説明

定量吸入器を用いたトレプロスチニル投与

トレプロスチニルは定量吸入器を用いて投与することができる。このような投与は患者の自律性を高める。トレプロスチニルを含有する医薬製剤を含んだ定量吸入器を含むキットも開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
本願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、2006年5月15日出願の米国仮出願第60/800016号に対する優先権を主張する。
【0002】
発明の分野
本願は、治療処置のための方法およびキット、より特定すれば、定量吸入器を用いたトレプロスチニルの投与を伴う治療法および関連キットに関する。
【0003】
発明の背景
全ての血液は、何よりも酸素を補給するために、肺循環を介して肺の中を通るが、その酸素は、体循環を介してその他の身体部分周辺にある血液流路に配分される。両循環を通る流れは正常な状況では等しいが、肺循環中にその流れに加わる抵抗は、体循環の抵抗よりは一般にはるかに小さい。肺血流に対する抵抗が増加すると、その循環における圧力は、任意の特定の流れに対して増大する。前記の状態を、肺高血圧(PH)と称する。一般には、肺高血圧は、同じ標高に居住し、同様の活動に従事している大多数の人々に相応しい正常範囲を超えた圧力の観察により規定される。
【0004】
肺高血圧は種々の理由により起こり得るものであり、肺高血圧の各種構成要素が、最新のWHO協定に従って、臨床的および病理的根拠に基づいて5種の区分に分類された。例えば、Simonneau G., et al. J. Am. Coll. Cardiol. 2004; 43(12 Suppl S):5S-12Sを参照されたい。肺高血圧は、肺塞栓による血流障害、肺の中を通過した後の血液を扱う際の心弁もしくは心筋の機能障害、肺疾患もしくは高い標高による肺胞低酸素症に対する反射応答としての肺血管内径の減少、または先天異常における血液のバイパス化や肺組織の外科的除去などの血管容量と必須血流との不適合など、明白または説明可能な抵抗増加の兆候であり得る。加えて、HIVなどのある種の感染症および門脈圧亢進症を伴う肝疾患も、肺高血圧の原因になり得る。膠原血管病などの自己免疫疾患も、肺血管の狭窄をしばしば起こし、相当数の肺高血圧患者の一因となる。抵抗増加の原因が未だ説明できない肺高血圧の症例の残りは、特発性(原発性)肺高血圧(iPAH)と定義され、続発性肺高血圧の原因を除くことにより、その後で診断され、大多数の例では骨形成タンパク質受容体−2遺伝子の遺伝子突然変異に関係している。特発性肺動脈高血圧の症例は、肺高血圧専門の大型施設で療養している患者の約40%という認識可能な割合を構成する傾向がある。最も一般的な患者の約65%が女性および若年の成人であるが、子供および50歳過ぎの患者にも発症してきた。診断時からの平均余命は、特別の処置をしなければ短く、約3〜5年であるが、診断プロセスの特質によっては、自然寛解および寿命延長の報告を時折期待することができる。しかし、一般的に、疾患は失神を経て容赦なく進行し、右心不全および死が突然襲ってくることが非常に多い。
【0005】
肺高血圧とは、肺動脈圧(PAP)の正常レベルを超えた上昇に付随する状態を指す。人間では、通常の平均PAPは約12〜15mmHgである。一方、肺高血圧は、右心カテーテル測定で評価した場合、25mmHgを超える平均PAPと定義することができる。肺動脈圧は、重度型の肺高血圧では全身圧レベルに達する恐れがあり、またはそれを凌ぐ恐れさえある。肺静脈うっ血のために、即ち左心不全または左心弁機能不全においてPAPが著しく増加すると、血漿は、毛細血管から肺間質および肺胞中に脱け出ることができる。その結果、肺中での体液蓄積(肺浮腫)が起こり、それに伴って、一部の症例では致命的にもなり得る肺機能の低下を起こす恐れがある。しかし、肺浮腫は、この疾患の他の全ての構成要素において、肺血管変化による肺高血圧の重度の場合でさえも特徴とは限らない。
【0006】
肺高血圧には、急性の場合も慢性の場合もあり得る。急性肺高血圧は、低酸素症(高所病におけるような)、アシドーシス、炎症または肺塞栓などの状態が引き金となり得る、肺血管の平滑筋の収縮を一般的原因とする潜在的に可逆的な現象であることもよくある。慢性肺高血圧は、肺血管の断面積の減少を起こす肺血管系の大きな構造変化を特徴とする。これの原因には、例えば、慢性低酸素症、血栓塞栓症、膠原血管病、左右短絡による過剰肺循環、HIV感染症、門脈圧亢進症、または遺伝子突然変異と特発性肺動脈高血圧におけるような未知の原因との併発がなり得る。
【0007】
肺高血圧は、成人呼吸窮迫症候群(「ARDS」)および新生児持続性肺高血圧(「PPHN」)などの幾つかの生命に危険を及ぼす臨床症状に関与してきた。Zapol et al., Acute Respiratory Failure, p.241-273, Marcel Dekker, New York (1985); Peckham, J. Ped. 93: 1005 (1978). 主に満期出産乳児が罹る疾患のPPHNは、肺血管抵抗の上昇、肺動脈高血圧、および新生児心臓の動脈管開存および卵円孔開存による血液の左右短絡を特徴とする。致死率は12〜50%の範囲にある。Fox, Pediatrics 59:205 (1977); Dworetz, Pediatrics 84:1 (1989). 肺高血圧は、「肺性心」または肺性心疾患の名で知られている潜在的に致死性の心臓病も最終的に発症する恐れがある。Fishman, “Pulmonary Diseases and Disorders” 2nd Ed., McGraw-Hill, New York (1988).
