説明

定着用ローラ及びそれを有する定着装置

【課題】 定着装置構成を複雑にすることなくトナーのオフセット及び飛び散り現象を防止する。
【解決手段】 弾性層12及び導電性表層13を有する加圧ローラ1の総抵抗値を106〜1010Ωとする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の実施の形態】本発明はプリンター、複写機等の画像形成装置に用いられ、未定着画像を加圧定着する定着用ローラ及びそれを用いた定着装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】図2に従来の定着装置の概略図を示す。定着ローラ2は、芯金21上にPFA等のフッ素樹脂からなる離型層22を設けたもので、矢印方向に回転する。加圧ローラ1は芯金11上にシリコンゴム等の弾性層12及びPFA等のフッ素樹脂になどより成る離型層13を設けたもので、定着ローラに従動して矢印方向に回転する。定着ローラの芯金内にはヒータ3が設けられ内部より定着ローラを加熱する。定着ローラの表面温度は温度センサー4により測定され、不図示の温度制御回路に入力される。ヒータは温度制御回路により通電をオン・オフされて定着ローラの表面温度をほぼ一定に保っている。加圧ローラは不図示の加圧手段により定着ローラにある圧をもって加圧され、定着ニップNを形成している。記録材5上には周知の電子写真プロセスにより形成された未定着トナー6によって画像が形成されている。記録材は不図示の定着入り口ガイドにより定着ニップ部へ導かれ、未定着トナーは加熱・加圧されて記録材上に永久画像として定着される。芯金にはバイアス電源7が繋がれており、トナーの固有電荷と同極性の定着バイアスが印加され、トナーを定着ローラの表面から静電的に反発するよう電界を作り、定着ローラの表面にトナーが転移して後続の画像を乱すオフセット現象を防いだり、定着ニップ近傍での電界により未定着トナーが乱される飛び散り現象を防いでいる。各ローラの離型層は絶縁性として定着バイアスのリークを防いでいる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記従来例では定着ニップから記録材が排出され、記録材が定着ローラから離れる時に、記録材と離型層の間で剥離帯電を生じて、定着ローラ表面の電位が部分的に低下することが分かっている。その結果、オフセット現象を押さえる目的で定着バイアスを印加しているにも拘わらず、オフセット現象が発生してしまう。この現象は、剥離帯電によって引き起こされるオフセットであるので、剥離オフセットと呼ぶことにする。図3に先行する記録材Fの後端部で生じた剥離帯電により((図3−a)参照)、後続の記録材B上の画像を剥ぎ取り、定着ローラ1周後に剥離オフセットとして画像に残される。具体的には、定着ローラの円周をL、記録材と記録材の間隔をMとすると、先行の記録材の後端で生じた剥離帯電は後続の記録材の先端から(L−M)の位置の画像を剥ぎ取り、(2L−M)の位置に剥離オフセットとして現れる((図3−b)参照)。
【0004】又、定着ローラは常に記録材、若しくは加圧ローラと接触しているために、摩擦による帯電によって定着ローラの表面が帯電してしまい、この帯電電位が定着バイアスと相殺することでオフセット現象を抑える効果が無くなってしまい((図4−a)参照)、記録材上の未定着トナーが定着ローラ表面に静電的に転移し((図4−b)参照)、後続の画像を乱すオフセット現象が発生してしまう((図4−c)参照)。この現象は、静電的に引き起こされるオフセットであるので静電オフセットと呼ぶことにする。図4に静電オフセットの発生する様子を簡単に示した。
【0005】加えて、定着ローラが記録材、若しくは加圧ローラとの摩擦による帯電で定着ローラ表面が帯電し、この帯電電位が定着バイアスと相殺することで定着バイアスの効果が無くなり、定着ニップ近傍の電界が弱まり、画像上の未定着トナーが後方に飛び散る現象が発生する。
