説明

定着用ベルト、定着装置及び画像形成装置

【課題】 定着用ベルトを用いた定着装置によって記録媒体に形成されたトナー像を記録媒体に定着させる場合に、定着用ベルトの内周面に付与された潤滑剤が外部に漏れ出すのを抑制し、長期にわたって安定した定着が行えるようにする。
【解決手段】 内周面に潤滑剤が付与された無端状の定着用ベルト21を回転駆動させると共に、この定着用ベルトをトナー像tが形成された記録媒体9に押し付けて、トナー像を記録媒体に定着させる定着装置20において、潤滑剤が付与される定着用ベルトの内周面に溝部21dとして、その周方向に沿った溝部を複数設け、或いはその幅方向中央部から両側の端部に向かい定着用ベルトの移動方向に傾斜する溝部を複数設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電子写真複写機やプリンタ等の画像形成装置において、記録媒体に形成されたトナー像を記録媒体に定着させるのに使用する定着用ベルト、この定着用ベルトを用いた定着装置及びこの定着装置を用いた画像形成装置に係り、特に、内周面に潤滑剤が付与された無端状の定着用ベルトを回転駆動させると共に、この定着用ベルトをトナー像が形成された記録媒体に押し付けて、トナー像を記録媒体に定着させる場合において、定着用ベルトの内周面に付与された潤滑剤が外部に漏れ出すのを抑制するようにした点に特徴を有するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、電子写真複写機やプリンタ等の画像形成装置においては、記録媒体に形成されたトナー像を、定着装置によって記録媒体に定着させるようにしている。
【0003】
ここで、このように記録媒体に形成されたトナー像を記録媒体に定着させる定着装置としては、従来より様々な種類の定着装置が使用されており、このような定着装置の1つとして、図1に示すように、無端状の定着用ベルト21をその内周面側に設けた押圧部材22によって回転する加圧ローラ23に押し付け、加圧ローラ23と定着用ベルト21との摩擦力によって、この定着用ベルト21を加圧ローラ23の回転に伴って回転駆動させると共に、この定着用ベルト21の内周側に、内部に加熱装置24aが設けられた加熱ローラ24を設け、この加熱ローラ24によって定着用ベルト21を加熱させるようにしたものが用いられている。
【0004】
そして、この定着装置においては、トナー像tが形成されたシート状の記録媒体9を、トナー像tが定着用ベルト21側に位置するようにして、上記の定着用ベルト21と加圧ローラ23との間に導き、この記録媒体9を定着用ベルト21と加圧ローラ22との間で加熱・加圧させて、トナー像tを記録媒体9に定着させるようにしている。
【0005】
ここで、このような定着用ベルト21を用いた定着装置においては、上記の定着用ベルト21が加圧ローラ23の回転に伴って適切に回転駆動されるようにするため、この定着用ベルト21の内周面に予めグリース等の潤滑剤を付与して、この定着用ベルト21と押圧部材22との間の摩擦抵抗を少なくすることが行われている。
【0006】
しかし、このように定着用ベルト21の内周面にグリース等の潤滑剤を付与した場合においても、押圧部材22による押し付けによりこの潤滑剤が定着用ベルト21の内周面から外部に漏れ出して減少し、定着用ベルト21と押圧部材22との間の摩擦抵抗が増加して定着用ベルト21が適切に回転駆動されなくなり、加圧ローラ23と定着用ベルト21との間にスリップが生じて、記録媒体9に定着されるトナー像tに乱れが生じたり、記録媒体9が定着用ベルト21と加圧ローラ23との間に詰まったりする等の問題が生じた。
【0007】
このため、近年においては、上記のような定着用ベルトの内周面を粗面化させて、グリース等の潤滑剤が定着用ベルトの内周面に保持されるようにしたものや(例えば、特許文献1参照。)、定着用ベルトの内周面に凹部を設けて、グリース等の潤滑剤が定着用ベルトの内周面に保持されるようにしたもの(例えば、特許文献2参照。)が提案されている。
【0008】
しかし、上記のように定着用ベルトの内周面を粗面化させたり、定着用ベルトの内周面に凹部を設けたりして、グリース等の潤滑剤を定着用ベルトの内周面に保持させるようにした場合においても、上記の押圧部材による押し付けにより、定着用ベルトの内周面に付与された潤滑剤が次第にこの定着用ベルトの幅方向両側の端部から外部に漏れ出してしまい、長い間使用すると、依然として、加圧ローラと定着用ベルトとの間にスリップが生じて、記録媒体に定着されるトナー像に乱れが生じたり、記録媒体が定着用ベルトと加圧ローラとの間に詰まったりし、長期にわたって安定した定着が行えないという問題があった。
