説明

定着装置および画像形成装置

【課題】薄肉化した定着ローラの加工工程における変形や精度の低下、並びに回転駆動力伝達時における定着ローラの強度の低下や変形および破損の防止を可能とする。
【解決手段】定着ローラ211と回転伝達部材260と係合部材270とを備えた定着装置において、定着ローラ211は少なくとも一方の端部にその端面から離れて開口部218が形成され、前記回転伝達部材260は当該部材の厚さより浅い切り欠き部263を有し、前記係合部材270は前記開口部218と係合する開口係合部271と前記切り欠き部263と係合する切り欠き係合部272とを有しており、前記開口係合部271の幅より前記切り欠き係合部272の幅が広く形成された構成を採る。これにより定着ローラの強度低下、変形、破損および精度低下の防止が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式又は静電記録方式の複写機、ファクシミリ、プリンタなどの画像形成装置に用いられる定着装置、特に、トナーで形成されている未定着の画像を電磁誘導加熱方式によって紙その他の記録材に加熱定着する定着装置、及びこの定着装置を用いた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複写機、ファクシミリ、プリンタなどに用いられる定着装置の、省エネルギーに関する取り組みが盛んに検討されている。そして、その有力な構成として、電磁誘導加熱方式を採用することが盛んに検討されている。また、加熱方式にかかわらず、省エネルギー化のためには、定着装置の熱容量を低減することが必須であり、定着ローラを薄肉化した構成が種々提案されている。そして、定着ローラを薄肉化した場合に幅の狭い記録紙を印字すると定着ローラの用紙幅以外の温度が過昇温する課題についてもそれを解決する構成が種々提案されている。さらに定着ローラの薄肉化に伴っての、定着ローラに回転力を伝達する構成に関する提案や定着ローラの変形防止等についての提案も行われている。
【0003】
図29は、従来の定着ローラについての斜視図であり、定着ローラに係合溝と弾性凸部とを設けたことを示している。このような定着ローラによって、定着ギヤに設けた凸部をこの定着ローラの係合溝に嵌合させて駆動力を伝達し、この定着ローラに設けた弾性凸部で定着ギヤのスラスト方向への移動を規制する(例えば特許文献1)。
【0004】
図30は、従来の定着器のヒートローラ端面部を示す拡大図であり、薄肉円筒状のヒートローラの一端に切欠溝が形成されていることを示している。このようなヒートローラによって、ギヤのキーと係合して駆動力を伝達し、切欠溝の端部の角部を円弧状にして軸受や接地用板金の削れ抑制やヒートローラのガタツキ、異音を防止する(例えば特許文献2)。
【0005】
図31は、従来の定着装置の伝達部材本体と定着ローラとの取付状況を示す分解斜視図であり、周面部に孔を形成させた円筒状の定着ローラに、伝達部材本体と凸部とからなる駆動力伝達部材を、その凸部を定着ローラの孔に貫通させるとともに、その伝達部材本体を定着ローラに内嵌させていることを示している。このような伝達部材本体と定着ローラとによって、伝達部材本体内周面に形成された雌ねじに、リング状縮径防止手段の雄ねじを螺合させて、過度な応力が作用しても内周側へのたわみ、シワを防止し、正常な回転を維持する(例えば特許文献3)。
【特許文献1】特開2000−81807号公報
【特許文献2】特開2006−133466号公報
【特許文献3】特開2007−79463号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の、定着ローラに係合溝と弾性凸部とを設け、定着ギヤに設けた凸部を定着ローラの係合溝に嵌合させて駆動力を伝達し、定着ローラに設けた弾性凸部で定着ギヤのスラスト方向への移動を規制する構成では、駆動力の伝達は定着ギヤ凸部から定着ローラの係合溝に作用するが、定着ローラの端面は係合溝により連続していないので、定着ローラは、断面欠損を生じ、係合溝周縁部の強度がその分低下し、ローラの変形や破損を生ずるといった課題がある。また、定着ローラに弾性凸部を設けていることにより一層の強度低下を生じ、定着ローラの加工が複雑でコストアップする課題もある。
【0007】
また、従来の、薄肉円筒状のヒートローラの一端に切欠溝が形成され、ギヤのキーと係合して駆動伝達し、切欠溝の端部の角部を円弧状にして軸受や接地用板金の削れ抑制やヒートローラのガタツキ、異音を防止する構成も、同様に強度の低下による変形や破損が課題となる。
【0008】
また、従来の、周面部に孔を形成させた円筒状の定着ローラに、伝達部材本体と凸部とからなる駆動力伝達部材を、その凸部を定着ローラの孔に貫通させるとともに、その伝達部材本体を定着ローラに内嵌させ、伝達部材本体内周面に形成された雌ねじに、リング状縮径防止手段の雄ねじを螺合させた構成では、強度の低下は防止可能であるが、構造が複雑で、分解組立が簡易でなく、コストアップする課題がある。さらに、伝達部材本体内周面に形成された雌ねじに、リング状縮径防止手段の雄ねじを螺合させてあるので、駆動力の伝達方向はねじが緩まない方向に限定されるといった課題がある。
【0009】
本発明は、これらのような従来の課題を解決するものであり、薄肉化した定着ローラの強度低下や変形、破損を生ずることなく、簡易に組み立て可能で、円滑な駆動力の伝達が可能な定着装置およびこれを用いた画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するために、定着装置において、互いが平行に配設されてその間に記録材を挟んで加圧しつつそれぞれ回転する定着ローラ及び加圧ローラと、前記記録材を、前記定着ローラを介して加熱する加熱手段と、前記定着ローラの端部に当接嵌合してその定着ローラの回転を駆動する回転伝達部材と、前記定着ローラと前記回転伝達部材とを係合する係合部材とを備え、前記定着ローラは薄肉円筒状で、少なくとも一方の端部にその端面から離れて開口部が形成され、前記回転伝達部材は当該回転伝達部材の厚さより浅い切り欠き部を有し、前記係合部材は前記開口部と係合する開口係合部と前記切り欠き部と係合する切り欠き係合部とを有しており、前記開口係合部の幅より前記切り欠き係合部の幅が広く形成された構成を採る。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、これらの構成により、定着ローラを、低熱容量化するために薄肉化しても、強度低下や変形、破損することなく円滑な回転駆動力の伝達が可能なものにできる。また簡易な組み立てで確実な回転駆動力の伝達が可能なものにできる。さらに、電磁誘導加熱を利用した構成、特に常温では磁性を有するも所定の温度以上になると磁性が無くなる整磁材料からなる定着ローラを採用した場合、ローラ形成過程の各工程における変形や精度低下を防止することが可能となり、定着ローラの歩留まりを向上させ、コストの低減に貢献する。
【0012】
このように、本発明によれば、薄肉化した定着ローラの強度低下や変形および精度低下を防止して歩留まりを向上させ、回転力伝達における定着ローラの変形や破損がなく、定着ローラへの円滑な回転力伝達が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施の第1の形態は、記録材を加熱加圧してその面上の色材を定着させる定着装置である。この定着装置は、互いが平行に配設されてその間に記録材を挟んで加圧しつつそれぞれ回転する定着ローラ及び加圧ローラと、前記記録材を、前記定着ローラを介して加熱する加熱手段と、前記定着ローラの端部に当接嵌合してその定着ローラの回転を駆動する回転伝達部材と、前記定着ローラと前記回転伝達部材とを係合する係合部材とを備える。そして、前記定着ローラは薄肉円筒状で、少なくとも一方の端部にその端面から離れて開口部が形成され、前記回転伝達部材は当該回転伝達部材の厚さより浅い切り欠き部を有し、前記係合部材は前記開口部と係合する開口係合部と前記切り欠き部と係合する切り欠き係合部とを有しており、前記開口係合部の幅より前記切り欠き係合部の幅が広いことを特徴としたものである。
【0014】
このような構成により、定着ローラを、低熱容量化するために薄肉化しても、強度低下や変形、破損および精度が低下することなく円滑な回転駆動力の伝達が可能なものにできる。また簡易な組み立てで確実な回転駆動力の伝達が可能なものにできる。さらに、加熱手段として電磁誘導加熱を利用した構成、特に常温では磁性を有するも所定の温度以上になると磁性が無くなる整磁材料からなる定着ローラを採用した場合、ローラ形成過程の各工程における変形や精度低下を防止することが可能となり、定着ローラの歩留まり向上によるコストの低減と、円滑な回転力伝達および消費電力の低減とが可能となる。
【0015】
本発明の実施の第2の形態は、上記第1の形態において、回転伝達部材の切り欠き部が、少なくとも2種類以上の異なった幅を有した形状であることを特徴としたものである。
【0016】
このような構成により、回転伝達部材の定着ローラ軸方向の移動規制が特別な部材を用いることなく可能となる。
【0017】