【0006】本発明は上記従来技術の問題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、複雑な構成を要することなく、従来の定着装置に用いられている加圧ローラの組成のみの変更で、定着バイアスを効率よく働かせることができ定着ローラ表面の電位を常に一定に保つことが可能となり、上記問題点の解決を図れる加圧ローラ及び定着装置を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記問題を解決する本発明は、芯金上に弾性層を設け、更に導電性表層が設けられた定着用ローラ及びそれを有する定着装置において、定着用ローラの総抵抗値が106〜1010Ω・cmとなるように、弾性層及び導電性表層を設けたことを特徴とする。
【0008】
【発明の実施の形態】
(第1の実施の形態)図1は、本発明の実施の形態であるの定着装置の概略図である。
【0009】尚、図2で示した定着装置と同部材には同一番号を付け、説明は省略する。
【0010】定着用ローラである加圧ローラ1は芯金11上に、絶縁性のシリコンゴムに導電性を持たせる目的で、カーボン・酸化スズ・酸化チタン等の導電性付与粒子を分散させ、これを発泡させることでスポンジとし、弾性層12を形成する。このようにして形成する弾性層は、抵抗値で104〜105Ω(DC300v印加)となるように導電性付与粒子の割合を調整する。
【0011】これに、PFAにカーボン・酸化亜鉛・酸化スズ等の導電性付与粒子を分散して、体積抵抗値を106〜108Ω・cm(DC300v印加)に調整したPFAチューブを被せることで導電性表層13を持った加圧ローラを得る。尚、弾性層とPFAチューブは接着剤をもって接合されている。
【0012】このようにして形成された加圧ローラは、総抵抗値が106〜108Ω(DC300v印加)となり、本発明の目的にあった加圧ローラとなる。
【0013】次に具体的な実験例を示す。
【0014】定着ローラ2として外径40.0mm、長さ350mm、肉厚1mmのアルミニウム芯金21上に、厚さ50μmのPFAチューブ(体積抵抗値1011〜1013Ω・cm(DC300v印加))22を接着剤を用いて被覆したものを用いて、周速107mm/secで回転駆動し、表面温度が190度となるように温調制御した。
【0015】加圧ローラ1は、直径14mmの鉄芯金11上に厚さ8mmの弾性層として発泡シリコンゴム(抵抗値104〜105Ω(DC300v印加))に、導電性表層としてPFAチューブ(PFAにカーボンを分散してチューブとしたもので、体積抵抗値106〜108Ω・cm(DC300v印加)で、厚さ約50μm)を接着剤を用いて被覆したものである。加圧ローラとしては外径30mm、長さ315mm、硬度51度(500g荷重でアスカーcにて測定)としたものを、総圧21.5N(ニュートン)で定着ローラに押し当て、約5mmの定着ニップNを得た。
【0016】定着ローラの芯金には定着バイアスとして高圧電源より−650vを印加し、加圧ローラの芯金にはダイオード8を接続した。
【0017】以上の構成の定着装置を用いて、記録材5として65g/m2の薄紙、130g/m2の厚紙、OHP(オーバーヘッドプロジェクター)用のOHT(トランスペアレンシイ)を用いて耐久試験を行い、初期、20万枚、35万枚通紙時点の、オフセット現象・飛び散り現象の発生をもって効果を確認した結果を以下に示す。
【0018】尚、比較例として、弾性層の抵抗値を104〜105Ω(DC300v印加)とし、表層の体積抵抗値を1010〜1012Ω・cm(DC300v印加)と高抵抗にしたもの、及び104〜106Ω・cm(DC300v印加)と低抵抗にしたものの結果を加える。
【0019】
【表1】


【0020】表1のように本実施例は、耐久試験の初期から35万枚通紙時に至るまで、オフセット・飛び散り現象の発生もなく良好な画像を得ることが出来た。
【0021】対して、比較例1では初期は良好な画像を得ることが出来たが、耐久が進むに従ってオフセット・飛び散り現象の発生が著しくなってきてしまった。これは、耐久が進むに従って定着ローラ表面が荒れてきて、定着バイアスによる表面電位を均一に保持出来なることに起因すると推察される。
