定容量希釈サンプリング装置用バッグ
【課題】排ガス成分の吸着や一旦吸着した排ガス成分の脱離が少ない定容量希釈サンプリング装置用バッグを提供する。
【解決手段】気体の流入出が可能な内部流路系を有するガス入出部と、前記ガス入出部の内部流路系と連通していて、その周壁に前記気体が噴出可能な複数のガス噴出孔が形成してあるパイプと、前記パイプが収容してある内部空間を有し、当該内部空間に気体が充満した状態での外観形状が回転体状若しくは多角柱状であるか、又は、当該内部空間に気体が充満したときは展開し当該内部空間から気体が排出したときは折り畳まれるマチ部が設けられており、可撓性を有する材料からなるバッグ本体と、を備えるようにした。
【解決手段】気体の流入出が可能な内部流路系を有するガス入出部と、前記ガス入出部の内部流路系と連通していて、その周壁に前記気体が噴出可能な複数のガス噴出孔が形成してあるパイプと、前記パイプが収容してある内部空間を有し、当該内部空間に気体が充満した状態での外観形状が回転体状若しくは多角柱状であるか、又は、当該内部空間に気体が充満したときは展開し当該内部空間から気体が排出したときは折り畳まれるマチ部が設けられており、可撓性を有する材料からなるバッグ本体と、を備えるようにした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、排ガス成分の吸着や一旦吸着した排ガス成分の脱離が少ない定容量希釈サンプリング装置用バッグに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等のエンジン排ガスの成分を計測する方法は、排ガスのサンプリング時に、排ガスを空気等で希釈する「希釈サンプリング方式」と、希釈をしない「直接サンプリング方式」と、に大別でき、これらの手法は、排ガス試験の目的や条件によって使い分けられている。
【0003】
直接サンプリング方式(直接法)では、採取したエンジン排ガスの濃度を希釈せずにそのまま計測するのに対して、希釈サンプリング方式(希釈法)では、採取したエンジン排ガスを大気等で数倍に希釈し、濃度計測を行なう。希釈サンプリング方式によれば、サンプル中の水分濃度を下げることができ、配管内部での結露が起こりにくいため、水の凝縮によるガス濃度変化や、水溶性成分の溶解損失による計測誤差を抑制できる。
【0004】
希釈法として広く採用されているのは、定容量サンプリング(Constant
Volume Sampling:CVS)による方法であり、この方法では、エンジン排ガス全量を大気で希釈して一定の既知流量にする。また、最近では、排ガスの一部を採取して一定比率で希釈するバッグミニダイリュータ(BMD)法というシステムも考案されている。CVS法は、現在最も一般的な希釈サンプリング法であり、図12にベンチュリ方式を用いた場合の概念を示すように、この方法では、排ガス全量と希釈用の大気を装置に導入し、それらを合わせた総流量が常に一定となるように制御する。希釈した排ガスは、その一部を一定流量でバッグに採取し、試験終了後にバッグ内濃度を分析する。排ガス質量は、この濃度と、希釈排ガスの流量、サンプリング時間、対象成分のガス密度から求めることができる。
【0005】
このようなバッグとしては、例えば、図13に示すように、2枚のフッ素樹脂シート(バッグ容量が90Lである場合は、縦115cm×横75cmのシート)の4辺を貼り合わせて構成されたバッグ本体3と、このバッグ本体の内部に平面視数字の8の字状に配置されるパイプ2a、2bと、この8の字状のパイプの中央部に配され、外部のガス流路とパイプの内部流路とを接続するガス入出部1と、バッグを吊り下げて配設するためのフック6と、を具備し、前記パイプ2には、その全長にわたってその周壁に均一な間隔で、小径(例えば圧損しても全てのガス噴出孔からガスを噴出できる程度の大きさの径)を有する複数個のガス噴出孔が形成されているバッグAが用いられている。
【0006】
そして、このバッグAのガス入出部1を、希釈排ガスが流れる定容量サンプリング流路に接続し、希釈排ガスをパイプ2a、2bに導入することにより、その希釈排ガスが、バッグ本体3内に充填されるように構成してある。
【0007】
バッグ本体3内の希釈排ガスを、バッグAの下流側に設けた吸引ポンプで吸引することによりガス分析計に導入して希釈排ガスの測定を行なうことができ、空になったバッグAに、別のガスを同様に導入すれば、引き続いて次の測定を行うことができる(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
CVS法では排ガスが希釈されるため、水の凝縮や、化学的に活性な成分の相互反応による組成変化を抑制できるが、更に、バッグ内で平均化されたガスを走行終了後に測定する方式であるため、分析計の応答遅れの影響も無視できる。このようにCVS法には多くの利点があることから、現在、米国、欧州、日本における新型車両の排ガス認証試験、使用過程車の排ガス試験に標準的に用いられている。
【0009】
CVS装置は、図14にそのガスフローの例を示すように、大きく分けて、排ガスと希釈用空気の混合部、混合ガス流量制御部、バッグ採取部からなる。それぞれのバッグが複数あるのは、試験モードの区切りでバッグを切り替える必要があるためである。
【0010】
CVS装置における希釈流量は、試験エンジンの排気量・試験モード・大気条件等に応じて設定される。試験中、排ガス流量が最大になる時点でも、希釈後の排ガス中の水分濃度が露点以下であることが必要条件で、排ガス平均流量の5〜10倍程度での運用が一般的である。
【特許文献1】特開2005−055333号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
CVS法はバッグ採取によるサンプル平均化効果があり、排ガスを精度良く計測できる優れた方法であるが、計測対象の排ガス成分が低濃度化するにつれ、いくつかの誤差要因があることも明らかになってきており、特に、エンジン排ガス中の炭化水素(以下、HCという。)は、バッグを含む計測システムの構成部品への吸着・脱離を起しやすく、これが計測誤差の一因となっている。
【0012】
