説明

定着装置

【課題】定着ローラ表面に付着した異物の加熱回転部材への転移を低減できるようにする。
【解決手段】加熱回転部材120と、弾性ゴム層116を有する定着ローラ110であり前記加熱回転部材と接触して加熱ニップ部N2を形成する定着ローラと、前記定着ローラと接触して定着ニップ部N1を形成するバックアップ部材111と、を有し、前記加熱回転部材は前記加熱ニップ部で前記定着ローラの表面を加熱し、前記定着ニップ部でトナー像を担持する記録材Pを挟持搬送しつつ前記定着ローラ表面でトナー像tを記録材上に加熱定着する定着装置において、前記定着ローラ表面のマイクロ硬度をHμとすると、Hμ<50を満たすことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真複写機や電子写真プリンタ等の画像形成装置に搭載する定着装置(定着器)に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真式の複写機やプリンタ等に搭載する定着装置として、外部加熱方式の定着装置が知られている。この外部加熱方式の定着装置は、ヒータ等の加熱体と、この加熱体により加熱される定着ローラと、この定着ローラと共にニップ部を形成する加圧ローラと、を有している。未定着のトナー画像を担持する記録材はトナー像担持面を定着ローラ側に向けニップ部で挟持搬送されつつ加熱され、これにより記録材上のトナー像は記録材に加熱定着される。この外部加熱方式の定着装置としては、加熱体を定着ローラの外周面(表面)に接触させる接触式と、加熱体を定着ローラ表面に接触させずに定着ローラ表面を加熱する非接触式と、に大別される。接触式の外部加熱方式の定着装置は、セラミックヒータなどの加熱源を定着ローラ表面に接触させ熱を伝えるため、非接触式の外部加熱方式の定着装置に比べ熱の伝搬効率が高い。接触式の外部加熱方式の定着装置には、定着ローラ表面に加熱体を摺動させる摺動接触式の定着装置と、加熱体と接触しつつ回転する筒状の回転部材(以下、加熱回転部材と記す)を介して定着ローラに加熱体の熱を伝える回転接触式の定着装置と、に分けられる。回転接触式の定着装置は、定着ローラの回転に伴い加熱回転部材も回転するため、摺動接触式の定着装置に比べ定着ローラ表面を傷めにくく、また摩擦力が小さいため駆動トルクを抑えることができるという利点がある。特許文献1にはこのタイプの定着装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−186327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の回転接触式の定着装置では、定着ローラ表面が紙等の記録材上のトナー像と接触するため、微量の紙粉やトナーなどの異物が定着ローラ表面に付着するが、この定着ローラ表面に付着した異物を加熱回転部材に転移させないようにすることが望まれている。本発明の目的は、定着ローラ表面に付着した異物の加熱回転部材への転移を低減できるようにした定着装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するための本発明に係る定着装置の構成は、加熱回転部材と、弾性ゴム層を有する定着ローラであり前記加熱回転部材と接触して加熱ニップ部を形成する定着ローラと、前記定着ローラと接触して定着ニップ部を形成するバックアップ部材と、を有し、前記加熱回転部材は前記加熱ニップ部で前記定着ローラの表面を加熱し、前記定着ニップ部でトナー像を担持する記録材を挟持搬送しつつ前記定着ローラ表面でトナー像を記録材上に加熱定着する定着装置において、前記定着ローラ表面のマイクロ硬度をHμとすると、Hμ<50を満たすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、定着ローラ表面に付着した異物の加熱回転部材表面への転移を低減できるようにした定着装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】(a)は実施例1に係る定着装置の構成を表わす横断面模式図、(b)は(a)に示す定着装置の加熱ニップ部及びその近傍の横断面拡大図である。
【図2】(a)は定着ローラ表面のマイクロ硬度が低い場合の加熱フィルム表面への異物の転移を低減できるメカニズムの説明図、(b)は定着ローラ表面のマイクロ硬度が高い場合に加熱フィルム表面に異物が転移するメカニズムの説明図である。
【図3】(a)と(b)は定着ローラ表面のマイクロ硬度と定着ローラ表面の異物の包み込み性との関係を調査する方法の説明図である。(c)は定着ローラの離型層の厚み違いによる定着ローラ表面のマイクロ硬度と、定着ローラ表面のガラスビーズの密着性(包み込み性)の関係を調査した結果を表わす図である。
【図4】(a)は実施例2に係る定着装置における定着ローラの層構成を表わす横断面模式図である。(b)は実施例5に係る定着装置の構成を表わす横断面模式図、(c)は実施例6に係る定着装置の構成を表わす横断面模式図である。
【図5】画像形成装置の一例の構成を表わす横断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[実施例1]画像形成装置全体の構成:図5は本発明に係る定着装置を搭載する画像形成装置の一例の構成を表わす横断面模式図である。この画像形成装置は電子写真式のフルカラーレーザープリンタである。本実施例1に示す画像形成装置50は、イエローY、マゼンタM、シアンC、ブラックKの各色のトナー像を形成する第1から第4の4つの画像形成ステーション(画像形成部)SY,SM,SM,SKを有している。画像形成ステーションSY,SM,SM,SKは、それぞれ、像担持体としてのドラム型の電子写真感光体(以下、感光ドラムと記す)1を有している。そしてこの感光ドラム1の回転方向に沿って順に、帯電手段としての帯電器2と、露光手段としての露光装置3と、現像手段としての現像器5と、クリーニング手段としてのドラムクリーナー8がそれぞれ配置されている。また画像形成ステーションSY,SM,SM,SKの感光ドラム1の外周面(表面)と対向するように記録材搬送手段としてのエンドレスの記録材搬送ベルト9が設けられている。この記録材搬送ベルト9は、駆動ローラ12とテンションローラ13の2軸に巻きかけられている。またこの記録材搬送ベルト9は、記録材Pを静電気を利用して保持できるように誘電体樹脂材料によって形成されている。そしてこの記録材搬送ベルト9を挟んで画像形成ステーションSY,SM,SM,SKの感光ドラム1と対向させて転写手段としての転写ローラ10を配設することによって、感光ドラム1と記録材搬送ベルト9との間に転写部を形成している。