説明

定着部用フィルム及びトナー画像定着装置

【課題】 耐熱性樹脂層と離型性樹脂層からなる定着部用フィルムにおいて、離型性樹脂層の剛性によりトナーがつぶれることのない、熱定着法による画像定着に使用される定着部用フィルム及び該定着部用フィルムを用いたトナー画像定着装置を提供する。
【解決手段】 耐熱性樹脂層上にシリコーンゴム層及び離型性樹脂層をこの順に設けたことを特徴とする定着部用フィルム及び該定着部用フィルムを用いたトナー画像定着装置。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電子写真複写機、ファクシミリ、プリンター等の装置のフィルム定着方式のトナー画像熱定着部に用いられる定着用または加圧用フィルム、及び該フィルムを用いたトナー画像定着装置に関する。
【0002】
【従来の技術】電子写真複写機、ファクシミリ、プリンター等のトナー画像を形成する印刷機器においては、印刷あるいは複写の最終段階で、記録紙上に形成されたトナー画像のトナーを加熱溶融して記録紙上に定着させる熱定着方式が一般的に使用されている。
【0003】このような熱定着方式においては、従来から汎用されている熱ローラ定着法に加えて近年では、フィルム状のエンドレスベルトを使用したフィルム定着方式の熱定着法が提案されている。
【0004】このエンドレスベルトを使用した定着法では、定着部用のエンドレスベルトを複数のローラ間にかけ渡し、その外側表面の所定位置に別の定着部用ゴムローラを圧接させ、その圧接位置のエンドレスベルトの内側にベルトに接してヒーターが配置される。そしてエンドレスベルトとローラを回転させつつその間をトナー粉末画像が形成された記録紙を通過させ、トナーを記録紙上に融着させる。この定着方法では、薄いフィルム状のベルトの実質的に圧接部分のみをヒーターにより直接加熱するので電源投入時の待ち時間がほぼゼロとなり、このことからオンデマンド方式の熱定着法と呼ばれている。
【0005】オンデマンド方式の熱定着法には上記のような機構を使用することから、これに用いられるエンドレスベルトには十分な耐熱性、弾性、強度、ベルト内面の絶縁性、ベルト外面の離型性等が要求される。そしてこれに答えるものとして、耐熱性樹脂からなる内側層と離型性を有する樹脂からなる外側層の2層から構成された定着部用フィルムからなるベルトが一般に使用されている。
【0006】ところがこのような定着部用フィルムでは、フッ素樹脂等の離型性樹脂からなる外側層の剛性によりトナー粒子が押しつぶされ、画像の解像度が低下するという問題があった。
【0007】一方、耐熱性樹脂層の上に剛性の問題のない層、例えばシリコーンゴム層等を使用すると、トナーとの離型性を確保するために別の手段が必要となる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】従って本発明の目的は、耐熱性樹脂層と離型性樹脂層からなる定着部用フィルムにおいて、離型性樹脂層の剛性によりトナーがつぶれることのない、熱定着法による画像定着に使用される定着部用フィルム、及び該フィルムを用いたトナー画像定着装置を提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明者らの研究の結果、上記のような定着部用フィルムにおいて、耐熱樹脂層と離型性層との間にシリコーンゴムの層を設けることにより離型性樹脂層の剛性が緩和され、上記のように離型性樹脂層の剛性によりトナーがつぶれて解像度が低下することが防止されることが見出された。
【0010】従って本発明は、耐熱性樹脂層上にシリコーンゴム層及び離型性樹脂層をこの順に設けたことを特徴とする定着部用フィルムを提供するものである。
【0011】上記本発明の定着部用フィルムにおいては、離型性樹脂層が好ましくはテトラフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルコキシエチレン共重合体、及びテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体の1種以上を主成分とするフッ素樹脂からなる。
