実質上等しい再呼吸期および非再呼吸期を変動させることを含む再呼吸法
【課題】肺毛細管血流量および心拍出量を高い頻度で非侵襲的に計算する方法が必要とされている。
【解決手段】基準呼吸パラメータが確立される第1期と患者の有効な換気の変化が誘発される第2期とを有する微分フィック技術である。第1期と第2期の継続時間はほぼ同一で、従来から既知の微分フィック技術の同等の期間の継続時間と比べ短縮される。更に開示された微分フィック技術には、患者の呼吸パラメータを「正常な」レベルに回復させる回復期がない。
【解決手段】基準呼吸パラメータが確立される第1期と患者の有効な換気の変化が誘発される第2期とを有する微分フィック技術である。第1期と第2期の継続時間はほぼ同一で、従来から既知の微分フィック技術の同等の期間の継続時間と比べ短縮される。更に開示された微分フィック技術には、患者の呼吸パラメータを「正常な」レベルに回復させる回復期がない。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、患者の肺毛細管血流量 (“PCBF”)や心拍出量 (“CO”)を非侵襲的に決定する方法に関する。特に、本発明はPCBFやCOを決定するいわゆる微分フィック技術に関し、部分的再呼吸技術を含む。
【背景技術】
【0002】
肺毛細管血流量および心拍出量は、危篤の患者について監視される種々の血行力学パラメータの例である。心拍出量とは、肺を通過しガス交換に関係する一般に肺毛細管血流量と呼ばれる血流量と、ガス交換に関係せず一般に肺内シャント流量または静脈混合物と呼ばれる血流量との総量である。
【0003】
従来、肺毛細管血流量および心拍出量は、指標希釈(indicator dilution)などの直接的な侵襲性の技術により測定されてきた。指標希釈には、所定の量の指標を患者の心臓を通過する血流へと導入することと、時間対希釈の曲線を得る為に導入した箇所より下流の血液を分析することとが含まれる。「冷(cold)」食塩水とも呼ばれる室温以下の食塩水が指標として使用される温度希釈が、広く用いられるタイプの指標希釈である。冷食塩水は一般に、端部にサーミスタを有するスワン−ガンツ(Swan−Ganz)カテーテルを介して患者の右心の血流へと導入される。サーミスタは右心を通った後の血液すなわち冷食塩水を導入した箇所より下流の血液の温度を測定する為に用いられる。温度希釈曲線が該データから作成され、上記曲線から患者の心拍出量が導き出せる。しかし、温度希釈および他の指標希釈技術は、上記のようなカテーテルを所定の位置に挿入したり維持したりすることに伴い患者を傷つける恐れがあるのであまり望ましくない。
【0004】
カテーテルが心臓の右側の弁を通過する必要のない侵襲性の低い指標希釈法も開発された。上記の侵襲性の低い方法には、いわゆる「肺通過指標法(transpulmonary indicator methods)」があり、該方法には食道または管にプローブを配置(例えば、ドップラー心エコー図法や経食道心エコー図法などにより)することが含まれる。食道や気管内でプローブを用いることは患者の心臓にカテーテルを導入するより侵襲性が低いように思われるが、それでも患者を傷つける恐れはある。
【0005】
そのため、肺毛細管血流量および心拍出量を決定する為の更に安全で非侵襲的な技術が開発された。上記の非侵襲的技術は一般に、フィックの原理として既知の基本的な生理学の原理のいくつかの形式に基づき、ここでフィックの原理とは、肺での血液による物質の取り込み率または血液からの物質の放出率が、肺を通った血流量と肺の両側での物質の含有量の差との積に等しいというものである。
【0006】
フィックの原理の1つの変形物はいわゆる二酸化炭素フィック方程式である。
Qpcbf=VCO2/(CvCO2−CaCO2) (1)
ここで、Qpcbfは肺毛細管血流量、VCO2は二酸化炭素排出量、CvCO2は患者の静脈血の二酸化炭素含有量、CaCO2は患者の動脈血の二酸化炭素含有量である。
【0007】
一般に、微分形式の二酸化炭素フィック方程式は、患者の肺毛細管血流量または心拍出量を非侵襲的に決定するために使用される。患者の肺毛細管血流量または心拍出量を決定する微分フィック技術は全て、有効な換気(即ち、装置や患者やこれらの組み合わせに関連する死腔により無駄になった換気を除いた全換気)に変化が起きた際の他の測定できるパラメータの変動に基づいて肺毛細管血流量および心拍出量が推定されるという基本的な前提に基づいている。微分形式の二酸化炭素フィック方程式が使用されると、VCO2と、CaCO2と、CvCO2の、「正常な(normal)」呼吸作用と患者の有効な換気の変化が引き起こされている場合との差に基づいて患者の肺毛細管血流量または心拍出量が決定される。以下は微分フィック方程式の例である。
【0008】
【数1】
上記式中、VCO2BおよびVCO2Dはそれぞれ「正常な」呼吸中および患者の有効な換気の変化が引き起こされている場合の患者の二酸化炭素排出量、CvCO2BおよびCvCO2Dは同様の期間中の患者の静脈血における二酸化炭素の含有量、CaCO2BおよびCaCO2Dはそれぞれ「正常な」呼吸中および患者の有効な換気が変化する際の患者の動脈血における二酸化炭素の含有量である。
【0009】
一般に、微分フィック技術はVCO2およびPetCO2の基準測定値(即ち、「正常な」呼吸作用中に得たもの)に依存する。基準データが収集されると、患者の有効な換気の変化が引き起こされる。VCO2およびPetCO2の値が有効な換気の変化中に安定したら、上記パラメータは再度測定される。基準値と患者の有効な換気の変化中に得られた値との差が患者の肺毛細管血流量または心拍出量の計算に用いられる。患者の肺毛細管血流量または心拍出量を継続的に監視し更新する場合、回復期は一般に基準値の復帰に先行する。回復期は再呼吸の開始に先立って基準値の復帰を容易にするように設けられている。殆どの研究者は回復期中のデータを分析用に収集しない。
【0010】
二酸化炭素フィック方程式(1)と微分フィックの二酸化炭素方程式(2)ではそれぞれ患者のVCO2を決定する必要がある。二酸化炭素排出量とは、呼吸作用中に患者により生成された二酸化炭素の正味の体積、または患者の体から排出された二酸化炭素の正味の体積である。従って二酸化炭素排出量は患者の代謝率の指標として有用である。患者のVCO2は、呼吸ごとに、吸気中に吸入された二酸化炭素の体積と呼息中に吐き出された二酸化炭素の体積との差として、非侵襲的に測定される。呼吸中の二酸化炭素排出量は一般に以下のように計算される。
【0011】
【数2】
式中、Vは計測された呼吸の流量であり、fCO2は実質上同時に検出された二酸化炭素信号、即ち、二酸化炭素を含む呼吸ガスの画分、即ち「二酸化炭素の画分(carbon dioxide fraction)」である。
【0012】
再呼吸中は、吐き出される二酸化炭素の体積がわずかに変化し、同時に、通常は無視できる吸入される二酸化炭素の体積が実質上増加する。結果として、再呼吸中に吐き出された二酸化炭素量と吸入された二酸化炭素量との差は実質上小さくなり、これはそのまま患者の二酸化炭素排出量である。
【0013】
患者のCaCO2の決定は、一般に測定された患者のPetCO2に基づいている。PetCO2は、患者の気道内または換気回路内の全ての死腔を補正した後は、一般に患者の肺の肺胞内の二酸化炭素の分圧(PACO2)にほぼ等しいと仮定され、あるいは肺内にシャントがない場合は、患者の動脈血における二酸化炭素の分圧 (PaCO2)にほぼ等しいと仮定される。標準の二酸化炭素の解離曲線を用いる場合、PetCO2の測定値とPaCO2の計算値のどちらかがCaCO2を決定する為に用いられる。
【0014】
患者が濃度の高い二酸化炭素を吸入した場合など、患者の有効な換気に変化が起きた場合、CaCO2より二酸化炭素含有量の高いCvCO2の変化の割合に比べ、CaCO2は相対的に急激に変化する。更に静脈血における二酸化炭素の含有量は相対的にゆっくりと変化するが、これは体が他の組織に二酸化炭素を大量に蓄えているからである。「平均的な(average)」人間の男性の二酸化炭素蓄積量は約0.015から0.040立方メートル(15から40リットル)ほどである。従って、患者の静脈血の二酸化炭素含有量に測定可能な変化(例えば増加)をもたらすためには、患者の有効な換気の変化の継続時間または規模はかなり大きくなくてはならない(例えば、患者は著しい量の二酸化炭素を吸入しなくてはならない)。同様に、患者のVCO2もCvCO2より速く変化する。実際、CvCO2は、CaCO2とVCO2が変化する速度に対して、ゆっくりと変化するので、有効な換気の変化が比較的短期間(例えば、数分以下)にわたって起こる場合、CvCO2は従来の再呼吸操作の完了に掛かる時間にわたって実質上変化しない(即ち、わずかに変化するかまたは変化しない)と仮定できる。伝達時間や減衰の為に再呼吸の影響が遅れるので、従来の再呼吸プロセスは一般に回復期を必要とする。
【0015】
二酸化炭素排出量およびPetCO2は一般に微分フィック技術の双方の時期に測定される。
【0016】
患者の有効な換気の変化を引き起こす既知の微分フィック技術のある例では、患者に吸入されるガスに二酸化炭素が、直接的に(例えば、ボンベや他の外部供給源からの二酸化炭素の添加により)または前に吐き出されたガスを患者に再呼吸させることにより、添加される。用いられる典型的な微分フィック技術は、ジェデオン エイ.(Gedeon, A.)らによるMed. & Biol. Eng. & Comput.第18巻、411〜418頁(1980年)により開示されたもの(以下“Gedeon”とする)であり、換気の多い期間を要し直後に換気の少ない期間が続く。Gedeonにより開示された技術や別のいわゆる「再呼吸(rebreathing)」プロセスが用いられると、患者のVCO2は正常な呼吸中に測定されたレベルより低いレベルまで下がる。VCO2がゼロ近くまで低下している間の再呼吸は、一般に「完全再呼吸(total rebreathing)」と呼ばれる。VCO2をある程度は低下させるが完全には低減しない再呼吸は、一般に「部分的再呼吸(partial rebreathing)」と呼ばれる。上記の再呼吸プロセスは、「完全再呼吸」におけるようにCvCO2を非侵襲的に推定する為に利用されたり、または、「部分的再呼吸」におけるようにCvCO2を知る必要をなくす為に利用されたりする。
【0017】
再呼吸は一般に、二酸化炭素を含有するガス混合物を患者に吸入させる再呼吸回路により行われる。例えば、再呼吸中に死腔から吸入されたりする再呼吸気には、患者により吐き出された空気(即ち、二酸化炭素を多く含む空気)が含まれる。
【0018】
完全再呼吸の間は、患者により吸入されるガスは、実質上全て前の呼吸中に吐き出されたものである。従って、完全再呼吸中、PetCO2は一般に、患者の動脈血における二酸化炭素の分圧(PaCO2)や静脈血における二酸化炭素の分圧(PvCO2)や肺胞内の二酸化炭素の分圧(PACO2)に等しいかこれに密接に関係していると仮定される。完全再呼吸プロセスは、患者の肺毛細管血流量または心拍出量とCvCO2のどちらも再呼吸プロセス中には実質上変化しないという仮定に基づいている。血液中の二酸化炭素の分圧は二酸化炭素解離曲線によって血液中の二酸化炭素の含有量に変換される。ここで血液中の二酸化炭素含有量の変化(CvCO2−CaCO2)は、二酸化炭素解離曲線の傾き(単数または複数)にPetCO2の測定された変化を掛けたものに等しく、再呼吸などの有効な換気の変化によりもたらされる。
【0019】
部分的再呼吸では、患者は「新鮮な(fresh)」ガスと前の呼吸中に吐き出されたガスとの混合物を吸入する。従って患者は、完全再呼吸プロセス中に吸入される二酸化炭素の体積と同じ大きさの二酸化炭素の体積を吸入するわけではない。
【0020】
既知の部分的再呼吸プロセスの一例として、コネティカット州ウォリングフォード所在のノヴァメトリックス・メディカル・システム・インコーポレイテッド(Novametrix Medical Systems Inc.)製のNICO(商標)システムは、60秒の基準期間と、50秒の再呼吸期と、70秒の回復期とを用いる。総合的な再呼吸周期は約3分継続する。別の典型的な部分的再呼吸プロセスが、カペク、ジェイエム(Capek,JM)とロイ、アールジェイ(Roy,RJ)による、部分的なCO2の再呼吸を用いる心拍出量の非侵襲性測定(Noninvasive measurement of cardiac output using partial CO2 rebreathing), IEEE Trans Biomed Eng,1988年、第35巻、653〜661頁に開示されている。上記再呼吸プロセスの全体の周期時間は約3.5分であり、実際の再呼吸期は約30秒継続する。ガマ デ アブレウ、エム(Gama de Abreu,M)他による、部分的二酸化炭素再呼吸、シャントのない肺毛細管血流量を非侵襲的に計測する信頼できる技術(Partial carbon dioxide rebreathing: A reliable technique for noninvasive measurement of nonshunted pulmonary capillary blood flow)、Crit. Care Med. 1997年、第25巻、675〜683頁に開示されている再呼吸プロセスでは、再呼吸期は35秒であり、全体の周期時間は基準期間と回復期とを含め約3分である。
【0021】
従来の部分的再呼吸プロセスは一般に、患者の肺毛細管血流量または心拍出量を決定する為に式(2)などの微分形式の二酸化炭素フィック方程式を用いる。ここで患者の静脈血の二酸化炭素含有量を知る必要がないのは、患者の静脈血の二酸化炭素含有量は測定している期間中には実質上変化しない(即ち、一定)であると仮定されるためである。
【0022】
再度、二酸化炭素解離曲線により、再呼吸プロセスの前とその間における血液中の二酸化炭素含有量の変化を決定する為に、終末呼気二酸化炭素の測定された分圧が用いられる。従って、部分的再呼吸がなされる場合には、肺毛細管血流量または心拍出量を決定する為に以下の式を使用することができる。
【0023】
Q=ΔVCO2/sΔPetCO2 (4)
上記式中、sは二酸化炭素解離曲線の傾きである。
【0024】
部分的再呼吸は患者の有効な換気の変化をもたらす為に最もよく用いられる方法であるが、肺毛細管血流量または心拍出量を計測するために別の微分フィック技術も利用されてきた。そのような微分フィック法には一般に、有効な換気の変化に応じたPetCO2とVCO2の僅かな変化が含まれる。この僅かな変化は、呼吸数、吸気時間および呼気時間のうち少なくとも一方、1回換気量、吸気の休止期間、または患者の呼吸作用の終末呼気陽圧(PEEP)などを調整することによって達成される。
【0025】
多くの既存の微分フィック技術は肺毛細管血流量または心拍出量を確実に非侵襲的に計測するが、上記技術の達成にかかる時間の長さは、特に、患者の肺毛細管血流量または心拍出量の測定値を更に頻繁に更新することが望まれる、一般的な重態や集中治療の状況では、幾分望ましくない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
従って、肺毛細管血流量および心拍出量を高い頻度で非侵襲的に計算する方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明には患者の肺毛細管血流量または心拍出量を非侵襲的に決定する微分フィック技術が含まれる。本発明の微分フィック法には、「正常な」呼吸作用期と、本願で「変化誘発期(change‐inducing phase)」と称される、患者の有効な換気の変化が誘発されている期間との2つの期間を含む。上記の期間の継続時間は既知の微分フィック技術の同等の期間に比べ短縮されている。本発明の微分フィック技術の期間は何度も繰り返し可能、すなわち変動可能で、正常な呼吸作用期と変化誘発期の継続時間は実質上等しい。
【0028】
1つの態様では、本発明の微分フィック技術には、患者の呼吸作用に変化誘発期を生じさせる工程と、患者の呼吸作用を正常に復帰させる工程と、その後で直ちに呼吸作用の変化誘発期を繰り返す工程とが含まれる。該方法が従来の微分フィック技術とは異なるのは、呼吸の二酸化炭素および流量が再度測定される前に患者の呼吸作用を正常または基準レベルに復帰させる典型的な回復期が省略される点である。
【0029】
本発明の教示を組み込んだ微分フィック技術の別の態様では、正常な呼吸作用期および変化誘発期の継続時間が従来の微分フィック技術の対応する期間の長さに比べて短縮されている。例えば、各期間の継続時間は約30秒であり得る。1つの変化誘発期の終わりから新たな変化誘発期すなわち直後の変化誘発期の終わりまでの時間の差として測定される、微分フィック技術の周期全体の長さも、同等の微分フィック技術の従来の周期の継続時間に比べ短縮されている。例えば、本発明の教示に従って行われる微分フィック技術の周期時間は約2分以下であり得る。
【0030】
