

式中、nは、0または1〜5の整数を表し、Rは、先に定義したヒドロカルビル置換基である;に由来していてよい。実施形態において、nは3であり、Rは、ポリイソブテニル置換基、例えば、少なくとも約60%、例えば約70%〜約90%およびこれを超える末端ビニリデン含量を有するポリイソブチレンに由来するものである。式(I)の化合物は、ヒドロカルビル−置換コハク酸無水物、例えばポリイソブテニルコハク酸無水物(PIBSA)、およびポリアミン、例えばテトラエチレンペンタミン(TEPA)の反応生成物であってよい。
【0036】
式(I)の上記の化合物は、化合物中に約4:3〜約1:10の範囲で(A)ポリイソブテニル−置換コハク酸無水物対(B)ポリアミンのモル比を有し得る。特に有用な分散剤は、検定標準としてポリスチレンを用いたGPCによって決定されるとき約500〜5000の範囲の数平均分子量(Mn)を有するポリイソブテニル−置換コハク酸無水物のポリイソブテニル基と、一般式HN(CH)m−[NH(CH−NH(式中、mは、2〜4の範囲内であり、nは、1〜2の範囲内である)を有する(B)ポリアミンとを含有する。
【0037】
構成成分C
構成成分Cは、カルボキシルもしくはポリカルボキシル酸またはポリ無水物であり、ここで、カルボキシル酸または無水物の官能基は、芳香族基に直接縮合される。かかるカルボキシル含有芳香族化合物は、1,8−ナフタル酸または無水物および1,2−ナフタレンジカルボン酸または無水物、2,3−ジカルボン酸または無水物、ナフタレン−1,4−ジカルボン酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、フタル酸無水物、ピロメリット酸無水物、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸無水物、ジフェン酸または無水物、2,3−ピリジンジカルボン酸または無水物、3,4−ピリジンジカルボン酸または無水物、1,4,58−ナフタレンテトラカルボン酸または無水物、ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸無水物、ピレンジカルボン酸または無水物などから選択され得る。1モルの構成成分Bと反応した構成成分Cのモルは、約0.1:1〜約2:1の範囲であり得る。反応混合物中の構成成分C対構成成分Bの典型的なモル比は、約0.2:1〜約2.0:1の範囲であり得る。用いることができる構成成分C対構成成分Bの別のモル比は、0.25:1〜約1.5:1の範囲であり得る。構成成分Cは、約140°〜約180℃の範囲の温度で他の構成成分と反応され得る。
【0038】
構成成分D
構成成分Dは、非芳香族カルボン酸または無水物である。好適なジカルボン酸またはその無水物として、限定されないが、酢酸または無水物、シュウ酸および無水物、マロン酸および無水物、コハク酸および無水物、アルケニルコハク酸または無水物、グルタル酸、無水物、アジピン酸および無水物、ピメリン酸および無水物、スベリン酸および無水物、アゼライン酸および無水物、セバシン酸および無水物、マレイン酸および無水物、フマル酸および無水物、酒石酸または無水物、グリコール酸または無水物、1,2,3,6−テトラヒドロナフタル酸または無水物などを挙げることができる。構成成分Dは、反応する1モルの構成成分Bあたり約0.1〜約2.5モルの構成成分Dの範囲のモル比で構成成
分Bと反応する。典型的には、用いられる構成成分Dの量は、構成成分B中の第二級アミノ基の数に対するものである。したがって、構成成分B中の第二級アミノ基1個あたり約0.2〜約2.0モルの構成成分Dが、他の構成成分と反応して、本開示の実施形態による分散剤を提供することができる。用いることができる構成成分D対構成成分Bの別のモル比は、構成成分Bの1モルあたり構成成分Dが0.25:1〜約1.5:1モルの範囲であり得る。構成成分Dは、約140°〜約180℃の範囲の温度で他の構成成分と反応し得る。
【0039】
潤滑剤組成物は、潤滑剤組成物の合計重量を基準にして約0.5重量%〜約10.0重量の上記官能化分散剤を含有し得る。分散剤の典型的な範囲は、潤滑剤組成物の合計重量を基準にして約2重量%〜約5重量%であり得る。潤滑剤組成物は、上記の官能化分散剤に加えて、限定されないが、摩擦調整剤、さらなる分散剤、金属洗浄剤、耐摩耗剤、消泡剤、酸化防止剤、粘度調整剤、流動点降下剤、腐食防止剤などを含む他の従来の成分を挙げることができる。
【0040】
金属含有洗浄剤
上記の分散剤反応生成物と共に用いることができる金属洗浄剤は、極性頭部が酸性有機化合物の金属塩を含む、長い疎水性尾部を有する極性頭部を一般に含む。該塩は、実質的に化学量論量の金属を含有し得、この場合において、該塩は、正塩または中性塩として通常は記載され、約0〜約150未満の全塩基価またはTBN(ASTM D2896によって測定される)を典型的には有する。過剰の金属化合物、例えば酸化物または水酸化物と、酸性ガス、例えば、二酸化炭素との反応により、多量の金属塩基が含まれ得る。得られる過塩基性洗浄剤は、無機金属塩基(例えば、水和カーボネート)の核の周囲の中和洗浄剤のミセルを含む。かかる過塩基性洗浄剤は、約150以上、例えば約150〜約450以上のTBNを有し得る。
【0041】
本実施形態における使用に好適であり得る洗浄剤として、金属、特にアルカリまたはアルカリ土類金属、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、およびマグネシウムの油溶性の過塩基性の低塩基ならびに中性スルホン酸塩、石炭酸塩、硫化石炭酸塩、およびサリチル酸塩が挙げられる。1種を超える金属、例えば、カルシウムおよびマグネシウムの両方が存在していてよい。カルシウムおよび/またはマグネシウムとナトリウムとの混合物も好適であり得る。好適な金属洗浄剤は、150〜450TBNのTBNを有する過塩基性のカルシウムまたはマグネシウムのスルホン酸塩、150〜300TBNのTBNを有する過塩基性のカルシウムまたはマグネシウムの石炭酸塩または硫化石炭酸塩、および130〜350のTBNを有する過塩基性のカルシウムまたはマグネシウムのサリチル酸塩であってよい。かかる塩の混合物も用いられ得る。
【0042】