【0012】また上記離型性樹脂層は好ましくはフッ素樹脂を主成分とするチューブをシリコーンゴム層上に被着することにより形成されたものである。
【0013】上記フッ素樹脂チューブは好ましくはメルトインデックス5(g/10 min)以下のフッ素樹脂を主成分とするものである。
【0014】上記離型性樹脂層は好ましくは5〜30μmの厚さを有する。
【0015】上記耐熱性樹脂層は好ましくは熱硬化性ポリイミドからなり、好ましくは15〜100μmの厚さを有する。
【0016】上記シリコーンゴム層は好ましくは付加型シリコーンゴムからなり、好ましくは0.2〜1.5mmの厚さを有する。
【0017】さらに本発明は、上記の本発明の定着部用フィルムを用いたトナー画像定着装置を提供する。
【0018】
【発明の実施の形態】以下、本発明について詳述する。
【0019】本発明の定着部用フィルムは、耐熱性樹脂からなる耐熱性樹脂層(内側層)、その上に設けられるシリコーンゴム層(中間層)及び離型性樹脂からなる離型性樹脂層(外側層)により構成される。
【0020】耐熱性樹脂層に使用される耐熱性樹脂は特に高い耐熱性を得るために熱硬化性の耐熱樹脂を選択する。特に150℃以上の使用温度を意図する場合や定着部等では、熱可塑性の樹脂では定着フィルム等が伸びてしまい不都合である。
【0021】熱硬化性の耐熱樹脂を耐熱樹脂層に使用することにより、定着部用フィルムの絶縁性及び高い耐熱性が確保される。このような熱硬化性の耐熱樹脂としては、例えば、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリベンズオキサゾール、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド等の熱硬化性のものが挙げられる。これらの熱硬化性耐熱性樹脂の中では、熱硬化性のポリイミドやポリアミドイミドが特に好ましい。
【0022】さらにこれらの樹脂単体では熱伝導率が低いので、絶縁性で熱伝導性の無機粒子を含有させることが好ましい。
【0023】このような熱伝導性無機粒子を構成する物質自体はこれまでに定着部用ベルトの耐熱性樹脂層に添加するものとして提案されているものと同様のものでよく、例えば、窒化ホウ素、アルミナ、炭化ケイ素、チタン酸カリウム、窒化アルミ、マイカ、シリカ、酸化チタン、タルク、炭酸カルシウム等を挙げることができる。これらの物質は2種以上の混合物としても使用することができる。熱伝導性無機粒子を構成する物質としては、窒化ホウ素、アルミナ、炭化ケイ素、窒化アルミニウムが好ましく、窒化ホウ素が特に好ましい。
【0024】上記のような無機粒子の平均粒径は特に制限されるものではなく、通常の樹脂組成物に添加される無機充填剤と同様のものでよいが、分散性や平滑な層を得ること等の観点から、通常は0.5〜10μm、好ましくは0.5〜7μm程度である。0.5μm未満であると、熱伝導性の向上効果が小さく、また粒子の凝集によりフィルムに凹凸を生じることがある。粒子の平均粒径が10μmを越えるとその含量にもよるが耐熱性樹脂層に必要な機械的強度が得られなくなるおそれがある。
【0025】熱伝導性無機粒子の耐熱性樹脂層中の含有量も特に制限されるものではないが、熱伝導性の向上、機械的強度の維持等の観点から、通常は5〜30容量%、好ましくは10〜25容量%程度である。この範囲内であれば、樹脂単体からなる層とほぼ同様の柔軟性を確保した上で、熱伝導性と剛性を向上させることができる。含有量が5容量%未満であると十分な熱伝導性向上効果が得られず、30容量%を越えると可撓性や強度が不十分となり、定着部用ベルトとして使用した場合に割れや破壊を生じやすい。
【0026】また熱伝導性無機粒子の形状は、球状、鱗片状(平板状)、繊維状等のいずれでもよいが、これらの中でも平板状の粒子が、凹凸が少なく表面の滑らかなフィルムが得られ、なおかつ球状の粒子フィラーの場合より高い剛性が得られるため、特に好ましい。
