説明

定着ロール用付加硬化型シリコーン接着剤及び定着ロール

【解決手段】(A)(A−1)25℃の動粘度が100〜50,000mm2/sで、一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン:5〜95質量%
及び
(A−2)25℃の動粘度が50,000mm2/sを超え500,000mm2/s以下で、一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン:95〜5質量%
からなるオルガノポリシロキサン
(B)式(1)


(AはCH3又はH。mは2以上、nは0以上、m+nは50以上の整数。)
で表されるSiH基を一分子中に少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン
(C)ヒドロシリル化反応触媒
(D)接着付与成分
を含有する定着ロール用付加硬化型シリコーン接着剤。
【効果】本発明のシリコーン接着剤は、未反応のビニル基が残存する硬度が低いシリコーンゴム層に塗布後、数時間経過後でも硬化・接着が可能で、これにより定着ロール製造時の作業性が著しく向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着ロール用付加硬化型シリコーン接着剤及びこれを用いた定着ロールに関する。
【背景技術】
【0002】
複写機、レーザービームプリンター、ファクシミリなどの定着装置に用いられる定着ロールは、通常、芯金上に設けられたシリコーンゴム弾性層に接着剤を用いてフッ素系樹脂層を被覆させたものが使用されている。近年、複写機等の高速化に伴い、定着装置において、定着に要する時間を増加させるため、定着幅(ニップ幅)を広げる目的で、シリコーンゴム弾性層の硬度を低くするようになってきた。
【0003】
一方、定着ロールには高熱伝導率が求められており、熱伝導率を向上させるため、シリコーンゴム弾性層には多くの無機質充填剤が添加されることがある。しかし、無機質充填剤を多量に添加すると、シリコーンゴム弾性層が固くなってしまうという問題がある。定着幅(ニップ幅)を広げるためにはシリコーンゴム弾性層は柔らかい方がよいため、硬化剤の使用量を少なくすることがある。その場合、硬化後のシリコーンゴム弾性層には多くの未反応ビニル基が残存することになる。このようなシリコーンゴム弾性層とフッ素系樹脂層とを接着させるため、従来の付加硬化型シリコーン接着剤(特許第2656194号公報;特許文献1)を用いると、付加硬化型シリコーン接着剤に含まれるオルガノハイドロジェンポリシロキサンがシリコーンゴム弾性層に移行するため、付加硬化型シリコーン接着剤において反応する架橋点が少なくなり、塗布後数時間放置すると硬化しなくなる現象が発生することがあった。なお、本発明に先行する技術文献としては、上記特許文献1に加え、下記の特許文献2〜4が挙げられる。
また、シリコーンゴム弾性層とフッ素系樹脂層とを接着させるための接着剤として、下記の特許文献5,6等も提案されているが、上記課題について十分満足するものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2656194号公報
【特許文献2】特開平6−332334号公報
【特許文献3】特開平9−212028号公報
【特許文献4】特開2004−86163号公報
【特許文献5】特開平4−173328号公報
【特許文献6】特開2007−310212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、シリコーンゴム弾性層とフッ素系樹脂層とを接着してなる定着ロールにおいて、未反応のビニル基が残存するシリコーンゴム弾性層に塗布した後、数時間放置しても硬化・接着することが可能な定着ロール用付加硬化型シリコーン接着剤、及び該付加硬化型シリコーン接着剤でシリコーンゴム弾性層とフッ素系樹脂層とを接着してなる定着ロールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意研究を行った結果、シリコーンゴム弾性層とフッ素系樹脂層とを接着してなる定着ロールにおいて、未反応のビニル基が残存するシリコーンゴム弾性層に塗布する付加硬化型シリコーン接着剤の主剤を低粘度及び高粘度のオルガノポリシロキサンの混合物とすること、更に架橋剤のオルガノハイドロジェンポリシロキサンとして特定の高重合度のものを用いることで、塗布後数時間放置しても、該付加硬化型シリコーン接着剤を硬化させて、シリコーンゴム弾性層とフッ素系樹脂層を接着させることが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
