説明

室温硬化性フルオロポリエーテル系ゴム組成物及びその硬化物

【課題】空気中、経時で吸湿することによって引き起こされる硬化阻害を抑制し、初期の硬化特性及び硬化後物性を維持できる長期保存安定性に優れた室温硬化性フルオロポリエーテル系ゴム組成物及びその硬化物を提供する。
【解決手段】(a)1分子中に少なくとも2個のエステル基を有し、かつ主鎖中に2価のパーフルオロアルキルエーテル構造を有する数平均分子量3,000〜100,000である直鎖状フルオロポリエーテル化合物を含むベースコンパウンド、並びに(b)1分子中にアミノ基を少なくとも3個含有するシロキサンポリマー及び(c)平均粒径が30μm以下のモレキュラーシーブを含む架橋剤コンパウンドからなり、使用時に上記ベースコンパウンドと架橋剤コンパウンドとが混合されてなることを特徴とする室温硬化性フルオロポリエーテル系ゴム組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミド架橋タイプの室温硬化性フルオロポリエーテル系ゴム組成物及びその硬化物に関するものであり、詳しくは、その架橋剤成分である1分子中にアミノ基を少なくとも3個含有するシロキサンポリマーが、空気中、経時で吸湿することによって引き起こされる硬化阻害を抑制し、初期の硬化特性及び硬化後物性を維持できる長期保存安定性に優れた室温硬化性フルオロポリエーテル系ゴム組成物及びその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
室温硬化性フルオロポリエーテル系ゴム組成物は、室温中で比較的短時間で硬化し、耐熱性、低温性、耐薬品性、耐溶剤性、耐油性などに優れた硬化物を与えることから、加熱炉に入らないような大型部品や加熱不可部品、耐薬品性、耐溶剤性を必要とするシール材などへの応用が期待されている。
本出願人は、先に特開2011−57809号公報(特許文献1)において、室温硬化性フルオロポリエーテル系ゴム組成物の硬化剤成分として、例えば下記一般式で示されるアミノ基の一部にフッ素変性基を導入したフッ素変性アミノ基含有オルガノポリシロキサンを採用し得ることを示した。このポリマーは常温で液状であり、また1分子中に多数の一級アミノ基を有し、かつフッ素変性基によりフルオロポリマーへの良好な分散性を有していることから、液状の室温硬化性フルオロポリエーテル系ゴム組成物における架橋剤成分として良好に作用するものである。
しかし、該フッ素変性アミノ基含有オルガノポリシロキサンは、空気中、経時で吸湿が起こり、この吸湿水の影響によって組成物が硬化阻害を引き起こすために、貯蔵後の組成物の硬化特性や硬化後の硬化物の硬さなどの物性に悪影響を与える場合があるという問題があった。
【化1】

