説明

定着部材、並びにこれを備えた定着装置および画像形成装置

【課題】 電子写真方式の画像形成装置の定着装置に備えられる、トナー離型性、および高速立ち上がり性能を兼ね備えた定着部材を提供すること。
【解決手段】 電子写真方式の画像形成装置の定着装置に備えられた定着部材1であって、基材2の表面に、フロロシリコーンゴムを含む弾性層3を備えており、該弾性層3が更に空隙を有する黒鉛と炭素繊維とを含有していることを特徴とする定着部材1。また、定着部材1は弾性層の表面にフロロシリコーンゴムを含む離型層を備えていてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着部材、並びにこれを備えた定着装置および画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複写機やプリンタ等の電子写真方式の画像形成装置はフルカラー化の傾向にあり、その割合は徐々に高まりつつある。通常、電子写真方式のカラー画像形成装置は、記録媒体上に4色(シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック)のトナー像からなるカラー画像を形成する画像形成部と、形成されたトナー像を記録媒体上に定着させる定着装置とを備えている。定着装置は、記録媒体上のトナー像を加熱する加熱手段と、トナー像を記録媒体上に定着させる定着部材と、定着部材と定着ニップを形成する加圧部材とを備え、記録媒体が定着ニップを通過する際に、トナー像を加熱、加圧して記録媒体上に定着させる。
【0003】
定着部材としては、ベルト形状又はローラ形状のものが知られており、基体となる金属ローラ又は樹脂製のシームレスベルトの上に、耐熱性ゴムなどからなる弾性層を設けたもの、および弾性層の上にさらに離型層を設けたものなどが用いられている。なお、一般に、ローラ形状の定着部材には、加熱手段をローラ内部に組み込んで一体化したもの(加熱定着ローラ)が使用されており、また、ベルト形状の定着部材にもベルトが掛け回されたローラ内部には加熱手段が組み込まれているものがよく知られている。
【0004】
定着部材は、フルカラーの多色トナー像(通常、4色のトナー像)を均一に加熱するため、トナー像に対して柔軟に密着し、効率よく熱を伝えることが必要となる。そこで、定着部材には、柔軟性と耐熱性を兼ね備えたシリコーンゴムを使用することが多い。しかし、シリコーンゴム自身は熱伝導性が低く、トナー像への熱伝導速度が遅くなる場合がある。トナー像への熱伝導が遅くなると、定着部材表面をトナー像の定着温度まで加熱するのに多くの時間が必要となり、高速機の場合には、熱の供給が間に合わなくなる。また、画像形成装置の立ち上がり速度が遅くなってしまうこともある。なお、定着装置の定着部材の温度上昇に対する立ち上がり速度が、電源投入時における画像形成装置全体の立ち上がりの律速になっていることが多い。
【0005】
上記の問題を解決する方法として、弾性層のシリコーンゴムに窒化アルミニウムや高密度炭素繊維などの高熱伝導率の充填剤を配合することで、シリコーンゴムの熱伝導率を向上させた定着部材(例えば特許文献1、2)が提案されている。しかし、熱の供給速度は向上できるものの、定着部材の比重が大きくなり、これに伴って熱容量が大きくなるため立ち上がり時間を短縮させることは困難であった。
【0006】
そこで、針状の第一の熱良導体と、第二の熱良導体により覆われた気泡を弾性層に含むことで、熱伝導率を向上させつつ熱容量を低減したことを特徴とする定着部材(例えば特許文献3)が提案されているが、画像形成装置の立ち上がり時間を短縮させるにはまだ不十分であった。
【0007】
また、多色トナー像を均一に加熱する方法として、柔軟性を確保しながら、トナー離型性の優れたゴム離型層を有する定着用部材(例えば特許文献4)が提案されているが、熱伝導に関する問題は解決されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、トナー離型性、および高速立ち上がり性能を兼ね備えた定着部材、並びにこれを用いた定着装置、および画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究した結果、電子写真方式の画像形成装置の記録媒体上に担持されたトナー像を定着させるための定着部材であって、少なくとも基材と基材表面に積層された弾性層から構成され、該弾性層が少なくとも空隙を有する黒鉛と炭素繊維とを含むフロロシリコーンゴムから構成されている本発明の定着部材を見出した。
すなわち、本発明は以下に記載する通りの定着部材、定着装置及び画像形成装置に係るものである。
