説明

定在波騒音低減方法

【課題】外部の騒音源から発せられた騒音に基づいて家屋内で発生する騒音定在波を、能動型消音ユニットを用いて低減する定在波騒音低減技術を提供する。
【解決手段】部屋における騒音音量の平面粗分布測定から求められる大音量の位置を基本位置として、高音量騒音の主周波数を算出する。主周波数の波長の1/4以下を単位長さとして基本位置を基点として設定された測定格子点での音量測定を通じて平面音量分布を求め、平面音量分布から最大音量を示す測定点を最大音量点として算定する。大音量点に消音用制御音を発するスピーカを配置する。さらに、定格子点の平均音量以上で最大音量に近い音量を示す測定格子点を特定音量点として算定し、この特定音量点に騒音検出マイクを配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、騒音源から発せられた騒音に基づいて発生する騒音定在波を、能動型消音ユニットを用いて低減する定在波騒音低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、自然エネルギーを有効利用する目的から風力発電装置が注目されているが、その設置場所が気象条件によって限られてしまうので、例えば、一般の家屋に近い丘陵地も設置場所の対象となる。しかしながら、風力発電装置には騒音問題、特に低周波騒音により近隣の住人の夜間の睡眠が妨げられる問題が発生する。風力発電装置ではこの低周波騒音が継続することから、風力発電装置の設置にともなって移住しなければならない住民も出てくる。
【0003】
風力発電装置の騒音を低減する風車用騒音低減システムが、特許文献1に記載されている。このシステムは、風の力を受けて回転する複数の翼が取り付けられたナセルと、前記翼及び前記ナセルを支持する柱状のタワーとを備え、風の向きに応じて前記翼の回転軸方向を変化させる風力発電装置からの騒音を低減するため、制御音を放音するために翼より外側に配置されたスピーカと、翼より外側であってスピーカに対応してこのスピーカより翼側の位置に配置され、かつ、風力発電か装置から集音した騒音に対応する音響信号を出力するマイクロホンと、翼の回転軸方向に応じて、音響信号から、スピーカに対して騒音を低減するための低減信号を生成する生成手段と、この生成手段で生成された低減信号をスピーカに入力する入力手段とから構成されている。低減信号をスピーカに入力することでスピーカから制御音が放音される。これにより、能動制御により騒音を低減することができる。しかしながら、能動型消音システムで、風通りのよい、開放された大きな空間で騒音を大幅に低減することは困難であり、低周波騒音の被害を受けている住民を納得させるためには不十分である。
【0004】
特に低周波の騒音は、家屋に入り込むと、家屋に区画形成された部屋において、定在波を発生させることがある。この低周波定在波の騒音低減は管路内騒音などの低減に比べて能動型消音にとって困難である。このように困難な、閉鎖空間における低周波定在波を消音する消音ユニットが、特許文献2に記載されている。この消音ユニットは、騒音源となる装置から発せられる機械的な騒音を消音するものであって、騒音源となる装置の周囲を囲み、騒音の音源位置からの水平距離が互いに直交する前後左右で等しく、対向するもの同士が平行に立設する消音壁と、その消音壁に前記騒音が反射して発生する定在波に対して位相が180度反転した制御音を発するものである。さらに、その制御音の音源位置から前記消音壁までの前後左右それぞれの水平距離と、前記騒音の音源位置から前記消音壁までの前後左右それぞれの水平距離とが等しくなるように前記消音壁に囲まれる空間内に消音装置が配置される。この消音ユニットでは、騒音源となる装置の周囲に、その前後左右に互いに対向するもの同士が平行な消音壁を立設することで、騒音が周囲に発散するのが防止される。また、騒音源となる装置の前後左右を消音壁で囲むことで、騒音が消音壁に反射して生じる定在波に対して位相が180度反転した制御音を発する消音装置を、その制御音の音源位置から消音壁までの前後左右それぞれの水平距離と、騒音の音源位置から消音壁までの前後左右それぞれの水平距離とが等しくなるように消音壁に囲まれる空間内に配置することで、定在波と制御音との位相を合わせて、定在波の消音を図っている。しかしながらこの消音ユニットは、騒音源となる装置をまずは消音壁で囲い、その中に能動型消音装置を配置するものであり、家屋の外にある騒音源からやってきて、家屋の部屋で発生する定在波騒音の低減に適用することは困難である。
【0005】
