説明

実質的に保持された免疫原性を有する死細胞の薬学的組成物

本発明は、トレハロースとともに両親媒性ポリマーであるポリビニルピロリドンを含有する溶液の使用を含む、処理細胞の凍結乾燥のためのプロセスを開示する。さらに、本発明は、癌細胞を処理し、凍結し、凍結乾燥し、そして再構成するプロセスを開示する。免疫調節剤で処理した、死んでいるが無傷の癌性細胞を回収し、これを続いて、癌免疫療法に用いることも可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実質的に保持された免疫原性を有する死んだ全細胞の薬学的組成物、並びに該組成物を調製する方法を公表する。
【背景技術】
【0002】
単一の抗原又はバイオマーカー由来のワクチン調製物は、望ましい/必要とされる防御免疫を提供するには限定された免疫原性しか有さない。広域性防御を達成するには、抗原の組合せ/レパートリーが必要である。こうした組合せは全細胞を使用することによって可能であり、これはそれら細胞が種々の免疫原性マーカー及び抗原を含むためである。
【0003】
癌細胞は、ワクチンとして生存状態で用いられた場合、癌性の増殖を引き起こし得、疾患を生じ得る。死細胞の使用は、安定性が限定されているため、制限されている。死細胞を免疫学的特性及び構造特性を保持しながら安定化させることについて根強い需要がある。生存細胞を保存するいくつかの試みが十分に立証されているが、本発明者らの知る限り、免疫を目的として免疫学的特性を保持した死細胞保存に関しては、入手可能な報告はない。
【0004】
全細胞は、ワクチンとして用いた場合、細胞溶解物と比較して、より優れた免疫反応を生じ、これは細胞表面上の特性評価された或いは特性評価されていない免疫原性エピトープのレパートリーに起因する。
【0005】
ハーデブ・エス・パンダ(Hardev S. Pandha)、ドルセ・クック(Dorthe Cook)、レベッカ・グリーンハル(Rebecca Greenhalgh)及びアンガス・ダルグレイッシュ(Angus Dalgleish)は、ネズミ前立腺癌の免疫療法のための死細胞の使用を記載した(2005、ビージェーユー・インターナショナル(BJU INTERNATIONAL)、95、1336−1343)。放射線照射腫瘍細胞の免疫原性は、自殺遺伝子療法を用いてこれらを生体外で殺した場合、強化された。
【0006】
アジュバントは、それ自体に何ら特異的抗原効果も有さず、免疫系を刺激し、かつワクチンに対する反応を増加させ得る物質である(NCI、定義)。「アジュバント」と言う語は、ラテン語のadiuvareに由来し、この語は助ける又は補助するとの意味を有する。「免疫学的アジュバントとは、特異的ワクチン抗原と組合せて使用された際、抗原特異的免疫反応を加速するか、延長させるか、又は増進するように作用する任意の物質と定義される。」[DNAワクチン:方法及びプロトコル(DNA Vaccines: Methods and Protocols)、ディー・ビー・ローリー(D.B. Lowrie)及びアール・ジー・ワレン(R.G. Whalen)、ヒューマナ・プレス(Humana Press)、2000]。
【0007】
広く用いられる多くの既知のアジュバントがあり、これには、油、アルミニウム塩、及びビロソーム(virosome)、生きた全生物体又は死んだ全生物体、並びに微生物の抽出物が含まれる。これらのアジュバントの使用はまた、抗原(単数又は複数)による免疫刺激を増大させるため、癌ワクチンにおいても推奨される。
【0008】
米国特許第5059518号は、イムノアッセイ及び血液学的測定のための、生存ハイブリドーマ細胞株、組織細胞及び対照細胞の保存法を開示する。該方法は、末梢血リンパ球を単離し、リン酸緩衝アルブミン中に細胞ペレットを再懸濁し、細胞内凍結保存剤であるトレハロースの等張溶液で細胞を処理し、その後、凍結乾燥する工程を含む。凍結乾燥物は等張トレハロース溶液中に再懸濁された。蛍光抗体標識細胞分取装置(Fluorescent antibody labeled Cell Sorter;FACS)を用いて、対照及び凍結乾燥細胞集団において、抗原決定基を性質決定した。
【0009】
米国特許第5045446号は、生存RBCを、その代謝活性を保持したまま保存することを開示する。該特許は、細胞外PVP(分子量10K〜24K)と共に、12.2〜21.7%の濃度のガラクトース/マンノース/キシロース/フルクトース/グルコースなどの細胞内凍結保存剤を使用することを開示する。リン酸緩衝生理食塩水中の25.5%スクロース溶液を用いて、37℃で試料を再水和した。無傷(インタクト;intact)細胞の回収率は、炭水化物である、ガラクトース、マンノース、キシロース、フルクトース、グルコースとともにポリマーを加えた後には、52.9+7.9%であった。凍結乾燥溶液中のトレハロース及びスクロースは、最低限の細胞回収率しか示さなかった。炭水化物(優先順に、スクロース、トレハロース、マンノース、グルコース)は、再構成媒体中、3.6%の濃度で用いられた。
【0010】
米国特許第5648206号は、代謝活性が保持された生存RBCの保存を明らかにする。該特許は、分子量10K〜24Kの細胞外凍結保存剤PVPと共に、12.2〜21.7%の濃度のガラクトース/マンノース/キシロース/フルクトース/グルコースなどの細胞内凍結保存剤を使用することを開示する。凍結乾燥媒体は、7%〜37.5%の濃度で単糖(キシロース、グルコース、マンノース、リボース、フルクトース)を含有した。約1K〜360Kの分子量を有する細胞外凍結保存剤(PVP/デキストラン)が、約0.7%の濃度で使用された。該特許は、トレハロース及びPVPを凍結乾燥溶液中で一緒に用いた際、最低限の細胞回収しか示さなかったと主張しているが、PVPと組み合わされたトレハロースのデータは開示されていない。