本発明の教示は、他の微分フィック技術と同様に再呼吸プロセスに利用されてもよい。例えば、患者の呼吸数(respiration rate)の変化、患者の1回換気量の変化、患者の吸気停止の変化、患者の終末呼気陽圧の変化はそれぞれ、患者の肺毛細管血流量または心拍出量を非侵襲的に決定する為に微分形式のフィックの方程式に用いられる得る患者の有効な換気の変化を誘発する。
【0031】
本発明の他の特徴および利点は、次の説明と添付の図面と添付の特許請求の範囲とを考慮することで当業者には明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の教示を組み込んだ方法での呼吸特徴パラメータの測定に用いられる構成要素を示す略図。
【図2A】様々な呼吸のVCO2値がひし形で示され種々の呼吸のPetCO2値が正方形で示されている理想化された二方向再呼吸周期の図。
【図2B】患者の肺毛細管血流量または心拍出量を実質上非侵襲的に決定する為に用いられる、再呼吸の前、中、後の3つのVCO2値と患者の血液の二酸化炭素含有量を示す3つの値とを得る為の二方向再呼吸プロセスの使用状況を示す2次元のプロット。
【図3】二方向再呼吸法の期間の前、中、後それぞれにおける患者のVCO2を示す線グラフ。
【図4】二方向再呼吸法の期間の前、中、後それぞれにおける患者のPetCO2を示す線グラフ。
【図5A】y軸のVCO2とx軸のPetCO2の典型的なプロットを示す2次元の線グラフ。
【図5B】VCO2とPetCO2のデータの修正後のy軸のVCO2とx軸のPetCO2のプロットを示す2次元の線グラフ。
【図6】単一の二方向再呼吸周期中に得られた多数のVCO2値対同数の二酸化炭素含有量値の2次元のプロット。
【図7】図5Aに示される周期と同一の再呼吸周期による修正されたVCO2値および二酸化炭素含有量値を示す典型的な2次元のプロット。
【図8A】典型的な再呼吸技術と呼吸データを修正し呼吸データによる正確な最良適合線を得る為の付随する方法とを示す2次元のプロット。
【図8B】典型的な再呼吸技術と呼吸データを修正し呼吸データによる正確な最良適合線を得る為の付随する方法とを示す2次元のプロット。
【図9A】従来の再呼吸プロセスの再呼吸期および非再呼吸期のタイミングを示す略図。
【図9B】本発明の教示を組み込んだ方法の実施の形態の期間のタイミングを示す略図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図面は本発明を実行する典型的な実施の形態を示す。
【0034】
当該分野では既知であるが、二酸化炭素の緩衝と体内に大量に蓄積された二酸化炭素とにより、患者の有効な換気に変化が起きた場合に、患者のCaCO2が変化する速度に対して、患者のCvCO2は非常にゆっくり変化する。患者のCvCO2等の信号が有効な換気の変化に迅速に反応できないことは信号が「減衰する(damping)」と言われる。
【0035】
図9Aは従来の再呼吸技術の例を図示し、ここでRは再呼吸が行われている期間を示し、Nは非再呼吸期を示し、非再呼吸期では正常な換気が行われている場合もある。従来の知識によると、微分フィック技術は患者のCvCO2に変化を引き起こさない程度には短く、患者のCaCO2に実質的な変化をもたらす程度には長いはずである。上記従来の知識にもかかわらず、患者のCvCO2を著しく増加させずに患者のCaCO2に変化を引き起こすに十分なだけの患者の有効な換気の変化は有用なことが、本願の本発明者により発見された。
【0036】
従って本発明は、既知の再呼吸微分フィック技術や他の微分フィック技術にかかる時間と相対して短い時間で患者の有効な換気の変化を引き起こす方法を含む。本発明の方法の例が図9Bに示されている。図9Bでは、Rは患者の有効な換気の変化が起きている期間を示し、またNは患者の有効な換気の変化はなく正常な換気が起きている期間を示す。有効な換気の変化は、従来から既知の微分フィック技術により患者の有効な換気の変化が引き起こされる頻度に対して高い頻度で起きる。
【0037】
周期のうちで有効な換気の変化が引き起こされている部分の増加に加え、本発明の微分フィック技術の全体周期時間が短縮されることにより、患者のCvCO2の初期増加が起きる場合もある。しかし、測定された患者のCvCO2の上記初期増加の後は、十分に高い頻度または変動速度で行われた患者の有効な換気の更なる変化は、患者のCvCO2の更なる実質的な変化を引き起こさないはずである。従って、本発明の微分フィック技術では、患者のCvCO2は、新たなほぼ定常状態のレベルに到達したら、そのレベルにとどまる。CvCO2は減衰されるので、頻度の高い変化や高い変動はCvCO2をより安定させる。
【0038】
本発明の方法の1つの態様に従って、微分フィック技術には、第1期、すなわち有効な換気の変化が起きる換気状態と、第2期、すなわち「正常な」換気や呼吸や呼吸作用が起きる換気状態とがある。
【0039】
当然、第1の換気状態と第2の換気状態との間の変化は、図9Bに図示するように急な場合もあれば、緩やかな場合もある。例えば、患者の有効な換気の変化が患者の1回換気量の変化である場合、最小の1回換気量と最大の1回換気量との間の変化または変動は正弦曲線(例えば、400cm3(400ml)、410cm3(410ml)、420cm3(420ml)、...580cm3(580ml)、590cm3(590ml)、600cm3(600ml)、590cm3(590ml)、580cm3(580ml)、...420cm3(420ml)、410cm3(410ml)、400cm3(400ml)、410cm3(410ml)、420cm3(420ml)、...)をたどるであろう。
【0040】
本発明の微分フィック技術の第1期と第2期すなわち第1の換気状態と第2の換気状態は実質上同じ時間だけ起きている、つまり、第1期と第2期の継続時間が図9Bに図示するように正確に同一である場合もあれば、どちらか片方の期間がもう一方よりやや長い場合もある。本発明の微分フィック技術の第1期または第2期のどちらかは、第1期と第2期の合計継続時間(combined duration)の約30%程度の場合もあれば、第1期と第2期の合計継続時間の約70%程度の場合もある。例えば、微分フィック技術の全体の周期時間が約1分の場合に、第1期と第2期は約18秒程度継続し、他の期間は約42秒継続する。これに代わって、第1期と第2期はそれぞれ、図9Bに図示するように約30秒程度継続することもある。
【0041】
第1期と第2期すなわち第1の換気状態と第2の換気状態のそれぞれの継続時間は、患者の換気(即ち、1回換気量×頻度)を求めることで患者にとって最適にされる。任意に、第1期と第2期のそれぞれの最適な継続時間を決定する為に、患者の換気に加えて計算された患者の肺毛細管血流量または心拍出量が求められ得る。例えば、心拍出量のレベルが高い場合、各期間の時間を短縮することが所望され得る。
【0042】
第1期と第2期すなわち第1の換気状態と第2の換気状態との間で変動させることの代案としては、肺毛細管血流量または心拍出量を非侵襲的に測定する前に、非侵襲の測定などを容易にする有効な換気の変化の開始に先立ち(例えば待機期間中)、患者の呼吸データが監視される。従って、肺毛細管血流量または心拍出量は、患者の有効な換気の変化(即ち、第1期)を開始させ、患者の有効な換気の変化を起こす前に待機期間中に得られ保管されたデータを用いることによって測定される。
【0043】
本発明の教示に組み込まれている微分フィック技術の周期時間は約2分以下が望ましい。1分未満の周期時間も本発明の範囲内である。
【0044】
本発明の別の態様は、本願の発明者の発見に関連し、肺毛細管血流量または心拍出量を正確かつ非侵襲的に測定する為に患者の有効な換気の変化には必ずしも回復期が続かなくてもよい点である。従って、本発明の教示を組み込む微分フィック技術には、一般に患者の有効な換気の変化の誘発に続く従来の回復期すなわち安定化期がなくてもよい。第1期と第2期は連続的に反復され、一方(例えば、第1期)は他方(例えば、第2期)の完了に直ちに続く。加えて、同時に本発明の微分フィック技術が行われる間、患者の呼吸作用(例えば、流量のレベルと二酸化炭素または酸素のレベル)はおそらく連続的に評価され監視される。代案としては、第1期と第2期とが直ぐに続いて起こる間毎に、1つ以上の断続的な測定値が得られてもよい。
【0045】
本発明の教示に組み込まれている微分フィック技術の例として、部分的再呼吸を用いる場合もある。微分フィック技術の部分的再呼吸の実施の形態では、第1期は再呼吸期であり、第2期は非再呼吸期である。再呼吸では、患者のPetCO2または患者の血液の二酸化炭素含有量の別の指標(例えば、CaCO2や、pCO2や、PetCO2の代用品、例えば最新の吐き出された体積の約5%の平均のpCO2等)と共に、患者のVCO2が測定される。
【0046】
図1は、実質上非侵襲的に患者の呼吸作用を監視しガス混合物の流量および二酸化炭素濃度を計測する典型的な方法を概略的に示す。上記ガス混合物は正常な呼吸作用中または既知の再呼吸手技の間などの患者の呼吸の過程にわたって、患者10により吸入されたり吐き出されたりしたものである。呼吸回路11は、患者10の気道と連絡するように配置されている。既知のタイプの流量センサ12、例えば、コネティカット州ウォリングフォード所在のノヴァメトリックス・メディカル・システムズ・インコーポレテッド(Novametrix Medical Systems Inc.)(以下“Novametrix”とする)製の差圧式呼吸流量センサ(例えば、小児/成人用流量センサ(Pediatric/Adult Flow Sensor)(カタログ番号6717)や新生児用流量センサ(Neonatal Flow Sensor)(カタログ番号6718)などが、換気回路11に沿って配置される。流量センサ12は、他の動作原理に基づき他社から製造または販売されている呼吸流量センサと同様に、換気装置(図示せず)または患者の呼吸マスクやマウスピースに動作可能なように取り付けられ得、患者10の呼吸の流量を測定する為に使用される。
【0047】
二酸化炭素センサ14、例えば、Novametrix製のCAPNOSTAT(登録商標)二酸化炭素センサおよび相補的な気道アダプタ(例えば、小児または成人患者用使い捨て気道アダプタ(Pediatric/Adult Single Patient Use Airway Adapter)(カタログ番号6063)、小児または成人用再利用可能な気道アダプタ(Pediatric/Adult Reusable Airway Adapter)(カタログ番号7007)、新生児または小児用再利用可能な気道アダプタ(Neonatal/Pediatric Reusable Airway Adapter)(カタログ番号7053)が、他社から製造または販売されている本流および支流の二酸化炭素センサと同様に、患者10により吸入されたり吐き出されたりしたガス混合物の二酸化炭素濃度を計測するよう換気回路11に沿って配置される。
【0048】
流量センサ12と二酸化炭素センサ14は、流量モニタ16と二酸化炭素モニタ18にそれぞれ連結され、流量センサ12と二酸化炭素センサ14の各々からの信号を表す流量モニタ16と二酸化炭素モニタ18からのデータがコンピュータ20により検出され、該コンピュータ20のプログラミング(例えば、ソフトウェアによるもの)に従って処理されるように、各々が動作可能なようにコンピュータ20に関連付けられている。望ましくは、流量モニタと二酸化炭素センサからの未加工の流量信号と二酸化炭素信号は、有意の人工物を除去する為にフィルタリングされる。呼吸流量および二酸化炭素圧力が測定されると、呼吸流量および二酸化炭素圧力のデータがコンピュータ20により保管される。
【0049】
患者10の各呼吸すなわち各呼吸周期は、当該技術で既知であるように患者10の呼吸の流量を連続的に監視することなどにより描写される。
【0050】
再呼吸を実施する為に、死腔22すなわち二酸化炭素供給源は、患者10の気道と連通する。非再呼吸期の間、死腔22と患者10の気道との連通は中断される。
【0051】
本発明の教示に従う部分的再呼吸では、二酸化炭素排出量と終末呼気二酸化炭素の分圧が測定される非再呼吸期中に基準が確立される。非再呼吸期にはすぐに再呼吸期が続き、ここで患者のCaCO2の変化が誘発されVCO2とPetCO2が再び測定される。その再呼吸期には、すぐに新たな非再呼吸期が続き、ここでVCO2とPetCO2が再び測定される。
【0052】
本発明の微分フィック技術は、それらの操作およびプロセスの従来の回復期すなわち安定化期を短縮するか完全に無くすよう修正された従来の再呼吸操作およびプロセス、並びに、他の既知である再呼吸操作およびプロセスと共に利用され得る。例えば、本発明の微分フィック技術は、オール(Orr)他の米国特許6,238,351号 (以下「Orrの特許」)に開示されているいわゆる「二方向(bi‐directional)」プロセスや、Orr他のWO01/62148A1(以下「OrrのPCT出願」)に開示されているいわゆる「最良適合(best−fit line)」法と共に利用され得る。
【0053】
二方向再呼吸
二方向再呼吸プロセスでは、Orr特許に開示されているように、呼吸の二酸化炭素と流量は、再呼吸期「前」と再呼吸期「中」と再呼吸期「後」の3つの期間で測定される。本発明の教示が二方向再呼吸法に適用された場合、第1の非再呼吸期中に得られる測定値は第1の再呼吸周期の再呼吸期「前」のデータを提供し、再呼吸期中に得られる測定値は第1の再呼吸周期の再呼吸期「中」のデータを提供し、次の非再呼吸期中に得られる測定値は第1の再呼吸周期の再呼吸期「後」のデータと次の再呼吸周期の再呼吸期「前」のデータの双方を提供する。
【0054】
患者のCvCO2が変化している際に有用な二方向再呼吸技術の第1の別例では、患者の肺毛細管血流量または心拍出量をより正確に決定するのに有用な、CvCO2が変化する割合が概算される。更にCvCO2の変化の割合は、「正常な」呼吸作用と有効な換気の変化との間における患者のCvCO2の変化の割合または量を決定する為に用いられる場合もある。二方向再呼吸技術の第2の変形では、CvCO2の変化の割合を概算することなく、患者の肺毛細管血流量または心拍出量が決定される。二方向再呼吸技術の第2の変形は更に、再呼吸プロセス中にCvCO2または心拍出量のいずれかが変化する際に、患者の肺毛細管血流量または心拍出量を決定するのにも有用である。
【0055】
二方向再呼吸技術で使用される公式の導出
従来の部分的再呼吸技術で利用されている方程式に類似した微分形式の二酸化炭素フィックの方程式は、「正常な」呼吸作用中(B)および再呼吸プロセス中(D)のVCO2およびCvCO2に基づく式であり、以下の通りである。
【0056】
【数3】
または
【0057】
【数4】
同様に、別の微分形式の二酸化炭素フィックの方程式は、再呼吸プロセス中および再呼吸後になされた二酸化炭素排出量および二酸化炭素含有量の測定に基づき、患者の肺毛細管血流量または心拍出量を決定するために用いられるものであり、以下の通りである。
【0058】
【数5】
または
【0059】
【数6】
上記式中、CvCO2Aとは、再呼吸後(A)、すなわち「後」期間の患者のCvCO2である。
【0060】
前出の2つの微分形式の二酸化炭素フィック方程式は組み合わせられて以下の微分形式の二酸化炭素フィック方程式を生成し得る。
【0061】
【数7】
CvCO2は経時的に変化するので、患者の肺毛細管血流量または心拍出量を正確に非侵襲的にフィックを基礎として決定することには、CvCO2が変化する割合を概算することが含まれる。CvCO2の上記変化が再呼吸周期にわたって実質上直線的であり、従って、変化の割合が一定であるという典型的な仮定では、「k」で表されるCvCO2の変化の割合は以下の式で決定される。
【0062】
【数8】
これに代わって、静脈血の二酸化炭素含有量の変化は、指数曲線などのような二酸化炭素含有量の変化の特徴に正当に基づく他の形状の曲線に従うと仮定され得る。その場合、変化の割合もまた指数関数的または多項式の曲線である。別の代案としては、CvCO2の変化の割合は、当該分野で既知である通り、人工のニューラルネットワークまたは動径基底関数(radial basis function)により概算される。
【0063】
CvCO2の変化が時間に対して直線状であると仮定され、従ってCvCO2の変化の割合が一定であると仮定される場合、「前」期間から「中」期間および「中」期間から「後」期間のCvCO2の変化は以下の式で表される。
【0064】
ΔCvCO2BD=k(tB−tD) (11)
および
ΔCvCO2DA=k(tD−tA) (12)
上記式中、tB、tD、tAは、「前」期間、「中」期間、「後」期間がそれぞれ生じている時間を表す。
【0065】
CvCO2の変化の前述の式は、「前」期間、「中」期間、「後」期間のそれぞれにおける患者の呼吸および展開された「Δ」の項を考慮する微分形式の二酸化炭素フィック方程式に代入されて、あらゆるCvCO2の変化を説明するので二方向再呼吸法において有用である以下の形式の二酸化炭素フィック方程式を生成する。