【0027】耐熱性樹脂層の厚さも特に制限されないが、好ましくは15〜100μm程度である。15μm未満であるとフィルム自体の製造が困難であり、100μmを越えると剛性が大きくなりすぎるからである。
【0028】上記耐熱樹脂層上にシリコーンゴム層を設ける。シリコーンゴム層に使用されるシリコーンゴムとしては、ジフェニルポリシロキサン、ジメチルポリシロキサン等のジオルガノポリシロキサンを前駆体として形成された通常のシリコーンゴムを使用できるが、特に液状の付加反応型シリコーンゴムを前駆体として形成されたものを好適に使用できる。
【0029】上記のような付加型シリコーンゴム(付加型メチルフェニルポリシロキサンシリコーンゴム)は、メチル基及びフェニル基の他に付加型反応性基、例えばビニル基を有するシロキサン化合物から得られたポリシロキサンであり、付加型反応性基とシラン架橋剤との付加開裂反応により架橋されるものである。
【0030】上記のようなシリコーンゴム例えば下記式(I) で表されるポリシロキサンから製造される。
【0031】
【化1】


上記式(I) 中、R1 、R2 、R3 及びR4 は独立してメチル基、フェニル基等を表す。付加型シリコーンゴムの場合はその一部がビニル基のような付加型反応性基である。nは約300〜約2000である。
【0032】R1 〜R4 全体の2モル%以上にフェニル基を使用すると、シリコーンオイル等の離型剤に対する耐膨潤性を有するシリコーンゴムが得られる。
【0033】付加型シリコーンゴムの場合、付加型反応性基の量はR1 〜R4 全体の好ましくは0.05〜0.35モル%、より好ましくは0.1〜0.3モル%程度である。
【0034】ビニル基等の付加型反応性基は架橋形成に必要な官能基であり、0.05モル%未満であるとポリシロキサンが半硬化状態になり弾性が得られにくくなる。一方、0.35モル%を越えると架橋が進みすぎてポリシロキサンが固く脆いものになってしまい、やはり好ましい弾性が得られない。
【0035】上記のようなポリシロキサンの重合度は25℃の粘度で表して30〜400ポアズであるものが好ましく、液状で注入して成形することが望ましいので、好ましくは1200ポイズ、より好ましくは800ポイズ以下の粘度を有していることが望ましい。上記のポリシロキサンの重合度(n)は上記のような粘度が得られるように規定されたものであり、nが約300未満であると粘度が低すぎ、シリコーンゴム層の製造が困難になり、また製造できたとしても十分な物性が得られない。またnが約2000を越えると粘度が高くなり過ぎてやはりシリコーンゴム層の製造が困難になる。
【0036】このようなポリオルガノシロキサンもそれ自体公知の化合物であり、公知の方法で製造することができる。
【0037】シリコーンゴム層の硬化後の硬度はJIS−Aで表して40以下であることが好ましい。40を越えると耐熱樹脂層のポリイミド等の剛性を緩和する能力が低下し、高解像度が得られなくなるからである。
【0038】シリコーンゴム層の厚さは特に限定されないが、0.2〜1.5mmであることが好ましい。本発明の効果を十分に得るためには0.2mm以上の厚さのシリコーンゴム層が好ましく、1.5mmを越えると別のローラー等との従動回転時の接触によるゴムの熱膨張を原因とするニップ圧の変化が大きくなりすぎるからである。
【0039】またシリコーンゴム層は、180℃、22時間の25%圧縮で、20%以下の圧縮永久歪を示すものであることが好ましい。このような条件下で20%を越える圧縮永久歪を示すものであると、ヒートローラー等との接触により圧縮永久歪が発生し、復元し得ない場合がある。
【0040】上記シリコーンゴム層上に離型性樹脂層を形成する。この層を構成する離型性樹脂としてはフッ素樹脂を使用する。フッ素樹脂としては、定着部用ベルトを200℃前後の高温で連続使用可能とするために耐熱性に優れたものが好ましく、例えば、テトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等が挙げられる。屈曲耐性や離型性の点からPFAが特に好ましい。