【特許文献1】特開2001−341143号公報
【特許文献2】特開2002−25759号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明は、定着用ベルトを用いた定着装置によって記録媒体に形成されたトナー像を記録媒体に定着させる場合における上記のような問題を解決することを課題とするものであり、定着用ベルトの内周面に付与された潤滑剤が外部に漏れ出すのを抑制し、長期にわたって安定した定着が行えるようにすることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明における第1の定着用ベルトにおいては、上記のような課題を解決するため、内周面に潤滑剤が付与された無端状の定着用ベルトを回転駆動させると共に、この定着用ベルトをトナー像が形成された記録媒体に押し付けて、トナー像を記録媒体に定着させる定着装置に使用する定着用ベルトにおいて、潤滑剤が付与される定着用ベルトの内周面に、その周方向に沿った溝部を複数設けた。
【0011】
また、この発明における第2の定着用ベルトにおいては、上記のような課題を解決するため、内周面に潤滑剤が付与された無端状の定着用ベルトを回転駆動させると共に、この定着用ベルトをトナー像が形成された記録媒体に押し付けて、トナー像を記録媒体に定着させる定着装置に使用する定着用ベルトにおいて、潤滑剤が付与される定着用ベルトの内周面に、その幅方向中央部から両側の端部に向かい定着用ベルトの移動方向に傾斜する溝部を複数設けた。
【0012】
また、この発明における定着装置においては、上記のような課題を解決するため、内周面に潤滑剤が付与された無端状の定着用ベルトを回転駆動させると共に、この定着用ベルトをトナー像が形成された記録媒体に押し付けて、トナー像を記録媒体に定着させる定着装置において、上記の第1又は第2の定着用ベルトを用いた。
【0013】
また、この発明における画像形成装置においては、トナー像を記録媒体に定着させる定着装置を備えた画像形成装置において、上記の定着装置を用いた。
【発明の効果】
【0014】
この発明における第1の定着用ベルトのように、潤滑剤が付与される定着用ベルトの内周面にその周方向に沿った溝部を複数設けると、この定着用ベルトを回転駆動させながら、この定着用ベルトをトナー像が形成された記録媒体に押し付けて、トナー像を記録媒体に定着させる場合に、この定着用ベルトの内周面に付与された潤滑剤が上記の周方向に沿った複数の溝部内に保持されるようになり、潤滑剤がこの定着用ベルトの幅方向両側の端部から外部に漏れ出すのが適切に防止されるようになる。
【0015】
また、この発明における第2の定着用ベルトのように、潤滑剤が付与される定着用ベルトの内周面に、その幅方向中央部から両側の端部に向かい定着用ベルトの移動方向に傾斜する溝部を複数設けると、この定着用ベルトを回転駆動させながら、この定着用ベルトをトナー像が形成された記録媒体に押し付けて、トナー像を記録媒体に定着させる場合に、この定着用ベルトの内周面に付与された潤滑剤が、上記の幅方向中央部から両側の端部に向かい定着用ベルトの移動方向に傾斜した複数の溝部を通して定着用ベルトの幅方向中央部に導かれるようになり、潤滑剤がこの定着用ベルトの幅方向両側の端部から外部に漏れ出すのが一層防止されるようになる。
【0016】
また、この発明における定着装置のように、内周面に潤滑剤が付与された無端状の定着用ベルトを回転駆動させると共に、この定着用ベルトをトナー像が形成された記録媒体に押し付けて、トナー像を記録媒体に定着させる定着装置において、上記の第1又は第2の定着用ベルトを用いると、上記のように定着用ベルトの内周面に付与された潤滑剤がこの定着用ベルトの幅方向両側の端部から外部に漏れ出すのが適切に抑制されて、従来のように定着用ベルトが適切に回転駆動されなくなるのが防止され、記録媒体に定着されるトナー像に乱れが生じたり、記録媒体が詰まったりするのが防止され、長期にわたって安定した定着が行えるようになる。
【0017】
また、この発明における画像形成装置のように、上記の定着装置を用いてトナー像を記録媒体に定着させるようにすると、記録媒体に定着されるトナー像に乱れが生じたり、記録媒体が詰まったりするのが防止され、長期にわたって安定した定着が行え、長期にわたって良好な画像形成が行えるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、この発明の実施形態に係る定着用ベルト、定着装置及び画像形成装置を添付図面に基づいて具体的に説明する。なお、この発明に係る定着用ベルト、定着装置及び画像形成装置は、下記の実施形態に示したものに限定されず、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施できるものである。