本実施例1の画像形成装置50は、ホストコンピュータ等の外部装置(不図示)から出力されるプリント信号に応じて所定の画像形成シーケンスを実行し、この画像形成シーケンスに従って画像形成動作を行なう。各感光ドラム1が矢印方向へ所定の周速度(プロセススピード)で回転される。また記録材搬送ベルト9が駆動ローラ12の回転駆動により矢印方向へ感光ドラム1の回転周速度に対応した周速度で周回移動される。まず1色目のイエローの画像形成ステーションSYにおいて、感光ドラム1表面を帯電器2によって所定の極性・電位に一様に帯電する。本実施例1では感光ドラム1表面は負極性に帯電される。次に露光装置3が外部装置からの画像情報に応じたレーザー光Lを感光ドラム1表面の帯電面に走査露光する。これにより、感光ドラム1表面の帯電面に画像情報に応じた静電潜像が形成される。そしてこの静電潜像が現像器5によりイエローのトナー(現像剤)によって現像され、感光ドラム1表面にイエローのトナー像(現像像)が形成される。同様の、帯電、露光、現像の各工程が2色目のマゼンタの画像形成ステーションSM、3色目のシアンの画像形成ステーションSC、4色目のブラックの画像形成ステーションSKにおいても行なわれる。これにより画像形成ステーションSY,SM,SM,SKの各感光ドラム1表面に各色のトナー像(現像像)が形成される。一方、給送カセット7内に積載収容されている記録紙などの記録材Pは給送ローラ4により送り出される。その記録材Pは、正極性のバイアスが印加された吸着ローラ6によって帯電され、記録材搬送ベルト9の外周面(表面)上に静電吸着して記録材搬送ベルト9により保持される。そしてこの記録材Pは、記録材搬送ベルト9の周回移動によって記録材搬送ベルト9の回転方向上流側の転写部から回転方向下流側の転写部まで搬送される。各画像形成ステーションSY,SM,SC,SKの転写ローラ10には記録材Pの搬送過程においてトナー像と逆極性の転写バイアスが印加される。各転写ローラ10はその転写バイアスにより対応する感光体ドラム1表面のトナー像を記録材P上に順番に重ねて転写する。これによって記録材Pは記録材P上にフルカラーの未定着のトナー像を担持する。このトナー像を担持する記録材Pは記録材搬送ベルト9により加熱定着装置(定着器)100に搬送される。そしてこの記録材Pは定着装置100の後述する定着ニップ部N1を通過することによって記録材P上にトナー像が加熱定着される。定着装置100を出た記録材Pは排出ローラ11によって排出トレー14上に排出される。トナー像転写後の感光体ドラム1表面に残留している転写残トナーはドラムクリーナー8によって除去され回収される。
【0009】
定着装置の構成:以下の説明において、定着装置及びこの定着装置を構成する部材に関し、長手方向とは記録材の面において記録材搬送方向と直交する方向である。短手方向とは記録材の面において記録材搬送方向と平行な方向である。長さとは長手方向の寸法である。幅とは短手方向の寸法である。図1の(a)は本実施例1に係る定着装置の構成を表わす横断面模式図である。図1の(b)は図1の(a)に示す定着装置の加熱ニップ部及びその近傍の横断面拡大図である。この定着装置は、外部加熱方式の定着装置であり、特にヒータと接触しつつ回転する加熱フィルムを定着ローラ表面に接触させる回転接触式の定着装置である。この回転接触式の定着装置は、ヒータへの通電を開始し定着可能温度(定着温度)まで昇温するのに要する時間が短い(立ち上げ時間の短縮)というメリットがある。また定着ローラの外周面のみを加熱するので消費電力が少ない(低消費電力化)というメリットもある。本実施例1に示す定着装置100は、定着ローラ110と、バックアップ部材としての加圧ローラ111と、加熱回転部材としての加熱フィルム120と、加熱体としてのヒータ115などを有している。定着ローラ110は、定着ローラ110の外周面(表面)が加圧ローラ111の外周面(表面)と接触し加圧ローラ111と共に定着ニップ部N1を形成している。また定着ローラ110は、加圧ローラ111の反対側で定着ローラ110表面とヒータ115とにより加熱フィルム120を挟むことによって加熱ニップ部N2を形成している。以下に、各部材の構成をさらに詳しく説明する。
【0010】
加圧ローラの構成:加圧ローラ111は、外径φ20mmのローラ状の部材である。この加圧ローラ111は、細長いφ12mmの鉄製の芯金121を有し、この芯金121の長手方向両端部の支持軸部以外の外周面上にシリコーンゴムを発泡した厚さ4mmの弾性ゴム層122(発泡ゴム)を形成したものである。加圧ローラ111は、熱容量が大きく、且つ、熱伝導率が高いと、定着ニップ部N1で定着ローラ110表面の熱を奪い易い。また加圧ローラ111は、熱容量が大きく、且つ、熱伝導率が高いと、定着ニップ部N1で定着ローラ110表面から受ける熱が加圧ローラ111内部へ吸収され易いため、定着ローラ110及び加圧ローラ111の表面温度が上昇しにくくなる。すなわち、加圧ローラ111は、低熱容量で、且つ、熱伝導率が低く、断熱効果の高い方が、定着ローラ110の熱を奪いにくいため、定着ローラ110の表面温度の立ち上がり時間を短縮できる。上記シリコーンゴムを発泡した発泡ゴムの熱伝導率は0.11〜0.16W/m・Kであり、0.25〜0.29W/m・K程度のソリッドゴムよりも熱伝導率が低い。また、熱容量に関係する比重はソリッドゴムが約1.05〜1.30であるのに対して、発泡ゴムが約0.75〜0.85であり、低熱容量でもある。従って、加圧ローラ111の弾性ゴム層122として上記の発泡ゴムを用いることで定着ローラ110の表面温度の立ち上がり時間を短縮できる。加圧ローラ111の最表層にはPFAからなる離型層123が設けられている。すなわち、弾性ゴム層122の外側(外周面上)には、フッ素系材料であるパーフルオロアルコキシ樹脂(PFA)からなる離型層123が形成されている。離型層123は、弾性ゴム層122の外周面上にチューブを被覆させたもの、或いは弾性ゴム層122の外周面を塗料でコートしたものであっても良い。本実施例1では、離型層123として、耐久性の優れるチューブを使用した。離型層123の材料としては、PFAの他に、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン樹脂(FEP)等のフッ素樹脂や、離型性の良いフッ素ゴムやシリコーンゴム等を用いても良い。また加圧ローラ111は、加圧ローラ111の硬度が低ければ軽圧でも定着ニップ部N1に所定の幅を得ることができるが、低すぎると加圧ローラ111の耐久性が悪化する。このため、本実施例1では、加圧ローラ111の硬度をAsker−C硬度(4.9N荷重)で40〜45度とした。
【0011】