図13に示すような従来のバッグに排ガスを充填した場合は、中央部は膨らむものの、4辺は固定されているために大きさの割には容量が少なく、また、ガス容量に対して排ガスと接する面積が大きい。このため、バッグ内部に吸着した排ガス成分が、次の試験時に脱離したり、試験後にバッグ内の排ガスをパージするのに多くの時間がかかる等の問題が生じている。
【0013】
そこで本発明は、排ガス成分の吸着や一旦吸着した排ガス成分の脱離が少ない定容量希釈サンプリング装置用バッグを提供すべく図ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち本発明に係る定容量希釈サンプリング装置用バッグ(以下、CVS装置用バッグともいう。)は、気体の流入出が可能な内部流路系を有するガス入出部と、前記ガス入出部の内部流路系と連通していて、その周壁に前記気体が噴出可能な複数のガス噴出孔が形成してあるパイプと、前記パイプが収容してある内部空間を有し、当該内部空間に気体が充満した状態での外観形状が回転体状若しくは多角柱状であるか、又は、当該内部空間に気体が充満したときは展開し当該内部空間から気体が排出したときは折り畳まれるマチ部が設けられており、可撓性を有する材料からなるバッグ本体と、を備えていることを特徴とする。本発明に係るCVS装置用バッグは、通常、CVS装置に設置して希釈用空気で希釈した排ガスやコントロールとして使用される希釈用空気を採取するために用いられる。
【0015】
このようなものであれば、従来品に比べてバッグ内面の面積を減少させて、排ガスに接する面積を減少させることができ、これにより、バッグ内面への排ガス成分の吸着や一旦吸着した成分の脱離を減少させることができる。このため、本発明に係るCVS装置用バッグは排ガス成分が低濃度である場合に特に好適である。また、このようなものであれば、排ガス成分計測終了後のパージ時間を減少させることもできる。
【0016】
前記回転体としては、例えば、円柱、球形、ちょうちん形等が挙げられ、前記多角柱としては、六角柱、五角柱等が挙げられ、前記マチ部を有するものとしては、例えば、単一のマチ部を有する所謂スタンディングバッグ状のものや、対向する2面がマチ部を構成しているもの等が挙げられ、例えば、気体充満時の前記バッグ本体の外観形状が円柱状であれば、接ガス面積を従来比30%程度減少することができ、また、気体充満時の前記バッグ本体の外観形状が円柱状であれば、その内部空間を気体が対流しやすいので、内部空間にむらなく均一に気体を充填することが可能となる。
【0017】
更に、気体充満時の前記バッグ本体の外観形状が円柱状であれば、不使用時(内部空間に気体が充填されていないとき)のバッグ面積も従来比半分以下となるので、嵩張らず保管も容易となる。加えて、バッグ本体が円柱形状であるCVS装置用バッグの製作は比較的容易である。
【0018】
CVS装置用バッグは、通常CVS装置に吊り下げて配置され、このように吊り下げ可能なものとするために通常CVS装置用バッグはフックを備えている。本発明に係るCVS装置用バッグにおいては、気体充満時の前記バッグ本体の外観形状が回転体状である場合はその回転軸を含む前記バッグ本体の断面上、気体充満時の前記バッグ本体の外観形状が多角柱状である場合はその底面の重心同士を結んだ線を含む前記バッグ本体の断面上、又は、前記バッグ本体に前記マチ部が設けてある場合は気体充満時の前記バッグ本体の重心と前記マチ部の重心とを結んだ線を含む前記バッグ本体の断面上、であって、前記回転軸又は前記線に対してそれぞれ反対側に位置するように、前記バッグ本体上に2個のフックが設けてあることが好ましい。
【0019】
このように、フックがバッグ本体上の対称な2箇所の位置に設けてあれば、CVS装置の排ガス採取口の位置に合わせてCVS装置用バッグを上下逆に吊り下げることができる。また、本発明に係るCVS装置用バッグを縦に複数個連結して配設することも可能となる。このため、CVS装置用バッグのレイアウトの自由度が増すと共に、従来は希釈空気用バッグと排ガス用バッグのペアが分かりにくかったものの、本発明によればペアを縦に連結して吊り下げることができるのでペアが識別しやすくなる。
【0020】
前記ガス入出部は、前記バッグ本体上の端部に設けてあることが好ましい。このようなものであれば、前記ガス入出部をCVS装置の排ガス採取口に近づけることができ、これにより、CVS装置とCVS装置用バッグとを接続する接続管の長さを短くすることができるので、接続管内部への排ガス成分の吸着や脱離を最小化することが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
このように本発明によれば、CVS装置用バッグの形状を変更することにより、排ガスと接する面積を減らして、バッグ内面への排ガス成分の吸着及び一旦吸着した成分の脱離を抑制することができる。このため、計測結果の誤差が減少して、排ガス成分が低濃度である場合も精度の高い計測が可能となる。更に、従来時間がかかっていた、パージ時間を減らすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態を図面を参照して説明する。
【0023】
本実施形態に係るCVS装置用バッグAは、CVS装置に設置して希釈用空気で希釈した排ガスやコントロールとしての希釈用空気を採取するためのものであり、図1〜8に示すように、気体の流入出が可能な内部流路系10を有するガス入出部1と、ガス入出部1の内部流路系10と連通していて、その周壁に前記気体が噴出可能な複数のガス噴出孔21が形成してあるパイプ2と、パイプ2が収容してある内部空間30を有するバッグ本体3と、CVS装置に吊り下げて設置するためのフック6を備えており、気体が充満した状態での外観形状が円柱状であるものである。
【0024】
以下に、各部について説明する。
ガス入出部1は、バッグ本体3における円柱側面の端部であってフック6近傍に設けてあり、図3等に示すように、外観視略円柱形状のものであって、頂面1aからパイプ2を接続する面である側周面1bにかけて形成された内部流路系10(図3では図示せず)を備えている。
【0025】
具体的に、この内部流路系10は、図4〜6に示すように、頂面1aの中央から底面1cに向かって伸びる有底の円筒状であるガス入出孔11と、このガス入出孔11の内壁面に設けた開口11bと側周面1bに設けた開口1bxとを連絡する断面略円形状の分流路12と、前記ガス入出孔11の内壁面に設けた開口11cと側周面に設けたガス排出口4とを連絡する排気用流路13と、を具備している。