【0041】離型性樹脂層にさらにシリコーンオイル等の離型性オイルを塗布する際は、フッ素樹脂とオイルの親和性を得るためにフッ素樹脂にフッ素ゴムをブレンドしてもよい。フッ素ゴムのの混入量はフッ素樹脂の物性やオイルとの親和性を考慮して適宜選択することができる。
【0042】離型性樹脂層は、従来の定着用フィルムのフッ素樹脂層のように樹脂ディスパージョンを塗布、硬化させて作製されたものでもよいが、好ましくはフッ素樹脂のチューブを押出成形により製造し、これを耐熱樹脂層上に被着して形成する。このようなフッ素樹脂チューブの材料としては、メルトインデックス(ASTM D−2116に従って測定)が好ましくは5(g/10 min)以下、特に好ましくは2(g/10 min)以下のフッ素樹脂を使用する。このようなフッ素樹脂は、樹脂の種類にもよるが、一般的には15万〜100万程度の分子量を有し、フッ素樹脂ディスパージョンに通常含まれているフッ素樹脂よりも分子量が大きいものであり、押出成形等により成形されたフィルム(チューブ)として、後述するようにしてシリコーンゴム層上に積層し、シリコーンゴム架橋時の熱処理によりシリコーンゴム層と一体化する。
【0043】このような押出成形により形成されたフッ素樹脂チューブは、フッ素樹脂ディスパージョンを耐熱性樹脂層上に塗布して乾燥し、焼成すること等により形成されていたものと異なり、ピンホール、クラック等の表面欠陥がなく、またディスパージョンに使用されるフッ素樹脂よりも分子量が大きいので、より高い耐磨耗性等の耐久性が得られる。このようなフッ素樹脂チューブは100万回以上、例えば100万〜200万回の耐屈曲性(13mm×90mm×0.2mmの試料を使用して荷重1.25kgでASTM D−2176−69に従って屈曲亀裂が生じるまでの繰り返し屈曲数を測定)を有していることが好ましい。
【0044】このような離型性層のフッ素樹脂には導電性フィラーを含有させることにより導電性を付与して帯電によるオフセットを防止するようにしてもよい。
【0045】このような目的に使用される導電性フィラーの種類は特に限定されないが、例えば、ケッチェンブラック等のカーボンブラックやアルミニウム等の金属粉を挙げることができる。導電性フィラーの平均粒子径は、安定した均一な導電性を得るために、0.5μm以下であることが好ましい。
【0046】導電性フィラーの含有量は、通常、樹脂に対して0.1〜5重量%程度である。ただし、離型性樹脂層の導電性が高すぎると、記録紙上のトナーが定着部用ベルトの離型性樹脂層と接触した際にトナーの電荷が離型性樹脂層に流れて、記録紙とトナーとの間の吸引力が失われることがある。このような現象を防止するためには、外層の表面抵抗率を1×1012〜1×1015Ω/□とすることが好ましい。
【0047】フッ素樹脂離型性層の厚さも特に制限されないが、好ましくは5〜30μm程度、特に好ましくは5〜20μm程度である。5μm未満であると上記のようなフッ素樹脂チューブとして押し出すことが困難であり、30μmを越えるとフッ素樹脂層の剛性により、本発明で目的とするところの効果が阻害される可能性がある。
【0048】さらに本発明の定着部用フィルムの製造方法について、離型性樹脂層をチューブとして成形し、シリコーンゴム層上に被着して製造する場合を例として説明する。
【0049】まず、公知の定着部用ベルトと同様な方法により筒状の耐熱性樹脂層を形成する。例えば、円柱形状の金型上に、上記のような耐熱性樹脂層を形成する樹脂あるいはその前駆体を溶媒中に含むワニスを塗布し、熱処理等により溶媒を除去する。その後、任意にプライマー層を形成する樹脂組成物を塗布して乾燥し、必要により耐熱性樹脂を焼成して製造する。