加熱フィルムの構成:加熱フィルム120は、ヒータ113の熱を受けるため耐熱性が必要であり、またヒータ113と接触しつつ移動するため強度も必要である。この加熱フィルム120は、可撓性及び耐熱性を有する無端状の薄いフィルムであって、無端状のフィルム基層(以下、基層と記す)126の外周面上に離型層127を形成したものである。基層126の材料として、SUS(Stainless Used Steel:ステンレス鋼)などの金属や、ポリイミドなどの耐熱性樹脂を用いると良い。金属は樹脂に比べると強度があるため薄肉化でき、また熱伝導率も高いため、ヒータ113の熱を定着ローラ110へ伝達しやすい。樹脂は金属に比べると比重が小さいため熱容量が小さく温まりやすい利点がある。また樹脂は塗工成型により薄肉のフィルムが成型できるため安価に成型できる。本実施例1では、基層126の材料として、ポリイミド樹脂にカーボン系の熱伝導フィラーを添加して熱伝導率を向上させたものを用いた。基層126の厚さは、薄いほどヒータ113の熱を定着ローラ110表面に伝達しやすいが、基層126の強度が低下するため、20μm〜100μm程度が好ましい。本実施例1では、基層126の厚さを60μmとした。基層126の外周面には、基層126の外周面の汚れを低減するためPFAの離型層127が設けられている。離型層127の材料として、加圧ローラ111の離型層123と同様、PFAの他に、PTFE、FEP等のフッ素樹脂を用いても良い。加熱フィルム120の離型層127の厚さは、薄いほどヒータ113の熱を定着ローラ110表面に伝達しやすいため、1μm〜20μm程度が好ましい。本実施例1では、離型層127の厚さを10μmとした。
【0012】
ヒータの構成:ヒータ113は、幅6mm、厚さ1mmのアルミナ製の細長いヒータ基板113aを有している(図1の(b))。このヒータ基板113aの表面(定着ローラ110側の面)には、ヒータ基板113aの長手方向に沿ってAg/Pd(銀パラジウム)の通電発熱抵抗層113bをスクリーン印刷により10μm程度の厚さで線状又は幅の細い帯状に塗工して形成している。またヒータ基板113aの表面には、通電発熱抵抗層113bに給電するための電極部(不図示)が形成してある。さらにヒータ基板113aの表面には、通電発熱抵抗層113bを覆うように保護層としてのガラス層113cが50μmの厚さで形成されている。このヒータ113は、加熱フィルム120の内部に配設された細長いヒータホルダー119によってガラス層113cが加熱フィルム120の内周面すなわち基層126の内周面(内面)と対向するように支持されている。
【0013】
定着ローラの構成:定着ローラ110は、細長い鉄製の芯金117を有し、この芯金117の長手方向両端部の支持軸部以外の外周面上に加圧ローラ111の弾性ゴム層122と同じ発泡ゴムの弾性ゴム層116を形成したものである。定着ローラ110は、弾性ゴム層116の熱容量が大きく、且つ、熱伝導率が高いと、加熱ニップ部N2でヒータ113から加熱フィルム120を介して定着ローラ表面が受ける熱が定着ローラ内部へ吸収され易く、定着ローラの表面温度が上昇しにくくなる。すなわち、弾性ゴム層116は、できるだけ低熱容量で、且つ、熱伝導率が低く、断熱効果の高い方が、定着ローラ110の表面温度の立ち上がり時間を短縮できる。弾性ゴム層116は、加圧ローラ111の弾性ゴム層122と同じであり、低熱容量(比重:約0.75〜0.85)で、且つ、熱伝導率が低い(熱伝導率:0.11〜0.16W/m・K)単層の弾性ゴム層である。従って、この弾性ゴム層116を用いることによって定着ローラ110の表面温度の立ち上がり時間を短縮できる。定着ローラ110の外径は小さい方が熱容量を抑えられるが、小さ過ぎると加熱ニップ部N2及び定着ニップ部N1の幅が狭くなってしまうので適度な径が必要である。本実施例1では、定着ローラ110の外径をφ20mmとした。弾性ゴム層116の肉厚に関しても、薄過ぎれば金属製の芯金117に熱が逃げるので適度な厚みが必要である。本実施例1では、弾性ゴム層116の厚さを4mmとした。そしてこの弾性ゴム層116の外側(外周面)には、フッ素系材料からなるPFAの離型層118が形成されている。
【0014】
定着ニップ部と加熱ニップ部の説明:定着ローラ110は、加圧ローラ111の芯金117の長手方向両端部の支持軸部が定着装置100の装置フレーム(不図示)に軸受(不図示)を介して回転自在に支持されている。加圧ローラ111は、定着ローラ110の下方で定着ローラ110と並列に配設されている。そして加圧ローラ111の芯金121の長手方向両端部の支持軸部が装置フレームに軸受125を介して回転自在に支持されている。そしてこの軸受125を加圧バネ124により上方向A2へ加圧し加圧ローラ111表面を定着ローラ110表面に接触させることによって、加圧ローラ111の弾性ゴム層122と定着ローラ110の弾性ゴム層116をそれぞれ弾性変形させている。これにより定着ローラ110表面と加圧ローラ111表面との間に所定幅の定着ニップ部N1を形成している。本実施例1では、加圧バネ124により軸受125を147Nの力で加圧することによって、幅7mmの定着ニップ部N1を形成している。ヒータホルダー119は、ヒータホルダー119の長手方向両端部が装置フレームに上下動可能に支持されている。そしてヒータホルダー119の長手方向両端部を加圧バネ114で下方向A1へ加圧しヒータ113のガラス層113c表面を加熱フィルム120の基層126内面に接触させ加熱フィルム120表面を定着ローラ110表面に加圧状態に接触させている。これにより定着ローラ110の弾性ゴム層116を弾性変形させ、加熱フィルム120表面と定着ローラ110表面との間に所定幅の加熱ニップ部N2を形成している。本実施例1では、加圧バネ114によりヒータホルダー119の長手方向両端部を98Nの力で加圧することによって、幅5.5mmの加熱ニップ部N2を形成している。ヒータ113のガラス層113cの表面には、加熱フィルム120の基層126内面との摺動性を確保するために、潤滑剤として耐熱性のフッ素グリス(不図示)を塗付している。
【0015】
