説明

定量分析方法、定量分析装置及びプログラム

【課題】HF炉型炭素濃度計を用いた定量分析が実行でき、またER炉炭素濃度計またはHF炉型炭素濃度計のいずれを用いても、定量分析の処理速度を大幅に向上させることが可能な定量分析方法を提供する。
【解決手段】加熱前に遊離炭素を含む炭化ケイ素の質量を測定する。続いて、マッフル炉を用いて所定温度にて所定時間、遊離炭素を含む炭化ケイ素を加熱させる。その後、加熱後の炭化ケイ素及び酸化ケイ素の質量を測定する。続いてこれらをHF炉51に投入し、これらを燃焼させ、燃焼後の炭素濃度を測定する。遊離炭素を含む炭化ケイ素を加熱させる場合に得られる第1反応方程式及び加熱後の炭化ケイ素及び酸化ケイ素を燃焼させる場合に得られる第2反応方程式に基づき導出されるモデル式へ、測定した前後の質量及び炭素濃度を代入することにより遊離炭素含有率を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遊離炭素を含む炭化物を定量分析する定量分析方法、定量分析装置及び該定量分析装置を機能させるためのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、炭化ケイ素等の炭化物に含まれる遊離炭素を定量する場合、JIS規格(R1616−1994)に従い、電気抵抗加熱炉炭素濃度計(以下、ER炉炭素濃度計)を用いて遊離炭素含有率を算出している(例えば特許文献1参照)。これは、試料を酸素気流中で850℃に加熱し、生成した二酸化炭素(及び一酸化炭素)を測定し、加熱後の試料の質量増加から炭化ケイ素の酸化による二酸化炭素量を算出し補正するという燃焼−質量補正法を用いるものである。
【0003】
以下に、その詳細な手順を説明する。まずER炉炭素濃度計のER炉内の温度を850℃とする。次に試料をボートにはかり取り、一様な厚さに広げる。ここで、加熱前の試料のはかり取り量を記録する。ER炉炭素濃度計の燃焼管入口の栓を開き、試料の入ったボートを燃焼管の中央部まで挿入し、直ちに気密に栓をして酸素を指定の流量で流しながら加熱し、10分後に炭素濃度計の積算値を読み取る。そして加熱後ボートを燃焼管から取り出し、デシケータ中で放冷した後、その質量を計測する。このようにして、加熱前後の質量変化及び加熱時に炭素濃度計で直接測定した炭素濃度に基づき、遊離炭素含有率を算出することができる。
【特許文献1】特開2002−340789号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ER炉炭素濃度計に代えて、現在多く普及している高周波誘導加熱炉炭素濃度計(以下、HF炉型炭素濃度計)を用いる場合、ER炉炭素濃度計と異なり厳密な温度管理ができないため、JIS規格で指定するような温度条件にて遊離炭素を完全に脱離させ、そのとき生成したCO2 を炭素濃度計で測定することはできない。また、ER炉炭素濃度計を用いた場合でも、それぞれの試料について個別に10分程度加熱し、その後炭素濃度を計測する必要があるため、多くの試料を短時間で計測するには向かないという問題があった。
【0005】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、遊離炭素を含む炭化物を加熱させる段階と、炭素濃度計測のために加熱後の炭化物及び酸化物を加熱させる段階とに分け、各段階の反応方程式から得られるモデル式へ、加熱前後の質量及び炭素濃度を代入することにより、HF炉型炭素濃度計を用いた定量分析が実行でき、またER炉炭素濃度計またはHF炉型炭素濃度計のいずれを用いても、定量分析の処理速度を大幅に向上させることが可能な定量分析方法、定量分析装置及び該定量分析装置を機能させるためのプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る定量分析方法は、遊離炭素を含む炭化物を定量分析する定量分析方法において、遊離炭素を含む炭化物の質量を測定し、所定温度にて所定時間前記炭化物を加熱し、加熱後の炭化物及び酸化物の質量を測定し、加熱後の炭化物及び酸化物を燃焼させ炭素濃度計にて炭素濃度を測定し、遊離炭素を含む炭化物を加熱する場合に得られる第1反応方程式及び前記加熱後の炭化物及び酸化物を燃焼させる場合に得られる第2反応方程式に基づき導出されるモデル式へ、前記測定した加熱前後の質量及び炭素濃度を代入して遊離炭素含有率を算出することを特徴とする。
【0007】
本発明に係る定量分析方法は、遊離炭素を含む炭化物を加熱させる場合に得られる第1反応方程式及び前記加熱後の炭化物及び酸化物を燃焼させる場合に得られる第2反応方程式に基づき導出されるモデル式へ、前記測定した加熱前後の質量及び炭素濃度を代入して加熱前の炭化物の炭素含有率をさらに算出することを特徴とする。
【0008】
本発明に係る定量分析方法は、前記炭化物は、炭化ケイ素であり、前記モデル式は、
【0009】
【数1】