さらに、技術文献3に、100Hz以下の低周波騒音を低減するために、騒音発生源から発生する騒音を、第1位置に配置される第1騒音検出手段で検出するとともに、前記第1位置とは異なった第2位置に配置される第2騒音検出手段により検出し、前記第1騒音検出手段により検出される第1騒音情報及び前記第2騒音検出手段により検出される第2騒音情報に基づいて2次音源から制御音を発生して少なくとも前記第2位置で消音する能動型の消音技術が記載されている。この技術では、三次元開放空間において前記騒音発生源から発生する騒音について、低周波領域において音圧レベルが高い周波数である高音圧レベル周波数を求める第1ステップと、前記第1ステップで求められる高音圧レベル周波数の音について、前記騒音発生源を配置した状態で、前記三次元閉空間内において、前記高音圧レベル周波数の音が前記騒音発生源から発生した場合の音響状態を波動音響解析により求める第2ステップとを実行し、求められる前記三次元閉空間の音響状態において、定在波の腹部で、前記三次元閉空間の音圧レベルが、空間内の平均音圧レベルより高い位置を前記2次音源又は前記第2騒音検出手段を配置する第2位置としている。しかしながら、この能動型の消音技術も、その内部に騒音発生源を有する空間を対象にしており、外部から入り込んだ騒音によって家屋の部屋で発生する定在波騒音の低減に適用することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010‐216309号公報(段落番号〔0008−0012〕、図1)
【特許文献2】特開2011‐43585号公報(段落番号〔0006−0019〕、図1)
【特許文献3】特開2011‐107673号公報(段落番号〔0001−0021〕、図1、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記実情に鑑み、外部の騒音源から発せられた騒音に基づいて家屋内で発生する騒音定在波を、能動型消音ユニットを用いて低減する定在波騒音低減技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
騒音源から発せられた騒音に基づいて家屋の部屋に発生する騒音定在波を、能動型消音ユニットを用いて低減するために、本発明による定在波騒音低減方法は、
前記部屋における騒音音量の平面粗分布測定から大音量の位置を基本位置として求めるステップと、前記高音量騒音の主周波数を算出するステップと、前記主周波数の波長の1/4以下を単位長さとして前記基本位置を基点として測定格子点を設定するステップと、前記測定格子点での音量測定を通じて平面音量分布を求めるステップと、前記平面音量分布から最大音量を示す測定点を最大音量点として算定するステップと、前記最大音量点に前記能動型消音ユニットの消音用制御音を発するスピーカを配置するステップと、前記最大音量に近い、例えば、平均音量以上の音量を示す前記測定格子点を特定音量点として算定するステップと、前記特定音量点に前記能動型消音ユニットの騒音検出マイクを配置するステップとからなる。
【0009】
この方法では、部屋に発生する定在波の腹が存在しやすい位置、つまり音量が他の位置より大きくなる位置を大雑把な平面粗分布測定を通じて推定して、その位置を基本位置とする。この基本位置での騒音主周波数の波長の1/4以下を単位長さとして測定格子を設定することで、この測定格子点には、実施的に腹領域の測定点を2つ以上含むことができる。従って、全ての測定格子点での測定結果から生成された平面音量分布における最大音量は騒音定在波の腹の部分であると推定されるので、この位置にスピーカを配置する。さらに、その最大音量に類似する音量をもつ測定格子点に参照マイクとしての騒音検出マイクを配置する。このことで、定在波の腹の部分で得られた騒音検出信号に基づいて生成された消音制御信号によって駆動されるスピーカが定在波の腹の部分で騒音定在波に対する能動型騒音低減を実行ことができ、効果的な騒音低減が得られる。
【0010】
部屋に発生する定在波の腹が部屋のコーナ部(床面と縦壁面との接触部を含む)に発生する傾向があることを考慮するならば、前記平面粗分布測定は前記部屋のコーナ位置に対して行われるようにすることが効果的である。
【0011】
測定格子の単位長さが短いほど精密な平面音量分布を生成することができるが、その処理負担が大きくなる。定在波が正弦波のような形態を有することを考慮するならば、良好な平面音量分布を得るためには、前記単位長さは、前記主周波数の波長の1/n(nは4以上の整数)とすることが効果的である。測定作業を人間が行うとし、一般的な家屋の部屋サイズを考慮すると、主周波数の波長の1/nを測定格子の単位長さとすることが好適である。
【0012】