【0019】
この実施形態における画像形成装置においては、図2に示すように、黄色,マゼンダ色,シアン色,黒色のトナーを収容させた4つの現像装置A1〜A4を回転するホルダー1に保持させ、このホルダー1を回転させて各現像装置A1〜A4の位置を変更させ、各現像装置A1〜A4におけるトナー担持体2を像担持体3と対向する位置に順々に導き、トナー担持体2と像担持体3とが対向する現像領域において、トナー担持体2からトナーを像担持体3に供給するようにしている。
【0020】
そして、この画像形成装置によってカラー画像を形成するにあたっては、例えば、先ず黄色のトナーが収容された第1の現像装置A1におけるトナー担持体2を像担持体3と対向するように位置させ、像担持体3を回転させて、像担持体3の表面を帯電装置4によって一様に帯電させ、このように帯電された像担持体3に対して露光装置5により画像信号に従った露光を行い、この像担持体3の表面に静電潜像を形成する。
【0021】
次いで、このように静電潜像が形成された像担持体3と第1の現像装置A1におけるトナー担持体2とが対向する現像領域において、トナー担持体2から黄色のトナーを像担持体3に形成された静電潜像部分に供給して、像担持体3に静電潜像に対応した黄色のトナー像を形成する。
【0022】
そして、このように像担持体3に形成された黄色のトナー像を、像担持体3の上方において架け渡された転写ベルト6に転写させる一方、転写後における像担持体3に残留している黄色のトナーをクリーニング装置7によって像担持体3から除去させる。
【0023】
その後は、上記のホルダー1を回転させて、次にマゼンダ色のトナーが収容された第2の現像装置A2におけるトナー担持体2を像担持体3と対向するように位置させ、上記の第1の現像装置A1の場合と同様にして、像担持体3の表面にマゼンダ色のトナー像を形成し、このマゼンダ色のトナー像を黄色のトナー像が転写された上記の転写ベルト6に転写させる一方、転写後における像担持体3に残留しているマゼンダ色のトナーをクリーニング装置7によって像担持体3から除去させる。
【0024】
そして、同様の操作を行って、シアン色のトナーが収容された第3の現像装置A3により像担持体3の表面にシアン色のトナー像を形成し、このシアン色のトナー像を上記の転写ベルト6に転写させ、次に黒色のトナーが収容された第4の現像装置A4により像担持体3の表面に黒色のトナー像を形成し、この黒色のトナー像を上記の転写ベルト6に転写させ、このように転写ベルト6上に黄色,マゼンダ色,シアン色,黒色の各トナー像を順々に転写させてフルカラーのトナー像を形成する。
【0025】
そして、この画像形成装置の下部に設けられた用紙カセット8からシート状の記録媒体9を、送りローラ10によって転写ベルト6と転写ローラ11とが対向する部分に導き、転写ベルト6に形成されたフルカラーのトナー像を記録媒体9に転写させ、このように記録媒体9上に転写されたフルカラーのトナー像を定着装置20により記録媒体9に定着させて排紙する一方、転写されずに転写ベルト6に残ったトナーをクリーニング装置12によって転写ベルト6から除去するようになっている。
【0026】
ここで、上記の定着装置20としては、前記の図1に示したものと同様に、無端状の定着用ベルト21をその内周面側に設けた押圧部材22によって回転する加圧ローラ23に押し付け、加圧ローラ23と定着用ベルト21との摩擦力によって、この定着用ベルト21を加圧ローラ23の回転に伴って回転駆動させると共に、この定着用ベルト21の内周側に、内部に加熱装置24aが設けられた加熱ローラ24を設け、この加熱ローラ24によって定着用ベルト21を加熱させるようにしたものを用いるようにしている。
【0027】
そして、トナー像tが形成されたシート状の記録媒体9を、トナー像tが定着用ベルト21側に位置するようにして、上記の定着用ベルト21と加圧ローラ23との間に導き、この記録媒体9を定着用ベルト21と加圧ローラ22との間で加熱・加圧して、トナー像tを記録媒体9に定着させるようにしている。
【0028】
また、この実施形態においても、上記の定着用ベルト21が加圧ローラ23の回転に伴って適切に回転駆動されるようにするため、この定着用ベルト21の内周面に予めグリース等の潤滑剤を付与し、この定着用ベルト21と押圧部材22との間の摩擦抵抗が少なくなるようにしている。
【0029】