従って、本発明は、下記定着ロール用付加硬化型シリコーン接着剤及び定着ロールを提供する。
[請求項1]
芯金上にシリコーンゴム層が形成され、その上に最外層としてフッ素系樹脂層が被覆されている定着ロールのシリコーンゴム層とフッ素系樹脂層とを接着させるための接着剤であって、
下記(A)〜(D)成分、
(A)(A−1)25℃における動粘度が100〜50,000mm2/sであり、一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン:5〜95質量%、及び
(A−2)25℃における動粘度が50,000mm2/sを超え、500,000mm2/s以下であり、一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン:95〜5質量%
からなるオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)下記式(1)
【化1】


(Aはメチル基又は水素原子であり、互いに同一であっても異なっていてもよい。mは2以上の整数、nは0以上の整数、m+nは50以上の整数である。)
で表されるケイ素原子に結合する水素原子を一分子中に少なくとも2個含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:一分子中に含まれるケイ素原子に結合した水素原子の数が、(A)成分のオルガノポリシロキサンが有するアルケニル基1個当たり、0.5〜10.0個となる量、
(C)ヒドロシリル化反応触媒:触媒量、
(D)接着付与成分:0.01〜20質量部
を含有することを特徴とする定着ロール用付加硬化型シリコーン接着剤。
[請求項2]
(A−1)成分と(A−2)成分とを混合してなる(A)成分の動粘度が、500〜100,000mm2/sであることを特徴とする請求項1記載のシリコーン接着剤。
[請求項3]
上記式(1)におけるm+nが、50〜150の整数であることを特徴とする請求項1又は2記載のシリコーン接着剤。
[請求項4]
更に、(H)シリコーンレジンを含有する請求項1〜3のいずれか1項記載のシリコーン接着剤。
[請求項5]
芯金上に形成されるシリコーンゴム層が、付加硬化型シリコーンゴム組成物の硬化物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載のシリコーン接着剤。
[請求項6]
芯金上に形成されるシリコーンゴム層が、ベースポリマーである少なくとも2個のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンのアルケニル基1個当たり、ケイ素原子に結合した水素原子の数として1個未満となる量のオルガノハイドロジェンポリシロキサンを含む、付加硬化型シリコーンゴム組成物の硬化物であることを特徴とする請求項5記載のシリコーン接着剤。
[請求項7]
芯金上にシリコーンゴム層が形成され、その上に最外層としてフッ素系樹脂層が被覆されている定着ロールであって、請求項1〜6のいずれか1項記載のシリコーン接着剤でシリコーンゴム層とフッ素系樹脂層が接着されてなることを特徴とする定着ロール。
【発明の効果】
【0008】
本発明の定着ロール用付加硬化型シリコーン接着剤は、未反応のビニル基が残存する硬度が低いシリコーンゴム層に塗布後、数時間経過しても硬化・接着させることが可能であり、これによって定着ロールを製造する場合の作業性が著しく向上するものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳しく説明する。
(A)アルケニル基含有オルガノポリシロキサン
(A)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、本発明の接着剤の主剤であり、(A−1)成分及び(A−2)成分のオルガノポリシロキサンを混合して調製されるものである。この場合、(A−1)成分及び(A−2)成分のオルガノポリシロキサンとしては、いずれもジオルガノポリシロキサンであることが好ましい。ここで、(A−1)成分は、25℃における動粘度が100〜50,000mm2/sである一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサンであり、(A−2)成分は25℃における動粘度が50,000mm2/sを超え、500,000mm2/s以下である一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサンである。なお、上記粘度は、回転粘度計による測定値である。
【0010】
