説明

定着用ローラ、定着装置および画像形成装置

【課題】弾性層から発生した低分子量成分が放出されるのを確実に防止または抑制し得る定着用ローラ、定着装置、および画像形成装置を提供すること。
【解決手段】本発明の定着用ローラは、記録媒体に担持された未定着像を該記録媒体に定着させる定着処理に用いるものであって、円筒状または円柱状をなす基部91Aと、基部91Aの外周面上に設けられた弾性層91Bと、弾性層91Bの外周面上に設けられ、ガスバリア性を有する離型層91Cと、弾性層91Bの両側に、それぞれ端面を覆うように設けられ、ガスバリア性を有するカバー層(封止部)91Dとを有する。このカバー層91Dは、フッ素化アルキルエーテル構造と複数のアルケニル基とを有するフッ素化ポリエーテル化合物と、複数のSiH結合を有するシリコン系化合物とを反応させて得られたフッ素化ポリエーテル系高分子を含む材料で構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着用ローラ、定着装置および画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式を採用するプリンタ、コピー、ファクシミリなどの画像形成装置は、露光、現像、転写、定着のプロセスにより、紙などの記録媒体上に、トナーからなる画像を形成する。このような画像形成装置には、トナーにより形成されたトナー像を未定着状態で担持する紙等の記録媒体に加熱および加圧することにより、前記トナー像を前記記録媒体に定着させる定着装置が備えられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
かかる定着装置は、一般に、互いに圧接回転する円柱状または円筒状の定着ローラおよび加圧ローラと、この定着ローラを加熱するハロゲンヒータとを有している。前記定着ローラおよび前記加圧ローラの前記圧接により形成されたニップに、記録媒体を通紙することにより、前記記録媒体を加熱および加圧して、前記記録媒体上に形成されたトナー像を前記記録媒体に定着させる。
【0004】
特許文献1において、加圧ローラは、芯金と、この芯金の周囲を覆うゴム製の弾性層と、この弾性層の周囲を覆う離型層とを有している。このような加圧ローラに設けられた弾性層は、その弾性により、ニップ幅を大きいものとして定着性を向上させる。
また、特許文献1では、弾性層と離型層とは加圧ローラの軸線方向で同等の長さとなっていて、弾性層の端面が外部に露出している。そのため、弾性層内に含まれる低分子量成分が外部へ漏れ出し、画像形成装置内で画像形成プロセスに悪影響を与える場合がある。例えば、弾性層がシリコーンゴムで構成されている場合、弾性層内の低分子量シロキサンが画像形成装置内へ漏れ出し、前述のような悪影響を生じさせるおそれがある。
【0005】
このような問題に対し、低分子量成分をオゾンにより分解・除去する手段を設けた画像形成装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
しかしながら、かかる手段は、低分子量成分の種類等によっては、十分な除去性能が得られないおそれがある。また、画像形成装置に、新たに排気装置や反応装置等を備える必要があり、画像形成装置の大型化、高コスト化を招くという問題もある。
【0006】
【特許文献1】特開平6−214481号公報
【特許文献2】特開2004−294460号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、弾性層から発生した低分子量成分が放出されるのを確実に防止または抑制し得る定着用ローラ、定着装置、および画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の定着用ローラは、記録媒体に担持された未定着像を該記録媒体に定着させる定着処理に用いる定着用ローラであって、
円筒状または円柱状をなす基部と、
前記基部の外周面側に設けられ、弾性材料で構成された弾性層と、
該弾性層の外周面側に設けられ、前記弾性材料から発生するガスを実質的に遮断するガスバリア性を有する表層と、
前記弾性層の両端面を覆うように設けられ、前記弾性材料から発生するガスを実質的に遮断するガスバリア性を有する封止部とを備え、
該封止部が、フッ素化ポリエーテル系高分子を含む材料で構成されていることを特徴とする。
これにより、弾性層から発生した低分子量成分が放出されるのを確実に防止または抑制し得る定着用ローラが得られる。
【0009】
本発明の定着用ローラでは、前記封止部中における前記フッ素化ポリエーテル系高分子の含有量は、60wt%以上であることが好ましい。
これにより、カバー層のガスバリア性をより向上させることができる。
本発明の定着用ローラでは、前記フッ素化ポリエーテル系高分子は、フッ素化アルキルエーテル構造と複数のアルケニル基とを有するフッ素化ポリエーテル化合物と、複数のSiH結合を有するシリコン系化合物とを反応させて得られたものであることが好ましい。
このようにして得られるフッ素化ポリエーテル系高分子の末端には、アルケニル基が存在することになるため、弾性層をシリコーンゴムを主材料として構成する場合、例えば、このシリコーンゴムとフッ素化ポリエーテル系高分子とを反応させることにより、弾性層とカバー層とのさらなる密着性の向上を図ることができる。
【0010】
本発明の定着用ローラでは、前記フッ素化ポリエーテル化合物において、前記フッ素化アルキルエーテル構造の総酸素原子数は、1〜450であることが好ましい。
このような総酸素原子数のフッ素化アルキルエーテル構造を有するフッ素化ポリエーテル化合物は、その分子量が適度なものとなる。その結果、後述するように、カバー層を形成する際に用いる組成物の粘度が適度なものとなり、その取り扱いが容易となる。
【0011】
本発明の定着用ローラでは、前記フッ素化ポリエーテル化合物において、前記フッ素化アルキルエーテル構造は、分枝状をなしていることが好ましい。
かかる構造を含むフッ素化ポリエーテル化合物から得られるフッ素化ポリエーテル系高分子は、そのガスバリア性がより高いものとなる。
本発明の定着用ローラでは、前記フッ素化ポリエーテル化合物において、前記アルケニル基は、ビニル基またはアリル基であることが好ましい。
これらのアルケニル基は、ヒドロシリル基との反応性が特に高いことから好ましい。
【0012】
本発明の定着用ローラでは、前記シリコン系化合物は、少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換された炭化水素構造を有することが好ましい。
これにより、シリコン系化合物とフッ素化ポリエーテル化合物との相溶性を極めて高いものとすることができる。
本発明の定着用ローラでは、前記シリコン系化合物は、少なくとも1つのエーテル結合を有することが好ましい。