【0011】
米国特許第5425951号は、代謝活性を保持した生存RBCの保存を開示する。該特許は、少なくとも1%の濃度で炭水化物(グルコース/マンノース;トレハロース/スクロース)、及び約20重量%の濃度で1K〜約360Kの分子量を有するポリマー(PVP)を含有する水溶液で細胞を処理する工程を含む、凍結乾燥細胞を再構成する方法を記載する。
【0012】
米国特許出願第2005/0084481 A1号は、哺乳動物及び脊椎動物の細胞、例えばP2X7受容体を発現しているマクロファージ及び造血幹細胞の保存を開示する。
【0013】
欧州特許第EP0444159B1号は、イムノアッセイ及び他の血液学的測定のための、哺乳動物細胞、ハイブリドーマ細胞株、組織細胞の保存を開示する。10%トレハロースを含有する等張液が、哺乳動物細胞表面上のタンパク質マーカーを保存するために用いられた。該工程は、リン酸緩衝アルブミン中に哺乳動物細胞を再懸濁し、そして遠心分離した後に得られる、生じたペレットを、10%トレハロースの等張溶液中、周囲温度でおよそ30分間インキュベートする工程を含む。この後、約−70℃でおよそ1時間、ゆっくりと冷却した。
【0014】
緩慢凍結プロセスの間、細胞の余分な水がまず凍結し、そして塩が残り、これが死細胞の細胞膜を損傷する。生存細胞の場合(例えば細胞培養の間)、緩慢凍結が推奨されている(バイオケミカ・エト・バイオフィジカ・アクタ(Biochimica et Biophysica Acta(BBA))−生体膜(Biomembranes). 第1768巻, 第3号, 2007年3月, 728−736ページ)。
【0015】
PCT公報WO97/04801(PCT/US96/12251)は、凍結保存剤としてのスクロース及びトレハロースの使用を開示する。該発明は、抗HER2抗体を包含する。配合物のpHを維持するため、ヒスチジン/コハク酸緩衝液に基づく凍結乾燥前配合物が開発された。ポリソルベートを凍結乾燥前配合物に添加して、再構成されるタンパク質の凝集及び粒子の形成を減少させた。該特許はまた、再構成希釈液中のベンジルアルコール又はフェノールアルコールなどの芳香族アルコールの使用も開示する。トレハロースに基づく凍結保存緩衝液は、40℃で2週間、タンパク質の安定化を補助することが見出されており、そしてトレハロース濃度を増加させると、安定性は30℃で1年間に増加した。トレハロース及びスクロースの添加はまた、上記の保存条件で、凝集を防止した。
【0016】
米国特許第5,759,774号は、乾燥細胞又は凍結乾燥細胞を用いて、循環抗体種を検出する方法を開示する。該特許は、哺乳動物細胞、特にRBC、リンパ球、血小板、リポソーム及びヘモゾーム(hemosome)の保存を開示する。当該発明者らは、凍結乾燥保存剤として炭水化物−ポリマー溶液を用い、ここで炭水化物は、キシロース、マンノース、グルコース、リボース、マンノース又はフルクトースであってもよく、そしてポリマーは、PVP、HES又はデキストランであってもよい。単糖のペントース及びヘキソースの濃度は7〜37.5%の範囲である。当該発明者らはまた、グルタチオン、イノシン、アデニン、ニコチン酸、グルタミン、MgCl2.6H2O、デキストロース、PVP及びHESの添加を通じて凍結乾燥緩衝液組成物を修正し、さらにATP、KH2PO4、Na2HPO4及びPVPを添加することによって、再構成緩衝液構成要素を修正した。
【0017】
欧州特許第EP90906036号は、哺乳動物末梢血細胞、培養細胞、ハイブリドーマ細胞株又は組織細胞の凍結乾燥法を開示する。工程は、遠心分離後、等張トレハロース溶液中で細胞ペレットをインキュベートし、その後、凍結乾燥前に細胞懸濁物を−70℃での凍結に供する工程を含む。凍結乾燥細胞は、蒸留水中で再構成された。
【0018】
PCT公報WO92/14359(PCT/US92/00782)は、哺乳動物精細胞の凍結乾燥法を記載する。該特許は、約0.1〜2.6Mの濃度の、単糖、好ましくはグルコース、及び好ましくは1K〜350kの範囲の分子量を有するポリマー(又はポリマー混合物)の使用を開示する。好ましいポリマーは、PVP、次がデキストラン、HES及びポロキサマーであった。凍結乾燥緩衝液として約7.0〜7.4の範囲のpHを有するPBSが用いられた。示唆される再構成媒体は、ポリマー(MW 15K)並びにグルコース及びアデニンを含有するPBSで構成された。ATP及びNADなどの典型的な細胞代謝物が、グルコースに加えて、キシロース、グルコース、リボース、マンノース及びフルクトース(1M濃度)などの単糖とともに添加された。
【0019】
米国特許出願第20080057040号は、幹細胞の凍結保存を開示する。米国特許第5071741号は、細胞性物質(ウシ大動脈内皮由来細胞株BFAクローン1及びネズミ膵臓由来のランゲルハンス島)の凍結保存において、非浸透性剤としてのアガロース及びアルギン酸、並びに浸透性剤としてのグリセロール及びDMSO(1M濃度)の使用を開示する。
【0020】
米国特許第4004975号は、全血からヒト白血球を単離し、そして−80℃で凍結保存する方法を開示する。該特許は、細胞内凍結保存剤(5%DMSO)及び細胞外凍結保存剤(4%HES)の組合せを示唆する。
【0021】
PCT公報WO92/14360(PCTUS92/00650)は、有核非哺乳動物細胞及び血液物質の混合物の凍結乾燥及び再構成の方法を記載する。該方法は、アナプラズマ・マジナーレ(Anaplasma Marginale)(トキソプラズマ属(Toxoplasma))に対するワクチンを開発する目的で発明された。試料凍結乾燥物は長期間保存可能であるため、該プロセスは、アナプラズマ属種(セントラーレ(centrale))に感染した血液試料の連続供給を合理化する。凍結乾燥混合物は、少なくとも2つの生体適合両親媒性ポリマーとともに単糖(ヘキソース及びペントース)を含んだ。単糖は、キシロース、グルコース、リボース、マンノース及びフルクトースからなる群から選択された。再構成緩衝液は、最終濃度0.7%のポリマーを含有した。