【0010】
ただし、
F.C[%]:遊離炭素含有率
W1:加熱前の遊離炭素を含む炭化物の測定質量
W2:加熱後の炭化物及び酸化物の測定質量
A:炭素濃度計による測定炭素濃度
であることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る定量分析方法は、前記炭化物は、炭化ケイ素であり、前記モデル式は、
【0012】
【数2】

【0013】
ただし、
C[%]:炭化ケイ素中の炭素含有率
W1:加熱前の遊離炭素を含む炭化物の測定質量
W2:加熱後の炭化物及び酸化物の測定質量
A:炭素濃度計による測定炭素濃度
であることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る定量分析方法は、前記炭素濃度計は、高周波誘導加熱炉炭素濃度計であることを特徴とする。
【0015】
本発明に係る定量分析方法は、前記炭化物は、炭化ホウ素であることを特徴とする。
【0016】
本発明に係る定量分析装置は、遊離炭素を含む炭化物を定量分析する定量分析装置において、遊離炭素を含む炭化物の質量の入力を受け付ける手段と、所定温度にて所定時間前記炭化物を加熱させた後の炭化物及び酸化物の質量の入力を受け付ける手段と、前記加熱後の炭化物及び酸化物を燃焼させ炭素濃度計にて測定した炭素濃度の入力を受け付ける手段と、遊離炭素を含む炭化物を加熱させる場合に得られる第1反応方程式及び前記加熱後の炭化物及び酸化物を燃焼させる場合に得られる第2反応方程式に基づき導出されるモデル式を記憶部から読み出す手段と、該読み出したモデル式へ、前記受け付けた加熱前後の質量及び炭素濃度を制御部により代入して遊離炭素含有率を算出する手段とを備えることを特徴とする。
【0017】
本発明に係る定量分析装置は、前記炭化物は、炭化ケイ素であり、前記モデル式は、
【0018】
【数3】

【0019】
ただし、
F.C[%]:遊離炭素含有率
W1:加熱前の遊離炭素を含む炭化物の測定質量
W2:加熱後の炭化物及び酸化物の測定質量
A:炭素濃度計による測定炭素濃度
であることを特徴とする。
【0020】
本発明に係るプログラムは、遊離炭素を含む炭化物をコンピュータにより定量分析するためのプログラムにおいて、コンピュータに、遊離炭素を含む炭化物の質量の入力を受け付けるステップと、所定温度にて所定時間前記炭化物を加熱させた後の炭化物及び酸化物の質量の入力を受け付けるステップと、前記加熱後の炭化物及び酸化物を燃焼させ炭素濃度計にて測定した炭素濃度の入力を受け付けるステップと、遊離炭素を含む炭化物を加熱させる場合に得られる第1反応方程式及び前記加熱後の炭化物及び酸化物を燃焼させる場合に得られる第2反応方程式に基づき導出されるモデル式を記憶部から読み出すステップと、該読み出したモデル式へ、前記受け付けた加熱前後の質量及び炭素濃度を制御部により代入して遊離炭素含有率を算出するステップとを実行させることを特徴とする。
【0021】
本発明に係るプログラムは、前記炭化物は、炭化ケイ素であり、前記モデル式は、
【0022】
【数4】