金属含有洗浄剤は、約0.5重量%〜約5重量%の量で潤滑性組成物中に存在してよい。さらなる例として、金属含有洗浄剤は、約1.0重量%〜約3.0重量%の量で存在してよい。金属含有洗浄剤は、潤滑剤組成物の合計重量を基準にして約500〜約5000ppmのアルカリおよび/またはアルカリ土類金属を潤滑剤組成物に付与するのに十分な量で潤滑性組成物中に存在してよい。さらなる例として、金属含有洗浄剤は、約1000〜約3000ppmのアルカリおよび/またはアルカリ土類金属を付与するのに十分な量で潤滑性組成物中に存在してよい。
【0043】
リン系耐摩耗剤
リン系摩耗防止剤が用いられてよく、これは、限定されないがジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛などの金属ジヒドロカルビルジチオホスフェート化合物を含んでよい。好適な金属ジヒドロカルビルジチオホスフェートは、金属はアルカリもしくはアルカリ土類金属、またはアルミニウム、鉛、スズ、モリブデン、マンガン、ニッケル、銅もしくは亜鉛で
あってよいジヒドロカルビルジチオリン酸金属塩を含んでよい。
【0044】
ジヒドロカルビルジチオリン酸金属塩は、通常の1種以上のアルコールまたはフェノールとPとの反応によりジヒドロカルビルジチオリン酸(DDPA)をまず形成すること、次いで、形成されたDDPAを金属化合物によって中和することによる公知の技術に従って調製され得る。例えば、ジチオリン酸は、第一級および第二級アルコールの混合物を反応させることによって作製され得る。代替的には、複数のジチオリン酸が調製されてよく、ここで、一方のジチオリン酸におけるヒドロカルビル基が全体として第二級の特性であり、他方のジチオリン酸におけるヒドロカルビル基が全体として第一級の特性である。金属塩を作製するには、いずれの塩基性または中性金属化合物が用いられてもよいが、酸化物、水酸化物および炭酸塩が最も一般に使用される。市販の添加剤は、中和反応における過剰の塩基性金属化合物の使用に起因して、過剰の金属を含有することが多い。
【0045】
ジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛(ZDDP)は、ジヒドロカルビルジチオリン酸の油溶性塩であり、以下の式:
【化2】

式中、RおよびR’は、1〜18、例えば2〜12個の炭素原子を含有し、例えば、アルキル、アルケニル、アリール、アリールアルキル、アルカリール、およびシクロ脂肪族基などの基を含む、同じまたは異なるヒドロカルビル基であってよい;によって表され得る。RおよびR’基は、2〜8個の炭素原子のアルキル基であってよい。したがって、上記の基は、例えば、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、sec−ブチル、アミル、n−ヘキシル、i−ヘキシル、n−オクチル、デシル、ドデシル、オクタデシル、2−エチルヘキシル、フェニル、ブチルフェニル、シクロヘキシル、メチルシクロペンチル、プロペニル、ブテニルであってよい。油溶性を得るには、ジチオリン酸中の炭素原子(すなわち、RおよびR’)の合計数が一般に約5以上である。したがって、ジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛は、ジアルキルジチオリン酸亜鉛を含み得る。
【0046】
リン系摩耗防止剤として利用され得る他の好適な構成成分として、あらゆる好適な有機リン化合物、例えば限定されないが、リン酸塩、チオリン酸塩、ジ−チオリン酸塩、亜リン酸塩、ならびにこれらの塩およびホスホン酸塩が挙げられる。好適な例は、トリクレシルリン酸塩(TCP)、ジ−アルキル亜リン酸塩(例えば、亜リン酸水素ジブチル)、およびアミル酸リン酸塩である。
【0047】
別の好適な構成成分は、リン酸化スクシンイミド、例えば、ヒドロカルビル置換コハク酸アシル化剤と、リン源と組み合わされたポリアミンとの間の反応からの完了反応生成物、例えば無機または有機リン酸またはエステルである。さらに、化合物を含んでよく、ここで、生成物は、第一級アミノ基と無水物部分との反応から得られるタイプのイミド連結に加えて、アミド、アミジン、および/または塩連結を有してよい。
【0048】
リン系摩耗防止剤は、約200〜約2000ppmのリンを付与するのに十分な量で潤滑性組成物中に存在してよい。さらなる例として、リン系摩耗防止剤は、約500〜約800ppmのリンを付与するのに十分な量で潤滑性組成物中に存在してよい。
【0049】
リン系摩耗防止剤は、潤滑性組成物中のアルカリおよび/またはアルカリ土類金属の合計量を基準にしたアルカリおよび/またはアルカリ土類金属含量(ppm)対潤滑性組成物中のリンの合計量を基準にしたリン含量(ppm)の比が約1.6〜約3.0(ppm/ppm)を与えるのに十分な量で潤滑性組成物中に存在してよい。
【0050】
摩擦調整剤
本開示の実施形態は、1種以上の摩擦調整剤を含んでよい。好適な摩擦調整剤は、金属含有および金属不含摩擦調整剤を含んでよく、限定されないが、イミダゾリン、アミド、アミン、スクシンイミド、アルコキシ化アミン、アルコキシ化エーテルアミン、アミン酸化物、アミドアミン、ニトリル、ベタイン、第四級アミン、イミン、アミン塩、アミノグアナジン、アルカノールアミド、ホスホン酸塩、金属含有化合物、グリセロールエステルなどが挙げられる。
【0051】
好適な摩擦調整剤は、直鎖、分岐鎖もしくは芳香族ヒドロカルビル基またはこれらの混合体から選択されるヒドロカルビル基を含有してよく、飽和であっても不飽和であってもよい。ヒドロカルビル基は、炭素および水素またはヘテロ原子、例えば、硫黄または酸素から構成されてよい。ヒドロカルビル基は、約12〜約25個の炭素原子範囲であってよく、飽和であっても不飽和であってもよい。
【0052】
アンモニア性窒素含有摩擦調整剤として、ポリアミンのアミドを挙げることができる。かかる化合物は、線状、飽和もしくは不飽和のいずれか、またはこれらの混合物であるヒドロカルビル基を有してよく、約12〜約25個の炭素原子を含有し得る。
【0053】
好適な摩擦調整剤のさらなる例として、アルコキシ化アミンおよびアルコキシ化エーテルアミンが挙げられる。かかる化合物は、線状、飽和もしくは不飽和のいずれか、またはこれらの混合物であるヒドロカルビル基を有してよい。これらは、約12〜約25個の炭素原子を含有し得る。例として、エトキシ化アミンおよびトキシ化エーテルアミンが挙げられる。
【0054】
