説明

室内移動用自助具及びキャスター用安全装置

【課題】敷居等の室内のわずかな段差を容易に乗り越えることができると共に、使用者の使用状態に合わせた自動停止及び解除を可能とする。
【解決手段】使用者の着座部10と、該着座部10が固定されると共に、該着座部10前方の使用者の足が入る部分が開放されたフレーム20と、該フレーム20の前端部下側及び後方中央部下側に配設された、少なくとも3つの主キャスター22と、前記フレーム20下側の前記主キャスター22の間に配設された、転倒防止用の補助キャスター24と、を備える。更に、前記着座部10後方とフレーム20の間の着座部後方座面支持点に配設された荷重センサ28と、該荷重センサ28で検出された荷重が所定範囲にある時に、前記主キャスター22の少なくとも1つにブレーキをかけるブレーキ機構30を備えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室内移動用自助具及びキャスター用安全装置に係り、特に、何らかの事情で一時的に歩行が困難になった人に対し、脚力が衰えないように運動を補助し、自立を促すために用いるのに好適な、座るだけでなく自由に動ける椅子としての室内移動用自助具、及び、そのために用いるのに好適なキャスター用安全装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車椅子や、その補助具、安全装置に関して多くの提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、略コ字状で下部四隅にキャスタ若しくは車輪、前方に伸幅可能なステップおよび左右に移動可能な杖固定筒から構成される車体を設け、そして、車体の幅に調節することができる着脱可能な椅子を設け、さらに、先端部が杖固定筒に緩嵌する伸長可能な杖を二つ設けた車椅子兼歩行補助具が記載されている。
【0004】
又、特許文献2には、座受けにキャスターをつけることにより自在に方向転換ができ、前方のキャスターはストッパー付きとすることによりスツールを固定することができる室内用移動自在スツールが記載されている。
【0005】
又、特許文献3には、利用者が腰を下ろす着座部に対し前方で左右に配置された2個のキャスターと、前記着座部の後方で左右に配置された2個の駆動車輪を有する車椅子において、前記着座部に対して前方であり前記2個のキャスターを結ぶ線より前方あるいは後方に補助車輪を設けることが記載されている。
【0006】
又、特許文献4には、通常の自走式車椅子に上下する電動自在車又は自在車で自走用後輪を浮かせ横移動や斜め移動を可能にした両用式車椅子であって、ベッドやトイレなどに乗降移動する場合、横移動を楽に行える様、自走用後輪を取り外し出来るようにしたり、前記自在車使用時において、遠隔から行うことが出来るブレーキ構造を設けることが記載されている。
【0007】
又、特許文献5には、一般の電動式車椅子に対物センサーとその入力により電動式車椅子のコントロールボックスの所で電源または駆動を解除する装置を取り付け、取り付けられた対物センサーの入力により電動式車椅子の電源または駆動を解除できるようにして、動作時において周りの物との衝突を防ぐことができ、より安全が確保できるようにすることが記載されている。
【0008】
又、特許文献6には、ベッド等の脇に設置される移乗補助装置であって、車椅子の自在キャスターの自在回転を拘束する機能と、かつ利用者が体重移動がし易いように、立ち上がり補助機能を備えることにより、利用者は自分ひとりで、ベッドから車椅子へ、あるいは車椅子からベッドへと移乗できるようにして、好きな時に好きな場所に行くことが出来る自立支援システムを実現することが記載されている。
【0009】
車椅子の暮らしになると、脚力が衰え自立歩行が困難になる。そこで、病院や老人介護施設等においては、脚力は残っているが歩行が困難な者に対して自立起床、自立起立、自立歩行などの順次訓練がなされている。これらの訓練は、転倒などの事故を回避する為に、介助者の補助を必要とするため、人的、時間的、設備的に負担になっている。
【0010】
座りきりにさせない為の脚力回復訓練機器を日常の生活行為全般に使うことによって脚力の回復と自由な行動を可能とし、介助者無しでの自立行動を可能にすることを目指し、何らかの事情で一時的に歩行が困難になった人に対し、脚力が衰えないように運動を補助し、自立を促すための自助具を発明者は非特許文献1で提案した。
【0011】
これは、図1に示す如く、使用者の着座部10と、該着座部10が固定されると共に、該着座部10前方の使用者の足が入る部分が開放されたフレーム12と、該フレーム12の脚部下側及び後方中央部下側に配設された3つのキャスター14と、前記フレーム12下側の前記キャスター14の間、及び、フレーム12の両脚部前方に配設された転倒防止用の支柱16と、前記フレーム12の着座部10上方に設けられた手すり18を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2003−24398号公報