【0026】
ガス入出孔11は、接続管を介してCVS装置に接続されるものであって、このガス入出孔11の開口11a側を、頂面1aから若干飛び出させることで、ガス入出部1と接続管との継合を容易に行えるようにしている。本実施形態では、このガス入出孔11の内径をパイプ2の内径よりも大きく設定している。
【0027】
分流路12は、側周面1bに設けた開口1bxにおいて、パイプ2に連絡しているものである。本実施形態では、この分流路12の内径をパイプ2の内径と略同一に設定している。
【0028】
排気用流路13は、該流路13の途中部分に、後述する逆止弁5の作動体51等を収容する収容部131を備えている。
【0029】
逆止弁5は、希釈後の排ガスG1の強制的な排気時にはその通過を許容する一方、非排気時にはその通過を防止するものである。具体的に、この逆止弁5は、排気用流路13を閉塞する閉塞位置(P1)(図7参照)と開放する開放位置(P2)(図8参照)との間で進退可能な作動体51と、この作動体51を開放位置(P2)から閉塞位置(P1)へ向かう方向へ常時付勢する例えばバネ等の付勢部材52とを具備し、ガスの強制的な排気時には、希釈後の排ガスG1を排気する排気力が、付勢部材52の付勢力に打ち勝って、作動体51を閉塞位置(P1)から開放位置(P2)に移動させることで希釈後の排ガスG1の通過を許容する一方、非排気時には、作動体51が開放位置(P2)に留まってガスの通過を防止するようにしている。
【0030】
パイプ2は、バッグ本体3の内部空間30に収容されており、長手方向に各部略等断面形状の例えばフッ素樹脂等より形成したものである。
【0031】
パイプ2は、その全長にわたってその周壁に均一な間隔で複数個のガス噴出孔21を有している。ガス噴出孔21は、圧損しても全てのガス噴出孔21からガスを噴出できるような大きさの径を有している。例えば、ガス入出部1に近いものほど径が小さく、ガス入出部1から遠いものほど径が大きくなるよう構成し、圧損を均一にすることが可能である。また、ガス噴出孔21はパイプ2の周壁のうちバッグ本体3における円柱底面に対向する方向及びフック6に略対向する方向に開設してあり、これによりガス噴出孔21が、ガスの強制的な排気時に、萎んだバッグ本体3によって閉塞されることが防止される。
【0032】
バッグ本体3は、例えば樹脂シート等の可撓性を有する材料から形成されており、その内部空間30に気体が充満しているときの外観形状が直径40cm長さ75cmで内部空間30の容量が約90Lである円柱形状を有するものであり、その内部空間30にはパイプ2が収容されている。バッグ本体3は、図2に示すように、気体を充填することによってフック6同士を結んだ面に垂直な方向に膨らむようにしてある。
【0033】
CVS法を用いた排ガス分析において、HCによるライン汚れは排ガスと接するほとんどの部分で起こる可能性があるため、低濃度計測用のシステムでは、排ガスと接する部分を最小にして使用材料に充分考慮する必要があるが、CVS装置用バッグAの材料として一般的に用いられる塩化ビニル樹脂を用いると、塩化ビニル樹脂からHCが湧き出すという問題が生じる。
【0034】
このため、本実施形態におけるバッグ本体3としては、ポリフッ化ビニル(poly(vinyl fluoride),PVF)、ポリフッ化ビニリデン(poly(vinylidene fluoride),PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(poly(tetrafluoroethylene),PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(tetrafluoroethylene/hexafluoropropylene copolymer,FEP)等のフッ素樹脂からなるものが好適に用いられる。
【0035】
このようなバッグ本体3は、例えば、直径略40cmの円形状に裁断した樹脂シート2枚と、縦略60cm×横略75cmの長方形状に裁断した樹脂シート2枚とを、気体が充満時の外観形状が直径40cm長さ75cmの円柱状となるように、裁断箇所を互いに貼り合わせることにより作製することができる。
【0036】
フック6は、円柱形状のバッグ本体3の回転軸を含む断面上であって、かつ、当該軸に関し線対称となるようなバッグ本体3上の2箇所の位置に設けてあり、CVS装置用バッグAは当該フック6を介してCVS装置に吊り下げて設置することが可能となる。
【0037】
したがって、このように構成された本実施形態に係るCVS装置用バッグAによれば、バッグ本体3に気体を充満したときの外観形状が円柱状であるので、バッグ内部が排ガスに接する面積を従来比30%程度減少することができ、これにより、排ガス成分の吸着も30%程度減少することができる。更に、一旦吸着した成分の脱離も30%減少させることができる。このため、本実施形態に係るCVS装置用バッグAは排ガス成分が低濃度である場合に特に好適に用いられる。
【0038】
また、排ガスに接する面積が従来比30%程度減少することにより、排ガス成分計測終了後のパージ時間を30%程度減少させることもできる。
【0039】
また、本実施形態に係るCVS装置用バッグAによれば、バッグ本体3が円柱状であることより内部空間3において気体が対流しやすく、希釈後の排ガスG1が内部空間30に均一に行き渡り、濃度むらも抑えて均一に希釈後の排ガスG1を充填することが可能となる。
【0040】
更に、本実施形態に係るCVS装置用バッグAによれば、不使用時(内部空間30に気体が充填されていない時)のバッグ面積も従来比半分以下となるので、嵩張らず保管も容易となる。加えて、バッグ本体3が円柱形状のCVS装置用バッグAは比較的製作しやすい。
【0041】
また、本実施形態に係るCVS装置用バッグAにおいては、ガス入出部1がバッグ本体3における円柱側面の端部であってフック6近傍に設けてあるので、ガス入出部1をCVS装置の排ガス採取口に近づけることができ、これにより、CVS装置とCVS装置用バッグAとを接続する接続管の長さを短くすることができるので、接続管内部への排ガス成分の吸着や脱離を最小化することが可能となる。
【0042】
