説明

定着部材およびそれを用いた定着器

【課題】
定着部材の表面層(2)に放射線により架橋されたフッ素樹脂を形成することにより、定着部材(18)の耐久性が向上するが、架橋の処理温度が300℃を超えるため、従来のAlの芯金(1)と代替可能な軟化温度の高い芯金からなる定着部材を得る。また、架橋されたフッ素樹脂を低温でAlの芯金(1)の表面層(2)に形成した定着部材(18)を得る。これにより撥水性、離型性、耐磨耗性などに優れ、長期間にわたり良好な定着性能を有する定着器を提供する。
【解決手段】
硬度が減少する温度が500〜600℃であるステンレス鋼からなる基板(1)に、フッ素樹脂の融点以上に加熱した状態で放射線を照射して架橋された放射線架橋フッ素樹脂を含む表面層(2)を形成した定着部材(18)による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
放射線架橋フッ素樹脂を含有する定着部材およびそれを用いた定着器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フッ素樹脂は表面エネルギが小さいため、化学的に安定で撥水性、離型性等を要求される表面に用いられてきた。しかし、欠点は機械的強度が弱いことであった。その理由は、−C−F結合を基本とする構造では、フッ素はC−C−Cの主鎖の側鎖にしか結合できず、線状の構造しか取り得ず、高強度が期待できる2次元、3次元的構造を形成できないためである。そこで、これまで強度を要求される場所には、例えばNi、Cr等の金属をマトリックスとした中にテフロン(登録商標)を分散させたような複合材料の形で用いられてきた。この方法では、耐磨耗性は格段に向上するものの、基本的にフッ素樹脂の機械特性は弱いままであるため所望の寿命を満足は出来ず、冒頭で述べたようなフッ素の特性を十分発揮できるような材料にはなりにくかった。
【0003】
プラスチックスの改質には放射線照射が多用されて、ある種の材料にはその効果が現れている。当然、フッ素樹脂にも試みられていたが、特性が劣化し改良の兆しは見られなかった。
【0004】
ところが、近年、特殊な条件下で放射線処理をすると、フッ素が2次元的に架橋することがわかり、冒頭で述べた特徴を生かしながら、機械的強度が向上することがわかった(例えば、非特許文献1、2参照)。特に、摺動に対して大幅な改良がみられることがわかった。
【0005】
また、電離性放射線を照射して架橋させたPTFEを含むフッ素樹脂で形成される離型層を静電塗装した定着ロールやベルトは、耐磨耗性に優れていることが知られている(例えば、特許文献1および2参照)。
【0006】
放射線を利用し、連鎖重合性官能基を有する化合物を感光層構成物質を起点としグラフト重合させることで、電子写真感光体の表面改質を行うことが開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
さらに、フッ素樹脂の改質については、種々の報告がある(例えば、特許文献4〜6参照)。
【0008】
【非特許文献1】田畑米穂;放射線と産業、No.102(2004)pp103〜106
【0009】
【非特許文献2】草野広男;日立電線、No.20(2001-1)pp153〜158
【0010】
【特許文献1】特開2003−140494
【0011】
【特許文献2】特開2002−023539
【0012】
【特許文献3】特開2004−101546
【0013】
【特許文献4】特開2004−315833
【0014】
【特許文献5】特開2004−018816
【0015】
【特許文献6】特開2004−010717
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上記状況の中、プリンタの定着器には撥水性、離型性に加えて耐磨耗性が要求される部位が多く見られる。当該部位に従来のフッ素樹脂を用いると、寿命が短いため、部品交換を頻繁にせざるをえないのが現状であり、画期的な改良が待望されていた。