【0008】
現状では、定量吸入器などの小型吸入装置を用いて投与することのできる、肺高血圧に対する治療薬は存在しない。
【0009】
発明の概要
一実施形態は、定量吸入器(a metered dose inhaler)を用いてトレプロスチニルもしくはトレプロスチニル誘導体または医薬として許容可能なその塩の治療有効量を対象に投与することを含む、トレプロスチニルもしくはトレプロスチニル誘導体または医薬として許容可能なその塩の治療有効量を、それを必要とする対象に送達する方法である。
【0010】
別の実施形態は、定量吸入器を用いてトレプロスチニルもしくはその誘導体または医薬として許容可能なその塩を、それを必要とする対象に投与することを含む、肺高血圧を処置する方法である。
【0011】
更に別の実施形態は、トレプロスチニルもしくはトレプロスチニル誘導体または医薬として許容可能なその塩を含有する、医薬製剤を含んだ定量吸入器を含むキットである。
【0012】
更にまた別の実施形態は、対象における肺高血圧を処置するキットであって、(i)トレプロスチニルもしくはその誘導体または医薬として許容可能なその塩の有効量、(ii)定量吸入器、(iii)肺高血圧の処置に用いる使用説明書を含むキットである。
【0013】
定量吸入器を用いたトレプロスチニルの投与によって、肺高血圧患者などの患者は高度の自律性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】定量吸入器(MDI−TRE)で投与するプラセボ(白丸)、トレプロスチニル30μg(三角)、トレプロスチニル45μg(四角)またはトレプロスチニル60μg(黒丸)を吸入した後の血行動態の肺および全身の変化を示す図である。トレプロスチニル1回の短い吸入が、MDI−TRE45μgおよび60μgの用量で、120分の観察期間を超えて続く、PAPおよびPVRの持続的減少を誘発した。全身動脈の圧力および抵抗は有意な影響を受けなかった。PAP=平均肺動脈圧、PVR=肺血管抵抗、SAP=平均全身動脈圧、SVR=全身血管抵抗。データは平均値±標準誤差(SEM)として示してある。
【図2】定量吸入器で投与するプラセボ(白丸)、トレプロスチニル30μg(三角)、トレプロスチニル45μg(四角)またはトレプロスチニル60μg(黒丸)の吸入で誘発された血行動態の変化を示す図である。トレプロスチニルは、心拍出量の持続的増加を誘発した。心拍数は、体循環へのMDI−TREの低溢出量の兆候としてむしろ変化しなかった。ガス交換は負の影響を受けなかった。CO=心拍出量、HR=心拍数、SaO2=動脈血酸素飽和度、SvO2=中心静脈血酸素飽和度。データは平均値±SEMとして示してある。
【図3】定量吸入器を用いたトレプロスチニル吸入後120分の観察期間に対して計算した、肺血管抵抗(PVR)の変化に対する曲線下面積を示す図である。PVRは、トレプロスチニル吸入により顕著に低下した。高い方の2用量を用いた経時的な肺血管拡張の増加は、より持続的な経時的効果に主に依存している。データは平均値±95%信頼区間として示してある。
【図4】多種類不活性ガス排泄技法で測定した換気・血流均等性を明示する図である。以前よりガス交換障害のある患者5名(TRE30μg、n=2;TRE45μg、n=1;TRE60μg、n=2)に対して、換気・血流比の変化を調べた。患者全員が、かなりの基準バイパス流を示した。バイパス流および低V/Q領域は、定量吸入器(MDI−TRE)を用いた一酸化窒素(NO)吸入またはトレプロスチニル吸入によって有意に変化しなかった。トレプロスチニルを高濃度に投与したMDI−TREは、換気・血流均等性およびガス交換に負の影響を及ぼさなかった。データは平均値±95%信頼区間として示してある。
【図5】吸入したトレプロスチニル対イロプロストに対する肺血管抵抗(PVR)の応答として、時期効果を示す図である。a)トレプロスチニルの1回目吸入(n=22)対イロプロストの1回目吸入(n=22)、b)トレプロスチニルの2回目吸入(n=22)対イロプロストの2回目吸入(n=22)。トレプロスチニルによるPVR減少は、イロプロストと比較して遅延し、かつ持続した。第1期間からのキャリーオーバー効果のために、第2期間では両薬物の効果が短縮されているように見えた。データは、基準値に対する比率(%)(平均値±95%信頼区間)として示してある。
【図6】トレプロスチニル対イロプロストの吸入に対するPVRおよび全身動脈圧(SAP)の応答として、用量効果を示す図である。a)イロプロスト7.5μg(6分で)対トレプロスチニル7.5μg(6分)の吸入(n=14、無作為化した順で)。b)イロプロスト7.5μg(6分)対トレプロスチニル15μg(6分)の吸入(n=14、無作為化した順で)。c)イロプロスト7.5μg(6分で)対トレプロスチニル15μg(3分)の吸入(n=16、無作為化した順で)。データは、基準値に対する比率(%)(平均値±95%信頼区間)として示してある。イロプロストは黒丸、トレプロスチニルは白三角。
【図7】トレプロスチニル対イロプロストの吸入に対する血行動態応答を示す図である。無作為化した順で両薬物を吸入した患者n=44のデータを基準値に対する比率(%)(平均値±95%信頼区間)として示す。PVR、肺血管抵抗;PAP、平均肺動脈圧;SAP、平均全身動脈圧;CO、心拍出量。
【図8】プラセボに対するトレプロスチニル吸入後の薬物動態を示す図である。プラセボまたは30μg、60μgもしくは90μg用量のトレプロスチニルを吸入した(平均値±95%信頼区間)。PVRの最大減少は全ての用量に対して同等であった。肺血管拡張(PVRの減少)の持続期間は用量依存的であるように見えた。PVR、肺血管抵抗;PAP、平均肺動脈圧;SAP、平均全身動脈圧;CO、心拍出量;SaO2、動脈血酸素飽和度;SvO2=混合静脈血酸素飽和度。
【図9】プラセボ曲線とトレプロスチニル曲線との間の面積(ABC)を示す図である。各ABCは、TREまたはプラセボ吸入後の期間3時間に対して血行動態パラメーターの相対変化から計算した(平均値±95%信頼区間)。PVR、肺血管抵抗;PAP、平均肺動脈圧;SAP、平均全身動脈圧;SVR、全身血管抵抗。
【図10】トレプロスチニル15μgの吸入に対する血行動態応答を示す図である。トレプロスチニル濃度の増加による吸入時間。1パルスのエアゾールを6秒毎に発生した。TREエアゾールを100μg/ml(18パルス;n=6)、200μg/ml(9パルス;n=6)、600μg/ml(3パルス;n=21)、1000μg/ml(2パルス;n=7)および2000μg/ml(1パルス;n=8)の濃度で吸入した。プラセボデータは図8に対応する。データは平均値±95%信頼区間として示してある。PVR、肺血管抵抗;PAP、平均肺動脈圧;SAP、平均全身動脈圧;CO、心拍出量。
【図11】プラセボ曲線と、吸入時間を最小限にするために濃度を増加させながら投与したトレプロスチニル15μgに対する各応答との間の面積を示す図である。血行動態パラメーターの相対変化の平均値±SEM(観察時間120分)。PAP、肺動脈圧;SAP、全身動脈圧;PVR、肺血管抵抗;CO、心拍出量;SaO2、全身動脈血酸素飽和度;SvO2=肺動脈血酸素飽和度。
【図12】単回吸入後のトレプロスチニルの薬物動態を示す図である。トレプロスチニル30μg、60μg、90μgまたは120μg吸入後のトレプロスチニル血漿濃度(吸入期間6分;実験は図8および9に示したものに対応する)。誤差棒付きのデータは平均値±SEMを表わす。
【0015】
発明の詳細な説明
別途明記しない限り、本明細書で使用する用語「a」または「an」は、「1つまたは複数」を意味するものとする。
【0016】
本願は、参照によりVoswinckel R, et al. J. Am. Coll. Cardiol. 2006; 48:1672-1681の全体を本明細書に組み込む。
【0017】
本発明者等は、定量吸入器などの小型吸入装置を用いた少数回の単一吸入で、トレプロスチニルの治療有効用量を投与できることを発見した。更に、本発明者等は、このような投与が、目立った副作用を起こさない、特に、体血圧および体循環に関わる目立った副作用が全くなく、またガス交換の不良または途絶もないことも発見した。
【0018】
したがって、本発明の一実施形態は、定量吸入器を用いてトレプロスチニル、その誘導体、または医薬として許容可能なその塩の治療有効量を含んだ製剤を対象に投与することを含む、トレプロスチニルの治療有効量を、それを必要とする人間などの対象に送達する方法である。トレプロスチニルは、トレプロスチニルで処置できる、喘息、肺高血圧、末梢血管障害、肺線維症などの病状または疾患に罹っている対象に、定量吸入器を介して投与することができる。