また、本実施形態に係るCVS装置用バッグAにおいては、フック6がバッグ本体3上の対称な2箇所の位置に設けてあるので、図9に示すように、CVS装置の排ガス採取口の位置に合わせてCVS装置用バッグAを上下逆に吊り下げられることができる。また、本実施形態に係るCVS装置用バッグAは縦に複数個連結して配設することも可能である。このため、CVS装置用バッグAのレイアウトの自由度が増すと共に、従来は希釈空気用バッグと排ガス用バッグとのペアが分かりにくかったものの、本発明によればペアを縦に連結して吊り下げることも可能となるのでペアの識別が容易になる。
【0043】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0044】
例えば、本発明に係るCVS装置用バッグに近接センサ等を設けて気体充満時円柱形状のバッグ本体の円(円柱底面)の部分のふくらみ具合を検知することにより、従来は困難であった気体の溜めすぎによるバッグの破裂防止検知機能を追加することも可能である。
【0045】
本発明に係るCVS装置用バッグのバッグ本体の気体充満時の外観形状は円柱状に限定されず、例えば、球状やちょうちん形状等の他の回転体状や、多角柱状であってもよい。なかでも、図10に示すように、正六角柱等の正角柱状にすることで、複数のバッグにガスが溜まった場合でもバッグを密に配置することができるので、空間を有効利用することができる。
【0046】
その他、本発明に係るCVS装置用バッグのバッグ本体は、例えば、図11(a)(b)に示すように、マチ部31を有するものであってもよい。
【0047】
また、バッグ本体の大きさも前記実施形態における大きさに限定されず、試験の目的等に応じて適宜決定することができる。更に、パイプの長さもバッグ本体の大きさに応じて適宜調節することができる。更に、フック6はバッグ本体3上の対称な2箇所の位置に設けるものに限定されず、1箇所であってもよいし、3箇所以上設けても良い。
【0048】
更に、バッグ本体作製に必要なシート片の枚数も4枚に限定されず、より細かいシート片に分割してから貼り合わせてもよい。なお、バッグ本体の内部空間から気体を排出したときに折り目が形成される箇所は単一のシート片からなるよりも複数枚のシート片が貼り合わさってあるほうが強度が高くなり好ましい。
【0049】
また、例えば試験車両が低濃度排ガス車であっても、エンジン始動直後には比較的高濃度のガスが排出されることが多く、このような場合、通常の測定ラインに加えて、低濃度排ガス専用のラインを設けたCVS装置を使用して、試験モードのコールドスタート(エンジン始動時から測定開始するスケジュール、暖機なし)以外のフェーズを低濃度ラインで計測し、コールドスタート時のHC吸着が影響するのを防ぐ手法をとる。このような場合、本発明に係るCVS装置用バッグと従来のCVS装置用バッグとを併用して、本発明に係るCVS装置用バッグを低濃度ラインのみに使用して、通常の測定ラインには従来のCVS装置用バッグを使用してもよい。
【0050】
フッ素樹脂は、HCの湧き出し量が非常に小さいという特性を持つものの、CO2の透過性が大きいので、燃費計測を行なう場合には、バッグ本体の材料としてはフッ素樹脂以外の可撓性を有する材料を使用することが好ましい。
【0051】
パイプの形状やガス入出部の設置位置は前記実施形態に限られず、例えば、図13に示す従来例のように、パイプが平面視数字の8の字状であって、ガス入出部が8の字状のパイプの中央部に設けられていてもよい。また、ガス入出部は複数個設けられていてもよい。
【0052】
ガス入出部の構造は気体の流入出が可能なものであれば前記実施形態における構造に限定されず、他の構造であってもよい。
【0053】
その他、前述した実施形態や変形実施形態の一部又は全部を適宜組み合わせてもよく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の一実施形態におけるCVS装置用バッグ(気体充満時)の斜視図。
【図2】同実施形態におけるCVS装置用バッグ(気体未充満時)の側面図。
【図3】同実施形態におけるガス入出部とパイプとの接続態様を表す斜視図。
【図4】同実施形態におけるガス入出部とパイプとの接続部分である要部を拡大して示す図。
【図5】図4におけるD1−D1断面図。
【図6】図4におけるD2−D2断面図。
【図7】同実施形態におけるパイプからガスが噴出する状態での要部拡大断面図。
【図8】同実施形態におけるガス排出口からガスを排出する状態での要部拡大断面図。
【図9】同実施形態におけるCVS装置用バッグをCVS装置に設置した一例を模式的に示す図。
【図10】他の実施形態におけるCVS装置用バッグ(気体充満時)の斜視図。
【図11】他の実施形態におけるCVS装置用バッグ(気体充満時)の斜視図。
【図12】CVS装置(ベンチュリ方式)の一例を概略的に示す図。
【図13】従来のCVS装置用バッグの正面図。
【図14】CVS装置のガスフローを示す流路図。
【符号の説明】
【0055】
A・・・CVS装置用バッグ
1・・・ガス入出部
10・・・ガス入出部の内部流路系
2・・・パイプ
21・・・ガス噴出孔
3・・・バッグ本体
30・・・内部空間
31・・・マチ部
4・・・ガス排出口
6・・・フック
【技術分野】
【0001】
この発明は、排ガス成分の吸着や一旦吸着した排ガス成分の脱離が少ない定容量希釈サンプリング装置用バッグに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等のエンジン排ガスの成分を計測する方法は、排ガスのサンプリング時に、排ガスを空気等で希釈する「希釈サンプリング方式」と、希釈をしない「直接サンプリング方式」と、に大別でき、これらの手法は、排ガス試験の目的や条件によって使い分けられている。
【0003】
直接サンプリング方式(直接法)では、採取したエンジン排ガスの濃度を希釈せずにそのまま計測するのに対して、希釈サンプリング方式(希釈法)では、採取したエンジン排ガスを大気等で数倍に希釈し、濃度計測を行なう。希釈サンプリング方式によれば、サンプル中の水分濃度を下げることができ、配管内部での結露が起こりにくいため、水の凝縮によるガス濃度変化や、水溶性成分の溶解損失による計測誤差を抑制できる。
【0004】
希釈法として広く採用されているのは、定容量サンプリング(Constant
