説明

定着装置及びそれを備えた画像形成装置

【課題】定着ローラの弾性層として連続気泡を備えた発泡体を適用可能とすると共に定着ローラからの弾性層の剥離を防止し、均一な定着処理のみならず耐久性にも優れた定着装置及びそれを備えた画像形成装置を提供する。
【解決手段】定着装置7は、定着ベルト60と、定着ベルト60に内接する加熱ローラ40及び定着ローラ50と、加圧ローラ70とを含む構成である。定着ローラ50の第1芯金51の表面には、連続気泡発泡体から形成された弾性層52が接着されており、弾性層52の幅方向両端面52aは、第1芯金51の表面に対してテーパ状に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱したローラ対のニップに、未定着トナー画像を担持した用紙を挿入して未定着トナーを加熱、溶融し、用紙に定着する定着装置、及びそれを備えた電子写真方式を用いる画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式を用いた従来の画像形成装置においては、ニップを形成する定着ローラ対の少なくとも一方のローラに熱源を内蔵させて加熱ローラとし、このローラ対のニップ部に未定着トナー画像を担持した用紙を挿通することによって用紙にトナーを定着する熱ローラ定着方式が広く用いられている。
【0003】
このような熱ローラ定着方式では、加熱ローラに内蔵されたハロゲンヒータなどの熱源からローラ表面までの熱伝達の効率が低く、熱の損失が大きい。また、ローラ表面まで熱が伝達するのに長い時間が必要である。その結果、加熱効率が悪いために消費電力が多く、ローラ表面が定着可能な温度に達するまでのウォームアップ時間が長くなるなどといった問題があった。
【0004】
これを改善するために、用紙を加熱するための加熱部材を、加熱ローラに代えて発熱源からの輻射光を吸収して発熱するベルト又はフィルム状とすることにより、従来の加熱ローラに比べ熱容量を小さくしてウォームアップ時間を短縮するとともに、消費電力を低減するベルト定着方式が開発されている。
【0005】
このようなベルト定着方式を用いたカラー画像形成装置では、例えば定着ベルトは、薄いニッケル製の芯材の表面側にシリコンゴム製の剥離層が積層されることにより形成され、これによって定着処理後の転写材を定着ベルトから良好に剥離するようになっている。また、定着ローラは、表層がスポンジ状の断熱材によって形成され、このスポンジ状の断熱材のニップ部における弾性変形により、断熱材のニップ部下流側直近が円弧状に形成されるようにし、これにより定着ベルトを膨出させて定着処理後の用紙を定着ベルトから剥離し易くしている。
【0006】
しかし、定着ローラの表層が、独立気泡によってスポンジ状に形成されている場合、定着ローラが定着ベルトを介して加熱されると、独立気泡が膨張して破泡することがある。かかる破泡が増加すると、定着ローラの表層の見かけの体積が減少すると共に定着ベルトの膨出が小さくなるため、ニップ部に影響を与え、用紙に対して均一かつ適正なニップが行われなくなる。その結果、定着ベルトから用紙への伝熱状態にバラツキが生じ、用紙に対し均一な定着処理を施すことが困難となり、画像不良等の不都合が生じるおそれがある。
【0007】
かかる不都合を解消する方法として、特許文献1には、円筒状芯材の外周に連続気泡を有するスポンジ状のシリコンゴムを同心で積層してなる定着処理用の加圧ローラが記載されている。特許文献1のスポンジ状シリコンゴムは、いずれも連続気泡を備えているため、定着処理中の加熱で加圧ローラが昇温することにより連続気泡中の空気が膨張しても外部に導出され、従って、気泡が破裂して加圧ローラが変形するような不都合は生じない。
【特許文献1】特開2004−70159号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1の方法のように、熱変形を起こさない優れた特性を有する連続気泡を備えたスポンジ状シリコンゴムを、加圧ローラにのみ適用していたのでは適用範囲が狭く、定着装置の設計上の自由度が小さくなる。また、特許文献1に示す連続気泡を備えたスポンジ状シリコンゴムは、独立気泡を備えたスポンジ状シリコンゴムよりも引っ張り強度が小さいため、定着ローラの起動及び停止の繰り返しにより、ローラ芯金からの剥離が発生し易くなる。
【0009】
特に、応力が強く発生する幅方向端部における芯金との接着面において剥離が発生し易くなる。このため、定着ローラのさらなる耐久性の向上を図ることが要求されていた。