本発明の実施の第3の形態は、上記第1の形態において、前記係合部材の切り欠き係合部は、前記定着ローラの内径又は外径の何れかと同じ円弧を成した面である円弧部を有することを特徴としたものである。
【0018】
このような構成により、係合部材の定着ローラに対するガタツキがなく円滑な駆動力伝達が可能となる。
【0019】
本発明の実施の第4の形態は、上記第1の形態において、前記回転伝達部材と前記係合部材とが当接する部分において、それら部材の少なくとも1つには定着ローラの外径における接線方向から僅かに軸側へ向いた方向に垂直な面である傾斜部が形成されていることを特徴としたものである。
【0020】
このような構成により、係合部材は常に定着ローラに密着して定着ローラに対する回転伝達部材からの円滑な駆動力伝達が可能となる。
【0021】
本発明の実施の第5の形態は、上記第1の形態において、前記回転伝達部材と前記係合部材とが当接する部分において、それら部材の少なくとも1つには前記係合部材を前記定着ローラに密着させる方向の分力が発生する面である傾斜部が形成されていることを特徴としたものである。
【0022】
このような構成により、係合部材は常に定着ローラに密着して定着ローラに対する回転伝達部材からの円滑な駆動力伝達が可能となる。
【0023】
本発明の実施の第6の形態は、上記第1の形態において、前記加熱手段は励磁コイルユニットと電源とを含み、定着ローラは、常温では磁性を有するも所定温度以上では磁性が無くなる整磁材料からなり、塑性加工後にアニール処理が行われたことを特徴としたものである。
【0024】
このような構成により、定着ローラのアニール時の軟化や応力緩和による変形や精度低下の防止が可能となる。
【0025】
本発明の実施の第7の形態は、上記第1の形態において、前記加熱手段は励磁コイルユニットと電源とを含み、前記定着ローラは、常温では磁性を有するも所定温度以上では磁性が無くなる整磁材料からなり、スピニング加工後にアニール処理が行われたことを特徴としたものである。
【0026】
このような構成により、安価な加工法で定着ローラの加工が可能となり、定着ローラのアニール時の軟化や応力緩和による変形や精度低下の防止が可能となる。
【0027】
本発明の実施の第8の形態は、上記第1の形態において、前記加熱手段は励磁コイルユニットと電源とを含み、前記定着ローラは、常温では磁性を有するも所定温度以上では磁性が無くなる整磁材料からなり、前記整磁材料をロール成型後溶接し、少なくとも一方の端部を小径化加工後スピニング加工にて成型し、アニール処理を行ったものであることを特徴としたものである。
【0028】
このような構成により、素材のロスが少なく、安価な加工法で定着ローラの加工が可能となり、定着ローラのアニール時の軟化や応力緩和による変形や精度低下の防止が可能となる。
【0029】
本発明の実施の第9の形態は、上記第1の形態において、前記加熱手段は励磁コイルユニットと電源とを含み、前記定着ローラは、常温では磁性を有するも所定温度以上では磁性が無くなる整磁材料からなり、前記整磁材料をロール成型後溶接し、少なくとも一方の端部を、小径化加工後スピニング加工にて直径を変化させたクラウン形状に成型し、アニール処理を行ったものであることを特徴としたものである。
【0030】
このような構成により、素材のロスが少なく、安価な加工法でクラウン形状の定着ローラの加工が可能となり、定着ローラのアニール時の軟化や応力緩和による変形や精度低下の防止が可能となる。
【0031】
本発明の実施の第10の形態は、上記第1の形態において、前記加熱手段は励磁コイルユニットと電源とを含み、前記定着ローラは、常温では磁性を有するも所定温度以上では磁性が無くなる整磁材料からなり、塑性加工後にアニール処理が行われ、内外面の少なくとも一方の一部分にめっき処理を行うことを特徴としたものである。
【0032】
このような構成により、幅の狭い記録紙を連続通紙した場合の記録紙幅外の過昇温を確実に防止することが可能で、めっき処理時の変形や精度低下の防止が可能となる。
【0033】
本発明の実施の第11の形態は、上記第1の形態において、前記加熱手段は励磁コイルユニットと電源とを含み、前記定着ローラは、常温では磁性を有するも所定温度以上では磁性が無くなる整磁材料からなり、塑性加工後にアニール処理が行われ、内外面の少なくとも一方の一部分に厚さが15μm以上の非磁性導電層がめっき処理にて形成されたることを特徴としたものである。
【0034】
このような構成により、昇温が早く、記録紙幅外の過昇温を確実に防止し、めっき加工時の変形や精度低下の防止が可能となる。
【0035】
本発明の実施の第12の形態は、上記第1の形態において、前記加熱手段は励磁コイルユニットと電源とを含み、前記定着ローラは、常温では磁性を有するも所定温度以上では磁性が無くなる整磁材料からなり、塑性加工後にアニール処理が行われ、内外面の少なくとも一方の一部分に厚さが15μm以上の銅めっき処理が行われたことを特徴としたものである。
【0036】
このような構成により、昇温が早く、記録紙幅外の過昇温を確実に防止し、めっき加工時の変形や精度低下の防止が可能となる。
【0037】
本発明の実施の第13の形態は、画像信号で示された画像を記録紙上の可視画像として出力する画像形成装置であって、上記の形態の何れか1つに記載の定着装置を備えたものである。
【0038】
このような構成により、定着装置のウォームアップが早く、幅の狭い記録紙を連続通紙させた場合の記録紙幅外の過昇温を防止し、定着ローラ加工時の変形や精度低下の防止が可能であり、強度低下や駆動により変形することなく定着ローラに対する回転伝達部材からの円滑な回転駆動力の伝達が可能となる。また簡易な組み立てで確実なその回転駆動力の伝達が可能となる。
【実施例】
【0039】
以下に、本発明に係る定着装置および、画像形成装置の実施例について図面を用いて詳細に説明する。なお、この実施例に本発明が限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
図1は、本発明の実施例1に係る画像形成装置の概略構成を示す図である。
【0041】
同図に示すように、この画像形成装置の画像形成装置本体100には、電子写真感光体(以下、「感光ドラム」という)101が回転自在に配設されている。
【0042】
図1において、感光ドラム101は、矢印の方向に所定の周速度で回転駆動されながら、その表面が帯電器102によってマイナスの所定の暗電位V0に一様に帯電される。
【0043】
レーザービームスキャナ103は、図示しない画像読取装置やコンピュータ等のホスト装置から入力される画像情報の時系列電気デジタル画素信号に対応して変調されたレーザービーム104を出力する。
【0044】
一様に帯電された感光ドラム101の表面は、レーザービーム104によって走査露光される。これにより、感光ドラム101の露光部分は電位絶対値が低下して明電位VLとなり、感光ドラム101の表面に静電潜像が形成される。この静電潜像は、後述するように、現像器105のマイナスに帯電したトナーによって反転現像され、顕像(トナー像)化される。
【0045】
現像器105は、回転駆動される現像ローラ106を備えている。
【0046】
現像ローラ106は、感光ドラム101と対向して配置されており、その外周面にはトナーの薄層が形成される。すなわち、現像ローラ106には、その絶対値が感光ドラム101の暗電位V0よりも小さく、明電位VLよりも大きい現像バイアス電圧が印加されている。これにより、現像ローラ106上のトナーが、感光ドラム101の明電位VLの部分にのみ転写されて、静電潜像が顕像化され、感光ドラム101上に未定着トナー像(以下、「トナー像」という)111が形成される。
【0047】
一方、給紙部107からは、記録材としての記録紙109が給送ローラ108によって一枚ずつ給送される。給送された記録紙109は、一対のレジストローラ110を経て、感光ドラム101と転写ローラ112とのニップに、感光ドラム101の回転と同期した適切なタイミングで送られる。これにより、感光ドラム101上のトナー像111が、転写バイアスが印加された転写ローラ112により、記録紙109上へ転写される。
【0048】
このようにしてトナー像111を形成され担持した記録紙109は、記録紙ガイド114により案内されて感光ドラム101から分離された後、加熱定着装置(以下、「定着装置」という)200の定着部位へ向けて搬送される。そして、この定着部位に搬送された記録紙109は、定着装置200によってそのトナー像111が加熱定着される。
【0049】
トナー像111が加熱定着された記録紙109は、定着装置200を通過した後、画像形成装置本体100の外部に配設されている排紙トレイ115上に排出される。
【0050】
記録紙109が分離された後の感光ドラム101は、その表面の転写残トナー等の残留物がクリーニング装置113によって除去され、繰り返し次の画像形成に供される。
【0051】
図2および図3は本発明の実施例1に係る定着装置の構成を示す断面模型図である。
【0052】
これらの図で示すように、定着装置200は、加熱手段210、定着ローラ、加圧ローラを有しており、加熱手段により定着ローラを加熱し、定着ローラに圧接される加圧ローラとの間で形成されるニップに記録紙を通過させて熱と圧力でトナー像を記録紙上に定着する。