能動型消音制御を正確に行うためには、フィードバック制御、特に適応制御を取り入れるのが好ましい。従って、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記騒音検出マイクが配置された特定音量点以外の特定音量点に前記能動型消音ユニットの評価マイクを配置する。この評価マイクはいわゆる誤差マイクとして利用される。
【0013】
部屋における定在波の発生は、部屋の形状、部屋を境界付ける壁体の吸音率やその他の音響特性に依存する。従って、無定在波が発生しているかどうかを部屋毎に判定することが重要である。この主題のもとに提案される、本発明の定在波騒音低減方法は、家屋に含まれている部屋から処理対象となる注目部屋を指定するステップと、前記注目部屋の内部周囲での騒音音量の測定から最大音量を示す高音量騒音の位置を基本位置として求めるステップと、前記高音量騒音の主周波数を算出するステップと、前記主周波数の波長の1/4以下を単位長さとして前記基本位置を基点として測定格子点を設定するステップと、前記測定格子点での音量測定を通じて平面音量分布を求めるステップと、前記平面音量分布から前記注目部屋に騒音定在波が発生しているかどうかを判定するステップと、騒音定在波が発生していると判定された部屋の所定第1位置に前記能動型消音ユニットの消音用制御音を発するスピーカを配置するステップと、前記所定位置とは異なる所定第2位置に前記能動型消音ユニットの騒音検出マイクを配置するステップとからなる。
【0014】
この方法では、家屋に含まれている部屋毎に、定在波が発生しているかどうかを判定し、部屋毎に定在波による騒音の低減が行われる。その作用効果は、上述した定在波騒音低減方法と同じように与えられる。また、フィードバック制御、特に適応制御を採用する場合には、上述したように、前記騒音検出マイクが配置された特定音量点以外の特定音量点に誤差マイクとして利用される評価マイクが配置される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明による能動型消音ユニットのセットアップ過程を図解する模式図である。
【図2】部屋における音圧測定結果を示す音圧分布図であり、(a)には測定格子点での音圧値を示した音圧分布表が示されており、(b)には、音圧分布を滑らかにした音圧分布図が示されている。
【図3】本発明による能動型消音ユニットの機能ブロック図である。
【図4】騒音の周波数特性の一例を示す線図である。
【図5】定在波が発生している部屋での音圧測定データの周波数特性の一例を示す線図である。
【図6】定在波が発生している部屋での音圧測定データの周波数特性の一例を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。まずは、騒音源としての風力発電所などから騒音を受ける家屋における1つの部屋に発生する低周波定在波(以下単に定在波と称する)を低減する方法を説明する。図1には、実質的に矩形の部屋に発生している騒音定在波を低減するための、能動型消音ユニットのセットアップ過程が図解されている。
【0017】
まずは、定在波騒音低減の対象となっている部屋の内部周囲での騒音音量の測定を行う。ここでは、この部屋の各コーナ位置で音圧測定が行われる(#01)。図1ではPa、Pb、Pc、Pdで示された4つのコーナ位置が音圧測定の測定点となっている。なお、ここでは、測定された騒音音量を音圧で表しているので、音量と音圧とは実質的に同じ意味で用いられる。
各測定点での測定結果から、最大音量を示した位置を基本位置とする(#02)。図1では、測定位置:Pcが最大音圧(dB)を示しているので、基本位置はPcとなる。
次いで、基本位置:Pcにおける音圧の経時測定データ(音圧の時間変動データ)をフーリエ変換処理して、その周波数特性を算定し、最大音圧を示す周波数帯域を主周波数として算出する(#03)。図1では、60Hzが主周波数となっている。
ステップ#02で決定された基本位置を基点とするとともに、主周波数の波長の1/4以下、好ましくは、主周波数の波長の1/n(nは4以上の整数)、ここでは主周波数の波長の1/8を単位長さとして測定格子点を設定する(#04)。音速を340m/sとすれば、単位長さは、
340÷60÷8=7.71(m)
となる。従って、7.71(m)四方の測定格子が部屋に設定される。
次に、設定された測定格子の格子点(測定格子点)で音圧測定することで、平面音圧分布を求める(#05)。図2の(a)には、測定格子点での音圧値を示した音圧分布表が示されており、図2の(b)には、音圧分布を滑らかにした音圧分布図が示されている。図2の2つの音圧分布から、部屋の中央を縦断するように音圧の低い領域が生じ、その左右両側端に音圧の高い領域が生じていることが読み取れる。これにより、部屋を横断する方向(図面左右方向)に60HZの定在波が発生していると推測することができる(#06)。