Volume Sampling:CVS)による方法であり、この方法では、エンジン排ガス全量を大気で希釈して一定の既知流量にする。また、最近では、排ガスの一部を採取して一定比率で希釈するバッグミニダイリュータ(BMD)法というシステムも考案されている。CVS法は、現在最も一般的な希釈サンプリング法であり、図12にベンチュリ方式を用いた場合の概念を示すように、この方法では、排ガス全量と希釈用の大気を装置に導入し、それらを合わせた総流量が常に一定となるように制御する。希釈した排ガスは、その一部を一定流量でバッグに採取し、試験終了後にバッグ内濃度を分析する。排ガス質量は、この濃度と、希釈排ガスの流量、サンプリング時間、対象成分のガス密度から求めることができる。
【0005】
このようなバッグとしては、例えば、図13に示すように、2枚のフッ素樹脂シート(バッグ容量が90Lである場合は、縦115cm×横75cmのシート)の4辺を貼り合わせて構成されたバッグ本体3と、このバッグ本体の内部に平面視数字の8の字状に配置されるパイプ2a、2bと、この8の字状のパイプの中央部に配され、外部のガス流路とパイプの内部流路とを接続するガス入出部1と、バッグを吊り下げて配設するためのフック6と、を具備し、前記パイプ2には、その全長にわたってその周壁に均一な間隔で、小径(例えば圧損しても全てのガス噴出孔からガスを噴出できる程度の大きさの径)を有する複数個のガス噴出孔が形成されているバッグAが用いられている。
【0006】
そして、このバッグAのガス入出部1を、希釈排ガスが流れる定容量サンプリング流路に接続し、希釈排ガスをパイプ2a、2bに導入することにより、その希釈排ガスが、バッグ本体3内に充填されるように構成してある。
【0007】
バッグ本体3内の希釈排ガスを、バッグAの下流側に設けた吸引ポンプで吸引することによりガス分析計に導入して希釈排ガスの測定を行なうことができ、空になったバッグAに、別のガスを同様に導入すれば、引き続いて次の測定を行うことができる(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
CVS法では排ガスが希釈されるため、水の凝縮や、化学的に活性な成分の相互反応による組成変化を抑制できるが、更に、バッグ内で平均化されたガスを走行終了後に測定する方式であるため、分析計の応答遅れの影響も無視できる。このようにCVS法には多くの利点があることから、現在、米国、欧州、日本における新型車両の排ガス認証試験、使用過程車の排ガス試験に標準的に用いられている。
【0009】
CVS装置は、図14にそのガスフローの例を示すように、大きく分けて、排ガスと希釈用空気の混合部、混合ガス流量制御部、バッグ採取部からなる。それぞれのバッグが複数あるのは、試験モードの区切りでバッグを切り替える必要があるためである。
【0010】
CVS装置における希釈流量は、試験エンジンの排気量・試験モード・大気条件等に応じて設定される。試験中、排ガス流量が最大になる時点でも、希釈後の排ガス中の水分濃度が露点以下であることが必要条件で、排ガス平均流量の5〜10倍程度での運用が一般的である。
【特許文献1】特開2005−055333号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
CVS法はバッグ採取によるサンプル平均化効果があり、排ガスを精度良く計測できる優れた方法であるが、計測対象の排ガス成分が低濃度化するにつれ、いくつかの誤差要因があることも明らかになってきており、特に、エンジン排ガス中の炭化水素(以下、HCという。)は、バッグを含む計測システムの構成部品への吸着・脱離を起しやすく、これが計測誤差の一因となっている。
【0012】
図13に示すような従来のバッグに排ガスを充填した場合は、中央部は膨らむものの、4辺は固定されているために大きさの割には容量が少なく、また、ガス容量に対して排ガスと接する面積が大きい。このため、バッグ内部に吸着した排ガス成分が、次の試験時に脱離したり、試験後にバッグ内の排ガスをパージするのに多くの時間がかかる等の問題が生じている。
【0013】
そこで本発明は、排ガス成分の吸着や一旦吸着した排ガス成分の脱離が少ない定容量希釈サンプリング装置用バッグを提供すべく図ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち本発明に係る定容量希釈サンプリング装置用バッグ(以下、CVS装置用バッグともいう。)は、気体の流入出が可能な内部流路系を有するガス入出部と、前記ガス入出部の内部流路系と連通していて、その周壁に前記気体が噴出可能な複数のガス噴出孔が形成してあるパイプと、前記パイプが収容してある内部空間を有し、当該内部空間に気体が充満した状態での外観形状が回転体状若しくは多角柱状であるか、又は、当該内部空間に気体が充満したときは展開し当該内部空間から気体が排出したときは折り畳まれるマチ部が設けられており、可撓性を有する材料からなるバッグ本体と、を備えていることを特徴とする。本発明に係るCVS装置用バッグは、通常、CVS装置に設置して希釈用空気で希釈した排ガスやコントロールとして使用される希釈用空気を採取するために用いられる。
【0015】
このようなものであれば、従来品に比べてバッグ内面の面積を減少させて、排ガスに接する面積を減少させることができ、これにより、バッグ内面への排ガス成分の吸着や一旦吸着した成分の脱離を減少させることができる。このため、本発明に係るCVS装置用バッグは排ガス成分が低濃度である場合に特に好適である。また、このようなものであれば、排ガス成分計測終了後のパージ時間を減少させることもできる。
【0016】
前記回転体としては、例えば、円柱、球形、ちょうちん形等が挙げられ、前記多角柱としては、六角柱、五角柱等が挙げられ、前記マチ部を有するものとしては、例えば、単一のマチ部を有する所謂スタンディングバッグ状のものや、対向する2面がマチ部を構成しているもの等が挙げられ、例えば、気体充満時の前記バッグ本体の外観形状が円柱状であれば、接ガス面積を従来比30%程度減少することができ、また、気体充満時の前記バッグ本体の外観形状が円柱状であれば、その内部空間を気体が対流しやすいので、内部空間にむらなく均一に気体を充填することが可能となる。
【0017】