アミンおよびアミドは、そのまま用いられても、酸化ホウ素、ハロゲン化ホウ素、メタホウ酸塩、ホウ酸またはモノ−、ジ−もしくはトリ−アルキルホウ酸塩などのホウ素化合物との付加物または反応生成物の形態であってもよい。他の好適な摩擦調整剤は、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,300,291号に記載されている。
【0055】
他の好適な摩擦調整剤として、有機、無灰(金属不含)、窒素不含有機摩擦調整剤を挙げることができる。かかる摩擦調整剤として、カルボン酸および無水物をアルカノールと反応させることによって形成されるエステルを挙げることができる。他の有用な摩擦調整剤として、親油性炭化水素鎖に共有結合的に結合した極性末端基(例えばカルボキシルまたはヒドロキシル)が一般に挙げられる。カルボン酸および無水物とアルカノールとのエステルは、米国特許第4,702,850号に記載されている。有機無灰窒素不含摩擦調整剤の別の例は、オレイン酸のモノ−およびジエステルを含有し得るモノオレイン酸グリセロール(GMO)として一般に公知である。他の好適な摩擦調整剤は、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,723,685号に記載されている。無灰摩擦調整剤は、潤滑剤組成物の合計重量を基準にして約0.1〜約0.4重量%の範囲の量で潤滑性組成物中に存在してよい。
【0056】
好適な摩擦調整剤は、1種以上のモリブデン化合物を含んでいてもよい。モリブデン化合物は、ジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTC)、ジチオリン酸モリブデン、ジチオホスフィン酸モリブデン、キサントゲン酸モリブデン、チオキサントゲン酸モリブデン、硫化モリブデン、三核有機モリブデン化合物、モリブデン/アミン錯体、およびこれら
の混合物からなる群から選択され得る。
【0057】
さらに、モリブデン化合物は、酸性モリブデン化合物であってよい。モリブデン酸、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、および他のアルカリ金属モリブデン酸塩、ならびに他のモリブデン塩、例えば、モリブデン酸水素ナトリウム、MoOCl、MoOBr、MoCl、三酸化モリブデンまたは同様の酸性モリブデン化合物が含まれる。代替的には、組成物は、例えば、米国特許第4,263,152号;同第4,285,822号;同第4,283,295号;同第4,272,387号;同第4,265,773号;同第4,261,843号;同第4,259,195号および同第4,259,194号;ならびにWO94/06897号に記載されているように、塩基性窒素化合物のモリブデン/硫黄錯体によるモリブデンを有してよい。
【0058】
好適なジチオカルバミン酸モリブデンは、式:
【化3】

式中、R、R、R、およびRは、水素原子、C〜C20アルキル基、C〜C20シクロアルキル、アリール、アルキルアリール、もしくはアラルキル基、またはエステル、エーテル、アルコール、もしくはカルボキシル基を含有するC〜C20ヒドロカルビル基をそれぞれ独立して表し;X、X、Y、およびYは、硫黄または酸素原子をそれぞれ独立して表す;によって表され得る。
【0059】
、R、R、およびRのそれぞれについて好適な基の例として、2−エチルヘキシル、ノニルフェニル、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、t−ブチル、n−ヘキシル、n−オクチル、ノニル、デシル、ドデシル、トリデシル、ラウリル、オレイル、リノレイル、シクロヘキシルおよびフェニルメチルが挙げられる。R〜Rは、それぞれ、C〜C18アルキル基を有してよい。XおよびXは同じであってよく、YおよびYは同じであってよい。XおよびXは、両方が硫黄原子を含んでよく、YおよびYは、両方が酸素原子を含んでよい。
【0060】
ジチオカルバミン酸モリブデンのさらなる例として、C〜C18ジアルキルもしくはジアリールジチオカルバメート、またはアルキル−アリールジチオカルバメート、例えば、ジブチル−、ジアミル−ジ−(2−エチル−ヘキシル)−、ジラウリル−、ジオレイル−、およびジシクロヘキシル−ジチオカルバメートが挙げられる。
【0061】
別のクラスの好適な有機モリブデン化合物は、三核モリブデン化合物、例えば式Moのものおよびこれらの混合物であり、ここで、Lは、化合物を油溶性または油分散性にするのに十分な数の炭素原子を含む有機基を有する独立して選択された配位子を表し、nは1〜4であり、kは、4〜7まで変動し、Qは、中性電子供与化合物、例えば、水、アミン、アルコール、ホスフィン、およびエーテルの群から選択され、zは、0〜5の範囲であり、非化学量論値を含む。全ての配位子の有機基の中に少なくとも21個の合計炭素原子、例えば少なくとも25、少なくとも30、または少なくとも35個の炭素原子が存在してよい。さらなる好適なモリブデン化合物は、参照により本明細書に組み
込まれる米国特許第6,723,685号に記載されている。
【0062】
モリブデン化合物は、約5ppm〜200ppmのモリブデンを付与する量で、完全に調合されたエンジン潤滑剤中に存在してよい。さらなる例として、モリブデン化合物は、約50〜100ppmのモリブデンを付与する量で存在してよい。
【0063】
消泡剤
いくつかの実施形態において、発泡防止剤は、組成物における使用に好適な他の構成成分を形成してよい。発泡防止剤は、シリコーン、ポリアクリレートなどから選択され得る。本明細書に記載されているエンジン潤滑剤調合物中の消泡剤の量は、調合物の合計重量を基準にして約0.001重量%〜約0.1重量%の範囲であってよい。さらなる例として、消泡剤は、約0.004重量%〜約0.008重量%の量で存在してよい。
【0064】
分散剤構成成分
潤滑剤組成物中に含有されるさらなる分散剤として、限定されないが、分散される粒子と会合することが可能である官能基を有する油溶性ポリマー性炭化水素骨格を挙げることができる。典型的には、分散剤は、しばしば架橋基を介してポリマー骨格に付着するアミン、アルコール、アミド、またはエステル極性部位を含む。分散剤は、米国特許第3,697,574号および同第3,736,357号に記載されているMannich分散剤;米国特許第4,234,435号および同第4,636,322号に記載されている無灰スクシンイミド分散剤;米国特許第3,219,666号、同第3,565,804号および同第5,633,326号に記載されているアミン分散剤;米国特許第5,936,041号、同第5,643,859号および同第5,627,259号に記載されているKoch分散剤、ならびに米国特許第5,851,965号;同第5,853,434号;および同第5,792,729号に記載されているポリアルキレンスクシンイミド分散剤から選択され得る。