【0053】
定着ローラ211は、直径が例えば40mmの円筒形状のローラで、断熱ブッシュ212を介して軸受213に支持され、図示しないモータからの回転駆動力を回転伝達部材および係合部材によって伝達され、トナー像を形成され担持した記録紙109を矢印方向へ搬送するように、回転する。
【0054】
ここで、定着ローラ211は、少なくとも透磁性導電層(非磁性導電層との対比において高透磁性導電層とも呼ぶ)214と非磁性(本発明において非磁性とは透磁率が透磁性導電層のそれとは明らかな差をもって低いことをいう)導電層215が積層されて構成されている。より具体的には、図4は発熱ローラの表層部分を拡大した断面模型図であり、その図4に示すように、発熱ローラ211の中心軸に近い方から順に、高透磁性導電層214、非磁性導電層215、保護層216、および離型層217が積層されている。
【0055】
高透磁性導電層214は、キュリー温度が所定の温度となるように設定された、整磁材料からなっており、例えば直径が40mm、肉厚が0.6mm、全長が385mmの中空円筒形状に成形されている。定着ローラ211の熱容量を考慮すると、高透磁性導電層214を薄くして熱容量を小さくし、定着ローラ211の温度を速やかに上昇させるのが望ましい。しかし、キュリー温度以下において、高透磁性導電層214の厚みが表皮深さより薄いと、磁力線(磁束)は高透磁性導電層214を貫通し、非磁性導電層215に浸透し、後述するように発熱量が減少し、昇温速度の低下等を招き、好ましくない。これゆえ、高透磁性導電層214は、この層を形成する整磁材料の表皮深さよりも厚くしておくことが望ましい。具体的には、高透磁性導電層214の肉厚は、0.2mmないし1mmであることが好ましい。
【0056】
高透磁性導電層214を形成する整磁材料としては、例えば鉄とニッケルの合金または鉄とニッケルとクロムの合金などが用いられる。そして、これらの各金属の配合を調整することにより、整磁材料のキュリー温度を所定の温度に設定することができる。本実施例においては、高透磁性導電層214を形成する整磁材料のキュリー温度を、トナーの定着温度に近い210℃に設定してあるものとする。したがって、高透磁性導電層214は、温度が210℃以下では強磁性体としての特性を示すが、温度が210℃を超えると非磁性体としての特性を示す。この場合、整磁材料の固有抵抗は81.5×10-8Ωmであった。なお、キュリー温度は210℃に限らず、他の温度に設定してもよい。
【0057】
非磁性導電層215は、例えば固有抵抗が1.68×10-8Ωmの銅などの非磁性材料からなっており、高透磁性導電層214の外周面にめっき、メタライジング等により、本装置において使用可能な最大サイズの記録材(最大記録材という。本実施例ではA3判紙)の通紙幅(本装置にて通紙されるときに、その走行方向に直交した方向線上の、記録材が通る範囲の長さ[幅]。最大幅とも、単に幅とも呼ぶ。なお、「最大記録材幅」は、最大記録材の通紙幅の意であり、本実施例ではA3判紙の短辺)より少し大きい320mmの範囲に亘って加工が施された、肉厚が例えば0.015mmの層である。
【0058】
なお、非磁性導電層215の材料としては、固有抵抗が7×10-8Ωm以下のものが望ましく、銅の他には固有抵抗が2.7×10-8Ωmのアルミニウム、6.1×10-8Ωmの亜鉛、1.62×10-8Ωmの銀および2.3×10-8Ωm金などでもよい。
【0059】
また、非磁性導電層215の肉厚は0.015mmないし0.06mm程度が望ましい。非磁性導電層215の肉厚については別途詳細に記載する。
【0060】
保護層216は、非磁性導電層215の外周面にメッキ、メタライジング等により非磁性層215と等しい幅で形成された、肉厚が例えば2μmのニッケル層である。保護層216は、非磁性導電層215の表面を覆うことにより、非磁性導電層215の酸化を防止し、耐久性を向上するとともに、離型層217の密着性が向上し剥離を防止する。
【0061】
なお、保護層216としては、ニッケルの代わりに、クロムや亜鉛などを用いた肉厚が3μm程度の薄膜を形成してもよい。保護層216の肉厚が1μm以下となると、酸化防止層としての働きが不十分になる場合がある一方、10μmを超えると、熱容量が大きくなりウォームアップに時間がかかってしまい、また、記録材通過時に定着温度維持するための印加電力が増加し好ましくない。
【0062】
非磁性導電層215及び保護層216は、ともに同一幅で形成されており、それらの形成作業時においては、高透磁性導電層14の両端部には形成されないようにマスキングすることが必要となる。本実施例では、形成幅が同一なのでマスキングは共通で使用することが可能で、作業性が良好となり、安価な加工が可能となっている。
【0063】
離型層217は、例えばPTFE、PFA、またはFEPなどのフッ素樹脂からなっており、保護層216の外表面に非磁性導電層214の幅と同じ320mmの範囲に亘って形成された、肉厚が例えば20μmの層である。
【0064】
なお、保護層216と離型層217との間にシリコーンゴム層を設けて、発熱ローラ211に弾力性を持たせてもよい。また、非磁性導電層215より広い範囲に亘って形成してもよい。
【0065】
再度図2および図3を参照して、加圧ローラ220は、両端を図示しない軸受にて回転可能に支持され、図示しない付勢手段により加圧ローラ211に圧接して記録紙109が通過するニップを形成する。
【0066】
加圧ローラ221は、定着ローラ211の回転に従動して、記録紙109を矢印方向へ搬送するように中心軸周りに回転(図では時計回り)する。ここでは、加圧ローラ221が発熱ローラ211の回転に従動するものとしたが、加圧ローラ221を回転させて定着ローラ211を従動させてもよい。
【0067】
また、加圧ローラ221は、例えば硬度JISA10度のシリコーンゴムなどの熱伝導性が小さい弾性層222と芯金223よりなっており、弾性層の外径は30mm、長さは315mmに成形されており、小さな付勢力で所定のニップが形成される構成となっている。
【0068】
なお、弾性層222の材料としては、例えばフッ素ゴムおよびフッ素樹脂などの耐熱性樹脂や他のゴムあるいはスポンジなどの発泡性樹脂を単独あるいは積層して用いてもよい。また、耐摩耗性や離型性を高めるために、PTFE、PFA、またはFEPなどの樹脂やゴムを単独又は混合して弾性層222の外周面を被覆することが望ましい。
【0069】
加熱手段240は少なくとも図示しない電源と励磁コイルユニット241を含んでおり、励磁コイルユニット241は絶縁性保持部材242にコイル243が螺旋状に捲回されて定着ローラ211内部に所定間隔を保って保持されている。コイル243は細い線材を束ねたリッツ線が好適である。
【0070】
励磁コイルユニット241は、図示しない電源から高周波電流が供給されることにより、定着ローラ211を誘導加熱する。励磁コイルユニット241は、非磁性導電層215より僅かに狭い315mmの範囲を加熱可能に構成されている。なお、励磁コイルユニット241には絶縁性保持部材242の他に磁気回路の結合を高めるフェライト等からなるコア部材を用いてもよい。また前記励磁コイル241のように磁束が定着ローラ211の全周に亘るものや、定着ローラ211の内面に対向する状態でリッツ線を定着ローラ211の一端から他端に向かって捲回される構成のもの、あるいは、定着ローラ211の内面の約180度の範囲に亘って対向するように捲回される構成のものでもよい。
【0071】
絶縁性保持部材242は、コイル243を保持すると共に、絶縁性を確保するものであり、本実施例の場合は、中空の軸となっており、連続動作時に中空内部に空気の流れを生じさせて、コイル243の発熱を低減することが可能な構成となっている。絶縁性保持部材242の形状は、中空の軸に限らず、中実の軸あるいは円弧状等コイル243の形状に合わせた形状でもよい。
【0072】
温度センサ230は、定着ローラ211の外周面に当接して設けられ、定着ローラ211の温度を検知する。温度センサ230によって定着ローラ211の温度が検知されると、例えば図示しない制御部によって給送ローラ108による記録紙109の給送開始が指示されたり、図示しない電源から励磁手段240への交流電流の供給が制御されたりする。より具体的には、温度センサ230によって定着ローラ211の温度がトナー像111の定着に適した温度になったことが検知された場合は、図示しない制御部によって給送ローラ108の動作開始が指示され、印字が開始される。また、温度センサ230によって定着ローラ211の温度が所定の閾値よりも高くなったことが検知された場合は、図示しない電源から励磁コイルユニット241への交流電流の供給が制御される。
【0073】
次いで、上記のように構成された定着装置の動作について説明する。
【0074】
図5は発熱ローラ内を流れる誘導電流を説明するための図であり、図中のハッチングで示した部分に誘導電流が流れることを示している。
【0075】
