説明

室温成形可能な生分解性ポリエステル及びその製造方法

【課題】透明で、良好な靭性及び耐衝撃性を有する生分解性ポリエステルブロック共重合体であって、かつ成形に加熱工程が不要であり、容易にリサイクル可能な生分解性ポリエステルブロック共重合体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】ポリ乳酸からなるセグメント(a)と、特定の1以上のカプロラクトン誘導体を重合させて得られるセグメントであり、そのガラス転移温度が−33℃以下である非晶性セグメント(b)とからなることを特徴とする生分解性ポリエステルブロック共重合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性ポリエステル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境に対する負荷低減等の観点から、石油資源由来である従来のプラスチックの代替物として、生分解性プラスチックが開発されている。生分解性プラスチックは従来のプラスチックと異なり、自然界に存在する微生物によって分解されるため、廃棄時における環境負荷が小さい。そのため、バイオマス由来の脂肪族ポリエステル系樹脂をブレンドし、エコマテリアル化を図る試みが活発化している。
【0003】
しかしながら、脂肪族ポリエステルは一般に融点と分解点が近接しているため、リサイクル性に乏しく、生分解性プラスチックを再溶融して成形しても、使用に耐えられる品質の生分解性プラスチックを得ることは困難であった。生分解性プラスチックとして利用されるポリ乳酸をモノマー化する手段も検討されているが(特許文献1)、再度ポリマー化処理(特許文献2)又は溶融混練する(特許文献3)等の高温処理等を必要とし、リサイクルに多大なエネルギーを要していた。
【0004】
そのため、リサイクルに適した実用的な生分解性プラスチック及びその製造方法の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−300927号公報
【特許文献2】特開2006−321908号公報
【特許文献3】特開2010−58329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、良好な物性(引張伸度等)を有する生分解性ポリエステルブロック共重合体であって、汎用されている既存のプラスチックの代替材料として広く利用でき、かつ成形に加熱工程が不要であり、容易にリサイクル可能な生分解性ポリエステルブロック共重合体及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ポリ乳酸からなるセグメント(a)と、特定の1以上のカプロラクトン誘導体を重合させて得られるセグメントであり、そのガラス転移温度が−33℃以下である非晶性セグメント(b)とからなる生分解性ポリエステルブロック共重合体が、室温、高圧下で成形できることを見出し、さらに研究を重ねて本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の発明を含むものである。
[1]ポリ乳酸からなるセグメント(a)(以下、セグメント(a)ともいう。)と、下記一般式(1)
【化1】

(式中、R〜R10は、それぞれ同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、オキソ基、アミノ基、ニトロ基、ニトリル基、ビニル基、カルボキシル基、置換基を有していてもよい直鎖、分岐若しくは環状の炭素数1〜10のアルキル基又は置換基を有していてもよい直鎖、分岐若しくは環状の炭素数1〜10のアルコキシ基を示す。ただし、R〜R10の全てが水素原子である場合を除く。)
で表される化合物及び下記一般式(2)
【化2】

(式中、R11及びR15は、同一又は異なって、置換基を有していてもよいメチレン基を表し、R12、R13及びR14は、それぞれ同一又は異なって、置換基を有していてもよいメチレン基、酸素原子、窒素原子又は硫黄原子を表す(前記置換基に炭素が含まれる場合、炭素数は1〜10であるものとする。)。ただし、R11、R12、R13、R14及びR15の全てが置換基を有しないメチレン基である場合、及びR13が酸素原子であって、R11、R12、R14及びR15の全てが置換基を有しないメチレン基である場合を除く。)
で表される化合物からなる群から選ばれる1以上のカプロラクトン誘導体を重合させて得られるセグメントであり、そのガラス転移温度が−33℃以下である非晶性セグメント(b)(以下、セグメント(b)ともいう。)とからなることを特徴とする生分解性ポリエステルブロック共重合体。
[2]前記セグメント(b)が、下記一般式(1)
【化3】

(式中、R〜R10は、それぞれ同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい直鎖、分岐若しくは環状の炭素数1〜10のアルキル基又は置換基を有していてもよい直鎖、分岐若しくは環状の炭素数1〜10のアルコキシ基を示す。ただし、R〜R10の全てが水素原子である場合を除く。)
で表される1以上のカプロラクトン誘導体を重合させて得られるセグメントであることを特徴とする前記[1]に記載の生分解性ポリエステルブロック共重合体。
[3]前記非晶性セグメント(b)が、3−メチルオキセパン−2−オン、4−メチルオキセパン−2−オン、5−メチルオキセパン−2−オン、6−メチルオキセパン−2−オン、7−メチルオキセパン−2−オン、3−エチルオキセパン−2−オン、4−エチルオキセパン−2−オン、5−エチルオキセパン−2−オン、6−エチルオキセパン−2−オン、7−エチルオキセパン−2−オン、3,7−ジメチルオキセパン−2−オン、5,5−ジメチルオキセパン−2−オン、5−エチル−5−メチルオキセパン−2−オン、5,5−ジエチルオキセパン−2−オン、4,6,6−トリメチルオキセパン−2−オン、4−メチル−7−イソプロピルオキセパン−2−オン、3−ブロモカプロラクトン、4−ブロモカプロラクトン、5−ブロモカプロラクトン、6−ブロモカプロラクトン、7−ブロモカプロラクトン、1,4−ジオキセパン−5−オン及び3−メチル−1,4−ジオキセパン−2−オンからなる群から選ばれる1以上のカプロラクトン誘導体を重合させて得られるセグメントであることを特徴とする前記[1]又は[2]に記載のポリエステルブロック共重合体。
[4]前記セグメント(a)22〜76重量%と、前記セグメント(b)78〜24重量%とからなることを特徴とする前記[1]〜[3]のいずれかに記載の生分解性ポリエステルブロック共重合体。
[5]前記セグメント(a)43〜59重量%と、前記セグメント(b)57〜41重量%とからなることを特徴とする前記[1]〜[3]のいずれかに記載のポリエステルブロック共重合体。
[6]前記セグメント(a)における重量平均分子量が、5,000〜100,000であることを特徴とする前記[1]〜[5]のいずれかに記載のポリエステルブロック共重合体。
[7]前記非晶性セグメント(b)における重量平均分子量が、5,000〜100,000であることを特徴とする前記[1]〜[6]のいずれかに記載のポリエステルブロック共重合体。
[8](i)下記一般式(1)
【化4】