【0018】
以上の過程で、この部屋に60Hzの定在波が発生していること、及びその定在波の腹と節のおおよその位置も確認できたことになるので、次は、能動型消音ユニットを用いた定在波の低減を行う。
まず、ステップ#05で求めた平面音圧分布(図2参照)における最大音量を示す測定点を最大音量点とし、この最大音量点に向けて消音用制御音を発するように能動型消音ユニットのスピーカを配置する(#07)。ここでは、基本位置でもある測定点:Pcが最大音量点として設定され、ここに消音用制御音が送り出されるようにスピーカが配置される。
さらに、測定格子点の平均音量以上で前記最大音量に近い音量を示す測定点を特定音量点とし、その特定音量点に能動型消音ユニットの騒音検出マイク(参照マイク)を配置する。ここでは、1つ以上の特定音量点として測定点:PaとPdが設定されている。1つの測定点:Paに騒音検出マイクが配置される。なお、能動型消音ユニットが適応制御型なでおのフィードバック制御型であれば、騒音低減評価のための評価マイク(誤差マイク)が測定点:Pdに配置される(#08)。これら騒音検出マイクと評価マイクは無指向性が好適である。
【0019】
能動型消音ユニットのセットアップが行われると、よく知られた能動型消音ユニットの騒音低減動作が実行され、定在波の腹をスピーカからの逆位相の波で相殺することで、定在波の音圧を下げる。
【0020】
本発明による定在波騒音低減方法に用いられる能動型消音ユニットの一例を図3の機能ブロック図を用いて説明する。
この能動型消音ユニット1は、音圧測定モジュール10と能動型消音制御モジュール20とを含んでいる。音圧測定モジュール10は、図1で説明したように、部屋における騒音の音圧測定と騒音の周波数分析とを行い、当該部屋での騒音定在波の発生を確認するための平面音圧分布を生成する。能動型消音制御モジュール20は、騒音源の発する騒音をマイクで検出し、この検出信号と逆位相の音をスピーカから騒音に放つことで、騒音を低減する。
【0021】
音圧測定モジュール10は、音圧演算部11とFFT演算部12と、データ視覚化部13とを有する。音圧演算部11は、騒音検出マイク2の騒音検出信号から音圧を演算する。FFT演算部12は、高速フーリエ変換(FFT)アルゴリズムを用いて騒音検出信号の経時的変動から騒音の周波数特性を算定する。音圧演算部11は、FFT演算部12で算定された周波数特性に基づいて得られた主周波数帯域に制限した音圧を演算する機能も有する。データ視覚化部13は、音圧演算部11から得られる二次元測定点または三次元測定点での音圧信号に基づいて平面音圧分布図や立体音圧分布図、さらには、FFT演算部12で算定された周波数特性を示す周波数特性図などを作成する。データ視覚化部13で生成されたデータ視覚化データは、プリンタ14によってプリント出力可能であり、またモニタ15で表示可能である。
【0022】
能動型消音制御モジュール20は、プリアンプやA/D変換器を含む前処理部21、騒音制御フィルタ部22、ローパスフィルタ23、D/A変換器やアンプなどを含む駆動部24を有する。前処理部21は、音圧測定モジュール10と共同で使用される騒音検出マイク2の検出信号を後段の処理に適した形態に処理して出力する。つまり、能動型消音制御モジュール20では、騒音検出マイク2は、参照マイクとして利用される。騒音制御フィルタ部22は、騒音検出マイク2で検出された騒音の音量が小さくなるように、騒音検出マイク2からの検出信号に基づく騒音波形(定在波波形)とは逆位相の制御波形を示す制御信号を生成する。駆動部24は騒音制御フィルタ部22からの制御信号に基づいてスピーカ3を駆動し、スピーカ3から騒音波形と打ち消しあう制御波形を出力させる。消音対象を低周波の定在波としていることから、スピーカ3から高周波を出力した場合、騒音を逆に増大させる可能性があり、これを避けるために、騒音制御フィルタ部22と駆動部24との間にローパスフィルタ23が介装されている。
【0023】
この能動型消音制御モジュール20は、簡単には、フィードフォワード制御によって制御波形をスピーカから出力するように構成することができるが、この実施形態では、より精度の高い消音効果を得るためには、フィードバックを用いた適応制御を採用されている。従って、誤差マイクとして機能する評価マイク4が用意されるとともに、能動型消音制御モジュール20には評価マイク4からの評価用騒音信号に基づいて騒音制御フィルタ部22のフィルタ係数を調整する逆フィルタ演算部25が含まれている。