(式中、aは3〜50、好ましくは3〜20、bは1〜50、好ましくは1〜10、a+b=4〜100、cは0〜100、好ましくは1〜30を満足する整数である。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−57809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、アミド架橋タイプの室温硬化性フルオロポリエーテル系ゴム組成物及びその硬化物であって、その架橋剤成分である1分子中にアミノ基を少なくとも3個含有するシロキサンポリマーが、空気中、経時で吸湿することによって引き起こされる硬化阻害を抑制し、初期の硬化特性及び硬化後物性を維持できる長期保存安定性に優れた室温硬化性フルオロポリエーテル系ゴム組成物及びその硬化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するため、鋭意検討を行なった結果、従来の室温硬化性フルオロポリエーテル系ゴム組成物の架橋剤成分に平均粒径が30μm以下のモレキュラーシーブを配合することにより、架橋剤成分が、空気中、経時で吸湿することによって引き起こされる硬化阻害を抑制し、初期の硬化特性及び硬化後物性を維持できるようにした長期保存安定性に優れた室温硬化性フルオロポリエーテル系ゴム組成物及びその硬化物が得られることを見出し、本発明をなすに至った。
【0006】
従って、本発明は、下記室温硬化性フルオロポリエーテル系ゴム組成物及びその硬化物を提供する。
請求項1:
(a)1分子中に少なくとも2個のエステル基を有し、かつ主鎖中に2価のパーフルオロアルキルエーテル構造を有する数平均分子量3,000〜100,000である直鎖状フルオロポリエーテル化合物:100質量部、
(b)1分子中にアミノ基を少なくとも3個含有するシロキサンポリマー:(b)成分中のアミノ基の合計量/(a)成分中のエステル基の合計量=1.0〜5.0(モル比)となる量、及び
(c)平均粒径が30μm以下のモレキュラーシーブ:(b)成分100質量部に対し1〜20質量部
を含有してなることを特徴とする室温硬化性フルオロポリエーテル系ゴム組成物。
請求項2:
(a)成分を主成分とするベースコンパウンドと(b)及び(c)成分を主成分とする架橋剤コンパウンドとからなる二成分型である請求項1記載の室温硬化性フルオロポリエーテル系ゴム組成物。
請求項3:
(b)成分が、下記式(iv)〜(vii)のアミノ基含有シロキサンポリマーから選ばれることを特徴とする請求項1又は2記載の室温硬化性フルオロポリエーテル系ゴム組成物。
【化2】

(式中、nは3〜50の整数である。)
【化3】

(式中、nは3〜50の整数である。)
【化4】

(式中、aは3〜50、bは1〜50、a+b=4〜100、cは0〜100を満足する整数である。)
【化5】

(式中、aは3〜50、bは1〜50、a+b=4〜100、nは1〜10を満足する整数である。)
請求項4:
(a)成分が、下記一般式(1)で表される化合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の室温硬化性フルオロポリエーテル系ゴム組成物。
ROOC−Rf−COOR’ (1)
(式中、Rfは2価のパーフルオロアルキルエーテル構造であり、R及びR’は同一又は異種の炭素数1〜8の置換又は非置換の1価炭化水素基である。)
請求項5:
Rfが、下記式(i)〜(iii)から選ばれる2価のパーフルオロアルキルエーテル基であることを特徴とする請求項4記載の室温硬化性フルオロポリエーテル系ゴム組成物。
【化6】

(式中、p及びqは1〜150の整数であって、かつpとqの和は、2〜200である。また、rは0〜6の整数、tは2又は3である。)
【化7】

(式中、uは1〜200の整数、vは1〜50の整数、tは上記と同じである。)
【化8】

(式中、xは1〜200の整数、yは1〜50の整数、tは上記と同じである。)
請求項6:
請求項1〜5のいずれか1項記載の室温硬化性フルオロポリエーテル系ゴム組成物を硬化させることにより得られることを特徴とする硬化物。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、従来の室温硬化性フルオロポリエーテル系ゴム組成物の架橋剤成分が、空気中、経時で吸湿することによって引き起こされる硬化阻害を抑制し、初期の硬化特性及び硬化後物性を維持できる長期保存安定性に優れた室温硬化性フルオロポリエーテル系ゴム組成物及びその硬化物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例の組成物による初期、30℃,90%RHにて2ヶ月及び5ヶ月保存後の室温硬化性の評価に関するグラフである。
【図2】比較例の組成物による初期、30℃,90%RHにて2ヶ月及び5ヶ月保存後の室温硬化性の評価に関するグラフである。
【図3】実施例、比較例のそれぞれの組成物による初期、30℃,90%RHにて2ヶ月及び5ヶ月保存後の硬化物物性のうち、硬さに関するグラフである。
【図4】実施例、比較例のそれぞれの組成物による初期、30℃,90%RHにて2ヶ月及び5ヶ月保存後の硬化物物性のうち、引張強さに関するグラフである。
【図5】実施例、比較例のそれぞれの組成物による初期、30℃,90%RHにて2ヶ月及び5ヶ月保存後の硬化物物性のうち、切断時伸びに関するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明についてより詳細に説明する。
本発明の室温硬化性フルオロポリエーテル系ゴム組成物は、(a)直鎖状フルオロポリエーテル化合物、(b)アミノ基含有シロキサンポリマー、及び(c)モレキュラーシーブを必須成分としてなる。
【0010】
(a)直鎖状フルオロポリエーテル化合物
(a)成分の直鎖状フルオロポリエーテル化合物は、室温硬化性フルオロポリエーテル系ゴム組成物の主成分ポリマー(ベースポリマー)であり、1分子中に少なくとも2個のエステル基を有し、かつ主鎖中に2価のパーフルオロアルキルエーテル構造を有する数平均分子量が3,000〜100,000の範囲のものであり、好ましくは、分子鎖両末端にそれぞれエステル基を有する直鎖状のフルオロポリエーテル化合物である。
【0011】
係る(a)成分としては、下記一般式(1)で表される化合物を挙げることができる。
ROOC−Rf−COOR’ (1)
(式中、Rfは2価のパーフルオロアルキルエーテル構造であり、R及びR’は同一又は異種の炭素数1〜8の置換又は非置換の1価炭化水素基である。)
【0012】
ここで、2価のパーフルオロアルキルエーテル構造として、例えば下記一般式(i)、(ii)、(iii)で表される構造を挙げることができる。
【0013】
【化9】

