説明

定性分析装置

【課題】 偽反応物質による応答か、目的とする被検出物質による応答かを判断することができる定性分析装置を提供すること。
【解決手段】 本発明に係る定性分析装置は、尿定性分析装置において、目的とする被検出物質と呈色反応する試薬部を備えた検査体の試薬部の色を、反応前の初期状態を含め検体との接触直後から所定の時間間隔で複数回検出するように構成された光学測定手段と、前記光学測定手段により検出された試薬部の色情報を記憶する記憶手段と、記憶手段に記憶された試薬部の色情報に基づいて試薬部の色の経時的な変化を検出する色変化検出手段とを備えていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検出物質と試薬との呈色反応による試薬部の色の変化を光学的に測定する定性分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、病院等では、尿に含まれる各種成分を分析し、その分析結果から患者の健康状態を判断するために、患者から尿を採取して、これを分析することが行われている。
尿の分析は、大きく分けて定性分析、定量分析及び沈査分析という3種類の分析方法がある。
尿の定性分析は、尿中に特定の成分が存在しているか否かを判断するための分析である。具体的には、定性分析は、被検出物質と呈色反応する試薬部が設けられた試験紙を、試験管の中の検体に浸漬させたり、前記試験紙の試薬部に検体を点着したりする等した後、呈色反応により変化した後の試薬部の色を、反射光度法等の光学的手法により測定する定性分析装置を用いて行われる。
出願人は、前記定性分析装置として、尿を採取したハルンカップから直接、試験紙の試薬部に尿の点着を行い、尿を点着した後の試薬部の呈色反応による色の変化を光学的に測定する定性分析装置を既に提案している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−275697公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
出願人が特許文献1で提案した定性分析装置は、複数の試験紙を収容する試験紙保管装置を備え、この試験紙保管装置から試験紙を一枚づつ取り出し、始めに尿点着位置に移送し、点着後の試験紙を光学測定位置に移送し、測定後の試験紙を廃棄部に移送するように構成されている。この定性分析装置では、光学測定位置において、尿中の特定成分と呈色反応した後の試薬部の色を測定することができるように試験紙を移送するタイミングが決められている。
特許文献1に示す定性分析装置のように、従来の定性分析装置は、検体中の物質と呈色反応した後の試薬部の色を測定するように構成されている。
しかしながら、試薬部の試薬の呈色反応後の色は、必ずしも目的とする被検出物質と一対一の関係にはならず、被検出物質以外の偽反応物質との反応によっても、呈色反応後の色が同一又は類似の色になることがある。
例えば、尿に含まれる偽反応物質による応答は、被検出物質の応答とは、応答速度が異なるが、従来の定性分析装置は、上記したように、検体中の物質と呈色反応した後の試薬部の色を測定するように構成されているため、偽反応物質による応答か、目的とする被検出物質による応答かを判断することはできない。
本発明は、上記した従来の問題点に鑑みて、偽反応物質による応答か、目的とする被検出物質による応答かを判断することができる定性分析装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記した目的を達成するために、本発明に係る定性分析装置は、尿定性分析装置において、目的とする被検出物質と呈色反応する試薬部を備えた検査体の試薬部の色を、反応前の初期状態を含め検体との接触直後から所定の時間間隔で複数回検出するように構成された光学測定手段と、前記光学測定手段により検出された試薬部の色情報を記憶する記憶手段と、記憶手段に記憶された試薬部の色情報に基づいて試薬部の色の経時的な変化を検出する色変化検出手段とを備えていることを特徴とする。
前記光学測定手段は反射光測定系,例えば、撮像素子を有し得、該撮像素子により撮像した撮像データに基づいて色情報を算出するように構成され得る。
また、本発明に係る定性分析装置は、前記撮像素子と前記検査体とを所定の時間間隔で相対移動させる移動手段を有し得、前記移動手段による前記撮像素子と前記検査体との相対移動により前記撮像素子で前記検査体を所定の時間間隔で撮像するように構成され得る。
好ましくは、前記検査体は円板状の試験プレート上に複数放射状にされ得、前記移動手段が、前記撮像素子の下方で前記試験プレートを回転させることにより、前記検査体が所定の時間間隔で前記撮像素子の下方を通過するように構成され得る。
また、前記色変化検出手段は、検出した色変化をモニタ及び/又はプリンタを用いて出力することができる。
