説明

害虫防除材

【課題】 本発明は、害虫防除剤を含有する樹脂成形体又は繊維成形体の害虫防除効果を高める方法、防除効果が高められた害虫防除材を提供することを目的とする。
【解決手段】 害虫防除材を含有する樹脂成形体又は繊維成形体の表面に害虫誘引剤が塗布されてなる、害虫防除材。本発明の害虫防除材は、害虫防除材を含有する樹脂成形体又は繊維成形体の種類、組成、さらに成形体に含まれる害虫防除材の種類等によらずに、任意の害虫に対する誘引効果を成形体に簡便に付与することができる。特に、本発明によれば、害虫防除剤を含有する樹脂成形体又は繊維成形体に対して、農場、畜舎、魚市場、食品工場などの産業の現場さらには一般家庭等の現場において、対象となる害虫に応じた害虫誘引剤を適宜選択して塗布することができるので、多種類の成形体を調製する必要がなく、害虫防除に要するコストを低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、害虫防除剤を含有する樹脂成形体又は繊維成形体に害虫誘引剤が付着されてなる、害虫を誘引し防除する効率的な害虫防除材及び害虫防除方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
農場や畜舎における害虫の防除は、殺虫剤等の薬物を環境中に散布することにより行われる方法が現在も主流であるが、薬物による環境又は生産物の汚染を回避あるいは最小限に留めるために、薬物の散布量が厳しく制限されるようになった。特に農産物については、いわゆる無農薬野菜が注目されるなど、薬物の使用量によって商品価値が左右される事態になっている。また、蚊やゴキブリ等の衛生害虫の駆除も、殺虫剤等の薬物を主に大気中に散布することにより行われる方法が現在も主流であるが、当該方法には、ヒトに対する薬害を配慮する必要があり、また、大気中に散布された薬物は速やかに拡散されるために耐久性がなく薬効性に乏しい、などの問題を有している。
【0003】
そこで近年、環境ないし大気中への薬物の散布による問題を解消する技術が種々研究されている。例えば、特許文献1には、害虫防除剤が練り込まれた樹脂を原料として成形される樹脂成形体が開示されている。
また、特許文献2には、「虫が好む黄色に染め上げた寒れい紗あるいは網に駆虫剤を付着せしめた除虫棚」が開示されている。
特許文献3には、「一般式(SiO)x・(Al)y・(TiO)z・nHOで表されるものであって、TiOで分析される成分を1〜15重量%を含む複合酸化物を配合した熱可塑性樹脂組成物を製膜した農業用害虫忌避フィルム」が開示されている。
これらの成形体は害虫防除剤を大気中に放出させずに内部に留めているために、大気中への薬物の飛散による環境やヒトに対する薬害のおそれがなく、また薬物の拡散による害虫防除効果の急激な低下も生じないという利点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−301801号公報
【特許文献2】実公昭48−32445号公報
【特許文献3】特開昭64−13005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら上記従来の技術においては、以下のような課題を有していた。
(1)特許文献1乃至3に開示の技術はいずれも、成形体や網から大気中に薬物が飛散しないということは、かかる成形体を用いて害虫を防除するためには、害虫が成形体に直接触れることが必要とされる。そのため、特許文献1や2に記載された発明においては、害虫を成形体に誘引することを目的として、害虫に対する誘引効果を成形体に与えるべく、色素を樹脂に練り込んで成形体を着色することが行われている。しかし、色による害虫の誘引効果は、空間的には害虫が色を識別することができる限られた範囲にしか及ばず、また、特許文献3のTi含有複合酸化物が反射する特定波長の紫外線が防除効果に優れているとしても、特許文献1、2と同様、夜間ではかかる誘引効果や防除効果を期待することができ難い、という課題を有する。