ここで、この実施形態においては、上記の定着用ベルト21として、図3に示すように、ポリイミド等の耐熱性や強度に優れた材料で構成された無端状のベルト基材21aの上に、シリコーンゴム等の弾性材料で構成された弾性層21bと、トナー等に対する離型性に優れたフッ素樹脂等で構成された表面層21cとが積層された3層構造のものを用いると共に、この定着用ベルト21の内周面に上記の潤滑剤を保持するための溝部21dを設けるようにしている。
【0030】
そして、上記のように無端状のベルト基材21aの上に弾性層21bと表面層21cとが積層された3層構造の定着用ベルト21を使用すると、上記のように複数の色彩のトナーが積層されたフルカラーのトナー像tを記録媒体9に定着させる場合に、上記の弾性層21bが適切に変形してフルカラーのトナー像tが記録媒体9に適切に定着されるようになる。
【0031】
ここで、上記の無端状になったポリイミド製のベルト基材21aを製造するにあたっては、例えば、円筒状になった内金型の外周面に、ポリアミド溶液や熱可塑性のポリイミド溶液を塗布し、これを加熱乾燥或いは減圧乾燥させて溶媒を揮発させ、これを焼成温度まで加熱させて製造することができる。
【0032】
また、上記の無端状になったベルト基材21aの上にシリコーンゴムからなる弾性層21bを設けるにあたっては、例えば、上記のベルト基材21aの上にシリコーンゴム溶液を塗布し、これを成型・焼成して製造することができる。
【0033】
また、上記の弾性層21bの上にフッ素樹脂で構成された表面層21cを設けるにあたっては、例えば、上記の弾性層21bの上にフッ素樹脂溶液を塗布し、これを成型・焼成して製造するようにしたり、上記の弾性層21bの外周面を被覆するようにフッ素樹脂チューブを被せ、これを加熱させて弾性層21bの外周面に接着させるようにすることができる。
【0034】
また、上記のように定着用ベルト21の内周面に潤滑剤を保持するための溝部21dを設けるにあたっては、前記のようにその周方向に沿った溝部21dを複数設けるようにし、或いは、その幅方向中央部から両側の端部に向かい定着用ベルトの移動方向に傾斜する溝部21dを複数設けるようにする。
【0035】
ここで、定着用ベルト21の内周面に設ける溝部21dの代表的な例を図4〜図6に示す。
【0036】
図4に示す例では、定着用ベルト21の内周面全周に至るようにしてその周方向に沿った溝部21dを定着用ベルト21の幅方向に所要間隔を介して複数設けている。このように定着用ベルト21の内周面にその周方向に沿った溝部21dを複数設けると、上記のように定着用ベルト21を回転駆動させながら、この定着用ベルト21をトナー像tが形成された記録媒体9に押し付けて、トナー像tを記録媒体9に定着させる場合に、この定着用ベルト21の内周面に付与された潤滑剤が上記の周方向に沿った溝部21d内に保持されるようになり、潤滑剤がこの定着用ベルト21の幅方向両側の端部から外部に漏れ出すのが防止される。
【0037】
図5に示す例では、定着用ベルト21の幅方向中央部から両側の端部に向かい定着用ベルト21の移動方向に傾斜したV字状になった溝部21dを定着用ベルト21の周方向に所要間隔を介して複数設けている。
【0038】
図6に示す例では、定着用ベルト21の幅方向中央部から両側の端部に向かい定着用ベルト21の移動方向に円弧状になって傾斜する溝部21dを定着用ベルト21の周方向に所要間隔を介して複数設けている。
【0039】
そして、上記の図5及び図6に示すように、定着用ベルト21の内周面にその幅方向中央部から両側の端部に向かい定着用ベルト21の移動方向に傾斜する溝部21dを複数設けると、この定着用ベルト21を回転駆動させながら、この定着用ベルト21をトナー像tが形成された記録媒体9に押し付けて、トナー像tを記録媒体9に定着させる場合に、この定着用ベルト21の内周面に付与された潤滑剤が上記の溝部21dを通して定着用ベルト21の幅方向中央部に導かれ、潤滑剤がこの定着用ベルト21の幅方向両側の端部から外部に漏れ出すのが一層防止される。
【0040】
なお、定着用ベルト21の内周面に設ける溝部21dは、特に、上記の図4〜図6に示すものに限定されず、この発明における上記の要件を満たす溝部21dであればよい。
【0041】
ここで、図4に示すように定着用ベルト21の内周面に周方向に沿った溝部21dを設けるにあたっては、例えば、図7に示すように、周方向に沿った溝部21dを所定長さの線分として、定着用ベルト21の幅方向全体に所要間隔を介して複数設けるようにしたり、図8に示すように、周方向に沿った溝部21dを所定長さの線分として、定着用ベルト21の幅方向の両側部にだけ所要間隔を介して複数設け、定着用ベルト21の幅方向の中央部に設けないようにしたり、図9に示すように、定着用ベルト21の内周面全周に至る周方向に沿った溝部21dを定着用ベルト21の幅方向の両側部にだけ所要間隔を介して複数設け、定着用ベルト21の幅方向の中央部に設けないようにすることができる。