【0019】
本発明の別の実施形態は、定量吸入器を用いてトレプロスチニルもしくはその誘導体、または医薬として許容可能な塩を、それを必要とする人間などの対象に投与することを含む、肺高血圧を処置する方法である。
【0020】
トレプロスチニル、または9−デオキシ−2’,9−α−メタノ−3−オキサ−4,5,6−トリノル−3,7−(1’3’−インターフェニレン)−13,14−ジヒドロプロスタグランジンF1は、米国特許第4306075号に最初に記載されたプロスタサイクリン類縁体である。米国特許第5153222号には、肺高血圧を処置するためのトレプロスチニルの使用が記載されている。トレプロスチニルは、静脈内経路ならびに皮下経路について認可されているが、皮下経路は、連続式静脈カテーテルに付随する敗血事故を回避している。米国特許第6521212号および第6756033号には、肺高血圧、末梢血管障害ならびに他の疾患および病状を処置するための、吸入によるトレプロスチニルの投与が記載されている。米国特許第6803386号には、肺、肝臓、脳、すい臓、腎臓、前立腺、乳房、結腸および頭頚部癌などの癌を処置するためのトレプロスチニルの投与が開示されている。米国特許出願公開第2005/0165111号には、虚血病変部のトレプロスチニル処置が開示されている。米国特許第7199157号は、トレプロスチニル処置が腎機能を改善することを開示している。米国特許出願公開第2005/0282903号には、神経障害性足部潰瘍のトレプロスチニル処置が開示されている。2007年2月9日出願の米国仮出願第60/900320号には、肺線維症のトレプロスチニル処置が開示されている。
【0021】
用語「酸誘導体」は、C1〜4アルキルのエステルおよびアミドを、窒素が1個または2個のC1〜4アルキル基で置換されていてもよいアミドを含めて記載するために、本明細書で使用されている。
【0022】
本発明は、トレプロスチニルもしくはその誘導体または医薬として許容可能なその塩を使用する方法も包含する。一実施形態では、ある方法では、REMODULIN(登録商標)の商品名で現在市販されているトレプロスチニルナトリウムを使用する。FDAは、投薬濃度1.0mg/mL、2.5mg/mL、5.0mg/mLおよび10.0mg/mLの注射による肺動脈高血圧の処置のために、トレプロスチニルナトリウムを認可している。トレプロスチニルナトリウムの化学構造式は次の通りである。
【0023】
【化1】

【0024】
トレプロスチニルナトリウムは、化学名:(a)[(1R,2R,3aS,9aS)−2,3,3a,4,9,9a−ヘキサヒドロ−2−ヒドロキシ−1−[(3S)−3−ヒドロキシオクチル]−1H−ベンズ[f]インデン−5−イル]オキシ]酢酸、または(b)9−デオキシ−2’,9−α−メタノ−3−オキサ−4,5,6−トリノル−3,7−(1’,3’−インターフェニレン)−13,14−ジヒドロプロスタグランジンF1によって呼称されることもある。トレプロスチニルナトリウムは、UT−15、LRX−15、15AU81、UNIPROST(商標)、BW A15AUおよびU−62840としても知られている。トレプロスチニルナトリウムの分子量は390.52であり、その実験式はC23345である。
【0025】
ある種の実施形態では、トレプロスチニルは、1種または複数の付加的な活性剤と組み合わせて投与することができる。幾つかの実施形態では、このような1種または複数の付加的な活性剤は、定量吸入器を用いてトレプロスチニルと共に投与することもできる。更に幾つかの実施形態では、このような1種または複数の付加的な活性剤は、トレプロスチニルとは別々に投与することができる。トレプロスチニルと組み合わせて投与することができる特定の付加的活性剤は、その処置または予防のためにトレプロスチニルを投与する特定の疾患または病状に依存し得る。幾つかの症例では、該付加的活性剤には、カルシウムチャンネル遮断剤、ホスホジエステラーゼ阻害剤、内皮拮抗剤または抗血小板剤などの心血管作動剤がなり得る。
【0026】
本発明は、トレプロスチニルの生理的に許容可能な塩、ならびに本発明の薬理活性化合物の調製に使用し得る、トレプロスチニルの生理的に許容できない塩を使用する方法まで展開されている。
【0027】
用語「医薬として許容可能な塩」とは、トレプロスチニルの無機塩基、有機塩基、無機酸、有機酸、または塩基性もしくは酸性のアミノ酸との塩を指す。無機塩基の塩には、例えば、ナトリウムやカリウムのアルカリ金属、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属またはアルミニウム、およびアンモニアの塩がなり得る。有機塩基の塩には、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、エタノールアミン、ジエタノールアミンおよびトリエタノールアミンの塩がなり得る。無機酸の塩には、例えば、塩酸、ヒドロホウ酸、硝酸、硫酸およびリン酸の塩がなり得る。有機酸の塩には、例えば、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、フマル酸、蓚酸、乳酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸およびp−トルエンスルホン酸の塩がなり得る。塩基性アミノ酸の塩には、例えば、アルギニン、リジンおよびオルニチンの塩がなり得る。酸性アミノ酸の塩には、例えば、アスパラギン酸およびグルタミン酸の塩を挙げることができる。四級アンモニウム塩は、例えば、塩化、臭化およびヨウ化メチル、エチル、プロピルおよびブチルなどのハロゲン化低級アルキルと、硫酸ジアルキルと、塩化、臭化およびヨウ化デシル、ラウリル、ミリスチルおよびステアリルなどの長鎖ハロゲン化物と、ならびに臭化ベンジルおよびフェネチルなどのハロゲン化アラルキルとの反応により、形成することができる。
【0028】
医薬として許容可能な好ましい塩は、例えば米国特許出願公開第20050085540号に開示されている。
【0029】
トレプロスチニルは吸入により投与することができるが、吸入とは、本脈絡においては、活性成分または活性成分の組合せの呼吸経路を介した送達を指し、当該対象は、対象の鼻や口などの対象の気道を介して活性成分(複数も)を必要としている。
【0030】
本脈絡における定量吸入器とは、トレプロスチニルなどの呼吸器用薬物の定量またはボーラス量を肺へ送達できる装置を意味する。吸入装置の一例には、加圧式定量吸入器、即ち、クロロフルオロカーボン(CFC)および/またはハイドロフルオロアルカン(HFA)の溶液中にある呼吸器用薬物の溶液および/または懸濁液から吸入用エアゾール雲霧を生成する装置がなり得る。
【0031】
該吸入装置には、乾燥粉末吸入器もなり得る。このような場合には、呼吸器用薬物が、粒子サイズが直径10μm未満または直径5μm未満の普通は粉末形態の固体製剤として吸入される。
【0032】
定量吸入器はソフトミスト吸入器(a soft mist inhaler)(SMI)でもよく、その場合、呼吸器用薬物を含有するエアゾール雲霧は、呼吸器用薬物を含有する溶液を1個のノズルまたは一連のノズルの中を通過させることにより、生成することができる。エアゾール生成は、SMIにおいて、例えば機械的、電気機械的または熱機械的プロセスにより実現することができる。ソフトミスト吸入器の例には、Respimat(登録商標)吸入器(Boeringer Ingelheim GmbH)、AERx(登録商標)吸入器(Aradigm Corp.)、Mystic(商標)吸入器(Ventaira Pharmaceuticals,Inc)およびAira(商標)吸入器(Chrysalis Technologies Incorporated)が挙げられる。ソフトミスト吸入器の技術に関する総説については、例えばM. Hindle, The Drug Delivery Companies Report, Autumn/Winter 2004, pp.31-34を参照されたい。SMI用のエアゾールは、医薬として許容可能な賦形剤を更に含有する呼吸器用薬物の溶液から生成することができる。本事例では、呼吸器用薬物は、トレプロスチニル、その誘導体、または医薬として許容可能なその塩であり、SMI中で溶液として製剤化することができる。該溶液は、例えば、水、エタノールまたはそれらの混合液中のトレプロスチニルの溶液とし得る。トレプロスチニル含有エアゾール粒子の直径は、約10ミクロン未満、または約5ミクロン未満、または約4ミクロン未満であることが好ましい。
【0033】