【特許文献2】登録実用新案第3110227号公報
【特許文献3】特開2006−116080号公報
【特許文献4】特開2008−264450号公報
【特許文献5】特開平6−190007号公報
【特許文献6】特開2005−152556号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】香椎 正治他「室内用自立移動自助具の試作」日本福祉工学会第13回学術講演論文集(2009年11月28日、日野)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、使用状況の観察から、使用者が乗り移る時、左右後方への移動時、前方移動時、立ち上がる時、装置から離れる時に車体が傾斜して転倒するのを防止するため設けた支柱16は、20mm程度のわずかな段差に対して移動の妨げとなり敷居の乗り越えに不都合が生じていた。
【0015】
更に、使用者のそばまで移動させる時(解除)、使用者が座ろうとしている時(停止)、使用者が乗って移動しようとしている時(解除)、及び、使用者が立ち上がろうとしている時(停止)、これらの状態においては自助具に停止装置が必要であるが、従来の安全装置は、これらの要請に十分に応えるものではなかった。
【0016】
本発明は、前記従来の問題点を解決するべくなされたもので、敷居等の室内のわずかな段差を容易に乗り越えることができると共に、使用者の使用状態に合わせた自動停止及び解除が可能な安全装置を備えた室内移動用自助具を提供することを第1の課題とする。
【0017】
本発明は、又、室内移動用自助具やキャスター付椅子に用いるのに好適なキャスター用安全装置を提供することを第2の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、使用者の着座部と、該着座部が固定されると共に、該着座部前方の使用者の足が入る部分が開放されたフレームと、該フレームの前端部下側及び後方中央部下側に配設された、少なくとも3つの主キャスターと、前記フレーム下側の前記主キャスターの間に配設された、転倒防止用の補助キャスターと、を備えたことを特徴とする室内移動用自助具により、前記第1の課題を解決したものである。
【0019】
ここで、前記補助キャスターの車輪のサイズを、前記主キャスターの車輪のサイズより小さくすることができる。
【0020】
又、前記フレームの着座部上方に手すりを設けることができる。
【0021】
又、前記フレームを略U字形状のパイプで構成し、前記手すりを、略U字形状のパイプを略L字形状に曲げることによって形成することができる。
【0022】
又、前記フレームの着座部前方を開くことができる。
【0023】
又、前記着座部後方とフレームの間の着座部後方座面支持点に配設された荷重センサと、該荷重センサで検出された荷重が所定範囲にある時に、前記主キャスターの少なくとも1つにブレーキをかけるブレーキ機構と、を更に備えることができる。
【0024】
又、前記ブレーキ機構が、前記主キャスターの取付部に配設された、正・逆回転可能なモータと、該モータにより駆動されるキャスター回転軸停止部材及びキャスター輪停止部材と、を備えることができる。
【0025】
又、前記キャスター回転軸停止部材とキャスター輪停止部材の動作を両立させるための干渉防止機構を設けることができる。
【0026】
本発明は、又、キャスターに上方から加わる荷重を検出するための荷重センサと、該荷重センサで検出された荷重が所定範囲にある時に、前記キャスターにブレーキをかけるブレーキ機構と、を備えたことを特徴とするキャスター用安全装置により、前記第2の課題を解決したものである。
【0027】
ここで、前記ブレーキ機構が、前記キャスターの取付部に配設された、正・逆回転可能なモータと、該モータにより駆動されるキャスター回転軸停止部材及びキャスター輪停止部材と、を備えることができる。
【0028】
更に、前記キャスター回転軸停止部材とキャスター輪停止部材の動作を両立させるための干渉防止機構を設けることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、キャスターを前方の転倒防止支柱の位置に移動して主キャスターとすると共に、後方の転倒防止支柱を補助キャスターに変更したので、敷居等の室内のわずかな段差を容易に乗り越えることが可能となる。従って、自由な方向に移動が可能であり、介助無しに使用できる。又、単純な構造で軽量にでき、扱いが簡単である。
【0030】
更に、使用者の使用状態に合わせた自動停止及び解除が可能な安全装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】発明者が提案した従来の室内移動用自助具を示す斜視図
