説明

定着補強鉄筋およびこれを用いる帯鉄筋の定着構造

【要 約】
【課 題】 耐震性能にすぐれ、かつ施工性のよい帯鉄筋の定着構造を実現する。
【解決手段】 1本の鉄筋を中央で90°に折り曲げ、両端を180°折り返してなる定着補強鉄筋3により帯鉄筋2の重ね合わせ部分を係止して帯鉄筋2を定着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RC造(鉄筋コンクリート構造)における柱部分の帯鉄筋に使用する定着補強鉄筋、およびこれを用いる帯鉄筋の定着構造に関する。
【背景技術】
【0002】
1995年の阪神淡路大震災では、RC造の構造物の破壊が多数報告されているが、破壊したRC柱について、従来多く採用されていた直角フック方式による帯鉄筋の定着不良が指摘されている。当時の土木学会コンクリート標準示方書には、「異形鉄筋を帯鉄筋およびフープ筋に用いる場合には、原則として半円形フックまたは鋭角フックを設けるものとする」と規定されていた。半円形フックは180°折り曲げ、鋭角フックは135°の折り曲げフックである。なお鉄筋末端折り曲げ部の内法直径については、日本建築学会の建築工事標準仕様書5(JASS 5)鉄筋コンクリート工事、あるいは日本工業規格 JIS G 3112等に規定があり、鉄筋の呼び径dが16mm以下の場合、3d以上とされている。
【0003】
半円形フックの例を図8(a)に示す。1は軸方向鉄筋、2は帯鉄筋、21aは半円形フックである。このように曲げ角度が大きいと外側のかぶりコンクリートによる拘束がなくなっても帯鉄筋が開いてしまうことはないので耐震性能上すぐれているが、施工に際しては任意の位置で軸方向鉄筋の外側から帯鉄筋を取り付けることができず、上部から落とし込むしかない。しかし近年は軸方向の主筋にも異形鉄筋の使用が一般的であるため、半円形フックまたは鋭角フックを設けた帯鉄筋では軸方向鉄筋の外側に落とし込む作業がやりにくく、また組み立てにあたって曲げ戻しが必要になる場合もある。
【0004】
一方、図8(b)に示すのは90°に折り曲げる直角フックの例で、21bは直角フックである。鉄筋の弾性を利用して開閉が自在であるため施工がやりやすいので、とかく採用される傾向にある。しかし地震等の交番繰り返し荷重が作用した場合、外側のかぶりコンクリートが剥落してしまうと定着機能が失われる。そこで阪神淡路大震災後の平成8年に土木学会が制定したコンクリート標準示方書耐震設計編では、帯鉄筋の定着手段として前記の鋭角フック以外に、直角フックを採用する場合には機械継手またはフレア溶接を併用することが追加された。図9(a)は機械継手の例で、直角フック21bの重なり部分に金属製のパイプ22をかぶせ、外側からかしめて固定するのである。しかしこれには施工現場でかしめ作業用の特殊な機械を必要とするばかりでなく、施工のやりやすさから継手が特定の面に集中しがちであり、この特定面に対する打設時のコンクリートの行き渡りに不安が生じる。また図9(b)はフレア溶接の例で、23はフレア溶接部である。溶接は、技能の高い溶接工が誠実に行った場合の強度はすぐれているが、施工後の外観を見ただけでは判定できないという欠点があり、機械継手、フレア溶接のいずれも、定着機能と施工性との両者を満足する定着構造とはなりえていない。
【0005】
一方、特許文献1には、リング状の定着具を用いる定着方法が記載されている。図10でこれを簡単に説明する。この実施例は梁、柱等の軸方向鉄筋、あるいは帯鉄筋を連結する中間帯鉄筋の定着構造の例で、1は軸方向鉄筋、2は帯鉄筋(この場合梁の主筋)、4は帯鉄筋(主筋)2を連結する中間帯鉄筋、41はその直角フック部分、5は長円形状の定着具である。図10(a)に示すように直角フック部分41から帯鉄筋2をこえた位置に定着具5を挿入し、矢印に示す方向にこれを傾けて中間帯鉄筋4のL型部分と定着具5で帯鉄筋2をはさんで定着させるのである。この方法では定着具5の先端が直角フック41の先端をくぐることが必要なため、直角フック41の余長が長すぎると取り付けができないなどの施工上の問題点がある。