【0066】
【数9】
しかし、本発明の微分フィック技術で起こり得るtD−tB=tA−tDの場合、tA+tB=2・tDであり、kにはゼロが掛けられるのでkを計算する必要はない。従って、第1期と第2期の継続時間が同一である場合などtD−tB=tA−tDの場合には、以下の式が患者の肺毛細管血流量を決定する為に用いられる。
【0067】
【数10】
患者の肺毛細管血流量および心拍出量が「前」期間から「後」期間まで実質上一定のままであるという仮定により、「前」期間および「中」期間にわたる肺毛細管血流量または心拍出量(QBD)を決定し「中」期間および「後」期間にわたる拍出量(QDA)を決定するための微分二酸化炭素フィック方程式は、kすなわちCvCO2の変化の割合を概算するために利用され、以下の通りである。
【0068】
QBD=QDA (15)
従って、
【0069】
【数11】
上記式は以下のように並べ替えられる。
ΔVCO2BD・ΔCvCO2DA−ΔVCO2DA・ΔCvCO2BD=
ΔVCO2BD・ΔCACO2DA−ΔVCO2DA・ΔCACO2BD (17)
次に、ΔCvCO2BD(11)とΔCvCO2DA(12)の式を上述の式(17)に代入して以下の式を生成する。
【0070】
ΔVCO2BD・k(tD−tA)−ΔVCO2DA・k(tB−tD)=
ΔVCO2BD・ΔCACO2DA−ΔVCO2DA・ΔCACO2BD (18)
上記式を並べ替えて、kすなわちVCO2の変化の割合の以下の式を生成する。
【0071】
【数12】
心拍出量の変化中に肺毛細管血液を非侵襲的に決定する二方向再呼吸技術の利用法
上述の式(14)は、二方向再呼吸プロセス中に患者の肺毛細管血流量または心拍出量が変化する場合に、患者の肺毛細管血流量または心拍出量を決定する為に用いられる。このことは、CvCO2は再呼吸中に変化しないと仮定することで示される。
【0072】
CvCO2=CvCO2B=CvCO2D=CvCO2A (20)
フィックの方程式を用いて、VCO2を二方向部分的再呼吸法の前期間、中期間、および後期間のそれぞれのCvCO2とCaCO2またはCACO2との項で表す。
【0073】
VCO2B=QB(CvCO2B−CACO2B) (21)
VCO2D=QD(CvCO2D−CACO2D) (22)
VCO2A=QA(CvCO2A−CACO2A) (23)
式(20)でのCvCO2が再呼吸中に変化しないという仮定に加えて、式(21)〜(23)を式(14)のVCO2B、VCO2D、VCO2Aの項に代入すると、以下の式がもたらされる。
【0074】
【数13】
CvCO2が再呼吸中に変化しないと仮定されている場合は、再呼吸プロセスが一旦停止したことを意味し、CaCO2とCACO2が、再呼吸プロセス前の上記パラメータとほぼ同一のレベル、または再呼吸が行われなかった場合もしくは患者の換気の更なる変化が誘発されなかった場合の上記パラメータと同一のレベルに復帰する。
【0075】
CACO2B=CACO2A=CACO2NR (25)
上記式中、CACO2NRとは、例えば本発明の微分フィック技術の第2の期間中など、患者の換気の変化が誘発されなかった(例えば、再呼吸中に誘発されないままの)期間中の、肺胞周囲の毛細管における二酸化炭素の含有量である。従って、CACO2NRを式(24)のCACO2BとCACO2Aの双方の代わりに代入でき、以下の式がもたらされる。
【0076】
【数14】
特定の項を因数分解することにより、式(26)は以下のように書き直すことができる。
【0077】
【数15】
患者の肺毛細管血流量または心拍出量が経時的に直線的に変化する、あるいは二方向部分的再呼吸法の前期間の肺毛細管血流量または心拍出量と中期間の肺毛細管血流量または心拍出量との差が、中期間の肺毛細管血流量または心拍出量と後期間の肺毛細管血流量または心拍出量との差と等しいと仮定される場合、再呼吸の中期間の患者の肺毛細管血流量または心拍出量は以下の式で表され得る。
【0078】
QD=1/2(QA+QB) (28)
式(28)を式(27)に代入することにより、以下の式が得られる。
【0079】
【数16】
上記式は以下の式と同等である。
Q=1/2(QA+QB) (30)
この式はQDに等しい。
【0080】
よって、患者の肺毛細管血流量または心拍出量が二方向部分的再呼吸法中に一定の割合で変化する場合、患者の心拍出量または肺毛細管血流量は、部分的再呼吸の中期間に測定された際の患者の肺毛細管血流量または心拍出量と等しい。従って、式(13)および(14)は、患者の肺毛細管血流量または心拍出量が変化している間の患者の肺毛細管血流量または心拍出量を正確かつ非侵襲的に決定する為に二方向部分的再呼吸プロセスと共に用いられる。
【0081】
式(13)および(14)で具体化された二方向部分的再呼吸法は、患者のCvCO2と肺毛細管血流量または心拍出量との双方が変化している際に、患者の肺毛細管血流量または心拍出量を非侵襲的に決定する場合にも有用である。
【0082】
二方向再呼吸法の実施においては、図1を参照して説明されるようなシステムが使用される。二方向再呼吸法の実施においては、患者の呼吸が再呼吸期および非再呼吸期の間じゅう監視されて、上記の期間中に患者が吐き出したCO2の量および患者の呼吸作用の流量が検出され、それによってVCO2およびCvCO2が決定され得る。
【0083】
図2Aのプロットは二方向再呼吸中に得られた様々な測定値を図示する。図示されているように、理想化された(即ち、ノイズがない)二方向再呼吸周期の基準呼吸(即ち、再呼吸「前」)と、再呼吸「中」と、回復期すなわち安定化期(即ち、再呼吸「後」)との間に起こるVCO2(ひし形で図示)および二酸化炭素含有量の測定値(例えば、PetCO2、正方形で図示)の典型的な変化である。再呼吸の間、VCO2は約13呼吸から14呼吸のうちに基準値(例えば、約200cm3/分(200ml/分))から再呼吸安定水準期間(例えば、約100cm3/分(100ml/分))へと変化するのに対し、二酸化炭素含有量は基準値(例えば、4666Pa(35mmHg))から安定水準(例えば、約5200Pa(39mmHg))へと変化するのに、より長い時間が掛かり得る。
【0084】
図2Bは、毛細管血流量または心拍出量を概算する為に用いられる、図2Aに図示されているような二方向再呼吸プロセスの再呼吸期の前と中と後それぞれの単一の値である安定水準値を示す2次元のプロットである。
【0085】
患者により吐き出される二酸化炭素の体積と吸入される二酸化炭素の体積の差は、患者のVCO2を概算する為に用いられるものであり、再呼吸前(VCO2B)と再呼吸中(VCO2D)と再呼吸後(VCO2A)とにおいて決定される。図3は、本発明の再呼吸プロセスの前、中、後、の期間それぞれの間のVCO2を示すプロットである。
【0086】
また、患者のPetCO2も「前」、「中」、「後」、の期間それぞれにおいて測定される。(灌流されていない肺胞の)平行な死腔について補正がなされた場合、PetCO2は、肺胞の血液中の二酸化炭素の分圧(PACO2)および動脈血中のCO2の分圧(PaCO2)に等しいと仮定されているので、当該分野で既知のように、終末呼気二酸化炭素分圧測定値と共に二酸化炭素解離曲線を用いて、再呼吸期前と再呼吸期中と再呼吸期後とのそれぞれにおける血液ガスの交換に関係する患者の肺の肺胞の血液中の二酸化炭素の含有量(CACO2)を決定し得る。上記肺胞は一般に「灌流された」肺胞と呼ばれる。CACO2は動脈血中の二酸化炭素の含有量(CaCO2)に等しいと仮定されている。図4は、本発明の再呼吸プロセス前、再呼吸プロセス中、および再呼吸プロセス後の期間中それぞれで測定されたPetCO2を示すプロットである。
【0087】
肺毛細管血流量または心拍出量の決定
CvCO2が変化する場合に患者の肺毛細管血流量または心拍出量を決定するにあたって、「ΔVCO2BD」とも呼ばれる再呼吸前のVCO2と再呼吸中のVCO2との差と、「ΔVCO2DA」とも呼ばれる再呼吸中のVCO2と再呼吸後のVCO2の差とが決定される。「ΔCACO2BD」とも呼ばれる再呼吸前のCACO2と再呼吸中のCACO2との差と、「ΔCACO2DA」とも呼ばれる再呼吸中のCACO2と再呼吸後のCACO2との差も決定される。
【0088】
これらの差は患者の静脈血中の二酸化炭素含有量が変化する割合を計算する為に用いられ得る。患者の静脈血中の二酸化炭素含有量の変化の割合(k)を概算する典型的な式は、変化が経時的に直線的なので変化の割合は一定であることを仮定しており、以下のようになる。
【0089】
【数17】
患者の血液中の二酸化炭素含有量の変化の割合が概算されると、患者の肺毛細管血流量または心拍出量は、以下のように正確に決定される。
【0090】
【数18】
これに代わって、先行の式および、以下の式を用いて決定される患者の肺毛細管血流量または心拍出量から、時間および定数は省略される場合もある。以下の式は、再呼吸中にCvCO2または肺毛細管血流量または心拍出量が変化する際に有用である。
【0091】
【数19】
最良適合法(best−fit line method)
図2Aおよび2Bに示すような、各期間の安定水準での測定値を用いることと対照して、従来の再呼吸プロセスおよび二方向再呼吸プロセスでは、OrrPCT出願の再呼吸法により、VCO2および二酸化炭素含有量のデータが間断なく測定される。その結果、測定値のプロットは、図5Aに示すプロットのような外観を有する。上記プロットは、再呼吸前の測定値に基づく符号100のデータと、再呼吸中の測定値に基づく矢印102に沿ったデータと、再呼吸後の測定値に基づく矢印104に沿ったデータとを有している。上記のデータは、単一の再呼吸周期を用いて得られてもよいし、多数の再呼吸周期の過程にわたって得られてもよいし、1つ以上の不連続の時間間隔で得られてもよいし、呼吸単位で得られてもよい。呼吸単位で得られる場合には、患者の肺毛細管血流量または心拍出量を間断なく更新または監視する為に、データは本発明の方法に従って間断なく測定され、計算され、分析される。
【0092】
最良適合法には更に、二酸化炭素排出量すなわちVCO2の変化と患者の動脈血中の二酸化炭素含有量すなわちCaCO2の変化との比として肺毛細管血流量または心拍出量を計算する為に、微分形式の二酸化炭素フィック方程式を用いることも含まれる。
【0093】
【数20】
これまでに本願で説明したように、CaCO2はPetCO2を決定することにより非侵襲的に概算され得る。PetCO2は、標準的な二酸化炭素解離曲線を用い、当該分野で既知であるように、以下の式を用いてCaCO2に変換され得る。
【0094】
ΔCaCO2=sΔPetCO2 (35)
上記式中、sは二酸化炭素解離曲線のプロットの傾きであり、ΔPetCO2は換気の変化によりもたらされた患者の二酸化炭素の終末呼気分圧における変化である。従って、肺毛細管血流量または心拍出量も以下のように計算できる。
【0095】
Q=ΔVCO2/sΔPetCO2 (36)
患者の肺毛細管血流量または心拍出量を決定する為に、PetCO2やCaCO2の代わりにpCO2のような患者の血液中の二酸化炭素含有量の他の指標が用いられる場合もある。
【0096】
第1(例えば再呼吸)期および第2(例えば非再呼吸)期の双方の期間中に、図1に示されるように、呼吸の二酸化炭素の圧力および流量の測定が一旦なされると、当該分野で既知であるように上記の呼吸の二酸化炭素の圧力および流量のデータを用いて、VCO2および、PetCO2、並びに、効果的な換気の変化によって起こるVCO2およびPetCO2の変化が計算される。
【0097】
計算されたVCO2およびPetCO2のデータは、上記に示した種々のフィックの方程式のいずれかを用いるなどして患者の肺毛細管血流量または心拍出量を決定する為に用いられる。
【0098】
代案として、計算されたVCO2のデータおよびCaCO2のデータ、またはPetCO2やpCO2などの患者の血液中の二酸化炭素含有量の別の指標データを、2次元の(X−Y)線グラフなどの2次元において、y軸に関して測定されるVCO2のデータ点とx軸に関して測定されるPetCO2のデータ点とによって表し、データに最も良く適合する線を識別することにより、患者の肺毛細管血流量または心拍出量を複数の呼吸の過程にわたって決定してもよい。上記の線は本願では最良適合線と呼ばれる。
【0099】
例えば、最良適合線の式は以下の通りである。
y=mx+b (37)
または
【0100】
【数21】
上記式中、yはデータ点のy軸縦座標、xは同一データ点のx軸横座標、mは線の傾き、bは線のオフセット値である。VCO2がy軸に関して測定され、CaCO2がx軸に関して測定された場合は以下のようになる。
【0101】
【数22】
VCO2−CaCO2のデータによる最良適合線の負の傾き(即ち、−1×m)は、患者の肺毛細管血流量または心拍出量と等しくなるであろう。
【0102】
−m=Q (40)
VCO2およびCaCO2のデータの最良適合線は、既知の線形回帰法または2つの変数の間の関係を決定する他の既知の手法を用いて決定されることが望ましい。線形回帰の方法により、効果的な換気の1回以上の変化の過程にわたって得られた多数のVCO2およびCaCO2のデータに基づく正確な肺毛細管血流量または心拍出量の値が得られる。線形回帰が用いられる場合は、データの最良適合線の傾き(m)は以下のように計算される。
【0103】
m=Lxy/Lxx (4l)
また、線のオフセット値(b)は以下の式により計算される。
【0104】
b=Σy/n−m×Σx/n (42)
上記式中、
Lxx=Σx2−(Σx×Σx)/n (43)
Lyy=Σy2−(Σy×Σy)/n (44)
Lxy=Σxy−(Σx×Σy)/n (45)
また、上記式中nはプロットのデータ点の数であり、Σxは全てのx縦座標(即ち、CaCO2含有量)の値の合計であり、Σyは全てのy縦座標(即ち、VCO2)の値の合計であり、Σx2は全てのx縦座標の値の二乗の合計であり、Σy2は全てのy縦座標の値の二乗の合計であり、Σxyは全ての対をなすx縦座標とy縦座標とを互いに掛け合わせた値の合計である。
【0105】
線形回帰が最良適合線の位置および向きの決定に用いられる際には、VCO2およびCaCO2のデータと相互に関連している最良適合線の精度を定量化する相関係数(r)も以下のように計算される。
【0106】
r=(Lxy×Lxy)/(Lyy×Lxx) (46)
代案として、VCO2およびCaCO2のデータと相互に関連している最良適合線の精度を定量化するその他の適合度測定法が用いられてもよい。
【0107】
相関係数の範囲は0から1.0であり、相関係数0とはx縦座標データとy縦座標データとの間に線形相関がないことを示し、相関係数1.0とはx縦座標データとy縦座標データとが完全に線形的に相互に関連している(即ち、VCO2−CaCO2のデータ点すべてが同一の直線上にある)ことを示す。
【0108】
しかし、再呼吸前に測定されたVCO2−CaCO2のデータ点と再呼吸中に測定されたVCO2−CaCO2のデータ点とが同一の直線上にあることはめったにない。その理由の1つは、再呼吸操作中は、VCO2信号は一般にPetCO2信号に先行し、よってCaCO2より約1呼吸分先行する為である。更に、PetCO2信号よりも高い周波数の信号成分に基づいてVCO2は計算される。その結果、ある期間にわたって計算されたVCO2の測定値とCaCO2の測定値とが互いに対照されて2次元の(X−Y)線グラフ上にプロット化される場合、結果は直線というよりはむしろ、図5Aや図6に示されるように一般に円弧状や環状となり、計算されたデータおよび再呼吸の継続時間の量に依存している。更に、VCO2およびCaCO2の測定値は、擬似呼吸中に得られた呼吸流量データおよび二酸化炭素圧力データに基づいて計算される場合もある。上記のデータは肺毛細管血流量または心拍出量の測定値には関係しない。上記の擬似データに基づくVCO2およびCaCO2の計算値は、計算されたVCO2およびCaCO2のデータによる最良適合線についての誤算を招くノイズとして作用する。そのため、最良適合線とデータとの相関係数は一般に1.0より非常に小さい。
【0109】
測定された呼吸流量および二酸化炭素圧力のデータ、即ち計算されたVCO2およびCaCO2のデータは、VCO2のデータおよびCaCO2のデータとそれに対する最良適合線との相関係数を高めるように修正され得る。相関係数を高める為に、線形変換が用いられることが望ましい。線形変換は、VCO2のデータ点の計算を遅延させて同一の呼吸中に行われた測定に基づくCaCO2のデータ点と正確に時期を一致させる為に用いられる。測定または計算されたデータは線形変換を用いることでフィルタリングされることにもなるであろう。
【0110】
VCO2のデータおよびCaCO2のデータとそれらに対する最良適合線との相関係数を高める典型的な方法では、計算されたVCO2またはCaCO2のデータにフィルタが適用される。既知のアナログまたはデジタルの低域フィルタ、高域フィルタ、またはバンドパスフィルタなどが利用でき、上記フィルタには適応フィルタも含まれる。線形または非線形のフィルタも利用できる。VCO2の計算値と遅延したPetCO2/CaCO2の計算値との係数を改善するようにVCO2の計算値をフィルタリングする為に、一次の(単極)無限インパルス応答(IIR)デジタルフィルタが用いられることが望ましい。上記のようなフィルタの式は以下のようになる。