さらにまた、本発明に係る定性分析装置は、試薬部の色変化の基準値を予め記憶する基準記憶手段及び、前記色変化の基準値と前記色変化検出手段により検出された試験紙の点着前から点着後の経時的な色変化との差異に基づいて異常反応を判定する判定手段を有し得る。この場合、前記基準記憶手段に、試薬部における呈色反応の反応速度基準値を予め記憶させ、前記判定手段に、前記色変化検出手段が検出した色変化に基づいて、近似式を用いて試薬部の反応速度を求める反応速度算出手段を設け、該反応速度算出手段で求めた反応速度の値と前記反応速度基準値との差異に基づいて反応の異常の有無を判定するように構成することができる。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る定性分析装置は、尿定性分析装置において、目的とする被検出物質と呈色反応する試薬部を備えた検査体の試薬部の色を、反応前の初期状態を含め検体との接触直後から所定の時間間隔で複数回検出するように構成された光学測定手段と、前記光学測定手段により検出された試薬部の色情報を記憶する記憶手段と、記憶手段に記憶された試薬部の色情報に基づいて試薬部の色の経時的な変化を検出する色変化検出手段とを備えているので、試薬部における呈色反応を経時的に観察することが可能になる。これにより、色変化検出手段により検出された経時的な呈色反応に基づいて、試薬部における呈色反応が、偽反応物質による応答か、目的とする被検出物質による応答かを判断することが可能になる。
また、試薬部の色変化の基準値を予め記憶する基準記憶手段及び、前記色変化の基準値と前記色変化検出手段により検出された試験紙の点着前から点着後の経時的な色変化との差異に基づいて異常反応を判定する判定手段を設けることで、試薬部の呈色反応を点着前から経時的に捉えて、基準値との差異に基づいて異常反応の有無を自動的に判定することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明に係る定性分析装置の構成を概略的に示す概略上面図である。
【図2】(a)及び(b)は、色変化検出手段Fによって検出された試薬部A1の色変化を示す実験結果である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、添付図面に示した一実施例を参照しながら本発明に係る定性分析装置の実施の形態について説明していく。
【0009】
図1は、本発明に係る定性分析装置の構成を概略的に示す概略上面図を示している。
この定性分析装置は、
複数の試薬部A1が設けられた検査体A2を放射状に複数配置した円板状の試験プレートAを回転させる回転手段Bと、
検体カップから検体を吸引して試験プレートAの試薬部A1に検体を点着するための点着機構Cと、
検体が点着される前後の試薬部A1の色情報を光学的に測定する光学測定手段Dと、
前記光学測定手段Dにより検出された試薬部A1の色情報を経時的に記憶する記憶手段Eと、
前記記憶手段Eに記憶された試薬部A1の色情報に基づいて試薬部の色の経時的な変化を検出する色変化検出手段Fと
前記光学測定手段Dにより検出された検体が点着される前の試薬部A1の色情報に基づいて試薬部A1の劣化の有無を判定する劣化判定手段Gと
を有する。
点着機構Cは、検体カップから検体を吸引し、回転手段Bと連動して試験プレートAの各検査体A2の各試薬部A1に検体を点着するように回動可能に構成された点着ノズルC1を有する。
光学測定手段Dは、CCD等の撮像素子を一列に並べたリニア撮像素子D1を有する。前記リニア撮像素子D1は、回転手段Bによって回転される試験プレートAの検査体A2の回転軌道上に配置され、検査体A2が、その下方の撮像エリアを通過する時に検査体A2を撮像する。光学測定手段Dは、撮像した画像から検査体A2の試薬部A1のR値、G値及びB値を演算する。
前記回転手段Bは昇降機構(図示せず)を備え、該昇降機構によって光学測定手段Dの撮像用光源光量に応じてリニア撮像素子D1と試験プレートAとの間の距離を調整するように試験プレートAを昇降する。
【0010】
上記したように構成された定性分析装置によれば、回転手段Bは、試験プレートAに検体の点着を行う前に、試験プレートAを一回転させる。試験プレートAが回転している間に、光学測定手段Dは、そのリニア撮像素子D1で試験プレートA上の全ての検査体A2の試薬部A1を撮像する。試験プレートAには光学測定手段Dによって検出可能な基準位置を示す情報が設けられており、光学測定手段Dは、この基準位置情報を基準として、各検査体A2の位置を確定すると共に、撮像した画像から各検査体A2の各試薬部A1のR値、G値及びB値を演算する。
