説明

定着ローラ及びその製造方法

【課題】印刷スピードの高速化に対応可能であり、定着性、離型性を低下させることなく定着ローラと加圧ローラとのスリップの発生を低減可能な定着ローラ及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】ポリイミドからなる管状の基材の外周面に直接又は中間層を介して設けられたフッ素樹脂層を有する定着ローラであって、前記基材の内周面には複数の不連続な凸部又は凹部が形成されており、前記凸部の頂面又は前記凹部の底面は面積700μm以上の略平面部を有し、前記内周面と前記凸部又は前記凹部との高低差が5μm以上16μm以下である定着ローラ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機やプリンター等の画像形成装置において記録紙等の被転写物上に転写されたトナー画像を加熱して定着するために用いられる定着ローラ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複写機、レーザービームプリンター等の画像形成装置において、その印刷・複写の最終段階では加熱源を内部に設けた定着ローラと加圧ローラとを圧接させ、その間にトナー画像が転写された被転写物を通過させ、未定着のトナーを加熱溶融させる熱定着方式が一般に行われている。
【0003】
図1は定着ローラと加圧ローラを使用した熱定着方式の一例を示す図である。定着ローラ11と加圧ローラ12の間にトナー15像が形成された紙(被転写材)を挟み込んで通過させる。定着ローラ11の内部にはヒータ13が配置されており、ヒータ13からの熱を定着ローラ11を通じて被転写材に伝えることでトナー15が被転写材に定着される。加圧ローラは回転駆動され、定着ローラは加圧ローラとの摩擦力によって従動回転する。
【0004】
定着ローラとしては、ポリイミドや金属等からなる筒状の基材の外周面(被転写材に接する面)に直接又は他の層を介してフッ素樹脂層を形成した構造のものが一般に使用されている。他の層として、弾性、離型性、耐摩耗性等が優れるゴム等を用いたものは定着スリーブと呼ばれることもある。
【0005】
図2は定着ローラ11の一例を示す断面模式図である。図2(a)では、管状の基材21の外周面にフッ素樹脂層23が形成されている。また図2(b)では、管状の基材21の外側をゴム弾性層22が被覆しており、ゴム弾性層22の外周面にフッ素樹脂層23が形成されている。各層の間には、層間の接着力を向上するためのプライマー層を設けても良い。このような定着ローラとして、特許文献1にはポリイミドを基材とするものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2746213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
トナーを良好に定着させるためには、トナーが定着ローラに残留して二重転写となるいわゆるオフセットを防ぐ必要があり、定着ローラには定着性の他にトナーに対する離型性が求められる。また加圧ローラの圧力に耐えられるように耐摩耗性や耐久性等の機械特性が求められる。定着性、オフセット性を高めるためには定着ローラの表面を平滑にする必要がある。そのため、ポリイミドからなる管状の基材は外周面、内周面ともに平滑とし、さらに最外層にはフッ素樹脂層を設けて離型性を高めている。
【0008】
一方、図1に示すように定着ローラ11の内部にはヒータ13が配置されており、駆動時においてヒータ13からの熱を効率よく定着ローラ11に伝えるために、定着ローラ11の内周面とヒータ13の表面が密着した状態で回転する必要がある。すなわち、定着ローラ及び加圧ローラの駆動時には定着ローラ11の内面とヒータ13の表面とが常に摩擦した状態となっている。この摩擦力が一定であれば加圧ローラの回転に伴って定着ローラが良好に従動回転するが、定着ローラ11の内面とヒータ13の表面との間の摩擦力が減少してスリップが生じると、定着ローラが良好に回転しなくなる。スリップの発生を防ぐため、定着ローラ内面と接するヒータ表面の材質や接触面へのグリースの塗布条件などが従来検討されていたが、駆動速度によっては要求特性を満足できないことがあった。
【0009】