【0010】
(1)電子写真方式の画像形成装置における定着装置に備えられる定着部材であって、基材表面にフロロシリコーンゴムを含む弾性層を備えており、該弾性層が更に炭素繊維と空隙を有する黒鉛とを含有することを特徴とする定着部材。
(2)前記弾性層の表面に、前記空隙および炭素繊維が露出していないことを特徴とする(1)に記載の定着部材。
(3)前記弾性層の表面に、フロロシリコーンゴムを含む離型層を備えたことを特徴とする(1)又は(2)に記載の定着部材。
(4)前記弾性層は、フロロシリコーンゴム以外のゴム成分を含まないことを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の定着部材。
(5)(1)〜(4)のいずれかに記載の定着部材を備えたことを特徴とする定着装置。
(6)(5)に記載の定着装置を備えたことを特徴とする画像形成装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、トナー離型性、および高速立ち上がり性能を兼ね備えた定着部材、並びにこれを用いた定着装置、および画像形成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の定着部材の断面図である。 (a)は基材と弾性層のみを有する定着部材、(b)は基材と弾性層の間に中間層を有する定着部材である。
【図2】図1(a)の定着部材における伝熱の説明図である。 (a)は表面に炭素繊維が露出している例、(b)は表面に炭素繊維の露出がない例である。
【図3】本発明の離型層を有する定着部材の断面図である。 (a)は基材と弾性層と離型層のみを有する定着部材、(b)は基材と弾性層と離型層を有し、基材と弾性層の間に中間層を有する定着部材である。
【図4】図3(a)の定着部材における伝熱の説明図である。
【図5】本発明の定着装置の概略図である。
【図6】本発明の画像形成装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の定着部材は、高い熱伝導性を有することで画像形成装置の立ち上がり時間を短縮できることに加え、トナー像に接触する層が柔軟性に富むことで高画質な画像を出力できる。本発明の定着部材は、最外表面に空隙を有する黒鉛と炭素繊維を含まないフロロシリコーンゴムからなる離型層を設けることにより、さらに平滑で柔軟性に富み、記録媒体の種類によらず、高画質な画像を出力できる。なお、本発明における定着部材とは、ローラ、ベルト、シート等を指し、特に明記されない限り形状は限定されない。
【0014】
本発明の定着部材においては、弾性層および離型層に用いるフロロシリコーンゴム中には、ジメチルシリコーンなどのようなフロロシリコーン以外のゴム成分を含んでいてもよいが、トナー離型の観点からはフロロシリコーン以外のゴム成分を含まないことが好ましい。
【0015】
また、本発明における弾性層および離型層に用いるフロロシリコーンゴムは、フロロオルガノシロキサン重合単位のみから構成される純粋な(狭義の)フロロシリコーンゴムでもよく、フロロオルガノシロキサン重合単位以外の重合単位を含んだ広義のフロロシリコーンゴムでもよい。空隙を有するフロロシリコーンゴムは、フッ素樹脂と同等の離型性を保持しつつ、柔軟性に富んだ定着部材を形成できるため、記録媒体の表面形状に依存しない高画質な画像を出力することができる。
【0016】
本発明の定着部材においては、弾性層に含まれる炭素繊維は、弾性層中の熱伝導の経路となり、さらに、弾性層に空隙を有する黒鉛を含有させ、空隙を設けたことにより、弾性層全体としては熱容量が小さくなって温度上昇が早まり、良好な温度立ち上がり特性を有する定着部材を提供できる。さらに、本発明の空隙は黒鉛の膨張によって形成されたものであるため、空隙の周縁が黒鉛で囲まれており熱伝導の経路としても有用である。
【0017】
弾性層の上に空隙を有する黒鉛と炭素繊維とを含まないフロロシリコーンゴムからなる離型層を設けることにより、柔軟性を保持しつつ、定着部材の外表面の離型性がさらに向上した良好な定着部材を形成でき、より高画質な画像を出力することができる。なお、弾性層と離型層にいずれもフロロシリコーンゴムを用いているので、層間の接着性も容易に発現する。
【0018】