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑み、定着ローラの弾性層として連続気泡を備えた発泡体を適用可能とすると共に定着ローラからの弾性層の剥離を防止し、均一な定着処理のみならず耐久性にも優れた定着装置及びそれを備えた画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、記録媒体の搬送速度と略等速で回動可能な無端状の定着ベルトと、該定着ベルトを加熱する加熱手段と、前記定着ベルトに内接する定着ローラと、該定着ローラに前記定着ベルトを介して所定の圧力で当接する加圧ローラと、を備え、前記定着ベルトと前記加圧ローラとにより形成された定着ニップ部に記録媒体を挿通させて記録媒体上に担持された未定着トナー像を定着する定着装置において、前記定着ローラは、金属製のローラ体と、該ローラ体表面に接着される弾性層と、を有しており、前記弾性層は、連続気泡が形成されて成る発泡体から形成され、且つ前記弾性層の幅方向両端面は、前記ローラ体表面に対してテーパ状に形成されていることを特徴としている。
【0012】
また本発明は、前記弾性層における前記ローラ体表面との接着面の幅方向長さは、前記ローラ体表面の幅方向長さよりも短く、且つ前記接着面は、前記ローラ体表面の幅方向両端部よりも内側に配置されることを特徴としている。
【0013】
また本発明は、前記発泡体は水発泡シリコンゴムであることを特徴としている。
【0014】
また本発明は、前記発泡体はマイクロバルーンシリコンゴムであることを特徴とている。
【0015】
また本発明は、前記定着装置を備えた画像形成装置である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の第1の構成によれば、定着ローラのローラ体表面に、連続気泡が形成されて成る発泡体から形成され、且つ幅方向両端面がローラ体表面に対してテーパ状に形成された弾性層を接着することにより、定着ローラの弾性層として連続気泡を備えた発泡体を適用し定着ニップ部を均一に加圧することが可能になると共に、定着ローラからの弾性層の剥離を防止することができるため、均一な定着処理を可能にすると共に耐久性の向上をも図ることができる。
【0017】
本発明の第2の構成によれば、上記第1の構成の定着装置において、弾性層におけるローラ体表面との接着面の幅方向長さを該表面の幅方向長さよりも短く、且つ接着面を、ローラ体表面の幅方向両端部よりも内側に配置することにより、弾性層の剥離をより効果的に防止することができ、耐久性をより向上させることができる。
【0018】
本発明の第3の構成によれば、上記第1または第2の構成の定着装置において、発泡体を水発泡シリコンゴムとすることにより、より効果的に破泡を防止し、定着ニップ部をより均一に加圧することができる。
【0019】
本発明の第4の構成によれば、上記第1または第2の構成の定着装置において、発泡体をマイクロバルーンシリコンゴムとすることにより、より効果的に破泡を防止し、定着ニップ部をより均一に加圧することができる。
【0020】
本発明の第5の構成によれば、上記第1〜第4の構成の定着装置において、上記定着装置を備えた画像形成装置とすることにより、定着ニップ部の加圧不良による画像不良の発生が防止された画像形成を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に本発明の実施形態を図面を参照して説明する。図1は、本発明の定着装置を備えた画像形成装置の概略断面図を示す。100は画像形成装置であり、ここでは一例としてデジタル複合機を示している。画像形成装置100では、コピー動作を行う場合、複合機本体内の搬送ベルト8の上方に配置された画像形成部Pにおいて、帯電、露光、現像及び転写の各工程により画像読取部5で読み取られた原稿画像データに基づく所定の画像を形成する。
【0022】
この画像形成部Pには、可視像(トナー像)を担持する感光体ドラム1が配設されており、感光体ドラム1上に形成されたトナー像が、画像形成部に隣接して移動する搬送ベルト8によって担持・搬送されるシート(記録媒体)6上に転写され、さらに、定着装置7においてシート6上に定着された後、装置本体より排出される構成となっている。感光体ドラム1を図1において時計回りに回転させながら、感光体ドラム1に対する画像形成プロセスが実行される。
【0023】
次に、画像形成部Pについて詳細に説明する。回転自在に配設された感光体ドラム1の周囲及び上方には、感光体ドラム1を帯電させる帯電器2と、感光体ドラム1に画像情報を露光する露光ユニット3と、感光体ドラム1上にトナー像を形成する現像装置4と、感光体ドラム1上に残留した現像剤(トナー)を除去するクリーニング部9が設けられている。
【0024】