【特許文献1】特開2003−253814号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来の技術における上記の問題点を解消し、耐震性能と施工性とのいずれをも満足する定着構造を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の帯鉄筋定着用の定着補強鉄筋は、1本の鉄筋を中央で90°に折り曲げ、両端を180°折り返してなり、望ましくは前記両端折り返し部の180°の折り返し方向が90°の折り曲げ面に対して互いに逆向きである前記の帯鉄筋定着用の定着補強鉄筋である。
【0008】
また本発明の帯鉄筋の定着構造は、長手方向の軸方向鉄筋の外側にこれと直角方向の帯鉄筋を巻き付けてなる鉄筋コンクリート柱の鉄筋構造において、前記帯鉄筋の両端を直角方向に曲げて軸方向鉄筋の両側で重ね合わせ、前記の定着補強鉄筋の両端折り返し部の内側に前記帯鉄筋の重ね合わせ部分を係止してなる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、帯鉄筋は直角フックであるから施工性はきわめてよく、かつ定着補強鉄筋を使用することにより半円形フックと同等の耐震性能を実現できるという、すぐれた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下本発明の実施例について図面により詳細に説明する。
【0011】
図1は本発明の定着補強鉄筋の実施例を示す斜視図で、3は定着補強鉄筋、31a、31bはその両端に形成された両端折り返し部である。すなわち、この帯鉄筋定着用の定着補強鉄筋3は、1本の鉄筋を中央で90°に折り曲げ、両端を180°折り返してなり、両端折り返し部31a、31bの180°の折り返し方向が90°の折り曲げ面に対して互いに逆向きになっている。鉄筋を90°、あるいは180°折り曲げるだけの加工であるから、製作簡単、容易である。
【0012】
図2(a)は、帯鉄筋2の直角フック21b部分にこの定着補強鉄筋3を取り付けようとしている状態を示す斜視図である。両端の折り返し方向が逆向きであるから、一方は上方から、他方は下方から取り付ける。取り付けが完了した状態を図2(b)に示す。すなわち本発明の帯鉄筋の定着構造は、長手方向の軸方向鉄筋1の外側にこれと直角方向の帯鉄筋2を巻き付けてなる鉄筋コンクリート柱の鉄筋構造において、前記帯鉄筋2の両端を直角方向に曲げてなる直角フック21bを軸方向鉄筋1の両側で帯鉄筋2と重ね合わせ、前記の定着補強鉄筋3の両端折り返し部31a、31bの内側に前記帯鉄筋2の重ね合わせ部分2、21bを係止してなるものである。
【0013】
図3は本発明の定着構造によるRC造の柱の水平断面図で、各符号はこれまでに説明したものの他、Cはコンクリートである。定着補強鉄筋3が水平方向に90°に折り曲げられていることにより、直角フック21bが帯鉄筋2に対して柱の内方から直角に、すなわち鉄筋の引張り力をフルに発揮する方向から係止されていることがわかる。また定着補強鉄筋3の長さについては、帯鉄筋2と直角フック21bの重なり部分の限度一杯であることが望ましいが、90°曲げの場合の鉄筋末端部の余長については前記のJASS 5によれば鉄筋呼び径dに対して8d以上と規定されているから、定着補強鉄筋3の長さも自ずからこれに見合ったものとなる。
【0014】
帯鉄筋2が定着補強鉄筋3によって柱の内側から拘束されていることにより、地震等の交番繰り返し荷重によって周囲のかぶりコンクリートが剥落した後でも帯鉄筋2の内部コンクリートへの定着は保たれ、軸方向鉄筋の降伏後の圧壊したコンクリートのはらみ出しを防止することができる。
【0015】
図4はこれまでのものとちがって定着補強鉄筋3の両端折り返し部31a、31bの折り返し方向が同方向の場合である。鉄筋の曲げは加工場における冷間曲げであるから、180°といっても多少の誤差があり、また内側になる2本の鉄筋との間にも隙間がある。そこで、折り返しが同方向であると、取り付けた場合、この図のように定着補強鉄筋3が自重によって矢印に示すように垂れ下がる傾向が認められる。これでも定着に関するかぎり支障はないが、図1に示したように折り返し方向を逆向きにすると垂れ下がりが起こらず、水平を保持するので一層好ましい。
【0016】