(式中、p及びqは1〜150の整数であって、かつpとqの和は、2〜200である。また、rは0〜6の整数、tは2又は3である。)
【0014】
【化10】

(式中、uは1〜200の整数、vは1〜50の整数、tは上記と同じである。)
【0015】
【化11】

(式中、xは1〜200の整数、yは1〜50の整数、tは上記と同じである。)
【0016】
この(a)成分の直鎖状フルオロポリエーテル化合物中のエステル基における置換又は非置換の1価炭化水素基R,R’としては、炭素数1〜8、特に炭素数1〜3のものが好ましく、例えば、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基等のアルキル基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基やこれらの基の水素原子の一部がフッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子で置換されたものなどが挙げられるが、特に炭素数1〜3のアルキル基が好ましい。
【0017】
上記(a)成分の直鎖状フルオロポリエーテル化合物は、例えば、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)−225等のフッ素系有機溶媒などを展開溶媒として、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によるポリスチレン換算の数平均分子量が3,000〜100,000、特に3,000〜50,000であることが望ましい。数平均分子量が3,000未満では、機械的強度に劣る場合があり、数平均分子量が100,000超えると、作業性に劣る場合があるので好ましくない。
【0018】
一般式(1)で表される直鎖状フルオロポリエーテル化合物の具体例としては、下記式で表されるものが挙げられ、これらの化合物は単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0019】
【化12】

(式中、m及びnはそれぞれ0〜600,m+n=20〜600、h、i、j及びkはh+i+j+k=20〜1,000を満足する整数を示す。)
【0020】
(b)アミノ基含有シロキサンポリマー
(b)成分のアミノ基含有シロキサンポリマーは、上記(a)成分の架橋剤、鎖長延長剤として作用するものである。1分子中にアミノ基、特には1級アミノ基を少なくとも3個以上含有するシロキサンポリマーであれば特に制限されるものではない。
【0021】
また、上記(b)成分のシロキサンポリマーの(a)成分への分散性を向上させる意味で、必要に応じて1分子中に1個以上のフッ素変性基をアミノ基に導入してもよい。ここでのフッ素変性基とは、例えば1価のパーフルオロアルキル基、1価のパーフルオロアルキルエーテル基などがこれに該当し、分子構造は鎖状、分岐状のいずれでもよい。その代表例としては下記一般式で示される基を例示することができるが、これに限定されるものではない。
【0022】
【化13】

(式中、gは1〜6、好ましくは4〜6の整数である。)
【0023】
【化14】

(式中、fは2〜200、好ましくは2〜100、hは1〜3の整数である。)
【0024】
【化15】

(式中、d及びeはそれぞれ1〜50の整数である。)
【0025】
これらパーフルオロアルキル基及びパーフルオロアルキルエーテル基は、例えば下記の含フッ素末端エステル化合物とし、特開平7−18079号公報に従いアミノ基含有シロキサンポリマーのアミノ基に脱アルコール反応などによって導入することができる。但し、末端エステル化合物としては以下に限定されるものではない。
【0026】
【化16】