(式中、R〜R10は、それぞれ同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、オキソ基、アミノ基、ニトロ基、ニトリル基、ビニル基、カルボキシル基、置換基を有していてもよい直鎖、分岐若しくは環状の炭素数1〜10のアルキル基又は置換基を有していてもよい直鎖、分岐若しくは環状の炭素数1〜10のアルコキシ基を示す。ただし、R〜R10の全てが水素原子である場合を除く。)
で表される化合物及び下記一般式(2)
【化5】

(式中、R11及びR15は、同一又は異なって、置換基を有していてもよいメチレン基を表し、R12、R13及びR14は、それぞれ同一又は異なって、置換基を有していてもよいメチレン基、酸素原子、窒素原子又は硫黄原子を表す(前記置換基に炭素原子が含まれる場合、炭素数は1〜10であるものとする。)。ただし、R11、R12、R13、R14及びR15の全てが置換基を有しないメチレン基である場合、及びR13が酸素原子であって、R11、R12、R14及びR15の全てが置換基を有しないメチレン基である場合を除く。)
で表される化合物
からなる群から選ばれる1以上のカプロラクトン誘導体を溶液重合させる工程(以下、工程(i)ともいう)、及び
(ii)前記工程(i)で得られた重合体と、乳酸又はラクチドとを混合し、混合物中のポリマーを鎖延長反応させる工程(以下、工程(ii)ともいう)を含むことを特徴とする前記[1]〜[7]のいずれかに記載の生分解性ポリエステルブロック共重合体の製造方法。
[9]前記工程(i)において、触媒を使用し、前記触媒が、オクチル酸スズ(II)、アルミニウムイソプロポキシド及びイットリウムイソプロポキシドからなる群から選ばれる1以上であることを特徴とする前記[8]に記載のポリエステルブロック共重合体の製造方法。
[10]前記溶液重合に用いる溶媒が、ジフェニルエーテル及びトルエンからなる群から選ばれる1以上の溶媒であることを特徴とする前記[8]又は[9]に記載のポリエステルブロック共重合体の製造方法。
[11]常温で加圧する工程を有し、加熱する工程を有さず、前記加圧時の圧力が3MPa以上であることを特徴とする前記[1]〜[7]のいずれかに記載のポリエステルブロック共重合体からなる成形品の成形方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の生分解性ポリエステルブロック共重合体は、常温で高圧をかけることによって成形でき、さらに複数回の成形によってもその物性が変化しない。そのため、成形にかかるエネルギーを大幅に削減でき、かつ容易にリサイクルすることができる。また、本発明の生分解性ポリエステルブロック共重合体は、ポリエステルブロックの組成、構造式及び分子量等により材料物性を幅広く制御することができ、透明のものが得られるため、汎用されている既存のプラスチックの代替材料として広く利用できる。さらに、本発明の製造方法を用いれば、生分解性ポリエステルブロック共重合体を効率的に製造することができる。特に塊状重合(Bulk重合)に比べて、例えば、製造時間を10分の1以下にすることができ、効率的に生分解性ポリエステルブロック共重合体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の生分解性ポリエステルブロック共重合体のX線小角散乱スペクトルを示す図である。縦軸は散乱強度I(q)を表し、横軸は散乱ベクトルqを表す。
【図2】本発明の生分解性ポリエステルブロック共重合体(加圧前)を示す図である。
【図3】本発明の生分解性ポリエステルブロック共重合体(左:1回加圧後、右:5回加圧後)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
ポリ乳酸と、ガラス転移温度が−33℃以下である非晶性ポリカプロラクトン誘導体とからなる生分解性ポリエステルブロック共重合体は、加熱することなく加圧によって成形することが可能である。
【0012】
以下、本発明を具体的に説明する。本発明の生分解性ポリエステルブロック共重合体は、
ポリ乳酸からなるセグメント(a)(以下、セグメント(a)ともいう。)と、下記一般式(1)
【化6】

(式中、R〜R10は、それぞれ同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、オキソ基、アミノ基、ニトロ基、ニトリル基、ビニル基、カルボキシル基、置換基を有していてもよい直鎖、分岐若しくは環状の炭素数1〜10のアルキル基又は置換基を有していてもよい直鎖、分岐若しくは環状の炭素数1〜10のアルコキシ基を示す。ただし、R〜R10の全てが水素原子である場合を除く。)
で表される化合物及び下記一般式(2)
【化7】