【0022】又、比較例2では本実施例と同様に初期から20万枚通紙時に至るまでは、オフセット・飛び散り現象の発生はなく良好であったが、耐久が進むにつれて定着ローラにピンホールや微少な傷が発生してくると、そのピンホールや傷から定着バイアスが加圧ローラにリークし、加えて弾性層及び表層が低抵抗なため加圧ローラとしても低抵抗であり、定着ローラからのリーク電流が流れ込み、ピンホールや傷に相当する加圧ローラ部が焦げてしまい、画像を乱し始めた。又、加圧ローラが焦げるのは発火の危険性があるため耐久試験を中止した。
【0023】上述したように、弾性層の抵抗値を104〜105Ω(DC300v印加)、導電性表層の体積抵抗値を106〜108Ω・cm(DC300v印加)とし、加圧ローラとしての総抵抗値を106〜108Ω・cm(DC300v印加)とすることで、大きな装置構成変更をすることもなくオフセット・飛び散り現象を防止することが可能となり、又、弊害も認められなかった。
【0024】(第2の実施の形態)本発明の別の実施の形態及び実験例を示す。
【0025】尚、定着装置に関しては第1の実施の形態と同様であるので、説明は省略する。
【0026】本実施の形態では弾性層の抵抗値を106〜108Ω(DC300v印加)となるように導電性付与粒子の割合を調整し、体積抵抗値を104〜106Ω・cm(DC300v印加)に調整したPFAチューブを被せることで導電性表層を持った加圧ローラを形成する。尚、弾性層とPFAチューブは接着剤をもって接合されている。
【0027】このようにして形成された加圧ローラは、総抵抗値が106〜108Ω(DC300v印加)となり、本発明の目的にあった加圧ローラとなる。
【0028】次に具体的な実験例を示す。
【0029】実験は実施例1と同様に記録材として65g/m2の薄紙、130g/m2の厚紙、OHP用のOHTを用いて耐久試験を行い、初期、20万枚、35万枚通紙時点の、オフセット現象・飛び散り現象の発生をもって効果を確認した。
【0030】尚、比較例として、表層の体積抵抗値を104〜106Ω・cm(DC300v印加)とし、弾性層の抵抗値を104〜106Ω(DC300v印加)と低抵抗にしたもの、及び1012〜1014Ω(DC300v印加)と高抵抗にしたものの結果を加える。
【0031】
【表2】


【0032】表2のように本実施例は、耐久試験の初期から35万枚通紙時に至るまで、オフセット・飛び散り現象の発生もなく良好な画像を得ることが出来、その他の弊害も認められなかった。
【0033】対して、比較例2は初期から65g/m2、130g/m2紙において、剥離オフセットが発生してしまった。これは加圧ローラの総抵抗値が1012Ω以上と高いため、紙後端が定着ローラ表面から分離する瞬間の剥離帯電によって定着ローラ表面に局所的な電位分布が出来てしまい、その電荷が加圧ローラを通じて逃げられないために後続の記録材の画像を剥ぎ取ることで発生している。加えて、耐久が進むにつれて静電オフセットも発生し、又、飛び散り現象も発生してしまった。
【0034】又、比較例1では本実施例と同様に初期から20万枚通紙時に至るまでは、オフセット・飛び散り現象の発生はなく良好であったが、耐久が進むにつれて定着ローラにピンホールや微少な傷が発生してくると、そのピンホールや傷から定着バイアスが加圧ローラにリークし、加えて弾性層及び表層が低抵抗なため加圧ローラとしても低抵抗であり、定着ローラからのリーク電流が流れ込み、ピンホールや傷に相当する加圧ローラ部が焦げてしまい、画像を乱し始めた。又、加圧ローラが焦げるのは発火の危険性があるため耐久試験を中止した。
【0035】上述したように、弾性層の抵抗値を106〜108Ω(DC300v印加)、導電性表層の体積抵抗値を104〜106Ω・cm(DC300v印加)とし、加圧ローラとしての総抵抗値を106〜108Ω(DC300v印加)とすることで、大きな装置構成変更をすることもなくオフセット・飛び散り現象を防止することが可能となり、又、弊害も認められなかった。