【0065】
酸化抑制剤構成成分
酸化抑制剤または酸化防止剤は、ベースストックが使用において劣化する傾向を低減し、該劣化は、金属表面上に堆積するスラッジおよびワニス様堆積物などの酸化生成物によって、ならびに完成潤滑剤の粘度成長によって証明され得る。かかる酸化抑制剤として、ヒンダードフェノール、硫化ヒンダードフェノール、C〜C12アルキル側鎖を有するアルキルフェノールチオエステルのアルカリ土類金属塩、硫化アルキルフェノール、硫化または非硫化アルキルフェノールの金属塩、例えばノニルフェノール硫化カルシウム、無灰の油溶性石炭酸塩および硫化石炭酸塩、ホスホ硫化または硫化炭化水素、リンエステル、金属チオカルバメート、ならびに米国特許第4,867,890号に記載されている油溶性銅化合物が挙げられる。
【0066】
用いることができる他の酸化防止剤として、立体的ヒンダードフェノールおよびこれらのエステル、ジアリールアミン、アルキル化フェノチアジン、硫化化合物、および無灰のジアルキルジチオカルバメートが挙げられる。立体的ヒンダードフェノールの非限定例として、限定されないが、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2,6ジ−tert−ブチルメチルフェノール、4−エチル−2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、4−プロピル−2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、4−ブチル−2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、4−ペンチル−2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、4−ヘキシル−2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、4−ヘプチル−2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、4−(2−エチルヘキシル)−2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、4−オクチル−2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、4−ノニル−2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、4−デシル−2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、4−ウンデシル−2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、4−ドデシル
−2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、メチレン架橋立体的ヒンダードフェノール(限定されないが、米国特許出願公開第2004/0266630号に記載されている4,4−メチレンビス(6−tert−ブチル−o−クレゾール)、4,4−メチレンビス(2−tert−アミル−o−クレゾール)、2,2−メチレンビス(4−メチル−6tert−ブチルフェノール、4,4−メチレン−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)およびこれらの混合物を含む)が挙げられる。
【0067】
ジアリールアミン酸化防止剤として、限定されないが、式:
【化4】

式中、R’およびR’’は、6〜30個の炭素原子を有する置換または非置換アリール基をそれぞれ独立して表す;を有するジアリールアミンが挙げられる。アリール基の置換基の例示として、脂肪族炭化水素基、例えば、1〜30個の炭素原子を有するアルキル、ヒドロキシ基、ハロゲン基、カルボン酸もしくはエステル基、またはニトロ基が挙げられる。
【0068】
アリール基は、好ましくは置換または非置換のフェニルまたはナフチルであり、特に、ここで、アリール基の一方または両方が、4〜30個の炭素原子、好ましくは4〜18個の炭素原子、最も好ましくは4〜9個の炭素原子を有する少なくとも1個のアルキルによって置換されている。アリール基は、一方または両方、例えばモノ−アルキル化ジフェニルアミン、ジ−アルキル化ジフェニルアミン、またはモノ−およびジ−アルキル化ジフェニルアミンの混合物が置換されていることが好ましい。
【0069】
ジアリールアミンは、分子中に1を超える窒素原子を含有する構造を有していてよい。したがって、ジアリールアミンは、少なくとも2個の窒素原子を含有していてよく、ここで、少なくとも1個の窒素原子が、例えば、第二級窒素原子を有する種々のジアミンの場合と同様に、これに付着する2個のアリール基を有し、ならびに、窒素原子のうちの1個に2個のアリールを有する。
【0070】
用いることができるジアリールアミンの例として、限定されないが:ジフェニルアミン;種々のアルキル化ジフェニルアミン;3−ヒドロキシジフェニルアミン;N−フェニル−1,2−フェニレンジアミン;N−フェニル−1,4−フェニレンジアミン;モノブチルジフェニル−アミン;ジブチルジフェニルアミン;モノオクチルジフェニルアミン;ジオクチルジフェニルアミン;モノノニルジフェニルアミン;ジノニルジフェニルアミン;モノテトラデシルジフェニルアミン;ジテトラデシルジフェニルアミン、フェニル−アルファ−ナフチルアミン;モノオクチルフェニル−アルファ−ナフチルアミン;フェニル−ベータ−ナフチルアミン;モノヘプチルジフェニルアミン;ジヘプチル−ジフェニルアミン;p−配向スチレン化ジフェニルアミン;混合ブチルオクチルジ−フェニルアミン;および混合オクチルスチリルジフェニルアミンが挙げられる。
【0071】