【0017】
フッ素樹脂は表面エネルギが低いため摩擦係数が小さい、離型性が良い、撥水性が良好という優れた特徴がある。機械的強度或いは離型性を要求されるプリンタの部品に用いるためには、フッ素樹脂そのものの強度を改良させた材料を探索するという課題があった。
【0018】
本課題の対策の根本は放射線架橋フッ素樹脂を適用することである。
【0019】
放射線架橋フッ素樹脂は従来品と比較すると大幅な寿命の改善が図れるが、高速レーザープリンタのように印刷速度が毎分100〜600頁で多量の印刷を行う機種に使用される定着部材には、耐摩耗性の大幅な改善が要望されていた。
【0020】
また、フッ素樹脂の改質方法は種々の報告があるが、定着器の特性を満たすには種々の問題を解消する必要があるため十分な検討は行われていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、硬度が減少する温度が500〜600℃であるステンレス鋼からなる基板に、フッ素樹脂の融点以上に加熱した状態で放射線を照射して架橋された放射線架橋フッ素樹脂を含む表面層を形成したことを特徴とする。
【0022】
また、上記ステンレス鋼がSUS304、SUS316、SUS410、SUS420またはSUS430から選ばれた基板であることを特徴とする。
【0023】
また、フッ素樹脂を含む溶液をAl基板に向けて飛翔させるとともに、飛翔中の前記フッ素樹脂に放射線を照射して、前記基板に放射線架橋フッ素樹脂を含む表面層を形成したことを特徴とする。
【0024】
また、前記飛翔させる方法が、アトマイズ法またはスパッタリング法であることを特徴とする。
【0025】
また、放射線架橋フッ素樹脂を微粒子化した後、Niを含むめっき液に分散し、薄膜複合めっき法でAl基板の表面に、前記放射線架橋フッ素樹脂を含むめっき層を形成したことを特徴とする。
【0026】
また、上記のいずれかに記載の定着部材を設けた定着器であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、定着部材の表面層に放射線により架橋されたフッ素樹脂を形成したため、定着部材の耐久性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明は、レーザービームプリンタ、複写機またはインクジェットプリンタ等の画像形成装置に用いられるフッ素樹脂を主成分とするフッ素樹脂被覆部材において特に有効である。しかし、実用化にはいくつかの課題がある。
【0029】
第1の課題は、フッ素樹脂を300℃以上の高温で放射線架橋反応させるため、これまで定着器に多く採用されていた軟化点220℃近傍のAl合金をそのまま利用するには難があるということである。定着器には加工性、低コスト化の観点からAl合金が多用されているが、芯金を高温でも強度を保つことができる材料、言い換えると、300℃以上の軟化点をもつ材料、熱膨張が小さく、高温強度の高い材料に変更し、かつ撥水性、離型性、耐磨耗性などに優れた部材を作製することが要求されていた。
【0030】
一方、加工性、低コスト化の観点から多用されるAl合金をそのまま利用できることも望まれているため低温で成膜する手法の確立が期待されていた。Al合金は220℃を超えると強度が急激に低下するため、Al合金からなる基材と一体でフッ素樹脂表面の改質を行うには低温で行うことが重要である。
【0031】
第2の課題は、レーザープリンタ、複写機の加熱ローラや加圧ローラ、感光体のコート層またはインクジェットプリンタのインク乾燥(定着)にフッ素樹脂を適用する場合は、高速熱応答性及び省エネルギの観点から薄層化が必要なことである。
【0032】