先ず、帯電器2によって感光体ドラム1の表面を一様に帯電させ、次いで露光ユニット3によって光照射し、感光体ドラム1上に画像信号に応じた静電潜像を形成する。現像装置4には、トナーがトナーコンテナ10によって所定量充填されている。このトナーは、現像装置4により感光体ドラム1上に供給され、静電的に付着することにより、露光ユニット3からの露光により形成された静電潜像に応じたトナー像が形成される。
【0025】
トナー像が転写されるシート6は、用紙を収納する複数の給紙カセット11a、11b、11cと、その上方に設けられるスタックバイパス(手差しトレイ)11dから成るシート収容部11に収容されており、給紙ローラ12、レジストローラ13を介して搬送ベルト8上へ供給され、感光体ドラム1の位置へと搬送される。搬送ベルト8には誘電体樹脂製のシートが用いられ、その両端部を互いに重ね合わせて接合しエンドレス形状にしたベルトや、継ぎ目を有しない(シームレス)ベルトが用いられる。
【0026】
搬送ベルト8は、下流側の駆動ローラ14と、上流側の従動ローラ15とに掛け渡されており、搬送ベルト8が図中反時計回りに回転を開始すると、シート6がレジストローラ13から搬送ベルト8上へ搬送される。このとき画像書き出し信号がONとなり、所定のタイミングにより感光体ドラム1上に画像形成を行う。そして、感光体ドラム1と、感光体ドラム1の下部において所定の転写電圧が印加された転写ローラ16との定着ニップ部で、感光体ドラム1上のトナー像がシート6上に転写される。このシート6は、搬送ベルト8上に静電吸着力で保持されている。
【0027】
トナー像が転写されたシート6は、搬送ベルト8から離脱し、定着装置7へと搬送される。また、トナー像が転写された後の感光体ドラム1は、引き続き行われる新たな静電潜像の形成に備え、その表面に残留したトナーがクリーニング部9により除去される。搬送ベルト8から定着装置7に搬送されたシート6は、加熱及び加圧されてトナー像がシート6の表面に定着され、所定の画像が形成される。画像が形成されたシート6は、その後搬送ローラ対18、19を通過し、排出ローラ20より排出トレイ21上に排出される。
【0028】
図2は、本発明の第1実施形態に係る定着装置を示す側面断面図である。図1と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。図2に示すように、定着装置7は、図中時計回りに回動する無端状の定着ベルト60と、定着ベルト60に内接して定着ベルト60と同方向に回転する加熱ローラ40及び定着ローラ50と、図中反時計回りに回転する加圧ローラ70とを含む構成である。
【0029】
加圧ローラ70は定着ベルト60を介して定着ローラ50に当接しており、定着ベルト60と加圧ローラ70との間には、画像形成部Pから搬送された用紙Pを下流側に挿通させる定着ニップ部Nが形成されている。また、定着ローラ50の下流側には、用紙Pを定着ベルト60から剥がすための分離板75が設けられている。また、加圧ローラ70の表面に接するようにサーミスタ76が、定着ベルト60の表面に接するようにサーミスタ(図示せず)が設けられており、これらのサーミスタの検知結果に基づき、後述する第1及び第2ハロゲンヒータ43、73のON/OFFを制御することによって定着温度の制御を行う。
【0030】
加熱ローラ(加熱手段)40は、定着ベルト60を介して定着ニップ部Nを通過する用紙Pへ熱を供給するためのものであり、円筒状を呈した薄肉(例えば0.5〜1.0mm)の加熱ローラ本体41と、この加熱ローラ本体41の周面に積層された第1コーティング層42と、加熱ローラ本体41に内装され、加熱ローラ本体41と略同一長を有する熱源としての第1ハロゲンヒータ43とを備えている。
【0031】
加熱ローラ本体41は、薄肉に形成されているため、第1ハロゲンヒータ43に通電されると速やかに昇温し、これによって運転初期に画像形成装置100(図1参照)が迅速に立ち上がるようになっている。本実施形態においては、第1ハロゲンヒータ43として1000Wのものを採用した。加熱ローラ本体41は、良好な熱伝導を有し、長手方向の温度分布が略均一になるようにAl(アルミニウム)やFe(鉄)等の金属材料によって形成されている。
【0032】
第1コーティング層42は、定着ベルト60との摺接で加熱ローラ40の周面が損傷することを防止するためのものである。かかる第1コーティング層42としてPFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)やPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等を用いることができる。