硫黄含有酸化防止剤として、限定されないが、生成において用いられるオレフィンのタイプおよび酸化防止剤の最終硫黄含量によって特徴付けられる硫化オレフィンが挙げられる。高分子量オレフィン、すなわち、168〜351g/モルの平均分子量を有する高分子量オレフィンが好ましい。用いることができるオレフィンの例として、アルファ−オレフィン、異性化アルファ−オレフィン、分枝オレフィン、環式オレフィン、およびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0072】
アルファ−オレフィンとして、限定されないが、あらゆるC〜C25アルファ−オレフィンが挙げられる。アルファ−オレフィンは、硫化反応の前または硫化反応の間に異性化されてよい。内部二重結合および/または分枝を含有するアルファオレフィンの構造および/または配座異性体が用いられてもよい。例えば、イソブチレンは、アルファ−オレフィン1−ブテンの分枝オレフィン対応物である。
【0073】
オレフィンの硫化反応において用いることができる硫黄源として:硫化プロセスと一緒にまたは異なる段階で添加される、硫黄元素、一塩化硫黄、二塩化硫黄、硫化ナトリウム、多硫化ナトリウム、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0074】
不飽和油は、不飽和であるため、硫化されても、酸化防止剤として用いられてもよい。用いることができる油脂の例として、トウモロコシ油、キャノーラ油、綿実油、ブドウ種油、オリーブ油、パーム油、ピーナッツ油、ココナッツ油、ナタネ油、ベニバナ種子油、ゴマ種子油、ダイズ油、ヒマワリ種子油、タロウおよびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0075】
完成潤滑剤に送達される硫化オレフィンまたは硫化脂肪油の量は、硫化オレフィンまたは脂肪油の硫黄含量および完成潤滑剤に送達される硫黄の所望レベルを基準とする。例えば、20重量%の硫黄を含有する硫化脂肪油またはオレフィンは、1.0重量%の処理レベルで完成潤滑剤に添加されるとき、2000ppmの硫黄を完成潤滑剤に送達する。10重量%の硫黄を含有する硫化脂肪油またはオレフィンは、1.0重量%の処理レベルで完成潤滑剤に添加されるとき、1000ppmの硫黄を完成潤滑剤に送達する。200ppmおよび2000ppmの間の硫黄を完成潤滑剤に送達する硫化オレフィンまたは硫化脂肪油が望ましい。
【0076】
大まかに言えば、好適なエンジン潤滑剤は、以下の表に列挙される範囲内の添加剤構成成分を含んでよい。
【表2】

【0077】
本明細書に記載されている潤滑剤組成物に含まれ得る、場合によるさらなる添加剤として、限定されないが、錆止め剤、乳化剤、解乳化剤、および油溶性のチタン含有添加剤が挙げられる。
【0078】
本明細書に記載されている組成物を調合する際に用いられる添加剤は、個々にまたは種々の部分的組み合わせで基油にブレンドされてよい。しかし、添加剤濃縮物を同時に用いる全ての構成成分(すなわち、添加剤および希釈剤、例えば炭化水素溶剤)をブレンドすることが好適であり得る。添加剤濃縮物の使用は、添加剤濃縮物の形態であるときの成分の組み合わせによって付与される相互適合性を利用することができる。また、濃縮物の使用は、ブレンド時間を低減することができ、ブレンド誤差の可能性を少なくすることができる。
【0079】
本開示は、自動車エンジン潤滑剤としての使用のために特定的に調合された新規の潤滑油ブレンドを提供する。本開示の実施形態は、以下の特性:酸化防止性能、耐摩耗性能、錆止め、燃費、水分許容性、空気混入、シール保護、および発泡低減特性の1つ以上の改良を提供する、エンジン適用に好適な潤滑油を提供することができる。
【0080】
本開示による潤滑剤組成物の利益および利点を実証するために、以下の非限定例を提供する。
【0081】
実施例1
振とう機、添加漏斗、温度プローブ、温度調節器、加熱マントル、Dean−Starkトラップ、および冷却器を備えた1Lの4つ口フラスコの設定を必要とする。フラスコに2100Mのポリイソブチレンコハク酸無水物(PIBSA)(195.0g;0.135モル)を投入し、窒素ブランケット下、160℃に加熱した。ポリエチレンアミン混合物(21.17g;0.112モル)を30分かけて滴加した。反応混合物を4時間撹拌させ、次いで、mmHgで1時間、真空ストリップした。プロセス油(172.0g)を添加し、混合物を15分間撹拌した。1,8−ナフタル酸無水物(13.39g;0.068モル)を160℃で一部ずつ添加した。反応混合物を165℃に加熱し、4時間撹拌させた。真空を1時間適用し(771mmHg)、あらゆる残りの水を除去した。反応生成物をHiflow Super Cel Celite上で加圧濾過し、364gの暗褐色の粘性液体を得た(%N、1.75;TBN、36.0)。
【0082】
実施例2
500mLのフラスコに実施例1からの材料(200.0g;0.102モル)を投入し、窒素ブランケット下、160℃に加熱した。エチレンカーボネート(4.0g;0.045モル)を一部ずつ添加した。反応混合物を4時間撹拌させ、次いで、711mmHgで1時間、真空ストリップした。プロセス油(4.0g)を添加し、混合物を15分間撹拌した。反応生成物をHiflow Super Cel Celite上で加圧濾過し、171gの暗褐色の粘性液体を得た(%N、1.69;TBN、34.3)。
【0083】
実施例3
500mLのフラスコに実施例1からの材料(200.0g;0.102モル)を投入し、窒素ブランケット下、160℃に加熱した。ホウ酸(2.81g;0.045モル)を一部ずつ添加した。反応混合物を4時間撹拌させ、次いで、711mmHgで1時間、真空ストリップした。プロセス油(2.81g)を添加し、混合物を15分間撹拌した。反応生成物をHiflow Super Cel Celite上で加圧濾過し、162gの暗褐色の粘性液体を得た(%N、1.75;TBN、36.7)。
【0084】
実施例4
500mLのフラスコに実施例1からの材料(200.0g;0.102モル)を投入し、窒素ブランケット下、160℃に加熱した。マレイン酸無水物(4.48g;0.045モル)を一部ずつ添加した。反応混合物を4時間撹拌させ、次いで、711mmHgで1時間、真空ストリップした。プロセス油(4.48g)を添加し、混合物を15分間撹拌した。反応生成物をHiflow Super Cel Celite上で加圧濾過し、165gの暗褐色の粘性液体を得た(%N、1.67;TBN、24.1)。
【0085】