上記(A−1)成分及び(A−2)成分の一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサンに含まれるアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基等の炭素原子数2〜8程度の基が挙げられ、特に、ビニル基が好ましい。アルケニル基の結合位置としては、オルガノポリシロキサンの分子鎖末端及び分子鎖側鎖中のいずれでもよく、分子鎖末端及び分子鎖側鎖中両方にあってもよい。
【0011】
(A−1)成分及び(A−2)成分のアルケニル基以外のケイ素原子に結合する有機基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;クロロメチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフロロプロピル基等の水素原子の一部又は全部がハロゲン原子で置換された炭化水素基等の炭素原子数1〜10程度の基が挙げられ、特に、メチル基、フェニル基、3,3,3−トリフロロプロピル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。(A−1)成分及び(A−2)成分の分子構造としては、基本的には直鎖状であるが、組成物の硬化物が弾性を有する範囲で分岐していてもよい。
【0012】
(A−1)成分及び(A−2)成分のオルガノポリシロキサンとしては、例えば、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルビニルポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖メチルビニルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、式:R13SiO0.5で示されるシロキサン単位と式:R122SiO0.5で示されるシロキサン単位と式:R12SiOで示される単位と少量の式:SiO2で示されるシロキサン単位からなるオルガノポリシロキサン共重合体、式:R13SiO0.5で示されるシロキサン単位と式:R122SiO0.5で示されるシロキサン単位と式:SiO2で示されるシロキサン単位からなるオルガノポリシロキサン共重合体、式:R122SiO0.5で示されるシロキサン単位と式:R12SiOで示されるシロキサン単位と少量の式:SiO2で示されるシロキサン単位からなるオルガノポリシロキサン共重合体、式:R12SiOで示されるシロキサン単位と少量の式:R1SiO1.5で示されるシロキサン単位もしくは式:R2SiO1.5で示されるシロキサン単位からなるオルガノポリシロキサン共重合体、及び、これらのオルガノポリシロキサンの二種以上からなる混合物が挙げられる。上記式中、R1はアルケニル基以外の一価炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;クロロメチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフロロプロピル基等のハロゲン化アルキル基が挙げられるが、メチル基が好ましい。また、上記式中、R2はアルケニル基であり、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、へプテニル基等が挙げられるが、ビニル基が好ましい。
(A−1)成分と(A−2)成分は、それぞれ1種でも2種以上併用してもよい。
【0013】
(A−1)成分と(A−2)成分の粘度は上述した通りであるが、(A−1)成分と(A−2)成分の粘度差は、本発明の目的を効果的に達成させる点から、100〜490,000mm2/s、特に、500〜200,000mm2/sであることが好ましい。
【0014】
また、(A−1)成分と(A−2)成分との配合割合は、(A−1)成分:(A−2)成分=5〜95質量%:95〜5質量%、好ましくは10〜90質量%:90〜10質量%、更に好ましくは20〜80質量%:80〜20質量%であることが、本発明の目的を達成する点から必要である。なお、(A−1)成分と(A−2)成分との合計は100質量%である。
【0015】
(A−1)成分を5〜95質量%、(A−2)成分を95〜5質量%の割合で混合した(A)成分の25℃における動粘度は、得られるシリコーンゴムの物理的特性が良好であり、また、組成物の取扱作業性が良好であることから、500〜100,000mm2/sの範囲内であることが好ましく、特に、1,000〜80,000mm2/sの範囲内であることが好ましい。動粘度が500mm2/s未満だと液だれし易く作業性が低下することがあり、100,000mm2/sを超えると接着剤を塗布する時に均一に塗布し難いことがある。
【0016】
(B)オルガノハイドロジェンポリシロキサン