【0033】
定着ローラ50は、定着ニップ部Nへ搬送されてきた、トナーTが付与されている用紙Pに対し定着ベルト60および加圧ローラ70と協動して該トナーTを用紙Pに定着させるものであり、図示しない駆動モータの駆動により定着ローラ50が駆動回転することで定着ベルト60を周回可能に支持している。
【0034】
定着ローラ50は、表面にメッキ処理が施されたAlやFe等の金属材料からなる筒状または中実状の第1芯金(ローラ体)51(図2では第1芯金51が中実品によって形成されている。)と、この第1芯金51の周面に同心で形成された発泡筒体から成る弾性層52と、を備えている。また、第1芯金51は上記駆動モータに連結された回転軸51aを有している。本実施形態においては、弾性層52の材料として多数の連続気泡が形成された水発泡シリコンゴム(発泡体)が採用されている。
【0035】
水発泡シリコンゴムは、液状シリコンゴムベースポリマーに水と所定の添加剤と触媒とを混入し、加熱することによる水の蒸発で連続気泡を形成させることによって製造される。具体的には、例えば特許文献1に示されるように、液状シリコーンベースポリマーの100重量部に対して、吸水性ポリマーの0.1〜20重量部、水の10〜200重量部、及び例えば白金化合物等からなる硬化触媒の若干量が混合されてなる第1の組成物を調製する。
【0036】
同時に液状シリコーンベースポリマーの100重量部、吸水性ポリマーの0.1〜20重量部、水の10〜200重量部、及び架橋剤としてのSiHポリマーが混合されてなる第2の組成物を調製する。そして、これら第1及び第2の組成物の等量ずつを十分に攪拌して脱泡させることによって配合物を得る。
【0037】
このようにして得られた配合物を所定の型に装填し、まず、シリコーンベースポリマーが実質的に硬化せず、かつ、水分が蒸発しない100℃以下、好ましくは50〜80℃の温度条件で10〜30時間加熱し所定の形状に成型する。次いで、この成形物を120〜250℃、好ましくは120〜180℃で1〜5時間加熱して含まれている水を蒸発させる。
【0038】
かかる水分の蒸発時に、独立した各気泡が互いに連通し、かつ、外部に向けて開口した連続気泡が形成されてなる発泡体が得られる。そして、最後にこの発泡体を180〜300℃、好ましくは200〜250℃で2〜8時間加熱して硬化させることにより、水発泡シリコンゴムが形成される。
【0039】
上記液状シリコンゴムベースポリマーは、例えば、GE東芝シリコーン株式会社製の商品名「XE15−B7503A」及び「XE15−B7503B」、並びに東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製の商品面「DY39−1119A」及び「DY39−1119B」として市場で流通しており、容易に入手することができる。
【0040】
また、上記吸水性ポリマーとしては、例えばアクリル酸あるいはメタアクリル酸のアルカリ金属塩の重合体、ポリアルキレングリコール、特にポリエチレングリコール類をグラフトしたアクリル酸若しくはメタアクリル酸の重合体、ポリアルキレングリコール、特にポリエチレングリコール類をブレンド若しくは共重合したポリエステルやポリアミド、N−ビニールカルボン酸アミド系の架橋重合体などを挙げることができる。
【0041】
また、液状シリコーンベースポリマーに吸水性ポリマー、水、および硬化触媒を添加して得られた上記第1の組成物としては、例えば、GE東芝シリコーン株式会社製の「XE15−B8400A」を挙げることができ、液状シリコーンベースポリマーに吸水性ポリマー、水、および架橋剤を添加して得られた上記第2の組成物として、例えば、GE東芝シリコーン株式会社製の「XE15−B8400B」を挙げることができ、これら第1および第2の組成物は市場で流通しているため、これらを入手して利用すれば水発泡シリコンゴムを容易に、かつ、効率的に製造することができる。
【0042】
そして、このような多数の連続気泡が形成された水発泡シリコンゴムが、本発明に係る定着装置7に用いられる定着ローラ50に、その構成要素である弾性層52として採用されている。
【0043】
定着ベルト60は、第1ハロゲンヒータ43によって加熱された加熱ローラ40の周面に掛け回され、その周面からの伝熱によって加熱される。かかる定着ベルト60は、この伝熱加熱により得られた熱を用紙P上のトナーTに供給してこれを溶融させ、トナーTに定着処理を施すものであり、加熱ローラ40及び定着ローラ50間に張設され、上記駆動モータの駆動による定着ローラ50の軸心回りの回転により加熱ローラ40および定着ローラ50間を周回するようになっている。
【0044】