そこで本発明は、定着性、離型性を低下させることなく定着ローラとヒータとのスリップの発生を低減可能な定着ローラ及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは定着ローラの内周面、すなわちポリイミドからなる基材の内周面を粗面化することで定着ローラと加圧ローラとのスリップを防止できることを見いだした。内周面を粗面化しているため定着ローラの外周部への影響は少なく、離型性や定着性を低下させることなくスリップの発生を防止できる。
【0011】
しかし表面の凹凸の深さを制御せず、例えばサンドペーパーのようなもので単に表面を粗面化したものでは、スリップの発生は防止できるが定着ローラの内部に配置されているヒータ等の部品と定着ローラとの摩擦力によって駆動時の発生音が大きくなることがわかった。そのため内周面の粗面化の程度についてさらに検討を行うことで本発明を完成した。
【0012】
すなわち本発明は、ポリイミドからなる管状の基材の外周面に直接又は中間層を介して設けられたフッ素樹脂層を有する定着ローラであって、前記基材の内周面には複数の不連続な凸部又は凹部が形成されており、前記凸部の頂面または前記凹部の底面は面積700μm以上の略平面部を有し、前記内周面と前記凸部又は前記凹部との高低差が5μm以上16μm以下である定着ローラである(請求項1)。
【0013】
図3は本発明の定着ローラに使用する、ポリイミドからなる管状の基材(以下、ポリイミドチューブと記載)の模式図である。矢印の方向が、ポリイミドチューブの長手方向である。ポリイミドチューブの外周面26は平滑な面としているが、ポリイミドチューブの内周面24には多数の凸部又は凹部25が形成されている。なお高低差のある面において、ある面を凸部と呼ぶか凹部と呼ぶかは相対的なものであるが、この明細書中では連続している面を基準面(内周面)とし、連続している面よりも高い(厚みが厚い)部分を凸部、連続している面よりも低い(厚みが薄い)部分を凹部とする。凸部、凹部の両方を設けても良いが、ここでは便宜的に凸部又は凹部の一方のみが形成されているとしてその表面状態を説明する。
【0014】
図4は内周面に凸部を有するポリイミド基材の断面模式図であり、図3において25が凸部である場合のA−A’断面である。ポリイミドチューブ21の内周面33は連続しており、内周面よりも高さが高い凸部31が複数形成されている。凸部31は任意の形状とできるが凸部31の頂面32は面積700μm以上の略平面部を有している必要がある。略平面部の面積がこれよりも小さく表面が尖った形状の凸部の場合には、定着ローラ内周面と、定着ローラ内部に配置される部品との間での駆動音が大きくなる。また凸部と内周面との高低差(図4中のa)は5μm以上16μm以下とする。高低差が5μmよりも少ない場合はスリップ抑制効果が少なくなる。高低差が16μmよりも大きくなる場合、駆動性能への影響は少ないが、ポリイミド基材の厚みが薄い薄膜ローラにおいては定着ローラの強度が低下するため好ましくない。なお高低差の指標としては、JIS B0601−1982規格の表面粗さ測定機で測定したRz(十点平均粗さ)を用いることができる。
【0015】
内周面に凸部31を設けた場合、凸部の頂面32はポリイミドチューブ21の最外面となる。この頂面32は定着ローラの内部に設置されたヒータ等の部品と接する。この頂面32を高低差が3μm以下の平滑な面とすると、ヒータ等の部品と定着ローラとの摩擦力による駆動音の発生音をさらに抑えることができ好ましい(請求項6)。高低差は、JIS B0601−1982規格の表面粗さ測定機によって凸部の表面状態を実測し、一つの凸部の頂面において最も高い部分と最も低い部分との差とし、3点の平均値とする。
【0016】
図5は内周面に凹部を有するポリイミド基材の断面模式図であり、図3において25が凹部である場合のA−A’断面である。ポリイミドチューブ21の内周面33は連続しており、内周面よりも高さが低い凹部34が複数形成されている。凹部34は任意の形状とできるが凹部34の底面35は面積700μm以上の略平面部を有している必要がある。略平面部の面積がこれよりも小さく底面に向かって尖った形状の凹部の場合には、定着ローラ内周面と、定着ローラ内部に配置される部品との間での駆動音が大きくなる。また凹部と内周面との高低差(図5中のa)は5μm以上16μm以下とする。高低差が5μmよりも少ない場合はスリップ抑制効果が少なくなり、高低差が16μmよりも大きくなると駆動性能への影響は少ないが、ポリイミド基材の厚みが薄い薄膜ローラにおいては定着ローラの強度が低下するため好ましくない。また凹部を形成する場合、凹部34以外の内周面(連続した面)の合計は、凹部34と内周面とを合計した全面積に対して10%以上50%以下とすることが好ましい。10%よりも小さい場合には定着ローラの内周面と定着ローラ内部に配置される部品との間で発生する駆動音が大きくなり、50%よりも大きい場合にはスリップ抑制効果が少なくなる。