【0050】耐熱性樹脂が熱硬化性ポリイミドの場合、耐熱性樹脂の前駆体として例えば芳香族テトラカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分とを使用することができ、これらを有機極性溶媒中で反応させて前記樹脂を得ることができる。芳香族テトラカルボン酸成分としては例えば、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物等があり、これらは混合物として用いてもよい。芳香族ジアミン成分としては例えば、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル等のジフェニルエーテル系ジアミン、3,3’−ジフェニルチオエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルチオエーテル等のジフェニチオエーテル系ジアミン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン等のベンゾフェノン系ジアミン、その他ジフェニルメタン系ジアミンパラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン等を挙げることができる。有機極性溶媒としては、例えばN−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、ジメチルオキシド等が挙げられる。
【0051】次に図1に概略断面図で示すように、成形されるフィルムの外径を有する円筒形の金型1の空洞内に、フッ素樹脂チューブ2を通し、その両端を金型1の外側に折り返し、またその中に上記で耐熱樹脂層3を設けた芯体4を金型1と同心状に配置し、金型蓋体5を金型1の両端にはめ込むことによりフッ素樹脂チューブ2及び耐熱樹脂層3を設けた芯体4を固定する。このとき金型に孔を設けそこから吸引することによりフッ素樹脂チューブを金型に密着させるようにしてもよい。
【0052】その後金型蓋体5の樹脂注入口6から樹脂チューブ2と耐熱樹脂層3を設けた芯体4との間にシリコーンゴム前駆体を注入し、金型内で樹脂チューブ2と耐熱樹脂層3との間の空間を満たす。反対側の金型蓋体5には空気排出口7が設けられている。
【0053】そして全体を通常は加熱することにより弾性材料前駆体を架橋して硬化させ(一次加硫)、適当に硬化した後、一体化した芯体、弾性材料層、被覆樹脂層を金型から取り出し、さらに加熱して架橋させて(二次加硫)、その後芯体を除去することにより本発明の定着用フィルムを得る。
【0054】上記のような本発明の定着用フィルムの製造方法においては、上記のように金型内に樹脂チューブ2及び耐熱樹脂層を設けた芯体3を固定して弾性材料前駆体を注入した際に、樹脂チューブ2に張力がかかり、その径方向及び/または長さ方向に伸びた状態にあるようにすることが好ましい。
【0055】樹脂チューブの内面はシリコーンゴムとの接着性を向上させるためにエッチングしておくことが好ましい。エッチングは従来から知られている方法で行うことができ、例えばナトリウム・ナフタレン法、液体アンモニウム法等の化学的方法、エキシマーレーザーエッチング法、低温プラズマ法等の物理的方法でにより行うことができる。特にチューブ厚が薄い場合には化学的エッチングは困難なため、物理的エッチングが適している。
【0056】また、シリコーンゴムとフッ素樹脂チューブとの接着性を向上させるためにエッチング面にプライマーを塗布してもよい。プライマーは樹脂チューブを伸ばした状態で塗布することが好ましい。プライマーとしては市販のフッ素樹脂用のプライマーを好適に使用できる。そのような市販のプライマーとしては、例えば東レ・ダウコーニング社製のDY139−067等がある。このようなプライマーは導電性フィラーを含有してもよい。プライマーはフッ素樹脂チューブの内面に通常は0.1〜20μm、好ましくは1〜10μm程度の厚さで均一に塗布する。
【0057】さらに、耐熱樹脂層上に、耐熱樹脂層とシリコーンゴムとの接着性を向上させるためのプライマーを塗布してもよい。このプライマーもこのような目的に従来使用されている公知のものでよく、例えば信越化学工業社製のプライマーNo. 4等が挙げられる。