【0042】
また、図5に示すように定着用ベルト21の内周面に定着用ベルト21の幅方向中央部から両側の端部に向かい定着用ベルト21の移動方向に傾斜したV字状になった溝部21dを設けるにあたっては、例えば、図10に示すように、定着用ベルト21の幅方向中央部から両側の端部に向かい定着用ベルト21の移動方向に傾斜した溝部21dを所定長さの線分として、図11に示すように、定着用ベルト21の幅方向中央部から両側の端部に向かい定着用ベルト21の移動方向に傾斜した溝部21dを定着用ベルト21の幅方向の両側部にだけ所要間隔を介して複数設け、定着用ベルト21の幅方向の中央部に設けないようにすることができる。また、図6に示すように定着用ベルト21の内周面に定着用ベルト21の幅方向中央部から両側の端部に向かい定着用ベルト21の移動方向に円弧状になって傾斜した溝部21dを設けるにあたっても、所定長さの円弧状として設けるようにしたり、定着用ベルト21の幅方向の両側部にだけ設け、定着用ベルト21の幅方向の中央部に設けないようにすることができる。さらに、溝部21dは前記のように定着用ベルト21の幅方向中央部から両側の端部に向かい定着用ベルトの移動方向に傾斜していればよく、この条件を満たす放物線、双曲線、楕円の一部及び任意の曲線であってもよい。
【0043】
また、上記のように定着用ベルト21の内周面に溝部21dを設けるにあたり、定着用ベルト21における溝部21dの面積比率が小さくなると、グリース等の潤滑剤を充分に保持することができなくなる一方、この溝部21dの面積比率が大きくなりすぎると、定着用ベルト21の強度が低下して摩耗による破壊が生じやすくなるため、この定着用ベルト21の内周面における溝部21dの面積比率を5%〜50%の範囲にすることが好ましく、また上記の溝部21dの溝深さを4〜30μmの範囲、密度を5本/mm以上にすることが好ましい。
【0044】
また、上記の溝部21dの幅が狭いと、グリース等の潤滑剤を充分に保持することができなくなる一方、溝部21dの幅が広くなりすぎると、定着用ベルト21の強度が低下したり、この溝部21dの影響によりトナー像tが記録媒体9に適切に定着されなくなる等の問題が生じるため、溝部21dの幅を10〜80μmの範囲にすることが好ましい。
【0045】
また、上記の図5等に示すように、定着用ベルト21の幅方向中央部から両側の端部に向かい定着用ベルト21の移動方向に傾斜した溝部21dを設けるにあたり、定着用ベルト21の内周面に付与された潤滑剤がこの溝部21dにより定着用ベルト21の幅方向中央部に適切に導かれるようにするためには、定着用ベルト21の幅方向中央部から両側の端部に向かって移動方向に傾斜した上記の溝部21dの傾斜角度θを5°以上にすることが好ましい。
【0046】
ここで、定着用ベルト21の内周面に上記のような各溝部21dを設けるにあたっては、上記の無端状になったベルト基材21aを製造する場合において、上記の円筒状になった内金型の外周面に、上記の溝部21dに対応した凸部を形成し、ベルト基材21aの製造時に同時に溝部21dを形成することができる。
【0047】
また、溝部21dが形成されていない無端状になったベルト基材21aを製造した後、このベルト基材21aを、外周面に溝部21dに対応した凸部が形成された別の内金型にセットし、上記のように弾性層21bや表面層21cを焼成させて製造する際に、このベルト基材21aの内周面に上記の凸部に対応した溝部21dを形成することも可能である。
【0048】
また、上記の押圧部材22としては、補強用芯金の上に、耐熱性樹脂で構成された基材と、シリコーンゴム等で構成された弾性層と、フッ素樹脂等で構成された表面層とを設けたものを使用することができる。
【0049】
また、上記の加圧ローラ23としては、芯金の外周にシリコーンゴム等で構成された弾性層と、フッ素樹脂等で構成された表面層とを設けたものを使用することができ、またこの加圧ローラ23の内部にも加熱装置(図示せず)を設けることができる。
【0050】
また、上記の加熱ローラ24としては、アルミニウム等で構成された薄肉の芯金の内部に加熱装置24aを設けたものを使用することができる。
【0051】