【0023】
ただし、
F.C[%]:遊離炭素含有率
W1:加熱前の遊離炭素を含む炭化物の測定質量
W2:加熱後の炭化物及び酸化物の測定質量
A:炭素濃度計による測定炭素濃度
であることを特徴とする。
【0024】
本発明にあっては、まず、加熱前に遊離炭素を含む炭化物(炭化ケイ素または炭化ホウ素等)の質量を測定する。続いて、マッフル炉等を用いて所定温度にて所定時間、遊離炭素を含む炭化物を加熱させる。その後、加熱後の炭化物及び酸化物(酸化ケイ素または酸化ホウ素)の質量を測定する。続いて加熱後の炭化物及び酸化物を炭素濃度計に投入し、これらを燃焼させ、燃焼後の炭素濃度を測定する。遊離炭素を含む炭化物を加熱させる場合に得られる第1反応方程式及び前記加熱後の炭化物及び酸化物を燃焼させる場合に得られる第2反応方程式に基づき導出されるモデル式へ、測定した加熱前後の質量及び炭素濃度を代入する。
【0025】
遊離炭素含有率を算出する場合、第1反応方程式及び第2反応方程式を用いて質量分率をとることにより、モデル式は、式(1)で表現できる。一方、炭化物中の炭素含有率も同様に、式(2)により表現される。そして、これらモデル式へ測定した加熱前後の質量及び炭素濃度を代入することにより、遊離炭素を含む炭化物中の遊離炭素含有率、及び、炭化物中の炭素含有率が算出できるので、所定時間、所定温度加熱させる処理をマッフル炉等に置き換えて実行することができ、HF炉型炭素濃度計を用いた場合でも、遊離炭素含有率を定量分析することが可能となる。
【発明の効果】
【0026】
本発明にあっては、遊離炭素を含む炭化物を加熱させる段階と、炭素濃度計測のために加熱後の炭化物及び酸化物を燃焼させる段階との2段階に分け、各段階の反応方程式から得られるモデル式へ、前後の質量及び炭素濃度を代入することにより、遊離炭素含有率及び炭素含有率を算出する。これにより、所定時間、所定温度に加熱させる処理をマッフル炉等に置き換えて実行することができ、HF炉型炭素濃度計を用いた場合でも、遊離炭素含有率を定量分析することが可能となる。また、所定時間、所定温度加熱させる処理を多くの試料を加熱することが可能なマッフル炉(電気抵抗炉)で行わせ、より短時間での燃焼及び計測処理をHF炉型炭素濃度計、または、ER炉炭素濃度計で並列して行わせ得るようにしたので、短時間で多くの炭化物の定量分析が可能となる等、本発明は優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
実施の形態1
以下本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。図1は加熱処理の第1段階を示す説明図である。本実施の形態においては、炭化物として炭化ケイ素原料粉を用いた例について説明する。この炭化ケイ素原料粉には、一般に炭化ケイ素と微量の遊離炭素(不純物炭素)が含まれている。第1段階においては遊離炭素を含む炭化ケイ素(SiC)1(以下、試料1)、磁製るつぼ2、マッフル炉3及びデシケータ4を用いる。まず、磁製るつぼ2を十分に空焼きして水分等を除去する。なお、本実施の形態においては磁製るつぼを用いたが石英等からなるるつぼを用いても良い。空焼き後の磁製るつぼ2を冷却させ、その中に、例えば0.1gの試料1を投入する。このときの試料1の質量をW1とする。なお、このW1は試料1と磁製るつぼ2との合計質量であっても良い。
【0028】
そして磁製るつぼ2をマッフル炉3に入れ、遊離炭素を完全に脱離させるべく所定温度で、所定時間加熱させる。なお、このときの温度は例えば約900℃であり、時間は10分程度とすれば良い。加熱後、磁製るつぼ2を取り出し、デシケータ4を用い水分等を吸着させないよう磁製るつぼ2ごと常温まで冷却させる。この冷却後の炭化ケイ素(SiC)及び酸化ケイ素(SiO2 )11(以下、試料11)の質量をW2とする。なお、このW2は試料11と磁製るつぼ2との合計質量としても良い。試料1を加熱させて試料11を得る際の化学反応式(以下、第1反応方程式)は式(5)で表される。
【0029】
【数5】

【0030】
ここで、a、b、及びcは物質量の比(モル比)を示す係数である。試料1(遊離炭素を含む炭化ケイ素)の質量W1は第1反応方程式から、式(6)の如く表すことができる。なお、1molあたりの質量を炭素C=12、炭化ケイ素SiC=40、酸化ケイ素SiO2 =60としている。
【0031】
【数6】

