説明

定着ヒータ、定着装置、画像形成装置

【課題】サーミスタを温度検出用として用いた定着ヒータの温度制御の向上を図る。
【解決手段】耐熱・絶縁性材料で形成される長尺平板状の絶縁基板11の長手方向に発熱抵抗体12と該発熱抵抗体に電力を供給するための電極13,14を形成する。発熱抵抗体12上にオーバーコート層17を施し、発熱抵抗体12が形成された絶縁基板11の反対側の端子部20,21に接続された配線導体22,23に温度制御用のサーミスタ24を導電性接着剤25,26で電気的に接続する。導電性接着剤25,26は、Agの導電粒子が含有された有機樹脂で体積抵抗値を2×10−4Ω・cm以下とした。これにより、定着ヒータの温度検出を行うサーミスタ24の抵抗値の真値を検出し、への熱伝導性を高めてヒータ温度制御の精度を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、情報機器、家電製品や製造設備等に用いられる薄型のヒータ、このヒータを実装したプリンタ、複写機、ファクシミリ、リライタブルペーパ等の加熱装置、この加熱装置を用いた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の定着ヒータは、温度検出用のサーミスタを、定着ヒータを構成する絶縁基板の発熱抵抗体が形成された裏面側にAg(銀)/Pd(パラジウム)合金あるいはAgを導電粒子に用いた導電性接着剤を用いて取り付けている。(例えば、特許文献1)
【特許文献1】特開平10−48978号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記した特許文献1の技術は、Ag/Pd合金あるいはAgを導電粒子に用いた導電性接着剤は、Ag/Pd合金では導電粒子自体の比抵抗(電気抵抗×断面積÷長さ)の値が大きく、導電性接着剤の体積抵抗率が大きいため、また一般的なAg系接着剤では体積低効率が小さくないものもあるため、サーミスタ抵抗値が小さい温度範囲での使用時は導電性接着剤の接続抵抗が影響してしまうことがある。また、Ag/Pd合金またはAgを用いた接着剤は、Ag/Pd合金では導電粒子自体の熱伝導率が高くないため、また一般的なAg系接着剤では熱伝導率が高くないものもあるため、ヒータの熱をサーミスタ素子に伝える時間を要する。このように、より高速化対応のためのヒータ温度の素早い立ち上げ、正確な温度制御を必要とする場合は、十分とは言えない状態にあった。
【0004】
この発明の目的は、サーミスタを温度検出用として用いた定着ヒータの温度制御の精度を向上させることが可能な定着ヒータ、この定着ヒータを用いた定着装置、この定着装置を用いた画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記した課題を解決するために、この発明の定着ヒータは、耐熱・絶縁性材料で形成される長尺平板状の基板の長手方向に発熱抵抗体と該発熱抵抗体に電力を供給するための電極を形成し、前記発熱抵抗体上にオーバーコート層を施し、前記発熱抵抗体が形成された反対側の前記基板に温度制御用のサーミスタを実装したものにあって、前記サーミスタは、導電粒子としてAgが含有された有機樹脂の、体積抵抗値が2×10−4Ω・cm以下または熱伝導率が5W/m・K以上とした導電性接着剤により前記電極と電気的に接続したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
この発明によれば、定着ヒータの温度制御の精度を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、この発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、この発明のヒータに関する一実施形態の構成について説明するための正面図、図2は図1の背面図、図3は図2のx−x’断面図である。
図1において、11は、アルミナ(Al)、窒化アルミニウム(AlN)、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(Si)等の耐熱、絶縁性の材料で長尺状に形成された絶縁基板である。12は絶縁基板11上に、導電性成分がAg/Pd,RuOなどで構成されている抵抗体ペーストを用いて厚膜印刷により形成した発熱抵抗体である。また、13,14は絶縁基板11上に、導電性成分がAg、Ag/Pt(プラチナ)、Ag/Pdなどで構成される導体ペーストを用いて厚膜印刷により形成され、電力が供給される電極である。
【0008】
13は、発熱抵抗体12の一端に電気的に接続される電極で、14は、絶縁基板11上にAg,Ag/Pt,Ag/Pd等で構成させる導体ペーストを用いて厚膜印刷により形成された導電性の配線パターン15の一端と電気的に接続される電極である。配線パターン15の他端は絶縁基板11に導体ペーストを用いて厚膜印刷により形成された接続導体16の一端と電気的に接続される。接続導体16の他端は、発熱抵抗体12の他端に電気的に接続される。