更に、気体充満時の前記バッグ本体の外観形状が円柱状であれば、不使用時(内部空間に気体が充填されていないとき)のバッグ面積も従来比半分以下となるので、嵩張らず保管も容易となる。加えて、バッグ本体が円柱形状であるCVS装置用バッグの製作は比較的容易である。
【0018】
CVS装置用バッグは、通常CVS装置に吊り下げて配置され、このように吊り下げ可能なものとするために通常CVS装置用バッグはフックを備えている。本発明に係るCVS装置用バッグにおいては、気体充満時の前記バッグ本体の外観形状が回転体状である場合はその回転軸を含む前記バッグ本体の断面上、気体充満時の前記バッグ本体の外観形状が多角柱状である場合はその底面の重心同士を結んだ線を含む前記バッグ本体の断面上、又は、前記バッグ本体に前記マチ部が設けてある場合は気体充満時の前記バッグ本体の重心と前記マチ部の重心とを結んだ線を含む前記バッグ本体の断面上、であって、前記回転軸又は前記線に対してそれぞれ反対側に位置するように、前記バッグ本体上に2個のフックが設けてあることが好ましい。
【0019】
このように、フックがバッグ本体上の対称な2箇所の位置に設けてあれば、CVS装置の排ガス採取口の位置に合わせてCVS装置用バッグを上下逆に吊り下げることができる。また、本発明に係るCVS装置用バッグを縦に複数個連結して配設することも可能となる。このため、CVS装置用バッグのレイアウトの自由度が増すと共に、従来は希釈空気用バッグと排ガス用バッグのペアが分かりにくかったものの、本発明によればペアを縦に連結して吊り下げることができるのでペアが識別しやすくなる。
【0020】
前記ガス入出部は、前記バッグ本体上の端部に設けてあることが好ましい。このようなものであれば、前記ガス入出部をCVS装置の排ガス採取口に近づけることができ、これにより、CVS装置とCVS装置用バッグとを接続する接続管の長さを短くすることができるので、接続管内部への排ガス成分の吸着や脱離を最小化することが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
このように本発明によれば、CVS装置用バッグの形状を変更することにより、排ガスと接する面積を減らして、バッグ内面への排ガス成分の吸着及び一旦吸着した成分の脱離を抑制することができる。このため、計測結果の誤差が減少して、排ガス成分が低濃度である場合も精度の高い計測が可能となる。更に、従来時間がかかっていた、パージ時間を減らすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態を図面を参照して説明する。
【0023】
本実施形態に係るCVS装置用バッグAは、CVS装置に設置して希釈用空気で希釈した排ガスやコントロールとしての希釈用空気を採取するためのものであり、図1〜8に示すように、気体の流入出が可能な内部流路系10を有するガス入出部1と、ガス入出部1の内部流路系10と連通していて、その周壁に前記気体が噴出可能な複数のガス噴出孔21が形成してあるパイプ2と、パイプ2が収容してある内部空間30を有するバッグ本体3と、CVS装置に吊り下げて設置するためのフック6を備えており、気体が充満した状態での外観形状が円柱状であるものである。
【0024】
以下に、各部について説明する。
ガス入出部1は、バッグ本体3における円柱側面の端部であってフック6近傍に設けてあり、図3等に示すように、外観視略円柱形状のものであって、頂面1aからパイプ2を接続する面である側周面1bにかけて形成された内部流路系10(図3では図示せず)を備えている。
【0025】
具体的に、この内部流路系10は、図4〜6に示すように、頂面1aの中央から底面1cに向かって伸びる有底の円筒状であるガス入出孔11と、このガス入出孔11の内壁面に設けた開口11bと側周面1bに設けた開口1bxとを連絡する断面略円形状の分流路12と、前記ガス入出孔11の内壁面に設けた開口11cと側周面に設けたガス排出口4とを連絡する排気用流路13と、を具備している。
【0026】
ガス入出孔11は、接続管を介してCVS装置に接続されるものであって、このガス入出孔11の開口11a側を、頂面1aから若干飛び出させることで、ガス入出部1と接続管との継合を容易に行えるようにしている。本実施形態では、このガス入出孔11の内径をパイプ2の内径よりも大きく設定している。
【0027】
分流路12は、側周面1bに設けた開口1bxにおいて、パイプ2に連絡しているものである。本実施形態では、この分流路12の内径をパイプ2の内径と略同一に設定している。
【0028】
排気用流路13は、該流路13の途中部分に、後述する逆止弁5の作動体51等を収容する収容部131を備えている。
【0029】
逆止弁5は、希釈後の排ガスG1の強制的な排気時にはその通過を許容する一方、非排気時にはその通過を防止するものである。具体的に、この逆止弁5は、排気用流路13を閉塞する閉塞位置(P1)(図7参照)と開放する開放位置(P2)(図8参照)との間で進退可能な作動体51と、この作動体51を開放位置(P2)から閉塞位置(P1)へ向かう方向へ常時付勢する例えばバネ等の付勢部材52とを具備し、ガスの強制的な排気時には、希釈後の排ガスG1を排気する排気力が、付勢部材52の付勢力に打ち勝って、作動体51を閉塞位置(P1)から開放位置(P2)に移動させることで希釈後の排ガスG1の通過を許容する一方、非排気時には、作動体51が開放位置(P2)に留まってガスの通過を防止するようにしている。
【0030】
パイプ2は、バッグ本体3の内部空間30に収容されており、長手方向に各部略等断面形状の例えばフッ素樹脂等より形成したものである。
【0031】
パイプ2は、その全長にわたってその周壁に均一な間隔で複数個のガス噴出孔21を有している。ガス噴出孔21は、圧損しても全てのガス噴出孔21からガスを噴出できるような大きさの径を有している。例えば、ガス入出部1に近いものほど径が小さく、ガス入出部1から遠いものほど径が大きくなるよう構成し、圧損を均一にすることが可能である。また、ガス噴出孔21はパイプ2の周壁のうちバッグ本体3における円柱底面に対向する方向及びフック6に略対向する方向に開設してあり、これによりガス噴出孔21が、ガスの強制的な排気時に、萎んだバッグ本体3によって閉塞されることが防止される。
【0032】