フッ素化ポリエーテル化合物は、フッ素原子とエーテル結合とを有することにより、分極し易い構造となっているが、シリコン系化合物もフッ素原子を含み、さらにエーテル結合を有することにより、分極し易い構造となる。その結果、電気的な相互作用の観点からも、これらの相溶性を向上させることができるようになる。
本発明の定着用ローラでは、前記シリコン系化合物の総炭素原子数は、1〜300であることが好ましい。
これにより、シリコン系化合物のフッ素化ポリエーテル化合物との相溶性を十分に高いものとすることができる。
【0013】
本発明の定着用ローラでは、前記封止部は、膜状をなし、その平均厚さが1〜1000μmであることが好ましい。
これにより、封止部は、弾性層から発生した低分子量成分を含むガスの放出を確実に防止しつつ、弾性層の変形に十分追従し得るものとなる。
本発明の定着用ローラでは、前記表層は、前記記録媒体の密着を防止する離型層であることが好ましい。
これにより、未定着像を記録媒体に定着させる際に、定着用ローラに記録媒体が密着するのを防止して、画像形成装置の紙詰まり等を防止することができる。
【0014】
本発明の定着用ローラでは、前記離型層は、フッ素系樹脂を主材料として構成されていることが好ましい。
フッ素系樹脂は、ガスバリア性に優れるとともに、フッ素原子に起因する特有の滑り性を有するため、記録媒体の剥離性に優れ、離型層として、より優れた機能を発揮させることができる。
【0015】
本発明の定着装置は、互いに圧接回転する第1のローラおよび第2のローラと、前記第1のローラを加熱するヒータとを有し、未定着像を担持する記録媒体を前記第1のローラと第2のローラとの間に通過させながら加圧・加熱することにより、前記未定着像を前記記録媒体に定着させる定着装置であって、
前記第1のローラおよび前記第2のローラのうちの少なくとも一方を、本発明の定着用ローラで構成したことを特徴とする。
これにより、低分子量成分が放出されるのを確実に防止または抑制し得る定着装置が得られる。
本発明の画像形成装置は、本発明の定着装置を備えることを特徴とする。
これにより、低分子量成分による悪影響を抑制しつつ、高品位の画像を出力し得る画像形成装置が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の定着用ローラ、定着装置およびこれを備える画像形成装置の好適な実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1は、本発明にかかる画像形成装置の一実施形態を示す全体構成の模式的断面図、図2は、図1に示す画像形成装置に備えられた定着装置の好適な実施形態を示す模式的断面図、図3は、図2におけるA−A線断面図、図4は、図3の定着装置の定着ローラおよび加圧ローラの端部の構成を説明するための部分拡大図である。
【0017】
≪画像形成装置≫
本発明の定着装置に先立ち、本発明の定着装置を備える画像形成装置を簡単に説明する。
図1に示す本実施形態の画像形成装置10は、露光・現像・転写・定着を含む一連の画像形成プロセスによって、紙やOHPシート等の記録媒体に画像を形成するものである。このような画像形成装置10は、図1に示すように、静電的な潜像を担持し図示矢印方向に回転する感光体20を有し、その回転方向に沿って順次、帯電ユニット30、露光ユニット40、現像ユニット50、一次転写ローラ60、クリーニングユニット75が配設されている。また、画像形成装置10は、図1にて下部に、紙などの記録媒体Pを収容する給紙トレイ82が設けられ、その給紙トレイ82に対して記録媒体Pの搬送方向下流に、二次転写ローラ80、定着装置90が記録媒体Pの搬送方向に沿って順次配設されている。また、画像形成装置10には、記録媒体の両面に画像を形成する場合に、定着装置90によって一方の面に定着処理された記録媒体Pを表裏反転させて二次転写ローラ80へ帰還させるための搬送部88が設けられている。
【0018】
感光体20は、円筒状の導電性基材(図示せず)と、その外周面に形成された感光層(図示せず)とを有し、その軸線まわりに図1中矢印方向に回転可能となっている。
帯電ユニット30は、コロナ帯電などにより感光体20の表面を一様に帯電するための装置である。
露光ユニット40は、図示しないパーソナルコンピュータなどのホストコンピュータから画像情報を受け、これに応じて、一様に帯電された感光体20上に、レーザを照射することによって、静電的な潜像を形成する装置である。
【0019】
現像ユニット50は、ブラック現像装置51と、マゼンタ現像装置52と、シアン現像装置53と、イエロー現像装置54との4つの現像装置を有し、これらの現像装置を感光体20上の潜像に対応して選択的に用いて、前記潜像をトナー像として可視化する装置である。ブラック現像装置51はブラック(K)トナー、マゼンタ現像装置52はマゼンタ(M)トナー、シアン現像装置53はシアン(C)トナー、イエロー現像装置54はイエロー(Y)トナーを用いて現像を行う。
【0020】
本実施形態におけるYMCK現像ユニット50は、前述の4つの現像装置51、52、53、54を選択的に感光体20に対向するように、回転可能となっている。具体的には、このYMCK現像ユニット50は、軸50aを中心として回転可能な保持体55の4つの保持部55a、55b、55c、55dにそれぞれ4つの現像装置51、52、53、54が保持されており、保持体55の回転により、4つの現像装置51、52、53、54が相対位置関係を維持したまま、感光体20に選択的に対向するようになっている。
【0021】
中間転写体61は、エンドレスベルト状の中間転写ベルト70を有し、この中間転写ベルト70は、駆動ローラ71、従動ローラ72および一時転写ローラ60で張架されており、駆動ローラ71の回転により、図1に示す矢印方向に、感光体20とほぼ同じ周速度にて回転駆動される。
一次転写ローラ60は、感光体20に形成された単色のトナー像を中間転写ベルト70に転写するための装置である。
【0022】
中間転写ベルト70上には、ブラック、マゼンタ、シアン、イエローのうちの少なくとも1色のトナー像が担持され、例えばフルカラー画像の形成時に、ブラック、マゼンタ、シアン、イエローの4色のトナー像が順次重ねて転写されて、フルカラーのトナー像が形成される。本実施形態では、駆動ローラ71が、後述する二次転写ローラ80のバックアップローラとしても機能する。また、一次転写ローラ60、駆動ローラ71、従動ローラ72は、基体73によって支持されている。
【0023】
二次転写ローラ80は、中間転写ベルト70上に形成された単色やフルカラーなどのトナー像を、紙、フィルム、布等の記録媒体Pに転写するための装置である。
定着装置90は、前記トナー像の転写を受けた記録媒体Pを加熱および加圧することにより、前記トナー像を記録媒体Pに融着させて永久像として定着させるための装置である。この定着装置90は、本発明のローラユニットを備えるものである。なお、定着装置90については、後に詳述する。
【0024】