従来の定着器の加熱ローラのフッ素樹脂層は強度面から数10〜数100μmと厚くコートされていた。しかし、フッ素樹脂は熱伝導率がAlより2桁以上小さいため、表面温度を140〜180℃にするには、Alを200〜250℃に加熱しなければならず寸法精度が狂い、かつ、用紙が加熱ローラに接触すると熱を奪われるため、表面温度が下がり、回復するまで時間を要していた。
【0033】
このため、薄くて強度が確保できるようにフッ素樹脂の耐磨耗性などの耐久性を改質する方法が必要とされていた。しかし、薄いコート層の加熱ローラを用いる場合、後述のバックアップローラとのギャップ寸法精度を厳しくしないと、定着むらを生じやすいという問題もあった。
【0034】
また、電離性放射線を照射して架橋させたPTFEを粉砕して静電塗装する方法や、架橋させたフッ素樹脂チューブを被覆する方法では、工程が多く定着ロールの作製に時間がかかり、薄層化が困難であった。さらに、静電塗装後に高温で焼成していたためAl芯金が熱変形する懸念があった。
【0035】
本発明の実施例を図を用いて以下に説明する。なお、加熱ローラまたは感光体の表面層に適用する場合は、それぞれの表面に放射線架橋フッ素樹脂層を所望の厚みに形成することができる。
[実施例1]
まず、加熱ローラの作製法について検討した。図1に示すように所望の寸法に加工したプラスチック用金型材であるSUS420からなる円筒1に、予め、アルカリ脱脂、電解脱脂からなる表面処理を施し、フッ素樹脂を膜厚15μmになるように塗布した。引き続き、図示しない高温で放射線照射可能な装置を用い、Ar雰囲気中でフッ素樹脂の溶融温度域の330℃に加熱して、フッ素樹脂を膜厚15μmになるように塗布したSUS420からなる円筒1を回転させながら、線量率2kGyで1h、コバルト60、γ線(60Coγ線)を照射し、放射線架橋フッ素樹脂を含む表面層2を形成した加熱ローラを得た。
【0036】
SUS420は、軟化点が高く、Alよりも耐熱性に優れるため、300℃以上の高温にさらされても、寸法精度の狂いがないため、後加工を省略できた。円筒1をSUS304、SUS316、SUS410およびSUS430に変えても同様の効果が得られた。
【0037】
フッ素樹脂は炭素の直鎖で構成される分子構造のため樹脂とした時に緻密にならず、強度が低い。この欠点を克服するためには炭素原子を架橋させた分子構造にする必要がある。そこでフッ素樹脂に高エネルギを注入して架橋を促進する必要があるが、本実施例においては、融点近傍の高温に加熱して放射線を照射して炭素同志の架橋を促進させて、強度向上を図った放射線架橋フッ素樹脂膜を加熱ローラ上で製造させるために、芯金である円筒1に300℃以上の軟化点をもつ、ステンレス鋼(軟化の指標である硬さが減少する温度は500〜600℃)を採用することで上記第1の課題を解決した。
[実施例2]
本実施例では加熱ローラの作製において、繊維状フッ素有機ポリマの改質について検討した。
【0038】
繊維状フッ素有機ポリマの特徴は塗布さらに放射線架橋した後に、基材表面からヒゲのようにフッ素ポリマが成長した構造をとることである。この材料は、フッ素樹脂が繊維状に林立しているので必ずしも膜とはいえず層と定義すべき構造ではあるが、本実施例では区別せず膜と称することにする。この林立したフッ素繊維も基本的には架橋していないので従来のフッ素樹脂と同様に機械的強度は低い。
【0039】
本実施例では、放射線を照射して部分的にC−Cの架橋を促進させた。フッ素樹脂にはサイトップ(登録商標、旭硝子株式会社製)を、分散剤に非イオン系界面活性剤、増粘剤、クラック防止剤、pH調整剤を配合して分散性および円筒1との密着性を考慮した液体を用いた。
【0040】
膜厚15μmにするため、本実施例では比較的厚く塗布できるスプレー法で上記液体を、アルカリ脱脂、電解脱脂したSUS420の円筒1に塗布した。60℃で30分加熱して溶剤を蒸発させた後にAr雰囲気中で、円筒1を回転させながら、線量率2kGyで1h、60Coγ線を照射し、放射線架橋処理を施した。その後250℃で本キュアし放射線架橋フッ素樹脂を含む表面層2を形成した加熱ローラを得た。