【0017】
内周面に凹部34を設けた場合、内周面33がポリイミドチューブ21の最外面となり定着ローラの内部に設置されたヒータ等の部品と接する。この場合、内周面33を高低差が3μm以下の平滑な面とすると、ヒータ等の部品と定着ローラとの摩擦力による駆動音の発生音をさらに抑えることができ好ましい(請求項6)。高低差は、JIS B0601−1982規格の表面粗さ測定機によって二つの凹部に挟まれた内周面の表面状態を実測し、その内周面の頂面において最も高い部分と最も低い部分との差とし、3点の平均値とする。
【0018】
ポリイミドチューブの内周面に、凸部と凹部の両方を形成しても良い(請求項8)。この場合も、凸部の頂面に面積700μm以上の略平面部を有していることが必要である。また前記凸部と前記凹部との高低差は5μm以上16μmとする。この場合も凸部の頂面を高低差が3μm以下の平滑な面とすることが好ましい。
【0019】
前記凸部又は凹部は規則的に配列していると好ましい(請求項2)。凸部又は凹部が規則的に配列していると、表面の状態を制御しやすい。なお規則的に配列しているとは、凸部又は凹部が同じ形状であることや等間隔で並んでいるものに限定されるものではない。ある一定の規則に従って凸部又は凹部が配列されていれば良く、異なる形状の凸部又は凹部が混在していても良い。
【0020】
前記凸部又は凹部は等間隔に配列しており、前記管の長手方向における前記等間隔のピッチが100μm以上1mm以下であるとさらに好ましい(請求項3)。また、凸部又は凹部の形状としては直径30μm以上300μm以下の略円形状とする態様(請求項4)、凸部又は凹部以外の内周面の形状を線幅90μm以上300μm以下の格子形状とする態様(請求項5)等が挙げられる。
【0021】
図6はポリイミドチューブの内周面に形成された凸部又は凹部の形状を一例を示す模式図である。ポリイミドチューブの内周面42には、略円形状の凸部又は凹部41が形成されている。略円形状の凸部又は凹部は規則的に配列し、管の長手方向(図の矢印方向)において等間隔に配列している。凸部又は凹部のピッチとは、凸部又は凹部の径と、凸部又は凹部同士の間隔との合計であり、図6中のpで示される長さである。なお41が凹部である場合は、連続する内周面における厚みの方が凹部底面での厚みより厚くなるため耐久性が優れる。
【0022】
図7はポリイミドチューブの内周に形成された凸部又は凹部の形状の別の例を示す模式図である。ポリイミドチューブの内周面には略四角形の凸部又は凹部41が形成されており、凸部又は凹部以外の内周面の形状は、管の長手方向(図の矢印方向)に対して斜めの格子形状となっている。この場合、凸部又は凹部のピッチとは、管の長手方向において略四角形の凸部又は凹部の対角線の長さと格子部分の長さとの合計となる。
【0023】
図8はポリイミドチューブの内周に形成された凸部又は凹部の形状のさらに別の例を示す模式図である。ポリイミドチューブの内周面には略四角形の凸部又は凹部41が形成されており、凸部又は凹部以外の内周面の形状は、管の長手方向(図の矢印方向)に対して平行な格子形状となっている。この場合、凸部又は凹部のピッチとは、管の長手方向において略四角形の凸部又は凹部の一辺の長さと格子部分の長さとの合計となる。図7及び図8に示す態様においても、41が凹部である方が、連続する内周面における厚みの方が凹部底面での厚みより厚くなるため耐久性が優れる。なお、凸部又は凹部の形状及びその配列態様はこれらの例に限定されるものではない。
【0024】