本発明の定着部材においては、弾性層に炭素繊維を混入させることにより、弾性層中の空隙を有する黒鉛の周囲に該炭素繊維による熱伝導性の高い経路を形成することができ、定着部材の熱伝導性を改善し、高速の定着動作においても定着部材の温度を保つことができる。さらに、定着装置の電源投入時の立ち上がり時間を短縮することもできる。また、熱伝導率の向上には、熱伝導率の高い充填剤すなわち炭素繊維と黒鉛との接触状態を向上させることが非常に重要である。本発明では、定着部材のニップ部における加圧圧縮時の変形により、炭素繊維と黒鉛との熱的接触性が向上することを利用して、熱伝導率の可変性(加圧圧縮時に熱伝導率が変化して高くなること)を実現したものである。炭素繊維は、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維等どのようなものでもよいが、より熱伝導率を高めるためにはピッチ系炭素繊維が好ましい。
【0019】
本発明の定着部材を備えた定着装置、さらに、この定着装置を備えた画像形成装置は、上述の本発明の定着部材の特性を有することができ、定着装置におけるトナーの離型性の向上、電源投入時からの立ち上がり時間の短縮など、好適な画像形成を可能とする。
【0020】
本発明の実施形態を、図面を参照にして具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内で、変更、改良などをすることができる。
【0021】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1の定着部材の構成を示す断面図である。図1(a)は基材と弾性層のみを有する定着部材である。なお、実施形態1の定着部材は、ローラ状の形状をしているが、本発明における定着部材は、ローラ、ベルト、シート等どのような形状でもよい。図1(a)に示す定着部材1は、基材2の表面に、図示しないプライマー層を介して、炭素繊維と空隙を有する黒鉛を含むフロロシリコーンゴムで構成された弾性層3を備えている。ここで、弾性層3の厚さは、好ましくは0.1〜4mm、さらに好ましくは0.5〜2mmである。厚さが0.1mm未満では十分な定着ニップ幅を形成できない場合があり、厚さが4mmを超えると熱伝導性の低下や、熱容量の増大を招き、画像形成装置の高速化や立ち上がりの迅速性に影響することがある。
【0022】
図1(b)は、基材2と弾性層3の間に中間層4を有する定着部材である。定着部材は、トナー像の接する面(記録媒体の接する面でもある。)が炭素繊維と空隙を有する黒鉛とを含むフロロシリコーンゴムで構成されていれば、例えば、図1(b)のように、本発明における弾性層3とは異なる材料からなる中間層4を備えていてもよい。この場合は、中間層4が適度な弾性を有していれば、炭素繊維と空隙を有する黒鉛とを含むフロロシリコーンゴムからなる弾性層は、上記の図1(a)における厚さよりも薄くすることができる。中間層4は、従来から知られている弾性層を利用することができる。この場合、中間層4は、熱伝導が良好で熱容量の小さい材料で形成することが好ましい。具体的な中間層4の素材としては、ジメチルシリコーンゴム、メチルフェニルシリコーンゴム、フロロシリコーンゴム等が挙げられ、弾性層3との密着性の観点からフロロシリコーンゴムが好適に用いられる。
【0023】
図2は、図1(a)における定着部材の微細構造と伝熱の様子を表す説明図である。この定着部材10では、基材16の上部に弾性層11が形成されている。弾性層11は、炭素繊維13と空隙を有する黒鉛14を含むフロロシリコーンゴム12からなっており、炭素繊維を含むフロロシリコーンゴムに多数の空隙を有する黒鉛14を含有している。空隙は、黒鉛が膨張することによって形成されたものである。なお、定着部材10の外径を調整するために弾性層11を研磨すると、図2(a)に示すように弾性層11の最外表面には炭素繊維13や空隙を有する黒鉛14が露出しやすい。最外表面が平滑になり定着画像におけるムラを軽減しやすいという観点からは、図2(b)に示すように炭素繊維13や空隙を有する黒鉛14が弾性層11'の最表面に露出していない構造とすることがより好ましい。一般に、弾性層11の表面を研削しなければ、弾性層11は図2(b)に示すような構造になっている場合が多いので、フロロシリコーンゴムの成型時に外径を考慮して弾性層11を形成するとよい。
【0024】