まず、定着ローラ211の温度がキュリー温度以下である場合について説明する。画像形成装置100の電源切断時やスリープ状態時には、通常、定着装置200の定着ローラ211は、その温度が室温程度にまで低下し続け、本実施例のキュリー温度である210℃よりも大幅に低温となっている。そして、印字を行うために電源が投入されたりスリープ状態から復帰したりする際には、トナー像111の定着に適した温度にまで定着ローラ211が昇温される。
【0076】
すなわち、図示しない電源から加熱手段240に電圧が印加され、交流電流が流れる。この交流電流の周波数は、20〜100kHzであることが望ましい。本実施例においては、この周波数を20〜60kHzとした。励磁コイルユニット241に交流電流が流れることにより、励磁コイルユニット241により発生した磁束は、高透磁性導電層214と鎖交し、表皮効果によって高透磁性導電層214の内周面付近、図5(a)のハッチングで示した部分に誘導電流を誘導し、ジュール熱によって高透磁性導電層214が発熱する。
【0077】
定着ローラ211全体が昇温してトナー像111の定着に適した定着温度にまで加熱されると、温度センサ230によって定着ローラ211の温度が検知され制御回路によって昇温を停止し、定着温度を保つように制御される。本実施例では定着温度を180℃に設定(定着設定温度)し、励磁手段240に約1200Wの電力を投入することで最大記録材幅(A3)の全幅を常温25℃から約24.5秒で定着温度まで昇温させることができた。
【0078】
次に、連続して記録材を通過させる場合の動作を説明する。
【0079】
図6はサイズの異なる記録紙109を毎秒440mmの速度(A4判紙では毎分63枚、A3判紙では毎分42枚)で連続通紙させた場合の発熱ローラ幅方向の温度分布を示した図である。最大記録材幅(本実施例ではA3サイズ)を連続通過させた場合は図6に破線で示したようにA3幅全体がほぼ均一な180℃に保たれる。これは定着ローラ211の幅全体に亘って記録材が接触し、通過幅全面から熱を奪うからである。
【0080】
一方、サイズの小さいA4縦を連続通紙させると、温度分布は図6に実線で示したようになる。
【0081】
すなわち、記録紙109の接触するA4縦幅内は180℃の一定温度に制御されるが、A4幅の外側は記録紙109が接触することは無く熱を奪われない。ここで、加熱手段240による電力は記録材幅より僅かに広い範囲に投入されているので、その結果、定着ローラ211は、A4縦幅の外側では急激に温度が上昇し、キュリー温度に近づいていく。
【0082】
しかし、定着ローラ211は、温度がキュリー温度に近づくと、その部分の透磁率が急激に低下して磁性を無くし、その結果励磁コイルユニット241の発生する磁束は高透磁性導電層214を貫通し、外周面に形成されている非磁性導電層215に浸透する。図5(b)のハッチングで示した部分は、この状態における、励磁コイルユニット241の発生する磁束により誘起される誘導電流の流れる部分を示し、図5(b)は高透磁性導電層214のみならず、非磁性導電層215においても誘導電流が流れることを示している。そして、この誘導電流により磁束を打ち消す方向に反発磁界が発生し、励磁コイルユニット241による磁束を大幅に減衰させる。その結果、定着ローラ211は、非磁性導電層215の固有抵抗は1.68×10-8Ω・mと高透磁性導電層214の固有抵抗81.5×10-8Ω・mより格段に小さいことにより、A4縦幅外の発熱が大幅に低減され、それ以上の温度上昇は無く過昇温が防止される。
【0083】
本実施例では、毎分63枚の連続出力時に図6の実線で示したように205℃に抑えることができ、記録材の通過する間隔を長くしたり、連続通過させる枚数を制限することなく連続出力が可能になった。
【0084】
ここで、本実施例では、非磁性導電層215の形成範囲は320mmと最大記録材幅より大きく、また励磁コイルユニット241の加熱可能範囲315mmよりも大きく、加圧ローラ221の全長315mmより大きい。
【0085】
したがって、定着ローラ211の記録材の通過しない部分の温度が上昇し、キュリー温度を超えて磁束が高透磁性導電層214透過した場合に、非磁性導電層215の形成された範囲の方が加熱可能範囲つまり磁束の発生範囲より大きいので、確実に非磁性導電層215で磁束を低減させて過昇温を抑制できる結果、加圧ローラ221の端部が異常な高温となって破損することがない。
【0086】
なお、本実施例では A4縦サイズの記録材通過のみを示したが、記録材のサイズはこれに限定されることは無くあらゆるサイズでこの原理は働き、自動的に記録材幅外の過昇温が抑えられることは言うまでもない。
【0087】
また、記録材幅外の温度は連続通過の速度、記録材の通過間隔、記録材の厚みに影響される。これは励磁コイルユニット241全体に投入される電力がこれらの条件によって大きく左右されるからである。しかし、ほとんどの場合キュリー温度以下に過昇温を抑制することが出来、ゴム材の寿命の低下や、軸受の損傷を発生することもなく信頼性の高い定着器を実現できる。
【0088】
次に、本実施例に用いた定着ローラ211の磁気特性とウォームアップ時間、幅の狭い記録材を連続通過させた時の過昇温の関係を詳細に説明する。
【0089】
図7は、定着ローラ211の加工を説明するための図である。
【0090】
図7において、素管251は、厚み約1mmの板材からなる整磁材料をロール状に曲げて溶接し、一端部を小径化してカップ状に成形し、他端にはフランジ254を形成したものである。素管251はマンドレル252に嵌め込み、軸線のまわりに回転させられる。
【0091】
ローラ253は、マンドレル252の軸線方向および軸線と直交する方向に移動可能な図示しない可動部材に保持されている。ローラ253は1つでもよいが、3個のローラを等間隔で配置することが望ましい。
【0092】
ここで、マンドレル252とローラ253との間の距離を素管の肉厚より薄い所定の寸法とし、ローラ253を矢印方向Xに移動させると、素管251は、肉厚がマンドレル252とローラ253の距離と等しい寸法になるとともに、肉厚が薄くなった分全長が長くなる。このとき、前記フランジ254を矢印X方向に移動させる方向に力を加えることが望ましい。
【0093】
また、ローラ253を矢印X方向に移動させるとともに、矢印Z方向にも移動させると肉厚および外径が変化した素管251となる。従って、ローラ253の移動量を制御することにより、任意の形状の素管251が加工可能となる。本実施例1の場合、図8のように、中央部の外径D2が端部の外径D1より僅かに小さい鼓形をしたクラウン形状のローラとし、記録材がニップを通過する時記録材にシワが発生するのを防止している。
【0094】
本実施例1では上記のようにスピニング加工により素管251を薄肉化し、端部の直径が40mm、中央部の直径が39.9mm、内径38.8mm、長さ385mmのローラ形状としたものである。加工法としてはもちろんこれに限定されるものではなく、ロール状に曲げて溶接後しごきにより管材を薄肉化するアイアニング加工や、引抜加工によって一次仕上げ後、機械加工により外形を仕上げて薄肉円筒体にする方法などがある。
【0095】
ところで、いずれにしても肉厚の薄い管材にする場合、整磁材料に塑性加工を施し、強い機械的ストレスを掛けることでその磁気特性が大きく変化してしまう。
【0096】
図9は、本実施例に用いた整磁材料からなる定着ローラ211の、スピニング加工直後のものの比透磁率の温度特性を示したものである。ここで、比透磁率の温度特性は45A/m、30kHz交流磁場の条件下での測定値を示す。
【0097】
図9において、比透磁率は、Tsで示す温度168℃近辺から低下を始めキュリー温度Tc=222℃でほぼ非磁性となる。なお、比透磁率が半減する温度(半減温度と呼ぶ)Thは204℃であった。ここで、Tsは、整磁材料の比透磁率が低下し始める温度を意味する。
【0098】
次に、この加工直後のものに対し、さらにその後、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下800℃で1時間保持した後200℃以下に徐冷するアニール処理を施した定着ローラ211の特性を図10に示す。図9と比較して解るようにアニール処理後は、半減温度Thは205℃でアニール前とほぼ同じであるが、透磁率の変化が急峻になり、キュリー温度Tcは210℃、比透磁率の低下し始める温度Tsは195℃となった。
【0099】
なお、前述した非磁性導電層215は本アニール処理後に形成し、その後さらに保護層216および離型層217を形成する。
【0100】
このアニール処理前のものを用いたときと処理後の定着ローラ211を用いたときとのウォームアップ時間の比較を図11に示す。
【0101】
図11において、本発明に係るアニール処理後の定着ローラ211を用いた場合のウォームアップ時間を実線で、アニール前のものを用いた場合を破線で示してある。実線で示したとおり本発明に係る定着ローラ211では前述したように24.5秒で180℃に到達したが、破線で示すとおりアニール処理前のものでは160℃近辺から昇温カーブが緩やかになり180℃に到達するまでに約32秒を要した。これはアニール処理前のものでは、前記Ts(168℃)が定着設定温度(180℃)よりも低い値となっており、168℃近辺の早い段階で磁気特性の変化が現れるので、強い磁場のもとでは早い段階から高透磁性導電層214を貫通する磁束が増加し始め、非磁性導電層215に磁界が浸透し、誘導電流が流れることによる反発磁界により磁束密度が低下し、高透磁性導電層と励磁手段との磁気結合が弱まり発熱効率が低下するからと考えられる。