定着装置の加熱定着動作:プリント信号に応じて定着モータM(図1の(a))が回転駆動し定着ローラ110を矢印方向へ周速度60mm/sec(プロセススピード)で回転させる。この定着ローラ110の回転は定着ニップ部N1を通じて加圧ローラ111表面に伝達される。これにより加圧ローラ111は定着ローラ110の回転に追従して矢印方向へ回転する。また定着ローラ110の回転は加熱ニップ部N2を通じて加熱フィルム120表面に伝達される。これにより加熱フィルム120は基層126内面がヒータ113のガラス層113c表面と接触した状態で定着ローラ110の回転に追従して矢印方向へ回転する。またプリント信号に応じて温度制御部(不図示)がヒータ113の電極部を通じて通電発熱抵抗層113bに通電する。この通電により通電発熱抵抗層113bが発熱しヒータ113は急速に昇温し加熱フィルム120を加熱する。ヒータ113により加熱された加熱フィルム120は矢印方向へ回転しつつ加熱ニップ部N2で定着ローラ110表面を加熱する。ヒータ113の温度はヒータ基板113aの裏面(定着ローラ110と反対側の面)に設けられたサーミスタなどの温度検知素子115により検知される。温度制御部は、温度検知素子115からの出力信号(温度検知信号)を取り込み、この出力信号に基づいてヒータ113が所定の定着温度(目標温度)を維持するように通電発熱抵抗層113bへの通電量を制御する。定着モータMを回転駆動し、ヒータ113の通電発熱抵抗層113bに通電した状態で、未定着のトナー像tを担持した記録材Pがトナー像担持面を上向きして定着ニップ部N1に導入される。この記録材Pは定着ニップ部N1において定着ローラ110表面と加圧ローラ111表面とにより挟持搬送される。そしてこの搬送過程においてトナー像tに定着ローラ110の熱と定着ニップ部N1の圧力が付与され、この熱と圧力によってトナー像tは記録材P上に加熱定着される。
【0016】
定着ローラ表面から加熱フィルム表面への異物の転移メカニズム:定着ローラ表面のマイクロ硬度が高い構成の従来の定着ローラを用いると、加熱フィルム表面に紙粉やトナーなどの異物が加熱フィルム表面に付着しやすい。ここで、本実施例1の定着ローラ110と区別するため、従来の定着ローラの符号を110Aとする。従来の定着ローラ110Aを用いた定着装置において、上述のように記録材P上へのトナー像tの加熱定着が繰り返されると、定着ローラ110A表面に付着した紙粉やトナーなどの異物が加熱フィルム120表面に転移する。すなわち、定着ニップ部N1で定着ローラ110A表面が記録材P上のトナー像tと接触するため、微量の紙粉やトナーなどの異物が定着ローラ110A表面に付着する。定着ローラ110A表面に異物が付着すると、加熱フィルム120が定着ローラ110A表面と接触し回転しているため、定着ローラ110A表面に付着した異物は加熱フィルム120表面に付着し転移してしまう。加熱フィルム120表面に異物が付着すると、ヒータ113の熱が定着ローラ110A表面に伝わりにくくなり、記録材P上のトナー像tの溶融不足で記録材P上へのトナー像tの定着性が悪化し定着不良が発生することがある。また加熱フィルム120表面に異物が付着すると、加熱ニップ部N2で加熱フィルム120表面から定着ローラ110A表面に異物が吐き出され、この異物が定着ニップ部N1で記録材Pに転移し記録材Pの画像印字面を汚したりする画像不良が発生する。従来の定着ローラ110A表面から加熱フィルム120表面に異物が転移するメカニズムを図2の(b)を参照して説明する。例えば紙粉などの異物Y1が定着ローラ110A表面(離型層118)に付着し加熱ニップ部N2に到達する。すると、定着ローラ表面110Aはマイクロ硬度が高いため、加熱ニップ部N2内で異物Y1は加熱フィルム110A側に加圧され加熱フィルム110A表面(離型層127)に押し付けられる。加熱フィルム120は内側から剛性の高いヒータ113により押圧されているため、定着ローラ110Aにより押し付けられた異物Y1を加熱フィルム120表面で吸収することはできない。このため、図2の(b)に示すように、異物Y1は加熱フィルム120の離型層127にめり込んでしまう。この加熱フィルム120の離型層127への異物Y1のめり込みが繰り返されると、加熱フィルム120表面に異物Y1が蓄積してしまう。加熱ニップ部N2に記録材などを通過させれば、加熱フィルム120表面に蓄積した異物Y1は、加熱フィルム120より温度の低い記録材側へ転移し、加熱フィルム120表面から異物Y1を除去することができる。しかし、加熱ニップ部N2に記録材などは通過されないため、加熱フィルム120表面に一度異物Y1が付着すると除去することが困難であり、異物Y1は加熱フィルム120表面に蓄積していく。
【0017】
本実施例1では、定着ローラ110表面の微小硬度(マイクロ硬度)を低くすることで、定着ローラ110表面から加熱フィルム120表面への異物の転移を低減している。本実施例1の定着ローラ110を用いた場合の定着ローラ110表面から加熱フィルム120表面への異物の転移を低減できるメカニズムを図2の(a)を参照して説明する。例えば紙粉などの異物Y1が定着ローラ110表面(離型層118)に付着し加熱ニップ部N2に到達すると、定着ローラ110表面はマイクロ硬度が低いため、加熱ニップ部N2内で異物Y1は定着ローラ表面110に包み込まれる。異物Y1は定着ローラ110表面に包み込まれると加熱フィルム120側への押し付けが弱くなり、加熱フィルム120表面に付着せずに定着ローラ110表面に付着したまま加熱ニップ部N2を通過する。加熱ニップ部N2を通過した定着ローラ110表面上の異物Y1は、定着ニップ部N1を通過する記録材Pに転移するため、定着ローラ110表面上に異物Y1が蓄積することは無い。また記録材Pが通過する度に、定着ローラ110表面上の異物Y1は記録材P上へ転移するため、記録材P上へ転移した異物Y1の量は少なく、定着ローラ110表面上の異物Y1を目立たずに記録材P上へ排出することができる。このように定着ローラ110表面のマイクロ硬度が低いと、加熱フィルム120表面には異物Y1が付着しにくく、且つ、記録材P上へ目立たずに異物Y1を排出することができる。
【0018】
加熱フィルム表面の付着異物による汚れと定着ローラ表面のマイクロ硬度との関係:加熱フィルム表面に付着した異物量(以下、汚れ量とも記す)が定着ローラ表面のマイクロ硬度に関係していることが以下の実験で分かった。定着ローラの弾性ゴム層(発泡ゴム)のゴム厚みと、ゴム材料(厚さ10mmの試験片のAsker−Cゴム硬度違い)と、PFA離型層の厚みと、をそれぞれ変えて、11種類の実験用定着ローラ(表1参照)を作製した。そしてこの11種類の定着ローラについて、定着ローラ表面のマイクロ硬度及びAsker−C硬度を測定した。定着ローラ表面のマイクロ硬度は、高分子計器株式会社製のマイクロゴム硬度計(MD−1)、押針形状はタイプA(高さ0.50mm、φ0.16mmの円柱形)を用いて測定した。定着ローラ表面のAsker−C硬度は、高分子計器株式会社製のAskerゴム硬度計、押針形状はタイプC(高さ2.54mm、φ5.08mmの半球)を用い4.9N荷重で測定した。また各定着ローラを用いて1000枚の通紙耐久(定着装置の耐久寿命の1/50)を行い加熱フィルム表面の汚れ量の比較を行った。記録材としては、汚れ(紙粉)が発生しやすいように炭酸カルシウム15Wt%を含む紙を用いた。記録材に印字する印字パターンは、イエロー、マゼンダ、シアン、ブラックの各色2%印字率のハーフトーン画像である。印字耐久後の加熱フィルム表面の汚れを透明な粘着テープで加熱フィルム表面から剥がし、この粘着テープで剥がした汚れを光学式濃度計により濃度測定を行うことで加熱フィルム表面の汚れ量(加熱フィルム表面の汚れ濃度)を定量化し比較した。結果を表1に示す。光学式濃度計として、マクベス反射濃度計RD914を用いている。