前記基材の厚みは50μm以上100μm以下とすることが好ましい(請求項7)。厚みをこの範囲とすることで、耐久性と弾力性とを両立できる。なお基材の厚みとは、凸部又は凹部を含めて高低差が最大の部分の厚みとし、図4に示すように基材の内周面に凸部が形成されている場合は、基材の外周面と凸部の頂面との高低差(図中のt)とし、図5に示すように基材の内周面に凹部が形成されている場合は、基材の外周面と内周面との高さの差(図中のt)とする。
【0025】
前記中間層としてゴム弾性層を有すると、ローラの弾性を高めてトナーの定着性を向上でき、好ましい(請求項8)。ゴム弾性層の厚みは特に限定されないが、100μm以上400μm以下とするとローラの弾性の向上効果が高い。また定着ローラの最外層にフッ素樹脂層を有することで表面の離型性が向上する。フッ素樹脂層の厚みは5μm〜50μm、より好ましくは8μm〜30μmである。
【0026】
さらに本発明は、上記の定着ローラの製造方法として、
円筒状の金型を準備する工程、
該円筒状の金型の表面にポリイミド樹脂ワニスを塗布する工程、
加熱して該ポリイミド樹脂ワニスを乾燥、硬化する工程、
該円筒状の金型から離型して管状のポリイミドからなる基材を得る工程を有し、
該円筒状の金型の外周面には複数の不連続な凸部又は凹部が形成されており、前記凸部の頂面部又は前記凹部の底面部は面積700μm以上の平面部を有し、前記内周面とメント凸部又は凹部との高低差が5μm以上16μm以下である定着ローラの製造方法を提供する(請求項10)。
【0027】
円筒状の金型の外周面に凹凸が形成されていると離型後のポリイミドチューブの内周面にその凹凸模様が転写される。このような製造方法とするとポリイミドチューブの内周面に容易に任意の形態の凹凸をつけることが可能となる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、印刷スピードの高速化に対応可能であり、定着性、離型性を低下させることなく定着ローラと加圧ローラとのスリップの発生を低減可能であると共に、定着ローラ内部の部品と定着ローラ間での摩擦による駆動音を小さくすることが可能な定着ローラを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】従来の定着ローラの使用例を示す模式図である。
【図2】従来の定着ローラの一例を示す断面模式図である。
【図3】本発明の定着ローラに使用するポリイミド基材の斜視模式図である。
【図4】本発明の定着ローラに使用する凸部を有するポリイミドチューブの断面模式図であり、図3のA−A’断面である。
【図5】本発明の定着ローラに使用する凹部を有するポリイミドチューブの断面模式図であり、図3のA−A’断面である。
【図6】本発明の定着ローラに使用するポリイミドチューブの内周面に形成された凸部又は凹部の形状を示す模式図である。
【図7】本発明の定着ローラに使用するポリイミドチューブの内周面に形成された凸部又は凹部の形状を示す模式図である。
【図8】本発明の定着ローラに使用するポリイミドチューブの内周面に形成された凸部又は凹部の形状を示す模式図である。
【図9】本発明の定着ローラに使用するポリイミドチューブの製造方法を説明する模式図である。
【図10】実施例1に使用した金型表面の写真である。
【図11】実施例2に使用した金型表面の写真である。
【図12】実施例3に使用した金型表面の写真である。
【図13】実施例4に使用した金型表面の写真である。
【図14】実施例1の定着ローラ内周面の表面粗さ測定チャートである。
【図15】実施例6の定着ローラ内周面の表面粗さ測定チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図9はポリイミドチューブの製造方法の一例を示す模式図である。円筒状の金型51を周方向に回転させながら、ポリイミド樹脂ワニスをディスペンサ供給部52からディスペンサ吐出口53を経由して円筒状の金型51の表面に供給する。ポリイミドワニスを連続的に供給し、ディスペンサ吐出口53を円筒の軸方向に移動させると供給されたポリイミドワニスが螺旋状に塗布されてポリイミド塗布層54が形成される。ディスペンサ吐出口53を固定して円筒状の金型51を移動させても良い。塗布されたポリイミド樹脂ワニスを加熱すると、ワニス中の溶剤が乾燥するとともにポリイミドが硬化する。硬化したポリイミドを円筒状の金型51から離型すると管状のポリイミド基材(ポリイミドチューブ)が得られる。金型51の材質としては、熱伝導性に優れるアルミニウム、アルミニウム合金、鉄、ステンレス等の金属、アルミナ、炭化ケイ素などのセラミックスなどを使用できる。金型の外径がポリイミドチューブの内径となる。ポリイミドチューブの内径は特に制限されないが、18mm〜30mm程度とするのが好ましい。金型の表面に凹部及び/又は凸部を形成しておくことでポリイミドチューブの内周面に凹部及び/又は凸部を形成することができる。
