説明

定着ベルトおよび画像形成装置

【課題】 耐摩耗性、熱伝導性、薄肉化、耐熱性及び柔軟性の向上した定着ベルトを提供する。
【解決手段】 少なくとも金属層と、該金属層上に設けられた離型層とを有する定着ベルトであって、該金属層が電鋳法で製造したニッケル−鉄−コバルト合金からなり、該ニッケル−鉄−コバルト合金中のニッケルの含有率をN(質量%)、鉄の含有率をF(質量%)、及びコバルトの含有率をC(質量%)とした時、該ニッケル−鉄−コバルト合金が、下記式で表される関係を満たすものであることを特徴とする定着ベルト。
20≦N≦80 (1)
10≦F≦50 (2)
10≦C≦70 (3)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真装置及び静電記録装置等の画像形成装置に用いられる定着ベルトおよびそれを備えた画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置において、電子写真プロセス、静電記録プロセス及び磁気記録プロセス等の画像形成プロセス手段部で被記録材(転写材シート、エレクトロファックスシート、静電記録紙、OHPシート、印刷用紙及びフォーマット紙等)に転写方式あるいは直接方式で形成担持させた目的の画像情報の未定着画像(トナー画像)を被記録材面に永久固着画像として加熱定着させる定着装置としては、熱ローラ方式の装置が広く用いられていた。熱ローラ方式の装置においては、ローラ内にハロゲンヒータ等の熱源を用いるものが一般的である。
【0003】
一方、セラミックヒータを熱源として小熱容量の樹脂ベルトあるいは金属ベルトを加熱する方式の装置が広く提案、実施されている。すなわち、この加熱方式の装置では、一般に加熱体としてのセラミックヒータと加圧部材としての加圧ローラとの間に耐熱性ベルト(定着ベルト)を挟ませてニップ部を形成させ、前記ニップ部の定着ベルトと加圧ローラとの間に画像定着すべき未定着トナー画像を形成担持させた被記録材を導入してベルトと一緒に挟持搬送させることで、ニップ部においてセラミックヒータの熱がベルトを介して被記録材に与えられ、この熱とニップ部の加圧力とで未定着トナー画像を被記録材面に熱圧定着させる。
【0004】
このベルト加熱方式の加熱定着装置は、ベルトとして低熱容量の部材を用いてオンデマンドタイプの装置を構成することができる。すなわち、画像形成装置の画像形成実行時のみ熱源としてのセラミックヒータに通電して所定の定着温度に発熱させた状態にすればよく、この方式の定着装置は、画像形成装置の電源オンから画像形成実行可能状態までの待ち時間が短く(クイックスタート性)、スタンバイ時の消費電力も大幅に小さい(省電力)等の利点がある。
【0005】
図3にこの方式の加熱定着装置の構成例を示す。この加熱方式の加熱定着装置では加熱体としてのセラミックヒータ312と加圧部材としての加圧ローラ330との間に耐熱性ベルト(定着ベルト310)を挟ませてニップ部Nを形成させ、前記ニップ部の定着ベルト310と加圧ローラ330との間に画像定着すべき未定着トナー画像tを形成担持させた被記録材Pを導入してベルトと一緒に挟持搬送させることで、ニップ部においてセラミックヒータ312の熱を、定着ベルト310を介して被記録材Pに与え、この熱とニップ部の加圧力とで未定着トナー画像tを被記録材P面に熱圧定着させる。
【0006】
このようなベルト加熱方式におけるベルトとしては耐熱樹脂等が用いられ、特に耐熱性、強度に優れたポリイミド樹脂が用いられている。しかしながら、さらに機械を高速化、高耐久化した場合、樹脂フィルムでは強度が不十分である。このことから、強度に優れた金属、例えばSUS、ニッケル、銅、アルミニウム等を基層とするベルトを用いることが提案されている。
【0007】
また、金属ベルトを利用して、これを電磁誘導による渦電流で自己発熱させる誘導加熱方式も開示されている(例えば、特許文献1、4参照。)。図4にこの加熱方式の加熱定着装置の構成例を示す。また、図5に図4の加熱定着装置の磁場発生手段の模型図を示す。磁性コア417a、417b及び417cは高透磁率の部材であり、励磁コイル418は励磁回路(不図示)から供給される交番電流(高周波電流)によって交番磁束を発生する。定着フィルムの金属層にこの交番磁束が作用することで渦電流が発生し、金属層が発熱する。その熱が定着フィルムの弾性層及び離型層を介して定着フィルムを加熱し、ニップ部Nに通紙される被記録材Pを加熱してトナー画像の加熱定着がなされる。すなわち、磁束によりベルト自身あるいはベルトに近接させた導電性部材に渦電流を発生させ、ジュール熱によって発熱させる加熱定着装置が提案されている。この電磁誘導加熱方式の加熱定着装置においては、発熱域をより被加熱体に近くすることができるため、消費エネルギーの効率アップが達成できる。
ベルト加熱方式の加熱定着装置の定着ベルト駆動方法としては、図3に示したようなベルト内面を案内するフィルムガイドと加圧ローラとで圧接されたベルトを加圧ローラの回転駆動によって従動回転させる方法(加圧ローラ駆動方式)や、図6に示したような、逆に駆動ローラとテンションローラによって張架された無端ベルト状のベルトの駆動によって加圧ローラを従動回転させる方法等がある。