バッグ本体3は、例えば樹脂シート等の可撓性を有する材料から形成されており、その内部空間30に気体が充満しているときの外観形状が直径40cm長さ75cmで内部空間30の容量が約90Lである円柱形状を有するものであり、その内部空間30にはパイプ2が収容されている。バッグ本体3は、図2に示すように、気体を充填することによってフック6同士を結んだ面に垂直な方向に膨らむようにしてある。
【0033】
CVS法を用いた排ガス分析において、HCによるライン汚れは排ガスと接するほとんどの部分で起こる可能性があるため、低濃度計測用のシステムでは、排ガスと接する部分を最小にして使用材料に充分考慮する必要があるが、CVS装置用バッグAの材料として一般的に用いられる塩化ビニル樹脂を用いると、塩化ビニル樹脂からHCが湧き出すという問題が生じる。
【0034】
このため、本実施形態におけるバッグ本体3としては、ポリフッ化ビニル(poly(vinyl fluoride),PVF)、ポリフッ化ビニリデン(poly(vinylidene fluoride),PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(poly(tetrafluoroethylene),PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(tetrafluoroethylene/hexafluoropropylene copolymer,FEP)等のフッ素樹脂からなるものが好適に用いられる。
【0035】
このようなバッグ本体3は、例えば、直径略40cmの円形状に裁断した樹脂シート2枚と、縦略60cm×横略75cmの長方形状に裁断した樹脂シート2枚とを、気体が充満時の外観形状が直径40cm長さ75cmの円柱状となるように、裁断箇所を互いに貼り合わせることにより作製することができる。
【0036】
フック6は、円柱形状のバッグ本体3の回転軸を含む断面上であって、かつ、当該軸に関し線対称となるようなバッグ本体3上の2箇所の位置に設けてあり、CVS装置用バッグAは当該フック6を介してCVS装置に吊り下げて設置することが可能となる。
【0037】
したがって、このように構成された本実施形態に係るCVS装置用バッグAによれば、バッグ本体3に気体を充満したときの外観形状が円柱状であるので、バッグ内部が排ガスに接する面積を従来比30%程度減少することができ、これにより、排ガス成分の吸着も30%程度減少することができる。更に、一旦吸着した成分の脱離も30%減少させることができる。このため、本実施形態に係るCVS装置用バッグAは排ガス成分が低濃度である場合に特に好適に用いられる。
【0038】
また、排ガスに接する面積が従来比30%程度減少することにより、排ガス成分計測終了後のパージ時間を30%程度減少させることもできる。
【0039】
また、本実施形態に係るCVS装置用バッグAによれば、バッグ本体3が円柱状であることより内部空間3において気体が対流しやすく、希釈後の排ガスG1が内部空間30に均一に行き渡り、濃度むらも抑えて均一に希釈後の排ガスG1を充填することが可能となる。
【0040】
更に、本実施形態に係るCVS装置用バッグAによれば、不使用時(内部空間30に気体が充填されていない時)のバッグ面積も従来比半分以下となるので、嵩張らず保管も容易となる。加えて、バッグ本体3が円柱形状のCVS装置用バッグAは比較的製作しやすい。
【0041】
また、本実施形態に係るCVS装置用バッグAにおいては、ガス入出部1がバッグ本体3における円柱側面の端部であってフック6近傍に設けてあるので、ガス入出部1をCVS装置の排ガス採取口に近づけることができ、これにより、CVS装置とCVS装置用バッグAとを接続する接続管の長さを短くすることができるので、接続管内部への排ガス成分の吸着や脱離を最小化することが可能となる。
【0042】
また、本実施形態に係るCVS装置用バッグAにおいては、フック6がバッグ本体3上の対称な2箇所の位置に設けてあるので、図9に示すように、CVS装置の排ガス採取口の位置に合わせてCVS装置用バッグAを上下逆に吊り下げられることができる。また、本実施形態に係るCVS装置用バッグAは縦に複数個連結して配設することも可能である。このため、CVS装置用バッグAのレイアウトの自由度が増すと共に、従来は希釈空気用バッグと排ガス用バッグとのペアが分かりにくかったものの、本発明によればペアを縦に連結して吊り下げることも可能となるのでペアの識別が容易になる。
【0043】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0044】
例えば、本発明に係るCVS装置用バッグに近接センサ等を設けて気体充満時円柱形状のバッグ本体の円(円柱底面)の部分のふくらみ具合を検知することにより、従来は困難であった気体の溜めすぎによるバッグの破裂防止検知機能を追加することも可能である。
【0045】
本発明に係るCVS装置用バッグのバッグ本体の気体充満時の外観形状は円柱状に限定されず、例えば、球状やちょうちん形状等の他の回転体状や、多角柱状であってもよい。なかでも、図10に示すように、正六角柱等の正角柱状にすることで、複数のバッグにガスが溜まった場合でもバッグを密に配置することができるので、空間を有効利用することができる。
【0046】
その他、本発明に係るCVS装置用バッグのバッグ本体は、例えば、図11(a)(b)に示すように、マチ部31を有するものであってもよい。
【0047】
また、バッグ本体の大きさも前記実施形態における大きさに限定されず、試験の目的等に応じて適宜決定することができる。更に、パイプの長さもバッグ本体の大きさに応じて適宜調節することができる。更に、フック6はバッグ本体3上の対称な2箇所の位置に設けるものに限定されず、1箇所であってもよいし、3箇所以上設けても良い。
【0048】
更に、バッグ本体作製に必要なシート片の枚数も4枚に限定されず、より細かいシート片に分割してから貼り合わせてもよい。なお、バッグ本体の内部空間から気体を排出したときに折り目が形成される箇所は単一のシート片からなるよりも複数枚のシート片が貼り合わさってあるほうが強度が高くなり好ましい。
【0049】