【0022】
生存細胞膜浸透圧は維持されており、そして保存又は凍結保存のため、水和の水を置き換える細胞内凍結保存剤を内在化させるための孔を開ける、何らかの膜孔開口剤/ATPが必要である(US2005/0084481 A1)。
【0023】
生存細胞の保存中は、それらを代謝的に活性であるよう維持するため、何らかの炭素/ATP供給源(例えばアデニン)を提供することもまた望ましく(ジョン・ジー・ボースと(John G. Baust)によるアドバンス・イン・バイオプリザベーション(Advances in Biopreservation))、逆に、適切な水分含量を維持し、最小限に代謝的に活性であるように維持して、後に生き返らせることが可能であるようにすることもまた望ましい(米国特許出願第20100297231号)。
【0024】
生存細胞保存の場合、凍結保存剤の添加による微小環境の変化に反応した結果として、表面タンパク質が変動する可能性がある。しかし、死細胞は、タンパク質合成機構が不全である/損なわれているため、変化した微小環境条件に最小限にしか(又はまったく)反応しない可能性もある(アニュアル・レビュー・オブ・バイオフィジックス・アンド・バイオエンジニアリング(Annual Review of Biophysics and Bioengineering.)Vol. 3: 341−363)。
【0025】
死細胞の完全性及び免疫原性を保存することが望ましい。死細胞の形態及び無傷性(intactness)の保存は、免疫機構に関連した療法(インフェクション・アンド・イミュニティ(Infect Immun.)1978年7月; 21(1): 348.)及び診断法(ダイアグノスティック・マイクロバイオロジー・アンド・インフェクシャス・ディジーズ(Diagnostic Microbiology and Infectious Disease)第62巻, 第2号, 2008年10月, 133−141ページ)の開発を含む多様な目的のために有用である。
【0026】
細胞膜に対する浸透圧の直接的な影響は死細胞に関して確認されており、そこではエンドサイトーシス小胞形成、膜流動性変化、及び膜相転移温度の増加が観察されている。脂質相分離及び膜融合を開始すると考えられている、この膜相転移は、脱水された死細胞の活性に直接影響し得る。また、相転移中、異なる相が共存するため、膜浸透性が増加し、そして細胞は再水和中に細胞内容物を漏らすようになり、これが無傷細胞数の減少を導くであろう。
【0027】
生存細胞の保存に関して知られる方法は、以下の理由のため、死細胞を保存する場合に拡張することが不可能である
1.死細胞では膜等張性/可塑性が弱まり、そしてしたがって凍結乾燥中に破裂し得る。
2.死細胞は凝集物を形成し、これは部分的に、損傷を受けた死細胞の細胞外DNAが存在することに起因する。
3.死細胞の細胞内小器官の膜完全性は損なわれ、そしてしたがって、細胞内細胞構造を維持することは非常に困難である[細胞死の形態学的特徴(Morphological Features of Cell Death.)、ニュース・イン・フィシオロジカル・サイエンス(News in Physiological Sciences)、(2004) Vol. 19, No. 3, 124−128.]
4.死細胞は異なるエンドサイトーシス小胞形成;膜流動性変化及び膜相転移温度を有する。
5.死細胞は、タンパク質合成機構が不全である/損なわれているため、変化した微小環境条件に最小限にしか(又はまったく)反応しない。
【0028】
本明細書に定義するような細胞の形態とは、細胞のサイズ、形状及び構造に関する。
【発明の概要】
【0029】
本発明は死細胞の保存方法に関する。該方法は、凍結乾燥、並びにその後に再構成を伴い、細胞の形態、完全性及び免疫原性は、長期保存に際しても保持される。さらに、免疫原性を保持した死細胞を含む薬学的組成物を開示する。本組成物はワクチンとしての応用が見出される。該組成物は、任意に、死細胞の免疫原性を高める1以上のアジュバントを含有する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】凍結乾燥細胞の細胞サイズ及び粒度(granularity)の決定。前方散乱(Forward Scatter)により細胞サイズが測定され、側方散乱(Side Scatter)により粒度の量が測定される。
【図2A】細胞膜親液性染色剤PKH26色素を用いた細胞完全性の決定。
【図2B】細胞膜親液性染色剤PKH26色素を用いた細胞完全性の決定。
【図3】バックグラウンド蛍光を決定するためのPKH26色素で染色されない凍結乾燥細胞。
【図4】無傷の細胞膜及び核膜を有する細胞
【図5】凍結乾燥され、次いで再構成された細胞の免疫原性
【図6】蛍光顕微鏡下での表面マーカー染色
【発明を実施するための形態】
【0031】
驚くべきことに、死細胞、少なくとも1つの細胞内凍結保存剤、少なくとも1つの細胞外凍結保存剤及び賦形剤を含む、実質的に保持された免疫原特性を有する死細胞の安定組成物を調製出来ることを見出した。
【0032】
細胞内凍結保存剤は、単糖及び二糖等の炭水化物から選択される。驚くべきことに、無傷細胞の回収を最大にするための細胞内凍結保存剤として、トレハロースは、最高の細胞回収率を生じることが見出された。細胞内凍結保存剤として用いられる炭水化物は、1〜10%W/Vの濃度である。
【0033】
細胞外凍結保存剤は、例えばヒドロキシエチルデンプン(HES)、デキストラン、並びにポリビニルピロリドン(PVP)及びポリソルベート等の両親媒性物質から選択される。
【0034】