(式中、R11及びR15は、同一又は異なって、置換基を有していてもよいメチレン基を表し、R12、R13及びR14は、それぞれ同一又は異なって、置換基を有していてもよいメチレン基、酸素原子、窒素原子又は硫黄原子を表す(前記置換基に炭素が含まれる場合、炭素数は1〜10であるものとする。)。ただし、R11、R12、R13、R14及びR15の全てが置換基を有しないメチレン基である場合、及びR13が酸素原子であって、R11、R12、R14及びR15の全てが置換基を有しないメチレン基である場合を除く。)
で表される化合物からなる群から選ばれる1以上のカプロラクトン誘導体を重合させて得られるセグメントであり、そのガラス転移温度が−33℃以下である非晶性セグメント(b)(以下、セグメント(b)ともいう。)からなることを特徴とする生分解性ポリエステルブロック共重合体である。
【0013】
セグメント(a)において、ポリ乳酸を構成するモノマーである乳酸としては、L体のみであっても、D体のみであっても、L体とD体との混合物であってもよい。
【0014】
セグメント(a)の重量平均分子量としては、特に限定されないが、約5,000〜100,000が好ましく、良好な材料物性と加圧下での十分な流動性及び成形性を確保する、エステルの組み換え反応が起こることを防ぐ等の観点から、約10,000〜100,000がより好ましい。
【0015】
セグメント(b)に関し、前記一般式(1)におけるR〜R10としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えば、それぞれ同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、オキソ基、アミノ基、ニトロ基、ニトリル基、ビニル基、カルボキシル基、置換基を有していてもよい直鎖、分岐又は環状の炭素数1〜10のアルキル基、又は置換基を有していてもよい直鎖、分岐又は環状の炭素数1〜10のアルコキシ基等が挙げられ、容易に高重合体が得られるという観点から、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基及びアルコキシ基等が好ましく挙げられる。また、R〜R10の全てが水素原子であるものは、得られる生分解性ポリエステルブロック共重合体の成形性が劣るため、好ましくない。
【0016】
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられ、容易に高重合体が得られるという観点から、臭素原子が好ましく挙げられる。前記直鎖、分岐又は環状の炭素数1〜10のアルキル基としては、特に限定されないが、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、シクロペンチル基、シクロペンチルメチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、フェニル基及びナフタレニル基等が挙げられ、置換基による結晶性をより有しないという点から、炭素数1〜6の低級アルキル基等がさらに好ましい。
【0017】
前記炭素数1〜10のアルコキシ基としては、直鎖、分枝状もしくは環状であってよく、特に限定されないが、例えば、メトキシ基、エトキシ基、ベンジロキシ基、ジフェニルメトキシ基、トリチルオキシ基、4−メトキシベンジロキシ基、メトキシメトキシ基、1−エトキシエトキシ基、ベンジルオキシメトキシ基、2−トリメチルシリルエトキシ基、2−トリメチルシリルエトキシメトキシ基、フェノキシ基及び4−メトキシフェノキシ基等が挙げられ、置換基による結晶性をより有しないという点から、炭素数1〜6の低級アルコキシ基等がさらに好ましい。
【0018】
前記置換基を有していてもよい直鎖、分岐又は環状の炭素数1〜10のアルキル基、及び前記置換基を有していてもよい直鎖、分岐又は環状の炭素数1〜10のアルコキシ基における置換基としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子)、ニトロ基、アセチル基、アミノ基、水酸基、アリール基、アルキル基(炭素数1〜10)、ハロゲン化アルキル基(炭素数1〜10)、ハロゲン化アルコキシ基(炭素数1〜10)、シアノ基、スルホ基、カルボキシル基、カルバモイル基、ホスフィノ基、アミノスルホニル基及びオキソ基等が挙げられ、合成が容易であることから、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子)、ニトロ基、アセチル基、アリール基、アルキル基(炭素数1〜6)、ハロゲン化アルキル基(炭素数1〜6)、ハロゲン化アルコキシ基(炭素数1〜6)及びシアノ基等が好ましい。
【0019】
セグメント(b)に関し、前記一般式(2)におけるR12、R13及びR14としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えば、それぞれ同一又は異なって、置換基を有していてもよいメチレン基、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子等が挙げられ、容易に高重合体が得られるという観点から、置換基を有していてもよいメチレン基、酸素原子及び硫黄原子等が好ましく挙げられる。また、R11及びR15としては、同一又は異なって、置換基を有していてもよいメチレン基を表す。
【0020】
前記置換基を有していてもよいメチレン基における置換基としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子)、ニトロ基、アセチル基、アミノ基、水酸基、アリール基、アルキル基(炭素数1〜10)、ハロゲン化アルキル基(炭素数1〜10)、ハロゲン化アルコキシ基(炭素数1〜10)、シアノ基、スルホ基、カルボキシル基、カルバモイル基、ホスフィノ基、アミノスルホニル基及びオキソ基等が挙げられ、合成が容易であることから、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子)、ニトロ基、アセチル基、アリール基、アルキル基(炭素数1〜6)、ハロゲン化アルキル基(炭素数1〜6)、ハロゲン化アルコキシ基(炭素数1〜6)及びシアノ基等が好ましい。
【0021】
本発明の非晶性セグメント(b)に用いるモノマーとしては、上記したカプロラクトン誘導体のうち、一般式(1)で表わされるものが好ましく、非晶性ポリエステルブロックの形成により有利であるという観点から、一般式(1)で表される化合物としては、3−メチルオキセパン−2−オン、4−メチルオキセパン−2−オン、5−メチルオキセパン−2−オン、6−メチルオキセパン−2−オン、7−メチルオキセパン−2−オン、3−エチルオキセパン−2−オン、4−エチルオキセパン−2−オン、6−エチルオキセパン−2−オン、7−エチルオキセパン−2−オン、5−エチルオキセパン−2−オン、3,7−ジメチルオキセパン−2−オン、5,5−ジメチルオキセパン−2−オン、5−エチル−5−メチルオキセパン−2−オン、5,5−ジエチルオキセパン−2−オン、4,6,6−トリメチルオキセパン−2−オン、4−メチル−7−イソプロピルオキセパン−2−オン、3−ブロモカプロラクトン、4−ブロモカプロラクトン、5−ブロモカプロラクトン、6−ブロモカプロラクトン及び7−ブロモカプロラクトン等がより好ましく、式(2)で表される化合物としては、1,4−ジオキセパン−5−オン及び3−メチル−1,4−ジオキセパン−2−オン等がより好ましい。なお、本発明において、ポリカプロラクトン(poly(ε−caprolactone),PCL)ホモポリマーは、60℃に結晶の融点を有しており、その温度以上でないと流動性を持たないという性質から使用できない。非晶性セグメント(b)内において、上記したカプロラクトン誘導体は、結晶性を持つ組成でない限り、カプロラクトン又は他のカプロラクトン誘導体とランダム共重合、交互共重合又はブロック共重合してもよい。
【0022】
非晶性セグメント(b)の重量平均分子量としては、約5,000〜100,000が好ましく、良好な材料物性と加圧下での十分な流動性及び成形性を確保する、エステルの組み換え反応が起こることを防ぐ等の観点から、約10,000〜100,000がより好ましい。
【0023】
本発明のポリエステルブロック共重合体におけるセグメント(a)の含有量は、セグメント(a)とセグメント(b)の含有量の合計を100%とした場合、加圧下での成形性がより好ましい点から、約22〜76重量%が好ましい。さらに、ミクロ相分離によるラメラ構造の形成が低温成形性に望ましく、該ラメラ構造の形成に有利であることから、前記セグメント(a)の含有量は、約43〜59重量%がより好ましい。本発明のポリエステルブロック共重合体における非晶性セグメント(b)の含有量は、約78〜24重量%が好ましく、約57〜41重量%がより好ましい。
【0024】
本発明のポリエステルブロック共重合体の重量平均分子量としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、良好な材料物性、加圧下での十分な流動性及び成形性等を確保できる点から、約10,000〜300,000が好ましく、約30,000〜200,000がより好ましい。
【0025】
前記セグメント(a)のガラス転移温度(以下、Tgともいう。)は通常約25℃以上、良好な材料物性を確保する等の観点から、約50℃以上が好ましい。前記非晶性セグメント(b)のTgは、通常約−20℃以下、加熱の無い室温条件下で、加圧下での十分な流動性及び成形性を確保する等の観点から、好ましくは約−33℃以下である。
【0026】
前記(i)工程において、前記一般式(1)及び一般式(2)で表される化合物以外のモノマーを混合して重合させてもよい。該モノマーとしては、例えば、ε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、1,4,8−トリオキサスピロ[4,6]ウンデカン−9−オン、1,4−ジオキセパン−5−オン等の環状エステルが挙げられ、ε−カプロラクトン、1,4,8−トリオキサスピロ[4,6]ウンデカン−9−オン、1,4−ジオキセパン−5−オン等が特に好ましい。また、該モノマーとしては、例えば、(1S,4S)−ビシクロ[2,2,2]オクタン−2,5−ジオン、ビシクロ[3,3,1]ノナン−3−オン、(1S,5R)−6,6−ジメチルビシクロ[3,1,1]ヘプタン−2−オン、(1R,5S)−6,6−ジメチルビシクロ[3,1,1]ヘプタン−2−オン、3−メチルビシクロ[2,2,2]オクタン−2,6ジオン、4−メチルビシクロ[2,2,2]オクタン−2,6−ジオン、ビシクロ[3,3,1]ノナン−3,7−ジオン、(1R,5R)−ビシクロ[3,3,1]ノナン−2,6−ジオン、(4S)−4,6,6−トリメチルビシクロ[3,1,1]ヘプタン−2−オン、(2R)−2,6,6−トリメチルビシクロ[3,1,1]ヘプタン−3−オン、(4aS,8aR)−オクタヒドロ−1(2H)−ナフタレノン、オクタヒドロ−2(1H)−ナフタレノン、オクタヒドロ−1(2H)−ナフタレノン、8,8−ジメチルビシクロ[2,2,2]オクタン−2,6−ジオン、(4aS)−オクタヒドロ−1,4−ナフタレンジオン、オクタヒドロ−1,5−ナフタレンジオン、スピロ[5,5]ウンデカン−1−オン、3−メチルオクタヒドロ−2(1H)−ナフタレノン、ビシクロ[5,3,1]ウンデカン−9−オン、スピロ[5,5]ウンデカン−2−オン、4a−メチルオクタヒドロ−2(1H)−ナフタレノン、3,8,8−トリメチルビシクロ[2,2,2]オクタン−2,6−ジオン、(8aS)−8a−ヒドロキシオクタヒドロ−2(1H)−ナフタレノン、スピロ[5,6]ドデカン−7−オン、1,4a−ジメチルオクタヒドロ−2(1H)−ナフタレノン、スピロ[5,6]ドデカン−1−オン、4−シクロヘキシルシクロヘキサノン、(4aR,6S,8aR)−6−ヒドロキシ−5,5,8a−トリメチルオクタヒドロ−1(2H)−ナフタレノン、3,5,5,8,8−ペンタメチルオクタヒドロ−2(1H)−ナフタレノン及び3−[(1R,4aR,7S,8R,8aS)−7,8a−ジメチル−3−オキソ−8−(3−オキソブチル)デカヒドロ−1−ナフタレニル]プロパナ−ル等から公知の方法(例えば、Bayer−Villiger反応等)により得られる環状ラクトン等も挙げられる。