【0008】
金属ベルトを用いた定着ベルトとしては、ヒータ面接触部の表面粗さが0.5μm未満で、40μm前後の厚みのニッケル製定着ベルトを用いたものが開示されている(例えば、特許文献2参照。)。また、外周面に離型性を有するコーティング層を有し、内周面には樹脂層を有する10〜35μm厚みのニッケル製定着ベルトも開示されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0009】
このように、電子写真装置、静電記録装置等の画像形成装置に用いられる定着ベルトには、一般にシームレスのベルト基材が使用されている。例えば、ニッケル材からなるシームレスベルト基材は、一般に硫酸ニッケル浴やスルファミン酸ニッケル浴等による電気鍍金法(電鋳法と表すことがある)によって製造される。
【0010】
特許文献2または3においては、
この電気鍍金法では、所要形状の母型が使用され、その母型の外周上に電気鋳造成膜が行われ、母型から引き抜かれてシームレスベルト基材が製造される。しかし、従来のニッケルシームレスベルトは、定着時に180℃以上に加熱されると、表面が酸化し、例えば、図3に示したベルト加熱方式の加熱定着装置においては、セラミックスヒータ312やベルトガイド316との接触で、徐々に削れが発生し摩擦抵抗が増大する。そのため、加圧ローラ(加圧部材)330と従動するトルクが増え設計通りの回転が得られなくなる。
【0011】
そこで、従来、シームレスベルト基材のベルトガイド側(内周面)には摺動層を設けていた。これは、図3、図4のベルトガイド316、416や摺動板340、440と定着ベルトが接触することによる抵抗を小さくするためである。摺動層としては、ポリイミド樹脂を用いて形成することが提案されている。しかし、ポリイミド樹脂をはじめとするいわゆる樹脂系材料の熱伝導度は基材であるニッケルに比べ約1/300倍である(ニッケル;0.92W/cm・℃、ポリイミド樹脂;2.9×10-3W/cm・℃)ため、立ち上げ時間が長くなってしまい、熱伝導度の良いニッケル材のメリットが隠れてしまう。ポリイミド樹脂は材料コストが高く、ベルト内周面に形成するため工程コストも高くなる。また、ポリイミド樹脂の成膜プロセス中にポリイミド膜に水分が吸収され、ポリイミドの優れた特性を失ってしまうケースも多い。
一方、加熱部材の支持部材と摺動する面に、セラミック粒子又は合成樹脂粒子を金属マトリックス中に分散させた潤滑性金属層が提案されている(例えば、特許文献4参照。)。金属マトリックス中にセラミック粒子または合成樹脂粒子を分散させた金属層を設けることで、加熱部材の支持部材との摺動面の摺動抵抗を低減し、さらに通紙耐久性の向上による摺動抵抗の増加を抑制することができる。しかし、依然として熱伝導度は基材であるニッケルに比べ小さいため、加熱定着装置の高印字スピード化には課題として残っている。
【0012】
一方、塑性加工法による金属チューブも提案されている(例えば、特許文献5参照。)。
塑性加工法とは、絞り加工、引き抜き加工、絞り時に基材を扱く加工法等であるが、チューブの厚みを薄くしようとすると、例えば、引き抜き加工の場合は、ダイスの磨耗が頻繁になり、また厚みも30μm以下に薄くするのは機械的に難しいという欠点を持つ。
【0013】
今後、更なる省エネルギー・省スペースの要求が厳しくなり、画像形成装置に用いられる加熱定着装置の小型化、定着ベルトの内径の小寸法化が進められている。従って、金属層を有する定着ベルトとしては、高温における耐酸化性、潤滑性、熱伝導性、薄肉化、耐熱性及び柔軟性などが要求されている。
【特許文献1】特開平7−114276号公報
【特許文献2】特開平7−13448号公報
【特許文献3】特開平6−222695号公報
【特許文献4】特開2001−6868号公報
【特許文献5】特開2001−225134号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は上記従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、低エネルギー加熱を可能とした加熱定着装置において、耐摩耗性、熱伝導性、薄肉化、耐熱性及び柔軟性の向上した定着ベルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的は以下の本発明により達成される。
【0016】
(1)少なくとも金属層と、該金属層上に設けられた離型層とを有する定着ベルトであって、該金属層が電鋳法で製造したニッケル−鉄−コバルト合金からなり、該ニッケル−鉄−コバルト合金中のニッケルの含有率をN(質量%)、鉄の含有率をF(質量%)、及びコバルトの含有率をC(質量%)とした時、該ニッケル−鉄−コバルト合金が、下記式で表される関係を満たすものであることを特徴とする定着ベルト。
20≦N≦80 (1)
10≦F≦50 (2)
10≦C≦70 (3)
(2)前記離型層と前記金属層との間に弾性層を有する(1)に記載の定着ベルト。
【0017】
(3)前記弾性層がシリコーンゴム、フッ素ゴム及びフルオロシリコーンゴムから形成されたものである(2)に記載の定着ベルト。