(2)色素や複合酸化物を樹脂に練り込んで成形するので、いったん成形された当該成形体の害虫防除効果は当該色に誘引される害虫や特定波長の紫外線で駆除される害虫にしか及ばないので、害虫防除材を作製するにあたっては対象となる害虫毎に、樹脂の調製から始めなければならないという課題を有していた。
【0006】
本発明は上記従来の課題を解決するもので、害虫防除剤を含有する樹脂成形体又は繊維成形体に害虫誘引剤を付着させ害虫を積極的に誘引し害虫防除剤に接触させて、防除効果を著しく高めた害虫防除材を提供することを目的とする。
【0007】
本発明の請求項1に記載の発明は、害虫防除材は、害虫防除剤を含有する樹脂成形体又は繊維成形体の表面に害虫誘引剤が付着されてなる構成を有している。
この構成により、以下のような作用が得られる。
(1)害虫防除剤を含有する樹脂成形体や繊維成形体の表面に害虫誘引剤を塗布や噴霧、浸漬等で付着させることにより、害虫を積極的に樹脂成形体や繊維成形体に引き寄せるとともに害虫防除剤で、効率的に害虫を防除することができる。
(2)その害虫防除剤及び害虫誘引剤の組み合わせを変えることで、種々の害虫に対応が可能となる。
(3)製造時に害虫防除剤と害虫誘引剤を同時に配合することで生じることのある、害虫防除剤が先に失活して誘引効果だけが残るという弊害を防ぐことも可能になる。
害虫誘引剤の効果が薄れた際、害虫誘引剤のみを塗布、散布等で付着させるだけで再度害虫を駆除する空間を再生できる。この際も散布等する者が害虫駆除剤により被曝する危害が無い。
【0008】
ここで、害虫防除剤としては、殺卵剤、殺幼虫剤、殺蛹剤、殺成虫剤、不妊化剤その他の、害虫を駆除するために用いられる化学物質が用いられる。特に本発明物に用いられる化合物は接触により害虫に致死効果等影響を及ぼす化合物である。具体的には、フェニトロチオン、サフロチン等の有機リン剤、セビン、バイゴンなどのカーバメイト剤、フェノトリン、ペルメトリン等のピレスロイド剤、メトプレン、ピリプロキシフェン等の幼若ホルモン剤、デミリン等のキチン合成阻害剤、サイロマジン等の抗エクジソン剤、フィプロニル等のピラゾール系薬剤、ニコチン剤、イミダクロプリド等のクロロニコチニル剤、クロルフェナピル等のピロール系薬剤、天然成分である除虫菊抽出物、インドセンダン抽出物等の植物抽出物及びその加工物質等を挙げることができるが、これらには限定されない。
【0009】
合成樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、ナイロンなどのポリアミド樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリエステル樹脂、エチレン−アクリレート共重合樹脂、エチレン−メタクリレート共重合樹脂、エチレン−ビニルアセテート共重合樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリイソプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴム、ポリウレタン等をあげることができる。
合成樹脂繊維としては、ビスコース繊維、銅アンモニア繊維、アセテート繊維、プロミックス繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維、ポリ塩化ビニリデン系合成繊維、ポリ塩化ビニル系合成繊維、ポリエステル系合成繊維、ポリアクリロニトリル系合成繊維、ポリエチレン系合成繊維、ポリプロピレン系合成繊維、ポリウレタン系合成繊維、ポリクラール繊維等を挙げることができる。
【0010】