【図2】本発明の実施形態を示す斜視図
【図3】前記実施形態のブレーキ機構を示す側面図
【図4】前記ブレーキ機構の荷重センサで検出される力を示す側面図
【図5】前記ブレーキ機構の動作を示す断面図
【図6】同じく2種の停止状態を示す断面図
【図7】同じく制御回路を示すブロック図
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0033】
本実施形態は、図2(a)(b)に示す如く、使用者の着座部10と、該着座部10が固定されると共に、該着座部10前方の使用者の足が入る部分が開放されたフレーム20と、該フレーム20の前端部下側及び後方中央部下側に配設された3つの主キャスター22と、前記フレーム20下側の前記主キャスター22の間に配設された、転倒防止用の補助キャスター24と、前記フレーム20の着座部10上方に設けられた手すりアーム26と、前記着座部10後方とフレーム20の間の着座部後方座面支持点に配設された荷重センサ28と、該荷重センサ28で検出された荷重が所定範囲にある時に、前方の2つの主キャスター22にブレーキをかけるブレーキ機構30と、を備えている。
【0034】
前記着座部10は、使用者の脚の動きを妨げないよう、大腿部の運動範囲を大きくとれる形状、例えば自転車のサドルと同様の形状とされている。
【0035】
前記フレーム20は、例えばパイプを概ねU字形状に曲げることによって形成され、その着座部前方は、使用者が脚を入れる時に邪魔にならず、腰掛け易いよう左右に開かれている。このフレーム20の先端には、略円錐状のゴムキャップ21が被せられており、フレーム20の先端が壁と衝突した時に、壁とフレーム20を保護すると共に、使用者がフレーム20と壁の間で手を挟まないように保護している。
【0036】
前記手すりアーム26は、例えばパイプをU字形状に曲げ、更にL字形状に曲げることによって形成されている。
【0037】
前記補助キャスター24の車輪25のサイズは、前記主キャスター22の車輪23のサイズより小さくされている。
【0038】
前記ブレーキ機構30は、図3に示す如く、前記主キャスター22の取付部に配設された、正・逆回転可能な直流(DC)モータ32と、該モータ32により駆動されるウォームギア34と、該ウォームギア34により駆動される押し下げアーム36と、該押し下げアーム36により駆動されるキャスター回転軸停止ギア38及びキャスター輪停止アーム40と、前記キャスター回転軸停止ギア38とキャスター輪停止アーム40の動作を両立させる干渉防止機構としてのばね42とを備えている。
【0039】
このブレーキ機構30は、図4に示す如く、手すりアーム26にかかる力Fa、及び、着座部10の座面にかかる力Fsの解析結果に基づいて、例えば歪ゲージでなる荷重センサ28で検出される、使用者が乗り移ろうとして手をかけたと考えられる第1の所定値(例えば20N)以上の場合は、図5(a)に示す如く、押し下げアーム36を押し下げて制動し、一方、使用者が着座したと考えられる第2の所定値(例えば200N)以上の場合は、図5(b)に示す如く、押し下げアーム36を引き上げて制動を解除するようにしている。
【0040】
前記ばね42は、図6(a)に示す如く、キャスター回転軸停止ギア38が十分下がる前にキャスター輪停止アーム40下端がキャスター22の車輪23に当たって、該キャスター回転軸停止ギア38が機能していない場合、図6(b)に示す如く、キャスター回転軸停止ギア38の下降を許容して、キャスター軸回転停止動作を有効とする。
【0041】
前記ブレーキ機構30の制御回路50は、図7に示す如く、前記荷重センサ28の出力を増幅するプリアンプ52及びアンプ54と、必要な処理を行うマイクロプロセッシングユニット(MPU)56と、2つの直流(DC)モータ32A、32Bを駆動するためのドライバー回路52A、52Bと、該ドライバー回路52A、52Bに付設されたシャント抵抗54A、54Bと、該シャント抵抗54A、54Bの出力で検知されるモータ32A、32Bの負荷が所定値以上となった時に、モータ32A、32Bの回転を止めて保護するためのコンパレータ56A、56Bと、を備えている。
【0042】
前記MPU56は、手すりアーム26に使用者が手を乗せる荷重(例えば20N)が加わるとDCモータ32A、32Bを例えば正回転させ、図5(a)に示した如く、主キャスター22のブレーキ機構30を動作させて主キャスターの状態を固定する。更に使用者が着座部10に座った荷重(例えば200N)にまで達するとDCモータ32A、32Bを逆回転させ、図5(b)に示した如く、主キャスター22のブレーキ機構30を逆方向に動作させて主キャスター22の固定状態を解除する。又、MPU56は、DCモータ32A、32Bの正回転・逆回転時に過電流が流れると、モータ稼働範囲の停止位置と判断しDCモータ32A、32Bを停止して保護する。