【0018】
(4)上記(1)〜(3)の何れかに記載の定着ベルトを備えていることを特徴とする画像形成装置。
【発明の効果】
【0019】
少なくとも離型層と金属層とを有する定着ベルトにおいて、この金属層が電鋳法で製造したニッケル−鉄−コバルト合金からなり、かつ、そのニッケル、鉄及びコバルトの含有率を所定範囲に制御することで、耐摩耗性、特に高速印字に対応可能な耐熱性、熱伝導性、柔軟性、屈曲性に優れた薄肉化した定着ベルトを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の定着ベルトは、少なくとも離型層と金属層を有する定着ベルトであって、前記金属層は、電鋳法で製造したニッケル−鉄−コバルト合金からなり、このニッケル−鉄−コバルト合金のニッケルの含有率をN(質量%)、鉄の含有率をF(質量%)、及びコバルトの含有率をC(質量%)とした時、このニッケル−鉄−コバルト合金が、下記式で表される関係を満たすものであることに特徴がある。
20≦N≦80 (1)、 10≦F≦50 (2)、 10≦C≦70 (3)
これにより、金属層の高硬度化、亀裂や破断等が発生しない高耐熱性、高屈曲性を有する金属層とすることができる。
【0021】
また、本発明の金属層は、この外周面上に形成される弾性層や離型層の硬化時に高温下に一定時間晒される可能性があり、また、定着時にも高温加熱を断続的に受ける場合がある。これらに対応するために更なる耐熱性を有するには、上記ニッケル−鉄−コバルト合金中のニッケル、鉄及びコバルトの含有率が、下記式で表される関係を満たすことが更に好ましい。
20≦N≦40 (4)、 20≦F≦50 (5)、 10≦C≦60 (6)
一方、従来技術の電鋳ニッケルの場合は、前記したように定着時における加熱(180℃以上)により表面が酸化し、図3に示したような、セラミックスヒータ312やベルトガイド316との接触で削れが発生するといった欠点を持つ。しかし、本発明における前記電鋳法で製造した金属層は、ニッケルに加え、更に鉄とコバルトを含有させたニッケル−鉄−コバルト三元系合金であり、高温下に晒される場合でも、金属層1を電鋳法で製造する場合に使用する光沢剤中の硫黄成分による硫黄脆性を起こさない耐熱性を持ち、かつ、高硬度化しても柔軟性を有する。すなわち、本発明の定着ベルトは、相対する構造物と接触しても削れず、耐摩耗性及び良好な滑り性、十分な耐熱性、屈曲性を有することができる。
【0022】
(1)定着ベルト
本発明の定着ベルトについて説明する。
【0023】
図1は本発明の一実施形態における定着ベルト10の層構成を示す模型図である。図1に示した本発明の定着ベルト10は、電鋳法で製造したニッケル−鉄−コバルト合金からなる無端金属ベルトの金属層1と、その外周面上に積層した弾性層2と、さらにその外周面上に積層した離型層3を有する。定着ベルト10において、金属層1側が内周面側(ベルトガイド面側)であり、離型層3側が外周面側(加圧ローラ面側)である。金属層1と弾性層2との間、あるいは弾性層2と離型層3との間には、接着のためにプライマー層(不図示)を設けてもよい。プライマーにはシリコーン系、フッ素系、エポキシ系、ポリアミドイミド系等の公知のものを使用すればよく、その層厚は、通常1〜10μm程度である。
【0024】
また、図2は本発明の他の実施形態における定着ベルト20の層構成を示す模型図である。金属層1の表面に弾性層2を形成せず、金属層1に離型層3を直接形成しても良い。特に被記録材上のトナーのり量が少なく、トナー層の凹凸が比較的小さいものの加熱定着の場合や、熱伝導を良くするための構造の場合は、このような弾性層を省略した形態のものとすることができる。
【0025】
一方、図1、図2に示す定着ベルトの場合でも、加熱定着装置の機構上、ベルトガイドとの絶縁性等が必要な場合は、ポリイミドやポリイミドアミド等の耐熱性の高い樹脂層を金属層1のベルトガイド側の上に積層することは全く問題ない。また、この樹脂層はベルトガイドと摺動するため、固体潤滑剤や熱伝導率を向上させるための酸化物フィラを添加してもよい。この樹脂層の厚みは50μm以下、特に3〜20μm程度が好ましい。
【0026】
本発明の定着ベルト10または20は、セラミックヒータを用いたベルト加熱方式や電磁誘導加熱方式の加熱定着装置に用いることができる。
<金属層>
金属層1は電鋳法で製造した無端金属ベルトからなり、この無端金属ベルトはニッケル−鉄−コバルト合金からなる。本発明の定着ベルトは、金属層1の外周面上に弾性層2及び離型層3を形成する時に、通常200〜300℃に一定時間加熱し硬化させるほか、定着時にも180℃以上の加熱を受ける。また、金属層1を電鋳法で製造する場合、成型精度を向上させ、かつ、電着応力を低減させて脱型を容易にするためには光沢剤中の硫黄成分は必須成分ではあるが、この際に形成される被膜中には鍍金浴中の鉄イオンと光沢剤中の硫黄成分が共析する。金属層は、上記高温加熱下に晒されると硬度が徐々に高くなる傾向を示すが、やがて被膜中の鉄(Fe)と硫黄(S)がFeSという化合物になる反応を起こすことにより、硫黄脆性が起こり硬度劣化が生じ、定着時に亀裂や破断が生じたりする。すなわち、屈曲性が悪くなる。