(式中、gは1〜6、好ましくは4〜6の整数である。)
【0027】
【化17】

(式中、fは2〜200、好ましくは2〜100、hは1〜3の整数である。)
【0028】
【化18】

(但し、d及びeはそれぞれ1〜50の整数である。)
【0029】
(b)成分のアミノ基含有シロキサンポリマーのアミノ基は、1級アミノ基(−NH2)が好ましく、またこのシロキサンポリマーにおける分子中のアミノ基の数、特に1級アミノ基の数は特に制限されないが、通常3〜100、好ましくは3〜50、特には4〜20程度が好ましい。
【0030】
このようなアミノ基含有シロキサンポリマーとしては、例えば、直鎖状、環状、分岐状のいずれのシロキサン構造を有するものであってもよく、また分子中のケイ素原子数は、通常3〜200個、好ましくは4〜100個程度のものであればよい。このような(b)成分のアミノ基含有シロキサンポリマーとしては、例えば下記のような化合物が挙げられ、これらの化合物は単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0031】
【化19】

(式中、nは3〜50、好ましくは3〜30の整数である。)
【0032】
【化20】

(式中、nは3〜50、好ましくは3〜30の整数である。)
【0033】
【化21】

(式中、aは3〜50、好ましくは3〜20、bは1〜50、好ましくは1〜10、a+b=4〜100、cは0〜100、好ましくは1〜30を満足する整数である。)
【0034】
【化22】

(式中、aは3〜50、好ましくは3〜20、bは1〜50、好ましくは1〜10、a+b=4〜100、nは1〜10、好ましくは1〜6を満足する整数である。)
【0035】
【化23】

