説明

実接合する板材

【課題】板材が乾燥収縮によって生じる隙間を小さく、かつ目立たなくするとともに、少ない削り代で雄実部と雌実部を形成でき、床材が膨潤化しても隣り合う板材間に段差が生じない、実接合板材を提供する。
【解決手段】左右に雄実部2と雌実部3とが形成されている板材1において、雄実部2には板材1の表面1aから雄実4の方向に傾斜する上部傾斜面5が、該上部傾斜面5の下端に下向傾斜面6が、該下向傾斜面6の下端と雄実4の基部には上側端面7がそれぞれ形成されている。雌実部3には上側突条10と下側突条11が、前記上側突条10の上部角部には上向傾斜面12が、該上向傾斜面12の下端には突条部端面13がそれぞれ形成されている。雌実部3の前記上向傾斜面12の下端と雄実部2の前記下向傾斜面6の下端とはほぼ同じ高さであり、実接合したときに、雌実部3の前記上向傾斜面12と雄実部3の前記下向傾斜面6とが当接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、長手部に形成された雄実部と雌実部とを互いに突き合わせて実接合する板材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、図7に示すような、木質基材の左右の長手部に雄実42と雌実43が形成されている板材である床材41はよく知られている。この床材41は、雄実42の表面側の基部から釘を打ち込んで床材を床下地に固定し、この固定した床材41の雄実42に、別の床材41の雌実43を被嵌合することによって床材41を貼っていく。この床材41は、雄実42の上部端面44と雌実43の上方の突出部の端面45とが垂直面に形成されており、上部端面44と端面45の上面角部には面取り部47、46が形成されている。床材41、41が実接合された状態では、垂直面である前記上部端面44と端面45が互いに近接しており、面取り部46、47によって装飾用の溝48が床面に形成されるように構成されている(特許文献1)。
【0003】
図7に示す従来の床材41、とりわけ無垢の床材を、床暖房用の床材として用いた場合、暖房による加熱によって放湿して乾燥することにより収縮するとともに熱収縮し、床材同士の実接合部に隙間が生じる。実接合部に隙間が生じたとき、図7に示す従来の床材41は、面取り部46、47の下方の上部端面44と端面45とが垂直面に形成されていて、面取り部46、47と上部端面44と端面45との間に角部が形成されているので、その角部によって隙間が目立ち意匠性も悪くなるし、また、その隙間に細かなゴミや埃等が溜まり、奥に入り込むと取り除くのに手間がかかることになる。さらに、温水床暖房用として用いた場合には収縮がさらに大きくなり、採用するガス会社が推奨する隙間量(真上から観たとき0.5mm以下の許容量)に収まらないのが実情である。
【0004】
そこで、図8に示す床材51は、雄実52の根元上側から床材表面51aまでを雄実上側傾斜面53とし、雌実55の上縁部から表面側に雄実上側傾斜面53に対応した雌実上側傾斜面56を設け、該雌実上側傾斜面56と床材表面51aとの間に面取り部57を設ける構成とすることにより、床材51が収縮して隙間が生じてもその隙間を目立たなくしている(特許文献2)。しかし、図8に示す床材51は、雄実上側傾斜面53が床材表面51aから雄実52にわたって形成されているので、広い幅Wの基材部分を切削加工しなければ雄実52と雄実上側傾斜面53とを形成することができず、また、湿度の高い状態が続く梅雨時には、木質基材である床材51が膨潤化し、雌実上側傾斜面56が雄実上側傾斜面53に沿ってせり上がり、結果として床材51と床材51との実接合部に段差を生じることがある。
【0005】
【特許文献1】実開平4−36042号公報