【0041】
円筒1をSUS304、SUS316、SUS410およびSUS430に変えても同様の効果が得られた。
[実施例3]
本実施例ではAlの円筒1への熱の影響を低減するために、アトマイズ法で放射線架橋フッ素樹脂をAlの円筒1へ成膜する方法について検討した。
【0042】
まず、所望の寸法に加工したAlの円筒1にアルカリ脱脂、電解脱脂からなる表面処理を施した。図示しない膜作製装置の成膜室にはAlの円筒1を回転させる回転機構部と成膜室壁面にはアトマイズ装置が取り付けられていて、その装置には更に原料となるフッ素樹脂を放射線照射できる装置が取り付けられている。まず、Ar雰囲気中でフッ素樹脂の溶融温度域の330℃に加熱しながら線量率2kGyで1h、60Coγ線を照射し、放射線架橋フッ素樹脂溶液を得た。
【0043】
本溶液を、回転しているAlの円筒1に向けてノズルから飛翔させて膜厚15μmの放射線架橋フッ素樹脂を含む表面層2を形成した加熱ローラを得た。本加熱ローラは、放射線架橋フッ素樹脂を加熱ローラ表面以外で予め作製したため、Alの円筒1からなる加熱ローラの熱による精度低下を抑止できた。
【0044】
また、膜作製装置の成膜室にAlの円筒1を回転させる回転機構部と成膜室壁面にAlの円筒1を見込む角度に放射線照射装置とアトマイズ装置を取り付け、Ar雰囲気中でアトマイズ装置内のフッ素樹脂を溶融温度域の330℃に加熱しながら、Alの円筒1に向けてノズルから飛翔させ、同時に飛翔中の液滴がAlの円筒1の表面に到達し凝固する前に、線量率2kGyで1h、60Coγ線を照射してもよい。放射線架橋フッ素樹脂の液滴は、温度を低下させながらAlの円筒1上に到達して放射線架橋フッ素樹脂を含む表面層2を形成するため加熱ローラの熱による精度低下を抑止できる。
【0045】
円筒1に300℃以上の軟化点をもつ、ステンレス鋼(軟化の指標である硬さが減少する温度は500〜600℃)を採用することも可能である。
[実施例4]
本実施例ではAlの円筒1への熱の影響を低減するために、スパッタリング法で放射線架橋フッ素樹脂をAlの円筒1へ成膜する薄膜作製法について検討した。図3を用いて説明する。スパッタリング法はカソードとアノード間で放電させ、カソード側にある電極材料をスパッタしてアノード側に堆積させる方法である。
【0046】
本実施例では、真空装置19の成膜室20にフッ素樹脂の原料となるフッ素板21がカソード電極22側に取り付けられている。その対面のアノード側には円筒1を回転させる回転機構部付きのドラムホルダ23がありAlの円筒1が取り付けられるようになっている。
【0047】
Alの円筒1の表面温度を80℃にした。また、成膜室20の壁面には円筒1を見込む角に放射線照射口25が取り付けられている。成膜は以下のようにして進めた。Alの円筒1をドラムホルダ23に取り付けた後、真空装置19内を所定の真空に排気し、ArをArガス導入口24から導入した。
【0048】
その後、カソード電極22に1kV印加してカソード電極22とAlの円筒1間で放電を開始した。カソード電極22上のフッ素板21からスパッタされたフッ素原子はAlの円筒1上で堆積して膜になるが、スパッタ中に同時に線量率2kGyで1h、60Coγ線を照射することにより、放射線架橋フッ素樹脂をAlの円筒1の表面層2に形成することができた。
【0049】
このようにして膜厚15μmの放射線架橋フッ素樹脂を表面層2に形成した加熱ローラを得た。本加熱ローラは、低温で放射線架橋フッ素樹脂膜を成膜できるため加熱ローラの熱による精度低下を抑止できた。
【0050】
本方法では成膜時にF、Cは原子状でフッ素板21から飛び出して、Alの円筒1上で成膜する。この状態のC、Fは溶融状態に類似しているので、この時に放射線を照射すれば、C−Cの架橋が成長することが期待できる。他の真空蒸着法、CVD法等でも同様に達成できる。