本発明の(B)成分であるオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、一分子中に少なくとも2個、好ましくは3個以上のケイ素原子に結合する水素原子(即ち、SiH基)を含有するものである。その分子構造は直鎖状であり、下記式(1)のように表される。
【0017】
【化2】

(Aはメチル基又は水素原子であり、互いに同一であっても異なっていてもよい。mは2以上の整数、nは0以上の整数である。m+nは50以上の整数、好ましくは50〜300、特に50〜150の整数であることが好ましい。)
【0018】
本発明の接着剤に用いるオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、公知の方法で得ることができ、例えば、一般式:R1SiHCl2及びR12SiHCl(式中、R1は上記と同じである)から選ばれる少なくとも1種のクロロシランを共加水分解し、或いは上記クロロシランと一般式:R13SiCl及びR12SiCl2(式中、R1は前記と同じである)から選ばれる少なくとも1種のクロロシランを組み合わせて共加水分解して得ることができる。また、オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、このように共加水分解して得られたポリシロキサンを平衡化したものでもよい。
【0019】
(B)成分の使用量は、(A)成分((A−1)成分と(A−2)成分の合計)のアルケニル基含有オルガノポリシロキサン中のアルケニル基1個当たり、(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサン中のケイ素原子に結合した水素原子(即ち、SiH基)が、通常0.5〜10.0個となるような量、好ましくは1.0〜8.0個となるような量である。0.5個より少ないと硬化が不十分となり接着性が不十分となり、10.0個より多いと硬化物が硬くなりすぎて接着追随性が不十分となる。
【0020】
(C)ヒドロシリル化反応触媒
本発明の(C)成分であるヒドロシリル化反応触媒は、前記の(A)成分と(B)成分との付加反応を促進するための触媒であり、公知の白金族金属系触媒でよい。具体例としては、白金(白金黒を含む)、ロジウム、パラジウム等の白金族金属単体;H2PtCl4・nH2O、H2PtCl6・nH2O、NaHPtCl6・nH2O、KHPtCl6・nH2O、Na2PtCl6・nH2O、K2PtCl4・nH2O、PtCl4・nH2O、PtCl2、Na2HPtCl4・nH2O(但し、式中、nは0〜6の整数であり、好ましくは0又は6である)等の塩化白金、塩化白金酸及び塩化白金酸塩;アルコール変性塩化白金酸(米国特許第3,220,972号明細書参照);塩化白金酸とオレフィンとのコンプレックス(米国特許第3,159,601号明細書、同第3,159,662号明細書、同第3,775,452号明細書参照);白金黒、パラジウム等の白金族金属をアルミナ、シリカ、カーボン等の担体に担持させたもの;ロジウム−オレフィンコンプレックス;クロロトリス(トリフェニルフォスフィン)ロジウム(ウィルキンソン触媒);塩化白金、塩化白金酸又は塩化白金酸塩とビニル基含有シロキサン、特にビニル基含有環状シロキサンとのコンプレックス等が挙げられる。
【0021】
(C)成分の使用量は、所謂触媒量でよく、通常、(A)成分及び(B)成分の合計量に対する白金族金属の質量換算で、0.1〜500ppm、特には0.5〜200ppm程度でよい。
【0022】
(D)接着付与成分
(D)成分は、本発明の組成物に自己接着性を与える接着性付与剤である。当該自己接着性は、特に、金属及び有機樹脂に対して良好であることが好ましい。前記(D)成分としては、例えば、ビニル基等のアルケニル基、(メタ)アクリロキシ基、ヒドロシリル基(SiH基)、エポキシ基、アルコキシシリル基、カルボニル基、及びフェニル基からなる群から選択される少なくとも1種、好ましくは2種以上の官能基を有するシランやシランカップリング剤、ケイ素原子数が2〜30個、好ましくは4〜20個程度の、環状又は直鎖状のシロキサン等の有機ケイ素化合物、及び1〜4価、好ましくは2〜4価のフェニレン構造等の芳香環を一分子中に1〜4個、好ましくは1〜2個含有し、かつ、ヒドロシリル化付加反応に寄与しうる官能基(例えば、アルケニル基、(メタ)アクリロキシ基)を一分子中に少なくとも1個、好ましくは2〜4個含有する、分子中に酸素原子を含んでもよい、非ケイ素系(即ち、分子中にケイ素原子を含有しない)有機化合物を挙げることができる。前記(D)成分の具体例としては、下記の化合物が挙げられる。
【0023】
【化3】

【0024】
【化4】

【0025】