クリーニングユニット75は、一次転写ローラ60と帯電ユニット30との間で感光体20の表面に当接するゴム製のクリーニングブレード76を有し、一次転写ローラ60によって中間転写ベルト70上にトナー像が転写された後に、感光体20上に残存するトナーをクリーニングブレード76により掻き落として除去するための装置である。
搬送部88は、定着装置90によって一方の面に定着処理された記録媒体Pを挟持搬送する搬送ローラ対88A、88Bと、搬送ローラ対88A、88Bによって搬送される記録媒体Pを表裏反転しつつレジローラ86へ向け案内する搬送路88Cとを備えている。これにより、記録媒体の両面に画像形成する場合に、定着装置90によって一方の面に定着処理された記録媒体Pを表裏反転して二次転写ローラ80へ帰還させる。
【0025】
次に、このように構成された画像形成装置10の動作を説明する。
まず、図示しないホストコンピュータからの指令により、感光体20、現像ユニット50に設けられた現像ローラ(図示せず)、および中間転写ベルト70が回転を開始する。そして、感光体20は、回転しながら、帯電ユニット30により順次帯電される。
感光体20の帯電された領域は、感光体20の回転に伴って露光位置に至り、露光ユニット40によって、第1色目、例えばイエローYの画像情報に応じた潜像が前記領域に形成される。
感光体20上に形成された潜像は、感光体20の回転に伴って現像位置に至り、イエロー現像装置54によってイエロートナーで現像される。これにより、感光体20上にイエロートナー像が形成される。このとき、YMCK現像ユニット50は、イエロー現像装置54が、前記現像位置にて感光体20と対向している。
【0026】
感光体20上に形成されたイエロートナー像は、感光体20の回転に伴って一次転写位置(すなわち、感光体20と一次転写ローラ60との対向部)に至り、一次転写ローラ60によって、中間転写ベルト70に転写(一次転写)される。このとき、一次転写ローラ60には、トナーの帯電極性とは逆の極性の一次転写電圧(一次転写バイアス)が印加される。なお、この間、二次転写ローラ80は、中間転写ベルト70から離間している。
前述の処理と同様の処理が、第2色目、第3色目および第4色目について繰り返して実行されることにより、各画像信号に対応した各色のトナー像が、中間転写ベルト70に重なり合って転写される。これにより、中間転写ベルト70上にはフルカラートナー像が形成される。
一方、記録媒体Pは、給紙トレイ82から、給紙ローラ84、レジローラ86によって二次転写ローラ80へ搬送される。
【0027】
中間転写ベルト70上に形成されたフルカラートナー像は、中間転写ベルト70の回転に伴って二次転写位置(すなわち、二次転写ローラ80と駆動ローラ71との対向部)に至り、二次転写ローラ80によって記録媒体Pに転写(二次転写)される。このとき、二次転写ローラ80は中間転写ベルト70に押圧されるとともに二次転写電圧(二次転写バイアス)が印加される。
【0028】
記録媒体Pに転写されたフルカラートナー像は、定着装置90によって加熱および加圧されて記録媒体Pに融着される。その後、記録媒体Pは、排紙ローラ対87によって画像形成装置10の外部へ排出される。
一方、感光体20は一次転写位置を経過した後に、クリーニングユニット75のクリーニングブレード76によって、その表面に付着しているトナーが掻き落とされ、次の潜像を形成するための帯電に備える。掻き落とされたトナーは、クリーニングユニット75内の残存トナー回収部に回収される。
【0029】
記録媒体の両面に画像形成する場合には、定着装置90によって一方の面に定着処理された記録媒体Pを一旦排紙ローラ対87により挟持した後に、排紙ローラ対87を反転駆動するとともに、搬送ローラ対88A、88Bを駆動して、当該記録媒体Pを搬送路88Cを通じて表裏反転して二次転写ローラ80へ帰還させ、前述と同様の動作により、記録媒体Pの他方の面に画像を形成する。
【0030】
≪定着装置≫
ここで、定着装置90を図2ないし図4に基づいて詳細に説明する。
定着装置90は、図2に示すように、互いに圧接回転する1対の定着ローラ(第1のローラ)91および加圧ローラ(第2のローラ)92と、定着ローラ91を加熱するためのヒータ93と、定着ローラ91の温度を検知するための温度検知体94と、定着ローラ91から定着後の記録媒体を分離するための分離部材95と、定着ローラ91および加圧ローラ92のそれぞれの周面の一部を覆うカバー96とを有している。
【0031】
この定着装置90は、定着ローラ91および加圧ローラ92の圧接により形成されるニップ部Nに対し、図2にて下方から、未定着像を担持する記録媒体がニップ部Nへ搬送され、前記記録媒体を加熱および加圧することにより、前記未定着像を前記記録媒体に定着させる。本実施形態では、ニップ部Nに搬送される記録媒体は定着ローラ91側に未定着像を担持している。
【0032】
定着ローラ91は、円筒状をなし、その軸線まわりに回転可能となっている。
また、定着ローラ91は、図2および図3に示すように、円筒状または円柱状をなす金属製の基部(芯金)91Aと、基部91Aの外周面を覆う弾性層91Bと、弾性層91Bの外周面を覆い、ガスバリア性を有する離型層(表層)91Cとを有している。
特に、定着ローラ91は、図3および図4に示すように、弾性層91Bの端面上に設けられたカバー層91Dを有する。このカバー層91Dは、弾性層91Bの端面の露出を防止する露出防止手段を構成する。このようなカバー層91Dが弾性層91Bの端面上に設けられていると、弾性層91Bを構成する材料に含まれる低分子量成分が弾性層91Bの端面から漏出するのを防止することができる。なお、基部91A、弾性層91B、離型層91C、カバー層91Dについては、後に詳述する。
【0033】
このような定着ローラ91を用いると、弾性層91Bの弾性により、ニップ部Nの幅を大きいものとし、優れた定着性を発揮しつつ、弾性層91Bから発生する低分子量成分(ガス)が画像形成装置10内で画像形成プロセスに悪影響を与えるのを防止して、高品位な画像を得ることができる。例えば、弾性層91Bがシリコーンゴムで構成されている場合、低分子量シロキサンが弾性層91Bの端部から漏れ出し、低分子量シロキサンが帯電ユニット30に付着して帯電性能を低下させるのを防止することができる。また、低分子量シロキサンが画像形成装置10の外部に漏れ出ることによる悪影響(例えば、臭気等)の発生も確実に防止することができる。かかる観点から、このような定着ローラ91を備えた定着装置90および画像形成装置10は、放出されるガスによる環境汚染等を防止することができ、環境負荷を低減し得るものとなる。
【0034】
このような定着ローラ91の内部空間には、ハロゲンヒータ等のヒータ93が配設されている。
また、このような定着ローラ91の外周面に対し、例えばサーミスタのような温度検知体94が接触または近接して設けられている。このような温度検知体94によって検知された温度に基づき、図示しない制御手段により、定着ローラ91の外表面が目標温度となるように、前述したヒータ93の駆動が制御される。