【特許文献2】特許第3682441号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記のような板材同士を実接合する、従来の板材の不都合を解消することを目的とし、板材が乾燥して収縮しても、収縮によって生じる隙間を小さくし、かつ、目立たなくするとともに、少ない削り代で雄実部と雌実部を形成でき、床材が膨潤化しても隣り合う板材間に段差が生じない、実接合する板材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決するためのものであり、本発明は、板材の左右の長手部に雄実部と雌実部とが形成されている板材において、雄実部における雄実の上部には板材の表面から雄実の方向に傾斜する上部傾斜面が形成され、該上部傾斜面の下端には面が下向きの下向傾斜面が形成され、該下向傾斜面の下端と雄実の基部との間には上側端面が形成されており、雌実部には、上側突条と下側突条とで雌実が形成されており、前記上側突条の上部角部には上向傾斜面が形成されており、該上向傾斜面の下端には突条部端面が形成されており、雄実部の前記下向傾斜面の下端と雌実部の前記上向傾斜面の下端とはほぼ同じ高さであって、実接合したときに、雄実部の前記下向傾斜面と雌実部の前記上向傾斜面とが当接するように構成されていることを特徴とする板材である。
【0008】
そして、本発明の板材は、板材を実接合したとき雄実部の上部傾斜面と雌実部の上向傾斜面とで装飾用の溝が形成されていて、装飾用の溝の下部に垂直面が形成されていないので、板材が収縮して雌実部の上向傾斜面と雄実部の下向傾斜面との間に隙間が生じても、意匠性を損なうことがなく、また、生じた隙間が従来のものより小さく目立たちにくい。すなわち、上方から装飾用の溝を見ると、装飾用の溝を形成している上部傾斜面と上向傾斜面とを見ることになり、隙間が生じたことによって新たな面が出現しないので、意匠性が悪くなることがない。また、例えば、板材が水平方向に収縮したとしても、雄実部の上向斜面と雌実部の下向斜面との間隔は、板材の水平方向における収縮量より小さくすることができ、隙間を一層目立たなくすることができるし、その隙間に溜まった細かなゴミや埃等が奥に入り込みにくい。
【0009】
さらに、本発明は、雄実部における下向傾斜面によって雄実の基端部が板材の内側に形成されることになり、狭い幅の基材部分を切削加工すれば雄実部を形成することができ、少ない削り代で雄実部を形成することができ、同様に雌実部も少ない削り代で形成することができるので、基材の歩留まりを向上できる。
【0010】
さらに、本発明の板材は、湿度の高い状態が続く梅雨時に、木質基材である板材が膨潤化しても、雌実部の上側突条が雄実部における下向傾斜面と雄実の上面との間に挟まれる状態となっているので、板材間に段差が生じることがない。
【0011】
さらに、本発明の板材は、雄実部の上部傾斜面が断面略アール形状の曲面に形成されているとともに、雌実部の上向傾斜面が、断面略アール形状の曲面である上側斜面と平面である下側斜面とで構成されており、外観上柔らかい味を与え、肌触りのよい板面とすることができる。
【発明の効果】
【0012】
以上の説明から理解できるように、本発明の板材は、乾燥等により収縮して実接合している板材間に隙間が生じても、板材間に形成されている装飾凹部の形状があまり変わらないので、意匠性を損なうことがなく、また、生じた隙間も従来の板材に生じる隙間よりも小さいので目立つことがなく、しかも、少ない削り代で雄実部と雌実部を形成することができ、基材の歩留まりを向上できる。さらに、本発明は、湿度の高い状態が続く梅雨時に、木質基材である板材が膨潤化しても、雌実部の上側突条が雄実部における下向傾斜面と雄実の上面との間に挟まれる状態となっているので、板材間に段差が生じることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明による板材の好ましい実施の形態について、図面を参照してより詳細に説明する。図1は本発明の板材である床材を示す一部切欠斜視図、図2は本発明の床材の接合状態を示す部分拡大断面図、図3は本発明の床材が収縮して床材間に隙間が生じたときの接合状態を示す部分拡大断面図である。
【0014】