また、例えば試験車両が低濃度排ガス車であっても、エンジン始動直後には比較的高濃度のガスが排出されることが多く、このような場合、通常の測定ラインに加えて、低濃度排ガス専用のラインを設けたCVS装置を使用して、試験モードのコールドスタート(エンジン始動時から測定開始するスケジュール、暖機なし)以外のフェーズを低濃度ラインで計測し、コールドスタート時のHC吸着が影響するのを防ぐ手法をとる。このような場合、本発明に係るCVS装置用バッグと従来のCVS装置用バッグとを併用して、本発明に係るCVS装置用バッグを低濃度ラインのみに使用して、通常の測定ラインには従来のCVS装置用バッグを使用してもよい。
【0050】
フッ素樹脂は、HCの湧き出し量が非常に小さいという特性を持つものの、CO2の透過性が大きいので、燃費計測を行なう場合には、バッグ本体の材料としてはフッ素樹脂以外の可撓性を有する材料を使用することが好ましい。
【0051】
パイプの形状やガス入出部の設置位置は前記実施形態に限られず、例えば、図13に示す従来例のように、パイプが平面視数字の8の字状であって、ガス入出部が8の字状のパイプの中央部に設けられていてもよい。また、ガス入出部は複数個設けられていてもよい。
【0052】
ガス入出部の構造は気体の流入出が可能なものであれば前記実施形態における構造に限定されず、他の構造であってもよい。
【0053】
その他、前述した実施形態や変形実施形態の一部又は全部を適宜組み合わせてもよく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の一実施形態におけるCVS装置用バッグ(気体充満時)の斜視図。
【図2】同実施形態におけるCVS装置用バッグ(気体未充満時)の側面図。
【図3】同実施形態におけるガス入出部とパイプとの接続態様を表す斜視図。
【図4】同実施形態におけるガス入出部とパイプとの接続部分である要部を拡大して示す図。
【図5】図4におけるD1−D1断面図。
【図6】図4におけるD2−D2断面図。
【図7】同実施形態におけるパイプからガスが噴出する状態での要部拡大断面図。
【図8】同実施形態におけるガス排出口からガスを排出する状態での要部拡大断面図。
【図9】同実施形態におけるCVS装置用バッグをCVS装置に設置した一例を模式的に示す図。
【図10】他の実施形態におけるCVS装置用バッグ(気体充満時)の斜視図。
【図11】他の実施形態におけるCVS装置用バッグ(気体充満時)の斜視図。
【図12】CVS装置(ベンチュリ方式)の一例を概略的に示す図。
【図13】従来のCVS装置用バッグの正面図。
【図14】CVS装置のガスフローを示す流路図。
【符号の説明】
【0055】
A・・・CVS装置用バッグ
1・・・ガス入出部
10・・・ガス入出部の内部流路系
2・・・パイプ
21・・・ガス噴出孔
3・・・バッグ本体
30・・・内部空間
31・・・マチ部
4・・・ガス排出口
6・・・フック
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体の流入出が可能な内部流路系を有するガス入出部と、
前記ガス入出部の内部流路系と連通していて、その周壁に前記気体が噴出可能な複数のガス噴出孔が形成してあるパイプと、
前記パイプが収容してある内部空間を有し、当該内部空間に気体が充満した状態での外観形状が回転体状若しくは多角柱状であるか、又は、当該内部空間に気体が充満したときは展開し当該内部空間から気体が排出したときは折り畳まれるマチ部が設けられており、可撓性を有する材料からなるバッグ本体と、を備えている定容量希釈サンプリング装置用バッグ。
【請求項2】
前記回転体は、円柱である請求項1記載の定容量希釈サンプリング装置用バッグ。
【請求項3】
気体充満時の前記バッグ本体の外観形状が回転体状である場合はその回転軸を含む前記バッグ本体の断面上、気体充満時の前記バッグ本体の外観形状が多角柱状である場合はその底面の重心同士を結んだ線を含む前記バッグ本体の断面上、又は、前記バッグ本体に前記マチ部が設けてある場合は気体充満時の前記バッグ本体の重心と前記マチ部の重心とを結んだ線を含む前記バッグ本体の断面上、であって、
前記回転軸又は前記線に対してそれぞれ反対側に位置するように、前記バッグ本体上に2個のフックを備えている請求項1又は2記載の定容量希釈サンプリング装置用バッグ。
【請求項4】
前記ガス入出部は、前記バッグ本体上の端部に設けてある請求項1、2又は3記載の定容量希釈サンプリング装置用バッグ。
【請求項1】
気体の流入出が可能な内部流路系を有するガス入出部と、
前記ガス入出部の内部流路系と連通していて、その周壁に前記気体が噴出可能な複数のガス噴出孔が形成してあるパイプと、
前記パイプが収容してある内部空間を有し、当該内部空間に気体が充満した状態での外観形状が回転体状若しくは多角柱状であるか、又は、当該内部空間に気体が充満したときは展開し当該内部空間から気体が排出したときは折り畳まれるマチ部が設けられており、可撓性を有する材料からなるバッグ本体と、を備えている定容量希釈サンプリング装置用バッグ。
【請求項2】
前記回転体は、円柱である請求項1記載の定容量希釈サンプリング装置用バッグ。
【請求項3】
気体充満時の前記バッグ本体の外観形状が回転体状である場合はその回転軸を含む前記バッグ本体の断面上、気体充満時の前記バッグ本体の外観形状が多角柱状である場合はその底面の重心同士を結んだ線を含む前記バッグ本体の断面上、又は、前記バッグ本体に前記マチ部が設けてある場合は気体充満時の前記バッグ本体の重心と前記マチ部の重心とを結んだ線を含む前記バッグ本体の断面上、であって、
前記回転軸又は前記線に対してそれぞれ反対側に位置するように、前記バッグ本体上に2個のフックを備えている請求項1又は2記載の定容量希釈サンプリング装置用バッグ。
【請求項4】
前記ガス入出部は、前記バッグ本体上の端部に設けてある請求項1、2又は3記載の定容量希釈サンプリング装置用バッグ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2009−103689(P2009−103689A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−240225(P2008−240225)
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】
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