定量吸入器中で使用する溶液などのエアゾール製剤におけるトレプロスチニルの濃度は、約500μg/ml〜約2500μg/ml、または約800μg/ml〜約2200μg/ml、または約1000μg/ml〜約2000μg/mlの範囲とすることができる。
【0034】
単回イベントで定量吸入器を用いて投与することのできるトレプロスチニルの用量は、約15μg〜約100μg、または約15μg〜約90μg、または約30μg〜約90μg、または約30μg〜約60μgとすることができる。
【0035】
単回イベントでのトレプロスチニルの投与は、限られた回数の患者による呼吸で実施することができる。例えば、20回以下の呼吸、または10回以下の呼吸、または5回以下の呼吸でトレプロスチニルを投与することができる。好ましくは、3回、2回または1回の呼吸でトレプロスチニルを投与する。
【0036】
単回投与イベントの全時間は、5分未満または1分未満または30秒未満とすることができる。
【0037】
トレプロスチニルは、1日当たり1回または1日当たり数回投与することができる。
【0038】
幾つかの実施形態では、肺高血圧の処置法は、シルデナフィル、タダラフィル、カルシウムチャンネル遮断剤(ジルチアゼム、アムロジピン、ニフェジピン)、ボセンタン、シタキセンタン、アンブリセンタンおよび医薬として許容可能なそれらの塩からなる群から選択される、少なくとも1種の補助剤を投与することを更に含むことができる。幾つかの実施形態では、該補助剤はトレプロスチニル製剤中に含めることができ、したがって、定量吸入器を用いてトレプロスチニルと同時に投与することができる。幾つかの実施形態では、該補助剤は、トレプロスチニルと別々に投与することができる。幾つかの実施形態では、定量吸入器を用いた吸入により投与されるトレプロスチニルの他に、静注プロスタサイクリン(フローラン)、静注イロプロスト、または静注もしくは皮下注トレプロスチニルの施用を行うことができる。
【0039】
本発明は、トレプロスチニル、その誘導体、または医薬として許容可能なその塩を含有する医薬製剤を含んだ定量吸入器を含むキットも提供する。このようなキットは、トレプロスチニルを吸入するための定量吸入器の使用法に関する使用説明書を更に含む。このような使用説明書は、例えば、患者の呼吸の調整法および吸入器の作動に関する情報を含むことができる。該キットは、喘息、肺高血圧、末梢血管障害または肺線維症などのトレプロスチニルで処置できる疾患または病状に罹っている、人間などの対象により使用することができる。
【0040】
幾つかの事例では、該キットは、肺高血圧を処置するためのキットであり、(i)トレプロスチニルもしくはその誘導体、または医薬として許容可能なその塩を含有する医薬製剤を含んだ定量吸入器、および(ii)肺高血圧を処置する際にトレプロスチニルを含んだ定量吸入器を使用するための使用説明書を含むキットである。
【0041】
本明細書で使用する場合、「使用するための使用説明書」という語句は、吸入により肺高血圧を処置するために、トレプロスチニルもしくはその誘導体、または医薬として許容可能なその塩を投与することに関する、FDA指令の任意のラベル、使用説明書またはパッケージ内挿入書きを意味するものとする。使用するための使用説明書は、例えば、それだけに限らないが、肺高血圧の兆候、トレプロスチニルで軽減できる肺高血圧付随の個別症状の確認、肺高血圧に罹っている対象に対する推奨投与量、ならびに個人の呼吸調整および定量吸入器の作動に関する教示を含んでもよい。
【0042】
本発明は、以下の実施例によってより詳細に例示することができるが、本発明はそれに限定されないと理解されたい。
【実施例1】
【0043】
数秒で送達される吸入トレプロスチニルの急性安全性、許容性および血行動態効果に関する非盲検試験
ソフトミスト吸入器により数秒で投与した吸入トレプロスチニル(SMI−TRE)の安全性、許容性および肺血管拡張効力を決定するために、右心カテーテル検査中での血管拡張剤急性投与に関する試験を行った。この試験から、全身性副作用およびガス交換途絶がない状態で、SMI−TREの肺血行動態に対する好ましい長期持続的効果の証拠が得られた。
【0044】
概要
吸入一酸化窒素(20ppm、n=45)および吸入トレプロスチニルナトリウム(TRE、n=41)またはプラセボ(n=4)を、右心カテーテル検査中に1回投与した。TREは、Respimat(登録商標)SMIから2回の呼吸(エアゾール濃度1000μg/ml、用量30μg、n=12)、3回の呼吸(1000μg/ml、45μg、n=9)、または2回の呼吸(2000μg/ml、60μg、n=20)で送達させた。肺血行動態および血中ガスは所定の時点で測定し、TRE投与後の観察時間は120分であった。30μg、45μgおよび60μgのTRE用量は、肺血管抵抗(PVR)をそれぞれ基準値の84.4±8.7%、71.4±17.5%および77.5±7.2%へ低下させた(平均値±95%信頼区間)。プラセボ、30μg、45μgおよび60μgTREのPVRに対する120分曲線下面積は、それぞれ1230±1310、−870±940、−2450±2070および−2000±900分%であった。高い方の用量2点の単回吸入によるPVR低下は、120分の観察期間を超えて持続した。体血管抵抗および体血圧の低下は無視し得る程度であり、SMI−TREの高い肺選択性を示した。ガス交換障害のある患者5名において多種類不活性ガス排泄技法で評価した換気・血流均等性は、吸入一酸化窒素または未処置と比較して、SMI−TRE後に有意差がなかったので、肺内選択性もSMI−TREにより得られた。有意な副作用も認められなかった。
【0045】
結論:定量吸入器を用いた呼吸2〜3回での吸入トレプロスチニルの急性投与は、安全であり、良好に許容され、強力で持続的な選択的肺換気を誘発した。
【0046】
方法および患者
中度から重度の前毛細管性肺高血圧の患者総数45名が登録された。患者の特性は、女性対男性比(f/m)=29/16、年齢59±2.3歳、肺動脈圧(PAP)45±1.8mmHg、肺血管抵抗(PVR)743±52dyne・s・cm-5、肺動脈楔入圧(PAWP)8.6±0.5mmHg、中心静脈圧(CVP)6.4±0.7mmHg、心拍出量(CO)4.5±0.2l/分、中心静脈血酸素飽和度(SvO2)62.3±1.2mmHg(平均値±標準誤差)であった。疾患の原因は、特発性PAH(iPAH)(n=13)、他のPAH(n=11)、慢性血栓塞栓性肺高血圧(CTEPH)(n=17)、および肺線維症(n=4)であった。表1は異なる群の患者特性を提示している。
【0047】
表1
異なる処置群の患者特性。データは、平均値±標準誤差(SEM)として示されている。PAP=肺動脈圧、PVR=肺血管抵抗、CO=心拍出量、SAP=全身動脈圧、SaO2=動脈血酸素飽和度、SvO2=中心静脈血酸素飽和度。
【0048】
【表1】

【0049】
基準値は、カテーテルを配置してから20〜30分後に決定した。心拍数、肺および体血圧、ならびに心拍出量を測定し、血中ガスを各薬理学的介入中の所定の時点に採取した。薬理学的介入には、基準パラメーター評価後の一酸化窒素(NO)20ppmの吸入(n=45)、およびプラセボ(n=4)、SMI−TRE30μg(n=12)、SMI−TRE45μg(n=9)またはSMI−TRE60μg(n=20)の逐次吸入が含まれていた。プラセボおよびトレプロスチニルは、Respimat(登録商標)SMIを用いて投与した。この装置をトレプロスチニルナトリウムで充填するために、プラセボ溶液をシリンジで該装置から抜き取り、トレプロスチニル溶液を滅菌条件下で該装置に注入した。SMI装置の再充填前後に、エアゾール品質をレーザー回折測定法で管理した。例えば、その全体が本明細書に組み込まれるGessler T., Schmehl T., Hoeper M.M., Rose F., Ghofrani H.A., Olschewski H. et al. Ultrasonic versus jet nebulization of iloprost in severe pulmonary hypertension. Eur. Respir. J. 2001;17:14-19を参照されたい。充填の前(プラセボ)および後(トレプロスチニル)のエアゾールサイズに、変化はなかった。トレプロスチニルエアゾールに関するエアゾール粒子の空気動力学的粒径(mass median aerodynamic diameter)は、4〜5μmであったが、これは肺胞沈着に対する上限とすることができる。SMIから1サイクルで放出されるエアゾール容量は、15μlであった。エアゾール生成に使用する溶液は、標準的な手順を用いてトレプロスチニルナトリウム塩から調製した。SMIは、濃度1000μg/mlのトレプロスチニルナトリウム(エアゾール1吹き=TRE15μg)、または2000μg/ml(1吹き=TRE30μg)のいずれかで充填した。異なる用量を、2吹きの1000μg/ml(30μg)、3吹きの1000μg/ml(45μg)および2吹きの2000μg/ml(60μg)として投与した。プラセボは、プラセボSMIから2吹きとして吸入された。TRE吸入後120分間、血行動態およびガス交換のパラメーターを記録した。この試験ではRespimat(登録商標)装置を使用したが、その理由は、実施した「ソフトミスト」技術が、プロスタノイドのような高活性薬物の沈着に良く適合していたからである。