【0032】
同様に試料11(炭化ケイ素及び酸化ケイ素)の質量W2は第1反応方程式から、式(7)の如く表すことができる。
【0033】
【数7】

【0034】
第1反応方程式におけるO2 及びCO2 は気体であるので質量は無視している。第1段階における加熱処理おいては、遊離炭素が完全に抽出されており、質量W2と質量W1との差は、SiCからSiO2 への質量変化と遊離炭素の加熱による質量変化とを示すものである。
【0035】
図2は第2段階における燃焼処理で用いるHF炉型炭素濃度計のハードウェア構成を示すブロック図である。図において5は定量分析装置たるHF炉型炭素濃度計であり、高周波誘導加熱炉51(以下、HF炉)、脱水管52、炭素濃度計53、増幅器54、A/D変換器55及びコンピュータ6を含んで構成される。冷却された試料11に、例えば、助燃剤としてタングステンチップ1g、Sn(スズ)粒1g及びCu(銅)粒2gを順に加え、その後、これらをHF炉51内部に挿入する。
【0036】
その後HF炉51を直ちに気密に栓をして酸素を所定の流量で流しつつ試料11を燃焼させる。このHF炉51においては温度約1500℃〜1800℃で、約1〜2分試料11を燃焼させる。HF炉51からは、CO2 (二酸化炭素)、CO(一酸化炭素)、H2 O(水)及びO2(酸素)が脱水管52へむけて排出される。脱水管52には例えば、過塩素酸マグネシウム等の脱水剤が投入されており、H2 Oが除去される。その後、CO2、CO及びO2 は炭素濃度計53へ排出される。炭素濃度計53は赤外線射出光源及び赤外線検出器等を内部に備え、赤外線吸収量に基づいて、CO及びCO2 を測定し、その測定値を出力する。計測された計測値は増幅器54にて増幅され、A/D変換器55へ入力される。A/D変換器55においてアナログ信号からデジタル信号へ変更され、最終的に炭素濃度A(%)が得られる。
【0037】
以上述べた第2段階における燃焼処理は式(8)で示す化学反応式(以下、第2反応方程式)で表すことができる。
【0038】
【数8】

【0039】
式(8)で示す第2反応方程式から炭素濃度Aは、式(9)で表すことができる。
【0040】
【数9】

【0041】
なお、原子量及び濃度の定義から、式(9)右辺分子は44(a−c)となるが、炭素濃度計53では測定値はCO2 濃度等を炭素(C)濃度に変換しているから、CO2 =44を用いるのではなく、C=12を用いて12(a−c)としている。
【0042】
同様に、第1反応方程式及び第2反応方程式から質量分率をとることにより遊離炭素の試料1に対する含有率F.C[%]は式(10)で表すことができる。
【0043】
【数10】

【0044】
さらに、第1反応方程式及び第2反応方程式から質量分率をとることにより遊離炭素を除く炭化ケイ素(SiC)中の炭素(C)の試料1に対する含有率C[%]は、式(11)で表すことができる。
【0045】
【数11】