図1に示す如く、木質基材で形成された床材1は長手方向の両側端面に、床材1を突き合わせて実接合するための雄実部2と雌実部3とが形成されている。雄実部2には、床材1の厚さ方向のほぼ中間に雄実4が突出して形成されている。また、雄実部2には、床材1の表面1aから雄実4方向に傾斜する上部傾斜面5が形成されており、この上部傾斜面5の下端には、面が下方に向いている下向傾斜面6が形成されている。上部傾斜面5と下向傾斜面6との先端部には、面取りが施されている。また、下向傾斜面6の長さは、床材1が乾燥等により収縮する量等を考慮して決められている。下向傾斜面6の下端と雄実4の基部との間には、上側端面7が形成されており、雄実4の下部には、ほぼ垂直面をなす下側端面8が形成されている。上側端面7は、垂直面であってもよく、また、90度より大きくして面が下を向くようにしてもよく、90度より大きくすると、釘を床材の中心寄りに打ち込むことができ、板の割れを防止できるとともに、釘頭の空間も形成することができる。下側端面8は上側端面7より雄実4の先端側に位置されており、雄実4の基部に釘を、例えば、65度程度の大きい角度で打ち込んでも雄実4の割れが少なくなり、釘の打ち込み角度の許容範囲を広くすることができる。
【0015】
雌実部3には、雌実9が上側突条10と下側突条11とで形成されている。雌実9の上側突条10は、その上角部に上向傾斜面12が形成されており、この上向傾斜面12の下端には突条部端面13が形成されている。
【0016】
上向傾斜面12は、ほぼ45度の傾斜角であり、上向傾斜面12における表面1a寄りの部分は、床材1、1を実接合したとき装飾用の溝18を形成する部材としても機能し、下方部分は、床材1を実接合したとき雄実部2の下向傾斜面6と当接するとともに、その下端が下向傾斜面6の下端とほぼ一致している。
突条部端面13は、下方が基部寄りに位置しており、雄実部の上側端面7との間に、床材を固定する釘の釘頭を収容する空間が形成されるように構成されている。
【0017】
本発明の床材1は、床材1を実接合したとき雄実部2の上部傾斜面5と雌実部3の上向傾斜面12とで装飾用の溝18が形成されるように構成されており、装飾用の溝18の下部に垂直面が形成されていない。そのため、図7に示した従来の床材41のような面取り部46、47と垂直面との間に角部が形成されていないので、本発明の床材1が収縮して雄実部2の下向傾斜面6と雌実部3の上向傾斜面12との間に隙間が生じても、意匠性を損なうことがなく、また、その隙間も目立ちにくい。すなわち、上方から装飾用の溝18を見ると、装飾用の溝18を形成している上部傾斜面5と上向傾斜面12とを見ることになり、隙間が生じても新たな面が出現しないので、意匠性が悪くなることがない。また、例えば、床材1、1が水平方向に1mm収縮し、雄実部2の上側端面7と雌実部3の突条部端面13とに隙間Hが1mm生じたとしても、雄実部2の下向傾斜面6と雌実部3の上向傾斜面12との間隔hは、0.88mmとなり、床材1、1が収縮した量よりも床材1、1間に生じる隙間を小さくすることができ、隙間を一層目立たなくすることができるし、その隙間に溜まった細かなゴミや埃等が奥に入り込みにくい。
【0018】
本発明の床材は、雄実部2における下向傾斜面6によって雄実4の基端部が床材の内側に形成されており、図3に示すように狭い幅wの基材部分を切削加工すれば雄実部2を形成することができ、少ない削り代で雄実部2を形成することができる。同様に、雌実部3も少ない削り代で形成することができる。したがって、本発明の床材は、雄実部を形成するのに幅Wの削り代を必要とする図8に示す床材51と比べ、少ない削り代で雄実部2と雄実部2とを形成することができ、基材の歩留まりを向上することができる。
【0019】
さらに、本発明の床材は、湿度の高い状態が続く梅雨時に、木質基材である床材1が膨潤化しても、雌実部3の上側突条10が雄実部2における下向傾斜面6と雄実4の上面との間に挟まれる状態となっているので、床材間に段差が生じることがない。