【0031】
円筒状の金型の外周面に形成された凹凸形状が離型後のポリイミドチューブの内周面に転写される。金型の凹凸形状とポリイミドチューブに形成される凹凸形状とはほぼ同じとなるが、塗布時のポリイミドの厚みよりも加熱後のポリイミドの厚みが薄くなることから、金型での高低差よりもポリイミド基材での高低差の方が小さくなるため、ポリイミド樹脂ワニスの濃度等を考慮して金型に設ける凹凸形状の高低差を設計する必要がある。
【0032】
金型の外周面に凹凸形状を形成する場合、一般に金型を削って加工するため、削られた部分の底面は平滑とならず細かい傷が残ってしまうことがある。削られた部分の底面はポリイミドチューブに転写されると凸部の頂面、又は凹部を形成した場合の内周面となる。金型に凹凸形状を形成した後ブラスト加工、ピーニング加工等を行うと、削られた部分の底面を平滑とでき、削られた部分に塗布されたポリイミドチューブの表面、すなわちポリイミド基材の凸部の頂面又は凹部を形成した場合の内周面を平滑とできる。
【0033】
なお、金型の表面には凹凸をつけず作製後のポリイミドチューブの内周面に加工して凹凸をつけても良い。例えば目の粗いサンドペーパーで目的とする高低差よりも数μm深い高低差となるようにポリイミドチューブの内周面を粗面化して凸部を形成した後、目の細かいサンドペーパーで数μm程度研磨することで凸部の頂部に略平面部を形成する方法が挙げられる。
【0034】
円筒状の金型の外周面にポリイミド前駆体(ポリアミック酸)の溶液であるポリイミドワニスを塗布した後加熱して前駆体を脱水、閉環させてポリイミドチューブを得る。ポリイミドの加熱温度は350℃から450℃である。
【0035】
ポリイミド前駆体はN−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド等の溶媒に溶解させて使用する。ポリイミド前駆体溶液(ポリイミドワニス)としては宇部興産社製のUワニスS等を使用できる。基材の特性を向上するために、ポリイミドワニス中に熱伝導性フィラー、導電性フィラー等の添加物を混合しても良い。このような添加物としてはカーボン、カーボンナノチューブ、シリカ、アルミナ、窒化ケイ素、窒化硼素、窒化アルミニウム等が例示される。
【0036】
加熱後、円筒状の金型から離型することでポリイミドチューブが得られる。なお、金型からの離型はこの段階で行っても良いし、ポリイミドチューブの外周面にゴム弾性層、フッ素樹脂層等を形成した後に行っても良い。
【0037】
ゴム弾性層の材料としては、シリコーンゴムやフッ素ゴム等の耐熱性ゴムを用いることができる。熱伝導性フィラー等の添加物を耐熱性ゴム中に混合しても良い。ゴム弾性層3の厚みは20μm〜100μmとすることが好ましい。弾性層は、基材の外周面に塗布後熱加硫により形成することができる。
【0038】
フッ素樹脂層は、四フッ化エチレン−パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体(FEP)等のフッ素樹脂を含有するフッ素樹脂塗料を用い、ポリイミドからなる基材の外周面、またはゴム弾性層の外周面に塗布した後加熱して形成する。耐熱性の面からPTFE又はPFAを用いることが好ましい。
【0039】
フッ素樹脂塗料中には、フッ素樹脂の他に酸化錫、酸化チタン、アルミナ等の無機フィラーやカーボンブラック、カーボンナノチューブ等の導電性フィラーを添加しても良い。
【0040】
ポリイミド基材又は弾性層とフッ素樹脂層との間にプライマー層を形成すると、基材とフッ素樹脂層との密着性が向上して好ましい。プライマー層の材質は特に限定されないが、ゴム系プライマー材料やフッ素系プライマー材料を使用することができる。またプライマー層中に無機フィラーや導電性フィラーを添加しても良い。