【0019】
【表1】

【0020】
表1に示すように、(i)弾性ゴム層の厚み違いでは、ゴムの厚みが厚くなるほど定着ローラのAsker−C硬度は低くなるが、マイクロ硬度には変化が無く、加熱フィルム表面の汚れ濃度も変わらない結果であった。すなわち、加熱フィルム表面の汚れと定着ローラのAsker−C硬度は関係が無いことが分かった。次に、(ii)弾性ゴム材料硬度違いでは、ゴム材料硬度(試験片Asker−C硬度)が高くなるほど定着ローラのAsker−C硬度とマイクロ硬度が高くなり、加熱フィルム表面の汚れ濃度が濃くなる結果であった。(i)と(ii)の結果より、定着ローラ表面のマイクロ硬度が低いと加熱フィルム表面が汚れにくいことが分かった。次に、(iii)離型層の厚み違いでは、離型層が厚くなるほど定着ローラ表面のマイクロ硬度が高くなり、加熱フィルム表面の汚れ濃度が濃くなる結果であった。すなわち、離型層を薄くするほど定着ローラ表面のマイクロ硬度が低くなり、加熱フィルム表面の汚れを抑えることができることが分かった。
【0021】
マイクロ硬度と異物包み込み性との関係:定着ローラ表面のマイクロ硬度と定着ローラ表面の異物の包み込み性との関係を調査した。調査方法を以下に説明する。図3の(a)と(b)は定着ローラ表面のマイクロ硬度と定着ローラ表面の異物の包み込み性との関係を調査する方法の説明図である。図3の(a)はその調査に用いられる定着ローラ、ガラスプレート、ガラスビーズ及び光学顕微鏡の関係を表わす外観斜視図である。(b)は定着ローラとガラスプレートとの間のガラスビーズをガラスプレート上方から光学顕微鏡で観察するときの定着ローラ、ガラスプレート及びガラスビーズの関係を表わす断面図である。まず、図3の(a)に示すように、異物に見立てたφ120μmのガラスビーズGbを定着ローラ110表面上に置き、このガラスビーズGbを透明なガラスプレートGpで定着ローラ110表面に加圧してニップ部Naを形成する。次に、図3の(b)に示すように、ガラスプレートGp上方からガラスビーズGbを光学顕微鏡Kで観察した。すると、ガラスビーズGbにより、定着ローラ110表面がガラスプレートGpと密着していない部分ができた。この密着していない部分の直径Xを光学顕微鏡Kにより測定し、マイクロ硬度とガラスビーズGbの密着性(包み込み性)の関係を調査した。調査は表1の(iii)の離型層の厚み違いによるマイクロ硬度違い(4水準)について行った。結果を図3の(c)に示す。定着ローラ110表面のマイクロ硬度が低いほど、定着ローラ110表面がガラスプレートGpと密着していない直径Xが小さくなり、ガラスビーズGbを包み込んでいることが分かった。すなわち、定着ローラ110表面のマイクロ硬度が低いほど加熱ニップ部N2で異物Y1が定着ローラ110表面に包み込まれやすいことが分かった。加熱ニップ部N2内で異物Y1が定着ローラ110表面に包み込まれると、図2の(a)に示すように異物Y1を加熱フィルム120表面に押し付けにくくなるため、異物Y1は加熱フィルム120表面に付着しにくい。すなわち、定着ローラ110表面のマイクロ硬度が低いほど加熱フィルム120表面を汚しにくいということが分かった。
【0022】
マイクロ硬度と画像不良との関係:上記の包み込み性の調査を行った定着ローラ(4水準)を用いた定着装置について、定着装置の耐久寿命の2倍である10万枚まで印字耐久を行い、加熱フィルム表面の汚れの確認を調査した。また加熱フィルム表面の汚れによる定着不良及び汚れの吐き出しによる画像不良の発生の有無を調査した。トナー像の定着性は濃度低下率で表し、以下の方法で算出する。測定器はマクベス反射濃度計RD914を用い、紙上に定着されたハーフトーン画像を、シルボン紙を5枚重ねたところに荷重0.4N/cmで5往復擦った前後の濃度を測定する。本実施例1では、ハーフトーン濃度として、擦る前の濃度D1が約0.7のものを用いた。擦った後の濃度をD2とすると、濃度低下率は(D1−D2)/D1により算出される。印字耐久5000枚、1万枚、2.5万枚、5万枚、7.5万枚、10万枚の各時点でブラック単色のハーフトーン画像を印字し、上記濃度低下率の測定を行い、定着性の評価を行った。濃度低下率が10%未満の場合を良好な定着性として○と評価し、10%以上20%未満の場合を定着性の低下として△と評価し、濃度低下率が20%以上のものを定着不良として×と評価した。また、定着性の判断基準は装置の仕様によるものであり、必要とされる定着性は装置によって適宜決めることができる。加熱フィルム表面の汚れの吐き出しによる画像不良は、汚れの吐き出しによる画像不良が無かった場合を○、画像不良が発生した場合を○として評価した。結果を表2に示す。
【0023】
【表2】

【0024】
表2に示すように、離型層の厚みが10μm、マイクロ硬度が36度の定着ローラは、定着装置の耐久寿命の2倍である10万枚まで定着不良及び汚れの吐き出しによる画像不良の発生は無かった。また離型層の厚みが20μm、マイクロ硬度が43度の定着ローラも、定着装置の耐久寿命の2倍である10万枚まで定着不良及び汚れの吐き出しによる画像不良の発生は無かった。離型層の厚みが30μm、マイクロ硬度が49度の定着ローラは、10万枚時点で定着性の低下は見られたものの、画像不良の発生は無かった。離型層の厚みが40μm、マイクロ硬度が57度の定着ローラは、定着装置の耐久寿命である5万枚から定着性の低下が見られ、7.5万枚以上で定着不良が発生し、10万枚時点で画像不良も発生してしまった。定着ローラ表面のマイクロ硬度は低いほど定着不良や汚れの吐き出しによる画像不良が発生しにくい。少なくともマイクロ硬度が49度以下であり、離型層の厚みが30μmであれば、定着不良及び画像不良の発生は無く、十分な加熱フィルム表面の汚れ低減効果が得られることがわかった。
【0025】