このような定着ベルト60は、例えば、薄く展伸されたNi(ニッケル)あるいは耐熱性のポリイミド樹脂等からなる芯ベルト(図示せず)と、この芯ベルトの表面側に積層された第1シリコンゴム層(図示せず)と、この第1シリコンゴム層にさらに積層された第2コーティング層(図示せず)と、から構成することができる。
【0045】
ここでは、芯ベルトは、例えば、Ni製の場合、厚み寸法を30μmに設定することができる一方、ポリイミド樹脂製の場合、厚み寸法を90μmに設定することができる。また、第1シリコンゴム層の厚み寸法は、200〜300μmに設定することができる。しかし、芯ベルトの厚み寸法は、かかる数値に限定されるものではなく、装置構成等状況に応じて適宜最適の厚み寸法を設定することができる。
【0046】
第2コーティング層は、例えばPFAやPTFEなどのフッ素樹脂が第1シリコンゴム層の表面にコーティング処理される、あるいは第1シリコンゴム層にこれらのフッ素樹脂からなるチューブが被せられることによって形成されている。定着ベルト60は、かかる第2コーティング層の存在により剥離性が良好になり、定着処理済みの用紙Pが剥がれやすくなる。
【0047】
加圧ローラ70は、周面が定着ベルト60に圧接した状態で定着ローラ50に対向配置され、定着ベルト60との間に、定着ローラ50の水発泡シリコンゴムからなる弾性体52が弾性変形することによる弾性力によって用紙Pを押圧挟持する定着ニップ部Nを形成している。かかる定着ニップ部Nにより、用紙Pに付与されたトナーTに定着処理を施すことができる。
【0048】
かかる加圧ローラ70は、AlやFe等のメッキを施してなるパイプ状の第2芯金71と、この第2芯金71に外嵌されたソリッドの(すなわち、発泡体ではない)シリコンゴム等からなる弾性筒体72と、第2芯金71内に設けられた第2ハロゲンヒータ73と、を備えている。また、弾性筒体72の外周面には、積層されたPFAやPTFEなどのフッ素樹脂から成る第3コーティング層(図示せず)が設けられている。なお、かかる第3コーティング層については、弾性筒体72にフッ素樹脂製のチューブを被せることにより形成することもできる。
【0049】
パイプ状の第2芯金71内には、加熱ローラ40の場合と同様に第2ハロゲンヒータ73が設けられている。この第2ハロゲンヒータ73により、定着ニップ部Nに位置した用紙Pは、その裏面側が補助的に加熱処理され、これにより効率的な定着処理を実現することができる。本実施形態においては、加圧ローラ70に採用される第2ハロゲンヒータ73は、加熱ローラ40に採用される第1ハロゲンヒータ43よりもワット数が小さい600Wのものが採用されている。また、加圧ローラ70は、図示しないバネ等により上向きに付勢されている。
【0050】
そして、定着ニップ部Nにおける用紙Pの搬送方向において用紙P上のトナーに対し必要かつ十分な定着処理を施すことができる有効ニップ長を確保するための弾性筒体72が第2芯金71上に形成されている。この弾性筒体72の有効ニップ長は、用紙Pの搬送速度(すなわち定着ベルト60の周回速度)と、定着ベルト60の温度と、トナーTの用紙Pに対する定着状態との間の関係を、種々の確認試験を実施することにより導き出し、この導出された関係から弾性筒体72の有効ニップ長を設定することができる。
【0051】
そして、導き出された有効ニップ長が確保されるように、加熱ローラ40、定着ローラ50および加圧ローラ70の相対的な位置関係及び定着ベルト60の長さを設定することができる。一旦、弾性筒体72の有効ニップ長が設定されると、定着ローラ50の弾性層52は、多数の連続気泡を有する水発泡シリコンゴムで形成されているため、たとえ定着ローラ50が加熱され、これによって気泡中の空気が膨張しても、気泡が連続気泡であることから膨張した空気は弾性層52から外部に排出される。
【0052】
従って、気泡内で膨張した空気によって弾性層52が膨張変形したり、膨張した空気により気泡が破壊したりしても弾性層52が圧縮変形することがなく、弾性層52は、常に略同一形状が確保されるため、弾性層52の変形により有効ニップ長が確保し得なくなるような不都合が生じないようになっている。
【0053】
ここで、装置の作動時には、上記のように定着ニップ部Nを形成するため、弾性層52は加圧ローラ70に押圧され、幅方向両外側に向かって変形する。一方、作動停止時には定着ニップ部Nが解除されるため、弾性層52は加圧ローラ70からの押圧が解除されもとの形状に戻ろうとする。しかし、弾性層52に用いられる連続気泡を有する発泡体(連続気泡発泡体)は、独立気泡が形成された発泡体(独立気泡発泡体)よりも引っ張り強度が小さいため、装置の作動及び作動停止の繰り返しにより負荷がかかると、弾性層52が第1芯金51から剥離するおそれがある。特に、応力が強く発生する幅方向両端部においてかかる剥離が発生し易い。