劣化判定手段Gは、予め記憶された試薬部A1の正常色情報に基づいて、前記光学測定手段Dにより検出された検体が点着される前の試薬部A1の色情報から、試薬部A1の劣化の有無を判定する。劣化判定手段Gは、判定結果をモニタ、プリンタ、警告ランプ又は警告音等の任意の出力手段で出力するように構成され得る。また、劣化判定手段Gの判定結果に基づいて、次の点着処理において、劣化が認められた試薬部A1を有する検査体A2には点着を行わないように回転手段B及び点着機構Cを動作させてもよい。
劣化判定手段Gによる劣化判定が終了した後、回転手段B及び点着機構Cによって検査体A2の試薬部A1に検体を点着する。検体点着後、回転手段Bによって検体が点着された検査体A2がリニア撮像素子D1の下方を通過するように適当な時間間隔で複数回試験プレートAを回転させる。尚、この試験プレートAの回転時間間隔及び回転回数は適宜設定することができ、また、次の検体の点着処理を適宜間に挟むように試験プレートAは回転され得る。
光学測定手段Dは、試験プレートAの回転により検査体A2がリニア撮像素子D1の撮像エリアを通過する毎に検査体A2を撮像し、撮像した画像から検査体A2の試薬部A1のR値、G値及びB値を演算する。
記憶手段Eは、光学測定手段Dにより演算された各検査体A2の各試薬部A1のR値、G値及びB値を経時的に記憶する。
色変化検出手段Fは、記憶手段Eに経時的に記憶された色情報に基づいて各試薬部A1の色変化を検出する。
【0011】
図2(a)及び(b)は、色変化検出手段Fによって検出された試薬部A1の色変化を示す実験結果である。
この実験は、前記定性分析装置によって、尿中のケトン体を検出するための試薬を含む試薬部A1に、バルプロ酸Naを含む薬品が投与された糖尿病疾患のない患者Aの尿と、アセト酢酸Liを291μM含むサンプルとを、それぞれ点着し、前記試薬部A1が11秒間隔でリニア撮像素子D1の下方を通過するように回転手段Bを動作して、試薬部A1を11秒毎に撮像したものである。
図2(a)が、バルプロ酸Naを含む薬品が投与された糖尿病疾患のない患者Aの尿の分析結果であり、図2(b)がアセト酢酸Liを291μM含むサンプルの分析結果である。
各グラフにおいて菱形のプロットはR帯波長であり、四角形のプロットはG帯波長であり、三角形のプロットはB帯波長である。また、各グラフにおいて、縦軸は各波長の反射強度を表し、横軸は時間を表している。横軸における「1」は点着前であり、「2」は点着直後であり、「3」〜「13」は点着後11秒毎の計測点である。
各グラフの下方に示す三つの画像は試薬部A1の撮像画像であり、左から測定点「2」の画像、測定点「7」の画像、測定点「13」の画像である。
このグラフから分かるように、患者Aの尿とサンプルとを点着した試薬部A1は、測定点「13」においては、ほぼ同じ色になる。これは、患者Aに投与された薬品に含まれているバルプロ酸Naが、ケトン体を測定するための試薬と呈色反応した結果である。従って、測定点「13」における試薬部A1の色のみからは、図2(a)が偽反応物質による分析結果であることは分からない。
しかし、図2(a)及び(b)に示すように、試薬部A1の色を経時的に計測することで、患者Aの尿の分析結果では点着直後に試薬部A1のB帯波長が急激に下がっているのに対して、サンプルの分析結果では試薬部A1のB帯波長は緩やかに下がっていっていることが分かる。これにより、図2(a)が偽反応物質による分析結果であることを確認することができる。
色変化検出手段Fは、検出した色変化を、例えば、図2に示すグラフの形態で、プリンタやモニタ等の適当な出力手段を介して出力し得る。
【0012】
また、この定性分析装置は、図1に点線で示すように、試薬部の色変化の基準値を予め記憶する基準記憶手段Hと、前記色変化の基準値と前記色変化検出手段により検出された試験紙の点着前から点着後の経時的な色変化との差異に基づいて異常反応を判定する判定手段Iとを有し得る。
この場合、例えば、前記基準記憶手段に、試薬部における呈色反応の反応速度基準値を予め記憶させておき、前記判定手段に、前記色変化検出手段が検出した色変化に基づいて、近似式を用いて試薬部の反応速度を求める反応速度算出手段Jを設け、該反応速度算出手段で求めた反応速度の値と前記反応速度基準値との差異に基づいて反応の異常の有無を判定するように構成することができる。
判定手段Iを設けることによって、偽反応物質による異常応答の有無を自動的に判定することが可能になる。この場合には、判定手段Iが、判定結果をプリンタやモニタ等の適当な出力手段を介して出力し得る。
【0013】
以上説明した実施例では、試験プレートAが円板状であり、検査体A2が試験プレートAに放射状に配置され、試験プレートAを回転させることで、検査体A2が複数回、光学測定手段Dの撮像エリアを通過するように構成されているが、この構成は本実施例に限定されることなく、例えば、試験プレートAは矩形であってもよく、検査体A2は試験プレートA上に複数平行に配置されていてもよい。検査体A2が試験プレートA上に複数平行に配置されている場合には、試験プレートAを回転させるのではなく、前後方向に移動させることにより検査体A2が複数回、光学測定手段Dの撮像エリアを通過するように構成され得る。