【0046】
第1反応方程式及び第2反応方程式から得られた式(6)、式(7)及び式(9)の連立方程式を解くことにより、係数a,b及びcが得られる。そしてこれら得られた係数の値を式(10)へ代入することにより、式(1)のとおり、試料1に対する遊離炭素含有率F.C[%]を示す第1モデル式が導出される。
【0047】
さらに、得られた係数の値を式(11)へ代入することにより、式(2)のとおり、遊離炭素を除く炭化ケイ素(SiC)中の炭素(C)の試料1に対する含有率C[%]を示す第2モデル式が導出される。
【0048】
導出された第1モデル式及び第2モデル式へ測定した加熱前後の質量W1、W2及び計測した炭素濃度Aを代入することにより、遊離炭素含有率及び炭素含有率が求まることになる。なお、この求めた遊離炭素含有率と炭素含有率とを加算することにより、試料1の全体的な炭素含有率(全炭素濃度)を得ることができる。
【0049】
次に図2に示すコンピュータ6について説明する。コンピュータ6は例えばパーソナルコンピュータ等が用いられる。コンピュータ6は、制御部としてのCPU(Central Processing Unit)61、RAM(Random Access Memory)62、入力部68、表示部64、操作部63及び記憶部65を含んで構成される。CPU61は、バス67を介してコンピュータ6のハードウェア各部と接続されていて、それらを制御すると共に、記憶部65に格納された制御プログラム65Pに従って、各ソフトウェア処理を実行する。
【0050】
表示部64は例えば液晶ディスプレイ等であり、操作部63はキーボード及びマウス等から構成される。入力部68はA/D変換器55から出力される測定値から求められた炭素濃度の値の入力を受け付けるものであり、例えば、USB(Universal Serial Bus)ポート、シリアルポート、LANカード等である。なお、入力部68をキーボード等により構成し、A/D変換器55で得られた炭素濃度をオペレータ等が手入力するようにしても良い。記憶部65は例えばハードディスクで構成され、内部には上述した制御プログラム65P及びモデル式記憶ファイル651が記憶されている。モデル式記憶ファイル651には上述した第1モデル式及び第2モデル式が記憶されている。RAM62は任意のアドレスを指定して読み書きすることが可能な半導体メモリである。
【0051】
CPU61は、A/D変換器55から出力される測定値に基づいて求められた炭素濃度Aを、入力部68を介して受け付け、また加熱前の質量W1及び加熱後の質量W2の値を、それぞれ操作部63を介して受け付ける。CPU61はこれら受け付けた炭素濃度A、質量W1及びW2をRAM62に記憶する。なお、これら質量W1及びW2はオペレータ等が操作部63から手入力するようにすればよい。CPU61は制御プログラム65Pを実行し、モデル式記憶ファイル651に記憶された第1モデル式及び第2モデル式を読み出す。そして、CPU61は、第1モデル式及び第2モデル式に、RAM62に記憶した炭素濃度A、質量W1及びW2を代入し、遊離炭素含有率F.C[%]及び炭化ケイ素中の炭素含有率C[%]をそれぞれ算出し、表示部64へ出力する。なお、試料1の総炭素含有率は遊離炭素含有率F.C[%]と炭素含有率C[%]との合計値で表すことができるため、CPU61はこれらの値を加算したものを総炭素含有率として表示部64へ出力する。
【0052】
図3はコンピュータ6における定量分析処理の手順を示すフローチャートである。CPU61は、操作部63を介して加熱前の質量W1の入力を受け付ける(ステップS31)。同様に、CPU61は、操作部63を介して加熱後の質量W2の入力を受け付ける(ステップS32)。さらに、CPU61は、A/D変換器55から出力される炭素濃度Aを、入力部68を介して受け付ける(ステップS33)。CPU61はこれら受け付けた炭素濃度A、質量W1及びW2をRAM62に記憶する。CPU61は制御プログラム65Pを実行し、モデル式記憶ファイル651に記憶された第1モデル式及び第2モデル式を読み出す(ステップS34)。
【0053】
CPU61は、第1モデル式及び第2モデル式に、RAM62に記憶した炭素濃度A、質量W1及びW2を代入し、遊離炭素含有率F.C[%]及び炭化ケイ素中の炭素含有率C[%]をそれぞれ算出する(ステップS35)。また、CPU61は算出した遊離炭素含有率F.C[%]と炭素含有率C[%]とを加算して、試料1の総炭素含有率を算出する(ステップS36)。最後に、CPU61は算出した遊離炭素含有率、炭素含有率及び総炭素含有率を表示部64へ表示する(ステップS37)。なお、本実施の形態においては、HF炉51を用いたが、他の加熱炉、例えばER炉を用いても良いことはもちろんである。
【0054】
実施の形態2
実施の形態1においては炭化物として炭化ケイ素を用いたが、炭化ケイ素以外でも加熱により酸化物の特定が可能である場合、同様にモデル化して質量補正を行うことが可能である。実施の形態2に示す如く、炭化ホウ素(B4 C)を用いても良い。炭化ホウ素をマッフル炉3で加熱させた場合、すなわち第1段階における加熱を示す化学反応式は式(12)の如く表される。
【0055】
【数12】

【0056】
同様に、加熱後の炭化ケイ素B4 C及び酸化物B23 をさらに燃焼させた場合、すなわち第2段階における燃焼を示す化学反応式は式(13)の如く表される。
【0057】
【数13】