【0054】
そこで、弾性層52の両端面52aを第1芯金51に対してテーパ状に形成することとした。図3は、本実施形態に係る定着装置に用いられる定着ローラの側面断面図であり、図4は、本実施形態の定着ローラにおける図3の右側端部周辺を示す部分側面断面図である。なお、定着ローラ50の構成は、図3の左右側両端部において全く同様の構成であるため、図4では右側端部周辺のみを示した。
【0055】
図3に示すように、弾性層52における第1芯金51との接着面Sの幅方向(図の左右方向)長さは、第1芯金51表面の幅方向長さと略同一となるよう設定されており、接着面Sの両端部が第1芯金51の両端部51bと一致するように接着されている。そして、弾性層52の幅方向(左右方向)両端面52aは、第1芯金51に対してテーパ状に形成されている。かかる構成により、定着ローラ50が加圧ローラ70から押圧されても、弾性層52の両端部における軸方向外側への応力を緩和し、接着面Sの両端部において第1芯金52からの剥離が発生することを防止することができる。
【0056】
上記構成により、定着ローラ50に連続気泡を備えた発泡体を弾性層52として適用して定着ニップ部Nを均一に加圧することが可能になる。また、定着ローラ50からの弾性層の剥離を防止することができるため、均一な定着処理を可能にすると共に耐久性の向上をも図ることができる。
【0057】
図5は、本発明の第2実施形態に係る定着装置に用いられる定着ローラを示す部分側面断面図であり、図6は、本実施形態の定着ローラにおける図5の右側端部周辺を示す部分側面断面図である。なお、定着ローラ50の構成は、図5の左右側両端部において全く同様の構成であるため、図6では右側端部周辺のみを示した。
【0058】
本実施形態では、図5に示すように、弾性層52の接着面Sの幅方向(左右方向)長さを第1芯金51の幅方向長さよりも短くし、図6に示すように、弾性層52を、接着面Sの幅方向両端部が第1芯金51の両端部51bよりも所定間隔Lだけ内側に配置されるよう接着した。それ以外は第1実施形態と全く同様であるため、説明を省略する。
【0059】
本実施形態により、弾性層52の接着面Sと第1芯金51の両端部51bとの間に間隔Lの隙間があるため、加圧ローラ70に押圧されても、弾性層52の接着面Sが第1芯金51の両端部51bよりも外側に突出することを防止することができる。これにより、弾性層52の剥離をより効果的に防止することができ、耐久性をより向上させることができる。なお、間隔Lは、例えば1mmとすることができるが、かかる間隔Lは特に限定されるものではなく、弾性層52の材質、幅方向における定着ニップ部Nの領域や、第1芯金51との接着性、その他装置構成等に応じて適宜設定することができる。
【0060】
また、上記実施形態では、定着ローラ50の弾性層52を構成する連続気泡発泡体の材料として水発泡シリコンゴムが採用されているが、かかる発泡体は水発泡シリコンゴムに特に限定されるものではなく、その他例えば、発泡体としてシリコンゴムを製造する原料中に混入された合成樹脂製の微小中空体(マイクロカプセル)に対し破泡処理を施すことにより連続気泡を形成させて構成される、いわゆるマイクロバルーンシリコンゴムを採用することもできる。
【0061】
マイクロカプセルは、直径が5〜30μmの熱可塑性合成樹脂から成る外殻中に揮発性の溶剤を内包させたものである。かかる熱可塑性合成樹脂としては、エチレン、スチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、ブタジエン、クロロプレン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート等を挙げることができる。また、揮発性の溶剤としては、ブタン、イソブタン等の炭化水素を挙げることができる。
【0062】
マイクロカプセルの市販品としては、例えば市販品として、エクスパンセル社製の商品名「WU#642」や松本樹脂製薬社製の商品名「マツモトマイクロスフェア−F−30D」等を挙げることができ、これらは市場で流通しているため、容易に入手することができる。
【0063】
かかるマイクロカプセルを、例えば液状シリコンゴムベースポリマーに混入し、所定の処理を施しつつ最高でも300℃前後で加熱処理することによってマイクロカプセル中の揮発性物質が揮発して外殻を破り、外部に漏れ出ることで連続気泡が形成されたマクロバルーンシリコンゴムを製造することができる。
【0064】