加圧ローラ92は、円筒状または円柱状をなし、その軸線まわりに回転可能となっているとともに、定着ローラ91に圧接している。
【0035】
以下、定着ローラ91の基部91A、弾性層91B、離型層91C、カバー層91Dを順次詳細に説明する。
基部91Aは、円筒状をなし、例えば鉄やアルミニウム合金などの金属で構成されている。このような基部91Aの外周面上をその全周に亘って覆うように弾性層91Bが形成されている。
【0036】
弾性層91Bを構成する弾性材料としては、特に限定されないが、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、エチレン−プロピレンゴム、ヒドリンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴムのような各種ゴム材料(特に加硫処理したもの)や、スチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、トランスポリイソプレン系、フッ素ゴム系、塩素化ポリエチレン系等の各種熱可塑性エラストマーが挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を混合して用いることができる。これらの中でも、弾性層91Bの構成材料としては、例えば、シリコーンゴム、EPDM、フッ素ゴムなどを好適に用いることができ、シリコーンゴムが特に好ましい。
【0037】
シリコーンゴムは、主鎖が−(Si−O)−で表されるシロキサン結合で構成されている有機ケイ素ポリマーである。この主鎖のSi原子には、種々の側鎖が結合しており、この側鎖の構造に応じて、シリコーンゴムが分類されている。
具体的には、例えば、側鎖が全てメチル基であるジメチルシリコーンゴム(MQ)、ジメチルシリコーンゴムのメチル基の一部をビニル基で置換したビニルメチルシリコーンゴム(VMQ)、ジメチルシリコーンゴムのメチル基の一部をフェニル基で置換したフェニルメチルシリコーンゴム(PMQ)、ビニルメチルシリコーンゴムのメチル基の一部をフェニル基で置換したフェニルビニルメチルシリコーンゴム(PVMQ)、ビニルメチルシリコーンゴムのメチル基の一部をフルオロアルキル基で置換したフルオロシリコーンゴム(FVMQ)等が挙げられる。
【0038】
また、シリコーンゴムは、その重合度によっても分類され、ミラブル型と液状型とに大別される。
一般的に、重合度100〜2000程度のものが液状型シリコーンゴムに分類され、重合度3000〜10000程度のものがミラブル型シリコーンゴムに分類されている。
また、液状型シリコーンゴムは、硬化する前には、液状またはゲル状をなしているが、硬化剤を添加したり、吸湿したりすることにより、硬化するものである。
一方、ミラブル型シリコーンゴムは、硬化する前は、ペースト状(コンパウンド)の形態をなしているが、加硫剤を添加し、加熱することにより硬化するものである。
【0039】
また、弾性層91Bの厚さは、加圧ローラ92の弾性層の厚さより小さいのが好ましい。より具体的には、弾性層91Bの厚さとしては、特に限定されないが、例えば、0.1〜3mmであるのが好ましく、0.5〜1.5mmであるのがより好ましい。これにより、図2に示すように、加圧ローラ92側が凹湾曲面をなすようなニップ部Nを確実に形成することができる。
【0040】
このような弾性層91Bの外周面をその全周に亘って覆うように離型層91Cが形成されている。
離型層91Cは、記録媒体Pとの密着を防止する機能を有する層である。これにより、未定着像を記録媒体Pに定着させる際に、定着ローラ91に記録媒体Pが密着するのを防止して、画像形成装置10の紙詰まり等を防止することができる。
【0041】
また、離型層91Cは、弾性層91Bの構成材料(弾性材料)から発生するガスを実質的に遮断するガスバリア性を有する層である。この離型層91Cの厚さは、10〜80μmであるのが好ましく、30〜40μmであるのがより好ましい。これにより、離型層91Cに必要な強度とガスバリア性を保ちつつ、弾性層91Bの弾性を十分に発揮させることができる。
【0042】
また、離型層91Cの構成材料としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)のようなフッ素系樹脂、シリコン系樹脂、オレフィン系樹脂等を用いることができるが、フッ素系樹脂を主材料として構成されるのが好ましい。フッ素系樹脂は、ガスバリア性に優れるとともに、フッ素原子に起因する特有の滑り性を有するため、記録媒体の剥離性に優れ、離型層91Cとして、より優れた機能を発揮させることができる。
また、離型層91Cは、弾性層91Bの外周面に接合してなるチューブ状部材であるのが好ましい。これにより、離型層91Cの耐久性を優れたものとし、長期使用により離型層91Cが損傷して定着ローラ91の外表面から低分子量成分が漏れ出すのを防止することができる。
【0043】
このような離型層91Cの両端面付近と基部91Aとの間をシールするように、前述した弾性層91Bの両端面上に、それぞれ、ガスバリア性を有するカバー層(封止部)91Dが設けられている。
かかる離型層91Cとカバー層91Dとは別体として形成され、基部91Aの軸線方向にて、両端部の離型層91Cは、弾性層91Bの端面を越えるように延出して設けられている。
【0044】
このカバー層91Dは、フッ素化ポリエーテル系高分子を含有する材料で構成されている。このようなフッ素化ポリエーテル系高分子は、フッ素原子に特有の性質(親和性が低い)のため、弾性材料から発生する低分子量成分(ガス)を実質的に遮断するガスバリア性に優れる。このため、かかるカバー層91Dを備える定着ローラ91は、弾性層から発生したガスが、弾性層91Bの端面から外部に放出されるのを確実に防止し得るものとなる。
【0045】
さらに、このような材料で構成されるカバー層91Dは、弾性層91Bに対して高い密着性が得られる。このため、未定着像を記録媒体に定着させる際に、弾性層91Bが変形した場合にも、カバー層91Dは、弾性層91Bの変化に追従することができ、長期に亘って弾性層91Bからの剥離を防止し得るものとなる。これにより、定着ローラ91は、長期に亘って、低分子量成分を含むガスが外部に放出されるのを防止し得るものとなる。
【0046】
このフッ素化ポリエーテル系高分子には、フッ素化アルキルエーテル構造と複数のアルケニル基とを有するフッ素化ポリエーテル化合物と、複数のSiH結合を有するシリコン系化合物とを反応させて得られた高分子が好適に用いられる。このようにして得られるフッ素化ポリエーテル系高分子の末端には、アルケニル基が存在することになるため、弾性層91Bをシリコーンゴムを主材料として構成する場合、例えば、このシリコーンゴムとフッ素化ポリエーテル系高分子とを反応させることにより、弾性層91Bとカバー層91Dとのさらなる密着性の向上を図ることができる。