【0027】
しかしながら、上記ニッケル−鉄−コバルト合金からなる金属層1は、従来技術のニッケル等からなる金属層に比べて耐摩耗性及び耐熱性が優れており、この耐摩耗性には鉄化合物が影響しており、耐熱性にはコバルトが効果があることが判った。
【0028】
上記効果を得るためには、電鋳法で製造したニッケル−鉄−コバルト合金からなる金属層は、このニッケル−鉄−コバルト合金のニッケルの含有率をN(質量%)、鉄の含有率をF(質量%)、及びコバルトの含有率をC(質量%)とした時、このニッケル−鉄−コバルト合金が、次式で表される関係を満たしている必要がある。
20≦N≦80 (1)、 10≦F≦50 (2)、 10≦C≦70 (3)
ニッケル含有率が80質量%以上では鉄またはコバルト添加の効果が小さくなり、充分な耐摩耗性・耐熱性が得られない。また、20質量%以下では、鉄及びコバルトが高含有率となり、被膜の引っ張り応力が著しく強くなり電鋳成膜が難しく、電鋳ベルトの製造には不向きである。
【0029】
鉄含有率が増すと、前記したように硬度が高くなる傾向があり、かつ、鉄化合物も影響して耐摩耗性も良くなるが、前記FeS反応ピーク温度も高温側にシフトし耐熱性も少し良くなる。しかし、鉄含有率が約35質量%付近をピークに耐熱性は減少傾向になり、50質量%以上になると高温加熱下では非常に脆い被膜になりやすい。従って、良好な特性を得られる鉄含有率の範囲は10質量%以上、50質量%以下である必要がある。
【0030】
一方、コバルトに関しては、前記したように硫黄脆性の抑制や高硬度化等の効果が確認されたが、コバルト含有率が20質量%以上では効果があまり変わらなくなる。但し、多く含有しても弊害は認められない。従って、コバルト含有率の範囲としては、他のニッケル及び鉄の含有率に制約され70質量%以下とした。一方、コバルトを含有しないニッケル−鉄合金でも組成によっては耐久性を充分満足したが、耐熱性に対してはコバルトを少量でも含有すれば、耐熱性が飛躍的に向上するため10質量%以上とした。また、コバルトに関しては特に薬品コストが高いため、出来るだけ使用量は低減した方がよいと考える。
【0031】
なお、特に高温加熱下に晒される可能性がある場合や、定着時に高温加熱を断続的に受ける場合などは、特に耐摩耗性及び耐熱性が要求される場合には上記ニッケル−鉄−コバルト合金中のニッケル、鉄及びコバルトの含有率が、次式で表される関係を満たすことが更に好ましい。
20≦N≦40 (4)、 20≦F≦50 (5)、 10≦C≦60 (6)
本発明に使用する上記の所定のニッケル、鉄及びコバルト含有率を有する無端ニッケル−鉄−コバルト合金ベルトは、例えば、好ましくはステンレス鋼等の直円筒形状の母型を陰極として、電鋳プロセスにより製造される。ここで直円筒形状とは長手方向に垂直な横断面が全て同一円形である筒形状をいう。
【0032】
この場合の鍍金浴としては、硫酸塩浴、スルファミン酸塩浴、塩化物浴等の一般的な電鋳浴を用いることができ、ピット防止剤、光沢剤、pH調整剤等を適宜加えてもよい。
【0033】
一例として、ニッケル−鉄−コバルト鍍金浴、並びに鍍金条件を以下に示す。また、各薬品の添加量、鍍金浴温度、及び電流密度を下記に示す範囲内で制御することによって、(1)〜(3)式、更には(4)〜(6)式の条件を満たすニッケル−鉄−コバルト合金ベルトが製造できる。
【0034】
(鍍金浴組成) 硫酸ニッケル六水和物 ;120〜300g/l
硫酸第一鉄七水和物 ;2〜30g/l
硫酸コバルト七水和物 ;10〜80g/l
ピット防止剤(ラウリル硫酸ナトリウム) ;
0.002g/l
光沢剤(サッカリンナトリウム) ; 0.01〜5g/l
pH調整剤
pH調整剤(1N硫酸);適量
(鍍金条件) 電鋳浴温度 ;50±10℃
pH ; 2.7±0.3
陰極電流密度 ;1〜20A/dm2
光沢剤としては、サッカリン、サッカリンナトリウム、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、ナフタレンスルホン酸ナトリウム等の応力減少剤・一次光沢剤が挙げられる。その中で本発明ではサッカリンナトリウムを選択したが、被膜中に取り込まれる硫黄の含有率が増加すると硫黄脆性が生じやすいことから、鍍金浴中で5g/l以下で制御することが好ましい。また、定着ベルトとして要求される強度や屈曲性等を得るため、或いは脱型に好適な応力調整を図るために、0.01g/l以上にすることが好ましいと判った。
【0035】
金属層1の厚みは、図3に示すセラミックヒータを用いたベルト加熱方式の加熱定着装置に用いる場合、熱容量を小さくしてクイックスタート性を向上させるために、厚みは100μm以下、特に50μm以下または10μm以上であることが好ましい。本発明における電鋳ニッケル−鉄−コバルト合金は、電鋳ニッケルと比較してバネ性が高いため電鋳ニッケルより薄くしても塑性変形しにくい。加圧ローラとのニップ部を大きくとるためには金属層1の厚みを薄くした方がよく将来のニーズも多い。そういった点で本発明における電鋳ニッケル−鉄−コバルト合金は前記した塑性加工法で作製されるSUSチューブより有利である。