驚くべきことに、両親媒性ポリマーであるポリビニルピロリドン(PVP)は、細胞外凍結保存剤として、無傷細胞回収率を向上させることが見出された。細胞外凍結保存剤として用いられるPVPは、0.1〜5%W/Vの濃度である。用いられるPVPの分子量は、30〜50kDaの範囲である。
【0035】
驚くべきことに、両親媒性ポリマーであるヒドロキシエチルデンプン(HES)は、細胞外凍結保存剤として、無傷細胞の回収率を向上させることが見出された。細胞外凍結保存剤として用いられるHESは、0.1〜5%W/Vの濃度である。用いられるHESの分子量は、30〜50kDaの範囲である。
【0036】
驚くべきことに、両親媒性ポリマーであるデキストランは、細胞外凍結保存剤として、無傷細胞の回収率を向上させることが見出された。細胞外凍結保存剤として用いられるデキストランは、0.1〜5%W/Vの濃度である。用いられるデキストランの分子量は、好ましくは30〜50kDaの範囲である。
【0037】
驚くべきことに、両親媒性ポリマーであるポリソルベートは、細胞外凍結保存剤として、無傷細胞の回収率を向上させることが見出された。細胞外凍結保存剤として用いられるポリソルベートは、0.1〜5%W/Vの濃度である。細胞外凍結保存剤として用いられる両親媒性ポリマーのポリソルベートは、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート65、ポリソルベート80から選択され、好ましくはポリソルベート80である。
【0038】
本発明によれば、実質的に保持された免疫原特性を有する死細胞の安定組成物を調製するプロセスは、以下の工程による:
1.死細胞を細胞内凍結保存剤で処理する工程。
2.死細胞を細胞外凍結保存剤で処理する工程。
3.凍結乾燥前に急速冷却(snap chilling) して配合物を凍結する工程。
4.処理した死細胞を凍結乾燥する工程。
5.(死細胞の)凍結乾燥物を再構成する工程。
6.細胞完全性の保持を評価する工程。
7.保存法の有効性を評価する工程。
8.抗原性/免疫原性の特性保持を評価する工程。
【0039】
構成成分がリン酸二水素カリウム(0.20g/L);塩化カリウム(0.20g/L);塩化ナトリウム(8.00g/L)及び無水リン酸一水素ナトリウム(1.15g/L)である、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS−塩化カルシウム及び塩化マグネシウムを含まない)によって、凍結乾燥溶液をpH7.4に緩衝した。凍結乾燥緩衝液は、非還元二糖、好ましくはトレハロース約5%重量/体積の最終濃度、及びポリマー、好ましくはポリビニルピロリドン(分子量44K)約1%重量/体積の最終濃度を含有する。
【0040】
死細胞組成物の長期の保存に関しても、形態学的保持性、完全性、及び免疫原性の保持性を以下の通り解析した:
1.形態学的プロファイリング(サイズ):−フローサイトメトリー。細胞膜の完全性に関してはPKH26。細胞膜及び核膜の完全性に関しては、ヘマトキシリン及びエオジン染色。
2.物理化学的プロファイリング:−細胞死の確認はTOPRO3ヨード色素を用いる。
3.粒度アッセイ:−FACS FSC/SSC。
4.細胞遺伝学的解析。
5.DNAプロファイリング:FACS DNA容量解析
6.DNA完全性を評価するためのDNA抽出、並びにアガロースゲル電気泳動。
7.免疫表現型決定:−HLADR分子。
8.免疫学的プロファイリング:−CD4+、細胞障害性決定因子:パーフォリン及びグランザイムを用いたCD8+細胞及びNK細胞の細胞障害性評価。
9.機能アッセイ:−死んだ標的細胞を同定/確認及び計数するための、PKH26及びTOPRO3ヨードを用いたFACSエフェクター機能アッセイ。IFNγ及びIL−2産生脾臓細胞の定量。PKH26を用いたリンパ球増殖アッセイ。
【実施例】
【0041】
実施例1:細胞外凍結保存剤
癌細胞107細胞/mLをマイコバクテリウムw(Mycobacterium w)(Mw)で処理した。トリパンブルー色素による除外原理を用いて、細胞死パーセントを決定した。1500rpmで10分間遠心分離することによって、細胞をペレットにした。上清を廃棄し、そして対照ペレットをDPBS中に再懸濁した。総体積を各1mLのアリコートに分配し、そして各アリコート中の細胞を計数した。処理群ペレットを、1%PVP(w/v)を含有する凍結乾燥緩衝溶液中に再懸濁した。各アリコートを、液体窒素(−100℃未満)中で急速冷却(snap chilling)した後、凍結乾燥に供した。凍結乾燥物の再構成後に概算される処理群の無傷細胞のパーセント回収率は、19.125±3.275であった。
【0042】
実施例2:細胞内凍結保存剤
癌細胞107細胞/mLを取り、そしてMwで処理した。トリパンブルー色素による除外原理を使用して、細胞死パーセントを決定した。1500rpmで10分間遠心分離することによって、細胞をペレットにした。上清を廃棄し、そして対照群細胞ペレットをDPBS中に再懸濁した。総体積を各1mLのアリコートに分配し、そして各アリコート中の細胞を計数した。処理群細胞ペレットを、5%トレハロースw/vを含有する凍結乾燥緩衝溶液中に再懸濁した。各アリコートを、液体窒素(−100℃未満)中で急速冷却(snap chilling)した後、凍結乾燥に供した。DPBS中での凍結乾燥物の再構成に際し、処理群の無傷細胞のパーセント回収率は、血球計算板を用いて概算され、15.27±0.64であった。
【0043】
実施例3:凍結保存剤活性のための界面活性剤ポリマー