【0102】
次に、この両者を用い、それぞれについてA4縦サイズの記録材を連続通過させた結果、同一の条件下で、アニール処理後の定着ローラ211を用いた場合では、記録材紙幅外の過昇温は、205℃以下であったが、アニール処理前の定着ローラ211を用いた場合では230℃近くまで上昇した。これは記録材通過領域内の温調(一定に調節される温度)が180℃であり、この時すでに定着ローラ210の全域において貫通する磁束の割合が増加しており、A4縦幅相当部分の発熱効率が低下して結果として温調に必要な電力が増大したことと、通紙部と非通紙部との磁気的結合の差がつきにくくなったことからと考えられる。
【0103】
以上のことから、比透磁率が低下し始める温度Tsは、定着設定温度よりもできるだけ高い温度に設定することが望ましいが、これに合わせてキュリー温度を高く設定すると記録材幅外の過昇温が高くなり過ぎ、好ましくない。キュリー温度としては加圧ローラ221に用いられるシリコーンゴム材の耐熱温度を考慮して220℃以下のできるだけ低い温度であることが望ましい。
【0104】
本発明者らは、非磁性導電層214の厚みを変えた定着ローラ211で、それぞれについてA4縦方向およびA4横方向の記録材を連続通紙させて、定着ローラ211軸方向の温度分布、定着温度に昇温するまでのウォームアップ時間、及び平均印加電力の比較検討を行った。
【0105】
図12は、前記の非磁性導電層215の厚みを変えて、それぞれについてA4縦方向の記録材を連続500枚連続通過させた場合の定着ローラ211の軸方向温度分布を示し、図13は、非磁性導電層215の厚み毎の、180℃に昇温するまでのウォームアップ時間を示し、図14は、A4横方向およびA4縦方向の記録材を各々500枚連続で通過させたときの平均印加電力を示す。
【0106】
図12から判るように、非磁性導電層215のない(厚みが0μm)場合は、記録材非通過部分の温度は、240℃を越えているが、非磁性導電層215の厚みが0.015mmないし0.08mmの場合は205℃でほぼ飽和している。このように、本発明者らは、非磁性導電層215の厚みが0.08mm、0.03mm及び0.015mmの3種類について実験を行い、非通過部分の温度はいずれも205℃付近で飽和しており、0.015mmの厚みがあれば非通過部分の過昇温の抑制に大きな効果があることを見出した。一般に、非磁性導電層215は電磁誘導により発熱しにくいとされていたが、その肉厚を適切な厚みにすることにより抵抗が大きくなり、発熱することが知られている。また、本実施例のように非磁性導電層215により磁束を制限したり、あるいは遮蔽したりする場合にはその厚みはある程度の厚みがないと非磁性導電層215が発熱し記録材非通過部分の温度が高くなりすぎたり、あるいは励磁コイルユニット241付近の温度が高くなりすぎて励磁コイルユニット241の絶縁層の絶縁性が損なわれる等の弊害があるとされていた。しかし、本発明者らは、本実施例において非磁性導電層215の肉厚が0.015mmあれば記録材非通過部分の過昇温が起こらないことを見出した。非磁性導電層215の肉厚は薄いほど抵抗が大きくなり、発熱しやすくなるが、高透磁性導電層214と密着しており、ある程度は高透磁性導電層214へ熱が移動し、また大気中に放出され、印可する電力による発熱とバランスしているものと推察される。
【0107】
非磁性導電層215の厚みと昇温に要する時間の関係は、図13に示すように、非磁性導電層215の厚みの増加と共に昇温時間は長くなり、非磁性導電層215の厚みが0.06mmの場合、非磁性導電層214がない場合に比較して約1.5秒長くなっている。しかし、室温から約25.5秒で定着温度に昇温しており、実使用上の影響は軽微である。
【0108】
図14は、記録材を500枚連続で通過させた場合の平均印加電力と非磁性導電層の厚みとの関係を示す。図14において、破線はA4横方向通紙持の、実線はA4縦方向通紙時の平均印加電力と非磁性導電層の厚みとの関係を示し、A4横方向通紙の場合、非磁性導電層215の厚みが0.03mmの場合、非磁性導電層215がない場合と比較して、約9W増加しており、非磁性導電層215の厚みが0.06mmの場合は約20W、0.08mmの場合は約27.6W増加している。また、A4縦方向通紙の場合の平均印加電力は、非磁性導電層215の厚みが0.03mmの場合、非磁性導電層215がない場合と比較して約31W低下している。非磁性導電層215の厚みが0.06mmの場合、非磁性導電層がない場合とほぼ同じで、非磁性導電層215の厚みが0.08mmの場合は約27W非磁性導電層215がない場合と比較して増加している。これは、A4横方向の場合は非磁性導電層215の厚さ分熱容量が増加し、温度を維持する電力が増加しており、A4縦方向の場合は、非磁性導電層215のない場合、記録材非通過部分が240℃を越える温度となっており、その昇温に電力を消費しているからと思われる。非磁性導電層215の厚みが0.03mmの場合は、熱容量は増加しているが、記録材非通過部分の温度は205℃で平衡しており、その結果電力が低減されているものと推察される。また、非磁性導電層215の厚みが0.08mmの場合は、記録材非通過部分が205℃で平衡して電力を軽減させている分を、熱容量の増加による負荷増加の影響が上回り、電力が増加しているものと推察される。
【0109】
非磁性導電層215の厚みを0.015mmないし0.060mmに設定することにより、小サイズの記録材を通過させる場合、非磁性導電層215がない場合と同等もしくは少ない電力で定着温度に定着ローラを維持することが可能で、しかも小サイズの記録材が通過しない領域の過昇温が防止できる。非磁性導電層215の厚みが0.06mmより厚いと、非通過部分の過昇温は防止できるが、印加電力が増加する。
【0110】
本実施例では、A4横方向の記録材とA4縦方向の記録材とについて記載したが、他の記録材についても印加電力の増減量に差はあるものの同様の傾向となることは言うまでもない。
【0111】
次に、図15はA4横方向連続通過時の定着ローラ211の軸方向温度分布を示し、実線は、前述の非磁性導電層214の厚みを0.03mmとし、その長さを320mmとした場合の、破線は高透磁性導電層214の定着ローラ211の全長に亘って形成した場合の温度分布を示す。図15から判るように、非磁性導電層214を定着ローラ210の全長に亘って形成した場合は両端部の温度が低下しており、通過する最大記録材の幅より僅かに大きい320mmの範囲に非磁性導電層214を形成した場合は記録材のほぼ全幅に亘って均一な温度分布を示す。
【0112】
すなわち、前述の定着ローラ211は、その高透磁性導電層214はキュリー温度が210℃に調整された整磁材料で構成されており、その熱伝導率は13W/m・Kと小さく、一方、非磁性導電層215として形成された銅の熱伝導率は398W/m・Kと大きい。それゆえ、仮に全長に亘って非磁性導電層215を形成した場合には、前述の励磁コイルユニット241による定着ローラ211の発熱部分での熱が、その発熱部分以外の、定着ローラ211両端部に向かって、非磁性導電層215を通って移動し、軸受213等へ流出するので、記録材幅内の両端部において温度ムラが発生する。しかし、非磁性導電層215を320mmの範囲に形成した場合には、定着ローラ211における非磁性導電層215の範囲外は、熱伝導率の小さい整磁材料を通じて熱が移動するのみであり、端部からの熱流出は極端に小さくなり、温度ムラは発生しなかった。
【0113】
なお、非磁性導電層215をその幅を最大記録材の幅と等しくして形成すると、記録材相当幅の端部において、記録材の通過位置の変動や、励磁コイルユニット241による磁界発生幅変動があった場合に、そのような非磁性導電層215によっては非磁性導電層215が形成されていない部分での過昇温を低減することができず、温度ムラが発生する場合があり、非磁性導電層215の幅は、最大記録材より僅かに大きいことが望ましい。
【0114】
そして、定着ローラ211の全幅に非磁性導電層215を形成した場合、温度ムラがないように励磁コイルユニット241の発生磁束分布を調整することは可能であるが、その場合は非磁性導電層215を最大記録材幅より僅かに大きく形成した場合に比べて、印加電力が増加する。
【0115】
また、励磁コイルユニット241による発生磁界のバラツキによる温度ムラについても、熱伝導率の大きな非磁性導電層214を形成することにより低減可能である。
【0116】
また、非磁性導電層214を形成された範囲は、励磁コイルユニット241の発生磁束にムラがあってもその高熱伝導性により、温度ムラが軽減されることは言うまでもない。
【0117】