【0036】
また、図4に示す電磁誘導加熱方式の加熱定着装置の場合、金属層1の厚みは、次式で表される表皮深さより厚く、通常1μm以上、好ましくは10μm以上とし、また、通常200μm以下、好ましくは100μm以下、より好ましくは70μm以下とする。
【0037】
表皮深さσ[m]は、励磁回路の周波数f[Hz]と透磁率μ[−]と固有抵抗ρ[Ωm]で
σ=503×(ρ/fμ)1/2
と表される。これは電磁誘導で使われる電磁波の吸収の深さを示しており、これより深いところでは電磁波の強度は1/e(eは自然対数の底を表す)以下になっており、逆にいうとほとんどのエネルギーはこの深さまでで吸収されている。
【0038】
本発明における電鋳ニッケル−鉄−コバルト合金は、電鋳ニッケルに比べ鉄量が多いほど磁束密度が大きくなるが、固有抵抗がニッケルに比べ2〜5倍大きくなる。このためあまりに薄いと、ほとんどの電磁エネルギーが吸収しきれなくなり、効率が悪くなってくることがある。また、金属層1があまりに厚いと剛性が高くなり、また、屈曲性が悪くなって回転体として使用しにくくなることがある。
【0039】
<弾性層>
弾性層2は設けても設けなくてもよい。弾性層2を設けることにより、ニップ部において被加熱像を覆って熱の伝達を確実にするとともに、金属層1の復元力を補って回転、屈曲による疲労を緩和することができる。また、弾性層2を設けることにより、定着ベルトの離型層表面の未定着トナー像表面への追従性を増し、熱を効率よく伝達させることが可能になる。弾性層2を設けた定着ベルトは、特に、未定着トナーののり量が多いカラー画像の加熱定着に適している。
【0040】
弾性層2の材質は特に限定されず、耐熱性がよく、熱伝導率がよいものを選べばよい。弾性層2の材質としては、シリコーンゴム、フッ素ゴム、フルオロシリコーンゴム等が好ましく、特にシリコーンゴムが好ましい。
【0041】
弾性層2を形成するために使用されるシリコーンゴム原料としては、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルトリフルオロプロピルシロキサン、ポリメチルビニルシロキサン、ポリトリフルオロプロピルビニルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、ポリフェニルビニルシロキサン、これらポリシロキサンを構成する単量体単位からなる共重合体等を例示することができる。
【0042】
なお、必要に応じて、弾性層2に乾式シリカ、湿式シリカ等の補強性充填材、炭酸カルシウム、石英紛、珪酸ジルコニウム、クレー(珪酸アルミニウム)、タルク(含水珪酸マグネシウム)、アルミナ(酸化アルミニウム)、ベンガラ(酸化鉄)等の充填剤を弾性層に含有させてもよい。
【0043】
弾性層2の厚みは良好な定着画像品質を得るために10μm以上、特に50μm以上が好ましく、1000μm以下、特に500μm以下が好ましい。カラー画像を印刷する場合、特に写真画像等では被記録材P上で大きな面積に渡ってベタ画像が形成される。この場合、被記録材の凹凸あるいはトナー層の凹凸に加熱面(離型層3)が追従できないと加熱ムラが発生し、伝熱量が多い部分と少ない部分とで画像に光沢ムラが発生する。つまり、伝熱量が多い部分は光沢度が高くなり、伝熱量が少ない部分では光沢度が低くなる。弾性層2があまりに薄いと、被記録材あるいはトナー層の凹凸に追従しきれず画像光沢ムラが発生してしまうことがある。また、弾性層2があまりに厚いと、弾性層の熱抵抗が大きくなりクイックスタートを実現するのが難しくなることがある。
【0044】
弾性層2の硬度(JIS−K−6253)は、画像光沢ムラの発生が十分抑制され、良好な定着画像品質が得られるので60゜以下が好ましく、45゜以下がより好ましい。
【0045】
弾性層2の熱伝導率λは、2.5×10-3[W/cm・℃]以上が好ましく、3.3×10-3[W/cm・℃]以上がより好ましい。また、8.4×10-3[W/cm・℃]以下が好ましく、6.3×10-3[W/cm・℃]以下がより好ましい。熱伝導率λがあまりに小さい場合には、熱抵抗が大きくなり定着ベルトの表層(離型層3)における温度上昇が遅くなることがある。熱伝導率λがあまりに大きい場合には、弾性層2の硬度が高くなったり、圧縮永久歪みが大きくなってしまうことがある。
【0046】
弾性層2は公知の方法、例えば、液状のシリコーンゴム等の材料をブレードコート法等の手段によって金属層上に均一な厚みでコートし、加熱硬化する方法、液状のシリコーンゴム等の材料を成形型に注入し加硫硬化する方法、押出成形後に加硫硬化する方法、射出成形後に加硫硬化する方法等で形成すればよい。
【0047】
<離型層>