癌細胞107細胞/mLを取り、そしてMwで処理した。トリパンブルー除外アッセイを用いて、パーセント細胞生存率を決定した。1500rpmで10分間遠心分離することによって、細胞をペレットにした。上清を廃棄し、そして対照群細胞ペレットをDPBS中に再懸濁した。総体積を各1mLのアリコートに分配し、そして各アリコート中の細胞を計数した。処理群細胞ペレットを、0.05%ポリソルベート80(v/v)を含有する凍結乾燥緩衝液中に再懸濁した。各アリコートを、液体窒素(−100℃未満)中で急速冷却(snap chilling)した後、凍結乾燥に供した。DPBS中での凍結乾燥物の再構成に際し、処理群の無傷細胞のパーセント回収率は、血球計算板を用いて概算され、約0.9であった。
【0044】
実施例4:細胞外凍結保存剤処理後に細胞内凍結保存剤処理
癌細胞107細胞/mLをMwで処理した。トリパンブルー色素による除外原理を用いて、細胞死パーセントを決定した。1500rpmで10分間遠心分離することによって、細胞をペレットにした。上清を廃棄し、そして対照群細胞ペレットをDPBS中に再懸濁した。総体積を各1mLのアリコートに分配し、そして各アリコート中の細胞を計数した。処理群細胞ペレットを、1%w/vの最終濃度のPVP(DPBS中)中に再懸濁した。細胞懸濁物を37℃で15分間インキュベートした。続いて、最終濃度5%w/v(DPBS中)でトレハロースを添加した後、37℃で15分間インキュベートした。総体積を各1mLのアリコートに分配し、そして各アリコート中の細胞を計数した。凍結乾燥前に、各アリコートを液体窒素(−100℃未満)中で急速冷却(snap chilling)に供した。DPBS中での凍結乾燥物の再構成に際し、処理群の無傷細胞のパーセント回収率は、28.08±3.63であった。
【0045】
実施例5:細胞内凍結保存剤処理後に細胞外凍結保存剤処理
癌細胞107細胞/mLをMwで処理した。トリパンブルー除外アッセイを用いて、パーセント細胞生存率を決定した。1500rpmで10分間遠心分離することによって、細胞をペレットにした。上清を廃棄し、そして対照細胞ペレットをDPBS中に再懸濁した。総体積を各1mLのアリコートに分配し、そして各アリコート中の細胞を計数した。処理群細胞ペレットを5%w/vの最終濃度のトレハロース(DPBS中)中に再懸濁した後、37℃で15分間インキュベートした。続いて、最終濃度1%w/vでPVPを添加し、そして細胞懸濁物を37℃で15分間インキュベートした。総体積を各1mLのアリコートに分配し、そして各アリコート中の細胞を計数した。凍結乾燥前に、すべてのアリコートを液体窒素(−100℃未満)中で急速冷却(snap chilling)に供した。処理群の無傷細胞のパーセント回収率は、55.61±4.35であった。
【0046】
実施例6:細胞内凍結保存剤後に細胞外凍結保存剤
癌細胞107細胞/mLをMwで処理した。トリパンブルー色素による除外原理を用いて、細胞死パーセントを決定した。1500rpmで10分間遠心分離することによって、細胞をペレットにした。上清を廃棄し、そして対照群細胞ペレットをDPBS中に再懸濁した。総体積を各1mLのアリコートに分配し、そして各アリコート中の細胞を計数した。処理群細胞ペレットを5%w/vの最終濃度のデキストロース(DPBS中)中に再懸濁した後、37℃で15分間インキュベートした。続いて、最終濃度1%w/vでHESを添加し、そして細胞懸濁物を37℃で15分間インキュベートした。総体積を各1mLのアリコートに分配し、そして各アリコート中の細胞を計数した。凍結乾燥前に、すべてのアリコートを液体窒素(−100℃未満)中で急速冷却(snap chilling)に供した。凍結乾燥後、処理群の無傷細胞のパーセント回収率は、〜54.88であったが、細胞形態が乱されていた。
【0047】
実施例7:細胞内凍結保存剤後に細胞外凍結保存剤
癌細胞107細胞/mLをMwで処理した。トリパンブルー除外アッセイを用いて、パーセント細胞生存率を決定した。1500rpmで10分間遠心分離することによって、細胞をペレットにした。上清を廃棄し、そして対照群細胞ペレットをDPBS中に再懸濁した。総体積を各1mLのアリコートに分配し、そして各アリコート中の細胞を計数した。処理群細胞ペレットを5%w/vの最終濃度のグリセロール(DPBS中)中に再懸濁した後、37℃で15分間インキュベートした。続いて、最終濃度1%w/vでHESを添加し、そして細胞懸濁物を37℃で15分間インキュベートした。総体積を各1mLのアリコートに分配し、そして凍結乾燥前に、各アリコート中の細胞を計数した。すべてのアリコートを液体窒素(−100℃未満)中で急速冷却(snap chilling)に供した。凍結乾燥後、細胞形態が乱されていたが、処理群の無傷細胞のパーセント回収率は、〜46.19であった。
【0048】
実施例8:細胞内凍結保存剤後に細胞外凍結保存剤
癌細胞107細胞/mLをMwで処理した。トリパンブルー色素による排除原理を用いて、細胞死パーセントを決定した。1500rpmで10分間遠心分離することによって、細胞をペレットにした。上清を廃棄し、そして対照群細胞ペレットをDPBS中に再懸濁した。総体積を各1mLのアリコートに分配し、そして各アリコート中の細胞を計数した。処理群細胞ペレットを5%w/vの最終濃度のスクロース(DPBS中)中に再懸濁した後、37℃で15分間インキュベートした。続いて、最終濃度1%w/vでHESを添加し、そして細胞懸濁物を37℃で15分間インキュベートした。総体積を各1mLのアリコートに分配し、そして凍結乾燥前に、各アリコート中の細胞を計数した。すべてのアリコートを液体窒素(−100℃未満)中で急速冷却(snap chilling)に供した。凍結乾燥後、処理群の無傷細胞のパーセント回収率は、〜47.25であったが、細胞形態が乱されていた。
【0049】
実施例9:細胞外凍結保存剤後に添加剤と共に細胞内凍結保存剤