また、上記した実施例では、試験プレートAを動かすことにより、検査体A2が複数回、光学測定手段Dの撮像エリアを通過するように構成されているが、この構成は本実施例に限定されることなく、例えば、試験プレートAを固定して光学測定手段Dを動かすように構成してもよく、また、光学測定手段D及び試験プレートAの両方を動かすように構成してもよい。
さらにまた、上記した実施例では、回転手段Bは、試験プレートを回転させ、かつ、上下に昇降させるだけの動作しかしないが、この構成は本実施例に限定されることなく、試験プレートを複数収容する収容手段を設け、回転手段Bを横方向にも移動可能に構成し、回転手段Bで前記収容手段から新しい試験プレートを自動的に取り出して、それを図1に示す点着及び測定位置まで移送するように構成してもよい。
また、上記した実施例では、反射光測定系としてCCD等の撮像素子を一列に並べたリニア撮像素子を使用しているが、この構成は本実施例に限定されることなく、他の反射光測定系を使用してもよい。
【符号の説明】
【0014】
A 試験プレート
A1 試薬部
A2 検査体
B 回転手段
C 点着機構
C1 点着ノズル
D 光学測定手段
D1 リニア撮像素子
E 記憶手段
F 色変化検出手段
G 劣化判定手段
H 基準記憶手段
I 判定手段
J 反応速度定数算出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
尿定性分析装置において、目的とする被検出物質と呈色反応する試薬部を備えた検査体の試薬部の色を、反応前の初期状態を含め検体との接触直後から所定の時間間隔で複数回検出するように構成された光学測定手段と、
前記光学測定手段により検出された試薬部の色情報を記憶する記憶手段と、
記憶手段に記憶された試薬部の色情報に基づいて試薬部の色の経時的な変化を検出する色変化検出手段と
を備えていることを特徴とする定性分析装置。
【請求項2】
前記光学測定手段が反射光測定系を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の定性分析装置。
【請求項3】
前記反射光測定系が撮像素子であり、該撮像素子により撮像した撮像データに基づいて色情報を算出するように構成されている
ことを特徴とする請求項2に記載の定性分析装置。
【請求項4】
前記撮像素子と前記検査体とを所定の時間間隔で相対移動させる移動手段を備え、
前記移動手段による前記撮像素子と前記検査体との相対移動により前記撮像素子で前記検査体を所定の時間間隔で撮像するように構成されている
ことを特徴とする請求項3に記載の定性分析装置。
【請求項5】
前記検査体が、円板状の試験プレート上に複数放射状にされ、
前記移動手段が、前記撮像素子の下方で前記試験プレートを回転させることにより、前記検査体が所定の時間間隔で前記撮像素子の下方を通過するように構成されている
ことを特徴とする請求項4に記載の定性分析装置。
【請求項6】
前記色変化検出手段が検出した色変化を出力するモニタ及び/又はプリンタをさらに有する
ことを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の定性分析装置。
【請求項7】
試薬部の色変化の基準値を予め記憶する基準記憶手段及び、
前記色変化の基準値と前記色変化検出手段により検出された試験紙の点着前から点着後の経時的な色変化との差異に基づいて異常反応を判定する判定手段
を備えていることを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載の定性分析装置。
【請求項8】
前記基準記憶手段が、試薬部における呈色反応の反応速度基準値を予め記憶し、
前記判定手段が、前記色変化検出手段が検出した色変化に基づいて、近似式を用いて試薬部の反応速度を求める反応速度算出手段を備え、該反応速度算出手段で求めた反応速度の値と前記反応速度基準値との差異に基づいて反応の異常の有無を判定するように構成されている
ことを特徴とする請求項7に記載の定性分析装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−79926(P2013−79926A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221381(P2011−221381)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(591086854)株式会社テクノメデイカ (50)
【Fターム(参考)】