【0051】
低温で成膜する本実施例によれば、加工性、低コスト化の観点から多用されるAl合金が利用でき、撥水性、離型性、耐磨耗性などに優れた放射線架橋フッ素樹脂を表面層2に形成した定着部材を得ることができる。
【0052】
円筒1に300℃以上の軟化点をもつ、ステンレス鋼(軟化の指標である硬さが減少する温度は500〜600℃)を採用することも可能である。
[実施例5]
本実施例では薄膜複合めっき法での加熱ローラの作製法について検討した。本実施例では放射線架橋したフッ素樹脂微粒子が必要となる。そこでまず、図示しない高温で放射線照射可能な装置内において、Ar雰囲気中でフッ素樹脂の溶融温度域の330℃に加熱したフッ素樹脂をアトマイズ法で微粒子化すると同時に、線量率2kGyで1h、60Coγ線を照射し、放射線架橋フッ素樹脂微粒子6を得た。放射線架橋フッ素樹脂微粒子6をNiを含むめっき液に分散し、Ni分散複合めっき液を得た。図示しないめっき装置を用いて、予め、Alの素管1−1をアルカリ脱脂、電解脱脂した後、0.1μmの厚さでNiストライクめっき層3を施して、放射線架橋フッ素樹脂微粒子分散ニッケル複合膜4との密着性が得られるように表面処理したAlの素管1−1上にめっきして膜厚15μmの放射線架橋フッ素樹脂微粒子分散Ni複合膜4を得た。
【0053】
放射線架橋フッ素樹脂微粒子分散ニッケル複合膜4にはNiからなるマトリックス5に、体積比率で30%の放射線架橋された平均粒径0.5μmの放射線架橋フッ素樹脂微粒子6が一様に分散してある。めっき後、めっき装置から取り出して、最終所望の寸法が得られるように放射線架橋フッ素樹脂微粒子分散Ni複合膜4を研磨加工し加熱ローラを得た。
【0054】
放射線架橋フッ素樹脂微粒子6を加熱ローラ表面以外の場所で予め製造しておくことでAlの素管1−1を使用することができた。
【0055】
放射線架橋フッ素樹脂微粒子6を作製して、薄膜複合Niめっきの添加材として適用したためAlの素管1−1上への放射線架橋フッ素樹脂微粒子分散Ni複合膜4作製時の温度は80℃以下であった。
【0056】
このため、加熱ローラの素管1−1がAlであっても、加熱による熱変形がなく、寸法精度が良好であった。
【0057】
上記第2の課題は、薄くても強度が確保できるようにフッ素樹脂の耐磨耗性などの耐久性を改質することであるが、本実施例は、放射線架橋フッ素樹脂微粒子6を分散させた複合めっき膜を表面層2に形成することにより解決できた。即ち、めっき膜のベース金属(本実施ではNiとその合金)で機械的強度を確保しつつ、さらに強度を向上させた放射線架橋フッ素樹脂微粒子6を分散させることにより撥水、離型性を維持させて耐久性が向上した定着部材を得ることができた。
【0058】
素管1−1に300℃以上の軟化点をもつ、ステンレス鋼(軟化の指標である硬さが減少する温度は500〜600℃)を採用することも可能である。
[実施例6]
本実施例では実施例1、2、3、4及び5で作製した加熱ローラ18を電子写真式プリンタのトナー定着器に適用してその効果を確認した。定着器の構成を図4に示す。
【0059】
加熱ローラ18は、円筒1、ヒータ17、表面層2からなる。用紙11は矢印の方向に搬送される。まず、ガイドローラ7を通過した用紙11は、加熱ローラ18に接触して予備加熱され、加圧ローラ8で加熱ローラ18に圧着されて所定の温度に上昇する。本加圧ローラ8にはバックアップロ―ラ9が付帯している。このプロセスまでに本発明の効果がまず現れる。
【0060】
従来は、加熱ローラ18のフッ素樹脂の表面層2は数100μmと厚くコートされていた。フッ素樹脂は熱伝導率がAlより2桁以上小さいため、表面温度を140〜180℃にするには、ヒータ17を250℃以上に設定しなければならず、かつ、用紙11が加熱ローラ18に接触すると熱を奪われるため、表面温度が下がってしまい、回復するまで時間を要した。さらに補足すれば、Al合金は220℃を超えると強度が急激に低下するため加圧ローラ8での加圧力を大きくできないという制限もあった。