【0111】
VCO2‘[n]=α×VCO2‘[n−1]+(1−α)×VCO2[n] (47)
上記式中、VCO2[n]は一番最近に計算されフィルタリングされていないVCO2のデータ点であり、VCO2‘[n−1]はフィルタリングされた先行のVCO2のデータ点であり、VCO2‘[n]はVCO2[n]に基づきフィルタを用いて得られた新しい「フィルタリングされた(filtered)」値であり、αはフィルタ係数である。フィルタ係数αの範囲は0から1.0である。αの値が大きいほど、一番最近に計算されたデータ点がより厳密にフィルタリングされ、逆に、αの値が小さいほど、一番最近に計算されたデータ点のフィルタリングされる程度が低くなる。αが0の場合は、一番最近に計算されたデータ点はフィルタリングされない。
【0112】
それぞれの患者における解剖学的かつ生理学的な差により、それぞれの患者の最適なフィルタ係数αは異なる。更に、患者に解剖学的かつ生理学的な変化が経時的に起きると、患者の呼吸から計算されたVCO2またはCaCO2の値をフィルタリングする際に用いられる最適なフィルタ係数αも経時的に変化する。最適なフィルタ係数αの選択には任意の既知の最適化法や探索アルゴリズムが利用できる。
【0113】
最適なフィルタ係数が選択される1つの方法の例として、αが最初にデフォルト値(例えば、0.85)に設定され、計算されたVCO2またはCaCO2の値がデフォルトフィルタ係数αに基づいてフィルタリングされる。次に、最良適合線を得る為に線形回帰が行われる。フィルタリングされたばかりのデータにより計算された最良適合線の相関係数が、フィルタリングされていないデータや前のフィルタ係数により計算された直前の最良適合線の相関係数より小さい場合は、α調整値に−1をかけてその修正されたα調整値をフィルタ係数に加えることでフィルタ係数を修正することにより、所定のα調整値(例えば、0.01)が変更される。別の方法では、フィルタ係数αの修正は修正されていない調整値を加えることでなされる。修正されたフィルタ係数に基づきデータをフィルタリングし、データの最良適合線を得て、上記の最良適合線の相関係数と先行の最良適合線の相関係数とを比較し、それに応じてフィルタ係数を調節するプロセスは、所定回数(例えば、50回)繰り返される。患者の肺毛細管血流量または心拍出量を計算する為に、フィルタリングされていないデータおよびフィルタリングされたデータの各セットに基づいた、最大の相関係数を有する最良適合線が選択される。フィルタリングが用いられる場合、好ましくは、VCO2−CaCO2のプロットが図5Bおよび図7に示すように細くなり、それにより最良適合線の位置および向きが確定される精度が高まり、従って、データに基づく肺毛細管血流量または心拍出量の決定の精度も高まる。
【0114】
VCO2およびCaCO2のデータとそれに対する最良適合線との相関係数を高める方法の別の例は、本願では「クラスタ化(clustering)」と呼ばれ、緊密にグループ化されたデータ点を選択することを含む。即ち、選択されたデータ点には所定の範囲内の多数の他のデータ点を有するデータ点が含まれる。クラスタ化されていないデータ点は、おそらく不正確であるか、または疑似呼吸中になされた測定に基づいている。データによる正確な最良適合線は大抵クラスタ化されたデータに基づいているので、クラスタにないデータ点はデータの最良適合線の位置および向きの計算には利用されていない。
【0115】
データ点のクラスタ化には、x縦座標データ(例えば、CaCO2データ)およびy縦座標データ(例えば、VCO2データ)の範囲がほぼ同一となるように、データの正規化または変換が含まれる。上記のような正規化が行われない場合は、最高の範囲を有するデータグループ(例えば、VCO2データまたはCaCO2データ)が支配する、即ち他のデータグループの重要性は低い。
【0116】
データが正規化される典型的な方法には以下の正規化を用いることが含まれる。
【0117】
【数23】
式中、xは未加工の値であり、はプロット中のx軸(例えば、CaCO2) データ全ての平均値であり、σxはプロット中のx軸データ全ての標準偏差である。上記の正規化は全てのx軸の値に適用される。同様の正規化方式が全てのy軸の値にも適用される。
【0118】
正規化されたデータは次に、グループのデータ点の各々に最も近接したデータ点(例えば、VCO2またはCaCO2のデータ点)を所定数(例えば、5個)探すことによってクラスタ化される。分析されたデータ点と所定数の最も近接したデータ点の各々との差は合計され、所定閾値と比較される。差の合計が所定閾値を越えている場合は、分析されたデータ点は廃棄される。もちろん、最も正確なデータを識別して不正確と考えられるデータを無視する為に、他のクラスタ化技術を用いることも本発明の範囲内にある。
【0119】
一旦、クラスタ化がなされると、肺毛細管血流量または心拍出量を正確に決定する為に、正規化の逆数が計算されるか若しくは正規化が取り消される。正規化の逆数が計算される方法の例には、以下の式を用いることが含まれる。
【0120】
【数24】
この正規化の逆数はクラスタ化されたx軸(例えば、CaCO2)値の全てに適用される。同様の逆数正規化方式が、クラスタ化されたy軸データの全てに適用される。
【0121】
クラスタ化は、異常値を判定する多数の既知の技術のうちの1つである。異常値を判定する他の既知の技術も本発明の方法で使用されてよい。
【0122】
不正確と考えられるデータ点を無視することに代わって、またはそれに加えて、データの精度を高めるために、クラスタ化を用いて合成データ点を追加してもよい。合成データ点は、最良適合線と最良適合線が基づいているデータ点との相関係数を高める為に追加され得る。
【0123】
最良適合法におけるデータを修正する他の典型的な方法が、図8Aおよび8Bに示される。データを修正するフィルタリングおよびクラスタ化の方法と同様に、図8Aおよび8Bに示される方法には、最良適合線の位置および向きの正確な決定、従って患者の肺毛細管血流量または心拍出量の正確な決定を容易にする可能性が最も高いデータ点を選択することが含まれる。データを修正するためのこの方法には、肺毛細管血流量の測定可能範囲を表す2本の線に対して、データ点と残りのデータ点の分布とを反復して検査することが含まれる。
【0124】
図8Aおよび8Bに示されるように、線すなわち最小の予想される肺毛細管血流量を表す線110の式(即ち、−mline=PCBFmin)と、線すなわち最大の予想される肺毛細管血流量を表す線120の式(即ち、−mline120=PCBFmax)とが、データ点130で交差するように配置される。例えば、x縦座標がCaCO2に基づく場合、線110はは−0.5の傾きを有し得る。その傾きは最小の予想される肺毛細管血流量が0.5L/minであることを表す。また、線120は−20の傾きを有し得、その傾きは最大の予想される肺毛細管血流量が20L/minであることを表す。もちろん、線110および線120には他の肺毛細管血流量値が利用されてもよい。
【0125】
次に、線110と線120との間に位置する他のデータ点130の数が決定される。線110と線120との間のデータ点130の数が閾値数以上である場合には、分析されたデータ点130は、データによる最良適合線の位置および向きの次の決定の為に保持される。その他の場合には、分析されたデータ点130は廃棄される。分析されたデータ点に対する、線110と線120との間に位置すべきデータ点の保持されるべき閾値数は、所定値であってもよいし、他の手段により決定されてもよい。例えば、データ点130のセット内の各データ点130が、データを修正する方法の本実施の形態に従って評価された場合、閾値数は線110と線120との間に位置するデータ点の中央の数に設定され得る。上記のプロセスは、データ点130のセット内の各データ点130が上記のように評価されるまで繰り返される。図8Aは保持されるデータ点130に対するデータ修正方法の利用状態を示し、図8Bは保持されない他のデータ点130’に対するデータ修正方法の本実施の形態の利用状態を示す。
【0126】
図5A、図5B、図6、図7は、データによる最良適合線の位置および向きを決定する際の精度を高めるデータ修正の結果を示す。図6は上記のような修正を行わない場合の典型的なVCO2対CaCO2のプロットを示し、そのプロットは環状を呈している。対照的に、図7は1つ以上の本発明の方法の本実施の形態がデータの修正に利用された場合のデータの接近を示す。図5Aと図5Bはそれぞれ修正前と修正後のVCO2データおよびPetCO2データのプロットを示す。データ点の接近が増大することにより、それらのデータ点による最良適合線の位置および向きの決定が高い精度で可能となる。
【0127】
データ点すべてが検査されると、最良適合線の位置および向きが残りのクラスタ化されたデータにより決定される。最良適合線の位置および向きの決定には、再び線形回帰が用いられることが望ましい。最良適合線の負の傾き(即ち、−1×m)により肺毛細管血流量の測定値が得られ、上記測定値は心拍出量の決定に用いられる。本願でこれまでに開示したように相関係数が計算され、肺毛細管血流量または心拍出量の決定に用いられるデータの質が示される。相関係数または相関係数に基づく質の測定は、ユーザ(例えば、医師や、看護師や、呼吸器の技術者)に伝達されたり、または出力中に生じた肺毛細管血流量または心拍出量の値に重み付けする、すなわち加重平均値を得る為に利用されたりする。
【0128】
データによる最良適合線や患者の肺毛細管血流量または心拍出量が決定される際の精度を高める為に、測定または計算されたデータについてデータを修正する方法の1つ、またはそれらの組み合わせが実施されてよい。
【0129】
フィルタリングとクラスタ化とを一緒に用いる例として、計算されたVCO2データが2次元の線グラフのy軸データとしてグループ化され、計算されたCaCO2データ点がx軸データ点としてグループ化される。最適な相関係数を有するデータの最良適合線を決定する為に、少なくとも1つのグループのデータ点がフィルタリングされる。更にデータは、計算されたVCO2データおよびCaCO2データに対する最良適合線の相関係数を更に改善する為に、フィルタリングの前後どちらかでクラスタ化される。残りのデータは、データに対する最良適合線、並びに該最良適合線の相関係数を決定する(例えば、線形回帰により)為に用いられる。次に、最良適合線の傾きが計算されて、肺毛細管血流量または心拍出量を決定するために用いられる。相関係数は更に、肺毛細管血流量または心拍出量の決定の信頼性を示したり、あるいは加重平均での肺毛細管血流量または心拍出量の決定に対して特定の加重値を与えたりする為に使用される場合もある。
【0130】
本願でこれまでに開示したように、データの正確な最良適合線の位置および向きが決定されると、患者の肺毛細管血流量は最良適合線の傾きの負数として計算できる。
加えて、最良適合線は患者のCvCO2の概算にも利用できる。完全再呼吸中にVCO2が最終的になくなると、患者の口で測定された二酸化炭素の分圧(pCO2)は患者のCvCO2を表す。部分的再呼吸技術が用いられると、患者のVCO2は基準より低いレベルまで低下するが0にはならない。部分的再呼吸技術を利用して得られたデータによる最良適合線を決定することで、最良適合線はVCO2がゼロまたは事実上ゼロになる点まで延長され得る。それによって、最良適合線は、上記の点での患者の血液の二酸化炭素含有量すなわち静脈の混合された二酸化炭素含有量(CvCO2)を決定する際に利用できる。最良適合線の式である式(39)は二酸化炭素排出量の項に並べ変え可能であり、以下のようになる。
【0131】
VCO2=m×CaCO2+b (50)
二酸化炭素排出量がなくなる場合、VCO2はゼロであり、式(50)は以下のようになる。
【0132】
0=m×CaCO2+b (51)
上記の式は以下のように並べ変え可能である。
【0133】
CvCO2=−b/m (52)
従って、本発明には、部分的再呼吸技術が行われる際にCvCO2を実質上非侵襲的に決定する方法も含まれている。
【0134】
上述のプロセスが患者の肺毛細管血流量の決定に利用された場合、患者の肺内のシャント流量すなわち患者の心拍出量のうち肺内のシャント部分も、当該分野で既知のように決定される。患者の肺毛細管血流量および肺内のシャント流量から、患者の心拍出量も当該分野で既知のように決定される。
【0135】
回復期や安定化期がない点に加え、本発明の教示を組み込んだ微分フィック技術の期間が相対的に短いことにより、計算が容易になるので、非侵襲の肺毛細管血流量または心拍出量の測定値の報告を、従来から既知の微分フィック技術で可能な頻度よりも高い頻度で実施することも容易になる。例えば、従来の部分的再呼吸技術が用いられる場合、肺毛細管血流量および心拍出量の値は、一般に3分以上の上記方法の周期時間と同程度の頻度で更新されるだけである。一方、本発明の微分フィック法が約30秒継続する再呼吸期および非再呼吸期による部分的再呼吸プロセスとして具体化される際には、患者の肺毛細管血流量または心拍出量は、各期間の完了に続く更新または約30秒毎の更新が可能である。
【0136】
本願では特定の再呼吸プロセスについて開示したが、本願で開示された方法は、患者の肺毛細管血流量または心拍出量を非侵襲的に測定するための他の微分フィック技術と共に用いられることはもちろん、他の再呼吸プロセスと共に利用されてもよい。
【0137】
本発明の方法は、肺毛細管血流量または心拍出量のより頻繁な測定を容易にする。その結果、本発明の方法が用いられると、患者の肺毛細管血流量または心拍出量がより良好に、かつより正確に追跡され得る。
【0138】
前述の記載は多くの特定のものを含むが、それらは本発明の範囲を限定するものではなく、単に幾つかの典型的な実施の形態を説明するものと解釈されるべきである。同様に、本発明の精神や範囲を逸脱しない本発明の他の実施の形態が考案されるであろう。異なる実施の形態の特徴が組み合わされて利用されてもよい。本発明の範囲は、従って、前述の説明ではなく添付の特許請求の範囲および法的な均等物によってのみ示され限定される。特許請求の範囲の趣旨および範囲内にある、本願で開示されたような本発明に対する付加、削除、および修正は、全て特許請求の範囲に含まれる。尚、図面中に示される単位「mmHg」は、1mmHg=133.32Paで換算され得る。
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、患者の肺毛細管血流量 (“PCBF”)や心拍出量 (“CO”)を非侵襲的に決定する方法に関する。特に、本発明はPCBFやCOを決定するいわゆる微分フィック技術に関し、部分的再呼吸技術を含む。
【背景技術】
【0002】
肺毛細管血流量および心拍出量は、危篤の患者について監視される種々の血行力学パラメータの例である。心拍出量とは、肺を通過しガス交換に関係する一般に肺毛細管血流量と呼ばれる血流量と、ガス交換に関係せず一般に肺内シャント流量または静脈混合物と呼ばれる血流量との総量である。
【0003】
従来、肺毛細管血流量および心拍出量は、指標希釈(indicator dilution)などの直接的な侵襲性の技術により測定されてきた。指標希釈には、所定の量の指標を患者の心臓を通過する血流へと導入することと、時間対希釈の曲線を得る為に導入した箇所より下流の血液を分析することとが含まれる。「冷(cold)」食塩水とも呼ばれる室温以下の食塩水が指標として使用される温度希釈が、広く用いられるタイプの指標希釈である。冷食塩水は一般に、端部にサーミスタを有するスワン−ガンツ(Swan−Ganz)カテーテルを介して患者の右心の血流へと導入される。サーミスタは右心を通った後の血液すなわち冷食塩水を導入した箇所より下流の血液の温度を測定する為に用いられる。温度希釈曲線が該データから作成され、上記曲線から患者の心拍出量が導き出せる。しかし、温度希釈および他の指標希釈技術は、上記のようなカテーテルを所定の位置に挿入したり維持したりすることに伴い患者を傷つける恐れがあるのであまり望ましくない。
【0004】
カテーテルが心臓の右側の弁を通過する必要のない侵襲性の低い指標希釈法も開発された。上記の侵襲性の低い方法には、いわゆる「肺通過指標法(transpulmonary indicator methods)」があり、該方法には食道または管にプローブを配置(例えば、ドップラー心エコー図法や経食道心エコー図法などにより)することが含まれる。食道や気管内でプローブを用いることは患者の心臓にカテーテルを導入するより侵襲性が低いように思われるが、それでも患者を傷つける恐れはある。
【0005】