また、図示していないが、上記の加熱ローラ24を用いずに、上記の押圧部材22に加熱装置を設けて定着用ベルト21を加熱させるようにしたり、定着用ベルト21に誘電体を用い、電磁誘導加熱によって定着用ベルト21を加熱させることもできる。さらに、加熱ローラ24を用いずに、前記のように加圧ローラ23の内部に加熱装置を設けて、この加圧ローラ23を充分に加熱させるようにし、トナー像tが形成されたシート状の記録媒体9を、トナー像tが加圧ローラ23側に位置するようにして、上記の定着用ベルト21と加圧ローラ23との間に導くようにすることもできる。
【実施例】
【0052】
次に、この発明の実施例に係る定着用ベルトと比較例の定着用ベルトとを用いた実験を行い、この発明の実施例に係る定着用ベルトを用いた場合には、長期にわたって安定した定着が行えることを明らかにする。
【0053】
ここで、以下の実施例及び比較例においては、定着用ベルト21として、ポリイミドで構成された厚みが70μmになった無端状のベルト基材21aの上に、シリコーンゴムで構成された厚みが150μmになった弾性層21bとフッ素樹脂で構成された厚みが20μmになった表面層21cとが積層された3層構造であって、直径が50mm,ベルト幅が278mmになったものを用いるようにし、この定着用ベルト21の内周面に形成する溝部21dの状態を変更させた。
【0054】
(実施例1)
実施例1においては、上記の定着用ベルト21の内周面に、前記の図4に示すように、定着用ベルト21の内周面全周に至るようにして、その周方向に沿った溝部21dを定着用ベルト21の幅方向に所要間隔を介して複数設けるようにした。
【0055】
ここで、上記の溝部21dを設けるにあたっては、その溝幅を80μm,溝深さを30μm,密度を5本/mmにした。
【0056】
(実施例2〜6)
実施例2〜6においては、上記の定着用ベルト21の内周面に、前記の図5に示すように、定着用ベルト21の幅方向中央部から両側の端部に向かい定着用ベルト21の移動方向に傾斜したV字状になった溝部21dを定着用ベルト21の周方向に所要間隔を介して複数設けるようにした。
【0057】
ここで、実施例2では、上記の溝部21dを設けるにあたり、定着用ベルト21の幅方向中央部から両側の端部に向かって移動方向に傾斜する傾斜角度θを45°、溝幅を30μm,溝深さを15μm,密度を15本/mmにした。
【0058】
実施例3では、上記の溝部21dを設けるにあたり、定着用ベルト21の幅方向中央部から両側の端部に向かって移動方向に傾斜する傾斜角度θを5°、溝幅を40μm,溝深さを15μm,密度を10本/mmにした。
【0059】
実施例4では、上記の溝部21dを設けるにあたり、定着用ベルト21の幅方向中央部から両側の端部に向かって移動方向に傾斜する傾斜角度θを85°、溝幅を40μm,溝深さを25μm,密度を5本/mmにした。
【0060】
実施例5では、上記の溝部21dを設けるにあたり、定着用ベルト21の幅方向中央部から両側の端部に向かって移動方向に傾斜する傾斜角度θを45°、溝幅を10μm,溝深さを4μm,密度を20本/mmにした。
【0061】
実施例6では、上記の溝部21dを設けるにあたり、定着用ベルト21の幅方向中央部から両側の端部に向かって移動方向に傾斜する傾斜角度θを5°、溝幅を10μm,溝深さを4μm,密度を5本/mmにした。
【0062】
(実施例7)
実施例7においては、上記の定着用ベルト21の内周面に、前記の図6に示すように、定着用ベルト21の幅方向中央部から両側の端部に向かい定着用ベルト21の移動方向に円弧状になって傾斜する溝部21dを定着用ベルト21の周方向に所要間隔を介して複数設けるようにした。
【0063】
ここで、実施例7では、上記の円弧状になって傾斜する溝部21dを設けるにあたり、この円弧の曲率半径を147mmにして、定着用ベルト21の両側の端部における接線方向の傾斜角度θaを30°にすると共に、溝幅を40μm,溝深さを15μm,密度を10本/mmにした。
【0064】
(比較例1)
比較例1では、上記の定着用ベルト21の内周面に、図12に示すように、定着用ベルト21の幅方向に平行な溝部21dを、定着用ベルト21の周方向に所要間隔を介して複数設けるようにした。そして、上記の溝部21dの溝幅を40μm,溝深さを10μm,密度を10本/mmにした。
【0065】
(比較例2)
比較例2では、上記の定着用ベルト21の内周面に、図13に示すように、定着用ベルト21の幅方向中央部から両側の端部に向かい定着用ベルト21の移動方向とは逆方向に傾斜した溝部21dを定着用ベルト21の周方向に所要間隔を介して複数設けるようにした。そして、上記の溝部21dの移動方向とは逆方向への傾斜角度を5°にし、その溝幅を40μm,溝深さを10μm,密度を10本/mmにした。
【0066】
(比較例3)