また、非磁性導電層214について、銅を使用した場合について説明したが、銅に限定されるものではなく、熱伝導率が237W/m・Kのアルミニウム、114.3W/m・Kの亜鉛、87.9W/m・Kのニッケル、294W/m・Kの金、418W/m・Kの銀等でも同様の効果は得られる。それぞれの金属において、固有抵抗、熱伝導率が異なり、前述の効果が得られる厚みは異なる。本発明者らの実験では、銅の場合は0.015mmないし0.060mm、アルミニウムの場合は0.025mmないし0.060mm、亜鉛の場合は0.055mmないし0.060mの場合に、同様な効果が得られることが判った。
【0118】
以上のように、キュリー温度を所定の温度に設定された整磁材料からなる高透磁性導電層214よりなる定着ローラ211に最大記録材より僅かに広い範囲に非磁性導電層215の薄膜を形成することにより、迅速な立ち上がりが可能で、記録材幅外の過昇温を防止しつつ、温度ムラの防止及び端部への熱流出を防止し、印加電力が低減できる。
【0119】
さらに、加熱手段240が発熱ローラ211の内部に配置されており、発熱ローラ211表面に付着残留したトナーを除去するクリーニング手段や記録材の分離手段の配置が容易であり、小型化が可能な定着装置が実現できる。
【0120】
以上のように、定着ローラに整磁材料を用いる場合は、スピニング加工でローラを加工することにより、切削によるクラウン加工による材料ロスがなくなり、加工コストの低減が可能となる。また、整磁材料を用いる場合はアニール処理をすることが、迅速なウォームアップと非通紙部分の過昇温防止を実現させるために重要である。さらに、非磁性導電層の薄層を形成することも、非通紙部分に過昇温を生じなせないために重要となる。
【0121】
ところで、本発明者たちの検討において、上述のアニール処理と非磁性導電層を形成するめっき処理とにおいて、ローラの変形や精度が低下するといった課題が発生した。具体的には、スピニング加工にて仕上げられた状態では、加工硬化によりローラの硬度は高くなっており、内部には加工による応力が残留しているが、その後、アニール処理により、磁気特性が調整されるとともに硬度も低下し、応力も緩和される。しかし、その際に従来構成のように回転力伝達用の係合溝をローラ端部から形成してあると、定着ローラの端面は、係合溝により連続せず、断面欠損を生じて、係合溝周縁部の強度が低下し、図16に示すように、定着ローラ211の係合溝218aの端部218b付近がまくれるように変形したり、真円度等の形状精度が低下する。
【0122】
図17は、非磁性導電層を形成するめっき処理を説明する概略図であり、槽255はめっき液が入った槽であり、定着ローラ211は、内部にめっき液が進入しないようにパッキング256が両端に圧入され、そのパッキング256を貫通したピン257およびピン257に固定された弾性部材258を通じて電流が流れ、めっき皮膜が形成される構成となっていることを示している。
【0123】
一般に、定着ローラ(211)の内部にめっき液が進入すると、めっき層が形成されるが、全長に亘る均一な形成は困難であり、不均一な非磁性層が形成されると発熱分布が変動するので、好ましくない。そこで、本実施例では、前記パッキング256は定着ローラ211の一部を覆うように形成されており、めっき範囲を記録紙より僅かに大きい範囲に設定して消費電力の低減を図っている。そのためにパッキングを圧入してめっき液がローラ内部に進入しないようにしてある。しかし、従来構成のように係合溝218aをローラ端部から形成してあると、定着ローラ211の端面は係合溝218aにより連続せず、断面欠損が生じ、係合溝周縁部の強度が低下し、パッキング256の圧入により定着ローラ211の係合溝218aの端部218b付近が図16に示すようにまくれるように変形したり、真円度等の形状精度が低下する。
【0124】
次に、本実施例1の回転伝達部について詳細に説明する。
【0125】
図18は回転伝達部を示す分解斜視図、図19は回転伝達部の縦断面図、図20は回転伝達部材の斜視図、図21は係合部材の斜視図である。
【0126】
定着ローラ211には端部から少し離れた位置に長円形の開口部218が形成され、前記開口部218より端部側に長穴219が3箇所設けられている。
【0127】
回転伝達部材260は、定着ローラ211の端部外径と嵌合する嵌合部261が内面に形成され、外周部には図示しないモータからの回転力を伝達する歯車262が形成されている。回転伝達部材260には切り欠き部263が形成されており、前記切り欠き部263は回転伝達部材260の厚みより短い範囲にすなわち浅く形成されている。
【0128】
係合部材270には開口係合部271と切り欠き係合部272とが形成されており、開口係合部271は長円形の突起であり、前記定着ローラ211の開口部218と係合している。切り欠き係合部272は開口係合部271より幅が広く形成されており、開口係合部側には定着ローラ211の外径と同じ円弧を成した面である円弧部273が形成されている。係合部材270は、開口係合部272を定着ローラ211の開口部218に係合され、円弧部273が定着ローラ211の外径と当接して保持され、切り欠き係合部272は回転伝達部材260の切り欠き部263と係合し、図示しないモータからの回転が歯車262に伝達され、係合部材270を通じて定着ローラ211に回転が伝達される。
【0129】
止め輪280は、中央付近に形成された第1係止部281および両端部に形成された第2係止部282が定着ローラ211の長穴219に係合して回転伝達部材260の軸方向への移動を規制している。
【0130】
ここで、開口部218については長円形を例示したが、長円形に限らず長方形や正方形あるいはそれらの角に円弧部を設けた形状でもよいが、応力の集中を避けるため角部には円弧部を設けることが望ましい。係合部材270の開口係合部271の形状も同様に長円形に限らず、開口部218に係合する形状にすることができる。また、切り欠き係合部272と開口係合部の長さ、(定着ローラ211に係合したときその軸線方向となる)は、同じ長さを例示したが、どちらか一方を長くしてもよい。切り欠き係合部272の角部や回転伝達部材260の切り欠き部263の角部に円弧部を設けてもよい。
【0131】
本実施例の構成における回転伝達部の装着について説明すると、まず、係合部材270の開口係合部271を定着ローラ211の開口部218に装着する。この時、係合部材270の切り欠き係合部272の幅が開口係合部271の幅より大きく、かつ係合部材270の円弧部273と定着ローラ211の外周部とが同一円弧であるゆえ定着ローラ211と係合部材270とはガタつくことなく定着ローラ211が安定した状態で仮保持される。
【0132】
続いて、回転伝達部材260の切り欠き部263が形成された側を定着ローラ211の端面から挿入し、内周の嵌合部261を定着ローラ211の外周に装着、嵌合させる。この時、回転伝達部材260の切り欠き部263と定着ローラ211に仮保持されている係合部材270の切り欠き係合部272との位相を合わせて軸方向に移動させることにより、切り欠き部263と切り欠き係合部272とが係合し、さらに回転伝達部材260の厚さより薄く形成された切り欠き部263の壁部264と切り欠き係合部272とが当接して回転伝達部材260の軸方向の位置が規定される。
【0133】
続いて、止め輪280を定着ローラ211の長穴219に係止、固定することにより、回転伝達部材260の軸方向の移動が規制される。
【0134】
ここで、図示しないモータにより、回転伝達部材260の歯車に回転駆動力が伝達されると、回転伝達部材260の切り欠き部263と係合部材270の切り欠き係合部272とが当接し、したがって係合部材270の開口係合部271と定着ローラ211の開口部218とが当接して定着ローラ211に回転力が伝達される。
【0135】
図22は、回転伝達部の部分拡大図である。回転伝達部材260からの回転力が係合部材270に伝わったとき、本実施例では、図22(a)に示すように定着ローラ211の外径部と、係合部材270の円弧部273とが同一円弧で隙間なく当接しており、係合部材270が傾いたりすることなく円滑に動力の損出なく回転力を伝達することができる。図22(b)のように、係合部材270に円弧部がないと、定着ローラ211の外周部との間に隙間274が形成され、回転伝達部材260に回転力が伝達された場合係合部材270は定着ローラ211の外周面と当接するように傾き動力の損出を生じ、円滑な回転力の伝達ができない。
【0136】
回転伝達部材260を装着する場合にも同様の現象があり、図22(b)のように係合部材270に円弧部273がないと、開口係合部271を定着ローラ211の開口部218に装着する時に定着ローラ211の外周部に当接するまで係合部材270は傾き、回転伝達部材260を装着する場合に位相が合致せず、装着が困難となる。図22(a)では、係合部材270の切り欠き係合部272が開口係合部271より幅が広く、かつ円弧部273が形成されているので係合部材270が脱落することなく、安定した正しい姿勢で定着ローラ211上に仮保持されることから、回転伝達部材を容易に装着することが可能である。
【0137】