そのため、肺毛細管血流量および心拍出量を決定する為の更に安全で非侵襲的な技術が開発された。上記の非侵襲的技術は一般に、フィックの原理として既知の基本的な生理学の原理のいくつかの形式に基づき、ここでフィックの原理とは、肺での血液による物質の取り込み率または血液からの物質の放出率が、肺を通った血流量と肺の両側での物質の含有量の差との積に等しいというものである。
【0006】
フィックの原理の1つの変形物はいわゆる二酸化炭素フィック方程式である。
Qpcbf=VCO2/(CvCO2−CaCO2) (1)
ここで、Qpcbfは肺毛細管血流量、VCO2は二酸化炭素排出量、CvCO2は患者の静脈血の二酸化炭素含有量、CaCO2は患者の動脈血の二酸化炭素含有量である。
【0007】
一般に、微分形式の二酸化炭素フィック方程式は、患者の肺毛細管血流量または心拍出量を非侵襲的に決定するために使用される。患者の肺毛細管血流量または心拍出量を決定する微分フィック技術は全て、有効な換気(即ち、装置や患者やこれらの組み合わせに関連する死腔により無駄になった換気を除いた全換気)に変化が起きた際の他の測定できるパラメータの変動に基づいて肺毛細管血流量および心拍出量が推定されるという基本的な前提に基づいている。微分形式の二酸化炭素フィック方程式が使用されると、VCO2と、CaCO2と、CvCO2の、「正常な(normal)」呼吸作用と患者の有効な換気の変化が引き起こされている場合との差に基づいて患者の肺毛細管血流量または心拍出量が決定される。以下は微分フィック方程式の例である。
【0008】
【数1】
上記式中、VCO2BおよびVCO2Dはそれぞれ「正常な」呼吸中および患者の有効な換気の変化が引き起こされている場合の患者の二酸化炭素排出量、CvCO2BおよびCvCO2Dは同様の期間中の患者の静脈血における二酸化炭素の含有量、CaCO2BおよびCaCO2Dはそれぞれ「正常な」呼吸中および患者の有効な換気が変化する際の患者の動脈血における二酸化炭素の含有量である。
【0009】
一般に、微分フィック技術はVCO2およびPetCO2の基準測定値(即ち、「正常な」呼吸作用中に得たもの)に依存する。基準データが収集されると、患者の有効な換気の変化が引き起こされる。VCO2およびPetCO2の値が有効な換気の変化中に安定したら、上記パラメータは再度測定される。基準値と患者の有効な換気の変化中に得られた値との差が患者の肺毛細管血流量または心拍出量の計算に用いられる。患者の肺毛細管血流量または心拍出量を継続的に監視し更新する場合、回復期は一般に基準値の復帰に先行する。回復期は再呼吸の開始に先立って基準値の復帰を容易にするように設けられている。殆どの研究者は回復期中のデータを分析用に収集しない。
【0010】
二酸化炭素フィック方程式(1)と微分フィックの二酸化炭素方程式(2)ではそれぞれ患者のVCO2を決定する必要がある。二酸化炭素排出量とは、呼吸作用中に患者により生成された二酸化炭素の正味の体積、または患者の体から排出された二酸化炭素の正味の体積である。従って二酸化炭素排出量は患者の代謝率の指標として有用である。患者のVCO2は、呼吸ごとに、吸気中に吸入された二酸化炭素の体積と呼息中に吐き出された二酸化炭素の体積との差として、非侵襲的に測定される。呼吸中の二酸化炭素排出量は一般に以下のように計算される。
【0011】
【数2】
式中、Vは計測された呼吸の流量であり、fCO2は実質上同時に検出された二酸化炭素信号、即ち、二酸化炭素を含む呼吸ガスの画分、即ち「二酸化炭素の画分(carbon dioxide fraction)」である。
【0012】
再呼吸中は、吐き出される二酸化炭素の体積がわずかに変化し、同時に、通常は無視できる吸入される二酸化炭素の体積が実質上増加する。結果として、再呼吸中に吐き出された二酸化炭素量と吸入された二酸化炭素量との差は実質上小さくなり、これはそのまま患者の二酸化炭素排出量である。
【0013】
患者のCaCO2の決定は、一般に測定された患者のPetCO2に基づいている。PetCO2は、患者の気道内または換気回路内の全ての死腔を補正した後は、一般に患者の肺の肺胞内の二酸化炭素の分圧(PACO2)にほぼ等しいと仮定され、あるいは肺内にシャントがない場合は、患者の動脈血における二酸化炭素の分圧 (PaCO2)にほぼ等しいと仮定される。標準の二酸化炭素の解離曲線を用いる場合、PetCO2の測定値とPaCO2の計算値のどちらかがCaCO2を決定する為に用いられる。
【0014】
患者が濃度の高い二酸化炭素を吸入した場合など、患者の有効な換気に変化が起きた場合、CaCO2より二酸化炭素含有量の高いCvCO2の変化の割合に比べ、CaCO2は相対的に急激に変化する。更に静脈血における二酸化炭素の含有量は相対的にゆっくりと変化するが、これは体が他の組織に二酸化炭素を大量に蓄えているからである。「平均的な(average)」人間の男性の二酸化炭素蓄積量は約0.015から0.040立方メートル(15から40リットル)ほどである。従って、患者の静脈血の二酸化炭素含有量に測定可能な変化(例えば増加)をもたらすためには、患者の有効な換気の変化の継続時間または規模はかなり大きくなくてはならない(例えば、患者は著しい量の二酸化炭素を吸入しなくてはならない)。同様に、患者のVCO2もCvCO2より速く変化する。実際、CvCO2は、CaCO2とVCO2が変化する速度に対して、ゆっくりと変化するので、有効な換気の変化が比較的短期間(例えば、数分以下)にわたって起こる場合、CvCO2は従来の再呼吸操作の完了に掛かる時間にわたって実質上変化しない(即ち、わずかに変化するかまたは変化しない)と仮定できる。伝達時間や減衰の為に再呼吸の影響が遅れるので、従来の再呼吸プロセスは一般に回復期を必要とする。
【0015】
二酸化炭素排出量およびPetCO2は一般に微分フィック技術の双方の時期に測定される。
【0016】
患者の有効な換気の変化を引き起こす既知の微分フィック技術のある例では、患者に吸入されるガスに二酸化炭素が、直接的に(例えば、ボンベや他の外部供給源からの二酸化炭素の添加により)または前に吐き出されたガスを患者に再呼吸させることにより、添加される。用いられる典型的な微分フィック技術は、ジェデオン エイ.(Gedeon, A.)らによるMed. & Biol. Eng. & Comput.第18巻、411〜418頁(1980年)により開示されたもの(以下“Gedeon”とする)であり、換気の多い期間を要し直後に換気の少ない期間が続く。Gedeonにより開示された技術や別のいわゆる「再呼吸(rebreathing)」プロセスが用いられると、患者のVCO2は正常な呼吸中に測定されたレベルより低いレベルまで下がる。VCO2がゼロ近くまで低下している間の再呼吸は、一般に「完全再呼吸(total rebreathing)」と呼ばれる。VCO2をある程度は低下させるが完全には低減しない再呼吸は、一般に「部分的再呼吸(partial rebreathing)」と呼ばれる。上記の再呼吸プロセスは、「完全再呼吸」におけるようにCvCO2を非侵襲的に推定する為に利用されたり、または、「部分的再呼吸」におけるようにCvCO2を知る必要をなくす為に利用されたりする。
【0017】
再呼吸は一般に、二酸化炭素を含有するガス混合物を患者に吸入させる再呼吸回路により行われる。例えば、再呼吸中に死腔から吸入されたりする再呼吸気には、患者により吐き出された空気(即ち、二酸化炭素を多く含む空気)が含まれる。
【0018】
完全再呼吸の間は、患者により吸入されるガスは、実質上全て前の呼吸中に吐き出されたものである。従って、完全再呼吸中、PetCO2は一般に、患者の動脈血における二酸化炭素の分圧(PaCO2)や静脈血における二酸化炭素の分圧(PvCO2)や肺胞内の二酸化炭素の分圧(PACO2)に等しいかこれに密接に関係していると仮定される。完全再呼吸プロセスは、患者の肺毛細管血流量または心拍出量とCvCO2のどちらも再呼吸プロセス中には実質上変化しないという仮定に基づいている。血液中の二酸化炭素の分圧は二酸化炭素解離曲線によって血液中の二酸化炭素の含有量に変換される。ここで血液中の二酸化炭素含有量の変化(CvCO2−CaCO2)は、二酸化炭素解離曲線の傾き(単数または複数)にPetCO2の測定された変化を掛けたものに等しく、再呼吸などの有効な換気の変化によりもたらされる。
【0019】
部分的再呼吸では、患者は「新鮮な(fresh)」ガスと前の呼吸中に吐き出されたガスとの混合物を吸入する。従って患者は、完全再呼吸プロセス中に吸入される二酸化炭素の体積と同じ大きさの二酸化炭素の体積を吸入するわけではない。
【0020】
既知の部分的再呼吸プロセスの一例として、コネティカット州ウォリングフォード所在のノヴァメトリックス・メディカル・システム・インコーポレイテッド(Novametrix Medical Systems Inc.)製のNICO(商標)システムは、60秒の基準期間と、50秒の再呼吸期と、70秒の回復期とを用いる。総合的な再呼吸周期は約3分継続する。別の典型的な部分的再呼吸プロセスが、カペク、ジェイエム(Capek,JM)とロイ、アールジェイ(Roy,RJ)による、部分的なCO2の再呼吸を用いる心拍出量の非侵襲性測定(Noninvasive measurement of cardiac output using partial CO2 rebreathing), IEEE Trans Biomed Eng,1988年、第35巻、653〜661頁に開示されている。上記再呼吸プロセスの全体の周期時間は約3.5分であり、実際の再呼吸期は約30秒継続する。ガマ デ アブレウ、エム(Gama de Abreu,M)他による、部分的二酸化炭素再呼吸、シャントのない肺毛細管血流量を非侵襲的に計測する信頼できる技術(Partial carbon dioxide rebreathing: A reliable technique for noninvasive measurement of nonshunted pulmonary capillary blood flow)、Crit. Care Med. 1997年、第25巻、675〜683頁に開示されている再呼吸プロセスでは、再呼吸期は35秒であり、全体の周期時間は基準期間と回復期とを含め約3分である。
【0021】
従来の部分的再呼吸プロセスは一般に、患者の肺毛細管血流量または心拍出量を決定する為に式(2)などの微分形式の二酸化炭素フィック方程式を用いる。ここで患者の静脈血の二酸化炭素含有量を知る必要がないのは、患者の静脈血の二酸化炭素含有量は測定している期間中には実質上変化しない(即ち、一定)であると仮定されるためである。
【0022】
再度、二酸化炭素解離曲線により、再呼吸プロセスの前とその間における血液中の二酸化炭素含有量の変化を決定する為に、終末呼気二酸化炭素の測定された分圧が用いられる。従って、部分的再呼吸がなされる場合には、肺毛細管血流量または心拍出量を決定する為に以下の式を使用することができる。
【0023】
Q=ΔVCO2/sΔPetCO2 (4)
上記式中、sは二酸化炭素解離曲線の傾きである。
【0024】
部分的再呼吸は患者の有効な換気の変化をもたらす為に最もよく用いられる方法であるが、肺毛細管血流量または心拍出量を計測するために別の微分フィック技術も利用されてきた。そのような微分フィック法には一般に、有効な換気の変化に応じたPetCO2とVCO2の僅かな変化が含まれる。この僅かな変化は、呼吸数、吸気時間および呼気時間のうち少なくとも一方、1回換気量、吸気の休止期間、または患者の呼吸作用の終末呼気陽圧(PEEP)などを調整することによって達成される。
【0025】
多くの既存の微分フィック技術は肺毛細管血流量または心拍出量を確実に非侵襲的に計測するが、上記技術の達成にかかる時間の長さは、特に、患者の肺毛細管血流量または心拍出量の測定値を更に頻繁に更新することが望まれる、一般的な重態や集中治療の状況では、幾分望ましくない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
従って、肺毛細管血流量および心拍出量を高い頻度で非侵襲的に計算する方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明には患者の肺毛細管血流量または心拍出量を非侵襲的に決定する微分フィック技術が含まれる。本発明の微分フィック法には、「正常な」呼吸作用期と、本願で「変化誘発期(change‐inducing phase)」と称される、患者の有効な換気の変化が誘発されている期間との2つの期間を含む。上記の期間の継続時間は既知の微分フィック技術の同等の期間に比べ短縮されている。本発明の微分フィック技術の期間は何度も繰り返し可能、すなわち変動可能で、正常な呼吸作用期と変化誘発期の継続時間は実質上等しい。
【0028】
1つの態様では、本発明の微分フィック技術には、患者の呼吸作用に変化誘発期を生じさせる工程と、患者の呼吸作用を正常に復帰させる工程と、その後で直ちに呼吸作用の変化誘発期を繰り返す工程とが含まれる。該方法が従来の微分フィック技術とは異なるのは、呼吸の二酸化炭素および流量が再度測定される前に患者の呼吸作用を正常または基準レベルに復帰させる典型的な回復期が省略される点である。
【0029】
本発明の教示を組み込んだ微分フィック技術の別の態様では、正常な呼吸作用期および変化誘発期の継続時間が従来の微分フィック技術の対応する期間の長さに比べて短縮されている。例えば、各期間の継続時間は約30秒であり得る。1つの変化誘発期の終わりから新たな変化誘発期すなわち直後の変化誘発期の終わりまでの時間の差として測定される、微分フィック技術の周期全体の長さも、同等の微分フィック技術の従来の周期の継続時間に比べ短縮されている。例えば、本発明の教示に従って行われる微分フィック技術の周期時間は約2分以下であり得る。
【0030】
本発明の教示は、他の微分フィック技術と同様に再呼吸プロセスに利用されてもよい。例えば、患者の呼吸数(respiration rate)の変化、患者の1回換気量の変化、患者の吸気停止の変化、患者の終末呼気陽圧の変化はそれぞれ、患者の肺毛細管血流量または心拍出量を非侵襲的に決定する為に微分形式のフィックの方程式に用いられる得る患者の有効な換気の変化を誘発する。
【0031】
本発明の他の特徴および利点は、次の説明と添付の図面と添付の特許請求の範囲とを考慮することで当業者には明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の教示を組み込んだ方法での呼吸特徴パラメータの測定に用いられる構成要素を示す略図。
【図2A】様々な呼吸のVCO2値がひし形で示され種々の呼吸のPetCO2値が正方形で示されている理想化された二方向再呼吸周期の図。
【図2B】患者の肺毛細管血流量または心拍出量を実質上非侵襲的に決定する為に用いられる、再呼吸の前、中、後の3つのVCO2値と患者の血液の二酸化炭素含有量を示す3つの値とを得る為の二方向再呼吸プロセスの使用状況を示す2次元のプロット。
【図3】二方向再呼吸法の期間の前、中、後それぞれにおける患者のVCO2を示す線グラフ。
【図4】二方向再呼吸法の期間の前、中、後それぞれにおける患者のPetCO2を示す線グラフ。
【図5A】y軸のVCO2とx軸のPetCO2の典型的なプロットを示す2次元の線グラフ。
【図5B】VCO2とPetCO2のデータの修正後のy軸のVCO2とx軸のPetCO2のプロットを示す2次元の線グラフ。
【図6】単一の二方向再呼吸周期中に得られた多数のVCO2値対同数の二酸化炭素含有量値の2次元のプロット。
【図7】図5Aに示される周期と同一の再呼吸周期による修正されたVCO2値および二酸化炭素含有量値を示す典型的な2次元のプロット。
【図8A】典型的な再呼吸技術と呼吸データを修正し呼吸データによる正確な最良適合線を得る為の付随する方法とを示す2次元のプロット。
【図8B】典型的な再呼吸技術と呼吸データを修正し呼吸データによる正確な最良適合線を得る為の付随する方法とを示す2次元のプロット。
【図9A】従来の再呼吸プロセスの再呼吸期および非再呼吸期のタイミングを示す略図。
【図9B】本発明の教示を組み込んだ方法の実施の形態の期間のタイミングを示す略図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図面は本発明を実行する典型的な実施の形態を示す。
【0034】
当該分野では既知であるが、二酸化炭素の緩衝と体内に大量に蓄積された二酸化炭素とにより、患者の有効な換気に変化が起きた場合に、患者のCaCO2が変化する速度に対して、患者のCvCO2は非常にゆっくり変化する。患者のCvCO2等の信号が有効な換気の変化に迅速に反応できないことは信号が「減衰する(damping)」と言われる。
【0035】
図9Aは従来の再呼吸技術の例を図示し、ここでRは再呼吸が行われている期間を示し、Nは非再呼吸期を示し、非再呼吸期では正常な換気が行われている場合もある。従来の知識によると、微分フィック技術は患者のCvCO2に変化を引き起こさない程度には短く、患者のCaCO2に実質的な変化をもたらす程度には長いはずである。上記従来の知識にもかかわらず、患者のCvCO2を著しく増加させずに患者のCaCO2に変化を引き起こすに十分なだけの患者の有効な換気の変化は有用なことが、本願の本発明者により発見された。