本発明の定着補強鉄筋の定着効果を確認するため、図5に示すような試験体を製作して矢印の位置に水平方向の交番繰り返し荷重をかけ、変位を測定した。Pは柱、Fはフーチングである。柱Pについては図5における左右の幅が400mm、紙面奥行き方向の幅が800mm、フーチングFからの立ち上がり1650mm、配筋は周囲のコンクリートのかぶり厚を50mmとして縦方向の軸方向鉄筋は図5の左右に各8本配置し、それを囲んで300×700mmの帯鉄筋を200mmピッチで8段配置した。軸方向鉄筋は呼び径19mmのD19と呼ばれる異形棒鋼、帯鉄筋は直径9mmの異形棒鋼である。
【0017】
帯鉄筋の定着部分は本発明の定着補強鉄筋を使用したものと、従来例として図8(b)に示した直角フック、さらに図8(a)に示した半円形フックの3種類を製作した。
【0018】
まず靱性について、鉄筋が降伏したときの変位をδy、最大耐力の80%の荷重に対する変位を終極変位δuとして、靱性率μを
μ = δu/δy
で定義すれば、測定結果は図6のとおりである。すなわち直角フックでは靱性率μは6倍程度であるが、本発明の定着補強鉄筋は半円形フックと同等の7倍を示している。
【0019】
つぎに1サイクル毎の吸収エネルギーを累計したエネルギー吸収容量についてみると、図7に示すように直角フックでは1746kJであるのに対し、本発明の定着補強鉄筋では2334kJであり、これは半円形フックの2399kJにほぼ匹敵する。
【0020】
本発明の定着補強鉄筋の取り付けは、単に両端の折り返し部を帯鉄筋にひっかけるのみできわめて簡単である。そしてその耐震性能は土木学会が推奨する半円形フックと同等である。
【0021】
以上RC造の構造物における柱の例で説明したが、本発明の定着補強鉄筋はRCのラーメン構造における柱や梁、橋脚などにも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の定着補強鉄筋の実施例を示す斜視図である。
【図2】本発明の定着補強鉄筋を取り付ける状況を示す鉄筋構造の部分斜視図である。
【図3】本発明の定着補強鉄筋を使用したRC造の柱の水平断面図である。
【図4】本発明の定着補強鉄筋の他の実施例を示す鉄筋構造の部分斜視図である。
【図5】本発明の定着補強鉄筋の効果を確認するための試験体の正面図である。
【図6】本発明の定着補強鉄筋の効果を示す靱性率のグラフである。
【図7】本発明の定着補強鉄筋の効果を示す吸収エネルギーのグラフである。
【図8】従来の技術における定着構造を示す(a)は半円形フック、(b)は直角フックの場合の鉄筋構造の水平断面図である。
【図9】従来の技術における定着構造を示す(a)は機械継手、(b)はフレア溶接の場合の鉄筋構造の部分斜視図である。
【図10】他の従来の技術における定着構造を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0023】
1 軸方向鉄筋(主筋)
2 帯鉄筋
3 定着補強鉄筋
4 中間帯鉄筋
5 定着具
21a 半円形フック
21b、41 直角フック
22 パイプ
23 フレア溶接部
31a、31b 両端折り返し部
C コンクリート
F フーチング
P 柱

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1本の鉄筋を中央で90°に折り曲げ、両端を180°折り返してなる帯鉄筋定着用の定着補強鉄筋。
【請求項2】
両端折り返し部(31)の180°の折り返し方向が90°の折り曲げ面に対して互いに逆向きである請求項1に記載の帯鉄筋定着用の定着補強鉄筋。
【請求項3】
長手方向の軸方向鉄筋(1)の外側にこれと直角方向の帯鉄筋(2)を巻き付けてなる鉄筋コンクリート柱の鉄筋構造において、前記帯鉄筋(2)の両端を直角方向に曲げて軸方向鉄筋(1)の両側で重ね合わせ、請求項1または2に記載の定着補強鉄筋(3)の両端折り返し部(31)の内側に前記帯鉄筋(2)の重ね合わせ部分を係止してなる帯鉄筋の定着構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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