【0041】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明する。実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0042】
(実施例1〜4)
(定着ローラの作製)
表1及び図10〜13に示す4種類の金属製円筒状金型の外周面に、適量の熱伝導性改善用のフィラーを配合したポリイミド前駆体の有機溶媒溶液(宇部興産社製、商品名:U−ワニスS)をディスペンサ法で塗布し、350℃から450℃程度に加熱し、前記前駆体を脱水、閉環させポリイミド化させた後、円筒状芯体から取り外してチューブ状の基材を得た。なおこの基材の寸法は内径18mm、長さ300mm、厚み65μmである。さらにチューブ状基材の外周面に厚み130μmのゴム弾性層及び厚み13μmのフッ素樹脂層を形成した。
【0043】
(表面粗度の測定)
表面粗さ測定機(東京精密(株)製、サーフコム130Aを用いて、上記金型及びポリイミドチューブ内部の表面粗度(Rz)を測定した。
【0044】
(画像形成装置としての評価)
製作した定着ローラを用いて実際に画像を印刷し、スリップの発生、駆動音、画像形成製を評価した。駆動音の評価は、従来品と同等のものを○、従来品よりもやや音が大きいが使用可能なレベルのものを△、従来品よりも音が大きく使用不可能なものを×とした。また画像形成性は、色むら、ざらつき、二重転写等が無く良好な画像が形成できたものを○、それ以外のものを×とした。
【0045】
(実施例5)
外周面が平滑な金属製円筒状金型を研磨して表面粗さ(Rz)を約13.6μmとし、実施例1〜4と同様にして定着ローラを作製した。さらにポリイミドチューブの内周面を#3000のフィニッシングペーパーで研磨した後、実施例1〜4と同様に一連の評価を行った。
【0046】
(比較例1)
表面が平滑な金属製円筒状金型を使用したこと以外は実施例1〜4と同様にして定着ローラを作製し、一連の評価を行った。
【0047】
(比較例2)
実施例5と同様に表面を研磨して表面粗さ(Rz)を約13.6μmとした金属製円筒状金型を使用して定着ローラを作製し、一連の評価を行った。以上の結果を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
実施例1〜4の定着ローラは金型の表面に凹凸パターンを作製して製造したものである。いずれもスリップの発生が無く、また駆動音、画像形成性ともに問題なかった。比較例1の定着ローラは、基材内周面の表面粗さ(Rz)が0.905μmと平滑であり、駆動音、画像形成性は良好であったがスリップが発生した。比較例2の定着ローラは表面を粗くした金型を使用して基材を作製したものである。基材内周面の表面粗さ(Rz)は11.7μmであり高低差は5μm〜16μmの範囲に入っているが、凸部が鋭角状になっており、頂面に略平面部を有していないと予測される。そのため、スリップの発生は起こっていないが駆動音が大きくなった。実施例5の定着ローラは、比較例2と同様に作製した後、表面を研磨して表面粗さ(Rz)を8.4μmとしている。そのため凸部の頂面に略平面部が形成され、比較例2よりも駆動音を小さくすることができた。
【0050】
(実施例6)
金属製円筒状金型を加工して実施例1と同形状の金型を作製した。作製した金型にさらにピーニング加工を行い表面を平滑とした後、実施例1〜4と同様にして定着ローラを作製し、一連の評価を行った。表1に示すように、スリップの発生は無く、また駆動音、画像形成性ともに問題はなかった。金型の高低差は測定していないが、実施例1とほぼ同じ値であると推測される。
【0051】
実施例1の定着ローラと実施例6の定着ローラの内周面を表面粗さ測定機(東京精密(株))製、サーフコム130Aを用いて測定したチャートを元に、凸部頂面の高低差を測定した。実施例1の凸部付近の測定チャートを拡大したものを図14に、実施例6の凸部付近の測定チャートを拡大したものを図15に示す。点線の間の部分32が一つの凸部であり、この凸部頂面において最も高い部分と最も低い部分との差dをチャートから実測する。金型のピーニング加工を行っていない実施例1の定着ローラ(図14)は表面の平滑性がやや悪く凸部頂面の高低差が5μm〜6μm(平均値5μm)であったのに対し、金型のピーニング加工を行った実施例6では凸部頂面の高低差は2μm〜3μm(平均値2μm)であった。また実施例1と実施例6の定着ローラの駆動音を同条件で測定すると、実施例1の駆動音が+0.7dBであったのに対し、実施例6の駆動音は+0dBであった。これより、凸部頂面を平滑とすることで駆動音をより低減できることがわかる。