害虫防除剤としては、まず、昆虫成長制御剤として、害虫の正常な発生を阻害することのできる種々の薬剤、具体的には幼若ホルモン活性化合物やキチン合成阻害剤を挙げることができる。該幼若ホルモン活性化合物としては、例えば4−フェノキシフェニル2−(2−ピリジルオキシ)プロピルエーテル〔ピリプロキシフェン〕、エチル2−(4−フェノキシフェノキシ)エチルカーバメート〔フェノキシカルブ〕、イソプロピル11−メトキシ−3,7,11−トリメチル−2,4−ドデカジエノエート〔メソプレン〕、4−クロロ−2−(2−クロロ−2−メチルプロピル)−5−(6−ヨード−3−ピリジルメトキシ)ピリダジン−3(2H)−オンが挙げられる。
【0011】
また、キチン合成阻害剤としては、例えば1−(4−クロロフェニル)−3−(2,6−ジフルオロベンゾイル)ウレア〔ジフルベンズロン〕、1−〔3,5−ジクロロ−4−(3−クロロ−5−トリフルオロメチルピリジン−2−イルオキシ)フェニル〕−3−(2,6−ジフルオロベンゾイル)ウレア〔クロルフルアズロン〕、1−(3,5−ジクロロ−2,4−ジフルオロフェニル)−3−(2,6−ジフルオロベンゾイル)ウレア〔テフルベンズロン〕、1−(4−トリフルオロメトキシフェニル)−3−(2−クロロベンゾイル)ウレア〔トリフルムロン〕、1−〔4−(2−クロロ−4−トリフルオロメチルフェノキシ)−2−フルオロフェニル〕−3−(2,6−ジフルオロベンゾイル)ウレア〔フルフェノクスロン〕、1−〔α−(4−クロロ−α−シクロプロピルベンジリデンアミノオキシ)−p−トリル〕−3−(2,6−ジフルオロベンゾイル)ウレア〔フルシクロクスロン〕、1−〔3,5−ジクロロ−4−(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)フェニル〕−3−(2,6−ジフルオロベンゾイル)ウレア〔ヘキサフルムロン〕、1−〔2−フルオロ−4−(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)フェニル〕−3−(2,6−ジフルオロベンゾイル)ウレア、1−(2−フルオロ−4−トリフルオロメチルフェニル)−3−(2,6−ジフルオロベンゾイル)ウレア等のベンゾイルウレア化合物および2−tert−ブチルイミノ−3−イソプロピル−5−フェニル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2H−1,3,5−チアジアジン−4−オンが挙げられる。
【0012】
防除対象となるのは農作物加害害虫であり、その具体例としてはオンシツコナジラミ(Trialeurodes vaporariorum)、タバココナジラミ(Bemisia tabaci)、フタテンヒメヨコバイ(Arboridia apicalis)、アブラムシ類などの半翅目害虫、ミナミキイロアザミウマ(Thrips palmi)、チャノキイロアザミウマ(Scirtothrips dorsalis)、ヒラズハナアザミウマ(Frankliniella intonsa)などのアザミウマ目害虫、コナガ(Plutella xylostella)、イチモンジセセリ(Parnara guttata)などの鱗翅目害虫、ウリミバエ(Dacus cucurbitae)、キノコバエ類(Mycetophilidae)、マメハモグリバエ(Liriomyza trifolii)、タマネギバエ(Delia antiqua)などの双翅目害虫等が挙げられる。その他のハエ、カ、ゴキブリなどの衛生害虫にも効力を有することは言うまでもない。
【0013】
本発明において用いられる害虫防除剤の含有量は、通常、害虫防除用樹脂組成物中0.05〜10重量%である。本発明の害虫防除材の樹脂成形体は、合成樹脂に害虫防除剤、紫外線吸収剤、界面活性剤、必要に応じ、害虫を誘引する色素、その他の添加剤を加えた害虫防除用樹脂組成物を予め熱混練し、ペレット化したマスターバッチを得、これを用い例えば射出成形機、押出機等の通常の成形機を用いて以下のように、フィルム、シート、網状成形体、棒状成形体、その他植木鉢、園芸用支柱、寒冷紗などの農園芸用品等の種々の形態に成形して用いることができる。