【0050】
SMI−TREの換気・血流均等性に対する影響を、既存のガス交換障害がある患者5名(TRE30μg、n=2;TRE45μg、n=1;TRE60μg、n=2)において、多種類不活性ガス排泄技法(MIGET)を使用して評価した。例えば、共にその全体が本明細書に組み込まれるWagner PD, Saltzman HA, West JB. Measurement of continuous distributions of ventilation-perfusion ratios: theory. J. Appl Physiol. 1974; 36:588-99; Ghofrani HA, Wiedemann R, Rose F, Schermuly RT, Olschewski H, Weissmann N et al. Sildenafil for treatment of lung fibrosis and pulmonary hypertension: a randomised controlled trial. Lancet. 2002;360:895-900を参照されたい。
【0051】
統計
平均値、標準偏差、標準誤差および95%信頼区間を計算した。統計分析は、対応のあるt−検定を使用して行った。
【0052】
結果
定量吸入器からのトレプロスチニルナトリウムの吸入(SMI−TRE)は、良く許容されており、最大1分間の軽度で一時的な咳しか報告されなかった。頭痛、紅潮、吐き気またはめまいのような全身性副作用は、全く認められなかった。
【0053】
呼吸2〜3回分のSMI−TREは、120分の観察時間を超えて持続する(45および60μg)強力な肺血管の拡張を誘発した。より少ない用量のTRE30μgでは、肺血管抵抗に対する誘発効果がやや短かったが、肺の最大血管拡張は同等であった。対照的に、プラセボ吸入では肺の血管拡張が誘発されなかった。実際、プラセボ吸入後に、右心カテーテル検査の時間に亘るPVRのわずかな増加を記録することができた(図1)。体血管抵抗および体血圧に対するSMI−TREの効果は、非常に小さく、臨床的に有意ではなかった。心拍出量は全観察期間に亘って有意に増加したが、心拍数はむしろ変化しなかった。ガス交換は、SMI−TREの影響を受けなかった(図2)。基準値と比較した血行動態およびガス交換のパラメーターの最大変化が、表2に表示されている。
【0054】
表2
基準値と比較した、プラセボ(n=4)、トレプロスチニル30μg(n=12)、トレプロスチニル45μg(n=9)およびトレプロスチニル60μg(n=20)を吸入した後の血行動態およびガス交換のパラメーターの相対変化極限値。観察期間中の最高値(最大)および最低値(最小)が示されている。データは、基準値に対するパーセント(平均値±SEM)で示されている。PAP=肺動脈圧、PVR=肺血管抵抗、SVR=体血管抵抗、CO=心拍出量、SAP=全身動脈圧、HR=心拍数、SaO2=動脈血酸素飽和度、SvO2=中心静脈血酸素飽和度。
【0055】
【表2】

【0056】
PVRの曲線下面積を、120分の観察期間に亘りプラセボおよび異なるSMI−TRE用量に対して計算した(図3)。最高側の2用量の方が効果の持続性が高い傾向を示す、SMI−TREの用量効果を認めることができた。
【0057】
高濃度のエアゾールを吸入すると、少量のエアゾールの沈着でさえ、局所的には高用量を送達し、そのため換気不良域で低酸素性肺血管収縮に拮抗し得るので、理論的には、ガス交換の撹乱を起こしがちになり得る。このために、次いでバイパス流の増加または低換気/血流(V/Q)域の増加を起こすことになろう。この問題には、肺内V/Q比決定の基本標準である多種類不活性ガス排泄技法(MIGET)を用いて、5名の患者において対処した。MIGET患者は、ガス交換の既存制限を求めて選択した。これら患者の特性は、PAP54.6±3.2mmHg、PVR892±88dyne、SaO2が91.7±0.5%、SvO2が65.2±1.8%であった。病因は、iPAH(n=1)、CTEPH(n=3)、肺線維症(n=1)であった。これら患者におけるSMI−TRE吸入後のSaO2の最大減少率は、基準値と比較して−3.8±1.5%であった。基準値、NO吸入、およびSMI−TREから60分後のバイパス流は、それぞれ6.4±4.3%、5.4±3.0%および8.3±3.4%であった(平均値±95%信頼区間、図4)。
【0058】
SMI−TRE吸入後の低V/Q域またはバイパス率の有意な増加は、認められず、実際に血流の分布は、基準値および一酸化窒素吸入中の分布と異なっていなかった。このことは、SMI−TREの優れた肺内選択性を証明しており、その選択性は変化のない動脈血酸素飽和度にも反映されている。
【0059】
結論
トレプロスチニルは、高い用量で全身的副作用がなく許容される。ほんの少数回または1回の呼吸でさえ、それによる有効量のトレプロスチニルの投与は、高濃度のトレプロスチニルナトリウム溶液を用いて実現された。トレプロスチニルは、Respimat(登録商標)ソフトミスト吸入器などの定量吸入器により投与することができる。
【実施例2】
【0060】
重度肺高血圧における肺血行動態およびガス交換に対する吸入トレプロスチニルの効果に関する調査
この試験では、重度肺高血圧における肺血管抵抗に対する吸入トレプロスチニルの効果を調査し、全身的効果およびガス交換、ならびに短時間で投与した高用量のトレプロスチニルの許容性および効力を扱った。平均肺動脈圧約50mmHgの総数123名の患者を3種個別の無作為化試験で調査した。吸入トレプロスチニルは、優れた許容性と共に効力ある持続的な肺血管拡張を起こし、少数回の呼吸で、または1回の呼吸でさえ安全に投与することができた。
【0061】
概要
総数123名の患者について右心へのカテーテル挿入により、異なる3試験:i)無作為化クロスオーバーデザイン試験(患者44名)、ii)用量増加試験(患者31名)、およびiii)用量を一定に維持した吸入時間減少試験(患者48名)を行った。主要評価項目は、肺血管抵抗(PVR)の変化であった。
【0062】
登録患者の平均肺動脈圧は約50mmHgであった。血行動態および患者特性は、全ての試験で類似していた。試験i)では、吸入用量7.5μgのTREおよびイロプロスト(ILO)は、経時変化が有意に異なりながらも(p<0.001)同等のPVR減少を示したが、TREの方が、PVRに対する効果が持続的(p<0.0001)であり、全身的副作用が少なかった。試験ii)では、30μg、60μg、90μgまたは120μgのTREを投与し、薬物効果を吸入後3時間の間観察した。PVRのほぼ最大の急性減少が、30μgのTREで観察された。試験iii)では、定量吸入器を模倣したパルス化超音波ネブライザーでTREを吸入した。15μgのTREを18パルス(TRE濃度100μg/ml)、9パルス(200μg/ml)、3パルス(600μg/ml)、2パルス(1000μg/ml)または1パルス(2000μg/ml)で吸入したが、各方式は、同等の持続的な肺血管拡張を実現した。
【0063】
吸入トレプロスチニルは、少数回の呼吸で、または1回の呼吸でさえ吸入し得る用量で、優れた許容性と共に持続的な肺血管拡張を起こす。吸入トレプロスチニルは、効果の持続性および全身的副作用から観て吸入イロプロストより有利である。吸入トレプロスチニルは、2000mg/ml(吸入時間を1回の呼吸まで短縮させる)までの濃度、および高い用量(90μgまで)で良く許容される。
【0064】
方法
全ての吸入は、Optineb(登録商標)超音波ネブライザー(Nebutec,Elsenfeld、ドイツ)で行った。
【0065】
試験i)は無作為化した非盲検、単盲検のクロスオーバー試験であった。主要目的は、吸入トレプロスチニルの急性血行動態効果および全身的副作用を同等用量の吸入イロプロストと比較することであった。中度から重度の前毛細管性肺高血圧を有する患者、総数44名が登録された。患者特性と、血行動態ならびにガス交換パラメーターとの概要が、表3に示されている。
【0066】
表3
基準線での、即ち吸入プロスタノイド投与前の患者特性、血行動態パラメーターおよびガス交換値。