【0036】
従って本発明は、既知の再呼吸微分フィック技術や他の微分フィック技術にかかる時間と相対して短い時間で患者の有効な換気の変化を引き起こす方法を含む。本発明の方法の例が図9Bに示されている。図9Bでは、Rは患者の有効な換気の変化が起きている期間を示し、またNは患者の有効な換気の変化はなく正常な換気が起きている期間を示す。有効な換気の変化は、従来から既知の微分フィック技術により患者の有効な換気の変化が引き起こされる頻度に対して高い頻度で起きる。
【0037】
周期のうちで有効な換気の変化が引き起こされている部分の増加に加え、本発明の微分フィック技術の全体周期時間が短縮されることにより、患者のCvCO2の初期増加が起きる場合もある。しかし、測定された患者のCvCO2の上記初期増加の後は、十分に高い頻度または変動速度で行われた患者の有効な換気の更なる変化は、患者のCvCO2の更なる実質的な変化を引き起こさないはずである。従って、本発明の微分フィック技術では、患者のCvCO2は、新たなほぼ定常状態のレベルに到達したら、そのレベルにとどまる。CvCO2は減衰されるので、頻度の高い変化や高い変動はCvCO2をより安定させる。
【0038】
本発明の方法の1つの態様に従って、微分フィック技術には、第1期、すなわち有効な換気の変化が起きる換気状態と、第2期、すなわち「正常な」換気や呼吸や呼吸作用が起きる換気状態とがある。
【0039】
当然、第1の換気状態と第2の換気状態との間の変化は、図9Bに図示するように急な場合もあれば、緩やかな場合もある。例えば、患者の有効な換気の変化が患者の1回換気量の変化である場合、最小の1回換気量と最大の1回換気量との間の変化または変動は正弦曲線(例えば、400cm3(400ml)、410cm3(410ml)、420cm3(420ml)、...580cm3(580ml)、590cm3(590ml)、600cm3(600ml)、590cm3(590ml)、580cm3(580ml)、...420cm3(420ml)、410cm3(410ml)、400cm3(400ml)、410cm3(410ml)、420cm3(420ml)、...)をたどるであろう。
【0040】
本発明の微分フィック技術の第1期と第2期すなわち第1の換気状態と第2の換気状態は実質上同じ時間だけ起きている、つまり、第1期と第2期の継続時間が図9Bに図示するように正確に同一である場合もあれば、どちらか片方の期間がもう一方よりやや長い場合もある。本発明の微分フィック技術の第1期または第2期のどちらかは、第1期と第2期の合計継続時間(combined duration)の約30%程度の場合もあれば、第1期と第2期の合計継続時間の約70%程度の場合もある。例えば、微分フィック技術の全体の周期時間が約1分の場合に、第1期と第2期は約18秒程度継続し、他の期間は約42秒継続する。これに代わって、第1期と第2期はそれぞれ、図9Bに図示するように約30秒程度継続することもある。
【0041】
第1期と第2期すなわち第1の換気状態と第2の換気状態のそれぞれの継続時間は、患者の換気(即ち、1回換気量×頻度)を求めることで患者にとって最適にされる。任意に、第1期と第2期のそれぞれの最適な継続時間を決定する為に、患者の換気に加えて計算された患者の肺毛細管血流量または心拍出量が求められ得る。例えば、心拍出量のレベルが高い場合、各期間の時間を短縮することが所望され得る。
【0042】
第1期と第2期すなわち第1の換気状態と第2の換気状態との間で変動させることの代案としては、肺毛細管血流量または心拍出量を非侵襲的に測定する前に、非侵襲の測定などを容易にする有効な換気の変化の開始に先立ち(例えば待機期間中)、患者の呼吸データが監視される。従って、肺毛細管血流量または心拍出量は、患者の有効な換気の変化(即ち、第1期)を開始させ、患者の有効な換気の変化を起こす前に待機期間中に得られ保管されたデータを用いることによって測定される。
【0043】
本発明の教示に組み込まれている微分フィック技術の周期時間は約2分以下が望ましい。1分未満の周期時間も本発明の範囲内である。
【0044】
本発明の別の態様は、本願の発明者の発見に関連し、肺毛細管血流量または心拍出量を正確かつ非侵襲的に測定する為に患者の有効な換気の変化には必ずしも回復期が続かなくてもよい点である。従って、本発明の教示を組み込む微分フィック技術には、一般に患者の有効な換気の変化の誘発に続く従来の回復期すなわち安定化期がなくてもよい。第1期と第2期は連続的に反復され、一方(例えば、第1期)は他方(例えば、第2期)の完了に直ちに続く。加えて、同時に本発明の微分フィック技術が行われる間、患者の呼吸作用(例えば、流量のレベルと二酸化炭素または酸素のレベル)はおそらく連続的に評価され監視される。代案としては、第1期と第2期とが直ぐに続いて起こる間毎に、1つ以上の断続的な測定値が得られてもよい。
【0045】
本発明の教示に組み込まれている微分フィック技術の例として、部分的再呼吸を用いる場合もある。微分フィック技術の部分的再呼吸の実施の形態では、第1期は再呼吸期であり、第2期は非再呼吸期である。再呼吸では、患者のPetCO2または患者の血液の二酸化炭素含有量の別の指標(例えば、CaCO2や、pCO2や、PetCO2の代用品、例えば最新の吐き出された体積の約5%の平均のpCO2等)と共に、患者のVCO2が測定される。
【0046】
図1は、実質上非侵襲的に患者の呼吸作用を監視しガス混合物の流量および二酸化炭素濃度を計測する典型的な方法を概略的に示す。上記ガス混合物は正常な呼吸作用中または既知の再呼吸手技の間などの患者の呼吸の過程にわたって、患者10により吸入されたり吐き出されたりしたものである。呼吸回路11は、患者10の気道と連絡するように配置されている。既知のタイプの流量センサ12、例えば、コネティカット州ウォリングフォード所在のノヴァメトリックス・メディカル・システムズ・インコーポレテッド(Novametrix Medical Systems Inc.)(以下“Novametrix”とする)製の差圧式呼吸流量センサ(例えば、小児/成人用流量センサ(Pediatric/Adult Flow Sensor)(カタログ番号6717)や新生児用流量センサ(Neonatal Flow Sensor)(カタログ番号6718)などが、換気回路11に沿って配置される。流量センサ12は、他の動作原理に基づき他社から製造または販売されている呼吸流量センサと同様に、換気装置(図示せず)または患者の呼吸マスクやマウスピースに動作可能なように取り付けられ得、患者10の呼吸の流量を測定する為に使用される。
【0047】
二酸化炭素センサ14、例えば、Novametrix製のCAPNOSTAT(登録商標)二酸化炭素センサおよび相補的な気道アダプタ(例えば、小児または成人患者用使い捨て気道アダプタ(Pediatric/Adult Single Patient Use Airway Adapter)(カタログ番号6063)、小児または成人用再利用可能な気道アダプタ(Pediatric/Adult Reusable Airway Adapter)(カタログ番号7007)、新生児または小児用再利用可能な気道アダプタ(Neonatal/Pediatric Reusable Airway Adapter)(カタログ番号7053)が、他社から製造または販売されている本流および支流の二酸化炭素センサと同様に、患者10により吸入されたり吐き出されたりしたガス混合物の二酸化炭素濃度を計測するよう換気回路11に沿って配置される。
【0048】
流量センサ12と二酸化炭素センサ14は、流量モニタ16と二酸化炭素モニタ18にそれぞれ連結され、流量センサ12と二酸化炭素センサ14の各々からの信号を表す流量モニタ16と二酸化炭素モニタ18からのデータがコンピュータ20により検出され、該コンピュータ20のプログラミング(例えば、ソフトウェアによるもの)に従って処理されるように、各々が動作可能なようにコンピュータ20に関連付けられている。望ましくは、流量モニタと二酸化炭素センサからの未加工の流量信号と二酸化炭素信号は、有意の人工物を除去する為にフィルタリングされる。呼吸流量および二酸化炭素圧力が測定されると、呼吸流量および二酸化炭素圧力のデータがコンピュータ20により保管される。
【0049】
患者10の各呼吸すなわち各呼吸周期は、当該技術で既知であるように患者10の呼吸の流量を連続的に監視することなどにより描写される。
【0050】
再呼吸を実施する為に、死腔22すなわち二酸化炭素供給源は、患者10の気道と連通する。非再呼吸期の間、死腔22と患者10の気道との連通は中断される。
【0051】
本発明の教示に従う部分的再呼吸では、二酸化炭素排出量と終末呼気二酸化炭素の分圧が測定される非再呼吸期中に基準が確立される。非再呼吸期にはすぐに再呼吸期が続き、ここで患者のCaCO2の変化が誘発されVCO2とPetCO2が再び測定される。その再呼吸期には、すぐに新たな非再呼吸期が続き、ここでVCO2とPetCO2が再び測定される。
【0052】
本発明の微分フィック技術は、それらの操作およびプロセスの従来の回復期すなわち安定化期を短縮するか完全に無くすよう修正された従来の再呼吸操作およびプロセス、並びに、他の既知である再呼吸操作およびプロセスと共に利用され得る。例えば、本発明の微分フィック技術は、オール(Orr)他の米国特許6,238,351号 (以下「Orrの特許」)に開示されているいわゆる「二方向(bi‐directional)」プロセスや、Orr他のWO01/62148A1(以下「OrrのPCT出願」)に開示されているいわゆる「最良適合(best−fit line)」法と共に利用され得る。
【0053】
二方向再呼吸
二方向再呼吸プロセスでは、Orr特許に開示されているように、呼吸の二酸化炭素と流量は、再呼吸期「前」と再呼吸期「中」と再呼吸期「後」の3つの期間で測定される。本発明の教示が二方向再呼吸法に適用された場合、第1の非再呼吸期中に得られる測定値は第1の再呼吸周期の再呼吸期「前」のデータを提供し、再呼吸期中に得られる測定値は第1の再呼吸周期の再呼吸期「中」のデータを提供し、次の非再呼吸期中に得られる測定値は第1の再呼吸周期の再呼吸期「後」のデータと次の再呼吸周期の再呼吸期「前」のデータの双方を提供する。
【0054】
患者のCvCO2が変化している際に有用な二方向再呼吸技術の第1の別例では、患者の肺毛細管血流量または心拍出量をより正確に決定するのに有用な、CvCO2が変化する割合が概算される。更にCvCO2の変化の割合は、「正常な」呼吸作用と有効な換気の変化との間における患者のCvCO2の変化の割合または量を決定する為に用いられる場合もある。二方向再呼吸技術の第2の変形では、CvCO2の変化の割合を概算することなく、患者の肺毛細管血流量または心拍出量が決定される。二方向再呼吸技術の第2の変形は更に、再呼吸プロセス中にCvCO2または心拍出量のいずれかが変化する際に、患者の肺毛細管血流量または心拍出量を決定するのにも有用である。
【0055】
二方向再呼吸技術で使用される公式の導出
従来の部分的再呼吸技術で利用されている方程式に類似した微分形式の二酸化炭素フィックの方程式は、「正常な」呼吸作用中(B)および再呼吸プロセス中(D)のVCO2およびCvCO2に基づく式であり、以下の通りである。
【0056】
【数3】
または
【0057】
【数4】
同様に、別の微分形式の二酸化炭素フィックの方程式は、再呼吸プロセス中および再呼吸後になされた二酸化炭素排出量および二酸化炭素含有量の測定に基づき、患者の肺毛細管血流量または心拍出量を決定するために用いられるものであり、以下の通りである。
【0058】
【数5】
または
【0059】
【数6】
上記式中、CvCO2Aとは、再呼吸後(A)、すなわち「後」期間の患者のCvCO2である。
【0060】
前出の2つの微分形式の二酸化炭素フィック方程式は組み合わせられて以下の微分形式の二酸化炭素フィック方程式を生成し得る。
【0061】
【数7】
CvCO2は経時的に変化するので、患者の肺毛細管血流量または心拍出量を正確に非侵襲的にフィックを基礎として決定することには、CvCO2が変化する割合を概算することが含まれる。CvCO2の上記変化が再呼吸周期にわたって実質上直線的であり、従って、変化の割合が一定であるという典型的な仮定では、「k」で表されるCvCO2の変化の割合は以下の式で決定される。
【0062】
【数8】
これに代わって、静脈血の二酸化炭素含有量の変化は、指数曲線などのような二酸化炭素含有量の変化の特徴に正当に基づく他の形状の曲線に従うと仮定され得る。その場合、変化の割合もまた指数関数的または多項式の曲線である。別の代案としては、CvCO2の変化の割合は、当該分野で既知である通り、人工のニューラルネットワークまたは動径基底関数(radial basis function)により概算される。
【0063】
CvCO2の変化が時間に対して直線状であると仮定され、従ってCvCO2の変化の割合が一定であると仮定される場合、「前」期間から「中」期間および「中」期間から「後」期間のCvCO2の変化は以下の式で表される。
【0064】
ΔCvCO2BD=k(tB−tD) (11)
および
ΔCvCO2DA=k(tD−tA) (12)
上記式中、tB、tD、tAは、「前」期間、「中」期間、「後」期間がそれぞれ生じている時間を表す。
【0065】
CvCO2の変化の前述の式は、「前」期間、「中」期間、「後」期間のそれぞれにおける患者の呼吸および展開された「Δ」の項を考慮する微分形式の二酸化炭素フィック方程式に代入されて、あらゆるCvCO2の変化を説明するので二方向再呼吸法において有用である以下の形式の二酸化炭素フィック方程式を生成する。
【0066】
【数9】
しかし、本発明の微分フィック技術で起こり得るtD−tB=tA−tDの場合、tA+tB=2・tDであり、kにはゼロが掛けられるのでkを計算する必要はない。従って、第1期と第2期の継続時間が同一である場合などtD−tB=tA−tDの場合には、以下の式が患者の肺毛細管血流量を決定する為に用いられる。
【0067】
【数10】
患者の肺毛細管血流量および心拍出量が「前」期間から「後」期間まで実質上一定のままであるという仮定により、「前」期間および「中」期間にわたる肺毛細管血流量または心拍出量(QBD)を決定し「中」期間および「後」期間にわたる拍出量(QDA)を決定するための微分二酸化炭素フィック方程式は、kすなわちCvCO2の変化の割合を概算するために利用され、以下の通りである。
【0068】
QBD=QDA (15)
従って、
【0069】
【数11】
上記式は以下のように並べ替えられる。
ΔVCO2BD・ΔCvCO2DA−ΔVCO2DA・ΔCvCO2BD=
ΔVCO2BD・ΔCACO2DA−ΔVCO2DA・ΔCACO2BD (17)
次に、ΔCvCO2BD(11)とΔCvCO2DA(12)の式を上述の式(17)に代入して以下の式を生成する。
【0070】
ΔVCO2BD・k(tD−tA)−ΔVCO2DA・k(tB−tD)=
ΔVCO2BD・ΔCACO2DA−ΔVCO2DA・ΔCACO2BD (18)
上記式を並べ替えて、kすなわちVCO2の変化の割合の以下の式を生成する。
【0071】
【数12】
心拍出量の変化中に肺毛細管血液を非侵襲的に決定する二方向再呼吸技術の利用法
上述の式(14)は、二方向再呼吸プロセス中に患者の肺毛細管血流量または心拍出量が変化する場合に、患者の肺毛細管血流量または心拍出量を決定する為に用いられる。このことは、CvCO2は再呼吸中に変化しないと仮定することで示される。
【0072】
CvCO2=CvCO2B=CvCO2D=CvCO2A (20)
フィックの方程式を用いて、VCO2を二方向部分的再呼吸法の前期間、中期間、および後期間のそれぞれのCvCO2とCaCO2またはCACO2との項で表す。
【0073】
VCO2B=QB(CvCO2B−CACO2B) (21)
VCO2D=QD(CvCO2D−CACO2D) (22)
VCO2A=QA(CvCO2A−CACO2A) (23)
式(20)でのCvCO2が再呼吸中に変化しないという仮定に加えて、式(21)〜(23)を式(14)のVCO2B、VCO2D、VCO2Aの項に代入すると、以下の式がもたらされる。
【0074】
【数13】
CvCO2が再呼吸中に変化しないと仮定されている場合は、再呼吸プロセスが一旦停止したことを意味し、CaCO2とCACO2が、再呼吸プロセス前の上記パラメータとほぼ同一のレベル、または再呼吸が行われなかった場合もしくは患者の換気の更なる変化が誘発されなかった場合の上記パラメータと同一のレベルに復帰する。
【0075】
CACO2B=CACO2A=CACO2NR (25)
上記式中、CACO2NRとは、例えば本発明の微分フィック技術の第2の期間中など、患者の換気の変化が誘発されなかった(例えば、再呼吸中に誘発されないままの)期間中の、肺胞周囲の毛細管における二酸化炭素の含有量である。従って、CACO2NRを式(24)のCACO2BとCACO2Aの双方の代わりに代入でき、以下の式がもたらされる。
【0076】