炭素繊維13は、フロロシリコーン12や空隙を有する黒鉛14に比べて熱伝導性がよいので、弾性層11は、全体として熱伝導性が良好である。特に、弾性層11中に空隙を有する黒鉛14含有させ、空隙を形成することにより、炭素繊維13が空隙を有する黒鉛14の周囲に沿って配向するため、短い炭素繊維13同士が接触して熱伝導性の高い経路となる。さらに、空隙を有する黒鉛14は、層間に気体層を内包しているものの表面の熱伝導率は炭素繊維13と同等であるため、熱伝導の経路を形成する効率が向上する。この熱の伝導路を通って、基材16側から弾性層11外表面に熱が移動しやすくなる。図2における符号15として示す曲線の矢印でこの熱の流れを模式的に表している。このように炭素繊維13により熱伝導性をよくするためには、弾性層11中の炭素繊維13の割合を、好ましくはフロロシリコーンゴム100重量部に対して炭素繊維1〜50重量部、特に好ましくは5〜40重量部とすればよい。なお、炭素繊維13の割合が1重量部より少ないと、熱伝導性の向上が見込めないので好ましくない。炭素繊維13の割合が50重量部を超えると、空隙の形成による弾性の発揮が不十分になったり、高価になったりするので好ましくない。なお、さらに、弾性率の高い炭素繊維13により弾性層11が補強されることにより、弾性層11の圧縮永久歪みが低減され、弾性層11の寿命延長効果も得られる。なお、炭素繊維としては、PAN系炭素繊維よりもピッチ系炭素繊維の方が熱伝導性に優れるため好ましい。
【0025】
弾性層11中の空隙を有する黒鉛14は、炭素繊維含有フロロシリコーンゴムに十分な弾性を付与するとともに、弾性層11の熱容量を低下させている。空隙は、通常は空気や窒素などの気体を含む空間であり、フロロシリコーン12や炭素繊維13に比べ非常に熱容量が小さい。この為、弾性層11中の空隙の比率を大きくすれば、弾性層11の熱容量は小さくなり、定着装置の立ち上がり時間(定着装置が電源停止して放置されていた状態から、電源投入され加熱手段が定着部材を加熱して、定着部材が使用可能な温度になるまでの時間)が短くなる。本発明における弾性層の空隙率は、15〜60%とすることが好ましい。空隙率が小さすぎると弾性層の熱容量が大きくなって定着装置の立ち上がり速度が遅くなったり、十分な柔軟性を確保できなかったりする。一方、空隙率を大きくしすぎると、十分な強度や弾性を保てなくなることがある。また、弾性層表面に空隙が現れやすくなるので、弾性層の表面が平滑になり難く、高画質の画像が得られにくい。なお、本発明における空隙率ε(%)とは、空隙を含む材料全体の密度をρ1、空隙を含まないマトリックス部分(シリコーンゴム+炭素繊維)の密度をρ2とした場合、下記式で表される値のことを指す。
ε={(ρ2−ρ1)/ρ2}×100
【0026】
本発明における空隙を有する黒鉛は、一般的に膨張黒鉛と呼ばれる公知の物質を用いて、公知の方法にて製造される。膨張黒鉛(熱膨張性黒鉛)とは、一般的には、天然の鱗片状グラファイト、熱分解グラファイト、キッシュグラファイト等を強酸および酸化剤により処理し、その後インターカレーションによってグラファイト層間に熱により気化する物質を挿入したものである。例えば、巴工業よりGraftech社製の「GRAFGUARD(R)160−50N」、「GRAFGUARD(R)160−80N」等が市販されており、入手可能である。
この膨張黒鉛を加熱してグラファイト層間に挿入した物質を気化させることにより黒鉛の層間が広がって空隙ができる。
【0027】
本発明においては、フロロシリコーンゴムに膨張黒鉛を配合した後に加熱して膨張黒鉛を膨張させて空隙を形成することができる。また、加熱して膨張させてある既膨張黒鉛(空隙を有する黒鉛)をフロロシリコーンゴムに配合してもよい。既膨張黒鉛をフロロシリコーンゴムに配合しても黒鉛の層間の空隙を有した構造は保持される。既膨張黒鉛は、グラファイト製品の原料として使われているため容易に入手でき、そのうえ不可逆な膨張が完了しているためゴムの加硫条件が自由に選択できる。また、膨張に伴うガスの発生もないので、ゴムの加硫に影響を及ぼすこともなく好都合である。さらに、混練や加硫といった成型工程で体積や形状が変化しないため、膨張前の膨張黒鉛をゴムに配合するよりも寸法精度の点で優れている。
膨張黒鉛単独で最大限に膨張させる場合は、200℃以上で加熱して膨張させることが好ましい。また、フロロシリコーンゴムに膨張黒鉛を配合した後に加熱して膨張黒鉛を膨張させて空隙を形成する場合は、ゴムの加硫条件との兼ね合いがあるので、例えば170〜190℃で10〜30分加熱すればよく、ゴムの加硫と同時に行っても良い。
【0028】
黒鉛の結晶は六方晶系であり、熱伝導の観点では異方性が著しく大きい。すなわち、層に平行な方向の熱伝導率は、層に垂直な方向に対して数十倍〜数百倍となる。このため、ゴム中で炭素繊維とともに分散させた際、熱伝導率の高い炭素繊維と黒鉛表面の接触が増えることで、定着部材全体の熱伝導率が向上すると考えられる。
【0029】