比較例3では、上記の定着用ベルト21の内周面に、図14に示すように、定着用ベルト21の幅方向の一方の端部から他方の端部に向かって一方向に傾斜した溝部21dを定着用ベルト21の周方向に所要間隔を介して複数設けるようにした。そして、上記の溝部21dの傾斜角度を45°、溝幅を40μm,溝深さを10μm,密度を10本/mmにした。
【0067】
(比較例4)
比較例4では、上記の定着用ベルト21の内周面に、図15に示すように、定着用ベルト21の幅方向の一端側から他端側に向かってそれぞれ逆方向に傾斜して交差状になった溝部21dを複数設けるようにした。そして、上記の各溝部21dの傾斜角度を45°、溝幅を40μm,溝深さを10μm,密度を10本/mmにした。
【0068】
次いで、上記の実施例1〜7及び比較例1〜4の各定着用ベルト21の内周面にグリース等の潤滑剤を付与し、各定着用ベルト21をそれぞれ前記のようにその内周面側に設けた押圧部材22により回転する加圧ローラ23に押し付け、この定着用ベルト21を加圧ローラ23の回転に伴って回転駆動させた場合における回転トルクの経時変化を測定すると共に、上記の定着用ベルト21と加圧ローラ23とによって記録媒体9を搬送させる搬送速度を150mm/s設定し、この搬送速度の経時変化率を測定した。
【0069】
そして、上記の実施例1の定着用ベルトを用いた場合の結果を図16(A),(B)に、上記の実施例2の定着用ベルトを用いた場合の結果を図17(A),(B)に、上記の実施例3の定着用ベルトを用いた場合の結果を図18(A),(B)に、上記の実施例4の定着用ベルトを用いた場合の結果を図19(A),(B)に、上記の実施例5の定着用ベルトを用いた場合の結果を図20(A),(B)に、上記の実施例6の定着用ベルトを用いた場合の結果を図21(A),(B)に、上記の実施例7の定着用ベルトを用いた場合の結果を図22(A),(B)に、上記の比較例1の定着用ベルトを用いた場合の結果を図23(A),(B)に、上記の比較例2の定着用ベルトを用いた場合の結果を図24(A),(B)に、上記の比較例3の定着用ベルトを用いた場合の結果を図25(A),(B)に、上記の比較例4の定着用ベルトを用いた場合の結果を図25(A),(B)に示した。
【0070】
この結果、上記の実施例1〜7の各定着用ベルトを用いた場合には、上記の比較例1〜4の各定着用ベルトを用いた場合に比べて、長時間の使用によっても定着用ベルトと加圧ローラとによって搬送される記録媒体の搬送速度の変化が少なく、記録媒体が定着用ベルトと加圧ローラとの間に詰まったりすることがなく、安定した定着が行える用になっていた。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】定着用ベルトを用いた定着装置の概略説明図である。
【図2】この発明の実施形態に係る画像形成装置の概略説明図である。
【図3】上記の実施形態に係る画像形成装置に使用した定着用ベルトの断面説明図である。
【図4】上記の定着用ベルトの内周面に設ける溝部の第1の例を示した部分説明図である。
【図5】上記の定着用ベルトの内周面に設ける溝部の第2の例を示した部分説明図である。
【図6】上記の定着用ベルトの内周面に設ける溝部の第3の例を示した部分説明図である。
【図7】上記の定着用ベルトの内周面に設ける溝部の第4の例を示した部分説明図である。
【図8】上記の定着用ベルトの内周面に設ける溝部の第5の例を示した部分説明図である。
【図9】上記の定着用ベルトの内周面に設ける溝部の第6の例を示した部分説明図である。
【図10】上記の定着用ベルトの内周面に設ける溝部の第7の例を示した部分説明図である。
【図11】上記の定着用ベルトの内周面に設ける溝部の第8の例を示した部分説明図である。
【図12】比較例1の定着用ベルトの内周面に設ける溝部の状態を示した部分説明図である。
【図13】比較例2の定着用ベルトの内周面に設ける溝部の状態を示した部分説明図である。
【図14】比較例3の定着用ベルトの内周面に設ける溝部の状態を示した部分説明図である。
【図15】比較例4の定着用ベルトの内周面に設ける溝部の状態を示した部分説明図である。
【図16】実施例1の定着用ベルトを用いた場合における回転トルクの経時変化と、搬送速度の経時変化率とを示した図である。
【図17】実施例2の定着用ベルトを用いた場合における回転トルクの経時変化と、搬送速度の経時変化率とを示した図である。
【図18】実施例3の定着用ベルトを用いた場合における回転トルクの経時変化と、搬送速度の経時変化率とを示した図である。
【図19】実施例4の定着用ベルトを用いた場合における回転トルクの経時変化と、搬送速度の経時変化率とを示した図である。