例えば、0.02mm以上0.5mm未満の厚みのフィルムや、0.5mm以上5mm未満の厚みのシート、繊維径0.05〜5mm未満の網状等に加工することにより害虫防除用樹脂成形体が得られる。
樹脂成形体は、樹脂ペレットに害虫防除剤を練り込んで樹脂成形体を調製する代わりに、多孔性の樹脂成形体あるいは合成樹脂繊維を織って成形される樹脂成形体を予め製造し、これに害虫防除剤を含む溶液を塗布や噴霧したり、害虫防除剤を含む溶液に前記成形体を浸漬したりして、樹脂成形体に害虫防除剤を含ませてもよい。
【0014】
本発明における樹脂成形体の形態は特に限定されず、網、網目状構造体(フィルムやシートに多数の孔を開けた多孔体)、棒、縄、紐、フィルム又は敷布などを挙げることができる。特に、害虫が作物や動物、食品等に触れることのできない物理的障害としても利用できる形態が好ましく、害虫の侵入を防止できる程度の目の大きさを有する網もしくは網目状構造体であることが好ましい。
また本発明における害虫防除剤を含有する繊維成形体は、害虫防除剤を含浸させた麻、綿、毛、絹等の天然素材系を成形させたもの、あるいは当該天然素材系の繊維成形体に害虫防除剤を含浸させたものが用いられる。成形体の形態としては、網、縄、紐、織布、不織布などを挙げることができる。
【0015】
具体的には、害虫防除網、害虫防除ブラシ、害虫防除柵、害虫防除袋、害虫防除シート、害虫防除フィルム、害虫防除紐、害虫防除帯、害虫防除板、害虫防除器等の商品として利用される。
【0016】
上記のようにして得られる本発明の害虫防除材は、蔬菜、綿、花卉、茶、果樹、キノコなどの農作物を加害する害虫を防除する場合、昆虫成長制御剤の種類、加害害虫の種類、被害の程度により異なるが、通常、以下にあげる方法で適当量を適当間隔に施用する。すなわち、農作物の一部を覆う、農作物の上部又は側面を覆う、農作物を植えてある畝や地面を覆う、農作物に隣接して立てて設置する、などの形態で使用してもよい。また、本発明の害虫防除材をビニールハウス等の農作物を栽培する際に用いられる任意の農業資材の形状に成形して使用してもよい。さらに、ビニールハウス等の閉鎖空間に害虫が侵入することが想定される箇所に本発明の害虫防除剤を設置してもよい。具体的には、(1)植物の上部の成長点付近に、地面に対して水平に、かつ防除剤の面が地面に水平、あるいは、垂直に設置する方法、(2)植物の成長点と株元のあいだの任意の箇所に、地面に対して水平に、かつ防除剤の面が地面に水平、あるいは垂直に設置する方法、(3)植物の上部、あるいは中央部から地面に対して垂直に、すなわち鉛直下方に設置する方法、(4)植物を栽培する地面に設置する方法、(5)植物を栽培する場所の近傍にある壁などの平面に設置する方法、(6)植物を栽培する際に用いられる任意の農業資材の形状に成形した防除材をその農業資材と同様な方法で設置する方法、(7)温室などの閉鎖空間の栽培場所において、外部に存在する害虫が、前記閉鎖空間に侵入する過程で通過しうる通過点、あるいは、通過経路となりうる場所に防除材を設置する方法などがある。
その際用いられる防除剤の施用量は、害虫防除剤の種類、施用時期、施用場所、施用方法、加害害虫の種類、被害の程度などにより異なるが、通常、1ヘクタール当り、害虫防除剤換算で1〜5000g、好ましくは、10〜500gである。
【0017】
害虫誘引剤としては、非特異的に多種類の害虫をあるいは特異的に特定の害虫を誘引することのできる化学物質が用いられる。非特異的な害虫誘引剤としては、フェネチルアルコール類、ベンゼン基、ナフタレン基及び/又はテトラリン基を持つフェノール、酢酸、乳酸、低級アルコール、アミン類、動物性タンパク質、植物性タンパク質、動植物性油脂とそのメイラード反応物、動植物成分の抽出物とその発酵物などを挙げることができる。また、特異的な害虫誘引剤としては、セリコルニン、ボンビコール、ラシコール、ペリプラノンなどの昆虫フェロモンなどを挙げることができる。