離型層3の材料は特に限定されず、離型性、耐熱性のよいものを選べばよい。離型層3としては、PFA(テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルエーテル共重合体)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、FEP(テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体)等のフッ素樹脂、シリコーン樹脂、フルオロシリコーンゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム等が好ましく、PFAがより好ましい。なお、必要に応じて、離型層にはカーボン、酸化すず等の導電剤等を含有させることができる。導電剤の含有量は特に限定されないが、一般的には、離型層を形成する材料の全質量に対し10質量%以下で含有させるのが好ましい。
【0048】
離型層3の厚みは1μm以上とするのが好ましく、また、100μm以下とするのが好ましい。離型層3があまりに薄いと、離型層3の厚みムラで離型性の悪い部分ができたり、耐久性が不足したりすることがある。また、離型層3があまりに厚いと、熱伝導性が悪化することがあり、特に樹脂系の離型層の場合は硬度が高くなって弾性層2の効果が減衰してしまうことがある。
【0049】
離型層3は公知の方法、例えば、フッ素樹脂系の離型層を形成する場合、フッ素樹脂粉末を分散し塗料化したものをコートし、乾燥し、焼成する方法により、或いは予めチューブ化したものを被覆し、接着する方法により形成すればよい。また、ゴム系の離型層を形成する場合、液状の材料を成形型に注入し加硫硬化する方法、押出成形後に加硫硬化する方法、射出成形後に加硫硬化する方法等で形成すればよい。
【0050】
また、予め内面にプライマー処理を施したチューブ、予め外周面をプライマー処理した無端電鋳ニッケル−鉄−コバルト合金ベルト間の隙間に液状シリコーンゴムを注入し、加熱してシリコーンゴムを硬化し接着して、弾性層及び離型層を同時に形成することもできる。
【実施例】
【0051】
以下に、実施例を用いて本発明を更に詳しく説明する。
本実施例、比較例における無端金属ベルトのニッケル−鉄−コバルト合金のニッケル、鉄及びコバルト含有率の測定、鉄と硫黄の反応ピーク温度測定、熱処理による硬度測定、及び実施例及び比較例の定着ベルトの空回転耐久試験並びに実機耐久通紙試験は次の通り行った。
【0052】
<ニッケル−鉄−コバルト合金のニッケル、鉄及びコバルト含有率の測定>
フィリップス・エレクトロン・オプティクス株式会社製のエネルギー分散型X線分析装置EDAX Phoenix(商品名)を用いて測定した。
【0053】
<ニッケル−鉄−コバルト合金の鉄と硫黄の反応ピーク温度の測定>
加熱による鉄と硫黄の反応は、通常400℃前後で起こり、理学電機株式会社製の示差走査熱量計DSC8230で測定し、この反応のピーク温度(以後、Tp)を記録した。
【0054】
<ニッケル−鉄−コバルト合金の熱処理による硬度測定>
耐熱性を評価するために熱処理前後の硬度差の比較を行なった。熱処理条件としては、熱処理温度を250〜500℃の間で50℃刻みで設定し、各温度条件において30分保持した後、徐冷し硬度測定を行った。硬度測定は株式会社アカシ社製の硬度測定装置MVK−E(商品名)を用い、荷重50gでビッカース硬度をJIS−Z−2244に基づき測定した。
【0055】
<空回転耐久試験>
[ヒータ加熱方式のベルト加熱方式加熱定着装置による空回転耐久試験]
ヒータ加熱方式のベルト加熱方式加熱定着装置であるキヤノン(株)製フルカラーLBP LASER SHOT「LBP−2040」に、実施例または比較例の定着ベルトを搭載し、加熱定着装置とした。この加熱定着装置を用い空回転耐久試験を以下のように行った。
【0056】
加熱定着装置のヒータ温度を210℃に温調しながら、所定の加圧力で加圧ローラを定着ベルトに押し付け、定着ベルトを加圧ローラに従動回転させた。加圧ローラとしては、厚さ3mmのシリコーンゴムからなる弾性層に30μmのPFAチューブを被覆したφ16mmの加圧ローラを用いた。この空回転耐久試験では、加圧力は200N、ニップ部は6mm×230mmであり、定着ベルトの表面速度は87mm/sとなる条件に定めた。また、ベルトガイドの摺動板(図3の340)に滑りをよくするためにダウコーニング社製のHP3000を0.5g塗布して試験した。
【0057】
この空回転耐久試験のもとで、定着ベルトを目視及び顕微鏡観察を行いながら、亀裂、破断を発生するまでの時間を確認し耐久時間とした。
【0058】
加熱定着装置のプロセススピード及び安全係数より計算した定着ベルトの最低耐久時間は500時間としたが、本発明の定着ベルトの耐久寿命(耐久時間)を700時間以上と設定し、耐久時間が700時間を超えるものについては、700時間を超えたところで試験を終了した。
【0059】
[電磁誘導加熱方式のベルト加熱方式加熱定着装置による空回転耐久試験]
電磁誘導加式のベルト加熱方式加熱定着装置であるキヤノン(株)製フルカラーLBP LASER SHOT「LBP−2710」に、実施例または比較例の定着ベルトを搭載し、加熱定着装置とした。加熱定着装置のヒータ温度を220℃に温調しながら、所定の加圧力で加圧ローラを定着ベルトに押し付け、定着ベルトを加圧ローラに従動回転させた。加圧ローラは、肉厚3mmシリコーン層に30μmのPFAチューブを被覆したΦ30mmのゴムローラを用いた。本実験では、加圧力は200N、定着ニップは幅7mm×長さ230mmであり、定着ベルトの表面速度は高速印字速度である120mm/secの条件で試験した。また、ベルトガイドの摺動板(図4の440)に滑りをよくするためにダウコーニング社製のHP3000を0.5g塗布して試験した。