癌細胞107細胞/mLをMwで処理した。トリパンブルー除外アッセイを用いて、パーセント細胞生存率を決定した。1500rpmで10分間遠心分離することによって、細胞をペレットにした。上清を廃棄し、そして対照群細胞ペレットをDPBS中に再懸濁した。総体積を各1mLのアリコートに分配し、そして各アリコート中の細胞を計数した。処理群細胞ペレットを1%w/vの最終濃度のPVP(DPBS中)中に再懸濁し、その後、37℃で15分間インキュベートした。続いて、最終濃度5%w/vのトレハロースを添加し、その後、最終濃度1%で添加剤(ニコチン酸0.75mM;グルタミン0.75mM;MgCl2 0.49mM及びヒスチジン5mM)を添加した。細胞懸濁物を37℃で15分間インキュベートした。凍結乾燥前に、各アリコート中の細胞を計数した。すべてのアリコートを液体窒素(−100℃未満)中で急速冷却(snap chilling)に供した。凍結乾燥後、処理群の無傷細胞のパーセント回収率は、〜11.0であった。
【0050】
実施例10:細胞内凍結保存剤後に添加物と共に細胞外凍結保存剤
癌細胞107細胞/mLをMwで処理した。トリパンブルー色素による除外原理を用いて、細胞死パーセントを決定した。1500rpmで10分間遠心分離することによって、細胞をペレットにした。上清を廃棄し、そして対照群細胞ペレットをDPBS中に再懸濁した。総体積を各1mLのアリコートに分配し、そして各アリコート中の細胞を計数した。処理群細胞ペレットを5%w/vの最終濃度のトレハロース(DPBS中)中に再懸濁した後、37℃で15分間インキュベートした。続いて、最終濃度1%w/vでPVPを添加し、その後、最終濃度1%の添加剤(ニコチン酸0.75mM;グルタミン0.75mM;MgCl2 0.49mM及びヒスチジン5mM)を添加した。細胞懸濁物を37℃で15分間インキュベートした。凍結乾燥前に、各アリコート中の細胞を計数した。すべてのアリコートを液体窒素中で急速冷却(snap chilling)に供した。凍結乾燥後、処理群の無傷細胞のパーセント回収率は、〜48.9であった。
【0051】
実施例11:凍結法
1×107細胞/mLをMwで処理した。トリパンブルー色素による除外原理を用いた細胞死パーセントは、60%であった。5つのアリコートを作製し、そして1500rpmで10分間遠心分離することによって、細胞をペレットにした。得られた5つの細胞ペレットのうち、各1つを100μLの50×トレハロース中に再懸濁し、その後、37℃で15分間インキュベートした。DPBSで最終体積を1mLにした。各アリコートから200μLを、適宜ラベルしたガラスバイアル中に分配し、そして各アリコート中の細胞を計数した。すべてのアリコートを、緩慢凍結、すなわち8℃で1時間、4℃で2時間、−20℃4時間、そして最後に−70℃で8時間に供した。1つの凍結対照を除き、残りすべてのアリコートをおよそ48時間凍結乾燥に供した。凍結乾燥物をDPBS200μLで再構成し、そして血球計算板を用いて、無傷細胞の総数を計数した。凍結対照は13%の無傷細胞を生じ、一方、凍結乾燥は2%の回収率となった。
【0052】
実施例12:凍結法
1×107細胞/mLをMwで処理した。トリパンブルー色素により除外原理を用いた細胞死パーセントは、60%であった。5つのアリコートを作製し、そして1500rpmで10分間遠心分離することによって、細胞をペレットにした。得られた5つの細胞ペレットのうち、各1つを100μLの10×PVP中に再懸濁し、その後、37℃で15分間インキュベートした。DPBSで最終体積を1mLにした。各アリコートから200μLを、適宜ラベルしたガラスバイアル中に分配し、そして各アリコート中の細胞を計数した。すべてのアリコートを緩慢凍結、すなわち8℃で1時間、4℃で2時間、−20℃で4時間、そして最後に−70℃で8時間に供した。1つの凍結対照を除き、残りすべてのアリコートをおよそ48時間凍結乾燥に供した。凍結乾燥物をDPBS200μLで再構成し、そして血球計算板を用いて、無傷細胞の総数を計数した。凍結対照は32%の無傷細胞を生じ、一方、凍結乾燥は5%回収率であった。
【0053】
実施例13:凍結法
1×107細胞/mLをMwで処理した。トリパンブルー色素による除外原理を用いた細胞死パーセントは、60%であった。5つのアリコートを作製し、そして1500rpmで10分間遠心分離することによって、細胞をペレットにした。得られた5つの細胞ペレットのうち、各1つを100μLの10×硫酸デキストラン中に再懸濁し、その後、37℃で15分間インキュベートした。DPBSで最終体積を1mLにした。各アリコートから200μLを、適宜ラベルしたガラスバイアル中に分配し、そして各アリコート中の細胞を計数した。すべてのアリコートを緩慢凍結、すなわち8℃で1時間、4℃で2時間、−20℃で4時間、そして最後に−70℃で8時間に供した。1つの凍結対照を除き、残りすべてのアリコートをおよそ48時間凍結乾燥に供した。凍結乾燥細胞ペレットをDPBS200μLで再構成し、そして血球計算板を用いて、無傷細胞の総数を計数した。凍結対照は5%の無傷細胞を生じ、一方、凍結乾燥後には、無傷細胞はまったく観察されなかった。
【0054】
いくつかの細胞内及び細胞外凍結保存剤が、死細胞の形態及び無傷性を保存可能であったが、トレハロース及びPVPは、他のものよりも好適であるようである。
【0055】
実施例14
1×107細胞/mLのB16F1細胞をMwで処理した。トリパンブルー色素による除外原理を用いた細胞死パーセントは、25%であった。1500rpmで10分間遠心分離することによって、細胞をペレットにした。上清を廃棄した。細胞ペレットを100μLの50×トレハロース又は100μLの10×PVPのいずれかに再懸濁し、そして37℃で15分間インキュベートした。DPBSで最終体積を1mLにした。各200μLの5つのアリコートを作製し、そして凍結乾燥前に、各アリコート中の細胞を計数した。試料を液体窒素中で急速凍結した。1つの凍結対照以外、残りの試料をすべておよそ48時間、凍結乾燥に供した。凍結乾燥物を200μLのDPBSで再構成し、そして血球計算板を用いて、無傷細胞の総数を計数した。凍結対照は39%の無傷細胞を生じ、一方、凍結乾燥は、9%の無傷細胞回収率となった。2つの凍結保存剤の組合せは、どちらかが単独であるよりも好適であるようである。