(D)成分は1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。(D)成分の配合量は、本発明の組成物が被着体、特に金属及び有機樹脂に対する良好な自己接着性を得ることができる量であり、(A)成分100質量部当たり、通常、0.01〜20質量部、好ましくは0.1〜5質量部である。
【0026】
本発明には、接着性、補強性を向上させるために(H)シリコーンレジンを添加することが好ましい。このようなシリコーンレジンとしては、R13SiO0.5で示されるシロキサン単位とSiO2で示されるシロキサン単位からなるシリコーンレジン、R13SiO0.5で示されるシロキサン単位とR1SiO1.5で示されるシロキサン単位とSiO2で示されるシロキサン単位からなるシリコーンレジン等が例示(R1は前記の通り)され、具体的には、(CH33SiO0.5単位とSiO2単位からなるレジン、(CH33SiO0.5単位と(CH2=CH)SiO1.5単位とSiO2単位からなるレジン、(CH2=CH)(CH32SiO0.5単位とSiO2単位からなるレジン、(CH2=CH)(CH32SiO0.5単位と(CH2=CH)SiO1.5単位とSiO2単位からなるレジンが示される。これらの中でアルケニル基、特にビニル基を持つシリコーンレジンが接着性、補強性を向上させる効果に優れるため好ましい。とりわけ、メチルビニルシリコーンレジンが好ましい。
【0027】
その他の成分として、補強性のある微粉末状のシリカを配合することができる。その配合量は、(A)成分100質量部に対して1〜200質量部、特に3〜50質量部が好ましい。この微粉末シリカは硬化物の機械的強度を補強するためのもので、従来、シリコーンゴム組成物に使用されている公知のもので良く、例えば煙霧質シリカ、沈降シリカ、焼成シリカ、石英粉末、珪藻土などがある。これらを1種又は2種以上併用してもよい。これらのシリカ粒子は通常BET法による比表面積が50m2/g以上、特に50〜500m2/g程度のものが一般的である。このような微粉末シリカはそのまま使用してもよいが、本発明の組成物に良好な流動性を付与させるためメチルクロロシラン類、ジメチルポリシロキサン、ヘキサメチルジシラザンなどの有機ケイ素化合物で処理したものを使用することが好ましい。
【0028】
更に、本発明の組成物には、前記(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分以外に、必要に応じて様々な添加剤、例えば、ヒュームド二酸化チタン等の補強性無機質充填剤;ケイ酸カルシウム、二酸化チタン、酸化第二鉄、カーボンブラック等の非補強性無機質充填剤;硬化制御剤;耐熱性付与剤などを添加することができる。これらの使用量は、接着性を損なわない範囲であり、通常のシリコーン接着剤で使用されている範囲である。
【0029】
また、本発明の付加硬化型シリコーン接着剤は、上記各成分を混合することにより得ることができ、1液タイプだけではなく、使用直前に混合してから用いる2液タイプとすることもできる。
【0030】
本発明の定着ロールは、芯金上にシリコーンゴム層が形成され、その上に最外層としてフッ素系樹脂層が被覆されている定着ロールであって、上記の接着剤でシリコーンゴム層とフッ素系樹脂層が接着されたものである。
【0031】
芯金上に形成されるシリコーンゴム層は、付加反応硬化型シリコーンゴム組成物の硬化物であることが好ましく、該シリコーンゴム組成物は、少なくとも2個のアルケニル基含有オルガノポリシロキサン(ベースポリマー)、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(架橋剤)、ヒドロシリル化反応触媒を必須成分とするものである。また、熱伝導性を向上させるために、高熱伝導性の無機質充填剤、例えば、アルミナ、結晶性シリカ、金属ケイ素粉末、酸化亜鉛等を添加することが好ましい。高熱伝導性の無機質充填剤の配合量はアルケニル基含有オルガノポリシロキサン(ベースポリマー)100質量部に対して50〜500質量部であることが好ましい。
【0032】
高熱伝導性の無機質充填剤を添加する場合は、ゴム硬度を低くするため、架橋剤の量を少なくすることが好ましい。この場合、架橋剤であるオルガノハイドロジェンポリシロキサンの配合量は、オルガノハイドロジェンポリシロキサンのケイ素原子に結合した水素原子の数が、ベースポリマーであるアルケニル基含有オリガノポリシロキサンのアルケニル基1個当たり1個未満、好ましくは0.1〜0.8個、特には0.2〜0.6個であることが好ましい。少なすぎると硬化性が低下することがあり、多すぎると得られるゴムが硬くなり、ロールに求められる特性が不十分となることがある。
【0033】