【0058】上記のように固定されたフッ素樹脂チューブ2と芯体上の耐熱樹脂層3との間にシリコーンゴム前駆体を射出注入するが、このような弾性材料前駆体は、通常、架橋剤及びその他の添加剤を含むゴムコンパウンドとして注入する。架橋剤も従来公知のものでよく、付加型シリコーンゴムの場合はシラン架橋剤を使用する。
【0059】任意成分として、従来よりシリコーンゴム等に用いられていたものを使用することができ、例えば充填剤、着色剤等を添加することができる。
【0060】充填剤はシリコーンゴムの補強、増量等の目的で添加することができる。このような充填剤の例としては、シリカ、珪藻土、石英粉、クレー、炭酸カルシウム、酸化チタン等を挙げることができる。特にシリカ充填剤はシリコーンゴムの強度を改善するものとして好ましく、ヒュームドシリカと呼ばれる乾式法シリカ、沈降性シリカと呼ばれる湿式法シリカのいずれでもよく、またその表面のケイ素原子に結合した水酸基をトリメチルシリル化したもの、その表面を低重合度ジメチルポリシロキサンで疏水化処理したもの、さらにはこれらにチタンやアルミニウムなどの他の金属の酸化物を副成分として含有させたものであってもよい。このようなシリカ系充填剤は、一般的には上記ポリオルガノシロキサン100重量部に対して10〜60重量部、好ましくは20〜50重量部の量で使用される。オルガノシラン化合物あるいは低分子オルガノポリシロキサン化合物を、上記のようなシリカ系充填剤の分散性を向上させるために添加することができ、例えば低重合度の末端シラノール封鎖ジオルガノポリシロキサン、ジフェニルシランジオール、ジメチルジエトキシシラン等が挙げられる。このような化合物の添加量は一般的には上記ポリオルガノシロキサン100重量部に対して0〜30重量部であり、1〜30重量部、特に2〜10重量部とすることが好ましく、前記シリカ系充填剤の種類や配合量に応じて適宜な添加量を選択することができる。
【0061】上記のように金型内に射出注入されたシリコーンゴム前駆体は、通常加熱加硫することにより硬化させ(一次加硫)、その後金型から取り外した後にさらに加熱して(二次加硫)して硬化させる。シリコーンゴムの一次加硫は100〜170℃、二次加硫は170℃以上の温度で行うことが好ましく、通常は200℃程度の温度で行うことができる。このような温度で二次加硫を行うことによりフィルムの耐熱性が格段に向上する。
【0062】上記のようにしてシリコーンゴム層を硬化させ、各層を一体化した後、各層を芯体とともに金型から取り出し、さらに芯体を取り外して定着部用フィルムを得る。
【0063】このようにして得られた本発明の定着部用フィルムは、レーザービームプリンタなどにおいてトナーに接触する定着用フィルム、加圧用フィルム等として好適に使用することができ、従って本発明は、上記の本発明の定着部用フィルムを使用したトナー画像定着装置も提供する。
【0064】本発明のトナー画像定着装置は、トナーに接触する定着用フィルムまたは定着用フィルム等に対向して設けられる加圧用フィルムのいずれか、あるいはその両方に上記の本発明の定着部用フィルムを使用したことを特徴とするものであり、その他の構造は公知のトナー画像定着装置に準ずるものとすることができる。
【0065】本発明のトナー画像定着装置において、本発明の定着部用フィルムを、その内部に加熱用ヒータを配置して定着用フィルムとして用いた場合には、加圧用の部材としては公知のゴムローラ、定着部用フィルム等の他、本発明の定着部用フィルムも使用することができる。また本発明の定着部用フィルムを加圧用の部材として使用した場合は、定着用の部材としては、上記のように本発明の定着部用フィルムを使用できる他、例えば芯金上にシリコーンゴム層、フッ素樹脂層等を被覆し、内部に加熱用のハロゲンランプを内蔵した公知のヒートローラ等を使用することができる。
【0066】