(式中、aは3〜50、好ましくは3〜20、bは1〜50、好ましくは1〜10、dは1〜50、好ましくは1〜10、a+b+d=4〜100、cは0〜10、好ましくは1〜5、eは11〜100、好ましくは20〜50を満足する整数である。)
【0036】
(b)成分の配合量は、通常(a)成分中に含まれる例えばメチルエステル基、エチルエステル基、プロピルエステル基等のエステル基の合計量に対する(b)成分中のアミノ基(特には1級アミノ基)の合計量の比が好ましくは1.0〜5.0(モル比)、より好ましくは2.0〜4.0(モル比)を供給する量が好適である。かかるモル比が1.0よりも少ないと架橋度合いが不十分となり機械的強度に劣る場合があり、5.0よりも多いと鎖長延長が優先し硬化が不十分で満足する硬化物物性が得られない場合がある。また、この(b)成分は1種単独で使用してもよいし、2種以上のものを併用してもよい。
【0037】
(c)モレキュラーシーブ
(c)成分のモレキュラーシーブとは結晶性ゼオライトの一つで、分子径レベルの微細な空孔を有し、その空孔内に水分子が取り込まれることで系中が脱水(乾燥)されるという特長を有する。本発明においては、上記(b)成分に(c)成分を予め添加した架橋剤コンパウンドを作製しておくことで(b)成分中の吸湿水分が捕集され、良好な保存安定性を付与することが可能となる。
【0038】
モレキュラーシーブは、その細孔の大きさによって様々なグレードが存在する。水分への吸着能力より、好ましいグレードは3A又は4Aであるが、これに限定するものではない。
【0039】
モレキュラーシーブには、結晶をそのまま活性化したバインダー成分を含まないメッシュ(粉砕状)及びパウダー(粉末状)、並びにバインダー成分を含むペレット(長柱状)及びビーズ(球状)などのタイプが存在するが、硬化特性、硬化後物性を損なうことのない良好な保存安定性を得るためには、バインダー成分を含まないメッシュタイプ又はパウダータイプ、特にはパウダータイプが好ましい。
また、モレキュラーシーブの粒径は、平均粒径が30μm以下、特には10μm以下のものが好ましい。パウダータイプであっても、平均粒径が30μmより大きいと、ゴム組成物中に均一に分散することが困難になったり、硬化後物性に悪影響を及ぼしたりするなどの不都合が生じる。なお、平均粒径の下限値は、特に限定するものではないが、通常0.1μm以上、特には0.5μm以上である。
ここで、平均粒径は、通常電子顕微鏡による測定、あるいはレーザー光回折法による粒度分布測定における累積重量平均径D50(又はメジアン径)などとして測定することができる。
【0040】
架橋剤コンパウンドを作製するに際してのモレキュラーシーブの配合量は、(b)成分100質量部に対して1〜20質量部、より好ましくは1〜10質量部である。配合量が1質量部より少なくなると、良好な保存安定性を付与することができなくなったり、逆に20質量部よりも多くなると粘度が増大し作業性が劣ったり、硬化後ゴム物性に悪影響を及ぼしたりするなどの不都合が生じる。
【0041】
その他の成分
上記(a)成分はこれを主成分としてベースコンパウンドを形成し、上記(b)成分及び(c)成分はこれらを主成分として架橋剤コンパウンドを形成することが好ましい。ここで、主成分とは、ベースコンパウンド中、又は架橋剤コンパウンド中、50質量%以上100質量%以下の配合比率を占める成分のことをいう。
このようなベースコンパウンド、及び架橋剤コンパウンドは、必要に応じて本発明の効果を損なわない範囲で公知の各種充填剤、添加剤をその他の成分として公知の方法にて配合することができる。
【0042】