害虫防除剤を含有する樹脂成形体又は繊維成形体に対する害虫誘引剤の付着は、害虫誘引剤を溶解、懸濁あるいは乳化した液体に樹脂成形体や繊維成形体を浸漬させることで、また当該液体を噴霧したり、刷毛やローラーで塗布したりすることで、行うことができる。特に、本発明の害虫防除剤を農場や畜舎等に設置した後は、必要に応じて繰り返し害虫誘引剤を噴霧や浸漬、塗布、散布することが好ましい。
害虫誘引剤の付着量は、成形体の構造や大きさ、さらに誘引剤の種類に合わせて適宜調整すればよい。特に、昆虫フェロモン、カイロモン等のセミオケミカルは、少量の利用で十分な誘引効果が得られることから、本発明において好ましい誘引剤である。
害虫誘引剤の溶液には、害虫誘引剤が雨水や風等で剥離したり溶出したりするのを防ぎ、主剤に対する安定性に優れ器材に対し湿展性、付着性、固着性に優れた展着剤を混合するのが好ましい。展着剤としてはカゼイン石灰、ソープレスリープ、硫酸化油、高級アルコール硫酸化エステル、スルホン化物、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリアルキレングリコールアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等が用いられる。また、害虫防除剤が紫外線で劣化し易い場合は、ベソゾフェノン誘導体、サリチル酸エステル、ベンゾトリアゾール誘導体、レゾルシン誘導体、酸化チタン、オクチルシリル化酸化チタン、サリチル酸エチルヘキシル等の紫外線劣化防止剤を100ppm〜500ppm、エトキシキン、ジブチルヒドロキシトルエン、プチルヒドロキシアニソール等の酸化防止剤0.1%〜0.5%を合成樹脂や合成繊維組成物に添加しておくのが好ましい。害虫誘引剤の濃度は、0.01wt%〜10wt%が好適に用いられる。
【0018】
本発明の請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の害虫防除材であって、前記樹脂成形体又は繊維成形体が網、網目状構造体、棒、縄、紐、板状物、織布、不織布、フィルム又はシートの内いずれか1である構成を有している。
【0019】
本発明の請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の害虫防除材であって、前記繊維成形体が網、網目状構造体、縄、紐、織布、不織布、フィルム又はシートの内いずれか1であることを特徴とする請求項1に記載の害虫防除材。
この構成により、以下のような作用が得られる。
(1)合成樹脂を成形して作るので、品質が安定し殺虫斑がなく、かつ軽量なので、設置が容易で作業性に優れる。
(2)害虫防除剤を散布することなく、害虫を駆除する空間の提供を利便化できる。
(3)種々の空間に適応した安全かつ効率的な害虫駆除を利便化できる。
【0020】
ここで、繊維成形体が合成繊維等の化学繊維の場合は、原料の合成樹脂に害虫防除剤を配合して組成物として成形される。木綿や麻、羊毛等の天然繊維で作製した繊維成形体の場合は、害虫防除剤の溶液中に浸漬するか、該溶液を吹き付けたり散布して害虫防除剤を含有させたものが用いられる。
【0021】
本発明の請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の害虫防除材を用いて、前記害虫誘引剤中に、展着剤、酸化防止剤のいずれか1またはその両方が含有されてなる構成を有している。
この構成により、請求項1で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)害虫誘引剤を展着剤で樹脂成形体や繊維成形体の表面近辺に付着・浸潤させ、雨水や風等によって洗い流されるのを防ぐことができる。
(2)酸化防止剤により害虫誘引剤の早期劣化を防止することができる。
【0022】
本発明の請求項5に記載の発明は、害虫防除材の製造又は再生する方法であって、前記害虫防除剤を含有する前記樹脂成形体又は前記繊維成形体の表面に害虫誘引剤が付着されてなる構成を有している。
この構成により、以下のような作用が得られる。