弾性ゴム層の硬度とマイクロ硬度の説明:本実施例1では、表1に示す調査結果に基づき、加熱フィルム120表面の汚れすなわち加熱フィルム120表面への異物の付着を低減するために、定着ローラ110表面のマイクロ硬度HμをHμ≦49としている。上述のように弾性ゴム材料のゴム硬度を低くした方が定着ローラ110表面のマイクロ硬度は低くなるが、弾性ゴム材料のゴム硬度が低すぎると耐久性が低下する。このため、本実施例1では、定着ローラ110の弾性ゴム層116のゴム材料として、ゴム硬度(ゴム試験片Asker−C硬度)が20度のゴム材料を用いた。定着ローラ110の離型層118は薄くするほど定着ローラ110表面のマイクロ硬度を低くすることができるが、薄すぎると耐久性が低下するため1μm以上30μm以下が好ましい。本実施例1では、離型層118として、厚さ15μmのPFAチューブを用いた。本実施例1の定着ローラ110表面のマイクロ硬度を測定すると31度であった。本実施例1の定着ローラ110においても、表2と同様の通紙耐久試験を行った。定着ローラ110は、定着ローラ表面のマイクロ硬度が低い(49度以下)ため、加熱フィルム120表面の汚れを抑えることができ、定着装置の耐久寿命の2倍である10万枚まで定着不良及び汚れの吐き出しによる画像不良の発生は無かった。
【0026】
本実施例1の定着装置100によれば、定着ローラ110表面のマイクロ硬度を50度未満と低くすることで、加熱ニップ部N2において異物Y1を定着ローラ110表面で包み込むことができる。これにより加熱フィルム120表面への異物Y1の押し付けが緩和され、加熱フィルム120表面の異物Y1の付着を低減できる。このため加熱フィルム120表面への異物Y1の付着による定着不良、及び加熱フィルム120表面からの異物Y1の吐き出しによる画像不良の発生を抑制することができる。
【0027】
[実施例2]定着装置の他の例を説明する。本実施例2に示す定着装置は、定着ローラを後述のように構成した点を除いて、実施例1の定着装置と同じ構成としてある。本実施例2では、実施例1の定着装置と同じ部材・部分については、同一の符号で示し再度の説明を省略する。本実施例2の定着装置100は、定着ローラ130として定着ローラの半径方向に異なる材料の複数のゴム層を有する定着ローラを用いている。そしてこの定着ローラ130表面のマイクロ硬度を低くすることで加熱フィルム120表面の汚れを低減することを特徴としている。
【0028】
定着ローラの構成:前述したように、回転接触式の定着装置は、定着ローラ表面を加熱し、加熱された定着ローラ表面の熱を利用して記録材上のトナー像の定着を行うように構成されている。定着ローラは、弾性ゴム層の熱容量が大きく、且つ、熱伝導率が高いと、加熱ニップ部N2でヒータ115から加熱フィルム120を介して定着ローラ表面から受ける熱が定着ローラ内部へ吸収され易く、定着ローラの表面温度が上昇しにくくなる。しかし、弾性ゴム層の熱容量が小さく、且つ、熱伝導率が低いだけであると、定着ローラの表面温度は上昇しやすいが、最表層(離型層)しか暖まらないため記録材上のトナー像の定着を行うには熱量が足りない場合がある。そこで、本実施例2の定着ローラ130は、定着ローラ半径方向の最外ゴム層としての蓄熱ゴム層133と、断熱ゴム層132と、の2層のゴム層で弾性ゴム層を構成した。蓄熱ゴム層133で定着ローラ130表面に熱を溜めることができ、断熱ゴム層132で定着ローラ130内部への熱の逃げを防止することができる。この定着ローラ130を用いた定着装置100は、定着ローラ130の蓄熱効果と断熱効果の相乗効果によって立ち上げ時間を大幅に短縮できるというメリットがある。図4の(a)は本実施例2に係る定着装置における定着ローラの層構成を表わす横断面模式図である。定着ローラ130は、芯金131の外周面上に断熱ゴム層132を設け、断熱ゴム層132の外周面上に蓄熱ゴム層133を設け、蓄熱ゴム層133の外周面上に離型層118を設けた構成となっている。断熱ゴム層132は、定着ローラ130内部へ熱を逃さないようにできるだけ低熱容量で、且つ、熱伝導率が低く、断熱効果の高い材料が良い。断熱ゴム層132の材料としては、例えば、0.2〜0.3W/m・K程度の低熱伝導率ソリッドゴムを発泡させたり、中空のガラスビーズを入れたりし、熱伝導率を0.2W/m・K以下にした低熱伝導率ゴムを用いると良い。また断熱ゴム層132の厚さは、芯金131へ熱を逃さないように厚い方が良いが、厚すぎると定着装置が大きくなってしまうため1〜5mm程度の厚さが好ましい。本実施例2では、断熱ゴム層132の材料として、ソリッドゴムを発泡させ熱伝導率を0.11〜0.16W/m・K程度にした発泡ゴムを用いた。断熱ゴム層132の厚さは4mmとした。一方、蓄熱ゴム層133は、加熱フィルム120表面からの熱を素早く蓄熱するために熱伝導率が高い方が良い。蓄熱ゴム層133の材料としては、ソリッドゴムに熱伝導フィラーを添加するなどし、熱伝導率を0.5W/m・K以上にしたものを用いるのが好ましい。蓄熱ゴム層133の熱容量は、ゴムの熱伝導率(比重)とその厚さにより調整し、画像形成装置の印字速度に合せて、30μm〜1mm程度にして用いると良い。本実施例2では、加熱フィルム120表面の汚れを低減するために、定着ローラ130表面のマイクロ硬度を低くしている。定着ローラ130表面のマイクロ硬度を低くするために、蓄熱ゴム層133のゴム材料と厚さを調整している。
【0029】
蓄熱ゴム層とマイクロ硬度との関係:蓄熱ゴム層は、ゴム材料の硬度(JIS−A硬度)が低く、厚さが薄いほど定着ローラ表面のマイクロ硬度が低くなることが以下の実験でわかった。蓄熱ゴム層の材料ゴム硬度(JIS−A硬度)と、蓄熱ゴム層の厚みと、をそれぞれ変えて、8種類の実験用定着ローラ(表3参照)を作製した。そしてこの8種類の定着ローラについて、実施例1の実験と同様に、各定着ローラのマイクロ硬度の測定と、通紙耐久により加熱フィルムの汚れの比較を行った。表3において、(i)蓄熱ゴム層の材料ゴム硬度違いは、蓄熱ゴム層の厚みを100μm、熱伝導率を1.5W/m・Kで統一して比較した。(ii)蓄熱ゴム層の厚み違いは、蓄熱ゴム層のJIS−A硬度を60度、熱伝導率を1.5W/m・Kで統一して比較した。また(i)、(ii)の比較も、離型層は、厚さ15μmのPFAチューブを用いた。加熱フィルム表面の汚れの比較は、実施例1と同様、1000枚の通紙耐久後(定着装置の耐久寿命の1/50)に行った。すなわち、透明な粘着テープで加熱フィルム表面から汚れを剥がし、粘着テープで剥がした汚れを光学式濃度計により濃度測定を行なうことで各定着ローラ表面における加熱フィルム表面の汚れ量を定量化し比較した。結果を表3に示す。
【0030】
【表3】

【0031】