本発明に用いられる膨張黒鉛は、膨張前の平均粒径が5〜1000μmの範囲のものを用いることが好ましい。より好ましくは10〜500μm、さらに好ましくは30〜400μmである。これより小さいものは、ゴムとの混練時に粘度の増大が大きく加工性が劣ってしまう。また、これより大きいものは、成型した定着部材の表面性(表面粗さ)が悪くなり、定着画質に悪影響を及ぼしてしまう。
【0030】
本発明の目的を達するには、フロロシリコーンゴム100重量部に対して膨張黒鉛又は既膨張黒鉛を1〜50重量部、より好ましくは3〜20重量部の範囲で添加することが必要である。添加量が1重量部未満の場合には熱伝導率の向上が見られない。また50重量部を超える場合には成型した定着部材の強度や表面性(表面粗さ)の低下を招くため好ましくない。
【0031】
本発明におけるフロロシリコーンゴムは、フロロオルガノシロキサン構造(重合単位)、特に下記一般式(1)で表される構造(重合単位)を有するフロロオルガノシロキサン構造(重合単位)を主成分とする組成物が好ましく、その中には本発明の効果を損なわない範囲であれば、目的に応じて充填剤、老化防止剤、着色剤、可塑剤、ワックス、オイル等の添加剤を任意に添加することができる。なお、オルガノシロキサン構造(重合単位)は一般式(1)以外の重合単位、例えば一般式(2)または一般式(3)で表される構造(重合単位)などを有していても構わない。
【0032】
【化1】

(式中、nは0〜20の整数を表す。)
【0033】
【化2】

(式中、R1、R2は、それぞれ脂肪族不飽和結合を有さない非置換または置換の一価炭化水素基であるが、互いに同一の基であっても、異なる基であってもよい。特に炭素数1〜8のものが好ましく、具体的にはアルキル基、シクロアルキル基、アリール基などが挙げられ、特にメチル基、エチル基、フェニル基が好ましい。)
【0034】
【化3】

(式中、R1は一般式(2)におけるR1と同じであり、R3は一価の脂肪族不飽和炭化水素基であり、具体的にはビニル基、アリル基、エチニル基などの炭素数2〜3のアルケニル基およびアルキニル基が挙げられ、特にビニル基が好ましい。)
【0035】
フロロシリコーンゴム製造用の前記重合単位を有するポリオルガノシロキサンの性状としては、ミラブルでも、液状でも用いることができるが、部材の成型という観点からは、液状タイプが好適に用いられる。
【0036】
本発明における炭素繊維は、プリカーサー(炭素繊維の原料を繊維化したもの)を炭素化して得られるものであり、製法の条件によって様々な弾性率や強度、熱伝導率が得られる。その一例として、ピッチ系の炭素繊維としては、例えばGRANOC(R)ミルドXN−100−05M(平均長さ50μm)、XN−100−15M(平均長さ150μm)(日本グラファイトファイバー社製)等が挙げられる。PAN系の炭素繊維としては、例えば、トレカ(R)ミルドファイバーMLD−30、MLD−300、MLD−1000(東レ社製)、パイロフィルチョップドファイバー(三菱レイヨン社製)などが挙げられる。ピッチ系の炭素繊維は、熱伝導率500W/mK程度とされているが、PAN系の炭素繊維の熱伝導率は、最大でも50W/mK程度である。PAN系の炭素繊維に比べて1桁以上高い熱伝導率をもつピッチ系の炭素繊維を用いることにより、本発明の構成に必要な熱伝導率を良好に確保することができる。
また、炭素繊維は平均長さが150μm以下であることが好ましい。これ以上長い炭素繊維を添加すると、粘度が著しく上昇したり、成型品の表面性が損なわれたりするので、好ましくない。
【0037】
(実施形態2)
本発明の実施形態2の定着部材を図3に示す。図3は、図1と同様に、本発明の定着部材である定着ローラの断面図である。図3(a)の定着部材1は、図示しないプライマー層を介して、炭素繊維と空隙を有する黒鉛含むフロロシリコーンゴムで構成された弾性層3の表層に、炭素繊維および空隙を有する黒鉛を含まないフロロシリコーンゴムで構成された離型層5を設けてある。ここで、離型層5の厚さは、好ましくは1〜100μm、さらに好ましくは10〜100μmである。厚さが1μm未満では離型層5の耐久性が劣り、また定着部材1表面を十分平滑にすることが難しくなる。一方、厚さが100μmを超えると伝熱抵抗が大きくなってしまうため好ましくない。
【0038】
なお、図3(a)は、弾性層3が単層の空隙を有する黒鉛と炭素繊維を含有するフロロシリコーンゴムから構成された定着部材の一例だが、弾性層3と基材との間には、例えば図3(b)のように異なる材料からなる中間層4が設けられていても構わない。
【0039】
実施形態2においても、弾性層3の厚さ、材質、中間層4の材質などは、実施形態1における定着部材と同じようにすればよい。
【0040】