【0047】
以下、フッ素化ポリエーテル化合物およびシリコン系化合物について、それぞれ詳述する。
<フッ素化ポリエーテル化合物>
このフッ素化ポリエーテル化合物は、フッ素化アルキルエーテル構造(主鎖)と複数のアルケニル基とを有する化合物である。
【0048】
フッ素化アルキルエーテル構造としては、各種の構造が挙げられるが、下記一般式(I)で表される構造が好適である。
−(CF(CF))(OCFCF(CF))(O)(CFO(CF(CF)CFO)(CF(CF))− ・・・(I)
[ただし、式中、a、cおよびfは、それぞれ0または1、bおよびeは、それぞれ0〜200の整数、dは、2〜6の整数を表す。]
【0049】
各種の構造の具体例としては、例えば、−CFO−、−CFCFO−、−CFCFCFO−、−CFCFCFCFO−、−CFCFCFCFCFO−、−CFCFCFCFCFCFO−、−CFCF(CF)O−、−CFCFCF(CF)O−、−C(CFO−、−CF(CF)(OCFCF(CF))OCFCFO(CF(CF)CFO)CF(CF)−等が挙げられる。
【0050】
これらの中でも、フッ素化アルキルエーテル構造は、CFCF(CF)Oの構造を含むもの、すなわち分枝状をなしているものが好ましい。かかる構造を含むフッ素化ポリエーテル化合物から得られるフッ素化ポリエーテル系高分子は、そのガスバリア性がより高いものとなる。
また、フッ素化アルキルエーテル構造の総酸素原子数は、1〜450程度であるのが好ましく、5〜300程度であるのがより好ましい。このような総酸素原子数のフッ素化アルキルエーテル構造を有するフッ素化ポリエーテル化合物は、その分子量が適度なものとなる。その結果、後述するように、カバー層91Dを形成する際に用いる組成物の粘度が適度なものとなり、その取り扱いが容易となる。
【0051】
アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、1−プロペニル基、イソプロペニル基、2−ブテニル基、1,3−ブタジエニル基、2−ペンテニル基、2−ヘキセニル基、シクロプロペニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられるが、中でも、ビニル基またはアリル基が好ましい。これらのアルケニル基は、ヒドロシリル基との反応性が特に高いことから好ましい。
なお、アルケニル基は、主鎖のフッ素化アルキルエーテル構造に直接結合していてもよいが、各種二価の連結基を介して結合していてもよい。
【0052】
かかる二価の連結基としては、例えば、−CH−、−CHO−、−CHNHCO−、−CHN(CH)CO−、−CHN(C)CO−、−CHN(CHCHCH)CO−、−Si(CH(C)NHCO−、−Si(CH(C)N(CH)CO−、−Si(CH(C)N(C)CO−、−Si(CH(C)N(CHCHCH)CO−等が挙げられる。このうち、ベンゼン環を含めば、得られるフッ素化ポリエーテル系高分子の耐熱性の向上を図り得ることから好ましい。
【0053】
さらに、以上のようなフッ素化ポリエーテル化合物は、必要に応じて、これをモノマーとして、重合化剤(架橋剤)により、予めオリゴマー化(またはプレポリマー化)して用いるようにしてもよい。この重合化度(分子量)を設定することにより、カバー層91Dを形成する際に用いる組成物の粘度の調製を行うことができる。
かかる重合化剤としては、例えば、ヒドロシリル基を2つ有する化合物、ビニル基(アクリロイル基)を2つ有する化合物、エポキシ基を2つ有する化合物等が挙げられる。
用いるフッ素化ポリエーテル化合物(または重合体)としては、その重量平均分子量が400〜100000程度であるのが好ましく、1000〜50000程度であるのがより好ましい。
【0054】
<シリコン系化合物>
シリコン系化合物は、複数のSiH結合(ヒドロシリル基)を有する化合物である。
このシリコン系化合物は、SiH結合を2つ有していればよいが、3つ以上有するものが好ましい。これにより、前記フッ素化ポリエーテル化合物とシリコン系化合物とを反応させると、得られるフッ素化ポリエーテル系高分子は、3次元的な網目構造を形成するようになり、結果として、カバー層91Dの機械的強度がより向上する。
【0055】
また、このシリコン系化合物としては、フッ素化ポリエーテル化合物との相溶性(親和性)の高い化合物が好ましい。かかるシリコン系化合物を用いることにより、カバー層91Dを形成する際に用いる組成物中において、シリコン系化合物とフッ素化ポリエーテル化合物とを均一に混合することができる。このため、カバー層91Dの各部において、これらの化合物を均一に反応させることができ、その結果、カバー層91Dの各部において機械的強度にバラツキが生じるのを好適に防止することができる。
【0056】
フッ素化ポリエーテル化合物との相溶性を向上させる観点からは、シリコン系化合物は、少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換された炭化水素構造を有するのが好ましい。これにより、シリコン系化合物とフッ素化ポリエーテル化合物との相溶性を極めて高いものとすることができる。
さらに、シリコン系化合物は、少なくとも1つのエーテル結合を有するものが好ましい。フッ素化ポリエーテル化合物は、フッ素原子とエーテル結合とを有することにより、分極し易い構造となっているが、シリコン系化合物もフッ素原子を含み、さらにエーテル結合を有することにより、分極し易い構造となる。その結果、電気的な相互作用の観点からも、これらの相溶性を向上させることができるようになる。
【0057】
このようなシリコン系化合物としては、例えば、一価のフッ素化アルキル基にシリコン原子が結合した化合物、一価のフッ素化オキシアルキル基にシリコン原子が結合した化合物、二価のフッ素化アルキレン基にシリコン原子が結合した化合物、二価のフッ素化オキシアルキレン基にシリコン原子が結合した化合物等が挙げられる。
なお、これらのフッ素化アルキル基、フッ素化オキシアルキル基、フッ素化アルキレン基、フッ素化オキシアルキレン基に、シリコン原子は、直接結合していてもよいが、各種二価の連結基を介して結合していてもよい。
【0058】
かかる二価の連結基としては、例えば、アルキレン基、アリーレン基またはこれらの組み合わせの他、エーテル結合、アミド結合、カルボニル結合等が挙げられる。
また、シリコン原子には、水素原子以外に、例えば、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基またはこれらの置換体等の置換基が結合していてもよい。なお、置換基の炭素数は、1〜20程度であるのが好ましい。
このようなシリコン系化合物は、その総炭素原子数が1〜300程度であるのが好ましく、5〜200程度であるのがより好ましい。これにより、シリコン系化合物のフッ素化ポリエーテル化合物との相溶性を十分に高いものとすることができる。
【0059】