表3に示すように、(i)蓄熱ゴム層の材料ゴム硬度違いの結果は、ゴム材料硬度が高くなるほど、マイクロ硬度が高くなり、加熱フィルム表面の汚れ濃度が濃くなる結果だった。また(ii)蓄熱ゴム層の厚み違いの結果は、蓄熱ゴム層の厚みが厚くなるほど、マイクロ硬度が高くなり、加熱フィルム表面の汚れ濃度が濃くなる結果だった。(i)と(ii)の結果より、定着ローラ表面の蓄熱ゴム層のゴム材料の硬度が低く、厚さが薄いほど、定着ローラ表面のマイクロ硬度が低くなり、加熱フィルム表面が汚れにくいことが分かった。
【0032】
マイクロ硬度と画像不良との関係:(ii)蓄熱ゴム層の厚み違いで加熱フィルム表面の汚れの比較を行なった4本の定着ローラについて、実施例1と同様に、定着装置の寿命の2倍である10万枚まで印字耐久を行った。そして加熱フィルム表面の汚れによる定着不良及び汚れの吐き出しによる画像不良の発生有無を調査した。結果を表4に示す。
【0033】
【表4】

【0034】
表4に示すように、蓄熱ゴム層の厚みが50μm、マイクロ硬度33度の定着ローラは、定着装置の耐久寿命の2倍である10万枚まで定着不良及び汚れの吐き出しによる画像不良の発生は無かった。蓄熱ゴム層の厚みが100μm、マイクロ硬度42度の定着ローラと、蓄熱ゴム層の厚みが200μm、マイクロ硬度50度の定着ローラは、それぞれ、10万枚時点で定着性の低下は見られたものの、画像不良の発生は無かった。蓄熱ゴム層の厚みが300μm、マイクロ硬度58度の定着ローラは、定着装置の耐久寿命である5万枚から定着性の低下が見られ、7.5万枚以上で定着不良が発生し、10万枚時点で画像不良も発生してしまった。断熱ゴム層と蓄熱ゴム層を有する定着ローラにおいても、定着ローラ表面のマイクロ硬度は低いほど定着不良や汚れの吐き出しによる画像不良が発生しにくい。少なくともマイクロ硬度が50未満(Hμ<50)であり、蓄熱ゴム層の厚みが200μm以下であれば、定着不良及び画像不良の発生は無く、十分な加熱フィルム表面の汚れ低減効果が得られることがわかった。
【0035】
蓄熱ゴム層の硬度とマイクロ硬度の説明:本実施例2では、定着ローラ130表面のマイクロ硬度Hμを低くする(Hμ<50)ために、蓄熱ゴム層133の材料として低硬度ゴムを使用した。また蓄熱ゴム層133の厚さは断熱ゴム層132よりも薄くした。表3(i)に示すように、蓄熱ゴム層133の厚さが100μmの場合、蓄熱ゴム層133のJIS−A硬度は70度未満であれば、定着ローラ130表面のマイクロ硬度Hμが50度未満となるため、十分な加熱フィルム表面の汚れ低減効果が得られる。本実施例2では、より加熱フィルム表面の汚れ低減効果を高めるために、蓄熱ゴム層133のゴム材料として、JIS−A硬度が51度の低硬度ゴムを用い、厚さを50μmに薄肉化することで、定着ローラ表面のマイクロ硬度を27度と低硬度化したものを用いた。蓄熱ゴム層133の熱伝導率は1.5W/m・Kである。離型層118は、実施例1の定着ローラ110と同様、15μmのPFAチューブを用いた。本実施例2の定着ローラ130においても、表4と同様の通紙耐久試験を行った。定着ローラ130は、定着ローラ表面のマイクロ硬度が低い(50度未満)ため、加熱フィルム表面の汚れを抑えることができ、定着装置の耐久寿命の2倍である10万枚まで定着不良、及び加熱フィルム表面の汚れの吐き出しによる画像不良の発生は無かった。断熱ゴム層132と蓄熱ゴム層133のゴム材料及び厚さと、離型層188の材料及び厚さは上述のものに限られない。定着ローラ130表面のマイクロ硬度を少なくとも50度未満に抑えるように断熱ゴム層132と蓄熱ゴム層133のゴム材料及び厚さと、離型層188の材料及び厚さを調整することにより、上記と同様の作用効果が得られる。
【0036】
[実施例3]定着装置の他の例を説明する。本実施例3に示す定着装置は、定着ローラを後述のように構成した点を除いて、実施例1の定着装置と同じ構成としてある。本実施例3においても、実施例1の定着装置と同じ部材・部分については、同一の符号を付し再度の説明を省略する。本実施例3の定着装置100は、定着ローラの最表層の離型層をスプレーコートにより形成することで定着ローラ表面のマイクロ硬度を低くし、加熱フィルム120表面の汚れを低減することを特徴としている。
【0037】
スプレーコートの離型層の説明:定着ローラの最表層の離型層は、実施例1及び実施例2のようにフッ素樹脂のチューブを被覆しても良いが、スプレーコートによってフッ素離型層を形成すると定着ローラ表面のマイクロ硬度が低くなることが分かった。離型層をチューブで成型する場合、一般的には押出し成型により成型する。押出し成型は、ペレット上のフッ素樹脂を熱で溶融させ、スクリューで混ぜながら圧をかけて押出す。このときPFAの分子鎖が混練りと加圧により絡み合い、分子鎖が絡み合ったフッ素チューブとなる。一方、スプレーコートによるフッ素膜の形成は、フッ素の微粒子を水に分散させた液(ディスパージョン)を定着ローラ表面にスプレーにより吹き付け焼成を行い形成する方法である。スプレーによりフッ素樹脂を形成する場合は、フッ素粒子が定着ローラ表面に付着した後、そのまま焼成されるため、チューブの押し出し成型とは異なり、混練りと加圧工程が無い。そのためスプレーコートによるフッ素膜は、フッ素の分子鎖が絡み合わないフッ素膜となり、チューブの押し出し成型よりも柔らかくなる。定着ローラの離型層をスプレーコートで形成すると、同じ膜厚でチューブにより離型層を被覆した場合より、定着ローラ表面のマイクロ硬度を1〜10度程度低くすることができる。そのため、離型層をスプレーコートで形成した定着ローラは、チューブで形成した場合よりも加熱ニップ部N2での汚れの包み込み性が向上し、加熱フィルム120表面への汚れの付着を低減することができる。また押出し成型のチューブの場合、10μm以下の薄肉成型が困難であり、また10μm以下で成型した場合でも、定着ローラの弾性ゴム層への被覆などの取り扱いが困難となる。一方、スプレーコートは、直接定着ローラの弾性ゴム層へ塗工するため10μm以下の薄肉化が可能であり、上述のように、離型層を薄肉化することで、更に定着ローラ表面のマイクロ硬度を低くすることができる。また離型層の薄肉化により加熱フィルム120の熱が定着ローラ表面に伝わりやすくなるため、定着ローラの表面温度の立ち上がりを短縮化できる。
【0038】
定着ローラの構成:本実施例3の定着ローラは、実施例2の定着ローラと同様に、芯金と、断熱ゴム層と、蓄熱ゴム層と、離型層と、を有している。芯金と、断熱ゴム層と、蓄熱ゴム層は、それぞれ、実施例2と同じであり、離型層のみが異なる。本実施例3の定着ローラの離型層は、PFAをスプレーコートにより厚さ10μmで形成した。本実施例3の定着ローラ表面のマイクロ硬度は、実施例2の定着ローラ130表面のマイクロ硬度に比べて4度低い23度であった。本実施例3の定着ローラにおいても、実施例2と同様の通紙耐久試験を行った。この定着ローラは、定着ローラ表面のマイクロ硬度が低い(50度未満)ため、加熱フィルム表面の汚れを低減することができ、定着装置の寿命の2倍である10万枚まで定着不良及び加熱フィルム表面の汚れの吐き出しによる画像不良の発生は無かった。