【0027】
また、前記モノマーは、前記一般式(1)で表される化合物及び前記一般式(2)で表される化合物からなる群から選ばれる1以上のカプロラクトン誘導体100モル部に対し、約30モル部まで用いることができる。これ以上加えると、これらの重合体であるセグメントが結晶性を有し、加熱処理なしにポリエステルブロック共重合体を製造できないおそれがあるため、好ましくない。
【0028】
本発明のポリエステルブロック共重合体は、常温で加圧成形することができる。本発明において常温とは、約5〜35℃の範囲を指す。加圧成形時の圧力は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、通常約1MPa以上であり、成形品の強度が確保される点及び成形時間が短縮される点から、約3MPa以上が好ましく、約10MPa以上がより好ましく、約30MPa以上が特に好ましい。また、加圧成型時の圧力の上限としては、特に限定されないが、成形コストの観点から、100MPa以下が好ましく、50MPa以下がさらに好ましい。
【0029】
以下、本発明のポリエステルブロック共重合体の製造方法は、特に限定されず、公知の方法を広く採用できるが、以下に、好ましい製造方法の一態様を説明する。
【0030】
本発明のポリエステルブロック共重合体は、(i)前記一般式(1)で表される化合物及び前記一般式(2)で表される化合物からなる群から選ばれる1以上のポリカプロラクトン誘導体を溶液重合させる工程(工程(i))、及び(ii)前記(i)工程で得られた重合体と、乳酸又はラクチドとを混合し、混合物中のポリマーを鎖延長反応させる工程(工程(ii))を含む製造方法によって製造することができる。
【0031】
工程(i)は、ポリカプロラクトン誘導体を溶液重合させる工程である。本工程に用いる前記一般式(1)で表される化合物及び前記一般式(2)で表される化合物は、市販のものを用いてもよく、公知の方法を用いて合成してもよい。公知の方法としては、例えば、それぞれに対応するシクロヘキサノン誘導体からBaeyer−Villiger(バイヤー・ビリガー)酸化反応によって合成する方法等が挙げられる。Baeyer−Villiger酸化反応とは、ケトンを過酸で酸化してエステルに変換する反応のことをいう。前記シクロヘキサノン誘導体は、2,3,4,5及び6位の炭素原子にアルキル基(C−:nは7以下の正の整数を表し、mは1〜10の正の整数を表す。)及び/又はハロゲンを一つ以上有するものであって、4位にエチレンケタールを有するものを除く。
【0032】
前記工程(i)で用いられる溶媒としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されるものではないが、例えば、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン及び1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール等のハロゲン化炭化水素;ベンゼン、トルエン及びキシレン等の芳香族炭化水素;ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)及びジフェニルエーテル等のエーテル系溶媒等の非極性溶媒並びにアセトン、N−メチルピロリドン(NMP)、N、N−ジメチルホルムアミド(DMF)及びジメチルスルホキシド(DMSO)等の極性非プロトン性溶媒等が挙げられ、カプロラクトン誘導体との反応性及び重合用触媒との反応性から、トルエン及びジフェニルエーテルが好ましく挙げられ、反応速度をより高める点からジフェニルエーテルが特に好ましい。これらはいずれも、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の割合で併用してもよい。
【0033】
前記工程(i)の重合反応には触媒が好ましく用いられ、前記触媒としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されるものではないが、例えば、スズ系触媒(オクチル酸スズ(II)(ビス(2−エチルヘキサン酸)スズ(II))、塩化スズ等)、アンチモン系触媒、亜鉛系触媒、チタン系触媒、鉄系触媒、銅系触媒(塩化銅(II)等)イットリウム系触媒(イットリウムイソプロポキシド等)及びアルミニウム系触媒(塩化アルミニウム、アルミニウムイソプロポキシド等)等が挙げられ、反応性の高さ及び安定性から、特にオクチル酸スズ(II)(ビス(2−エチルヘキサン酸)スズ(II))等のスズ系触媒及びアルミニウムイソプロポキシド等のアルミニウム系触媒等が好ましい。前記触媒は、特に限定されないが、反応原料の総量に対して約0.01〜1重量%用いるのが好ましい。
【0034】
前記工程(i)における反応温度は、特に限定されないが、約80〜200℃が好ましく、約100〜180℃がより好ましく、約110〜140℃が特に好ましい。反応時間は、特に限定されないが、約5〜50時間が好ましく、約15〜25時間がより好ましい。
【0035】
前記工程(ii)で加える乳酸またはラクチドの量は、ミクロ相分離構造の形成に有利である点から、前記工程(i)で用いた前記一般式(1)で表される化合物及び前記一般式(2)で表される化合物100重量%に対し、約25〜400重量%が好ましく、約50〜150重量%がより好ましい。
【0036】
前記工程(ii)において、前記セグメント(a)の原料としては、単量体の乳酸を用いてもよく、二量体のラクチドを用いてもよい。乳酸については、上記のとおりである。ラクチドとしては、L体のみであっても、D体のみであっても、L体とD体との混合物であってもよい。前記乳酸及びラクチドとしては、市販のものを使用できる。また、前記乳酸及びラクチドは、本工程に使用される前に、公知の方法によって精製されるのが好ましい。前記精製方法としては本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えば、乳酸は減圧蒸留等が好ましく挙げられ、ラクチドは無水トルエン等の溶媒を用いた再結晶等が好ましく挙げられる。
【0037】
前記工程(ii)における反応温度は、特に限定されないが、80〜200℃が好ましく、約100〜180℃がより好ましく、約110〜140℃が特に好ましい。反応時間は、特に限定されないが、約5〜50時間が好ましく、約15〜25時間がより好ましい。
【0038】
前記工程(ii)で得られる本発明の生分解性ポリエステルブロック共重合体の溶液は、公知の方法により分離、精製を行い、前記生分解性ポリエステルブロック共重合体を単離できる。例えば、メタノール等の溶媒中に再沈殿させる等の方法が挙げられる。
【0039】
また、前記工程(i)又は工程(ii)において、必要に応じて顔料、酸化防止剤、可塑剤、帯電防止剤、艶消剤、劣化防止剤、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、滑り剤、核剤、金属粉、無機フィラー、カーボンブラック、増粘剤、粘度安定剤、乳化剤等を任意の割合で添加してもよい。さらに、得られたポリエステルブロック共重合体に、前記した顔料、酸化防止剤、可塑剤、帯電防止剤、艶消剤、劣化防止剤、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、滑り剤、核剤、金属粉、無機フィラー、カーボンブラック、増粘剤、粘度安定剤及び乳化剤等を混合して使用してもよい。
【0040】
本発明の生分解性ポリエステルブロック共重合体は、引張強度及び引張伸度等の機械的強度、低温成形性、他樹脂との相溶性等において優れ、ポリプロピレン(PP)、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリスチレン(PS)及びポリエチレンテレフタラート(PET)等の代替材料として使用することができる。物性はモノマーの化学構造、ブロック組成及び分子量等によって適宜調節できるが、例えば、引張強度1MPa〜1GPa及び/又は引張伸度約0.1〜100%のものが、既存の汎用プラスチック材料の代替となり得る点から好ましい。
【0041】
また、室温で加圧成形できるため、成形加工の際、加熱処理工程及び加熱処理用の装置等を要しない点においても優れる。加熱処理を要しないことにより、本発明のポリエステルブロック共重合体をポリプロピレン(PP)、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリスチレン(PS)及びポリエチレンテレフタラート(PET)等の代替材料として使用すれば、ポリプロピレン(PP)等と比較して、成形加工時において約8.47×1013kcal/年の熱量削減と焼却処理時において約2100万トン/年のCO排出削減が可能となる。さらに、圧力を加えるだけで成形加工できる点で、リサイクルにおける利用性が高く、ごみの排出量も削減することができる。
【0042】
本発明のポリエステルブロック共重合体を成形する方法としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えば、射出成形法、圧縮成形法、押し出し成型法、中空成形法及び真空成形法等が挙げられ、加圧のみによる成形可能性という特質から、特に射出成形法、圧縮成形法及び押し出し成形法等が好ましく挙げられる。また、各成形法において、通常の樹脂成形に使用する既存の設備を利用できる。
【0043】
本発明のポリエステルブロック共重合体をリサイクルする方法としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されず、公知の方法を広く用いることができるが、加圧のみによる成形が可能であるため、加熱溶融工程等を有さなくてもよい。再成形時に加熱工程等を有しないことにより、材料物性の低下が防止されるため、繰り返しリサイクルすることができる。また、粉砕工程等も有さなくてよい。この場合、より省エネルギーでのリサイクルが可能であり、コスト面においても有利である。
【0044】
本発明のポリエステルブロック共重合体は、微生物等によって加水分解され得るため、埋め立て及びコンポスト処理(堆肥化)が可能である。アルカリ等を用いた加水分解も可能であり、例えば、50℃、pH12のアルカリ水溶液中では約一週間で分解される。
【0045】
セグメント(a)及びセグメント(b)をそれぞれ選択的に分解することも可能である。セグメント(a)のみを分解するためには、例えば、プロテイネースK(Proteinase K)水溶液に浸漬する等の方法が挙げられ、セグメント(b)のみを分解するためには、例えば、リパーゼ水溶液に浸漬する等の方法が挙げられる。各セグメントを選択的に分解することにより、残ったセグメントのナノシート構造が得られる。これは、本発明のポリエステルブロック共重合体のラメラ構造によるものであると考えられる。