【0009】
17は、発熱抵抗体12それに接続導体16を、厚膜印刷方法を用いてガラスペーストを印刷で覆い、これを焼成して形成されるオーバーコート層である。オーバーコート層17は、例えば鉛フリーの非晶質のSiO、Bを主成分とするほう珪酸ガラスとガラスより熱伝導率の高いアルミナ等が添加されたものである。
【0010】
次に、絶縁基板11の裏面側について、図1の裏面を示した図2およびこの図2のx−x’断面を示した図3とともに説明する。
【0011】
図2において、20,21は端子部であり、電極14,15と同様の方法で形成される。端子部20,21にはそれぞれAg/Pdなどを主体とする材料からなる一対の配線導体22,23の一端が結合される。配線導体22,23のそれぞれの他端は、図3に示すように温度制御用のチップ形状サーミスタ24の電極241,242上の導電性接着剤25,26で電気的に接続する。
【0012】
サーミスタ24は、温度係数が負の大きな値を有する電気抵抗体を用いたもので、温度上昇したときに抵抗値が大きく低下し、温度を抵抗値の大小に変換する熱検出素子からなるセンサーである。
【0013】
導電性接着剤25,26は、導電粒子としてAgが混入されたエポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂等の有機樹脂からなる導電性接着剤を、印刷またはスタンピングやディピングにより塗布する。その上にサーミスタ24を実装、加圧して導電性接着剤25,26を薄くした状態で熱硬化させる。これにより、サーミスタ24を電極14,15に電気的に接続させることができる。
【0014】
271,272は、サーミスタ24と電極22,23の接着補強と発熱による温度変化をサーミスタに効率よく熱伝導させるための例えばエポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等の有機樹脂を主成分とした絶縁性の粒子Al,SiO等を含有した接着剤である。
【0015】
ここで、導電性接着剤25、26は、接着剤が硬化した後の体積抵抗値が2×10−4Ω・cm以下に設定する。この体積抵抗値に設定するには、導電粒子には比抵抗の小さいAg粒子で、粒子径の大きいもの、燐片状の形状をしたものを多く含有させる、もしくは導電粒子の含有量を増す等の方法がある。また、体積収縮率の大きい有機樹脂や、導電粒子に対する濡れ性の良い有機樹脂や添加物を選択することなどでも、体積抵抗値を低くすることができる。これらの方法により体積抵抗値を2×10−4Ω・cm以下に設定することが可能である。
【0016】
このように、導電性接着剤25、26の体積抵抗値が2×10−4Ω・cm以下に設定することで、定着ヒータの温度検出を行うサーミスタへの接続抵抗を小さくすることができ、ヒータの動作温度近傍のサーミスタ抵抗値が低い領域においても、接着剤の接続抵抗の影響を無視でき、温度制御の精度の向上を図ることが可能となる。
【0017】
次に、この発明の定着ヒータの他の実施形態について説明する。この実施形態は、導電性接着剤接着剤25、26は、接着剤が硬化した後の熱伝導率が5W/m・K以上とした点が上記形態と異なる。
導電性接着剤接着剤25、26の熱伝導率を5W/m・K以上とするには、導電粒子には高熱伝導率が大きいAg粒子で、粒子径の大きいものを多く含有させる、導電粒子径や形状の異なる複数の粒子を混合させる、導電粒子の含有量を増す等の方法がある。また、体積収縮率の大きい有機樹脂を使用する、導電粒子に対する有機樹脂の濡れ性を良くさせることなどでも、熱伝導率を高くすることができる。
これらの方法により熱伝導率を5W/m・K以上に設定することが可能である。
【0018】
このように、導電性接着剤25、26の熱伝導率が5W/m・K以上に設定することで、定着ヒータの温度検出を行うサーミスタへの熱伝導率を向上することができ、ヒータ温度のオーバーシュートが少なく、応答速度が早い、温度制御の精度の向上を図ることが可能となる。
【0019】
上記した構成の定着ヒータ100は、定着装置に組み込まれ、例えば図4に示す回路構成により通電され発熱温度が調整される。
【0020】
すなわち、商用電源41を温度制御回路42の制御端子に接続されたソリッドステートリレー43を介して定着ヒータ100の電極13,14に通電されると、直列接続された発熱抵抗体12に電流が流れて発熱する。発熱抵抗体12の発熱により絶縁基板11も温度上昇する。この熱は、絶縁基板11の裏面側に取着されたサーミスタ24の感温部に伝わり、感温部の抵抗値を変化させる。サーミスタ24の抵抗値の変化を出力させ、これを温度制御回路42に入力して設定温度にあるか否かを判定する。温度が設定温度より低い場合はソリッドステートリレー43にオン信号を出力し、設定温度より高い場合はソリッドステートリレー43にオフ信号を出力する。