【数14】
特定の項を因数分解することにより、式(26)は以下のように書き直すことができる。
【0077】
【数15】
患者の肺毛細管血流量または心拍出量が経時的に直線的に変化する、あるいは二方向部分的再呼吸法の前期間の肺毛細管血流量または心拍出量と中期間の肺毛細管血流量または心拍出量との差が、中期間の肺毛細管血流量または心拍出量と後期間の肺毛細管血流量または心拍出量との差と等しいと仮定される場合、再呼吸の中期間の患者の肺毛細管血流量または心拍出量は以下の式で表され得る。
【0078】
QD=1/2(QA+QB) (28)
式(28)を式(27)に代入することにより、以下の式が得られる。
【0079】
【数16】
上記式は以下の式と同等である。
Q=1/2(QA+QB) (30)
この式はQDに等しい。
【0080】
よって、患者の肺毛細管血流量または心拍出量が二方向部分的再呼吸法中に一定の割合で変化する場合、患者の心拍出量または肺毛細管血流量は、部分的再呼吸の中期間に測定された際の患者の肺毛細管血流量または心拍出量と等しい。従って、式(13)および(14)は、患者の肺毛細管血流量または心拍出量が変化している間の患者の肺毛細管血流量または心拍出量を正確かつ非侵襲的に決定する為に二方向部分的再呼吸プロセスと共に用いられる。
【0081】
式(13)および(14)で具体化された二方向部分的再呼吸法は、患者のCvCO2と肺毛細管血流量または心拍出量との双方が変化している際に、患者の肺毛細管血流量または心拍出量を非侵襲的に決定する場合にも有用である。
【0082】
二方向再呼吸法の実施においては、図1を参照して説明されるようなシステムが使用される。二方向再呼吸法の実施においては、患者の呼吸が再呼吸期および非再呼吸期の間じゅう監視されて、上記の期間中に患者が吐き出したCO2の量および患者の呼吸作用の流量が検出され、それによってVCO2およびCvCO2が決定され得る。
【0083】
図2Aのプロットは二方向再呼吸中に得られた様々な測定値を図示する。図示されているように、理想化された(即ち、ノイズがない)二方向再呼吸周期の基準呼吸(即ち、再呼吸「前」)と、再呼吸「中」と、回復期すなわち安定化期(即ち、再呼吸「後」)との間に起こるVCO2(ひし形で図示)および二酸化炭素含有量の測定値(例えば、PetCO2、正方形で図示)の典型的な変化である。再呼吸の間、VCO2は約13呼吸から14呼吸のうちに基準値(例えば、約200cm3/分(200ml/分))から再呼吸安定水準期間(例えば、約100cm3/分(100ml/分))へと変化するのに対し、二酸化炭素含有量は基準値(例えば、4666Pa(35mmHg))から安定水準(例えば、約5200Pa(39mmHg))へと変化するのに、より長い時間が掛かり得る。
【0084】
図2Bは、毛細管血流量または心拍出量を概算する為に用いられる、図2Aに図示されているような二方向再呼吸プロセスの再呼吸期の前と中と後それぞれの単一の値である安定水準値を示す2次元のプロットである。
【0085】
患者により吐き出される二酸化炭素の体積と吸入される二酸化炭素の体積の差は、患者のVCO2を概算する為に用いられるものであり、再呼吸前(VCO2B)と再呼吸中(VCO2D)と再呼吸後(VCO2A)とにおいて決定される。図3は、本発明の再呼吸プロセスの前、中、後、の期間それぞれの間のVCO2を示すプロットである。
【0086】
また、患者のPetCO2も「前」、「中」、「後」、の期間それぞれにおいて測定される。(灌流されていない肺胞の)平行な死腔について補正がなされた場合、PetCO2は、肺胞の血液中の二酸化炭素の分圧(PACO2)および動脈血中のCO2の分圧(PaCO2)に等しいと仮定されているので、当該分野で既知のように、終末呼気二酸化炭素分圧測定値と共に二酸化炭素解離曲線を用いて、再呼吸期前と再呼吸期中と再呼吸期後とのそれぞれにおける血液ガスの交換に関係する患者の肺の肺胞の血液中の二酸化炭素の含有量(CACO2)を決定し得る。上記肺胞は一般に「灌流された」肺胞と呼ばれる。CACO2は動脈血中の二酸化炭素の含有量(CaCO2)に等しいと仮定されている。図4は、本発明の再呼吸プロセス前、再呼吸プロセス中、および再呼吸プロセス後の期間中それぞれで測定されたPetCO2を示すプロットである。
【0087】
肺毛細管血流量または心拍出量の決定
CvCO2が変化する場合に患者の肺毛細管血流量または心拍出量を決定するにあたって、「ΔVCO2BD」とも呼ばれる再呼吸前のVCO2と再呼吸中のVCO2との差と、「ΔVCO2DA」とも呼ばれる再呼吸中のVCO2と再呼吸後のVCO2の差とが決定される。「ΔCACO2BD」とも呼ばれる再呼吸前のCACO2と再呼吸中のCACO2との差と、「ΔCACO2DA」とも呼ばれる再呼吸中のCACO2と再呼吸後のCACO2との差も決定される。
【0088】
これらの差は患者の静脈血中の二酸化炭素含有量が変化する割合を計算する為に用いられ得る。患者の静脈血中の二酸化炭素含有量の変化の割合(k)を概算する典型的な式は、変化が経時的に直線的なので変化の割合は一定であることを仮定しており、以下のようになる。
【0089】
【数17】
患者の血液中の二酸化炭素含有量の変化の割合が概算されると、患者の肺毛細管血流量または心拍出量は、以下のように正確に決定される。
【0090】
【数18】
これに代わって、先行の式および、以下の式を用いて決定される患者の肺毛細管血流量または心拍出量から、時間および定数は省略される場合もある。以下の式は、再呼吸中にCvCO2または肺毛細管血流量または心拍出量が変化する際に有用である。
【0091】
【数19】
最良適合法(best−fit line method)
図2Aおよび2Bに示すような、各期間の安定水準での測定値を用いることと対照して、従来の再呼吸プロセスおよび二方向再呼吸プロセスでは、OrrPCT出願の再呼吸法により、VCO2および二酸化炭素含有量のデータが間断なく測定される。その結果、測定値のプロットは、図5Aに示すプロットのような外観を有する。上記プロットは、再呼吸前の測定値に基づく符号100のデータと、再呼吸中の測定値に基づく矢印102に沿ったデータと、再呼吸後の測定値に基づく矢印104に沿ったデータとを有している。上記のデータは、単一の再呼吸周期を用いて得られてもよいし、多数の再呼吸周期の過程にわたって得られてもよいし、1つ以上の不連続の時間間隔で得られてもよいし、呼吸単位で得られてもよい。呼吸単位で得られる場合には、患者の肺毛細管血流量または心拍出量を間断なく更新または監視する為に、データは本発明の方法に従って間断なく測定され、計算され、分析される。
【0092】
最良適合法には更に、二酸化炭素排出量すなわちVCO2の変化と患者の動脈血中の二酸化炭素含有量すなわちCaCO2の変化との比として肺毛細管血流量または心拍出量を計算する為に、微分形式の二酸化炭素フィック方程式を用いることも含まれる。
【0093】
【数20】
これまでに本願で説明したように、CaCO2はPetCO2を決定することにより非侵襲的に概算され得る。PetCO2は、標準的な二酸化炭素解離曲線を用い、当該分野で既知であるように、以下の式を用いてCaCO2に変換され得る。
【0094】
ΔCaCO2=sΔPetCO2 (35)
上記式中、sは二酸化炭素解離曲線のプロットの傾きであり、ΔPetCO2は換気の変化によりもたらされた患者の二酸化炭素の終末呼気分圧における変化である。従って、肺毛細管血流量または心拍出量も以下のように計算できる。
【0095】
Q=ΔVCO2/sΔPetCO2 (36)
患者の肺毛細管血流量または心拍出量を決定する為に、PetCO2やCaCO2の代わりにpCO2のような患者の血液中の二酸化炭素含有量の他の指標が用いられる場合もある。
【0096】
第1(例えば再呼吸)期および第2(例えば非再呼吸)期の双方の期間中に、図1に示されるように、呼吸の二酸化炭素の圧力および流量の測定が一旦なされると、当該分野で既知であるように上記の呼吸の二酸化炭素の圧力および流量のデータを用いて、VCO2および、PetCO2、並びに、効果的な換気の変化によって起こるVCO2およびPetCO2の変化が計算される。
【0097】
計算されたVCO2およびPetCO2のデータは、上記に示した種々のフィックの方程式のいずれかを用いるなどして患者の肺毛細管血流量または心拍出量を決定する為に用いられる。
【0098】
代案として、計算されたVCO2のデータおよびCaCO2のデータ、またはPetCO2やpCO2などの患者の血液中の二酸化炭素含有量の別の指標データを、2次元の(X−Y)線グラフなどの2次元において、y軸に関して測定されるVCO2のデータ点とx軸に関して測定されるPetCO2のデータ点とによって表し、データに最も良く適合する線を識別することにより、患者の肺毛細管血流量または心拍出量を複数の呼吸の過程にわたって決定してもよい。上記の線は本願では最良適合線と呼ばれる。
【0099】
例えば、最良適合線の式は以下の通りである。
y=mx+b (37)
または
【0100】
【数21】
上記式中、yはデータ点のy軸縦座標、xは同一データ点のx軸横座標、mは線の傾き、bは線のオフセット値である。VCO2がy軸に関して測定され、CaCO2がx軸に関して測定された場合は以下のようになる。
【0101】
【数22】
VCO2−CaCO2のデータによる最良適合線の負の傾き(即ち、−1×m)は、患者の肺毛細管血流量または心拍出量と等しくなるであろう。
【0102】
−m=Q (40)
VCO2およびCaCO2のデータの最良適合線は、既知の線形回帰法または2つの変数の間の関係を決定する他の既知の手法を用いて決定されることが望ましい。線形回帰の方法により、効果的な換気の1回以上の変化の過程にわたって得られた多数のVCO2およびCaCO2のデータに基づく正確な肺毛細管血流量または心拍出量の値が得られる。線形回帰が用いられる場合は、データの最良適合線の傾き(m)は以下のように計算される。
【0103】
m=Lxy/Lxx (4l)
また、線のオフセット値(b)は以下の式により計算される。
【0104】
b=Σy/n−m×Σx/n (42)
上記式中、
Lxx=Σx2−(Σx×Σx)/n (43)
Lyy=Σy2−(Σy×Σy)/n (44)
Lxy=Σxy−(Σx×Σy)/n (45)
また、上記式中nはプロットのデータ点の数であり、Σxは全てのx縦座標(即ち、CaCO2含有量)の値の合計であり、Σyは全てのy縦座標(即ち、VCO2)の値の合計であり、Σx2は全てのx縦座標の値の二乗の合計であり、Σy2は全てのy縦座標の値の二乗の合計であり、Σxyは全ての対をなすx縦座標とy縦座標とを互いに掛け合わせた値の合計である。
【0105】
線形回帰が最良適合線の位置および向きの決定に用いられる際には、VCO2およびCaCO2のデータと相互に関連している最良適合線の精度を定量化する相関係数(r)も以下のように計算される。
【0106】
r=(Lxy×Lxy)/(Lyy×Lxx) (46)
代案として、VCO2およびCaCO2のデータと相互に関連している最良適合線の精度を定量化するその他の適合度測定法が用いられてもよい。
【0107】
相関係数の範囲は0から1.0であり、相関係数0とはx縦座標データとy縦座標データとの間に線形相関がないことを示し、相関係数1.0とはx縦座標データとy縦座標データとが完全に線形的に相互に関連している(即ち、VCO2−CaCO2のデータ点すべてが同一の直線上にある)ことを示す。
【0108】
しかし、再呼吸前に測定されたVCO2−CaCO2のデータ点と再呼吸中に測定されたVCO2−CaCO2のデータ点とが同一の直線上にあることはめったにない。その理由の1つは、再呼吸操作中は、VCO2信号は一般にPetCO2信号に先行し、よってCaCO2より約1呼吸分先行する為である。更に、PetCO2信号よりも高い周波数の信号成分に基づいてVCO2は計算される。その結果、ある期間にわたって計算されたVCO2の測定値とCaCO2の測定値とが互いに対照されて2次元の(X−Y)線グラフ上にプロット化される場合、結果は直線というよりはむしろ、図5Aや図6に示されるように一般に円弧状や環状となり、計算されたデータおよび再呼吸の継続時間の量に依存している。更に、VCO2およびCaCO2の測定値は、擬似呼吸中に得られた呼吸流量データおよび二酸化炭素圧力データに基づいて計算される場合もある。上記のデータは肺毛細管血流量または心拍出量の測定値には関係しない。上記の擬似データに基づくVCO2およびCaCO2の計算値は、計算されたVCO2およびCaCO2のデータによる最良適合線についての誤算を招くノイズとして作用する。そのため、最良適合線とデータとの相関係数は一般に1.0より非常に小さい。
【0109】
測定された呼吸流量および二酸化炭素圧力のデータ、即ち計算されたVCO2およびCaCO2のデータは、VCO2のデータおよびCaCO2のデータとそれに対する最良適合線との相関係数を高めるように修正され得る。相関係数を高める為に、線形変換が用いられることが望ましい。線形変換は、VCO2のデータ点の計算を遅延させて同一の呼吸中に行われた測定に基づくCaCO2のデータ点と正確に時期を一致させる為に用いられる。測定または計算されたデータは線形変換を用いることでフィルタリングされることにもなるであろう。
【0110】
VCO2のデータおよびCaCO2のデータとそれらに対する最良適合線との相関係数を高める典型的な方法では、計算されたVCO2またはCaCO2のデータにフィルタが適用される。既知のアナログまたはデジタルの低域フィルタ、高域フィルタ、またはバンドパスフィルタなどが利用でき、上記フィルタには適応フィルタも含まれる。線形または非線形のフィルタも利用できる。VCO2の計算値と遅延したPetCO2/CaCO2の計算値との係数を改善するようにVCO2の計算値をフィルタリングする為に、一次の(単極)無限インパルス応答(IIR)デジタルフィルタが用いられることが望ましい。上記のようなフィルタの式は以下のようになる。
【0111】
VCO2‘[n]=α×VCO2‘[n−1]+(1−α)×VCO2[n] (47)
上記式中、VCO2[n]は一番最近に計算されフィルタリングされていないVCO2のデータ点であり、VCO2‘[n−1]はフィルタリングされた先行のVCO2のデータ点であり、VCO2‘[n]はVCO2[n]に基づきフィルタを用いて得られた新しい「フィルタリングされた(filtered)」値であり、αはフィルタ係数である。フィルタ係数αの範囲は0から1.0である。αの値が大きいほど、一番最近に計算されたデータ点がより厳密にフィルタリングされ、逆に、αの値が小さいほど、一番最近に計算されたデータ点のフィルタリングされる程度が低くなる。αが0の場合は、一番最近に計算されたデータ点はフィルタリングされない。
【0112】
それぞれの患者における解剖学的かつ生理学的な差により、それぞれの患者の最適なフィルタ係数αは異なる。更に、患者に解剖学的かつ生理学的な変化が経時的に起きると、患者の呼吸から計算されたVCO2またはCaCO2の値をフィルタリングする際に用いられる最適なフィルタ係数αも経時的に変化する。最適なフィルタ係数αの選択には任意の既知の最適化法や探索アルゴリズムが利用できる。
【0113】
最適なフィルタ係数が選択される1つの方法の例として、αが最初にデフォルト値(例えば、0.85)に設定され、計算されたVCO2またはCaCO2の値がデフォルトフィルタ係数αに基づいてフィルタリングされる。次に、最良適合線を得る為に線形回帰が行われる。フィルタリングされたばかりのデータにより計算された最良適合線の相関係数が、フィルタリングされていないデータや前のフィルタ係数により計算された直前の最良適合線の相関係数より小さい場合は、α調整値に−1をかけてその修正されたα調整値をフィルタ係数に加えることでフィルタ係数を修正することにより、所定のα調整値(例えば、0.01)が変更される。別の方法では、フィルタ係数αの修正は修正されていない調整値を加えることでなされる。修正されたフィルタ係数に基づきデータをフィルタリングし、データの最良適合線を得て、上記の最良適合線の相関係数と先行の最良適合線の相関係数とを比較し、それに応じてフィルタ係数を調節するプロセスは、所定回数(例えば、50回)繰り返される。患者の肺毛細管血流量または心拍出量を計算する為に、フィルタリングされていないデータおよびフィルタリングされたデータの各セットに基づいた、最大の相関係数を有する最良適合線が選択される。フィルタリングが用いられる場合、好ましくは、VCO2−CaCO2のプロットが図5Bおよび図7に示すように細くなり、それにより最良適合線の位置および向きが確定される精度が高まり、従って、データに基づく肺毛細管血流量または心拍出量の決定の精度も高まる。
【0114】
VCO2およびCaCO2のデータとそれに対する最良適合線との相関係数を高める方法の別の例は、本願では「クラスタ化(clustering)」と呼ばれ、緊密にグループ化されたデータ点を選択することを含む。即ち、選択されたデータ点には所定の範囲内の多数の他のデータ点を有するデータ点が含まれる。クラスタ化されていないデータ点は、おそらく不正確であるか、または疑似呼吸中になされた測定に基づいている。データによる正確な最良適合線は大抵クラスタ化されたデータに基づいているので、クラスタにないデータ点はデータの最良適合線の位置および向きの計算には利用されていない。