【実施例】
【0046】
以下に実施例を示し、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0047】
(合成例1:5−メチルオキセパン−2−オンの合成)
18.5g(107mmol)の3−クロロ過安息香酸(シグマアルドリッチ社製)を200mLのジクロロメタン中に溶解させ、10g(89.2mmol)の4−メチルシクロヘキサノン(シグマアルドリッチ社製)を加えて40℃で一晩還流した。反応溶液を氷冷し、ろ過した。得られたろ液を飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液で3回、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で3回、及び水で1回洗浄した。有機相を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去して、5−メチルオキセパン−2−オンを得た。収率は95%であった。前記5−メチルオキセパン−2−オンは減圧蒸留によって精製した。
【0048】
(合成例2:2−ブロモシクロヘキサノンの合成)
シクロヘキサノン60g(63mmol)(シグマアルドリッチ社製)を400mLの水中で顕濁させ、臭素98g(31.5mmol)(東京化成社製)を室温で滴下して反応させて2−ブロモシクロヘキサノンを合成した。精製は減圧蒸留によって行った。収率は90%であった。
【0049】
(合成例3:3−ブロモカプロラクトンの合成)
合成例2で得た2−ブロモシクロヘキサノン21g(120mmol)を、150mLのジクロロメタン中に溶解させ、30g(130mmol、25%水)の3−クロロ過安息香酸を加えて4時間撹拌した。反応溶液を氷冷し、濾過した。得られたろ液を飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液で3回、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で3回、及び水で1回洗浄した。有機相を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去して、3−ブロモカプロラクトンを得た。収率は92%であった。前記3−ブロモカプロラクトンは減圧蒸留によって精製した。
【0050】
(合成例4:5−エチルオキセパン−2−オンの合成)
4−エチルシクロヘキサノン(シグマアルドリッチ社製)15g(120mmol)を、150mLのジクロロメタン中に溶解させ、30g(130mmol、25%水)の3−クロロ過安息香酸を加えて4時間撹拌した。反応溶液を氷冷し、濾過した。得られたろ液を飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液で3回、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で3回、及び水で1回洗浄した。有機相を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去して、5−エチルオキセパン−2−オンを得た。収率は98%であった。前記5−エチルオキセパン−2−オンは減圧蒸留によって精製した。
【0051】
(実施例1:工程(i))
合成例1で得た5−メチルオキセパン−2−オン10g(78mmol)を10gのジフェニルエーテルに溶解した。この溶液に、20mg(49mmol)のオクチル酸スズと30mg(0.65mmol)のエタノールを加えた。この操作は全てグローブボックスの中(無水条件)で行った。反応溶液を120℃で24時間撹拌して、ポリ4−メチルカプロラクトンを合成した。反応の終了はH NMR測定によってモノマーである5−メチルオキセパン−2−オンのピークが消失することによって決定した。
【0052】
(実施例1:工程(ii))
ポリ4−メチルカプロラクトンの合成反応完了後に、反応容器を常温に徐冷した。乳酸2量体ラクチド(L−(−)−ラクチド、PLLA)は無水トルエン中で2回再結晶を行うことによって精製した。精製したラクチド10g(69.4mmol)をグローブボックス内で所定量反応容器に添加し、120℃で24時間撹拌した。反応終了後、得られたポリ4−メチルカプロラクトンとポリ乳酸のブロック共重合体をメタノール中に再沈殿することによって精製した。
【0053】
得られたブロック共重合体の分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定したところ、重量平均分子量は、158,000であった。また、示差走査熱量計 DSC−60測定システム(型式:DSC−60、島津製作所社製)を用いた示差走査熱量測定法(熱流束DSC)によって、得られた化合物を評価したところセグメント(b)は非晶性であり、ガラス転移温度が−66℃であった。前記ブロック共重合体のポリ乳酸含率を、核磁気共鳴装置(H NMR;JEOL社製、JNM−ECP400 FT−NMR)を用いて測定(400MHz、CDCl)したところ、48重量%であった。
【0054】
(実施例2)
5−メチルオキセパン−2−オン10gの代わりに、合成例3で得た3−ブロモカプロラクトン10g(52mmol)を使用した以外は、実施例1と同様にして、ポリ2−ブロモカプロラクトンとポリ乳酸のブロック共重合体を得た。前記ブロック共重合体の重量平均分子量は98,000、ポリ乳酸含率は51重量%であった。また、セグメント(b)は非晶性であり、ガラス転移温度は−54℃であった。
【0055】
(実施例3)
5−メチルオキセパン−2−オン10gの代わりに、合成例3で得た3−ブロモカプロラクトン3g(16mmol)を使用した以外は、実施例1と同様にして、ポリ2−ブロモカプロラクトンとポリ乳酸のブロック共重合体を得た。前記ブロック共重合体の重量平均分子量は66,000、ポリ乳酸含率は22重量%であった。また、セグメント(b)は非晶性であり、ガラス転移温度は−58℃であった。
【0056】
(実施例4)
5−メチルオキセパン−2−オン10gの代わりに、合成例3で得た3−ブロモカプロラクトン9g(47mmol)を使用した以外は、実施例1と同様にして、ポリ2−ブロモカプロラクトンとポリ乳酸のブロック共重合体を得た。前記ブロック共重合体の重量平均分子量は107,000、ポリ乳酸含率は43重量%であった。また、セグメント(b)は非晶性であり、ガラス転移温度は−61℃であった。
【0057】
(実施例5)
5−メチルオキセパン−2−オン10gの代わりに、合成例3で得た3−ブロモカプロラクトン15g(78mmol)を使用した以外は、実施例1と同様にして、ポリ2−ブロモカプロラクトンとポリ乳酸のブロック共重合体を得た。前記ブロック共重合体の重量平均分子量は126,000、ポリ乳酸含率は59重量%であった。また、セグメント(b)は非晶性であり、ガラス転移温度は−53℃であった。
【0058】
(実施例6)
5−メチルオキセパン−2−オン10gの代わりに、合成例3で得た3−ブロモカプロラクトン30g(155mmol)を使用した以外は、実施例1と同様にして、ポリ2−ブロモカプロラクトンとポリ乳酸のブロック共重合体を得た。前記ブロック共重合体の重量平均分子量は184,000、ポリ乳酸含率は76重量%であった。また、セグメント(b)は非晶性であり、ガラス転移温度は−56℃であった。
【0059】
(実施例7)
5−メチルオキセパン−2−オンの使用量を10gから11g(86mmol)に変更した以外は、実施例1と同様にして、ポリ4−メチルカプロラクトンとポリ乳酸のブロック共重合体を得た。前記ブロック共重合体の重量平均分子量は68,000、ポリ乳酸含率は51重量%であった。また、セグメント(b)は非晶性であり、ガラス転移温度は−66℃であった。
【0060】
(実施例8)
5−メチルオキセパン−2−オン10gの代わりに、合成例4で得た5−エチルオキセパン−2−オン12g(94mmol)を使用した以外は、実施例1と同様にして、ポリ4−エチルカプロラクトンとポリ乳酸のブロック共重合体を得た。前記ブロック共重合体の重量平均分子量は62,000、ポリ乳酸含率は53重量%であった。また、セグメント(b)は非晶性であり、ガラス転移温度は−48℃であった。
【0061】
(実施例9)
5−メチルオキセパン−2−オン10gの代わりに、ε−カプロラクトン(和研薬社製)1g(9mmol、減圧蒸留にて精製)と5−メチルオキセパン−2−オン9g(70mmol)との混合物を使用した以外は、実施例1と同様にして、ポリ(ε−カプロラクトン−r−4−メチルカプロラクトン)とポリ乳酸のブロック共重合体を得た。前記ブロック共重合体の重量平均分子量は82,000、ポリ乳酸含率は48重量%であった。また、セグメント(b)は非晶性であり、ガラス転移温度は−33℃であった。
【0062】
(比較例1)
5−メチルオキセパン−2−オン10gの代わりに、ε−カプロラクトン10g(88mmol、減圧蒸留にて精製)を使用した以外は、実施例1と同様にして、ポリε−カプロラクトンとポリ乳酸のブロック共重合体を得た。前記ブロック共重合体の重量平均分子量は170,000、ポリ乳酸含率は50重量%であった。また、セグメント(b)は結晶性であり、ガラス転移温度は−60℃であった。
【0063】
(比較例2)
5−メチルオキセパン−2−オン10gの代わりに、β−ブチロラクトン(東京化成社製)10g(119mmol、減圧蒸留にて精製)を使用した以外は、実施例1と同様にして、ポリβ−ブチロラクトンとポリ乳酸のブロック共重合体を得た。前記ブロック共重合体の重量平均分子量は55,000、ポリ乳酸含率は73重量%であった。また、セグメント(b)は非晶性であり、ガラス転移温度は−0℃であった。
【0064】
(試験例1)
実施例1で得られたブロック共重合体を小角散乱測定装置(製品名:Nano−Viewer、リガク(Rigaku)社製)で評価したところ、平均構造周期が11nmのラメラ構造に由来するピークが観察され、前記ブロック共重合体はミクロ相分離構造を有していることがわかった。結果を図1に示す。また、圧力を0.1MPa、25MPa、50MPaと増加させることで前記ピークが減少し、その後、圧力を25MPa、0.1MPaと減少させることで前記ピークが増加することが観察された。このことから、前記ブロック共重合体において、圧力を上げると相分離構造が解消され、圧力を下げると可逆的に相分離構造が回復することがわかった。
【0065】
(試験例2)
実施例2で得られた、図2に示すような粉末状のブロック共重合体を、30MPaの圧力下、5分間室温で加圧して、その成形性を評価した。加圧には市販のハンドポンプNT−50H(NPaシステム社製)を用いた。加圧成形の結果を図3に示す。図3の左の試料が1回加圧成形を行った後、右の試料が前記条件で5回加圧成形を行った後のブロック共重合体である。複数回成形は、成形後の試料を液体窒素に浸漬し、粉砕することによって得られた粉体を用いて行った。これより、本発明のポリエステルブロック共重合体は繰り返し加圧成形できることが確認された。
【0066】
(試験例3)
本発明のポリエステルブロック共重合体の力学的物性を評価するために、JIS K6251規格に基づき、引張試験を行った。試料は、実施例1のブロック共重合体を試験例2と同様の方法で成形(1回、5回)したものを用いてダンベル状7号形の試験片を作製した。引張速度10mm/分で行った結果を以下の表1に示す。これより、成形回数によらず、物性は変化しないことが確認された。
【0067】
【表1】