【0039】
[実施例4]実施例1乃至実施例3に示す定着装置では離型層を有する定着ローラについて説明したが、定着ローラはこれに限られず離型層を有していない定着ローラであってもよい。この場合、定着ローラの弾性ゴム層又は蓄熱ゴム層の材料として離型性の良いシリコーンゴムやフッ素ゴムなどの低硬度材料のゴム材料を用い、このゴム材料表面のマイクロ硬度を50度未満に設定すれば、加熱フィルム120表面の汚れを低減することができる。
【0040】
[実施例5]実施例1乃至実施例3に示す定着装置では加熱回転部材として加熱フィルム120を用いた例を説明したが、加熱回転部材はこれに限られず筒状の回転可能な加熱ローラであってもよい。図4の(b)は本実施例5に係る定着装置の構成を表わす横断面模式図である。加熱ローラ140は、剛性を有するローラ本体141と、離型層142と、を有している。ローラ本体141は、耐熱性及び熱伝導性を有する所定の金属材料又は樹脂材料によって筒状に形成されている。そしてこのローラ本体141の長手方向両端部の支持軸部を除く外周面上には、ローラ本体141の外周面の汚れを低減するためPFAの離型層142が設けられている。この加熱ローラ140はローラ本体141の長手方向両端部の支持軸部が軸受(不図示)を介して装置フレーム(不図示)に回転自在に支持され、この軸受を加圧バネ114で下方向A1へ加圧している。これにより加熱ローラ140の外周面(表面)を定着ローラ110表面に加圧状態に接触させ定着ローラ110の弾性ゴム層116を弾性変形させることによって、加熱ローラ140表面と定着ローラ110表面との間に所定幅の加熱ニップ部N2を形成している。この加熱ローラ140は定着ローラ110の回転に追従して矢印方向に回転し、ローラ本体141内に設けられた加熱体としてのハロゲンランプ143によって加熱される。本実施例5の定着装置100においても、定着ローラ110表面のマイクロ硬度を50度未満に設定すれば、加熱ローラ140表面の汚れを低減することができる。
【0041】
[実施例6]実施例1乃至実施例3に示す定着装置ではバックアップ部材として加圧ローラ111を用いた例を説明したが、バックアップ部材はこれに限られず回転しないパッド部材であってもよい。図4の(c)は本実施例6に係る定着装置の構成を表わす横断面模式図である。パッド部材150は、所定の材料によって細長い板状に形成されている。このパッド部材150は、装置フレーム(不図示)に支持させた長手方向両端部の支持部を加圧バネ124で上方向A2へ加圧しパッド部材150の上面(表面)を定着ローラ110表面に加圧状態に接触させている。これにより定着ローラ110の弾性ゴム層116を弾性変形させ、パッド部材150表面と定着ローラ110表面との間に所定幅の定着ニップ部N1を形成している。本実施例6の定着装置100においても、定着ローラ110表面のマイクロ硬度を50度未満に設定すれば、加熱フィルム120表面の汚れを低減することができる。
【符号の説明】
【0042】
110:定着ローラ、111:加圧ローラ、116:弾性ゴム層、118:離型層、120:加熱フィルム、133:蓄熱ゴム層、140:加熱ローラ、150:パッド部材、N1:定着ニップ部、N2:加熱ニップ部、P:記録材、t:トナー像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱回転部材と、弾性ゴム層を有する定着ローラであり前記加熱回転部材と接触して加熱ニップ部を形成する定着ローラと、前記定着ローラと接触して定着ニップ部を形成するバックアップ部材と、を有し、前記加熱回転部材は前記加熱ニップ部で前記定着ローラの表面を加熱し、前記定着ニップ部でトナー像を担持する記録材を挟持搬送しつつ前記定着ローラ表面でトナー像を記録材上に加熱定着する定着装置において、前記定着ローラ表面のマイクロ硬度をHμとすると、Hμ<50を満たすことを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記定着ローラの弾性ゴム層は、単層であることを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記定着ローラの弾性ゴム層は、前記定着ローラの半径方向に異なる複数のゴム層からなることを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項4】
前記定着ローラの弾性ゴム層において、前記定着ローラ半径方向の最外ゴム層の厚さは、200μm以下であることを特徴とする請求項3に記載の定着装置。
【請求項5】
前記定着ローラの弾性ゴム層において、前記定着ローラ半径方向の最外ゴム層に用いるゴムのJIS−A硬度は、70度未満であることを特徴とする請求項3に記載の定着装置。
【請求項6】
前記定着ローラの弾性ゴム層の外側にフッ素系材料からなる離型層を有することを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の定着装置。
【請求項7】
前記定着ローラの前記離型層の厚みは、30μm以下であることを特徴とする請求項6に記載の定着装置。
【請求項8】
前記定着ローラの前記離型層は、スプレーコートにより形成されたことを特徴とする請求項6に記載の定着装置。
【請求項9】
前記加熱回転部材は、可撓性を有する無端状の加熱フィルムであることを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項10】
前記加熱回転部材は、筒状の加熱ローラであることを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項11】
前記バックアップ部材は、回転可能な加圧ローラであることを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項12】
前記バックアップ部材は、回転しないパッド部材であることを特徴とする請求項1に記載の定着装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−95306(P2011−95306A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−246337(P2009−246337)
【出願日】平成21年10月27日(2009.10.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】