実施例5
500mLのフラスコに実施例1からの材料(200.0g;0.102モル)を投入し、窒素ブランケット下、160℃に加熱した。1,8−ナフタル酸無水物(9.02g;0.045モル)を一部ずつ添加した。反応混合物を4時間撹拌させ、次いで、711mmHgで1時間、真空ストリップした。プロセス油(9.02g)を添加し、混合物を15分間撹拌した。反応生成物をHiflow Super Cel Celite上で加圧濾過し、159gの暗褐色の粘性液体を得た(%N、1.62;TBN、25.1)。
【0086】
実施例6
振とう機、添加漏斗、温度プローブ、温度調節器、加熱マントル、Dean−Starkトラップ、および冷却器を備えた4Lの4つ口フラスコを組み立てた。フラスコに2100MのPIBSA(975g;0.677モル)を投入し、窒素ブランケット下、160℃に加熱した。ポリエチレンアミン混合物(85.81g;0.454モル)を30分かけて反応混合物に滴加した。反応混合物を4時間撹拌させ、次いで、771mmHgで1時間、真空ストリップした。プロセス油(850g)を添加し、混合物を15分間撹拌した。反応生成物をHiflow Super Cel Celite上で加圧濾過し、1700gの暗褐色の粘性液体を得た。
【0087】
実施例7
1Lの4つ口フラスコに実施例6からの材料(565.0g;0.200モル)を投入し、窒素ブランケット下、160℃に加熱した。フタル酸無水物(14.82g;0.100モル)をフラスコに一部ずつ添加した。反応混合物を2時間撹拌させ、次いで、660mmHgで1時間、真空ストリップした。次いで、酢酸無水物(10.20g;0.100モル)を滴加し、混合物を160℃で2時間撹拌した。反応生成物をHiflow Super Cel Celite上で加熱加圧濾過し、500gの暗褐色の粘性液体を得た(%N、1.46;TBN、18.2)。
【0088】
実施例8
1Lの4つ口フラスコに実施例6からの材料(293.8g;0.104モル)を投入し、窒素ブランケット下、160℃に加熱した。1,2,4−ベンゼントリカルボン酸無水物(10.01g;0.052モル)をフラスコに一部ずつ添加した。反応混合物を2時間撹拌させ、次いで、660mmHgで1時間、真空ストリップした。次いで、酢酸無水物(5.30g;0.052モル)を滴加し、混合物を160℃で2時間撹拌した。反応生成物をHiflow Super Cel Celite上で加熱加圧濾過し、300gの暗褐色の粘性液体を得た(%N、1.49;TBN、26.6)。
【0089】
実施例9
1Lの4つ口フラスコに実施例6からの材料(565.0g;0.200モル)を投入し、窒素ブランケット下、160℃に加熱した。1,8−ナフタル酸無水物(19.8g;0.100モル)を一部ずつ添加した。反応混合物を2時間撹拌させ、次いで、660mmHgで1時間、真空ストリップした。次いで、酢酸無水物(10.20g;01.00モル)を滴加し、混合物を160℃で2時間撹拌した。反応生成物をHiflow S
uper Cel Celite上で加熱加圧濾過し、500gの暗褐色の粘性液体を得た(%N、1.63;TBN、19.5)。
【0090】
実施例10
125mLの3つ口フラスコに実施例6からの材料(50.6g;0.018モル)を投入し、窒素ブランケット下、160℃に加熱した。1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(2.40g;0.009モル)を一部ずつ添加した。反応混合物を4時間撹拌させ、次いで、711mmHgで1時間、真空ストリップした。次いで、シス−1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸無水物(1.40g;0.009モル)を一部ずつ添加し、混合物を4時間撹拌した。反応生成物をHiflow Super Cel
Celite上で加熱真空濾過し、17.8gの暗褐色の粘性液体を得た(%N、1.65;TBN、21.5)。
【0091】
実施例11
125mLの3つ口フラスコに実施例6からの材料(49.3g;0.018モル)を投入し、窒素ブランケット下、160℃に加熱した。1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(2.33g;0.009モル)を一部ずつ添加した。反応混合物を3時間撹拌させ、次いで、711mmHgで1時間、真空ストリップした。次いで、酢酸無水物(0.889g;0.009モル)を一部ずつ添加し、混合物を3時間撹拌した。反応生成物をHiflow Super Cel Celite上で加熱真空濾過し、21.7gの暗褐色の粘性液体を得た(%N、1.39;TBN、14.5)。
【0092】
実施例12
125mLの3つ口フラスコに実施例6からの材料(55.6g;0.020モル)を投入し、窒素ブランケット下、160℃に加熱した。フタル酸無水物(1.46g;0.010モル)を一部ずつ添加した。反応混合物を3時間撹拌させ、次いで、711mmHgで1時間、真空ストリップした。次いで、(2−ドデカン−1−イル)コハク酸無水物(2.61g;0.010モル)を一部ずつ添加し、混合物を3時間撹拌した。反応生成物をHiflow Super Cel Celite上で加熱真空濾過し、20.4gの暗褐色の粘性液体を得た(%N、1.65;TBN、21.5)。
【0093】
実施例13
125mLの3つ口フラスコに実施例6からの材料(50.6g;0.018モル)を投入し、窒素ブランケット下、160℃に加熱した。1,8−ナフタル酸無水物(1.81g;0.009モル)を一部ずつ添加した。反応混合物を3時間撹拌させ、次いで、711mmHgで1時間、真空ストリップした。次いで、(2−ドデカン−1−イル)コハク酸無水物(2.40g;0.009モル)を一部ずつ添加し、混合物を3時間撹拌した。反応生成物をHiflow Super Cel Celite上で加熱真空濾過し、26.9gの暗褐色の粘性液体を得た(%N、1.46;TBN、16.3)。
【0094】
煤煙分散力を評定する試験
本開示による潤滑剤調合物を評価するために、種々の分散剤を、煤煙を分散する能力について試験した。分散剤を含有しない流体を用いて、4.3重量%の煤煙を有する煤煙油を燃焼ディーゼルエンジンから生成させた。次いで、実施例1〜5の3.5重量%の分散剤で煤煙油をトップ処理し、次いで、プレートにて円錐体を有する流量計において剪断速度のスイープにより試験して、ニュートン/非ニュートン挙動を求めた。結果を図1に示すことができる。