【0061】
しかし、本発明では表面層2が15μmと薄くても十分な耐磨耗性と耐久性が得られるため、熱抵抗を従来に比して小さくできかつ、温度変化に対しても応答性が速いという利点がある。
【0062】
したがって、通紙の如何に関わらず加熱ローラ18の温度変化が少ないため、ヒータ17を140〜180℃に設定することで十分な定着性が得られた。
【0063】
加圧ローラ8で所定圧に加圧されることによって用紙11が無視できない程にカールする場合があるが、その場合は、デカーラ10で加熱による用紙11のカールが矯正されて真直ぐな用紙11となって最終工程へ搬送される。
【0064】
次に、用紙11上のトナー12が定着される工程を示す。図示しない帯電、露光、現像、転写プロセスにより用紙11に移された文字や画像を形成しているトナー12は、図4に示されているようなプロセスで用紙11に固着される。図4の曲線14はトナー12もしくは用紙11の温度変化を、曲線15は曲線14の温度から推定されるトナー12の推定粘度変化を、曲線16は用紙11もしくはトナー12への負荷応力を示す。
【0065】
まず、ガイドローラ7を通過した用紙11は加熱ローラ18の表面に接する。それに伴い、用紙11上のトナー12には、曲線16に示すように応力がかかる。用紙11には加圧ローラ8と加熱ローラ18のニップ部で最大の応力がかかり、トナー12の用紙11への定着が開始する。
【0066】
トナー12は加熱ローラ18により加熱されてトナー12もしくは用紙11の温度変化曲線14が示すように昇温し、加圧ローラ8が密着するときに最高温度に達する。それに伴いトナー12の粘度は最小となる(曲線15参照)。
【0067】
最高温度がガラス転移点(Tg)を超えるように、加熱ローラ18の温度を設定するので、加圧ローラ8上でのトナー12の変形が容易になり、用紙11表層部の網目の中に軟化したトナー12を圧入させる状況をつくれる。このようにすると、トナー12の画像パターンの大小に起因する所謂トナーパイルハイトの差によるドットゲイン変動を少なくでき、かつ定着後のトナー12の画像の厚みをオフセット印刷のように薄くできる。
【0068】
さらに、従来法の如き、加圧と加熱を同時に行なう定着法では、用紙11に含有する蒸発分子も同時に圧力で閉じ込めてしまうため、使用環境によっては画像に欠陥がでる可能性があるが、図4に示す本方式は、加圧前の予備加熱時間帯で用紙11が加熱され、内包する水分或いは蒸発成分の蒸発を無理なく用紙11の表面から蒸散させることができるので、大面積のパターンであっても蒸発分子によるトナー層への突沸等の欠陥が生じないためより好ましい。
【0069】
本実施例では、ヒータ17の温度を140〜180℃に設定し、加熱ローラ18の表面温度も140〜180℃であった。本発明の加熱ローラ18を装着して、図示しない高速プリンタで寿命評価を進めたところ、従来のフッ素樹脂コートでは20万頁であったが、実施例1〜4の加熱ロールを使用した定着器では、200万頁まで問題なく良好な定着ができた。また、実施例5の加熱ローラを用いた場合には500万頁まで問題なく良好な定着ができた。
【0070】
なお表面層2の厚みは10〜15μm程度であったが、装置の目標仕様に如何によっては100数十μmでも数μmでも形成可能であることは言うまでもない。
【0071】
フッ素樹脂は炭素の直鎖で構成される分子構造のため樹脂とした時に緻密にならず、強度が低い。この欠点を克服するためには炭素原子を架橋させた分子構造にする必要がある。そこでフッ素樹脂に高エネルギを注入して架橋を促進する必要があるが、本発明では融点近傍の高温に加熱して放射線を照射して炭素同志の架橋を促進させて、強度向上を図った放射線架橋フッ素樹脂を用いることで改善を図った。