【図20】実施例5の定着用ベルトを用いた場合における回転トルクの経時変化と、搬送速度の経時変化率とを示した図である。
【図21】実施例6の定着用ベルトを用いた場合における回転トルクの経時変化と、搬送速度の経時変化率とを示した図である。
【図22】実施例7の定着用ベルトを用いた場合における回転トルクの経時変化と、搬送速度の経時変化率とを示した図である。
【図23】比較例1の定着用ベルトを用いた場合における回転トルクの経時変化と、搬送速度の経時変化率とを示した図である。
【図24】比較例2の定着用ベルトを用いた場合における回転トルクの経時変化と、搬送速度の経時変化率とを示した図である。
【図25】比較例3の定着用ベルトを用いた場合における回転トルクの経時変化と、搬送速度の経時変化率とを示した図である。
【図26】比較例4の定着用ベルトを用いた場合における回転トルクの経時変化と、搬送速度の経時変化率とを示した図である。
【符号の説明】
【0072】
1 ホルダー
2 トナー担持体
3 像担持体
4 帯電装置
5 露光装置
6 転写ベルト
7 クリーニング装置
8 用紙カセット
9 記録媒体
10 送りローラ
11 転写ローラ
12 クリーニング装置
20 定着装置
21 定着用ベルト
21a ベルト基材
21b 弾性層
21c 表面層
21d 溝部
22 押圧部材
23 加圧ローラ
24 加熱ローラ
24a 加熱装置
A1〜A4 現像装置
t トナー像
θ 定着用ベルトの幅方向中央部から端部に向かって移動方向に傾斜する溝部の傾斜角度
θa 定着用ベルトの端部における溝部の接線方向の傾斜角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に潤滑剤が付与された無端状の定着用ベルトを回転駆動させると共に、この定着用ベルトをトナー像が形成された記録媒体に押し付けて、トナー像を記録媒体に定着させる定着装置に使用する定着用ベルトであって、潤滑剤が付与される定着用ベルトの内周面に、その周方向に沿った溝部を複数設けたことを特徴とする定着用ベルト。
【請求項2】
内周面に潤滑剤が付与された無端状の定着用ベルトを回転駆動させると共に、この定着用ベルトをトナー像が形成された記録媒体に押し付けて、トナー像を記録媒体に定着させる定着装置に使用する定着用ベルトであって、潤滑剤が付与される定着用ベルトの内周面に、その幅方向中央部から両側の端部に向かい定着用ベルトの移動方向に傾斜する溝部を複数設けたことを特徴とする定着用ベルト。
【請求項3】
請求項2に記載した定着用ベルトにおいて、定着用ベルトの内周面に設けられた上記の溝部が、定着用ベルトの幅方向中央部から両側の端部に向かい定着用ベルトの移動方向に5°以上の角度で傾斜していることを特徴とする定着用ベルト。
【請求項4】
請求項2に記載した定着用ベルトにおいて、定着用ベルトの内周面に設けられた上記の溝部が、定着用ベルトの幅方向中央部から両側の端部に向かい円弧状になって定着用ベルトの移動方向に傾斜していることを特徴とする定着用ベルト。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載した定着用ベルトにおいて、上記の溝部の幅が10〜80μmの範囲であることを特徴とする定着用ベルト。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載した定着用ベルトにおいて、上記の溝部の溝深さが4〜30μmの範囲、密度が5本/mm以上であることを特徴とする定着用ベルト。
【請求項7】
内周面に潤滑剤が付与された無端状の定着用ベルトを回転駆動させると共に、この定着用ベルトをトナー像が形成された記録媒体に押し付けて、トナー像を記録媒体に定着させる定着装置において、定着用ベルトとして請求項1〜6の何れか1項に記載した定着用ベルトを用いたことを特徴とする定着装置。
【請求項8】
請求項7に記載した定着装置において、上記の定着用ベルトをその内周面側に設けた押圧部材により回転する加圧ローラに押し付けて、この定着用ベルトを回転駆動させると共に、この定着用ベルトと加圧ローラとの間にトナー像が形成された記録媒体を導いて、トナー像を記録媒体に定着させるようにしたことを特徴とする定着装置。
【請求項9】
トナー像を記録媒体に定着させる定着装置を備えた画像形成装置において、定着装置として請求項7又は請求項8に記載した定着装置を用いたことを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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