【0060】
<実機耐久通紙試験>
上記空回転耐久試験に用いた加熱定着装置をキヤノン(株)製フルカラーLBP LASER SHOT「LBP−2040」に搭載した画像形成装置により、10万枚の画像を画出しして実機耐久通紙試験を行った。
【0061】
この実機耐久通紙試験にあたり、加圧ローラの加圧力を200N、ニップ部を6mm×230mmとし、定着温度を210℃、プロセススピードを87mm/sに設定した。
[実施例1〜14、比較例1〜11]
【0062】
<無端金属ベルトの作製・評価>
電鋳法で製造したニッケル−鉄−コバルト合金からなる無端定着ベルトを以下の手段で作製した。鍍金条件を以下に示す。
【0063】
硫酸ニッケル六水和物 ;20〜140g/l
硫酸第一鉄七水和物 ;5〜60g/l
硫酸コバルト七水和物 ;0〜50g/l
ホウ酸 ;25g/l
塩化ナトリウム ;25g/l
ラウリル硫酸ナトリウム;0.02g/l
サッカリンナトリウム ;1g/l
pH調整(1N硫酸) ;適量
電鋳浴温度 ;50℃
pH ;2.7±0.3
陰極電流密度 ;2〜12A/dm2
上記ニッケル−鉄−コバルト鍍金浴にステンレス鋼製の直円筒形状の母型を浸漬して、陰極とし、この母型の外周面上にニッケル−鉄−コバルト合金を30分間電析した後に、母型から取り外し、内径Φ24mm、厚み30μm及び両端部を仮カットし長さを約300mmにした無端金属ベルトを作製した。
【0064】
そして、上記無端金属ベルトの外周面上に弾性層2として300μmのシリコーンゴム層(東レダウコーニング社製DY35−4039A/B:)、更に離型層3として30μmのPFAチューブ(グンゼ社製SME、熱収縮タイプ)を各々プライマー塗布を介して順次積層し、両端部をカットして最終的には長さ250mmの定着ベルトを作製した。
【0065】
また、金属層1の仮カット片を用いて、前記ニッケル−鉄−コバルト合金ベルトのニッケル、鉄及びコバルトの含有率と、FeS反応のピーク温度測定を行った。更にその中で一部条件については前記熱処理による硬度変化を確認した。一方、作製した上記定着ベルトについては、図3のセラミックスヒータ加熱方式及び電磁誘導加熱方式の加熱定着装置による前記空回転耐久試験、並びにこれらの加熱定着装置を搭載した画像形成装置を用いて前記実機耐久通紙試験を行った。
【0066】
本実施例及び比較例で用いた無端金属ベルトの作製条件、並びにその測定結果を表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
表1のニッケル−鉄−コバルト合金のニッケル、鉄及びコバルトの含有率と、FeS反応のピーク温度Tpをそれぞれ測定結果をもとにプロットした結果を図7に示す。
【0069】
表1及び図7によれば、実施例1〜14の定着ベルトはニッケル−鉄−コバルト合金中のニッケルの含有率をN(質量%)、鉄の含有率をF(質量%)、及びコバルトの含有率をC(質量%)とした時、請求項1の20≦N≦80、10≦F≦50、10≦C≦70の範囲にあり、FeS反応ピーク温度も高く、耐久時間も全て500時間を越えた。
【0070】
また、上記範囲の中でもニッケル、鉄、コバルトの含有率が、20≦N≦40、20≦F≦50、10≦C≦60の範囲にあるものは、更に耐熱性、耐久性がよく、全て700時間に到達したため実験を途中で中止した。
【0071】
これに対し、比較例1〜11の定着ベルトは、実施例1〜14で示した上記ニッケル、鉄及びコバルトの含有率の範囲を、少なくとも1条件は適合しないニッケル−鉄−コバルト合金からなる金属層を用いた定着ベルトである。
【0072】
まず比較例1及び比較例2に示すニッケル含有率が20質量%以下の金属ベルトは非常に引っ張り応力が強く、鍍金中に剥がれたり、また、電鋳成膜できても母型からの脱型が困難となり、金属ベルト形状を得ることができなかった。
【0073】
比較例8に示すニッケル含有率が80質量%以上の金属ベルトを用いた定着ベルトは、鉄含有による耐摩耗性効果が十分に得られず、空回転耐久試験中に内周面が摺動摩耗し、その金属粉が要因で加圧ローラの回転トルクが大きくなったため430時間で中止した。
【0074】
その他の比較例のうち、比較例4に示すニッケル−鉄合金の鉄含有量が約20質量%である金属ベルトは耐久時間700時間をクリアしたが、その他は耐久試験が保たず数十時間で亀裂が入る条件が多かった。鉄含有量が55質量%以上の金属ベルト表面はマット状や突起異物等が発生しやすく、これらが亀裂の要因となっていた。
【0075】
また、表1の実施例の中でFeS反応ピーク温度が460℃以上と高めで、耐久試験が700時間以上持続した条件の中から実施例4及び実施例5を、比較例の中から、比較例4及び比較例9を計4条件選択し、それぞれの金属層のカット片を用いて、熱処理前後の硬度変化を確認した。図8に結果を示す。