【0095】
未処理の煤煙油(分散剤を含有しない曲線A)は、剪断速度の関数としての粘度の曲線を示し、これは、該油が非ニュートン流体であって、煤煙が凝集していることを意味する
。剪断が低いほど粘度が高いということが、煤煙の凝集の指標である。一方で、実施例1〜5の全ての分散剤(曲線B〜F)が、剪断が増大したときに変化しない粘度対剪断速度曲線を示した。さらに、より低い剪断における粘度は、曲線Aのものよりも低い。これらの結果は、実施例1〜5が、3.5重量%の処理速度で煤煙を効果的に分散することを示す。
【0096】
シール適合性試験
実施例1〜5の分散剤を、3.5および4.0重量%で、表3において列挙したリファレンス流体においてAK−6シール適合性について試験した。フルオロエラストマーゴムを、L型ダイを用いて骨形状片に切断した。次いで、ゴム片を、約22gの被験油組成物を含有する30mLのシンチレーションバイアルに浸漬した。バイアルをホイルで被覆し、150℃のオーブンに7日間置いた。7日後、バイアルをドレインし、ゴム片を拭き取って過剰の油を除去した。各ゴム片について破断伸び試験を行い、結果を表4に記録した。
【表3】

【表4】

【0097】
上記の結果に示されるように、実施例4の分散剤(マレイン酸無水物と反応した塩基分散剤)は、エチレンカーボネート(実施例2)、ホウ酸(実施例3)、および芳香族ナフタル酸無水物(実施例5)と反応したものと同様に、実施例1の塩基分散剤と比較して優れた破断伸びを示した。例えば、リファレンス油中3.5重量%の処理速度において、分散剤4は、塩基分散剤(分散剤1)よりも良好な約49%であり、ホウ酸処理分散剤(分散剤3)またはエチレンカーボネート処理分散剤(分散剤2)よりも良好で54〜55%の程度であった。リファレンス油中4重量%の処理速度において、分散剤4は、分散剤1、2、3、および5よりも良好で約32〜約41%であった。したがって、本開示による官能化分散剤は、他の官能化分散剤と比較してシール適合性に優れたものであった。
【0098】
本明細書を通して数多くの箇所において、多くの米国特許を参照した。かかる全ての引用文献は、あたかも本明細書に記載されているかのように、完全に本開示に明確に組み込まれる。
【0099】
本開示の他の実施形態は、明細書および本明細書に開示されている実施形態の実施の考慮から当業者に明らかである。本明細書および特許請求の範囲を通して用いられているように、「a」および/または「an」は、1または1を超えることを称し得る。別途示さない限り、本明細書および特許請求の範囲において用いられている、成分、特性、例えば、分子量、百分率、比、反応条件などの量を表現する全ての数が、全ての場合において、用語「約」によって修飾されると理解されるべきである。したがって、そうでないことが示されていない限り、本明細書および特許請求の範囲に記載の数多くのパラメータは、本発明によって得られようとする所望の特性に応じて変動し得る近似値である。最低限でも、特許請求の範囲の等価物の原則の適用を限定する試みとしてではなく、それぞれの数的パラメータが、報告されている有意な数字の数の観点で、通常の丸め技術を適用すること
によって、少なくとも解釈されるべきである。本発明の広い範囲を記載している数的範囲およびパラメータが近似値であるにも関わらず、具体的な実施例に記載されている数的値は、可能な限り正確であると報告されている。しかし、いずれの数的値も、それぞれ試験測定において見出される標準偏差から必然的に得られる誤差を含有する。明細書および実施例は、単なる例示であるとみなされることを意図しており、本発明の真の範囲および精神は、以下の特許請求の範囲によって示される。
【0100】
上記の実施形態は、実施において相当なばらつきを生じやすい。したがって、実施形態は、先に記載の具体的な例示に限定されることは意図していない。むしろ、上記の実施形態は、法律上の問題として利用可能な等価物を含めて、添付の特許請求の範囲の精神および範囲内にある。
【0101】
特許権者は、いずれの開示されている実施形態も公に捧げることを意図しておらず、いずれの開示されている修飾または変更も文字通りに特許請求の範囲内に含まれない範囲で、等価論においてその一部であるとみなされる。
【0102】
本発明の主たる特徴及び態用を示せば以下のとおりである。
【0103】
1.エンジン潤滑剤組成物であって、
基油と、
A)ヒドロカルビル−ジカルボン酸または無水物、B)ポリアミン、C)ジカルボニル含有縮合芳香族化合物、およびD)非芳香族ジカルボン酸または無水物の反応生成物を含む分散剤と、
を含むエンジン潤滑剤組成物。
【0104】
2.構成成分Cが、1,8−ナフタル酸無水物を含む、上記1に記載のエンジン潤滑剤組成物。
【0105】
3.構成成分Bの1モルあたり約0.25〜約1.5モルの縮合芳香族化合物が反応する、上記1に記載のエンジン潤滑剤組成物。
【0106】
4.約0.5〜約5重量%の分散剤を含む、上記1に記載のエンジン潤滑剤組成物。
【0107】
5.構成成分Aが、ポリアルケニル−置換コハク酸または無水物を含む、上記1に記載のエンジン潤滑剤組成物。
【0108】
6.構成成分Aがポリイソブテニルコハク酸または無水物を含み、構成成分Cが1,8−ナフタル酸無水物を含み、構成成分Dがマレイン酸無水物を含む、上記5に記載のエンジン潤滑剤組成物。
【0109】
7.構成成分Bの1モルあたり約0.25〜約1.5モルの構成成分Dが反応する、上記1に記載のエンジン潤滑剤組成物。
【0110】
8.洗浄剤、分散剤、摩擦調整剤、酸化防止剤、錆止め剤、粘度指数改良剤、乳化剤、解乳化剤、腐食防止剤、耐摩耗剤、金属ジヒドロカルビルジチオホスフェート、灰分不含のアミンリン酸塩、消泡剤、および流動点降下剤から選択される群のメンバーの1種以上をさらに含む、上記1に記載のエンジン潤滑剤組成物。
【0111】
9.油溶性チタン含有添加剤をさらに含む、上記1に記載のエンジン潤滑剤組成物。
【0112】
10.エンジンにおけるエラストマーシール材に悪影響を及ぼすことなくエンジン潤滑剤の煤煙またはスラッジ処理能を維持するための方法であって、
基油と、A)ヒドロカルビル−ジカルボン酸または無水物、B)ポリアミン、C)ジカルボニル含有縮合芳香族化合物、およびD)非芳香族ジカルボン酸または無水物の反応生成物を含む添加剤とを含む潤滑剤組成物によってエンジンを潤滑させることを含む方法。