【0043】
前記制御回路50やその電源バッテリは、例えば着座部10の裏側に固定して目立たないようにすることができる。
【0044】
前記制御回路50は、例えば0.1秒間隔で荷重を確認し、1秒前の値と比較することで、過敏な作動や、荷重センサ28の温度変化や、フレーム20、手すりアーム26を構成する素材(例えばABS)の弾性特性による変動の影響を防ぐことができる。
【0045】
本実施形態によれば、1個のセンサ及びそれぞれ1台のモータ(アクチュエータ)でキャスター輪の回転とキャスター回転軸の回転を止めることができる。なお、ブレーキ機構の構成は、これに限定されず、例えばセンサの数を増やしたり位置を変えたり、歪ゲージやウォームギア以外を使用したりすることもできる。
【0046】
更に、このブレーキ機構は、前記実施形態の室内移動用自助具だけでなく、他の構成の自助具や、手漕ぎ型車椅子、事務用回転椅子等、キャスター輪を備えた他の製品一般に使用できる。
【符号の説明】
【0047】
10…着座部
20…フレーム
22…主キャスター
23、25…車輪
24…補助キャスター
26…手すりアーム
28…荷重センサ
30…ブレーキ機構
32…モータ
34…ウォームギア
36…押し下げアーム
38…キャスター回転軸停止ギア
40…キャスター輪停止アーム
42…ばね
50…制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者の着座部と、
該着座部が固定されると共に、該着座部前方の使用者の足が入る部分が開放されたフレームと、
該フレームの前端部下側及び後方中央部下側に配設された、少なくとも3つの主キャスターと、
前記フレーム下側の前記主キャスターの間に配設された、転倒防止用の補助キャスターと、
を備えたことを特徴とする室内移動用自助具。
【請求項2】
前記補助キャスターの車輪のサイズが、前記主キャスターの車輪のサイズより小さくされていることを特徴とする請求項1に記載の室内移動用自助具。
【請求項3】
前記フレームの着座部上方に手すりが設けられていることを特徴とする請求項1に記載の室内移動用自助具。
【請求項4】
前記フレームが略U字形状のパイプで構成され、前記手すりが、略U字形状のパイプを略L字形状に曲げることによって形成されていることを特徴とする請求項3に記載の室内移動用自助具。
【請求項5】
前記フレームの着座部前方が開いていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の室内移動用自助具。
【請求項6】
前記着座部後方とフレームの間の着座部後方座面支持点に配設された荷重センサと、
該荷重センサで検出された荷重が所定範囲にある時に、前記主キャスターの少なくとも1つにブレーキをかけるブレーキ機構と、
を更に備えたことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の室内移動用自助具。
【請求項7】
前記ブレーキ機構が、
前記主キャスターの取付部に配設された、正・逆回転可能なモータと、
該モータにより駆動されるキャスター回転軸停止部材及びキャスター輪停止部材と、
を備えたことを特徴とする請求項6に記載の室内移動用自助具。
【請求項8】
前記キャスター回転軸停止部材とキャスター輪停止部材の動作を両立させるための干渉防止機構が設けられていることを特徴とする請求項7に記載の室内移動用自助具。
【請求項9】
キャスターに上方から加わる荷重を検出するための荷重センサと、
該荷重センサで検出された荷重が所定範囲にある時に、前記キャスターにブレーキをかけるブレーキ機構と、
を備えたことを特徴とするキャスター用安全装置。
【請求項10】
前記ブレーキ機構が、
前記キャスターの取付部に配設された、正・逆回転可能なモータと、
該モータにより駆動されるキャスター回転軸停止部材及びキャスター輪停止部材と、
を備えたことを特徴とする請求項9に記載のキャスター用安全装置。
【請求項11】
前記キャスター回転軸停止部材とキャスター輪停止部材の動作を両立させるための干渉防止機構が設けられていることを特徴とする請求項10に記載のキャスター用安全装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−210237(P2012−210237A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76198(P2011−76198)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 :日本福祉工学会 刊行物名 :第14回学術講演会講演論文集 発行年月日:平成22年11月27日
【出願人】(500132214)学校法人明星学苑 (23)
【Fターム(参考)】