【0024】
能動型消音制御モジュール20の適応制御で用いられる音響モデルは、騒音検出マイク(参照マイク)2から評価マイク(誤差マイク)4までの1次経路とスピーカ(消音音源)3から評価マイク(誤差マイク)4までの2次経路、スピーカ(消音音源)3から騒音検出マイク(参照マイク)2までのフィードバック経路により伝達関数でモデル化したものである。このような消音適応制御の詳しい説明として、同じ出願人による特開2011−107673号を参照することができる。
【0025】
本発明の能動型消音ユニット1は低周波定在波の消音対象となっているが、騒音検出マイク(参照マイク)2の位置、スピーカ(消音音源)3の位置、評価マイク(誤差マイク)4の位置に定在波の節がきている場合、誤差信号を十分に検出できずに十分な消音ができないことが実験的に確かめられている。このため、騒音検出マイク2、スピーカ3、評価マイク4を定在波の節を避けて配置することが重要である。
【0026】
騒音検出マイク2、スピーカ3、評価マイク4をその部屋に発生している定在波の節を避けて配置する具体的な手順は以下の通りである。部屋の形状は単純な長方形とする。
(1)部屋のコーナ領域で、床や壁から10〜30cm程度離れた位置を測定点として騒音の音圧測定を行う。
(2)測定データから算定された周波数特性からその騒音を支配している主周波数を決定する。ここでは、仮に主周波数が60Hzとしておく。
(3)最も大きい音圧が測定された測定点を基点として、この部屋に主周波数の波長の1/8(0.7m)を単位長さ(格子長さ)として床面から上に10〜30cm離れたところに、平面格子を設定する。
(4)平面格子の上方に、同様に主周波数の波長の1/8(0.7m)を単位長さ(格子高さ)として垂直格子を設定する。
(5)平面格子と垂直格子に基づいて、この部屋に立体格子を設定し、その格子点(格子交点)を測定点として騒音の音圧測定を行う。
(6)音圧測定結果から、高さ別の複数の平面音圧分布、つまり立体音圧分布を生成する。
(7)生成された立体音分布から部屋に存在する定在波の形態を想定し、その腹領域と節領域を判定する。
(8)判定された腹領域に騒音検出マイク2、スピーカ3、評価マイク4を配置して、能動型消音制御モジュール20を動作させる。
なお、高さ別の複数の平面音圧分布によって立体音圧分布が生成されるが、特定高さの1つの平面音圧分布だけで部屋に存在する定在波の形態を想定することも可能であり、本発明では少なくとも1つの特定高さの平面音圧分布を生成するだけでよい。
【0027】
定在波の発生は、部屋の形状、部屋を境界付ける壁体の吸音率やその他の音響特性に依存する。従って、部屋毎に無視できない騒音の原因となる定在波が発生しているかどうか判定する必要がある。図4は60Hzを主周波数とする騒音音源の周波数特性を示している。図5は、図4の騒音音源を外に置いた場合での部屋Aで測定された騒音の周波数特性を示している。図6は、図4の騒音音源を外に置いた場合での部屋Bで測定された騒音の周波数特性を示している。図5からは、部屋A内では60Hz帯域で音圧が高まっており、60Hz帯域で部屋空間と共鳴した定在波が発生していることが想定できる。逆に図6からは、部屋B内では60Hz帯域でその音圧が相対的に低くなっており、突出して高い音圧を示す周波数帯域もないことから、消音対象となるような定在波が発生していないことが想定できる。
【0028】
上述したように部屋の音響特性によって定在波の発生可能性が異なるため、風力発電などを騒音源とする周辺地域での騒音対策では、各家屋の部屋毎の低周波定在波の発生状況を調べて、その消音対策を講じる必要がある。そのような部屋毎の低周波定在波の発生状況の検査には、上述した、(1)から(6)までの立体音圧分布ないしは平面音圧分布の生成方法がそのまま流用することができる。注目すべき部屋の特定周波数での立体音圧分布ないしは平面音圧分布が生成されると、その音圧分布における高音圧領域と低音圧領域の評価を通じて、消音対象となる定在波が発生しているかどうかを判定する。この評価は、空間領域と時間領域の両方で行われる。特に、定在波が発生しているかどうかの判断は、時間的に見た場合、音圧が平均音圧を挟んで大きく変化している点(腹)と、音圧が平均音圧にほぼとどまっているゼロ点(節)とが空間的に定まっているかどうかにより判断することができる。
消音対象となる定在波が発生していれば、その定在波の異なる腹の位置に、騒音検出マイク2、スピーカ3、評価マイク4を配置して、当該定在波の能動型消音を行う。
〔別実施の形態〕