カバー層91Dにおいて、フッ素化ポリエーテル系高分子の含有量は、60wt%以上であるのが好ましく、75wt%以上であるのがより好ましい。これにより、カバー層91Dのガスバリア性をより向上させることができる。
なお、カバー層91Dは、その他の成分を含有してもよい。
かかる成分としては、例えば、1−エチル−1−ヒドロキシシクロヘキサン、3−メチル−1−ブチンー3−オール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、3−メチル−1−ペンチン−3−オール、フェニルブチノール等のアセチレンアルコール、3−メチル−3−ペンテン−1−イン、3,5−ジメチル−3−ヘキセン−1−イン等のヒドロシリル化反応触媒の制御剤、アルコキシ基、エポキシ基、ヒドロシリル基等を有するオルガノシロキサン等の接着性付与剤、酸化鉄、酸化セリウム、カーボンブラック等の顔料、着色剤、染料、酸化防止剤等が挙げられる。
【0060】
カバー層91Dにフィラーを含有することにより、カバー層91Dの機械的強度をより向上させることができる。
用いるフィラーとしては、如何なるものであってもよいが、本発明においては、シリコン酸窒化物で構成されるものが好適である。かかるフィラーを用いることにより、カバー層91Dにおいて均一に分散することができ、フィラーを含有することによる効果がより好適に発揮される。
また、シリコン酸窒化物で構成されるフィラーは、その表面に疎水化処理を施したものが好ましい。これにより、フッ素化ポリエーテル系高分子との密着性が向上し、フィラーのカバー層91Dからの脱落を好適に防止することができる。
【0061】
この疎水化処理の方法としては、例えば、フィラーの表面に存在するシラノール基に疎水性の高い構造を結合させる方法、シラノール基を疎水性の高い構造と置換する方法等が挙げられる。
なお、フィラーの形状は、針状、葉状等であってもよいが、粒状であるのが好ましい。これにより、カバー層91D中でのフィラーの分散性を高めることができる。
【0062】
このようなカバー層91Dは、図4に示すように膜状とする場合、その平均厚さは1〜1000μm程度であるのが好ましく、5〜100μm程度であるのがより好ましい。これにより、カバー層91Dは、弾性層91Bから発生した低分子量成分を含むガスの放出を確実に防止しつつ、弾性層91Bの変形に十分追従し得るものとなる。
また、このような定着ローラ(第1のローラ)91はヒータ93により加熱されるため加圧ローラ(第2のローラ)92に比べて高温となりやすい。ここで、フッ素化ポリエーテル化合物は、耐熱性に優れるため、定着ローラ91を本発明の定着用ローラとすると、定着ローラ91は、長期に亘って安定した性能を発揮することができる。
【0063】
さらに、このようなフッ素化ポリエーテル化合物を用いて、電子部品等で一般的に使用されるシリコーン材料(例えば、放熱材や基板等として使用されている)を被覆することによっても、シリコーン材料から発生する低分子量シロキサンの放出を防止することができる。これにより、例えば、電子回路に低分子量シロキサンが付着して、電子回路に短絡等の不具合が生じるのを確実に防止することができる。
【0064】
以上のような定着ローラ91は、例えば、次のようにして製造することができる。
図5ないし図7は、図4に示す定着ローラの製造方法を説明するための図である。なお、以下の説明では、図5ないし図7の上側を「上」、下側を「下」と言う。
以下、製造工程を順次説明する。なお、以下の説明では、弾性層91Bが液状型シリコーンゴムで構成されている場合を代表に説明する。
【0065】
[1]まず、図5(a)に示すように、チューブ状の離型層91Cの内側に基部91Aを挿通し、離型層91Cの下端部を底板97で封止する。
なお、このとき、底板97の上面が離型層91Cの下端面よりも、前述したカバー層91Dの厚さ分だけ上方に位置しているのが好ましい。
[2]次に、弾性層の未硬化物(コンパウンド)91B’に硬化剤を添加した後、これを、図5(b)に示すように、基部91Aと離型層91Cとの間の空間91b内に供給し、充填する。このとき、充填した弾性層の未硬化物91B’の上面が離型層91Cの上端面よりも、カバー層91Dの厚さ分だけ下方に位置しているのが好ましい。これにより、未硬化物91B’の上側に、後述する工程でカバー層91Dが位置する凹部91dを形成することができる。
【0066】
[3]次に、未硬化物91B’を加熱して仮硬化させ、弾性層の仮硬化物91B”を得る。これにより、弾性層の未硬化物91B’が、流動して、製造工程途中で弾性層が変形するのを防止することができる。
加熱の方法としては、特に限定されないが、例えば、炉等による加熱、電磁波の照射等が挙げられる。
【0067】
また、加熱温度は、弾性層の未硬化物91B’が流動しない程度に硬化するような条件であればよい。具体的には、弾性層の組成に応じて若干異なるが、130〜200℃程度であるのが好ましく、150〜180℃程度であるのがより好ましい。
また、加熱時間は、加熱温度に応じて若干異なるが、1〜60分程度であるのが好ましく、5〜20分程度であるのがより好ましい。
なお、本工程は、必要に応じて行えばよく、弾性層の未硬化物91B’が、前記工程[2]の終了後において、すでに流動しない程度に硬化している場合には省略することができる。
【0068】
[4]まず、前述したような、フッ素化ポリエーテル化合物、シリコン系化合物および触媒を溶媒に溶解して、カバー層91Dを形成するための液状(またはゲル状)組成物91D’を調製する。
溶媒には、例えば、水、二硫化炭素、四塩化炭素等の無機溶媒や、メチルエチルケトン(MEK)、アセトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルイソプロピルケトン(MIPK)、シクロヘキサノン、3−ヘプタノン、4−ヘプタノン等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、t−ブタノール、3−メチル−1−ブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、n−ヘキサノール、シクロヘキサノール、1−ヘプタノール、1−オクタノール、2−オクタノール、2−メトキシエタノール、アリルアルコール、フルフリルアルコール、フェノール等のアルコール系溶媒、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン(DME)、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、テトラヒドロピラン(THP)、アニソール、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグリム)、2−メトキシエタノール等のエーテル系溶媒、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