【0113】
11.構成成分Cが、1,8−ナフタル酸無水物を含む、上記10に記載の方法。
【0114】
12.構成成分Aが、マレイン酸無水物を含む、上記10に記載の方法。
【0115】
13.潤滑剤組成物が、約0.5〜約5重量%の分散剤を含む、上記10に記載の方法。
【0116】
14.イミド反応生成物が、ポリイソブテニルコハク酸または無水物と3〜5個の窒素原子を含有するポリアミンとの反応生成物を含む、上記10に記載の方法。
【0117】
15.イミド反応生成物と反応する縮合芳香族化合物のモル比が、約0.25〜約1.5の範囲であり、ビスイミド反応生成物と反応する非芳香族ジカルボン酸または無水物のモル比が、約0.25〜約1.5の範囲である、上記10に記載の方法。
【0118】
16.潤滑剤組成物が、洗浄剤、分散剤、摩擦調整剤、酸化防止剤、錆止め剤、粘度指数改良剤、乳化剤、解乳化剤、腐食防止剤、耐摩耗剤、金属ジヒドロカルビルジチオホスフェート、灰分不含のアミンリン酸塩、消泡剤、および流動点降下剤から選択される群のメンバーの1種以上をさらに含む、上記10に記載の方法。
【0119】
17.潤滑剤組成物が、油溶性チタン含有添加剤をさらに含む、上記10に記載の方法。
【0120】
18.エンジン潤滑剤の煤煙またはスラッジ処理能を維持するための方法であって、
基油と、A)ヒドロカルビル−ジカルボン酸または無水物、B)ポリアミン、C)ジカルボニル含有縮合芳香族化合物、およびD)非芳香族ジカルボン酸または無水物の反応生成物を含む添加剤とを含む潤滑剤組成物によってエンジンを潤滑させることを含む方法。
【0121】
19.エンジンにおけるエラストマーシール材を保護するための方法であって、
基油と、A)ヒドロカルビル−ジカルボン酸または無水物、B)ポリアミン、C)ジカルボニル含有縮合芳香族化合物、およびD)非芳香族ジカルボン酸または無水物の反応生成物を含む添加剤とを含む潤滑剤組成物によってエンジンを潤滑させることを含む方法。
【0122】
20.エンジンを作動させるための方法であって;
基油と、A)ヒドロカルビル−ジカルボン酸または無水物、B)ポリアミン、C)ジカルボニル含有縮合芳香族化合物、およびD)非芳香族ジカルボン酸または無水物の反応生成物を含む潤滑剤添加物パッケージとを含むエンジン潤滑剤によってエンジンを潤滑させることと;
エンジンを作動させることと
を含む方法。
【0123】
21.構成成分Bの1モルあたり約0.25〜約1.5モルの縮合芳香族化合物が反応する、上記20に記載の方法。
【0124】
22.反応生成物が、構成成分Dの非存在下に作製された反応生成物と比較して改良されたフルオロエラストマーシール適合性を示す、上記20に記載の方法。
【0125】
23.潤滑剤組成物が、約0.5〜約5重量%の分散剤を含む、上記20に記載の方法。
【0126】
24.ヒドロカルビルジカルボン酸または無水物が、60モル%を超える末端ビニリデン含量を有するポリイソブチレンと、コハク酸または無水物との反応生成物を含む、上記20に記載の方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン潤滑剤組成物であって、
基油と、
A)ヒドロカルビル−ジカルボン酸または無水物、B)ポリアミン、C)ジカルボニル含有縮合芳香族化合物、およびD)非芳香族ジカルボン酸または無水物の反応生成物を含む分散剤と、
を含むエンジン潤滑剤組成物。
【請求項2】
構成成分Cが、1,8−ナフタル酸無水物を含む、請求項1に記載のエンジン潤滑剤組成物。
【請求項3】
構成成分Bの1モルあたり約0.25〜約1.5モルの縮合芳香族化合物が反応する、請求項1に記載のエンジン潤滑剤組成物。
【請求項4】
約0.5〜約5重量%の分散剤を含む、請求項1に記載のエンジン潤滑剤組成物。
【請求項5】
構成成分Aがポリイソブテニルコハク酸または無水物を含み、構成成分Cが1,8−ナフタル酸無水物を含み、構成成分Dがマレイン酸無水物を含む、請求項1に記載のエンジン潤滑剤組成物。
【請求項6】
エンジンにおけるエラストマーシール材に悪影響を及ぼすことなくエンジン潤滑剤の煤煙またはスラッジ処理能を維持するための方法であって、
基油と、A)ヒドロカルビル−ジカルボン酸または無水物、B)ポリアミン、C)ジカルボニル含有縮合芳香族化合物、およびD)非芳香族ジカルボン酸または無水物の反応生成物を含む添加剤とを含む潤滑剤組成物によってエンジンを潤滑させることを含む方法。
【請求項7】
エンジン潤滑剤の煤煙またはスラッジ処理能を維持するための方法であって、
基油と、A)ヒドロカルビル−ジカルボン酸または無水物、B)ポリアミン、C)ジカルボニル含有縮合芳香族化合物、およびD)非芳香族ジカルボン酸または無水物の反応生成物を含む添加剤とを含む潤滑剤組成物によってエンジンを潤滑させることを含む方法。
【請求項8】
エンジンにおけるエラストマーシール材を保護するための方法であって、
基油と、A)ヒドロカルビル−ジカルボン酸または無水物、B)ポリアミン、C)ジカルボニル含有縮合芳香族化合物、およびD)非芳香族ジカルボン酸または無水物の反応生成物を含む添加剤とを含む潤滑剤組成物によってエンジンを潤滑させることを含む方法。
【請求項9】
エンジンを作動させるための方法であって;
基油と、A)ヒドロカルビル−ジカルボン酸または無水物、B)ポリアミン、C)ジカルボニル含有縮合芳香族化合物、およびD)非芳香族ジカルボン酸または無水物の反応生成物を含む潤滑剤添加物パッケージとを含むエンジン潤滑剤によってエンジンを潤滑させることと;
エンジンを作動させることと
を含む方法。
【請求項10】
構成成分Bの1モルあたり約0.25〜約1.5モルの縮合芳香族化合物が反応する、請求項9に記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−40332(P2013−40332A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−171144(P2012−171144)
【出願日】平成24年8月1日(2012.8.1)
【出願人】(391007091)アフトン・ケミカル・コーポレーション (123)
【氏名又は名称原語表記】Afton Chemical Corporation
【Fターム(参考)】