上記シリコーンゴム層の芯金への形成は、常法に従って行うことができる。例えば、アルミシャフト(芯金)の表面にプライマーを塗布し、風乾、必要により加熱し、焼付けを行い、その上にシリコーンゴム層を加熱硬化(通常80〜170℃程度)させ、形成する。必要により、ゴムロール表面を研磨してもよい。
【0034】
次に、シリコーンゴム層の上に本発明の接着剤を塗布し、フッ素系樹脂層をシリコーンゴム層に張り付けることで本発明の定着ロールを作製することができる。なお、本発明の接着剤の硬化(接着)条件は、特に制限されないが、加熱硬化(接着)させることが好ましく、特に80〜170℃で加熱硬化(接着)させることが好ましい。
【0035】
また、フッ素系樹脂層を形成するフッ素系樹脂としては、特に制限されないが、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテルコポリマー樹脂(PFA樹脂)、テトラフルオロエチレン樹脂(PTFE樹脂)等が挙げられ、PFA樹脂が好ましい。
【0036】
なお、上記シリコーンゴム層の厚さは、通常0.1〜10mm、好ましくは0.5〜5mmであり、フッ素系樹脂層の厚さは、通常10〜200μm、好ましくは20〜100μmである。また、これらシリコーンゴム層とフッ素系樹脂層とを接着させる本発明の接着剤による接着層の厚さは、1〜100μm、特に5〜50μmとすることが好ましい。
【実施例】
【0037】
以下に実施例と比較例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、下記例で、粘度は回転粘度計によって測定した。
【0038】
付加硬化型シリコーン接着剤の原料は、以下の通りである。
(A)一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン:
(A−1)25℃における粘度が30,000mm2/sであり、下記式(2)で表されるビニル基含有の直鎖状オルガノポリシロキサン
(A−2)25℃における粘度が100,000mm2/sであり、下記式(2)で表されるビニル基含有の直鎖状オルガノポリシロキサン
Vi(Me)2Si−(OSiMe2n−OSi(Me)2Vi (2)
(式中、Meはメチル基であり、Viはビニル基であり、nは該シロキサンの25℃における粘度が30,000mm2/s又は100,000mm2/sとなるような数である)
(B)ケイ素原子に結合する水素原子を一分子中に少なくとも2個含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:
(B−1)
(CH33SiO−(Si(CH3)(H)O)8−Si(CH33
(B−2)
(CH33SiO−(Si(CH32O)18−(Si(CH3)(H)O)20−Si(CH33
(B−3)
(CH33SiO−(Si(CH32O)75−(Si(CH3)(H)O)25−Si(CH33
(B−4)
(CH33SiO−(Si(CH32O)17−(Si(CH3)(H)O)45−Si(CH33
(B−5)
(CH33SiO−(Si(CH32O)28−(Si(CH3)(H)O)70−Si(CH33
(C)ヒドロシリル化反応触媒:
白金−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体/トルエン溶液(白金元素含有量0.5質量%)
(D)下記式で表される接着付与成分
【化5】


(E)硬化制御剤:
(E−1)エチニルシクロヘキサノール
(E−2)トリアリルイソシアヌレート
(F)補強性フィラー:
結晶性シリカ(US SILICA COMPANY社製ミニシル15ミクロン)
(G)耐熱性付与剤:
戸田工業(株)製ベンガラ130ED
(H)補強性レジン:
信越化学工業(株)製ビニル基含有シリコーンレジン(製品名1300QT−S)
(I)補強製シリカ:
信越化学工業(株)製表面疎水化処理ヒュームドシリカ(製品名Musil120A)
【0039】
[実施例1〜9、比較例1〜5]
上記の原料を用いて付加硬化型シリコーン接着剤を製造した。下記表1に記載した配合量で(A)成分、(F)成分、(G)成分、(H)成分、そして(I)成分を混合し、(C)成分と(D)成分の順で添加・混合を行った。次に残りの原料である(B)成分、(E)成分を一括又は適宜添加を行った。よく混合した後、減圧して脱泡処理を施し、付加硬化型シリコーン接着剤とした。
【0040】