害虫誘引剤が紫外線で劣化したり、雨水で洗い流されても、その都度害虫誘引剤を塗布したり散布したりすることによって再生できる。
【0023】
本発明の請求項6に記載の発明は、害虫を誘引し殺虫する害虫の殺虫方法であって、害虫防除剤を含有する樹脂成形体又は繊維成形体で作製された害虫防除材の表面に害虫の誘引成分を塗布されてなる構成を有している。
(1)害虫防除材に対象となる害虫誘引剤を付着させるだけで害虫を防除できる。
(2)複数の害虫誘引剤を付着させることにより複数の対象を防除できる。
(3)夜間等でも害虫を誘引し防除効果を高めることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の害虫防除材は、害虫防除剤を含有する樹脂成形体又は繊維成形体の種類、組成、さらに成形体に含まれる害虫防除材の種類等によらずに、任意の害虫に対する誘引効果を成形体に簡便に付与することができる。特に、本発明によれば、害虫防除剤を含有する樹脂成形体又は繊維成形体に対して、農場、畜舎さらには一般家庭等の現場において、対象となる害虫に応じた害虫誘引剤を適宜選択して塗布することができるので、多種類の成形体を調整する必要がなく、害虫防除に要するコストを低減することができる。
【0025】
具体的には、請求項1に記載の発明によれば、1種類の害虫防除材に対し、対象となる複数の害虫に応じて害虫誘引剤を付着するだけで対応でき、単味の害虫防除剤を使用した害虫防除材で多数の害虫に対処できる、害虫防除材を提供できる。
【0026】
請求項2又は3に記載の発明によれば、請求項1の効果に加え、
(1) 合成樹脂や合成繊維で成形するので、害虫防除剤が均一に成形体中に分散し殺虫斑のない高品質な害虫防除材を低原価で量産できる。
(2) 軽量で搬送性、設置作業性に優れる。
【0027】
請求項4に記載の発明によれば、請求項1の効果に加え、
(1) 展着剤により害虫誘引剤が長期にわたり害虫防除材に保持されるので、耐久性に優れる。
(2) 酸化防止剤を含有しているので、害虫誘引剤の劣化を防ぎ品質の安定性に優れる。
【0028】
請求項5に記載の発明によれば、害虫誘引剤を付着するだけで再生できるので、著しく省資源性に優れた害虫防除材を提供できる。
【0029】
請求項6に記載の発明によれば、生殖活動期や産卵期等害虫の生態活動に応じて害虫誘引剤を塗り分けたりすることにより、害虫防除材を1回設置するだけで多種の害虫に対応でき、害虫防除の作業性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実験例1)
樹脂成形体として、エトフェンプロックスを単位重量100g当たり0.5g含むポリエチレン製ネット(繊維径0.5mm、目開き100メッシュ)100平方メートル(約5kg)を準備した。
害虫誘引剤として、レタス抽出物発酵物よりなる誘引剤を、溶剤として70%エタノールを用い、濃度が2g/Lになるように溶解させた害虫誘引剤溶液500mlに、展着剤としてポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル0.005%、酸化チタン0.01%を混合して作製した。
害虫防除材の作製は、先の害虫防除材に前記害虫誘引剤を、ハンドスプレーを用いて噴霧し、上記誘引剤を塗布しエトフェンプロックスを含有したポリエチレン製ネットである実験例1の害虫防除ネットを作製した。
害虫防除実験:菊を栽培する圃場の畝に沿って前記害虫防除材を張り、2週間置きに前記害虫誘引溶液500mlをネットにさらに塗布しながら、菊を3ヶ月間栽培した。栽培期間中、菊の葉裏等に潜んでいたアザミウマが前記害虫防除材に誘引されてネットに接触し、死亡していることが観察された。
【0031】
(実験例2)
樹脂成形体として、ペルメトリンを単位重量100g当たり2g含むポリプロピレン製ネット(繊維径0.3mm、目開きは100メッシュ)100平方メートル(約5kg)を準備した。