、フェニルセロソルブ等のセロソルブ系溶媒、ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、オクタン、ジデカン、メチルシクロヘキセン、イソプレン等の脂肪族炭化水素系溶媒、トルエン、キシレン、ベンゼン、エチルベンゼン、ナフタレン等の芳香族炭化水素系溶媒、ピリジン、ピラジン、フラン、ピロール、チオフェン、2−メチルピリジン、3−メチルピリジン、4−メチルピリジン、フルフリルアルコール等の芳香族複素環化合物系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)等のアミド系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、トリクロロエチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化合物系溶媒、アセチルアセトン、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸イソプロピル、酢酸イソブチル、酢酸イソペンチル、クロロ酢酸エチル、クロロ酢酸ブチル、クロロ酢酸イソブチル、ギ酸エチル、ギ酸イソブチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、安息香酸エチル等のエステル系溶媒、トリメチルアミン、ヘキシルアミン、トリエチルアミン、アニリン等のアミン系溶媒、アクリロニトリル、アセトニトリル等のニトリル系溶媒、ニトロメタン、ニトロエタン等のニトロ系溶媒、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ペンタナール、アクリルアルデヒド等のアルデヒド系溶媒等の有機溶媒等を用いることができる。
また、触媒としては、例えば、白金、パラジウム等の白金族金属等を用いることができる。
なお、必要に応じて、組成物91D’中に、前述したようなフィラーを混合する。
【0069】
次に、図6(c)に示すように、凹部91dに、組成物91D’をディスペンサー等により供給し、充填する。このとき、基部91Aの軸を中心に回転させつつ供給することにより、組成物91D’を均一に供給することができる。
続いて、この組成物91D’を加熱することにより仮硬化させる。これにより、仮硬化物91D”を得る。
【0070】
以上のような方法で組成物91D’を供給することにより、弾性層の端面を覆うようにカバー層を容易に形成することができる。また、カバー層と離型層91Cとの確実な接触を確保することもできるため、最終的に得られる定着ローラ91は、気密性に優れたものとなる。
この場合、加熱の方法としては、例えば、前記工程[3]の方法等が挙げられるが、特に、フラッシュランプによる加熱方法を用いるのが好ましい。かかる方法によれば、短時間で十分な熱量を組成物91D’に付与することができ、仮硬化を効率よく行うことができる。
【0071】
加熱温度は、組成物91D’が流動しない程度に硬化するような条件であればよく、具体的には、150〜250℃程度であるのが好ましく、180〜230℃であるのがより好ましい。
また、加熱時間は、加熱温度に応じて若干異なるが、3〜30秒程度であるのが好ましく、5〜20秒程度であるのがより好ましい。
【0072】
[5]次に、製造途中の定着ローラの上下を反転する。そして、底板97を取り除く。これにより、弾性層の仮硬化物91B”の上側に、凹部91dが形成される。
[6]以下、前記工程[4]と同様にして、図6(d)に示すようにカバー層の仮硬化物91D”を形成する。
【0073】
[7]次に、弾性層の仮硬化物91B”とカバー層の仮硬化物91D”とを備える基部91Aおよび離型層91Cに対して加熱することにより、これらの仮硬化物91B”、91D”を本硬化させる。これにより、弾性層91Bおよびカバー層91Dを得る。
また、このように弾性層の仮硬化物91B”とカバー層の仮硬化物91D”の双方を同一工程で本硬化させることにより、個別に(異なる工程において)本硬化を行う場合に比べて、硬化にかかる時間を短縮することができる。その結果、定着ローラ19の製造工程を短縮することができる。
【0074】
加熱の方法としては、前記工程[3]、[4]と同様の方法を用いることができる。
また、加熱温度は、弾性層91Bの構成材料(本実施形態では液状型シリコーンゴム)の硬化温度以上、分解温度未満であればよく、具体的には、150〜250℃程度であるのが好ましく、170〜230℃程度であるのがより好ましい。
また、加熱時間は、加熱温度に応じて若干異なるが、1〜10時間程度であるのが好ましく、3〜5時間程度であるのがより好ましい。
【0075】
以上のようにして、図7(e)に示すような定着ローラ91が得られる。
なお、本実施形態では、弾性層がシリコーンゴムで構成されている場合を代表に説明したが、弾性層が他の材料で構成されている場合についても同様である。
また、本実施形態では、弾性層とカバー層の双方に対して、同一工程で本硬化を行う場合について説明したが、個別に行うようにしてもよい。
【0076】
以上、本発明について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、本発明の定着用ローラ、定着装置および画像形成装置を構成する各部は、同様の機能を発揮する任意のものと置換、または、その他の構成を追加することもできる。
また、本発明の定着用ローラを定着装置に設ける場合、前述した実施形態では互いに圧接回転する定着ローラ(第1のローラ)および加圧ローラ(第2のローラ)のうち、定着ローラに本発明を適用したものについて説明したが、加圧ローラに適用してもよい。
さらに、定着ローラおよび加圧ローラの双方に適用してもよい。これにより、本発明の効果をより顕著に発揮することができる。
【実施例】
【0077】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.定着用ローラおよび画像形成装置の製造
(実施例1)
<1>長さ300mmのステンレス鋼チューブ(基部)と、平均厚さ35μmのPFAチューブ(離型層)と、底板とを用意した。次いで、PFAチューブの内側にステンレス鋼チューブを挿通し、PFAチューブの一端を底板で封止した。
<2>封止した側を下にしてステンレス鋼チューブおよびPFAチューブを支持し、これらの間隙に、液状型シリコーンゴムの未硬化物と硬化剤の混合物を供給し、充填した。このとき、混合物の上面がPFAチューブの上端面より500μm下に位置するよう充填した。
【0078】
<3>次に、シリコーンゴムを170℃×10分で加熱して仮硬化させた。
<4>次に、前記工程<3>で得られた仮硬化物上に、フッ素化ポリエーテル化合物およびシリコン系化合物を含む液状組成物(信越化学工業(株)製、「SIFEL」)を供給し、PFAチューブの上端面と同じ高さになるまで充填した。