【0115】
データ点のクラスタ化には、x縦座標データ(例えば、CaCO2データ)およびy縦座標データ(例えば、VCO2データ)の範囲がほぼ同一となるように、データの正規化または変換が含まれる。上記のような正規化が行われない場合は、最高の範囲を有するデータグループ(例えば、VCO2データまたはCaCO2データ)が支配する、即ち他のデータグループの重要性は低い。
【0116】
データが正規化される典型的な方法には以下の正規化を用いることが含まれる。
【0117】
【数23】
式中、xは未加工の値であり、はプロット中のx軸(例えば、CaCO2) データ全ての平均値であり、σxはプロット中のx軸データ全ての標準偏差である。上記の正規化は全てのx軸の値に適用される。同様の正規化方式が全てのy軸の値にも適用される。
【0118】
正規化されたデータは次に、グループのデータ点の各々に最も近接したデータ点(例えば、VCO2またはCaCO2のデータ点)を所定数(例えば、5個)探すことによってクラスタ化される。分析されたデータ点と所定数の最も近接したデータ点の各々との差は合計され、所定閾値と比較される。差の合計が所定閾値を越えている場合は、分析されたデータ点は廃棄される。もちろん、最も正確なデータを識別して不正確と考えられるデータを無視する為に、他のクラスタ化技術を用いることも本発明の範囲内にある。
【0119】
一旦、クラスタ化がなされると、肺毛細管血流量または心拍出量を正確に決定する為に、正規化の逆数が計算されるか若しくは正規化が取り消される。正規化の逆数が計算される方法の例には、以下の式を用いることが含まれる。
【0120】
【数24】
この正規化の逆数はクラスタ化されたx軸(例えば、CaCO2)値の全てに適用される。同様の逆数正規化方式が、クラスタ化されたy軸データの全てに適用される。
【0121】
クラスタ化は、異常値を判定する多数の既知の技術のうちの1つである。異常値を判定する他の既知の技術も本発明の方法で使用されてよい。
【0122】
不正確と考えられるデータ点を無視することに代わって、またはそれに加えて、データの精度を高めるために、クラスタ化を用いて合成データ点を追加してもよい。合成データ点は、最良適合線と最良適合線が基づいているデータ点との相関係数を高める為に追加され得る。
【0123】
最良適合法におけるデータを修正する他の典型的な方法が、図8Aおよび8Bに示される。データを修正するフィルタリングおよびクラスタ化の方法と同様に、図8Aおよび8Bに示される方法には、最良適合線の位置および向きの正確な決定、従って患者の肺毛細管血流量または心拍出量の正確な決定を容易にする可能性が最も高いデータ点を選択することが含まれる。データを修正するためのこの方法には、肺毛細管血流量の測定可能範囲を表す2本の線に対して、データ点と残りのデータ点の分布とを反復して検査することが含まれる。
【0124】
図8Aおよび8Bに示されるように、線すなわち最小の予想される肺毛細管血流量を表す線110の式(即ち、−mline=PCBFmin)と、線すなわち最大の予想される肺毛細管血流量を表す線120の式(即ち、−mline120=PCBFmax)とが、データ点130で交差するように配置される。例えば、x縦座標がCaCO2に基づく場合、線110はは−0.5の傾きを有し得る。その傾きは最小の予想される肺毛細管血流量が0.5L/minであることを表す。また、線120は−20の傾きを有し得、その傾きは最大の予想される肺毛細管血流量が20L/minであることを表す。もちろん、線110および線120には他の肺毛細管血流量値が利用されてもよい。
【0125】
次に、線110と線120との間に位置する他のデータ点130の数が決定される。線110と線120との間のデータ点130の数が閾値数以上である場合には、分析されたデータ点130は、データによる最良適合線の位置および向きの次の決定の為に保持される。その他の場合には、分析されたデータ点130は廃棄される。分析されたデータ点に対する、線110と線120との間に位置すべきデータ点の保持されるべき閾値数は、所定値であってもよいし、他の手段により決定されてもよい。例えば、データ点130のセット内の各データ点130が、データを修正する方法の本実施の形態に従って評価された場合、閾値数は線110と線120との間に位置するデータ点の中央の数に設定され得る。上記のプロセスは、データ点130のセット内の各データ点130が上記のように評価されるまで繰り返される。図8Aは保持されるデータ点130に対するデータ修正方法の利用状態を示し、図8Bは保持されない他のデータ点130’に対するデータ修正方法の本実施の形態の利用状態を示す。
【0126】
図5A、図5B、図6、図7は、データによる最良適合線の位置および向きを決定する際の精度を高めるデータ修正の結果を示す。図6は上記のような修正を行わない場合の典型的なVCO2対CaCO2のプロットを示し、そのプロットは環状を呈している。対照的に、図7は1つ以上の本発明の方法の本実施の形態がデータの修正に利用された場合のデータの接近を示す。図5Aと図5Bはそれぞれ修正前と修正後のVCO2データおよびPetCO2データのプロットを示す。データ点の接近が増大することにより、それらのデータ点による最良適合線の位置および向きの決定が高い精度で可能となる。
【0127】
データ点すべてが検査されると、最良適合線の位置および向きが残りのクラスタ化されたデータにより決定される。最良適合線の位置および向きの決定には、再び線形回帰が用いられることが望ましい。最良適合線の負の傾き(即ち、−1×m)により肺毛細管血流量の測定値が得られ、上記測定値は心拍出量の決定に用いられる。本願でこれまでに開示したように相関係数が計算され、肺毛細管血流量または心拍出量の決定に用いられるデータの質が示される。相関係数または相関係数に基づく質の測定は、ユーザ(例えば、医師や、看護師や、呼吸器の技術者)に伝達されたり、または出力中に生じた肺毛細管血流量または心拍出量の値に重み付けする、すなわち加重平均値を得る為に利用されたりする。
【0128】
データによる最良適合線や患者の肺毛細管血流量または心拍出量が決定される際の精度を高める為に、測定または計算されたデータについてデータを修正する方法の1つ、またはそれらの組み合わせが実施されてよい。
【0129】
フィルタリングとクラスタ化とを一緒に用いる例として、計算されたVCO2データが2次元の線グラフのy軸データとしてグループ化され、計算されたCaCO2データ点がx軸データ点としてグループ化される。最適な相関係数を有するデータの最良適合線を決定する為に、少なくとも1つのグループのデータ点がフィルタリングされる。更にデータは、計算されたVCO2データおよびCaCO2データに対する最良適合線の相関係数を更に改善する為に、フィルタリングの前後どちらかでクラスタ化される。残りのデータは、データに対する最良適合線、並びに該最良適合線の相関係数を決定する(例えば、線形回帰により)為に用いられる。次に、最良適合線の傾きが計算されて、肺毛細管血流量または心拍出量を決定するために用いられる。相関係数は更に、肺毛細管血流量または心拍出量の決定の信頼性を示したり、あるいは加重平均での肺毛細管血流量または心拍出量の決定に対して特定の加重値を与えたりする為に使用される場合もある。
【0130】
本願でこれまでに開示したように、データの正確な最良適合線の位置および向きが決定されると、患者の肺毛細管血流量は最良適合線の傾きの負数として計算できる。
加えて、最良適合線は患者のCvCO2の概算にも利用できる。完全再呼吸中にVCO2が最終的になくなると、患者の口で測定された二酸化炭素の分圧(pCO2)は患者のCvCO2を表す。部分的再呼吸技術が用いられると、患者のVCO2は基準より低いレベルまで低下するが0にはならない。部分的再呼吸技術を利用して得られたデータによる最良適合線を決定することで、最良適合線はVCO2がゼロまたは事実上ゼロになる点まで延長され得る。それによって、最良適合線は、上記の点での患者の血液の二酸化炭素含有量すなわち静脈の混合された二酸化炭素含有量(CvCO2)を決定する際に利用できる。最良適合線の式である式(39)は二酸化炭素排出量の項に並べ変え可能であり、以下のようになる。
【0131】
VCO2=m×CaCO2+b (50)
二酸化炭素排出量がなくなる場合、VCO2はゼロであり、式(50)は以下のようになる。
【0132】
0=m×CaCO2+b (51)
上記の式は以下のように並べ変え可能である。
【0133】
CvCO2=−b/m (52)
従って、本発明には、部分的再呼吸技術が行われる際にCvCO2を実質上非侵襲的に決定する方法も含まれている。
【0134】
上述のプロセスが患者の肺毛細管血流量の決定に利用された場合、患者の肺内のシャント流量すなわち患者の心拍出量のうち肺内のシャント部分も、当該分野で既知のように決定される。患者の肺毛細管血流量および肺内のシャント流量から、患者の心拍出量も当該分野で既知のように決定される。
【0135】
回復期や安定化期がない点に加え、本発明の教示を組み込んだ微分フィック技術の期間が相対的に短いことにより、計算が容易になるので、非侵襲の肺毛細管血流量または心拍出量の測定値の報告を、従来から既知の微分フィック技術で可能な頻度よりも高い頻度で実施することも容易になる。例えば、従来の部分的再呼吸技術が用いられる場合、肺毛細管血流量および心拍出量の値は、一般に3分以上の上記方法の周期時間と同程度の頻度で更新されるだけである。一方、本発明の微分フィック法が約30秒継続する再呼吸期および非再呼吸期による部分的再呼吸プロセスとして具体化される際には、患者の肺毛細管血流量または心拍出量は、各期間の完了に続く更新または約30秒毎の更新が可能である。
【0136】
本願では特定の再呼吸プロセスについて開示したが、本願で開示された方法は、患者の肺毛細管血流量または心拍出量を非侵襲的に測定するための他の微分フィック技術と共に用いられることはもちろん、他の再呼吸プロセスと共に利用されてもよい。
【0137】
本発明の方法は、肺毛細管血流量または心拍出量のより頻繁な測定を容易にする。その結果、本発明の方法が用いられると、患者の肺毛細管血流量または心拍出量がより良好に、かつより正確に追跡され得る。
【0138】
前述の記載は多くの特定のものを含むが、それらは本発明の範囲を限定するものではなく、単に幾つかの典型的な実施の形態を説明するものと解釈されるべきである。同様に、本発明の精神や範囲を逸脱しない本発明の他の実施の形態が考案されるであろう。異なる実施の形態の特徴が組み合わされて利用されてもよい。本発明の範囲は、従って、前述の説明ではなく添付の特許請求の範囲および法的な均等物によってのみ示され限定される。特許請求の範囲の趣旨および範囲内にある、本願で開示されたような本発明に対する付加、削除、および修正は、全て特許請求の範囲に含まれる。尚、図面中に示される単位「mmHg」は、1mmHg=133.32Paで換算され得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
再呼吸法であって、
非再呼吸期を実施する工程と、
再呼吸期を実施する工程とを本質的に有し、前記再呼吸期は前記非再呼吸期とほぼ同一の継続時間を有する、再呼吸法。
【請求項2】
前記非再呼吸期および前記再呼吸期が、それぞれ約30秒間にわたって実施される、請求項1に記載の再呼吸法。
【請求項3】
前記非再呼吸期が、前記非再呼吸期と前記再呼吸期との合計継続時間の少なくとも約30%の継続時間にわたって実施される、請求項1に記載の再呼吸法。
【請求項4】
前記再呼吸期が、前記非再呼吸期と前記再呼吸期の合計継続時間の少なくとも約30%の継続時間にわたって実施される、請求項1に記載の再呼吸法。
【請求項5】
前記非再呼吸期と前記再呼吸期とを順次繰り返す工程を更に有する、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の再呼吸法。
【請求項6】
前記非再呼吸期および対応する再呼吸期を、長くても約2分の合計継続時間にわたって実施する工程を更に有する、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の再呼吸法。
【請求項7】
前記再呼吸期と前記非再呼吸期のうち少なくとも一方の継続時間を最適化する工程を更に有する、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の再呼吸法。
【請求項8】
前記非再呼吸期を実施する工程が、前記再呼吸期を実施する工程の前に呼吸測定値を得る工程を有する、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の再呼吸法。
【請求項9】
前記非再呼吸期を実施する工程と前記再呼吸期を実施する工程との間における移行が漸進的である、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の再呼吸法。
【請求項10】
前記非再呼吸期および前記再呼吸期の継続時間を最適化する工程を更に有する、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の再呼吸法。
【請求項11】
前記最適化する工程が、患者の換気に基づく、請求項10に記載の再呼吸法。
【請求項1】
再呼吸法であって、
非再呼吸期を実施する工程と、
再呼吸期を実施する工程とを本質的に有し、前記再呼吸期は前記非再呼吸期とほぼ同一の継続時間を有する、再呼吸法。
【請求項2】
前記非再呼吸期および前記再呼吸期が、それぞれ約30秒間にわたって実施される、請求項1に記載の再呼吸法。
【請求項3】
前記非再呼吸期が、前記非再呼吸期と前記再呼吸期との合計継続時間の少なくとも約30%の継続時間にわたって実施される、請求項1に記載の再呼吸法。
【請求項4】
前記再呼吸期が、前記非再呼吸期と前記再呼吸期の合計継続時間の少なくとも約30%の継続時間にわたって実施される、請求項1に記載の再呼吸法。
【請求項5】
前記非再呼吸期と前記再呼吸期とを順次繰り返す工程を更に有する、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の再呼吸法。
【請求項6】
前記非再呼吸期および対応する再呼吸期を、長くても約2分の合計継続時間にわたって実施する工程を更に有する、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の再呼吸法。
【請求項7】
前記再呼吸期と前記非再呼吸期のうち少なくとも一方の継続時間を最適化する工程を更に有する、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の再呼吸法。
【請求項8】
前記非再呼吸期を実施する工程が、前記再呼吸期を実施する工程の前に呼吸測定値を得る工程を有する、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の再呼吸法。
【請求項9】
前記非再呼吸期を実施する工程と前記再呼吸期を実施する工程との間における移行が漸進的である、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の再呼吸法。
【請求項10】
前記非再呼吸期および前記再呼吸期の継続時間を最適化する工程を更に有する、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の再呼吸法。
【請求項11】
前記最適化する工程が、患者の換気に基づく、請求項10に記載の再呼吸法。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【公開番号】特開2010−155111(P2010−155111A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−55657(P2010−55657)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【分割の表示】特願2002−572881(P2002−572881)の分割
【原出願日】平成14年3月20日(2002.3.20)
【出願人】(505338497)アールアイシー・インベストメンツ・エルエルシー (81)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【分割の表示】特願2002−572881(P2002−572881)の分割
【原出願日】平成14年3月20日(2002.3.20)
【出願人】(505338497)アールアイシー・インベストメンツ・エルエルシー (81)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]