このようなその他の成分として、具体的にはヒュームドシリカ、結晶性シリカ、炭酸カルシウム等の充填剤や、酸化鉄、酸化セリウム、カーボンブラック等の顔料、着色剤、染料、酸化防止剤、また粘度調整剤として一部又はすべてがフッ素変性されたオイル状化合物等が挙げられる。
【0043】
ベースコンパウンドには、硬化物後のゴム強度を向上させるために、上記充填剤を配合することが好ましく、その配合量は、(a)成分100質量部に対して、通常5〜70質量部、特には10〜50質量部とすることが好ましい。
【0044】
架橋剤コンパウンドには、(c)成分の(b)成分への分散性を向上、安定化させるために、上記充填剤を配合することが好ましく、その配合量は、(b)成分100質量部に対して、通常1〜50質量部、特には10〜30質量部とすることが好ましい。
また、架橋剤コンパウンドには、最終的にベースコンパウンドを混合するときのために上記粘度調整剤を配合することが好ましく、その配合量は、(b)成分100質量部に対して、通常1〜100質量部、特には20〜80質量部とすることが好ましい。
【0045】
使用方法
本発明の組成物は、上記ベースコンパウンドと架橋剤コンパウンドとをそれぞれ別々に分けて2液タイプとして構成し、使用にあたってこれらを公知の方法で均一に混合することが好ましい。
【0046】
本発明の組成物は、室温(例えば5〜35℃)にて3日間以上放置することにより、表面タックが低減した十分な硬化物が得られる。
【0047】
用途
本発明の組成物は種々の用途に利用することができる。即ち、フッ素含有率が高いため、耐溶剤性、耐薬品性に優れ、また、透湿性も低く、低表面エネルギーを有するため、離型性、撥水性に優れており、よって、耐油性を要求される自動車用ゴム部品、具体的には自動車用ダイヤフラム類、バルブ類、あるいはシール材等;化学プラント用ゴム部品、具体的にはポンプ用ダイヤフラム、バルブ類、ホース類、パッキン類、オイルシール、ガスケット、タンク配管補修用シール材等のシール材など;インクジェットプリンタ用ゴム部品;半導体製造ライン用ゴム部品、具体的には薬品が接触する機器用のダイヤフラム、弁、パッキン、ガスケット等のシール材など;低摩擦耐磨耗性を要求されるバルブ等;分析、理化学機器用ゴム部品、具体的にはポンプ用ダイヤフラム、弁、シール部品(パッキン等);医療機器用ゴム部品、具体的にはポンプ、バルブ、ジョイント等;また、テント膜材料;シーラント;成型部品;押し出し部品;被覆材;複写機ロール材料;電気用防湿コーティング材;センサー用ポッティング材;燃料電池用シール材;工作機器用シール材;積層ゴム布等に有用である。
【実施例】
【0048】
以下、実施例及び比較例を示し本発明について具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、数平均分子量(又は数平均重合度)は、アサヒクリンAK−225(旭硝子(株)製、ハイドロクロロフルオロカーボン−225(HCFC−225))を展開溶媒としてゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)分析によって測定したものである。
【0049】
[製造例1]
室温硬化性組成物用ベースコンパウンドの製造
下記式(2)で表されるポリマー(粘度7.8Pa・s、数平均分子量15,700)100質量部と充填剤に脂肪酸で表面処理されたコロイド質炭酸カルシウム(平均粒径;0.03〜0.06μm、品名カーレックス300:丸尾カルシウム(株)製、商品名)40質量部の配合比でプラネタリーミキサーに投入後、1時間混練りを行った。次いで三本ロールにて分散促進し、冷却してベースコンパウンドの製造を行った。
【0050】
【化24】