図4は、図2と同じように、本実施形態の定着部材10'の一部を拡大して熱伝導の状態を説明する図である。定着部材10'は、図2における定着部材10と同じ基体16上の弾性層11の表面に、フロロシリコーンゴム12のみからなる(実質的に炭素繊維13と空隙を有する黒鉛14を含まないという意味)離型層17を備えている。それゆえ、本実施形態の定着部材10'は、実施形態1で説明したような、良伝熱性や、定着装置の立ち上がりの良さを備えている。そして、離型層17は、弾性層11の表面を覆い、炭素繊維13や空隙を有する黒鉛14をトナー像と直接触れさせないようにして、定着部材表面を滑らかにして、トナーの離型性(耐オフセット性)を向上させている。また、弾性層11の上に離型層17を設けたことで、トナー像との接触面の離型性や記録媒体への追従性が向上することで、定着画像の画質も向上させることが可能となる。
【0041】
(実施形態3)
本発明の実施形態3は、本発明の定着部材を備えたローラ定着装置である。図5は、実施形態3の定着装置の概略図を表している。ローラ定着装置20は、本発明の定着部材である定着ローラ21の内部に、加熱手段であるハロゲンヒータ22を内蔵している。定着ローラ21には、温度センサー23が配置されている。加圧ローラ24は、定着ローラ21に圧接されており、記録媒体Pが通過してトナー像Tが定着されるニップ部を形成している。定着ローラ21は、基材である芯金25の表面に弾性層26が形成されており、実施形態1における定着部材と同じ構造である。加圧ローラ24は、芯金27の表面に耐熱性ゴムで形成された弾性層28と離型層29を順次設けてある。
【0042】
このローラ定着装置20は、図2を用いて説明したように、実施形態1に示すような本発明に係る定着部材21を採用しているので、定着部材21は、トナーの離型性が良く、高画質の定着画像が得られる。また、定着部材21は、ハロゲンヒータ22から弾性層26表面までの熱伝導がよく、定着ローラ21の熱容量も小さいので、定着装置起動時の立ち上がりが速く、高速の定着操作においても効果的に追随して、定着を行うことができる。さらに、このローラ定着装置20は、加圧ローラ26にも離型層29を設けており、加圧ローラ29側へのトナーオフセットも防止している。
【0043】
(実施形態4)
本発明に係る画像形成装置を実施形態4として説明する。図6は、本発明に係る定着装置を組み込んだ本発明の実施形態4に係る画像形成装置の概略図である。図6において、画像形成装置30は、トナー像を形成して記録媒体に転写する画像形成部と、記録媒体に転写された画像を定着させる定着装置とを有している。画像形成部は、静電潜像が形成される像担持体31、像担持体31に接触して帯電処理を行う帯電ローラ32、レーザービーム等の露光装置33、像担持体31上に形成された静電潜像にトナーを付着させる現像ローラ34、帯電ローラ32にDC電圧を印加するための電源35、像担持体31上のトナー像を記録媒体Pに転写処理する転写ローラ36、転写処理後の像担持体31をクリーニングするためのクリーニング装置37、像担持体31の表面電位を測定する表面電位計38等を備えている。定着装置39は、本発明に係る定着装置であり、加熱手段を含む定着ローラ40および加圧ローラ41から構成されている。
【0044】
この実施形態の画像形成装置30では、回転する像担持体31の感光層を帯電ローラ32にて一様に帯電させた後に、レーザービーム等の露光装置33で露光して静電潜像を形成し、この静電潜像に現像ローラ34によってトナーを付着させて現像し、トナー像として記録媒体P上に転写する。そして、転写されたトナー像を有する記録媒体Pを定着ローラ40および加圧ローラ41からなる定着装置39のニップ部で圧接し、記録媒体P上に付着しているトナー像を定着ローラ40の熱により軟化させつつ加圧して記録媒体P上に定着させ、排紙部へと排紙するように構成されている。この場合は、定着ローラ40として、本発明の定着部材が好適に用いられる。なお、図6の構成概略図では、定着部材はローラ形状であるが、ベルト形状でもよい。
【0045】
[実施例]
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
[実施例1]
(定着ローラの作製)