【0067】
グループ1は、試験i)即ち、吸入イロプロスト(ILO)および吸入トレプロスチニル(TRE)を比較する無作為化クロスオーバー試験に対応する。a=7.5gILO対7.5μgTRE、b=7.5gILO対15μgTRE(吸入時間6分)、c=7.5gILO対15μgTRE(吸入時間3分)。グループ2は、試験ii)即ち、TREの最大許容用量の評価に対応する。a=プラセボ吸入、b=30μgTRE、c=60μgTRE、d=90μgTRE、e=120μgTRE。グループ3は、試験iii)即ち、総吸入用量15μgを目標とした、TRE濃度の増加による吸入時間の減少に対応する。a=18パルスのTRE100μg/ml、b=9パルスのTRE200μg/ml、c=3パルスのTRE600μg/ml、d=2パルスのTRE1000μg/ml、e=1パルスのTRE2000μg/ml。肺高血圧の病因は、特発性PAH(i)、ほかの原因のPAH(o)、慢性血栓塞栓性PH(t)および肺線維症(f)と分類された。
【0068】
【表3】

【0069】
各患者は、同じ日の右心カテーテル検査中にイロプロスト、トレプロスチニルの両方を吸入した。薬物投与間隔を1時間にして両薬物の投与を逐次受けた。試験患者の半数は、先ずトレプロスチニルを吸入し、次いでイロプロストを吸入した(n=22)が、他の半数は先ずイロプロストを吸入し、次いでトレプロスチニルを吸入した(n=22)。患者たちは、この2群の一方に無作為に割り当てられ、試験薬物に関して盲検にされた。薬物効果は、各吸入後60分間モニターされた。イロプロストは4μg/ml(吸入時間6分、n=44)で吸入され、トレプロスチニルは、4μg/ml(吸入時間6分、n=14)、8μg/ml(吸入時間6分、n=14)または16μg/ml(吸入時間3分、n=16)の濃度で吸入された。イロプロスト溶液およびトレプロスチニル溶液を用いた超音波装置に関する実施済みの生物物理学的な特性決定に基づくと、これは、それぞれ7.5μgのイロプロストおよびトレプロスチニル(4μg/ml)、ならびに15μgのトレプロスチニル(8μg/mlおよび16μg/ml)の全吸入用量に相当する。
【0070】
試験ii)は無作為化した非盲検、単盲検のプラセボ対照試験であった。主要目的は、良好に許容される用量(30μg)で吸入トレプロスチニルの血行動態的および薬物動態的効果を表現し、最高の許容単回用量を探索することであった。総数31名の患者はプラセボ、トレプロスチニルいずれかを吸入した。各患者は1回の吸入を受けた。最初の患者16名は、TRE30μg(16μg/ml、n=8)またはプラセボ(TRE16μg/mlに相当する濃度のストック溶液)に無作為に割り当てられた。その後の患者は、TRE60μg(32μg/ml、n=6)、TRE90μg(48μg/ml、n=6)およびTRE120μg(64μg/ml、n=3)を受けた。吸入時間は全群において6分であった。血行動態およびガス交換、ならびにトレプロスチニル動脈濃度を180分間記録した。
【0071】
試験iii)は無作為化した非盲検、単盲検の試験であった。主要目的は、吸入トレプロスチニル15μg用量に対するできる限り短い吸入時間を探索することであった。総数48名の患者が、右心カテーテル検査中にTREを1用量吸入した。該薬物は、呼吸18回、9回、3回、2回または1回で投与された。エアゾールは、エアゾール生成2秒間(パルス)および中断4秒間からなるサイクルで、パルス化超音波ネブライザー(Ventaneb,Nebutec,Elsenfeld、ドイツ)により生成された。該装置は、患者がエアゾールパルスの終了に吸気を同調させ、それにより正確な投与量を得るための光音響的な引き金(an opto-acoustical trigger)を備えていた。15μgのTRE用量は、18サイクル(TRE100μg/mlを充填したOptineb、n=6)、9サイクル(TRE200μg/ml、n=6)、3サイクル(TRE600μg/ml、n=21)、2サイクル(TRE1000μg/ml、n=7)または1サイクル(TRE2000μg/ml、n=8)のいずれもの間に生成した。血行動態およびガス交換は、120〜180分間記録した。
【0072】
試験ii)において、トレプロスチニルの血漿濃度は、吸入から10、15、30、60および120分後に評価した。トレプロスチニルの定量は、Wade M., et al., J. Clin. Pharmacol. 2004;44:503-9に既に記載したような検証済みの液体クロマトグラフィー大気圧イオン化タンデム質量分析を用いて、Alta Analytical Laboratory(El Dorado Hills、カリフォルニア、米国)が行った。混合静脈血を吸入後の表示時点(図11)に抜き取り、遠心分離し、その血漿を、ドライアイス上での温度制御した発送まで−80℃に凍結した。
【0073】
統計
試験i)の統計分析に対して、多重検定を回避するために、イロプロストおよびトレプロスチニル吸入後の反復PVR測定値を3要因分散分析で処理した(ANOVA;要因:時間(A)、薬物(B)、トレプロスチニル濃度(C))。イロプロスト対トレプロスチニルの吸入後の最大PVR減少までの時間を、対応のあるt検定で比較した。曲線下面積(AUC)は、吸入開始から吸入の60分後まで計算した。平均値、標準誤差(SEM)および95%信頼区間を計算した。 試験ii)およびiii)に対しては、曲線間面積(ABC)を、プラセボ吸入(試験ii))と各トレプロスチニル吸入との間で、吸入終了後180分(試験ii))および120分(試験iii))まで計算した。
【0074】
結果
試験i)におけるイロプロストならびにトレプロスチニルの吸入により、PVRおよびPAPの急速な減少が起こった(図5〜7)。6分でのTRE7.5μg(AUC−12.6±7.0%)、6分でのTRE15μg(AUC−13.3±3.2%)および3分でのTRE15μg(AUC−13.6±4.3%)を吸入した後のPVR減少に関する曲線下面積(AUC)に、有意差はなかった。6分でイロプロスト7.5μgを吸入した後のPVRに対するAUCは、−7.7±3.7%(平均値±95%信頼区間)であった。イロプロスト吸入と比較した場合のトレプロスチニル吸入に関する蓄積データの概要を図7に示す。イロプロストおよびトレプロスチニルのPVRに対する最大効果は同等であったが、イロプロスト(8±1分;平均値±SEM、p<0.0001)と比較して、トレプロスチニル吸入からかなり遅れて(18±2分)この効果に達し、その効果が相当により長く持続した(60分後にトレプロスチニル群のPVR値は、未だ基準値に戻らなかった)。心拍出量の増加は、トレプロスチニル吸入後の方が緩慢で、長く続いた。全身動脈圧(SAP)は、トレプロスチニル吸入の影響を受けなかったが、イロプロスト吸入後には一時的な減少が認められた。イロプロストおよびトレプロスチニルは、ガス交換には影響しなかった。PVRに対する3要因ANOVAは、吸入後の反復測定間に有意差があり(p(A)<0.0001)、薬物間には有意差がなく(pB=0.1)、トレプロスチニル濃度間には差がなく(p(C)=0.74)、薬物×時間の相互作用が有意である(p(AxB)<0.0001)ことを示した。この結果から、両薬物がPVRに対して有意な効果を有し、薬物効力は同等であるが、イロプロストと比較してトレプロスチニルの方が薬物作用が持続することになる。
【0075】
この試験では、所定用量のイロプロスト吸入に時折認められる軽度の副作用(一時的紅潮、頭痛)が、吸入トレプロスチニルについては認められなかった。TRE吸入後に大部分の患者が、味の悪さを報告した。後になって、この原因がトレプロスチニル溶液中のメタクレゾール防腐剤であることが判明した。
【0076】
試験ii)では、吸入したプラセボまたはトレプロスチニルの薬物動態を180分観察した。プラセボ吸入後には、全観察時間に亘ってPVRが次第に増加した。TRE120μg群の患者数が減少したため(原因は副作用、下記を参照されたい)、この群の血行動態値はこの試験のグラフ中に含めなかった(図8〜9)。TREの全用量が、基準値の76.5±4.7%(30μg)、73.7±5.8%(60μg)、73.3±4.3%(90μg)および65.4±4.1%(120μg)へとPVRの最大減少を同等に起こす。肺血管拡張の期間延長が認められ、TRE用量60μgおよび90μg(120μgも)では3時間の観察期間を超えたが、30μg用量群では血行動態変化がこの期間内に基準値に丁度戻ってしまった。最高用量でも、TREは全身動脈圧に軽微な効果しか及ぼさなかった(図8)。心拍出量は、最大で106.8±3.2%(30μg)、122.9±4.3%(60μg)、114.3±4.8%(90μg)および111.3±3.9%(120μgTRE)に増加した。プラセボ対TRE吸入後の応答曲線間の面積を、PVR、PAP、SVRおよびSAPに対して計算した(図9)。PVRに対する曲線間面積は、TRE30μg、60μgおよび90μgに対して有意差がなく、PVRに対するほぼ最大の効果がTRE30μgで既に認められた。PAPおよびSAPに対する効果は小さく、用量−応答関係を示さなかった。ガス交換は、TRE90μgまでの用量で影響を受けず、動脈血酸素飽和度は、TRE120μgの用量で患者全3人において有意に減少した。更なる用量増分は、この副作用および患者1名の重度頭痛のために省略した。