【0051】
[製造例2]
室温硬化性組成物用架橋剤コンパウンドの製造1
下記式(3)で示されるフッ素変性アミノ基含有シロキサンポリマー(粘度1,000Pa・s、数平均分子量16,000)69.0質量部に粉末状モレキュラーシーブ4A(平均粒径10μm以下、MERCK社製)3.4質量部、充填剤として炭酸カルシウム(平均粒径1.2μm、品名ホワイトンSSB赤:白石カルシウム(株)製、商品名)8.6質量部をプラネタリーミキサーに投入後、15分間混練りを行い、次いで室温中で30分間減圧混合(−65〜−75cmHg)を行った。その後、得られたコンパウンドに粘度調整剤として下記式(4)で示されるオイル状フッ素ポリマー(片末端ビニルジメチルシリル基封鎖パーフルオロポリエーテルオイル)40.0質量部を添加し、プラネタリーミキサーにて15分間混練を行い、次いで室温中で30分間減圧混合(−65〜−75cmHg)を行って架橋剤コンパウンドを製造した。
【0052】
【化25】

【0053】
[製造例3]
室温硬化性組成物用架橋剤コンパウンドの製造2
上記式(3)で示されるフッ素変性アミノ基含有シロキサンポリマー(粘度1,000Pa・s、数平均分子量16,000)69.0質量部に炭酸カルシウム(品名ホワイトンSSB赤:白石カルシウム(株)製、商品名、前出)12.0質量部をプラネタリーミキサーに投入後、15分間混練りを行い、次いで室温中で30分間減圧混合(−65〜−75cmHg)を行った。その後、得られたコンパウンドに粘度調整剤として上記式(4)で示されるオイル状フッ素ポリマー40.0質量部を添加し、プラネタリーミキサーにて15分間混練を行い、次いで室温中で30分間減圧混合(−65〜−75cmHg)を行って架橋剤コンパウンドを製造した。
【0054】
[実施例]
上記製造例1にて製造を行ったベースコンパウンド140質量部に対し、製造例2にて製造を行った架橋剤コンパウンド121質量部(1級アミノ基/エチルエステル基=3.0(モル比)となる量)を、この配合比でポリプロピレン製の二連カートリッジ(Mixpac社製system50、1:1カートリッジ)にそれぞれ充填し、30℃,90%RHにて長期(2ヶ月、5ヶ月)保存し、その後の硬化性、硬化後ゴム物性の評価を行った。
【0055】
[比較例]
上記実施例において、架橋剤コンパウンドを製造例3にて製造を行ったもの121質量部(1級アミノ基/エチルエステル基=3.0(モル比)となる量)に変更し、それ以外は実施例と同様に長期保存性試験を実施した。
【0056】
硬化性試験
上記実施例及び比較例より得られた長期保存後のサンプルを、スタティックミキサー(6.3mm×17、Mixpac社製)に通すことで混合吐出し、これを粘度測定用容器に受け、混合開始から5分後以降の粘度変化を追跡することにより、硬化性の評価を行った。粘度測定に関しては、JIS K7117−1に準じて測定を行った。結果を図1,2に示す。
【0057】
図1,2の解説
実施例では、長期保存後でも硬化性が初期とほぼ同等であることが分かる。一方、比較例では、保存期間に応じた吸湿量の増加により、硬化性に遅延が生じていることが確認される。
【0058】
硬化後物性の評価
前記実施例及び比較例より得られる硬化性組成物を厚さ2mmのシート状に成形し、室温(23.5℃)中で1週間静置後、硬化物を得た。この硬化物サンプルにて、JIS K6251、JIS K6253に準じてゴム物性を測定した。結果を図3〜5に示す。
【0059】
図3〜5の解説
実施例では、長期保存後でも硬化後ゴム物性が初期とほぼ同等であることが分かる。一方、比較例では、硬さ低下と切断時伸びの増加が確認される。これは硬化性と同様、長期保存中の吸湿により硬化阻害が起こり、これによって物性低下が生じたものと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)1分子中に少なくとも2個のエステル基を有し、かつ主鎖中に2価のパーフルオロアルキルエーテル構造を有する数平均分子量3,000〜100,000である直鎖状フルオロポリエーテル化合物:100質量部、
(b)1分子中にアミノ基を少なくとも3個含有するシロキサンポリマー:(b)成分中のアミノ基の合計量/(a)成分中のエステル基の合計量=1.0〜5.0(モル比)となる量、及び
(c)平均粒径が30μm以下のモレキュラーシーブ:(b)成分100質量部に対し1〜20質量部
を含有してなることを特徴とする室温硬化性フルオロポリエーテル系ゴム組成物。
【請求項2】
(a)成分を主成分とするベースコンパウンドと(b)及び(c)成分を主成分とする架橋剤コンパウンドとからなる二成分型である請求項1記載の室温硬化性フルオロポリエーテル系ゴム組成物。
【請求項3】
(b)成分が、下記式(iv)〜(vii)のアミノ基含有シロキサンポリマーから選ばれることを特徴とする請求項1又は2記載の室温硬化性フルオロポリエーテル系ゴム組成物。
【化1】

(式中、nは3〜50の整数である。)
【化2】

(式中、nは3〜50の整数である。)
【化3】

(式中、aは3〜50、bは1〜50、a+b=4〜100、cは0〜100を満足する整数である。)
【化4】

(式中、aは3〜50、bは1〜50、a+b=4〜100、nは1〜10を満足する整数である。)
【請求項4】
(a)成分が、下記一般式(1)で表される化合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の室温硬化性フルオロポリエーテル系ゴム組成物。
ROOC−Rf−COOR’ (1)
(式中、Rfは2価のパーフルオロアルキルエーテル構造であり、R及びR’は同一又は異種の炭素数1〜8の置換又は非置換の1価炭化水素基である。)
【請求項5】
Rfが、下記式(i)〜(iii)から選ばれる2価のパーフルオロアルキルエーテル基であることを特徴とする請求項4記載の室温硬化性フルオロポリエーテル系ゴム組成物。
【化5】

(式中、p及びqは1〜150の整数であって、かつpとqの和は、2〜200である。また、rは0〜6の整数、tは2又は3である。)
【化6】

(式中、uは1〜200の整数、vは1〜50の整数、tは上記と同じである。)
【化7】

(式中、xは1〜200の整数、yは1〜50の整数、tは上記と同じである。)
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の室温硬化性フルオロポリエーテル系ゴム組成物を硬化させることにより得られることを特徴とする硬化物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−1798(P2013−1798A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134184(P2011−134184)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】