【0056】
実施例15
1×107細胞/mLの濃度のHEK−293をMwで処理した。トリパンブルー色素による除外原理を用いた細胞死パーセントは、80%であった。1500rpmで10分間遠心分離することによって、細胞をペレットにした。上清を廃棄した。細胞ペレットを5mLのDPBS中に再懸濁し、その全容積を各1mLの5つのアリコートに分配した。各アリコート中の細胞を計数した後、1500rpmで10分間遠心分離した。細胞ペレットを100μLの50×トレハロース中に再懸濁し、そして37℃で30分間インキュベートした。続いて100μLの10×PVPを添加し、そして試料を再び、37℃で30分間インキュベートした。DPBSで最終体積を1mLにした。その全容積を各200μLのアリコートに分配した。すべてのアリコートを液体窒素中で急速凍結し、そして1つの凍結対照以外、残りの試料をすべておよそ48時間、凍結乾燥に供した。凍結乾燥物を200μLのDPBSで再構成し、そして血球計算板を用いて、無傷細胞の総数を計数した。凍結対照は67%の無傷細胞を生じ、一方、凍結乾燥は、49%の無傷細胞回収率となった。2つの凍結保存剤の組合せは、どちらか単独よりも好適であるようである。
【0057】
PVPをトレハロースに添加すると、どちらかを単独で用いるか又はPVPにトレハロースを添加した場合とは対照的に、無傷細胞の高回収率(〜50%)となった。
【0058】
実施例16
1×107細胞/mLの濃度のB16F10細胞をMwで処理した。トリパンブルー除外アッセイを用いて決定した細胞死パーセントは、31%であった。その全容積を各1mLの10個のアリコートに分配し、そして処理前に各アリコート中の細胞数を計数した。1500rpmで10分間遠心分離することによって、細胞をペレットにした。細胞ペレットを100μLの50×トレハロース中に再懸濁し、そして37℃で15分間インキュベートした。次いで100μLの10×HESを添加し、そして試料を再び、37℃で15分間インキュベートした。DPBSで最終体積を1mLにした。200μLを、適宜ラベルしたガラスバイアル中に分配した。試料を液体窒素中で急速凍結し、そして1つの凍結対照以外、残りの試料をすべておよそ48時間、凍結乾燥に供した。凍結乾燥物を200μLのDPBSで再構成し、そして血球計算板を用いて、無傷細胞の総数を計数した。凍結対照は95%の無傷細胞を生じ、一方、凍結乾燥は、70%の無傷細胞回収率となったが、かなりの量の細胞が互いに凝集した。
【0059】
トレハロース+PVPは、試験したすべての他の異なる凍結保存剤の組合せの中で、最適のようである。
【0060】
実施例17:細胞サイズ及び粒度の評価
フローサイトメトリーは、媒体における均質又は不均質の組織/細胞懸濁物から、細胞サイズ及び顆粒密度に関する情報を提供し得る。細胞サイズは、細胞膜から生じる回折レーザー光として測定され、そして粒度は、細胞顆粒をターゲットとした際に放出される反射及び屈折光の測定値である。細胞サイズは、ドットプロットの前方散乱(Forward Scatter;FSC)スケール上で測定され、そして粒度は、ドットプロットの側方散乱(Side Scatter;SSC)スケール上で測定される。凍結乾燥細胞の評価は、図1に示すように、2つの別個の集団を示す。集団P1は、集団P2より低いFSC及びSSC集団として出現し、集団P2は、集団P1に比較するとサイズがより大きく、そしてより多くの顆粒を有していることが示唆される。
【0061】
実施例18:細胞完全性の決定
凍結乾燥細胞を細胞膜脂質結合分子PKH26で染色した。PKH26は、青色レーザーで励起され、そして551nmの光を吸収し、567nmで光を放出する。図2は、P1及びP2集団の両方がPKH26色素を取り込むことを示す。凍結乾燥細胞をPKH26色素で染色した。P1集団の90.7%、及びP2集団の96.3%がPKH26陽性である。
【0062】
実施例19:細胞死の決定
細胞膜が障害を受けた細胞内に浸透するヨウ化プロピジウム(PI)色素によって細胞死を評価した。図3は、P1及びP2の両方がPI色素を取り込んだことを示し、どちらの集団も死んでいることが示唆される。凍結乾燥細胞は、PI色素で染色された。P1集団の78.3%、及びP2集団の97.8%がPI陽性である。
【0063】
実施例20:無傷の細胞膜及び核膜を有する細胞
配合物をヘマトキシリン及びエオシンで染色して、細胞質及び核膜の完全性を評価した。無傷核を有する無傷細胞が観察された(図4)。
【0064】
実施例21:
1×107細胞/mLの濃度のMiaPaCa−2細胞をMwで処理した。トリパンブルー除外アッセイを用いて決定した細胞死パーセントは、100%であった。その全容積を各5mLの2つのアリコートに分配し、そして処理前に各アリコートの細胞数を計数した。1500rpmで10分間遠心分離することによって、細胞をペレットにした。細胞ペレットを100μLの50×トレハロース中に再懸濁し、そして37℃で15分間インキュベートした。続いて100μLの10×PVPを添加し、そしてアリコートを再び、37℃で15分間インキュベートした。200μLを、適宜ラベルしたガラスバイアル中に分配し、そして液体窒素中で急速凍結した。バイアル1セットをおよそ48時間凍結乾燥した。凍結乾燥物を200μLのDPBSで再構成し、そして第1日及び第21日に細胞懸濁物をBalb/Cマウスに注射した。第1日及び第21日に、対照群においては非凍結乾燥配合細胞を投与した。第28日、すべてのマウスを屠殺し、そして脾臓細胞を単離した。インターフェロン・ガンマELISPOTを行って、免疫反応を評価した。凍結乾燥細胞は、インターフェロン・ガンマを産生する同数の細胞を示し、免疫原性が保持され、むしろわずかにより優れていることが示された(図5)。