【符号の説明】
【0052】
11 定着ローラ 12 加圧ローラ
13 ヒータ 14 被転写材
15 トナー 21 ポリイミドチューブ
22 ゴム弾性層 23 フッ素樹脂層
24 ポリイミドチューブの内周面 25 凸部又は凹部
26 ポリイミドチューブの外周面 31 凸部
32 凸部の頂面 33 内周面
34 凹部 35 凹部の底面
41 凸部又は凹部 42 内周面
51 円筒状の金型 52 ディスペンサ供給部
53 ディスペンサ吐出口 54 ポリイミド塗布層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミドからなる管状の基材の外周面に直接又は中間層を介して設けられたフッ素樹脂層を有する定着ローラであって、
前記基材の内周面には複数の不連続な凸部又は凹部が形成されており、前記凸部の頂面又は前記凹部の底面は面積700μm以上の略平面部を有し、前記内周面と前記凸部又は前記凹部との高低差が5μm以上16μm以下である定着ローラ。
【請求項2】
前記凸部又は凹部が規則的に配列している、請求項1に記載の定着ローラ。
【請求項3】
前記凸部又は凹部は等間隔に配列しており、前記管の長手方向における前記等間隔のピッチが100μm以上1mm以下である、請求項2に記載の定着ローラ。
【請求項4】
前記凸部の頂面又は前記凹部の底面の形状が直径30μm以上300μm以下の略円形状である、請求項2又は3に記載の定着ローラ。
【請求項5】
前記基材の凸部の頂面又は前記凹部の底面以外の内周面の形状が、線幅90μm以上300μm以下の格子形状である、請求項2又は3に記載の定着ローラ。
【請求項6】
前記凸部の頂面、又は前記凹部を形成した場合の内周面が、高低差3μm以下の平滑な面である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の定着ローラ。
【請求項7】
前記基材の厚みが50μm以上100μm以下である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の定着ローラ。
【請求項8】
前記中間層としてゴム弾性層を有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の定着ローラ。
【請求項9】
ポリイミドからなる管状の基材の外周面に直接又は中間層を介して設けられたフッ素樹脂層を有する定着ローラであって、
前記基材の内周面には複数の不連続な凸部及び凹部が形成されており、前記凸部の頂面は面積700μm以上の略平面部を有し、前記凸部と前記凹部との高低差が5μm以上16μm以下である定着ローラ。
【請求項10】
ポリイミドからなる管状の基材の外周面に直接又は中間層を介して設けられたフッ素樹脂層を有する定着ローラの製造方法であって、
円筒状の金型を準備する工程、該円筒状の金型の表面にポリイミド樹脂ワニスを塗布する工程、加熱して該ポリイミド樹脂ワニスを乾燥、硬化する工程、該円筒状の金型から離型して管状のポリイミドからなる基材を得る工程を有し、
該円筒状の金型の外周面には複数の不連続な凸部又は凹部が形成されており、前記凸部の頂面部又は前記凹部の底面部は面積700μm以上の平面部を有し、前記内周面と凸部又は凹部との高低差が5μm以上16μm以下である定着ローラの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図14】
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【図15】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−108445(P2012−108445A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−2602(P2011−2602)
【出願日】平成23年1月10日(2011.1.10)
【出願人】(599109906)住友電工ファインポリマー株式会社 (203)
【Fターム(参考)】