【0077】
TREエアゾールの悪い味が、大部分の患者によりやはり報告された。他の副作用は、紅潮(n=1;TRE30μg)、軽度の一時的咳(n=3;TRE60μg)、フェノテロールの吸入1回後に解消した軽度の一時的気管支収縮(n=1;TRE30μg)、フェノテロールの吸入1回後に解消した軽度の気管支収縮(n=1;TRE120μg)、および重度の頭痛(n=1;TRE120μg)であった。悪い味、気管支収縮およびSaO2の低下は、元のTRE溶液中のメタクレゾールに原因があった。次の試験でTREのメタクレゾール非含有溶液(University Hospital Giessen、ドイツ;製造業者の手順に従って作製)を使用すると、こうした副作用がもはや起こらなかった。
【0078】
試験iii)は、特定の味も臭いもないメタクレゾール非含有TRE溶液を用いて行った。総計48名の患者が登録された。この試験では、肺薬物送達に必要な吸入時間およびエアゾール容量の減少を目標とした。エアゾール生成の反復的パルス中に一定量のエアゾールを生じるように、改良型Optineb吸入装置にプログラムを組み込んだ。この装置を用いて、濃度2000μg/mlまで大した副作用なくトレプロスチニルを安全に利用することができた。副作用の回数または種類とTRE濃度との関係は認められなかった。報告された副作用は、軽度の一時的咳(n=6)、軽度の頭痛(n=2)および顎の軽度疼痛(n=1)であった。
【0079】
PVRおよびPAPの減少は、全ての群の間で同等であった(図10)。TREの吸入で、PVRは、76.3±5.6%(18パルス、100μg/ml)、72.9±4.9%(9パルス、200μg/ml)、71.2±6.0%(3パルス、600μg/ml)、77.4±4.5%(2パルス、1000μg/ml)および80.3±5.2%(1パルス、2000μg/ml)に減少した。PAPは、84.2±4.5%(18パルス、100μg/ml)、84.2±4.1%(9パルス、200μg/ml)、81.1±4.1%(3パルス、600μg/ml)、86±4%(2パルス、1000μg/ml)および88±5.4%(1パルス、2000μg/ml)に減少した。心拍出量は全群において中度に増加したが、全身動脈圧は有意な影響を受けなかった。
【0080】
プラセボに対するTRE15μg吸入後の血行動態およびガス交換のパラメーター変化に対する曲線間面積(ABC)を、120分の観察時間に対して計算した(図11)。PVR、PAP双方のABCは、全ての群の間で同等であった。
【0081】
試験ii)の薬物動態結果:トレプロスチニルのピーク血漿濃度は、吸入から10〜15分後に見出された。用量30μg、60μg、90μgおよび120μgに対するトレプロスチニルの最大血漿濃度(Cmax)は、それぞれ0.65±0.28ng/ml(n=4)、1.59±0.17ng/ml(n=4)、1.74ng/ml(n=1)および3.51±1.04ng/ml(n=2)であった(平均値±SEM;図12)。
【0082】
考察
以上の試験によって、i)吸入トレプロスチニルの急性効果が、肺高血圧患者において吸入イロプロストと同等であるか、または多分それより優れているか否か、ii)該吸入プロスタノイドの用量は、実質的な局所的または全身的副作用なく増加し得るか否か、およびiii)イロプロストの場合6〜12分である吸入時間を、トレプロスチニルエアゾールの濃度を増加させることにより有意に短縮し得るか否かを調査した。
【0083】
以上の試験における患者集団は、異種の前毛細管性肺高血圧を含んでいた。こうした患者は全て、肺高血圧の治療を必要としており、肺高血圧治療センターの典型的な集団を反映していた。異なる群同士の間に、患者特性または血行動態基準値に大きな差異は存在しなかった(表3)。
【0084】
試験i)では、トレプロスチニルおよびイロプロストの類似する用量の吸入により、同等の最大肺血管拡張作用が生じることが示された。しかし、応答プロファイルに顕著な差が認められた。吸入トレプロスチニルの肺血管拡張作用の開始は、イロプロストに比較して遅れたが、それよりかなり長く持続し、PVRの減少は1時間の観察期間を超えて継続した。トレプロスチニルの平均用量はイロプロスト用量より多かったが、トレプロスチニルの吸入後に全身作用は認められず、一方イロプロストの吸入後には、紅潮および一時的SAP低下と、それに伴う心拍出量増加の亢進が起こった。このような副作用は、吸入イロプロストを用いた以前の試験より顕著であった。この原因は、この試験に用いたイロプロスト用量が推奨される単回吸入用量(5μg)より50%多く、しかも先行したトレプロスチニル吸入が、イロプロスト吸入で起こる全身性副作用を増強した恐れがあるという事実であったとも思われる。驚くべきことに、TREの使用では、このような副作用がなかったが、PVRに対する平均効果はイロプロストの使用と同等に強力であった。
【0085】
この試験では、プロスタノイド類に対する応答の個人差の効果を最小限に抑えるために、クロスオーバーデザインを使用した。1時間という短い観察期間を用いて、不快なほど長いカテーテル調査を回避した。試験の制約として、この短い観察間隔が、図5で示唆されるように第1期間から第2期間へのキャリーオーバーを起こした恐れがある。しかし、それでもこれによって、両薬物が効力ある肺血管拡張剤であり、トレプロスチニルの効果が、イロプロストの効果と比較してかなり持続しているという、この試験に関する解釈が可能であった。
【0086】
作用期間がより長く、副作用が実質的にないこと(後にメタクレゾールが原因と分かったトレプロスチニルエアゾールの悪い味以外)により、試験ii)において投与するトレプロスチニル用量の増加が促進された。正確な薬物動態データを得るために、観察期間を3時間に延長した。トレプロスチニル吸入は、プラセボ吸入と比較した際、3時間の観察期間を超えて持続する強力な肺血管拡張を生じた。驚くべきことに、吸入トレプロスチニルは90μgまでの用量が許容された。
【0087】
試験iii)では、吸入時間を、2000μg/mlトレプロスチニル溶液を文字通りたった1回の呼吸に減らし、それにより用量15μgを投与できることを実証することに成功した。呼吸1回でのこの薬物投与は、プラセボ吸入と比較して3時間を超える間、肺血管拡張を引き起こした。副作用は、ささいであり、頻度も少なく、薬物濃度には関係していなかった。このような高濃度のトレプロスチニルがこれほど良好に許容されることは、驚くべき知見であった。
【0088】
結論
吸入トレプロスチニルは、高い用量(90μgまで)を最小限の吸入時間で投与することができる。吸入トレプロスチニルは、高い肺選択性を発揮し、長期の肺血管拡張を起こす。
【0089】
以上では特定の好ましい実施形態を言及しているが、本発明がそのように限定されないことは理解されよう。開示した実施形態に様々な改変を加え得ること、およびこのような改変が本発明の範囲内に入ることを意図していることは、当業者には想到されよう。
【0090】
本明細書に引用した刊行物、特許出願および特許は全て、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
定量吸入器によってトレプロスチニルもしくはトレプロスチニル誘導体または医薬として許容可能なその塩を、それを必要とする対象に投与することを含む、肺高血圧を処置する方法。
【請求項2】
前記定量吸入器が加圧式定量吸入器である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記定量吸入器が乾燥粉末吸入器である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記定量吸入器がソフトミスト吸入器である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記トレプロスチニルが、前記吸入器中で溶液として製剤され、該溶液の溶媒が、水、エタノールまたはそれらの混合液を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