その他本発明は、上記実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば上記実施形態では、加圧ローラ70に第2ハロゲンヒータ73を設けたが、加熱ローラ40によって必要かつ十分な熱量が確保されるのであれば、特に加圧ローラ70に第2ハロゲンヒータ73を設けなくてもよい。また、加熱ローラ40の加熱方法も特に限定されるものではなく、その他、例えば誘導加熱コイル等を用いて加熱することもできる。また、上記実施形態では、定着ローラ50を駆動モータにより回転させたが、加熱ローラ40を回転させることもできる。
【0065】
また、弾性層52における両端面52aの第1芯金51の表面に対する傾斜角度は、弾性層52の剥離を防止可能であれば特に限定されるものではなく、例えば直角に近づけることもできる。また、本発明の定着装置は、デジタル複写機、タンデム式のカラー複写機やアナログ方式のモノクロ複写機等、種々のタイプの複写機、或いはファクシミリやレーザプリンタ等の電子写真プロセスを用いた画像形成装置に適用できる。
【0066】
以下、本発明について実施例によりさらに具体的に説明する。
【実施例】
【0067】
図1に示すような定着装置7を搭載した画像形成装置100を用い、定着ローラ50の弾性層52の剥離状態を調べた。
【0068】
加熱ローラ40として肉厚0.7mmのAl製の加熱ローラ本体41にPFAの第1コーティング層42を施し、φ22mmとしたものを用い、第1ハロゲンヒータ43として1000Wのものを用いた。また、定着ベルト60として、Niにシリコンゴム層をコーティングし、φ55mmとしたものを用いた。
【0069】
また、定着ローラ50の弾性層52として液状シリコンゴム、独立気泡発泡体から形成されたシリコンスポンジ、連続気泡発泡体から形成された水発泡性シリコンゴム及びマイクロバルーンシリコンゴムを用いることとした。そして、定着ローラ50として、Al製の第1芯金51に、これらを肉厚6mmの弾性層52となるよう接着し、φ32mmとしたものを用いた。
【0070】
また、加圧ローラ70として、Al製の第2芯金71の表面に肉厚3.5mmのシリコンゴムから成る弾性筒体72を接着し、φ35mmとしたものを用い、第2ハロゲンヒータ73として600Wのものを用いた。
【0071】
実験に先立ち、弾性層52に用いられる材質の引っ張り強度を調べたところ、液状シリコンゴムは1〜3Mpa、独立気泡シリコンスポンジは0.5〜0.8MPaであった。これに対し、連続気泡発泡体から成る水発泡性シリコンゴム及びマイクロバルーンシリコンゴムの引っ張り強度は、いずれも0.4MPaであった。この結果、連続気泡発泡体の方が、独立気泡発泡体よりも引っ張り強度が小さいことがわかる。
【0072】
そして、液状シリコンゴム及び独立気泡シリコンスポンジを用い、弾性層52の両端面52aを第1芯金51表面に対して直角となるよう形成すると共に、第1芯金51との接着面Sを第1芯金51の両端部51bと同じ長さとなるよう形成した。かかる弾性層52を、接着面Sの幅方向両端部が第1芯金51の両端部51bと一致するように接着して、比較例の定着装置とした。かかる構成で画像形成を行ったところ、いずれの発泡体においても10万枚印字したところで弾性層52の接着面Sの両端部において剥離が認められた。
【0073】
一方、水発泡シリコンゴム及びマイクロバルーンシリコンゴムを用い、上述の第2実施形態に示すように(図5及び図6参照)、弾性層52の接着面Sの軸方向長さを第1芯金51よりも2mm短く形成すると共に両端面52aをテーパ状に形成し、さらに接着面Sが第1芯金51の両端部51bよりも1mm(L=1mm)ずつ内側に配置されるよう接着し、実施例の定着装置とした。かかる構成で画像形成を行ったところ、いずれの発泡体においても30万枚印字しても弾性層52の接着面Sには剥離が認められなかった。
【0074】
この結果、引っ張り強度が小さい連続気泡発泡体から形成された水発泡シリコンゴム及びマイクロバルーンシリコンゴムを定着ローラ50の弾性層52として用いても、第1芯金51からの剥離を防止することができ、優れた耐久性が得られることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、記録媒体の搬送速度と略等速で回動可能な無端状の定着ベルトと、該定着ベルトを加熱する加熱手段と、前記定着ベルトに内接する定着ローラと、該定着ローラに前記定着ベルトを介して所定の圧力で当接する加圧ローラと、を備え、前記定着ベルトと前記加圧ローラとにより形成された定着ニップ部に記録媒体を挿通させて記録媒体上に担持された未定着トナー像を定着する定着装置において、前記定着ローラは、金属製のローラ体と、該ローラ体表面に接着される弾性層と、を有しており、前記弾性層は、連続気泡が形成されて成る発泡体から形成され、且つ前記弾性層の幅方向両端面は、前記ローラ体表面に対してテーパ状に形成されているものである。