【実施例】以下、本発明を実施例及び比較例によりさらに説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0067】実施例ポリイミド前駆体を含む市販のワニス(UワニスS、宇部興産製)を円筒形金属芯体上に塗布し、内径31mmのダイスを芯体にはめて自然落下させて塗布膜を得た。得られた塗布膜を300℃に30分間加熱し、冷却後芯体から抜いて厚さ50μm、外径30mm、長さ330mmのポリイミドチューブを得た。このポリイミドチューブに直径29.97mmの円筒形のステンレス製シャフトを挿入し、支持体とした。
【0068】一方、図1に示したものと同様の形状の、内径31.5mmで端部に直径1mmの孔を設けた金型の内部に内径28mm、長さ380mm、厚さ10μmのPFAチューブ(450HP−J、三井・デュポンフロロケミカル製、メルトインデックス2(g/10 min)のPFAからなる)を通し、両端を金型上に折り返して固定した。上記の金型の孔から減圧してPFAチューブを拡張し、金型内面に密着させた。
【0069】その後前記ポリイミドチューブを装着したシャフトを金型中に挿入し、ポリイミドチューブとフッ素樹脂チューブの間にシリコーンゴム前駆体(ジメチルポリシロキサン配合ゴム)を注入した。
【0070】これを150℃で30分間加熱処理し、減圧を開放して各層を芯体とともに取り出してさらに200℃で4時間加熱処理し、芯体を取り外すことによりポリイミドチューブにシリコーンゴム層とPFAチューブを被覆した本発明の定着部用フィルムを得た。得られた定着部用フィルムの離型性樹脂層の厚さは約10μm、シリコーンゴム層の厚さは約0.7mmであった。
【0071】比較例実施例と同様にしてポリイミドチューブを成形し、同様の金型を使用してフッ素樹脂層を、シリコーンゴム層を設けずに直接ポリイミドチューブ上に被覆した。これを380℃で30分間熱処理することにより定着部用フィルムを得た。得られた定着部用フィルムの離型性樹脂層の厚さは約10μmであった。
【0072】上記で得た実施例と比較例の定着部用フィルムをプリンターに組み込み、コピースピードA4用紙20枚/分での印刷による画像テストを行った。本発明の定着用フィルムを使用した場合には画像に問題なかったが、比較例の定着用フィルムを使用した場合には画像ににじみが見られた。
【0073】上記の結果から、本発明の定着部用のフィルムはシリコーンゴム層を設けていない定着フィルムと比較して画像のにじみを低減できることが明らかである。
【0074】
【発明の効果】本発明の定着部用フィルムによれば、従来の定着フィルムよりもにじみがない解像度の高い画像が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の定着フィルムの製造方法を示す概略断面図である。
【符号の説明】
1...金型
2...フッ素樹脂チューブ
3...耐熱樹脂層
4...芯金
5...金型蓋体
6...樹脂注入孔
7...空気排出孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】 耐熱性樹脂層上にシリコーンゴム層及び離型性樹脂層をこの順に設けたことを特徴とする定着部用フィルム。
【請求項2】 離型性樹脂層がテトラフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルコキシエチレン共重合体、及びテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体の1種以上を主成分とするフッ素樹脂からなる請求項1に記載の定着部用フィルム。
【請求項3】 離型性樹脂層がフッ素樹脂を主成分とするチューブをシリコーンゴム層上に被着することにより形成されたものである請求項1または2に記載の定着部用フィルム。
【請求項4】 耐熱性樹脂層が熱硬化性ポリイミドからなる請求項1〜3のいずれかに記載の定着部用フィルム。
【請求項5】 請求項1〜4のいずれかに記載の定着部用フィルムを用いたトナー画像定着装置。

【図1】
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