<5>次に、充填した液状組成物をフラッシュランプにより180℃×10秒で加熱して仮硬化させた。
【0079】
<6>次に、仮硬化させた液状組成物を含むステンレス鋼チューブの上下を反転させ、前記工程<4>、<5>と同様にしてフッ素化ポリエーテル系高分子の仮硬化物を形成した。
<7>次に、これらを200℃×4時間で加熱することにより、定着ローラを得た。
<8>次に、前記工程<1>〜<7>と同様にして、加圧ローラを製造した。
<9>次に、得られた定着ローラと加圧ローラとを用いて図2に示すような定着装置を製造し、さらにこの定着装置を用いて図1に示すような画像形成装置を製造した。
【0080】
(実施例2)
加圧ローラにおいて、カバー層の形成を省略した以外は、前記実施例1と同様にして画像形成装置を製造した。
(比較例)
定着ローラおよび加圧ローラの双方において、カバー層の形成を省略した以外は、前記実施例1と同様にして画像形成装置を製造した。
【0081】
2.評価
各実施例および比較例で製造した画像形成装置から排出される排気を採取し、ガスクロマトグラフ質量分析計により、低分子量シロキサンの濃度を比較した。
なお、この比較においては、比較例の場合の濃度を基準としたときの、各実施例における濃度の相対値を比較することとした。
その結果、各実施例で製造した画像形成装置では、いずれも、低分子量シロキサンの濃度が比較例から8割以上減少していることが認められた。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明にかかる画像形成装置の一実施形態を示す全体構成の模式的断面図である。
【図2】図1に示す画像形成装置に備えられた定着装置の好適な実施形態を示す模式的断面図である。
【図3】図2におけるA−A線断面図である。
【図4】図3に示す定着装置に備えられた定着ローラおよび加圧ローラの端部の構成を説明するための部分拡大図である。
【図5】図4に示す定着ローラの製造方法を説明するための図である。
【図6】図4に示す定着ローラの製造方法を説明するための図である。
【図7】図4に示す定着ローラの製造方法を説明するための図である。
【符号の説明】
【0083】
10‥‥‥画像形成装置 20‥‥‥感光体 30‥‥‥帯電ユニット 40‥‥‥露光ユニット 50‥‥‥現像ユニット 50a‥‥‥軸 51‥‥‥ブラック現像装置 52‥‥‥マゼンタ現像装置 53‥‥‥シアン現像装置 54‥‥‥イエロー現像装置 55‥‥‥保持体 55a〜55d‥‥‥保持部 60‥‥‥一次転写ローラ 61‥‥‥中間転写体 70‥‥‥中間転写ベルト 71‥‥‥駆動ローラ 72‥‥‥従動ローラ 73‥‥‥基体 75‥‥‥クリーニングユニット 76‥‥‥クリーニングブレード 80‥‥‥二次転写ローラ 82‥‥‥給紙トレイ 84‥‥‥給紙ローラ 86‥‥‥レジローラ 87‥‥‥排紙ローラ対 88‥‥‥搬送部 88A、88B‥‥‥搬送ローラ対 88C‥‥‥搬送路 90‥‥‥定着装置 91‥‥‥定着ローラ 92‥‥‥加圧ローラ 91A‥‥‥基部 91b‥‥‥空間 91B‥‥‥弾性層 91B’‥‥‥未硬化物 91B”‥‥‥仮硬化物 91C‥‥‥離型層 91d‥‥‥凹部 91D‥‥‥カバー層 91D’‥‥‥組成物 91D”‥‥‥仮硬化物 93‥‥‥ヒータ 94‥‥‥温度検知体 95‥‥‥分離部材 96‥‥‥カバー 97‥‥‥底板 N‥‥‥ニップ部 P‥‥‥記録媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体に担持された未定着像を該記録媒体に定着させる定着処理に用いる定着用ローラであって、
円筒状または円柱状をなす基部と、
前記基部の外周面側に設けられ、弾性材料で構成された弾性層と、
該弾性層の外周面側に設けられ、前記弾性材料から発生するガスを実質的に遮断するガスバリア性を有する表層と、
前記弾性層の両端面を覆うように設けられ、前記弾性材料から発生するガスを実質的に遮断するガスバリア性を有する封止部とを備え、
該封止部が、フッ素化ポリエーテル系高分子を含む材料で構成されていることを特徴とする定着用ローラ。
【請求項2】
前記封止部中における前記フッ素化ポリエーテル系高分子の含有量は、60wt%以上である請求項1に記載の定着用ローラ。
【請求項3】
前記フッ素化ポリエーテル系高分子は、フッ素化アルキルエーテル構造と複数のアルケニル基とを有するフッ素化ポリエーテル化合物と、複数のSiH結合を有するシリコン系化合物とを反応させて得られたものである請求項1または2に記載の定着用ローラ。
【請求項4】
前記フッ素化ポリエーテル化合物において、前記フッ素化アルキルエーテル構造の総酸素原子数は、1〜450である請求項3に記載の定着用ローラ。
【請求項5】
前記フッ素化ポリエーテル化合物において、前記フッ素化アルキルエーテル構造は、分枝状をなしている請求項3または4に記載の定着用ローラ。
【請求項6】
前記フッ素化ポリエーテル化合物において、前記アルケニル基は、ビニル基またはアリル基である請求項3ないし5のいずれかに記載の定着用ローラ。
【請求項7】
前記シリコン系化合物は、少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換された炭化水素構造を有する請求項3ないし6のいずれかに記載の定着用ローラ。
【請求項8】
前記シリコン系化合物は、少なくとも1つのエーテル結合を有する請求項7に記載の定着用ローラ。
【請求項9】
前記シリコン系化合物の総炭素原子数は、1〜300である請求項7または8に記載の定着用ローラ。
【請求項10】
前記封止部は、膜状をなし、その平均厚さが1〜1000μmである請求項1ないし9のいずれかに記載の定着用ローラ。
【請求項11】
前記表層は、前記記録媒体の密着を防止する離型層である請求項1ないし10のいずれかに記載の定着用ローラ。
【請求項12】
前記離型層は、フッ素系樹脂を主材料として構成されている請求項11に記載の定着用ローラ。
【請求項13】
互いに圧接回転する第1のローラおよび第2のローラと、前記第1のローラを加熱するヒータとを有し、未定着像を担持する記録媒体を前記第1のローラと第2のローラとの間に通過させながら加圧・加熱することにより、前記未定着像を前記記録媒体に定着させる定着装置であって、
前記第1のローラおよび前記第2のローラのうちの少なくとも一方を、請求項1ないし12のいずれかに記載の定着用ローラで構成したことを特徴とする定着装置。
【請求項14】
請求項13に記載の定着装置を備えることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−178955(P2007−178955A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−380426(P2005−380426)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】