【0068】
(試験例4)
実施例1〜9及び比較例1〜2で得たブロック共重合体並びに市販のポリ乳酸(シグマアルドリッチ社製、Tg:65℃、重量平均分子量:78,000)及びポリカプロラクトン(シグマアルドリッチ社製、Tg:−60℃、重量平均分子量:45,000)に関し、それぞれ加圧下での成形性及び上記引張試験(JIS K6251、成形回数1回の試料を使用)を行った結果を表2に示す。加圧下での成形性は、30MPaの圧力下、5分間室温で加圧することにより評価した。「◎」は特に成形性が良好なものを、「○」は成形可能なものを、「×」は全く成形できないものを表す。比較例1〜2、ポリ乳酸及びポリカプロラクトンは全く成形できなかったため、引張伸度の測定ができなかった。
【0069】
【表2】

【0070】
実施例1〜9のブロック共重合体はいずれも加圧により室温成形性を有するのに対し、比較例1〜2のものは、実施例1〜9と同条件で全く成形できなかった。これより、加圧による室温成形性は、本発明のポリエステルブロック共重合体に特有のものであることが確認された。また、本発明のポリエステルブロック共重合体は、その組成、構造式等により、引張伸度を幅広く制御できることが確認された。
【0071】
合成例3で得た3−ブロモカプロラクトン10g(52mmol)を10gのジフェニルエーテルに溶解した。この溶液に、20mg(49mmol)のオクチル酸スズと300mg(6.5mmol)のエタノールを加えた。この操作は全てグローブボックスの中(無水条件)で行った。反応溶液を120℃で24時間撹拌して、ポリ2−ブロモカプロラクトンを合成した。次に実施例1と同様にして、ポリ2−ブロモカプロラクトンとポリ乳酸のブロック共重合体を得た。前記ブロック共重合体の重量平均分子量は20,000、ポリ乳酸含率は49重量%であった。前記ブロック共重合体を3MPaの圧力下で5分間加圧したところ、成形体が得られた。加圧には市販のハンドポンプNT−50H(NPaシステム社製)を用いた。また、前記ブロック共重合体を30MPaの圧力下で加圧したところ、1秒間の加圧で成形体が得られた。これより、本発明のポリエステルブロック共重合体は、重量平均分子量及び加圧時の圧力等によって、その成形性を制御できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明のポリエステルブロック共重合体は、常温で高圧をかけることによって成形できるため、成形に加熱工程を必要としない。さらに複数回の成形によってもその物性が変化しないため、容易にリサイクルすることができる。このことから、本発明のポリエステルブロック共重合体を利用することで、成形にかかるエネルギーを大幅に削減できる。本発明のポリエステルブロック共重合体は、透明で、高い靭性及び耐衝撃性を有するため、汎用されている既存のプラスチックの代替材料として広く利用できる。具体的には、本発明のポリエステルブロック共重合体は、生鮮食品のトレー、食品容器(例えばインスタント食品、惣菜又はファーストフード等)、弁当箱、飲料容器等の包装用フィルム・容器;紙オムツ、生理用品等の衛生用品;ペンケース、芯ケース、髭剃り、歯ブラシ、コップ、ゴミ袋、水切り、クッション材等の事務用品、日用品、文具、雑貨等;食品用包装フィルム、飲料用パックの内部コーティング等;ゴルフ、釣り、マリンスポーツ、登山等のディスポーザブル製品;荒地若しくは砂漠の緑用化又は工事用等の保水シート、土のう用袋、植生ネット等の土木又は建設資材等に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸からなるセグメント(a)(以下、セグメント(a)ともいう。)と、下記一般式(1)
【化1】