上記一般式(1)で表される構造を主成分とする2液の付加硬化型フロロシリコーンゴム100重量部(以下、重量部を部と表記する。)に対して、ピッチ系炭素繊維XN−100−05M(日本グラファイトファイバー社製)を40部、GRAFGUARD(R)160−50N(巴工業社製)(平均粒径300μm)をあらかじめ200℃で60分間加熱して膨張させた既膨張黒鉛を3部配合したゴム組成物を調製した。次いで、アルミニウム製で内面に環状のリブを設けて補強した厚さ0.4mmの芯金(基材ローラ)の表面にシリコーンゴム用プライマーを厚さが0.5μmとなるように塗工した。プライマー処理した芯金をマンドレルに固定し、弾性層の厚さが2mmとなるように前記ゴム組成物を金型との間隙に注入した。その状態で130℃×5分間の1次加硫を行ない、芯金の表面に弾性層を形成した。その後、上記フロロシリコーンゴムのみを弾性層の表面に50μm塗布し、175℃×10分および200℃×4時間の加硫工程を経て定着ローラを得た。
【0046】
(トナーに対する離型性と定着画像の画質の評価)
得られた定着ローラを、下記の代表的な市販の画像形成装置の定着ユニットの定着ローラと交換して、定着ローラのトナーに対する離型性(耐オフセット性)と定着画質の評価を行った。
評価条件は以下の通りである。
トナー画像形成装置:RICOH imagio MP C4500((株)リコー製)
トナーの体積平均粒径:6.0μm
画像形成原稿:ベタ画像(ブラック、600dpi、100%)
記録媒体:再生紙、マイリサイクルペーパーGP、A4サイズ((株)リコー製)
定着装置:RICOH imagio MF4570の定着ユニット((株)リコー製)
定着枚数:10,000枚。
【0047】
(トナーオフセット)
定着ローラの離型性の評価は、下記の基準で行った。定着装置における定着枚数が10,000枚に達した時点で、定着ローラの表面を目視で観察してトナーオフセットの有無を確認し、また、定着装置に白紙を通紙して、定着ローラ表面から白紙に転写されたトナーの有無を目視により確認した。
トナーオフセット、白紙上のトナー、ともになし : ◎
トナーオフセット、白紙上のトナー、いずれかに微量あり : ○
トナーオフセット、白紙上のトナー、ともにあり : ×
実施例1の定着ローラの評価結果は◎であった。
【0048】
(定着ローラの立ち上がり時間の評価)
トナーに対する離型性と定着画像の画質の評価に用いたものと同じ定着ユニットに本発明の定着ユニットを装着し、定着ユニットの立ち上がり時間を測定した。定着ユニットの立ち上がり時間測定は、室温で一晩、電源OFFにしておいた定着ユニットに電源を投入して、定着ローラ表面が160℃に到達するまでの時間(秒)を測定した。なお、この定着ユニットの加熱源は、1,000Wのハロゲンヒータである。
実施例1の定着ローラの立ち上がり時間(温度上昇時間)は、23秒であった。
【0049】
[実施例2]
実施例1において、あらかじめ加熱して膨張させた膨張黒鉛の配合量を5部に変更した以外は、実施例1と同様にして定着ローラを作製した。その後、作製した定着ローラのトナーに対する離型性、および立ち上がり時間を評価した。
【0050】
[実施例3]
実施例1において、あらかじめ加熱して膨張させた膨張黒鉛の配合量を10部に変更した以外は、実施例1と同様にして定着ローラを作製した。その後、作製した定着ローラのトナーに対する離型性、および立ち上がり時間を評価した。
【0051】
[実施例4]
実施例1において、あらかじめ加熱して膨張させた既膨張黒鉛の代わりに、あらかじめ加熱していない膨張黒鉛を5部配合した以外は、実施例1と同様にして定着ローラを作製した。その後、作製した定着ローラのトナーに対する離型性、および立ち上がり時間を評価した。
尚、膨張黒鉛は、フロロシリコーンゴムの後加熱(175℃×10分)の際に膨張し、得られらた定着ローラの弾性層は空隙を有する黒鉛を含有していた。
【0052】
[実施例5]
実施例1における1次加硫を175℃×10分で行い、次いでフロロシリコーンゴムを塗布せずに200℃×4時間の2次加硫を実施した以外は、実施例1と同様にして定着ローラを作製した。その後、作製した定着ローラのトナーに対する離型性、および立ち上がり時間を評価した。
【0053】
[比較例1]
実施例1において、あらかじめ加熱して膨張させた既膨張黒鉛の代わりに、炭酸カルシウムの粉体でコーティングした樹脂バルーンMFL−100CA(松本油脂製薬社製)を5部配合した以外は、実施例1と同様にして定着ローラを作製した。その後、作製した定着ローラのトナーに対する離型性、および立ち上がり時間を評価した。
【0054】
[比較例2]
実施例1において、膨張黒鉛を配合しなかった以外は、実施例1と同様にして定着ローラを作製した。その後、作製した定着ローラのトナーに対する離型性、および立ち上がり時間を評価した。
【0055】
[比較例3]
実施例1において、炭素繊維を配合しなかった以外は、実施例1と同様にして定着ローラを作製した。その後、作製した定着ローラのトナーに対する離型性、および立ち上がり時間を評価した。