溶液中のトレプロスチニルの濃度が、約500μg/ml〜約2500μg/mlの範囲にある、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
溶液中のトレプロスチニルの濃度が、約1000μg/ml〜約2000μg/mlの範囲にある、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
単回イベント中に投与するトレプロスチニルの用量が、トレプロスチニル約15μg〜約100μgの範囲にある、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記用量が、トレプロスチニル約30μg〜約90μgの範囲にある、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記投与用量が、前記対象に全身性副作用を及ぼさず、該全身性副作用が、頭痛、紅潮、吐き気およびめまいからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記投与が前記対象におけるガス交換を撹乱しない、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記投与が前記対象の心拍数を変化させない、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記投与が全身動脈圧および全身動脈抵抗に影響しない、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記投与が前記対象による限定数の呼吸を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記投与が5分未満継続する、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記投与が1分未満継続する、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記対象が人間である、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
ジルチアゼム、アムロジピン、ニフェジピン、シルデナフィル、タダラフィル、バルデナフィル、ボセンタン、シタキセンタン、アンブリセンタン(ambrisenatn)、プロスタサイクリン、イロプロスト、ベラプロスト、および医薬として許容可能なそれらの塩からなる群から選択される、少なくとも1種の補助剤を前記対象に投与することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
定量吸入器を用いてトレプロスチニルもしくはトレプロスチニル誘導体または医薬として許容可能なその塩の治療有効量を対象に投与することを含む、トレプロスチニルもしくはトレプロスチニル誘導体または医薬として許容可能なその塩の治療有効量を、それを必要とする対象に送達する方法。
【請求項20】
前記定量吸入器が加圧式定量吸入器である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記定量吸入器が乾燥粉末吸入器である、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記定量吸入器がソフトミスト吸入器である、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記トレプロスチニルが、前記定量吸入器中で溶液として製剤され、該溶液の溶媒が、水、エタノールまたはそれらの混合液を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
溶液中のトレプロスチニルの濃度が、約500μg/ml〜約2500μg/mlの範囲にある、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
溶液中のトレプロスチニルの濃度が、約1000μg/ml〜約2000μg/mlの範囲にある、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
単回イベント中に投与するトレプロスチニルの用量が、トレプロスチニル約15μg〜約100μgの範囲にある、請求項19に記載の方法。
【請求項27】
前記用量が、トレプロスチニル約30μg〜約90μgの範囲にある、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記投与用量が、前記対象に全身性副作用を及ぼさず、該全身性副作用が、頭痛、紅潮、吐き気およびめまいからなる群から選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項29】
前記投与が前記対象におけるガス交換を撹乱しない、請求項19に記載の方法。
【請求項30】
前記投与が前記対象の心拍数を変化させない、請求項19に記載の方法。
【請求項31】
前記投与が全身動脈圧および全身動脈抵抗に影響しない、請求項19に記載の方法。
【請求項32】
前記投与が前記対象による限定数の呼吸を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項33】
前記投与が5分未満継続する、請求項19に記載の方法。
【請求項34】
前記投与が1分未満継続する、請求項19に記載の方法。
【請求項35】
前記対象が人間である、請求項19に記載の方法。
【請求項36】
(i)トレプロスチニルもしくはトレプロスチニル誘導体または医薬として許容可能なその塩を含んだ医薬製剤を含有する定量吸入器、および(ii)肺高血圧の処置に用いる使用説明書を含む、肺高血圧を処置するキット。
【請求項37】
前記定量吸入器が加圧式定量吸入器である、請求項36に記載のキット。
【請求項38】
前記定量吸入器が乾燥粉末吸入器である、請求項36に記載のキット。
【請求項39】
前記定量吸入器がソフトミスト吸入器である、請求項36に記載のキット。
【請求項40】
前記製剤が、水、エタノールまたはそれらの混合液を更に含む、請求項39に記載のキット。
【請求項41】
前記製剤中のトレプロスチニルの濃度が、約500μg/ml〜約2500μg/mlである、請求項36に記載のキット。
【請求項42】
前記濃度が、約1000μg/ml〜約2000μg/mlである、請求項41に記載のキット。
【請求項43】
ジルチアゼム、アムロジピン、ニフェジピン、シルデナフィル、タダラフィル、バルデナフィル、ボセンタン、シタキセンタン、アンブリセンタン(ambrisenatn)、プロスタサイクリン、イロプロスト、ベラプロスト、および医薬として許容可能なそれらの塩からなる群から選択される、少なくとも1種の補助剤の有効量を更に含む、請求項36に記載のキット。
【請求項44】
トレプロスチニルもしくはトレプロスチニル誘導体または医薬として許容可能なその塩を含んだ医薬製剤を含有する定量吸入器を含む、キット。
【請求項45】
前記定量吸入器が加圧式定量吸入器である、請求項44に記載のキット。
【請求項46】
前記定量吸入器が乾燥粉末吸入器である、請求項44に記載のキット。
【請求項47】
前記定量吸入器がソフトミスト吸入器である、請求項44に記載のキット。
【請求項48】
前記製剤が、水、エタノールまたはそれらの混合液を更に含む、請求項47に記載のキット。
【請求項49】
前記製剤中のトレプロスチニルの濃度が、約500μg/ml〜約2500μg/mlである、請求項44に記載のキット。
【請求項50】
前記濃度が、約1000μg/ml〜約2000μg/mlである、請求項44に記載のキット。
【請求項51】
トレプロスチニルを吸入するために、定量吸入器を使用するための使用説明書を更に含む、請求項44に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2009−537246(P2009−537246A)
【公表日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−511194(P2009−511194)
【出願日】平成19年5月14日(2007.5.14)
【国際出願番号】PCT/US2007/068884
【国際公開番号】WO2007/134292
【国際公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(502278769)ユナイテッド セラピューティクス コーポレーション (10)
【Fターム(参考)】