(式中、R〜R10は、それぞれ同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、オキソ基、アミノ基、ニトロ基、ニトリル基、ビニル基、カルボキシル基、置換基を有していてもよい直鎖、分岐若しくは環状の炭素数1〜10のアルキル基又は置換基を有していてもよい直鎖、分岐若しくは環状の炭素数1〜10のアルコキシ基を示す。ただし、R〜R10の全てが水素原子である場合を除く。)
で表される化合物及び下記一般式(2)
【化2】

(式中、R11及びR15は、同一又は異なって、置換基を有していてもよいメチレン基を表し、R12、R13及びR14は、それぞれ同一又は異なって、置換基を有していてもよいメチレン基、酸素原子、窒素原子又は硫黄原子を表す(前記置換基に炭素が含まれる場合、炭素数は1〜10であるものとする。)。ただし、R11、R12、R13、R14及びR15の全てが置換基を有しないメチレン基である場合、及びR13が酸素原子であって、R11、R12、R14及びR15の全てが置換基を有しないメチレン基である場合を除く。)
で表される化合物からなる群から選ばれる1以上のカプロラクトン誘導体を重合させて得られるセグメントであり、そのガラス転移温度が−33℃以下である非晶性セグメント(b)(以下、セグメント(b)ともいう。)とからなることを特徴とする生分解性ポリエステルブロック共重合体。
【請求項2】
前記セグメント(b)が、下記一般式(1)
【化3】