(1)上記実施形態では、騒音として、家屋の外に位置して風力発電などの低周波外部騒音を取り上げられていたが、もちろん騒音源が風力発電以外の施設などであってもよい。さらに、騒音源が家屋の中に設置されたものでもよいし、定期的に家屋に接近するような移動騒音源であってもよい。
(2)スピーカ3の設置個数は1個に限定されず、複数であってもよい。また評価マイク4も複数もちいてもよい。
(3)発明の対象として出願時の特許請求の範囲に記載されているのはそのような定在波騒音低減方法だけであるが、定在波騒音低減方法を用いた定在波発生確認方法や定在波騒音低減装置も本発明には含まれている。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、騒音源から発せられた騒音に基づいて家屋の部屋に発生する騒音定在波の存在を確認して、その騒音を低減する能動型騒音低減技術分野で適用可能である。
【符号の説明】
【0030】
1:能動型消音ユニット
2:騒音検出マイク
3:スピーカ
4:評価マイク
10:音圧測定モジュール
11:音圧演算部
12:FFT演算部
13:データ視覚化部
20:能動型消音制御モジュール
21:前処理部
22:騒音制御フィルタ部
23:ローパスフィルタ
24:駆動部
25:逆フィルタ演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
騒音源から発せられた騒音に基づいて家屋の部屋に発生する騒音定在波を、能動型消音ユニットを用いて低減する定在波騒音低減方法において、
前記部屋における騒音音量の平面粗分布測定から大音量の位置を基本位置として求めるステップと、
大音量騒音の主周波数を算出するステップと、
前記主周波数の波長の1/4以下を単位長さとして前記基本位置を基点として測定格子点を設定するステップと、
前記測定格子点での音量測定を通じて平面音量分布を求めるステップと、
前記平面音量分布から最大音量を示す測定点を最大音量点として算定するステップと、
前記最大音量点に前記能動型消音ユニットの消音用制御音を発するスピーカを配置するステップと、
前記最大音量に近い音量を示す前記測定格子点を特定音量点として算定するステップと、
前記特定音量点に前記能動型消音ユニットの騒音検出マイクを配置するステップと、
からなる定在波騒音低減方法。
【請求項2】
前記平面粗分布測定は前記部屋のコーナ位置に対して行われる請求項1に記載の定在波騒音低減方法。
【請求項3】
前記単位長さは、前記主周波数の波長の1/n(nは4以上の整数)である請求項1または2に記載の定在波騒音低減方法。
【請求項4】
前記騒音検出マイクが配置された特定音量点以外の特定音量点に前記能動型消音ユニットの評価マイクを配置する請求項1から3のいずれか一項に記載の定在波騒音低減方法。
【請求項5】
騒音源から発せられた騒音に基づいて家屋に発生する騒音定在波を、能動型消音ユニットを用いて低減する定在波騒音低減方法において、
前記家屋に含まれている部屋から処理対象となる注目部屋を指定するステップと、
前記注目部屋の内部周囲での騒音音量の測定から最大音量を示す高音量騒音の位置を基本位置として求めるステップと、
前記高音量騒音の主周波数を算出するステップと、
前記主周波数の波長の1/4以下を単位長さとして前記基本位置を基点として測定格子点を設定するステップと、
前記測定格子点での音量測定を通じて平面音量分布を求めるステップと、
前記平面音量分布から前記注目部屋に騒音定在波が発生しているかどうかを判定するステップと、
騒音定在波が発生していると判定された部屋の所定第1位置に前記能動型消音ユニットの消音用制御音を発するスピーカを配置するステップと、
前記所定位置とは異なる所定第2位置に前記能動型消音ユニットの騒音検出マイクを配置するステップと
からなる定在波騒音低減方法。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか一項に記載された定在波騒音低減方法に含まれる方法ステップによって前記スピーカの配置と前記騒音検出マイクの配置が決定される請求項5に記載の定在波騒音低減方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−44796(P2013−44796A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−180717(P2011−180717)
【出願日】平成23年8月22日(2011.8.22)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】