【0065】
実施例22:
死んだ癌細胞107細胞/mLを1500rpmで10分間遠心分離することによってペレットにした。上清を廃棄した。全容量を各1mLのアリコートに分配し、そして各アリコートの細胞を計数した。処理群細胞ペレットを最終濃度5%w/v(DPBS中)のトレハロース中に再懸濁し、その後、37℃で15分間インキュベートした。続いて、最終濃度1%w/vにPVPを添加し、そして細胞懸濁物を37℃で15分間インキュベートした。全容量を各1mLのアリコートに分配し、そして各アリコート中の細胞を計数した。凍結乾燥前に、すべてのアリコートを液体窒素中の急速凍結に供した。細胞をDPBS中で再構成した。
【0066】
スライドガラス上に塗抹標本を調製し、風乾し、そしてアセトンを用いて固定した。PBS中に5%BSA、血清、及び2%トリトン(Triton)−X100を含有するブロッキング緩衝液で1時間、ブロッキングした。細胞表面マーカーを標的とした一次抗体を1:100の希釈で検出に用い、該抗体と共に1時間インキュベートした。トリトンを含有するPBSで洗浄した。抗マウスIgG−FITC標識二次抗体(1:1000)とインキュベートした。トリトンを含有するPBSで洗浄した。
【0067】
図6に示すように、蛍光顕微鏡下で表面タンパク質が検出される。死んだ組織又は生存組織の試料の輸送に該方法を用いて、そして後に、診断又は法医学のためにこれらを用いることも可能である。
【0068】
細胞内凍結保存剤及び細胞外凍結保存剤はどちらも、Mw処理細胞の形態を保持することが可能である。PVP及びトレハロースは、細胞が凝集するように見受けられたデキストラン及びポリソルベート−80両方よりも好適であるようである。
【0069】
2つの凍結保存剤の組合せは、どちらか単独よりも好適であるようである。トレハロースにPVPを添加すると、どちらかを単独で用いるか又はPVPにトレハロースを添加した場合とは対照的に、無傷細胞の高い回収率(およそ50%)に繋がった。
【0070】
凍結乾燥による本保存方法は、免疫原性が保持され、かつ構造及び核酸が無傷である全細胞ワクチン候補を保存するために用いてもよい。当該方法はまた、法医学応用及び診断目的のため、細胞試料を保存するのに用いることも出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に保持された免疫原特性を有する死細胞の安定組成物であって、死細胞、少なくとも1つの細胞内凍結保存剤、少なくとも1つの細胞外凍結保存剤、任意にアジュバント及び賦形剤を含む、前記組成物。
【請求項2】
細胞内凍結保存剤が炭水化物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
炭水化物がトレハロース又はスクロースである、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
炭水化物が、1〜10%w/vの範囲の濃度である、請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
細胞外凍結保存剤が両親媒性ポリマーである、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
両親媒性ポリマーが、ポビドン(PVP)、ヒドロキシエチルデンプン(HES)、ポリソルベート又はそれらの混合物から選択される、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
両親媒性ポリマーが、0.1〜5%w/vの範囲の濃度である、請求項5に記載の組成物。
【請求項8】
両親媒性ポリマーが、30〜50kDaの範囲の分子量を有する、請求項5に記載の組成物。
【請求項9】
アジュバントが、油、アルミニウム塩、及びビロソーム、生きた全生物体若しくは死んだ全生物体、微生物の抽出物、並びにそれらの組み合せから選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
アジュバントがマイコバクテリウムw(Mycobacterium w)(Mw)である、請求項1又は9に記載の組成物。
【請求項11】
a.細胞を殺す工程、
b.工程aから得た組成物を細胞内凍結保存剤で処理する工程、
c.工程bから得た組成物を細胞外凍結保存剤で処理する工程、
d.凍結乾燥前に、工程cから得た組成物を急速凍結し、配合物を凍結する工程、
e.工程dから得た組成物を凍結乾燥する工程
を含む、請求項1から8に記載の組成物を調製するプロセス。
【請求項12】
急速凍結を−100℃未満で実施する、請求項11に記載の組成物を調製するプロセス。
【請求項13】
凍結乾燥を25mtorr未満の真空で実施する、請求項11に記載の組成物を調製する方法。
【請求項14】
凍結乾燥を25℃未満で実施する、請求項11に記載の組成物を調製する方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2013−519723(P2013−519723A)
【公表日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−553432(P2012−553432)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際出願番号】PCT/IB2011/050655
【国際公開番号】WO2011/101796
【国際公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(507421393)カディラ ファーマシューティカルズ リミテッド (7)
【Fターム(参考)】