【0072】
即ち、上記のように強度を向上させた放射線架橋フッ素樹脂を摺動部材あるいは荷重が負荷される撥水、離型性が要求される部材そのものあるいは被覆材として適用することにより耐久性の向上を図ることができた。本発明はプリンタの摺動部位に広く適用できる。
【0073】
また、本発明適用部位の1例である加熱ロール18の表面層2を薄くできるため熱伝達性が向上し、ヒータ17の熱量の低減と所望温度までの加熱時間の短縮が図れると同時に加熱ローラ18の長寿命化が図れた。
【0074】
本発明によれば、軟化温度が放射線架橋フッ素樹脂の形成温度より高いステンレス鋼を芯金に用いることにより部材の寸法精度を維持できるためトータルコストを低く抑えた、離型性、撥水性、耐久性に優れた定着部材を提供できる。
【0075】
また、薄膜複合めっき法を用いることにより、成膜温度を低下させることが可能となるため、従来の安価なAlを使用しても寸法精度を損なうことなく、長寿命の定着部材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】定着部材の円筒と表面層の断面を示した図。
【図2】薄膜複合めっき法で形成した表面層の断面を示した図。
【図3】スパッタリング法を説明する図。
【図4】加熱ローラを用いた定着器の機構部と用紙、トナーの温度、トナーの推定粘度変化および負荷応力の変化を説明する図。
【符号の説明】
【0077】
1 :円筒
1−1:素管
2 :表面層
3 :Niストライクめっき層
4 :放射線架橋フッ素樹脂微粒子分散ニッケル複合膜
5 :マトリックス
6 :放射線架橋フッ素樹脂微粒子
7 :ガイドローラ
8 :加圧ローラ
9 :バックアップローラ
10 :デカーラ
11 :用紙
12 :トナー
14 :曲線
15 :曲線
16 :曲線
17 :ヒータ
18 :加熱ローラ
19 :真空装置
20 :成膜室
21 :フッ素板
22 :カソード電極、
23 :ドラムホルダ
24 :Arガス導入口
25 :放射線照射口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬度が減少する温度が500〜600℃であるステンレス鋼からなる基板に、フッ素樹脂の融点以上に加熱した状態で放射線を照射して架橋された放射線架橋フッ素樹脂を含む表面層を形成したことを特徴とする定着部材。
【請求項2】
上記ステンレス鋼がSUS304、SUS316、SUS410、SUS420またはSUS430から選ばれた基板であることを特徴とする請求項1記載の定着部材。
【請求項3】
フッ素樹脂を含む溶液をAl基板に向けて飛翔させるとともに、飛翔中の前記フッ素樹脂に放射線を照射して、前記基板に放射線架橋フッ素樹脂を含む表面層を形成したことを特徴とする定着部材。
【請求項4】
前記飛翔させる方法が、アトマイズ法またはスパッタリング法であることを特徴とする請求項3記載の定着部材。
【請求項5】
放射線架橋フッ素樹脂を微粒子化した後、Niを含むめっき液に分散し、薄膜複合めっき法でAl基板の表面に、前記放射線架橋フッ素樹脂を含むめっき層を形成したことを特徴とする定着部材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の定着部材を設けた定着器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−47641(P2007−47641A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−234123(P2005−234123)
【出願日】平成17年8月12日(2005.8.12)
【出願人】(302057199)リコープリンティングシステムズ株式会社 (1,130)
【Fターム(参考)】