【0076】
実施例4及び実施例5では、コバルトの効果として、約400℃まで硬度が増加傾向にあり、熱劣化しない。かつ、硬度もビッカース硬度で450から900まで高くなった。一方、比較例4及び比較例9では、大体300℃くらいまでしか耐熱性が保たず、その時のビッカース硬度も600未満にとどまった。
【0077】
比較例4は耐久試験結果は実施例と同様、良好であったが、耐熱性はコバルトを含有する金属ベルトに及ばなかった。
【0078】
以上の結果から、図7に示すグレイに塗り潰した領域が、電鋳ニッケル−鉄−コバルト合金において、耐熱性が高く、かつ、耐久性も高い領域であることが判った。
【0079】
実験例2
また、実機耐久通紙試験においては、実施例1〜14の定着ベルトを搭載したものは、トラブルもなく10万枚の画出し耐久試験を終了した。一方、成型できなかった比較例1および2を除く、比較例3〜11の定着ベルトを搭載したものは、1万枚以下で画像に乱れが発生し通紙不可能となったり、試験自体を行う機械的強度を持ち合わせていなかったりと、問題が見受けられた。
【0080】
実験例3
また、電磁誘導加熱方式のベルト加熱方式の加熱定着装置による空回転耐久試験においては、実施例1〜14の定着ベルトを搭載したものは、何れも500時間の耐久時間をクリアした。更にその中で実施例1〜11の定着ベルトを搭載したものは、何れも700時間をクリアし、十分な耐熱耐久性を有することが確認された。一方、比較例3〜11の定着ベルトは、耐久時間が500時間以下で亀裂が入り、耐久が不良であった。
【0081】
実施例1〜14の定着ベルトを搭載したものは、トラブルもなく10万枚の画出し耐久試験を終了した。一方、比較例3〜11の定着ベルトを搭載したものは、1万枚以下で何れも画像に乱れが発生し、そのうち通紙不可能になった。
【0082】
本発明によれば、耐摩耗性、熱伝導性、薄肉化、耐熱性及び柔軟性の向上した定着ベルトを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の定着ベルトの層構成の一例を示した概略図である。
【図2】本発明の定着ベルトの層構成の一例を示した概略図である。
【図3】第1の実施形態例に用いた像加熱装置の概略構成図である。
【図4】第2の実施形態例に用いた像加熱装置の概略構成図である。
【図5】第1の実施形態例に用いた像加熱装置の磁場発生手段模型図である。
【図6】その他の実施形態例に用いた像加熱装置の概略構成図である。
【図7】ニッケル−鉄−コバルト合金の組成比に対するFeSの反応ピーク温度を示し たマップである。
【図8】ニッケル−鉄−コバルト合金の組成比に対して、熱処理温度による硬度変化を 示す。(保持時間;30分)
【符号の説明】
【0084】
1 金属層
2 弾性層
3 離型層
10、20 定着ベルト
300、400、600 加熱定着装置
310、410、610 定着ベルト
312 セラミックヒータ
312b 発熱層
312c 保護層
316、416、616 ベルトガイド
322、422、622 加圧用剛性ステイ
330、430、630 加圧部材(加圧ローラ)
330a、430a 芯金
330b、430b 弾性層
340、440、640 摺動板
416a、416b ベルトガイド
417a、417b、417c 磁性コア
418、618 励磁コイル
418a、418b 給電部
419、619 絶縁部材
426 温度センサ
427 励磁回路
617a、617b、617c 磁性コア
631 駆動ローラ
632 テンションローラ
M 駆動手段
N ニップ部
t 定着トナー画像
P 被記録材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも金属層と、該金属層上に設けられた離型層とを有する定着ベルトであって、該金属層が電鋳法で製造したニッケル−鉄−コバルト合金からなり、該ニッケル−鉄−コバルト合金中のニッケルの含有率をN(質量%)、鉄の含有率をF(質量%)、及びコバルトの含有率をC(質量%)とした時、該ニッケル−鉄−コバルト合金が、下記式で表される関係を満たすものであることを特徴とする定着ベルト。
20≦N≦80 (1)
10≦F≦50 (2)
10≦C≦70 (3)
【請求項2】
前記離型層と前記金属層との間に弾性層を有する請求項1に記載の定着ベルト。
【請求項3】
前記弾性層がシリコーンゴム、フッ素ゴム及びフルオロシリコーンゴムから選ばれたゴムから形成されたものである請求項2に記載の定着ベルト。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の定着ベルトを備えていることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−194988(P2006−194988A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−4201(P2005−4201)
【出願日】平成17年1月11日(2005.1.11)
【出願人】(000104652)キヤノン電子株式会社 (876)
【Fターム(参考)】