以上のとおり、本実施例では、端部から形成された係合溝に代わり、端部から少し離れた位置に開口部を形成し、係合部材を係合させ、回転伝達部材を定着ローラに嵌合するとともに係合部材を回転伝達部材の開口係合部と係合させる構成としたので、定着ローラの端面は連続しており、断面欠損がなく、係合溝周縁部の強度低下がなく、ローラの変形や破損、あるいは形状精度が低下することがない。
【0138】
(実施例2)
本発明の実施例2の特徴は、回転伝達部材260と係合部材270との少なくとも1つの当接部に傾斜部を形成することにより、係合部材270を定着ローラ211に密着させる方向の分力が作用し、より一層円滑な回転力の伝達を行うことである。
【0139】
本実施例に係る画像形成装置の概略構成は、実施例1と同様であるので、その説明を省略する。本実施例においては、定着装置の構成のみが実施例1と異なっている。
【0140】
図23は本実施例2に係る定着装置の回転伝達部の部分拡大図、図24は本実施例2に係る定着装置の回転伝達部の動作を説明する図である。これらの図において、実施例1に係る定着装置と同じ部分には同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0141】
係合部材270の回転伝達部材260との当接部には定着ローラの外径における接線方向から僅かに軸側へ向いた方向に垂直な面である傾斜部275が形成され、回転伝達部材260の当接部にも同様の傾斜部が形成されている。
【0142】
次いで上記のように構成された定着装置の回転伝達時の動作について説明する。
【0143】
図示しないモータからの回転駆動力が回転伝達部材260に伝達されると、切り欠き部263と係合部材270の切り欠き係合部272とが当接する。両者には傾斜部が形成されてあり、図24に示すように、回転伝達部材260の回転力は、傾斜部に垂直な方向の力Fとして係合部材270に作用し、傾斜に垂直な方向の力Fは、定着ローラ211の外周の接線方向の分力F1とその垂直方向の分力F2として作用する。接線方向の分力F1は回転を伝達する力として作用し、垂直方向の分力F2は係合部材270を定着ローラ211密着させる力として作用する。その結果、係合部材が円弧部273を定着ローラ211に密着させた状態で円滑な回転力の伝達が可能となる。
【0144】
一般的に2種以上の部品を嵌合、又は係合させる場合、組み立て性に配慮し両者の間に僅かな隙間を設けるが、本実施例2の係合部材270の開口係合部271と定着ローラ211の開口部にも僅かな隙間が設けられ、また係合部材270の切り欠き係合部272と回転伝達部材260の切り欠き部263にも僅かな隙間が設けられている。それゆえ回転力を伝達する際に隙間分だけ係合部材270が傾いたりあるいは動揺する場合が多いが、本実施例2では係合部材270を定着ローラ211に密着させる方向に分力が作用するので、傾いたり動揺することなく定着ローラに対する回転伝達部材からの円滑な回転力の伝達が可能となる。
【0145】
(実施例3)
本発明の実施例3の特徴は、回転伝達部材260の切り欠き部263aの幅を少なくとも2種類以上の異なった幅を形成することにより、止め輪280を用いなくとも回転伝達部材260の定着ローラ軸方向の位置の規制を可能とすることである。
【0146】
本実施例に係る画像形成装置の概略構成は、実施例1と同様であるゆえ、その説明を省略する。本実施例においては、定着装置の構成のみが実施例1と異なっている。
【0147】
図25は、本実施例3に係る定着装置の回転伝達部材の斜視図である。この図において、実施例1に係る定着装置と同じ部分には同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0148】
回転伝達部材260の切り欠き部263aは、一端部側は係合部材270の切り欠き係合部272と同等の幅の部分263bと、前記切り欠き係合部272より幅の広い部分263cとが形成されている。切り欠き部263aの深さは回転伝達部材260の厚さより浅く形成されている。
【0149】
実施例1と同様に、係合部材270の開口係合部271を定着ローラ211の開口部218に装着し、回転伝達部材260の切り欠き部263aが形成された側を定着ローラ211の端面から挿入し、内周の嵌合部261を定着ローラ211の外周に装着、嵌合させ、切り欠き係合部272の位相を合わせて軸方向に移動させることにより、切り欠き部263aと切り欠き係合部272が係合し、さらに回転伝達部材260の厚さより薄く形成された切り欠き部263の壁部264と切り欠き係合部272が当接して回転伝達部材260の軸方向の位置が規定される。この状態で係合部材270の切り欠き係合部272は回転伝達部材260の切り欠き部263aの幅の広い部分263cと対向しており、幅の差分の隙間が形成されている。
【0150】
続いて、回転伝達部材260を前記隙間をなくす方向に回動させることにより、回転伝達部材260の位置規制部263dと係合部材270の切り欠き係合部273とが係止し、回転伝達部材260の軸方向の移動が規制される。このとき、回転伝達部材260の回転方向は前記隙間をなくす方向のみとすることにより、止め輪を用いることなく回転伝達部材の定着ローラ軸方向の位置規制が可能となり、コストの低減に貢献する。
【0151】
(実施例4)
本発明の実施例4の特徴は、回転伝達部材の嵌合部を外周部に形成し、定着ローラの内周と嵌合させることにより、薄肉の定着ローラに大きな応力が作用しても、定着ローラの変形や破損を生ずることなく、円滑な回転伝達を可能とすることである。
【0152】
本実施例に係る画像形成装置の概略構成は、実施例1と同様であるゆえ、その説明を省略する。本実施例においては、定着装置の構成のみが実施例1と異なっている。
【0153】
図26は回転伝達部の縦断面図、図27は回転伝達部材の斜視図、図28は係合部材の斜視図である。
【0154】
定着ローラ211には端部から少し離れた位置に設けられた開口部218より中央側に複数の穴219bが形成されている。
【0155】
回転伝達部材290は、定着ローラ211の内周と嵌合する嵌合部291が外周部に形成され、隣接する外周部には歯車292が形成されている。回転伝達部材290の嵌合部219には切り欠き部293が形成されており、前記切り欠き部293は回転伝達部材290の厚みより短い範囲に形成されている。前記嵌合部291には一部が嵌合部291の外径より外側に突出するとともに傾斜部および突起部294aを有する係止部294が複数箇所形成されている。
【0156】
係合部材300には開口係合部301と開口係合部301より幅の広い切り欠き係合部302が形成され、切り欠き係合部302の開口係合部301側には定着ローラ211の内周と同じ円弧の円弧部303が形成されている。
【0157】
本実施例4における回転伝達部材の装着は、係合部材300の開口係合部301を定着ローラ211の開口部218に内周側から装着する。この時、係合部材300の切り欠き係合部302の幅が開口係合部301の幅より大きく、かつ係合部材300の円弧部303と定着ローラ211の内周部が同一円弧であるゆえ定着ローラ211と係合部材300はガタつくことなく安定した状態で仮保持される。
【0158】
続いて、回転伝達部材290の嵌合部291側を定着ローラ211の内周に挿入し、嵌合部291を定着ローラ211の内周に装着、嵌合させる。この時、回転伝達部材290の切り欠き部293と定着ローラ211に仮保持されている係合部材300の切り欠き係合部302の位相を合わせて軸方向に移動させることにより、切り欠き部293と切り欠き係合部302が係合し、回転伝達部材290の厚さより薄く形成された切り欠き部293の壁部294と切り欠き係合部302が当接して回転伝達部材290の軸方向の位置が規定される。同時に係止部294の突起部294aが定着ローラ211の穴219aと係合し回転伝達部材290の軸方向への移動が規制される。
【0159】
ここで図示しないモータにより、回転伝達部材290の歯車に回転力が伝達されると、回転伝達部材290の切り欠き部293と係合部材300の切り欠き係合部302が当接し、したがって係合部材300の開口係合部302と定着ローラ211の開口部218が当接して定着ローラ211に回転力が伝達される。この時、定着ローラ211の内周部と、係合部材300の円弧部303が同一円弧で隙間なく当接しており、係合部材300が傾いたりすることなく円滑に動力の損出なく回転力を伝達することができる。また、回転伝達部材290の嵌合部291が定着ローラ211の内周と嵌合しているので、過大な負荷が働いても定着ローラ211が内周側に変形することがなく、安定して円滑な回転力の伝達が可能となる。
【0160】
本実施例では、加熱手段として電磁誘導加熱方式を採用し、定着ローラとして常温では磁性を有するも所定温度では磁性のなくなる整磁材料を採用した構成について説明したが、本構成に限定することなく他の加熱方式、他の材料を採用した薄肉の定着ローラを用いた定着装置においても同様の効果を有することは言うまでもない。本実施例で採用した、電磁誘導加熱方式および整磁材料を用いることにより、従来の低熱容量化したローラのように、強度の低下や変形、破損がなく、かつ幅の狭い記録材に連続印字した場合の記録材幅外の過昇温がなく、より省エネルギー化を図った定着装置の実現が可能となる。
【0161】