この方法で仕上げた付加硬化型シリコーン接着剤を用いて、以下の接着試験を行った。芯金の表層にシリコーンゴム弾性層[信越化学工業(株)製(硬さはアスカC測定で14ポイント、架橋剤であるオルガノハイドロジェンポリシロキサンのケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)の数が、ベースポリマーであるアルケニル基含有オリガノポリシロキサンのアルケニル基1個当たり0.42個)]を張り付けた後、厚みが30μmになるように付加硬化型シリコーン接着剤を塗布した。更にその上に、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテルコポリマーからなるフッ素樹脂(日本バルカー工業社製)を張り付けてからすぐに硬化させる場合と、室温で6時間放置させる場合の2水準で評価を行った。硬化条件は、120℃×60分とした。加熱終了後、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテルコポリマーからなるフッ素樹脂をシリコーン硬化物より剥がし、シリコーン接着剤が硬化・接着しているかを確認した。結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
上記の結果のように、接着剤の主剤の組成や架橋剤の種類によっては塗布後6時間放置すると硬化しなくなった。本発明の接着剤は、塗布後6時間放置してもフッ素樹脂とシリコーンゴムに対し良好な接着性を有することが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯金上にシリコーンゴム層が形成され、その上に最外層としてフッ素系樹脂層が被覆されている定着ロールのシリコーンゴム層とフッ素系樹脂層とを接着させるための接着剤であって、
下記(A)〜(D)成分、
(A)(A−1)25℃における動粘度が100〜50,000mm2/sであり、一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン:5〜95質量%、及び
(A−2)25℃における動粘度が50,000mm2/sを超え、500,000mm2/s以下であり、一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン:95〜5質量%
からなるオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)下記式(1)
【化1】


(Aはメチル基又は水素原子であり、互いに同一であっても異なっていてもよい。mは2以上の整数、nは0以上の整数、m+nは50以上の整数である。)
で表されるケイ素原子に結合する水素原子を一分子中に少なくとも2個含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:一分子中に含まれるケイ素原子に結合した水素原子の数が、(A)成分のオルガノポリシロキサンが有するアルケニル基1個当たり、0.5〜10.0個となる量、
(C)ヒドロシリル化反応触媒:触媒量、
(D)接着付与成分:0.01〜20質量部
を含有することを特徴とする定着ロール用付加硬化型シリコーン接着剤。
【請求項2】
(A−1)成分と(A−2)成分とを混合してなる(A)成分の動粘度が、500〜100,000mm2/sであることを特徴とする請求項1記載のシリコーン接着剤。
【請求項3】
上記式(1)におけるm+nが、50〜150の整数であることを特徴とする請求項1又は2記載のシリコーン接着剤。
【請求項4】
更に、(H)シリコーンレジンを含有する請求項1〜3のいずれか1項記載のシリコーン接着剤。
【請求項5】
芯金上に形成されるシリコーンゴム層が、付加硬化型シリコーンゴム組成物の硬化物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載のシリコーン接着剤。
【請求項6】
芯金上に形成されるシリコーンゴム層が、ベースポリマーである少なくとも2個のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンのアルケニル基1個当たり、ケイ素原子に結合した水素原子の数として1個未満となる量のオルガノハイドロジェンポリシロキサンを含む、付加硬化型シリコーンゴム組成物の硬化物であることを特徴とする請求項5記載のシリコーン接着剤。
【請求項7】
芯金上にシリコーンゴム層が形成され、その上に最外層としてフッ素系樹脂層が被覆されている定着ロールであって、請求項1〜6のいずれか1項記載のシリコーン接着剤でシリコーンゴム層とフッ素系樹脂層が接着されてなることを特徴とする定着ロール。

【公開番号】特開2010−215763(P2010−215763A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−63047(P2009−63047)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】