【0021】
このように、発熱抵抗体12に加える電力を制御することによって、発熱抵抗体12を温度調整する。なお、温度制御回路42はソリッドステートリレー43のオン・オフ制御について述べたが、他にパルス幅変調制御方式等による温度調整でも構わない。
【0022】
そして、定着ヒータ100は電極13,14に電力が供給されると、発熱抵抗体12にそれぞれ電流が流れ、発熱抵抗体12は長手方向にほぼ均一の発熱温度分布を呈することになる。この実施形態では、例えば発熱抵抗体12の抵抗値を25Ωとし、100Vの電圧を印加することにより4Aの電流が流れ、400Wの発熱量を得ることが可能となる。
【0023】
通常は、上述したように絶縁基板11の裏面側に設けたサーミスタ24が定着ヒータ100の温度を検出して温度制御回路42を通じてソリッドステートリレー43をオン・オフ制御し所定の温度に制御している。
【0024】
次に、図5を参照し、上記した定着ヒータの実施形態を定着装置200に実装した場合の、この発明の定着装置の一実施形態について説明する。図中定着ヒータ100については、図1〜図3と同じであり、同一部分には同一の符号を付してその説明は省略する。
【0025】
図5において、201は回転軸202で回転自在に回転される加圧ローラで、その表面に耐熱性弾性材料たとえばシリコーンゴム層203が嵌合してある。加圧ローラ201の回転軸202と対向して定着ヒータ100が並置して図示しない基台内に取り付けられている。
【0026】
定着ヒータ100の周囲にはポリイミド樹脂等の耐熱性のシートからなるエンドレスのロール状の定着フィルム204が循環自在に巻装されており、発熱抵抗体12を介した絶縁基板11真上のオーバーコート層18の表面は、この定着フィルム204を介して加圧ローラ201のシリコーンゴム層203と弾接している。
【0027】
定着装置200において定着ヒータ100は電極13,14に接触したりん青銅板等に銀メッキを施した弾性が付与された図示しないコネクタを通じて通電され、発熱した発熱抵抗体12のオーバーコート層17上に設けられた定着フィルム204面とシリコーンゴム層203との間で、トナー像T1がまず定着フィルム204を介して定着ヒータ100により加熱溶融され、少なくともその表面部は融点を大きく上回り完全に軟化溶融する。この後、加圧ローラ201の用紙排出側では複写用紙Pが定着ヒータ100から離れ、トナー像T2は自然放熱して再び冷却固化し、定着フィルム204も複写用紙Pから離反される。
【0028】
このように、トナー像T1は一旦完全に軟化溶融された後、加圧ローラ201の用紙排出側で再び冷却されることから、トナー像T2の凝縮力は非常に大きくなものとなっている。
この実施形態では、高い耐電圧特性から得られる熱効率のよい定着ヒータよる定着装置を実現できる。
【0029】
次に、図6を参照して、この発明に係る定着ヒータ、この定着ヒータを用いた定着装置を搭載した複写機を例とした、この発明の画像形成装置について説明する。図中、定着装置200の部分は、上記した説明と同じであり、同一部分には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0030】
図6において、301は複写機300の筐体、302は筐体301の上面に設けられたガラス等の透明部材からなる原稿載置台で、矢印Y方向に往復動作させて原稿P1を走査する。
【0031】
筐体301内の上方向には光照射用のランプと反射鏡とからなる照明装置302が設けられており、この照明装置302により照射された原稿P1からの反射光源が短焦点小径結像素子アレイ303によって感光ドラム304上スリット露光される。なお、この感光ドラム304は矢印方向に回転する。
【0032】
また、305は帯電器で、例えば酸化亜鉛感光層あるいは有機半導体感光層が被覆された感光ドラム304上に一様に帯電を行う。この帯電器305により帯電された感光ドラム304には、結像素子アレイ303によって画像露光が行われた静電画像が形成される。この静電画像は、現像器306による加熱で軟化溶融する樹脂等からなるトナーを用いて顕像化される。
【0033】
カセット307内に収納されている複写用紙Pは、給送ローラ308と感光ドラム304上の画像と同期するタイミングをとって上下方向で圧接して回転される対の搬送ローラ309によって、感光ドラム304上に送り込まれる。そして、転写放電器310によって感光ドラム304上に形成されているトナー像は複写用紙P上に転写される。
【0034】