【0058】
これらについても実施の形態1で述べた方法と同じく式(12)及び式(13)で示す化学反応式からモデル式及び各係数の値を求めることができる。そして、計測した質量W1、W2及び炭素濃度Aをこのモデル式へ代入することにより、遊離炭素含有率、B4 C中の炭素含有率及び総炭素含有率を算出することが可能となる。
【0059】
また、任意の炭化物MCの酸化物が複数(例えばMO2 、MO3 )存在する場合(例えばWC(タングステンカーバイト)等のようにWO2 、WO3 が生成される場合)、化学反応式は式(14)及び式(15)で表すことができる。なお、係数X及びYはMO2 及びMO3 の生成比を示し、X:Yが一定であることを条件とする。
【0060】
【数14】

【0061】
【数15】

【0062】
ここで全ての係数を求める場合は加熱前後の質量W1、W2及び炭素濃度Aを代入すると共に、各係数に適当な値を入力して最小2乗法等を用いたフィッティング処理を、コンピュータを用いて実行することにより、最適な係数の値を決定すればよい。これにより、同様にモデル式を得ることができる。
【0063】
本実施の形態2は以上の如き構成としてあり、その他の構成及び作用は実施の形態1と同様であるので、対応する部分には同一の参照番号を付してその詳細な説明を省略する。
【0064】
実施の形態3
図4は実施の形態3に係るHF炉型炭素濃度計5のハードウェア構成を示すブロック図である。実施の形態3に係る定量分析装置たるコンピュータ6を動作させるためのコンピュータプログラムは、本実施の形態3のように、CD−ROM、メモリーカード等の可搬型記録媒体1Aで提供することも可能である。さらに、コンピュータプログラムを、LAN、またはインターネット等の図示しない通信網を介して図示しないサーバコンピュータからダウンロードすることも可能である。以下に、その内容を説明する。
【0065】
図4に示すコンピュータ6の図示しない記録媒体読み取り装置に、質量W1の入力を受け付けさせ、質量W2の入力を受け付けさせ、炭素濃度Aの入力を受け付けさせ、モデル式を読み出させ、遊離炭素含有率を算出させるコンピュータプログラムが記録された可搬型記録媒体1Aを、挿入して記憶部65のプログラム内にこのプログラムをインストールする。または、かかるプログラムを、図示しない通信部を介して外部の図示しないサーバコンピュータからダウンロードし、記憶部65にインストールするようにしても良い。かかるプログラムはRAM62にロードして実行される。これにより、上述のような本発明のコンピュータ6として機能する。
【0066】
本実施の形態3は以上の如き構成としてあり、その他の構成及び作用は実施の形態1及び2と同様であるので、対応する部分には同一の参照番号を付してその詳細な説明を省略する。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】加熱処理の第1段階を示す説明図である。
【図2】第2段階における燃焼処理で用いるHF炉型炭素濃度計のハードウェア構成を示すブロック図である。
【図3】コンピュータにおける定量分析処理の手順を示すフローチャートである。
【図4】実施の形態3に係るHF炉型炭素濃度計のハードウェア構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0068】
1 試料(遊離炭素を含む炭化ケイ素)
2 磁製るつぼ
3 マッフル炉
4 デシケータ
5 HF炉型炭素濃度計(高周波誘導加熱炉炭素濃度計、定量分析装置)
6 コンピュータ(定量分析装置)
11 試料(炭化ケイ素及び酸化ケイ素)
51 HF炉(高周波誘導加熱炉)
52 脱水管
53 炭素濃度計
61 CPU(制御部)
63 操作部
64 表示部
65 記憶部
68 入力部
651 モデル式記憶ファイル
1A 可搬型記録媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊離炭素を含む炭化物を定量分析する定量分析方法において、
遊離炭素を含む炭化物の質量を測定し、
所定温度にて所定時間前記炭化物を加熱し、加熱後の炭化物及び酸化物の質量を測定し、
加熱後の炭化物及び酸化物を燃焼させ炭素濃度計にて炭素濃度を測定し、
遊離炭素を含む炭化物を加熱する場合に得られる第1反応方程式及び前記加熱後の炭化物及び酸化物を燃焼させる場合に得られる第2反応方程式に基づき導出されるモデル式へ、前記測定した加熱前後の質量及び炭素濃度を代入して遊離炭素含有率を算出する
ことを特徴とする定量分析方法。
【請求項2】
遊離炭素を含む炭化物を加熱させる場合に得られる第1反応方程式及び前記加熱後の炭化物及び酸化物を燃焼させる場合に得られる第2反応方程式に基づき導出されるモデル式へ、前記測定した加熱前後の質量及び炭素濃度を代入して加熱前の炭化物の炭素含有率をさらに算出することを特徴とする請求項1に記載の定量分析方法。
【請求項3】
前記炭化物は、炭化ケイ素であり、前記モデル式は、
【数1】