害虫誘引剤として、ナス抽出物発酵物を70%エタノールに2g/L溶解させた害虫誘引溶液500mlに、展着剤としてポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル0.005%、酸化チタン0.01%を混合して作製した。
害虫防除材の作製は、先の害虫防除材に前記害虫誘引剤を、ハンドスプレーを用いて噴霧し、動植物成分の抽出物の発酵物を塗布したパーメスリンを含むポリプロピレン製ネットである実験例2の害虫防除ネットを作製した。
害虫防除実験:トマトを栽培する圃場の畝に沿って前記害虫防除材を張り、2週間置きに動植物成分の抽出物の発酵物を70%エタノールに2g/L溶解させた害虫誘引溶液500mlをネットにさらに塗布しながら、トマトを4ヶ月間栽培した。栽培期間中、トマトの葉裏等に潜んでいたアブラムシが前記害虫防除材に誘引されてネットに接触し、死亡していることが観察された。
【0032】
(実験例3)
樹脂成形体として、フェノトリンを単位重量100g当たり2g含むポリアミド製ロープ(径は10mm)100メートル(約10kg)を準備した。
害虫誘引剤として、スイカ抽出物発酵物を70%エタノールに2g/L溶解させた害虫誘引溶液100mlに、展着剤としてポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル0.005%、酸化チタン0.01%を混合して作製した。
害虫防除材の作製は、先の害虫防除材に前記害虫誘引剤をハンドスプレーを用いて噴霧し、動植物成分の抽出物の発酵物を塗布したフェノトリンを含むポリアミド製ロープである実験例3の害虫防除ロープを作製した。
害虫防除実験:キュウリを栽培する圃場の畝に沿って前記害虫防除材を張り、2週間置きに動植物成分の抽出物の発酵物を70%エタノールに2g/L溶解させた害虫誘引溶液1000mlをロープにさらに塗布しながら、キュウリを3ヶ月間栽培した。栽培期間中、キュウリの葉裏等に潜んでいたウリハムシが前記害虫防除材に誘引されてロープに接触し、死亡していることが観察された。
【0033】
(実験例4)
樹脂成形体として、エトフェンプロックスを単位重量100g当たり0.5g含むポリエチレン製ネット(繊維径0.35mm、目開き150メッシュ)100平方メートル(約5kg)を準備した。
害虫誘引剤として、フェネチルアルコール類よりなる誘引剤を70%エタノールに5g/L溶解させた害虫誘引溶液500mlに、展着剤としてポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル0.005%、酸化チタン0.01%を混合して作製した。
害虫防除材の作製は、先の害虫防除材に前記害虫誘引剤を、ハンドスプレーを用いて噴霧し、フェネチルアルコール類よりなる誘引剤を塗布したエトフェンプロックスを含むポリエチレン製ネットである実験例4の害虫防御ネットを作製した。
害虫防除実験:菓子製造工場のラインを覆うようにして前記害虫防除ネットを張り、2週間毎に散水してネットの汚れを落とし、その都度フェネチルアルコール類よりなる誘引剤を70%エタノールに5g/L溶解させた害虫誘引溶液500mlをハンドスプレーで前記害虫防除ネットに噴霧した。製造期間中、ネットに盛んにノミバエ、ショウジョウバエがネットに誘引されて接触し、死亡しているのが観察された。
【0034】
(実験例5)
樹脂成形体として、パーメスリンを単位重量100g当たり2g含むポリプロピレン製ネット(繊維径0.2mm、目開き100メッシュ)100平方メートル(約5kg)を準備した。
害虫誘引剤として、精油コメ油よりなる誘引剤を70%エタノールに5g/L溶解させた害虫誘引溶液500mlに、展着剤としてポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル0.005%、酸化チタン0.01%を混合して作製した。