この後、感光ドラム304上から離れた用紙Pは、搬送ガイド311によって定着装置200に導かれて加熱定着処理された後に、トレイ312内に排出される。なお、トナー像が転写された後、感光ドラム304上の残留トナーはクリーナ313を用いて除去される。
【0035】
定着装置200は複写用紙Pの移動方向と直交する方向に、この複写機300が複写できる最大判用紙の幅(長さ)に合わせた有効長、すなわち最大判用紙の幅(長さ)より長い発熱抵抗体121,122を延在させて定着ヒータ100の加圧ローラ201が設けられている。
【0036】
そして、定着ヒータ100と加圧ローラ201との間を送られる用紙P上の未定着トナー像T1は、発熱抵抗体121,122の熱を受け溶融して複写用紙P面上に文字、英数字、記号、図面等の複写像を現出させる。
【0037】
この実施形態では、高い耐電圧特性から得られる熱効率のよい定着ヒータよる定着装置200を用いた複写機300を実現できる。
【0038】
なお、この発明は上記した実施形態に限定されるものではない。例えば、オーバーコート層材は相対する定着フィルムの材質やその他条件によって変える必要があるため特定はできないが、定着フィルムが樹脂の場合、オーバーコート層はガラスや定着フィルムが金属の場合、オーバーコート層は樹脂を組み合わせるのが望ましい。この樹脂としては一般的に摺動性に優れるとされる材料である、ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、およびポリフェニレンサルファイド、エラストマー系、ポリオレフィン系、フッ素等が考えられる。基本的にはどれを使用しても良いが、耐熱性から弾性に富むPI(ポリイミド)、PAI(ポリアミドイミド)等のイミド系が好ましいが、硬度が低すぎると樹脂被膜の方が削れてしまうため、例えば3H以上の硬度は必要である。
【0039】
また、発熱抵抗体の幅、長さの形状や複数本の組み合わせ、配列等についても上記した実施形態に限定されるものではない。サーミスタの実装配置についても同様である。
【0040】
さらに、定着ヒータの用途としては、複写機等の画像形成装置の定着用に用いたが、これに限らず、家庭用の電気製品、業務用や実験用の精密機器や化学反応用の機器等に装着して加熱や保温の熱源としても使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】この発明の定着ヒータに関する一実施形態の構成について説明するための正面図。
【図2】図1の背面図。
【図3】図2のx−x’断面図。
【図4】図1に用いる温度調整について説明するための回路構成図。
【図5】この発明の定着装置に関する一実施形態について説明するための説明図。
【図6】この発明の画像形成装置に関する一実施形態について説明するための説明図。
【符号の説明】
【0042】
11 絶縁基板
12 発熱抵抗体
13,14 電極
16 接続導体
17 オーバーコート層
20,21 端子部
22,23 配線導体
24 サーミスタ
25,26 導電性接着剤
100 定着ヒータ
200 定着装置
300 複写機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱・絶縁性材料で形成される長尺平板状の基板の長手方向に発熱抵抗体と該発熱抵抗体に電力を供給するための電極を形成し、前記発熱抵抗体上にオーバーコート層を施し、前記発熱抵抗体が形成された反対側の前記基板に温度制御用のサーミスタを実装した定着ヒータにおいて、
前記サーミスタは、導電粒子としてAgが含有された有機樹脂の、体積抵抗値が2×10−4Ω・cm以下または熱伝導率が5W/m・K以上とした導電性接着剤により前記電極と電気的に接続したことを特徴とする定着ヒータ。
【請求項2】
加熱ローラと、
前記加熱ローラに対向配置された発熱抵抗体が圧接された請求項1記載の定着ヒータと、
前記定着ヒータと前記加熱ローラとの間を移動可能に設けられた定着フィルムとを具備したことを特徴とする定着装置。
【請求項3】
媒体に形成された静電潜像にトナーを付着させてこのトナーを用紙に転写して所定の画像を形成する形成手段と、
画像が形成された用紙を加圧ローラにより定着フィルムを介して前記定着ヒータに圧接しながら通過させることによって、トナーを定着するようにした請求項2記載の定着装置とを具備したことを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−293133(P2006−293133A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−115484(P2005−115484)
【出願日】平成17年4月13日(2005.4.13)
【出願人】(000111672)ハリソン東芝ライティング株式会社 (995)
【Fターム(参考)】