また、加熱手段として電磁誘導加熱方式を採用し、誘導コイルを定着ローラの内部に配置し、非磁性導電層を定着ローラの外周部に形成した構成について説明したが、誘導コイルを定着ローラの外部に配置し、非磁性導電層を定着ローラの内周部の一部に形成する構成でも同様の効果が得られることは明白である。
【産業上の利用可能性】
【0162】
以上のように、本発明にかかる定着装置は、省エネルギー化のために低熱容量化つまり薄肉化した定着ローラを使用しても強度の低下や変形あるいは破損および精度の低下を生ずることなく円滑な回転駆動力の伝達が可能となり、未定着画像を記録材に加熱定着する定着装置などに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0163】
【図1】本発明実施例1における画像形成装置の概略構成を示す図
【図2】本発明実施例1における定着装置の構成を示す横断面模型図
【図3】本発明実施例1における定着装置の構成を示す縦断面模型図
【図4】本発明実施例1における定着ローラの詳細な構成を示す一部断面図
【図5】本発明実施例1における、(a)はキュリー温度以下の状態における定着ローラ内を流れる誘導電流の説明図(b)はキュリー温度に近づいた状態における定着ローラ内を流れる誘導電流の説明図
【図6】本発明実施例1における連続通紙時の定着ローラの温度分布図
【図7】本発明実施例1におけるスピニング加工の説明図
【図8】本発明実施例1におけるスピニング加工後のクラウン形状の説明図
【図9】本発明実施例1における整磁材料のアニール処理前の比透磁率の温度特性図
【図10】本発明実施例1における整磁材料の比透磁率の温度特性図
【図11】本発明実施例1におけるウォームアップ時の定着ローラの昇温特性を示した図
【図12】本発明実施例1におけるA4縦連続通紙時の定着ローラの温度分布図
【図13】本発明実施例1における非磁性導電層の厚みとウォームアップ時間の関係を示した図
【図14】本発明実施例1における連続通紙時の電力と非磁性導電層の関係を示した図
【図15】本発明実施例1における非磁性導電層の幅を変えた場合の連続通紙時の発熱ローラの温度分布図
【図16】従来構成定着ローラの変形を説明する図
【図17】本発明実施例1におけるメッキ処理の概略図
【図18】本発明実施例1における回転駆動力伝達部の構成を示す分解斜視図
【図19】本発明実施例1における回転駆動力伝達部の縦断面図模型図
【図20】本発明実施例1における回転伝達部材を示す斜視図
【図21】本発明実施例1における係合部材を示す斜視図
【図22】(a)は本発明実施例1における回転伝達部の部分拡大図、(b)は係合部材に円弧部がないとした場合における回転伝達部を説明するための部分拡大図
【図23】本発明実施例2における回転伝達部の部分拡大図
【図24】本発明実施例2における回転伝達部の動作を説明する図
【図25】本発明実施例3における回転伝達部材の斜視図
【図26】本発明実施例4における回転伝達部の縦断面図模型図
【図27】本発明実施例4における回転伝達部材を示す斜視図
【図28】本発明実施例4における係合部材を示す斜視図
【図29】従来の定着器の加熱ローラの構造を示す図
【図30】従来の定着器の加熱ローラの構造を示す図
【図31】従来の定着器の加熱ローラの構造を示す図
【符号の説明】
【0164】
200 定着装置
211 定着ローラ
214 高透磁性導電層
215 非磁性導電層
218 開口部
221 加圧ローラ
230 温度センサー
240 加熱手段
260、290 回転伝達部材
263、293 切り欠き部
270、300 係合部材
271、301 開口係合部
272、302 切り欠き係合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録材を加熱加圧してその面上の色材を定着させる定着装置であって、
互いが平行に配設されてその間に記録材を挟んで加圧しつつそれぞれ回転する定着ローラ及び加圧ローラと、
前記記録材を、前記定着ローラを介して加熱する加熱手段と、
前記定着ローラの端部に当接嵌合してその定着ローラの回転を駆動する回転伝達部材と、
前記定着ローラと前記回転伝達部材とを係合する係合部材とを備え、
前記定着ローラは薄肉円筒状で、少なくとも一方の端部にその端面から離れて開口部が形成され、
前記回転伝達部材は当該回転伝達部材の厚さより浅い切り欠き部を有し、
前記係合部材は前記開口部と係合する開口係合部と前記切り欠き部と係合する切り欠き係合部とを有しており、前記開口係合部の幅より前記切り欠き係合部の幅が広く形成されたことを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記回転伝達部材の切り欠き部は、少なくとも2種類以上の異なった幅を有した形状であることを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記係合部材の切り欠き係合部は、前記定着ローラの内径又は外径の何れかと同じ円弧を成した面を有することを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項4】
前記回転伝達部材と前記係合部材とが当接する部分において、それら部材の少なくとも1つには、傾斜面が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項5】
前記回転伝達部材と前記係合部材とが当接する部分において、それら部材の少なくとも1つには、前記係合部材を前記定着ローラに密着させる方向の分力が発生する傾斜面が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項6】
前記加熱手段は少なくとも励磁コイルユニットと電源とを含み、
前記定着ローラは、常温では磁性を有するも所定温度以上では磁性が無くなる整磁材料からなり、塑性加工後にアニール処理が行われたことを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項7】
前記加熱手段は少なくとも励磁コイルユニットと電源とを含み、
前記定着ローラは、常温では磁性を有するも所定温度以上では磁性が無くなる整磁材料からなり、スピニング加工後にアニール処理が行われたことを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項8】
前記加熱手段は少なくとも励磁コイルユニットと電源とを含み、
前記定着ローラは、常温では磁性を有するも所定温度以上では磁性が無くなる整磁材料からなり、前記整磁材料をロール成型後溶接し、少なくとも一方の端部を小径化加工後スピニング加工にて成型し、アニール処理を行ったものであることを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項9】
前記加熱手段は少なくとも励磁コイルユニットと電源とを含み、
前記定着ローラは、常温では磁性を有するも所定温度以上では磁性が無くなる整磁材料からなり、前記整磁材料をロール成型後溶接し、少なくとも一方の端部を、小径化加工後スピニング加工にて直径を変化させたクラウン形状に成型し、アニール処理を行ったものであることを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項10】
前記加熱手段は少なくとも励磁コイルユニットと電源とを含み、
前記定着ローラは、常温では磁性を有するも所定温度以上では磁性が無くなる整磁材料からなり、塑性加工後にアニール処理が行われ、内外面の少なくとも一方の一部分に非磁性導電層をめっき処理にて形成することを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項11】
前記加熱手段は少なくとも励磁コイルユニットと電源とを含み、
前記定着ローラは、常温では磁性を有するも所定温度以上では磁性が無くなる整磁材料からなり、塑性加工後にアニール処理が行われ、内外面の少なくとも一方の一部分に厚さが15μm以上の非磁性導電層がめっき処理にて形成されたことを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項12】
前記加熱手段は少なくとも励磁コイルユニットと電源とを含み、
前記定着ローラは、常温では磁性を有するも所定温度以上では磁性が無くなる整磁材料からなり、塑性加工後にアニール処理が行われ、内外面の少なくとも一方の一部分に厚さが15μm以上の銅めっき処理が行われたことを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項13】
請求項1から請求項12のいずれか一項に記載の定着装置を備えたことを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【公開番号】特開2009−63863(P2009−63863A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−232346(P2007−232346)
【出願日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】