【0020】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。上記実施の形態では雄実部2の上部傾斜面5と雌実部3の上向傾斜面12とが平面で形成されているが、図4に示すように、雄実部2の上部傾斜面5aを断面略アール形状の曲面とし、雌実部3の上向傾斜面12を、装飾用の溝18として機能する上側部分12aを断面略アール形状の曲面とし、それより下方の下側部分12bを平面で構成してもよい。また、図5に示すように、上向傾斜面12を、装飾用の溝18として機能する部分12cは平面に形成するが、それより下方の部分12dは断面略アール形状の曲面に形成すると、上向傾斜面12の端部をより水平に近い面とすることができる。また、図6に示すように、雌実部3の上向傾斜面12を、装飾用の溝18として機能する部分の上側平面12eとそれより下方の下側平面12gとで形成し、下側平面12gを上側平面12eより水平に近い傾斜となるように、断面略アール形状の曲面12fを介して連続するように構成すると、両平面12e、12g間に角部が形成されないので、違和感がなく、また、板材が収縮しても、その隙間を一層小さくすることができるし、隙間に溜まったゴミ等がさらに下に落ちにくくすることができる。
【0021】
さらに、上記実施の形態では、床材について説明したが、両側端部に雄実部と雌実部が形成されていて実接合するものであれば、天井板や壁材等の板材であってもよいことはもちろんである。また、板材は、無垢の材や台板合板の表面に薄いMDFやひき板を積層して接着したものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一形態の床材を示す一部切欠斜視図。
【図2】上記床材の接合状態を示す部分拡大断面図。
【図3】上記床材が収縮して隙間が生じたときの接合状態を示す部分拡大断面図。
【図4】本発明における雄実部の上部傾斜面及び雌実部の上向傾斜面の他の形態を示す床材の接合状態を示す部分拡大断面図。
【図5】本発明の雌実部における上向傾斜面の他の形態を示す床材の接合状態部分拡大断面図。
【図6】本発明の雌実部における上向傾斜面の他の形態を示す床材の接合状態部分拡大断面図。
【図7】従来例の床材の接合状態を示す部分拡大断面図。
【図8】従来例の床材の接合状態を示す部分拡大断面図。
【符号の説明】
【0023】
1…床材、2…雄実部、3…雌実部、4…雄実、5…上部傾斜面、6…下向傾斜面、7…上側端面、8…下側端面、9…雌実、10…上側突条、11…下側突条、12…上向傾斜面、13…突条部端面、18…溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板材の左右の長手部に雄実部と雌実部とが形成されている板材において、
雄実部における雄実の上部には板材の表面から雄実の方向に傾斜する上部傾斜面が形成され、該上部傾斜面の下端には面が下向きの下向傾斜面が形成され、該下向傾斜面の下端と雄実の基部との間には上側端面が形成されており、
雌実部には、上側突条と下側突条とで雌実が形成されており、前記上側突条の上部角部には上向傾斜面が形成されており、該上向傾斜面の下端には突条部端面が形成されており、
雄実部の前記下向傾斜面の下端と雌実部の前記上向傾斜面の下端とはほぼ同じ高さであって、実接合したときに、雄実部の前記下向傾斜面と雌実部の前記上向傾斜面とが当接するように構成されていることを特徴とする板材。
【請求項2】
雄実部の前記上部傾斜面が断面略アール形状の曲面に形成されているとともに、雌実部の前記上向傾斜面が、断面略アール形状の曲面である上側斜面と平面である下側斜面とで構成されていることを特徴とする請求項1記載の板材。
【請求項3】
雄実部における前記上部傾斜面と前記下向傾斜面との先端部が面取り加工されていることを特徴とする請求項1記載の板材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−146603(P2007−146603A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−346051(P2005−346051)
【出願日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【出願人】(000000413)永大産業株式会社 (243)
【Fターム(参考)】