【0036】(第3の実施の形態)本発明の別の実施の形態の定着装置の概略図を図5に示す。
【0037】本実施の形態の特徴は未定着トナー6に接触する回転体が薄肉のフィルム2である点で、熱容量の小さな板状の発熱体3を温度センサー4の出力に基づきオン・オフすることで瞬時に定着可能な温度までフィルムを加熱出来る省ネネルギータイプの定着装置に応用した点である。定着フィルムは厚さ50μmのポリイミド等の樹脂から成る基層フィルム21の面にプライマー層でもある導電層22を介して、厚さ40μmのPTFE、PFA等のフッ素樹脂からなる絶縁性の離型層22を有しており、回転ローラ9、9’により回転駆動される。導電層はダイオード8を介して接地されており、加圧ローラ1の芯金11に接続されたダイオード8’と共に、定着ニップN内に定着フィルムから加圧ローラへ向かう電界を自己形成することで、オフセット現象を防止している。
【0038】加圧ローラ1は、弾性層の抵抗値を105〜106Ω(DC300v印加)となるように導電性付与粒子の割合を調整し、体積抵抗値を105〜107Ω・cm(DC300v印加)に調整したPFAチューブを被せることで導電性表層を持った加圧ローラを形成する。尚、弾性層とPFAチューブは接着剤をもって接合されている。
【0039】このようにして形成された加圧ローラは、総抵抗値が106〜107Ω(DC300v印加)となり、本発明の目的にあった加圧ローラとなる。尚、本実施例で用いた加圧ローラの硬度は35度(500g荷重でアスカーcにて測定)とし、定着フィルムに総圧10N(ニュートン)で押し当てた。
【0040】このように省エネルギー・クイックスタートを目的とした定着装置においても本実施例は、初期から耐久後に至るまで、オフセット・飛び散り現象の発生が無く良好な画像を得ることが出来た。
【0041】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、定着装置に用いる定着用ローラの総抵抗値を106〜1010Ωとすることで、定着装置構成を複雑にすることなく、オフセット・飛び散り現象を抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の加圧ローラを備えた定着装置の概略図。
【図2】従来の定着装置の概略図。
【図3】剥離オフセットを説明する図。
【図4】静電オフセットを説明する図。
【図5】第3の実施の形態の概略図。
【符号の説明】
1 加圧ローラ
2 定着ローラ
3 ヒータ
4 温度センサー
5 記録材
6 トナー
7 電源
8 ダイオード
11、21 芯金
12 弾性層
13 導電性表層

【特許請求の範囲】
【請求項1】 芯金に弾性層を設け、更に導電性表層をもつ加圧ローラにおいて、定着用ローラの総抵抗値が106〜1010Ωとなるように弾性層及び導電性表層を設けたことを特徴とする定着用ローラ。
【請求項2】 前記総抵抗値はDC300V印加時であることを特徴とする請求項1に記載の定着用ローラ。
【請求項3】 弾性層の抵抗値を104〜105Ωとし、導電性表層の体積抵抗値を106〜108Ω・cmとした請求項1に記載の定着用ローラ。
【請求項4】 弾性層の抵抗値を106〜108Ωとし、導電性表層の体積抵抗値を104〜106Ω・cmとした請求項1に記載の定着用ローラ。
【請求項5】 弾性層の抵抗値を105〜106Ωとし、導電性表層の体積抵抗値を105〜107Ω・cmとした請求項1に記載の定着用ローラ。
【請求項6】 芯金に弾性層を設け、更に導電性表層をもつ定着用ローラを有する定着装置において、定着用ローラの総抵抗値が106〜1010Ωとなるように弾性層及び導電性表層を設けたことを特徴とする定着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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