【0056】
[比較例4]
実施例1において、2液の付加硬化型フロロシリコーンゴムの代わりに、2液の付加硬化型ジメチルシリコーンゴムDY35−2083(東レ・ダウコーニング社製)を用いた以外は、実施例1と同様にして定着ローラを作製した。その後、作製した定着ローラのトナーに対する離型性、および立ち上がり時間を評価した。
【0057】
以上の評価結果を、定着部材の構成とともに表1にまとめて示した。
【0058】
【表1】

【0059】
[結果の考察]
離型性については、フロロシリコーンゴムの離型層を有する実施例1〜4が特に優れている。フロロシリコーンゴムの離型層をもたない実施例5においては、微量のトナーオフセットが見られたが、実使用上は問題とならないレベルであった。しかし、ジメチルシリコーンゴムを用いた比較例4では、著しいトナーオフセットが発生した。これにより、フロロシリコーンゴムの離型性向上効果、特に炭素繊維や空隙が表面に露出していないフロロシリコーンゴムの離型層による離型性向上の効果が確認できた。
【0060】
立ち上がり時間(定着ローラの温度上昇時間)に関しては、実施例1〜5については、160℃まで到達する昇温時間が30秒以内に収まったが、膨張黒鉛と同様に部材の熱容量を減らすために炭酸カルシウムでコーティングした樹脂バルーンを配合した比較例1では、十分な改善効果が見られなかった。これにより、空隙周囲の熱伝導率が高いほうが、部材全体の熱伝達に有効であることが確認できた。
【0061】
一方、膨張黒鉛を含まない比較例2は温度上昇時間が44秒、炭素繊維を含まない比較例3は67秒と長くなった。これにより、ピッチ系の炭素繊維と膨張黒鉛を組み合わせた場合に、立ち上がり時間の短縮に有効であることが確認できた。
【0062】
上記の結果から分かるように、本発明の定着部材は、トナーとの離型性に優れており、且つ定着装置の立ち上がり時間を短くすることができ、特にこれらの性能のバランスを取りながら最適な定着部材とすることができる。
【符号の説明】
【0063】
1 定着部材
2 基材
3 弾性層
4 中間層
5 離型層
10、10' 定着部材
11、11' 弾性層
12 フロロシリコーンゴム
13 炭素繊維
14 空隙を有する黒鉛
15 熱の流れ
16 基材
20 ローラ定着装置
21 定着ローラ(定着部材)
22 ハロゲンヒータ(加熱手段)
23 温度センサー
24 加圧ローラ
25 芯金(基体)
26 弾性層
27 芯金(基体)
28 弾性層
29 離型層
30 画像形成装置
31 像担持体
32 帯電ローラ
33 露光装置
34 現像ローラ
35 電源
36 転写ローラ
37 クリーニング装置
39 定着装置
40 定着ローラ
41 加圧ローラ
【先行技術文献】
【特許文献】
【0064】
【特許文献1】特開2005−292218号公報
【特許文献2】特開2006−133576号公報
【特許文献3】特開2008−191557号公報
【特許文献4】特開2006−18173号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子写真方式の画像形成装置における定着装置に備えられる定着部材であって、基材表面にフロロシリコーンゴムを含む弾性層を備えており、該弾性層が更に炭素繊維と空隙を有する黒鉛とを含有することを特徴とする定着部材。
【請求項2】
前記弾性層の表面に、前記空隙および炭素繊維が露出していないことを特徴とする請求項1に記載の定着部材。
【請求項3】
前記弾性層の表面に、フロロシリコーンゴムを含む離型層を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の定着部材。
【請求項4】
前記弾性層は、フロロシリコーンゴム以外のゴム成分を含まないことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の定着部材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の定着部材を備えたことを特徴とする定着装置。
【請求項6】
請求項5に記載の定着装置を備えたことを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−112895(P2011−112895A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−269725(P2009−269725)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】