【0076】
これにより、定着ローラの弾性層として連続気泡を備えた発泡体を適用し定着ニップ部を均一に加圧することが可能になると共に、定着ローラからの弾性層の剥離を防止することができるため、均一な定着処理を可能にすると共に耐久性の向上をも図ることができる。
【0077】
また、弾性層におけるローラ体表面との接着面の幅方向長さを該表面の幅方向長さよりも短く、且つ接着面を、ローラ体表面の幅方向両端部よりも内側に配置することにより、弾性層の剥離をより効果的に防止することができ、耐久性をより向上させることができる。
【0078】
また、発泡体を水発泡シリコンゴム若しくはマイクロバルーンシリコンゴムとすることにより、より効果的に破泡を防止し、定着ニップ部をより均一な加圧することができる。また、上記定着装置を備えた画像形成装置とすることにより、定着ニップ部の加圧不良による画像不良の発生を防止すると共に耐久性にも優れた画像形成を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】は、本発明の定着装置を備えた画像形成装置の概略断面図である。
【図2】は、本発明の第1実施形態に係る定着装置を示す側面断面図である。
【図3】は、第1実施形態の定着装置に用いられる定着ローラの側面断面図である。
【図4】は、第1実施形態の定着装置に用いられる定着ローラにおける図3の右側端部周辺を示す部分側面断面図である。
【図5】は、本発明の第2実施形態に係る定着装置に用いられる定着ローラの側面断面図である。
【図6】は、第2実施形態の定着装置に用いられる定着ローラにおける図5の右側端部周辺を示す部分側面断面図である。
【符号の説明】
【0080】
6 シート(記録媒体)
7 定着装置
40 加熱ローラ(加熱手段)
41 加熱ローラ本体
42 第1コーティング層
43 第1ハロゲンヒータ
50 定着ローラ
51 第1芯金(ローラ体)
52 弾性層
52a 端面
60 定着ベルト
70 加圧ローラ
71 第2芯金
72 弾性筒体
73 第2ハロゲンヒータ
100 画像形成装置
N 定着ニップ部
P 用紙
S 接着面
T 未定着トナー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体の搬送速度と略等速で回動可能な無端状の定着ベルトと、
該定着ベルトを加熱する加熱手段と、
前記定着ベルトに内接する定着ローラと、
該定着ローラに前記定着ベルトを介して所定の圧力で当接する加圧ローラと、を備え、
前記定着ベルトと前記加圧ローラとにより形成された定着ニップ部に記録媒体を挿通させて記録媒体上に担持された未定着トナー像を定着する定着装置において、
前記定着ローラは、金属製のローラ体と、該ローラ体表面に接着される弾性層と、を有しており、
前記弾性層は、連続気泡が形成されて成る発泡体から形成され、且つ
前記弾性層の幅方向両端面は、前記ローラ体表面に対してテーパ状に形成されていることを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記弾性層における前記ローラ体表面との接着面の幅方向長さは、前記ローラ体表面の幅方向長さよりも短く、且つ前記接着面は、前記ローラ体表面の幅方向両端部よりも内側に配置されることを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記発泡体は、水発泡シリコンゴムであることを特徴とする請求項1または2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記発泡体は、マイクロバルーンシリコンゴムであることを特徴とする請求項1または2に記載の定着装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の定着装置を備えた画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−276578(P2009−276578A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−127874(P2008−127874)
【出願日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(000006150)京セラミタ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】