ただし、
F.C[%]:遊離炭素含有率
W1:加熱前の遊離炭素を含む炭化物の測定質量
W2:加熱後の炭化物及び酸化物の測定質量
A:炭素濃度計による測定炭素濃度
であることを特徴とする請求項1に記載の定量分析方法。
【請求項4】
前記炭化物は、炭化ケイ素であり、前記モデル式は、
【数2】

ただし、
C[%]:炭化ケイ素中の炭素含有率
W1:加熱前の遊離炭素を含む炭化物の測定質量
W2:加熱後の炭化物及び酸化物の測定質量
A:炭素濃度計による測定炭素濃度
であることを特徴とする請求項2に記載の定量分析方法。
【請求項5】
前記炭素濃度計は、高周波誘導加熱炉炭素濃度計であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一つに記載の定量分析方法。
【請求項6】
前記炭化物は、炭化ホウ素であることを特徴とする請求項1または2に記載の定量分析方法。
【請求項7】
遊離炭素を含む炭化物を定量分析する定量分析装置において、
遊離炭素を含む炭化物の質量の入力を受け付ける手段と、
所定温度にて所定時間前記炭化物を加熱させた後の炭化物及び酸化物の質量の入力を受け付ける手段と、
前記加熱後の炭化物及び酸化物を燃焼させ炭素濃度計にて測定した炭素濃度の入力を受け付ける手段と、
遊離炭素を含む炭化物を加熱させる場合に得られる第1反応方程式及び前記加熱後の炭化物及び酸化物を燃焼させる場合に得られる第2反応方程式に基づき導出されるモデル式を記憶部から読み出す手段と、
該読み出したモデル式へ、前記受け付けた加熱前後の質量及び炭素濃度を制御部により代入して遊離炭素含有率を算出する手段と
を備えることを特徴とする定量分析装置。
【請求項8】
前記炭化物は、炭化ケイ素であり、前記モデル式は、
【数3】

ただし、
F.C[%]:遊離炭素含有率
W1:加熱前の遊離炭素を含む炭化物の測定質量
W2:加熱後の炭化物及び酸化物の測定質量
A:炭素濃度計による測定炭素濃度
であることを特徴とする請求項7に記載の定量分析装置。
【請求項9】
遊離炭素を含む炭化物をコンピュータにより定量分析するためのプログラムにおいて、
コンピュータに、
遊離炭素を含む炭化物の質量の入力を受け付けるステップと、
所定温度にて所定時間前記炭化物を加熱させた後の炭化物及び酸化物の質量の入力を受け付けるステップと、
前記加熱後の炭化物及び酸化物を燃焼させ炭素濃度計にて測定した炭素濃度の入力を受け付けるステップと、
遊離炭素を含む炭化物を加熱させる場合に得られる第1反応方程式及び前記加熱後の炭化物及び酸化物を燃焼させる場合に得られる第2反応方程式に基づき導出されるモデル式を記憶部から読み出すステップと、
該読み出したモデル式へ、前記受け付けた加熱前後の質量及び炭素濃度を制御部により代入して遊離炭素含有率を算出するステップと
を実行させるプログラム。
【請求項10】
前記炭化物は、炭化ケイ素であり、前記モデル式は、
【数4】

ただし、
F.C[%]:遊離炭素含有率
W1:加熱前の遊離炭素を含む炭化物の測定質量
W2:加熱後の炭化物及び酸化物の測定質量
A:炭素濃度計による測定炭素濃度
であることを特徴とする請求項9に記載のプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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