害虫防除材の作製は、先の害虫防除材に前記害虫誘引剤を、ハンドスプレーを用いて噴霧し、上記誘引剤を塗布したパーメスリンを含むポリプロピレン製ネットである実験例5の害虫防御ネットを作製した。
害虫防除実験:魚市場廃棄場の周囲の塀内側に前記害虫防除ネットを張り、2週間毎、あるいは雨が降る毎に上記誘引剤を70%エタノールに5g/L溶解させた害虫誘引溶液500mlをハンドスプレーで前記害虫防除ネットに噴霧した。その結果、前記害虫防除ネットに盛んにニクバエ、クロバエが誘引されて接触し、死亡しているのが観察された。
【0035】
(実験例6)
樹脂成形体として、フェノトリンを単位重量100g当たり2g含むポリアミド製ネット(繊維径0.5mm、目開き200メッシュ)100平方メートル(約5kg)を準備した。
害虫誘引剤として、酢酸よりなる誘引剤を70%エタノールに10g/L溶解させた害虫誘引溶液500mlに、展着剤としてポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル0.005%、酸化チタン0.01%を混合して作製した。
害虫防除材の作製は、先の害虫防除材に前記害虫誘引剤を、ハンドスプレーを用いて噴霧し、サトウキビ抽出液の発酵液よりなる誘引剤を塗布したフェノトリンを含むポリアミド製ネットである実験例6の害虫防除ネットを作製した。
害虫防除実験:開放鶏舎の下部に前記害虫防除材を張り、2週間置きに酢酸よりなる誘引剤を70%エタノールに10g/L溶解させた害虫誘引溶液500mlをネットにさらに噴霧した。その結果、前記害虫防除ネットに盛んにヒメイエバエ、フンコバエが誘引されて接触し、死亡しているのが観察された。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、害虫防除材を含有する樹脂成形体又は繊維成形体の表面に害虫誘引剤が塗布されてなる害虫防除材の提供に関する。本発明の害虫防除材は、害虫防除材を含有する樹脂成形体又は繊維成形体の種類、組成、さらに成形体に含まれる害虫防除材の種類等によらずに、任意の害虫に対する誘引効果を成形体に簡便に付与することができる。特に、本発明によれば、害虫防除剤を含有する樹脂成形体又は繊維成形体に対して、農場、畜舎、魚市場、食品工場などの現場さらには一般家庭等の現場において、対象となる害虫に応じた害虫誘引剤を適宜選択して塗布することができるので、多種類の成形体を調製する必要がなく、害虫防除に要するコストを低減することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
害虫防除剤を含有する樹脂成形体又は繊維成形体の表面に害虫誘引剤が付着されていることを特徴とする、害虫防除材。
【請求項2】
前記樹脂成形体が網、網目状構造体、棒、縄、紐、織布、不織布、フィルム又はシートの内いずれか1であることを特徴とする請求項1に記載の害虫防除材。
【請求項3】
前記繊維成形体が網、網目状構造体、縄、紐、織布、不織布、フィルム又はシートの内いずれか1であることを特徴とする請求項1に記載の害虫防除材。
【請求項4】
前記害虫誘引剤中に、展着剤、酸化防止剤のいずれか1が含有されていることを特徴とする請求項1に記載の害虫防除材。
【請求項5】
前記害虫防除剤を含有する前記樹脂成形体又は前記繊維成形体の表面に害虫誘引剤が付着してなる害虫防除材を製造又は再生する方法。
【請求項6】
害虫防除剤を含有する樹脂成形体又は繊維成形体で作製された害虫防除材の表面に害虫の誘引成分を塗布し害虫防除材に害虫を誘引し殺虫する害虫の殺虫方法。

【公開番号】特開2012−41326(P2012−41326A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198280(P2010−198280)
【出願日】平成22年8月17日(2010.8.17)
【出願人】(310016784)ユーテックビジネス株式会社 (1)
【出願人】(509034292)
【Fターム(参考)】