(式中、R〜R10は、それぞれ同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい直鎖、分岐若しくは環状の炭素数1〜10のアルキル基又は置換基を有していてもよい直鎖、分岐若しくは環状の炭素数1〜10のアルコキシ基を示す。ただし、R〜R10の全てが水素原子である場合を除く。)
で表される1以上のカプロラクトン誘導体を重合させて得られるセグメントであることを特徴とする請求項1に記載の生分解性ポリエステルブロック共重合体。
【請求項3】
前記非晶性セグメント(b)が、3−メチルオキセパン−2−オン、4−メチルオキセパン−2−オン、5−メチルオキセパン−2−オン、6−メチルオキセパン−2−オン、7−メチルオキセパン−2−オン、3−エチルオキセパン−2−オン、4−エチルオキセパン−2−オン、5−エチルオキセパン−2−オン、6−エチルオキセパン−2−オン、7−エチルオキセパン−2−オン、3,7−ジメチルオキセパン−2−オン、5,5−ジメチルオキセパン−2−オン、5−エチル−5−メチルオキセパン−2−オン、5,5−ジエチルオキセパン−2−オン、4,6,6−トリメチルオキセパン−2−オン、4−メチル−7−イソプロピルオキセパン−2−オン、3−ブロモカプロラクトン、4−ブロモカプロラクトン、5−ブロモカプロラクトン、6−ブロモカプロラクトン、7−ブロモカプロラクトン、1,4−ジオキセパン−5−オン及び3−メチル−1,4−ジオキセパン−2−オンからなる群から選ばれる1以上のカプロラクトン誘導体を重合させて得られるセグメントであることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリエステルブロック共重合体。
【請求項4】
前記セグメント(a)22〜76重量%と、前記セグメント(b)78〜24重量%とからなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の生分解性ポリエステルブロック共重合体。
【請求項5】
前記セグメント(a)43〜59重量%と、前記セグメント(b)57〜41重量%とからなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリエステルブロック共重合体。
【請求項6】
前記セグメント(a)の重量平均分子量が、5,000〜100,000であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のポリエステルブロック共重合体。
【請求項7】
前記非晶性セグメント(b)の重量平均分子量が、5,000〜100,000であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のポリエステルブロック共重合体。
【請求項8】
(i)下記一般式(1)
【化4】

(式中、R〜R10は、それぞれ同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、オキソ基、アミノ基、ニトロ基、ニトリル基、ビニル基、カルボキシル基、置換基を有していてもよい直鎖、分岐若しくは環状の炭素数1〜10のアルキル基又は置換基を有していてもよい直鎖、分岐若しくは環状の炭素数1〜10のアルコキシ基を示す。ただし、R〜R10の全てが水素原子である場合を除く。)
で表される化合物及び下記一般式(2)
【化5】

(式中、R11及びR15は、同一又は異なって、置換基を有していてもよいメチレン基を表し、R12、R13及びR14は、それぞれ同一又は異なって、置換基を有していてもよいメチレン基、酸素原子、窒素原子又は硫黄原子を表す(前記置換基に炭素原子が含まれる場合、炭素数は1〜10であるものとする。)。ただし、R11、R12、R13、R14及びR15の全てが置換基を有しないメチレン基である場合、及びR13が酸素原子であって、R11、R12、R14及びR15の全てが置換基を有しないメチレン基である場合を除く。)
で表される化合物
からなる群から選ばれる1以上のカプロラクトン誘導体を溶液重合させる工程(以下、工程(i)ともいう)、及び
(ii)前記工程(i)で得られた重合体と、乳酸又はラクチドとを混合し、混合物中のポリマーを鎖延長反応させる工程(以下、工程(ii)ともいう)を含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の生分解性ポリエステルブロック共重合体の製造方法。
【請求項9】
前記工程(i)において、触媒を使用し、前記触媒が、オクチル酸スズ(II)、アルミニウムイソプロポキシド及びイットリウムイソプロポキシドからなる群から選ばれる1以上であることを特徴とする請求項8に記載のポリエステルブロック共重合体の製造方法。
【請求項10】
前記溶液重合に用いる溶媒が、ジフェニルエーテル及びトルエンからなる群から選ばれる1以上の溶媒であることを特徴とする請求項8又は9に記載のポリエステルブロック共重合体の製造方法。
【請求項11】
常温で加圧する工程を有し、加熱する工程を有さず、前記加圧時の圧力が3MPa以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のポリエステルブロック共重合体からなる成形品の成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−214599(P2012−214599A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80378(P2011−80378)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(591178012)公益財団法人地球環境産業技術研究機構 (153)
【Fターム(参考)】